JP4794095B2 - Ca置換希土類系123超電導単結晶体 - Google Patents

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【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、高い不可逆磁界を示し、超電導線材や超電導バルク材として電力用ケ−ブル,マグネット,モ−タ,発電機等の機器類への適用が好適である希土類系123超電導単結晶体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、臨界温度(超電導転移温度)Tc の高い酸化物超電導材料が次々と発見され、ロスなく大電流を輸送することができる電力用ケ−ブル,強力な超電導マグネット等といった各方面への実用化が検討されている。
【0003】
ただ、超電導材料がこれらの分野等で実用されるためには、高い超電導転移温度Tc に加えて高い磁界で臨界電流密度Jc が高いことも重要な要件とされており、実用上有用な液体窒素温度(77K)での使用を考えると、現在知られている超電導材料の中でも化学式REBa2Cu37-d ( 但し、 REはY,La,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Dy,Ho,Er,Tm,Ybの希土類元素)で表される希土類系銅酸化物超電導体(“希土類系123超電導体”と称されている)が最も注目される超電導材料の1つであると考えられる。
そして、これらの特性は超電導材料を「第2相物質を含む“擬似単結晶”」あるいは「純粋物質である“単結晶”」とすることによって一層改善されることが知られており、溶融法やTSFZ法等といった銅酸化物単結晶(擬似単結晶を含む)の育成技術も著しい進歩を遂げている。
【0004】
ところで、一般に超電導体は第二臨界磁界Hc2以下で超電導状態を保っているが、不可逆磁界Hirr 以上の磁場では超電導体内の磁束が動いてしまって抵抗を発生するので超電導電流を流せなくなってしまう。この不可逆磁界Hirr とは超電導体の磁場特性であって、磁界を高めていった際に臨界電流密度Jc がゼロとなる磁界であるが、不可逆磁界Hirr が高ければ超電導体結晶のc軸方向に高い磁場をかけても大きな超電導電流を流すことができるので電流を流せる領域が広くなるため、できるだけ不可逆磁界Hirr の高い超電導材料が望まれている。
【0005】
しかし、希土類系123超電導体における液体窒素温度でのCuO2 面内の臨界電流密度Jcがゼロとなる磁界(不可逆磁界Hirr )は、これまでの報告では良くても7〜8T(テスラ) 程度とされていた。ただ、最近、Nd系123超電導体に高圧酸素処理で過剰な酸素を導入するという特殊な工程を経て製造すると不可逆磁界Hirr が更に向上するとの報告がなされた。
しかるに、高圧酸素処理の導入は超電導体の製造工程を煩雑化するばかりか、高圧酸素処理は単結晶(擬似単結晶を含む)のようなサイズの大きな試料に対しては実際上実施することができない処理であるため、不可逆磁界Hirr の適切な向上手段を見出せないことが希土類系123超電導体の広範な実用を阻む障害の1つとなっていた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
このようなことから、本発明が目的としたのは、「高圧酸素処理により過剰な酸素を導入する」等の面倒な処理工程を要することなく、また単結晶(擬似単結晶を含む)のようなサイズの大きな材料であっても容易に高い不可逆磁界Hirr が確保される希土類系123超電導体の安定提供手段を確立することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
そこで、本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねたところ、「希土類系123超電導単結晶体において、原子価が3価である希土類元素の一部を原子価が2価のCaで置換して系を僅かにオーバードープ気味にすると、キャリア密度が高まって不可逆磁界Hirrが向上する」との新しい知見を得ることができた。
【0008】
本発明は、上記知見事項等を基に完成されたものであり、次の(1)項〜(5)項に示すCa置換希土類系123超電導単結晶体を提供するものである。
(1) 化学式がREBa2Cu37-d(但しREは希土類元素)で表される希土類系123超電導体のREの一部がCaで置換されて成ることを特徴とする、c軸方向に磁界を印加した場合の温度77K(液体窒素温度)での不可逆磁界が10T以上であるCa置換希土類系123超電導単結晶体。
(2) REがLa,Nd,Sm,Gd,Euの1種以上である、前記(1)項記載のCa置換希土類系123超電導単結晶体。
(3) 化学式がRE1-X+yCaxBa2-yCu37-dで表され、そのx及びyの値がそれぞれ0<x≦0.1,0≦y<0.1の条件を満たして成る、前記(1)項又は(2)項記載のCa置換希土類系123超電導単結晶体。
