本発明は、車輌の操舵補助力制御装置に係り、更に詳細には左右操舵輪の駆動力差に起因する操舵反力の変化を低減する操舵補助力制御装置に係る。
自動車等の車輌に於いて、操舵反力を低減するよう操舵補助力を制御する電動式パワーステアリング装置の如き操舵補助力制御装置はよく知られており、左右操舵輪の駆動力差に起因する操舵反力の変化を低減する操舵補助力制御装置の一つとして、例えば下記の特許文献1に記載されている如く、各車輪の駆動力を個別に制御可能な車輌に於いて、左右操舵輪の駆動力の差に基づいて操舵反力の変化量を演算し、該操舵反力の変化量にて操舵補助力を補正することにより、左右操舵輪の駆動力の差に起因するトルクステアを低減する操舵補助力制御装置が既に知られている。
特開2004−196069号公報
しかし上述の如き従来の操舵補助力制御装置に於いては、左右操舵輪の駆動力に基づいて左右操舵輪の駆動力差が演算され、左右操舵輪の駆動力差に基づいて操舵反力の変化量、即ち補正操舵補助力が演算され、操舵反力の変化量にて操舵補助力が補正されるようになっているため、例えば車輌の旋回時の走行安定性を向上させるべく車輌の規範旋回状態量と車輌の実際の旋回状態量との偏差に基づいて車輌に付与すべき目標ヨーモーメントが演算され、目標ヨーモーメントに基づいて左右輪の駆動力の差が制御される場合に、操舵補助力の補正が遅れることに起因してトルクステアを効果的に且つ確実に低減することができない場合がある。
本発明は、左右操舵輪の駆動力に基づいて左右操舵輪の駆動力差が演算され、左右操舵輪の駆動力差に基づいて操舵反力の変化量が演算されるよう構成された従来の操舵補助力制御装置に於ける上述の如き問題に鑑みてなされたものであり、本発明の主要な課題は、車輌の旋回時の走行安定性を向上させるべく車輌の規範旋回状態量と車輌の実際の旋回状態量との偏差に基づいて車輌に付与すべき目標ヨーモーメントが演算され、目標ヨーモーメントに基づいて左右輪の駆動力の差が制御される車輌に於いて、目標ヨーモーメントに基づいて操舵補助力の補正量を演算することにより、操舵補助力の補正が遅れることなくトルクステアを効果的に且つ確実に低減することである。
上述の主要な課題は、本発明によれば、請求項1の構成、即ち目標操舵補助力を演算し前記目標操舵補助力に基づいて操舵補助力発生手段を制御する手段と、車輌の規範旋回状態量と車輌の実際の旋回状態量との偏差に基づいて車輌に付与すべき目標ヨーモーメントを演算する手段と、前記目標ヨーモーメントに基づいて左右輪の駆動力の差を制御する手段とを有する車輌の操舵補助力制御装置に於いて、前記駆動力の差の制御による左右操舵輪の駆動力の差に起因して生じる操舵反力の変化を低減する操舵補助力の補正量を前記目標ヨーモーメントに基づいて演算し、前記操舵補助力の補正量にて前記目標操舵補助力を補正する目標操舵補助力補正手段を有することを特徴とする車輌の操舵補助力制御装置によって達成される。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1の構成に於いて、前記目標操舵補助力補正手段は前記目標ヨーモーメントと前記左右操舵輪のキングピンオフセット量との積に基づいて前記操舵補助力の補正量を演算するよう構成される(請求項2の構成)。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1又は2の構成に於いて、前記左右操舵輪の各々に対応してばね上に駆動力発生手段が設けられ、各駆動力発生手段よりドライブシャフトを介して前記左右操舵輪へ駆動力が伝達され、前記目標操舵補助力補正手段は前記ドライブシャフトのジョイント角及び前記左右操舵輪のキャンバ角に基づいて前記操舵補助力の第二の補正量を演算し、前記目標ヨーモーメントに基づく前記操舵補助力の補正量及び前記第二の補正量にて前記目標操舵補助力を補正するよう構成される(請求項3の構成)。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項3の構成に於いて、前記目標操舵補助力補正手段は車輌の横加速度に基づいて前記ドライブシャフトのジョイント角若しくは前記左右操舵輪のキャンバ角を推定するよう構成される(請求項4の構成)。
