JP4788150B2 - 製紙工程における付着物の分析方法 - Google Patents

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Description

本発明は、製紙工程において製造される紙製品に付着する付着物の分析方法に関する。
製紙工程における品質管理上の最も大きな問題のひとつは、異物が抄紙時に紙に付着することにより、製品中に欠点(ホール、斑点、または目玉とも呼ばれる)と呼ばれる不良部分が生じることである。欠点は製品の品質を低下させ、印刷時における種々のトラブルの原因となる。また欠点は抄紙機の運転トラブルや断紙を引き起こす原因となり、生産性を低下させる。
ところで欠点の原因となる物質は、スライム(微生物および微生物が生産する粘質物)、ピッチ、スケール、サイズ、その他夾雑物およびこれらの複合体であることが知られている。そこで製紙工程においては、欠点の原因となるこれら物質の発生を抑制等する処理が行われている。特に、製紙工程の中でも抄紙工程は微生物が生育しやすい環境となっていることから、従来、スライムの発生を防止するため、スライムコントロール処理が行なわれている。
スライムコントロール処理には種々の殺微生物剤が用いられるが、殺微生物剤の効果は微生物の種類によって異なり、また、殺微生物剤の添加場所によっては微生物の発生場所に達成するまでに濃度が低下して所定の効果が得られない場合もある。このため、スライムコントロール処理を有効に行なうためには、スライムの原因となる微生物の種類や発生場所を特定することが求められる。
例えば特許文献1には紙製品の欠点から微生物のDNAを抽出し、これを増幅して電気泳動的に観察することにより、欠点の原因物質に含まれる微生物相や優占する微生物種を特定する方法が提案されている。抄紙された紙原体は高温で乾燥されるため、紙製品中の欠点に含まれる微生物は死滅している。しかし特許文献1に開示された方法によれば、微生物が死滅している場合や培養が困難な場合でも、欠点の原因となる異物に含まれる微生物の構成、すなわち微生物相や優占種を特定できる。
特開2003−164281号公報
ところで、上述した通り欠点の原因物質はスライムに限らないため、欠点の発生を防止するためには、欠点の原因物質が微生物を主体とするものか否かを判断する必要がある。ここで、欠点の原因となる付着物を製紙工程の配管やスクリーン等から採取する場合は、採取した付着物を秤量および希釈後、適切な培地で培養することで付着物に含まれる菌数を求め、その計測値から付着物が微生物を主体とするものか否かを判断できる。
しかし、紙製品は高温で乾固されているため、紙製品に発生した欠点中の微生物は死滅しており微生物を培養して菌数を計測することはできない。また、微生物タンパク質由来のアミノ基を認識して欠点の原因物質が微生物主体であるか否かを判断するニンヒドリン反応試験では、ポリアクリルアミドのようなアミノ基を含有するポリマーにも反応するため、こうしたポリマーが紙製品に含まれている場合は、紙製品の欠点を試料として欠点の原因物質が微生物であるか否かを判断することは困難であった。特に、欠点でない部分(正常部)にも多くの微生物が含まれる板紙の場合は、欠点部と正常部とが区別され難く、紙製品の欠点から原因物質を特定することは困難であった。
本発明は上記課題に鑑みてなされ、試料に含まれる微生物の生死に係らず、欠点の原因物質や発生場所を特定することができる付着物の分析方法およびこの分析方法を用いた紙製品の製造方法を提供することを目的とする。
本発明は、欠点に含まれる微生物のDNAを抽出し、これを遺伝子増幅方法で定量的に増幅させて欠点に含まれる微生物量を求めることにより、欠点の原因物質や発生場所を特定する。具体的には、本発明は以下を提供する。
