メディアコンバータを用いたシステムまたはG−PON(Gigabit Passive Optical Network;ギガビット受動光ネットワーク)システム等の光伝送システムでは、送受信される信号が完全なPCM(パルス符号変調)信号(“0”または“1”)のデータストリームからなる。このような光伝送システムにおける光受信装置は、広帯域および低雑音特性を有することが望ましい。そこで、広い受光電力ダイナミックレンジを有する光受信装置には、低雑音特性および高い増倍率を有するアバランシェフォトダイオード(Avalanche Photo Diode;以下、APDと呼ぶ)が用いられる(例えば特許文献1参照)。
図18は従来のデジタル光伝送システムにおける光受信装置の例を示すブロック図である。図18の光受信装置はデジタルPCM(パルス符号変調)ベースバンドシステムの終端装置として用いられる。
図18の光受信装置7は、APD71、インピーダンス整合回路72、増幅器73,74、可変減衰回路75、分配器76、検波回路77、自動利得制御回路(以下、AGC回路と呼ぶ)78および高圧制御回路79により構成される。
APD71には、高圧制御回路79により逆バイアス電圧が印加される。APD71がデジタル変調された光信号を受信すると、APD71に高周波の光電流が流れる。インピーダンス整合回路72はAPD71および増幅器73のインピーダンス整合を行う。増幅器73は、インピーダンス整合回路72から出力される高周波信号を増幅する。
可変減衰回路75は、増幅器73から出力される高周波信号のレベルを制御する。増幅器74は、可変減衰回路75から出力される高周波信号を増幅する。分配器76は、増幅器74から出力される高周波信号RFを出力端子NOおよび検波回路77に分配する。
検波回路77は、高周波信号RFを検波する。検波回路77の出力信号は、制御電圧としてAGC回路78に与えられる。AGC回路78は、制御電圧に基づいて可変減衰回路75の利得を制御するとともに高圧制御回路79の出力電圧を制御する。それにより、APD71の増倍率が制御される。このようにして、出力端子NOから出力される高周波信号RFのレベルが一定に制御される。
出力端子NOから出力される高周波信号RFは、後段のクロックリカバリー回路およびデジタル処理系に与えられる。
アクセスネットワークシステムにおいて、従来LAN(ローカルエリアネットワーク)ケーブル、ケーブルテレビ用の同軸ケーブル、電話線用のISDN(総合サービスデジタル網)ケーブルまたはADSL(非対称デジタル加入者線)ケーブル等により構築された端末網が光ファイバで置き換えられる動きが加速している。このような光伝送システムに用いられる光終端装置では、低価格化、小型化および低消費電力化が望まれている。
一方、アナログ放送から地上波デジタル放送への移行により、伝送システムにおける極めて厳しい歪特性の要求が緩和される。また、FTTH(Fiber to the Home)サービスの映像配信においても、歪特性の要求が緩和される。
しかしながら、アナログ放送からデジタル放送に完全に移行したとしても、アナログ変調方式が用いられるため、ある程度の良好な歪特性は絶対条件として必要である。このことは、アナログ信号およびデジタル信号が混在するシステムにおいても、同様に良好な歪特性が要求される。
AM(振幅変調)方式またはQAM(直交振幅変調)方式の多波信号を受信する映像配信システムの光受信装置では、歪が致命的な問題となるため、受光素子としては歪特性の良好なPINフォトダイオード(以下、PDと呼ぶ)が用いられ、直線性に劣るAPDは用いられない。
図19は従来のアナログ光伝送システムにおける光受信装置の第1の例を示すブロック図、図20は従来のアナログ光伝送システムにおける光受信装置の第2の例を示すブロック図である。図19および図20の光受信装置は、例えばアナログ変調SCM(映像配信)システムの光終端装置として用いられる。
図19の光受信装置5は、PD51、インピーダンス整合回路52、増幅器53,54、可変減衰回路55、分配器56、DC/DC(直流/直流)コンバータ57、帯域通過フィルタ(以下、BPFと呼ぶ)58、検波回路59および自動利得制御回路(以下、AGC回路と呼ぶ)60により構成される。各増幅器53,54はGaAsまたはSi−Geからなり、可変減衰回路55は3〜4個のPINダイオードまたはFET(電界効果トランジスタ)を含む。
PD51がアナログ変調された高周波の光信号を受信すると、PD51に高周波の光電流が流れる。インピーダンス整合回路52はPD51および増幅器53のインピーダンス整合を行う。増幅器53は、インピーダンス整合回路52から出力される高周波の光電流を増幅するとともに電圧に変換する。それにより、増幅器53から高周波信号が出力される。可変減衰回路55は、増幅器53から出力される高周波信号のレベルを制御する。増幅器54は、可変減衰回路55から出力される高周波信号を増幅する。分配器56は、増幅器54から出力される高周波信号RFを出力端子NOに与えるとともにBPF58に分配する。
DC/DCコンバータ57は、RF(高周波)ケーブルに重畳されてきた外部からの直流電圧を本光受信装置が必要とする直流電圧Vccに変換する。直流電圧Vccは、PD51に逆バイアス電圧として印加されたり、各回路に印加される。
一方、BPF58は、高周波信号RFの所定帯域の周波数成分を通過させる。検波回路59は、BPF58を通過した周波数成分(パイロット信号;通常は、40〜70MHzの間で決められる)を検波する。検波回路59の出力信号は、制御電圧としてAGC回路60に与えられる。AGC回路60は、制御電圧に基づいて可変減衰回路55の利得を制御する。
このようにして、出力端子NOから出力される高周波信号RFのレベルが一定にフィードバック制御される。
図20の光受信装置6が図19の光受信装置5と異なるのは、図19の分配器56、BPF58および検波回路59が設けられず、光電流検出回路61が設けられる点である。
図20の光受信装置6において、PD51、インピーダンス整合回路52、増幅器53、可変減衰回路55およびDC/DCコンバータ57の動作は、図19の光受信装置5のそれぞれ対応する部分の動作と同様である。
