近年、携帯電話などの携帯機器の急速な普及により、不揮発的なデータの記憶、データへの高速アクセス、大きな記憶容量、及び低電圧動作を実現するメモリの需要が高まっている。このような要求を満足する有力なメモリの一つが、磁気ランダムアクセスメモリである。
磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)のメモリセルは、一般に、MTJ(magnetic tunnel junction)素子のような磁気抵抗素子で構成されている。図1は、MTJ素子で構成されたMRAMメモリセルの最も典型的な構造の例である;図1に示されたMRAMメモリセルは、従来型メモリセルと記載することにする。図1を参照して、従来型のメモリセル100は、固定磁性層(ピン層)101、トンネル絶縁層102、及び自由磁性層(フリー層)103が積層された積層体で構成されている。固定磁性層101の磁化の向きは、製造時に固定される。これに対して、自由磁性層103は、その磁化の方向を配線電流が生成する磁場によって反転可能であるように形成される。典型的な磁気ランダムアクセスメモリでは、自由磁性層103の磁化の方向は、MTJ素子の上下に配置されているビット線とワード線に流れる電流が生成する磁場によって反転される。自由磁性層103の磁化の向きの一方は、データ「1」に、他方はデータ「0」に割り当てられている。MTJ素子に記憶されているデータは、自由磁性層103の磁化の方向によるMTJ素子の電気抵抗の変化を利用して読み出される;固定磁性層101と自由磁性層103の磁化の相対方向が平行であるとき(図1では、データ「0」に対応)、MTJ素子の電気抵抗が小さく、反平行であるとき(図1では、データ「1」に対応)は電気抵抗が大きい。
従来型メモリセルを使用する磁気ランダムアクセスメモリの問題の一つは、メモリセルの選択性が良好でないことである。この問題を解決するための技術が、米国特許6,545,906号に開示されているトグル書き込み方式である。図2は、トグル書き込み方式に対応するMRAMメモリセル100Aの構造の概要図である;以下、図2に示されたMRAMメモリセルは、トグル型メモリセルと記載することにする。トグル型メモリセル100Aは、自由磁性層が、非磁性層によって分離された複数の強磁性層で構成された積層体で構成される。図2のMRAMメモリセル100Aでは、自由磁性層が、非磁性層104で分離された第1自由磁性層103A、第2自由磁性層103Bで構成されている。第1自由磁性層103A、第2自由磁性層103Bは、それらの磁化の方向を配線電流が生成する磁場によって反転可能であるように構成される。第1自由磁性層103Aの磁化の向きの一方は、データ「1」に、他方はデータ「0」に割り当てられている。固定磁性層101と第1自由磁性層103Aの磁化の相対方向が平行であるとき(図2では、データ「0」に対応)、MTJ素子の電気抵抗が小さく、反平行であるとき(図1では、データ「1」に対応)は電気抵抗が大きい。第1及び第2自由磁性層103A、103Bの磁化は、非磁性層104を介する交換相互作用により、反強磁性的に結合される;即ち、第1及び第2自由磁性層103A、103Bの磁化は、互いに反対の方向を向いている。これは、後述のようにトグル書き込みにおいて重要な役割を果たす。
図3は、磁気ランダムアクセスメモリのメモリアレイの構成の例を示す平面図であり、図4は、断面図である。メモリアレイには、メモリセル100(又は100A)がマトリックス状に配置される。各メモリセル100の上方には、縦方向に互いに平行に延設されたビット線106(BL)が設けられ、下方には、横方向に互いに平行に延設された(書き込み)ワード線105(WL)が設けられる。
図4に示されているように、メモリセル100(100A)の一端は、コンタクト117を介してビット線106に接続され、他端は、反強磁性層116に接続されている。読み出し動作が行われる場合、読み出し電流は、ビット線106、メモリセル100(100A)、反強磁性層116、ベース電極115、コンタクト114、及び基板110に形成されたアクセストランジスタ112を介して、読み出し終端電極111に流れる。アクセストランジスタ112のオンオフは、読み出しワード線112のレベルによって制御される。一方、書き込み動作が行われる場合、書き込みワード線105とビット線106に書き込み電流が流され、この書き込み電流が発生する磁場によって自由磁性層103(又は、第1自由磁性層103A及び第2自由磁性層103B)の磁化が反転される。
図5Aは、従来型メモリセル100への書き込み動作を示すタイミングチャートであり、図5Bは、自由磁性層103の磁化の方向を示す概念図である。従来型メモリセル100をデータ「0」からデータ「1」に書き換える場合、まず、時刻t1において書き込みワード線電流IWLを立ち上げる。次に、時刻t2において書き込みビット線電流IBLを流し始める。この時のワード線電流IWL、ビット線電流IBLがそれぞれ生成する磁場HX、HYの合成磁場が図7Aに示されている所定の条件を満足する場合、自由磁性層103の磁化が反転する。引き続き、時刻t3において書き込みワード線電流IWLを立ち下げ、その後時刻t4において書き込みビット線電流IBLをオフすることで、書き込み動作が終了する。、従来型メモリセル100をデータ「1」からデータ「0」に書き換える場合には、ワード線電流IWLの向きをそのままにしてビット線電流IBLの向きのみが反転される。
一方、図6Aは、トグル型メモリセル100Aをデータ「0」からデータ「1」に書き換える場合のトグル書き込み方式の書き込み動作を示すタイミングチャートであり、図6Bは、第1自由磁性層103A、第2自由磁性層103Bの磁化の方向を示す概念図である。トグル書き込み方式では、印加される磁場の方向を回転させることにより、第1及び第2自由磁性層103A、103Bの磁化を反転させる。具体的には、まず、時刻t1において書き込みワード線電流IWLを立ち上げて磁場HXを第1自由磁性層103A、第2自由磁性層103Bに印加する。次に、時刻t2において書き込みビット線電流IBLを立ち上げる。この時のワード線電流IWL、ビット線電流IBLがそれぞれ生成する磁場HX、HYの合成磁場が図7Bに示されている所定の条件を満足する場合、第1自由磁性層103A及び第2自由磁性層103Bの合成磁化は、合成磁場HX+HYの方向を向く。引き続き、時刻t3において書き込みワード線電流IWLを立ち下げることで、MRAMメモリセル100には、磁場HYのみが印加され、合成磁化は、磁場HYの方向に向く。最後に、時刻t4において書き込みビット線電流IBLを立ち下げることで、書き込み動作が終了する。この状態では、第1及び第2自由磁性層103A、103Bの向きは、元々の方向と逆になっていることに留意されたい。同様の手順により、トグル型メモリセル100Aをデータ「1」からデータ「0」に書き換えることができる。
従来型メモリセル100を採用する磁気ランダムアクセスメモリでは、所望のメモリセルに選択的にデータを書き込むためには、適切な大きさの磁場を印加する必要がある。図7Aは、従来型メモリセル100の、磁化反転が可能な磁場の領域を示している。磁化反転曲線の外側の領域(即ち、「反転」領域及び「多重選択」領域)に対応する磁場を印加すれば、選択セルに対して書き込みを行うことができる。例えば、図7Aに示されているような大きさのX方向の磁場HDX、Y方向の磁場HDYを選択メモリセルに印加すると、その合成磁場ベクトル(HDX、HDY)は「反転」領域にあるため、選択メモリセルの自由磁性層103の磁化は反転する。このとき、半選択メモリセル(即ち、選択ビット線と選択ワード線の一方にのみ接続されているメモリセル)では、磁化反転曲線の内側の領域に対応する磁場HDX、HDYが印加されるため、磁化の反転は起きない。即ち、選択書き込みが可能である。しかしながら、選択書き込みを可能にするためには、ワード線電流IWL、ビット線電流IBLを適切に制御する必要がある。図7Aの「多重選択」領域に対応する磁場HX、HYを発生させるような過剰に大きいワード線電流IWL、ビット線電流IBLを流すと、ワード線電流IWL、ビット線電流IBLの一方のみで磁化反転曲線の外側の領域に対応する磁場HX0が発生し、半選択メモリセルに対しても書き込みが行われてしまう;即ち、御書き込みが起こる。選択的書き込みを行うためには、図7Aの「反転」領域に対応する大きさのワード線電流IWL、ビット線電流IBLを流す必要があり、言い換えれば、ワード線電流IWL、ビット線電流IBLを適切に制御する必要がある。
一方、トグル型メモリセル100Aを使用する磁気ランダムアクセスメモリは、選択性の問題を回避することはできる。図7Bは、トグル型メモリセル100Aの、磁化反転が可能な磁場の領域を示している。図7Bに示されているような大きさのX方向の磁場HDX、Y方向の磁場HDYを選択メモリセルに印加すると、その合成磁場ベクトル(HDX、HDY)は「反転」領域にあるため、トグル型メモリセル100Aの第1及び第2自由磁性層103A、103Bの磁化が反転し、トグル型メモリセル100Aにデータ書き込みが行われる。磁化反転曲線とX軸及びY軸の距離は、大きく離れているため、半選択メモリセルには磁化反転が非常に発生しにくい。これは、トグル書き込みはメモリセルの選択性に優れていることを意味している。
しかしながら、トグル書き込みであっても、ワード線電流IWL、ビット線電流IBLの大きさを適切に制御することはやはり重要である。ワード線電流IWL、ビット線電流IBLが過剰に大きいと、それらによって発生する磁場の合成磁場(HDX、HDY)が過剰に大きくなり、トグル型メモリセル100Aに「磁化飽和」領域に対応するような磁場が印加される。過剰に大きな磁場が印加されると、第1及び第2自由磁性層103A、103Bの磁化が同一の方向に向いてしまい、磁場が取り除かれた後の第1及び第2自由磁性層103A、103Bの磁化の方向が不確定になる。これは、誤書き込みが確率的に発生することを意味している。したがって、過剰に大きいワード線電流IWL、ビット線電流IBLをワード線105、ビット線106に流すことは許されない。誤書き込みを防ぐためには、適切な大きさのワード線電流IWL、ビット線電流IBLを流す必要がある。