上記請求項1の構成によれば、駆動力の差の制御による左右操舵輪の駆動力の差に起因して生じる操舵反力の変化を低減する操舵補助力の補正量が目標ヨーモーメントに基づいて演算され、操舵補助力の補正量にて目標操舵補助力が補正されるので、車輌の規範旋回状態量と車輌の実際の旋回状態量との偏差に基づいて車輌に付与すべき目標ヨーモーメントが演算され、目標ヨーモーメントに基づいて左右輪の駆動力が制御される車輌に於いて、左右操舵輪の駆動力に基づいて左右操舵輪の駆動力差が演算され、左右操舵輪の駆動力差に基づいて操舵反力の変化量が演算され、操舵反力の変化量にて操舵補助力が補正される場合に比して、操舵反力の変化量を早期に演算することができ、これにより操舵補助力の補正が遅れることなくトルクステアを効果的に且つ確実に低減することができる。
一般に、操舵輪に駆動力が作用すると、操舵輪にはキングピン軸の周りにモーメントが作用するので、左右操舵輪の駆動力に差が与えられると、左右操舵輪のモーメントの差に相当するトルクが操舵反力の変化となる。図9は左の操舵輪100に駆動力Flが作用する状況を示しており、キングピンオフセット量Lkpとすると、左の操舵輪のキングピン軸102の周りに作用するモーメントMkplは下記の式1により表わされる。図には示されていないが、右の操舵輪に駆動力Frが作用する場合に右の操舵輪のキングピン軸の周りに作用するモーメントMkprは下記の式2により表わされる。
Mkpl=LkpFl ……(1)
Mkpr=LkpFr ……(2)
よって車輌の左旋回方向のヨーモーメントを正とすると、左右の操舵輪に駆動力Fl、Frが作用する状況に於いて左右の操舵輪より操舵系に付与されるトルクMkpは下記の式3により表わされる。
Mkp=Lkp(Fr−Fl) ……(3)
車輌の旋回走行を安定化させるべく左右操舵輪の駆動力差により車輌に付与されるべき目標ヨーモーメントをMftとし、車輌のトレッドDとすると、上記式3を下記の式4の通り変形することができる。
Mkp=2LkpMft/D ……(4)
上記式4にて表わされるトルクMkpは左右の操舵輪が操舵系に付与するトルクであるので、ステアリングホイールに於ける操舵反力の変化量はステアリングギヤ比をRsとして下記の式5により表わされ、操舵補助力(トルク)が下記の式5により表わされるトルクTkp分低減されれば、左右操舵輪の駆動力差に起因するトルクステアを相殺することができる。
Tkp=2LkpMft/(DRs) ……(5)
また上記請求項2の構成によれば、目標ヨーモーメントと左右操舵輪のキングピンオフセット量との積に基づいて操舵補助力の補正量が演算されるので、上記式5より解る如く、左右操舵輪の駆動力差に起因するトルクステアを相殺することができる。
また一般に、左右操舵輪の各々に対応してばね上に駆動力発生手段が設けられ、各駆動力発生手段よりドライブシャフトを介して左右操舵輪へ駆動力が伝達される場合には、ドライブシャフトのジョイント角及び操舵輪のキャンバ角に起因するモーメントが操舵輪より操舵系に付与される。図10に示されている如く、操舵輪104の駆動力をFとし、操舵輪のタイヤ半径をRとし、ドライブシャフト106のジョイント角をαとし、操舵輪の104キャンバ角をβとすると、ドライブシャフトのジョイント角及び操舵輪のキャンバ角に起因するモーメントMdrは下記の式6により表わされる。尚この点については、社団法人自動車技術会より出版された「自動車技術ハンドブック」(初版)の第2分冊(設計編)の第256頁及び第257頁に記載されている。
Mdr={F/(2R)}tan{(α+β)/2} ……(6)
モーメントMdrは左右の操舵輪より操舵系に付与されるので、左右の操舵輪の駆動力をそれぞれFl、Frとし、ドライブシャフト106のジョイント角をαl、αrとし、キャンバ角をβl、βrとすると、左右の操舵輪より操舵系に付与されるモーメントMdrlrは下記の式7により表わされる。
Mdrlr={Fl/(2R)}tan{(αl+βl)/2}
−{Fr/(2R)}tan{(αr+βr)/2} ……(7)
