JP4818981B2 - 細胞の迅速識別方法及び識別装置 - Google Patents

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本発明は、細胞から漏出させたバイオマーカータンパク質を質量分析して細胞の迅速な識別を行う方法並びに識別装置に関する。
細胞を分類・同定する手法としては培養法に形態的特徴と生化学的性状試験を組み合わせた方法が従来から用いられてきた。その後、1980年代から始まった遺伝学的な分類方法が、従来の分類法を修正しつつスタンダードな方法に取って代わった。現在の分類学では、これら手法をはじめとした様々な方法から可能な限り多くのデータを収集し、多面的な方向からデータを総合的に判断する多相分類学(polyphasic taxonomy)の概念が取り入れられている。
細胞の検出同定については、分離された細胞株が特定の細胞種に近いが生化学的性状が少し違ったり、DNAプローブで同定したが生化学的性状が一致しなかったり、等様々な問題に直面する。例えば、細菌の菌種Speciesの遺伝学的な定義は「種speciesは遺伝学的に70%以上のDNAの類似度を持つ菌株の集団」として定義されている(非特許文献1)。実際にはゲノム配列を菌株毎に測定することは実用的ではないため、DNA/DNAハイブリット法(非特許文献2)を使用する。未知の菌株のハイブリッド形成率が基準株type strainを100%としたとき、70%以上の相対的な結合率を示し、かつΔTm値が5℃以下であるとき、その株は基準株と同じ菌種であると判断できる。
一方、1980年代の半ばから16S ribosomal RNA(真核生物では18S rRNAとなる)のデータの蓄積が始まり、既知細菌のほぼすべてのデータが蓄積されている。同遺伝子は全生物が共通して持っていること及びその進化速度が比較的鈍く系統のかけ離れた生物間での比較も容易にできることから、被検菌の系統位置を多様な細菌の中から推定するには都合が良い。しかし逆に進化速度が鈍いため非常に近縁な菌種間での比較は難しい事も判っている。現在の細菌の分類体系は16S rRNAのデータを中心に蓄積されたデータをもとに整理されている。したがって、新しく分離された菌株が系統的にどこに所属するかを迅速に調べるために、細菌の16S rDNA(同遺伝子はDNA からRNA に全領域が転写されるためDNA上のコード遺伝子を使う)を決定し、比較的短時間に系統的な位置が推測できる。蓄積されたデータから現在、「16S rDNA配列の相同性が3%以下→DNA/DNA相同性が30%以上」のような考え方で菌種の同定が行われている。16S rDNAの塩基配列を測定し、既存の菌種のどの配列に最も近いかをインターネット上で解析プログラムを使用することで候補菌種のリストから菌株が所属する属が決定できる。属が決定されればその属の全菌種の16S rDNAのデータセットとprogramを使用し多重アラインメントを行い、最も近い菌種とのシークエンスの類似度を計算する。現在、シークエンスの値が3%以上既存の菌種と異なっておればその株は分類学的には新しい菌種と判断しても差し支えないとされている(非特許文献3)。最近、16S rDNA配列を使ったPCR 法やDNAプローブ法が菌種の検出や同定に使用されるようになった。しかし16S rDNAだけを標的に検出同定系を作成するのは、誤った判定結果に陥る場合があることも知られている。
タンパク質をコードする遺伝子群は、リボソームRNA遺伝子よりも進化速度が速いことに注目して、DNAジャイレースのβサブユニットをコードするgyrB遺伝子により菌種の同定・分類を行う方法が提案されている(例えば、特許文献1および2、非特許文献4参照)。これは、16S rDNAでは類似度が高いために識別困難な微生物を分子系統解析により分類するための方法として有用である。
DNAプローブやRFLP(restriction fragment length polymorphism)は時に分類学的検討用のデータとして使われることもあるが、同定の目的に使われることが多い。また血清型、ファージ型、AP-PCR(arbitrarily primed PCR)、パルスフィールド電気泳動、Ribotypingはいずれも株の識別によく使われる方法である。
上記のDNAを用いる方法は、試料前処理や塩基配列の解読あるいはDNA断片の電気泳動等の解析に数時間から数日の解析時間を要するため、簡便性及び迅速性に実用上の大きな課題がある。特に、食中毒の原因細菌の判定と原因解明、食品や飲料水などの汚染細菌の判定、院内感染症の原因細菌の判定と感染経路の把握などでは、一刻も早く正確な細胞識別・同定が要求される。また、土壌や水中に存在する有用あるいは有害微生物をスクリーニングして微生物相を把握することによって、土壌浄化や水質浄化などを行う用途では、多検体の細胞試料を取り扱うことになるため、迅速かつ簡便な細胞の同定・識別が求められている。これらの要求に対して、DNAを用いる各種方法はいずれも迅速性の点において不十分である。
迅速な細胞識別を行う手法として、細胞中に含まれる化学成分を各種クロマトグラフィーや質量分析などの手法により分析する手法の開発も行われてきた。細胞を構成する化学成分の種類や組成に基づいて細胞を識別する手法を、化学分類法(Chemotaxonomy)という。例えば、微生物細胞を構成する脂肪酸を処理してガスクロマトグラフ(GC)分析する方法は、分析キット及びデータベースが提供されている。しかし、脂肪酸等をGC測定するには溶媒抽出及び誘導体化が必要であるため、迅速性は不十分である。前処理工程がほとんど不要である熱分解質量分析(Py-MS)あるいは熱分解GC(Py-GC)等の手法も開発されている(例えば、非特許文献5参照)。しかし、これら熱分解を試料処理に利用する方法は、装置及び測定条件の違いによって被検試料の分解挙動が大きく異なるため、正確な解析には適していない。
近年、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)を代表とするソフトイオン化法を用いた質量分析装置で、目的の微生物細胞を構成する化学成分を分解せずにイオン化し、観察される質量ピークのパターンを用いる方法が活発に研究され始めている。MALDI法は、数分から数十分以内での迅速な測定が可能であり、多検体試料の連続測定が可能であることから、被検試料の数が増加するにつれ、DNAを用いる手法や他の手法に対する迅速性の優位さは歴然とする。更に、数Da以内の高い精度で分子量解析を行うことができるため、サイズ排除クロマトグラフや電気泳動などの手法では解析できない、数アミノ酸残基の違いによるタンパク質の分子量の違いを識別することができる。
MALDI法等のソフトイオン化質量分析法でバイオマーカーとして用いられる成分は、脂質、糖質、タンパク質、核酸などが挙げられるが、特にタンパク質をバイオマーカーとする微生物細胞の識別・同定法が主流である。マススペクトルのピークパターンを統計学的に処理して、基準細胞のスペクトルとの類似性を評価する指紋判定法が用いられている(例えば、特許文献3、非特許文献6〜10参照)。しかし、観測されるタンパク質の種類が不明であり、マススペクトルのピークパターンは培養条件や測定条件等の影響を大きく受けるため信頼性が低く、実質的には、同一条件下で測定した基準細胞との異同を判定する程度の解析しかできない。
最近、様々な生物種の全ゲノム解読が進むにつれ、ゲノム情報を翻訳して推定されるタンパク質の計算分子量が、生物種ごとにタンパク質データベースに蓄積されるようになって来た。タンパク質データベースとしては、国立遺伝学研究所が提供する日本DNAデータバンク(DDNA)、米国の国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)が提供するGenBank、ないしは欧州分子生物学研究所が提供する(EMBL)のDNAデータベースなどを翻訳して作成された、NCBInr、SwissProt、TrMBL等が挙げられ、これらの登録情報はインターネットで入手することができる。マススペクトル上のピーク質量に一致するタンパク質を検索すれば、そのタンパク質をもつ生物種を推定することが、理論的には可能である。そのため、種々のアルゴリズムを取り入れたデータベース検索法が提案されている(例えば、特許文献4及び5参照)。
しかし、このような検索法によれば、入力するピーク質量は何れのタンパク質のものであってもよく、また、同定対象の生物種において検出されたピーク質量のみを入力するので、例えば、上記同定対象の生物種において検出されなかったピーク質量に対応するタンパク質が、仮にタンパク質データーベース上の生物種において産生されるものであっても、この不一致は無視されて、近縁であるとの検索結果となってしまい、問題を生じる。