増幅器54は、可変減衰回路55から出力される高周波信号を増幅する。増幅器54から出力される高周波信号RFは出力端子NOに与えられる。
光電流検出回路61は、PD51に流れる高周波の光電流を検出し、光電流に応じた制御電圧をAGC回路60に与える。AGC回路60は、制御電圧に基づいて可変減衰回路55の利得を制御する。
このようにして、出力端子NOから出力される高周波信号RFのレベルが一定にフィードフォワード制御される。
特開2003−101356号公報
しかしながら、上記の光受信装置5,6では、低歪特性を有する増幅器53,54が用いられるので、比較的大電力が消費される。
また、光受信装置5,6は、PD51、増幅器53,54、ならびに電源系および制御系を構成する低周波IC(集積回路)から構成される。この場合、光受信装置5,6の総合消費電力が3〜5Wの場合、専有面積は50〜100cm2 程度の規模となる。
さらに、光受信装置5,6では、消費電力および回路規模から各構成要素をある程度の放熱効果を有するように配置しなければならない。そのため、大きな面積が必要となる。
また、デジタル光受信装置で用いられるAPDは、増倍率が印加電圧に比例しない特性を有する。上記のように、アナログ光受信装置には良好な歪特性が要求されるので、上記の従来のアナログ光受信装置5,6のPD51に代えてAPDを用いることは困難である。
本発明の目的は、歪補償を容易に行うことができるとともに、小型化および低消費電力化が可能な光受信装置および光伝送システムを提供することである。
(1)第1の発明に係る光受信装置は、光信号を受けるアバランシェフォトダイオードと、アバランシェフォトダイオードに一定の逆バイアス電圧を印加する電圧印加回路と、アバランシェフォトダイオードに流れる電流が供給され、可変抵抗値を有する負荷素子と、負荷素子の一端に電気的に接続される出力端子と、アバランシェフォトダイオードに流れる電流を検出し、検出された電流に基づいて出力端子の出力電力が一定になるように負荷素子の抵抗値を制御する制御回路とを備えたものである。
本発明に係る光受信装置においては、電圧印加回路によりアバランシェフォトダイオードに一定の逆バイアス電圧が印加される。アバランシェフォトダイオードが光信号を受けると、そのアバランシェフォトダイオードに光電流が流れる。アバランシェフォトダイオードに流れる電流は可変抵抗値を有する負荷素子に供給される。それにより、負荷素子の一端に電気的に接続される出力端子の電圧は光信号の変化にしたがって変化する。
また、制御回路によりアバランシェフォトダイオードに流れる電流が検出され、検出された電流に基づいて出力端子の出力電力が一定になるように負荷素子の抵抗値が制御される。このようにして、光受信装置において自動利得制御が行われる。
この場合、アバランシェフォトダイオードには一定の逆バイアス電圧が印加されているので、アバランシェフォトダイオードの平均の増倍率が一定となる。それにより、アバランシェフォトダイオードにおける印加電圧と増倍率との非直線性が一定となる。したがって、アバランシェフォトダイオードの非直線性に起因する出力信号の歪を容易に補償することが可能となる。
また、光電変換および自動利得制御を少ない構成要素で行うことができるので、光受信装置の小型化が可能となる。さらに、低歪特性を有する複数の増幅器が不要となるので、低消費電力化が可能となる。
(2)負荷素子は電流の増加にしたがって抵抗値が減少する特性を有する可変抵抗素子を含み、制御回路は、アバランシェフォトダイオードに流れる電流を検出し、検出された電流の変化に応じて変化する電流を可変抵抗素子に供給してもよい。
この場合、受光電力が増加することによりアバランシェフォトダイオードに流れる光電流が増加すると、制御回路は可変抵抗素子に供給する電流を増加させる。それにより、可変抵抗素子の一端に接続される出力端子の電圧が低下する。逆に、受光電力が減少することによりアバランシェフォトダイオードに流れる光電流が減少すると、制御回路は可変抵抗素子に供給する電流を減少させる。それにより、可変抵抗素子の一端に接続される出力端子の電圧が上昇する。このようにして、出力端子の平均電圧が一定に保たれる。その結果、受光電力が変化しても、出力電力が一定に保たれる。
(3)可変抵抗素子はPINダイオードまたは電界効果トランジスタ(FET)であり、制御回路は、アバランシェフォトダイオードに流れる電流を検出し、検出された電流の変化に応じて変化する電流をPINダイオードまたは電界効果トランジスタに供給してもよい。
PINダイオードまたは電界効果トランジスタは、電流の増加にしたがって抵抗値が減少する特性を有する。したがって、受光電力が増加することによりアバランシェフォトダイオードに流れる光電流が増加すると、制御回路はPINダイオードまたは電界効果トランジスタに供給する電流を増加させる。それにより、PINダイオードまたは電界効果トランジスタの一端に接続される出力端子の電圧が低下する。逆に、受光電力が減少することによりアバランシェフォトダイオードに流れる光電流が減少すると、制御回路はPINダイオードまたは電界効果トランジスタに供給する電流を減少させる。それにより、PINダイオードまたは電界効果トランジスタの一端に接続される出力端子の電圧が上昇する。このようにして、出力端子の平均電圧が一定に保たれる。その結果、受光電力が変化しても、出力電力が一定に保たれる。
(4)アバランシェフォトダイオードは、増倍率が印加電圧に比例しない非直線性を有し、光受信装置は、アバランシェフォトダイオードの非直線性を補償することにより出力端子の出力信号の歪を補償する歪補償回路をさらに備えてもよい。
この場合、アバランシェフォトダイオードには一定の逆バイアス電圧が印加されているので、アバランシェフォトダイオードの平均の増倍率が一定となる。それにより、アバランシェフォトダイオードにおける印加電圧と増倍率との非直線特性が一定となる。したがって、アバランシェフォトダイオードの非直線性に起因する出力信号の歪を歪補償回路により容易に補償することが可能となる。