上記式7にて表わされるトルクMdrは左右の操舵輪が操舵系に付与するトルクであるので、ステアリングホイールに於ける操舵反力の変化量Thはステアリングギヤ比をRsとして下記の式8により表わされ、操舵補助力(トルク)が下記の式8により表わされるトルクTh分低減されれば、左右操舵輪に駆動力差がある状況に於いてドライブシャフトのジョイント角及び操舵輪のキャンバ角に起因する操舵反力の変化を相殺することができる。
Th=Mdrlr/Rs ……(8)
上記請求項3の構成によれば、ドライブシャフトのジョイント角及び左右操舵輪のキャンバ角に基づいて操舵補助力の第二の補正量が演算され、目標ヨーモーメントに基づく操舵補助力の補正量及び第二の補正量にて目標操舵補助力が補正されるので、左右操舵輪の各々に対応してばね上に駆動力発生手段が設けられ、各駆動力発生手段よりドライブシャフトを介して左右操舵輪へ駆動力が伝達される車輌に於いて、キングピン軸の周りに作用するモーメントに起因するトルクステアを効果的に且つ確実に低減することができると共に、ドライブシャフトのジョイント角及び操舵輪のキャンバ角に起因する操舵反力の変化をも効果的に且つ確実に低減することができる。
また一般に、ドライブシャフトのジョイント角及び操舵輪のキャンバ角は車輪のバウンド、リバウンドにより変化するが、車輌の旋回時に於ける車輪のバウンド量及びリバウンド量は車輌のロール角により決定され、車輌のロール角は車輌の横加速度より推定可能である。よってドライブシャフトのジョイント角及び操舵輪のキャンバ角を検出しなくても、車輌の横加速度に基づいてドライブシャフトのジョイント角及び操舵輪のキャンバ角を推定することができる。
上記請求項4の構成によれば、車輌の横加速度に基づいてドライブシャフトのジョイント角若しくは左右操舵輪のキャンバ角が推定されるので、ドライブシャフトのジョイント角及び操舵輪のキャンバ角を検出する手段を要することなくドライブシャフトのジョイント角及び操舵輪のキャンバ角を推定することができる。
〔課題解決手段の好ましい態様〕
本発明の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1又は2の構成に於いて、目標操舵補助力補正手段は目標操舵補助力より操舵補助力の補正量を減算することにより補正後の操舵補助力を演算し、操舵補助力発生手段を制御する手段は補正後の操舵補助力に基づいて操舵補助力発生手段を制御するよう構成される(好ましい態様1)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1又は2又は上記好ましい態様1の構成に於いて、車輌は四輪駆動車であり、前輪が操舵輪であり、左右輪の駆動力の差を制御する手段は目標ヨーモーメントに基づいて前輪の目標ヨーモーメント及び後輪の目標ヨーモーメントを演算し、前輪の目標ヨーモーメントに基づいて左右前輪の駆動力の差を制御し、後輪の目標ヨーモーメントに基づいて左右後輪の駆動力の差を制御し、目標操舵補助力補正手段は前輪の目標ヨーモーメントに基づいて操舵補助力の補正量を演算するよう構成される(好ましい態様2)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1又は2又は上記好ましい態様1の構成に於いて、車輌は前輪駆動車であり、前輪が操舵輪であり、左右輪の駆動力の差を制御する手段は目標ヨーモーメントに基づいて左右前輪の駆動力の差を制御し、目標操舵補助力補正手段は目標ヨーモーメントに基づいて操舵補助力の補正量を演算するよう構成される(好ましい態様3)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様2の構成に於いて、目標操舵補助力補正手段は上記式5に従って操舵補助力の補正量を演算するよう構成される(好ましい態様4)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様3の構成に於いて、目標操舵補助力補正手段は車輌に付与されるべき目標ヨーモーメントをMtとして、上記式5に対応する下記の式9に従って操舵補助力の補正量を演算するよう構成される(好ましい態様5)。
