JP4788936B2 - 圧電磁器 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、アクチュエータ、センサーまたはレゾネータなどの分野において広く利用される圧電磁器に関する。
【0002】
【従来の技術】
圧電材料は、外部から電界が印加されることにより歪みを発生する(電気エネルギーの機械エネルギーへの変換)効果と、外部から応力を受けることにより表面に電荷が発生する(機械エネルギーの電気エネルギーへの変換)効果とを有するものであり、近年、各種分野で幅広く利用されている。例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3 ;PZT)などの圧電材料は、印加電圧に対して1×10-10 m/Vのオーダーでほぼ比例した歪みを発生することから、微少な位置調整などに優れており、光学系の微調整などにも利用されている。また、それとは逆に、圧電材料は加えられた応力あるいはそれによる自身の変形量に比例した大きさの電荷が発生することから、微少な力や変形を読み取るためのセンサーとしても利用されている。更に、圧電材料は優れた応答性を有することから、交流電界を印加することで、圧電材料自身あるいは圧電材料と接合関係にある弾性体を励振して共振を起こさせることも可能であり、圧電トランス、超音波モータなどとしても利用されている。
【0003】
現在実用化されている圧電材料の大部分は、PbZrO3 (PZ)−PbTiO3 (PT)からなる固溶体系(PZT系)である。その理由は、菱面晶系のPZと正方晶系のPTの結晶学的な相境界(M.P.B.)付近の組成を用いることで、優れた圧電特性を得ることができるからである。このPZT系圧電材料には、様々な副成分あるいは添加物を加えることにより、多種多様なニーズに応えるものが幅広く開発されている。例えば、機械的品質係数Qmが小さいかわりに圧電定数dが大きく、直流的な使い方で大きな変位量が求められる位置調整用のアクチュエータなどに用いられるものから、圧電定数dが小さいかわりに機械的品質係数Qmが大きく、超音波モータなどの超音波発生素子のような交流的な使い方をする用途に向いているものまで様々なものがある。
【0004】
また、PZT系以外にも圧電材料として実用化されているものはあるが、それもマグネシウム酸ニオブ酸鉛(Pb(Mg,Nb)O3 ;PMN)などの鉛系ペロブスカイト組成を主成分とする固溶体がほとんどである。
【0005】
ところが、これらの鉛系圧電材料は、主成分として低温でも揮発性の極めて高い酸化鉛(PbO)を60〜70質量%程度と多量に含んでいる。例えば、PZTまたはPMNでは、質量比で約2/3が酸化鉛である。よって、これらの圧電材料を製造する際には、磁器であれば焼成工程、単結晶品であれば溶融工程などの熱処理工程において、工業レベルで極めて多量の酸化鉛が大気中に揮発し拡散してしまう。また、製造段階で放出される酸化鉛については回収することも可能であるが、工業製品として市場に出された圧電製品に含有される酸化鉛については現状では回収が難しく、これらが広く環境中に放出されると、酸性雨による鉛の溶出などが心配される。従って、今後圧電磁器および単結晶の応用分野が広がり、使用量が増大すると、無鉛化の問題が極めて重要な課題となる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
鉛を全く含有しない圧電材料としては、例えばチタン酸バリウム(BaTiO3 )あるいはビスマス層状強誘電体などが知られている。しかし、チタン酸バリウムはキュリー点が120℃と低く、その温度以上では圧電性が消失してしまうので、はんだによる接合または車載用などの用途を考えると実用的でない。一方、ビスマス層状強誘電体は、通常400℃以上のキュリー点を有しており、熱的安定性に優れているが、結晶異方性が大きいので、ホットフォージングなどで自発分極を配向させる必要があり、生産性の点で問題がある。また、完全に鉛の含有をなくすと、大きな圧電性を得ることが難しい。
【0007】
