JP4833744B2 - 浸漬ノズル - Google Patents

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Description

本発明は、浸漬ノズル、とくに長辺(幅)寸法が2000mm以上の広幅の鋳型に溶鋼を注入する連続鋳造用の浸漬ノズルに関する。
溶鋼の連続鋳造において、いわゆるスラブと呼ばれる鋳片を製造する際の溶鋼注入用鋳型の幅寸法は、従来約2000mm未満であった。最近、幅寸法が広い、とくに約2000mm以上の広幅の鋳型による操業が出現してきた。
このような広幅鋳型への注湯では、浸漬ノズルの吐出孔から流出した溶鋼流は鋳型端部付近では拡散して流速が弱まり、かつ鋳片の引き抜きの影響もあって吐出孔位置よりも下方向に偏ってしまい、鋳型端部の上側では流動性に乏しい滞留部分が生じ易い。また、鋳型内での流動も安定せず、鋳型内のさまざまな部位で反転流その他の局部的な偏流が時間経過に伴って絶えず変化する等の溶鋼流の乱れ、それらによる湯面変動(「波打ち」、「うねり」、「流動方向の転換」)等が不規則に発生して、鋳片の端部付近では介在物が十分に浮上しなかったり、鋳片表面へのモールドパウダーの均一な移動がなされなかったり、モールドパウダーや介在物の鋳片内部への不均一な巻き込み等も招来している。これらに加え、溶鋼の凝固過程におけるシェルの形成に必要若しくは理想的な鋳型内溶鋼の温度分布が得られにくい等の問題も生じている。これらにより、鋳片の品質への悪影響やブレークアウトの危険性等も高まっている。
このような問題の解決のためには、鋳型幅方向端部付近でも流速をできる限り減速させずに形成し、鋳型端部での上昇流、鋳型全体での溶鋼表面付近での中心部に向かう流れ、いわゆる反転流等の溶鋼流を安定的に形成ないし維持すること等が必要である。しかし、単に吐出孔の角度や吐出孔の面積等の調整のみでは溶鋼流の拡散や減衰が大きく、前述のような必要とする溶鋼流を得ることができない。
この対策として、浸漬ノズルの吐出孔から流出する溶鋼の流れを、その浸漬ノズルの吐出孔の角度を上方向に設定する等で、鋳型端部付近の位置まで湯面上付近の流動を得ようとする試みがなされてきた。しかし、直胴部の壁の一部に開けた吐出孔の角度をその直胴部の肉厚の範囲内で変化させても、広幅の鋳型の端部に十分な流動を得ることはできない。
また、溶鋼流を制御する手段として、例えば特許文献1には吐出孔を直胴部の肉厚を超えて側方に長めに突出させ、この吐出孔内にCaOを主成分とした格子状、棒状等のCaO含有体を取付けた浸漬ノズルが開示されている。しかしながらこの浸漬ノズルは、吐出孔を側方に延長することで吐出する溶鋼の流れの方向を定めることはできるものの、その内部形状に一定の角度を有していること、格子あるいは棒状のCaO含有体を吐出孔内に設置すること等により、溶鋼流れが緩慢になる(むしろそれを意図している)ので、広幅の鋳型の端部にまで湯面付近に必要な溶鋼流を安定的に形成することはできない。
また特許文献2には、浸漬ノズルの吐出孔の上部若しくは下部の何れか一方又は双方にひさし部を設置することが開示されている。しかしながら、ひさし部を設けることによって下降流の形成は抑制できるものの、ひさしのないところではとくに溶鋼流は拡散して緩慢となり、とくに広幅の鋳型の端部にまで湯面付近に必要な溶鋼流を安定的に形成することはできない。
このような従来の浸漬ノズルの吐出孔形状による溶鋼流の制御の試みは何れも、広幅の鋳型を対象とするものではなく、また、鋳型内の溶鋼流を緩慢にすることを基本的な要素としており、広幅の鋳型の端部にまで湯面付近に必要な溶鋼流を安定的に形成する手段は依然開示されていない。
実開昭63−85358号公報 特開2004−344900号公報
本発明の課題は、浸漬ノズルの吐出孔から流出する溶鋼流の減衰を抑制して、できるだけ長い距離に亘って意図した方向の流速を得ることのできる浸漬ノズルを提供することにあり、とくに約2000mm以上の幅の広い鋳型の端部にまで、意図した溶鋼流を形成させ、かつ鋳型端部近くの上昇流及び鋳型全体の溶鋼表面付近に必要な溶鋼流を安定的に形成することができる浸漬ノズルを提供することにある。
