JP4387134B2 - 圧電磁器 - Google Patents

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Description

本発明は、アクチュエータ、センサーまたはレゾネータなどの分野において広く利用される圧電磁器に関する。
圧電材料は、外部から電界が印加されることにより歪みを発生する(電気エネルギーの機械エネルギーへの変換)効果と、外部から応力を受けることにより表面に電荷が発生する(機械エネルギーの電気エネルギーへの変換)効果とを有するものであり、近年、各種分野で幅広く利用されている。例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3 :PZT)などの圧電材料は、印加電圧に対して1×10-10 m/Vのオーダーでほぼ比例した歪みを発生することから、微少な位置調整などに優れており、光学系の微調整などにも利用されている。また、それとは逆に、圧電材料は加えられた応力あるいはそれによる自身の変形量に比例した大きさの電荷が発生することから、微少な力や変形を読み取るためのセンサーとしても利用されている。更に、圧電材料は優れた応答性を有することから、交流電界を印加することで、圧電材料自身あるいは圧電材料と接合関係にある弾性体を励振して共振を起こさせることも可能であり、圧電トランス、超音波モータなどとしても利用されている。
現在実用化されている圧電材料の大部分は、PbZrO3 (PZ)−PbTiO3 (PT)からなる固溶体系(PZT系)である。その理由は、菱面晶系のPZと正方晶系のPTの結晶学的な相境界(M.P.B.)付近の組成を用いることで、優れた圧電特性を得ることができるからである。このPZT系圧電材料には、様々な副成分あるいは添加物を加えることにより、多種多様なニーズに応えるものが幅広く開発されている。例えば、機械的品質係数(Qm)が小さいかわりに圧電定数(d)が大きく、直流的な使い方で大きな変位量が求められる位置調整用のアクチュエータなどに用いられるものから、圧電定数(d)が小さいかわりに機械的品質係数(Qm)が大きく、超音波モータなどの超音波発生素子のような交流的な使い方をする用途に向いているものまで様々なものがある。
また、PZT系以外にも圧電材料として実用化されているものはあるが、それもマグネシウム酸ニオブ酸鉛(Pb(Mg,Nb)O3 :PMN)などの鉛系ペロブスカイト組成を主成分とする固溶体がほとんどである。
ところが、これらの鉛系圧電材料は、主成分として低温でも揮発性の極めて高い酸化鉛(PbO)を60〜70質量%程度と多量に含んでいる。例えば、PZTまたはPMNでは、質量比で約2/3が酸化鉛である。よって、これらの圧電材料を製造する際には、磁器であれば焼成工程、単結晶品であれば溶融工程などの熱処理工程において、工業レベルで極めて多量の酸化鉛が大気中に揮発し拡散してしまう。また、製造段階で放出される酸化鉛については回収することも可能であるが、工業製品として市場に出された圧電製品に含有される酸化鉛については現状では回収が難しく、これらが広く環境中に放出されると、酸性雨による鉛の溶出などが心配される。従って、今後圧電磁器および単結晶の応用分野が広がり、使用量が増大すると、無鉛化の問題が極めて重要な課題となる。
鉛を全く含有しない圧電材料としては、例えばチタン酸バリウム(BaTiO3 )あるいはビスマス層状強誘電体などが知られている。しかし、チタン酸バリウムはキュリー点が120℃と低く、その温度以上では圧電性が消失してしまうので、はんだによる接合または車載用などの用途を考えると実用的でない。一方、ビスマス層状強誘電体は、通常400℃以上のキュリー点を有しており、熱的安定性に優れているが、結晶異方性が大きいので、ホットフォージングなどで自発分極を配向させる必要があり、生産性の点で問題がある。また、完全に鉛の含有をなくすと、大きな圧電性を得ることが難しい。
更に、最近では、新たな材料として、チタン酸ナトリウムビスマス系の材料について研究が進められている。例えば、特許文献1および特許文献2には、チタン酸ナトリウムビスマスとチタン酸バリウムとを含む材料が開示されており、特許文献3にはチタン酸ナトリウムビスマスとチタン酸カリウムビスマスとを含む材料が開示されている。
