JP4787613B2 - フェライト被膜付き方向性電磁鋼板 - Google Patents
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Description
方向性電磁鋼板の鉄損を低減するためには、
(1) 二次再結晶により鉄の磁化容易軸である<001>軸を一方向(圧延方向)に高度に揃えることにより、ヒステリシス損を低減する方法、
(2) 鋼板に含まれる不純物を低減したり、表面を平滑化することにより、ヒステリシス損を低減する方法、
(3) 鋼板に高比抵抗元素(主としてSi)を含有させて渦電流損を低減する方法、
(4) 鋼板の厚みを薄くして渦電流損を低減する方法、
(5) 鋼板の表面に特定形状の歪みや溝を形成することにより、磁区を細分化することで渦電流損を低減する方法
等が有効である。
これらの方法が確立されたことにより、方向性電磁鋼板の鉄損は飛躍的に低減されてきた。
例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5および特許文献6において、PVD(物理蒸着)法やCVD(化学蒸着)法によって、電磁鋼板の表面に窒化物や炭化物などのセラミックス被膜を成膜することにより鉄損を低減する技術が開示されている。
さらに、張力には鋼板および被膜のヤング率と熱膨張率が影響することから、例えば、特許文献7、特許文献8および特許文献9では、これらを適宜調整する手法が開示されている。
また、成膜に際して、電気・電子機器類が装置に近接して設けられているPVDなどの手法では、600℃程度を超える温度での成膜は物理的に困難である。
1.表面に、フェライト被膜をそなえる含珪素方向性電磁鋼板であって、該フェライト被膜の組成が、次式
(Fe2O3)50(MO)50、
ここで、Mは、Fe,Mg,Ca,Mn,Co,Ni,CuおよびZnのうちから選んだ1種または2種以上
を満足することを特徴とするフェライト被膜付き方向性電磁鋼板。
また、本発明によれば、方向性電磁鋼板との熱膨張率の差が小さいため、高温熱処理したときの密着強度に優れるという効果もある。
本発明は、基本的に含珪素方向性電磁鋼板の表面にフェライト被膜を被成したものである。
ここに、素材である含珪素方向性電磁鋼板の成分組成は、特に限定されるものではなく、従来から公知の成分系いずれもが適合する。代表的な成分組成について述べると、次のとおりである。
Si:2.0〜4.5mass%、Mn:0.01〜0.5mass%を含有し、必要に応じて、Mo:0.005〜0.10mass%,Ni:0.005〜1.50mass%,Sn:0.01〜0.50mass%,Sb:0.005〜0.50mass%,Cu:0.01〜1.50,P:0.005〜0.50mass%およびCr:0.01〜1.50mass%等を含有させたものである。
そこで、本発明では、上記フェライトとして、次式
(Fe2O3)50(MO)50、
ここで、Mは、Fe,Mg,Ca,Mn,Co,Ni,CuおよびZnのうちから選んだ1種または2種以上
を満足する組成に限定した。
なお、本発明において、フェライト被膜とは、(Fe2O3)50(FeO)50の場合、即ちFe3O4も含むものとする。
また、MOは、フェライトの良好な磁気特性を発現させるために有用な成分であるが、(Fe2O3)50(MO)50の組成を超えると相対的にFe2O3が少なくなって、熱膨張率が小さくなるため、MO含有量は上記の組成範囲に限定した。
さらに、SiO2が含有されると、フェライトの磁気特性向上に有利に寄与するが、Fe2O3とMOの合計を100mol部としたときSiの含有量が1mol部を超えるとフェライトの強度が低下する問題を生じる。なお、このSiO2は必ずしも含有させる必要はない。
この点、結晶が粒状晶の場合には、クラックが発生しても伝播しにくく、被膜強度が向上する。なお、この時、結晶方位が揃っていると、強度の小さな面でへき開し被膜強度が低下するので、結晶方位はランダムな等方膜とすることが好適である。
また、被膜密度が98%に満たないと、たとえ等方的な粒状晶であっても十分な膜強度を維持することが困難となる。
