JP4797578B2 - 磁気エンコーダの製造方法 - Google Patents

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本発明は、例えば車輪支持用軸受ユニットの回転体に取り付けられ、当該回転体の回転速を検出するために用いられる磁気エンコーダの製造方法に関する。
従来、車輪支持用軸受ユニットに用いられる磁気エンコーダとして、金属製のスリンガに磁性ゴムを接合し、該接合体を円周方向に多極磁化したものが知られている。この磁気エンコーダには更なる検出精度の向上が要求されているが、かかる要求に応えるには磁性ゴム中の磁性粉の配合量を高めていくしかなく、それにも限界がある。
一方、接着剤を塗布した金属製のスリンガに、樹脂組成物と磁性粉とからなるプラスチック磁石材料をインサート成形により一体に接合し、該接合体を円周方向に多極磁化したものが提案されている。プラスチック磁石は、磁界をかけた状態での射出成形(磁場成形)が可能なため、優れた磁気特性発現に不可欠な異方性が得られるという利点がある。つまり、磁性粉の配向制御によって、より効率的に磁力向上が図れるプラスチック磁石を用いれば、磁性ゴム製のものに対して、検出精度の優れた磁気エンコーダを得ることが可能となる。
このようなプラスチック磁石を用いた磁気エンコーダは、例えば図6に示すように、回転体に嵌合される円筒部1と、該円筒部1から径方向外方に延びる円輪部2と、を備えた金属製のスリンガの円輪部2の一方の軸方向端面に、プラスチック磁石3がインサート成形により接合されるが、プラスチック磁石3の形状、サイズ、材料等によっては、インサート成形後の冷却固化工程におけるプラスチック磁石3の収縮により、スリンガの円輪部2が変形する可能性がある。つまり、インサート成形後の冷却固化工程では、金属製のスリンガに対してプラスチック磁石3の熱収縮量が大きく、且つスリンガの円輪部2とプラスチック磁石3との接合が強固であるため、スリンガの円輪舞2及びプラスチック磁石3に図6の矢印方向の力が作用して検出面となるプラスチック磁石3の露出された軸方向端面が傾き、検出精度に悪影響を及ぼす虞れがある。
本発明は、このような不都合を解消するためになされたものであり、その目的は、高い検出精度を安定して確保することができる磁気エンコーダの製造方法を提供することにある。
上記目的を達成するために、本発明に係る磁気エンコーダの製造方法は、回転体に嵌合固定される円筒部と、該円筒部から径方向に延びる円輪部と、を備えた金具の前記円輪部の一方の軸方向端面に、円環状に形成されて円周方向に多極に着磁されるプラスチック磁石が同心に接合されてなる磁気エンコーダの製造方法であって、前記円輪部において前記プラスチック磁石が接合される前記一方の軸方向端面とは反対側の軸方向端面と前記円筒部の外周面とのなす角度が全周にわたり鋭角となるように前記円輪部を傾倒し、この状態で前記プラスチック磁石をインサート成形して前記円輪部の前記一方の軸方向端面に接合させ、前記円輪部が、前記インサート成形後の前記プラスチック磁石の冷却固化時の熱収縮により、前記円筒部に対して、前記プラスチック磁石が接合される側に傾倒し、前記円輪部の前記一方の軸方向端面とは反対側の軸方向端面と前記円筒部の外周面とのなす角度が全周にわたり直角となることを特徴としている。
また、本発明に係る磁気エンコーダの製造方法は、前記プラスチック磁石の材料に含有される磁性粉は、ストロンチウムフェライト、バリウムフェライト、ネオジウム−鉄−ボロン、サマリウム−コバルト、サマリウム−鉄のいずれかであることを特徴としている。
また、本発明に係る磁気エンコーダの製造方法は、前記円輪部の傾倒量は、前記円輪部の最外径端位置を、軸方向に20〜30μm変位させたものであることを特徴としている。
本発明によれば、金具の円輪部の一方の軸方向端面にプラスチック磁石をインサート成形により接合する際に、インサート成形後の冷却固化によるプラスチック磁石の収縮によって金具の円輪部に生じる変形を考慮して、円輪部においてプラスチック磁石が接合される一方の軸方向端面とは反対側の軸方向端面と円筒部の外周面とのなす角度が全周にわたり鋭角となるように予め円輪部を傾倒させており、これにより、円輪部及びプラスチック磁石の軸方向端面を円筒部の軸線、即ち回転体の回転軸に対して直交するように配置することができ、高い検出精度を安定して確保することができる磁気エンコーダを得ることができる。
以下、本発明の好適な実施形態を図面を参照して説明する。
