JP4795888B2 - 軸受の軌道部材の製造方法および転がり軸受の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は軸受の軌道部材の製造方法および転がり軸受の製造方法に関し、より特定的には、表面にセラミック皮膜が形成された軌道部材の製造方法および当該軌道部材を備えた転がり軸受の製造方法に関するものである。
鉄道車両の主電動機、汎用モータ、風力発電の発電機などの装置に用いられる転がり軸受においては、装置の構造上、転がり軸受の内部に電流が流れるおそれがある。転がり軸受の内部に電流が流れると、転がり軸受を構成する軌道輪などの軌道部材と、玉、ころなどの転動体との間にスパークが生じ、これに起因して電食が発生する場合がある。そして、この電食による軌道部材や転動体の転走面の損傷は、転がり軸受の寿命を低下させる。
内部に電流が流れるおそれのある用途に使用される転がり軸受において、上述のような電食に起因した転がり軸受の寿命低下を回避するためには、転がり軸受とハウジングなどの転がり軸受が接触する部材との間を絶縁する対策が有効である。そして、絶縁を達成する手段としては、転がり軸受において、ハウジングなどの他の部材と接触する軌道部材の表面に、溶射によりセラミック皮膜を形成する対策が採用される場合がある。
セラミック皮膜は、絶縁性が高く、電食の防止には有効である。しかし、金属からなる軌道部材に対して、セラミック皮膜の密着性は必ずしも高くないという問題点がある。これに対し、軌道部材へのセラミック皮膜の密着性を向上させることを目的として、セラミック皮膜の形成前に、セラミックスが溶射される軌道部材の表面の粗さを大きくする(粗面化する)対策が提案されている(たとえば特許文献1参照)。
特開2002−48145号公報
上述のように、セラミック皮膜の形成前に、セラミックスが溶射される軌道部材の表面を粗面化することにより、セラミック皮膜の軌道部材への密着性は向上する。しかし、セラミック皮膜が形成された軌道部材においては、当該セラミック皮膜により達成される絶縁性が必ずしも安定しないという問題があった。
そこで、本発明の目的は、密着性と絶縁性とを両立したセラミック皮膜が形成された軸受の軌道部材および当該軌道部材を備えた転がり軸受の製造方法を提供することである。
本発明に従った軌道部材の製造方法は、金属からなり、軸受の軌道部材の概略形状に成形された成形部材を準備する成形部材準備工程と、成形部材の表面の粗さを調整する前処理工程と、前処理工程において粗さが調整された表面に、セラミックスを溶射してセラミック皮膜を形成するセラミック溶射工程とを備えている。そして、前処理工程においては、Ra1.0以上3.0以下であって、Raの値がセラミック溶射工程において形成されるべきセラミック被膜の厚みの1/450以上1/100以下となるように表面の粗さが調整される。また、セラミック溶射工程においては300μm以上450μm以下の膜厚を有するセラミック皮膜が形成される。
本発明者は、セラミック皮膜の形成前における軌道部材の表面の粗さと、セラミック皮膜の密着性および絶縁性との関係について詳細な検討を行なった。その結果、以下の知見を得た。
すなわち、セラミック皮膜の密着性については、基本的には、セラミック皮膜の形成前における軌道部材の表面の粗さが大きいほど向上するが、少なくともRa(算術平均粗さ;JIS B 0601)が1.0μm以上であれば、十分な密着性を確保することができる。したがって、セラミック皮膜の形成前における軌道部材の表面の粗さは、1.0μm以上であれば十分である。
一方、セラミック皮膜の形成前における軌道部材の表面の粗さが大きくなると、当該皮膜の膜厚に対して十分小さいと思われる粗さでも、絶縁性が低下することを見出した。一般に、絶縁性の確保を目的に軌道部材に形成されるセラミック皮膜の膜厚は、150μm〜270μm程度である。これに対し、皮膜の形成前における軌道部材の表面の粗さがRaで2.7μmを超えると、絶縁性が低下する傾向が見られ、3.0μmを超えると当該傾向がより明確になる。すなわち、膜厚に対して十分小さいと思われる粗さでも絶縁性が低下するため、セラミック皮膜の絶縁性を確保するためには、皮膜の形成前における軌道部材の表面の粗さをRa3.0μm以下にまで抑制することが必要であり、Ra2.7μm以下にまで抑制することが好ましい。
