JP4784217B2 - 無段変速機ベルト、該ベルト用ステンレス鋼板及びその製造法 - Google Patents

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Description

本発明は、無段変速機ベルト、無段変速機ベルト用ステンレス鋼板及びその製造法に関するものであり、より具体的には、自動車等の無段変速機に使用され、高強度で優れた延性、耐摩耗性さらには疲労特性が要求される無段変速機ベルトと、この無段変速機ベルトの素材として用いるのに好適な準安定オーステナイト系ステンレス鋼板と、この準安定オーステナイト系ステンレス鋼板の製造法とに関する。
近年、自動車に対しては、環境問題、エネルギ問題さらにはコスト等の観点から、低燃費化が極めて強く要請されている。この要請に応えるための一つの手段として、無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)が知られている。
これまで多用されてきたマニュアル・トランスミッション又はオートマチック・トランスミッション等の既存の変速機は、いずれも、手動で又は油圧を利用して自動で、通常3〜5段のギアを切り替えて車速に応じた変速を行うものである。このため、これまでの変速機は、ギアの切り替えに伴って、駆動力の伝達ロスを不可避的に伴う。これに対し、図1に駆動力の伝達の原理を模式的に示すCVT1は、軸方向へ移動自在に配置された2枚の円錐型ディスク(2a、2b)、(3a、3b)により形成されるV型溝を有し、駆動側又はエンジン側に接続される一対の並行配置された滑車(プーリ)2、3と、プーリ2、3のV型溝に架け渡される無段変速機ベルト(Vベルト)4とにより構成されており、車速に応じて円錐型ディスク(2a、2b)、(3a、3b)の間隔をそれぞれ制御してVベルト4の幅に合うプーリ2、3の実働径を連続的に変更することによって約2.5〜0.5の変速比を無段階で得られる。したがって、CVT1を自動車に搭載すれば、変速比を連続的に無段階で変更できることから駆動力の伝達ロスを可及的に抑制でき、これにより燃費向上を図ることができる。このため、CVT1は、近年開発される自動車に積極的に搭載される傾向にある。
CVT1を構成するVベルト4には、無段階で変速比を変更しながらプーリ2、3間に動力を伝達するため、高い強度を有することはもちろんのこと、高い信頼性を有すること、具体的には曲げや曲げ戻しにも十分耐え得る優れた延性及び疲労特性と、プーリ2、3との接触に対する優れた耐摩耗性とが要求される。このため、Vベルト4は、図2に示すように、2枚の金属製のリング5、6と、これらの間に嵌め込まれる特殊形状の金属製の多数のエレメント(ベルト駒)7とにより構成される。
通常、金属製のリング5、6は、素材である鋼板を所定の幅に切断して帯状とした後にその両端を溶接するか、あるいは、素材である鋼板をプレスにて略皿形状とした後にその底部を打抜くことによってリング形状に成形する成形工程と、リング用圧延機により所定の板厚及び直径に圧延すると共に、材料を性能調整(加工硬化)する調質圧延工程と、表面硬化処理により耐摩耗性等を付与する表面硬化処理工程とを経て、製造される。なお、表面硬化処理の前後に時効処理を施すこともある。
従来、Vベルトのリングには、例えば特許文献1、2に開示されるように、Tiを0.1%(本明細書では特にことわりがない限り「%」は「質量%」を意味する)以下含有するマルエージング鋼が用いられてきた。マルエージング鋼は、焼入れ状態では略マルテンサイト単相であって優れた加工性を示し、次いで行われる時効処理による析出強化によって高強度・高靱性を備えるものである。しかし、マルエージング鋼は、析出強化元素であるTiを含有するため、溶製時に生成し易い、硬質かつ粗大なTi−N系非金属介在物が起点となって疲労破壊を生じ易く、リングの疲労特性が劣化するという問題があった。このため、マルエージング鋼によりリングを製造する際には、粗大なTi−N系非金属介在物を生成しないように原料を十分に選定するとともに特殊な溶解方法等を採用する必要があり、多大な工数を要することから生産性の低下が著しく、いきおいリングが極めて高価になるという問題があった。
そこで、このような問題を解決するために、特許文献3〜8には、Vベルトのリングを準安定オーステナイト(γ)系ステンレス鋼により構成することが開示されている。準安定γ系ステンレス鋼は、硬質なマルテンサイト(α’)相への変態を伴う高い加工硬化により、高強度と優れた延性とを有する。さらに、特許文献9〜13には、Vベルトのリングを構成する準安定γ系ステンレス鋼の耐摩耗性向上を目的として、加工誘起変態したα’相がγ母相へ逆変態しないか、あるいは回復を起こさない低温域での熱処理を伴う表面硬化処理(具体的にはマルエージン鋼と同様の窒化処理あるいは炭化処理)を行うことが、開示されている。
特許文献3〜13により開示された準安定γ系ステンレス鋼は、確かに、硬質なα’相への加工誘起変態により強度及び延性のバランスに優れ、高強度を維持した上で優れた延性を示す材料を提供できる。しかし、α’相への固溶限は極めて小さいことから、表面硬化窒化処理を行っても窒素や炭素を十分に固溶させることは難しく、ベルトとして十分な耐摩耗性を得ることは難しい。
また、加工誘起変態したα’相に粗大な化合物(窒化物、炭化物及び炭窒化物)を多量に析出し、材料が脆化するとともに、それに起因して疲労特性が大幅に劣化する問題があった。なお、特許文献13の一部には、加工誘起変態を起こさない安定したγ系ステンレス鋼を用いることも開示されるが、これでは、Vベルトのリングに要求される強度及び延性を高次元でバランスさせることが困難になる。
