JP4828890B2 - 食肉タンパク質由来の抗疲労ペプチド - Google Patents

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Description

本発明は、抗疲労剤や抗疲労作用を有する機能性食品、より詳しくは、アクトミオシンをプロテアーゼで分解して得られる抗疲労活性を有するペプチドを含有する抗疲労剤や抗疲労作用を有する機能性食品等に関する。
現代社会において、過剰の仕事量、睡眠時間の短縮、取り巻く環境の変化に対するストレス等により、多くの人が疲れやすい、或いは疲れが回復しない等、疲労に関する悩みを抱えているのが現状である。疲労は、「過度の肉体的、精神的な活動により生じた独特の病的不快感と休養を求める欲求を伴う身体機能の減退状態」と定義されている。疲労には、中枢性疲労と末梢性疲労がある。中枢性疲労は、脳神経系の精神的な疲労で、主にストレスなどによって生じる。一方、末梢性疲労は、筋運動を行うことによって生じる疲労で、エネルギーの枯渇、疲労物質の蓄積、内部環境の失調が主原因と考えられている。
最近、疲労の原因として活性酸素の存在が注目され、重要な疲労物質として捉えられるようになり、運動時の活動筋組織への酸素流量の増加や筋肉の伸長性収縮に伴う過剰な炎症反応は、生体内における活性酸素の発生を促すといわれている。また、筋肉を構成する細胞の細胞膜は脂質に富んでいるため、過酸化脂質を生成しやすく、これが筋肉に損傷を与え、収縮機能不全につながり、このような活性酸素の生成・蓄積に伴う生体内における現象が、疲労感として意識されるものになるといわれている。
一般に、活性酸素による生体内における障害は、抗酸化物質により軽減・除去することが可能であり、食物中に含まれる抗酸化物質としてビタミンC、ビタミンE、β−カロテンなどがあり、これら抗酸化物質の摂取が疲労回復に効果があることを示唆するデータも示されているが、定説には至っていない。
一方、激しいスポーツや労働による肉体的消耗の回復や手術後の早期体力回復を図るために用いる、大豆タンパク等の蛋白をプロテアーゼで加水分解して得られる、ペプチド鎖長2〜10個のペプチド栄養剤や食品組成物(例えば、特許文献1、2参照)や、能動的な運動の場合における疲労回復のみならず、受動的な動揺(船舶、車両等にある時間のること)を受けた場合における疲労回復のために用いる、分離大豆タンパク、カゼイン、卵白アルブミン等をプロテアーゼで加水分解することにより得られる分子量700以上のペプチド含有量が20wt%以下、遊離アミノ酸含有量が5wt%以下のジペプチド及びトリペプチドを主成分とする平均分子量が200−550である低分子ペプチド組成物を含有する低分子ペプチド組成物を含有する疲労回復剤(例えば、特許文献3参照)が知られている。
また、牛肉(内臓を含む)を、微生物、動物及び植物由来の蛋白質分解酵素のうち1種類もしくは複数以上使用することにより、酵素処理して得る水溶性牛肉ペプチド混合物からなる体力増強・疲労回復剤(例えば、特許文献4参照)や、畜肉加工廃液及びその濃縮物である畜肉エキスを、酸性から中性領域で電気透析することにより水溶性ペプチド及び有効水溶性成分からなり、畜肉に含まれるL−カルニチン及びヒスチジン関連ジペプチド(カルノシン、アンセリン、バレニン)及びタウリンを含む体力増強・疲労回復用素材及びこれを用いた食品(例えば、特許文献5参照)や、イミダゾールジペプチド類(アンセリン、カルノシン及びバレニン)及び/又はその塩を有効成分として含有させることによる、運動能力の向上及び抗疲労効果を有する抗疲労組成物(例えば、特許文献6参照)や食肉製品に対して筋肉由来成分であるカルニチンとクレアチンを添加する抗疲労効果を有する食肉製品(例えば、特許文献7参照)が知られている。さらに、畜産物または畜産副産物を粉砕し、抽出し、分離してなるカルノシン等の抗酸化ペプチド、該抗酸化ペプチドを有効成分として含有する機能性食品または飲料(例えば、特許文献8参照)が知られている。