特公平4−60073号公報 特開平11−180769号公報 特開平11−171643号公報
しかしながら、これらチタン酸ナトリウムビスマス系の材料では、鉛系圧電材料に比べると未だ十分といえる圧電特性が得られておらず、圧電特性の向上が求められていた。
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、優れた圧電特性を示し、低公害化、対環境性および生態学的見地からも優れた圧電磁器を提供することにある。
本発明による第1の圧電磁器は、菱面晶系ペロブスカイト構造を有するチタン酸ナトリウムビスマスを含む第1の化合物と、正方晶系ペロブスカイト構造を有するチタン酸カリウムビスマスを含む第2の化合物と、ビスマス(Bi)と、ニッケル(Ni)と、ジルコニウム(Zr)およびスズ(Sn)からなる群のうちの少なくとも1種の四価金属元素と、酸素(O)とを含む第3の化合物とを含有するものである。
本発明による第2の圧電磁器は、菱面晶系ペロブスカイト構造を有するチタン酸ナトリウムビスマスを含む第1の化合物と、正方晶系ペロブスカイト構造を有するチタン酸カリウムビスマスを含む第2の化合物と、ビスマス(Bi)と、ニッケル(Ni)と、ジルコニウム(Zr)およびスズ(Sn)からなる群のうちの少なくとも1種の四価金属元素と、酸素(O)とを含む第3の化合物とを含む固溶体を含有するものである。
なお、本発明によるこれらの圧電磁器において、鉛(Pb)の含有量は、低公害化、対環境性および生態学的見地から1質量%以下であることが好ましい。また、第1の化合物と、第2の化合物と、第3の化合物との組成比は、第1の化合物のモル比をx、第2の化合物のモル比をy、第3の化合物のモル比をzとすると、x,yおよびzは、x+y+z=1,0.35≦x≦0.99,0<y≦0.55,0<z≦0.1をそれぞれ満たす範囲内の値であることが好ましい。
加えて、チタン酸ナトリウムビスマスのモル比をα1、チタン酸カリウムビスマスのモル比をβ1、チタン酸ナトリウムビスマスにおけるチタン(Ti)に対するナトリウム(Na)とビスマスとの合計のモル比による組成比をs1、チタン酸カリウムビスマスにおけるチタンに対するカリウム(K)とビスマスとの合計のモル比による組成比をt1とすると、これらにはα1+β1=1、0.9≦α1s1+β1t1≦1.0の関係が存在することが好ましい。
本発明の第1またはの圧電磁器によれば、第1の化合物および第2の化合物に加えて、ビスマスと、ニッケルと、ジルコニウムおよびスズからなる群のうちの少なくとも1種の四価金属元素と、酸素とを含む第3の化合物を含有するように、あるいはこれらを含む固溶体を含有するようにしたので、変位量などの圧電特性を向上させることができる。よって、鉛を含有しないまたは鉛の含有量が少ない圧電磁器についても、利用の可能性を高めることができる。すなわち、焼成時における鉛の揮発、および圧電部品として市場に流通し廃棄された後における環境中への鉛の放出を最小限に抑制することができる低公害化、対環境性および生態学的見地から極めて優れた圧電磁器の活用を図ることができる。
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の一実施の形態に係る圧電磁器は、菱面晶系(Rhombohedral)ペロブスカイト構造を有する第1の化合物と、正方晶系(Tetragonal)ペロブスカイト構造を有する第2の化合物とを含有しており、更に、ビスマスと、マグネシウム,鉄,コバルト,ニッケル,銅および亜鉛からなる群のうちの少なくとも1種の二価金属元素と、ジルコニウムおよびスズからなる群のうちの少なくとも1種の四価金属元素と、酸素とを含む第3の化合物を含有している。または、第1の化合物と、第2の化合物と、第3の化合物とを含む固溶体を含有している。すなわち、第1の化合物と、第2の化合物と、第3の化合物とを含んでおり、それらは固溶していてもよく、完全に固溶していなくてもよい。
これにより、この圧電磁器では、少なくとも一部において結晶学的な相境界(M.P.B.)が形成され、圧電特性が向上するようになっている。具体的には、1成分系あるいは2成分系に比べて誘電率、電気機械結合係数あるいは変位量などの圧電特性が向上するようになっている。