(1) 製紙工程で製造される紙製品に付着する付着物の分析方法であって、前記付着物からこの付着物に含まれる微生物のDNAを抽出し、抽出された前記DNAの少なくとも一部を遺伝子増幅方法で定量的に増幅して前記付着物中の微生物量を求める測定工程を含む付着物の分析方法。
(2) 前記遺伝子増幅方法は、リアルタイムPCR法である(1)に記載の付着物の分析方法。
(3) 前記抽出されたDNAの少なくとも一部は、リボソームRNAをコードする領域を含むDNA断片である(1)または(2)記載の付着物の分析方法。
(4) 製紙工程で製造される紙製品に付着する付着物からこの付着物に含まれる微生物のDNAを抽出し、抽出された前記DNAの少なくとも一部を遺伝子増幅方法で定量的に増幅して前記付着物中の微生物量を求める測定工程と、前記測定工程で測定された微生物量に基づいて前記製紙工程におけるスライムコントロール処理を調整する調整工程と、を含む紙製品の製造方法。
本明細書において「紙製品」とは製紙工程において抄紙および乾燥されて製造される製品を意味し、紙製品の種類や製紙方法は特に限定されない。紙製品の具体例としては、例えば、「紙」(印刷用紙、コピー用紙、ノート、ティッシュペーパー等)および「板紙」(ライナー、ボール紙等)が挙げられる。
紙製品を製造する製紙工程には、パルプに填料等の薬品を添加して製紙原料をつくる調成工程、製紙原料を抄紙機で抄き上げる抄紙工程、および抄紙された紙原体を乾燥させる乾燥工程を含み、必要に応じて抄紙された紙原体の表面を塗料等で覆って印刷適性をよくする塗工工程等が含まれる。本発明は抄紙後、乾燥されて付着物中の微生物が死滅した紙製品を分析対象とすることができるが、抄紙後、塗工または乾燥工程で処理される前の紙原体や、抄紙工程等の抄紙機や製紙工程の配管といった設備から採取された試料(例えばスライム)を分析してもよい。すなわち本明細書において「製品に付着する付着物」には、「製品に付着した付着物」と「製品に付着することとなる付着物」が含まれる。
「付着物」とは紙製品中の「欠点」と呼ばれる不良部分の原因となる物質を意味する。付着物は、スライム、ピッチ、スケール、サイズ、並びにその他夾雑物の1または2種以上から構成される。スライムは微生物体および微生物の生産物を主体として構成され、こうしたスライムを構成する「微生物」には、古細菌・細菌(放線菌を含む)、酵母、糸状菌(真菌、カビとも呼ばれる)、および藻類等が含まれる。
DNAを抽出する工程におけるDNAの抽出方法は特に限定されず、例えば紙製品から付着物(欠点)または付着物を含む部分を切り取り、切り取った紙製品断片を裁断して緩衝液等の抽出液中に浸漬した後、物理的処理および化学的処理を単独または組み合わせる方法が挙げられる。紙片の破砕を効率的に行なうためには、紙片を浸漬する液体にセルラーゼ等の酵素を添加してもよい。この方法によれば、紙製品断片に含まれる微生物が死滅していた場合でも微生物のDNAを抽出してDNAを増幅できる。
上記物理的処理により微生物細胞を破砕する方法としては、超音波、凍結融解、回転刃による機械的破砕、圧力、およびガラスや鉱物性ビーズを用いた衝撃による破砕等が挙げられる。化学的処理としては、酵素や界面活性剤を用いた処理が挙げられ、酵素としては、リゾチームのような溶菌酵素、セルラーゼやアルギン酸リアーゼ等の多糖類分解酵素、およびプロテアーゼやペプチダーゼ等のタンパク質分解酵素などが挙げられる。また、界面活性剤としてはラウリル硫酸ナトリウム等の陰イオン性界面活性剤、トリトン系界面活性剤(ポリオキシエチレン−p−t−オクチルフェニルエーテル)等の非イオン性界面活性剤等が挙げられる。
前記物理的または化学的処理により微生物細胞から分離されたDNAは他の物質とともに抽出液に含まれるため、DNAを精製することが好ましい。DNAの精製法としては、エタノールやイソプロパノール等の有機溶媒を用いた沈殿回収、およびガラスビーズや樹脂にDNAを吸着させて回収する方法等が挙げられる。