更に、最近では、新たな材料として、チタン酸ビスマスナトリウム系の材料について研究が進められている。例えば、特公平4−60073号公報,特開平11−180769号公報には、チタン酸ビスマスナトリウムとチタン酸バリウムとを含む材料が開示されており、特開平11−171643号公報にはチタン酸ビスマスナトリウムとチタン酸ビスマスカリウムとを含む材料が開示されている。しかし、これらチタン酸ビスマスナトリウム系の材料では、鉛系圧電材料に比べると未だ十分といえる圧電特性が得られておらず、圧電特性の向上が求められていた。
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、優れた圧電特性を示し、低公害化、対環境性および生態学的見地からも優れた圧電磁器を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明による圧電磁器は、(NI 0.5Bi0.5 ){Ti1-x (In0.5 Nb0.5 ) x }O3 (NI はナトリウム、またはナトリウムおよびカリウムを表し、xは0.005≦x≦0.02の範囲内の値である。)で表されるペロブスカイト構造を有する酸化物を含有するものである。
【0010】
本発明による圧電磁器では、(NI 0.5Bi0.5 ){Ti1-x (In0.5 Nb0.5 ) x }O3 に示したように、チタンの一部が、インジウムと、ニオブとで置換されているので、圧電特性、特に圧電定数dの向上が図られる。なお、上記xは、0.02未満であることが好ましい。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0012】
本発明の一実施の形態に係る圧電磁器は、第1の元素と、第2の元素と、酸素とからなるペロブスカイト構造を有する酸化物を含有している。第1の元素は、ナトリウム,カリウムおよびリチウムからなる群のうちの少なくとも1種と、ビスマスとを含み、第2の元素は、チタンと、インジウムと、ニオブおよびタンタルからなる群のうちの少なくとも1種とを含んでいる。この酸化物の化学式は、例えば化1により代表的に表される。
【0013】
【化1】
【0014】
すなわち、この酸化物は、第2の元素においてチタンの一部がインジウムとニオブおよびタンタルからなる群のうちの少なくとも1種とで置換されたものである。これにより、この圧電磁器では、圧電特性、特に圧電定数dが向上するようになっている。
【0015】
第2の元素におけるインジウムとニオブとタンタルとの合計の含有量は、2mol%よりも少ない方が好ましい。または、第2の元素におけるチタンと、インジウム,ニオブおよびタンタルの合計との組成比は、例えば化1に示したxで表すと、モル比で、0<x<0.04の範囲内であることが好ましい。この範囲内においてより大きな圧電定数dを得ることができるからである。
【0016】
なお、この圧電磁器は鉛(Pb)を含んでいてもよいが、その含有量は1質量%以下であることが好ましく、鉛を全く含んでいなければより好ましい。焼成時における鉛の揮発、および圧電部品として市場に流通し廃棄された後における環境中への鉛の放出を最小限に抑制することができ、低公害化、対環境性および生態学的見地から好ましいからである。また、この圧電磁器の結晶粒の平均粒径は例えば0.5μm〜20μmである。
【0017】
このような構成を有する圧電磁器は、例えば、次のようにして製造することができる。
【0018】
まず、出発原料として、酸化ビスマス(Bi2 O3 ),炭酸ナトリウム(Na2 CO3 ),炭酸カリウム(K2 CO3 ),炭酸リチウム(Li2 CO3 ),酸化チタン(TiO2 ),酸化インジウム(In2 O3 ),酸化ニオブ(Nb2 O5 )および酸化タンタル(Ta2 O5 )などの粉末を必要に応じて用意し、十分に乾燥させたのち、目的とする組成に応じて秤量する。なお、出発原料には、酸化物に代えて炭酸塩あるいはシュウ酸塩のように焼成により酸化物となるものを用いてもよく、炭酸塩に代えて酸化物あるいは焼成により酸化物となる他のものを用いてもよい。
【0019】