図1は本発明の磁気エンコーダの製造方法の一実施形態により製造された磁器エンコーダを備えた車輪支持用軸受ユニットを示す断面図、図2は図1の部分拡大断面図、図3は図1の磁気エンコーダに用いられるプラスチック磁石の磁化の一例を示す斜視図、図4はインサート成形前のスリンガの要部断面図、図5はインサート成形後の冷却固化工程を経たスリンガとプラスチック磁石との接合体を示す要部断面図である。
まず、図1を参照して、従来周知の車輪支持用軸受ユニットから簡単に説明すると、この車輪支持用軸受ユニットは従動輪用とされており、ハブ7aの車幅方向の内端部に形成された小径段部15に内輪16が外嵌されている。該内輪16aは、ハブ7aの車幅方向の内端部を径方向外方に加締め広げることにより形成された加締め部23によってハブ7aに固定されており、このハブ7aと内輪16aとにより回転輪を構成している。
また、ハブ7aの車幅方向の外端部に形成された取り付けフランジ12には車輪が取り付けられ、静止輪である外輪5aの外周面に形成された結合フランジ11は懸架装置を構成する図示しないナックル等に結合される。
外輪5aの内周面に形成された外輪軌道面10a,10bとハブ7a及び内輪16aの外周面に形成された内輪軌道面14a,14bとの間には、複列の玉17aが保持器18を介して転動可能に介装されている。また、外輪5aの車幅方向の外端部内周面とハブ7aの中間部外周面との間にはシールリング21aが設けられ、外輪5aの車幅方向の内端部内周面と内輪16aの間にはシールリング21bが設けられている。これらのシールリング21a,21bにより軸受の両端開口が閉塞され、軸受空間と外部空間とが遮断されている。
シールリング21a,21bは、それぞれ軟鋼板を曲げ形成して、断面L字形で全体を円環状とされた芯金24a,24bに、弾性材22a,22bが接着等により固着されている。シールリング21aは、芯金24aを外輪5aの車幅方向外端部に締り嵌めで内嵌させ、弾性材22aが構成するシールリップの先端部をハブ7aの中間部外周面に全周に亙り摺接させている。一方、シールリング21bは、図2に示すように、芯金24bを外輪5aの車幅方向内端部に締り嵌めで内嵌させ、弾性材22bが構成するシールリップの先端部を内輪16aの内端部外周面に外嵌固定された金属製のスリンガ25に全周に亙り摺接させている。
スリンガ25は、内輪16aの内端部外周面に外嵌固定される円筒部25aと、該円筒部25aの車幅方向の内端部から径方向外方に延びるフランジ部(円輪部)25bとを備えており、フランジ部25bの車幅方向内側を向く軸方向端面には、円環状に形成されたプラスチック磁石26が同心に接合されている。プラスチック磁石26は、図3に示すように、円周方向に交互にN極、S極が形成され(即ち、多極に着磁され)ており、これらスリンガ25及びプラスチック磁石26で磁気エンコーダが構成されている。そして、磁気センサ(図示せず)がプラスチック磁石26の軸方向に対向配置される。
プラスチック磁石26は、磁性粉とそのバインダとなる樹脂組成物とを含有するプラスチック磁石材料で形成され、基本的には、接着剤を予め半硬化状態でフランジ部25bの磁石接合面に焼き付けたスリンガ25をコアにしてプラスチック磁石材料のインサート成形を行い、その後、接着剤を完全に硬化させて、スリンガ25のフランジ部25bに成形と同時に一体的に接合され、その後、円周方向に多極磁化して製造される。
上記プラスチック磁石材料に含有される樹脂組成物としては、ポリアミド系樹脂、具体的には、融雪剤として使用される塩化カルシウムが水と一緒にかかる可能性があるという点を考慮して、吸水率の小さい所謂高級ナイロンであるナイロン11、ナイロン12、ナイロン612、あるいはアジピン酸ユニットにテレフタル酸を一部共重合させた半芳香族ナイロンであるナイロン6T/6−6、ナイロン6T/6I、ナイロン6T/6I/6−6、ナイロン6T/M−5T、ナイロン9Tなどを例示することができる。
スリンガ25のフランジ部25bの接合面(接着剤焼き付け面)は、プラスチック磁石26との接合をより強固なものとするため、ショットブラストなどの機械的処理や化学エッチング法などの処理により粗面化してもよい。
また、プラスチック磁石26は、例えば、−40〜120°Cの繰り返し冷熱衝撃が印加されるような状況下での信頼性をより確実なものとするために、プラスチック磁石材料に含有される樹脂組成物を、低吸水性を示すポリアミド樹脂と、衝撃強さ改良剤として配合される軟質成分とのポリマーアロイとするのが好ましい。ここで、軟質成分は、樹脂組成物の総重量に対して、5〜50重量%、好ましくは10〜35重量%配合され、軟質成分としては、その分子構造中にガラス転移温度が少なくとも−40°C以下である軟質セグメントを含むブロック共重合体を例示できる。