(5)アバランシェフォトダイオードは、特定の電圧範囲で増倍率が印加電圧に実質的に比例する直線性を有し、電圧印加回路は、アバランシェフォトダイオードに特定の電圧範囲内の一定の逆バイアス電圧を印加してもよい。
この場合、特定の電圧範囲で増倍率が印加電圧に実質的に比例する。そのため、アバランシェフォトダイオードに特定の電圧範囲内の一定の逆バイアス電圧を印加することにより、出力信号の歪が抑制される。したがって、歪補償回路が不要となるため、光受信装置をさらに小型化することが可能となる。
(6)アバランシェフォトダイオードは超格子構造を有する増倍層を含んでもよい。
この場合、超格子構造を有する増倍層は低雑音特性を有するので、光受信装置の低雑音化が可能となる。
(7)超格子増倍層は、第1のバンドギャップを有する第1の半導体層と、第1のバンドギャップよりも大きい第2のバンドギャップを有する第2の半導体層とを交互に含み、第1および第2の半導体層の価電子帯の最上端のエネルギーレベル差が第1および第2の半導体層の伝導帯の最下端のエネルギーレベル差よりも小さく、第1および第2の半導体層の価電子帯の最上端のエネルギーレベル差が10meV以下であり、電圧印加回路は、アバランシェフォトダイオードに300kV/cm以上の電界がかかるように一定の逆バイアス電圧を印加してもよい。
この場合、超格子増倍層の価電子帯のバンド不連続性が伝導帯のバンド不連続性よりも小さくなる。それにより、電子の増倍率が正孔の増倍率に比べて大きくなる。その結果、アバランシェフォトダイオード内の増倍率が特定の電界強度の範囲で電界強度に実質的に比例する。また、第1および第2の半導体層の価電子帯の最上端のエネルギー差が10meV以下であることにより300kV/cm以上の高い電界強度の範囲で増倍率の直線性が得られる。
したがって、光受信装置において高い利得でかつ低歪の出力信号を得ることができる。
(8)光受信装置は、アバランシェフォトダイオードのインピーダンスと出力端子のインピーダンスとの整合をとるインピーダンス整合回路をさらに備えてもよい。
この場合、アバランシェフォトダイオードと出力端子とのインピーダンス不整合による利得の低下が防止される。
(9)光受信装置は、太陽電池と、二次電池と、太陽電池により発生された電力で二次電池を充電する充電回路とをさらに備え、電圧印加回路は二次電池からの電力を受けてもよい。
この場合、光受信装置は低消費電力化が可能であるので、太陽電池の電力により充電される二次電池により動作することができる。したがって、無給電の光受信装置が実現される。
(10)光信号はアナログ変調された高周波信号であってもよい。この場合、小型かつ低消費電力の光受信装置においてアナログ変調された高周波信号を受信することができるとともに、高周波信号の歪を容易に補償することができる。
(11)第2の発明に係る光伝送システムは、光信号を送信する光送信装置と、光送信装置により送信された光信号を受信する光受信装置とを備え、光受信装置は、光信号を受けるアバランシェフォトダイオードと、アバランシェフォトダイオードに一定の逆バイアス電圧を印加する電圧印加回路と、アバランシェフォトダイオードに流れる電流が出力ノードを介して供給され、可変抵抗値を有する負荷素子と、負荷素子の一端に電気的に接続される出力端子と、アバランシェフォトダイオードに流れる電流を検出し、検出された電流に基づいて出力端子の出力電力が一定になるように負荷素子の抵抗値を制御する制御回路とを含み、アバランシェフォトダイオードは、増倍率が印加電圧に比例しない非直線性を有し、光送信装置は、電気信号を発生する信号源と、光受信装置のアバランシェフォトダイオードの非直線性に起因する歪を補償するための補償用歪成分を作成する歪成分作成部と、信号源により発生された電気信号に歪成分作成部により作成された補償用歪成分を合成する合成部と、合成部から出力される電気信号を光信号に変換する光電変換部とを含むものである。
本発明に係る光伝送システムにおいては、光送信装置により光信号が送信され、送信された光信号が光受信装置により受信される。
光受信装置においては、電圧印加回路によりアバランシェフォトダイオードに一定の逆バイアス電圧が印加される。アバランシェフォトダイオードが光信号を受けると、そのアバランシェフォトダイオードに光電流が流れる。アバランシェフォトダイオードに流れる電流は可変抵抗値を有する負荷素子に供給される。それにより、負荷素子の一端に電気的に接続される出力端子の電圧は光信号の変化にしたがって変化する。
また、制御回路によりアバランシェフォトダイオードに流れる電流が検出され、検出された電流に基づいて出力端子の出力電力が一定になるように負荷素子の抵抗値が制御される。このようにして、光受信装置において自動利得制御が行われる。
この場合、アバランシェフォトダイオードには一定の逆バイアス電圧が印加されているので、アバランシェフォトダイオードの平均の増倍率が一定となる。それにより、アバランシェフォトダイオードにおける印加電圧と増倍率との非直線性が一定となる。
一方、光送信装置においては、信号源により電気信号が発生される。光受信装置のアバランシェフォトダイオードの非直線性に起因する歪を補償するための補償用歪成分が歪成分作成部により作成される。信号源により発生された電気信号に歪成分作成部により作成された補償用歪成分が合成部により合成される。さらに、合成部から出力される電気信号が光電変換部により光信号に変換される。
したがって、光送信装置により送信される光信号が光受信装置で受信されると、光信号に合成された補償用歪成分がアバランシェフォトダイオードの非直線性に起因する歪で相殺される。その結果、出力端子に歪補償された出力信号が得られる。
また、光電変換および自動利得制御を少ない構成要素で行うことができるので、光受信装置の小型化が可能となる。さらに、低歪特性を有する複数の増幅器が不要となるので、低消費電力化が可能となる。
(12)歪成分作成部は、信号源からの電気信号を光信号に変換する発光素子と、発光素子により得られた光信号を電気信号に変換するアバランシェフォトダイオードと、アバランシェフォトダイオードにより得られた電気信号と信号源からの電気信号との差分を補償用歪成分として出力する差分演算部とを含み、合成部は、信号源からの電気信号に差分演算部から出力される補償用歪成分を合成してもよい。
