JP4798056B2 - 内燃機関の燃料性状判定装置 - Google Patents

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Description

この発明は、内燃機関の燃料性状判定装置に係り、特に、内燃機関に関する現象をモデル化した数理モデルを用いて燃料性状を判定するのに適した内燃機関の燃料性状判定装置に関する。
従来、例えば特許文献1には、多入力多出力の制御系の特性を学習するニューラルネットモデルを備えた自律移動ロボット走行制御装置が開示されている。この従来の技術では、ニューラルネットモデルを用いて、自律移動ロボットの速度や角速度の目標値を実現できるように当該速度や角速度を制御している。
特開平6−337713号公報 特開2006−90206号公報 特開2003−172183号公報 特開2001−132530号公報 特開2000−291484号公報 特開平10−73043号公報
ところで、内燃機関においては、燃料の性状を正確に判定したいという要求がある。そこで、内燃機関に関する現象をモデル化して、燃料性状の判定を試みることが考えられる。そのような場合に、上述したニューラルネットモデルを用いることとすれば、高精度なモデル演算が可能となる。
しかしながら、ニューラルネットモデルには、非線形な要素が含まれる。このため、ニューラルネットモデルを用いる手法によれば、良好な精度を得ることはできるものの、学習時間を多く必要とするとともに、当該ニューラルネットモデルがコンピュータ(ECU)のリソース(ROMやRAM)を多く占めてしまう。ニューラルネットモデルには、このような問題点がある。
また、燃料性状の判定を試みるうえで、線形モデルを利用することも考えられる。線形モデルを用いる場合には、モデルの演算精度を十分に確保するために、複数の入出力を有する制御対象を線形モデル化することが望ましい。このため、多入力多出力の制御系の制御対象を、簡素な線形モデルによって記述することができれば良いのであるが、従来の線形モデルでは、多入力多出力の制御系に対して、有効なモデルの構築、制御が困難とされていた。
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、比較的簡便な線形モデルを用いて、多入力多出力の制御系の問題を良好に扱えるようにし、また、そのような線形モデルを用いて内燃機関の燃料性状を正確に判定し得る内燃機関の燃料性状判定装置を提供することを目的とする。
第1の発明は、内燃機関の運転条件を決めるための複数のパラメータをモデル入力情報とし、車両や内燃機関の運転状態を示す複数のパラメータをモデル出力情報とする線形モデルを備える内燃機関の燃料性状判定装置であって、
前記線形モデルは、学習対象となるモデルパラメータを係数とする複数のモデル入力情報の現在値と、学習対象となる他のモデルパラメータを係数とする複数のモデル入力情報の過去値と、学習対象となる他のモデルパラメータを係数とする複数のモデル出力情報の現在値と、学習対象となる他のモデルパラメータを係数とする複数のモデル出力情報の過去値との和によって、所定時間経過後の前記複数のモデル出力情報を表した線形式を含み、
前記複数のモデル入力情報および前記複数のモデル出力情報を取得するモデル入出力情報取得手段と、
前記複数のモデル入力情報および前記複数のモデル出力情報が代入された所定サンプリング周期分の前記線形式に基づいて、前記モデルパラメータを算出するパラメータ算出手段と、
燃料の種類毎に予め設定された基準モデルパラメータを有し、前記パラメータ算出手段によって算出された前記モデルパラメータと前記基準モデルパラメータとの比較結果に基づいて、燃料性状を判定する燃料性状判定手段と、
を備えることを特徴とする。
また、第2の発明は、第1の発明において、前記燃料性状判定手段による燃料性状の判定結果を利用したエンジン制御を行う制御実行手段を更に備えることを特徴とする。
また、第3の発明は、第2の発明において、前記制御実行手段は、
所定時間経過後に目標モデル出力値に到達するまでのシステムの応答性を定める評価関数を表した式と前記線形モデルを表した線形式とから導出された制御式に基づいて、前記目標モデル出力値が得られるようにするための前記モデル入力情報を算出する制御量算出手段と、
前記制御量算出手段によって算出された前記モデル入力情報となるように当該モデル入力情報を制御する制御手段と、