Tkp=2LkpMt/(DRs) ……(9)
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項3又は4の構成に於いて目標操舵補助力補正手段は目標操舵補助力より操舵補助力の補正量及び第二の補正量を減算することにより補正後の操舵補助力を演算し、操舵補助力発生手段を制御する手段は補正後の操舵補助力に基づいて操舵補助力発生手段を制御するよう構成される(好ましい態様6)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項3又は4又は上記好ましい態様6の構成に於いて、目標操舵補助力補正手段は左右操舵輪の駆動力、左右操舵輪のドライブシャフトのジョイント角、左右操舵輪のキャンバ角に基づいて操舵補助力の第二の補正量を演算するよう構成される(好ましい態様7)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記3又は4又は上記好ましい態様6又は7の構成に於いて、目標操舵補助力補正手段は上記式7及び8に従って操舵補助力の第二の補正量を演算するよう構成される(好ましい態様8)。
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を幾つかの好ましい実施例について詳細に説明する。
図1はインホイールモータ式の四輪駆動車に適用された本発明による車輌の操舵補助力制御装置の実施例1を示す概略構成図である。
図1に於いて、10FL及び10FRはそれぞれ操舵輪である左右の前輪を示し、10RL及び10RRはそれぞれ非操舵輪である左右の後輪を示している。左右の前輪10FL及び10FRにはそれぞれインホイールモータである電動機12FL及び12FRが組み込まれており、左右の前輪10FL及び10FRは電動機12FL及び12FRにより直接駆動される。電動機12FL及び12FRは制動時にはそれぞれ左右前輪の回生発電機としても機能し、左右の前輪10FL及び10FRに直接回生制動力を付与するようになっていてよい。
同様に、左右の後輪10RL及び10RRにはそれぞれインホイールモータである電動機12RL及び12RRが組み込まれており、左右の前輪10RL及び10RRは電動機12RL及び12RRにより直接駆動される。電動機12RL及び12RRも制動時にはそれぞれ左右後輪の発電機としても機能し、左右の後輪10RL及び10RRに直接回生制動力を付与するようになっていてよい。
図示の実施例に於いては、左右の前輪10FL及び10FRは運転者によるステアリングホイール14の転舵に応答して駆動されるラック・アンド・ピニオン式の電動式パワーステアリング装置16によりタイロッド18L及び18Rを介して操舵される。電動式パワーステアリング装置16は電動機22と、電動機22の回転トルクをラックバー24の往復動方向の力に変換する例えばボールねじ式の変換機構26とを有し、ハウジング28に対し相対的にラックバー24を駆動する補助転舵力を発生することにより、運転者の操舵負担を軽減する操舵補助力としてのアシストトルクを発生する。
電動機12FL〜12RRの駆動力はアクセル開度センサ30により検出されるアクセルペダル32の踏み込み量としてのアクセル開度φに基づき駆動力制御用電子制御装置34により制御され、電動式パワーステアリング装置16のアシストトルクは電動パワーステアリング(PS)制御用電子制御装置36により制御される。
尚図1には詳細に示されていないが、駆動力制御用電子制御装置34及び電動パワーステアリング制御用電子制御装置36はそれぞれマイクロコンピュータと駆動回路とよりなり、マイクロコンピュータは例えばCPUと、ROMと、RAMと、入出力ポート装置とを有し、これらが双方向性のコモンバスにより互いに接続された一般的な構成のものであってよい。また駆動力制御用電子制御装置34及び電動パワーステアリング制御用電子制御装置36は相互に必要な情報の授受を行う。