この場合、発光素子により信号源からの電気信号が光信号に変換され、その光信号がアバランシェフォトダイオードにより電気信号に変換される。この電気信号はアバランシェフォトダイオードの非直線性に起因する歪を含む。そこで、アバランシェフォトダイオードにより得られた電気信号と信号源からの電気信号との差分が差分演算部により補償用歪成分として出力される。さらに、合成部により信号源からの電気信号に補償用歪成分が合成される。
それにより、光送信装置により送信される光信号が光受信装置で受信されると、光信号に合成された補償用歪成分がアバランシェフォトダイオードの非直線性に起因する歪で相殺される。
(13)電気信号はアナログ変調された高周波信号であってもよい。
この場合、光送信装置から補償用歪成分を含むアナログ変調された光信号が送信される。その光信号が光受信装置で受信されると、光信号に含まれる補償用歪成分がアバランシェフォトダイオードの非直線性に起因する歪で相殺される。その結果、出力端子に歪を有しないアナログ変調された高周波信号が得られる。
本発明によれば、制御回路によりアバランシェフォトダイオードに流れる電流が検出され、検出された電流に基づいて出力端子の出力電力が一定になるように負荷素子の抵抗値が制御される。このようにして、光受信装置において自動利得制御が行われる。
この場合、アバランシェフォトダイオードには一定の逆バイアス電圧が印加されているので、アバランシェフォトダイオードの平均の増倍率が一定となる。それにより、アバランシェフォトダイオードにおける印加電圧と増倍率との非直線性が一定となる。したがって、アバランシェフォトダイオードの非直線性に起因する出力信号の歪を容易に補償することが可能となる。
また、光電変換および自動利得制御を少ない構成要素で行うことができるので、光受信装置の小型化が可能となる。さらに、低歪特性を有する複数の増幅器が不要となるので、低消費電力化が可能となる。
(1)第1の実施の形態
(1−1)第1の実施の形態の光受信装置の構成
図1は本発明の第1の実施の形態に係る光受信装置の構成を示す回路図である。
図1の光受信装置1は、アバランシェフォトダイオード(以下、APDと呼ぶ)11、PINダイオード12、抵抗13、インダクタ14、トランス15、固定高電圧発生回路16および電流検出回路17、キャパシタ18〜21および歪補償回路22を含む。
抵抗13はノードN1とノードN2との間に接続されている。ノードN2にAPD11のカソードが接続され、ノードN3にAPD11のアノードが接続されている。APD11は、変調された光信号を受ける。APD11は、例えばノンドープInGaAsPの単層により形成される増倍層を有する。
PINダイオード12のアノードはノードN3に接続され、カソードは接地端子に接続されている。PINダイオード12は、電流に依存して抵抗が変化する特性を有する。
インダクタ14はノードN3とノードN4との間に接続されている。このインダクタ14は、高周波成分の通過を阻止する。キャパシタ18はノードN2と接地端子との間に接続され、キャパシタ19はノードN3とトランス15の一端との間に接続され、トランス15の他端は接地端子に接続されている。キャパシタ20はノードN4と接地端子との間に接続されている。
固定高電圧発生回路16は、出力端子161,162,163を有する。固定高電圧発生回路16の出力端子161はノードN4に接続され、出力端子162はノードN1に接続され、出力端子163はノードN2に接続されている。この固定高電圧発生回路16は、ノードN2,N4間に一定電圧が印加されるように出力端子162の電圧を制御する。これにより、APD11には一定の逆バイアス電圧が印加される。
電流検出回路17は、ノードN1,N2間の抵抗13に流れる電流を検出し、検出された電流に基づく電流をノードN4に出力する。
トランス15の中間タップはノードN5に接続され、キャパシタ21はノードN5と出力端子NOとの間に接続されている。出力端子NOから高周波信号RFが出力される。
歪補償回路22は、可変抵抗23、歪補償ダイオード24およびキャパシタ25により構成される。可変抵抗23は、バイアス電圧VBを受けるバイアス端子NBと歪補償ダイオード24のアノードとの間に接続され、歪補償ダイオード24のカソードはノードN5に接続されている。キャパシタ25はバイアス端子NBと接地端子との間に接続されている。歪補償ダイオード24は、例えばショットキバリアダイオードからなる。
図1の光受信装置1では、光信号のレベルにかかわらず高周波信号RFの電圧レベルを一定に制御するとともに、APD11の非直線性に起因する歪特性を一定に保つことができる。それにより、歪補償回路22によりAPD11の非直線性に起因する高周波信号RFの歪を補償することができる。なお、詳細な動作については後述する。
(1−2)APDの特性
ここで、APDの特性について説明する。図2はAPDの両端に印加される電圧とAPDの増倍率との関係を示す図である。
図2の横軸はAPDの両端に印加される電圧(以下、印加電圧VAと呼ぶ)を示し、縦軸はAPDの増倍率Mを示す。
図2に示すように、APDの増倍率Mは、印加電圧VAが増加するにつれて非直線的に増加する。それにより、印加電圧VAの変化により増倍率Mが変化すると、歪のレベルが変化する。
(1−3)APDにおける歪の発生原理
図3はAPDが強度変調された光信号を受けた場合の歪の発生原理を説明するための回路図である。
図3において、APD101のカソードが直流電源103の正極に接続され、APD101のアノードがノードN30に接続されている。直流電源103の負極は接地端子に接続されている。抵抗102はノードN30と接地端子との間に接続されている。ノードN30はキャパシタ104を介して出力端子N31に接続されている。