前記制御量算出手段は、前記燃料性状判定手段により性状判定された燃料の前記基準モデルパラメータ、および、前記パラメータ算出手段により取得された前記モデルパラメータの何れかを参照して、前記モデル入力情報を算出することを特徴とする。
また、第4の発明は、第2の発明において、前記制御実行手段は、
前記エンジン制御に利用するための線形モデルであって前記線形モデルと同様の構成を有する他の線形モデルと、
所定時間経過後に目標モデル出力値に到達するまでのシステムの応答性を定める評価関数を表した式と前記他の線形モデルを表した線形式とから導出された制御式に基づいて、前記目標モデル出力値が得られるようにするための前記モデル入力情報を算出する制御量算出手段と、
前記制御量算出手段によって算出された前記モデル入力情報となるように当該モデル入力情報を制御する制御手段と、
前記燃料性状判定手段が有する前記基準モデルパラメータと対応づけて燃料の種類毎に予め設定された他の基準モデルパラメータとを更に備え、
前記制御量算出手段は、前記燃料性状判定手段による燃料性状の判定結果に対応する前記他の基準モデルパラメータを参照して、前記モデル入力情報を算出することを特徴とする。
第1の発明によれば、線形モデルを、モデルパラメータの逐次学習によって、システムの経時変化などの状態変化やシステムを取り巻く環境変化に適応させることが可能となる。このため、本発明によれば、比較的簡便な線形モデルを用いて、多入力多出力の制御系の問題を良好に扱えるようになる。そして、そのような学習結果が反映されたモデルパラメータと、燃料の種類毎に予め設定された基準モデルパラメータとを比較することによって、現在使用されている燃料の性状を正確に判定することが可能となる。
第2の発明によれば、上記線形モデルを用いて判定された燃料性状を表す情報を利用して、燃料の違いによらずに最適なエンジン制御を行えるようになる。
第3の発明によれば、上記の燃料性状の判定結果が反映された制御式、或いは、逐次学習されたモデルパラメータが反映(すなわち、システムの状態が反映)された制御式に基づいて、現時刻から所定時間経過後における目標モデル出力値に満足させるために現時点で必要とされる複数のモデル入力情報が算出される。そして、当該モデル入力情報となるように所定のアクチュエータが制御される。このように、本発明によれば、燃料性状の判定に用いた線形モデルを利用した適応制御によって、燃料の違いによらずに、目標値に対して円滑かつ精度の良い制御を実現することができる。
第4の発明によれば、ある線形モデルを使用して取得された燃料性状に関する情報が、他の線形モデルを使用した上記エンジン制御に反映されるようになる。より具体的には、本発明によれば、燃料性状の判定結果が、燃料性状判定手段が有する基準モデルパラメータと対応づけて燃料の種類毎に予め設定された他の基準モデルパラメータという形で、他の線形モデルを使用した上記エンジン制御に利用する燃料性状情報として利用されるようになる。そして、そのような他の基準モデルパラメータが反映された制御式に基づいて、現時刻から所定時間経過後における目標モデル出力値に満足させるために現時点で必要とされる複数のモデル入力情報が算出される。そして、当該モデル入力情報となるように所定のアクチュエータが制御される。このように、本発明によれば、燃料性状の判定に用いた線形モデルとは別の線形モデルを利用した適応制御によって、燃料の違いによらずに、目標値に対して円滑かつ精度の良い制御を実現することができる。
実施の形態1.
[システム構成]
図1は、本発明の実施の形態1の構成を説明するための図である。本実施形態のシステムは、内燃機関10を備えている。内燃機関10の筒内には、ピストン12が設けられている。ピストン12は、筒内を往復移動することができる。内燃機関10の筒内には、ピストン12の頂部側に燃焼室14が形成されている。また、燃焼室14には、吸気通路16および排気通路18が連通している。
吸気通路16の入口近傍には、吸気通路16に吸入される空気の流量に応じた信号を出力するエアフローメータ20が設けられている。エアフローメータ20の下流には、スロットルバルブ22が設けられている。スロットルバルブ22は、アクセル開度と独立してスロットル開度を制御することのできる電子制御式スロットルバルブである。スロットルバルブ22の近傍には、スロットル開度Taを検出するスロットルセンサ24が配置されている。
スロットルバルブ22の下流には、内燃機関10の吸気ポートに燃料を噴射するための燃料噴射弁26が配置されている。また、内燃機関が備えるシリンダヘッドには、気筒毎に、燃焼室14の頂部から燃焼室14内に突出するように点火プラグ28がそれぞれ取り付けられている。