磁気ランダムアクセスメモリの一つの長所は、書き込みの高速性にあるといわれており、実際、磁性体の磁化反転時間は1nsec以下であるため、磁気ランダムアクセスメモリの高速書き込みは原理的には可能である。しかしながら、一つの問題は、書き込み電流が流される配線及びセレクタに存在する寄生容量のために書き込みの高速性が損なわれ、更に、書き込み時の消費電力が増大することである。磁化を反転させる書き込み電流を定電流源のみで生成しようとすると、配線及びセレクタの寄生容量に電荷が蓄積されるために、実際に所望の大きさの書き込み電流が流れるまでに相当な遅延時間(典型的には、10nm)が生じる。この問題は、メモリ容量が大きくなるに従って顕著になる。例えば、大容量アレイは、図8に示されているように、M×N個の小アレイから構成されることが多いが、この場合の寄生抵抗、及び寄生容量は、メモリサイズLX、LYの増大に伴って増大する。
図9は、図8に図示された小アレイのうちの第1行目に位置する小アレイを図示している。一の行には、N個の小アレイが配置される。これらの小アレイに位置するメモリセルには、X側定電流源回路201によって書き込み電流が流される。注目すべきことは、例えば、小アレイ(1、1)のメモリセルに書き込み電流を流すための電流経路2021と、小アレイ(1,N)のメモリセルに書き込み電流を流すための電流経路202Nとでは、その長さが異なることである。電流経路の長さの変化は、配線抵抗と寄生容量の変化に加えて配線電位の変化を生じさせるため、電流経路の長さの変化は、電流経路の寄生容量を充電するのに必要な電荷量の変化をもたらす。これは、電流経路の遅延時間が相違することを意味する。
しかしながら、定電流源を用いて書き込み電流を生成する従来の磁気ランダムアクセスメモリのアーキテクチャーでは、選択アレイの場所に依存する寄生容量の影響を最小化し、短時間で書き込み電流を流すことは困難である。加えて、寄生容量に蓄積される電荷量は書き込み電流の大きさによって異なるため、書き込み電流の大きさによって書き込み電流の立ち上がり時間が相違することにある。これは、書き込み電流の大きさに依存しない高速書き込みを実現することを困難にする。加えて、書き込み電流の立ち上がり時間の増大は、消費電力を不所望に増大させるが、従来の磁気ランダムアクセスメモリのアーキテクチャーではこの問題を回避することは困難である。
特開2004−234816号公報は、このような困難を克服するために、書き込み電流を発生する定電流源に加え、キャパシタを用いて瞬時的な電流を発生する電流ブースト回路を備えた磁気ランダムアクセスメモリを開示している。公知のその磁気ランダムアクセスメモリは、図10に示されているように、X側電流ブースト回路301と、Y側ブースト回路302と、X側書き込み定電流源回路303と、Y側書き込み定電流源回路304とを備えている。
X側電流ブースト回路301は、寄生容量を充電するためのブースト電流IBXを生成する回路である。X側電流ブースト回路301は、キャパシタCBXと、PMOSトランジスタMSX、MBXと、電源端子305と、インバータ306とを備えている。キャパシタCBXは、一端が接地され、他端はノードVBXに接続されている。ノードVBXは、PMOSトランジスタMBXを介して電源電圧Vbstが供給されている電源端子305に接続されている。ノードVBXは、更に、PMOSトランジスタMSXを介してノードNLXに接続されている。ノードNLXとは、X側書き込み定電流源回路303の出力に接続されているノードである。PMOSトランジスタMBXのゲートには、X側ブースト信号VBSTXが入力され、PMOSトランジスタMSXのゲートには、インバータ306を介してX側ブースト信号VBSTXが入力される。X側ブースト信号VBSTXは、X側電流ブースト回路301にブースト電流IBXの生成を許可し、又は禁止する信号である。PMOSトランジスタMBX、MSXは、X側ブースト信号VBSTXに応答して排他的にターンオンされる。
Y側電流ブースト回路302は、ブースト電流IBYを生成する回路である。Y側ブースト回路302は、X側電流ブースト回路301と同様の構成及び機能を有しており、キャパシタCBYと、PMOSトランジスタMSY、MBYと、電源電圧Vbstが供給されている電源端子307と、インバータ308とを備えている。
X側書き込み定電流源回路303、Y側書き込み定電流源回路304は、いずれも、出力インピーダンスが大きい定電流源であり、その負荷の影響を受けずに定電流を流すことができるように構成されている。X側書き込み定電流源回路303、Y側書き込み定電流源回路304が発生する電流の大きさが、最終的にセルアレイに流される書き込み電流の大きさに一致する。X側書き込み定電流源回路303は、X側ライトイネーブル信号WENXの活性化に応答して定電流ICXの生成を開始する。同様に、Y側書き込み定電流源回路304は、X側ライトイネーブル信号WENYの活性化に応答して書き込み電流ICYの生成を開始する。
図11は、X側電流ブースト回路301とX側書き込み定電流源回路303の動作を示すタイミングチャートである;Y側ブースト回路302及びY側書き込み定電流源回路304も、同様の動作を行う。
初期状態では、X側ライトイネーブル信号WENXとX側ブースト信号VBSTXとはいずれもLowレベル(Gnd)である。この状態では、PMOSトランジスタMBXがオンし、PMOSトランジスタMSXがオフされ、従って、キャパシタCBXは、電源電圧Vbstによって充電される。
X側ライトイネーブル信号WENXとX側ブースト信号VBSTXとが活性化されると(即ち、LowレベルからHighレベル(Vdd)に切り替わると)、PMOSトランジスタMBXがオフし、PMOSトランジスタMSXがオンする。ノードVBXの電位は、ほぼVbstであり、配線電位は、これよりも低い電位、例えばGndであるため、キャパシタCBXに蓄積された電荷がXセレクタによって選択された配線に急激に流れる;即ち、X側電流ブースト回路301から急峻に立ち上がるブースト電流IBXがノードNLXに流れ込む。このブースト電流IBXは、寄生容量CLX、CX1、・・・、CXmを充電しながら数nsecの間流れる。やがて、ノードVBXの電位とノードNLXの電位が等しくなると、ブースト電流IBXが止まる。X側ブースト信号VBSTXが活性化されている間、ノードVBXの電位はΔVBXだけ低下し、逆に、ノードNLXの電位(即ち、Xセレクタによって選択された配線の電位)は、接地電位からVbst−ΔVBXまで上昇する。
X側書き込み定電流源回路303単独で書き込み電流を生成すると、その書き込み電流は寄生容量の充電に使用されるため、配線に実際に流れる電流の立ち上がりが鈍ってしまう。しかし、X側電流ブースト回路301を使用すれば、ブースト電流IBXによって寄生容量を急速に充電することができるため、電流波形の鈍りが減少する。キャパシタCBXの容量を適正に設計すれば、図5の最下段に図示されているように、実際にセルアレイに流れる書き込み電流ICX+IBXを短時間(典型的には、2nsec程度)で立ち上げることができる。そのため、書き込みは高速に完了し、且つ、消費電力の増大が防がれる。
磁気ランダムアクセスメモリの他の問題の一つは、MTJ素子の特性に温度依存性があることである。例えば、図12Aに示されているように、従来型メモリセル100は、温度が高いほど反転磁場(抗磁場)が小さくなり、従って、磁化を反転させるために必要な電流(磁化反転電流)も小さくなる。典型的には、温度が100℃高くなると、磁化反転電流の大きさは、20%小さくなる。一方、低温では、磁化反転電流の大きさは増大する。したがって、半選択メモリセルへの誤書き込みを防ぐためには、書き込み電流の大きさを温度に応じて適切に制御する必要がある。
同様に、図12Bに示されているように、トグル型メモリセル100Aも、温度が高いほど反転磁場が小さくなり、磁化反転電流も小さくなる。典型的には、温度が100℃高くなると、磁化反転電流の大きさは、20%小さくなる。加えて、自由磁性層の磁化を飽和させる磁場(即ち、磁化を飽和させる書き込み電流(磁化飽和電流)の大きさ)も、温度が高くなると小さくなる。一方、低温では、磁化反転電流の大きさは増大する。したがって、誤書き込みを防ぐためには、書き込み電流の大きさを温度に応じて適切に制御する必要がある。
しかしながら、図10の電流ブースト回路を備えた磁気ランダムアクセスメモリは、磁化反転電流の温度依存性に対応して適切なブースト電流を発生させることができない。キャパシタCBXに蓄積される電荷量は、電源電圧Vbst及びコンデンサCBXの容量Cのみで定まり、一般に、温度依存性がない。これは、ブースト電流が温度に依存せずに一定であることを意味している。図10の電流ブースト回路では、ブースト電流を温度に応じて適切に制御することはできない。これは、最終的にメモリアレイに流される書き込み電流の大きさを温度に応じて適切に制御するために好ましくない。
本発明に関連して、特開2003−257175号公報、特開2004−095157号公報、及び特開2004−234816号公報は、MTJ素子の温度依存性に応じて定電流源によって発生される書き込み電流の大きさを制御する技術を開示している。しかし、これらに開示された技術は、電流ブースト回路によって発生されるブースト電流の制御については何ら言及されていない。
従って、磁気抵抗素子の温度特性に対応して適切な大きさのブースト電流を発生できる磁気ランダムアクセスメモリの提供が望まれている。
米国特許6545906号
特開2004−234816号
特開2003−257175号
特開2004−095157号
以下、添付図面を参照しながら、本発明による磁気ランダムアクセスメモリの実施形態を説明する。添付図面において、同一、対応又は類似の要素は、同一又は対応する符号によって参照されることに留意されたい。
第1の実施形態:
