JP4790582B2 - 高屈曲性フレキシブル銅張積層板の製造方法 - Google Patents

高屈曲性フレキシブル銅張積層板の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、電子機器に使用されるフレキシブル銅張積層板(以下、銅張積層板と略することもある。)の製造方法に関し、詳しくは、屈曲特性に優れたフレキシブルプリント銅張積層板の製造方法に関するものである。
フレキシブル銅張積層板は、ハードディスク内の可動部やヒンジ部等の屈曲性や、柔軟性、高密度実装が要求される電子機器に広く用いられている。近年、さらなる装置の小型化、高度化が進み、銅張積層板を狭い箇所に折り曲げて収納することが増えたこと、またそれ自身の折り曲げ角度も鋭くなってきたことから、より高い屈曲性を持つ銅張積層板の供給が必要不可欠となってきた。
このような背景のもと、銅箔の屈曲性を改善する手段として、銅箔の厚みを薄くすることが知られている。この場合、屈曲の際の曲げ部外周に生じる歪みが減少し、屈曲性が向上する、しかしながら、銅張積層板を薄くするだけでは、設計に制約を受けてしまうなどの理由により限界がある。
また、屈曲性に優れる銅箔として、圧延銅箔が知られている。圧延銅箔の製造方法としては、電気銅をインゴットに鋳造し、圧延と焼鈍を繰り返して箔状にする。この方法により製造された銅箔は伸び率も高く、表面が平滑であるため、クラックが入りにくく耐折性に優れている。しかしながら、圧延銅箔は高価で、製造時の機械的な制約により、銅箔の幅1m以上のものは製造することが困難であった。更に、厚みの薄い圧延銅箔を安定的に製造することも難しく、薄くして屈曲性を高めるためには、ハーフエッチング等の処理を行う必要があった。
一方、低価格で厚みの調整も比較的に容易に行うことができる銅箔として電解銅箔がある。この電解銅箔の製造方法は、まず硫酸銅を主成分とした電解液中ドラムと呼ばれる直径2〜3mの大きな筒状の陰極を半分沈め、それを囲むように陽極を設ける。そしてドラム上に銅を電析させながら、これを回転させて、析出した銅を順次引き剥がし巻き取って製造する。通常、電解液中には添加剤などの不純物が存在するため、析出した銅の結晶粒径は細かく、結晶粒径が細かいと銅箔の伸びが低く、また圧延銅箔に比べて熱的変化を受けにくい特徴がある。
銅箔を焼鈍あるいは再結晶化と呼ばれるプロセスで結晶構造を再生する技術が報告されている。例えば、特開平11−293367号公報(特許文献1)には、銅合金を圧延工程で再結晶する方法が開示されている。また、特開平8−296082号公報(特許文献2)には、再結晶性の良好な電解銅箔が示され、特開平8−283886号公報(特許文献3)には、屈曲特性が改良されたフレキシブル配線基板用電解銅箔が示されている。しかし、例えば、溶液状のポリイミド前駆体樹脂を塗工し、乾燥及び熱硬化(イミド化)のための熱処理を行うキャスト法による銅張積層板の製造方法においては、その熱処理工程で300℃以上の熱がかかる。このような高い温度で熱処理すると、銅箔は完全に焼鈍され、伸びがなくなり脆くなってしまう。また、銅箔の熱収縮によりシワが入るため搬送性が悪くなるという課題もあった。
特開平11−293367号公報 特開平8−296082号公報 特開平8−283886号公報 特開2003−338525号公報
本発明は、銅箔にポリイミド樹脂層が積層してなる銅張積層板の製造方法において、高い屈曲特性の銅張積層板を安定して製造する方法を提供することを目的とする。
本発明者らは種々検討した結果、特定の特性を有する電解銅箔を用い、その銅箔にポリイミド樹脂層を積層する工程において、特定の条件下で熱処理することで上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、銅箔表面にポリイミド前駆体樹脂溶液を塗布し、続く熱処理で乾燥及び硬化を行い、銅箔とポリイミド樹脂層からなる銅張積層板の製造方法において、銅箔として、熱処理前での平均結晶粒径が2μm以下の電解銅箔を使用し、前記熱処理において、300〜450℃の温度範囲で3〜40分間保持することより銅箔の転位密度を1×108cm-2〜1×1010cm-2の範囲内に制御することを特徴とする高屈曲性フレキシブル銅張積層板の製造方法である。