さらに、上記タンパク質データベースに収録されている分子量データは、あくまでも遺伝子配列を翻訳して求められた分子量(計算分子量という)であり、実際に発現したタンパク質の分子量(発現分子量という)ではないことにも注意する必要がある。遺伝子の塩基配列は約0.1%程度の解読誤りを含んでいると言われており、遺伝子領域の同定(アノテーション)の誤りも指摘されている。これらの結果として、誤ったタンパク質の分子量情報が登録されることになる。更に、多くのタンパク質では、遺伝子情報をアミノ酸配列に翻訳しただけではなく、翻訳後修飾によってアミノ酸配列の部分的な切断や化学修飾を受けており、その代表例はN-開始末端のメチオニン残基の切断である。以上のように、誤った分子量情報の登録および翻訳後修飾のために、タンパク質の計算分子量と発現分子量は異なる場合が多いのが実情である。すなわち、タンパク質データベースに収録されている計算分子量を、マススペクトル上のピーク質量と比較するだけでは、信頼性の高い細胞識別を行うことはできない。
しかも、細胞には、発現量が多いものだけでも数百種以上のタンパク質が存在しているが、細胞からタンパク質を漏出させる条件の違いによって、検出されるタンパク質の種類が異なることは十分に予想できる。従って、データベースの計算分子量と一致するピーク質量が観測されたとしても、実際にそのタンパク質が検出されたことが保証されないために、常に偶然の一致による可能性を考慮しなければならず、現状技術では信頼性の高い細胞識別方法であるとは言いがたい。
しかも、上記の方法で解析される細胞の種類は、生物学的な分類の階層では「種」レベルに留まっており、その下位階層の「株」レベルでの識別は上述の先行技術(特許文献3及び4)では想定されておらず、想定されていたとしてもその解析は困難である。例えば大腸菌(Escherichia coli)のO-157株は病原性を有する一方でK-12株は無害であるように、あるいは発酵産業などで用いられる乳酸菌等は株によって機能が大きく異なるように、細胞を株レベルで細胞を識別することは極めて重要である。
特開平7-213299公報 特開平11-169175公報 特開2001−502164号公報 特開2003−530858号公開 特開2004−536295号公報 L. G. Wayne LG, D. J. Brenner, R. R. Colwell, P. A. D. Grimont, O.Kandler, M. I. Krichevsky, Int J Syst Bacteriol. 37, (1987) 463-464. D. J. Brenner, G. R. Fanning, A. V. Rake, K. E. Johnson, Anal. Chem. 28,(1969) 447-459. E. Stackebrandt, B. M. Goebel, Int. J. Syst. Bacteriol. 44, (1994) 846-849. 山本 敏, 原山重明, 「gyrB遺伝子塩基配列を用いた細菌の分子系統解析」 化学と生物 第34巻 第3号 (1996) 149-151. J. P. Anhalt, C. Fenselau, Anal. Chem. 47, (1975) 219-225. M. A. Claydon, S. N. Davey, V. Edwards-Jones, D. B. Gordon, Nat.Biotechnol. 14, (1996) 1584-1586. R. D. Holland, J. G. Wilkes, F. Rafii, J. B. Sutherland, C. C. Persons, K. J.Voorhees, J. O. Lay Jr., Rapid Commun. Mass Spectrom. 10, (1996) 1227-1232. J. O. Lay Jr., Trend. Anal. Chem. 19, (2000) 507-516. C. Fenselau, P. A. Demirev, Rev. 20, (2001) 157-171. J. O. Lay Jr., Mass Spectrom. Rev. 20, (2001) 172-194. 孫麗偉、寺本華奈江、鳥村政基、佐藤浩昭、田尾博明、日本分析化学会第54年会講演要旨集、pp.423、発表番号Y1077、(2005). 寺本華奈江、孫麗偉、鳥村政基、佐藤浩昭、田尾博明、日本分析化学会第54年会講演要旨集、pp.423、発表番号Y1078、(2005)
本発明の課題は、バイオマーカーとして用いるタンパク質成分を確実に質量分析によって検出し、そのピーク質量を、発現タンパク質の分子量情報に基づくデータベースと比較することによって、信頼性の高い迅速な細胞識別方法と装置を提供することである。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねる中で、簡便な前処理よって細胞内部からリボソームサブユニットタンパク質を漏出させることができ、その集合体あるいは一部をソフトイオン化質量分析すれば、リボソームサブユニットタンパク質群及び関連するタンパク質群(以下、バイオマーカータンパク質という)をマススペクトル上で確実に検出できることを見出した(非特許文献11)。そして、先行技術(特許文献4)に記載されている、公知のタンパク質データベースに登録されている計算分子量情報を照合する方法を用いて、数種類の微生物の同定を試みた(非特許文献12)。確かに、該先行技術を用いれば、微生物の種類を同定することは可能であったが、該先行技術の方法は計算分子量を収録したデータベースを用いるため、計算分子量と発現分子量が異なるタンパク質が多い現実を鑑みると、信頼性の高い細胞識別を行うことが困難であることの認識を得た。しかも、該先行技術の方法は、分類学的な階層である「種」レベルでの同定に留まり、その下位階層である「株」レベルでの識別には全く適さないことも強く認識した。
このことを踏まえ、本発明者らは更に信頼性の高い細胞識別方法及び識別装置を開発すべく鋭意研究を進めた結果、バイオマーカータンパク質として、リボソームサブユニットタンパク質群中の複数のタンパク質、あるいはさらに該タンパク質に関連するタンパク質群を含めたタンパク質群中の1以上のタンパク質を選定するとともに、簡便な前処理よって細胞内部から漏出させた上記バイオマーカータンパク質をソフトイオン化して解析される分子量乃至イオン質量と、公知のタンパク質データベースに登録されている計算分子量情報を基にして発現分子量情報に修正するか、あるいは該バイオマーカータンパク質を質量分析して作成した発現タンパク質の分子量乃至イオン質量を収録したデータベースとを比較して、それらの一致性を指標とすれば、細胞の識別を「種」レベルのみならず「株」レベルまで迅速かつ正確に行うことが可能になることを見出し、それが未知細胞の迅速な分類・同定にも寄与できることを見出した。
すなわち、本発明は以下の(1)〜(16)に示すとおりである。
(1)細胞の種類を識別する方法において、細胞内部からバイオマーカーとして用いるバイオマーカータンパク質を漏出させる工程を行い、次に複数種類のタンパク質から構成されるバイオマーカータンパク質を質量分析する工程を行い、次に各タンパク質のイオン質量乃至分子量を特定する工程を行い、次に特定した複数のバイオマーカータンパク質のイオン質量乃至分子量と、複数種類のバイオマーカータンパク質のイオン質量乃至分子量を登録したデータベースと比較するデータ処理の工程を行うことにより、質量分析による測定結果とデータベースとの一致性を指標として細胞の種類を識別することを特徴とする細胞識別方法。
(2)上記細胞内部からバイオマーカータンパク質を漏出させる工程が、細胞内部からリボソームサブユニットタンパク質を漏出させることを目的として行われる、薬品との混和乃至物理的破砕を用いることを特徴とする上記(1)に記載の細胞識別方法。
(3)上記細胞内部からバイオマーカータンパク質を漏出させる工程において、さらに超遠心分離、クロマトグラフ分離、分離膜分離、抗体利用分離、乃至これらを組み合わせる方法を用いてバイオマーカータンパク質の精製を行う工程を行うことを特徴とする上記(1)乃至(2)に記載の細胞識別方法。
(4)上記バイオマーカータンパク質が、細胞内部からリボソームサブユニットタンパク質を漏出させることを目的として行われる工程によって漏出するリボソームサブユニットタンパク質群ならびにそれに関連するタンパク質群から構成されることを特徴とする上記(1)に記載の細胞識別方法。
(5)上記複数種類のタンパク質から構成されるバイオマーカータンパク質を質量分析する工程が、バイオマーカータンパク質の分子量を反映した分子量関連イオンを生成する質量分析法及び装置を用いて行われることを特徴とする上記(1)に記載の細胞識別方法。