ひいては鋳片の品質の安定及び向上、並びに連続鋳造工程の安全性を高めること等を目的とする。
本発明者は、連続鋳造、とくに幅が約2000mm以上の鋳型に溶鋼を注入する連続鋳造において前記課題を解決するためには、その中央付近に設置した浸漬ノズルの吐出孔から流出する時点の溶鋼流をできるだけ拡散させずに直線的に形成させることが重要であることを見出した。さらに、浸漬ノズルの吐出孔内壁面の形状が、直線的すなわち当該吐出孔中心を軸とするその軸の長手方向に平行であって、かつ45mm以上の長さを有することで、上述のような拡散を抑制した直線的な溶鋼流を得ることができることを見出した。
すなわち、本発明の浸漬ノズルは、上端に設けられた溶鋼の導入部(図2中の9)から溶鋼が下方に通過する上下縦方向にパイプ状の直胴部(図2中の10)と、この直胴部の下部に設けられ、溶鋼を直胴部の側面から横方向に吐出する左右対称となる一対の吐出孔(図2中の12)とを有する浸漬ノズルにおいて、前記各吐出孔の内壁面(図3中のL1)が、当該吐出孔の中心軸の長手方向(図3中のDt)に平行であって、かつ45mm以上の長さを有することを特徴とするものである。
ここで、各吐出孔部の内壁面が、当該吐出孔の中心軸の長手方向に平行であるとは、吐出孔の空間を形成する浸漬ノズルの耐火物の壁面(図3中のL1の面)が、吐出孔の溶鋼流出方向の断面の中心を貫く軸方向(図3中のDt)に対して平行であること、換言すれば、吐出孔の溶鋼流出方向の断面の形状にかかわらず、吐出孔の浸漬ノズル内面側端面と浸漬ノズル外面側端面とを結ぶ線に囲まれた立体が、吐出孔中心の軸方向に対して角度を有さない、円柱状、多角形等の断面を有して吐出孔軸方向に柱状をなしていることを意味する。ただし、製造上の必要から、2°程度までのテーパーを有していても構わない。
通常、浸漬ノズルは鋳造開始(鋳型への溶鋼注入開始)時点では迅速に溶鋼を鋳型に供給する必要があり、その供給速度を満足するのに必要な内孔面積等を満たすように設計されており、浸漬ノズルの内孔に溶鋼の停滞部分がない流動状態となるが、その後の定常的な運転状態では鋳片の引き抜き速度に応じていわゆる絞り注入となるので、溶鋼の滞留部分等が生じる。そのような溶鋼供給能力と溶鋼供給速度のギャップによって、一般的に溶鋼流は吐出孔の角度(図9(a)中のDt)よりもさらに下方(図9(a)中のDm)等の吐出孔の角度とは異なる方向に流出する(図9(a)中のΔθのずれ)。
とくに、幅(図1中のMw)が約2000mm以上の広幅の鋳型へ溶鋼を注入する場合には、溶鋼供給量に対する浸漬ノズルの内孔の必要面積を確保するために、浸漬ノズルの直胴部内孔(図2中の11)の形状は真円ではなく、扁平状にすることが求められる。また最近の連続鋳造操業では、鋳片厚みすなわち鋳型の厚み(図1中のMt)を例えば約150mm以下のように薄くする傾向にあり、浸漬ノズルの直胴部の扁平形状化は進行している。同時にそれに対応して吐出孔の形状も縦長の扁平状(図3(b)等参照)にする傾向にある。このような扁平形状の場合には直胴部断面及び吐出孔断面の何れかまたは双方が真円の場合に比較して、鋳型内での溶鋼流の拡散ないし流速の減衰や鋳型内の乱れの発生が大きくなる傾向にある。
吐出孔の内壁面が当該吐出孔の中心軸の長手方向に平行であって、かつ45mm以上の長さを有する本発明の浸漬ノズルにおいては、直胴部断面及び吐出孔断面の何れかまたは双方が扁平形状の場合にも、設定した吐出孔角度と絞り注入時の吐出孔から流出する溶鋼流との角度差を殆ど無くすることができる。すなわち、ほぼ設定(意図)した吐出孔角度の方向に溶鋼を流出させることができる(図9(b)中のDt=Dm、Δθ=0)。
この吐出孔の内壁面の軸方向の長さは、何れの位置でも45mm以上であることを必要とする。一般的な鋳型幅が2000mm〜2500mm程度の連続鋳造における鋳型への溶鋼の供給速度は、2.4トン/分〜4.5トン/分(吐出孔単位面積あたり0.021トン/分・cm2〜0.028トン/分・cm2)程度であるが、少なくともこの範囲においては吐出孔の内壁面の軸方向の長さは45mm以上あればよい。