一般的に、ステンレス鋼では、酸化物系の非金属介在物を起点とした破壊が発生することが良く知られている。このため、特許文献14〜18には、Vベルトのリングへの適用を直接念頭においたものではないが、酸化物系の非金属介在物の組成や形状を規定することによりステンレス鋼の疲労特性を改善する発明が開示されている。
特開2001−240944号公報 特開2002−167652号公報 特開平07−316662号公報 特開2002−53936号公報 特開2003−33803号公報 特開2003−33804号公報 特開2003−266106号公報 特開2004−11683号公報 特開平11−200010号公報 特開2000−63998号公報 特開2000−73156号公報 特開2003−113449号公報 特開2005−36278号公報 特公平6−74484号公報 特公平6−74485号公報 特開平6−330249号公報 特開平7−188861号公報 特開平2002−275591号公報
しかし、これらの従来の発明によっても、高強度で優れた延性、耐摩耗性さらには疲労特性を有する、信頼性が高い、CVTのVベルト用ステンレス鋼板を工業的規模で安定して低コストで提供することはできなかった。
特に、これまでよりもさらに大きなトルクを発生するエンジンを搭載する車両にも、CVTを搭載することが検討されているが、従来の発明では、高強度と十分な信頼性を兼備するVベルトを提供することは不可能であり、このようなCVTのVベルトの素材として用いるのに最適なステンレス鋼板を工業的規模で安定して低コストで提供することが強く要請されている。
本発明は、C:0.15%以下、Si:0.1〜3.0%、Mn:6.0%以下、N:0.15%以下、Cr:3.0〜20.0%、Ni:4.0〜13.0%、さらに、(C+N):0.25%以下、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼組成であるとともにオーステナイト相単相で、N及び/又はCを吸収させる熱処理を行うことにより、板表面を含む板表面近傍部の(C+N)量が0.25%を超えるとともに、調質圧延と炭化及び/又は窒化処理とに供されることを特徴とする無段変速機ベルト用ステンレス鋼板である。
また、本発明は、板厚方向の中心を含む板厚中心部が、C:0.15%以下、Si:0.1〜3.0%、Mn:6.0%以下、N:0.15%以下、Cr:3.0〜20.0%、Ni:4.0〜13.0%、さらに、(C+N):0.25%以下、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼組成であるとともにオーステナイト相及びマルテンサイト相からなる複相組織であり、かつ、N及び/又はCを吸収させる熱処理および調質圧延後における板表面を含む板表面近傍部は、オーステナイト単相組織、又は、50体積%未満のマルテンサイト相とオーステナイト相との複相組織であるとともに、炭化及び/又は窒化処理に供されることを特徴とする無段変速機ベルト用ステンレス鋼板である。
この本発明に係る無段変速機ベルト用ステンレス鋼板では、板表面から10μmの深さの位置までにおける(C+N)量が0.25%超であることが望ましい。
別の観点からは、本発明は、板厚方向の中心を含む板厚中心部が、C:0.15%以下、Si:0.1〜3.0%、Mn:6.0%以下、N:0.15%以下、Cr:3.0〜20.0%、Ni:4.0〜13.0%、さらに、(C+N):0.25%以下、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼組成であるとともにオーステナイト相及びマルテンサイト相からなる複相組織であり、かつ、N及び/又はCを吸収させる熱処理および調質圧延し、炭化及び/又は窒化処理された後における板表面を含む板表面近傍部が、オーステナイト単相組織、又は、50体積%未満のマルテンサイト相とオーステナイト相との複相組織であるとともに、単独で又は混合して析出した窒化物、炭化物又は炭窒化物を有することを特徴とする無段変速機ベルト用ステンレス鋼板である。
この本発明に係る無段変速機ベルト用ステンレス鋼板では、板表面から10μmの深さの位置までにおける(C+N)量が0.60%超であることが望ましい。この場合に、板表面の硬度がHv600〜1100であるとともに、板厚中心部の硬度がHv400〜600であることが望ましい。
これらの本発明に係る無段変速機ベルト用ステンレス鋼板では、(c)板表面から10μmの深さの位置までにおけるオーステナイト相の割合が、板厚中心部におけるオーステナイト相の割合よりも10%以上高いこと、(d)板表面近傍部におけるN濃度及び/又はC濃度が、板厚中心部におけるN濃度及び/又はC濃度よりも高いこと、(e)前記鋼組成は、さらに、Mo:3.0%以下又はCu:3.0%以下の少なくとも1種を有すること、又は()前記鋼組成は、さらに、Nb:0.01〜0.5%を有することが、望ましい。
別の観点からは、本発明は、上述した本発明に係るステンレス鋼板からなるリングを備えることを特徴とする無段変速機ベルトである。
さらに別の観点からは、本発明は、C:0.15%以下、Si:0.1〜3.0%、Mn:6.0%以下、N:0.15%以下、Cr:3.0〜20.0%、及びNi:4.0〜13.0%を含有するとともに、C+N:0.25%以下、残部Feおよび不可避的不純物である鋼組成を有するステンレス鋼板に、このステンレス鋼板の板表面からN及び/又はCを吸収させてこの板表面を含む板表面近傍部のみをオーステナイト安定状態としてから調質圧延を行うことを含む熱処理を行うことによって、板厚方向の中心を含む板厚中心部はオーステナイト相及びマルテンサイト相からなる複相組織であり、かつ、板表面を含む板表面近傍部はオーステナイト単相組織、又は、50体積%未満のマルテンサイト相とオーステナイト相との複相組織であるとともに、炭化及び/又は窒化処理に供されるステンレス鋼板を製造することを特徴とする無段変速機ベルト用ステンレス鋼板の製造方法である。