APD101の両端には直流電源103の直流電圧Vdcが逆バイアス電圧として印加される。APD101が光信号を受けないときには、APD101には電流が流れない。APD101が光信号を受けると、APD11に光電流が流れる。この場合、APD101には光電流に対応する高周波電圧Vrfが発生する。それにより、APD101の両端には、高周波電圧Vrfが重畳された直流電圧Vdc−(R・Idc)が印加される。ここで、Rは抵抗102の抵抗値を表し、IdcはAPD101および抵抗102に流れる直流電流を表す。その結果、APD101の増倍率Mが変化し、出力端子N31の高周波信号RFに現れる歪のレベルが変化する。なお、APD101の両端に印加される電圧の平均値は直流電圧Vdc−(R・Idc)となる。
図4は図3の回路において正弦波に現れる歪を説明するための波形図である。図4(a)は光信号に対応する正弦波の高周波電圧Vrfの波形を示し、図4(b)は歪を有する高周波信号RFの波形を示す。
上記のように、APD101には直流電源103により逆バイアス電圧が印加されている。したがって、図4(a)の高周波電圧Vrfのレベルが高いときには、APD101に印加される電圧が低くなり、APD101の増倍率Mが低くなる。それにより、図4(b)に示すように、高周波信号RFの利得が低くなる。逆に、図4(a)の高周波電圧Vrfのレベルが低いときには、APD101に印加される電圧が高くなり、APD101の増倍率Mが高くなる。それにより、図4(b)に示すように、高周波信号RFの利得が高くなる。
このようにして、高周波信号RFに振幅変調がかかり、図2の特性からわかるように、歪が発生する。APD101に印加される電圧が高いときの高周波電圧Vrfの影響とAPD101に印加される電圧が低いときの高周波電圧Vrfの影響とには大きな差があるので、APD101に印加される電圧が変化すると、高周波信号RFの歪を一義的に補償することができない。逆に言えば、APD101の増倍率Mを一定にすることにより、高周波信号RFの歪を補償することが可能になる。
(1−4)APDの歪特性の測定
図5はAPDの印加電圧と2次歪との関係の測定結果を示す図、図6はAPDの印加電圧と3次歪との関係の測定結果を示す図である。図7はAPDに流れる電流と2次歪との関係の測定結果を示す図、図8はAPDに流れる電流と3次歪との関係の測定結果を示す図である。
図5および図6の横軸はAPDの印加電圧Vapdを示し、縦軸はそれぞれ2次歪IM2および3次歪IM3のキャリア/スプリアス比を示す。図7および図8の縦軸はAPDに流れる電流Iapdを示し、縦軸はそれぞれ2次歪IM2および3次歪IM3のキャリア/スプリアス比を示す。図5〜図8において、PrはAPDの受光電力を示す。
図6および図8に示すように、3次歪IM3が−60dBc以下でほぼ一定になる印加電圧Vapdの範囲および電流Iapdの範囲は大きくなっている。
これに対して、図5に示すように、2次歪IM2は印加電圧Vapdが一定の範囲内にあるときに−60dBc以下になる。また、図7に示すように、受光電力ごとに2次歪IM2が−60dBc以下になる電流Iapdの値が異なる。すなわち、2次歪IM2の大きさはAPDに流れる電流には関係せず、印加電圧Vapdによって決定されていることがわかる。
これらの測定結果から、APDの両端に印加される電圧の平均である直流電圧を常に一定に保つことにより、歪のレベルをほぼ一定にすることが可能となる。APDの印加電圧Vapd対増倍率Mの特性は理論的にも実験的にもEXPカーブ(指数曲線)になることがわかっている。したがって、順方向電圧対順方向電流特性がLOGカーブ(対数曲線)を有するショットキバリアダイオードを用いた歪補償回路でAPDの歪特性を補償することができる。
(1−5)光受信装置1の動作
図1の光受信装置1において、上記のように、固定高電圧発生回路16は、ノードN2,N4間に一定電圧が印加されるように出力端子162の電圧を制御する。それにより、APD11の両端に一定の逆バイアス電圧が印加され、APD11は定電流源として働く。
また、APD11の負荷としてPINダイオード12が接続されている。この場合、PINダイオード12の抵抗値に依存してノードN3の電圧レベルが変化する。
APD11が光信号を受けると、APD11に光電流が発生し、抵抗13およびAPD11に電流が流れる。電流検出回路17は、抵抗13に流れる電流を検出し、検出された電流に基づく電流をノードN4に出力する。
具体的には、抵抗13およびAPD11に流れる電流が増加すると、電流検出回路17は、ノードN4を介してインダクタ14に流れる電流を増加させる。それにより、PINダイオード12に流れる電流の直流成分(平均電流)のレベルが増加し、PINダイオード12の平均抵抗が減少する。その結果、ノードN3のRF電圧レベル(高周波電圧レベル)も低くなる。
逆に、抵抗13およびAPD11に流れる電流が減少すると、電流検出回路17は、ノードN4を介してインダクタ14に流れる電流を減少させる。それにより、PINダイオード12に流れる電流の直流成分(平均電流)のレベルが減少し、PINダイオード12の平均抵抗が増加する。その結果、ノードN3のRF電圧レベルが高くなる。
このようにして、受光電力にかかわらずノードN3の高周波信号のレベル(出力電力)が一定に保たれる。この場合、光信号はAPD11により一定の増倍率Mで増倍されているので、歪の非直線性も一定に保たれる。
そこで、歪補償回路22の可変抵抗23を調整することにより歪補償ダイオード24に流れる電流を調整する。それにより、ノードN3の高周波信号の歪を補償することができる。したがって、出力端子NOの高周波信号RFは、受光電力に依存せずに一定のレベルを有しかつ歪が抑制される。
なお、APD11の両端の電圧は例えば30〜50Vであり、APD11に流れる電流は例えば0.1〜0.3mAである。PINダイオード12の両端の電圧は例えば1〜2Vであり、PINダイオード12に流れる電流は例えば1〜5mAである。歪補償ダイオード24の両端の電圧は例えば0.5〜1.0Vであり、歪補償ダイオード24に流れる電流は例えば0.1〜1mAである。この場合、光受信装置1で消費される電力は4〜160mW程度となる。受光電力のレンジを低く抑えることにより、光受信装置1で消費される電力をさらに低減することが可能である。
(1−6)光受信装置1における電圧レベル