図13は、本発明の第1の実施形態に係る磁気ランダムアクセスメモリ1の構成を示すブロック図である。磁気ランダムアクセスメモリ1は、メモリアレイ2と、X側セレクタ3と、Y側セレクタ4とを備えている。メモリアレイ2は、図3に示されている構成を有している。即ち、メモリアレイ2は、X軸方向に平行に延設された複数の書き込みワード線と、Y軸方向に平行に延設されたビット線とを備えており、書き込みワード線とビット線とが交差する位置には、メモリセルとして使用されるMTJ素子が行列に配置されている。X側セレクタ3は、書き込みワード線を選択するために使用され、Y側セレクタ4は、ビット線を選択するために使用される。
書き込みワード線及びビット線に書き込み電流IWX、IWYをそれぞれに供給するためにX側定電流源回路7とY側定電流源回路10とが設けられている。X側定電流源回路7と、Y側定電流源回路10とは、いずれも、出力インピーダンスが大きい定電流源であり、その負荷の影響を受けずに定電流を生成することができるように構成されている。X側定電流源回路7、Y側定電流源回路10が発生する定電流の大きさが、最終的に(即ち、書き込み動作の最終段階で)メモリアレイ2に流される書き込み電流の大きさに一致する。
加えて、当該磁気ランダムアクセスメモリ1は、X側電流ブースト回路8とX側電流温度補償回路9とY側電流ブースト回路11とY側電流温度補償回路12と温度補償電圧生成回路13を備えている。X側電流ブースト回路8は、X側定電流源回路7が発生した書き込み電流が流れる経路に存在する負荷容量を充電するブースト電流を発生するために使用される回路である。同様に、Y側電流ブースト回路11は、Y側定電流源回路10が発生した書き込み電流が流れる経路に存在する負荷容量を充電するブースト電流を発生するために使用される回路である。X側電流温度補償回路9及びY側電流温度補償回路12は、それぞれ、X側電流ブースト回路8、Y側電流ブースト回路11によって発生されたブースト電流を温度に応答して制御するための回路である。温度補償電圧生成回路13は、温度に応答して制御電圧VPを発生する回路である。制御電圧VPは、図18Aに示されているように、磁気ランダムアクセスメモリ1の動作温度が高いほど高くなる。X側電流ブースト回路8、Y側電流ブースト回路11は、この制御電圧VPに応答してブースト電流を制御する。本実施形態の磁気ランダムアクセスメモリのひとつの特徴は、制御電圧VPに応答して、即ち、磁気ランダムアクセスメモリ1の動作温度に応答してブースト電流の大きさが制御されることにある。
図14は、本実施形態におけるX側定電流源回路7とX側電流ブースト回路8とX側電流温度補償回路9の構成を示すブロック図である;Y側定電流源回路10とY側電流ブースト回路11とY側電流温度補償回路12の構成は、それぞれ、X側定電流源回路7とX側電流ブースト回路8とX側電流温度補償回路9と同様である。
X側定電流源回路7は、定電流ICXを生成する定電流源であり、PMOSトランジスタMP4、MP5と、電源電圧Vddが供給されている電源端子25とを備えている。PMOSトランジスタMP4、MP5は、X側セレクタ3の入力に接続されているノードNLXと電源端子25の間に直列に接続されている。PMOSトランジスタMP4のゲートには、温度補償電圧生成回路13によって生成された制御電圧VPが供給され、PMOSトランジスタMP5のゲートには、インバータ24を介してライトイネーブル信号WENXが供給されている。このように構成されたX側定電流源回路7は、ライトイネーブル信号WENXがHighレベルにプルアップされると、制御電圧VPに応じた大きさの定電流ICXを生成する。
X側電流ブースト回路8は、ブースト電流IBXを生成する回路であり、PMOSトランジスタMP1、キャパシタCBX、接地端子22、及びブースト用電源電圧Vbstが供給されている電源端子23を備えている。キャパシタCBXは、ノードVBXと接地端子22の間に接続されており、PMOSトランジスタMP1は、ノードVBXと電源端子23の間に接続されている。PMOSトランジスタMP1のゲートには、ブースト信号VBSTXが供給されている。PMOSトランジスタMP1は、ブースト信号VBSTXに応じてキャパシタCBXを電源端子23に電気的に接続し、又は電源端子23から切り離す。キャパシタCBXが電源端子23に接続されると、キャパシタCBXに電源電圧Vbstが充電される。即ち、電源電圧Vbstは、コンデンサCBXを充電するために使用される電源電圧である。キャパシタCBXに蓄積された電荷が、ブースト電流IBXを生成するために使用される。
ブースト用電源電圧Vbstは、他の電源電圧Vddと独立に生成されることが好ましい。このような構成は、キャパシタCBXに蓄積される電荷量に対する、特に書き込み時に発生しうる電源電圧Vddの変動の影響を抑制するために好適である。
X側電流ブースト回路8のノードVBXと、ノードNLXの間には、PMOSトランジスタMP2、MP3が直列に接続されている。PMOSトランジスタMP2のゲートには温度補償電圧生成回路13から制御電圧VPが供給されており、PMOSトランジスタMP2は、温度に応じてブースト電流IBXを制御するX側電流温度補償回路9として機能する。PMOSトランジスタMP3には、インバータ21を介してブースト信号VBSTXが供給されている。PMOSトランジスタMP3は、ブースト信号VBSTXに応答してブースト電流IBXを出力し、又は、遮断する。
ブーストスタンバイ時には(即ち、ブースト信号VBSTXがLowレベルである状態では)、PMOSトランジスタMP1がオン、PMOSトランジスタMP3がオフされるため、キャパシタCBXに電荷QBX(=C・Vbst)が蓄積される:ここで、Cは、キャパシタCBXの容量である。電流ブーストが許可されると(即ち、ブースト信号VBSTXがHighレベルにプルアップされると)、PMOSトランジスタMP1がオフ、PMOSトランジスタMP3がオンされるため、キャパシタCBXに蓄積された電荷がノードNLXに放出され、これにより、ブースト電流IBXが瞬時的に生成される。このブースト電流IBXの大きさは、X側電流温度補償回路9によって(即ち、PMOSトランジスタMP2によって)制御電圧VPに応じて制御される。
X側定電流源回路7によって生成される定電流ICXと、X側電流ブースト回路8によって生成されるブースト電流IBXとが、いずれも、制御電圧VPに応じて制御されることに留意されたい。上述のとおり、制御電圧VPは、磁気ランダムアクセスメモリ1の動作温度に応じて生成される電圧であり、従って、定電流ICXとブースト電流IBXは、同一の温度依存性を有している;即ち、定電流ICXとブースト電流IBXは、図18Bに示されているように、いずれも、温度の上昇と共に減少し、温度の低下と共に増大する。
図15は、キャパシタCBXの構成の例を示している。一実施形態では、キャパシタCBXは、MOSトランジスタのゲート容量で構成される。具体的には、基板51にPウェル52が形成され、そのPウェル52にN+ドレイン領域53が形成される。Pウェル52の上方には、ゲート酸化膜55によってPウェル52から絶縁されたゲート電極54が形成されている。ゲート電極54がノードVBXに接続され、N+ドレイン領域53が接地端子22に接続される。このように形成されたキャパシタCBXの容量は、ゲート電極54の面積で定まる。
図16Aは、温度補償電圧生成回路13の構成の例を示している。一実施形態では、温度補償電圧生成回路13は、基準電圧生成回路41と電圧変換回路42とを備えている。基準電圧生成回路41は、動作温度に応答して基準電圧Vrefを生成する回路であり、典型的には、バンドギャップリファレンス回路が基準電圧生成回路41として使用される。一実施形態では、基準電圧生成回路41は、ダイオードD0〜D2と、抵抗R1、R2と、NMOSトランジスタ43、44と、PMOSトランジスタ45〜47から構成されている。電圧変換回路42は、基準電圧Vrefを制御電圧VPに変換する回路であり、抵抗R3、R4及びオペアンプ48を備えている。このような温度補償電圧生成回路13の構成によれば、下記式(1)で表される制御電圧VPが生成される:
VP=(1+R4/R3)V0
−(R4/R3){VF+(kBT/q)・(R2/R1)ln(N)}. ・・・(1)
ここで、VFはダイオードD2の接合電位であり、Nは、ダイオードD0、D1のPN接合の面積比であり、kBはボルツマン定数であり、qは、電気素量である。制御電圧VPの温度依存性は、抵抗R1〜R4、N、及びオペアンプ48の正転入力に供給される電圧V0の値によって制御可能である。
温度補償電圧生成回路13は、他の構成を採用することも可能である。例えば、図16Bに示されているように、ダイオードD0〜D2の代わりにダイオード接続されたPNPバイポーラトランジスタQ0〜Q2が組み込まれた基準電圧生成回路41Aを使用することも可能である。図17Aは、ダイオードD0〜D2の典型的な構造を示しており、図17Bは、PNPバイポーラトランジスタQ0〜Q2の典型的な構造を示している。図17Aに示されているように、ダイオードD0〜D2は、典型的には、基板51に形成されたNウェル61と、Nウェル61に形成されたP+拡散領域62、N+拡散領域63で構成される。一方、PNPバイポーラトランジスタQ0〜Q2は、図17Bに示されているように、基板51に形成されたNウェル64と、Nウェル64に形成されたP+拡散領域65、N+拡散領域66とで構成される。図17A、図17Bから理解されるように、ダイオードD0〜D2とPNPバイポーラトランジスタQ0〜Q2とは実質的に同じ構造を有しており、それらを区別することには技術的な意味はないことに留意されたい。
また、図16Cに示されているように、アンプ型の基準電圧生成回路41Bが使用されることが可能である。図16B、図16Cのいずれの構成でも、制御電圧VPは、式(1)で表される。
更に図16Dに示されているように、他の構成の電圧変換回路42Aが使用されることも可能である。図16Dに示されている温度補償電圧生成回路13では、下記式(2)で表される制御電圧VPが生成される:
VP=1/[(1+R4/R3){VF+(kBT/q)・(R2/R1)ln(N)}].