駆動力制御用電子制御装置34にはアクセル開度センサ30よりアクセル開度φを示す信号、ヨーレートセンサ38より車輌のヨーレートγを示す信号、横加速度センサ40より車輌の横加速度Gyを示す信号が入力される。電動パワーステアリング制御用電子制御装置36には操舵角センサ44より操舵角θを示す信号、トルクセンサ46より操舵トルクTsを示す信号、車速センサ48より車速Vを示す信号が入力される。尚ヨーレートセンサ38、横加速度センサ40、操舵角センサ44、トルクセンサ46は車輌の左旋回時の値を正としてそれぞれヨーレートγ、横加速度Gy、操舵角θ、操舵トルクTsを検出する。
駆動力制御用電子制御装置34は、アクセル開度φに基づき車輌全体の目標駆動力Fvtを演算すると共に、車速V及び操舵角θに基づいて当技術分野に於いて公知の要領にて車輌の目標ヨーレートγtを演算し、車輌の実際のヨーレートγと目標ヨーレートγtとの偏差Δγを演算する。そしてヨーレート偏差Δγの大きさが基準値Δγo(正の定数)以下であるときには、前輪及び後輪により車輌に付与されるべき目標ヨーモーメントMft及びMrtを0に設定し、車輌全体の目標駆動力Fvtを所定の前後配分比にて前後輪に配分すると共に左右輪に均等に配分することにより各車輪の目標駆動力Fwti(i=fl、fr、rl、rr)を演算し、各車輪の駆動力が対応する目標駆動力Fwtiになるよう制御する。
これに対し駆動力制御用電子制御装置34は、ヨーレート偏差Δγの大きさが基準値Δγoよりも大きいときには、ヨーレート偏差Δγの大きさを低減するために車輌に付与されるべき目標ヨーモーメントMtをヨーレート偏差Δγに基づいて当技術分野に於いて公知の要領にて演算し、車輌全体の目標駆動力Fvt及び目標ヨーモーメントMtを所定の前後配分比にて前後輪に配分することにより左右前輪の目標駆動力Fvft、目標ヨーモーメントMft及び左右後輪の目標駆動力Fvrt、目標ヨーモーメントMrtを演算し、これらに基づいて各車輪の目標駆動力Fwti(i=fl、fr、rl、rr)を演算し、各車輪の駆動力が対応する目標駆動力Fwtiになるよう制御する。
また電動パワーステアリング制御用電子制御装置36は、駆動力制御用電子制御装置34より前輪により車輌に付与されるべき目標ヨーモーメントMftを示す信号を受信すると共に、操舵トルクTs及び車速Vに基づき運転者の操舵負担を軽減するための基本アシストトルクTabを演算する。そして電動パワーステアリング制御用電子制御装置36は、目標ヨーモーメントMftに基づき上記式5に従って目標ヨーモーメントMftに基づくアシストトルクの補正量Tkpを演算し、基本アシストトルクTabよりアシストトルクの補正量Tkpを減算した値を補正後の目標アシストトルクTaとして演算し、アシストトルクが補正後の目標アシストトルクTaとなるよう電動式パワーステアリング装置16を制御する。
次に図2に示されたフローチャートを参照して図示の実施例1に於いて電動パワーステアリング制御用電子制御装置36により達成されるアシストトルク制御について説明する。尚図2に示されたフローチャートによる制御は電動パワーステアリング制御用電子制御装置36が起動されることにより開始され、図には示されていないイグニッションスイッチがオフに切り換えられるまで所定の時間毎に繰返し実行される。
まずステップ10に於いては操舵角θを示す信号等の読み込みが行われ、ステップ20に於いては操舵トルクTsの大きさが大きいほど基本アシストトルクTab′の大きさが大きくなるよう、操舵トルクTsに基づき図4に示されたグラフに対応するマップより基本アシストトルクTab′が演算される。
ステップ30に於いては車速Vが高いほど車速係数Kvが小さくなるよう、車速Vに基づき図5に示されたグラフに対応するマップより車速係数Kvが演算され、車速係数Kvと基本アシストトルクTab′との積として補正後の基本アシストトルクTabが演算される。
ステップ60に於いては目標ヨーモーメントMftに基づき上記式5に従って目標ヨーモーメントMftに基づくアシストトルクの補正量Tkpが演算され、ステップ70に於いては下記の式10に従って補正後の目標アシストトルクTaが演算され、ステップ100に於いてはアシストトルクが補正後の目標アシストトルクTaとなるよう電動式パワーステアリング装置16が制御される。