また、本発明は、銅箔表面にポリイミド前駆体樹脂又はポリイミド樹脂のフィルムを重ね合わせ、加圧下で熱圧着を行い、銅箔とポリイミド樹脂層からなる銅張積層板の製造方法において、銅箔として、熱圧着前での平均結晶粒径が2μm以下の電解銅箔を使用し、前記熱圧着において、300〜450℃の温度範囲で3〜40分間保持することより銅箔の転位密度を1×108cm-2〜1×1010cm-2の範囲内に制御することを特徴とする高屈曲性フレキシブル銅張積層板の製造方法である。
上記製造方法においては、熱処理後又は熱圧着後における銅箔の平均結晶粒径が2μm〜7μmの範囲内にあるようにする
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の銅張積層板は、銅箔とポリイミド樹脂層とから構成される。
銅箔の上にポリイミド樹脂層を積層する方法は、銅箔の上にポリイミド前駆体樹脂溶液を塗布すし、続く熱処理で乾燥及び硬化を行う方法(以下、キャスト法という)と、銅箔とポリイミド前駆体樹脂又はポリイミド樹脂のフィルムを加圧下で熱圧着する方法(以下、ラミネート法という)がある。なお、それぞれの方法については後述するが、共通する部分は同時に説明する。
キャスト法では、乾燥及び硬化が所定条件の熱処理によってなされる。ラミネート法では、熱圧着が所定条件の加熱下になされる。上記熱圧着では所定条件での加熱がなされるので、熱処理の1種ということができる。そこで、キャスト法での熱処理とラミネート法での熱圧着の際の加熱を区別する必要がないときは、熱処理で代表する。
熱処理は通常、常温から300℃以上に昇温することにより行われるが、300℃未満では銅箔の結晶に変化が生じないか、無視できる程度しか生じないので、300℃までの昇温速度は、任意である。300℃以上からは銅箔の結晶に変化が生じるので、300℃〜450℃における昇温速度又は滞留時間を制御する必要がある。300℃〜450℃における保持時間は3〜40分間であるが、300℃付近で長時間保持する場合は、比較的長い保持時間が必要であり、450℃付近で保持する場合は、比較的短い保持時間でよい。なお、450℃を超える温度まで昇温することはポリイミド樹脂の劣化等を引き起こす恐れがあるので好ましくない。熱処理温度は300℃以上である必要があるが、好ましくは350℃以上である。熱処理温度の上限は450℃以下、好ましくは400℃以下であることがよい。熱処理時間は上記のように熱処理温度や銅箔によって変化するが、好ましくは5〜20分間である
銅箔としては、電解銅箔が使用される。電解銅箔は、公知の方法で製造することができ、硫酸銅を主成分とした電解液から電気分解により析出させて得ることができる。しかし、その特性としては、ポリイミド樹脂層を積層する前の平均結晶粒径が2μm以下のものであること、更に、熱処理により転位密度が上記の範囲内になるものを使用することが必要である。本発明で使用される電解銅箔は、市販されている電解銅箔から選択することができる。この選択は、電解銅箔について上記の熱処理を行い、転位密度を測定することによって行うことができる。例えば、上記のようにして選択される電解銅箔としては、日本電解株式会社製HL箔や古河サーキットフォイル株式会社製WS箔がある。なお、電解銅箔は、熱処理前(原料)と熱処理後(製品)の状態があるので、両者を区別する必要があるときは、それぞれ熱処理前銅箔及び熱処理後銅箔ともいう。