この本発明に係る無段変速機ベルト用ステンレス鋼板の製造方法では、さらに、熱処理、調質圧延後に表面硬化処理をこの順で行うことが例示される。
これらの本発明に係る無段変速機ベルト用ステンレス鋼板の製造方法では、N及び/又はCを吸収させる熱処理が、加熱温度1000℃以上及び露点−40℃以下で行われることが望ましい。
これらの本発明に係る無段変速機ベルト用準ステンレス鋼板の製造方法では、表面硬化処理が、加熱温度600℃以下の条件で行われることが望ましい。
さらに、これらの本発明に係る無段変速機ベルト用ステンレス鋼板の製造方法では、表面硬化処理が、窒化処理、炭化処理又は炭窒化処理であることが望ましい。
本発明により、組織制御と複合吸収の活用により、高強度で優れた延性、耐摩耗性さらには疲労特性を有する信頼性が高い、CVTのVベルト用ステンレス鋼板及びその製造法、このVベルト用ステンレス鋼板を用いたVベルトを、工業的規模で安定して低コストで提供することができる。このため、本発明により、さらに大きなトルクを発生するエンジンを搭載する車両にも、CVTを搭載することが可能となる。
以下、本発明に係る無段変速機ベルト、このベルト用ステンレス鋼板、より具体的には準安定オーステナイト(γ)鋼板及びその製造法を実施するための最良の形態を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以降の説明では、板製造中焼鈍での熱処理はC、Nの固溶によるγ安定化を主目的とし、微細析出物の析出を図るものではないことから「吸収」と称し、一方、調質圧延後の最終段階での処理は固溶と微細析出物による強化とを目的とすることから、「窒化」、「炭化」あるいは「炭窒化」ということとする。
はじめに、本発明の基礎となる、準安定γ系ステンレス鋼の表面硬化に関する検討結果から得られた以下に列記する新規な知見(i)〜(iii)について説明する。
(i)Vリングは、準安定γ系ステンレス鋼板に、上述した成形工程、圧延工程及び表面硬化処理を順次行うことによって製造されるが、この際に、成形工程の前後に高温での熱処理(焼鈍)を行うことにより、最も強力なγ安定化元素かつ侵入型固溶強化元素の一つであるN及び/又はCを吸収させることができる。そして、この後に調質圧延を行う。これにより、表面硬化処理を行う前に、板表面を含む板表面近傍部のみを、γ単相組織、又は、50体積%未満のマルテンサイト(α’)相とγ相との複相組織、すなわちγ安定状態とするとともに、板厚方向の中心を含む板厚中心部を準安定γ状態とすることができる。これにより、当然ながら、板表面近傍部の硬化も図ることができる。
補足すると、ステンレス鋼板の製造では、表面光沢を維持するために製品板に近い段階のラインでの最終焼鈍には一般的にN及びHの混合ガスを用いた非酸化性雰囲気での光輝焼鈍が行われており、また、メタンガスを混入させることによって炭化処理も容易に行われる。すなわち、ステンレス鋼板の製造時に、処理条件を適正化することにより、新たな設備を導入することなく、Nを吸収させることは、例えば特許第3521852号、同第3606200号、特開2003−171744号公報、特開2005−23396号公報さらには特開2005−23397号公報等にも開示されるように、技術的に充分可能であるとともに、Cを吸収させることも、焼鈍雰囲気中にメタン等の炭素源を混合するだけで、設備の大幅な改造等も必要なく十分可能である。
そして、N及び/又はCを吸収させたステンレス鋼板に調質圧延を行うことにより、γ単相又はγ相の割合が増加した表面近傍部組織を得ることも可能である。
(ii)このようにして調質圧延を終了したステンレス鋼板に、最終段階で行われる加工誘起α’相のγ母相への逆変態や回復による軟化を生じない低温域での熱処理を伴う表面硬化処理を行う。この表面硬化処理では、固溶度が大きいγ相の安定状態、すなわち50体積%未満のα’相とγ相との複相組織とした表面近傍部に対して、炭化処理及び/又は窒化処理を行うことにより、γ相の安定状態でない場合に比較して大幅な固溶強化を図ることが可能となる。
(iii)さらに、この表面硬化処理により、固溶限が大きいγ相の安定状態とした場合、調質圧延により導入された多数の転位上へ窒化物、炭化物及び炭窒化物を単独ないし混合して微細析出させることができる。これにより、γ相の安定状態でない場合に比較して、多数の微細析出物による大幅な強化や耐摩耗性の改善を図ることができるとともに、ベルトに必要となる延性を維持した上で、疲労破壊の起点となることを抑制できる。
本発明は、これらの新規な知見(i)〜(iii)に基づくものであり、略述すると、準安定γ系ステンレス鋼板の大部分を占める内部、すなわち板厚方向の中心を含む板厚中心部を、強度及び延性のバランスに優れる準安定γ状態に維持するとともに、この板厚中心部を除いた表面部、すなわち板表面を含む板表面近傍部を、γ単相組織、又は、50体積%未満のα’相とγ相との複相組織、すなわち、固溶度が大きいγ相の安定状態に改質することによって、延性や疲労特性の劣化を招く粗大な化合物を析出することなくN及びCの固溶強化と微細析出物とによって強化した上で、耐摩耗性を大幅に向上することができるという技術思想に基づくものである。
次に、本実施の形態の無段変速機ベルト、該ベルト用準安定γ系ステンレス鋼板及びその製造法を説明する。