次に、図1の光受信装置1における各部のRF電圧レベルを比較例として図19の従来の光受信装置5における各部のRF電圧レベルと比較して説明する。
図9は比較例の光受信装置5における各部のRF電圧レベルを示す図である。図10は本実施の形態の光受信装置1における各部のRF電圧レベルを示す図である。
なお、図9および図10の下部に比較例および実施の形態の光受信装置1,5の主要部の構成要素が示される。図9および図10の光受信装置では、出力端子NOの前段側にバンドパスフィルタ(以下、BPFと呼ぶ)61,29がそれぞれ挿入されている。
光伝送システムにおいて、40〜100チャネルSCM(副搬送波多重;Sub Carrier Multiplexing)信号を伝送する場合を考える。歪特性およびCNR(搬送波対雑音比;Carrier to Noise Ratio)特性から、受光電力のレンジを0〜−7dBm程度とし、1波当たりの変調波の割合を2.5〜4.0%程度とする。
一方、受信側で要求される高周波信号の1波当たりの電圧レベル(例えば家庭内STB(セットトップボックス)に入力される高周波信号に要求される電圧レベル)は65〜80dBμVである。
図9に示すように、比較例の光受信装置5では、前段の増幅器53の利得は12dBであり、可変減衰回路55での損失は最小3dBであり、後段の増幅器54の利得は12dBである。したがって、比較例の光受信装置5の総合利得は21dB程度である。
図10に示すように、本実施の形態の光受信装置1において、図9の光受信装置5と同等の出力レベルを得る場合、APD11に必要な増倍率Mは10〜12に過ぎない。可変負荷回路として機能するPINダイオード12での損失およびBPF29での損失を考慮してもAPD11を20〜30の増倍率Mで動作させることにより十分な増倍機能を得ることができる。
したがって、本実施の形態の光受信装置1では、比較例の光受信装置5における増幅器53,54および分配器56を必要とすることなく、十分な増倍機能を実現することができる。
(1−7)光受信装置1における歪補償の効果
図11は光受信装置1において歪補償回路22による歪補償前の2次歪の測定結果を示す図、図12は光受信装置1において歪補償回路22による歪補償後の2次歪の測定結果を示す図である。図11の横軸は周波数を示し、縦軸は電力を示す。
図11および図12には、搬送波CRおよび複合2次歪(CSO)IM2が示されている。測定条件としては、受光電力を−5dBmとし、APD11の印加電圧を50Vとした。歪補償回路22による歪補償前のキャリア/スプリアス比は−44dBcとなった。これに対して、歪補償回路22による歪補償後のキャリア/スプリアス比は−54dBcに改善された。
(1−8)第1の実施の形態の効果
本実施の形態に係る光受信装置1においては、受光電力が増加することによりAPD11に流れる光電流が増加すると、電流検出回路17はPINダイオード12に供給する電流を増加させる。それにより、ノードN3の電圧が低下する。逆に、受光電力が減少することによりAPD11に流れる光電流が減少すると、電流検出回路17はPINダイオード12に供給する電流を減少させる。それにより、ノードN3の電圧が上昇する。このようにして、ノードN3の平均電圧が一定に保たれる。その結果、受光電力が変化しても、出力電力が一定に保たれる。
この場合、固定高電圧発生回路16によりAPD11に一定の逆バイアス電圧が印加されているので、APD11の平均の増倍率が一定となる。それにより、APD11における印加電圧と増倍率との非直線性が一定となる。したがって、APD11の非直線性に起因する高周波信号の歪を歪補償回路22により容易に補償することが可能となる。
また、光電変換および自動利得制御を少ない構成要素で行うことができるので、光受信装置1の小型化が可能となる。さらに、低歪特性を有する複数の増幅器が不要となるので、低消費電力化が可能となる。
(2)第2の実施の形態
以下、本発明の第2の実施の形態に係る光受信装置について説明する。第2の実施の形態が第1の実施の形態と異なるのは次の点である。
第2の実施の形態に係る光受信装置では、図1の歪補償回路22が設けられず、APD11の代わりに以下に説明する図13の構造を有する超格子APDが用いられる。
(2−1)APDの構造
図13は第2の実施の形態に係る光受信装置に用いられる超格子APDの構造を示す模式的断面図である。
図13の超格子APD11aにおいて、n+−InP基板501上に、厚さ100nmのn+−InPバッファ層502および厚さ400nmのノンドープIn0.52Al0.48As/In0.8Ga0.2As0.6P0.4超格子増倍層503が順に形成されている。超格子増倍層503上に、不純物密度8×1017cm-3で厚さ16nmのp−InP層(シートドープ層)504、不純物密度2×1015cm-3で厚さ1μmのp−In0.47Ga0.53As光吸収層505、および不純物密度2×1017cm-3で厚さ50nmのp+−In0.47Ga0.53As層506が順に形成されている。p+−In0.47Ga0.53As層506上に、不純物密度1×1018cm-3で厚さ100nmのp−InP窓層507、および不純物密度1×1018cm-3で厚さ100nmのp+−In0.47Ga0.53Asコンタクト層508が順に形成されている。
コンタクト層508上にAuZnNi電極509が形成され、n+−InP基板501上にAuGeNi電極510が形成されている。
このような構成において、n+−InP基板501側から超格子APD11aに入射した光はp−In0.47Ga0.53As光吸収層505で吸収され、電子と正孔との対が生成される。
電子はAuZnNi電極509とAuGeNi電極510との間に印加された逆バイアス電圧により超格子増倍層503に向かって走行し、その超格子増倍層503に注入される。
超格子増倍層503の膜厚は正孔のイオン化率が無視できるほど小さいので、超格子増倍層503に注入された電子は増倍雑音を増加させることなく純粋な電子の注入による増倍が実現される。
図13では、説明を簡単にするためにメサ型構造のAPD11aが示されているが、プレーナ構造のAPDを用いてもよい。プレーナ構造のAPDの周辺部には拡散によるガードリングが設けられる。それにより、APDの信頼性が向上する。