本発明において定義する銅箔の平均結晶粒径は、銅箔表面に物理研磨を施した後、更に酸性の腐食液を用いてエッチングし、これを超深度形状測定顕微鏡により2,000倍の倍率で観察し、切断法によるASTM粒度測定(ASTM E112)に準拠して測定される値をいう。また、本発明において定義する銅箔の転位密度は、銅箔表面を電解研磨法による研磨を施した後、これを透過電子顕微鏡により観察し、測定される単位面積における筋状の転位線の数をいう。銅箔の転位密度は、特に晶帯軸<110>又は<100>で観察することが好ましい。また、透過電子顕微鏡での観察には、6万倍〜20万倍の範囲内で撮影した写真による測定が好ましく、例えば、6万倍で観察した場合の転位密度の値は、写真によって観察される転位線の総数をカウントし、単位面積あたりの転位線数の平均値として算出することが好ましい。
本発明の高屈曲性フレキシブル銅張積層板に屈曲性と耐屈曲性を与える手段として銅箔の転位密度を制御することが重要となる。銅箔の塑性変形は、転位の運動に起因するものであり、転位は銅箔の結晶中を自由に動くことができる。ただ、銅箔が塑性変形を繰り返すうちに、転位等の格子欠陥が徐々に増加し、転位の周りが完全結晶ではなくなるため、転位そのものが動きにくくなる、いわゆる加工硬化と呼ばれる現象を生じ、この加工硬化が進んで、金属疲労による破断が生じる原因となっている。従って、高屈曲性フレキシブル銅張積層板の屈曲性と耐屈曲性の双方のバランスを取るためには、該積層板の銅箔の転位密度を特定の範囲とすることが効果的である。すなわち、熱処理後の銅箔の転位密度を1×108cm-2〜1×1010cm-2、好ましくは1×109cm-2〜1×1010cm-2の範囲内に制御することにより、屈曲性と耐屈曲性が向上する。この範囲未満である場合は屈曲性が低下し、また、この範囲を超える場合は耐屈曲性が低下する。この転位密度は通常、熱処理することにより低下するので、熱処理条件を上記範囲内で制御して転位密度を制御する。
銅箔の平均結晶粒径は、結晶粒子の各々を格子欠陥の単位セル構造と見做した場合、単位セル構造は各々独立しているので、銅箔全体にわたる転位等の格子欠陥の伝播を抑制する効果がある。従って、熱処理前銅箔は単位面積あたりの単位セルは多い方が好ましく、言い換えれば平均結晶粒径が小さい方が好ましい。熱処理前銅箔は、銅張積層板の製造の際、テンション変形、巻き取り変形等、銅箔そのものに塑性変形を生じさせる工程に付される。フレキシブル銅張積層板を製造する工程では、銅箔の転位密度を増加させる工程を含んでいるので、熱処理前銅箔として、平均結晶粒径が2μm以下の電解銅箔を使用し、好ましくは0.5μm〜2μmの範囲内のものを使用することがよい。また、銅箔はその平均結晶粒径が大きいもの程、屈曲性がよいといわれている。しかし、前述した銅箔全般にわたる転位伝播とのバランスを考慮すると、熱処理後銅箔としては、平均結晶粒径が2μm〜7μm、好ましくは2.5μm〜5μmの範囲となるようにすることがよい。転位密度を高くするためには、例えば、ポリイミド樹脂層の積層工程で、銅箔に与えるテンションを増大させる方法が挙げられる。また、熱処理条件を上記温度の範囲内とすることで、銅箔の平均結晶粒径を大きくすることができる。
使用する銅箔の厚さの好ましい範囲は8〜35μmであり、特に好ましい範囲は9〜18μmである。銅箔の厚みが8μmに満たないと、銅張積層板の製造時のテンション調整が困難となる。一方、18μmを越えると銅張積層板の屈曲特性を十分に生かすことが難しくなる。
ポリイミド樹脂及びその前駆体樹脂は、公知のジアミンと酸無水物とを溶媒の存在下で反応して製造することができる。用いられるジアミンとしては、例えば、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、2'-メトキシ-4,4'-ジアミノベンズアニリド、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2'-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2'-ジメチル-4,4'-ジアミノビフェニル、3,3'-ジヒドロキシ-4,4'-ジアミノビフェニル、4,4'-ジアミノベンズアニリド等が挙げられる。また、酸無水物としては、例えば、無水ピロメリット酸、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'-ジフェニルスルフォンテトラカルボン酸二無水物、4,4'-オキシジフタル酸無水物が挙げられる。ジアミン及び酸無水物は1種又は2種以上を使用することもできる。