本発明の軸受の軌道部材の製造方法によれば、前処理工程において成形部材の表面の粗さがRa1.0μm以上3.0μmとなるように調整され、その後セラミック溶射工程においてセラミックスが溶射されてセラミック皮膜が形成される。そのため、密着性と絶縁性とを両立したセラミック皮膜が形成された軸受の軌道部材を製造することができる。
ここで、セラミック皮膜を形成するために溶射されるセラミックスには、たとえばアルミナ(酸化アルミニウム;Al)、グレーアルミナ、酸化チタン(TiO)、酸化クロム(Cr)などを採用することができる。また、前処理工程においては、たとえば、アルミナなどの硬質の粒子を衝突させて成形部材の表面の粗さを大きくするサンドブラスト処理などを実施することができるが、研削加工等の機械加工による方法が採用されてもよい。
本発明に従った転がり軸受の製造方法は、軌道部材を製造する軌道部材製造工程と、転動体を製造する転動体製造工程と、軌道部材と、転動体とを組み合わせることにより、転がり軸受を組立てる組立て工程とを備えている。そして、軌道部材製造工程においては、上述の軸受の軌道部材の製造方法を用いて軌道部材が製造される。
本発明の転がり軸受の製造方法によれば、密着性と絶縁性とを両立したセラミック皮膜が形成された軸受の軌道部材を製造可能な、本発明の軸受の転動部材の製造方法を用いて軌道部材が製造されているため、電食の発生が抑制され、当該電食に起因した転がり軸受の寿命低下を回避可能な転がり軸受を製造することができる。
以上の説明から明らかなように、本発明の軸受の軌道部材の製造方法および転がり軸受の製造方法によれば、密着性と絶縁性とを両立したセラミック皮膜が形成された軸受の軌道部材および当該軌道部材を備えた転がり軸受の製造方法を提供することができる。
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
図1は、本発明の一実施の形態における軸受の軌道部材としての外輪、および本発明の範囲外の内輪を備えた本発明の一実施の形態における転がり軸受としてのラジアル玉軸受(深溝玉軸受)の構成を示す概略断面図である。また、図2は、図1の要部を拡大して示す概略部分断面図である。図1および図2を参照して、本実施の形態における軸受の軌道部材を備えた転がり軸受について説明する。
図1および図2を参照して、深溝玉軸受1は、軸受の軌道部材としての環状の外輪11と、外輪11の内側に配置された軸受の軌道部材としての環状の内輪12と、外輪11と内輪12との間に配置され、円環状の保持器14に保持された転動体としての複数の玉13とを備えている。外輪11の内周面には外輪転走面11Aが形成されており、内輪12の外周面には内輪転走面12Aが形成されている。そして、内輪転走面12Aと外輪転走面11Aとが互いに対向するように、外輪11と内輪12とは配置されている。さらに、複数の玉13は、内輪転走面12Aおよび外輪転走面11Aに接触し、かつ保持器14により周方向に所定のピッチで配置されることにより、円環状の軌道上に転動自在に保持されている。以上の構成により、深溝玉軸受1の外輪11および内輪12は、互いに相対的に回転可能となっている。
図2を参照して、本実施の形態における軸受の軌道部材としての外輪11においては、外輪転走面11Aとは反対側の面である外周面11Bおよび深溝玉軸受1の回転軸方向における両側の端面11Cに、セラミック皮膜としてのアルミナ皮膜5が形成されている。すなわち、セラミック皮膜としてのアルミナ皮膜5は、軌道部材としての外輪11の外輪転走面11Aが形成された面以外の面に形成されている。これにより、深溝玉軸受1は、外輪11の外周面11Bおよび端面11Cの少なくともいずれか1つがハウジングなどの隣接する部材に接触するように配置されて使用された場合でも、当該部材との間が電気的に絶縁される。その結果、深溝玉軸受1が、その内部に電流が流れるおそれのある用途に使用された場合でも、電食に起因した寿命低下を回避することができる。
