以下、本発明の実施の形態にかかる薄膜圧電体素子について図面を用いて具体的に説明する。なお、図面については、同じ構成要素については同じ符号を付しているので説明を省略する場合がある。
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1にかかる薄膜圧電体素子54とその製造方法、これを用いたアクチュエータおよびディスク装置について説明する。
図1は、本発明の一対の素子部54A、54Bからなる薄膜圧電体素子54を用いたアクチュエータの平面図を示す。このアクチュエータは種々のディスク装置において、記録再生ヘッドをディスクの所定位置に精度良く位置決めするために用いられる。
本実施の形態では、このアクチュエータを磁気ディスク記録再生装置に用いる場合について説明する。磁気ディスク記録再生装置では、このアクチュエータは磁気ヘッドが取り付けられたヘッドスライダを微動させて、磁気ヘッドをディスク上の所定のトラック位置に高精度に微小位置決めするために用いられる。
図1に示す薄膜圧電体素子54は2個の素子部54A、54Bを備えている。これら一対の素子部54A、54Bは102−102線に対して互いが鏡像の関係となっている。さらに、これらの素子部54A、54Bは、主に圧電体として機能する圧電機能領域106と、主に外部回路と接続するための電極取り出し領域108とでそれぞれ構成されている。
これら一対の素子部54A、54Bは、接着樹脂層(図示せず)により支持部材であるフレクシャー460に接着固定されている。接着固定後、素子部54A、54Bに設けられた第1接続配線8および第2接続配線9からなる接続電極パッドとフレクシャー460に設けられた圧電体電極パッド464とを、例えばワイヤリード467で接続して、ヘッドを微小位置決めするためのアクチュエータが構成される。
フレクシャー460は、薄膜圧電体素子54を接着している領域から延在してヘッドスライダ(図示せず)を固定するためのスライダ保持部461を有している。このスライダ保持部461には、ヘッドスライダ(図示せず)に搭載されている磁気ヘッド(図示せず)の電極端子と接続するためのヘッド電極パッド462が設けられている。このヘッド電極パッド462からは、ヘッド電極配線463が薄膜圧電体素子54間のフレクシャー460上を引き回され、圧電体電極パッド464から引き回された圧電体電極配線465と同様に外部機器との接続パッド(図示せず)まで引き回されている。
このような構成のアクチュエータの動作について説明する。薄膜圧電体素子54の一対の素子部54A、54Bの各々に逆極性の電圧を印加すれば、図2に例示するように一方の素子部54Aが伸長すると、もう一方の素子部54Bは収縮する。これら2つの逆平行方向の変位がスライダ保持部461に作用し、スライダ保持部461はその合力を受けて104−104線の方向に微動する。このような微動を高精度で制御することで、磁気ヘッドをディスク(図示せず)上の所定のトラック位置に高精度で位置決めすることができる。例えば、それぞれの素子部54A、54Bの各々の圧電体薄膜の厚さを2.5μmとし、それぞれの主電極膜と対向電極膜間に±5Vの逆位相の電圧を印加すれば、104−104方向のヘッドの変位量を±0.8μmとすることも可能である。
このアクチュエータを用いた磁気ディスク記録再生装置についての要部斜視図を図3に示す。磁気ディスク902が主軸901に固定され、回転手段903により矢印Aで示される方向に所定の回転数で回転駆動される。この回転手段としては、一般的にスピンドルモータが使用される。磁気ディスク902に対向する面側にフレクシャー(図示せず)が設けられたサスペンション906がアーム907に固定されている。このアーム907は軸受部908で回転自在に軸支されている。ヘッドスライダ904はフレクシャーに固定されている。また、支持部材であるフレクシャーに一対の薄膜圧電体素子54も固定されており、このフレクシャーと薄膜圧電体素子54とでアクチュエータ905が構成されている。
第1の位置決め手段909であるVCMによりアーム907を揺動させ、ヘッドスライダ904を磁気ディスク902の所定のトラック位置に位置決めする。従来の磁気ディスク記録再生装置では、位置決めをこの第1の位置決め手段909であるVCMのみで行なっていた。しかし、本実施の形態では、上述したようなアクチュエータ905によりヘッドスライダ904をさらに微動させてより精密な位置決めを行なう。このアクチュエータ905の微動は薄膜圧電体素子54に印加する電圧により制御できるので、微小なトラック位置にも充分追従させることができる。この結果、さらに高密度の記録再生が可能となる。なお、磁気ディスク記録再生装置は、筐体910と図示しない蓋とにより全体が覆われ、外気から密封されている。
このアクチュエータの断面構造を図4に示す。図4は、図1に示す100−100線に沿った断面形状を示している。
本実施の形態にかかる薄膜圧電体素子54は、図1およびその説明からわかるように、102−102線に対して鏡面対称形状である。また、それぞれの素子部54A、54Bは、第1主電極膜2と第1対向電極膜5とで挟まれた第1圧電体薄膜3と、第2主電極膜12と第2対向電極膜15とで挟まれた第2圧電体薄膜13とが、第1対向電極膜5および第2対向電極膜15間を導電性の接着層20を介して接着固定され、かつ、それらの厚みと同じ厚みの絶縁層6により外周部が保護され、この絶縁層6および第2主電極膜12上に絶縁保護膜18が形成された構造からなる。
さらに、主に圧電体として機能する圧電機能領域106では、第1主電極膜2、第1対向電極膜5、第1圧電体薄膜3、第2主電極膜12、第2対向電極膜15および第2圧電体薄膜13は、すべてがほぼ同じ形状に加工されている。
なお、絶縁層6は、第1圧電体薄膜3や第2圧電体薄膜13等を保護し、かつ第1接続配線8が第1対向電極膜5、第2対向電極膜15および接着層20と接触してショートすることを防止している。本実施の形態では、この絶縁層6は樹脂材料を用いているので、以下では絶縁性樹脂層6とよぶ。
電極取り出し領域108においても、全体形状は第1主電極膜2と第1対向電極膜5とで挟まれた第1圧電体薄膜3と、第2主電極膜12と第2対向電極膜15とで挟まれた第2圧電体薄膜13とが、第1対向電極膜5および第2対向電極膜15間を導電性の接着層20により物理的および電気的に接続された構成である。
