JP4820956B2 - リンゴ酢由来抗腫瘍性多糖の製造方法、およびそれによって得られるリンゴ酢由来抗腫瘍性多糖 - Google Patents

リンゴ酢由来抗腫瘍性多糖の製造方法、およびそれによって得られるリンゴ酢由来抗腫瘍性多糖 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の目的】
この発明は、抗腫瘍性多糖に関するものであって、特に青森県特産のリンゴから醸造されたリンゴ酢を原料にして抽出、精製して得られるところの抗腫瘍活性を示す新規な構造からなるリンゴ酢由来抗腫瘍性多糖を提供しようとするものである。
【0002】
【従来の技術】
北米バーモント地方の人々が好んで飲用しているバーモント酢、即ち、ティースプーン1杯のリンゴ酢に同じく1杯の蜂蜜を加え、コップ一杯の水で薄めた飲み物は、バーモント地方の人々が長寿を保てる理由の一つと考えられていて、非常に健康に良いものといわれてきているが、その効果を示す生理活性物質の構造的知見ついて、これまでのところ開示されたという情報は全くなく、先の事実からして、全国一のリンゴ生産を誇る特異な地域柄から、その解明は極めて興味深いテーマの一つとなっていた。
【0003】
現代社会において長寿を全うできる条件としては様々な要因を考慮しなければならいが、その中でも、悪性腫瘍(癌)への罷病率の多寡は、長寿の条件を判断する上で重要な因子となり得ることが既に周知されている。
【0004】
一方、これまでにも、数多くの宿主仲介性の抗腫瘍性多糖が、穀類や果実等といった種々の材料から見い出されているのも事実であり、例えば、キノコ等から抽出されたβ−(1,3)(1,6)−グルカンは非常に有名であり、更に、各糖残基間のグルコシド結合がアルファ結合をとっている抗腫瘍性多糖のその他の例としは、例えば、昭和61年特許公開第18722号公報に掲載された発明に見られるように、米糠を原料としたアルファ−(1,6)−グルカンがあり、また、人参三七の根から得られるアルファ−(1,4)−グルカンは、平成1年特許公開第88688号公報の発明として掲載されており、また、平成6年特許公開第27929号公報には、貝類を原料としたグリコーゲン、アルファ−(1,4)(1,6)−グルカンが、分子量10万以上の抗腫瘍性多糖として掲載されている。
【0005】
これらのことを類推、勘案した結果、北米バーモント地方の人々の長寿の要因の一つと考えられているリンゴ酢が、何かある種の抗腫瘍性多糖を含んでいるのではないかとの予測をたて、この発明では、リンゴ酢から抗腫瘍性を有する新規な多糖成分を見い出すべく、逸早く、慎重な分析、検討を加えてきたところ、遂に、以下において詳述するとおりの新規な構造からなるりんご酢由来抗腫瘍性多糖と、それを抽出、精製するための新規な製造方法とを完成、実用化することに成功したものである。
【0006】
【発明の構成】
この発明のリンゴ酢由来抗腫瘍性多糖は、基本的に以下のとおりの構成を要件とするものである。
即ち アルファ−1,4−結合の主鎖にアルファ−1,6−結合の分岐構造を有するグルコースを主成分とし、分子量範囲が、デキストラン換算で7000以上17000以下、平均分子量略10000のリンゴ酢由来抗腫瘍性多糖である。
【0007】
上記のとおりの構造を基本とするこの発明のリンゴ酢由来抗腫瘍性多糖は、物性からその構成を示せば、 (a) 分子量範囲がデキストラン換算で7000以上17000以下であり、セファクリル S−300によるゲル濾過分析によって平均分子量10000に主ピークを有すること。 (b) グルコースを主成分とする多糖であること。 (c) 分子内にアルファ−1,4−結合およびアルファ−1,6−結合を有すること。以上のとおりの、少なくとも3要素を備えてなることを特徴を有するリンゴ酢由来抗腫瘍性多糖と言うことができる。
【0008】
更に具体的には、次のとおりの物性を特徴とするリンゴ酢由来抗腫瘍性多糖であるとしてその構成を示すことも可能である。
即ち、(a) 白色ないし淡褐色粉末で、水に溶けやすいこと。
(b) 分子量範囲が、デキストラン換算で7000以上17000以下であり、セファクリル S−300によるゲル濾過分析によって平均分子量10000に主ピークを有していること。 (c) グルコースを主成分とする多糖であること。
(d) プロトン−NMR(Nuclear Magnetic Resonance)スペクトルを示し、NMRによって糖のみからなるシグナルを示すこと。