第1の化合物としては、例えば、チタン酸ナトリウムビスマスが挙げられる。チタン酸ナトリウムビスマスの組成は例えば化1により表され、ナトリウムおよびビスマスがペロブスカイト構造のAサイトに位置し、チタンがペロブスカイト構造のBサイトに位置している。
Figure 0004387134
化1において、s1はBサイトに位置する元素に対するAサイトに位置する元素のモル比による組成比(以下、A/B比という。)を表し、化学量論組成であれば1であるが、化学量論組成からずれていてもよい。但し、1以下であれば焼結性を高めることができると共により高い圧電特性を得ることができるので好ましく、0.9以上1.0以下の範囲内であれば更に高い圧電特性を得ることができるのでより好ましい。ナトリウムとビスマスとの組成、および酸素の組成は化学量論組成から求めたものであり、化学量論組成からずれていてもよい。
なお、第1の化合物は、1種類の化合物により構成されてもよいが、複数種の化合物により構成されてもよい。複数種の化合物よりなる場合、それらは固溶していてもよく、固溶していなくていもよい。また、複数種の化合物よりなる場合、各化合物のA/B比は化学量論組成の1でも1からずれていてもよいが、各化合物において1以下、更には0.9以上1.0以下の範囲内であるか、または、各化合物を合わせて1以下、更には0.9以上1.0以下の範囲内であることが好ましい。
第2の化合物としては、例えば、チタン酸カリウムビスマスが挙げられる。チタン酸カリウムビスマスの組成は例えば化2により表され、カリウムおよびビスマスがペロブスカイト構造のAサイトに位置し、チタンがペロブスカイト構造のBサイトに位置している。
Figure 0004387134
化2において、t1はA/B比を表し、化学量論組成であれば1であるが、化学量論組成からずれていてもよい。但し、1以下であれば焼結性を高めることができると共により高い圧電特性を得ることができるので好ましく、0.9以上1.0以下の範囲内であれば更に高い圧電特性を得ることができるのでより好ましい。カリウムとビスマスとの組成、および酸素の組成は化学量論組成から求めたものであり、化学量論組成からずれていてもよい。
なお、第2の化合物も、第1の化合物と同様に、1種類の化合物により構成されてもよいが、複数種の化合物により構成されてもよい。複数種の化合物よりなる場合、それらは固溶していてもよく、固溶していなくてもよい。また、複数種の化合物よりなる場合、各化合物のA/B比は化学量論組成の1でも1からずれていてもよいが、各化合物において1以下、更には0.9以上1.0以下の範囲内であるか、または、各化合物を合わせて1以下、更には0.9以上1.0以下の範囲内であることが好ましい。
第3の化合物は、例えば、第1の化合物あるいは第2の化合物、またはその両方に固溶する形で存在し、その組成は例えば化3により表される。
Figure 0004387134
化3において、M1はマグネシウム,鉄,コバルト,ニッケル,銅および亜鉛からなる群のうちの少なくとも1種の二価金属元素を表し、M2はジルコニウムおよびスズからなる群のうちの少なくとも1種の四価金属元素を表す。uは化学量論組成であれば1であるが、化学量論組成からずれていてもよい。二価金属元素M1と四価金属元素M2との組成、および酸素の組成は化学量論組成から求めたものであり、化学量論組成からずれていてもよい。
これら第1の化合物と、第2の化合物と、第3の化合物との組成比は、モル比で、化4に示した範囲内であることが好ましい。この範囲外では、菱面晶系ペロブスカイト構造を有する第1の化合物と正方晶系ペロブスカイト構造を有する第2の化合物との結晶学的な相境界(M.P.B.)から遠ざかり、圧電特性が低下してしまうからである。また、第3の化合物の含有量が多くなり過ぎても、圧電特性が低下してしまうからである。なお、ここで言う組成比というのは、固溶しているものも固溶していないものも含めた圧電磁器全体における値である。
Figure 0004387134
化4において、Xは第1の化合物、Yは第2の化合物、Zは第3の化合物、xは第1の化合物のモル比、yは第2の化合物のモル比、zは第3の化合物のモル比をそれぞれ表し、x,yおよびzは、x+y+z=1,0.35≦x≦0.99,0<y≦0.55,0<z≦0.1をそれぞれ満たす範囲内の値である。