しかし、素子部54A、54B同士が対向する内周側とは反対の外周側には、第1主電極膜2の一部が延在されて第1圧電体薄膜3より突出した第1主電極膜突出部21が形成されている。絶縁性樹脂層6には、この第1主電極膜突出部21まで到達する第1開口部62が形成されており、この第1開口部62を介して第1主電極膜突出部21と第2主電極膜12とが第1接続配線8により電気的に接続されている。
一方、素子部54A、54B同士が対向する内周側では、第2主電極膜12、第2圧電体薄膜13および第2対向電極膜15の一部が切り欠かれて、第1対向電極膜5よりも幅狭に形成されている。これにより、第1対向電極膜5が露出する領域ができる。この露出領域を以下では、第1対向電極膜突出部51とよぶ。絶縁性樹脂層6には、この第1対向電極膜突出部51まで到達する第2開口部64が形成されており、この第2開口部64を介して第1対向電極膜5に接続された第2接続配線9が絶縁保護膜18の表面にまで形成されている。
なお、第1対向電極膜5と第2対向電極膜15とは、導電性の接着層20で接合されているので第2対向電極膜15についても同様に第2接続配線9に接続されていることになる。また、2個の素子部54A、54B間を連結する連結部70が絶縁性樹脂層6により形成されており、両者が一体化されている。
第1接続配線8と第2接続配線9とは、図1に示すように圧電体電極パッド464と接続するための接続電極パッドも兼ねている。このようにして薄膜圧電体素子54が構成されている。
この薄膜圧電体素子54が接着樹脂層458によりフレクシャー460に接着固定される。この接着樹脂層458には、市販の一液性常温硬化型エポキシ樹脂や二液性の接着剤、ウレタン系樹脂等を用いることができる。
なお、薄膜圧電体素子54としては、第1接続配線8と第2接続配線9とを保護するための保護膜を形成して、所定領域に開口部を設けて接続電極パッドとしてもよい。このようにすることにより、第1接続配線8と第2接続配線9とを外部環境から保護できるので、さらに信頼性を向上することができる。
以下、本実施の形態の薄膜圧電体素子54の製造方法について、図面に基づき詳細に説明する。図5から図8までは、本実施の形態の薄膜圧電体素子54の製造方法における主要工程を説明する図である。本実施の形態の薄膜圧電体素子54では、圧電体電極パッド464と接続するための配線接続構成に特徴を有するので、図1に示す100−100線に沿った断面形状により工程を説明する。
まず、第1の基板1上における薄膜の形成とその加工について、図5を用いて説明する。
図5(a)は、第1の基板1上に第1主電極膜2と第1圧電体薄膜3を積層した後、この第1圧電体薄膜3を所定の形状にエッチング加工した状態を示す。
第1圧電体薄膜3は良好な圧電特性を要求されることから、第1の基板1や圧電体薄膜とする材料およびその成膜条件の設定が重要である。例えば、第1の基板1として酸化マグネシウム単結晶基板(MgO基板)を用い、このMgO基板上に第1主電極膜2としてC軸配向した白金膜(Pt膜)をスパッタリングで形成する。その後、このPt膜上に、例えばチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)膜をスパッタリングで形成すれば、圧電特性の良好な薄膜が得られる。なお、このPZT膜形成時にMgO基板の温度を約600℃として成膜することで、膜面に垂直方向に分極配向したPZT膜が得られる。
なお、第1の基板1としては、上記のMgO基板のみでなく、チタン酸ストロンチウム基板、サファイヤ基板、あるいはシリコン単結晶基板(Si基板)を用いてもよい。また、第1主電極膜2としても、Pt膜だけでなく、金(Au)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、銀(Ag)、レニウム(Re)およびパラジウム(Pd)のうちのいずれかの金属、あるいはその酸化物で導電性を有する材料を用いることもできる。さらに、圧電体薄膜としては、PZTだけでなく、チタン酸ジルコン酸ランタン酸鉛(PLZT)、チタン酸バリウム等を用いることもできる。
第1圧電体薄膜3を所定の形状にエッチング加工するためにはドライエッチングまたはウエットエッチングのどちらでも可能である。特に、ウエットエッチングは装置が簡単で、しかも短時間に行えるので、量産性を向上できる点で有利である。PZT膜をウエットエッチングする場合には、フッ酸と硝酸の混合液、フッ酸と硝酸と酢酸の混合液、あるいはこれらの混合液をさらに純水で希釈した液を用いればよい。このときのエッチングは第1圧電体薄膜3のみであるので、エッチングの制御が容易である。したがって、サイドエッチングを小さく、かつエッチングによる形状ばらつきも低減できる。
図5(b)は、さらに第1主電極膜2を所定形状にエッチング加工した状態を示す。このエッチング加工は、第1圧電体薄膜3をエッチングした後、第1の基板1の表面にフォトレジスト膜を塗布し、所定のフォトマスクを用いて露光、現像した後、レジストパターンをマスクとして第1主電極膜2をエッチングすることにより行う。第1主電極膜2のエッチングにおいては、その膜厚が第1圧電体薄膜3に比べて非常に薄いので、ドライエッチングあるいはウエットエッチングのいずれでも精度よくパターンを形成することができる。また、用いる電極膜の材料に応じてドライエッチングまたはウエットエッチングを選択することも可能である。
このとき、第1主電極膜2のパターン形状としては、以下のようにする。すなわち、その全体形状は第1圧電体薄膜3とほぼ同じであるが、第1圧電体薄膜3よりも大きめとして、少なくとも外周領域がやや露出するようにする。また、電極取り出し領域108では、外周側でその一部が延在されて、第1圧電体薄膜3よりも突出した第1主電極膜突出部21を形成する。このようなパターン形状は、フォトマスクを用いることで容易に得られる。