本実施の形態の無段変速機ベルト用準安定γ系ステンレス鋼板は、板厚方向に関して、板厚方向の中心を含む板厚中心部と、この板厚中心部を除いて板表面を含む板表面近傍部とにより構成される。
そして、この板厚中心部は、素材に対応するものであり、SUS304やSUS301等により代表される強度及び延性のバランスに優れる準安定γ系ステンレス鋼であればよい。本実施の形態ではこのような観点から、板厚中心部の組成を以下のように限定する。
(C:0.15%以下、N:0.15%以下、C+N:0.25%以下)
C及びNの含有量は、いずれも0.15%以下と限定する。C、Nはともに強力な固溶強化元素の一つである。しかし、それぞれの含有量が0.15%を越えると、最終段階で行われる表面硬化処理の熱処理において、各々の固溶限が低い加工誘起変態α’相を中心に粗大化合物が析出して脆化し、Vベルトに必要な延性を維持できなくなる。このため、C及びNの含有量は、ともに0.15%以下と限定する。同様の観点から望ましい範囲は0.13%以下である。
さらに、C、Nの合計の含有量が0.25%超であると、γ相が安定となり過ぎ、準安定γ状態を得ることが難しくなる。そこで、本実施の形態では、(C+N)は0.25%以下と限定する。望ましい範囲は0.23%以下である。
(Cr:3.0〜20.0%)
Crは、ステンレス鋼の基本元素であり、充分な耐食性を確保するには通常は少なくとも10.0%添加する必要があるが、本実施の形態の用途では高い耐食性は必ずしも必要とされない。また、Crは、主に表面硬化処理時の析出物を構成する主たる合金元素であるとともに、酸化被膜を形成する主たる構成元素でもある。このため、Cr含有量の下限は3.0%とする。一方、Crは、Nの固溶量を増加させてN吸収を促進する側面もあるものの、α安定化元素であるために過剰に添加すると、鋼中にα相を残存させ準安定γ状態を得られなくなる。このため、Cr含有量の上限は20.0%とする。同様の観点から、Cr含有量の下限は3.6%であることが望ましく、上限は19.2%であることが望ましい。
(Ni:4.0〜13.0%)
Niは、合金元素中で最も強力なγ安定化元素の一つであって室温でγ相組織を得るために、4.0%以上含有する。ただし、過度に添加すると加工誘起α’変態が起こらなくなり、高強度及び高靱性を得られなくなる。このため、Ni含有量は4.0%以上13.0以下と限定する。さらにNi含有量の下限は4.2%であることが望ましく、上限は12.6%であることが望ましい。
さらに、任意添加元素として、(a)Si:0.1〜3.0%及びMn:6.0%以下、(b)Mo:3.0%以下又はCu:3.0%以下の少なくとも1種、(c)Ti:0.01〜0.5%、Nb:0.01〜0.5%又はV:0.01〜0.5%の1種又は2種以上の少なくとも一を備えてもよい。これらの任意添加元素についても説明する。
(a)Si:0.1〜3.0%及びMn:6.0%以下
Siは、溶製時の脱酸のための元素であるとともに、有効な固溶強化元素でもある。このため、Si含有量は0.1%以上であることが望ましい。しかし、3.0%超含有すると強固な酸化被膜を形成して、N、Cの吸収を阻害するおそれがあるとともに加工性が劣化する。このため、Si含有量は0.1%以上3.0%であることが望ましい。さらに、Si含有量の下限は0.15%であることが望ましく、上限は2.6%であることが望ましい。
一方、Mnは、γ安定化元素であり、他の合金元素との調整の基に限定される。過度に添加した場合、加工誘起α’変態が起こらなくなる。ただし、Nの固溶量を増加させ、N吸収を促進する側面もある。このため、Mn含有量は6.0%以下とすることが望ましい。さらに望ましくは5.4%以下である。
(b)Mo:3.0%以下又はCu:3.0%以下の少なくとも1種、
Mo、Cuは、熱処理を活用した析出強化を考慮して適宜添加されるものであり、一般的には、γ安定度調整等の補助的意味で0.5%以下程度添加される。しかし、Mo、Cuは金属間化合物を形成する析出強化元素であるため、本実施の形態では0.5%超添加することにより表面硬化処理時の時効硬化が期待される。ただし、過度に添加すると、粗大な金属間化合物を生成して板製造が困難になるおそれがある。このため、Mo、Cuの含有量の上限は3.0%以下とすることが望ましく、同様の観点から2.6%以下とすることがさらに望ましい。
(c)Ti:0.01〜0.5%、Nb:0.01〜0.5%又はV:0.01〜0.5%の1種又は2種以上
Ti、Nb、Vは、板等の製造中の熱処理にて微細な化合物(Cr等の他合金元素を含む場合有)を析出して粒成長を抑制し、微細結晶粒組織を得ることを容易にする。このため、結晶粒微細化での強化を活用するため、いずれも0.01%以上添加することが有効である。ただし、過度に添加すると、粗大な析出物を発生して疲労特性が低下することがあるとともに、高価な元素であるために素材コストが上昇する。このため、Ti、Nb、Vの含有量はいずれも、0.01%以上0.5%以下とすることが望ましく、同様の観点から下限は0.04%、上限は0.46%とすることがさらに望ましい。
板厚中心部の上記以外の残部成分は、Feおよび不可避的不純物元素である。なお、上記成分以外に工業的側面からの添加元素、例えば溶製時に脱酸剤として使用されるAl、CaあるいはREM(希土類金属)や熱間加工性の改善が見込まれるB等を、必要に応じて0.05%以下含有しても差し支えない。
この板厚中心部はγ相及びα’相からなる複相組織であるとともに、板表面を含む板表面近傍部はγ単相組織、又は、50体積%未満のα’相とγ相との複相組織である。すなわち、板表面近傍部の主構造を少なくともγ相とするためにα’相の割合を50体積%未満と規定する。