化4において、より好ましいxの値は0.7≦x≦0.99であり、より好ましいyの値は0<y≦0.49、更には0<y≦0.29である。より好ましいzの値は0.01≦z≦0.1であり、更には0.01≦z≦0.05である。
また、第1の化合物および第2の化合物の組成比と、これら化合物のA/B比とは、数1に示した関係を有することが好ましい。化1および化2においても説明したように、この範囲内において高い焼結性および優れた圧電特性を得ることができるからである。
Figure 0004387134
数1において、αは第1の化合物のモル比、βは第2の化合物のモル比をそれぞれ表し、α+β=1である。また、sは第1の化合物におけるA/B比、tは第2の化合物におけるA/B比をそれぞれ表し、第1の化合物または第2の化合物が複数種の化合物からなる場合には、第1の化合物または第2の化合物においてそれらを合わせた値である。
特に、第1の化合物としてチタン酸ナトリウムビスマスを含み、第2の化合物としてチタン酸カリウムビスマスを含む場合には、これらの化合物の組成比とA/B比との間に、数2に示した関係が存在することが好ましい。
Figure 0004387134
数2において、α1はチタン酸ナトリウムビスマスのモル比、β1はチタン酸カリウムビスマスのモル比をそれぞれ表し、α1+β1=1である。また、s1はチタン酸ナトリウムビスマスのA/B比、すなわちチタン酸ナトリウムビスマスにおけるチタンに対するナトリウムとビスマスとの合計のモル比による組成比、t1はチタン酸カリウムビスマスのA/B比、すなわちチタン酸カリウムビスマスにおけるチタンに対するカリウムとビスマスとの合計のモル比による組成比をそれぞれ表す。)
なお、この圧電磁器は鉛を含んでいてもよいが、その含有量は1質量%以下であることが好ましく、鉛を全く含んでいなければより好ましい。焼成時における鉛の揮発、および圧電部品として市場に流通し廃棄された後における環境中への鉛の放出を最小限に抑制することができ、低公害化、対環境性および生態学的見地から好ましいからである。また、この圧電磁器の結晶粒の平均粒径は例えば0.5μm〜20μmである。
このような構成を有する圧電磁器は、例えば、次のようにして製造することができる。
まず、出発原料として、酸化ビスマス(Bi2 3 ),炭酸ナトリウム(Na2 CO3 ),炭酸カリウム(K2 CO3 ),酸化チタン(TiO2 ),塩基性炭酸マグネシウム(4MgCO3 ・Mg(OH)2 ・4H2 O),酸化鉄(Fe2 3 ),酸化コバルト(Co3 4 ),酸化ニッケル(NiO),酸化銅(CuO),酸化亜鉛(ZnO),酸化ジルコニウム(ZrO2 )および酸化スズ(SnO2 )などの粉末を必要に応じて用意し、100℃以上で十分に乾燥させたのち、目的とする組成に応じて秤量する。なお、出発原料には、酸化物に代えて炭酸塩あるいはシュウ酸塩のように焼成により酸化物となるものを用いてもよく、炭酸塩に代えて酸化物あるいは焼成により酸化物となる他のものを用いてもよい。
次いで、例えば、秤量した出発原料をボールミルなどにより有機溶媒中または水中で5時間〜20時間十分に混合したのち、十分乾燥し、プレス成形して、750℃〜900℃で1時間〜3時間程度仮焼する。続いて、例えば、この仮焼物をボールミルなどにより有機溶媒中または水中で5時間〜30時間粉砕したのち、再び乾燥し、バインダー溶液を加えて造粒する。造粒したのち、例えば、この造粒粉をプレス成形してブロック状とする。
ブロック状としたのち、例えば、この成形体を400℃〜800℃で2時間〜4時間程度熱処理してバインダーを揮発させ、950℃〜1300℃で2時間〜4時間程度本焼成する。本焼成の際の昇温速度および降温速度は、共に例えば50℃/時間〜300℃/時間程度とする。本焼成ののち、得られた焼結体を必要に応じて研磨し、電極を設ける。そののち、25℃〜150℃のシリコンオイル中で5MV/m〜10MV/mの電界を5分間〜1時間程度印加して分極処理を行う。これにより、上述した圧電磁器が得られる。
このように本実施の形態によれば、菱面晶系ペロブスカイト構造を有する第1の化合物および正方晶系ペロブスカイト構造を有する第2の化合物に加えて、ビスマスと、マグネシウム,鉄,コバルト,ニッケル,銅および亜鉛からなる群のうちの少なくとも1種の二価金属元素と、ジルコニウムおよびスズからなる群のうちの少なくとも1種の四価金属元素と、酸素とを含む第3の化合物を含有するように、またはこれらを含む固溶体を含有するようにしたので、誘電率、電気機械結合係数あるいは変位量などの圧電特性を向上させることができる。