この長さの基点は浸漬ノズルの直胴部内孔面と吐出孔との交点(図3(a)中の13)、終点はその基点から浸漬ノズル直胴部の軸から半径方向、つまり浸漬ノズルの外方向に至る、吐出孔の空間を形成する壁面の最外部(図3(a)中の14)をいう。この終点における吐出孔端部断面は平面が好ましいが、浸漬ノズルの直胴部の内孔又は外周部の形状に応じた曲面等であってもよく、或いは浸漬ノズルの直胴部軸方向に平行な面(図3(a)、図4(a)、図5(a))であっても、吐出孔の軸方向に直角な断面(図6(a))であってもよい。
この45mm以上の長さが吐出孔の一部で満足しているような場合、すなわち、前記の特許文献2のようなひさし状の部分を上下に設置したような場合には、ひさし状の部分を設置した部分以外の45mm未満の長さの部分から流出する溶鋼は吐出孔の軸方向から遠ざかるように拡散する。しかも、ひさし状の部分との境界部分では偏流を生じてさらに拡散を助長し易い。そのため、吐出孔の空間を囲む壁面の何れの場所においてもこの45mm以上の長さを有することが必要である。
なお、吐出孔の終点における吐出孔端部断面が吐出孔の軸方向に直角な断面(図6(a))の場合等では、吐出孔の内壁面の軸方向の長さが吐出孔の壁面の位置で吐出孔の角度に応じて異なることもあるが、このような場合の吐出孔の内壁面の軸方向の長さの差は小さいので、溶鋼流の流出形態に影響を及ぼすことはなく、その最小長さが45mm以上あればよい。
前述のように、吐出孔の内壁面の軸方向の長さが45mm以上あることにより、予め設定した吐出孔の角度、形状に応じた溶鋼流速を、減衰を抑制しつつ長距離に亘って供給することができる。とくに幅が約2000mm以上の鋳型の端部まで、滞留部分(図1中の7、8等参照)を形成することなく維持できる(図20参照)。
さらに、従来の浸漬ノズルの吐出孔の場合は、吐出孔から流出した直後から溶鋼流が大きく拡散し始めるので(図21参照)、吐出孔から近い位置から鋳型内のさまざまな部位で局部的な偏流や乱れが生じ、またそれらの偏流や乱れによる湯面変動(波打ち)等が不規則に発生してモールドパウダーや介在物の巻き込み等をも招来することになる(図22照)。これに対して、本発明の浸漬ノズルでは溶鋼流の拡散が長い距離に亘って抑制されるので、そのような現象をも抑制することができる。
この吐出孔の軸方向の長さの上限はとくに制限はないが、鋳片の引き抜き速度が大きく下方向の流速が大きい場合、その他鋳型内溶鋼流の対流が強い場合等の、意図する方向の流れを阻害する要素が大きい場合には、その状況に応じてその長さを浸漬深さ(図11中のS5)や吐出孔角度等と併せて調整すればよい。
本発明の浸漬ノズルの形状は、浸漬ノズル直胴部中心の軸方向の鋳型厚み方向の断面に対して左右に対称であることが必要である。本発明の浸漬ノズルは鋳型の中心に配置し、鋳型の幅方向に溶鋼を吐出させるが、とくに幅方向の溶鋼流に乱れを生じさせないためには左右の溶鋼流が均等な方向及び流速を維持することが望ましい(図20中のFm参照)。
従来のノズル(図7、8)に示す吐出孔内壁面の長さが45mm未満の場合には、溶鋼流は吐出孔角度とは異なった方向、とくに下方向に流出し、吐出孔から流出した直後から拡散が大きくなり、溶鋼速度の減衰が大きい(図21中のFm参照)。それに加えて吐出孔から流出した直後から一部の急激な上昇流等をも生じ易く、部分的な溶鋼上面のいわゆる湧き上がり等の乱れが生じ、モールドパウダーの巻き込み等をも生じ易くなる(図21中のFm、3参照)。
さらに吐出孔内壁面の長さが45mm未満の場合には、左右対称に位置する吐出孔から流出する溶鋼が、例えば一方の吐出孔からは上方向に、他の一方の吐出孔からは下方向にと、上下異なる方向の流れを周期的に又は非周期的に形成すること、つまり鋳型内の溶鋼流のいわば「波打ち」、「うねり」、「流動方向の転換」のような乱れ現象が多発し易くもなる(図22中のFm、3参照)。これに対して、上述のように形成された本発明の浸漬ノズルは、その吐出孔の内壁面によって、このような溶鋼流の乱れ現象も解消することができる(図20中のFm、3参照)。