上記処理により抽出されたDNAは少なくとも一部分を増幅すればよく、特に、解析対象とするスライムの原因となる微生物の全てが保有している領域を増幅する。すなわち、ほとんどの微生物のDNAに保存されている特定領域を増幅対象とする。特に、その特定領域の一部の塩基配列が多くの微生物間で異なり、塩基配列から微生物種を特定するデータベースが構築されている特定領域を増幅対象とすれば、微生物の種類ごとに微生物量が測定できるため、好ましい。このような特定領域としては、16SrDNA、18SrDNA、および23SrDNA等のリボソームRNA遺伝子(以下、rDNAと呼ぶ)、これらrDNAのスペーサ配列、並びにgyr等が挙げられる。
DNAを遺伝子増幅方法で定量的に増幅する方法としては、リアルタイムPCR法、競合的PCR法、およびMPN−PCR法等が挙げられる。標準的なPCR法では、DNAの増幅反応初期では対数的にDNAの増幅産物量が増加するが、反応後期ではDNAの増幅速度が頭打ちとなるため、最終的な増幅産物量をエチジウムブロマイド染色法で比較しても、測定対象の試料に当初含まれていた遺伝子量を求めることができない。
一方、上記の定量的な遺伝子増幅方法によれば試料に当初含まれていた遺伝子量を求めることができる。特に、リアルタイムPCR法では、遺伝子増幅反応が対数的に進行している反応初期段階で僅かな増幅産物量をリアルタイムで測定できるので、あらかじめ準備された既知コピー数の標準遺伝子の検量線を基にして、試料中の未知の遺伝子を定量できる。リアルタイムPCR法としては、タックマンPCR(またはタックマンプローブ法とも呼ばれる)法、サイバーグリーン法、ハイブリプローブ法、サイクリングプローブ法、およびインターカレータ法等が挙げられる。
DNAの遺伝子増幅に用いるプライマーとしては、ユニバーサルプライマーまたは特異的プライマー等を特に限定なく使用できるが、上記の特定領域に含まれる塩基配列であって、解析対象とするほとんどの微生物に共通する配列をデザインしたものが好ましい。例えば16SrDNAを特定領域として増幅する場合であれば、ユニバーサルプライマーを用いることができ、これにより、多様な微生物を含む試料について16SrDNAを混合物として増幅し、それぞれの微生物量を求めることができる。
微生物量の測定に際しては、紙製品等から採取した試料を秤量等して分析に供した試料の量を求めるとともに、試料から抽出され増幅されたDNAの特定領域のコピー数を定量することにより、単位重量(または単位面積)あたりの試料中のコピー数を求める。リアルタイムPCR法等の定量的な遺伝子増幅方法では、PCR反応に際して既知コピー数の標準遺伝子を試料中の未知の遺伝子とともに増幅させるため、標準遺伝子の検量線を基にして、単位重量(または面積)あたりの試料について求められた未知遺伝子のコピー数から微生物量が求められる。
ここで、欠点部と正常部の2種類の試料についてそれぞれ上記測定を行い、それぞれの試料中のDNA特定領域のコピー数を比較すれば、欠点部の試料が正常部の試料に比して微生物を多く含むか否かが判明し、欠点の原因物質が微生物を主体とするものか否かを判断できる。また、1つの試料について単位重量(または面積)あたりに含まれる複数種類のDNAについて、それぞれのコピー数を比較することにより、その試料に含まれる微生物の構成(すなわち微生物相を構成する微生物の種類やその優占種)を特定することもできる。さらに、紙製品の欠点部と製紙工程から採取したスライム等を試料とし、それぞれの試料について上記測定を行って微生物構成を比較することで、欠点の原因となる微生物の発生場所を特定することもできる。
上記分析方法は、製紙工程に組み込むことができ、(4)記載の発明では、本発明による分析により得られた情報を基に抄紙工程や白水等の循環系の配管等に添加するスライムコントロール剤の種類や添加量、および添加場所等を適宜変化させる。このように、付着物の原因物質やその発生場所等の分析に基づき、スライムコントロール処理を調整することにより、紙製品に対する欠点の発生を防止でき、また、殺微生物剤の添加量や排水処理の負荷を減らし、紙製品の製造コストを低下させることができる。