よって、鉛を含有しないまたは鉛の含有量が少ない圧電磁器についても、利用の可能性を高めることができる。すなわち、焼成時における鉛の揮発、および圧電部品として市場に流通し廃棄された後における環境中への鉛の放出を最小限に抑制することができる低公害化、対環境性および生態学的見地から極めて優れた圧電磁器の活用を図ることができる。
特に、化4に示したように、第1の化合物と第2の化合物と第3の化合物との組成比x,yおよびzを、モル比でx+y+z=1,0.35≦x≦0.99,0<y≦0.55,0<z≦0.1をそれぞれ満たす範囲内の値とするようにすれば、より圧電特性を向上させることができる。また、xを0.7≦x≦0.99の範囲内、yを0<y≦0.49、更には0<y≦0.29の範囲内、zを0.01≦z≦0.1、更には0.01≦z≦0.05の範囲内とすれば、更に圧電特性を向上させることができる。
更に、第1の化合物および第2の化合物の組成比α,βと、これら化合物のA/B比s,tとが、α+β=1、0.9≦αs+βt≦1.0の関係を有するようにすれば、または、チタン酸ナトリウムビスマスおよびチタン酸カリウムビスマスの組成比α1,β1と、これらのA/B比s1,t1とが、α1+β1=1、0.9≦α1s1+β1t1≦1.0の関係を有するようにすれば、より圧電特性を向上させることができる。
更に、本発明の具体的な実施例について説明する。
参考例1−1〜1−24)
まず、第1の化合物であるチタン酸ナトリウムビスマス、第2の化合物であるチタン酸カリウムビスマス、および第3の化合物である亜鉛・ジルコニウム酸ビスマスの出発原料として、酸化ビスマス粉末、炭酸ナトリウム粉末、炭酸カリウム粉末、酸化チタン粉末、酸化亜鉛粉末および酸化ジルコニウム粉末を用意し、100℃以上で十分に乾燥させたのち、それらを秤量した。出発原料の配合比は、焼成後に化5および表1に示したモル比の組成となるように参考例1−1〜1−24で変化させた。表1において、NBTは(Na0.5 Bi0.5 0.99TiO3 を表し、KBTは(K0.5 Bi0.5 0.99TiO3 を表し、BZZはBi(Zn0.5 Zr0.5 )O3 を表している。
Figure 0004387134
Figure 0004387134
次いで、秤量した出発原料をボールミルにより水中で約16時間混合したのち、十分乾燥し、プレス成形して、850℃で約2時間仮焼した。続いて、この仮焼物をボールミルにより水中で約16時間粉砕したのち、再び乾燥し、バインダーとしてポリビニールアルコール(PVA)水溶液を加えて造粒した。そののち、この造粒粉を直径17mm、厚さ1.5mmの円板状ペレットに成形し、700℃で2時間の熱処理を行ってバインダーを揮発させ、1100℃〜1300℃で2〜4時間の本焼成を行った。焼成条件は、昇温、降温共に200℃/時間とした。次いで、得られた焼成体を厚さ約0.4mm〜0.6mmの平行平板状に研磨したのち、銀ペーストを600℃〜700℃で焼き付け、電極とした。そののち、50℃〜150℃のシリコンオイル中で10MV/mの電界を15分間印加して分極処理を行った。これにより、参考例1−1〜1−24の圧電磁器を得た。
得られた参考例1−1〜1−24の圧電磁器について、比誘電率εd、広がり方向の電気機械結合係数krおよび3MV/mの電圧パルスを印加した際の変位量を測定した。その際、比誘電率εdの測定はLCRメータ(ヒューレットパカード社製HP4284A)により行い、電気機械結合係数krの測定はインピーダンスアナライザー(ヒューレットパカード社製HP4194A)とデスクトップコンピュータを用いた自動測定器により共振反共振法で行った。変位量の測定は、渦電流式の非接触変位計、アンプ、発振器、マルチメータなどをデスクトップコンピュータで制御し、シリコンオイル中で電圧を印加して行った。それらの結果を表1および図1に示す。なお、図1は第1の化合物であるチタン酸ナトリウムビスマスの組成比xと変位量との関係を、第3の化合物である亜鉛・ジルコニウム酸ビスマスの組成比z別に表したものである。
