JP4219863B2 - 高強度ベイナイト型窒化部品及びその製造方法 - Google Patents
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前記した特許文献1に記載の発明は、窒化処理後の表面硬さ、硬化深さを改善するのに効果の大きいMo、Vを複合添加することを特徴としている。確かにMo、Vは表面硬さ、硬化深さを改善するのに効果があるが、この2つの元素はかなり高価な添加元素であり、それをMoは0.5%以上(平均で1.0%)、Vは0.3%以上(平均で0.45%)添加するということは、従来鋼に比べかなりコスト高になるという問題がある。
C:0.20〜0.30%
Cは表面硬化処理である窒化処理によって強化することができない内部の強度(内部硬さ)を確保するために必要な元素であり、0.20%以上の含有が必要である。しかしながら、多量に含有させると窒化特性が低下するだけでなく、被削性、靭性が低下するので、上限を0.30%とした。
Siは、脱酸のために必要な元素であるとともに、焼もどし軟化抵抗を改善する元素であることが知られているが、Siは、靭性、冷間加工性を劣化させる元素でもある。従って、本発明では、その添加は脱酸のための最低限の量に抑える必要があり、その上限を0.25%とした。
Mnは、脱酸効果のある元素であるとともに、焼入性を高め基本的強度を改善する元素として添加されている元素である。しかし、一方で窒化処理時に窒素の拡散を阻害して窒化後の表面硬さ、硬化深さ低下の原因となる元素でもある。また、化合物層を極力生成させない条件で処理を行っても、必要とする硬化深さを得るためには、Mnの低減が不可欠となる。従って、窒化特性を最重視する本発明では、脱酸の効果及び焼入性については、Cr等の他の元素の添加によって補充することとし、他元素の補充ではカバーできない最低限の量(0.5%未満)のみMnを添加することとした。望ましくは0.30%以下とするのが良い。
Pは製造時に少量の混入が避けられない元素であるが、粒界の強度を低下させ、疲労特性を悪化させる原因となるため、その上限を0.03%以下とした。
SはMnSとなって鋼中に存在し、被削性を改善する元素として良く知られているが、一方で耐面圧疲労強度を低下させる元素でもある。そして本発明では、浸炭品により近い耐ピッチング強度を得ることを目的としており、そのためには、Sは不純物として通常含有するレベル以内に抑える必要があるため、上限を0.050%とした。
Crは、焼入性を改善する効果のある元素であるが、前記した通り焼入性向上に効果の大きい元素であるMnを硬化深さ確保のために低減しているため、Crの添加によって、Mnの低減に伴い不足した焼入性を補充する必要がある。また、Crは内部硬さを改善する効果を有するとともに、Nと結びつきやすい元素であり、窒化処理後の表面硬さ、硬化深さを改善する効果も有する。従って、これらの効果を十分に得るために最低でも1%を超えて含有させることとした。しかしながら、多量に含有させすぎると内部硬さが上昇しすぎて被削性、冷間加工性が低下するとともに、靭性が低下するので、上限を2.00%とした。また、CrはNの拡散を阻害する元素であるので、2.0%を超えて添加しても、効果が飽和したり、かえって硬化深さが低下する場合がある。従って、その点からも上限を2.0%とする必要がある。
Moは窒化処理後の表面硬さ、硬化深さを高める効果を有するとともに、Bs変態温度を低下させ、ベイナイト組織のパケットサイズを小さくし、曲げ強度を改善する効果のある元素である。また、Moは、焼入性を向上させ、ベイナイト組織を得るのに必要な元素でもある。従って、その効果を得るために最低でも0.10%以上の含有が必要である。しかしながら、Moは比較的高価な元素であり、多量に含有させるとコスト高となり望ましくないため、上限を0.50%未満とし、それにより効果に不足がある場合には、他元素の添加で補うこととした。
Alは、脱酸のために必要な元素として良く知られているが、窒化処理後の表面硬さを大きく向上させる元素でもあるため、脱酸のために必要な量を大きく超えて添加する必要があり、下限を0.1%超とした。しかしながら、Alは鋼中の酸素と結びついて酸化物系介在物となりやすい元素であり、多量に含有させると介在物が増加して被削性、疲労特性が低下するとともに、Nの拡散を阻害して硬化深さが低下するため、上限を0.2%とした。
本発明ではTiは任意添加元素としているが、高温加熱時に大きな結晶粒微細化効果を有するため、鍛造前の加熱温度を高めとする場合には、必要に応じて適量添加することが好ましい。特に鍛造時に加工度の低い部位では粗大化が起き易いので、Tiを添加することによりその防止を図ることが必要である。しかし、多量に含有させるとTiN等の大きな析出物となって析出しやすく、その結果ピッチング破壊の起点となって耐ピッチング強度が低下するので、上限を0.10%とした。