本発明によれば、分析対象の試料から微生物のDNAを抽出して好ましくは特定の領域を含む一部分を定量的に増幅し、増幅されたDNAのコピー数に基づいて試料に含まれていた微生物を定量できる。特に、本発明では死滅した微生物を含む試料についても微生物量を求めることができるため、紙製品の欠点の原因物質が微生物を主体とするものであるか否かを従来技術に比して簡単かつ正確に判断できる。さらに、本発明によれば試料に含まれる微生物の構成を把握することもできる。このため本発明によれば、欠点の原因となる物質の種類やその発生場所を把握し、欠点の発生を防止するための薬剤添加等の処理をより適性かつ効果的に行なうことができる。
以下、本発明の試験例および実施例について説明する。
[試験例]
本発明方法による微生物量の測定精度を検討するため、既知量の微生物を含む液体を上質紙に滴下して人工的に欠点を作った紙製品を試料として試験を行なった。以下、人工欠点の作成手順、欠点中の微生物量の測定方法、および試験結果について述べる。
微生物として大腸菌HB101株を用い、これをLB液体培地で一昼夜培養した後、この培養液を遠心分離して集菌し、10mLのリン酸緩衝液(pH7.5で塩化ナトリウムを0.86%含む)に懸濁した。このリン酸緩衝液を遠心分離してさらに集菌し、ブロムフェノールブルーを60μg/mLの濃度で含む前記リン酸緩衝液と同じ組成のリン酸緩衝液に懸濁して大腸菌を10個/mlの濃度で含む懸濁液を得た。なお、LB液体培地は、バクトトリプトン、バクトイーストエキストラクト、および塩化ナトリウムをそれぞれ1%、0.5%、0.5%の濃度で含み、pH7.0とし、ブロムフェノールブルーを含むリン酸緩衝液中の大腸菌数については、LB寒天培地を用いた菌数測定を行い正確な菌数を求めた。
上記手順により得られた、既知量の大腸菌を含む懸濁液を、前記リン酸緩衝液と同じ組成のリン酸緩衝液で10倍ずつ希釈した3種類の希釈液をそれぞれ10μL、上質紙に滴下した。この上質紙を、80℃の乾燥機内に30分間放置して乾燥させるとともに大腸菌を死滅させ、人工欠点がある製品(上質紙)を得た。
次に、上記手順で得られた上質紙を試料としてDNAの抽出を行なった。まず前記上質紙の欠点を含む部分を10mg(乾燥重量)切り取り、さらに1mm四方の大きさの紙片に裁断して容量2mLのプラスチック製微量遠心管に入れた。この遠心管に、トリコデルマ由来のセルラーゼ(和光純薬工業株式会社製)の水溶液(濃度1%)100μLを添加し、40℃で1時間放置して紙片をセルラーゼ水溶液に充分に浸漬させる化学的処理を行なった。
さらに1mLのDNA抽出液(100mM Tris−Cl、100mM EDTA−Na、100mM NaHPO、1.5M NaCl(pH8.0))を加え、直径0.1mmのジルコニアシリカビーズ(BioSpec Products, Inc.製)2gを入れ、細胞破砕機(BioSpec Products, Inc.製)を用いビーズビーダー法で2分間、ホモジナイズした。次にラウリル硫酸ナトリウム(SDS)の10%水溶液250μLをさらに加えて、上記細胞破砕機で1分間、ホモジナイズする物理的処理を行った後、60℃で30分間放置した。