また、本参考例に対する比較例1−1〜1−15として、焼成後に化6および表1に示したモル比による組成となるように出発原料の配合比を変化させたことを除き、他は本参考例と同一の条件で圧電磁器を作製した。比較例1−1〜1−15についても、本参考例と同様にして、比誘電率εd、広がり方向の電気機械結合係数krおよび3MV/mの電圧パルスを印加した際の変位量を測定した。それらの結果も表1および図1に示す。
なお、比較例1−1は第1の化合物のみ、比較例1−2〜1−6は第1の化合物および第2の化合物のみ、比較例1−7は第2の化合物のみ、比較例1−8,1−10,1−12,1−14は第1の化合物および第3の化合物のみ、比較例1−9,1−11,1−13,1−15は第2の化合物および第3の化合物のみを含むように構成した場合である。このうち比較例1−1,1−7は参考例1−1〜1−24全体に対する比較例、比較例1−2は参考例1−2,1−8,1−14に対する比較例、比較例1−3は参考例1−3,1−9,1−15,1−20に対する比較例、比較例1−4は参考例1−4,1−10,1−16,1−21に対する比較例、比較例1−5は参考例1−5,1−11,1−17,1−22に対する比較例、比較例1−6は参考例1−6,1−7,1−12,1−13,1−18,1−19,1−23,1−24に対する比較例、比較例1−8,1−9は参考例1−1〜1−7に対する比較例、比較例1−10,1−11は参考例1−8〜1−13に対する比較例、比較例1−12,1−13は参考例1−14〜1−19に対する比較例、比較例1−14,1−15は参考例1−20〜1−24に対する比較例に該当している。
表1および図1に示したように、本参考例によれば、比較例に比べて比誘電率εd、電気機械結合係数krあるいは変位量について大きな値が得られた。すなわち、第1の化合物であるチタン酸ナトリウムビスマスと、第2の化合物であるチタン酸カリウムビスマスと、第3の化合物である亜鉛・ジルコニウム酸ビスマスとを含むように、あるいはそれらの固溶体を含むようにすれば、変位量などの圧電特性を向上させることができることが分かった。
また、参考例1−1〜1−24の結果から、第1の化合物の組成比x、第2の化合物の組成比y、または第3の化合物の組成比zを大きくすると、いずれについても変位量は大きくなり極大値を示したのち小さくなる傾向が見られた。すなわち、第1の化合物と、第2の化合物と、第3の化合物との組成比x,yおよびzを、モル比で、x+y+z=1,0.35≦x≦0.99,0<y≦0.55,0<z≦0.1をそれぞれ満たす範囲内とすれば、圧電特性をより向上させることができることが分かった。
特に、第1の化合物の組成比xを0.7≦x≦0.99の範囲内、または第2の化合物の組成比yを0<y≦0.49、更には0<y≦0.29の範囲内、または第3の化合物の組成比zを0.01≦z≦0.1、更には0.01≦z≦0.05の範囲内とすれば、更に圧電特性を向上させることができることが分かった。
参考例2−1〜2−3,実施例2−4,参考例2−5〜2−8,実施例2−9,参考例2−10)
参考例2−1〜2−3,実施例2−4,参考例2−5〜2−8,実施例2−9,参考例2−10では、焼成後に化6および表2に示したモル比の組成となるように、第3の化合物における二価金属元素M1をマグネシウム,鉄,コバルト,ニッケルあるいは銅に変え、その原料として塩基性炭酸マグネシウム粉末,酸化鉄粉末,酸化コバルト粉末,酸化ニッケル粉末あるいは酸化銅粉末を用いたことを除き、他は参考例1−2,1−7と同様にして圧電磁器を作製した。表2において、NBTは(Na0.5 Bi0.5 0.99TiOを表し、KBTは(K0.5 Bi0.5 0.99TiO3 を表し、BM1ZはBi(M10.5 Zr0.5 )O3 を表している。参考例2−1〜2−3,実施例2−4,参考例2−5〜2−8,実施例2−9,参考例2−10についても、参考例1−3,1−9と同様にして、比誘電率εd、広がり方向の電気機械結合係数krおよび3MV/mの電圧パルスを印加した際の変位量を測定した。それらの結果を参考例1−3,1−9および比較例1−3の結果と共に表2に示す。
Figure 0004387134