(e) 透析膜を通過しないこと。 (f) フェノール硫酸反応で陽性、ヨード反応で陽性を示すこと。 (g) 水溶液中における紫外部吸収極大を示さないこと。 (h) 分子内にアルファ−1,4−結合およびアルファ−1,6−結合を有していること。の8要素を備えてなるリンゴ酢由来抗腫瘍性多糖である。
【0009】
【関連する発明】
この発明には、上記したリンゴ酢由来抗腫瘍性多糖に関連し、以下のとおりの構成からなるリンゴ酢由来抗腫瘍性多糖の製造方法を包含している。
先ず、リンゴ酢を減圧濃縮後あるいはそのまま蒸留水に対して透析(例えば、三光純薬株式会社、透析膜36/32、分子量12000〜14000等)を行い、透析内液を凍結乾燥する工程。
次いで、上記凍結乾燥物をセファクリル S−300ゲルによるゲルロ過クロマトグラフィーを行い、デキストラン換算で1000以上40000以下の画分を得た上、脱塩する工程。
その後において、弱陰イオン交換クロマトグラフィー、例えばDEAE セファロース ファースト フロー陰イオン交換ゲル(商品名、ファルマシア社製等)を充填したカラムクロマトグラフィーに付し、カラム担体容量の少なくとも2倍量の希薄な中性緩衝液で溶出脱塩後、凍結乾燥する工程。
以上の工程からなるリンゴ酢由来抗腫瘍性多糖の製造方法である。
【0010】
上記透析、ゲル濾過クロマトグラフィー、弱陰イオン交換クロマトグラフィー等においては、他のゲル濾過担体、イオン交換樹脂、限外濾過膜等を用いて行うことができる。
【0011】
この発明の方法によって抽出分離精製された抗腫瘍性多糖の性質は、化学分析結果から、次のとおりである。
「平均分子量」
図2のセファクリル S−200ゲル(商品名、ファルマシア社製)濾過クロマトグラフィーによる流出パターンから、標準資料の流出液量に対するそれら分子量の片対数プロットに抗腫瘍性多糖の流出液量を外挿することにより、分子量を推定したところ、リンゴ酢由来抗腫瘍性多糖の平均分子量10000であることが判明した。
【0012】
「プロトンNMR」
この化学分析は、乾燥資料2ミリグラムを99.8%D2Oに溶解し、12時間室温で振盪し、重水置換を行い、凍結乾燥した。同様の操作を99.8%D2Oおよび99.95%D2Oにて行い、次に99.95%D2Oに溶解し、70°CでNMRを測定した。NMRの測定には、270−MHZ1H−NMR(JNM EX−270、日本電子製)を使用した。
その結果が、図1のとおりであって、5.373ppmにα−1,4結合に由来するシグナル、4.963ppmにα−1,4,6結合に由来するシグナルを示し、3.4−4.4ppmに多糖由来と思われるシグナルが捕らえられ、糖のみからなるシグナルを示す。
【0013】
「化学成分分析値」
糖の組織組成が、次の分析法によってグルコースのみからなることが判明する。
即ち、2規定塩酸で2時間加水分解したものをサンプルとし、ピリジルアミノ化装置(宝酒造株式会社 PALSTATION model 4000)でピリジルアミノ化したものを PALPAK TypeAカラム(4.6×150mm)を用い、溶媒は、0.7M カリウム−ホウ酸 緩衝液(pH9.0)/アセトニトリル(90/10,v/v)、流速は、0.3ミリリットル/分、カラム温度は65℃、検出は蛍光検出器を用い励起波長310nm測定波長380nmで、HPLC(High peformace Liquid Chromatography)による糖組成分析した結果、図3のリンゴ酢由来抗腫瘍性多糖のピリジルアミノ化法による糖組成分析による分離パターンが示しているように、リンゴ酢由来抗腫瘍性多糖は、キシロース、グルコース、マンノースおよびガラクトースからなる多糖であり、その殆どがグルコース(97%)からなる多糖であることが明らかにされた。
以下では、この発明における抗腫瘍性多糖の製造法、および、有効画分の投与法の例を、更に詳しく説明することにする。
【0014】
【実施例1】
この実施例は、リンゴ酢からの抗腫瘍性多糖の抽出方法の一事例を示すものであり、リンゴ酢500ミリリットルを100ミリリットルに減圧濃縮後、蒸留水70ミリリットルを加えて全量170ミリリットルにした後、再び減圧濃縮し、凡そ全量100ミリリットルにしたものを、蒸留水に対して透析した。
透析内液(粗抗腫瘍性多糖)は、凍結乾燥後、冷蔵保存した。なお、透析内液の乾燥重量は、りんご酢乾燥重量の約7%であった。
【0015】
【実施例2】