(6)上記複数種類のタンパク質から構成されるバイオマーカータンパク質を質量分析する工程が、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法及び装置を用いることを特徴とする上記(1)乃至(5)に記載の細胞識別方法。
(7)上記複数種類のバイオマーカータンパク質のイオン質量あるいは分子量を登録したデータベースが、遺伝子配列をアミノ酸配列に翻訳して求めた計算分子量、乃至その計算分子量をN-末端開始メチオニン残基の切断、翻訳後修飾、乃至生物情報工学的な相同性解析に基づいて行われるアミノ酸配列の修正を加味して補正した計算分子量、あるいはそれらの計算分子量から求められる分子量関連イオンのイオン質量を登録して作成されるデータベースを用いること特徴とする上記(1)に記載の細胞識別方法。
(8)上記複数種類のバイオマーカータンパク質のイオン質量あるいは分子量を登録したデータベースが、バイオマーカータンパク質の分子量関連イオンを質量分析して求めたイオン質量あるいは発現分子量を登録して作成されるデータベースを用いること特徴とする上記(1)に記載の細胞識別方法。
(9)細胞の種類を識別する方法において、細胞内部からバイオマーカータンパク質を漏出させる工程を行い、次に複数種類のタンパク質から構成されるバイオマーカータンパク質を質量分析する工程を行い、次に各バイオマーカータンパク質のイオン質量乃至分子量を特定する工程を行い、次に特定した複数のバイオマーカータンパク質のイオン質量乃至分子量と、複数種類のバイオマーカータンパク質のイオン質量乃至分子量を登録したデータベースと比較するデータ処理の工程を行うことにより、質量分析による測定結果とデータベースとの一致性を指標として細胞の種類を識別することを特徴とする細胞識別装置。
(10)上記細胞内部からバイオマーカータンパク質を漏出させる工程が、細胞内部からリボソームサブユニットタンパク質を漏出させることを目的として行われる、薬品との混和乃至物理的破砕を用いることを特徴とする上記(9)に記載の細胞識別装置。
(11)上記細胞内部からバイオマーカータンパク質を漏出させる工程において、さらに超遠心分離、クロマトグラフ分離、分離膜分離、抗体利用分離、乃至これらを組み合わせる方法を用いてバイオマーカータンパク質の精製を行う工程を行うことを特徴とする上記(9)乃至(10)に記載の細胞識別装置。
(12)上記バイオマーカータンパク質が、細胞内部からリボソームサブユニットタンパク質を漏出させることを目的として行われる工程によって漏出するリボソームサブユニットタンパク質群ならびにそれに関連するタンパク質群から構成されることを特徴とする上記(9)に記載の細胞識別装置。
(13)上記複数種類のタンパク質から構成されるバイオマーカータンパク質を質量分析する工程が、バイオマーカータンパク質の分子量を反映した分子量関連イオンを生成する質量分析法及び装置を用いて行われることを特徴とする上記(9)に記載の細胞識別装置。
(14)上記複数種類のタンパク質から構成されるバイオマーカータンパク質を質量分析する工程が、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法及び装置を用いることを特徴とする上記(9)乃至(13)に記載の細胞識別装置。
(15)上記複数種類のバイオマーカータンパク質のイオン質量あるいは分子量を登録したデータベースが、遺伝子配列をアミノ酸配列に翻訳して求めた計算分子量、乃至その計算分子量をN-末端開始メチオニン残基の切断、翻訳後修飾、乃至生物情報工学的な相同性解析等に基づいて行われるアミノ酸配列の修正を加味して補正した計算分子量、あるいはそれらの計算分子量から求められる分子量関連イオンのイオン質量を登録して作成されるデータベースを用いること特徴とする上記(9)に記載の細胞識別装置。
(16)上記複数種類のバイオマーカータンパク質のイオン質量あるいは分子量を登録したデータベースが、バイオマーカータンパク質の分子量関連イオンを質量分析して求めたイオン質量あるいは発現分子量を登録して作成されるデータベースを用いること特徴とする上記(9)に記載の細胞識別装置。
本発明によれば、細胞識別のソフトイオン化質量分析の対象バイオマーカータンパク質としてリボソームサブユニットタンパク質並びにそれに関連するタンパク質の集合体あるいは一部を選択的に用いる方法を採用しており、該バイオマーカータンパク質の発現分子量情報を用いたデータベースとの照合を行うことによって、迅速性を損なうことなく高い精度で細胞識別を行う方法および識別装置を提供することができる。
本発明の細胞の識別方法は、細胞内部のリボソームサブユニットタンパク質ならびにそれに関連するタンパク質から構成されるバイオマーカータンパク質を漏出させ、バイオマーカータンパク質の集合体あるいは一部の単離体から質量分析により分子量情報を得、バイオマーカータンパク質の発現分子量に基づいて作成されたデータベースとの一致性から細胞の種類を識別することを特徴とするものである。
本発明で用いられるバイオマーカータンパク質のうち、リボソームサブユニットタンパク質とは、原核生物細胞、真核生物細胞、ミトコンドリア、乃至葉緑体に存在するリボソームを構成するサブユニットタンパク質のことをいう。サブユニットタンパク質の種類は、生物種によって異なるが、数十種類存在しており、例えば原核生物細胞のリボソームサブユニットタンパク質は50種以上のサブユニットタンパク質から構成されることが知られている。
本発明で用いられるバイオマーカータンパク質のうち、リボソームサブユニットタンパク質に関連するタンパク質とは、細胞内部からリボソームサブユニットタンパク質を漏出させる工程によって、リボソームサブユニットタンパク質と共に漏出されるタンパク質であり、DNA結合タンパク質、 δ54 調整タンパク質、細胞分裂誘導タンパク質、熱ショックタンパク質、アルカリショックタンパク質、及びこれらの関連タンパク質等を挙げることができる。なお、タンパク質の名称は生物種によって異なるが、遺伝子の塩基配列あるいはタンパク質のアミノ酸配列の相同性から、分子生物学的に同一種のタンパク質であると判断されるものを全て含む。これらのタンパク質は、リボソームと関連してタンパク質の発現量の調節や細胞分裂の制御などを行っているために、リボソームと高い親和性を有しており、そのためリボソームサブユニットタンパク質と共に漏出するのであると考えられる。本発明では、上記のバイオマーカータンパク質としては、リボソームサブユニットタンパク質群中の複数のタンパク質が挙げられるが、さらに、上記漏出の際随伴する上記関連タンパク質群中のタンパク質を含めてもよい。
細胞内部からリボソームサブユニットタンパク質を漏出させるために用いられる方法として、有機溶剤、酸・アルカリ、界面活性剤、あるいは細胞壁溶解酵素などを細胞に混和する方法、摩砕媒体やホモジナイザーを用いる機械的な破砕、凍結、乾燥、塩濃度(浸透圧)変化、温度変化(煮沸)、超音波、高電圧パルス、あるいは圧力変化などの物理的破砕を用いる方法、あるいはこれらを組み合わせた方法など従来公知の方法を挙げることができる。本明細書における漏出とは、リボソームサブユニットタンパク質、あるいはさらにその関連タンパク質を破壊することなく、細胞内部から取り出すことをいい、その手段には特に限定されず、また、他のタンパク質を含んでいてもよい。
上記漏出法のうちどの方法を適用するかは、細胞の種類によって適した漏出法は異なるため一義的には決定できないが、一般に、細胞壁が脂質で構成されているグラム陰性細菌に対しては、有機溶剤や界面活性剤を細胞に混和する方法が適していることが多く、細胞壁が硬いグラム陽性細菌、さらに芽包や真核生物細胞等に対しては、機械的な破砕や圧力変化などの物理的破砕が適している。
バイオマーカータンパク質を効率よく質量分析するために、上記バイオマーカータンパク質の漏出に続いて、超遠心分離法、液体クロマトグラフ法、薄層クロマトグラフ法、分離膜分離透析法、抗体等リガンド利用分離法、あるいはこれらを組み合わせた方法など、リボソームサブユニットタンパク質の精製に用いられる従来公知の方法を任意に用いてもよい。