従って、フェライト被膜は、結晶方位が等方的で、かつ相対密度が98%以上の粒状晶にすることが好適である。
ここに、結晶が粒状晶にするには、被膜の形成に後述するガスデポジション法を使用することが有利である。
また、相対密度を98%以上にするにも、同様に、ガスデポジション法を使用することが好ましい。
このためには、原料粒子径を1〜3μm として、上述したガスデポジション法を使用することが好ましい。
同様に、電磁鋼板とフェライト被膜との界面にも異相の粒界相が存在しない方が密着強度が向上してより好適である。従って、電磁鋼板の界面には少なくとも1nmを超える粒界相を存在させないことが好適である。また、かような粒界相としては、ガラス相が挙げられる。
なお、上記したような粒界相の形成を抑制するには、原子の拡散を抑えることが必要で、ガス流量を1〜10リットル/minとしてガスデポジション法を使用することが好ましい。
ここに、ASTMカードとは、粉末X線回折の標準データが示されたものである。
なお、フェライト被膜の格子定数の伸びを上記の範囲に調整するには、原料の平均粒径を1〜2μm の範囲として、ガスデポジション法を適用することが好適である。
ここに、電磁鋼板界面のSiが規則格子を形成する領域は、20〜200nmの範囲とすることが好適である。というのは、Siの規則配列領域が20nm未満だと渦電流抑制効果に乏しく、一方200nmを超えるとヒステリシス損失が増加して鉄損の劣化を招くからである。
ここに、上記したようなSiの規則配列領域を形成するには、原料の平均粒径を1〜2μm の範囲として、ガスデポジション法を適用することが好ましい。
所定の成分組成に調整された鋼スラブを、熱間圧延し、得られた熱延板に1回又は中間焼鈍を挟んで複数回の冷間圧延を施して最終板厚とした後、脱炭および1次再結晶焼鈍を施し、さらに焼鈍分離剤を塗布してから、最終仕上げ焼鈍を施して方向性電磁鋼板とする。この際、焼鈍分離剤の主成分をマグネシアとして、鋼板表面にフォルステライト被膜を形成した場合には、このフォルステライト被膜を酸洗で除去して表面を平滑化する。かようなフォルステライト被膜を形成しない場合には、そのまま次工程に供することもできるが、やはり酸洗により表面を平滑化することが好ましい。
ここに、ガスデポジション法とは、セラミックスなどの微粒子をガスと共に混合し、エアロゾル化したものを、数100m/s程度の高速度で基板に吹き付け、成膜する手法である(例えば、「粉体および粉末冶金第37巻第1号(1990)P.94」、「まてりあ 第41巻第7号(2002)P.459」)。また、そこで成膜された時には歪が導入されていることが知られている(「粉体および粉末冶金第51巻第9号(2004)P.691」)。
開口:10×0.4 mmのノズルを備えたチャンバー内に、該ノズル先端から5mm離れ、かつノズルと垂直な位置に電磁鋼板をセットする。ノズル先端からキャリアガスでフェライト粒子を搬送・衝突させることで成膜する。このとき、チャンバー内圧力を数Torrに維持するために、適度に絞った真空ポンプで排気する。また、ノズルから噴出するガス・粒子混合物は、粒子がガスに浮遊・分散した、エアロゾル状態となっているものを用い、ノズル先端から減圧チャンバー内へ噴出した時の速度は数100m/s程度とする。このとき、基板またはノズル先端を移動することで、所望の面積にわたって被膜を形成することができる。なお、処理温度は室温でよい。
ここに、上記した伸展の程度は、前述したとおり、格子定数の伸びが、ASTMカード比で0.1〜1.0%程度とするのが好適である。
Si:3.2mass%、Mn:0.062mass%、Mo:0.025mass%およびSb:0.026mass%を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になり、板厚が0.2mmのフォルステライト被膜付き方向性電磁鋼板(比較例1)と、このフォルステライト被膜を酸洗で除去して表面を平滑化した被膜無し方向性電磁鋼板(比較例2)、およびこの被膜無し方向性電磁鋼板の表面に、表1に示す組成になるフェライト被膜を、ガスデポジション法により、厚さ:3μmに成膜したフェライト被膜付き方向性電磁鋼板(発明例1〜6)を製造した。