また、外輪11および深溝玉軸受1は、以下に説明する本発明の一実施の形態における軸受の軌道部材および転がり軸受の製造方法により製造されている。そのため、外輪11および深溝玉軸受1は、密着性と絶縁性とを両立したセラミック皮膜としてのアルミナ皮膜5が形成された軸受の軌道部材および当該軌道部材を備えた転がり軸受となっている。
次に、本実施の形態における軸受の軌道部材としての外輪11および転がり軸受としての深溝玉軸受1の製造方法について説明する。図3は、本実施の形態における外輪の製造方法の概略を示す流れ図である。
図3を参照して、まず、鋼などの金属からなり、軸受の軌道部材の概略形状に成形された成形部材を準備する成形部材準備工程が実施される。具体的には、たとえばJIS規格SUJ2などの鋼(軸受鋼)からなり、外輪11の概略形状に成形された成形部材が作製される。
次に、上記成形部材の表面の粗さを調整する前処理工程が実施される。具体的には、上記成形部材の外周面11Bおよび端面11Cに該当する領域の表面に対してサンドブラスト処理が実施されて、当該表面の粗さがRa1.0μm以上3.0μm以下となるように調整される。このサンドブラスト処理は、たとえば粒径580〜840μmのアルミナ、炭化ケイ素などの粒子を、圧力0.1MPa以上0.3MPa以下で当該表面に10秒間以上20秒間以下の時間衝突させて実施することができる。
次に、図3を参照して、前処理工程において粗さが調整された上記表面に、セラミックスを溶射してセラミック皮膜を形成するセラミック溶射工程が実施される。具体的には、Ra1.0μm以上3.0μm以下の粗さとなるように調整された上記表面に対し、たとえばアルミナを溶射して300μm以上450μm以下の膜厚を有するアルミナ皮膜が形成される。なお、セラミック皮膜は、必ずしも一層である必要はなく、二層あるいは三層以上の複数層形成されてもよい。
次に、前処理工程において形成されたセラミック皮膜を封孔処理する封孔処理工程が実施される。具体的には、セラミック溶射工程において形成されたアルミナ皮膜の表面に封孔剤を塗布した後、60℃以上100℃以下の温度、たとえば80℃に、60分間以上240分間以下の時間、たとえば120分間保持することにより、封孔剤を硬化する。これにより、アルミナ皮膜の気孔率が低下しアルミナ皮膜の絶縁性および密着性が向上する。
次に、図3を参照して、封孔処理工程が実施された成形部材に仕上げ加工を実施して軌道部材を完成させる仕上げ工程が実施される。具体的には、封孔処理工程が実施されたアルミナ皮膜が研磨され、表面が平滑になるとともに、アルミナ皮膜が150μm以上270μm以下の所望の膜厚、たとえば200μmの膜厚とされる。研磨後のアルミナ皮膜の膜厚は、深溝玉軸受1の用途を考慮し、必要とされる絶縁性能に基づいて決定することができる。これにより、本実施の形態における軸受の軌道部材としての外輪11が完成し、軸受の軌道部材としての外輪11の製造方法は完了する。なお、研磨後のアルミナ皮膜の表面粗さが大きい場合、絶縁性に悪影響を及ぼすおそれがあるため、上記研磨は、研磨後のアルミナ皮膜の表面粗さがRa0.3μm以下となるように実施されることが好ましく、Ra0.2以下となるように実施されることが、より好ましい。
次に、本実施の形態における転がり軸受の製造方法について説明する。図4は、本実施の形態における転がり軸受としての深溝玉軸受の製造方法を示す流れ図である。
図4を参照して、まず軌道部材としての外輪11および内輪12を製造する軌道部材製造工程が実施される。具体的には、軌道部材製造工程において、外輪11が上述の本実施の形態における軌道部材の製造方法により製造されるとともに、内輪12も別途製造される。また、軌道部材製造工程とは別に、転動体が製造される転動体製造工程が実施される。具体的には、転動体としての玉13が製造される。そして、それぞれ製造された軌道部材としての外輪11、内輪12と、転動体としての玉13とが組合わされて転がり軸受としての深溝玉軸受1が組立てられる組立て工程が実施される。これにより、本実施の形態における転がり軸受の製造方法が完了する。