バイオマーカータンパク質の分子量情報を得るための質量分析法及び装置は、バイオマーカータンパク質の分子量情報を反映した分子量関連ピークから構成されるマススペクトルを得ることができるソフトイオン化法及び装置を用いる。ソフトイオン化法及び装置として、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法及び装置、ソフトレーザー脱離イオン化法及び装置(多孔質体や突起状の構造体等からなる試料基板のイオン化支援を利用する方法及び装置を含む)、エレクトロスプレーイオン化法及び装置、電解脱離イオン化法及び装置、プラズマディソープションイオン化法及び装置、高速粒子衝撃法及び装置などが挙げられ、また、分子量関連イオンをその質量/電荷比の違いにより質量分離する方法及び装置として、飛行時間型、四重極型、イオントラップ型、セクター型、フーリエ変換型、あるいはそれらを組み合わせた複合型などが挙げられるが、バイオマーカータンパク質の分子量情報の取得が達成できるものであれば、イオン化法及び装置、並びに質量分離の方法及び装置の種類は上記に限定されず、またそれらの組み合わせは任意である。このうち、最も好ましいのは、タンパク質の分子量関連ピークがプロトン化分子[M+H]+あるいは脱プロトン化分子[M-H]-およびその多価イオン[M+nH]n+あるいは[M-nH]n-(nは整数)として観測できるため、容易にバイオマーカータンパク質の分子量を求めることができる、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)と飛行時間型質量分離(TOFMS)を組み合わせたMALDI-TOFMSの方法及び装置である。
MALDI-TOF-MSに通常用いられるレーザーはN2レーザー(337 nm)やEr-YAGレーザー(2940 nm)であるが,Nd:YAG(1064 nm),色素(可視領域で波長可変),YAG-OPO(630 nm),CO2(10600 nm),アレキサンドライト(755 nm),Ar(488-514 nm),ホロミウム−YAG(20100 nm)などのレーザーも用いることが可能である。マトリックスとしては励起光源(主に,パルスレーザー)の光を吸収する化合物を用いることができる。例えばN2レーザーにはCHCA(α-cyano-4-hydroxycinnamic acid),DHBA(2, 5-dihydroxybenzoic acid),3-HPA(3-hydroxypicolinic acid), HABA(2-(4-hydroxyphenylazo)-benzoic acid),シナピン酸(3, 5-dimethoxy-4-hydroxy-cinnamic acid),ピコリン酸(picolinic acid)などの有機酸,HARMAN(2-methyl-β-caboline; 1-methyl-9H-pyrido[3,4-b]indole), HARMINE(2-methyl-β-caboline; 1-methyl-9-acethyl-pyrido[3,4-b]indole), HARMOL(2-methyl-β-caboline; 1-methyl-9-hydroxy-pyrido[3,4-b]indole)等のβ-カルボリン,THAP(2, 4, 6-trihydroxyacetophenone monohydrate),ATT(6-aza-2-thiothymine)などのプリン,ピリミジン類(有機塩基),コバルト超微粒子,多孔性シリカなどを用いることができる。また,Er-YAGレーザーにはグリセロール,氷,コハク酸などを用いることができる。これらの中で、現在最も好ましいのは、レーザーとしてN2レーザーと、マトリックスとしてシナピン酸あるいはCHCAを組み合わせる方法である。
MALDI-TOFMS測定のための試料調製は、従来公知のタンパク質のMALDI-TOFMS測定で用いられる試料調製法に従って行う。以下に、レーザーとしてN2レーザーと、マトリックスとしてシナピン酸あるいはCHCAを組み合わせる方法を説明するが、バイオマーカータンパク質の分子量関連ピークを観測する方法は他にも多く知られており、以下の例は典型例であって、これに限定されない。シナピン酸あるいはCHCAを10mg/mL以上の濃度あるいは飽和溶液になるように、水あるいは水とアセトニトリルの混合溶液(アセトニトリルの含量5-75容積%)に溶解してマトリックス溶液を得る。なお、プロトン化分子([M+H]+)あるいのその多価イオン([M+nH]n+、nは2〜3程度))のピークが効率よく観測できるようにするため、該マトリックス溶液に、0.1〜10 容積%のトリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、あるいは酢酸等の有機酸を加えてもよい。細胞から漏出させたバイオマーカータンパク質を含む溶液を該マトリックス溶液と混合し、試料基板に0.1〜2μL滴下し、乾燥させて、バイオマーカータンパク質とマトリックスの混合結晶を調製する。
MALDI-TOFMSの測定モードは、リニアーモードとリフレクターモードのいずれを用いても良いが、現状技術で好ましいのは、バイオマーカータンパク質の対象測定質量範囲であるm/z 4000〜50000のイオンを高感度に観測できるリニアーモードを用いる方法である。また、正イオンと負イオンのいずれを観測しても良いが、バイオマーカータンパク質を構成するリボソームサブユニットタンパク質の多くが塩基性タンパク質であることから、正イオンが生じやすい特徴を有しているため、正イオンモードでイオンを質量分離・検出することが好ましい。
バイオマーカータンパク質の分子量情報を参照するためのデータベースは、公知のタンパク質データベースあるいは独自に作成したデータベースのいずれも利用できる。公知のタンパク質データベースとしては、国立遺伝学研究所が提供する日本DNAデータバンク(DDNA)、米国の国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)が提供するGenBank、ないしは欧州分子生物学研究所が提供する(EMBL)のDNAデータベースなどを翻訳して作成された、NCBInr、SwissProt、TrMBL等が挙げられ、これらの登録情報はインターネットで入手することができる。公知のデータベースの登録情報が不完全であるか疑わしい場合、データベースに登録されていない細胞の解析を行う場合、解析対象細胞が機密性を有する場合等は、独自にDNA配列の解読あるいはバイオマーカータンパク質の質量分析等を行って作成されたデータベースを利用してもよい。
公知のタンパク質データベースに登録されているバイオマーカータンパク質の分子量は、遺伝子の塩基配列をアミノ酸配列に翻訳して求めた計算分子量が大半であるため、発現分子量と一致しない場合が多い点において、不完全であると言える。そのため、公知のタンパク質データベースをそのまま利用する場合には、計算分子量と発現分子量が一致するタンパク質のみをバイオマーカータンパク質として用いる。計算分子量と発現分子量が一致しない原因として、開始N-末端のメチオニン残基が切断されている場合、翻訳後修飾を受けている場合、遺伝子領域のアノテーションを誤っている場合等が原因であることが知られているが、生命情報工学的な相同性解析等の手段を用いたり、分子生物学的な知見に基づいて、バイオマーカータンパク質の発現分子量に修正することができる。本発明では、解析される結果の信頼性を向上させるために、上記の手段によって公知のタンパク質データベースの情報を修正して、発現タンパク質の分子量情報を収録したデータベースを用いる。好ましくは、バイオマーカータンパク質を実際に質量分析して得られた発現タンパク質の分子量情報を収録して作成されたデータベースを用いることである。
バイオマーカータンパク質として用いるタンパク質の発現分子量情報をデータベース化する工程を具体的に説明する。
(1) Swiss-Prot、TrEMBL、NCBInr等のアミノ酸配列データベースから、インターネットなどを利用して解析対象となるバイオマーカータンパク質のアミノ酸配列を入手する。
(2) タンパク質を構成する20種類のアミノ酸残基の質量は公知であるので、アミノ酸配列からバイオマーカータンパク質の計算分子量を求める。
(3) 解析対象となるバイオマーカータンパク質のマススペクトルを解析し、上記(2)で求めた計算分子量から求めた分子量関連イオンのイオン質量に対応するm/z値にピークが観測された場合、上記(2)で求めた計算分子量は発現分子量と同一であると判断する。タンパク質を質量分析して求められるのは分子量関連イオンのイオン質量であり、計算分子量から分子量関連イオンのイオン質量を推測することができることは、質量分析分野の研究者であれば周知のことである。分子量関連イオンは、プロトン化分子([M+H]+、ここでMは分子、Hは水素原子)、脱プロトン化分子([M-H]-)、カチオン付加分子([M+cat]+、ここでcatはカチオン種)、およびそれらの多価イオン([M+nH]n+、[M-nH]n-、[M+ncat]n+、ここでnは整数)等が挙げられる。分子量関連イオンの種類は、測定に用いる質量分析法の測定条件によって異なり、その種類を予測できること、例えばシナピン酸をマトリックス剤として試料調製されたタンパク質をMALDI-TOFMSで測定するとプロトン化分子[M+H]+のピークが主に観測されることは、質量分析分野の研究者であれば周知のことである。