Ta=Tab−Tkp ……(10)
かくして図示の実施例1によれば、ステップ20及び30に於いて運転者の操舵負担を軽減するための基本アシストトルクTabが演算され、ステップ60に於いて目標ヨーモーメントMftに基づき目標ヨーモーメントMftに基づくアシストトルクの補正量Tkp、即ち目標ヨーモーメントMftに基づく左右前輪の駆動力の制御に起因してトルクステアを発生させるトルクが演算され、ステップ70に於いて基本アシストトルクTabよりアシストトルクの補正量Tkpを減算した値として補正後の目標アシストトルクTaが演算され、ステップ100に於いてアシストトルクが補正後の目標アシストトルクTaとなるよう電動式パワーステアリング装置16が制御される。
従って図示の実施例1によれば、電動パワーステアリング制御用電子制御装置36が駆動力制御用電子制御装置34より受信する信号は左右前輪の駆動力Ffl及びFfrではなく、左右前輪の駆動力の差による目標ヨーモーメントMftであり、駆動力制御用電子制御装置34が左右前輪の目標駆動力Fvft及び目標ヨーモーメントMftに基づいて左右前輪の駆動力Ffl及びFfrを演算する前に、電動パワーステアリング制御用電子制御装置36は左右前輪の駆動力の差による目標ヨーモーメントMftに基づいてアシストトルクの補正量Tkpを演算することができ、これにより左右前輪の駆動力Ffl及びFfrに基づいてアシストトルクの補正量Tkpが演算される場合に比して、駆動力制御用電子制御装置34が左右前輪の目標駆動力Fvft及び目標ヨーモーメントMftに基づいて左右前輪の駆動力Ffl及びFfrを演算するに要する時間分早くアシストトルクの補正量Tkpを演算することができ、これにより操舵補助力の補正が遅れることなくトルクステアを効果的に且つ確実に低減することができる。
また図示の実施例1によれば、目標ヨーモーメントMftに基づきキングピンオフセット量Lkpと目標ヨーモーメントMftとの積を含む上記式5に従ってアシストトルクの補正量Tkpが演算されるので、目標ヨーモーメントMftに基づいて左右前輪の駆動力Ffl及びFfrが演算され、左右前輪の駆動力Ffl及びFfrに基づいてアシストトルクの補正量Tkpが演算される場合に比してアシストトルクの補正量Tkpを早期に演算することができる。
尚図示の実施例1に於いては、駆動力発生源はインホイールモータである電動機12FL〜12RRであるが、各駆動力発生源は対応する車輪に直接駆動力を付与し得る限り、電動機以外の駆動力発生源であってもよい。
図3は車体に搭載された各電動機がドライブシャフトを介して各車輪に駆動力を付与するよう構成された四輪駆動車に適用された本発明による車輌の操舵補助力制御装置の実施例2を示す概略構成図である。尚図3に於いて図1に示された部材と同一の部材には図1に於いて付された符号と同一の符号が付されている。
この実施例2に於いては、電動機12FL〜12RRは車体に搭載され、電動機12FL〜12RRの出力軸は両端にユニバーサルジョイント50FL〜50RR及び52FL〜52RRを有するドライブシャフト54FL〜54RRを介してそれぞれ車輪10FL〜10RRの回転軸56FL〜56RRに連結され、これにより電動機12FL〜12RRの駆動力はドライブシャフト54FL〜54RRを介してそれぞれ車輪10FL〜10RRへ伝達される。
またこの実施例2に於いては、電動パワーステアリング制御用電子制御装置36は、駆動力制御用電子制御装置34より左右前輪の駆動力Fl、Frを示す信号及び左右前輪の駆動力差により車輌に付与されるべき目標ヨーモーメントMftを示す信号を受信し、目標ヨーモーメントMftに基づき上記式5に従って目標ヨーモーメントMftに基づくアシストトルクの補正量Tkpを演算する。