本実施の形態における軌道部材の製造方法により外輪11が製造されることにより、前処理工程において成形部材の表面の粗さがRa1.0μm以上3.0μmとなるように調整され、その後セラミック溶射工程においてセラミックスが溶射されてセラミック皮膜が形成される。そのため、密着性と絶縁性とを両立したセラミック皮膜が形成された外輪11を製造することができる。また、本実施の形態における転がり軸受の製造方法により深溝玉軸受1が製造されることにより、深溝玉軸受1は密着性と絶縁性とを両立したセラミック皮膜が形成された外輪11を備えており、電食の発生が抑制され、当該電食に起因した寿命低下が回避されている。
図5は、本実施の形態の変形例における軸受の軌道部材としての内輪、および本発明の範囲外の外輪を備えた本実施の形態の変形例における転がり軸受としてのラジアルころ軸受(円筒ころ軸受)の構成を示す概略断面図である。また、図6は、図5の要部を拡大して示す概略部分断面図である。図5および図6を参照して、本実施の形態の変形例における軸受の軌道部材を備えた転がり軸受について説明する。
図5および図6を参照して、円筒ころ軸受2は、図1および図2に基づいて説明した深溝玉軸受1と基本的には同様の構成を有している。しかし、円筒ころ軸受2においては、転動体がころ23となっている点、および内輪22にアルミナ皮膜5が形成されている点で、深溝玉軸受1とは構成が異なっている。
すなわち、図5および図6を参照して、円筒ころ軸受2は、外輪21と内輪22との間に配置され、円環状の保持器24に保持された転動体としての複数のころ23を備えている。そして、複数のころ23は、内輪転走面22Aおよび外輪転走面21Aに接触し、かつ保持器24により周方向に所定のピッチで配置されることにより、円環状の軌道上に転動自在に保持されている。これにより、円筒ころ軸受2の外輪21および内輪22は、互いに相対的に回転可能となっている。
図6を参照して、本実施の形態の変形例における軸受の軌道部材としての内輪22においては、内輪転走面22Aとは反対側の面である内周面22Bおよび円筒ころ軸受2の回転軸方向における両側の端面22Cに、セラミック皮膜としてのアルミナ皮膜5が形成されている。すなわち、セラミック皮膜としてのアルミナ皮膜5は、軌道部材としての内輪22の内輪転走面22Aが形成された面以外の面に形成されている。これにより、円筒ころ軸受2は、内輪22の内周面22Bおよび端面22Cの少なくともいずれか1つが回転軸などの隣接する部材に接触するように配置されて使用された場合でも、当該部材との間が電気的に絶縁される。その結果、円筒ころ軸受2が、その内部に電流が流れるおそれのある用途に使用された場合でも、電食に起因した寿命低下を回避することができる。
さらに、内輪22においては、アルミナ皮膜5を覆うように保護層としての金属保護膜6が形成されている。これにより、比較的脆いアルミナ皮膜5が保護され、特に円筒ころ軸受2の組立て時や、円筒ころ軸受2の装置への取り付け時にアルミナ皮膜5の一部が脱落することが抑制される。
次に、本実施の形態の変形例における軸受の軌道部材としての内輪22および転がり軸受としての円筒ころ軸受2の製造方法について説明する。上述のように、内輪22およびの円筒ころ軸受2は、それぞれ上述の外輪11および深溝玉軸受1と同様の構成を有しており、図3および図4に基づいて説明した製造方法と同様の製造方法により製造することができる。なお、金属保護膜6は、図3を参照して、仕上げ工程において、アルミナ皮膜が研磨され、所望の膜厚を有するアルミナ皮膜5が形成された後、たとえばAl、Ni、Cr、Feなどの金属を溶射することにより、アルミナ皮膜5を覆うように少なくとも100μm以上の膜厚を形成することができる。また、金属保護膜6は、必ずしも一層である必要はなく、二層あるいは三層以上の複数層形成されてもよい。