第1主電極膜2の全体形状が第1圧電体薄膜3より露出する形状とすれば、第1の基板1をエッチングして薄膜圧電体素子54を分離するときのエッチング用の薬液に対して第1圧電体薄膜3が曝されないようにできる。一般に、第1の基板1をエッチングして除去するときの薬液は、第1圧電体薄膜3もある程度侵される場合が多い。第1主電極膜2を第1圧電体薄膜3よりも幅広に形成しておけば、第1圧電体薄膜3は第1主電極膜2により保護され、上記の薬液に直接接触することがなくなる。この結果、上記の薬液で第1圧電体薄膜3が侵されることを防止できる。
なお、第1の基板の除去を研磨等で行う場合や、エッチング用の薬液が第1圧電体薄膜3を侵さない場合には、特にこのような構成とすることは不要である。
図5(c)は、第1圧電体薄膜3上に、さらに第1対向電極膜5を形成した状態を示す断面図で、図5(d)はその平面図である。第1対向電極膜5は、第1圧電体薄膜3とほぼ同じ形状であり、かつ第1主電極膜2とは電気的に接触しないように第1圧電体薄膜3の表面層上にのみ形成されている。また、本実施の形態においては、第1対向電極膜5は多層構成とされている。すなわち、上層膜52は金(Au)とし、下層膜53は第1主電極膜2と同じようにPt膜を用いている。なお、下層膜53については、第1主電極膜2と同じ材料を適宜選択して用いることができる。このような多層構成からなる第1対向電極膜5の場合であっても、フォトリソプロセスとエッチングプロセスにより所定のパターンを形成することは一般的な技術により容易にできる。
図5(c)および図5(d)からわかるように、圧電機能領域106においては、第1主電極膜2、第1圧電体薄膜3および第1対向電極膜5が同一形状であるが、第1の基板1側から階段状に積層された構成とされている。一方、電極取り出し領域108では、図示するように第1主電極膜2が一部露出した第1主電極膜突出部21が形成されている。ここまでで、第1の基板1上での膜形成とその加工が完了する。
つぎに、第2の基板11上における膜形成と加工について、図6を用いて説明する。
図6(a)は、第2の基板11上に第2主電極膜12と第2圧電体薄膜13とを積層した後、第2圧電体薄膜13を所定のパターン形状にエッチング加工した状態を示す。
図6(b)は、この第2圧電体薄膜13の下部の第2主電極膜12を同様に所定のパターン形状にエッチング加工した状態を示す。この第2主電極膜12のパターン形状は、第2圧電体薄膜13と全体の形状は同じであるが、第2圧電体薄膜13よりやや露出した形状としてある。これは、第1の基板1上の第1圧電体薄膜3と第1主電極膜2とのパターンの構成と同じである。
図6(c)は、第2圧電体薄膜13上に第2対向電極膜15を形成した状態を示す。第2対向電極膜15の全体的な形状は第2圧電体薄膜13と同じであるが、第2主電極膜12と電気的に接触することがないように第2圧電体薄膜13の表面上にのみ形成されている。この第2対向電極膜15も多層構成からなり、上層膜151はスズ(Sn)で、下層膜152はPt膜としてある。
なお、第2の基板11としては第1の基板1と同じものを用いることができる。さらに、この第2の基板11上に形成する第2主電極膜12と第2圧電体薄膜13とは、第1の基板1上に形成した材料および成膜方法をそのまま用いて形成することができる。
図6(d)は、図6(c)に示す加工状態の平面図である。第2主電極膜12、第2圧電体薄膜13および第2対向電極膜15のパターン形状は、全体形状としてはすべてほぼ同じであるが、第2の基板11側から階段状に形成されており、表面側からみると外周部では第2圧電体薄膜13および第2主電極膜12がそれぞれ露出している。このような形状とすることで、第2主電極膜12と第2対向電極膜15とが電気的に接触することがなくなる。さらに、第2の基板11をエッチング除去するときに、第2圧電体薄膜13がこのエッチング薬液に曝されることを防止できる。
電極取り出し領域108の外周側では、第2主電極膜12、第2圧電体薄膜13および第2対向電極膜15は、第1対向電極膜5および第1圧電体薄膜3と同じパターン形状としてある。しかし、その内周側では、第2主電極膜12、第2圧電体薄膜13および第2対向電極膜15は、角部で一部が切りかかれている。したがって、この領域部ではこれらの膜は第1対向電極膜より幅狭に形成される。このように切り欠いておくことにより、第1の基板1と第2の基板11とを貼り合わせたときに、この切り欠き領域部の第1対向電極膜5が露出して第1対向電極膜突出部51となる。
つぎに、図5(c)と図6(c)に示す加工まで完了した状態の第1の基板1と第2の基板11を貼り合わせ、薄膜圧電体素子54を作製していく工程について、図7を用いて説明する。
図7(a)は、第1対向電極膜5と第2対向電極膜15とを対向密着させて、第1対向電極膜5と第2対向電極膜15とを接合した状態を示す断面図である。この接合は、以下のようにして行なう。第1対向電極膜5の表面には、上層膜52としてAu膜が形成されている。また、第2対向電極膜15には、上層膜151としてSn膜が形成されている。お互いの上層膜52、151同士を密着させて、Au−Sn共晶反応が生じる温度まで加熱すると両者が溶融して接合され、一体化した接着層20が形成される。
このようにして接着層20により積層された構造体が得られる。なお、素子部54A、54Bとなる構造体50A、50Bはあらかじめ一定の間隔を保持して作製しておく。第1の基板1と第2の基板11上には、このような一対構成の構造体50A、50Bが複数個作製されているが、図面の簡略化のために一対のみ記してある。
なお、本実施の形態では、Au−Sn共晶反応による接合としたが、本発明はこれに限定されない。比較的低温で接合される材料の組み合わせであればよく、例えばAu、Ag、Cuからなる第1群とSn、Cd、Auを含むSn若しくはCdからなる第2群とからそれぞれ任意に選択した組み合わせでもよい。また、ハンダ材料をそれぞれの上層膜に形成してハンダ付けする方式でもよい。さらに、導電性接着剤を用いた接着方式でもよい。
第1の基板1と第2の基板11としてMgO基板を用いると、このMgO基板上に形成される圧電体薄膜の分極は基板面に対して垂直方向となる。このため、このように接着することで分極方向は互いに逆となる。したがって、第1主電極膜2と第2主電極膜12とに同じ電位、また第1対向電極膜5と第2対向電極膜15とに同じ電位を印加すれば、第1圧電体薄膜3と第2圧電体薄膜13とは同じ伸縮動作を行なわせることができる。