また電動パワーステアリング制御用電子制御装置36は、車輌の横加速度Gyに基づきそれぞれ図7及び図8に示されたグラフに対応するマップより操舵輪である左右前輪のドライブシャフト54FL及び54FRのジョイント角αfl、αfr及びキャンバ角βfl、βfrを演算し、左右前輪の駆動力Ffl及びFfr、左右前輪のユニバーサルジョイント50FL及び50FRのジョイント角αfl及びαfr、左右前輪のキャンバ角βfl、βfrに基づいて上記式7に対応する下記の式11及び上記式8に従ってドライブシャフトのジョイント角及び操舵輪のキャンバ角に起因する操舵反力の変化量Thを演算する。
Mdrlr={Ffl/(2R)}tan{(αfl+βfl)/2}
−{Ffr/(2R)}tan{(αfr+βfr)/2} ……(11)
更に電動パワーステアリング制御用電子制御装置36は基本アシストトルクTabよりアシストトルクの補正量Tkp及び操舵反力の変化量Thを減算した値を補正後の目標アシストトルクTaとして演算し、アシストトルクが補正後の目標アシストトルクTaとなるよう電動式パワーステアリング装置16を制御する。
尚この実施例2に於いて駆動力制御用電子制御装置34により達成されるアクセル開度φに基づく各車輪の駆動力の制御及びヨーレート偏差Δγに基づく左右輪の駆動力差の制御は上述の実施例1の場合と同様である。
次に図4に示されたフローチャートを参照して実施例2に於いて電動パワーステアリング制御用電子制御装置36により達成されるアシストトルク制御ルーチンについて説明する。尚図4に於いて図2に示されたステップと同一のステップには図2に於いて付されたステップ番号と同一のステップ番号が付されている。また図4に示されたフローチャートによる制御も電動パワーステアリング制御用電子制御装置36が起動されることにより開始され、図には示されていないイグニッションスイッチがオフに切り換えられるまで所定の時間毎に繰返し実行される。
この実施例2に於いては、ステップ10〜30及びステップ60、100は上述の実施例1の場合と同様に実行され、ステップ30が完了するとステップ40へ進み、ステップ40に於いては車輌の横加速度Gyに基づいて図7に示されたグラフに対応するマップより左右前輪のドライブシャフト54FL及び54FRのジョイント角αfl、αfrが演算され、ステップ50に於いては車輌の横加速度Gyに基づいて図8に示されたグラフに対応するマップより左右前輪のキャンバ角βfl、βfrが演算される。
ステップ60に於いては上述の実施例1の場合と同様に、目標ヨーモーメントMftに基づき上記式5に従って目標ヨーモーメントMftに基づくアシストトルクの補正量Tkpが演算され、ステップ80に於いては上記式10に従って左右前輪のドライブシャフト54FL及び54FRのジョイント角αfl、αfr及びキャンバ角βfl、βfrに基づくモーメントMdrlrが演算されると共に、上記式8に従ってモーメントMdrlrに起因する操舵反力の変化量Thが演算される。
ステップ90に於いては下記の式12に従って基本アシストトルクTabより目標ヨーモーメントMftに基づくアシストトルクの補正量Tkp及びモーメントMdrlrに起因する操舵反力の変化量Thが減算された値として補正後の目標アシストトルクTaが演算される。
Ta=Tab−Tkp−Th ……(12)
かくして図示の実施例2によれば、基本アシストトルクTabが目標ヨーモーメントMftに基づくアシストトルクの補正量Tkpにて減算補正されるので、上述の実施例1の場合と同様、駆動力制御用電子制御装置34が左右前輪の目標駆動力Fvft及び目標ヨーモーメントMftに基づいて左右前輪の駆動力Ffl及びFfrを演算するに要する時間分早くアシストトルクの補正量Tkpを演算することができ、これにより操舵補助力の補正が遅れることなくトルクステアを効果的に且つ確実に低減することができるだけでなく、基本アシストトルクTabが左右前輪のジョイント角αfl、αfr及びキャンバ角βfl、βfrに基づくモーメントMdrlrに起因する操舵反力の変化量Thにて減算補正されるので、左右前輪が車体に搭載された電動機12FL、12FRによりドライブシャフト54FL、54FRを介して駆動される車輌に於いて、左右前輪のジョイント角及びキャンバ角に起因する操舵反力の変化を確実に且つ効果的に相殺することができる。
