JP4804623B2 - 半導体レーザ素子 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は自己整合型の半導体レーザ素子に関し、更に詳しくは、高光出力での発振が可能であり、長期の動作信頼性も高い半導体レーザ素子に関する。
【0002】
【従来の技術】
自己整合型の半導体レーザ素子は、注入電流と発振レーザ光を共振器内に同時に閉じ込めることができる高光出力のレーザ素子であって、通常、GaAs系化合物半導体を用いて製造されている。
そのような従来の半導体レーザ素子の層構造の1例Aを図2に示す。
【0003】
この素子では、GaAs基板1の上に、n−GaAsから成る厚み0.5μmのバッファ層2,n−Al0.3Ga0.7Asから成る厚み2.0μmの下部クラッド層3,i−Al0.1Ga0.9Asから成る厚み50nmの下部光閉じ込め層4,In0.2Ga0.8Asから成る厚み7nmの量子井戸層とAl0.1Ga0.9Asから成る厚み10nmの障壁層とで構成されている活性層5,i−Al0.1Ga0.9Asから成る厚み50nmの上部光閉じ込め層6が積層されており、そして、前記上部光閉じ込め層6の上に、p−Al0.3Ga0.7Asから成る厚み500nmの上部クラッド層7aと、n−Al0.35Ga0.65Asから成る厚み0.5μmの電流狭窄層も兼ねる低屈折率層8が積層され、これらは厚み2.0μmのp−Al0.3Ga0.7Asから成る上部クラッド層7bで埋設されている。そして、この上部クラッド層7bの上にはp−GaAsから成る厚み0.5μmのコンタクト層9が積層されている。なお、コンタクト層9には上部電極(図示しない)が形成され、基板1の裏面には下部電極(図示しない)が形成されている。
【0004】
この素子の層構造Aにおいて、電流狭窄層(低屈折率層)8には上部クラッド層7aにまで至る所定幅のチャンネル10が電流注入経路として形成され、光と電流の横(幅)方向へ閉じ込め構造が形成されている。
チャンネル10の幅W、すなわち、チャンネル内で電界強度(光分布)が最も強い部分の幅は、発振レーザ光の横モード制御との関係で決められる。具体的には、上記した半導体レーザ素子において、上部クラッド層7aがp−Al0.3Ga0.7Asから成り、その厚みが上記したような500nm程度である場合、活性層5で発振したレーザ光の高次モードをカットオフして基本横モード動作させるために必要なカットオフ幅との関係で、上記チャンネル10の幅Wを2.5μm程度に設計している。
【0005】
この素子は次のようにして製造される。
まず、MOCVD法やMBE法により、基板1の上に、前記したバッファ層2,下部クラッド層3,下部光閉じ込め層4,活性層5,上部光閉じ込め層6を順次成膜し、更にその上に厚み500nm程度の上部クラッド層7aを成膜したのち、その上に低屈折率層にすべき層8’を成膜して図3で示した層構造A0を形成する。
【0006】
活性層5は、GaAsから成る厚み10nmの障壁層で分離され、それぞれは厚み7nmであるIn0.2Ga0.8Asから成る2層の量子井戸、および、これら量子井戸の両側に配置された厚み20nmのGaAsから成る光閉じ込め層で形成されている。
ついで、結晶成長装置から層構造A0を取り出し、その層構造A0に対してホトリソグラフィーとウェットエッチング処理を行い、層8’にチャンネル幅Wが2.5μmであるチャンネル10を形成して電流狭窄層(低屈折率層)8を有する層構造A1にする(図4)。なお、上記ウェットエッチング処理で形成されるチャンネル10の側面10aは、エッチングの異方性の影響を受けて上方に広がる傾斜面になっている。
【0007】
ついで、層構造A1を再び結晶成長装置内に配置し、層構造A1の上に上部クラッド層7bとコンタクト層9を順次成膜し、図5で示した層構造A2を形成する。
そして、この層構造A2に上部電極と下部電極を形成したのち、共振器長が800μmとなるように劈開して図2で示した層構造Aとし、一方の劈開面(前端面)S1に反射率5%の膜を成膜し、他方の劈開面(後端面)S2に反射率92%の膜を成膜して目的とするレーザ素子が製造される。