またさらに本発明では、浸漬ノズルの左右の吐出孔の総断面積をS1(図3中の14位置における吐出孔の軸方向に直角な断面の面積)、吐出孔上端位置における直胴部の軸方向に直角な直胴部内孔の断面積をS2(図3中の13位置における直胴部の軸方向に直角な断面の面積)とする場合に、S1/S2の比が1以上2以下であることが好ましい。
前記S1/S2比が1未満の場合は吐出孔の一部に、その内部から近接する外部にかけて浸漬ノズル内孔側に向かう溶鋼の逆流が生じる虞があり、吐出孔から鋳型幅方向に向かう直線的な溶鋼流が不安定となり易い。前記S1/S2比が2を超える場合は直胴部内での偏流や頻繁な流れの転換等が生じ易くなり、それにより吐出孔からの流出も不安定になり易くなる。
このような吐出孔から流出する溶鋼流内部の部分的な流速等が不安定になることで、溶鋼流の拡散や鋳型内溶鋼流の乱れ等が発生し易くなり、モールドパウダー等の巻き込みを生じる等の鋳片の品質への悪影響が生じ易くなる。均一な流速を得、下降流発生や反転流等の発生をより確実に抑制するためには、前記S1/S2比を1.0以上1.8以下にすることがより好ましい。
本発明の浸漬ノズルを使用することで、鋳型の端部の湯面(溶鋼上面)付近、及び鋳型全体の湯面(溶鋼上面)付近に必要な溶鋼流を安定的に形成することができる。とくに幅寸法が2000mm以上の広幅の鋳型に溶鋼を注入する連続鋳造において、その鋳型の端部の湯面(溶鋼上面)付近、及び鋳型全体の湯面付近に必要な溶鋼流を安定的に形成するができる。この溶鋼流によって、モールドパウダー等の巻き込みも抑制することができ、また鋳型幅方向端部の上部付近の温度低下も抑制することができる。ひいては鋳片の品質の安定及び向上、並びに連続鋳造工程の安全性を高めることができる。
なお、連続鋳造操業においては、鋼種、生産計画その他の各生産現場固有の条件に応じて、溶鋼供給速度、鋳片の引き抜き速度、鋳型形状、モールドパウダーの物性等を変動させており、このような変動に対応して浸漬ノズルの吐出孔角度や浸漬深さ等も適宜最適な条件に調整している。これに対して、本発明の浸漬ノズルによれば、意図する方向の溶鋼流速の低下を抑制することができるので、そのような調整に伴って溶鋼やモールドパウダー等の流動形態や流速等が大きく変動するような操業条件にも幅広く対応することができ、それぞれに意図する理想的な溶鋼流を高い精度で得ることができる。すなわち、本発明の浸漬ノズルは、狭い幅の鋳型からとくに約2000mm以上の幅の広い鋳型まで幅広い鋳型サイズに対応することができ、また低速度鋳造から高速度鋳造までの幅広い鋳造速度条件にも対応できる。
まず、本発明の浸漬ノズルの製造方法について説明する。
本発明の浸漬ノズルは、耐火原料に結合材を加えて混練したはい土を、吐出孔内壁面部分に45mm以上の中子及びラバーモールドを設置してCIPにて一体として成形し、その後乾燥、焼成、研磨等の加工を行うという、浸漬ノズルの一般的なはい土構成と製造方法によって製造できる。
吐出孔の内壁面として45mm以上の長さを有する、浸漬ノズル本体(直胴部)から突出した部分は、前記の直胴部と一体的に成形された構造とすることができる(図2,図3)。
吐出孔の内壁面部分を形成するためには、吐出孔の45mm以上の内壁長を形成するための耐火物壁を浸漬ノズルの直胴部から突出して形成させることができる。この突出部分の成形には、中子を取り外し可能な別の構造体として直胴部の中子に取り付け、成形後にその吐出孔用の中子をとり外す方法、又は高温度で溶融若しくは消失等により空洞を形成するワックス等の材質で形成した中子を用いた一体構造とする方法を採ることもできる。さらには直胴部の成形時に所定長さの突出部としてはい土を一体的に成形し、成形後に吐出孔としての空間を形成するようにボーリングする方法等も採ることもできる。