このように、本実施の形態の無段変速機ベルト用準安定γ系ステンレス鋼板は、板表面近傍部のγ相の割合が板厚中心部のγ相の割合よりも多いことが特徴の一つである。具体的には、板表面から10μmの深さの位置までにおけるγ相の割合が、板厚中心部におけるγ相の割合よりも10%以上高い。これにより、後述する表面硬化促進が図られる。
この場合、板表面近傍部におけるN濃度及び/又はC濃度は、板厚中心部におけるN濃度及び/又はC濃度よりも高い。本実施の形態の無段変速機ベルト用準安定γ系ステンレス鋼板は、板表面近傍部のγ相増加のためにN及び/又はCを吸収させおり、それらの濃度が高まっているためである。
本実施の形態の無段変速機ベルト用準安定γ系ステンレス鋼板は、板表面から10μmの深さの位置までにおける(C+N)量が0.25%超である。これはγ相を安定化するためである。また、(C+N)量を規定する範囲を、板表面から10μmの深さの位置までとするのは、後述する表面硬化処理での処理層がプーリー等との接触により摩耗することによる金属ベルトの早期破損を防止するためであるとともに、測定機材(X線)のX線の侵入深さに対応するためである。
以上説明した本実施の形態の無段変速機ベルト用準安定γ系ステンレス鋼板は、表面硬化処理を施す前の準安定γ系ステンレス鋼板に熱処理、調質圧延を行うことにより製造される。この熱処理の際に、表面からN及び/又はCを吸収させる。
N及び/又はCを吸収させるこの熱処理は、加熱温度1000℃以上及び露点−40℃以下の条件で行われることが望ましい。熱処理時の雰囲気ガス構成元素の吸収は、上述したように、素材である準安定γ系ステンレス鋼板の表面近傍のみをγ安定化状態として、後続して行われる表面硬化処理を促進させるものである。このため、安価かつ最も強力なγ安定化元素であって実験により吸収されることを現に確認したN、Cを吸収元素とする。
加熱温度が高温であるほど固溶限が上昇し、吸収(固溶)が促進される。したがって、加熱温度は1000℃以上、好ましくは1050℃とした。加熱温度の上限は、実績として工業的に実現可能な1200℃とすることが望ましい。また、露点はガス中の水分を規制するものであり、その上昇と共に酸化被膜が形成され、雰囲気ガスの吸収が阻害される。したがって、熱処理時の露点は−40℃以下とする。好ましくは−45℃以下である。
この熱処理は、N又はCが吸収される雰囲気であればよい。具体的には上述したように窒ガス単体、一般的な窒素と水素との混合ガスを初め、アンモニアやメタン等のガスを使用した雰囲気等を例示することができる。また、この熱処理での吸収を行う場合には、その迅速化のために熱処理に先だって、例えば酸洗、スパッタリングさらには還元性雰囲気での予備熱処理等といった、酸化被膜の除去や分解等を目的とする処理を事前に行っておくことが望ましい。
本実施の形態では、このようにして、被熱処理材である準安定γ系ステンレス鋼板の表面近傍に、N及び/又はCを吸収させる熱処理を行う前後に、所定の幅に切断して帯状とした後にその両端を溶接するか、あるいは、素材である鋼板をプレスにて略皿形状とした後にその底部を打抜くことによってリング形状に成形した後、リング用圧延機により所定の板厚にする及び直径にすると共に、材料を性能調整(加工硬化)する冷間加工(調質圧延)を行い、その後に、炭化処理、窒化処理又は炭窒化処理等による表面硬化処理を行う。
この表面硬化処理は、先行して行った熱処理による吸収とは異なる成分、具体的には窒素吸収後には炭化処理を、炭素吸収後には窒化処理を、両工程とも炭窒化処理を行い、(窒素+炭素)の複合固溶、析出により単独の場合を越える大幅な強化を得ることを基本とする。このため、最も強力な侵入型固溶強化元素でもある窒素、炭素による処理を行うことが望ましい。ただし、これら以外の侵入型元素においても必要な表面硬化を図ることはできる。このような侵入型元素として硫黄や硼素等を例示することができる。
なお、調質圧延を行うことにより、材料を加工硬化させるとともに、析出核となる転位の導入により析出物の微細化に極めて有効である。
この準安定γ系ステンレス鋼板への低温域での表面硬化処理に関して詳細に調査・検討した結果、窒化処理及び/又は炭化処理は、複合吸収(窒素+炭素での固溶量増加)とそれによる効果的な表面硬化がなされることがわかった。なお、γ安定化によるさらなる窒化処理及び/又は炭化処理での固溶量増加が図られることがわかった。
また、この表面硬化処理により、被熱処理材であるステンレス鋼板の表面近傍に、微細な窒化物、炭化物又は炭窒化物が単独ないし混合して析出することがわかった。
N吸収処理(熱処理)、調質圧延後に表面硬化処理(炭化処理)を施した本発明材と、N吸収処理(熱処理)を施すことなく表面硬化処理(炭化処理)のみを単独で施した比較材との両者についての、板表面でのX線回折パターンを、図3にグラフで示す。
図3にグラフで示すように、本発明材は、僅かにα’相が認められものの大部分がγ相により構成される。一方、比較材には加工誘起変態したα’相の回折ピークが多く確認される。また、NとCとの複合固溶による格子常数の大幅な増加により、発明材のγ相ピーク角度は比較材に比べてより低角側へシフトする。なお、他の調査結果も含めて、α’相ピーク角度のシフトは殆ど認められない。これはα’相のC、Nの固溶度が極めて小さいためである。さらに、比較材にはγ相及びα’相以外の多数のピークが確認される。これらのピークはX線回折で検出できるものであり、粗大な窒化物、炭化物又は炭窒化物である。すなわち、発明材はC+Nの固溶が促進された上で、同回折ピークに現れるような粗大な析出物が大幅に減少する。