次に、分離、精製例を示すと、粗抗腫瘍性多糖20ミリグラムを0.1モル塩化ナトリウム水溶液に溶解し、セファクリル S−300ゲル(商品名、ファルマシア社製)、カラム(2.3×118cm)により、溶出液として0.1モルNaClを用い、流速は、0.5ミリリットル/分で精製した。
各フラクション(5ミリリットル)をフェノール硫酸法で中性糖を測定し、流出パターンを図4に示してある。F1、F2およびF3の三つの画分に分け、脱塩後,凍結乾燥した。
収量は、F1が1.6ミリグラム(12.8%)、F2が3.8ミリグラム(30.4%),およびF3が7.0ミリグラム(56.8%)であった。
【0016】
更に、このF3を、DEAE セファロース ファースト フロー陰イオン交換ゲル(商品名、ファルマシア社製)を用いた弱陰イオン交換クロマトグラフィーによって分画精製した。
溶出緩衝液には20ミリモル/リットル トリス−塩酸緩衝液(pH7.2)を用い、分離した(図3を参照)。
フェノール硫酸法で中性糖を測定し、3つの画分(a・b・c)に分け、透析後、凍結乾燥した。
収量は、aが3.6ミリグラム(56%)
、bが1.7ミリグラム(25%)、およびc1.2ミリグラム(19%)であった。図中、aがりんご酢由来抗腫瘍性多糖である。
【0017】
【実施例3】
抗腫瘍実験例は、次のとおりである。
6週令メス、平均体重20グラムのBALB/C−CRJマウスに1週間、同系のマウスの腹腔内で継代した癌細胞Meth−Aを、マウス1匹当たり1×10(5乗)個を腹腔内に移植し、対照群5匹(1群)と試験群(1群)の計2群に分けた。
【0018】
癌細胞を移植した2日目、4日目、6日目に、試験群には、0.625ミリグラムの抗腫瘍性多糖を0.2ミリリットルの生理食塩水に溶解し、腹腔内に投与した。対照群には、同様にして生理食塩水のみを投与した。以後、生存日数を60日まで観察し、延命効果を次式によって算出した。
延命率(%)=(試験群の平均生存日数群)/(対照群の平均生存日数)×100
上記方法によって検定したリンゴ酢由来粗抗腫瘍性多糖の抗腫瘍効果は、下表のとおりであった。
【0019】
【表1】
Figure 0004820956
【0020】
【実施例4】
続いて、第2の抗腫瘍実験例を示すと、次のとおりである。
6週令メス、平均体重20グラムのBALB/C−CRJマウスに1週間、同系のマウスの腹腔内で継代した癌細胞Meth−Aを、マウス1匹当たり1×10(5乗)個を腹腔内に移植し、対照群5匹(1群)と試験群(1群)の計2群に分けた。
【0021】
癌細胞を移植した2日目、4日目、6日目に、試験群には、0.2ミリグラムの抗腫瘍性多糖を0.2ミリリットルの生理食塩水に溶解し、腹腔内に投与した。対照群には、同様にして生理食塩水のみを投与した。以後、生存日数を60日まで観察し、延命効果を次式によって算出した。
延命率(%)=(試験群の平均生存日数群)/(対照群の平均生存日数)×100
上記方法によって検定したリンゴ酢由来抗腫瘍性多糖の抗腫瘍効果を示すと、下表のとおりでる。
【0022】
【表2】
Figure 0004820956
【0023】
【作用効果】
リンゴ酢由来抗腫瘍性多糖を用いた腫瘍に対する治療法としては、リンゴ酢由来抗腫瘍性多糖を生理食塩水、あるいは各種塩溶液に溶解の後、病巣部に直接注射による投与、静脈投与等が可能である。また、本来生体内に存在する物質と似ているため、毒性は無く、したがって、その病状により、その投与量を広い範囲でコントロールし得る。
【0024】
この発明において、その抗腫瘍活性を以下の方法によって確認することができる。
即ち、マウスの腹腔内に腫瘍細胞を移植し、このマウスにリンゴ酢由来抗腫瘍性多糖を生理食塩水に溶解させ、投与することによって腫瘍を治癒することができた。この実験において、治癒されたマウスに副作用は観察されなかったことにから、急性毒性はないものと考えられ、腫瘍に対し大変有望な物質であることを確認することができた。
【0025】
このような特徴を有する抗腫瘍性多糖としては、キノコ等から抽出されたβ−(1,3)(1,6)−グルカンが有名であるが、この発明におけるリンゴ酢由来抗腫瘍性多糖は、各糖鎖残基間のグリコシド結合が逆のアルファ結合をとっており、物質的に全く異なるものである。また、抗腫瘍性活性を示す多糖には、この他にも幾つか存在することが報告されており、これら多糖のアルファ−グルカンで抗腫瘍性のあるものも知られているが、それらはアルファ−1,4−結合のみからなるもの(人参三七の根から得られる多糖等)、あるいはアルファ−1,6−結合のみからなるもの(米糠を原料とした多糖等)であって、この発明のリンゴ酢由来抗腫瘍性多糖とは、その構造および分子量が大きく異なる。