前述のように、吐出孔の突出部分を予め浸漬ノズルの直胴部と一体的な構造とする場合の他、前記吐出孔部分が直胴部とは独立した部品から構成され、前記直胴部に接合された構造、すなわち吐出孔の突出部分を予め形成させないで、通常の、吐出孔の突出部分に本発明の程度の長さを有さない浸漬ノズルを製造しておき、吐出孔部分用に本体の浸漬ノズルとは別の構造体として準備した突出部分を、浸漬ノズル本体(直胴部吐出孔部分)に組み込む構造とすることもできる(図4、図5、図6)。この場合の吐出孔用の突出部分をなす構造体は、一体型であってもいずれかの方向に分割型であってもよい(図4、図5、図6)。
本発明の浸漬ノズルの成形においてとくに留意する必要があるのは、吐出孔付近の取り扱いである。この部分を浸漬ノズル直胴部から突出した状態に成形する場合には、成形工程の諸作業、その後の搬送等において外力を受け、破損し易い。この製造時の外力、また使用時の熱衝撃や溶鋼流による連続的な外力による、当該部分への応力集中と当該部分の破壊を防止するためには、浸漬ノズル直胴部と、この浸漬ノズル直胴部から突出した部分へと遷移する部分(突出部分の付け根付近)は、テーパー形状又はR形状として、急激に角度が遷移する鋭角の形状にしないことが好ましい。このテーパーやR形状の大きさに下限はないが、これらは大きい方が好ましい。
[試験1]
本試験1は、吐出孔から流出した直後の溶鋼流が意図した方向、すなわち吐出孔内壁面の設定角度を維持するに必要な吐出孔内壁面の吐出孔軸方向の長さの条件を調査した結果である。
表1、図10に吐出孔の内壁面の長さが溶鋼流の形態に及ぼす影響を示す。
本試験は、水モデル実験により行った。想定した実操業の諸条件は次の通りである。浸漬ノズルの直胴部断面の長辺11.7cm×短辺4.3cm(コーナー部R付き)、直胴部の内孔断面積(S2)50.3cm、吐出孔の合計断面積(S1)64.5cm、前記S1/S2=1.28、溶鋼流量2.3トン/分〜4.0トン/分(吐出孔単位面積当たりで0.036トン/分・cm〜0.062トン/分・cm)である。これは鋳片の引き抜き速度を1.3〜1.37m/分、鋳型厚みを150mmとする場合の鋳型幅として、約1500mm〜2500mmに相当する。
上記実操業の設定条件に対応して設定した水モデル実験の諸条件は次の通りである。浸漬ノズルについては実物大の木型製の装置で、代表例として、吐出孔の方向は下向き10°、断面形状は縦75mm×横43mmの四角柱(コーナー部R付き)とした。四角柱の高さが吐出孔内壁面の軸方向長さに相当する。水の供給速度は0.0046トン/分・cm〜0.008トン/分・cmである。
実験は吐出孔内壁面の吐出孔軸方向の長さを変化させ、それぞれの前記長さに対応する、水が吐出孔から流出する状態を目視及び写真撮影し、その水の流出方向(図9(a)のDm)と吐出孔の軸方向(図9(a)のDt)の角度の差(図9(a)のΔθ)を測定する方法で行った。
図10に示す通り、換算した溶鋼流量2.3トン/分〜4.0トン/分(吐出孔単位面積当たりで0.036トン/分・cm〜0.062トン/分・cm)の何れの場合も水の流出方向と吐出孔の軸方向の角度の差(図9(a)のΔθ)は、浸漬ノズルの吐出孔の内壁面の長さが35mm程から急に小さくなり始め、40mm以上で顕著に小さくなり、45mm以上では0°になることがわかる。(図9(b)、Dm=Dt、Δθ=0°)
すなわち、現状の連続鋳造の操業において、鋳型の幅が2000mm以上、少なくとも約2500mmまでの範囲では、それに用いる浸漬ノズルの吐出孔内壁面の長さが45mm以上であれば、吐出孔からの直進的な流れが安定的に得られることを示している。
[試験2]
本試験2は、本発明の浸漬ノズルの吐出孔内壁面の長さが、とくに幅が2000mm以上の鋳型の幅方向の端部における溶鋼流の滞留(淀み)(図1中の7、8参照)の解消及び溶鋼上面の円滑な流れ(図1中のFr参照)の形成に及ぼす影響を調査した結果である。換言すれば、前記の[試験1]で確認した吐出孔からの直進的な流れと、前記溶鋼流の滞留(淀み)の解消及び溶鋼上面の円滑な流れの形成との関係を調査した結果である。