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表2に示したように、参考例2−1〜2−3,実施例2−4,参考例2−5〜2−8,実施例2−9,参考例2−10によれば、参考例1−3,1−9と同様に、比較例1−3に比べて電気機械結合係数krおよび変位量について大きな値が得られた。すなわち、第3の化合物として、マグネシウム・ジルコニウム酸ビスマス,鉄・ジルコニウム酸ビスマス,コバルト・ジルコニウム酸ビスマス,ニッケル・ジルコニウム酸ビスマスあるいは銅・ジルコニウム酸ビスマスを含むようにしても、変位量などの圧電特性を向上させることができることが分かった。
参考例3−1,3−2)
参考例3−1,3−2では、焼成後に化7および表3に示したモル比の組成となるように、第3の化合物における四価金属元素M2をスズに変え、その原料として酸化スズ粉末を用いたことを除き、他は参考例1−3,1−9と同様にして圧電磁器を作製した。表3において、NBTは(Na0.5 Bi0.5 0.99TiO3 を表し、KBTは(K0.5 Bi0.5 0.99TiO3 を表し、BZM2はBi(Zn0.5 M20.5 )O3 を表している。参考例3−1〜3−4についても、参考例1−3,1−9と同様にして、比誘電率εd、広がり方向の電気機械結合係数krおよび3MV/mの電圧パルスを印加した際の変位量を測定した。それらの結果を参考例1−3,1−9および比較例1−3の結果と共に表3に示す。
Figure 0004387134
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表3に示したように、参考例3−1,3−2によれば、参考例1−3,1−9と同様に、比較例1−3に比べて電気機械結合係数krおよび変位量について大きな値が得られた。すなわち、第3の化合物として、亜鉛・スズ酸ビスマスを含むようにしても、変位量などの圧電特性を向上させることができることが分かった。
参考例4−1〜4−5)
参考例4−1〜4−5では、焼成後に化8および表4に示したモル比の組成となるように、第1の化合物であるチタン酸ナトリウムビスマスのA/B比s1、および第2の化合物であるチタン酸カリウムビスマスのA/B比t1を変えたことを除き、他は参考例1−3と同様にして圧電磁器を作製した。表4において、NBTは(Na0.5 Bi0.5 s1TiO3 を表し、KBTは(K0.5 Bi0.5 t1TiO3 を表し、BZZはBi(Zn0.5 Zr0.5 )O3 を表している。s1とt1との値は、各参考例において同一である。また、本参考例では、第1の化合物および第2の化合物をそれぞれ1種類の化合物により構成するようにしたので、チタン酸ナトリウムビスマスのA/B比s1はそのまま第1の化合物のA/B比sを意味し、チタン酸カリウムビスマスのA/B比t1はそのまま第2の化合物のA/B比tを意味している。よって、数2に示した第1の化合物および第2の化合物の組成比と、これら化合物のA/B比との関係は、s1およびt1と同一となる。
Figure 0004387134
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参考例4−1〜4−5についても、参考例1−3同様にして、比誘電率εd、広がり方向の電気機械結合係数krおよび3MV/mの電圧パルスを印加した際の変位量を測定した。それらの結果を参考例1−3の結果と共に表4に示す。
表4に示したように、A/B比s1,t1の値が小さくなるに従って変位量は大きくなり、極大値を示したのち小さくなる傾向が見られた。特に、A/B比s1,t1の値を1.00以下0.90以上の範囲内とすれば、良好な変位量を得られることが分かった。これはA/B比s1,t1の値が1.0を超えると焼結性が悪くなり、密度が向上せず、分極時に高い電圧が印加できなかったためと考えられる。また、A/B比s1,t1の値が0.9よりも小さい場合には、Bサイト成分であるチタンが多量に余り、異相が生じてしまい、圧電特性が低下してしまったためと考えられる。すなわち、第1の化合物および第2の化合物の組成比α,βと、これらの化合物のA/B比s,tとが、α+β=1、0.9≦αs+βt≦1.0の関係を有するようにすれば、変位量などの圧電特性をより向上させることができることが分かった。