(4) 上記(3)で計算分子量と発現分子量が一致しないと判断されたバイオマーカータンパク質については、次に翻訳後修飾を考慮して計算質量を求め直す。その翻訳後修飾として、まず開始末端のメチオニン残基の切断の有無を検討する。遺伝子の塩基配列を翻訳して作成されたアミノ酸配列の開始末端はメチオニン残基であり、発現タンパク質では、翻訳後修飾により開始末端メチオニン残基が切断されることが多い。この切断は、開始末端メチオニン残基に隣接する2番目のアミノ酸残基がグリシン、アラニン、セリン、プロリン、バリン、スレオニン、システインのいずれかである場合に選択的に切断されやすいことが知られている。従って、上記7種のアミノ酸残基が開始末端メチオニン残基に隣接する場合、(2)で求めた計算分子量からメチオニン残基の質量131.1 Daを差し引くことによって、計算分子量を求め直す。
(5) 上記(4)で求め直された計算分子量から、上記(3)と同一の操作によりイオン質量を求め、そのイオン質量に対応するm/z値にピークが観測された場合、上記(4)で求めた計算分子量は発現分子量と同一であると判断する。
(6) 上記(5)で計算分子量と発現分子量が一致しないと判断されたバイオマーカータンパク質については、開始末端メチオニン残基の切断以外の翻訳後修飾を検討する。翻訳後修飾は、特定のタンパク質において生じ、メチル化、アセチル化、β-メチルチオール化、酸化、ジスルフィド結合による架橋などが知られているが、類縁の細胞における翻訳後修飾が解析されていれば、その情報をもとに発現分子量を推定できる。良く知られている翻訳後修飾として、バクテリアのリボソームタンパク質L11サブユニットにおけるメチル化、S5サブユニットのアセチル化、S11のメチル化、S12のβ-メチルチオール化等を挙げることができる。このような翻訳後修飾が起こると、翻訳後修飾により導入される官能基の質量だけ、計算質量は大きくなる。また、バクテリアのリボソームタンパク質L31、L33、S14サブユニットなどのように、アミノ酸配列中にZnフィンガーモチーフあるいはZnリボンモチーフ等と呼ばれるC-x-x-Cの特異なアミノ酸配列(Cはシステイン残基であり、xは任意のアミノ酸残基)を有するものがある。これらは、測定試料の調製過程で2つのシステイン残基間でジスルフィド結合が形成されることがある。この場合、一つのC-x-x-Cに付き、計算分子量は2 Daだけ小さくなる。このような翻訳後修飾を加味して,計算分子量を求め直す。
(7) 上記(6)で求め直された計算分子量から、上記(3)と同一の操作によりイオン質量を求め、そのイオン質量に対応するm/z値にピークが観測された場合、上記(4)で求めた計算分子量は発現分子量と同一であると判断する。
(8) 上記(7)で計算分子量と発現分子量が一致しないと判断されたイオマーカータンパク質については、アミノ酸配列データベースに登録されているアミノ酸配列情報が誤っている可能性が考えられる。アミノ酸配列情報の誤りの大半は、遺伝子領域のアノテーションの誤りに起因する。バイオマーカータンパク質として利用するリボソームタンパク質およびリボソームサブユニットタンパク質に関連するタンパク質は、アミノ酸配列およびその遺伝子のDNA配列の保存性が高いため、相同性解析によって遺伝的に近縁の細胞のDNA配列あるいはアミノ酸配列と比較することによって、正しい翻訳領域を推測し、アミノ酸配列を修正する。上記(2)から(7)の工程を繰り返し、発現分子量を検証する。
(9) 上記工程により、計算分子量を正確な発現分子量に修正し、データベース化する。実際に質量分析法で観測されるのはイオン質量であるので、該データベースでは、発現分子量の代わりに、発現分子量から求められるイオン質量を用いても良い。
細胞の種類の識別は、バイオマーカータンパク質を質量分析して得られたマススペクトルから求められる分子量情報とデータベースの分子量情報を比較し、それらが一致するバイオマーカータンパク質の種類と数を指標にして判定する。一致するバイオマーカータンパク質の数が多いほど、データベース作成に用いた細胞と遺伝的類縁性が高いと判断される。また、一致するピークの種類が類似している細胞同士は、遺伝的類縁性が高いと判断され、複数の細胞を分析した結果に基づいてグループ分けすることができる。
本発明においては、リボソームサブユニットタンパク質あるいはさらにその関連タンパク質からバイオマーカータンパク質を予め複数選定し、個々のバイオマーカータンパク質の検出あるいは非検出を含めて、識別対象細胞の分子量情報をプロファイル化しておくことが好ましい。このようなプロファイルと、上記データベースの分子量情報から得られたプロファイルとを比較することにより、より正確な細胞識別が行える。
質量分析装置の質量精度が低いと、マススペクトルから求められる分子量情報とデータベースの分子量情報が偶然に一致する確率が増加するため、この問題を回避するために複数種類のバイオマーカータンパク質を用いる必要がある。本発明で利用するバイオマーカータンパク質の数をnとすると、統計学的に識別できる細胞の種類は2のn乗である。信頼性の高い識別を行うためにはnの数は多いことが好ましく、n=5以上で32種類を識別できるために好ましく、n=10以上で千種類以上を識別できるためより好ましく、n=15で三万種類以上を識別できるためさらに好ましく、n=20で百万種類以上を識別できるため特に好ましい。
以下、本発明の実施例によって更に詳細に説明するが、これらは説明のための単なる例示であって、本発明はこれらになんら制限されるものではない。
微生物細胞の迅速識別について
試検細胞として、Pseudomonas putida(以下、P. putida)NBRC100650株、S5株、FMP1株、BSN22株、BSN48株、及びBSN49株、Pseudomonas fluorescens (以下、P. fluorescens) BSN9株、Pseudomonas mendocina(以下、P. mendocina) BSN3株、Stenotrophomonas maltophila(以下、S. maltophila)BSN30株及びBSN31株の計10株を用いた。なお、P. putida NBRC100650株は、全ゲノムが報告されているP. putida KT2440株と本質的に同一のものであり、製品評価技術基盤機構より購入した。その他の細胞は、土壌等から採取・単離されたものであり、gyrB遺伝子の塩基配列解読によって標記の微生物に同定されたものである。各細胞それぞれを、常法に従って調製したLB培地5mLで24時間予備培養後、300mLのLB培地に全量添加し、30℃で5日間振とう培養した。培養後、各細胞を含む培養液を、常法に従って調製したTMA-I緩衝液で遠心洗浄し、湿重量1gに対して同緩衝液を5mL加え、細胞懸濁液を得た。該細胞懸濁液とジルコニアシリカビーズ(直径0.1mm)が体積比1:1(約70μLずつ)となるように専用チューブに充填し、FastPrep FP120 ビーズビーダーを用いて、2分間細胞破砕処理を行った。該細胞破砕液を、2分間遠心分離(4℃、8000rpm)して得られた上静を試料溶液として質量分析に供した。
質量分析は、MALDI-TOFMSを用いた。マトリックス溶液は、1%トリフルオロ酢酸と50%アセトリトリルを含む水溶液に、シナピン酸を10mg/mLとなるように溶解して調製した。次に、バイオマーカータンパク質を含む上記試料溶液とマトリックス溶液を、1:7(容積比)で十分に攪拌しながら混合し、2μLを試料プレートに滴下して、自然乾燥した。質量分析装置は、N2レーザーを備えた飛行時間型質量分析装置(島津製作所製AXIMA-CFR plus)を用い、正イオンリニアーモードで測定した。
図1は、P. putida NBRC100650株から得たバイオマーカータンパク質をMALDI-TOFMSで測定して得られたマススペクトルである。該細胞のDNA塩基配列は公知であるので、翻訳アミノ酸配列情報をタンパク質データベースより入手し、[0032]記載の方法により、発現タンパク質の分子量を求めた。具体的に行った工程を以下に説明する。
(1) NCBInrタンパク質データベースよりインターネット経由で該細胞の54種類のリボソームサブユニットタンパク質の翻訳アミノ酸配列情報を入手した。具体的には、以下の54種類である。L1、L2、L3、L4、L5、L6、L7/L12、L9、L10、L11、L13、L14、L15、L16、L17、L18、L19、L20、L21、L22、L23、L24、L25、L27、L28、L29、L30、L31、L32、L33、L34、L35、L36、S1、S2、S3、S4、S5、S6、S7、S8、S9、S10、S11、S12、S13、S14、S15、S16、S17、S18、S19、S20、S21。