また、この反応は有機溶媒中で行わせることが好ましく、このような有機溶媒としては特に限定されないが、具体的には、ジメチルスルフォキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ヘキサメチルホスホルムアミド、フェノール、クレゾール、γ−ブチロラクトン等が挙げられ、これらは単独で又は混合して用いることができる。また、このような有機溶媒の使用量としては特に制限されるものではないが、重合反応よって得られる前駆体樹脂(ポリアミック酸)溶液の濃度が5〜30重量%程度になるように調整して用いることが好ましい。
本発明において、キャスト法により銅張積層板を製造する場合は、ポリイミド樹脂層は、前駆体の溶液状態で銅箔上に直接塗布して形成されるが、その方法は特に制限されず、コンマ、ダイ、ナイフ、リップ等のコーターにて塗布することが可能である。この塗布工程では、重合された前駆体樹脂溶液の粘度を500〜35,000cpsの範囲とすることが好ましい。塗布されたポリイミド前駆体樹脂層は、続く熱処理工程で乾燥、硬化(イミド化)される。この場合の熱処理は100〜400℃で計10〜40分程度行うことができるが、本発明においては、好ましくは160℃以下で溶媒を乾燥させた後に、銅箔の転位密度を制御するために、300℃〜450℃の温度範囲で3〜40分保持することを必要とする。好ましい保持条件は、310〜390℃の温度範囲で5〜30分、更に好ましくは、320〜380℃の温度範囲で7〜20分の範囲である。熱処理における保持条件が上記に満たないと、銅箔の転位密度の制御が不適当となり、高屈曲性の銅張積層板を得ることが困難となる。
ここで、銅張積層板のポリイミド樹脂層は、単層のみから形成されるものでも、複数層からなるものでもよい。ポリイミド樹脂層を複数層とする場合、異なる構成成分からなるポリイミド前駆体樹脂層の上に他のポリイミド前駆体樹脂を順次塗布して形成することができる。ポリイミド樹脂層が3層以上からなる場合、同一の構成のポリイミド樹脂を2回以上使用してもよい。
上記ポリイミド樹脂層は、単層、複数層いずれの場合であっても、熱線膨張係数が30ppm/K未満、有利には5ppm/K〜25ppm/Kの範囲にある低熱膨張性ポリイミド樹脂層を有することが好ましい。そして、この低熱膨張性ポリイミド樹脂層のいずれか一方又は両面の面にガラス転移温度が400℃以下、好ましくは250〜380℃、更に好ましくは300〜350℃の範囲にある熱可塑性ポリイミド樹脂層を設けることが好ましい。
本発明において、ラミネート法により銅張積層板を製造する場合は、銅箔とポリイミド樹脂フィルムを熱圧着するが、所定の加熱条件を満足すれば、その方法は特に制限されず、適宜公知の方法を採用することができる。たとえば、通常のハイドロプレス、真空タイプのハイドロプレス、オートクレーブ加圧式真空プレス、連続式熱ラミネータ等を挙げることができる。このような方法の中でも、十分なプレス圧力が得られ、残存揮発分の除去も容易に行え、更に銅箔の酸化を防止することができるという観点から真空ハイドロプレス、連続式熱ラミネータを用いることが好ましい。また、このようにして銅箔とポリイミド樹脂フィルムを熱圧着して張り合わせる際には、200〜400℃の範囲で行うことができるが、本発明の場合は300℃〜450℃の温度範囲で3〜40分保持することを必要とする。好ましい保持条件は、310〜390℃の温度範囲で5〜30分、更に好ましくは、320〜380℃の温度範囲で7〜20分の範囲である。かかる温度範囲で所定時間保持することにより、熱圧着(熱処理)が行われ、銅箔の転位密度の調整が可能となる。また、プレス圧力については、使用するプレス機器の種類にもよるが、通常、100〜150kgf/cm2程度が適当である。