図1に示すシステムは、ECU(Electronic Control Unit)30を備えている。ECU30には、スロットルセンサ24などとともに、エンジン回転数を検出するクランク角センサ32、排気ガスの空燃比Afを検出する空燃比センサ34、および内燃機関10が搭載された車両の加速度Gvを検出する加速度センサ(Gセンサ)36等の各種のセンサ類が接続されている。上述したスロットルバルブ22、燃料噴射弁26、および点火プラグ28等の各種のアクチュエータ類は、ECU30により制御されている。
[実施の形態1の線形モデル]
図2は、本発明の実施の形態1で用いられる線形モデル40を表した図である。図2に示す線形モデル40は、ECU30内に仮想的に構築された数理モデルである。より具体的には、線形モデル40は、スロットル開度Taおよび点火時期Saをモデル入力情報として、車両加速度Gvおよび空燃比Af(モデル出力情報)を算出(出力)するモデルである。本実施形態では、このような線形モデル40を用いて、車両の加速時のスロットル開度Taおよび点火時期Saの変化に対する車両加速度Gvおよび空燃比Afの特性を取得するようにしている。尚、車両の加速状態を見るためのパラメータとして、車両加速度Gvに代え、車両の車輪速度を用いてもよい。
すなわち、本実施形態の線形モデル40は、内燃機関10を制御対象として、内燃機関の運転条件(運転状態)を決めるためのパラメータ(アクチュエータ)を入力とし、車両や内燃機関の運転状態を示すパラメータを出力とする2入力2出力系の線形モデルである。本実施形態では、この線形モデル40を、次の(1a)式のように表すこととしている。
Figure 0004798056
ただし、上記(1a)〜(1c)式において、tは制御開始時点(t=0)からのサンプリング時間(サンプリング回数)であり、dは所定の遅れ時間であり、a11、a12、b11、b12などは何れも逐次学習されるモデルパラメータである。
上記(1a)の行列式を展開すると、上記(1b)および(1c)式のように表すことができる。このような(1b)式によれば、車両の加速時に時間d分だけ遅れた時点の車両加速度Gv(t+d)を、パラメータa11を係数とする現時点の車両加速度Gv(t)と、パラメータa13を係数とする前回の車両加速度Gv(t−1)と、パラメータb11を係数とする現時点のスロットル開度Ta(t)と、パラメータb12を係数とする現時点の点火時期Sa(t)と、パラメータb21を係数とする前回のスロットル開度Ta(t−1)と、パラメータb22を係数とする前回の点火時期Sa(t−1)との和として、線形式で表すことができる。
また、上記(1c)式によれば、同様に、車両の加速時に時間d分だけ遅れた時点の空燃比Af(t+d)を、パラメータa12を係数とする現時点の空燃比Af(t)と、パラメータa14を係数とする前回の空燃比Af(t−1)と、パラメータb13を係数とする現時点のスロットル開度Ta(t)と、パラメータb14を係数とする現時点の点火時期Sa(t)と、パラメータb23を係数とする前回のスロットル開度Ta(t−1)と、パラメータb24を係数とする前回の点火時期Sa(t−1)との和として、線形式で表すことができる。
以上のような線形モデル40に含まれる上記モデルパラメータa11、b11等は、以下の(2)式を参照して説明する手法によって算出することができる。尚、ここでは、車両加速度Gvを例にとって説明を行うものとするが、空燃比Afについても同様である。
Figure 0004798056
所定のサンプリング周期毎の上記(1b)式は、上記(2)式として順に示しているように、本実施形態の加速運転中のスロットル開度Ta(t)および点火時期Sa(t)の制御値や、車両加速度Gv(t)および空燃比Af(t)の計測値を用いることで、6つのモデルパラメータa11等を変数とする一次方程式として表すことができる。よって、上記(2)式として示すように、サンプリング回数6回分の一次方程式を取得するようにすれば、6つのモデルパラメータa11等を算出できるようになる。
上記(2)式に示す手法では、例えば、左辺がGv(d)〜Gv(5+d)となる6つの一次方程式を用いてモデルパラメータa11等を算出した後に、次いで、左辺がGv(1+d)〜Gv(6+d)となる6つの一次方程式を用いてモデルパラメータa11等を算出するというように、モデルパラメータa11等の算出に用いる一次方程式を、サンプリング周期毎に時系列に沿って順次ずらしていく。このような算出手法によれば、モデルパラメータa11等がサンプリング周期毎に逐次算出されるようにすることができる。