特開昭63−287462号公報 特開平6−14747号公報 特開平4−149138号公報 特許第3563892号 特開2001−46021号公報 特開2002−173442号公報 特開2003−135033号公報 特開2003−267992号公報
本発明の課題は、現代人の多くが悩まされている疲労に関わる問題の有効な解決手段を得ることにあり、具体的には、疲労予防や疲労回復に有効で、かつ安全な抗疲労剤や機能性食品を提供することにある。
従来より肉類が疲労回復に有効であること、牛肉(内蔵を含む)を蛋白質分解酵素で処理して得られる水溶性のペプチドを抗疲労剤として用いること、肉類に含まれるL−カルニチン及びヒスチジン関連ジペプチド(カルノシン、アンセリン、バレニン)及びタウリンを抗疲労剤として用いること等が知られていたが、本発明者らは、更に研究を進め、より有効に抗疲労剤として作用するペプチドについて鋭意検討した結果、動物の筋肉(骨格筋)に多く存在しているアクトミオシンの懸濁液をパパイン等のプロテアーゼで処理し、不溶物を除去したペプチド含有画分に高い抗疲労活性のあることを見い出し、高い抗疲労活性のあるペプチド含有画分から抗疲労活性ペプチドを精製・同定して、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、[1](1)Asp-Leu-Tyr-Ala(2)Ser-Leu-Tyr-Ala(3)Val-Trpのいずれかで表されるペプチド又はその塩を有効成分とする抗疲労剤に関する。
本発明によると、原料として容易に得られる食肉タンパク質であるアクトミオシンを用い、現代人の多くが悩まされている疲労の回復や予防に有効な抗疲労剤や機能性食品を提供することができる。
本発明の抗疲労剤としては、Asp-Leu-Tyr-Ala、Ser-Leu-Tyr-Ala、Val-Trpのいずれかで表されるペプチド又はその塩を有効成分とする抗疲労剤や、アクトミオシンの懸濁液をプロテアーゼで処理し、不溶物を除去したペプチド含有画分を有効成分とする抗疲労剤であれば特に限定されるものではなく、また、本発明の機能性食品としては、Asp-Leu-Tyr-Ala、Ser-Leu-Tyr-Ala、Val-Trpのいずれかで表されるペプチド又はその塩を含有し、抗疲労活性を有することがパッケージや説明書に表示されている食品(食品素材)や、アクトミオシンの懸濁液をプロテアーゼで処理し、不溶物を除去したペプチド含有画分を含有し、抗疲労活性を有することがパッケージや説明書に表示されている食品(食品素材)であれば特に限定されるものではない。上記アクトミオシンは、動物の筋肉(骨格筋)に多く存在しており、これを抽出して用いることができる。用いる骨格筋は、入手のしやすさから豚、牛、鶏等が適しているが、これらの畜種に限定されるものではない。また、筋肉の部位や状態は、アクトミオシンが調製できるものであれば、特に限定されるものではない。アクトミオシンの調製方法は、特定のものを採用する必要はなく、単にアクトミオシンを含む畜肉懸濁液であっても構わない。また、アクトミオシンの分解に用いるプロテアーゼも、特定のものに限定されるものではなく、アクトミオシンを適度に分解するものであれば、種類は問わない。
アクトミオシンのプロテアーゼ処理は、アクトミオシンの水懸濁液にプロテアーゼを添加して行うことができ、プロテアーゼとしては、パパイン、ペプシン、αーキモトリプシン、サーモリシン、プロテイネースK、プロナーゼE、フィチンなどを好適に例示することができるが、中でも、高い抗疲労活性ペプチド含有画分を得ることができるパパインを用いることが特に好ましい。