次いで、例えば、秤量した出発原料をボールミルなどにより有機溶媒中または水中で5時間〜20時間十分に混合したのち、十分乾燥し、プレス成形して、750℃〜900℃で1時間〜3時間程度仮焼する。続いて、例えば、この仮焼物をボールミルなどにより有機溶媒中または水中で10時間〜30時間粉砕したのち、再び乾燥し、バインダーを加えて造粒する。造粒したのち、例えば、この造粒粉を一軸プレス成形機あるいは静水圧成形機(CIP)などを用い100MPa〜400MPaの加重を加えてプレス成形する。
【0020】
成形したのち、例えば、この成形体を400℃〜800℃で2時間〜4時間程度熱処理してバインダーを揮発させ、950℃〜1300℃で2時間〜4時間程度本焼成する。本焼成ののち、得られた焼結体を必要に応じて研磨し、電極を設ける。そののち、25℃〜100℃のシリコンオイル中で5MV/m〜10MV/mの電界を5分間〜1時間程度印加して分極処理を行う。これにより、上述した圧電磁器が得られる。
【0021】
このように本実施の形態によれば、第2の元素として、チタンと、インジウムと、ニオブおよびタンタルからなる群のうちの少なくとも1種とを含むようにしたので、圧電特性、特に圧電定数dを向上させることができる。よって、鉛を含有しない、または鉛の含有量が少ない圧電磁器についても、利用の可能性を高めることができる。すなわち、焼成時における鉛の揮発、および圧電部品として市場に流通し廃棄された後における環境中への鉛の放出を最小限に抑制することができる低公害化、対環境性および生態学的見地から極めて優れた圧電磁器の活用を図ることができる。
【0022】
特に、第2の元素におけるインジウムとニオブとタンタルとの合計の含有量が2mol%よりも少なくなるようにすれば、より大きな圧電定数dを得ることができる。
【0023】
【実施例】
更に、本発明の具体的な実施例について説明する。
【0024】
(実施例1〜6)
実施例1〜6として、化2に示した酸化物を含有する圧電磁器を作製した。この酸化物は、化1におけるMv をニオブとしたものである。まず、出発原料として、酸化ビスマス粉末、炭酸ナトリウム粉末,炭酸カリウム粉末,酸化チタン粉末,酸化インジウム粉末および酸化ニオブ粉末を用意し、乾燥させたのち秤量した。その際、実施例1〜6で出発原料の配合比を調整し、化2におけるNI およびxを表1または表2に示したように変化させた。
【0025】
【化2】
【0026】
【表1】
【0027】
【表2】
【0028】
次いで、秤量した出発原料をボールミルによりジルコニアボールを用いてアセトン中で約15時間混合したのち、乾燥し、プレス成形して、900℃で約2時間仮焼した。続いて、この仮焼物をボールミルによりアセトン中で約15時間粉砕したのち、再び乾燥し、バインダーとしてポリビニールアルコール(PVA)水溶液を加えて造粒した。そののち、この造粒粉を一軸プレス成形機で100MPaの加重を加えて仮成形し、更に、CIPで400MPaの加重を加えて高さ約11mm、直径約7mmの円柱状に成形した。成形したのち、この成形体を700℃で約3時間熱処理してバインダーを揮発させ、表1または表2に示した焼成温度で2時間本焼成した。
【0029】
本焼成したのち、得られた焼成体を高さ7.5mm、直径3mmの円柱状に加工し、円柱の両端面に銀ペーストを650℃で焼き付け、電極を形成した。そののち、50℃のシリコンオイル中で5〜10MV/mの電界を15分間印加して分極処理を行った。これにより、実施例1〜6の圧電磁器を得た。
【0030】
得られた実施例1〜6の圧電磁器について、インピーダンスアナライザー(ヒューレットパカード社製HP4194A)により素子静電容量c、共振周波数frおよび反共振周波数faを測定し、それらの結果から圧電定数d33を求めた。それらの結果を表1および表2に示す。
【0031】
また、本実施例に対する比較例1,2として、化2におけるxを零としたことを除き、実施例1〜3または実施例4〜6と同様にして圧電磁器を作製した。すなわち、比較例1ではチタン酸ナトリウムビスマスNa0.5 Bi0.5 TiO3 を含有する圧電磁器を作製し、比較例2ではチタン酸ナトリウムカリウムビスマスNa0.4 K0.1 Bi0.5 TiO3 を含有する圧電磁器を作製した。比較例1は実施例1〜3に対応し、比較例2は実施例4〜6に対応している。比較例1,2についても、本実施例と同様にして圧電定数d33を測定した。それらの結果についても表1および表2に合わせて示す。