そして、上記(2)式に示す手法では、上記のように逐次算出されるモデルパラメータa11等を、重み付け最小自乗法によって同定するようにしている。このような手法によれば、ECU30のメモリ消費を抑制しつつ、安定したモデルパラメータa11等の算出が可能となる。本実施形態では、加速運転が実行される毎に、このようなモデルパラメータa11等の逐次学習をし続けており、システムの経時変化などの状態変化やシステムを取り巻く環境変化に適応するように、モデルパラメータa11等が上記の重み付け最小自乗法によって逐次同定されていく(書き換えられていく)ようになる。これにより、内燃機関10の特性の変化をモデルパラメータa11等に学習させることが可能となる。
[実施の形態1における燃料性状判定]
本実施形態では、以上説明した線形モデル40のモデルパラメータa11等の学習結果を利用して、内燃機関10で使用される燃料の性状を判定するという点に特徴を有している。
図3は、上記の機能を実現するために、本実施の形態においてECU30が実行するルーチンのフローチャートである。尚、本ルーチンは、所定の制御周期(サンプリング周期)毎に周期的に実行されるものとする。図3に示すルーチンでは、先ず、スロットル開度Ta(t)、点火時期Sa(t)、車両加速度Gv(t)、および空燃比Af(t)がそれぞれ取得される(ステップ100)。
次に、上記(2)式を参照して説明した手法によって、線形モデル40のモデルパラメータa11等が重み付け最小自乗法によって逐次同定される(ステップ102)。次いで、上記ステップ102において同定された最新のモデルパラメータa11等と、ECU30内に記憶されているテンプレートの基準モデルパラメータa11等との比較が実行される(ステップ104)。
図4は、図1に示すECU30内に記憶されているテンプレートを表した図である。図4に示す各テンプレートには、各種燃料の性状に対応した基準モデルパラメータa11等が関連付けられている。より具体的には、本実施形態では、予め燃料の種類(例えば燃料A(ハイオクガソリン)、燃料B(レギュラーガソリン)など)毎に、線形モデル40のモデルパラメータa11等を実車での計測などで学習して、基準モデルパラメータa11等として同定しておくようにしている。そして、図4に示すように、それらの燃料の種類毎に、モデルパラメータa11等をテンプレートとしてECU30に記憶させておくようにしている。
次に、上記ステップ104における比較結果に基づき、当該更新後のモデルパラメータa11等と一致する(もしくは最も近い)基準モデルパラメータa11等を含むテンプレートの燃料が、現在使用されている燃料であると判定される(ステップ106)。
以上説明した本実施形態のシステムによれば、比較的簡便に構成でき、モデルパラメータa11等が逐次学習される線形モデル40によって、2入力2出力の制御系の問題を良好に扱えるようになる。そして、上記図4に示すルーチンの処理によれば、そのような線形モデル40のモデルパラメータa11等の逐次学習という形で、モデルパラメータa11等にシステムの学習結果(加速時の特性の学習結果)を反映させることができる。そして、そのような学習結果が反映されたモデルパラメータa11等と、燃料の種類毎に予め用意されたテンプレートの基準モデルパラメータa11等と比較することによって、現在使用されている燃料の性状を正確に取得することが可能となる。
ところで、上述した実施の形態1においては、車両(内燃機関10)の加速時におけるスロットル開度Taおよび点火時期Saの操作に伴う車両加速度Gvおよび空燃比Afの変化を評価する線形モデル40に基づいて、燃料の性状判定を行うようにしている。しかしながら、本発明において燃料の性状判定のために用いる線形モデルは、加速時の特性を評価するものに限定されるものではない。すなわち、内燃機関の運転条件を示す複数のパラメータをモデル入力情報とし、車両や内燃機関の運転状態を示す複数のパラメータをモデル出力情報とする線形モデルであればよく、例えば、後述する実施の形態3における線形モデル(始動時エンジンモデル)50なとであってもよい。
尚、上述した実施の形態1においては、ECU30が、上記ステップ100の処理を実行することにより前記第1の発明における「モデル入出力情報取得手段」が、上記ステップ102の処理を実行することにより前記第1の発明における「パラメータ算出手段」が、上記ステップ104および106の処理を実行することにより前記第1の発明における「燃料性状判定手段」が、それぞれ実現されている。
実施の形態2.