・・・(2)
続いて、本実施形態の磁気ランダムアクセスメモリ1の書き込み動作を説明する。以下では、X側定電流源回路7とX側電流ブースト回路8とX側電流温度補償回路9の動作が説明されるが、Y側定電流源回路10とY側電流ブースト回路11とY側電流温度補償回路12も同様の動作を行う。
図19に示されているように、初期状態では、ライトイネーブル信号WENXとブースト信号VBSTXとがLowレベルに設定される。この状態では、PMOSトランジスタMP1がオンされ、PMOSトランジスタMP3がオフされ、従って、ノードVBXの電位は、概ねVbstに等しい。キャパシタCBXは、電源電圧Vbstによって充電される。
時刻t1においてライトイネーブル信号WENXとブースト信号VBSTXとがLowレベルからHighレベルにプルアップされると、PMOSトランジスタMP1がオフされ、PMOSトランジスタMP3がオンされる。ライトイネーブル信号WENXとブースト信号VBSTXのプルアップの瞬間では、ノードVBXの電位は、概ねVbstに等しく、且つ、ノードNLXの電位は、それ以下の電位、例えば、接地電位Gndであるため、キャパシタCBXに蓄積された電荷QBXがノードNLXに流れ込んでブースト電流IBXが発生する。このブースト電流IBXは、数nsecの間流れ続け、ノードNLXの寄生容量CLX、及び選択書き込みワード線の寄生容量を充電する。ノードVBXの電位が、ノードNLX及び選択書き込みワード線の電位に等しくなると、ブースト電流IBXの流れが止まる。ブースト信号VBSTXがオンの間、ノードVBXの電位は、元の電位VbstからΔVBSTだけ低下し、逆に、ノードNLX及び選択書き込みワード線の電位は、接地電位からVbst−ΔVBSTまで上昇する。
時刻t1’においてブースト信号VBSTXがHighレベルからLowレベルにプルダウンされると、PMOSトランジスタMP3がオフされ、ブースト電流IBXは流れなくなる。一方、PMOSトランジスタMP1がオンされるため、キャパシタCBXの充電が始まる。ノードVBXの電位もキャパシタCBXの充電によって上昇する。PMOSトランジスタMP1はスイッチとして機能するため、充電に必要な時間は1ns以下である。
時刻t1”においてライトイネーブル信号WENXがLowレベルにプルダウンされると、X側定電流源回路7は、定電流ICXの生成を停止し、これにより、書き込み動作が完了する。
本実施形態の磁気ランダムアクセスメモリ1では、ブースト電流IBXによって寄生容量を急速に充電することができるため、電流波形の鈍りが減少する。仮に、X側定電流源回路7単独で書き込み電流を生成すると、X側定電流源回路7によって生成される定電流ICXが寄生容量の充電に使用されるため、配線に実際に流れる電流の立ち上がりがなまってしまう。しかし、X側電流ブースト回路8を使用する本実施形態の磁気ランダムアクセスメモリ1は、このような問題を回避できる。キャパシタCBXの容量を適正に設計すれば、図19の最下段に図示されているように、実際にセルアレイに流れる電流IWX(=ICX+IBX)を短時間(典型的には、2nsec程度)で立ち上げることができる。そのため、書き込みは高速に完了し、且つ、消費電力の増大が防がれる。
加えて、本実施形態の磁気ランダムアクセスメモリでは、定電流ICXに加えてブースト電流IBXが動作温度に依存して制御されるため、実際にメモリアレイ2に流される書き込み電流IWXの温度特性を、一層に理想的な温度依存性に近づけることができる。仮にブースト電流IBXが温度に依存せずに一定であると、実際にメモリアレイ2に流される書き込み電流IWXに対するブースト電流IBXの割合が温度変化によって変化する。これは、書き込み電流IWXに理想的な温度依存性を与えることを阻害する。本実施形態の磁気ランダムアクセスメモリでは、例えば定電流ICXの低減に応じてブースト電流IBXが低減され、これにより、実際にメモリアレイ2に流される書き込み電流IWXを、メモリセルの磁化を反転させるのに必要な電流(磁化反転電流)の温度変化に追従させることができる。
例えば図20Aに示されているように、従来型メモリセルが使用される場合には、半選択メモリセルの磁化反転電流(a)、及び選択メモリセルの磁化反転電流(b)は、いずれも、動作温度の上昇と共に減少する。しかし、定電流ICXに加えてブースト電流IBXも動作温度に依存して制御可能である本実施形態の磁気ランダムアクセスメモリは、実際にメモリアレイ2に流れる書き込み電流IWXを、動作温度に関らず、半選択メモリセルの磁化反転電流(a)、及び選択メモリセルの磁化反転電流(b)の間の適切な電流値に設定することができる。これは、書き込み電流マージンを増大させ、誤書き込みが発生する確率を減少させる。
一方、トグル型メモリセルが使用される場合には、図20Bに示されているように、選択セルの磁化飽和電流(a)、及び磁化反転電流(b)は、いずれも、動作温度の上昇と共に減少する。しかし、定電流ICXに加えてブースト電流IBXも動作温度に依存して制御可能である本実施形態の磁気ランダムアクセスメモリは、実際にメモリアレイ2に流れる書き込み電流IWXを、動作温度に関らず、選択セルの磁化飽和電流(a)、及び磁化反転電流(b)の間の適切な電流値に設定することができる。これは、書き込み電流マージンを増大させ、誤書き込みが発生する確率を減少させる。
図21は、本実施形態の磁気ランダムアクセスメモリの書き込み電流の温度依存性を測定した結果を示すグラフである。温度上昇と共に、メモリセルの磁化反転電流は減少するが、メモリセルの磁化反転電流の減少と共に、書き込み電流もそれに追従して減少する。この結果、書き込み電流は、及び選択メモリセルの磁化反転電流よりも大きく、半選択メモリセルの磁化反転電流よりも小さい、ほぼ中間の電流値に維持される。そのため、本実施形態の磁気ランダムアクセスメモリは、動作温度が変化しても大きな書き込み電流マージンを提供することができ、誤書き込みが発生する確率を減少させることができる。書き込み電流の値は、選択セルの磁化が反転する電流の1.0〜2.0倍が妥当である。メモリセルの磁化反転電流の温度依存性は、それを構成する磁性体の材料の特性に依存するが、典型的には、−0.01%〜−0.5%/℃の範囲にある。したがって、書き込み電流は、−0.01%〜−0.5%/℃の温度依存性を有するように生成されることが好ましい。
図19に示されているように、キャパシタCBXが放電された後の再充電(ブーストプリチャージ)は、書き込み動作の間に行われる。これは、連続的に書き込み動作を行うために好適である。図22は、連続書き込み(バーストライト)が行われる場合の本実施形態の磁気ランダムアクセスメモリの動作を示すタイミングチャートである。時刻t1において1回目の書き込み動作が開始され、ブースト信号VBXTXとライトイネーブル信号WENXがHighレベルにプルアップされる。時刻t1’においてブースト信号VBXTXがLowレベルにプルダウンされると、ブースト電流IBXは遮断され、コンデンサCBXの再充電が開始される。時刻t1”においてライトイネーブル信号WENXがLowレベルにプルダウンされると、書き込み電流が遮断され、1回目の書き込み動作が終了する。引き続き時刻t2において、2回目の書き込みが開始されるが、時刻t2では既にコンデンサCBXの充電は完了している。従って、X側電流ブースト回路8は、ブースト電流IBXを即座に流すことができる。同様に、時刻t3、t4、t5において開始される3回目、4回目、5回目の書き込み動作についても、その書き込み動作の前にコンデンサCBXの充電は完了しており、ブースト電流IBXを即座に流すことができる。
本実施形態において、ブースト用電源電圧Vbstが、温度に依存するように生成されることも可能である。この場合、温度の上昇と共に、ブースト用電源電圧Vbstは低下される。例えば、図16A乃至16Dに図示されているような温度に依存して電圧を生成する温度補償電圧生成回路により、温度に依存するようにブースト用電源電圧Vbstを生成することが可能である。
また、本実施形態において、ブースト用電源電圧Vbstが、電源電圧Vddに一致するように生成されることも可能である。これは、回路構成及びレイアウト構成を単純にし、回路面積及びピン数を減少させるために好適である。
第2の実施形態:
図23は、本発明の第2の実施形態に係る磁気ランダムアクセスメモリ1Aの構成を示すブロック図である。第2の実施形態に係る磁気ランダムアクセスメモリは、図13に図示されている構成と類似の構成を有しているが、X側電流温度補償回路9、Y側電流温度補償回路12の代わりにX側電流クランパ回路9A、Y側電流クランパ回路12Aを備えている点で相違している。X側電流クランパ回路9Aは、磁気ランダムアクセスメモリ1Aの動作温度に応じてX側電流ブースト回路8から出力されるブースト電流から過剰分を除去し、又は不足分をブースト電流に追加するためのものである。同様に、Y側電流クランパ回路12Aは、動作温度に応じてY側電流ブースト回路11から出力されるブースト電流から過剰分を除去し、又は不足分をブースト電流に追加するためのものである。過剰分の除去、及び不足分の追加は、磁気ランダムアクセスメモリ1Aの動作温度に応答して行われる。動作温度に応答した過剰分の除去、及び不足分の追加を行うために、本実施形態では、温度補償電圧生成回路13Aが、3つの制御電圧VP0、VP1、VP2を生成するように構成される。X側定電流源回路7、及びY側定電流源回路10は、制御電圧VP0に応答して定電流を生成する。一方、X側電流クランパ回路9A及びY側電流クランパ回路12Aは、制御電圧VP1、VP2に応答して、ブースト電流の過剰分の除去、及び不足分の追加を行う。
図24は、本実施形態におけるX側定電流源回路7とX側電流ブースト回路8とX側電流クランパ回路9Aの構成を示すブロック図である;Y側定電流源回路10とY側電流ブースト回路11とY側電流クランパ回路12Aの構成は、それぞれ、X側定電流源回路7とX側電流ブースト回路8とX側電流クランパ回路9Aと同様である。
X側定電流源回路7とX側電流ブースト回路8の構成は、ほぼ、第1の実施形態で説明されている通りである。X側定電流源回路7は、電源電圧Vddが供給されている電源端子25と、PMOSトランジスタMP4、MP5とを備えている。PMOSトランジスタMP4のゲートには、温度補償電圧生成回路13Aから制御電圧VP0が入力されている。制御電圧VP0は、動作温度の上昇と共に増大するように生成される。X側定電流源回路7が生成する定電流ICXは、図25Bに示されているように、制御電圧VP0の増大と共に、即ち、動作温度の上昇と共に減少する。