プロテアーゼを作用させる場合、温度、pH等を、それぞれのプロテアーゼの至適条件に設定すると、速やかに分解物を得ることができるが、プロテアーゼの添加量や反応時間によっても制御可能であるため、特定の条件に限定されるものではない。プロテアーゼによりアクトミオシンを分解した後に、溶液を90〜100℃に加熱して、プロテアーゼ活性を消失させることが好ましい。
アクトミオシンのパパイン分解物から、抗疲労効果を示すペプチドとして3種のペプチドを見出した。すなわち、Asp-Leu-Tyr-Ala、Ser-Leu-Tyr-Alaのアミノ酸配列を有する2種のテトラペプチドと、Val-Trpのアミノ酸配列を有する1種のジペプチドである。したがって、本発明の抗疲労剤や機能性食品として、Asp-Leu-Tyr-Ala、Ser-Leu-Tyr-Ala、Val-Trpのいずれかで表されるペプチドを1〜3種、好ましくは3種含むペプチド含有画分を有効成分とするアクトミオシンのパパイン分解物を用いることが好ましい。このように調製したアクトミオシンのプロテアーゼ分解物から不溶物を除去したペプチド含有画分に抗疲労効果を有するペプチドが存在し、その効果を大きく阻害する共存物はないので、そのままでも食品(食品素材)等に利用することができる。しかし、より有効性を高める必要がある場合は、抗疲労活性を有するペプチドの濃縮や精製を行うことが望ましく、例えば、凍結乾燥による濃縮や液体クロマトグラフィーにより分取する方法等を挙げることができる。
上記ペプチドAsp-Leu-Tyr-Ala、Ser-Leu-Tyr-Ala、又はVal-Trpは、アクトミオシンのパパイン分解物から後述の実施例に示すような操作により精製することも可能であるが、配列情報をもとに適当な化学合成法により得ることもできる。いずれの方法によって得たペプチドも同様の抗疲労効果を奏するものである。
以上に述べたAsp-Leu-Tyr-Ala、Ser-Leu-Tyr-Ala、Val-Trpのいずれかで表されるペプチド又はその塩を有効成分とする抗疲労剤は、通常、経口によりヒトに投与(摂取)される。抗疲労効果を示すのに必要な量は、ペプチド換算で、5〜50mg/kg/day程度である。また、アクトミオシンの懸濁液をプロテアーゼで処理し、不溶物を除去したペプチド含有画分を有効成分とする抗疲労剤も、通常、経口によりヒトに投与(摂取)される。抗疲労効果を示すのに必要な量は、ペプチド含有画分換算で、50〜500mg/kg/day程度である。本発明の抗酸化剤を経口投与(摂取)する場合、本発明の効果が損なわれない範囲で、賦形剤(ラクトース、スターチ等)や、結合剤(シロップ、ゼラチン等)や、添加剤(ビタミン類、ミネラル類等の栄養添加剤、甘味料、香料、色素等の呈味・矯臭剤・外観改善剤等)などを利用することができる。
以上に述べたAsp-Leu-Tyr-Ala、Ser-Leu-Tyr-Ala、Val-Trpのいずれかで表されるペプチド又はその塩を有効成分として含有する機能性食品が抗疲労効果を示すのに必要な摂取量は、ペプチド換算で、5〜50mg/kg/day程度である。また、アクトミオシンの懸濁液をプロテアーゼで処理し、不溶物を除去したペプチド含有画分を有効成分として含有する機能性食品が抗疲労効果を示すのに必要な摂取量は、ペプチド含有画分換算で、50〜500mg/kg/day程度である。上記有効成分となるペプチド又はその塩やペプチド含有画分を、適当な食品や食品素材等に添加・加工(混合、加熱等)することは、何ら不都合な問題を生じさせない。