本試験は、水モデル実験により行った。想定した実操業の諸条件は次の通りである。浸漬ノズルの直胴部断面の長辺11.7cm×短辺4.3cm(コーナー部R付き)内径11.7cm×高さ4.3cm、直胴部の内孔断面積(S2)50.3cm、吐出孔の合計断面積(S1)=64.3cm、前記S1/S2=1.28、吐出孔の角度=下向き10°、浸漬深さ(吐出孔最外周部上端の溶鋼面からの距離、図11のS5)=110mm、吐出孔の断面形状=縦75mm×横43mmの四角柱(四角柱の高さが吐出孔内壁面の長さにその相当する)とした。
吐出孔内壁面の長さは、本発明の実施例は最小長近くである45mm及び製造・コスト等の観点から現実的かつ暫定的な最大長近くである150mmの2種とし、比較例(従来品)は35mmとした。溶鋼流量は溶鋼供給量2.3トン/分及び溶鋼供給量3.0トン/分(吐出孔単位面積当たりで0.036トン/分・cm〜0.047トン/分・cm)の2水準である。鋳型厚みは150mmとした。
上記設定条件に対応して設定した水モデル実験の諸条件は、浸漬ノズルについては実物大の木型製の装置で前記実操業の設定条件と同じであり、鋳型の幅及び厚みも実物大のアクリル製とした。水の供給速度は0.0046トン/分・cm及び0.006トン/分・cmの2水準である。
上記の条件下、鋳型の幅を1000mm〜2500mmの間で変化させて、鋳型の幅方向の端部における溶鋼流の滞留(淀み)状況は当該モデルの幅方向端部から20mm(図11のS1)、水面から20mm(図11のS2)の深さ位置(図11の15)の上昇流(図11のFu)、溶鋼上面の円滑な流れの状況は鋳型幅方向端部から500mm(図11のS4)、水面から30mm(図11のS3)の深さ位置(図11の16)の鋳型の端部から中央方向に向かう反転流(図11のFr)を測定することにより観察した。さらにこれらの測定は鋳型の中心に対して対称をなす両端位置において行い、浸漬ノズルの左右での差、すなわち鋳型内流動の乱れをも観察した。
上昇流(図11のFu)は鋳型の幅方向端部の上部における淀みを解消するための流動状態を判断する指標であり、反転流(図11のFr)はその端部の流動形態の変化に伴う鋳型全体の流動状態を判断する指標である。これらの流動状態は固定的なものではなく、連続鋳造の操業毎に異なる設計条件でもある。本発明では、前記の上昇流及び反転流を正の値で大きく、且つ左右の差が小さいことを良好な状態としている。
表2に供試料及び条件、並びに上昇流速及び反転流速の測定結果を示し、図12及び図13に上昇流速の測定結果のグラフを、図14及び図15に反転流速の測定結果のグラフを示す。
この実験の結果、原因及びメカニズムは明らかではないが、鋳型幅が2000mm位で上昇流速は著しく低下し、それ以上の鋳型幅では低下の程度は小さい傾向を示した。ここで、比較例1及び比較例2は何れも鋳型幅が2000mmでの上昇流速の低下の程度が大きい。それに対し、いずれの実施例も2000mm及びそれ以上での低下の程度が小さく、安定した上昇流速を維持している。また溶鋼供給量が小さい実施例3及び実施例4は、溶鋼供給量が大きい実施例1及び実施例2よりもその低下の程度が小さい。
左右の上昇流速の差(図16、17)は、比較例1及び比較例2の何れも、とくに2000mm以上で大きくかつ拡大する傾向にあり、鋳型内全体の流動状態が極めて不安定になっている。それに対し、実施例では何れも左右の上昇流速の差が小さく、鋳型内全体の流動状態が極めて安定している。
反転流速についても上昇流速と同様な傾向を示している。反転流速における本発明実施例の改善効果は、上昇流速における本発明実施例の改善効果よりも大きくなっており、すなわち、本発明による鋳型端部の上昇流速の改善は、鋳型内全体の流動状態の改善効果をより一層拡大することがわかる。
以上のことから、少なくとも吐出孔内壁面の長さが45mmないし150mmの間では鋳型内溶鋼流を改善することができ、とくに2000mm以上の広幅の鋳型内溶鋼流の形態を著しく改善することができることがわかる。しかも溶鋼流の浸漬ノズルの左右での変動等も著しく抑制することができて、鋳型内全体の安定的な流動状態を得ることができることがわかる。
[試験3]