図7は、本実施の形態の他の変形例における軸受の軌道部材としての軌道輪、および本発明の範囲外の軌道輪を備えた本実施の形態の他の変形例における転がり軸受としてのスラスト玉軸受の構成を示す概略断面図である。また、図8は、図7の要部を拡大して示す概略部分断面図である。図7および図8を参照して、本実施の形態の他の変形例における軸受の軌道部材を備えた転がり軸受について説明する。
図7および図8を参照して、スラスト玉軸受3は、図1および図2に基づいて説明した深溝玉軸受1と基本的には同様の構成を有している。しかし、スラスト玉軸受3においては、軌道輪31、32の転走面31A、32Aが軸受の回転軸の方向において互いに対向する点、および軌道輪31の端面31Cと内周面31Dとの2面のみにアルミナ皮膜5が形成されている点で、深溝玉軸受1とは構成が異なっている。
すなわち、図7および図8を参照して、スラスト玉軸受3は、軸受の軌道部材としての環状の形状を有する1対の軌道輪31、32と、1対の軌道輪31、32の間に配置され、円環状の保持器34に保持された転動体としての複数の玉33とを備えている。軌道輪31、32の一方の端面にはそれぞれ転走面31A、32Aが形成されている。そして、転走面31Aと転走面32Aとが互いに対向するように、軌道輪31、32は配置されている。さらに、複数の玉33は、転走面31Aおよび転走面32Aに接触し、かつ保持器34により周方向に所定のピッチで配置されることにより、円環状の軌道上に転動自在に保持されている。以上の構成により、スラスト玉軸受3の1対の軌道輪31、32は、互いに相対的に回転可能となっている。
図8を参照して、本実施の形態の他の変形例における軸受の軌道部材としての軌道輪31においては、転走面31Aとは反対側の面である端面31Cおよび内周面31Dに、セラミック皮膜としてのアルミナ皮膜5が形成されている。これにより、スラスト玉軸受3は、軌道輪31の端面31Cおよび内周面31Dの少なくともいずれか1つが、回転軸などの隣接する部材に接触するように配置されて使用された場合でも、当該部材との間が電気的に絶縁される。その結果、スラスト玉軸受3が、その内部に電流が流れるおそれのある用途に使用された場合でも、電食に起因した寿命低下を回避することができる。
次に、本実施の形態の他の変形例における軸受の軌道部材としての軌道輪31および転がり軸受としてのスラスト玉軸受3の製造方法について説明する。上述のように、軌道輪31およびのスラスト玉軸受3は、それぞれ上述の外輪11および深溝玉軸受1と同様の構成を有しており、図3および図4に基づいて説明した製造方法と同様の製造方法により製造することができる。なお、アルミナ皮膜5は、図3を参照して、前処理工程において、軌道輪31の端面31Cおよび内周面31Dとなるべき成形部材の面の粗さが調整され、セラミック溶射工程において、アルミナが溶射されることにより形成される。
なお、上述の本発明の実施の形態においては、アルミナ皮膜5が内輪または外輪の一方、あるいは1対の軌道輪の一方にのみ形成される場合について説明したが、本発明の転がり軸受の製造方法により製造される転がり軸受はこれに限られない。すなわち、製造コストの低減を目的として上述のように、セラミック皮膜が内輪または外輪の一方、あるいは1対の軌道輪の一方にのみ形成されてもよいし、転がり軸受の汎用性を高める目的で、内輪および外輪の両方、あるいは1対の軌道輪の両方にセラミック皮膜が形成されてもよい。また、セラミック皮膜は、少なくとも内輪または外輪の一方、あるいは1対の軌道輪の一方において、転がり軸受に隣接する他の部材と接触する領域に形成されていればよい。
以下、本発明の実施例1について説明する。セラミック溶射前の軌道輪の表面粗さとセラミック皮膜の密着性および絶縁性との関係を調査する試験を行なった。試験の手順は以下のとおりである。