この表面硬化処理は、加熱温度600℃以下の条件で行われることが望ましい。加熱温度が600℃を超えると、加工誘起α’相のγ相への逆変態や回復により、加工硬化させた材料が軟化し、金属ベルトとして必要な強度が維持できなくなる可能性があるからである。
このようにして表面硬化処理を行われた、本実施の形態の無段変速機ベルト用準安定オーステナイト系ステンレス鋼板は、上述したように単独で又は混合して析出した窒化物、炭化物又は炭窒化物を有するとともに、表面から10μmの深さの位置までにおける(C+N)量が0.60%超に高められる。(C+N)量を0.60%超とするのは、先行して行った熱処理によりγ安定状態とした上で、表面硬化処理での固溶及び析出強化により充分な耐摩耗性を得るためである。
この表面硬化処理により板表面近傍部に生成される窒化物、炭化物又は炭窒化物の大きさ(最大長)は10μm以下であることが望ましい。10μm超であると、延性や疲労特性の劣化を招くからである。析出物の大きさが10μm以下であれば、介在物に起因するものよりも早期に疲労破壊する可能性は低いからである。
表面硬化処理を行われた、本実施の形態の無段変速機ベルト用準安定γ系ステンレス鋼板の表面の硬度は、Hv600〜1100であるとともに、中心部の硬度がHv400〜600であることが望ましい。
表面の硬度がHv600以上であれば耐摩耗性が改善されるためであり、Hv1100を越えると粗大な化合物が多量に析出している可能性が高いからである。一方、中心部の硬度は、上述したように、素材に対応すると考えられ、Hv400以上であれば金属ベルトに必要となる最低限の強度を確保でき、Hv600超であると、準安定γ系ステンレス鋼の特徴である優れた強度と延性バランスを確保し、必要な曲げ及び曲げ戻しを維持することが難しくなるためである。
この表面硬化処理は、具体的には、上述したC、Nを吸収させる熱処理と同様にC又はNが吸収される処理であればよい。すなわち、表面硬化処理である窒化処理、炭化処理又は炭窒化処理とは、ガス炭化、ガス窒化、プラズマの活用、塩浴窒化等の各種方法により行うことができる。
このようにして、板厚方向の中心を含む板厚中心部が、C:0.15%以下、N:0.15%以下、Cr:3.0〜20.0%、Ni:4.0〜13.0%、さらに、C+N:0.25%以下、残部実質的にFeからなる鋼組成であるとともにγ相及びα’相からなる複相組織であり、かつ、板表面を含む板表面近傍部が、γ単相組織、又は、50体積%未満のα’相とγ相との複相組織であるとともに、単独で又は混合して析出した窒化物、炭化物又は炭窒化物を有する、本実施の形態の無段変速機ベルト用準安定γ系ステンレス鋼板(Vベルト用リング)を製造することが可能である。
この実施の形態の無段変速機ベルト用準安定γ系ステンレス鋼板は、板厚方向の大部分を占める板厚中心部が強度及び延性のバランスに優れる準安定γ状態を維持するとともに、板表面近傍部での(N+C)の固溶と微細析出物による強化とにより耐摩耗性を大幅に向上でき、極めて優れた疲労特性を得ることができる。
本実施の形態では、このようにして本実施の形態に係る無段変速機ベルト用準安定オーステナイト系ステンレス鋼板を素材として、Vベルトのリングを製造することができる。
最後に、板製造中のC吸収の実施、製品板厚でのN化処理によっても同様の優れた性能を得られることを確認した。すなわち、処理を入れ替えた場合でも、板表面近傍部でのγ安定化と複合吸収による大幅な高性能化とがなされる。
このようにして、本実施の形態により、高強度で優れた延性、耐摩耗性さらには疲労特性を有する、信頼性が高い、CVTのVベルト用ステンレス鋼板、具体的には、さらに大きなトルクを発生するエンジンを搭載する車両にも搭載可能なCVTのVベルトの素材として用いるのに最適なステンレス鋼板を、工業的規模で安定して低コストで提供することができることとなった。
さらに、本発明を、実施例を参照しながら詳細に説明する。
供試材の組成を表1に示し、製造工程を表2に示し、さらに、N及び/又はC吸収を伴う熱処理、調質圧延後(表面硬化処理前の)諸特性を表3に示す。
試料は、実機溶製材及び実験室レベルの小型鋳塊より、板厚が4.0mmの熱間圧延後焼鈍板として、製造した。次いで、実験室レベルの設備を用い、冷間圧延及び焼鈍の繰返しからなる工程により板厚が0.5mmの冷間圧延板とした。
そして、表2に示した窒素又は炭素の吸収処理を伴う焼鈍工程、及び、強度調整のため調質(冷間)圧延工程により、板厚が0.2mm前後の薄板とした後、表面硬化(炭化、窒化)処理を施した。
なお、最終焼鈍は、窒素吸収処理は水素50体積%+窒素50体積%の混合ガス雰囲気中で、炭素吸収処理は水素50体積%+メタン50体積%の混合ガス雰囲気中で、さらに、窒素吸収又は炭素吸収処理は水素50体積%+窒素25体積%+メタン25体積%からなる混合ガス雰囲気中で、いずれも300秒間保持することにより、行った。調質圧延は、0.2mm前後の板厚において金属ベルトに必要と考えられるHvで500程度の硬度となるように圧延率を調整して室温で行った。さらに、表面硬化処理は表3に記載した以外の条件を固定して、16時間行った。
なお、雰囲気ガスは一部炭素、窒素成分を含まない他のガス(例:Ar等)も混合して行った。その後、以下の調査に供した。なお、これらの調査に際してNとCとの影響は等価と仮定した。
X線回折 :X線回折装置を用いて、板表面及び片面からのエッチングにより1/2の厚さにした後の面の回折パターンを測定した。この測定結果よりγ相の(220)ピークの重心法での回折角度から格子常数d(Å)を算出し、以下の経験式(a)により格子常数dの増加から(C+N)の合計固溶量(wt%)を算出した。また、表3の組織は各相ピーク積分強度比により算出し、面積率で10%以下の値を四捨五入した。なお、X線は、dがCo−Kα線、積分強度比がCu−Kα線を使用した。実質的な侵入深さは約10μmである。