(2) それぞれの翻訳アミノ酸配列について、Swiss Institute of Bioinformatics (SIB)がインターネット上で提供する計算分子量の計算ソフトであるCompute pI/Mw toolを用いて、各リボソームサブユニットタンパク質の計算分子量を求めた。
(3) 上記(2)で求めた計算質量をイオン質量に換算し、図1のマススペクトル上で観測されたピークのm/z値と比較して、L13、L14、L15、L22、L23、L24、L36、及びS10の各リボソームサブユニットタンパク質の計算分子量が発現分子量と同一であることを確認した。なお、図1のマススペクトルは、マトリックス剤としてシナピン酸を用い、MALDI-TOFMSで観測されたものであるため、イオン質量はプロトン化分子[M+H]+として計算したものである。
(4) 上記(3)で計算分子量と発現分子量が一致しないと判断されたリボソームサブユニットタンパク質について、次に開始末端のメチオニン残基の切断を考慮して、(2)で求めた計算分子量から131.1 Daを差し引いて、新たに計算分子量を求め直した。
(5) 上記(4)で求め直された計算分子量をイオン質量に換算し、図1のマススペクトル上で観測されたピークのm/z値と比較して、L5、L18、L19、L20、L28、L30、L35、S7、S8、S13、S14、S17、S19、S20、及びS21の各リボソームサブユニットタンパク質について、開始末端メチオニン残基の切断を考慮した計算分子量が発現分子量と同一であることを確認した。
(6) 以上の工程により発現分子量が確認された23種類のリボソームサブユニットタンパク質を、P. putida及び類縁細胞を同定・識別するためのバイオマーカータンパク質として選定し、データベースを作成した。具体的には、L5、L13、L14、L15、L18、L19、L20、L22、L23、L24、L28、L30、L35、L36、S7、S8、S10、S13、S14、S17、S19、S20、及びS21の各リボソームサブユニットタンパク質をバイオマーカータンパク質とし、そのプロトン化分子のイオン質量から構成されるデータベースである。これは、表1の左側二列部分である。
同様の操作によって他の9株のMALDI-TOFMS測定を行い、23種類のバイオマーカータンパク質のピーク質量が一致する割合を検討した。ここでは、ピーク質量の誤差が2Da以内のものを、質量が一致するピークであると判定した。表1は、P. putida及び類縁細胞を同定・識別するためのバイオマーカータンパク質のデータベースと、各試検細胞について、バイオマーカータンパク質と一致したピークの分布をまとめたものである。
Figure 0004818981
また、図2は、従来法であるDNAジャイレースのβサブユニットをコードするgyrB遺伝子の塩基配列に基づいて解析された分子系統樹解析の結果と、バイオマーカータンパク質のピークが一致する割合を比較して示したものである。
P. putida FMP1株及びBSN22株は、23種類中22種類のバイオマーカータンパク質が一致している。この結果は、各試検細胞の中でこれら2種の細胞が、P. putida NBRC100650株との遺伝学的な類縁性が最も高いことを示しており、その結果が正確であることは、分子系統樹解析によって見事に実証されている。それ以外の各細胞についても、P. putidaは60%以上のバイオマーカータンパク質が一致しており、P. putida NBRC100650株に対するそれぞれの遺伝学的な類縁性の傾向は良く一致している。P. fluorescens BSN9株については、P. putidaとは別種の細胞でありながら16種類ものバイオマーカータンパク質が一致しているが、分子系統樹解析でもP. putidaとの比較的高い類縁性が示されており、この結果は妥当である。一方、分子系統樹解析によっても類縁関係が低いと判断されたP. mendocina BSN3株は5種類のバイオマーカータンパク質しか一致しておらず、さらに類縁性が低い別属のS. maltophila BSN30株及びBSN31株は、わずか2種類のバイオマーカータンパク質しか一致していない。この傾向も、分子系統樹解析の結果と見事に一致する。
gyrB遺伝子あるいはその他の遺伝子の塩基配列解析に基づく方法は、塩基配列の解読に数時間から数日を要するため迅速性に劣り、特に多検体を処理するスクリーニング解析には適していない。本実施例は、本発明の方法によればわずか30分以内で遺伝的な類縁性の程度を良く反映した細胞の識別が可能であり、本発明の優位性を示す事例である。
保存細胞の信頼性を保証する方法への応用について
保存細胞として、Lactococcus lactis subsp. lactis JCM 5805株(理化学研究所より入手)、Lactococcus lactis subsp. cremoris(以下、Lc. cremoris)NBRC 100676およびStreptococcus thermophilus (以下、St. thermophilus)NBRC 13957(製品評価技術基盤機構より入手)の計3菌株を用いた。各細胞それぞれを、常法に従って調製した5mLのMRS培地で至適温度にて18時間培養した。培養後、実施例1と同様に細胞破砕処理および質量分析を行った。
図3はいずれもLc. lactis JCM 5805から得たバイオマーカータンパク質をMALDI-TOFMSで測定して得られたマススペクトルであるが、それぞれ別の日に植え継ぎ及び培養を行った。すなわち、下段のマススペクトルは上段の試料調製後に2回植え継ぎを行った後に同様の方法でMALDI-TOFMS測定して得られたマススペクトルである。
図4は、Lc. lactis, Lc. cremoris、St. thermophilusから得たバイオマーカータンパク質をMALDI-TOFMSで測定して得られたマススペクトルの一部である。3つのマススペクトルを比較すると、種レベルで同一であるLc. lactisと Lc. cremorisでは同じ位置に1箇所だけ共通ピークが観測されているが、その他のピークは僅かにずれているか、あるいは片方でだけ観測されている。また、属レベルで異なるSt. thermophilusは、Lc. lactisおよびLc. cremorisと同一位置に観測されるピークは1本もない。
図3及び4のマススペクトルにより、同一種類の細胞であれば試料調製方法によらず同じ位置にピークが観測されることが明らかであり、マススペクトルによる保存細胞の品質保証が可能であることを示している。通常、該3種類の細胞は、顕微鏡観察などの形態観察では極めて困難であり、煩雑な前処理と数日の時間が必要な遺伝子解析に基づいた方法によらなければ識別はできないため、本発明の方法が保存細胞の保障に極めて有効であることは明らかである。
微生物細胞の株レベルでの系統分類について
さらに本発明の方法の効果を詳しく説明するために、バイオマーカータンパク質のピーク質量と一致するピークの種類を元に、細胞を株レベルで分子系統解析を行った事例を以下に示す。ここでは、試検細胞として、P. putida ATCC11172株、ATCC17484株、ATCC17485株、ATCC17522株、ATCC23973株、JCM6156株、NBIC3930株、MBIC5315株、NBRC3738株、NBRC100650株、NBRC100986株、NBRC100988株、NBRC101019株、NBRC14164T株、NBRC14671株、NCIMB9816株の計16株を用いた。なお、P. putida NBRC100650株は、全ゲノムが報告されているP. putida KT2440株と本質的に同一のものである。ATCC各株は、American Type Culture Collection(アメリカ) より、JCM6156株は理化学研究所より、NBIC各株は(株)海洋バイオテクノロジー研究所より、NBRC各株は製品評価技術基盤機構より、NCIMB9816株は(株)テクノスルガより購入した。これらの菌株は、gyrB遺伝子の部分塩基配列が解読され、その塩基配列情報は、National Center for Biotechnology Information(アメリカ)が提供する遺伝子塩基配列データベースや、(株)海洋バイオテクノロジー研究所の遺伝子資源データベースよりインターネット経由で入手できる。
各細胞それぞれを、各譲渡機関が推奨する培地を用い、至適温度にて18から24時間培養した。培養後、各細胞を含む培養液を、常法に従って調製したTMA-I緩衝液で遠心洗浄し、湿重量1gに対して同緩衝液を5mL加え、細胞懸濁液を得た。該細胞懸濁液とジルコニアシリカビーズ(直径0.1mm)が体積比1:1(約70μLずつ)となるように専用チューブに充填し、ミニビーズビーダー-8(Biospec製)を用いて、振とう速度3000 rpmで20秒間x4回の細胞破砕処理を行った。該細胞破砕液を、2分間遠心分離(4℃、8000rpm)して得られた上静を試料溶液として質量分析に供した。質量分析は、実施例1と同様の測定操作及び装置で行った。