本試験3は、前記の[試験2]の水モデル実験により確認した本発明の効果を、コンピュータの流体解析により、浸漬ノズル吐出孔から流出した直後付近での溶鋼流の流動形態を可視化して検証した結果である。
本検証は、FLUENT社製の商品名FLUENTを使用して行った。想定した実操業の諸条件、すなわち計算の入力データは次の通りである。
浸漬ノズル、浸漬深さの条件は前記[試験2]と同じであり、鋳型の幅は2500mm、鋳型の厚みは150mm、溶鋼流量は溶鋼供給量2.7トン/分(吐出孔単位面積当たりで0.042トン/分・cm)とした。吐出孔内壁面の長さは、実施例は本発明の最小長近くである45mm、比較例(従来品)は35mmで比較した。
図20に実施例、図21及び図22に比較例の、約1000mm内の範囲すなわち浸漬ノズルを中心に左右各々約500mmの範囲の流動状態を示す。
この検証の結果、実施例では設定した吐出孔角度の方向に直線的に、殆ど拡散及び減衰することなく溶鋼流が流出していることがわかる。しかも、左右での差は極めて小さく、溶鋼上面(図20中の3)も乱れはなく、均一に穏やかな状態で流動状態を維持していることがわかる。このように直線的な流速を維持していることが、広幅の鋳型端部まで広い範囲に亘って良好な流動状態を付与していることがわかる。
これに対し比較例では浸漬ノズルの吐出孔から流出した直後から流速が大きく減衰し始め、それに伴って溶鋼流の拡散も生じて、その端部である浸漬ノズルに近い位置での上昇流が生じ始め、溶鋼上面(図21中の3)の浸漬ノズル側に向かう流速が大きくなっており、そのような流れが浸漬ノズルに接する部分で強い下降流を生じさせていることがわかる(図21)。
比較例ではさらに左右の流動状態の変化が著しく、不安定な流動状態であることがわかる(図22)。とくに、図22のように浸漬ノズルから流出した直後での拡散や上昇流の発生が顕著な状況も高頻度で発生している。
このような比較例での流動状況の場合は、広幅の鋳型端部まで広い範囲に亘って良好な流動状態を得ることができないことはもちろん、上記のよう部分的に強い下降流等の発生等により、溶鋼面の上表面からモールドパウダーや非金属介在物等を鋳型内の局部的な部位でかつ異なった程度で下方に巻き込み易くなり、また鋳型幅方向端部付近では極めて流速が小さくなって溶鋼の滞留や温度低下等、ないしはモールドパウダーの円滑な鋳片表面への供給に支障が生じたり非金属介在物等の浮上(除去)も困難になる等の悪影響を招来し易くなる。
図1(a)は鋳型内の溶鋼の流動状態を示す鋳型断面のイメージ図である(中央から右側が本発明、中央から左側が従来例、図1(b)のA−A断面図。)。図1(b)は図1(a)のB−B断面図である。 本発明の吐出孔部分が一体型の浸漬ノズルの直胴部軸方向断面図である。 図2の○囲みAに相当する部分の図で、図3(a)は図3(b)のA−A断面図、図3(b)は図3(a)のCから見た図、図3(c)は図3(a)のB−B断面図である。 本発明の、吐出孔部分が分割型の浸漬ノズルの、図2の○囲みAに相当する部分の図で、図4(a)は図4(b)のA−A断面図、図4(b)は図4(a)のCから見た図、図4(c)は図4(a)のB−B断面図である。 本発明の、吐出孔部分が他の形態の分割型である浸漬ノズルの、図2の○囲みAに相当する部分の図で、図5(a)は図5(b)のA−A断面図、図5(b)は図5(a)のCから見た図、図5(c)は図5(a)のB−B断面図である。 本発明の、吐出孔部分が他の形態の分割型である浸漬ノズルの、図2の○囲みAに相当する部分の図で、図6(a)は図6(b)のA−A断面図、図6(b)は図6(a)のCから見た図、図6(c)は図6(a)のB−B断面図である。 従来の浸漬ノズルの直胴部軸方向断面図である。 図7の○囲みAに相当する部分の図で、図8(a)は図8(b)のA−A断面図、図8(b)は図8(a)のCから見た図、図8(c)は図8(a)のB−B断面図である。 浸漬ノズルの吐出孔から流出する溶鋼流のイメージ図で、図9(a)は従来の浸漬ノズルの場合(図7の○囲みA部分に相当する部分の断面図)、図9(b)は本発明の浸漬ノズルの場合である(図2の○囲みA部分に相当する部分の断面図)。 