このような食品や食品素材の種類としては特に制限されず、例えば、ヨーグルト、ドリンクヨーグルト、ジュース、牛乳、豆乳、酒類、コーヒー、紅茶、煎茶、ウーロン茶、スポーツ飲料等の各種飲料や、プリン、クッキー、パン、ケーキ、煎餅などの焼き菓子、羊羹などの和菓子、冷菓、ゼリー、チューインガム等のパン・菓子類や、うどん、そば等の麺類や、かまぼこ、ハム、魚肉ソーセージ等の魚肉練り製品や、みそ、しょう油、ドレッシング、マヨネーズ、甘味料等の調味類や、チーズ、バター等の乳製品や、豆腐、こんにゃく、その他佃煮、餃子、コロッケ、サラダ等の各種総菜や、蜂蜜、ローヤルゼリーなどを挙げることができる。
以下、本発明を実施例で説明する。以下の実施例は、本発明を説明するためにあげた例であり、これにより本発明を限定するものではない。
(アクトミオシン分解物の調製方法)
アクトミオシンは、豚骨格筋から調製した。すなわち、挽き肉にした豚骨格筋(大腿二頭筋)に緩衝液(0.6M KCl/0.04M NaHCO/0.01M NaCO)を加え、混合・遠心分離を繰り返した後、透析による脱塩と凍結乾燥により、アクトミオシン標品を得た。蒸留水10mlにアクトミオシン100mgを入れ、十分に懸濁させた。これに、7種類のプロテアーゼ(パパイン、ペプシン、α−キモトリプシン、サーモリシン、プロテイネースK、プロナーゼE、フィチン)のうちの1種を10mg添加し、37℃で3時間反応させた。反応終了後、95℃で10分間加熱し、プロテアーゼを失活させた。遠心分離により不溶物を除去した上澄液をアクトミオシン分解物溶液とした。
(抗酸化活性の測定方法)
抗酸化活性の測定は、スーパーオキシドイオンを化学発光法によって定量する方法を用いて行った。まず、測定試料(抗酸化物質あるいは対照の水)の存在下で、ヒポキサンチンにキサンチンオキシダーゼを反応させ、スーパーオキシドイオンを生成させた。生成したスーパーオキシドイオンに、発光試薬である2−メチル−6−p−メトキシフェニルエチニルイミダゾピラジノン(MPEC、アトー株式会社製)を反応させ、発光量をルミネッセンサーで測定した。以下の式により、抗酸化活性を算出した。
抗酸化活性(%)=(対照の測定値−試料の測定値)÷対照の測定値×100
(抗疲労効果の測定方法)
抗疲労効果は、試料(アクトミオシン分解物やペプチド等)を経口投与したマウスを強制走行させたときの走行時間の延長程度(水を経口投与した対照群と比較)により判定した。ICR系雄マウスを4週齡まで予備飼育し、4週齡から強制運動走行装置(トレッドミルMK-680S、室町機械株式会社製)に慣れさせるための予備走行を行い、抗疲労効果の判定には5〜6週齡のものを用いた。強制走行はトレッドミル走行面の傾斜を15度とし、ベルト速度を20m/minとして行った。
試料を投与する前のマウスをトレッドミルで4時間強制走行させ、ある程度の疲労状態にした後、ステンレス製胃ゾンデを用いて試料溶液を経口投与した。経口投与した試料容量は0.2mlとした。試料濃度は、アクトミオシンのパパイン分解物とカルノシン(抗酸化ペプチド:β−アラニル−L−ヒスチジン)は10mg/ml(マウス1匹当りの投与乾物重量:2mg)、合成ペプチド(Asp-Leu-Tyr-Ala、Ser-Leu-Tyr-Ala、Val-Trp)は5mg/ml(マウス1匹当りの投与乾物重量:1mg)とした。なお、市販滋養強壮剤(ユンケルスター、佐藤製薬株式会社)は原液のまま0.2ml投与した。また、対照群には水を0.2ml投与した。前述の4時間の強制走行を終えた15分後(試料の経口投与に要した時間を含む)に強制走行を再開し、マウスの走行時間を測定した。マウスが走行を止め、5秒間以上トレッドミル後部の電極に接触し続けた時点を走行終了とみなした。なお、電極は電圧100Vに設定し、マウスが疲労の限界まで走行し続けるようにした(マウスは電極への接触を嫌うため、疲労程度が限界に達するまで走行を続ける)。
(逆相高速液体クロマトグラフィー)