(4) 化学式がRE1-X+yCaxBa2-yCu37-dで表され、そのx及びyの値がそれぞれ0.01≦x≦0.05,0≦y<0.1の条件を満たして成る、前記(1)項又は(2)項記載のCa置換希土類系123超電導単結晶体。
(5) 前記(1)乃至(4)項の何れかに記載のCa置換希土類系123超電導単結晶体の結晶粒が超電導体を構成する物質全体の体積の60%以上を占めて成る、Ca置換希土類系123超電導単結晶体。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明に係る超電導単結晶体を構成するRE(希土類元素)としては、イオン半径が近似していてCaと置換しやすいLa,Nd,Sm,GdあるいはEuが製造性や性能の点で好適であると言える。
【0010】
なお、Ca置換によって希土類系123超電導体の系がオ−バ−ド−プに転じると超電導転移温度Tc が低下するため、この点を考慮すればCa置換量の上限を規制するのが良い。
つまり、希土類系123超電導体ではBaの一部もRE(希土類元素)と置換しがちであるため、Ca置換希土類系123超電導体を化学式RE1-X+y Cax Ba2-y Cu3 7-d で表した場合、Ca置換量xを「0<x≦0.1 」に、好ましくは「0.01≦x≦0.05」に調整して77K以上の超電導転移温度Tc が安定確保されるようにするのが良い。また、REと置換するBaの量yは「0≦y<0.1 」の間に、好ましくは0.05までに、更に好ましくは0.02までに抑えるのが良い。
【0011】
ところで、希土類系123超電導体では、化学式REBa2Cu37-dで表される物質の結晶粒が超電導体構成物質の主体(体積率で約60%以上)を占め、その粒間が十分に強く結合しておればREBa2Cu37-dに相当する超電導特性を維持し得ることが分かっていたが、本発明に係る“Ca置換希土類系123超電導単結晶体”においても、「化学式RE1-X+yCaxBa2-yCu37-dで表される物質の結晶粒が超電導体を構成する物質全体の60%(体積率)以上を占めるならば超電導体全体としても当該RE1-X+yCaxBa2-yCu37-dに相当する超電導特性の維持が可能である」ということが第2相としてREBa2Cu35(211相)を多量に(最大40%まで)含む擬似単結晶等についての多くの実験結果から明らかとなった。
【0012】
上記本発明に係るCa置換希土類系123超電導単結晶体は、原料にCaを混入する点が付加されるものの、これまでに知られている希土類系123超電導体製造手段の何れによっても製造することができ、「高圧酸素処理により過剰な酸素を導入する」といった手立てを採ることなく合成のままで10T以上の不可逆磁界Hirrが確保される(Nd系,Sm系では12T以上の不可逆磁界Hirrを確保することも容易である)。従って、高圧酸素処理が困難なサイズの大きい単結晶(擬似単結晶を含む)に対しても高い不可逆磁界Hirrを付与することができることから、本発明に係るCa置換希土類系123超電導単結晶体は、溶融法やTSFZ法等といった銅酸化物単結晶(擬似単結晶を含む)の育成技術で製造されたものが実用面からして一層有利であると考えられる。
【0013】
以下、本発明を実施例によって説明する。
【実施例】
TSFZ法によってCa置換量xが 0(Ca置換なし), 0.01, 0.02, 0.05 並びに0.10である Nd1-X+yCax Ba2-y Cu3 7-d (y=0.005 )単結晶を育成した。
即ち、まず、 Nd23 ,CuO,BaCO3 及びCaCO3 の原料粉を上記成分比率となるように配合してから焼成と粉砕・混合を繰り返した後、これをホットプレス法により直径4mmの棒状に成型・焼結して単結晶育成の母材料とした。次に、この母材料と、溶媒(Nd1-XCax Ba2Cu37 : Ba3Cu1013= 15 : 85 の混合材料)と、種結晶(NdBa2Cu37-d )とを用い、Ar:O2 =1000:1の混合ガス雰囲気中での浮遊帯域溶融により上記の単結晶を得た。
そして、育成したそれぞれの単結晶から直方体の試料を切り出した後、酸素気流中にて320℃で2週間の酸素アニ−ルを行った。
【0014】
次に、上記直方体試料について不可逆磁界Hirr の評価を行った。
そして、まず、x=0.02(Ca置換量が2%)の Nd1-X+yCax Ba2-y Cu3 7-d (y=0.005 )単結晶試料について磁化測定を行い、ビ−ンモデルに従って臨界電流密度の磁場依存性を測定して100A/cm2の基準で12.2Tの不可逆磁界を有することが確認された。
【0015】
即ち、図1及び図2は、x=0(Ca置換なし)並びにx=0.02(Ca置換量が2%)の Nd1-X+yCax Ba2-y Cu3 7-d (y=0.005 )単結晶における不可逆磁界Hirr を評価するために作製した「c軸方向に印加した外部磁界と臨界電流密度Jc との関係図」であり、液体窒素温度(77K)でのデ−タである。
なお、図2は、臨界電流密度Jc の変化点がより明瞭化するように臨界電流密度Jc 軸を対数目盛で示したものである。
これら図1及び図2からも、Ca置換なしのNd系123超電導体では不可逆磁界Hirr が8T程度であるのに対して、2%Ca置換したもの(x=0.02)は高圧酸素処理なしに不可逆磁界Hirr が12T以上程度にまで向上していることを確認できる。