上記の接合により一対の構造体50A、50Bが形成されるが、これらの構造体50A、50Bの厚みに相当する空隙部が第1の基板1と第2の基板11との間に生じる。この空隙部に樹脂を充填して絶縁性樹脂層6を形成する。図7(b)は、絶縁性樹脂層6を充填した状態を示す。この構造体50A、50Bの厚さは約10μmであるが、樹脂の粘度を適当に調節することで樹脂を浸透させて充填することができる。この樹脂としては、少なくともフォトリソプロセスとエッチングにより加工できる樹脂を用いる。
本実施の形態においては、樹脂としてアクリル系感光性樹脂を用いた場合の製造方法について説明する。アクリル系感光性樹脂を充填した状態で、例えばホットプレート上に基板ごと載せて60℃、10分間加熱し、さらに続けてホットプレートで80℃、5分間加熱する。このような加熱処理により、絶縁性樹脂層6であるアクリル系感光性樹脂が半硬化の状態となる。このような半硬化状態とすることで、第2の基板11をエッチング除去するときのエッチング薬液から構造体50A、50Bを保護しながら、かつ絶縁性樹脂層6を所定のパターン形状にエッチングすることも容易となる。
構造体50A、50B間の空隙部に充填された樹脂を半硬化状態の絶縁性樹脂層6とした後、第2の基板11をエッチングして除去する。構造体50A、50Bの外周領域は絶縁性樹脂層6で完全に保護されているので、構造体50A、50Bは第2主電極膜12を除き、直接エッチング液に曝されることはない。このため、第1圧電体薄膜3や第2圧電体薄膜13がエッチング液に曝されて、劣化する現象はまったく生じない。このとき、第2の基板11のみを選択的に除去する必要があるが、この方法としては、エッチング、研磨または所定の厚さまで研磨後にエッチングする等の方法により行うことができる。なお、第1の基板1と第2の基板11とが同一の材料である場合には、この薬液でエッチングされない樹脂を用いて第1の基板1面を覆った後にエッチングすればよい。また、本実施の形態では、第2主電極膜12はPt膜を用いているので、第2の基板11としてMgO基板を用いた場合のエッチング液であるリン酸と酢酸の混合液ではまったくエッチングされない。
第2の基板11を除去すると、構造体50A、50Bが絶縁性樹脂層6で連接している状態が露出する。この状態とした後、絶縁性樹脂層6と第2主電極膜12との表面を覆う絶縁保護膜18を形成する。さらに、第2主電極膜12の一部を露出させるために、この絶縁保護膜18に開口部182を設ける。この状態を図7(c)に示す。なお、この開口部182の形成は、絶縁性樹脂層6に第1開口部62と第2開口部64を加工する段階で行ってもよい。
つぎに、図8を用いて絶縁性樹脂層6をエッチング加工し、開口部および接続配線を形成する工程について説明する。
図8(a)に示すように、絶縁性樹脂層6が構造体50A、50Bの外周領域を覆う形状にエッチング加工する。このエッチング加工では、圧電体薄膜等はまったく露出しないのでエッチングされることはなく、エッチング工程は安定で、再現性よく行える。このとき、表面に形成されている絶縁保護膜18も一括して加工できれば効率的であるので、絶縁保護膜18と絶縁性樹脂層6とは同じ材料を用いることが望ましい。また、このエッチング加工時に、2個の素子部54A、54B間を連結する連結部70も同時に形成する。
さらに、第1主電極膜突出部21と第1対向電極突出部51まで到達する第1開口部62と第2開口部64とを形成する。このエッチング加工においては、絶縁保護膜18の表面にフォトレジスト膜を形成し、露光、現像処理をした後、絶縁保護膜18と絶縁性樹脂層6とを同時にエッチングすればよい。なお、絶縁保護膜18と絶縁性樹脂層6が感光性を有する同じ材料を使用している場合には、この加工はより簡単となる。例えば、絶縁性樹脂層6としてアクリル系感光性樹脂を用いたとき、絶縁保護膜18としても同様なアクリル系感光性樹脂を用いれば、露光して現像するだけで、絶縁保護膜18と絶縁性樹脂層6を同時に所定のパターン形状とすることができる。このような処理を行なった後のパターン形状を図8(a)に示す。
このような加工を行なった後、半硬化状態の絶縁性樹脂層6をさらに高温度で加熱して、最終的な硬化を行なう。絶縁性樹脂層6として、アクリル系感光性樹脂を用いたときは、150℃、30分間加熱し、さらに200℃、30分間加熱すれば硬化が完了する。
なお、このように半硬化のための加熱と、最終硬化のための加熱の2段階の加熱工程を行なうことで、絶縁性樹脂層6のエッチング加工が容易になるとともに、絶縁性樹脂層6中に残存する溶媒成分が確実に除去できるので、溶媒成分により生じる気泡をほぼ確実になくすことができる。
また、構造体50A、50Bは外周領域が絶縁性樹脂層6のみで保護されるようになるので耐湿性を改善でき、かつ圧電特性の劣化を防止できる。
なお、本実施の形態では、絶縁性樹脂層6と絶縁保護膜18として、アクリル系感光性樹脂を用いる場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。さらに、例えば感光性のエポキシ系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、エン・チオール系の感光性樹脂、光分解型のアジド化合物系樹脂、ナフトキノンジアジド系感光性樹脂、光架橋型の重クロム酸系樹脂やポリビニル系の感光性樹脂等でもよい。また、特に観光性を有する樹脂材料でなくてもよく、フォトレジストを表面に形成して、フォトレジストをマスクにしてエッチング加工できる材料であれば、特に制約なく使用できる。
また、絶縁性樹脂層6を所定のパターン形状に形成後、絶縁保護膜18を塗布してからこの絶縁保護膜18をエッチング加工してもよい。この場合には、絶縁保護膜18は、感光性あるいは非感光性のどちらの材料であってもよい。