なお、上記実施例では、第1の化合物、第2の化合物および第3の化合物の組成についていくつかの例を具体的に挙げて説明したが、上記実施の形態において説明したように、他の組成を有するように構成しても、同様の結果を得ることができる。
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態および実施例に限定されるものではなく、種々変形可能である。例えば、上記実施の形態および実施例では、第1の化合物、第2の化合物および第3の化合物を含む場合についてのみ説明したが、これらに加えて他の化合物を含んでいてもよい。
また、本発明は、第1の化合物、第2の化合物および第3の化合物を構成する元素以外の元素を、不純物または他の化合物の構成元素として含んでいてもよい。そのような元素としては、例えば、バリウム(Ba),ストロンチウム(Sr),カルシウム(Ca),リチウム(Li),チタン,ハフニウム(Hf),タンタル(Ta),ケイ素(Si),ホウ素(B),アルミニウム(Al)および希土類元素が挙げられる。特にハフニウムはジルコニウムと分離することが難しく不純物として含まれることが多々ある。
更に、上記実施の形態では、チタン酸ナトリウムビスマスおよびチタン酸カリウムビスマスの結晶構造についても説明したが、上述した組成を有する酸化物を含んでいれば、またはこれらを含む固溶体を含有していれば、これらの結晶構造について論じるまでもなく、本発明に含まれる。
アクチュエータ、センサーまたはレゾネータなどの分野において広く利用することができる。
第1の化合物の組成比xと変位量との関係を、第3の化合物の組成比z別に表す特性図である。

Claims (5)

  1. 菱面晶系ペロブスカイト構造を有するチタン酸ナトリウムビスマスを含む第1の化合物と、
    正方晶系ペロブスカイト構造を有するチタン酸カリウムビスマスを含む第2の化合物と、
    ビスマス(Bi)と、ニッケル(Ni)と、ジルコニウム(Zr)およびスズ(Sn)からなる群のうちの少なくとも1種の四価金属元素と、酸素(O)とを含む第3の化合物と
    を含有することを特徴とする圧電磁器。
  2. 菱面晶系ペロブスカイト構造を有するチタン酸ナトリウムビスマスを含む第1の化合物と、
    正方晶系ペロブスカイト構造を有するチタン酸カリウムビスマスを含む第2の化合物と、
    ビスマス(Bi)と、ニッケル(Ni)と、ジルコニウム(Zr)およびスズ(Sn)からなる群のうちの少なくとも1種の四価金属元素と、酸素(O)とを含む第3の化合物と
    を含む固溶体を含有する
    ことを特徴とする圧電磁器。
  3. 鉛(Pb)の含有量が1質量%以下である
    ことを特徴とする請求項1または請求項に記載の圧電磁器。
  4. 前記第1の化合物と、前記第2の化合物と、前記第3の化合物との組成比は、モル比で、化1に示した範囲内である
    ことを特徴とする請求項1ないし請求項のいずれか1に記載の圧電磁器。
    Figure 0004387134
    (化1において、Xは第1の化合物、Yは第2の化合物、Zは第3の化合物、xは第1の化合物のモル比、yは第2の化合物のモル比、zは第3の化合物のモル比をそれぞれ表し、x,yおよびzは、x+y+z=1,0.35≦x≦0.99,0<y≦0.55,0<z≦0.1をそれぞれ満たす範囲内の値である。)
  5. 前記チタン酸ナトリウムビスマスおよび前記チタン酸カリウムビスマスの組成比と、前記チタン酸ナトリウムビスマスにおけるチタン(Ti)に対するナトリウム(Na)およびビスマスの組成比、並びに前記チタン酸カリウムビスマスにおけるチタンに対するカリウム(K)およびビスマスの組成比とは、数に示した関係を有する
    ことを特徴とする請求項ないし請求項のいずれか1に記載の圧電磁器。
    Figure 0004387134
    (数において、α1はチタン酸ナトリウムビスマスのモル比、β1はチタン酸カリウムビスマスのモル比をそれぞれ表し、α1+β1=1である。また、s1はチタン酸ナトリウムビスマスにおけるチタンに対するナトリウムとビスマスとの合計のモル比による組成比、t1はチタン酸カリウムビスマスにおけるチタンに対するカリウムとビスマスとの合計のモル比による組成比をそれぞれ表す。)
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