かくして得られた各方向性電磁鋼板について、磁束密度:1.7T,周波数:50Hzのときの鉄損W17/50を、エプスタイン法により測定した。
得られた結果を表1に併記する。
なお、鉄損値は、比較例1の値を1.0したときの相対値で表した。
また、ガスデポジション法による成膜条件は、原料の平均粒径:1μm、搬送ガス(アルゴンガス)流量:1リットル/mim、ノズル開口寸法:0.4×10mmである。
実施例1において、比較例2として示した被膜無し方向性電磁鋼板の表面に、表2に示す組成になるフェライト被膜を、ガスデポジション法により、厚さ:3μmに成膜したのち、800℃、30分間の歪取り焼鈍をArガス気流中で行った(発明例7〜9,比較例4〜5)。
また、実施例1において、比較例1として示したフォルステライト被膜付き方向性電磁鋼板についても、上記と同様の歪取り焼鈍を施し、比較例3とした。
かくして得られた各方向性電磁鋼板について、磁束密度:1.7T,周波数:50Hzのときの鉄損W17/50を、エプスタイン法により測定した。
また、被膜密着性を評価するため、φ15mm丸棒曲げテストを行った。
さらに、別途作製したフェライト被膜を用いて熱膨張率を測定した。この熱膨張率は、室温(20℃)から400℃間の平均熱膨張係数である。
得られた結果を表2に併記する。
なお、鉄損値は、比較例3の値を1.0したときの相対値で表した(この点は、実施例3以降についても同様とする。
フェライトの組成を、(Fe2O3)50(FeO)9(MnO)25(ZnO)16に固定して、ガスデポジション法(発明例10,11)、レーザーアブレーション法(比較例6)およびスパッタ法(比較例7)により、実施例2と同様にして、電磁鋼板表面に厚さ:3μmのフェライト被膜を成膜したのち、歪取り焼鈍を行った。
かくして得られたフェライト被膜付き方向性電磁鋼板の鉄損W17/50を測定すると共に、φ15mm丸棒曲げテストを行い、電磁鋼板とフェライト被膜の密着性について調査した。
また、フェライト被膜の結晶状態および相対密度についても調査した。
得られた結果を表3に示す。
フェライトの組成を、(Fe2O3)50(FeO)7(MnO)20(CoO)5(ZnO)18に固定し、実施例2と同様にして、電磁鋼板の表面に厚さ:3μmのフェライト被膜を成膜したのち、歪取り焼鈍を行った。この時、結晶粒径をコントロールするため、焼鈍温度を700〜1000℃の範囲で変化させた。
かくして得られたフェライト被膜付き方向性電磁鋼板の鉄損W17/50を測定すると共に、φ15mm丸棒曲げテストを行い、電磁鋼板とフェライト被膜の密着性について調査した。
また、フェライト被膜の結晶粒径を測定した。この結晶粒径は、高分解能透過電顕で観察した像から求めた平均値である。
得られた結果を平均粒径との関係で表4に示す。
フェライトの組成を、(Fe2O3)50(FeO)14(CaO)0〜1(MnO)30〜31(ZnO)5とし、実施例2と同様にして、電磁鋼板の表面に厚さ:3μmのフェライト被膜を成膜したのち、800℃のAr気流中で歪取り焼鈍を施した。このとき、CaO濃度を変化させて、結晶粒界厚さをコントロールした。
かくして得られたフェライト被膜付き方向性電磁鋼板の鉄損W17/50を測定すると共に、φ15mm丸棒曲げテストを行い、電磁鋼板とフェライト被膜の密着性について調査した。
また、結晶粒界厚さ、すなわちフェライト被膜を構成する粒状結晶の粒子界面における母相とは異なった結晶構造の粒界相の厚さを測定した。結晶粒界厚さは、高分解能透過電顕で観察した像から求めた値であり、解像度が0.5nmなので、見えなかった場合を<0.5nmと表記した。
得られた結果を結晶粒界厚さとの関係で表5に示す。
フェライトの組成を、(Fe2O3)50(FeO)21(MnO)9(ZnO)18(CuO)2と固定し、実施例2と同様にして、電磁鋼板表面に厚みを変化させてフェライト被膜を成膜した。被膜厚さは、成膜時間によりコントロールした。
かくして得られたフェライト被膜付き方向性電磁鋼板について、鉄損W17/50を測定すると共に、φ15mm丸棒曲げテストを行って被膜密着性を調査した。
得られた結果を被膜厚さとの関係で表6に示す。