DNA塩基配列が公知であるP. putida NBRC100650株のリボソームサブユニットタンパク質のマススペクトルをさらに詳細に解析することにより、実施例1で選択した23種類のバイオマーカータンパク質に、さらに20種類のリボソームサブユニットタンパク質(L1、L6、L11、L16、L17、L21、L25、L29、L31、L33、L34、S3、S5、S6、S9、S11、S12、S15、S16、及びS18)を新たに加えたバイオマーカータンパク質のデータベースを作成した。新たなバイオマーカータンパク質の発現分子量の検証を行った工程を、以下、具体的に説明する。
(1) [0038]記載の工程(1)及び(2)と同一の工程を行って求めた各リボソームサブユニットタンパク質の計算分子量を、P. putida NBRC100650株のMALDIマススペクトル上で観測されたピークのm/z値と比較して、新たにL17、L29、L33、L34、S6、及びS16が計算分子量と発現分子量が同一であることを確認した。
(2) 発現分子量が検証されないリボソームサブユニットタンパク質について、さらに[0038]記載の工程(4)と同一の工程により、開始末端のメチオニン残基の切断を考慮して新たに計算分子量を求め直し、それをイオン質量に換算した後に、MALDIマススペクトル上で観測されたピークのm/z値と比較した結果、新たにL1、L6、L21、L25、S3、S9、及びS15が、開始末端メチオニン残基の切断を考慮した計算分子量が発現分子量と同一であることを確認した。
(3) 上記工程でも発現分子量が検証されないリボソームサブユニットタンパク質について、P. putidaと同じグラム陰性菌である大腸菌(E. coli K-12株)のリボソームタンパク質に対して知られている翻訳後修飾を考慮して、計算質量を求め直し、それをイオン質量に換算した後に、MALDIマススペクトル上で観測されたピークのm/z値と比較した。その結果、L11は開始末端メチオニンの切断と9箇所のメチル化、L16はメチル化と酸化、S5及びS18は開始末端メチオニンの切断とアセチル化、S11はアセチル化、S12は開始末端メチオニンの切断とβ-メチルチオール化を考慮した計算分子量が発現分子量と一致することを確認した。L31は、アミノ酸配列に2ヵ所のC-x-x-C配列を有しており、2ヵ所のジスルフィド結合を考慮した計算分子量が発現分子量と一致することを確認した。
(4) 上記工程により選定された20種類のリボソームサブユニットタンパク質と、すでに実施例1で選択した23種類のバイオマーカータンパク質を合わせた、計43種類のリボソームサブユニットタンパク質をバイオマーカータンパク質とし、そのプロトン化分子(「M+H]+)のイオン質量から構成されるデータベースを作成した。これは、表2の左側二列部分である。合計43種類のバイオマーカータンパク質を用いることにより、細胞の識別能はさらに向上し、遺伝的にわずかな違いしかない細胞をより高感度に識別することが可能となる。
同様の操作によって他の15株の細胞をMALDI-TOFMSで測定し、43種類のバイオマーカータンパク質のピーク質量が一致する割合を検討した。ここでは、ピーク質量の誤差が150 ppm以内のものを、質量が一致するピークであると判定した。表2(表が大きいため、8菌株ずつ表2-1と表2-2に分割して示す)は、P. putida及び類縁細胞を同定・識別するためのバイオマーカータンパク質のデータベースと、バイオマーカータンパク質とのピークの一致性をプロファイル化して各試検細胞についてまとめたものである。
Figure 0004818981

Figure 0004818981
図5は、表2にまとめたバイオマーカータンパク質とのピークの一致性を非加重結合法(UPGMA法)によりクラスタ解析して得られた系統樹を示したものである。本発明の方法は生物種によらず細胞内に普遍的に存在するリボソームサブユニットタンパク質群ならびにそれに関連するタンパク質群をバイオマーカータンパク質として用いているので、分子時計仮説を適用することができるため、UPGMA法による分子系統解析を行うことができる。図5では、該試検細胞は、グループ1(NBRC100650株、JCM6156株、ATCC23973株)、グループ2(NBRC101019株、NBIC5315株、NBRC100986株、NBRC100988株)、グループ3(NBRC14164株、NBRC14671株、ATCC11172株、ATCC17485株)、グループ4(NBIC3930株)、グループ5(NCIMB9816株、ATCC17484株、ATCC17522株、NBRC3738株)にグループ分けすることができる。
比較例1
図6は、比較のために、16種類の該試検細胞を従来法であるgyrB遺伝子の塩基配列に基づいて、近隣結合法により分子系統解析して得られた系統樹を示したものである。該試検細胞を分子系統学的にグループ分けした結果は、図5に示した本発明の方法により得られたグループ分けの結果と見事に一致しており、本発明の方法は遺伝的な類縁性に基づく分子系統解析が行われていることを実証している。実施例1でも説明したように、gyrB遺伝子あるいはその他の遺伝子の塩基配列解析に基づく方法は、塩基配列の解読に数時間から数日を要するため迅速性に劣り、特に多検体を処理するスクリーニング解析には適していないが、本発明の方法によればわずか30分以内で分子系統解析に基づく細胞の識別が可能であり、解析結果の信頼性の高さと解析速度の迅速性の点において、本発明の優位性は明らかである。
比較例2
タンパク質データベースに登録されているアミノ酸配列をインターネットで入手して、マススペクトル上のピーク質量に一致するタンパク質を検索することにより、そのタンパク質をもつ生物種を推定する方法は、先行技術として公知である(例えば、特許文献4及び5参照)。この方法を利用した微生物細胞を種(species)レベルで同定するプログラム(RMIDb)がインターネット上で公開されている(http://www.rmidb.org/cgi-bin/index.pl アドレスは2007年4月13日現在)。このソフトウェアを用いて、ゲノム解読株であるP. putida NBRC100650株および図5でグループ5に分類されたNBRC3738株のマススペクトル上のピーク質量をRMIDbに入力して、各細胞の種類を検索した。検索には、m/z 5000-20000の範囲で観測されたピークのうち、相対ピーク強度が3%以上のピーク(NBRC100650株で174本、NBRC3738株で86本)を用い、本発明の方法と比較するため検索対象のタンパク質はリボソームサブユニットタンパク質とした。
図7は、P. putida NBRC100650株及びNBRC3738株に対する解析結果であり、同定結果の信頼性が高い(すなわちe-valueが0に近い)と判断された順に上位10種類の微生物種を示したものである。P. putida NBRC100650株の解析結果では最上位にP. putidaがヒットしており、そのe-valueは次位のP. syringaeの結果と比較して圧倒的に小さな値である。この方法は、P. putida NBRC100650株と同一のKT2440株のゲノム情報を元に計算されたリボソームサブユニットタンパク質の分子量に対してコンピュータ検索しているため、この結果が得られるのは当然である。
しかし、P. putida NBRC3738株の解析結果では、P. fluorescence、P. savastanoi、P. syringaeなどが極めて小さなe-valueで上位にヒットしている一方で、P. putidaは6位でありe-valueも大きい。しかも、属レベルで異なるGluconobacter oxydansよりも下位でヒットしている。該比較例に限らず、統計学の分野では、e-valueは10-3以下の結果が信頼性があると判断するのが通常であり、この結果から該菌株をP. putidaであると判定することはできない。
比較例2の方法は、ゲノム解読された微生物株のリボソームサブユニットタンパク質の計算分子量に対してコンピュータ検索するため、ゲノム解読株とは同種であっても株レベルで遺伝的類縁性が低い細胞に対しては、上記のように誤った判定結果を与えることが大きな問題であることが示された。これに対して、実施例3は、バイオマーカータンパク質であるリボソームサブユニットタンパク質のピークの一致性を解析する本発明の方法によれば、該菌株はP. putidaの中で株レベルで分類されたグループの一つに属する菌株であると分子系統解析により判定することができ、上記の問題が解決されることを示す事例である。