なお、APD11aのノンドープIn0.52Al0.48As/In0.8Ga0.2As0.6P0.4超格子増倍層503の代わりにノンドープIn0.47Ga0.53As/In0.8Ga0.2As0.6P0.4超格子増倍層を用いてもよい。
(2−2)超格子APDのエネルギーバンドおよび特性
図14(a)は一般的な超格子APD(第1の超格子APD)のエネルギーバンド図であり、図14(b)は第2の実施の形態で用いられる超格子APD(第2の超格子APD)のエネルギーバンド図である。
また、図15は図14(a)の一般的な超格子APD(第1の超格子APD)および第2の実施の形態で用いられる超格子APD(第2の超格子APD)の特性を示す図である。図15の横軸は超格子APDにかかる電界Eを示し、縦軸は超格子APDの増倍率Mを指数目盛で示す。
以下、図14(a)の超格子APDを第1の超格子APDと呼び、図14(b)の超格子APDを第2の超格子APDと呼ぶ。第1の超格子APDにおいては図13の超格子増倍層はノンドープIn0.47Ga0.53As/In0.8 Ga0.2 As0.4 P0.6 で構成される。
図14(a)の第1の超格子APDでは、InGaAsPとInPとの超格子により増倍層が形成される。InGaAsPの伝導帯EcのエネルギーレベルがEc1で示され、InPの伝導帯EcのエネルギーレベルがEc2で示されている。また、InGaAsPの価電子帯EvのエネルギーレベルがEv1で示され、InPの価電子帯EvのエネルギーレベルがEv2で示されている。
第1の超格子APDでは、伝導帯Ecおよび価電子帯Evのいずれにも大きなバンド不連続(|Ec1−Ec2|および|Ev1−Ev2|)が形成されている。その結果、電子と正孔とがほぼ同じ比率で増幅されることになり、図15に示すように、増倍率Mはexp(exp(−106/E))で増加する。
一方、図14(b)の第2の超格子APDでは、InGaAsPとInAlAsとの超格子により増倍層が形成される。InGaAsPの伝導帯EcのエネルギーレベルがEc3で示され、InAlAsの伝導帯EcのエネルギーレベルがEc4で示されている。また、InGaAsPの価電子帯EvのエネルギーレベルがEv3で示され、InAlAsの価電子帯EvのエネルギーレベルがEv4で示されている。
第2の超格子APDでは、InGaAsPとInAlAsとの超格子により増倍層が形成されるので、伝導帯Ecのバンド不連続(|Ec3−Ec4|)が大きく、価電子帯Evのバンド不連続(|Ev3−Ev4|)は小さくなっている。それにより、正孔はほとんど増倍されずに電子のみが増倍されることになる。
一般に、APDの増倍雑音は、増倍層に用いられる半導体に固有の値である電子のイオン化率αと正孔のイオン化率βとの比が1から離れるほど小さくなる。図14の第1および第2の超格子APDでは、イオン化率の比α/βまたはβ/αを大きくする目的で増倍層に超格子構造が用いられている。特に、InP基板と格子整合したIn0.52Al0.48As/In0.8Ga0.2As0.6P0.4層は、伝導帯の不連続が大きいのに対し、価電子帯の不連続は0であるので、電子のイオン化率αが大きくなり、低雑音化に有効である。
図15に示すように、第2の超格子APDでは、電界Eに対する増倍率Mの特性曲線が途中でS字状に変化している。特性曲線の傾きを微分係数として表すと、傾きが増加から減少に転換する点が存在する。この点付近で良好な直線性が存在することが考えられる。
本発明者の検討によると、InAlAs/InGaAsPからなる超格子増倍層を用いた場合、正孔の増倍率Mを1.2以下にすることにより、電界Eが300kV/cm以上の領域で増倍率Mが電界Eに比例することがわかった。図15においては、増倍率Mが電界Eに比例する領域(直線領域)を点線で示す。なお、図15では、縦軸が指数目盛で表されているので、直線領域が湾曲しているが、縦軸の値を増倍率Mに比例する目盛で表した場合に点線の領域が直線状になる。また、価電子帯Evのバンド不連続を10meV以下にすることにより、正孔の増倍率Mを1.2以下にすることができることがわかった。
このように、第2の超格子APDでは、電界Eが300kV/cm以上の領域で増倍率Mが電界Eに比例し、10以上の増倍率Mが得られる。すなわち、大きな増倍率Mが得られる領域で増倍率Mが電界Eと比例する。したがって、第2の超格子APDに直線領域内の一定電圧を印加することにより、アナログ変調された光信号に対して高い増倍率Mでかつ低歪の受光特性が得られる。その結果、図1の歪補償回路22が不要となる。
(2−3)第2の実施の形態の効果
第2の実施の形態に係る光受信装置では、図1のAPD11の代わりに超格子APD11aが用いられることにより、図1の歪補償回路22が不要となる。それにより、少ない部品点数でアナログ変調された光信号に対して高い増倍率Mかつ低歪の受光特性が得られる。
ノンドープIn0.47Ga0.53As/In0.8 Ga0.2 As0.6 P0.4 超格子増倍層を用いた場合も、格子歪の効果により価電子帯Evのバンド不連続が10meV以下になることから、同様な効果が得られることがわかった。なお、実施の形態に用いた構造および各層の組成は、本発明の思想に基づくものであればこれに限定されるものでない。
(3)第3の実施の形態
以下、本発明の第3の実施の形態に係る光伝送システムについて説明する。第3の実施の形態の光伝送システムは、光送信装置および光受信装置により構成される。
第3の実施の形態に係る光伝送システムでは、光受信装置は図1の歪補償回路22が設けられず、光送信装置に歪付与機能(プリディストーション)が設けられる。第3の実施の形態における光受信装置の構成は、歪補償回路22が設けられない点を除いて図1の光受信装置1の構成と同様である。
(3−1)光送信装置の構成および動作
図16は第3の実施の形態に係る光伝送システムにおける光送信装置の構成を示すブロック図である。
図16の光送信装置3は、分配器31、増幅器32,33,34、キャパシタ35、レーザダイオード36、APD37、レーザダイオード38、位相制御回路39,40、利得制御回路41,42、減算器43,44および光ファイバ45,46により構成される。