ラミネート法においても、ポリイミド樹脂フィルムはフィルム単独であってもよく、基材上にポリイミド樹脂層として形成されたものであってあってもよい。後者の場合は、熱圧着後、必要により基材を剥離することができる。
銅張積層板のポリイミド樹脂層は、単層のみから形成されるものでも、複数層からなるものでもよい。ポリイミド樹脂層を複数層とする場合、第一のポリイミド前駆体樹脂層の上に他のポリイミド前駆体樹脂を順次塗布して形成することができる。ポリイミド樹脂層が3層以上からなる場合、同一の構成のポリイミド樹脂を2回以上使用してもよい。この場合の好ましいポリイミド樹脂層の構成は上記と同様である。
キャスト法及びラミネート法のいずれににおいても、上記低熱膨張性ポリイミド樹脂としては、下記一般式(1)で表される構造単位を主たる構成単位とすることが好ましい。
Figure 0004790582
但し、Ar1は式(2)又は式(3)で表される4価の芳香族基を示し、Ar3は式(4)又は式(5)で表される2価の芳香族基を示し、qは構成単位の存在モル比を示し、0.1〜1.0の範囲である。
Figure 0004790582
但し、R1は独立に炭素数1〜6の1価の炭化水素基又はアルコキシ基を示し、X及びYは独立に、単結合又は炭素数1〜15の2価の炭化水素基、O、S、CO、SO、SO2若しくはCONHから選ばれる2価の基を示し、nは独立に0〜4の整数を示す。
熱可塑性ポリイミド樹脂も、公知のジアミンと公知の酸無水物をそれぞれ1種以上適宜組み合わせて得ることができる。熱可塑性ポリイミド樹脂層は、ガラス転位温度が、400℃以下であることが好ましく、より好ましくは250〜380℃、更に好ましくは300〜350℃の範囲にあると同時に熱膨張係数が30ppm/K以上であることが好ましい。
なお、ポリイミド樹脂層が2層以上使用される場合は、銅箔層に接しないポリイミド樹脂層を低熱膨張性ポリイミド樹脂層とすることがよい。また、熱膨張係数は、サーモメカニカルアナライザーを用いて測定される100℃から250℃の平均線熱膨張係数の値を指し、また、ガラス転移温度は、動的粘弾性測定装置によって測定される損失弾性率のピーク値を指す。
ポリイミド樹脂層の総厚みは、15〜50μmの範囲にあることが好ましく、更に好ましくは20〜40μmの範囲にあることがよい。ポリイミド樹脂層を低熱膨張性ポリイミド樹脂層と熱可塑性ポリイミド樹脂層とで構成する場合、その合計厚みの1/2以上、有利には2/3〜9/10は低熱膨張性ポリイミド樹脂層で構成することがよい。また、耐熱性や寸法安定性の観点から、熱可塑性ポリイミド樹脂層の一層の厚みは、5μm以下、有利には1〜4μmの範囲にあることがよい。ポリイミド樹脂層全体としての熱線膨張係数は、30ppm/K未満、有利には5ppm/K〜25ppm/Kの範囲にあることがよい。
キャスト法においては、銅箔の一方の面にポリイミド前駆体樹脂溶液を塗布し、続く熱処理で乾燥及び硬化を行い、ラミネート法においては、銅箔表面にポリイミド前駆体樹脂又はポリイミド樹脂のフィルムを重ね合わせ、加圧下で熱圧着を行い、熱処理後銅箔又は熱圧着後銅箔の平均結晶粒径が2μm〜7μmの範囲内、好ましくは3〜6μmの範囲内とすることがよい。
本発明によって製造される銅張積層板は、銅箔又はポリイミド樹脂層のいずれか両面に銅箔又はポリイミド樹脂層設けたものであることもできる。また、本発明によって製造される銅張積層板から、銅箔層をポリイミド樹脂層の両面に有する両面銅張積層板を公知の方法によって得ることもできる。
本発明によれば、銅張積層板製造における銅箔の搬送性に優れた電解銅箔を使用した場合でも、その後の熱処理工程で銅箔の転位密度を制御することで、屈曲特性の良好なフレキシブル銅張積層板を製造することができる。
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り各種評価は下記によるものである。
1)銅箔中の転位密度の測定方法