実施例1に係わる、P. putida NBRC100650株から得たバイオマーカータンパク質をMALDI-TOFMSで測定して得られたマススペクトルである。四角で囲ったラベルを付したピークが、バイオマーカータンパク質のピークである。 実施例1に係わる、従来法であるgyrB遺伝子の塩基配列に基づいて解析された分子系統樹解析の結果と、バイオマーカータンパク質のピークが一致する割合を比較した図である。 実施例2に係わる、Lc. lactis JCM 5805から得たバイオマーカータンパク質をMALDI-TOFMSで測定して得られたマススペクトルである。(b)は、(a)の試料調製後に2回植え継ぎを行った後に同様の方法でMALDI-TOFMS測定して得られたマススペクトルである。 実施例2に係わる、Lc. lactis, Lc. cremoris、St. thermophilusから得たバイオマーカータンパク質をMALDI-TOFMSで測定して得られたマススペクトルの一部である。 実施例3に係わる、表2に示したバイオマーカータンパク質のピーク分布をもとにUPGMA法により作成した分子系統樹解析の結果である。 比較例1に係わる、16種類のP. putida試験菌株を従来法であるgyrB遺伝子の塩基配列に基づいて、近隣結合法により分子系統解析して得られた系統樹を示したものである。 比較例2に係わる、ゲノム解読株であるP. putida NBRC100650株および図5でグループ5に分類されたNBRC3738株のマススペクトル上のピーク質量をRMIDbに入力して、各細胞の種類を検索した結果である。(A)はP. putida NBRC100650株に対する解析結果であり、(B)はP. putida NBRC3738株に対する解析結果である。

Claims (16)

  1. 細胞の種類を株のレベルで識別する方法において、細胞内部から少なくともバイオマーカーとして用いるリボソームサブユニットタンパク質群ならびにそれに関連するタンパク質群(以下、バイオマーカータンパク質という)を漏出させる工程を行い、次に複数種類のタンパク質から構成される当該バイオマーカータンパク質を質量分析する工程を行い、次に得られた質量スペクトルを、比較対象の細胞株について同様にして得られた質量スペクトルにおいて当該比較対象の細胞株のバイオマーカータンパク質の質量であることが同定された複数種類のバイオマーカータンパク質の質量スペクトルを登録したデータベースと、当該複数種類のバイオマーカータンパク質の質量スペクトルの異同について比較するデータ処理の工程を行うことにより、識別対象の細胞株の質量分析による測定結果と比較対象の細胞株のデータベースとの一致性を指標として細胞の種類を株のレベルで識別することを特徴とする細胞識別方法。
  2. 前記細胞内部からバイオマーカータンパク質を漏出させる工程が、細胞内部からリボソームサブユニットタンパク質を漏出させることを目的として行われる、薬品との混和乃至物理的破砕を用いることを特徴とする請求項1記載の細胞識別方法。
  3. 前記細胞内部からバイオマーカータンパク質を漏出させる工程において、さらに超遠心分離、クロマトグラフ分離、分離膜分離、抗体利用分離、乃至これらを組み合わせる方法を用いてバイオマーカータンパク質の精製を行う工程を行うことを特徴とする請求項1乃至2記載の細胞識別方法。
  4. 前記バイオマーカータンパク質が、細胞内部からリボソームサブユニットタンパク質を漏出させることを目的として行われる工程によって漏出するリボソームサブユニットタンパク質群ならびにそれに関連するタンパク質群から構成されることを特徴とする請求項1記載の細胞識別方法。
  5. 前記複数種類のタンパク質から構成されるバイオマーカータンパク質を質量分析する工程が、バイオマーカータンパク質の分子量を反映した分子量関連イオンを生成する質量分析法及び装置を用いて行われることを特徴とする請求項1記載の細胞識別方法。
  6. 前記複数種類のタンパク質から構成されるバイオマーカータンパク質を質量分析する工程が、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法及び装置を用いることを特徴とする請求項1乃至5記載の細胞識別方法。
  7. 前記比較対象の細胞株について得られた複数種類のバイオマーカータンパク質の質量スペクトルを登録したデータベースが、当該バイオマーカータンパク質の遺伝子配列をアミノ酸配列に翻訳して求めた計算分子量、乃至その計算分子量をN-末端開始メチオニン残基の切断、翻訳後修飾、乃至生物情報工学的な相同性解析に基づいて行われるアミノ酸配列の修正を加味して補正した計算分子量、あるいはそれらの計算分子量から求められる分子量関連イオンのイオン質量に基づき、当該比較対象の細胞株の質量スペクトルの中から当該細胞株のバイオマーカータンパク質であることが同定された質量スペクトルを登録して作成されるデータベースであること特徴とする請求項1記載の細胞識別方法。
  8. 前記比較対象の細胞株について得られた複数種類のバイオマーカータンパク質の質量スペクトルを登録したデータベースが、バイオマーカータンパク質の分子量関連イオンを質量分析して求めたイオン質量あるいは発現分子量を登録して作成されるデータベースであること特徴とする請求項1記載の細胞識別方法。
  9. 細胞の種類を株のレベルで識別する装置において、細胞内部から少なくともバイオマーカータンパク質を漏出させる工程を行い、次に複数種類のタンパク質から構成される当該バイオマーカータンパク質を質量分析する工程を行い、次に得られた質量スペクトルを、比較対象の細胞株について同様にして得られた質量スペクトルにおいて当該比較対象の細胞株のバイオマーカータンパク質の質量であることが同定された複数種類のバイオマーカータンパク質の質量スペクトルを登録したデータベースと、当該複数種類のバイオマーカータンパク質の質量スペクトルの異同について比較するデータ処理の工程を行うことにより、識別対象の細胞株の質量分析による測定結果と比較対象の細胞株のデータベースとの一致性を指標として細胞の種類を株レベルで識別することを特徴とする細胞識別装置。
  10. 前記細胞内部からバイオマーカータンパク質を漏出させる工程が、細胞内部からリボソームサブユニットタンパク質を漏出させることを目的として行われる、薬品との混和乃至物理的破砕を用いることを特徴とする請求項9記載の細胞識別装置。
  11. 前記細胞内部からバイオマーカータンパク質を漏出させる工程において、さらに超遠心分離、クロマトグラフ分離、分離膜分離、抗体利用分離、乃至これらを組み合わせる方法を用いてバイオマーカータンパク質の精製を行う工程を行うことを特徴とする請求項9乃至10記載の細胞識別装置。
  12. 前記バイオマーカータンパク質が、細胞内部からリボソームサブユニットタンパク質を漏出させることを目的として行われる工程によって漏出するリボソームサブユニットタンパク質群ならびにそれに関連するタンパク質群から構成されることを特徴とする請求項9記載の細胞識別装置。
  13. 前記複数種類のタンパク質から構成されるバイオマーカータンパク質を質量分析する工程が、バイオマーカータンパク質の分子量を反映した分子量関連イオンを生成する質量分析法及び装置を用いて行われることを特徴とする請求項9記載の細胞識別装置。
  14. 前記複数種類のタンパク質から構成されるバイオマーカータンパク質を質量分析する工程が、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法及び装置を用いることを特徴とする請求項9乃至13記載の細胞識別装置。
  15. 前記比較対象の細胞株について得られた複数種類のバイオマーカータンパク質の質量スペクトルを登録したデータベースが、当該バイオマーカータンパク質の遺伝子配列をアミノ酸配列に翻訳して求めた計算分子量、乃至その計算分子量をN-末端開始メチオニン残基の切断、翻訳後修飾、乃至生物情報工学的な相同性解析に基づいて行われるアミノ酸配列の修正を加味して補正した計算分子量、あるいはそれらの計算分子量から求められる分子量関連イオンのイオン質量に基づき、当該比較対象の細胞株の質量スペクトルの中から当該細胞株のバイオマーカータンパク質であることが同定された質量スペクトルを登録して作成されるデータベースであること特徴とする請求項9記載の細胞識別装置。
  16. 前記比較対象の細胞株について得られた複数種類のバイオマーカータンパク質の質量スペクトルを登録したデータベースが、バイオマーカータンパク質の分子量関連イオンを質量分析して求めたイオン質量あるいは発現分子量を登録して作成されるデータベースであること特徴とする請求項9記載の細胞識別装置。
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