APD37のカソードはバイアス端子Nbに接続され、アノードは増幅器33に接続されている。バイアス端子Nbには逆バイアス電圧Vaが印加される。バイアス端子Nbと接地端子との間にキャパシタ35が接続されている。APD37は図1の光受信装置1のAPD11と同等の特性を有する。
分配器31には高周波信号RFinが入力される。分配器31は、高周波信号RFinを増幅器32および位相制御回路39,40に分配する。増幅器32は、分配器31から与えられた高周波信号を増幅する。レーザダイオード36は、増幅器32により増幅された高周波信号を光信号に変換し、光信号を光ファイバ45に入射させる。光ファイバ45は光信号をAPD37に出射する。それにより、APD37に高周波の光電流が流れる。APD37に流れる光電流は、増幅器33により増幅されるとともに電圧に変換される。増幅器33から出力される高周波信号は、図1の光受信装置1のノードN3の高周波電圧と同様に歪を有する。
一方、位相制御回路39は、分配器31から与えられた高周波信号の位相を制御する。利得制御回路41は、位相制御回路39から出力される高周波信号の利得を制御する。減算器43は、増幅器33から出力される歪を有する高周波信号と利得制御回路41から出力される高周波信号との減算を行う。それにより、歪成分が抽出される。
位相制御回路40は、分配器31から与えられた高周波信号の位相を制御する。利得制御回路42は、位相制御回路40から出力される高周波信号の利得を制御する。減算器44は、減算器43から出力される歪成分と利得制御回路42から出力される高周波信号との減算を行う。それにより、高周波信号に歪成分と逆極性の歪成分(以下、逆歪成分と呼ぶ)が合成される。
増幅器34は、減算器44から出力される逆歪成分を有する高周波信号を増幅する。レーザダイオード38は、逆歪成分を有する高周波信号を光信号に変換し、光信号を光ファイバ46に入射させる。光ファイバ46は光信号OPTを光受信装置のAPD11に出射する。この光信号OPTは逆歪成分を有する。
光受信装置のAPD11が光信号OPTを受信すると、APD11に光電流が流れる。この光電流にはAPD11の非直線性に起因する歪が発生する。この場合、光信号OPTが逆歪成分を有するので、光電流の逆歪成分がAPD11の非直線性に起因する歪により相殺される。その結果、図1の出力端子NOから出力される高周波信号RFは歪を有さない。
(3−2)第3の実施の形態の効果
第3の実施の形態に係る光伝送システムでは、光送信装置3において光信号に逆歪成分を合成することにより光受信装置のAPD11の非直線性に起因する歪により逆歪成分が相殺される。それにより、光受信装置において図1の歪補償回路22が不要となる。したがって、少ない部品点数でアナログ変調された光信号に対して高い増倍率Mかつ低歪の受光特性が得られる。
特に、FTTH(Fiber to the Home)システムでは、基本的に1つの光送信装置3が用いられるので、送信側で容易に上記の歪補償を行うことができる。
(4)第4の実施の形態
以下、本発明の第4の実施の形態に係る光受信装置について説明する。第4の実施の形態が第1の実施の形態と異なるのは次の点である。
(4−1)光受信装置の構成および動作
図17は本発明の第4の実施の形態に係る光受信装置の構成を示す回路図である。
図17の光受信装置1aが図1の光受信装置1と異なるのは、二次電池26、充電回路27および太陽電池28がさらに設けられている点である。太陽電池28は、光を電力に変換する。充電回路27は太陽電池28により得られる電力で二次電池26を充電する。二次電池26により固定高電圧発生回路16が駆動される。
(4−2)第4の実施の形態の効果
光受信装置1aが必要とする電力は4mW〜150mWと小さいので、300mW程度の出力を有する太陽電池28および二次電池26を用いることにより、昼間だけの屋外充電により光受信装置1aの夜間の駆動が十分に可能となる。
この光受信装置1aを建物に設置する際には、光受信装置1aを屋外に設置し、出力端子NOを例えば既設のテレビアンテナ用の同軸ケーブルに接続する。それにより、屋内での端末機器の配線を変更することなく屋内の端末機器に高周波信号RFを供給することが可能となる。
(5)請求項の各構成要素と実施の形態の各部との対応
以下、請求項の各構成要素と実施の形態の各部との対応の例について説明するが、本発明は下記の例に限定されない。
本実施の形態では、固定高電圧発生回路16が電圧印加回路に相当し、PINダイオード12が負荷素子、可変抵抗素子またはPINダイオードに相当し、出力端子NOが出力端子に相当し、電流検出回路17が制御回路に相当する。
また、InGaAsPが第1の半導体に相当し、InAlAsが第2の半導体に相当し、超格子増倍層32が超格子増倍層に相当する。
さらに、エネルギーレベルEc3とエネルギーレベルEv3との差が第1のバンドギャップに相当し、エネルギーレベルEc4とエネルギーレベルEv4との差が第2のバンドギャップに相当し、価電子帯Evのバンド不連続(|Ev3−Ev4|)が第1および第2の半導体層の価電子帯の最上端のエネルギーレベル差に相当し、伝導帯Ecのバンド不連続(|Ec3−Ec4|)が第1および第2の半導体層の伝導帯の最下端のエネルギーレベル差に相当する。トランス15がインピーダンス整合回路に相当する。
また、分配器31が信号源に相当し、増幅器32,33、レーザダイオード36、APD37、位相制御回路39、利得制御回路41および減算器43が歪成分作成部に相当し、位相制御回路40、利得制御回路42および減算器44が合成部に相当し、レーザダイオード36が発光素子に相当し、減算器43が差分演算部に相当する。逆歪成分が補償用歪成分に相当する。
(6)他の実施の形態
上記実施の形態では、負荷素子または可変抵抗素子としてPINダイオード12が用いられているが、これに限定されず、電流に依存して抵抗が変化する電界効果トランジスタ(FET)等の他の素子を用いてもよく、あるいは制御回路により抵抗値を制御可能な他の素子を用いてもよい。