これは、Ca置換によって12T以上程度までの磁場中でも使用可能な超電導体が得られたことを示すものである。
【0016】
同様の手法により、Ca置換量xが 0(Ca置換なし), 0.01, 0.05 及び0.10である Nd1-X+yCax Ba2-y Cu3 7-d (y=0.005 )単結晶についてc軸方向に磁界を印加した場合の各種温度における不可逆磁界Hirr を評価したが、その結果を図3にまとめて示す。
この図3からは、Ca置換量が0.05程度までであれば77K以下の温度での不可逆磁界Hirr の向上が認められるが、それ以上のCa置換量では不可逆磁界Hirr は再度低下する傾向にあることが分かる。ただ、Ca置換量xが0.10のものでも、70K程度以下の温度になるとCa置換による不可逆磁界Hirr の向上効果が認められるようになる。
【0017】
なお、77Kでの不可逆磁界Hirr を比べると、Ca置換なしのものは8T程度であるのに対してCa置換量が0.01のものは10T程度もに不可逆磁界Hirr が向上していることを確認できる。
また、前述した通り、前記図1及び図2はCa置換量xが0.02のものは77Kでの不可逆磁界Hirr が12T以上程度にまで向上していることを示している。
【0018】
また、図4は、RE1-X+y Cax Ba2-y Cu3 7-d (y=0.005 )のCa置換量xと超電導転移温度Tc との関係を調査した結果であるが、x値が0.1 程度までであれば十分に液体窒素温度(77K)以上の超電導転移温度Tc を確保できることが分かる。
【0019】
なお、以上は主として Nd1-X+yCax Ba2-y Cu3 7-d のデ−タについて示したが、REがその他のLa,Sm,Gd,Eu等の1種以上であるCa置換希土類系123超電導体も同様の傾向を示すことは確認済である。
【0020】
例えば、図5は、TSFZ法によって育成した後に酸素アニ−ルして得られたx値が0.02の Sm1-X+yCax Ba2-y Cu3 7-d (y=0.005 )単結晶のデ−タであるが、Ca置換なしのものでは不可逆磁界Hirr は5T程度であるのに対して、x=0.02のCa置換体では12Tを十分に超える不可逆磁界Hirr を示していることが分かる。
【0021】
また、以上の結果が「化学式RE1-X+y Cax Ba2-y Cu3 7-d で表される物質の結晶粒が超電導体を構成する物質全体の60%以上を占め粒間が十分強く結合している超電導体」においても同様に得られることは、既に説明済である。
【0022】
【発明の効果】
以上に説明した如く、この発明によれば、実用化が困難な高圧酸素処理を用いることなくCa置換のみで極めて高い不可逆磁界Hirrを有する希土類系123超電導単結晶体を得ることができ、高温超電導体の実用範囲拡大が可能になるなど、産業上有用な効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例で得られたNd系123超電導単結晶の「c軸方向に印加した外部磁界と臨界電流密度Jc との関係図」である。
【図2】実施例で得られたNd系123超電導単結晶の「c軸方向に印加した外部磁界と臨界電流密度Jc との関係図」であり、臨界電流密度Jc 軸を対数目盛で示したものである。
【図3】実施例で得られた各種Nd系123超電導単結晶の「種々温度における不可逆磁界Hirr の評価結果」まとめて示した図である。
【図4】RE1-X+y Cax Ba2-y Cu3 7-d (y=0.005 )超電導体のCa置換量xと超電導転移温度Tc との関係を示した図である。
【図5】実施例で調査したSm系123超電導単結晶の「c軸方向に印加した外部磁界と臨界電流密度Jc との関係図」である。

Claims (5)

  1. 化学式がREBa2Cu37-d(但しREは希土類元素)で表される希土類系123超電導体のREの一部がCaで置換されて成ることを特徴とする、c軸方向に磁界を印加した場合の温度77Kでの不可逆磁界が10T以上であるCa置換希土類系123超電導単結晶体。
  2. REがLa,Nd,Sm,Gd,Euの1種以上である、請求項1記載のCa置換希土類系123超電導単結晶体。
  3. 化学式がRE1-X+yCaxBa2-yCu37-dで表され、そのx及びyの値がそれぞれ0<x≦0.1,0≦y<0.1の条件を満たして成る、請求項1又は請求項2記載のCa置換希土類系123超電導単結晶体。
  4. 化学式がRE1-X+yCaxBa2-yCu37-dで表され、そのx及びyの値がそれぞれ0.01≦x≦0.05,0≦y<0.1の条件を満たして成る、請求項1又は請求項2記載のCa置換希土類系123超電導単結晶体。
  5. 請求項1乃至4の何れかに記載のCa置換希土類系123超電導体の結晶粒が超電導体を構成する物質全体の体積の60%以上を占めて成る、Ca置換希土類系123超電導単結晶体。
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