図24に戻り、X側電流ブースト回路8は、PMOSトランジスタMP1、MP2と、キャパシタCBXと、ブースト用電源電圧Vbstが供給されている電源端子23とを備えている。ブーストスタンバイ時(即ち、ブースト信号VBSTXがLowレベルであるとき)には、キャパシタCBXはブースト用電源電圧Vbstで充電され、電荷QBX(=CBX・Vbst)が蓄積される。ブーストが許可されると(即ち、ブースト信号VBSTXがHighレベルにプルアップされると)、キャパシタCBXに蓄積された電荷QBXがノードNLXに流れ込みブースト電流IBXが発生する。本実施形態では、第1の実施形態とは異なりPMOSトランジスタMP3がノードVBXに直接に接続されているが、このことが動作に本質的な相違をもたらさないことは、当業者には自明である。
X側電流クランパ回路9Aは、電流加算回路26と電流減算回路27とを備えている。電流減算回路27は、ブースト電流IBXのうちの過剰分、即ち、減算電流IRXをノードNLXに流さずに接地端子29に流す機能を有している。具体的には、電流減算回路27は、NMOSトランジスタMN1、MN2と、AND素子MANと、遅延素子31とを備えている。NMOSトランジスタMN1、MN2は、ノードNLXと接地端子29の間に直列に接続されている。NMOSトランジスタMN1のゲートは、AND素子MANの出力に接続されている。AND素子MANの正転入力にはライトイネーブル信号WENXが入力され、反転入力には、遅延素子31を介してライトイネーブル信号WENXが入力される。NMOSトランジスタMN2のゲートには、温度補償電圧生成回路13Aから制御電圧VP1が供給されている。
同様に、電流加算回路26は、ブースト電流IBXの不足分、即ち、加算電流IAXをノードNLXに追加的に供給する機能を有している。PMOSトランジスタMP6、MP7と、電源電圧Vddが供給されている電源端子28と、NAND素子MAPと、遅延素子30とを備えている。PMOSトランジスタMP6、MP7は、電源端子28とノードNLXとの間に直列に接続されている。PMOSトランジスタMP7のゲートは、NAND素子MAPの出力に接続されている。NAND素子MAPの正転入力にはライトイネーブル信号WENXが入力され、反転入力には、遅延素子30を介してライトイネーブル信号WENXが入力される。PMOSトランジスタMP6のゲートには、温度補償電圧生成回路13Aから制御電圧VP2が供給されている。
図25Aに示されているように、電流減算回路27に供給される制御電圧VP1は、X側定電流源回路7に供給されている制御電圧VP0と同様に、動作温度の上昇と共に増大するように生成される。ノードNLXから接地端子29に流れる減算電流IRXの大きさは、NMOSトランジスタMN2のサイズ及び、そのゲートに供給されている制御電圧VP1によって定まる。減算電流IRXは、制御電圧VP1がNMOSトランジスタMN2の閾値電圧VTNを超えている範囲において、制御電圧VP1の増大と共に増大する。言い換えれば、減算電流IRXは、動作温度の上昇と共に増大する。
一方、電流加算回路26に供給される制御電圧VP2は、制御電圧VP0、VP1とは異なり、動作温度の上昇と共に減少するように生成される。電源端子28からノードNLXに流れ込む加算電流IAXの大きさは、PMOSトランジスタMP6のサイズ及び、そのゲートに供給されている制御電圧VP2によって定まる。加算電流IRXは、制御電圧VP2がVdd−VTPよりも低い範囲において、制御電圧VP2の減少と共に増大する;ここでVddは電源端子28に印加されている電源電圧であり、VTPは、PMOSトランジスタMP6の閾値電圧(の絶対値)である。言い換えれば、加算電流IAXは、動作温度の上昇と共に減少する。
ノードNLXに最終的に流れ込むブースト電流IBX’は、X側電流ブースト回路8が出力するブースト電流IBXから減算電流IRXを減じ、且つ、加算電流IBXを加えたものである;即ち
IBX’=IBX−IRX+IAX. ・・・(3)
このブースト電流IBX’は、図25Bに示されているように、動作温度の上昇と共に減少する。この結果、本実施形態の磁気ランダムアクセスメモリ1Aは、実際にメモリアレイ2に流される書き込み電流IWXの温度特性を、一層に理想的な温度依存性に近づけることができる。
室温におけるX側電流クランパ回路9Aの消費電力を小さくするためには、図25Aに示されているように、室温での制御電圧VP1は、NMOSトランジスタMN2の閾値電圧VTNに近い値に設定することが有効である。これにより、動作温度が室温以下であるときの減算電流IRXをゼロにすることが可能であり、消費電力の節約に繋がる。同様に、室温での制御電圧VP2は、Vdd−VTPに近い値に設定することが有効である。これにより、動作温度が室温以上であるときの加算電流IRXをゼロにすることができる。
X側電流クランパ回路9Aは、X側電流ブースト回路8がブースト電流IBXを出力している書き込み動作の初期段階でのみ選択的に動作するように構成されている。X側電流クランパ回路9Aが書き込み動作の最初から最後まで継続的に動作することは、ブースト電流IBXが停止した後も加算電流IAX、又は減算電流IRXが流れることになり、メモリアレイ2に供給されるブースト電流IBX’の制御という観点では好適でない。具体的には、X側電流クランパ回路9Aの動作時間は、NMOSトランジスタMN1又はPMOSトランジスタMP7がオンしている時間、即ち、遅延素子30、31の遅延時間Δtで定まる。X側電流クランパ回路9Aは、ライトイネーブル信号WENXが活性化された後、遅延時間Tの時間だけ、加算電流IAX、又は減算電流IRXを流す。
図26A及び図26Bは、それぞれ、動作温度が高い場合、及び低い場合における本実施形態の磁気ランダムアクセスメモリ1Aの動作を示すタイミングチャートである。図26A及び図26Bには、X側定電流源回路7とX側電流ブースト回路8とX側電流クランパ回路9Aの動作のみが図示されているが、Y側定電流源回路10とY側電流ブースト回路11とY側電流クランパ回路12Aの動作は、それぞれ、X側定電流源回路7とX側電流ブースト回路8とX側電流クランパ回路9Aと同様である
図26Aを参照して、時刻t1においてライトイネーブル信号WENXとブースト信号BSTXがHighレベルにプルアップされると、X側電流ブースト回路8においてPMOSトランジスタMP1がオフし、PMOSトランジスタMP3がオンする。時刻t1の直前におけるノードVBXの電位は、ほぼVbstであり、ノードNLXと選択書き込みワード線の電位はこれ以下の電位、例えば接地電位であるため、キャパシタCBXに蓄積された電荷がノードNLXに流れ込み、ブースト電流IBXが発生する。
一方、ライトイネーブル信号WENXがプルアップされることにより、X側電流クランパ回路9Aも活性化され、その動作を開始する。動作時間は、遅延素子30、31の遅延時間Δtで定まる。ライトイネーブル信号WENXがプルアップの後、時間Δtの間だけNMOSトランジスタMN1は活性化され、これにより、減算電流IRXが流れる。減算電流IRXの大きさは、NMOSトランジスタMN2のゲートに供給されている制御電圧VP1に応じて定まる。制御電圧VP1は、動作温度の上昇とともに増加するから、減算電流IRXも、動作温度の上昇とともに増加する。一方、動作温度が高い場合には、PMOSトランジスタMP6のゲートには充分に高い制御電圧VP2が供給されるため、加算電流IAXはほぼゼロである。言い換えれば、電流加算回路26は動作しない。このため、最終的に生成されるブースト電流IBX’は、動作温度の上昇と共に減少する。動作温度が高い場合には、最終的に生成されるブースト電流IBX’は、X側電流ブースト回路8が生成するブースト電流IBXから減算電流IRXを減じたものであることに留意されたい。
時刻t1’においてブースト信号VBSTXがLowレベルにプルダウンされると、X側電流ブースト回路8のPMOSトランジスタMP3がオフし、ブースト電流IBXは流れなくなる。一方、PMOSトランジスタMP1がオンするため、キャパシタCBXの充電が開始される。キャパシタCBXの充電により、ノードVBXの電位は上昇する。PMOSトランジスタMP1はスイッチとして機能するため、充電に必要な時間は、1ns以下である。
このような動作によれば、定電流ICXとブースト電流IBX’の両方を、動作温度の上昇とともに減少させることができる。従って、本実施形態では、実際にメモリアレイ2に流される書き込み電流IWX(=ICX+IBX’)を、メモリセルの温度特性に適合した理想的な温度依存性を有するように生成することができる。
一方、動作温度が低い場合も同様である。図26Bを参照して、時刻t1においてライトイネーブル信号WENXとブースト信号BSTXがHighレベルにプルアップされると、X側電流ブースト回路8においてPMOSトランジスタMP1がオフし、PMOSトランジスタMP3がオンする。時刻t1の直前におけるノードVBXの電位は、ほぼVbstであり、ノードNLXと選択書き込みワード線の電位はこれ以下の電位、例えば接地電位であるため、キャパシタCBXに蓄積された電荷がノードNLXに流れ込み、ブースト電流IBXが発生する。
一方、ライトイネーブル信号WENXがプルアップされることにより、X側電流クランパ回路9Aも活性化され、その動作を開始する。動作時間は、遅延素子30、31の遅延時間Δtで定まる。ライトイネーブル信号WENXがプルアップの後、時間Δtの間だけPMOSトランジスタMP7は活性化され、これにより、加算電流IAXが流れる。加算電流IAXの大きさは、PMOSトランジスタMP6のゲートに供給されている制御電圧VP2に応じて定まる。制御電圧VP2は、動作温度の低下とともに増大するから、加算電流IAXも、動作温度の低下とともに増加する。一方、動作温度が低い場合には、NMOSトランジスタMN2のゲートには充分に低い制御電圧VP1が供給されるため、減算電流IRXはほぼゼロである。言い換えれば、電流減算回路27は動作しない。このため、最終的に生成されるブースト電流IBX’は、動作温度の低下と共に増加する。動作温度が低い場合には、最終的に生成されるブースト電流IBX’は、X側電流ブースト回路8が生成するブースト電流IBXと加算電流IAXの和であることに留意されたい。
時刻t1’においてブースト信号VBSTXがLowレベルにプルダウンされると、X側電流ブースト回路8のPMOSトランジスタMP3がオフし、ブースト電流IBXは流れなくなる。一方、PMOSトランジスタMP1がオンするため、キャパシタCBXの充電が開始される。キャパシタCBXの充電により、ノードVBXの電位は上昇する。PMOSトランジスタMP1はスイッチとして機能するため、充電に必要な時間は、1ns以下である。