次に、図5および図6を参照して、本発明の実施の形態2について説明する。
本実施形態のシステムは、図1に示すハードウェア構成および線形モデル40を用いて、ECU30に後述する図5に示すルーチンを実行させることにより実現することができるものである。
本実施形態では、上述した実施の形態1のシステムによって得られた燃料性状の判定結果を、その性状判定に用いた線形モデル40を利用したエンジン制御に反映させている点に特徴を有している。より具体的には、本実施形態のシステムは、以下に詳述するように、上述した実施の形態1における燃料性状の判定結果を、加速時のスロットル開度Taおよび点火時期Saの制御に反映させたシステムである。
[実施の形態1の燃料性状の判定結果が反映された加速時のエンジン制御]
本実施形態では、上述した線形モデル40のモデルパラメータa11等の同定結果を利用して、以下に示すような手法によって、目標車両加速度Gv_targetおよび目標空燃比Af_targetを満足できるようなスロットル開度Ta(t)および点火時期Sa(t)を取得するようにしている。
本実施形態では、先ず、次の(3)式のように表される評価関数Eを導入するようにしている。この評価関数Eの右辺第1項は、上記線形モデル40の出力値Gv(t)、Af(t)とその目標値Gv_target、Af_targetとの差分である。また、右辺第2項は、上記線形モデル40の入力値Ta(t)、Sa(t)についての今回値と前回値との差分である。また、この入力値の差分には、定数γが乗じられている。
Figure 0004798056
次いで、上記(3)式の評価関数Eをゼロとおくと、次の(4)式を得ることができる。
Figure 0004798056
このような(4)式によれば、現時刻tからd秒後に車両加速度Gvや空燃比Afの目標値Gv_target、Af_targetに到達するまでのシステムの応答性を決めることができる。より具体的には、上記(4)式中の定数γの値をゼロに近づけるようにした場合には、車両加速度Gvや空燃比Afがそれらの目標値Gv_target、Af_targetに比較的急激に到達するような応答速度をシステムに与えることができるようになる。また、定数γの値を正方向に大きくした場合には、車両加速度Gvや空燃比Afがそれらの目標値Gv_target、Af_targetに比較的緩やかに到達するような応答速度をシステムに与えることができるようになる。このように、定数γは、制御の応答性の味付けを決定するパラメータである。
本実施形態では、上記(4)式を上記(1a)式の線形モデル40に代入して整理することによって、次の(5)式のような制御式を得るようにしている。本実施形態では、この(5)式に、目標値Gv_target、Af_targetやモデル入出力情報の現在値(Ta(t)など)や過去値(Ta(t−1)など)とともに、逐次学習によって更新された最新のモデルパラメータa11等を反映させることによって、システムの最新の状態が反映された状態で、d秒後に目標値Gv_target等を得られるようにするために必要とされるアクチュエータの制御量(スロットル開度Taや点火時期Saなど)を取得することが可能となる。
Figure 0004798056
図5は、上記(5)式に従って取得されるスロットル開度Taや点火時期Saによって加速時の内燃機関10を制御するために、本実施の形態2においてECU30が実行するルーチンのフローチャートである。図5に示すルーチンでは、先ず、上記図3に示すルーチンにおいて現在の使用燃料であると判定された燃料のテンプレートの基準モデルパラメータa11等が取得される(ステップ200)。
次に、上記ステップ200において取得された基準モデルパラメータa11等が代入された上記(5)式に従って、目標値Gv_target、Af_targetに制御するために必要とされるスロットル開度Ta(t)および点火時期Sa(t)が算出される(ステップ202)。
次に、上記ステップ202において取得されたスロットル開度Ta(t)および点火時期Sa(t)となるように、スロットルバルブ22や点火の制御が実行される(ステップ204)。
以上説明した図5に示すルーチンの処理によれば、燃料性状の判定結果が反映された基準モデルパラメータa11等が代入された上記(5)式に従って、現時刻tからd秒後における車両加速度Gvや空燃比Afの目標値Gv_target、Af_targetを同時に満足させるために現時点で必要とされるスロットル開度Ta(t)および点火時期Sa(t)を正確に求めることが可能となる。これにより、燃料性状の判定に用いた線形モデル40を利用して、燃料の違いによらずに、最適な加速度を達成することが可能となる。