【0008】
上記した仕様で製造されたレーザ素子は、しきい値電流が15mAであり、基本モードにおいて、キンクによって制限される最大光出力は350mW程度である。そして、発振波長はほぼ980nmである。
ところで、低屈折率層8におけるカットオフ幅が2.5μm程度である上記したレーザ素子には、次のような問題がある。
【0009】
第1の問題は、近年のレーザ素子の高光出力化の要望に応えるべく、上記レーザ素子を更に高出力化させようとすると、キンク発生の問題に加えて新たな問題が発生してくる。具体的には、光出力500mW程度で動作させると、前端面S1における光密度は高くなり、数10MW/cm2にまで達する。そのため、当該前端面S1が光学損傷を受け、いわゆるCOMD(Catastrophic Optical Mirror Damage)が発生して頓死するという問題である。
【0010】
第2の問題は、低屈折率層8を上部クラッド層7aおよび7bよりも屈折率が小さくなるようにするために、その低屈折率層8を構成する半導体材料がAl組成比の高いAl0.35Ga0.65Asで形成していることに起因する。具体的には、層構造A1を形成したのち、上部クラッド層7bが積層される前に、当該低屈折率層8に形成したチャンネル10の表面(側面)が露出するため、その表面が大気中の酸素によって酸化されることがあるという問題である。このようなチャンネル10(低屈折率層8)の表面酸化、とりわけ活性層5に近いチャンネル10の側面において酸化が起こっていると、製造したレーザ素子を連続動作させたときに短時間で光出力の低下が進み、その結果、素子としての長期信頼性の低下という問題が生ずる。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、図5で示した層構造を有する自己整合型の半導体レーザ素子の上記問題を解決し、1000mW以上という高光出力での発振時にあってもCOMDが発生しにくく、また長期信頼性も高い自己整合型の半導体レーザ素子を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記した目的を達成するために、本発明においては、電流狭窄層も兼ねる低屈折率層が活性層の近傍に形成されている自己整合型の半導体レーザ素子において、前記低屈折率層はAlxGa1-xAs(0<x≦1)から成る複数の化合物半導体層から成り、かつ、前記活性層から離隔している前記化合物半導体層ほど低屈折率になっており、チャンネル側の前記低屈折率層を構成する複数の層の側面が、連続的な面を形成し、前記活性層から離隔している前記化合物半導体層ほど、そのAl組成比が高くなっていることを特徴とする半導体レーザ素子が提供される。
【0013】
また、前記複数の層は、5層以上であることを特徴とする半導体レーザ素子が提供される。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明のレーザ素子における層構造の1例Bを図1に示す。この層構造Bは、低屈折率層8が後述する態様になっていることを除いては、図2で示した層構造Aの場合と同じになっている。
この低屈折率層8は、AlGaAs、GaInAsPなどのGaAs系化合物半導体から成る複数の層81,82,……8iで構成されている。そして、活性層5から離隔している箇所に位置している層ほど低屈折率の層になっている。すなわち、この低屈折率層8においては、上部クラッド層7aの上に直接成膜されている層81の屈折率が最も高く、上にいくほど屈折率が順次低くなっているのである。
【0015】
このような低屈折率層8は、図3で示した層構造A0における層8’の形成時に、Al組成比が異なるAlxGa1-xAs(0≦x≦1)を順次成膜することにより、Alに関する組成変化を有する層として形成することができる。
具体的には、p−Al0.3Ga0.7Asから成る上部クラッド層7aの上に、少なくとも前記上部クラッド層7aとAl組成が同じであるか、またはそれより小さいAl組成比のn−AlGaAsで層81を成膜し、その層81の上にはAl組成比が層81より大きいAlGaAsで次の層82を成膜し、更にその上には層82よりAl組成比が高いAlGaAsで次の層を成膜するという操作を反復し、上にいくほどAl組成比が階段状に高くなっていく層にする。