このような動作によれば、定電流ICXとブースト電流IBX’の両方を、動作温度の低下とともに増加させることができる。従って、本実施形態では、実際にメモリアレイ2に流される書き込み電流IWX(=ICX+IBX’)を、メモリセルの温度特性に適合した理想的な温度依存性を有するように生成することができる。
本実施形態の磁気ランダムアクセスメモリ1Aのもう一つの利点は、書き込み電流(即ち、ワード線電流、ビット線電流)の立ち上がり時間を短縮することができる点である。ワード線電流、ビット線電流の立ち上がり時間の短縮は、ライトサイクル時間の短縮のために重要である。図27は、一のライトサイクルにおける、動作時間の配分を示している。磁気ランダムアクセスメモリでは、ライトイネーブル信号WEが活性化されている間に、ワード線電流IWX、ビット線電流IBXを順次に流す必要がある。例えば、100MHzで書き込み動作を行うというスペックを満足するためには、ライトサイクル(即ち、ライトイネーブル信号WEが活性化されている時間)は、10ns以下である必要がある。一のライトサイクルは、ワード線電流スタンバイ時間T1、ワード線電流立ち上がり時間T2、ワード線電流安定化時間T3、ビット線電流立ち上がり時間T4、ワード線電流/ビット線電流維持時間T5、及びビット線電流維持時間T6、ビット線電流立ち下げ時間T7で構成される。時間T1、T3、T6、T7は、1ns程度で充分であり、時間T5は、2ns程度が必要である。従って時間T1〜T7の総和を10ns以下に抑えるためには、ワード線電流、及びビット線電流の立ち上がり時間を2ns以下に抑える必要がある。
第1の実施形態の磁気ランダムアクセスメモリ1では、キャパシタCBXとノードNLXの間に2つのPMOSトランジスタが直列に接続されているのに対し、第2の実施形態の磁気ランダムアクセスメモリ1Aでは、キャパシタCBXとノードNLXの間に1つのPMOSトランジスタしか接続されていない。これは、書き込み電流の立ち上がり時間T2、T4を有効に短縮する。
図28は、本実施形態の磁気ランダムアクセスメモリ1Aにおける書き込み電流の立ち上がり時間のシミュレーション結果を示すグラフである。シミュレーションは、メモリアレイ2が寄生抵抗100Ω、寄生容量10pFを有する大規模アレイであるという条件の下で行われている。書き込み電流値は2.5mA、5.0mA、10mAから選択されており、書き込み対象の小アレイとしては、書き込みに使用される定電流源に最も近いものと遠いものとが選択されている。いずれの場合でも、書き込み電流の立ち上がり時間は2ns以下であり、書き込み電流が2.5mA、5.0mAである場合には、1ns以下の立ち上がり時間を達成できる。これは、100MHz以上の高速書き込みを実現できることを意味している。
また、第1の実施形態と同様に、キャパシタCBXが書き込み動作の間に再充電されるから、本実施形態でも連続書き込みを容易に達成できることは当業者には理解されよう。
本実施形態においても、ブースト用電源電圧Vbstは、他の電源電圧Vddと独立に生成されることが好ましい。このような構成は、キャパシタCBXに蓄積される電荷量に対する、特に書き込み時に発生しうる電源電圧Vddの変動の影響を抑制するために好適である。この場合、ブースト用電源電圧Vbstが、温度に依存するように生成されることも可能である。この場合、温度の上昇と共に、ブースト用電源電圧Vbstは低下される。例えば、図16A乃至16Dに図示されているような温度に依存して電圧を生成する温度補償電圧生成回路により、温度に依存するようにブースト用電源電圧Vbstを生成することが可能である。
また、本実施形態において、ブースト用電源電圧Vbstが、電源電圧Vddに一致するように生成されることも可能である。これは、回路構成及びレイアウト構成を単純にし、回路面積及びピン数を減少させるために好適である。
第3の実施形態:
図24に図示されている第2の実施形態の磁気ランダムアクセスメモリ1Aにおいて、書き込み動作の開始時にライトイネーブル信号WENXとブースト信号VBSTXが同一のタイミングでプルアップされる場合には、X側電流ブースト回路8のPMOSトランジスタMP3と、X側定電流源回路7のPMOSトランジスタMP5の機能を、一のPMOSトランジスタで実現することができる。
より具体的には、第3の実施形態の磁気ランダムアクセスメモリ1Bでは、図29に図示されているように、図24のPMOSトランジスタMP3、MP5の機能が、PMOSトランジスタMP8で実現されている。これに伴い、X側定電流源回路7A、及びX側電流ブースト回路8Aからは、それぞれ、PMOSトランジスタMP3、MP5が取り除かれている。X側定電流源回路7A、及びX側電流ブースト回路8Aの出力は、ノードVCXに接続されている。言い換えれば、キャパシタCBX及びPMOSトランジスタMP4は、直接にノードVCXに接続されている。加えて、X側電流クランパ回路9Aの電流加算回路26と電流減算回路27も、ノードVCXに接続される。そのノードVCXは、PMOSトランジスタMP8を介して、ノードNLXに接続されている。ノードNLXは、X側セレクタ3を介して書き込みワード線に接続されているノードであることに留意されたい。ビット線に書き込み電流IWYを供給するY側定電流源回路、及びY側電流ブースト回路も同様に構成される。
図30は、本実施形態の磁気ランダムアクセスメモリ1Bの動作を示すタイミングチャートである。図30のタイミングチャートは、動作温度が高い場合(即ち、電流減算回路27のみが動作する場合)の磁気ランダムアクセスメモリ1Bの動作を示しているが、動作温度が低い場合の動作も、電流加算回路26のみが動作することを除けば同様である。また、Y側定電流源回路、及びY側電流ブースト回路も同様に動作することに留意されたい。
図30を参照して、時刻t1においてライトイネーブル信号WENXとブースト信号BSTXがHighレベルにプルアップされると、X側電流ブースト回路8においてPMOSトランジスタMP1がオフし、PMOSトランジスタMP8がオンする。時刻t1の直前におけるノードVBXの電位は、ほぼVbstであり、ノードNLXと選択書き込みワード線の電位はこれ以下の電位、例えば接地電位であるため、キャパシタCBXに蓄積された電荷がノードNLXに流れ込み、ブースト電流IBXが発生する。
一方、ライトイネーブル信号WENXがプルアップされることにより、X側電流クランパ回路9Aも活性化され、その動作を開始する。動作時間は、遅延素子30、31の遅延時間Δtで定まる。ライトイネーブル信号WENXがプルアップされた後、時間Δtの間だけNMOSトランジスタMN1は活性化され、これにより、減算電流IRXが流れる。減算電流IRXの大きさは、NMOSトランジスタMN2のゲートに供給されている制御電圧VP1に応じて定まる。制御電圧VP1は、動作温度の上昇とともに増加するから、減算電流IRXも、動作温度の上昇とともに増加する。このため、最終的に生成されるブースト電流IBX’は、動作温度の上昇と共に減少する。
時刻t1’においてライトイネーブル信号WENXがLowレベルにプルダウンされると、PMOSトランジスタMP8がオフし、書き込み電流IWXが流れなくなる。一方、PMOSトランジスタMP1がオンするため、キャパシタCBXの充電が開始される。キャパシタCBXの充電により、ノードVBXの電位は上昇する。PMOSトランジスタMP1はスイッチとして機能するため、充電に必要な時間は、1ns以下である。図30では充電が完了する時刻が記号「t1”」で示されている。図30には、ライトイネーブル信号WENXとブースト信号BSTXとが同時にLowレベルにプルダウンされる場合の動作が図示されているが、ブースト信号BSTXがライトイネーブル信号WENXよりも時間的に前にプルダウンされることも可能であることに留意されたい。
このような動作によれば、定電流ICXとブースト電流IBX’の両方を、動作温度の上昇とともに減少させることができる。従って、本実施形態では、実際にメモリアレイ2に流される書き込み電流IWX(=ICX+IBX’)を、メモリセルの温度特性に適合した理想的な温度依存性を有するように生成することができる。
図31は、連続書き込み(バーストライト)が行われる場合の本実施形態の磁気ランダムアクセスメモリの動作を示すタイミングチャートである。注目すべき点は、キャパシタCBXの再充電(ブーストプリチャージ)が、書き込み動作の後に行われることである。時刻t1において1回目の書き込み動作が開始され、ブースト信号VBXTXとライトイネーブル信号WENXがHighレベルにプルアップされる。時刻t1’においてブースト信号VBXTXとライトイネーブル信号WENXがLowレベルにプルダウンされると、書き込み電流IWXが遮断されるとともに、コンデンサCBXの再充電が開始される。時刻t1’の後の時刻t2において、2回目の書き込みが開始される。留意すべきことは、2回目の書き込みの時刻t2は、コンデンサCBXの充電が完了した後でなければならないことである。これは、書き込み動作が完了した後に、ある程度の待機時間を用意する必要があることを意味している。これは、連続書き込みを短時間で行う上で好適でない。
書き込み動作が完了した後の待機時間をなくすためには、図32に示されているように、ワード線、ビット線のそれぞれについて同一の構成を有する2つの書き込み系を用意することが好適である。具体的には、図32の磁気ランダムアクセスメモリ1Bには、X側定電流源回路7A、7B、X側電流ブースト回路8A、8B、X側電流クランパ回路9A、9Bと、Y側定電流源回路10A、10B、Y側電流ブースト回路11A、11B、Y側電流クランパ回路12A、12Bが設けられる。X側定電流源回路7A、X側電流ブースト回路8A、及びX側電流クランパ回路9Aは、第1のワード線書き込み系を構成し、X側定電流源回路7B、X側電流ブースト回路8B、及びX側電流クランパ回路9Bは、第2の書き込み系を構成する。同様に、Y側定電流源回路10A、Y側電流ブースト回路11A、及びY側電流クランパ回路12Aは、第1の書き込み系を構成し、Y側定電流源回路10B、Y側電流ブースト回路11B、及びY側電流クランパ回路12Bは、第2の書き込み系を構成する。
制御信号も、第1の書き込み系、第2の書き込み系のそれぞれに用意される。X側定電流源回路7A、X側電流ブースト回路8A、及びX側電流クランパ回路9Aには、ライトイネーブル信号WENX1、ブースト信号VBSTX1が供給され、X側定電流源回路7B、X側電流ブースト回路8B、及びX側電流クランパ回路9Bには、ライトイネーブル信号WENX2、ブースト信号VBSTX2が供給される。同様に、Y側定電流源回路10A、Y側電流ブースト回路11A、及びY側電流クランパ回路12Aには、ライトイネーブル信号WENY1、ブースト信号VBSTY1が供給され、Y側定電流源回路10B、Y側電流ブースト回路11B、及びY側電流クランパ回路12Bには、ライトイネーブル信号WENY2、ブースト信号VBSTY2が供給される。