図8(a)に示す工程では、所定のパターン形状を形成する場合も、開口部を形成する場合も、絶縁性樹脂層6と絶縁保護膜18のみをエッチングすればよいので、エッチングの精度および歩留まりが大きく改善される。すなわち、第1主電極膜突出部21と第1対向電極膜突出部51に到達する第1開口部62、第2開口部64の形成と、外周領域を所定の形状にエッチングする工程とは、絶縁性樹脂層6とその表面に形成された絶縁保護膜18のみをエッチングすればよい。このため、第1主電極膜、第1圧電体薄膜、第1対向電極膜、接着層、第2主電極膜、第2圧電体薄膜および第2対向電極膜を積層してから所定のパターン形状のエッチングを行う従来方法に比べて、エッチング時の残渣等によるショート不良やパターン形状の異常等をほぼ確実に防止することができる。
つぎに、第2主電極12と第1主電極膜突出部21とを電気的に接続するために第1開口部62を介して第1接続配線8を形成する。また、同時に、第2開口部64を介して第1対向電極膜突出部51を絶縁保護膜18の表面上にまで引き出す第2接続配線9を形成する。第1接続配線8と第2接続配線9とは同時に成膜し、フォトリソプロセスとエッチングプロセスにより同時に所定のパターン形状を形成する。このようにして第1接続配線8と第2接続配線9とを形成した状態を図8(b)に示す。
ここまでの加工処理により、第1の基板1上に固着した状態であるが薄膜圧電体素子54としての形状が完成する。この後、第1の基板1をエッチングして薄膜圧電体素子54を基板から分離する。このためには、薄膜圧電体素子54の表面にワックス等の樹脂を塗布した後、第1の基板1をエッチングして除去する。このとき、ワックス等の樹脂は第1の基板1をエッチングする薬液では侵されない樹脂を選択する。
第1の基板1をエッチング除去した後、ワックス等の樹脂を溶解除去すれば、それぞれの基板から完全に分離した薄膜圧電体素子54が得られる。これを図8(c)に示す。
本実施の形態の薄膜圧電体素子の製造方法では、第1の基板1と第2の基板11上で、それぞれ第1圧電体薄膜3と第2圧電体薄膜13とをエッチングしており、積層後のエッチング加工は絶縁性樹脂層6と絶縁保護膜18とからなる樹脂膜のみである。積層した状態で圧電体薄膜をエッチングする従来方法では、圧電体薄膜の側壁部に残渣が生じて上下の電極膜との間が短絡したり、あるいはパターンの細りが生じる場合がある。しかし、本実施の形態の製造方法では、それぞれ個別にエッチングしており、積層後は樹脂膜のみのエッチングであるので、このような不良を確実に防止でき、歩留まりを大幅に改善できる。
この薄膜圧電体素子54を支持部材であるフレクシャー460上に接着樹脂層により接着し、第1接続配線8と第2接続配線9に設けられた接続電極パッドとフレクシャー460上に設けられた圧電体電極パッド464とをワイヤリード467等で接続すればアクチュエータ905が完成する。
なお、第1の基板1と第2の基板11の接合は上述の共晶接合方式だけでなく、第1対向電極膜5と第2対向電極膜15のそれぞれ対向する面に導電性接着剤を塗布して接合する方式でもよい。このとき、導電性接着剤は両方の対向電極膜に塗布してもよいし、片方だけに塗布してもよい。導電性接着剤が第1対向電極膜突出部51上に塗布されている場合、絶縁性樹脂層6をエッチングして第2開口部64を形成するときに、導電性接着剤からなる接着層20が露出するようにしてもよいし、あるいは第1対向電極膜5が露出するようにしてもよい。また、導電性接着剤は圧電機能領域には必ずしも必要ではない。すなわち、電極取り出し領域には導電性接着剤を用い、圧電機能領域は絶縁性接着剤を用いて接着する構成としてもよい。
また、共晶反応により接着層を形成するときには、一度溶融するので自己整合的なアライメントも可能である。これにより、第1対向電極膜5と第2対向電極膜15との位置合せ精度が低くても、溶融時のセルフアライメント作用により両者は高精度で位置合せされて接合できる。
また、本実施の形態では、充填した絶縁性樹脂層6は第2の基板の除去工程の前段階では半硬化の条件の熱処理をする。その後、第2の基板11を除去してから、さらに絶縁性樹脂層6を所定のパターン形状に加工後、最終的な硬化処理を行なっている。したがって、絶縁性樹脂層6のパターン加工が精度よくでき、かつ絶縁性樹脂層6中に発生しやすい気泡等を確実に抑制できる。
(実施の形態2)
図9は、本発明の実施の形態2にかかる薄膜圧電体素子540の平面図である。また、図10は、図9に示す228−228線に沿った断面図である。本実施の形態の薄膜圧電体素子540も一対構成からなり、それぞれの素子部540A、540Bの圧電機能領域226の構造は実施の形態1にかかる薄膜圧電体素子54と同じである。
すなわち、それぞれの素子部540A、540Bの圧電機能領域226は、第1主電極膜202と第1対向電極膜205とで挟まれた第1圧電体薄膜203と、第2主電極膜212と第2対向電極膜215とで挟まれた第2圧電体薄膜213とが、第1対向電極膜205および第2対向電極膜215間を導電性の接着層232を介して物理的および電気的に接続され、かつ、それらの厚みと同じ厚みの絶縁性樹脂層222により外周部が保護され、この絶縁層222および第2主電極膜212上に絶縁保護膜220が形成された構造からなる。
本実施の形態の薄膜圧電体素子540は、電極取り出し領域224の構造が実施の形態1の薄膜圧電体素子54と異なるので、この点を主体に以下説明する。なお、本実施の形態においても、絶縁層222として樹脂材料を用いているので、以下では絶縁性樹脂層222とよぶ。
電極取り出し領域224の外周側では、第1主電極膜突出部2021と第2主電極膜212とが絶縁性樹脂層222の第1開口部262を介して第1接続配線218により接続されている。一方、内周側では、素子部540A、540Bの間は、それぞれの第1圧電体薄膜203と第1対向電極膜205とにより連結されて連結部230が形成されている。この連結部230により、2個の素子部540A、540Bは連結されて一体構成となっている。また、それぞれの素子部540A、540Bの第1対向電極膜205同士も連結されている。この結果、第1対向電極膜205同士および第2対向電極膜215同士がすべて電気的に接続されている。連結部230の絶縁性樹脂層222にも第2開口部260が形成されており、この第2開口部260を介して第1対向電極膜205が第2接続配線219で接続されて表面にまで引き出されている。
上記のように、本実施の形態の薄膜圧電体素子540の場合には、フレクシャーの圧電体電極パッドと接続する接続電極パッドは、第1接続配線と第2接続配線に設けられた3個となる。