【0016】
なお、低屈折率層8におけるAlの組成変化は、上記したように順次Al組成比が高くなっていく階段状の変化であってもよいが、Al組成比が直線的に変化するようにしてもよく、また放物線状に変化するようにしてもよい。
低屈折率層8における上記したようなAlの組成変化は、上部クラッド層7aおよび7bの屈折率に対して低屈折率層8全体の等価屈折率(Σdini/Σdiによって近似される;diは各化合物半導体層の厚み、niは各化合物半導体層の屈折率)が小さくなるように設計する必要がある。
【0017】
また、チャンネル10の部分と低屈折率層8の部分の等価屈折率比が、図5で示した単一の低屈折率層8の場合に比べて小さくなるように設計するとチャンネル10の底部の幅Wを広くしても基本横モード動作を実現できるようになる。
したがって、このレーザ素子の場合、図5で示した従来構造の半導体レーザ素子よりもカットオフ幅を広くすることができるので、高光出力発振時における前端面の光密度は小さくなり、COMDの発生が起こりづらくなる。逆にいえば、COMDを起こすことなく高光出力発振を実現することができる。
【0018】
また、チャンネル10の底部近辺における層のAl組成比が従来よりも小さくなっているので、図5で示した従来構造の層構造Aの場合に比べてチャンネル10の底部近辺、すなわち、活性層近傍の酸化が抑制される。換言すれば、電界強度が最も強くなる底部の側面の酸化は抑制される。したがって、このレーザ素子の長期信頼性は従来構造よりも高くなる。
【0019】
なお、低屈折率層8のチャンネル10底部近辺における酸化を防止するために、GaAsにより低屈折率層8の最下層を成膜してもよい。加えて、低屈折率層8の等価屈折率を上部クラッド層7aおよび7bよりも小さくなるように選択すれば、前記低屈折率層8を、AlGaAsの代わりに、Ga 1-y In y Asz1-z(0≦y≦0.5,0≦z≦1)で形成することもできる。この場合には、Ga 1-y In y Asz1-zはAlを含まないので、酸化抑制にはより顕著な効果を得ることができる。
【0020】
なお、この場合においても、チャンネル10の部分と低屈折率層8のチャンネル10以外の部分の等価屈折率比が、図5で示した単一の低屈折率層8の場合に比べて小さくなるように設計すると、チャンネル10の底部の幅Wを広くしても基本横モード動作を実現できるようになる。したがって、このレーザ素子の場合も、図5で示した従来構造の半導体レーザ素子よりもカットオフ幅を広くすることができるので、高光出力発振時における前端面の光密度は小さくなり、COMDの発生が起こりづらくなる。逆にいえば、COMDを起こすことなく高光出力発振を実現することができる。
【0021】
【実施例】
チャンネル10の幅Wが5μmであったこと、低屈折率層8が、最下層81の成膜に際しては厚み0.05μmのAl0.2Ga0.8As(屈折率3.536)を用い、順次Al組成比を、層82は0.25(厚み:0.05μm、屈折率3.514)、層83は0.3(厚み:0.1μm、屈折率3.493)、層84は0.35(厚み:0.15μm、屈折率3.471)とリニアに高めていき、最上層85では厚み0.15μmのAl0.4Ga0.6As(屈折率3.450)となる5層から成膜されていることを除いては、図5で示した層構造A2と同じ層構造BをGaAs基板の上に形成した。
【0022】
なお、この場合の低屈折率層8の等価屈折率は、Σdini/Σdi(但し、diは各層の厚み、niは各化合物半導体層の屈折率)によって近似すると3.48になる。
そして、この層構造に電極を形成したのち共振器長800μmに劈開し、その前端面S1と後端面S2に反射率5%,92%の膜をそれぞれ成膜してレーザ素子にした。
【0023】
このレーザ素子のしきい値電流は20mAであり、また基本横モードでのキンクによって制限される最大光出力は500mWであった。