d=3.5946+0.0348NcXRD ・・・・・ (a)
硬度 :マイクロビッカース硬度計を用いて、板表面及び埋込、研磨後の圧延方向垂直断面を加重0.49Nで測定し、測定数n=5での最大、最少を除く中央値3点の平均値を算出した。
曲げ性 :圧延方向と平行に採取した所定寸法の短冊状試験片について、曲げ半径R:4mmの直角曲げ金型と油圧プレス機を用いて加工した。次いで、光学顕微鏡ないしSEM(Scanning Electron Microscopy)を用いて、曲げ外周部表面での割れ有無を観察した。そして、割れの無い場合を○、有る場合を×として評価した。
耐摩耗性 :ピンオンディスク型の試験機を用いて、ベアリング用硬質鋼球を押付けた状態で試験片を一定条件で回転させた。その後、試験片を切断し、断面を埋込、研磨し、同押付け(摩耗痕)部の板厚減少量を測定し、測定数n=4での平均値により減少量を算出した。そして、減少量が10μm以下を○、越える場合を×にて評価した。
疲労試験 :曲げ軸と圧延方向が垂直になるようにして所定寸法の試験片を各48枚採取し、両振り式平面曲げ疲労試験機を用いて曲げ応力を600N/mmでの繰返し曲げを行い、10回繰返し後の破断の有無を調査した。全て破断しなかったものを○、1枚でも破断したものを×とした。なお、曲げ応力は以下により算出した。
σ=3×E×t×f/2L
σ:曲げ応力(N/mm
E:ヤング率(N/mm
t:板厚(mm)
f:振幅(mm)
L:試験片の測定長さ(mm)
表3に示す本発明例No.MA2、MA4、MA5より、N及び/又はCの吸収により板表面での(C+N)量が0.25%超に増加し、これに伴いγ相量も増加することが確認される。
また、板表面はγ単相となる。すなわち、板表面付近でのγ安定化による加工誘起α’変態の抑制が確認される。これらの効果は、本発明例No.MB〜MIに示す所定の成分の準安定γ鋼でも同様に確認される。
さらに、発明例No.MA1〜MA3からは、加熱温度1000℃以上、露点−40℃以下での焼鈍において板表面での(C+N)量、γ相量がいずれも増加することが確認される。
これに対し、比較例No.MJ、MLはマルテンサイト(:α’+フェライト:α)鋼であり、MJは板表面での(C+N)量の増加が確認されず、γ相量も変化しない。これは多量のSiの含有により強固な酸化被膜が形成されたためと考えられる。MLは板表面でのγ相の増加が認められるものの、その割合が50%と未達となった。また、比較例No.MK、MMは安定γ鋼であり板表面γ相の増加が認められない。
さらに、焼鈍条件に関して、比較例No.MA6は加熱温度が900℃と低く、MA7は露点が低く、充分なN及び/又はCの吸収がなされない。このため、板表面近傍部でのγ相量の増加も確認されない。このように、準安定γ鋼でのN及び/又はCの吸収による板表面近傍部でのγ安定化が確認される。
Figure 0004784217
Figure 0004784217
Figure 0004784217
表面硬化処理後の諸特性を表4に示す。発明例No.FA1〜FIは板中心部が素材とほぼ同等の(C+N)量を維持し、材料に必要と考えられるHv500前後の硬度を満足するのに対し、板表面近傍部は(C+N)量が0.6%超に増加し、Hv700以上へ硬化する。この結果、金属ベルトに必要となる特性(曲げ特性、耐摩耗性、疲労特性)を全て満足する。
一方、比較例No.FA61〜FA72は、N及び/又はCの吸収が不充分な効果処理前比較例No.MA6、MA7を素材とし、多量の析出物を伴う表面硬化により耐摩耗性が改善される反面、材料が脆化してしまい、ベルトに必要となる曲げ特性及び疲労特性が不芳である。また、比較例No.FJ、FLは板表面のγ相の割合が低く、同様に材料が脆化する。比較例No.FK、FMは安定γ鋼であり、FKは板厚中心部での析出により脆化し、ベルトに必要となる曲げ特性を満足せず(強度−延性バランスが不充分)、疲労特性も不芳であった。FMは板厚中心部での硬度がHv400に未達となり、曲げ性を満足したものの、疲労特性が不芳であった。
さらに、効果処理条件に関しては、比較例No.FA24は加熱温度が700℃と高く、板表面が多量の析出物により脆化し、板厚中心部では硬度がHv400以下に軟化した。この結果、曲げ性、疲労特性は大部分で不芳となった。
このように、N及び/又はCの吸収により板表面近傍部をγ安定化した準安定γ鋼への表面硬化処理の適用による効果、高性能化が確認される。
Figure 0004784217
以上より、準安定γ系ステンレス鋼の板表面近傍でのγ安定度を上昇させた材料に窒化処理、炭化処理ないし炭窒化処理を行うことにより、大部分を占める材料内部が強度−延性バランスに優れる準安定γ状態を維持した上で、板表面近傍では曲げ特性及び疲労特性の劣化を招く粗大な化合物を析出することなく、微細析出物の分散と(窒素+炭素)の固溶による強化で耐摩耗性を有効に向上できる。すなわち、本発明は無段変速機用金属ベルトに最適である。
CVTの駆動力の伝達の原理を模式的に示す説明図である。 Vベルトの構造を示す説明図である。 板表面でのX線回折パターンを示すグラフである。
符号の説明
1 CVT
2a、2b 円錐型ディスク
3a、3b 円錐型ディスク
2、3 滑車(プーリ)
4 Vベルト
5、6 金属製のリング
7 エレメント

Claims (16)