なお、本実施の形態においても、第1対向電極膜205の表面には上層膜2052としてAu膜を形成し、また第2対向電極膜215には上層膜2151としてSn膜を形成している。お互いの上層膜2052、2151同士を密着させて、Au−Sn共晶反応が生じる温度まで加熱して両者を溶融させて接着層232を形成している。
以下、本実施の形態の薄膜圧電体素子540の製造方法について、実施の形態1と異なる工程を主体に説明する。図11から図13までは、本実施の形態の薄膜圧電体素子540の製造方法における主要工程を説明する図である。本実施の形態の薄膜圧電体素子540においても、図9に示す228−228線に沿った断面形状により工程を説明する。
まず、第1の基板201上における薄膜の形成とその加工について、図11を用いて説明する。
図11(a)は、第1の基板201上に第1主電極膜202を所定のパターン形状に形成し、さらに第1圧電体薄膜203もパターン形成した状態を示す。この加工方法としては、最初に、例えば第1主電極膜202となる電極膜を成膜時に、メタルマスクを用いて同時にパターン形成する。または、全面に第1主電極膜202となる電極膜を形成後、フォトリソプロセスとエッチングプロセスによりパターンを形成してもよい。本実施の形態においても、第1主電極膜突出部2021を形成している。
その後、第1圧電体薄膜203となる圧電体薄膜を積層した後、この圧電体薄膜を所定の形状にエッチング加工すれば形成できる。第1圧電体薄膜203のパターン形状は、電極取り出し領域224では実施の形態1の薄膜圧電体素子54と一部異なる。すなわち、電極取り出し領域224では、両側の第1圧電体薄膜203同士を連結する連結部230が形成されている。
なお、第1の基板201、第1主電極膜202および第1圧電体薄膜203の材料および成膜条件、エッチング加工条件については、実施の形態1と同じであるので説明を省略する。
図11(b)は、第1圧電体薄膜203上に、さらに第1対向電極膜205を形成した状態を示す断面図で、図11(c)はその平面図である。第1対向電極膜205は、第1圧電体薄膜203とほぼ同じ形状であり、かつ第1主電極膜202とは電気的に接触しないように第1圧電体薄膜203の表面層上にのみ形成されている。また、本実施の形態においては、第1対向電極膜205は連結部230の第1圧電体薄膜203上にも形成されている。
さらに、本実施の形態でも第1対向電極膜205は、多層構成とされている。すなわち、上層膜2052は金(Au)とし、下層膜2053は第1主電極膜202と同じようにPt膜を用いている。なお、下層膜2053については、第1主電極膜202と同じ材料を適宜選択して用いることができる。このような多層構成からなる第1対向電極膜205の場合であっても、フォトリソプロセスとエッチングプロセスにより所定のパターンを形成することは一般的な技術により容易にできる。
図11(b)および図11(c)からわかるように、圧電機能領域226においては、第1主電極膜202、第1圧電体薄膜203および第1対向電極膜205は同じ形状で、第1の基板201側から階段状に積層された構成とされている。一方、電極取出し領域224では、図示するように第1主電極膜202が一部露出した第1主電極膜突出部2021が設けられている。また、連結部230では、第1主電極膜202はエッチングされており、左右が電気的に分離されている。ここまでで、第1の基板201上での膜形成とその加工が完了する。
つぎに、第2の基板211上における膜形成と加工について、図12を用いて説明する。
図12(a)は、第2の基板211上に第2主電極膜212、第2圧電体薄膜213および第2対向電極膜215を形成した状態を示す断面図で、図12(b)はその平面図である。
第2の基板211上でのこれらのパターン形状は、電極取り出し領域224を除けば、第1の基板201上でのパターン形状と同じである。電極取り出し領域224の外周側は、第2主電極膜212、第2圧電体薄膜213および第2対向電極膜215は、第1対向電極膜205および第1圧電体薄膜203と同じパターン形状である。しかし、内周側は、第2主電極膜212、第2圧電体薄膜213および第2対向電極膜215は、角部で一部が切りかかれている。したがって、この領域部では、これらの膜は第1対向電極膜205よりも幅狭に形成される。このように切り欠いておくことにより、第1の基板201と第2の基板211とを貼り合わせたときに、この切り欠き領域部の第1対向電極膜205が露出して第1対向電極膜突出部2051となる。この形状は実施の形態1と同じであり、この第2の基板211の加工では、図示するように連結部は設けていない。また、第2対向電極膜215も多層構成からなり、上層膜2151はスズ(Sn)で、下層膜2152はPt膜としてある。
なお、第2の基板211としては第1の基板201と同じものを用いることができる。さらに、この第2の基板211上に形成する第2主電極膜212と第2圧電体薄膜213とは、第1の基板201上に形成した材料および成膜方法をそのまま用いて形成することができる。これらについては、実施の形態1と同じであるので説明を省略する。
つぎに、図13を用いて、第1の基板201と第2の基板211を貼り合わせ、圧電体薄膜素子540を作製していく工程について説明する。
図13(a)は、第1対向電極膜205と第2対向電極膜215とを対向密着させて、第1対向電極膜205と第2対向電極膜215とを接合した後、第2の基板211をエッチング除去し、さらに絶縁保護膜220を形成した状態を示す。なお、この絶縁保護膜220には、第2主電極膜212の所定箇所に開口部240が設けられている。これらの形状に加工するプロセスは、実施の形態1と同じ方法で行うことができるので説明を省略する。
本実施の形態では、連結部230と第1対向電極膜突出部2051上には絶縁性樹脂層222と絶縁保護膜220も形成されている。このように絶縁性樹脂層222と絶縁保護膜220とが形成されているので、連結部230の強度がさらに大きくなる。この結果、一対構成の薄膜圧電体素子540を支持部材上に接着するときに破損しにくくなる。