ペプチド精製のための逆相高速クロマトグラフィーは、2種の条件(条件1および条件2)により実施した。条件1では、カラムにCAPCELL PAK C18 UG-1204.6×150mmを用い、溶出液A(0.1%トリフルオロ酢酸を含む蒸留水)から溶出液B(0.1%トリフルオロ酢酸を含むアセトニトリル)への直線濃度勾配系で溶出を行った。流速1ml/minで、溶出時間10分目までは溶出液Aを流し、10分目から濃度勾配を開始し、溶出時間40分目でB液濃度が20%となるようにした。条件2では、カラムにCAPCELL PAK C18 UG-1202.1×150mmを用い、溶出液A(0.015%アンモニアを含む蒸留水)から溶出液B(0.015%アンモニアを含むアセトニトリル)への直線濃度勾配系で溶出を行った。流速0.2ml/minで、溶出開始と同時(0分目)に濃度勾配を開始して溶出時間8分目で溶出液Bの濃度が20%となるようにし、さらに溶出時間8分目から10分目にかけて溶出液Bの濃度が20%から100%になるように2段階目の濃度勾配をかけた。なお、いずれの条件の場合も、装置には、島津社製高速液体クロマトグラフLC−VPシステムを利用した。
(ペプチドの構造決定方法)
精製したペプチドのアミノ酸配列は、自動エドマン法(気相法)によるN末端アミノ酸分析により決定した。自動分析装置としてアプライドバイオシステムズ社製プロテインシークエンサーモデル470Aを使用した。また、ペプチドの分子量測定には、島津社製質量分析装置QP8000αを使用した。
(アクトミオシン分解物の抗酸化活性および抗疲労効果)
豚骨格筋アクトミオシンのプロテアーゼ分解物8種(反応液中の試料濃度:0.4mg/mL)、すなわち、パパイン分解物、ペプシン分解物、トリプシン分解物、αキモトリプシン分解物、サーモリシン分解物、プロティネースK分解物、プロナーゼE分解物、フィチン分解物及びカルノシンの抗酸化活性(スーパーオキシドイオン消去能)を測定した。図1に示した結果のように、いずれのプロテアーゼで調製した分解物及びカルノシンは抗酸化活性を示したが、パパイン分解物に最も強い活性が見られた。
最も強い抗酸化活性を示したアクトミオシンのパパイン分解物から不溶物を除去したペプチド含有画分をマウス(n=14〜17)に2mg/マウスの量で経口投与し、強制走行試験により抗疲労効果を検討した。図2に示した結果のように、アクトミオシンのパパイン分解物の経口投与は、マウスの走行時間を顕著に延長させた。この走行時間は水を投与した対照群の約3倍である。また、筋肉中の代表的な抗酸化物質であるカルノシン(抗酸化ペプチド)や市販の滋養強壮剤(ユンケルスター)と比べても、効果が強かったことより、抗疲労効果を有する素材として有望なものと見られた。
(抗酸化ペプチドの精製および構造決定)
豚骨格筋アクトミオシンのパパイン分解物から、抗酸化ペプチドの精製を4回の逆相高速液体クロマトグラフィー(1st、2nd、3rd、4th HPLC run)により行った。まず、アクトミオシンのパパイン分解物を条件1による分画に供し、5分間隔で溶出液を採取した。各画分の抗酸化活性(スーパーオキシドイオン消去能)を測定した結果、溶出時間25〜30分の画分に最も高い活性が認められた(1st HPLC run)。この画分を再度、同条件(条件1)の逆相高速液体クロマトグラフィーに供し、0.5分間隔で溶出液を採取した。各画分の抗酸化活性を測定した結果、溶出時間35.5〜36.0分の画分に最も高い活性が認められた(2nd HPLC run)。さらに、この画分を条件2の逆相高速液体クロマトグラフィーによる分画に供した(3rd HPLC run)。このとき得られたクロマトグラムを図3に示した。各ピークの部分の抗酸化活性を測定した結果、クロマトグラム上に矢印を付けた(1)、(2)、(3)のピーク部分の溶出液に高い活性が認められた。これらの3つのピークの画分をそれぞれ、再度、同条件(条件2)による逆相高速液体クロマトグラフィーに供し、単一のペプチドが含まれるように精製した(4th HPLC run)。