まず、試験の対象となる試験片の作製方法について説明する。試験片の作製は、基本的には図3に基づいて説明した軸受の軌道輪の製造方法と同様の方法により行なった。図3を参照して、成形部材準備工程において、転がり軸受(JIS規格型番6316)の外輪を準備し、当該外輪を石油ベンジンで脱脂した。次に、前処理工程において、外輪の外周面および両端面にサンドブラスト処理を行なった。サンドブラスト処理は、アルミナ砥粒(理研コランダム製;A#24、A#80)を使用し、当該アルミナ砥粒を外輪の外周面および両端面に吹き付けることにより行なった。この吹き付けの際の圧力を変化させることにより、サンドブラスト処理された外輪の表面の粗さをRa0.4〜3.7μmの範囲で変化させた。ここで、表面の粗さは、触針式表面粗さ測定機(JIS B 0651)を使用することにより測定した。
そして、セラミック溶射工程において、アルミナ(0.25質量%の酸化チタンTiOを含む)の粉末を用いて、サンドブラスト処理された外輪の表面に溶射を行い、約350μmの膜厚を有するアルミナ皮膜を形成した。このアルミナ皮膜の断面を顕微鏡により観察したところ、気孔率は約5%となっていた。さらに、封孔処理工程において、封孔剤(株式会社中央発明研究所製の塗布型封孔剤アルタッチ1920)を、ハケを用いてアルミナ皮膜に塗布した後、80℃の温度に2時間保持して封孔剤を硬化させた。そして、仕上げ工程において、アルミナ皮膜を膜厚が150、200および270μmとなるように研磨して、試験片を完成させた。
次に、試験の方法について説明する。本実施例においては、落下試験、組立て分解試験、耐電圧試験が実施された。試験の内容および評価方法は以下のとおりである。
(1)落下試験
上記試験片(外輪)を50mmの高さから自然落下させた後、80℃の温水に1時間浸漬した。その後、1000V直流絶縁抵抗計を用いて、外輪のアルミナ皮膜の表面と内周面との間の絶縁抵抗を測定した。上述の自然落下により、アルミナ皮膜にクラックが生じていた場合、当該クラックから水が浸入し、アルミナ皮膜の絶縁性が失われて絶縁抵抗が大幅に低下する。絶縁抵抗が2000MΩ(メグオーム)以上の場合、絶縁性は失われていない(○)と評価し、2000MΩ未満の場合、絶縁性が失われた(×)と評価した。
(2)組立て分解試験
試験片(外輪)の外径φ170mmに対して、36μm小さい内径を有するハウジングに、試験片を嵌め込み、その後取り外す操作を5回繰り返した後、80℃の温水に1時間浸漬した。その後、(1)と同様に、1000V直流絶縁抵抗計を用いて、外輪のアルミナ皮膜の表面と内周面との間の絶縁抵抗を測定した。そして、絶縁抵抗が2000MΩ以上の場合、絶縁性は失われていない(○)と評価し、2000MΩ未満の場合、絶縁性が失われた(×)と評価した。
(3)耐電圧試験
試験片(外輪)のアルミナ皮膜の表面と内周面との間に、交流電圧を印加した。印加する電圧は、0kVからスタートし、10秒経過ごとに0.2KVずつ増加させ、5kVまで上昇させ、絶縁破壊が生じる電圧(耐電圧)を測定した。一般に、絶縁軸受においては耐電圧が3kV以上であれば十分であり、2kV以上であれば使用可能である場合が多い。そこで、耐電圧が3kV以上の場合を○、2kV以上3kV未満の場合を△、2kV未満の場合を×と評価した。
Figure 0004795888
次に、試験結果について説明する。表1に本実施例の試験結果を示す。表1を参照して、まず、アルミナ皮膜の密着性を評価した落下試験および組立て分解試験においては、サンドブラスト処理された表面の粗さがRa1.0未満である試験片番号4および5の試験片では、評価がいずれも「×」となっている。一方、表面の粗さがRa1.0以上である他の試験片は、評価がいずれも「○」となっている。このことから、セラミック溶射前の表面の粗さをRa1.0以上とすることで、軸受の軌道輪の通常の取り扱いにおいて、アルミナ皮膜に十分な密着性を付与できることが確認された。