  1. 質量%で、C:0.15%以下、Si:0.1〜3.0%、Mn:6.0%以下、N:0.15%以下、Cr:3.0〜20.0%、Ni:4.0〜13.0%、さらに、(C+N):0.25%以下、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼組成であるとともにオーステナイト相単相で、N及び/又はCを吸収させる熱処理を行うことにより、板表面を含む板表面近傍部の(C+N)量が0.25%を超えるとともに、調質圧延と炭化及び/又は窒化処理とに供されることを特徴とする無段変速機ベルト用ステンレス鋼板。
  2. 板厚方向の中心を含む板厚中心部は、質量%で、C:0.15%以下、Si:0.1〜3.0%、Mn:6.0%以下、N:0.15%以下、Cr:3.0〜20.0%、Ni:4.0〜13.0%、さらに、(C+N):0.25%以下、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼組成であるとともにオーステナイト相及びマルテンサイト相からなる複相組織であり、かつ、N及び/又はCを吸収させる熱処理および調質圧延後における板表面を含む板表面近傍部は、オーステナイト単相組織、又は、50体積%未満のマルテンサイト相とオーステナイト相との複相組織であるとともに、炭化及び/又は窒化処理に供されることを特徴とする無段変速機ベルト用ステンレス鋼板。
  3. 前記板表面から10μmの深さの位置までにおける(C+N)量は0.25質量%超である請求項2に記載された無段変速機ベルト用ステンレス鋼板。
  4. 板厚方向の中心を含む板厚中心部は、質量%で、C:0.15%以下、Si:0.1〜3.0%、Mn:6.0%以下、N:0.15%以下、Cr:3.0〜20.0%、Ni:4.0〜13.0%、さらに、(C+N):0.25%以下、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼組成であるとともにオーステナイト相及びマルテンサイト相からなる複相組織であり、かつ、N及び/又はCを吸収させる熱処理および調質圧延し、炭化及び/又は窒化処理された後における板表面を含む板表面近傍部は、オーステナイト単相組織、又は、50体積%未満のマルテンサイト相とオーステナイト相との複相組織であるとともに、単独で又は混合して析出した窒化物、炭化物又は炭窒化物を有することを特徴とする無段変速機ベルト用ステンレス鋼板。
  5. 前記板表面から10μmの深さの位置までにおける(C+N)量は0.60質量%超である請求項4に記載された無段変速機ベルト用ステンレス鋼板。
  6. 前記板表面の硬度がHv600〜1100であるとともに、前記板厚中心部の硬度がHv400〜600であることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載された無段変速機ベルト用ステンレス鋼板。
  7. 前記板表面から10μmの深さの位置までにおけるオーステナイト相の割合は、前記板厚中心部におけるオーステナイト相の割合よりも10%以上高いことを特徴とする請求項から請求項までのいずれか1項に記載された無段変速機ベルト用ステンレス鋼板。
  8. 前記板表面近傍部におけるN濃度及び/又はC濃度は、前記板厚中心部におけるN濃度及び/又はC濃度よりも高いことを特徴とする請求項1から請求項までのいずれか1項に記載された無段変速機ベルト用ステンレス鋼板。
  9. 前記鋼組成は、さらに、質量%で、Mo:3.0%以下又はCu:3.0%以下の少なくとも1種を有することを特徴とする請求項1から請求項までのいずれか1項に記載された無段変速機ベルト用ステンレス鋼板。
  10. 前記鋼組成は、さらに、質量%で、Nb:0.01〜0.5%を有することを特徴とする請求項1から請求項までのいずれか1項に記載された無段変速機ベルト用ステンレス鋼板。
  11. 請求項4から請求項10までのいずれか1項に記載されたステンレス鋼板からなるリングを備えることを特徴とする無段変速機ベルト。
  12. 質量%で、C:0.15%以下、Si:0.1〜3.0%、Mn:6.0%以下、N:0.15%以下、Cr:3.0〜20.0%、及びNi:4.0〜13.0%を含有するとともに、(C+N):0.25%以下、残部Feおよび不可避的不純物である鋼組成を有するステンレス鋼板に、該ステンレス鋼板の板表面からN及び/又はCを吸収させて該板表面を含む板表面近傍部のみをオーステナイト安定状態とする熱処理を実施後、調質圧延を行うことによって、板厚方向の中心を含む板厚中心部はオーステナイト相及びマルテンサイト相からなる複相組織であり、かつ、板表面を含む板表面近傍部はオーステナイト単相組織、又は、50体積%未満のマルテンサイト相とオーステナイト相との複相組織であるとともに、炭化及び/又は窒化処理に供されるステンレス鋼板を製造することを特徴とする無段変速機ベルト用ステンレス鋼板の製造方法。
  13. さらに、前記の熱処理、調質圧延後に表面硬化処理をこの順で行うことを特徴とする請求項12に記載された無段変速機ベルト用ステンレス鋼板の製造方法。
  14. 前記N及び/又はCを吸収させる熱処理は、加熱温度1000℃以上及び露点−40℃以下で行われることを特徴とする請求項12又は請求項13に記載された無段変速機ベルト用ステンレス鋼板の製造方法。
  15. 前記表面硬化処理は、加熱温度600℃以下の条件で行われることを特徴とする請求項13又は請求項14に記載された無段変速機ベルト用ステンレス鋼板の製造方法。
  16. 前記表面硬化処理は、窒化処理、炭化処理又は炭窒化処理である請求項13から請求項15までのいずれか1項に記載された無段変速機ベルト用ステンレス鋼板の製造法。
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