特に図示の実施例2によれば、左右前輪のジョイント角αl、αr及びキャンバ角βl、βrは車輌の横加速度Gyに基づいてそれぞれ図7及び図8に示されたグラフに対応するマップより演算されるので、ジョイント角やキャンバ角を検出するセンサは不要であり、車輌の他の制御に使用される横加速度センサ40の検出値を有効に利用してジョイント角及びキャンバ角を推定することができる。
尚図示の実施例2に於いては、駆動力発生源は車体に搭載された電動機12FL〜12RRであるが、各駆動力発生源はドライブシャフトを介して対応する車輪に駆動力を付与し得る限り、電動機以外の駆動力発生源であってもよい。またこの実施例2に於ける駆動力発生源は左右輪間にて駆動力配分の制御が可能に左右輪を駆動する内燃機関やハイブリッドシステムの如く当技術分野に於いて公知の任意の駆動力発生源であってよい。
以上に於いては本発明を特定の実施例について詳細に説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施例が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
例えば上述の実施例1及び2に於いては、車輌は各車輪に対応して駆動力発生源としての電動機12FL〜12RRが個別に設けられた四輪駆動車であるが、本発明の操舵補助力制御装置は操舵輪である左右前輪にのみ駆動力発生源が設けられた前輪駆動車に適用されてもよく、その場合にはアシストトルクの補正量Tkpは上記式9に従って演算される。
また上述の実施例1及び2に於いては、車輌の実際のヨーレートγと目標ヨーレートγtとの偏差としてヨーレート偏差Δγが演算され、ヨーレート偏差Δγの大きさが基準値Δγoよりも大きいときには、ヨーレート偏差Δγの大きさを低減するために車輌に付与されるべき目標ヨーモーメントMtがヨーレート偏差Δγに基づいて演算されるようになっているが、目標ヨーモーメントMtは車輌の規範旋回状態量と車輌の実際の旋回状態量との偏差に基づいて車輌に付与すべき目標ヨーモーメントである限り、当技術分野に於いて公知の任意の要領にて演算されてよい。
また上述の実施例2に於いては、左右前輪のジョイント角αl、αr及びキャンバ角βl、βrは車輌の横加速度Gyに基づいて演算されるようになっているが、車速及び操舵角に基づいて演算される推定横加速度に基づいて演算されてもよく、また車高センサが搭載された車輌の場合には左右前輪の車高差に基づいて演算されてもよい。
インホイールモータ式の四輪駆動車に適用された本発明による車輌の操舵補助力制御装置の実施例1を示す概略構成図である。
実施例1に於いて電動パワーステアリング制御用電子制御装置により達成されるアシストトルク制御ルーチンを示すフローチャートである。
車体に搭載された各電動機がドライブシャフトを介して各車輪に駆動力を付与するよう構成された四輪駆動車に適用された本発明による車輌の操舵補助力制御装置の実施例2を示す概略構成図である。
実施例2に於いて電動パワーステアリング制御用電子制御装置により達成されるアシストトルク制御ルーチンを示すフローチャートである。
操舵トルクTsと基本アシストトルクTab′との間の関係を示すグラフである。
車速Vと車速係数Kvとの間の関係を示すグラフである。
車輌の横加速度Gyと左右前輪のドライブシャフトのジョイント角αfl、αfrとの間の関係を示すグラフである。
車輌の横加速度Gyと左右前輪のキャンバ角βfl、βfrとの間の関係を示すグラフである。
左の操舵輪に駆動力Flが作用する状況及び該駆動力によるモーメントを示す平面図(A)及び背面図(B)である。
ばね上に設けられた駆動力発生手段よりドライブシャフトを介して操舵輪へ駆動力が伝達される車輌を示す説明図である。
符号の説明
12FL〜12RR 電動機
16 電動式パワーステアリング装置
30 アクセル開度センサ
32 アクセルペダル
34 駆動力制御用電子制御装置
36 電動パワーステアリング(PS)制御用電子制御装置
38 ヨーレートセンサ
40 横加速度センサ
44 操舵角センサ
46 トルクセンサ
48 車速センサ
54FL〜54RR ドライブシャフト