言い換えれば、上記ルーチンの処理によれば、燃料性状判定において現在の使用燃料であると判定された燃料のテンプレートの基準モデルパラメータa11等が、上記(5)の制御式で用いるパラメータとして取得されるようになる。つまり、このような処理によれば、線形モデル40の逐次学習によって同定されたモデルパラメータa11等と一致する(近い)基準モデルパラメータa11等がECU30内のテンプレートの中から探索されて、上記(5)の制御式において使用されるようになる。
もっとも、このようにテンプレートの基準モデルパラメータa11等を用いる手法に限らず、線形モデル40の逐次学習によって同定されたモデルパラメータa11等を上記(5)の制御式において使用するようにしてもよい。しかし、上記ルーチンのように、テンプレートの基準モデルパラメータa11等を用いるようにした場合には、線形モデル40の逐次学習によって同定されたモデルパラメータa11等を使用する場合に比して、空燃比センサ44などの計測誤差の影響を回避して、より正確な制御の構築を図れる点において有効といえる。
以上のように、本実施形態のシステムによれば、比較的簡便に構成でき、モデルパラメータa11等が逐次学習される線形モデル40によって、2入力2出力の制御系の問題を良好に扱えるようになる。また、そのような線形モデル40を利用した適応制御によって、目標値に対して円滑かつ精度の良い制御を実現することができる。また、以上のような構成を有する線形モデル40によれば、当該線形モデル40の入出力の本数を増やすという簡便な手法で、モデル精度の向上を確保することもできる。
図6は、3入力2出力系の線形モデル50を表した図である。以上説明した実施の形態1および2においては、加速時の特性を評価する線形モデル40を2入力2出力系の線形モデルとしてい構築している。しかしながら、本発明において、内燃機関の運転条件を決めるための複数のパラメータをモデル入力情報と、車両や内燃機関の運転状態を示す複数のパラメータをモデル出力情報とする線形モデルは、これに限定されるものではない。例えば、図6に示すような3入力2出力系の線形モデル50であってもよい。
図6に示す線形モデル50では、上述した実施の形態1の線形モデル40に対し、モデルへの入力情報がスロットル開度Ta(t)から吸入空気量Ga(t)および燃料噴射量Fi(t)に変更されている。尚、このような線形モデル50の線形式および制御式は、上記(1)〜(5)式と同じ手法によって求めることが可能である。
以上のような線形モデル50によれば、モデル入力情報の数が増やされていることで、上述した線形モデル40に比して、加速時の車両加速度Gvおよび空燃比Afをより正確に算出することが可能となる。また、そのような線形モデル50を利用した適応制御によって、上述した実施の形態2に比して更に、目標値に対して円滑かつ精度の良い制御を実現することができる。
尚、上述した実施の形態2においては、ECU30が上記図5に示すルーチンの一連の処理を実行することにより前記第2および第3の発明における「制御実行手段」が実現されている。
また、ECU30が、上記ステップ200および202の処理を実行することにより前記第3の発明における「制御量算出手段」が、上記ステップ204の処理を実行することにより前記第3の発明における「制御手段」が、それぞれ実現されている。
実施の形態3.
次に、図7乃至図9を参照して、本発明の実施の形態3について説明する。
本実施形態のシステムは、図1に示すハードウェア構成および線形モデル40、60を用いて、ECU30に後述する図8に示すルーチンを実行させることにより実現することができるものである。
本実施形態のシステムでは、上述した線形モデル40とは別にECU30内に構築されている他の線形モデル(始動時エンジンモデル)60が上述した燃料性状判定結果を受け取り、また、その判定結果を当該線形モデル60に反映させた制御が行われるという点に特徴を有している。
[実施の形態3の線形モデル]
図7は、本発明の実施の形態3で用いられる線形モデル60を表した図である。本実施形態の線形モデル60では、内燃機関10の始動時のエンジン回転数Neを制御対象としている。そこで、本実施形態では、図7に示すように、線形モデル60を、スロットル開度Taおよび点火時期Saをモデル入力情報として、エンジン回転数Neおよび空燃比Afを算出(出力)するモデルとして構築している。
すなわち、本実施形態の線形モデル60は、2入力2出力系の線形モデルである。そこで、本実施形態では、このような線形モデル60の線形式を、上述した実施の形態1と同様の考え方に基づき、以下の(6)式のように表すこととしている。
Figure 0004798056
本実施形態の線形モデル60においても、上述した実施の形態1と同様の手法で、モデルパラメータp11等が逐次学習によって同定されるようになっている。
[実施の形態1の燃料性状の判定結果が反映された始動時のエンジン回転数制御]