図33は、図32に示されている磁気ランダムアクセスメモリ1Bの動作を示すタイミングチャートである。図33には、X側定電流源回路7A、7B、X側電流ブースト回路8A、8B、X側電流クランパ回路9A、9Bの動作が図示されているが、Y側定電流源回路10A、10B、Y側電流ブースト回路11A、11B、Y側電流クランパ回路12A、12Bの動作も同様である。
1回目の書き込み動作が開始される時刻t1において、ブースト信号VBSTX1とライトイネーブル信号WENX1がHighレベルにプルアップされ、ブースト信号VBSTX2とライトイネーブル信号WENX2がLowレベルにプルダウンされる。その結果、X側定電流源回路7A、X側電流ブースト回路8Aによってそれぞれ、定電流ICX1とブースト電流IBX1が生成され、これらの電流からメモリアレイ2に流される書き込み電流IWX1が生成される。X側電流クランパ回路9Aがブースト電流IBX1に加算電流IAXを加え、又は、ブースト電流IBX1から減算電流IRXを除くため、書き込み電流IWX1は、メモリセルの温度特性に適合した理想的な温度依存性を有するように生成される。
2回目の書き込み動作が開始される時刻t1’では、ブースト信号VBSTX2とライトイネーブル信号WENX2がHighレベルにプルアップされ、ブースト信号VBSTX1とライトイネーブル信号WENX1がLowレベルにプルダウンされる。その結果、X側定電流源回路7B、X側電流ブースト回路8Bによってそれぞれ、定電流ICX2とブースト電流IBX2が生成され、これらの電流からメモリアレイ2に流される書き込み電流IWX2が生成される。X側電流クランパ回路9Bがブースト電流IBX2に加算電流IAXを加え、又は、ブースト電流IBX2から減算電流IRXを除くため、書き込み電流IWX2は、メモリセルの温度特性に適合した理想的な温度依存性を有するように生成される。時刻t1’では、X側電流ブースト回路8AのキャパシタCBXは完全に充電されないが、ブースト電流IBX2の発生に使用されるのはX側電流ブースト回路8BのキャパシタCBXであるので、書き込み電流IWX2を短時間で立ち上げることに問題はない。
更に続いて3回目の書き込み動作が開始される時刻t2では、ブースト信号VBSTX1とライトイネーブル信号WENX1がHighレベルにプルアップされ、ブースト信号VBSTX2とライトイネーブル信号WENX2がLowレベルにプルダウンされる。時刻t2では、X側電流ブースト回路8Aがブースト電流の発生に使用されるが、この時点ではX側電流ブースト回路8AのキャパシタCBXの充電は完了しているため、ブースト電流を即座に発生することができる。
時刻t3、t3’、t4、t4’、t5、t5’においても同様に、メモリセルの温度特性に適合した理想的な温度依存性を有する書き込み電流を、短い立ち上がり時間で生成することができる。
本実施形態においても、ブースト用電源電圧Vbstは、他の電源電圧Vddと独立に生成されることが好ましい。このような構成は、キャパシタCBXに蓄積される電荷量に対する、特に書き込み時に発生しうる電源電圧Vddの変動の影響を抑制するために好適である。この場合、ブースト用電源電圧Vbstが、温度に依存するように生成されることも可能である。この場合、温度の上昇と共に、ブースト用電源電圧Vbstは低下される。例えば、図16A乃至16Dに図示されているような温度に依存して電圧を生成する温度補償電圧生成回路により、温度に依存するようにブースト用電源電圧Vbstを生成することが可能である。
また、本実施形態において、ブースト用電源電圧Vbstが、電源電圧Vddに一致するように生成されることも可能である。これは、回路構成及びレイアウト構成を単純にし、回路面積及びピン数を減少させるために好適である。
第4の実施形態:
図34は、第4の実施形態の磁気ランダムアクセスメモリ1Cの構成を示す回路図である。第4の実施形態の磁気ランダムアクセスメモリ1Cの構成は、図29の磁気ランダムアクセスメモリ1Bの構成とほぼ同様であるが、本実施形態では、X側電流クランパ回路9Cが書き込み対象として選択されたメモリセルの位置に応じて減算電流IRXを制御するように構成される。これは、ブースト電流を調節することにより、選択メモリセルの位置において実際に流れる書き込み電流を一定に保つことを目的としている。書き込み電流源から近いメモリセルに書き込み電流を供給する場合には、X側電流クランパ回路9Cは、減算電流IRXを増大させてブースト電流を相対的に減少させる。逆に、書き込み電流源から遠いメモリセルに書き込み電流を供給する場合には、減算電流IRXを減少させてブースト電流を相対的に増大させる。
具体的には、X側電流クランパ回路9Cは、加算電流IAXを生成する電流加算回路26と、減算電流IRXを生成する電流減算回路27Aとを備えている。電流加算回路26は、温度補償電圧生成回路13Aから制御電圧VP2を受け取り、制御電圧VP2に応答して加算電流IAXを生成する。電流加算回路26の構成及び動作は上述されている通りであり、その詳細は説明されない。
電流減算回路27Aは、NMOSトランジスタMNR11〜MNR1n、MNR21〜MNR2nと、NANDゲートMA11〜MA1nと、遅延素子31−1〜31−nとを備えている。ノードVCXと接地端子29の間には、それぞれが直列に接続された2つのNMOSトランジスタからなるMOSトランジスタ組が並列に接続されている。より具体的には、kをn以下の任意の自然数として、NMOSトランジスタMNR1kとNMOSトランジスタMNR2kとがノードVCXと接地端子29の間に直列に接続されている。
NMOSトランジスタMNR21〜MNR2nは、動作温度に応じた電流を生成するために使用される。NMOSトランジスタMNR21〜MNR2nのゲートには、温度補償電圧生成回路13Aから制御電圧VP1が供給され、NMOSトランジスタMNR21〜MNR2nを流れる電流は、制御電圧VP1に応じて制御される。
一方、NMOSトランジスタMNR11〜MNR1nは、NMOSトランジスタMNR21〜MNR2nのうち実際に減算電流IRXの生成に寄与するトランジスタの数を、選択メモリセルの位置に応じて制御する役割を有している。具体的には、NMOSトランジスタMNR11〜MNR1nのゲートは、それぞれAND素子MA11〜MA1nの出力が接続されている。AND素子MA11〜MA1nのそれぞれは、2つの正転入力と1つの反転入力を備えている。AND素子MA11〜MA1nの第1の正転入力にはライトイネーブル信号WENXが入力され、反転入力には遅延素子31−1〜31−nを介してライトイネーブル信号WENXが入力される。更に、AND素子MA11〜MA1nの第2の正転入力には、それぞれ選択信号SEL1〜SELnが入力される。選択信号SEL1〜SELnは、選択メモリセルの位置を示す一組の信号である。一の実施形態では、選択信号SEL1〜SELnとしては、それぞれアドレス信号X1〜Xnの反転信号が使用され得る。この場合、選択メモリセルが書き込み電流源から遠いほど選択信号SEL1〜SELnのうちの多くの選択信号がHighレベルに設定される。これにより、選択メモリセルが書き込み電流源から遠いほど、NMOSトランジスタMNR21〜MNR2nの多くが実際に減算電流IRXの生成に寄与することになる。
ビット線に書き込み電流IWYを供給するY側定電流源回路、及びY側電流ブースト回路も同様に構成される。
このような構成によれば、選択メモリセルの位置に応じて減算電流IRX、即ち、ブースト電流が制御され、選択メモリセルの位置において実際に流れる書き込み電流を一定に保つことができる。
本実施形態においても、ブースト用電源電圧Vbstは、他の電源電圧Vddと独立に生成されることが好ましい。このような構成は、キャパシタCBXに蓄積される電荷量に対する、特に書き込み時に発生しうる電源電圧Vddの変動の影響を抑制するために好適である。この場合、ブースト用電源電圧Vbstが、温度に依存するように生成されることも可能である。この場合、温度の上昇と共に、ブースト用電源電圧Vbstは低下される。例えば、図16A乃至16Dに図示されているような温度に依存して電圧を生成する温度補償電圧生成回路により、温度に依存するようにブースト用電源電圧Vbstを生成することが可能である。
また、本実施形態において、ブースト用電源電圧Vbstが、電源電圧Vddに一致するように生成されることも可能である。これは、回路構成及びレイアウト構成を単純にし、回路面積及びピン数を減少させるために好適である。
第5の実施形態:
図35は、本発明の第5の実施形態に係る磁気ランダムアクセスメモリ1Dの構成を示す回路図である。本実施形態に係るに係る磁気ランダムアクセスメモリ1Dは、図29の磁気ランダムアクセスメモリ1Bの構成とほぼ同様であるが、本実施形態では、X側電流ブースト回路8Cの構成が変更されている。
より具体的には、本実施形態では、X側電流ブースト回路8CがPMOSトランジスタMP1、NMOSトランジスタMN3、キャパシタCBX、インバータ21、接地端子22、及びブースト用電源電圧Vbstが供給されている電源端子23を備えて構成されている。PMOSトランジスタMP1は電源端子23とノードVBXとの間に接続され、NMOSトランジスタMN3はノードVBXと接地端子22の間に接続されている。PMOSトランジスタMP1、NMOSトランジスタMN3のゲートには、インバータ21を介してブースト信号VBSTXが共通に供給されている。キャパシタCBXは、ノードVBXとノードVCXの間に接続されている。ノードVCXとは、X側電流ブースト回路8Cの出力が接続されているノードであり、PMOSトランジスタMP8を介してノードNLXに接続されている。
図36は、本実施形態の磁気ランダムアクセスメモリ1Dの動作、特に、X側電流ブースト回路8Cの動作を示すタイミングチャートである。ブーストスタンバイ時には(即ち、ブースト信号VBSTXがLowレベルであるとき)、X側電流ブースト回路8CのPMOSトランジスタMP1と、書き込み電流IWXのオンオフを制御するPMOSトランジスタMP8はいずれもオフされ、NMOSトランジスタMN1はオンされる。これにより、ノードVCXの電位はVdd、ノードVBXの電位は接地電位になる。従って、キャパシタCBXには電荷QBX(=CBX・Vdd)が蓄積されている。