また、アルミナ皮膜の絶縁性を評価した耐電圧試験においては、アルミナ皮膜の膜厚が270μmである場合、膜厚が大きく耐電圧を確保しやすいため、セラミック溶射前の表面の粗さがRa2.7〜3.2μmの範囲において、評価はいずれも「○」となっている。しかし、アルミナ皮膜の膜厚が200μmまたは150μmである場合、セラミック溶射前の表面の粗さがRa2.7μm以下の場合「○」、2.7μmを超え3.0μm以下の場合「△」、3.0μmを超える場合「×」となっている。これは、セラミック溶射前の表面の粗さが大きくなると、溶射前の表面の突起が大きくなり、アルミナ皮膜の絶縁皮膜としての有効な膜厚が小さくなって、絶縁抵抗が低下したものと考えられる。
一般に、絶縁性の確保を目的に軌道部材に形成されるセラミック皮膜の膜厚は150μm〜450μm程度である。したがって、上記耐電圧試験の結果より、アルミナ皮膜の膜厚が比較的小さい150〜200μmの場合であっても、セラミック溶射前の表面の粗さをRa3.0μm以下とすることにより、アルミナ皮膜に必要な絶縁性を付与することができ、2.7μm以下とすることにより、アルミナ皮膜に十分な絶縁性を付与可能であるといえる。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
本発明の軸受の軌道部材の製造方法および転がり軸受の製造方法は、表面にセラミック皮膜が形成された軸受の軌道部材の製造方法および当該軌道部材を備えた転がり軸受の製造方法に、特に有利に適用され得る。
本発明の一実施の形態における転がり軸受としてのラジアル玉軸受(深溝玉軸受)の構成を示す概略断面図である。 図1の要部を拡大して示す概略部分断面図である。 本実施の形態における外輪の製造方法の概略を示す流れ図である。 本実施の形態における深溝玉軸受の製造方法を示す流れ図である。 本実施の形態の変形例における転がり軸受としてのラジアルころ軸受の構成を示す概略断面図である。 図5の要部を拡大して示す概略部分断面図である。 本実施の形態の他の変形例における転がり軸受としてのスラスト玉軸受の構成を示す概略断面図である。 図7の要部を拡大して示す概略部分断面図である。
符号の説明
1 深溝玉軸受、2 円筒ころ軸受、3 スラスト玉軸受、5 アルミナ皮膜、6 金属保護膜、11,21 外輪、11A,21A 外輪転走面、11B 外周面、11C,22C 端面、12,22 内輪、12A,22A 内輪転走面、13 玉、14,24,34 保持器、22B 内周面、31,32 軌道輪、31A,32A 転走面、31C 端面、31D 内周面、33 玉。

Claims (4)

  1. 金属からなり、軸受の軌道部材の概略形状に成形された成形部材を準備する成形部材準備工程と、
    前記成形部材の表面の粗さを調整する前処理工程と、
    前記前処理工程において粗さが調整された前記表面に、セラミックスを溶射してセラミック皮膜を形成するセラミック溶射工程とを備え、
    前記前処理工程においては、Ra1.0μm以上3.0μm以下であって、Raの値が前記セラミック溶射工程において形成されるべきセラミック被膜の厚みの1/450以上1/100以下となるように前記表面の粗さが調整され、
    前記セラミック溶射工程においては300μm以上450μm以下の膜厚を有するセラミック皮膜が形成される、軸受の軌道部材の製造方法。
  2. 前記セラミック溶射工程において形成されたセラミック被膜の膜厚が150μm以上270μm以下となるように前記セラミック皮膜を研磨する仕上げ工程をさらに備えた、請求項1に記載の軸受の軌道部材の製造方法。
  3. 前記仕上げ工程では、前記セラミック皮膜の表面粗さがRa0.3μm以下となるように前記セラミック皮膜が研磨される、請求項2に記載の軸受の軌道部材の製造方法。
  4. 軌道部材を製造する軌道部材製造工程と、
    転動体を製造する転動体製造工程と、
    前記軌道部材と、前記転動体とを組み合わせることにより、転がり軸受を組立てる組立て工程とを備え、
    前記軌道部材製造工程においては、請求項1〜3のいずれか1項に記載の軸受の軌道部材の製造方法を用いて前記軌道部材が製造される、転がり軸受の製造方法。
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