本実施形態では、上述した線形モデル40を用いた燃料性状の判定結果を利用して、線形モデル60を用いた以下に示すような手法によって、目標エンジン回転数Ne_targetおよび目標空燃比Af_targetを満足できるようなスロットル開度Ta(t)および点火時期Sa(t)を取得するようにしている。
そのために、本実施形態では、上述した実施の形態1と同様の考え方で評価関数Eを導入したうえで、上述した実施の形態1と同様の手法を用いて、その評価関数Eと上記(6)式の線形式とを用いて、次の(7)式の制御式を得るようにしている。
Figure 0004798056
図8は、上記(7)式に従って取得されるスロットル開度Taや点火時期Saによって始動時のエンジン回転数Neを制御するために、本実施の形態3においてECU30が実行するルーチンのフローチャートである。図8に示すルーチンでは、上記図3に示すルーチンにおける線形モデル40を用いた燃料性状判定によって取得された現在の使用燃料情報が取得される(ステップ300)。
次に、上記ステップ300において取得された現在の使用燃料に対応する燃料が、図9に示すテンプレートの中から選択される(ステップ302)。図9は、図1に示すECU30内に記憶されているテンプレートを表した図である。図9に示すテンプレートは、始動時エンジンモデルである線形モデル60用のテンプレートであり、これらのテンプレートにも、図4と同様に、予め燃料の種類毎に実車での計測などにより学習された線形モデル60の基準モデルパラメータp11等が関連付けられている。また、この図9に示すテンプレートと上記図4に示すテンプレートとは、相互に燃料性状に関する情報をやり取りできるように、それぞれに記憶された燃料の種類が対応づけられている。
次に、上記ステップ302において選択された燃料を示すテンプレートの基準モデルパラメータp11等が代入された上記(7)式に従って、目標値Ne_target、Af_targetに制御するために必要とされるスロットル開度Ta(t)および点火時期Sa(t)が算出される(ステップ304)。
次に、上記ステップ304において取得されたスロットル開度Ta(t)および点火時期Sa(t)となるように、スロットルバルブ22や点火の制御が実行される(ステップ306)。
以上説明した図8に示すルーチンの処理によれば、加速時を扱う線形モデル40によって最新の燃料性状が把握された際に、始動時を扱う他の線形モデル60用のテンプレートの中から燃料性状の判定結果に対応する燃料が選択される。そして、選択された燃料に関する基準モデルパラメータp11等が反映された上記(7)式に従って、次回の始動時のエンジン回転数Neが制御されるようになる。これにより、始動時において、燃料の違いによらずに、最適なエンジン回転数Neの制御を達成することが可能となる。
つまり、以上説明した手法では、ある線形モデル(本実施形態であれば、加速時を扱う線形モデル40)を使用して取得された燃料性状に関する情報を、他の線形モデル(本実施形態であれば、始動時を扱う線形モデル60)を使用した他のエンジン制御(例えば、始動時のエンジン回転数Neの制御)に反映させている。このように、以上説明した手法によれば、複数の線形モデル間で最新の燃料性状に関する情報を互いに取得し合い、また、複数の線形モデル間で取得した情報を交換し合うことが可能となる。そして、他の線形モデルから得た情報を、テンプレート(基準モデルパラメータ)の選択という形で、それぞれの線形モデルが担う制御に容易に反映させられるようになる。
ところで、上述した実施の形態3においては、加速時を扱う線形モデル40を用いて判定された燃料性状に関する情報を、始動時を扱う他の線形モデル60を使用した始動時のエンジン回転数Neの制御に反映させるようにしている。しかしながら、本発明において、燃料性状に関する情報の反映対象となる他の線形モデルおよび他のエンジン制御は、多入力多出力系の線形モデルを使用する他のエンジン制御であれば、始動時のエンジン回転数Neの制御に限られない。
尚、上述した実施の形態3においては、ECU30が上記図8に示すルーチンの一連の処理を実行することにより前記第2および第4の発明における「制御実行手段」が実現されている。
また、ECU30が、上記ステップ300〜304の処理を実行することにより前記第3の発明における「制御量算出手段」が、上記ステップ306の処理を実行することにより前記第3の発明における「制御手段」が、それぞれ実現されている。
ところで、上述した実施の形態1乃至3においては、モデル入力情報(Taなど)やモデル出力情報(Gvなど)の過去値として、それらの前回値(t−1)までを線形式や制御式に含めるようにしているが、本発明における線形式やそれから導出される制御式に含まれるモデル入出力情報の過去値は、前回値(t−1)に限られない。すなわち、本発明の線形式や制御式には、必要に応じ、前々回値(t−2)などを含めるようにしてもよい。