時刻t1において書き込み動作が開始され、ライトイネーブル信号WENXとブースト信号VBSTXとがHighレベルにプルアップされると、PMOSトランジスタMP1がオンし、NMOSトランジスタMN3はオフされる。これにより、ノードVBXの電位がVbstに急激に上昇する。この結果、カップリングによってキャパシタCBXに蓄積されている電荷QBXがノードVCX及びPMOSトランジスタMP8を介してノードVCXに流れ込み、ブースト電流IBXが生成される。更に、加算電流IAXがノードVCXに流れ込み、又は、減算電流IRXがノードVCXから流れ出すことによりブースト電流IBXが温度に応じて調整され、これにより、ブースト電流IBX’が生成される。このブースト電流IBX’により、ノードNLXの寄生容量CLXやメモリアレイ2の寄生容量が充電される。この充電は、典型的には、1nsec以下の時間で完了する。ノードVCXの電位は、ノードVBXの電位がVbstに急激に上昇することによって急速に上昇し、その後、電位Vbst−ΔVBSTXに落ち着く。一方、ブースト電流IBX’が流れることで、ノードVLXの電位も、Vbst−ΔVBSTXに漸近する。
時刻t1’においてブースト信号VBSTXがLowレベルにプルダウンされると、X側電流ブースト回路8CのPMOSトランジスタMP1はターンオフされ、NMOSトランジスタMN3はターンオンされる。これによってノードVBXの電位は接地電位に戻り、従って、ブースト電流IBXの流れは停止する。以後、書き込み電流IWLとしては定電流ICXのみが流れる。既述のとおり、定電流ICXは、メモリセルの温度特性に対応した温度依存性を有する電流である。
本実施形態の磁気ランダムアクセスメモリの特徴は、キャパシタCBXの容量を低減できる点にある。第1乃至第4の実施形態の電流ブースト回路では、キャパシタCBXの一端の電位は接地電位に固定されており、キャパシタCBXに蓄積された電荷は、その一部しかブースト電流IBXの生成に利用されない。一方、本実施形態のX側電流ブースト回路8Cでは、キャパシタCBXの一端の電位を上昇させることができるため、キャパシタCBXに蓄積された電荷の多くをノードVCXに放出させることができる。従って、キャパシタCBXに必要な容量は小さい。
図37は、この効果を確認するために行われたシミュレーションの結果を示すグラフである。ある寄生容量を有すると仮定された磁気ランダムアクセスメモリにおいて、図10の電流ブースト回路が用いられた場合、キャパシタCBXの容量は30pF以上であることが必要である。一方、図37は、同じ磁気ランダムアクセスメモリにおいて本実施形態に係るX側電流ブースト回路8Cが使用された場合の、書き込み電流の波形を示すグラフである。本実施形態に係るX側電流ブースト回路8Cが使用される場合には、キャパシタCBXの容量は8pF以上で済む。言い換えれば、本実施形態では、電流ブーストに使用されるキャパシタCBXの占有面積を25%程度に低減することができる。これは、メモリセル占有率が高い磁気ランダムアクセスメモリを実現することを可能にする。
本実施形態においても、ブースト用電源電圧Vbstは、他の電源電圧Vddと独立に生成されることが好ましい。このような構成は、キャパシタCBXに蓄積される電荷量に対する、特に書き込み時に発生しうる電源電圧Vddの変動の影響を抑制するために好適である。この場合、ブースト用電源電圧Vbstが、温度に依存するように生成されることも可能である。この場合、温度の上昇と共に、ブースト用電源電圧Vbstは低下される。例えば、図16A乃至16Dに図示されているような温度に依存して電圧を生成する温度補償電圧生成回路により、温度に依存するようにブースト用電源電圧Vbstを生成することが可能である。
また、本実施形態において、ブースト用電源電圧Vbstが、電源電圧Vddに一致するように生成されることも可能である。これは、回路構成及びレイアウト構成を単純にし、回路面積及びピン数を減少させるために好適である。
第6の実施形態:
図38は、第6の実施形態の磁気ランダムアクセスメモリ1Eの書き込み回路の構成を示す回路図である。本実施形態では、X側電流ブースト回路が、容量素子に蓄積される電荷の量を動作温度に依存して制御する機能を有するように構成される。
より具体的には、本実施形態の磁気ランダムアクセスメモリ1Eは、X側定電流源回路7Aと、X側電流ブースト回路8DとPMOSトランジスタMP8を備えている。X側定電流源回路7Aは、ノードVCXと電源電圧Vddが供給されている電源端子25の間に接続されたPMOSトランジスタMP4を備えている。PMOSトランジスタMP4のゲートには、温度補償電圧生成回路13から制御電圧VPが供給される。制御電圧VPは、動作温度の上昇に応じて増加するように生成される。これにより、X側定電流源回路7Aが生成する定電流ICXは、動作温度の上昇とともに減少することになる。
X側電流ブースト回路8Dは、ブースト信号VBSTXの活性化に応答してノードVCXにブースト電流IBXを出力するように構成されている。具体的には、X側電流ブースト回路8Dは、PMOSトランジスタMP1、MP9と、トランスミッションゲートMC1と、インバータ21と、電源電圧Vddが供給されている電源端子23Aと、ブースト用電源電圧Vbstが供給されている電源端子23Bとを備えている。PMOSトランジスタMP1は、ノードVBXと電源端子23Aの間に接続されており、そのゲートには、インバータ21を介してブースト信号VBSTXが供給されている。ノードVBXは、トランスミッションゲートMC1を介して温度補償電圧生成回路13に接続されている。トランスミッションゲートMC1はブースト信号VBSTXに応じて制御され、ノードVBXには、ブースト信号VBSTXがLowレベルであるときに温度補償電圧生成回路13から制御電圧VPが供給される。ブースト信号VBSTXがHighレベルである場合には、ノードVBXは電源端子23Aに接続され、ノードVBXに電源電圧Vddが供給される。電源電圧Vddは、制御電圧VPよりも高い。PMOSトランジスタMP9は、そのソースが電源端子23Bに、ドレインがノードVCXに接続されている。PMOSトランジスタMP9のゲートはノードVBXに接続されている。ブースト電流IBXは、PMOSトランジスタMP9のソースからノードVCXに出力される。
本実施形態では、ブースト電流IBXを流すための電荷は、PMOSトランジスタMP9のゲート−ドレイン間の寄生容量CBXに蓄積される。注目すべきことは、寄生容量CBXに蓄積される電荷の量が温度依存性を持ち、これにより、ブースト電流IBXに温度依存性が与えられていることである。ブースト信号VBSTXがLowレベルであるときにはPMOSトランジスタMP9のゲートの電位はVPであるから、PMOSトランジスタMP9のゲート−ドレイン間にはVbst−VPに比例した電荷が蓄積される。即ち、PMOSトランジスタMP9のゲート−ドレイン間の寄生容量CBXに蓄積される電荷量QBXは、
QBX=CBX・(Vbst−VP),
で表される。制御電圧VPは動作温度の上昇と共に上昇するから、電荷量QBXは動作温度の上昇と共に減少することになる。ブースト電流IBXは、電荷量QBXが多いほど大きくなるから、結果として、ブースト電流IBXも動作温度の上昇と共に減少することになる。
PMOSトランジスタMP8は、実際にメモリアレイ2に供給される書き込み電流IWXの出力を許可し、又は、禁止する機能を有している。PMOSトランジスタMP8のゲートには、インバータ24を介してライトイネーブル信号WENXが供給されている。ライトイネーブル信号WENXが活性化されると、書き込み電流IWXのメモリアレイ2への出力が開始される。
ビット線に書き込み電流IWYを供給するY側定電流源回路、及びY側電流ブースト回路も同様に構成される。
図39は、本実施形態の磁気ランダムアクセスメモリ1Eの動作を示すタイミングチャートである。図39には、X側定電流源回路7Aと、X側電流ブースト回路8Dの動作のみが図示されているが、Y側定電流源回路、及びY側電流ブースト回路の動作も同様である。
ブーストスタンバイ時では、ブースト信号VBSTXがLowレベルに設定され、PMOSトランジスタMP9の寄生容量CBXに電荷QBX(=CBX・(Vbst−VP))が蓄積される。
時刻t1において書き込み動作が開始されると、ライトイネーブル信号WENXとブースト信号VBSTXがHighレベルにプルアップされると、PMOSトランジスタMP1がオンし、トランスミッションゲートMC1がオフする。その結果、ノードVBXの電位はVddに急速に立ち上がる。この結果、PMOSトランジスタMP9の寄生容量CBXに蓄積された電荷QBXは、カップリングによってノードVCXに流れ出し、ブースト電流IBXが生成される。このブースト電流により、ノードNLXの寄生容量CLXやメモリアレイ2の寄生容量が充電される。ノードVCXの電位とノードNLXの電位が等しくなると、ブースト電流IBXの流れが止まる。図39の下から2段目のグラフには、ブースト電流IBXの波形が図示されている。ブースト信号VBSTXがHighレベルに維持されている間、ノードVCXの電位はVbstからΔVBSTだけ低下する。一方、ノードNLXの電位は、接地電位からVbst−ΔVBSTまで上昇する。
X側電流ブースト回路8DのPMOSトランジスタMP9のサイズを適切に設計すれば、その寄生容量CBXの大きさは適切な値になり、実際にメモリアレイ2に流れる書き込み電流IWX(=ICB+IBX)を短時間で立ち上げることができる。これは、書き込み電流IWXの電流パルス幅を低減し、消費電力を低減することを可能にする。
加えて、ブースト電流IBXが温度依存性を有していることにより、書き込み電流IWXをメモリセルの温度特性に適合した理想的な温度依存性を有するように生成することができる。
本実施形態においても、ブースト用電源電圧Vbstが、温度に依存するように生成されることも可能である。この場合、温度の上昇と共に、ブースト用電源電圧Vbstは低下される。例えば、図16A乃至16Dに図示されているような温度に依存して電圧を生成する温度補償電圧生成回路により、温度に依存するようにブースト用電源電圧Vbstを生成することが可能である。
また、本実施形態において、ブースト用電源電圧Vbstが、電源電圧Vddに一致するように生成されることも可能である。これは、回路構成及びレイアウト構成を単純にし、回路面積及びピン数を減少させるために好適である。
本発明は、上記の各実施形態に限定されず、本発明の技術的思想の範囲において適宜に変更されうることは明らかである。例えば、電流ブースト回路は、レイアウト上、定電流源の近傍に配置されることが好ましいが、メモリアレイの近傍、メモリアレイ内に配置されることもあり得る。各回路ブロックの配置が、添付図面と異なることが、本発明の本質に影響しないことは、明らかである。