図13(b)は、第1接続配線218と第2接続配線219とを形成した状態を示す。すなわち、第1接続配線218は、絶縁性樹脂層222の第1開口部262を介して第1主電極膜突出部2021と第2主電極膜212とを電気的に接続し、かつ外部と接続するための電極パッドも有している。また、第2接続配線219は、同様に絶縁性樹脂層222および絶縁保護膜220に開口した第2開口部260を介して第1対向電極膜突出部2051と接続し、表面にまで引き出して接続電極パッドを形成している。第1接続配線218と第2接続配線219とは、金属薄膜をスパッタリングや蒸着により成膜した後、フォトリソプロセスとエッチングプロセスによりパターン形成して作製される。
ここまでの加工処理により、第1の基板201上に固着した状態であるが薄膜圧電体素子540としての形状が完成する。この後、第1の基板201をエッチングすれば、図9および図10に示すように基板から完全に分離した状態の薄膜圧電体素子540が得られる。
本実施の形態の薄膜圧電体素子540の製造方法では、第1の基板201と第2の基板211上で、それぞれ第1圧電体薄膜203と第2圧電体薄膜213とを個別にエッチングしており、積層後のエッチング加工は絶縁性樹脂層222と絶縁保護膜220とからなる樹脂膜のみである。積層した状態で圧電体薄膜をエッチングする従来方法では、圧電体薄膜の側壁部に残渣が生じて上下の電極膜との間が短絡したり、パターンの細りが生じる場合がある。しかし、本実施の形態の製造方法では、それぞれを個別にエッチングしており、積層後は樹脂膜のみのエッチングであるので、このような不良を確実に防止でき、歩留まりを大幅に改善できる。
また、この薄膜圧電体素子540は3端子構成で駆動ができる。第2接続配線219に設けられている接続電極パッドをアース接続し、第1接続配線218に設けられている接続電極パッドにそれぞれ逆極性の電圧を印加すれば、図2に例示したような動作を行わせることができる。この結果、端子構成が単純となり、特性が良好で、歩留まりのよい薄膜圧電体素子とその製造方法を実現できる。
図14は、本実施の形態の変形例の薄膜圧電体素子550の断面図である。この変形例の薄膜圧電体素子550には、絶縁性樹脂層222と絶縁保護膜220に第1対向電極膜突出部2051まで開口する第2開口部を設けていないことが薄膜圧電体素子540と異なる。一対構成の薄膜圧電体素子の場合、図10に示す3端子構成だけでなく本変形例の構成であっても動作する。本変形例の薄膜圧電体素子550は、2端子構成であり、それぞれ逆極性を印加すれば対向電極側はアース接続しなくても実質的にゼロ電位となり、同様な動作を行う。
この薄膜圧電体素子550の製造方法は、第2開口部260と第2接続配線219を形成しないことを除けば、本実施の形態の薄膜圧電体素子540と同じである。
(実施の形態3)
図15は、本発明の実施の形態3にかかる薄膜圧電体素子560の電極取り出し領域の断面図である。本実施の形態の薄膜圧電体素子560も一対構成からなり、それぞれの素子部560A、560Bの圧電機能領域の構造は実施の形態2にかかる薄膜圧電体素子540と同じである。
すなわち、それぞれの素子部560A、560Bの圧電機能領域は、第1主電極膜302と第1対向電極膜305とで挟まれた第1圧電体薄膜303と、第2主電極膜312と第2対向電極膜315とで挟まれた第2圧電体薄膜313とが、第1対向電極膜305および第2対向電極膜315間を導電性の接着層332を介して物理的および電気的に接続され、かつ、それらの厚みと同じ厚みの絶縁層322により外周部が保護され、この絶縁層322および第2主電極膜312上に絶縁保護膜320が形成された構造からなる。なお、本実施の形態においても、絶縁層322は樹脂材料を用いているので、以下では絶縁性樹脂層322とよぶ。
本実施の形態の薄膜圧電体素子560は、電極取り出し領域の構造が実施の形態2の薄膜圧電体素子540と異なるので、この点を主体に以下説明する。
電極取り出し領域では、それぞれの第1主電極膜302、第1圧電体薄膜303、第2主電極膜312および第2圧電体薄膜303が連結されて連結部330が形成されている。また、第1対向電極膜305、導電性の接着層332および第2対向電極膜315で規定される連結部330の空隙部には絶縁性樹脂層322が充填されている。
この連結部330により、2個の素子部560A、560Bは連結されて一体構成となっている。また、それぞれの素子部560A、560Bの第1主電極膜302同士および第2主電極膜312同士が連結されている。この結果、第1主電極膜302同士および第2主電極膜312同士が電気的に接続されている。
さらに、素子部560A、560Bのそれぞれの第1対向電極305から延在された第1対向電極膜突出部3051から絶縁性樹脂層322と絶縁保護膜320とに開口された第2開口部360を介して接続配線318が形成されている。この接続配線318には接続電極パッドが設けられている。
上記したように、本実施の形態の薄膜圧電体素子560の場合には、フレクシャーの圧電体電極パッドと接続する接続電極パッドは、接続配線318のみであり、素子部560A、560Bからそれぞれ1個であるので、合計2個のみである。
なお、本実施の形態においても、第1対向電極膜305の表面には上層膜3052としてAu膜を形成し、また第2対向電極膜315には上層膜3151としてSn膜を形成している。お互いの上層膜3052、3151同士を密着させて、Au−Sn共晶反応が生じる温度まで加熱して両者を溶融させて接着層332を形成している。
以下、本実施の形態の薄膜圧電体素子560の製造方法について、図16から図18を用いて説明する。なお、本実施の形態の場合にも取り出し電極領域の断面形状をもとに説明する。
図16(a)は、第1の基板301上で、第1主電極膜302、第1圧電体薄膜303および第1対向電極膜305を積層し、所定のパターンを形成した状態の断面図である。また、図16(b)は、この平面図である。
図16(b)からわかるように、圧電機能領域においては、第1主電極膜302、第1圧電体薄膜303および第1対向電極膜305は相似形で、第1の基板301側から階段状に積層された構成からなる。この形状は、実施の形態1および実施の形態2と同じである。