試験1の、吐出孔内壁面の長さと、吐出孔方向と溶鋼(水)流出方向の差(角度Δθ)との関係を示す図である。 試験2の各装置等の配置、水流等を示すイメージ図である(鋳型幅方向の断面図)。 試験2の鋳型幅と上昇流速との関係を示す図である(溶鋼供給量3.0t/分の場合)。 試験2の鋳型幅と上昇流速との関係を示す図である(溶鋼供給量2.3t/分の場合)。 試験2の鋳型幅と反転流速との関係を示す図である(溶鋼供給量3.0t/分の場合)。 試験2の鋳型幅と反転流速との関係を示す図である(溶鋼供給量2.3t/分の場合)。 試験2の鋳型幅と左右の上昇流速の差との関係を示す図である(溶鋼供給量3.0t/分の場合)。 試験2の鋳型幅と左右の上昇流速の差との関係を示す図である(溶鋼供給量2.3t/分の場合)。 試験2の鋳型幅と左右の反転流速の差との関係を示す図である(溶鋼供給量3.0t/分の場合)。 試験2の鋳型幅と左右の反転流速の差との関係を示す図である(溶鋼供給量2.3t/分の場合)。 試験3の、本発明の浸漬ノズルの流動状態を示す図である。 試験3の、従来の浸漬ノズルの流動状態を示す図である。 試験3の、従来の浸漬ノズルの流動状態を示す図である。(左右で変動の大きいときの状態)
符号の説明
1 浸漬ノズル
2 連続鋳造装置の鋳型
3 溶鋼
4 シェル
5 溶鋼上表面
7 鋳型幅方向端部、上部付近の滞留部分(淀み)(イメージ )
8 鋳型内上表面付近の滞留部分(淀み)(イメージ )
9 浸漬ノズルの上端に設けられた溶鋼の導入部
10 浸漬ノズル直胴部
11 浸漬ノズル直胴部の内孔
12 浸漬ノズル吐出孔
13 浸漬ノズル直胴部内孔の吐出孔上端部との交点
14 浸漬ノズル吐出孔の、浸漬ノズルの半径方向の最外周端部
15 試験2における上昇流速の測定位置
16 紙面2に於ける反転流速の測定位置
Mw 連続鋳造装置の鋳型の幅
Mt 連続鋳造装置の鋳型の厚み
Fm 浸漬ノズルの吐出孔から流出した溶鋼流(イメージ)
Fr 鋳型幅方向端部表面近傍の溶鋼及び試験2における水の反転流(イメージ)
Fu 鋳型幅方向端部表面近傍の溶鋼及び試験2における水の上昇流(イメージ)
L1 浸漬ノズル吐出孔の内孔面(及びその長さ)
Ds 浸漬ノズル直胴部の軸方向(浸漬ノズル縦方向)
Dt 浸漬ノズル吐出孔の軸方向(吐出孔角度方向)
Dm 浸漬ノズル吐出孔から流出した溶鋼流の方向
S1 試験2における上昇流速測定位置の鋳型幅方向端部からの距離
S2 試験2における上昇流速測定位置の鋳型内水浴の上表面からの深さ
S3 試験2における反転流速測定位置の鋳型内水浴の上表面からの深さ
S4 試験2における反転流速測定位置の鋳型幅方向端部からの距離
S5 試験2における浸漬ノズルの浸漬深さ
θt 浸漬ノズル吐出孔の角度
Δθ 浸漬ノズルの、吐出孔の角度方向と吐出孔から流出した溶鋼流の方向の差(DmとDtとがなす角度)

Claims (5)

  1. 上端に設けられた溶鋼の導入部から溶鋼が下方に通過する上下縦方向にパイプ状の直胴部と、この直胴部の下部に設けられ、溶鋼を直胴部の側面から横方向に吐出する左右対称となる一対の吐出孔とを有する浸漬ノズルにおいて、
    前記各吐出孔の内壁面が、当該吐出孔の中心軸の長手方向に平行であり、かつ45mm以上の長さを有し、長辺が2000mm以上の鋳型に溶鋼を注入するために使用される浸漬ノズル。
  2. 吐出孔の総断面積をS1、直胴部の吐出孔上端位置における直胴部の軸方向に直角な直胴部内孔の断面積をS2として、S1/S2の比が1以上2以下である請求項1に記載の浸漬ノズル。
  3. 直胴部の断面と吐出孔の断面の何れかまたは双方が楕円若しくは多角形からなる扁平形状である請求項1または請求項2に記載の浸漬ノズル。
  4. 吐出孔が直胴部と一体的に成形されている請求項1から請求項の何れかに記載の浸漬ノズル。
  5. 吐出孔の内壁面をなす部分が直胴部とは独立した部品から構成され、前記直胴部に接合されている請求項1から請求項の何れかに記載の浸漬ノズル。
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