本発明の実施の形態1の構成を説明するための図である。 本発明の実施の形態1で用いられる線形モデルを表した図である。 本発明の実施の形態1において実行されるルーチンのフローチャートである。 図1に示すECU内に記憶されているテンプレートを表した図である。 本発明の実施の形態2において実行されるルーチンのフローチャートである。 3入力2出力系の線形モデルを表した図である。 本発明の実施の形態3で用いられる線形モデルを表した図である。 本発明の実施の形態3において実行されるルーチンのフローチャートである。 図1に示すECU内に記憶されているテンプレートを表した図である。
符号の説明
10 内燃機関
14 燃焼室
16 吸気通路
18 排気通路
20 エアフローメータ
22 スロットルバルブ
24 スロットルセンサ
26 燃料噴射弁
28 点火プラグ
30 ECU(Electronic Control Unit)
32 クランク角センサ
34 空燃比センサ
36 加速度センサ
40、50、60 線形モデル
a11、b11、p11、q11等 モデルパラメータ
11、b11、p11、q11等 基準モデルパラメータ
Af 空燃比
d 遅れ時間
E 評価関数
Fi 燃料噴射量
Ga 吸入空気量
Gv 車両加速度
Ne エンジン回転数
Sa 点火時期
Ta スロットル開度
γ 定数

Claims (4)

  1. 内燃機関の運転条件を決めるための複数のパラメータをモデル入力情報とし、車両や内燃機関の運転状態を示す複数のパラメータをモデル出力情報とする線形モデルを備える内燃機関の燃料性状判定装置であって、
    前記線形モデルは、学習対象となるモデルパラメータを係数とする複数のモデル入力情報の現在値と、学習対象となる他のモデルパラメータを係数とする複数のモデル入力情報の過去値と、学習対象となる他のモデルパラメータを係数とする複数のモデル出力情報の現在値と、学習対象となる他のモデルパラメータを係数とする複数のモデル出力情報の過去値との和によって、所定時間経過後の前記複数のモデル出力情報を表した線形式を含み、
    前記複数のモデル入力情報および前記複数のモデル出力情報を取得するモデル入出力情報取得手段と、
    前記複数のモデル入力情報および前記複数のモデル出力情報が代入された所定サンプリング周期分の前記線形式に基づいて、前記モデルパラメータを算出するパラメータ算出手段と、
    燃料の種類毎に予め設定された基準モデルパラメータを有し、前記パラメータ算出手段によって算出された前記モデルパラメータと前記基準モデルパラメータとの比較結果に基づいて、燃料性状を判定する燃料性状判定手段と、
    を備えることを特徴とする内燃機関の燃料性状判定装置。
  2. 前記燃料性状判定手段による燃料性状の判定結果を利用したエンジン制御を行う制御実行手段を更に備えることを特徴とする請求項1記載の内燃機関の燃料性状判定装置。
  3. 前記制御実行手段は、
    所定時間経過後に目標モデル出力値に到達するまでのシステムの応答性を定める評価関数を表した式と前記線形モデルを表した線形式とから導出された制御式に基づいて、前記目標モデル出力値が得られるようにするための前記モデル入力情報を算出する制御量算出手段と、
    前記制御量算出手段によって算出された前記モデル入力情報となるように当該モデル入力情報を制御する制御手段と、
    前記制御量算出手段は、前記燃料性状判定手段により性状判定された燃料の前記基準モデルパラメータ、および、前記パラメータ算出手段により取得された前記モデルパラメータの何れかを参照して、前記モデル入力情報を算出することを特徴とする請求項2記載の内燃機関の燃料性状判定装置。
  4. 前記制御実行手段は、
    前記エンジン制御に利用するための線形モデルであって前記線形モデルと同様の構成を有する他の線形モデルと、
    所定時間経過後に目標モデル出力値に到達するまでのシステムの応答性を定める評価関数を表した式と前記他の線形モデルを表した線形式とから導出された制御式に基づいて、前記目標モデル出力値が得られるようにするための前記モデル入力情報を算出する制御量算出手段と、
    前記制御量算出手段によって算出された前記モデル入力情報となるように当該モデル入力情報を制御する制御手段と、
    前記燃料性状判定手段が有する前記基準モデルパラメータと対応づけて燃料の種類毎に予め設定された他の基準モデルパラメータとを更に備え、
    前記制御量算出手段は、前記燃料性状判定手段による燃料性状の判定結果に対応する前記他の基準モデルパラメータを参照して、前記モデル入力情報を算出することを特徴とする請求項2記載の内燃機関の燃料性状判定装置。
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