【0026】
また、アルファ−1,4−結合とアルファ−1,6−結合とを持つグリコーゲン(貝類を原料としたグリコーゲン等)も知られているが、この発明のリンゴ酢由来抗腫瘍性多糖の分子量が2万以下であるのに対し、それら公知のものは、分子量10万以上であって全く別の物質である。
【0027】
叙述の如く、この発明は、通常食されているリンゴ酢から抗腫瘍多糖を抽出し、且つその得られた抗腫瘍多糖の抗腫瘍活性に関する開発、研究を継続し、幾多の試行錯誤を重ねてきた結果、遂にこの発明のリンゴ酢由来抗腫瘍多糖には、強い抗腫瘍性があることを確認することに成功し得たものであり、この固有の特徴は、この発明のリンゴ酢由来抗腫瘍多糖に細胞毒性が見られないことにより、免疫機構、つまり、生体の本来持つべき自己防御機構を活性化して腫瘍細胞に対する抵抗性を高め、その結果、腫瘍細胞の増殖を抑制するのではないかと考えられるものであり、この有効な特徴により、この地域の特産となっているリンゴが、大いにその付加価値を高めた活用を可能として地域産業の発展に寄与できると共に、何よりも人類医学の面で高い評価が得られるものと予想される。
【図面の簡単な説明】
【図1】リンゴ酢由来抗腫瘍多糖のプロトン−NMRスペクトルである。
【図2】粗抗腫瘍多糖のセファクリル S−300 ゲルによるゲル濾過クロマトグラフィー分離パターンである。
【図3】リンゴ酢由来抗腫瘍性多糖のピリジルアミノ化法による糖組成分析による分離パターンである。
【図4】リンゴ酢由来抗腫瘍多糖のセファクリル S−200 ゲルによるゲル濾過クロマトグラフィー分離パターンである。
【図5】ゲル濾過クロマトグラフィーF3画分のDEAE セファロース ファースト フロー 弱陰イオン交換樹脂によるイオン交換クロマトグラフィー分離パターンである。

Claims (4)

  1. リンゴ酢を減圧濃縮後あるいはそのまま蒸留水に対して透析(透析膜36/32、分子量12000〜14000)を行い、透析内液を凍結乾燥する工程、 上記凍結乾燥物をセファクリル S−300ゲルによるゲルロ過クロマトグラフィーを行い、デキストラン換算で1000以上40000以下の画分を得て脱塩する工程、 および、その後、弱陰イオン交換クロマトグラフィー、例えばDEAE セファロース ファースト フロー陰イオン交換ゲルを充填したカラムクロマトグラフィーに付し、カラム担体容量の少なくとも2倍量の希薄な中性緩衝液で溶出、脱塩した後、凍結乾燥する工程、からなるリンゴ酢由来抗腫瘍性多糖の製造方法
  2. アルファ−1,4−結合の主鎖にアルファ−1,6−結合の分岐構造を有するグルコースを主成分とし、分子量範囲が、デキストラン換算で7000以上17000以下、平均分子量略10000の、請求項1記載の製造方法によって得られるリンゴ酢由来抗腫瘍性多糖。
  3. 以下の物性を有することを特徴とする、請求項1記載の製造方法によって得られるリンゴ酢由来抗腫瘍性多糖。
    (a) 分子量範囲がデキストラン換算で7000以上17000以下であり、セファクリル S−300によるゲル濾過分析によって平均分子量10000に主ピークを有すること。
    (b) グルコースを主成分とする多糖であること。
    (c) 分子内にアルファ−1,4−結合およびアルファ−1,6−結合を有すること。
  4. 以下の物性を有することを特徴とする、請求項1記載の製造方法によって得られるリンゴ酢由来抗腫瘍性多糖。
    (a) 白色ないし淡褐色粉末で、水に溶けやすいこと。
    (b) 分子量範囲がデキストラン換算で7000以上17000以下であり、セファクリル S−300によるゲル濾過分析によって平均分子量10000に主ピークを有すること。
    (c) グルコースを主成分とする多糖であること。
    (d) プロトン−Nuclear Magnetic Resonance(NMR)スペクトルを示し、NMRによって糖のみからなるシグナルを示すこと。
    (e) 透析膜を通過しないこと。
    (f) フェノール硫酸反応およびヨード反応で、夫々陽性を示すこと。
    (g) 水溶液中における紫外部吸収極大を示さないこと。
    (h) 分子内にアルファ−1,4−結合およびアルファ−1,6−結合を有すること。
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