次に上記手順で得られたDNA抽出液中に抽出されたDNAを精製した。まず、遠心分離機を用いて前記DNA抽出液を25℃、12000rpmで10分間の遠心分離して、上清液600μLをプラスチック製の新しい遠心管に移し、上清液を移した遠心管に600μLのクロロホルムを加えた。これを充分に混合した後、25℃、12000rpmで10分間遠心分離し、上清液550μLをプラスチック製の新しい遠心管に移して上清液を移した遠心管に330μLのイソプロパノールを加えて緩やかに混合し、室温で30分間静置した。その後、25℃、12000rpmで10分間、遠心分離して上澄みを廃棄し、70%のエタノールで遠心管内をすすいでから沈殿物を減圧乾燥した。乾燥させた沈殿物は、50μLのトリス/EDTA(「TE」)水溶液(10mM Tris−Cl、1mM EDTA、pH8.0)に懸濁させて精製されたDNAを懸濁させたDNA懸濁液を得た。
上質紙の正常部についても上記と同様にしてDNAを抽出し、DNA懸濁液を得た。
次いで、DNAを遺伝子増幅方法で定量的に増幅して、欠点部および正常部を含む試料中の微生物量をそれぞれ測定した。具体的には、上記方法により欠点部および正常部を含む試料から抽出したDNAの懸濁液を鋳型として、サイバーグリーン法によるリアルタイムPCR法で懸濁液中のDNAの16SrDNAを定量的に増幅した。リアルタイムPCR反応装置としては、ライトサイクラー(ロシュ・ダイアグノスティック株式会社製)を使用し、プライマーとしては配列表の配列番号1に示す塩基配列を持つ16SrDNA特異的プライマー(1386f:5’-CGGTGAATACGTTCYCGG-3’)および配列番号2に示す塩基配列の16SrDNA特異的プライマー(1492R2:5’-GGYTACCTTGTTACGACTT-3’)を用いた。
また、PCR反応液としては下記組成のものを用い、合計30μLとした。
〈PCR反応液〉
10倍濃度Ex Taq緩衝液 (タカラバイオ株式会社製) 3.0μL
d NTP溶液 2.4μL
DMSO(ジメチルスルホキシド) 1.5μL
10pmol 1386fプライマー水溶液 1.5μL
10pmol 1492R2プライマー水溶液 1.5μL
10mg/mL BSA(牛血清アルブミン) 0.75μL
1/5000濃度のSYBR GreenI (タカラバイオ株式会社製)0.9μL
Ex Taq DNAポリメラーゼ (タカラバイオ株式会社製) 0.15μL
水 17.1μL
上記方法で得られたDNA懸濁液 1.0μL
リアルタイムPCR法での検量線作成に用いる標準遺伝子としては、大腸菌K12株の染色体DNAを鋳型にして、配列表の配列番号3に示す塩基配列の特異的プライマー(27f:5’-AGAGTTTGATCMTGGCTCAG-3’)および配列番号4に示す塩基配列の特異的プライマー(1492R:5’-ACGGYTACCTTGTTACGACTT-3’)を用いて16SrDNAをPCR法で増幅した遺伝子を、pUC系プラスミド(pUC19)のSmaIサイトに挿入したプラスミドを用い、1μLあたりのコピー数が10〜10となるように調整してPCR反応の鋳型とした。PCR反応は、30μLの反応液について行い、温度条件は95℃で10秒間、55℃で5秒間、72℃で10秒間の一連の反応を45サイクル繰り返した。温度の変化速度は20℃/秒とした。
なお、上記のDNAの抽出操作は、再現性を確認するために微生物濃度の異なる3種類の欠点部および正常部のそれぞれについて2つのDNA懸濁液を調製し、各DNA懸濁液について微生物量を測定した。結果を表1に示す。表中、大腸菌数は単位面積(1mm)あたりの試料中のコロニー形成菌数(個)、測定値(16SrDNAのコピー数)も単位面積あたりの数で示し、各欠点部(または正常部)試料から得られた2連のDNA懸濁液はrun1、run2として表示する。
Figure 0004788150
表1に示すとおり、欠点中の16SrDNAのコピー数と滴下した大腸菌数との間には相関関係があることが示され、本発明によれば一定の抽出率で上質紙の欠点から微生物のDNAを抽出して微生物量を定量できることが示された。
[実施例]