また、更に光出力を大きくしていくと、1200mWでCOMDが発生した。一方、図5で示した層構造A2から製造した従来のレーザ素子(チャンネル底部における幅は2.5μm、低屈折率層は単一の層)の場合は500mWでCOMDが発生した。したがって、本発明のレーザ素子は従来のレーザ素子に比べると、性能は大きく向上している。
【0024】
また、温度60℃、光出力250mWの条件下で連続動作させ、1000時間経過後における光出力の減少率を測定したところ、本発明のレーザ素子の場合は0.1〜0.5%であった。一方、従来のレーザ素子の場合は、1〜5%であった。このことから明らかなように、本発明のレーザ素子は従来のレーザ素子に比べて高い長期信頼性を備えている。
【0025】
また、GaAs基板を用いた図1の層構造Bにおいて、低屈折率層8を次のような層構造にしたことを除いては、上記実施例と同じ仕様の半導体レーザ素子を製造した。すなわち、低屈折率層8における最下層81をGaAs(屈折率3.54)で成膜し、順次エネルギーギャップを増大させて最上層をGa0.89 In 0.11 As0.780.22(屈折率3.45)で成膜した。
【0026】
この半導体レーザ素子の場合も、低屈折率層をAlGaAsで形成した上記半導体レーザ素子と同じような性能を発揮した。
更に、この半導体レーザ素子の場合、低屈折率層8が全てAlを含まないAlフリー層で構成されているため、材料の酸化に起因する素子の劣化は生じない。
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、低屈折率層8の等価屈折率を上述したように適切に選択すれば、どのような組み合わせにしてもよい。
【0027】
また、低屈折率層8のエッチング制御のため上部クラッド層7aと低屈折率層8の間にエッチング停止層を設けてもよい。
【0028】
【発明の効果】
以上の説明で明らかなように、本発明の自己整合型レーザ素子は、高光出力で発振し、しかもCOMDの発生が起こりづらく、更には高い長期信頼性を備えている。これは、低屈折率層を活性層から遠ざかるほど屈折率が低くなるような傾斜組成の半導体材料で形成したことによってもたらされた効果である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のレーザ素子の層構造Bを示す断面図である。
【図2】従来の自己整合型レーザ素子の層構造Aを示す斜視図である。
【図3】図2の層構造Aを製造する際の従来の層構造A0を示す断面図である。
【図4】従来の層構造A1を示す断面図である。
【図5】従来の層構造A2を示す断面図である。
【符号の説明】
1 GaAs基板
2 バッファ層(n−GaAs)
3 下部クラッド層(n−Al0.3Ga0.7As)
4 下部光閉じ込め層(i−Al0.1Ga0.9As)
5 活性層(In0.2Ga0.8As/Al0.1Ga0.9As)
6 上部光閉じ込め層(i−Al0.1Ga0.9As)
7a,7b 上部クラッド層(p−Al0.3Ga0.7As)
8 低屈折率層(n−AlGaAs)
1,82,……8i Al組成比が異なるn−AlGaAs層(屈折率が異なる層)
9 コンタクト層(p−GaAs)
10 チャンネル
10a チャンネル10の側面

Claims (2)

  1. 電流狭窄層も兼ねる低屈折率層が活性層の近傍に形成されている自己整合型の半導体レーザ素子において、
    前記低屈折率層は、組成式:AlxGa1-xAs(0<x≦1)で示される化合物半導体の複数の層から成り、かつ、前記活性層から離隔している化合物半導体層ほど低屈折率になっており、
    チャンネル側の前記低屈折率層を構成する複数の層の側面が、連続的な面を形成し、
    前記活性層から離隔している前記化合物半導体層ほど、そのAl組成比が高くなっている
    ことを特徴とする半導体レーザ素子。
  2. 前記複数の層は、5層以上であることを特徴とする請求項1に記載の半導体レーザ素子。
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