精製した3種のペプチドのアミノ酸配列をプロテインシークエンサーにより解析した結果、Asp-Leu-Tyr-Ala、Ser-Leu-Tyr-Ala、Val-Trpであった。これらの配列から算出した分子量(480.56、452.55、303.35)は、質量分析装置により測定した値(480.05、451.95、303.00)と一致した。以上の結果から、3種のペプチドの構造(アミノ酸配列)は、以下の通りであると決定した。
(1)Asp-Leu-Tyr-Ala
(2)Ser-Leu-Tyr-Ala
(3)Val-Trp
これら配列番号1で示されるAsp-Leu-Tyr-Ala、配列番号2で示されるSer-Leu-Tyr-Ala、Val-Trpの3種のペプチドのアミノ酸配列は、いずれも豚骨格筋のアクチン配列中に認められるものであり、アクトミオシンをパパインで分解した際に、アクチン部分から生成したものと考えられた。
(合成ペプチドの抗酸化活性および抗疲労効果)
アクトミオシンのパパイン分解物中より発見した3種の抗酸化ペプチド(Asp-Leu-Tyr-Ala、Ser-Leu-Tyr-Ala、Val-Trp)の配列をもとに、合成ペプチドを調製した。合成ペプチドの調製には、アプライドバイオシステムズ社製ペプチド合成装置モデル430Aを使用した。合成ペプチドは、逆相高速液体クロマトグラフィー(条件1)により、純度90%以上になるように精製した。3種の合成ペプチドは、反応液中のペプチド濃度が200μg/mLとなるように調製して抗酸化活性を測定した。その結果を図4に示した。図4より、3種の合成ペプチドは、いずれも抗酸化活性を有し、公知の抗酸化ペプチドの1つであるカルノシン(抗酸化ペプチド:β−アラニル−L−ヒスチジン)よりその活性は高いことが認められた。
3種の合成ペプチドをマウス(n=9〜10)に、1mg/マウスを経口投与し、抗疲労効果を検討した結果を図5に示した。3種のペプチドの投与は、いずれもマウスの走行時間を延長させた(Val-Trpは有意差なし)ことから、抗疲労効果を有することが確認された。抗酸化活性と抗疲労効果の間には関連が認められ、最も抗酸化活性の強かったペプチドAsp-Leu-Tyr-Alaは、抗疲労効果も最も強かった。このことは、抗疲労効果が、ペプチドの有する抗酸化作用によるものであることを強く示唆するものである。
豚骨格筋アクトミオシンを各種プロテアーゼで分解したもの(7種とカルノシン)の抗酸化活性(スーパーオキシドイオン消去能)を測定した結果を示したグラフである。 豚骨格筋アクトミオシンをパパインで分解したもの等をマウスに経口投与した際の抗疲労効果(走行時間の延長)を比較したグラフである。 豚骨格筋アクトミオシンのパパイン分解物を試料とする逆相高速液体クロマトグラフィーを行った際に得られたクロマトグラムを示す図である。 合成した3種の抗酸化ペプチドおよびカルノシンの抗酸化活性(スーパーオキシドイオン消去能)を測定した結果を示したグラフである。 合成した3種の抗酸化ペプチドと水をマウスに経口投与した際の抗疲労効果(走行時間の延長)を水と比較したグラフである。

Claims (1)

  1. 下記(1)〜(3)のいずれかで表されるペプチド又はその塩を有効成分とする抗疲労剤。
    (1)Asp-Leu-Tyr-Ala
    (2)Ser-Leu-Tyr-Ala
    (3)Val-Trp
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