銅張積層板に直径3mmの貫通孔を開け、銅箔に歪を導入しないように充分注意して、観察面でない銅箔表面を電解研磨法による研磨を施した後、ガタン社製のイオンミリング装置(PIPS)を用いてポリイミド樹脂層を除去して、転位密度測定用のサンプルを作製した。転位密度の観察は、試料の貫通孔の周囲を加速電圧200kVで電界放射型透過電子顕微鏡(HF−2000、日立製作所製)を使用して行った。なお、電解研磨法は、電解液;燐酸15:エタノール10:蒸留水100、電解温度;14℃、電解条件;30V rate 5の条件を採用し、晶帯軸<110>で観察した。
2)平均結晶粒径の測定方法
銅箔表面に物理研磨を施した後、さらに酸性の腐食液を用いてエッチングし、これを(株)キーエンス社製の超深度形状測定顕微鏡VK8500により2000倍の倍率で観察し、切断法によるASTM粒度測定(ASTM E112)に準拠した方法を用いて、平均の結晶粒径を求めた。
3)ガラス転移温度の測定
粘弾性アナライザー(レオメトリックサイエンスエフィー株式会社製RSA−II)を用いて、合成例から得られたポリイミドフィルムを10mm幅のサンプルを用いて、1Hzの振動を与えながら、室温から400℃まで10℃/分の速度で昇温した際の、損失正接(Tanδ)の極大から求めた。
4)熱線膨張係数の測定
サーモメカニカルアナライザー(セイコーインスツルメンツ社製)を用い、合成例で得られたポリイミドフィルムを250℃まで昇温し、更にその温度で10分保持した後、5℃/分の速度で冷却し、240℃から100℃までの平均の熱線膨張係数を求めた。
合成例1
反応容器に、N,N-ジメチルアセトアミドを入れる。この反応容器に4,4'-ジアミノ-2'-メトキシベンズアニリド(MABA)を容器中で撹拌しながら溶解させた。次に、無水ピロメリット酸(PMDA)及び4,4'-ジアミノジフェニルエーテル(DAPE)を加えた。モノマーの投入総量が15wt%で、各ジアミンのモル比率は、MABA:DAPE、60:40となるよう投入した。その後、3時間撹拌を続けて重合反応を行い、粘稠なポリイミド前駆体樹脂液aを得た。また、本合成例によって得られたポリイミド前駆体樹脂液aを、ポリイミド樹脂フィルムとし、その熱線膨張係数を測定したところ、15ppm/Kであった。
合成例2
反応容器に、N,N-ジメチルアセトアミドを入れる。この反応容器に2,2'ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)及び1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-Q)を容器中で撹拌しながら溶解させた。次に、BPDA及びPMDAを加えた。モノマーの投入総量が15wt%で、各ジアミンのモル比率は、BAPP:TPE-Q、80:20となるよう投入した。その後、3時間撹拌を続けて重合反応を行い、粘稠なポリイミド前駆体樹脂液bを得た。また、本合成例によって得られたポリイミド前駆体樹脂液bをイミド化してガラス転移温度を測定したところ、319℃であった。
実施例1
銅箔1(電解銅箔、厚み12μm、熱処理前平均結晶粒径1.1μm)を準備した。この銅箔上に合成例2で得られたポリイミド前駆体樹脂液bを硬化後の厚みが約2μmとなるように均一に塗布したのち、130℃で加熱乾燥し溶媒を除去した。次に、その上に積層するように合成例1で調整したポリイミド前駆体樹脂aを硬化後の厚みが約35μmとなるように均一に塗布し、135℃で加熱乾燥し溶媒を除去した。さらにこのポリイミド前駆体樹脂層上にポリイミド前駆体樹脂液bを硬化後の厚みが約3μmとなるように均一に塗布し、130℃で加熱乾燥し溶媒を除去した。これを、130℃から380℃まで10分かけて段階的に昇温された熱処理工程を経由させ、ポリイミド樹脂層の厚み40μmの銅張積層板Aを得た。この際、最高加熱温度は380℃であり、この温度で6分の熱処理を行った。300℃から380℃の温度範囲における合計の保持時間は、約10分である。なお、得られた銅張積層板Aの転位密度は、0.6×1010cm-2であり、平均結晶粒径は、3.0μmであった。
実施例2