プラスチック磁石材料に利用可能なブロック共重合体としては、ポリスチレン系、ポリオレフィン系、塩化ビニル系、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリアミド系、ホリジオレフィン系及びシリコン系があるが、プラスチック磁石26に要求される性能や、その使用環境を考慮すると、ポリエステル系及びポリアミド系が好ましく、また、これらブロック共重合体における軟質セグメントのガラス転移温度が−40°C以下のものであれば良い。
更に、プラスチック磁石材料に含有される樹脂組成物には、熱安定剤(耐熱加工安定剤、酸化防止剤)、光安定剤、帯電防止材、可塑剤、無機あるいは有機難燃剤、その他、補強材等が必要に応じて適宜添加されるが、特に、使用環境を考慮すると、熱安定剤の添加が望ましく、好適に添加されるものとしては、アミン系酸化防止剤として、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンポリマーに代表されるアミン・ケトン系、p,p′−ジクミルジフェニルアミンに代表されるジアリルアミン系、N,N′−ジフェニル−p−フェニレンジアミンに代表されるp−フェニレンジアミン系、のものを例示でき、フェノール系酸化防止剤として、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノ一ルに代表されるモノフェノ−ル系、2,2′−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノ−ル)に代表されるポリフェノール系、のものを例示できる。また、2,5−ジ−t−ブチルヒドロキノンといったハイドロキノン系のものも例示できる。
更に、酸化防止剤と共に、過酸化物分解型酸化防止剤(二次酸化防止剤)を併用してもよい。二次酸化防止剤としては、2−メルカプトベンズイミダゾールのような硫黄系二次酸化防止剤や、トリス(ノニル化フェニル)フォスファイトのようなリン系二次酸化防止剤を例示できる。尚、熱安定剤の配合量は、樹脂に対して0.1〜3重量%程度が好ましいが、種類によっては(ブルームしない、あるいは樹脂の物性に悪影響を及ぼさない範囲で)それ以上の量が添加される場合ある。
一方、プラスチック磁石材料に含有される磁性粉としては、ストロンチウムフェライトやバリウムフェライトなどのフェライト、ネオジウム−鉄−ボロン,サマリウム−コバルト,サマリウム−鉄などの希土類磁性粉を例示することができ、更にフェライトの磁気特性を向上させるためにランタンとコバルト等を混入させたものであってもよい。
尚、プラスチック磁石26の磁気特性を十分に確保するため、磁性粉の含有量を60〜80体積%としている。これは、磁性粉の含有量が60体積%未満の場合は、磁気特性が劣ると共に、細かいピッチで円周方向に多極磁化させるのが困難になるためであり、−方、80体積%を越える場合は、バインダとなる樹脂組成物量が少なくなりすぎて、磁石全体の強度が低くなると同時に、成形が困難になり、実用性が低下するためである。
次に、本実施形態の磁気エンコーダの製造方法について説明する。
本実施形態の磁気エンコーダの製造方法は、基本的には、接着剤を予め半硬化状態でフランジ部25bの磁石接合面に焼き付けたスリンガ25をコアにして、プラスチック磁石材料のインサート成形を行い、その後、接着剤を完全に硬化させて、スリンガ25のフランジ部25bにプラスチック磁石26を成形と同時に一体的に接合するが、プラスチック磁石26及び当該プラスチック磁石26が接合されたフランジ部25bは、上述したように、プラスチック磁石26のインサート成形後の収縮(冷却固化時の収縮)により、車幅方向内方に向けて傾倒するように、換言すれば、フランジ部25bにおいてプラスチック磁石26が接合される軸方向内端面とは反対側の軸方向外端面と円筒部25aの外周面とのなす角度が全周にわたり鈍角となるように変形する。
そこで、本実施形態では、図4に示すように、フランジ部25bにおいてプラスチック磁石26が接合される軸方向内端面とは反対側の軸方向外端面と円筒部25aの外周面とのなす角度αが全周にわたり鋭角となるように、予めフランジ部25bを傾倒し、この状態で上記のインサート成形を行うようにしている。尚、スリンガ25のフランジ部25bの傾斜加工は、スリンガ25のプレス加工時、あるいは、フランジ部25bの接合面に対する表面処理(例えば、ショットブラスト処理)時に行うのが好ましい。