次に、実施例として国内のA製紙工場で製造された複数種類の紙製品の欠点について試験例と同じ方法で分析した。すなわち、紙製品は試験例と同様に欠点部を10mg(乾燥重量)切り取り、さらに1mm四方の大きさの紙片に裁断し、試験例に示した方法でDNAを抽出してDNA懸濁液を得た。そして、このDNA懸濁液を鋳型として、試験例に示したリアルタイムPCR法で懸濁液中のDNAの16SrDNAを増幅して単位面積あたりのコピー数を求めた。
実施例に供した複数種類の紙製品は、中芯原紙、上質紙、2種類のライナー(段ボールの外側に用いられる板紙)AとB、および塗工紙であり、中芯原紙、上質紙、およびライナーBの欠点は微生物主体である。一方、ライナーAは微生物主体ではなく、背糊(エチレン・酢酸ビニル共重合体樹脂)由来であり、塗工紙の欠点も微生物主体ではなく、ポリアクリルアミドを含有するポリマー由来であることが判明しているものを用いた。
上記各試料については、本発明方法での分析の他、参考のためニンヒドリン反応試験を行なった。また、実施例で45サイクルのPCR反応を行なった後のPCR反応産物を電気泳動的に観察した。結果を表2に示す。なお、表2において16SrDNAのコピー数は単位面積(1mm)あたりの数で、ニンヒドリン反応陽性は「+」、陰性は「−」で示す。また、PCR反応産物の電気泳動的観察結果は電気泳動バンドの明瞭さの度合いを「+」記号で示し「+」記号が多いほど、明瞭であることを意味する。
Figure 0004788150
表2に示すとおり、微生物性の欠点試料である中芯原紙、上質紙、およびライナーBについては、欠点部と正常部とのコピー数に100倍以上の差が認められたのに対し、非微生物性の欠点試料であるライナーAおよび塗工紙については欠点部と正常部とのコピー数に大きな差は認められなかった。電気泳動のバンドは、上質紙において欠点部と正常部とにバンドの明瞭性に差が認められたが、それ以外の試料では、欠点部と正常部との間でバンドの明瞭性に大きな差は認められなかった。
さらに、正常部にも多くの微生物を含むライナーBについては、欠点部、正常部ともニンヒドリン反応は陽性であった。一方、本発明に従い測定されたコピー数では正常部と欠点部の測定値に大きな差が認められ、微生物由来のものであると判断された。
以上より、本発明の方法によれば紙製品の欠点が微生物に由来するか否かをより正確に判断でき、特に正常物にも微生物を多く含む板紙のような試料についても正確な判断ができることが示された。
本発明は、製紙工程におけるスライムコントロール処理等の品質管理に用いることができる。

Claims (5)

  1. 製紙工程で製造される紙製品に付着する付着物の分析方法であって、
    前記付着物からこの付着物に含まれる微生物のDNAを抽出し、抽出された前記DNAのrDNAをユニバーサルプライマーを用いて遺伝子増幅方法で定量的に増幅して前記付着物中の微生物量を求める測定工程を含む付着物の分析方法。
  2. 前記遺伝子増幅方法は、リアルタイムPCR法である請求項1に記載の付着物の分析方法。
  3. 既知コピー数の標準遺伝子を前記抽出されたDNAの少なくとも一部とともに増幅し、前記標準遺伝子の検量線を基に前記付着物中の微生物量を求める請求項1又は2に記載の付着物の分析方法。
  4. 製紙工程で製造される紙製品に付着する付着物からこの付着物に含まれる微生物のDNAを抽出し、抽出された前記DNAのrDNAをユニバーサルプライマーを用いて遺伝子増幅方法で定量的に増幅して前記付着物中の微生物量を求める測定工程と、
    前記測定工程で測定された微生物量に基づいて前記製紙工程におけるスライムコントロール処理を調整する調整工程と、を含む紙製品の製造方法。
  5. 前記測定工程は、既知コピー数の標準遺伝子を前記抽出されたDNAのrDNAとともに増幅し、前記標準遺伝子の検量線を基に前記付着物中の微生物量を求めることを特徴とする請求項4に記載の紙製品の製造方法。
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