フェライトの組成を、(Fe2O3)50(FeO)9(MnO)29(CoO)3(ZnO)9(SiO2)0〜0.5とし、実施例2と同様にして、電磁鋼板表面にフェライト被膜を成膜した後、Ar気流中で歪取り焼鈍を施した。この際、フェライト被膜/電磁鋼板界面厚さをSiO2量でコントロールした。
かくして得られたフェライト被膜付き方向性電磁鋼板について、鉄損W17/50を測定すると共に、φ15mm丸棒曲げテストを行って被膜密着性を調査した。
得られた結果を界面厚さとの関係で表7に示す。
フェライトの組成を、(Fe2O3)50(FeO)4(MnO)27(NiO)6(ZnO)13と固定した平均粒径:0.3〜7μmの粉末を原料として、実施例2と同様にして、電磁鋼板の表面に厚さ:3μm のフェライト被膜を成膜した。その際、結晶格子の伸びを、原料粉末粒径でコントロールした 。
かくして得られたフェライト被膜付き方向性電磁鋼板について、鉄損W17/50および結晶格子の伸びを測定した。
なお、結晶格子の伸びは、粉末X線回折から求めた格子定数を、原料粉末での格子定数を基準として算出した。
得られた結果を結晶格子の伸びとの関係で表8に示す。
フェライトの組成を、(Fe2O3)50(FeO)12(MnO)22(ZnO)16と固定した平均粒径:0.8〜3μmの粉末を原料として、実施例2と同様にして、電磁鋼板表面に厚さ:3μm のフェライト被膜を成膜した。その際、原料粉末粒径で、電磁鋼板のフェライト被膜との界面近傍におけるSi原子が規則配列している相の厚さすなわち規則格子相厚さをコントロールした。
かくして得られたフェライト被膜付き方向性電磁鋼板の鉄損W17/50について調べた結果を、規則格子相厚さとの関係で表9に示す。
なお、規則格子相厚さは、高分解能透過電顕で観察した像から求めた。
Claims (11)
- 表面に、フェライト被膜をそなえる含珪素方向性電磁鋼板であって、該フェライト被膜の組成が、次式
(Fe2O3)50(MO)50、
ここで、Mは、Fe,Mg,Ca,Mn,Co,Ni,CuおよびZnのうちから選んだ1種または2種以上
を満足することを特徴とするフェライト被膜付き方向性電磁鋼板。 - 請求項1において、前記フェライト被膜の組成が、(Fe2O3)50(MO)50:100mol部に対し、さらにSiO2を1mol部以下で含有する組成になることを特徴とするフェライト被膜付き方向性電磁鋼板。
- 請求項1または2において、前記フェライト被膜の熱膨張率が 0.8×10-5/℃以上であることを特徴とするフェライト被膜付き方向性電磁鋼板。
- 請求項1〜3のいずれかにおいて、前記フェライト被膜の結晶方位が等方的で、かつ相対密度が98%以上の粒状結晶から構成されていることを特徴とするフェライト被膜付き方向性電磁鋼板。
- 請求項1〜4のいずれかにおいて、前記フェライト被膜の結晶粒が平均粒径で50nm以下であることを特徴とするフェライト被膜付き方向性電磁鋼板。
- 請求項1〜5のいずれかにおいて、前記フェライト被膜を構成する粒状結晶の粒子界面における、母相とは異なった結晶構造の粒界層の厚さを1nm以下に抑制したことを特徴とするフェライト被膜付き方向性電磁鋼板。
- 請求項1〜6のいずれかにおいて、前記フェライト被膜の厚みが0.01〜10μm であることを特徴とするフェライト被膜付き方向性電磁鋼板。
- 請求項1〜7のいずれかにおいて、前記フェライト被膜と電磁鋼板との界面における、母相とは異なった結晶構造の粒界層の厚さを1nm以下に抑制したことを特徴とするフェライト被膜付き方向性電磁鋼板。
- 請求項1〜8のいずれかにおいて、前記フェライト被膜の格子定数が0.1〜1.0%伸びていることを特徴とするフェライト被膜付き方向性電磁鋼板。
- 請求項1〜9のいずれかにおいて、前記フェライト被膜との界面近傍の電磁鋼板に、Si原子が規則配列している層を有することを特徴とするフェライト被膜付き方向性電磁鋼板。
- 請求項10において、Si原子が規則配列している層の厚みが20〜200nmであることを特徴とするフェライト被膜付き方向性電磁鋼板。
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