フランジ部25bの傾斜は、プラスチック磁石26の寸法形状やプラスチック磁石材料の物性に依存するため、随時実験によってその最適量を決定しなければならないが、例えば、図5を参照して、厚み0.6mmのSUS430により作製した外径φ75mm、内径φ65mmのスリンガ25のフランジ部25bに、厚み0.9mmのプラスチック磁石26(組成:ナイロン12;11.3重量%、磁性体(ストロンチウムフェライト)粉;88.7重量%)をインサート成形により接合する場合に、フランジ部25bの最外径端位置を、軸方向に20〜30μm変位させる程度が良い。
上記の説明から明らかなように、本実施形態では、スリンガ25のフランジ部25bの軸方向内端面にプラスチック磁石26をインサート成形により接合する際に、フランジ部25bにおいてプラスチック磁石26が接合される軸方向内端面とは反対側の軸方向外端面と円筒部25aの外周面とのなす角度が全周にわたり鋭角となるように予めフランジ部25bを傾倒させているので、プラスチック磁石26の固化後、フランジ部25b及びプラスチック磁石26の軸方向端面を円筒部25aの軸線、即ち回転体であるハブ7a及び内輪16aの回転軸に対して直交するように配置することができ、高い検出精度を安定して確保することができる磁気エンコーダを得ることができる。
また、プラスチック磁石26中の磁性粉は、その厚み方向に高度に配向しているため、着磁により得られるプラスチック磁石26の磁気特性は極めて良好なものとなる。このため、プラスチック磁石26中の磁性粉の含有量によっては、従来の磁性ゴムによるものでは20mT程度であった磁束密度を26mT以上に向上させることが可能である。
従って、プラスチック磁石26と磁気センサとのギャップを従来と同様に1mmとした場合に、従来では96極に多極磁化されていたものを、1極当りの磁束を維持して120極以上に多極磁化することが可能であり、このときの単一ピッチ誤差は±2%以下とできる。即ち、本発明に係る磁気エンコーダによれば、従来と同等のエアギャップとした場合に、極数を増加させて車輪の回転速度の検出精度を向上させることができ、また、従来と同数の極数とした場合に、エアギャップを大きくとることができ、センサを配置する際の自由度を向上させることができる。
なお、本発明は上記実施の形態に例示したものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
本発明の磁気エンコーダの製造方法の一実施形態により製造された磁器エンコーダを備えた車輪支持用軸受ユニットを示す断面図である。 図1の部分拡大断面図である。 図1の磁気エンコーダに用いられるプラスチック磁石の磁化の一例を示す斜視図である。 インサート成形前のスリンガの要部断面図である。 インサート成形後の冷却固化工程を経たスリンガとプラスチック磁石との接合体を示す要部断面図である。 従来のスリンガとプラスチック磁石との接合体を示す要部断面図である。
符号の説明
25 スリンガ(金具)
25a 円筒部
25b フランジ部(円輪部)
26 プラスチック磁石

Claims (3)

  1. 回転体に嵌合固定される円筒部と、該円筒部から径方向に延びる円輪部と、を備えた金具の前記円輪部の一方の軸方向端面に、円環状に形成されて円周方向に多極に着磁されるプラスチック磁石が同心に接合されてなる磁気エンコーダの製造方法であって、
    前記円輪部において前記プラスチック磁石が接合される前記一方の軸方向端面とは反対側の軸方向端面と前記円筒部の外周面とのなす角度が全周にわたり鋭角となるように前記円輪部を傾倒し、この状態で前記プラスチック磁石をインサート成形して前記円輪部の前記一方の軸方向端面に接合させ
    前記円輪部が、前記インサート成形後の前記プラスチック磁石の冷却固化時の熱収縮により、前記円筒部に対して、前記プラスチック磁石が接合される側に傾倒し、前記円輪部の前記一方の軸方向端面とは反対側の軸方向端面と前記円筒部の外周面とのなす角度が全周にわたり直角となることを特徴とする磁気エンコーダの製造方法。
  2. 前記プラスチック磁石の材料に含有される磁性粉は、ストロンチウムフェライト、バリウムフェライト、ネオジウム−鉄−ボロン、サマリウム−コバルト、サマリウム−鉄のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の磁気エンコーダの製造方法。
  3. 前記円輪部の傾倒量は、前記円輪部の最外径端位置を、軸方向に20〜30μm変位させたものであることを特徴とする請求項1に記載の磁気エンコーダの製造方法。
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