電極取り出し領域では、第1主電極膜302と第1圧電体薄膜303とは連結部330にも形成されており、これにより両側のパターンが連結されている。第1対向電極膜305は連結部330を除き、それぞれの第1圧電体薄膜303の表面層上にのみ形成されている。
本実施の形態でも、第1対向電極膜305は、多層構成からなる。すなわち、上層膜3052は金(Au)とし、下層膜3053は第1主電極膜302と同じようにPt膜を用いている。なお、下層膜3052については、第1主電極膜302と同じ材料を適宜選択して用いることができる。このような多層構成からなる第1対向電極膜305の場合であっても、フォトリソプロセスとエッチングプロセスにより所定のパターンを形成することは一般的な技術により容易にできる。
図17(a)は、第2の基板311上に第2主電極膜312、第2圧電体薄膜313および第2対向電極膜315を形成した状態を示す断面図で、図17(b)はその平面図である。
第2の基板311上でのこれらのパターンは、電極取り出し領域を除けば、第1の基板301上でのパターンと同じである。電極取り出し領域の連結部330には、第2主電極膜312と第2圧電体薄膜313とが形成されており、両側のパターンが連結されている。また、電極取り出し領域の外周側では、第2主電極膜312、第2圧電体薄膜313および第2対向電極膜315が、第1対向電極膜305に比べて幅狭になるよう一部が切り欠かれている。このように幅狭に形成しておくことで、図15に示されるように、第1対向電極膜305と第2対向電極膜315とを貼り合わせたときに、この幅狭の領域部の第1対向電極膜305が露出して第1対向電極膜突出部3051となる。
これに対して、内周側は、第1の基板301の形状に一致させてある。また、第2対向電極膜315も多層構成からなり、上層膜3151はスズ(Sn)で、下層膜3152はPt膜としてある。
なお、第2の基板311としては第1の基板301と同じものを用いることができる。さらに、この第2の基板311上に形成する第2主電極膜312と第2圧電体薄膜313とは、第1の基板301上に形成した材料および成膜方法をそのまま用いて形成することができる。これらについては、実施の形態1と同じであるので説明を省略する。
図18(a)は、第1対向電極膜305と第2対向電極膜315とを対向密着させて接合した後、第2の基板311をエッチング除去し、露出した表面に絶縁保護膜320を形成した状態の断面図である。
図からわかるように、第1圧電体薄膜303と第2圧電体薄膜313とで挟まれた連結部330の空隙部にも絶縁性樹脂層322が形成されている。また、外周側に設けられた第1対向電極膜突出部3051を含む外周部を覆うように絶縁性樹脂層322が形成されている。
このように連結部330では、絶縁性樹脂層322、第1主電極膜302、第1圧電体薄膜303、第2圧電体薄膜313および第2主電極膜312が形成されているので、連結部330の強度がさらに大きくなる。したがって、一対構成の薄膜圧電体素子560を取り扱い中に破損することを防止できる。
図18(b)は、絶縁保護膜320と絶縁性樹脂層322とをエッチングした状態の断面図である。このときのエッチングのパターンは、実施の形態1と実施の形態2と同じで、第1主電極膜302より一定幅大きな形状とする。また、第1対向電極膜突出部3051上の絶縁性樹脂層322に第2開口部360も形成する。これらの加工は絶縁保護膜320や絶縁性樹脂層322からなる樹脂膜をエッチングすればよいので、高精度にかつ簡単に行なうことができる。
この後、第2開口部360を介して第1対向電極膜突出部3051と接続する接続配線318を形成する。ここまでの加工処理により、第1の基板301上に固着した状態であるが、薄膜圧電体素子560としての形状が完成する。この後、第1の基板301をエッチングすれば、図15に示すように基板から完全に分離した状態の薄膜圧電体素子560が得られる。
本実施の形態の薄膜圧電体素子560の製造方法では、第1の基板301と第2の基板311上で、それぞれ第1圧電体薄膜303と第2圧電体薄膜313とを個別にエッチングしており、積層後のエッチング加工は絶縁性樹脂層322と絶縁保護膜320とからなる樹脂膜のみである。積層した状態で圧電体薄膜をエッチングする従来方法では、圧電体薄膜の側壁部に残渣が生じて上下の電極膜との間が短絡したり、パターンの細りが生じる場合がある。しかし、本実施の形態の製造方法では、それぞれ個別にエッチングしており、積層後は樹脂膜のみのエッチングであるので、このような不良を確実に防止でき、歩留まりを大幅に改善できる。
また、この薄膜圧電体素子560は2端子構成で駆動ができる。接続配線318に設けられている接続電極パッドにそれぞれ逆極性の電圧を印加すれば、図2に例示したような動作を行わせることができる。このような電圧を印加すれば、対向電極側は実質的にゼロ電位となるのでアースに接続しなくても伸縮動作を行う。
この薄膜圧電体素子560の製造方法によれば、パターン形成工程が簡単で、かつ端子構成が単純となり、特性が良好で、歩留まりを改善できる。
なお、本実施の形態では、第1圧電体薄膜303と第2圧電体薄膜313とで挟まれた連結部330の空隙部にも絶縁性樹脂層322が形成されているが、この領域に第1対向電極膜305と第2対向電極膜315とを形成して接合し、接着層332を設けてもよい。
なお、実施の形態1から実施の形態3までは、一対構成の薄膜圧電体素子について説明したが、本発明はこれに限定されない。実施の形態1で説明した薄膜圧電体素子のうちの一つの素子部のみを薄膜圧電体素子として用いることもできる。
さらに、絶縁層に形成する開口部はビアホール等だけでなく、接続配線が圧電体薄膜や対向電極膜等に接触しない形状であれば、特に形状の制約はない。
また、実施の形態1から実施の形態3では、鏡面対称形状の一対構成の薄膜圧電体素子として、それぞれの素子部が五角形状としたが、本発明はこれに限定されない。例えば、長方形状や三角形状であってもよい。
なお、実施の形態1から実施の形態3では、導電性の接着層を用いて第1対向電極膜と第2対向電極膜とを接合したが、第1対向電極膜と第2対向電極膜とを、例えば直接超音波ボンディングまたは熱溶着して接合する方法でもよい。導電性の接着剤を用いてもよい。さらに、物理的および電気的な接続は全面でなくてもよい。