【0032】
表1および表2に示したように、本実施例1〜6によれば、比較例1,2に比べて圧電定数d33について大きな値が得られた。すなわち、第2の元素としてチタンに加えてインジウムおよびニオブを含むようにすれば、圧電定数d33を向上させることができ、圧電特性を改善できることが分かった。
【0033】
また、実施例1〜6の結果から、化2におけるxの値を大きくすると、すなわち第2の元素におけるインジウムおよびニオブの含有量を多くすると、圧電定数d33は大きくなり、極大値を示した後小さくなる傾向が見られた。よって、xを0.02未満、すなわち第2の元素におけるインジウムおよびニオブの含有量を2mol%未満とすれば、より圧電定数d33を大きくできることが分かった。
【0034】
更に、化2におけるNI をナトリウムとした実施例1〜3よりも、NI をナトリウムとカリウムとした実施例4〜6の方が、圧電定数d33の値がより大きかった。すなわち、第1の元素としてナトリウムに加えてカリウムを含むようにすれば、圧電定数d33をより大きくできることが分かった。
【0035】
なお、上記実施例では、酸化物の組成についていくつかの例を挙げて具体的に説明したが、上記実施の形態において説明した組成の範囲内であれば他の組成であっても同様の結果を得ることができる。
【0036】
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態および実施例に限定されるものではなく、種々変形可能である。例えば、上記実施の形態および実施例では、例えば化1により代表される酸化物を含有する場合についてのみ説明したが、この酸化物に加えて他の化合物を含んでいてもよい。また、この酸化物を構成する元素以外の元素を、不純物または他の化合物の構成元素として含んでいてもよい。そのような元素としては、例えば、ハフニウム(Hf),ジルコニウム(Zr),バナジウム(V)が挙げられる。
【0037】
更に、上記実施の形態および実施例では、第1の元素としてナトリウム,カリウムおよびリチウムからなる群のうちの少なくとも1種と、ビスマスとを含み、第2の元素としてチタンと、インジウムと、ニオブおよびタンタルからなる群のうちの少なくとも1種とを含む場合について説明したが、これら第1の元素および第2の元素は、これら以外の他の元素を更に含んでいてもよい。
【0038】
【発明の効果】
以上説明したように請求項1または請求項2記載の圧電磁器によれば、(NI 0.5Bi0.5 ){Ti1-x (In0.5 Nb0.5 ) x }O3 (NI はナトリウム、またはナトリウムおよびカリウムを表し、xは0.005≦x≦0.02の範囲内の値である。)で表されるペロブスカイト構造を有する酸化物を含有するようにしたので、圧電特性、特に圧電定数dを向上させることができる。よって、鉛を含有しないまたは鉛の含有量が少ない圧電磁器についても、利用の可能性を高めることができる。すなわち、焼成時における鉛の揮発、および圧電部品として市場に流通し廃棄された後における環境中への鉛の放出を最小限に抑制することができる低公害化、対環境性および生態学的見地から極めて優れた圧電磁器の活用を図ることができる。
【0039】
特に、請求項2記載の圧電磁器によれば、上記xを0.02未満になるようにしたので、より圧電定数を向上させることができる。
Claims (3)
- (NI 0.5Bi0.5 ){Ti1-x (In0.5 Nb0.5 ) x }O3 (NI はナトリウム(Na)、またはナトリウムおよびカリウム(K)を表し、xは0.005≦x≦0.02の範囲内の値である。)で表されるペロブスカイト構造を有する酸化物を含有する
ことを特徴とする圧電磁器。 - 前記xは0.02未満である
ことを特徴とする請求項1記載の圧電磁器。 - 前記xは0.005≦x≦0.015の範囲内の値である
ことを特徴とする請求項1記載の圧電磁器。
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