銅箔2(電解銅箔、厚み12μm、熱処理前平均結晶粒径1.0μm)を準備した。この銅箔を用いて、実施例1と同様にして、ポリイミド樹脂層の厚み40μmの銅張積層板Bを得た。なお、得られた銅張積層板Bの転位密度は、0.3×1010cm-2であり、平均結晶粒径は、4.0μmであった。
実施例3
基板上に、合成例2で得られたポリイミド前駆体樹脂液bを硬化後の厚みが約2μmとなるように均一に塗布したのち、130℃で加熱乾燥し溶媒を除去した。次に、その上に積層するように合成例1で調整したポリイミド前駆体樹脂aを硬化後の厚みが約35μmとなるように均一に塗布し、135℃で加熱乾燥し溶媒を除去した。更に、このポリイミド前駆体樹脂層上にポリイミド前駆体樹脂液bを硬化後の厚みが約3μmとなるように均一に塗布し、130℃で加熱乾燥し溶媒を除去した。引き続き、130℃から380℃まで10分かけて段階的に昇温された熱処理工程を経由させ、基板上に厚み40μmのポリイミド樹脂フィルムを得た。
ポリイミド樹脂フィルムを基板上より剥離し、得られたポリイミド樹脂フィルムの剥離面と銅箔3(電解銅箔、厚み12μm、熱処理前平均結晶粒径1.0μm)を重ね合わせ、真空プレス機を用いて、面圧150kg/cm2、温度360℃、プレス時間30分で加熱圧着して、銅張積層板Cを得た。なお、得られた銅張積層板Cの転位密度は、0.3×1010cm-2であり、平均結晶粒径は、4.0μmであった。
比較例1
銅箔4(三井金属株式会社製VLP箔、厚み12μm、熱処理前平均結晶粒径1.2μm)を準備した。この銅箔を用いて、実施例1と同様にして、ポリイミド樹脂層の厚み40μmの銅張積層板を得た。なお、得られた銅張積層板の銅箔の転位密度は、9×1010cm-2であり、銅箔の平均結晶粒径は、1.3μmであった。
比較例2
銅箔2(電解銅箔、厚み12μm、熱処理前平均結晶粒径1.0μm)を準備した。この銅箔を用いて、実施例1と同様にして、積層体を得た。この積層体を、その後130℃から250℃まで10分かけて段階的に昇温された熱処理工程を経由させ、ポリイミド樹脂層の厚み40μmの銅張積層板Dを得た。この際、最高加熱温度は250℃であり、この温度で6分の熱処理を行った。なお、得られた銅張積層板Dの銅箔の転位密度は、4×1010cm-2であり、銅箔の平均結晶粒径は、2.5μmであった。
以上の結果をまとめて表1に示す。表1において、MIT耐折性は、R=0.8mm、1/2mil カバー材付きでの試験条件での結果である。
Figure 0004790582

Claims (4)

  1. 銅箔表面にポリイミド前駆体樹脂溶液を塗布し、続く熱処理で乾燥及び硬化を行って銅箔とポリイミド樹脂層からなる銅張積層板の製造方法において、銅箔として、熱処理前での平均結晶粒径が2μm以下の電解銅箔を使用し、前記熱処理において、300〜450℃の温度範囲で3〜40分間保持することにより銅箔の転位密度を1×108cm-2〜1×1010cm-2の範囲内に制御すると共に、熱処理後における銅箔の平均結晶粒径を2μm〜7μmの範囲内にすることを特徴とする高屈曲性フレキシブル銅張積層板の製造方法。
  2. 使用する銅箔の厚さが9〜18μmであり、ポリイミド樹脂層の総厚みが20〜40μmの範囲にある請求項1記載の高屈曲性フレキシブル銅張積層板の製造方法。
  3. 銅箔表面にポリイミド前駆体樹脂又はポリイミド樹脂のフィルムを重ね合わせ、加圧下で熱圧着を行って銅箔とポリイミド樹脂層からなる銅張積層板の製造方法において、銅箔として、熱圧着前での平均結晶粒径が2μm以下の電解銅箔を使用し、前記熱圧着において、300〜450℃の温度範囲で3〜40分間保持するにより銅箔の転位密度を1×108cm-2〜1×1010cm-2の範囲内に制御すると共に、熱圧着後における銅箔の平均結晶粒径を2μm〜7μmの範囲内にすることを特徴とする高屈曲性フレキシブル銅張積層板の製造方法。
  4. 使用する銅箔の厚さが9〜18μmであり、ポリイミド樹脂層の総厚みが20〜40μmの範囲にある請求項3記載の高屈曲性フレキシブル銅張積層板の製造方法。
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