Nは鋼中でAlN等の窒化物となって結晶粒を微細化する効果を有するとともに、Vと結合して析出することにより、内部硬さ向上に寄与する元素である。従って0.0060%以上の含有が必要である。しかしながら、多量に含有させると熱間鍛造前の加熱でVNを十分に固溶させることができなくなり、鍛造後の冷却でV炭窒化物を微細析出させた状態とすることができず、内部硬さが低下するため、上限を0.0200%とした。
C、Mn、Cr、Moはベイナイト変態開始温度であるBsを低下させる元素であり、この式を満足するようにC、Mn、Cr、Moを添加することによりベイナイト組織中の平均パケットサイズを10μm以下に抑え、曲げ強度改善が可能となるものである。従って、C、Mn、Cr、Moの各元素を前記した範囲内とした上で、さらに上記式を満足するように添加量を調整する必要がある。
本発明では、ベイナイト組織中の平均パケットサイズを10μm以下とすることにより曲げ強度の改善を図っているが、平均パケットサイズが10μm以下であっても内部硬さが低いと優れた曲げ強度が得られなくなる。従って、内部硬さに影響の大きい元素であるC、Mn、Cr、Vを上記式を満足するように含有させることによって、必要とする強度の得られる内部硬さを確保しようとするものである。なお。C、Mn、Cr、Vは、添加量が増加するほど内部硬さが高められるものの、あまり高くなると被削性等の加工性が低下する。従って、実施される加工の難易度に応じて上限を設定する必要があり、31以下程度とするのが望ましい。
ベイナイト組織の面積率が70%以上であるベイナイト+フェライト組織
組織をベイナイト+フェライト組織としたのは、他の組織に比べ強度と加工性(被削性)のバランスが取れているからである。すなわち、フェライトパーライト組織とした場合には加工性は優れているが内部硬さが低下して強度が劣り、マルテンサイト組織が生じた場合には、逆に強度は高いが加工性が劣るという問題が生じるからである。また、フェライト組織が多い場合も十分な強度が得られないため、ベイナイト組織の面積率の下限を70%とした。なお、強度と加工性を両立させるために最適な内部硬さとしては、具体的には、HV250〜330の範囲とするのが良い。
繰返し説明しているように、本発明でベイナイト組織の平均パケットサイズを10μm以下としているのは、優れた曲げ強度を得るためである。同じベイナイト面積率、同じ硬さであっても、ベイナイトパケットが大きくなると、曲げ強度が低下するからである。なお、実際のベイナイトパケットの中には、細長い形状のものもあるので、本発明で言うパケットサイズとは、パケットの面積から円相当直径に換算した値のことを言うものとする。
表面硬さがHV650以上、硬化深さが0.2mm以上という条件は、優れた耐ピッチング強度、曲げ強度を得るための必須条件である。特に表面硬さは、望ましくはHV700以上とした方が良い。また、硬化深さも浸炭品に近い優れた強度を得るためにはより深くした方が良いが、深くするためには長時間処理する必要があり、コスト面で不利になることと、深くすると窒化処理後半により低い窒化ポテンシャルに設定しないと化合物層の生成を抑制できなくなり、窒化処理の効率が低下するため、上限を0.5mm以下程度とするのが良い。なお、本発明において硬化深さとは硬さがHV450以上となっている深さを言う。
前記した通り、化合物層が生成すると、部品が膨張するため、部位によって厚みにばらつきがあり、膨張量に違いが生じると、歯車の噛み合いに悪影響を及ぼし、静粛性低下の原因となる。本発明では、低歪の窒化部品を得ることを目的としているため、極力その生成を抑える必要があり、その平均厚さを1μm以下に限定した。望ましくは、全く0とするのが良い。
加熱温度T(℃)>900+500V+7900N
本発明では、鋼中にV炭窒化物を微細析出させた状態として、内部硬さを改善し、必要な強度を確保している。そして、そのような析出状態を得るためには、熱間鍛造前の加熱で一度V炭窒化物を十分に固溶させておく必要がある。すなわち、固溶させておかないと、粗大なV炭窒化物が残存した状態となってしまうからである。V炭窒化物を十分に固溶させるためには、含有するVとNの量に応じて加熱温度を調整する必要があり、熱間鍛造前に上記式を満足するような温度T(℃)に加熱することとした。また、加熱温度が低くなると、結晶粒が細かくなりすぎて焼入性が低下するため、鍛造後に後述する条件で冷却しても、フェライトが生じやすくなり、強度が低下するという問題もあり、その点からも加熱温度の下限の限定が必要である。
熱間鍛造を900℃以上で行う必要があるのは、900℃以下の温度域では、後述するように冷却速度を適切に制御してV炭窒化物の析出状態を制御する必要があるためである。また、900℃未満になると変形抵抗が高くなって、鍛造機への負荷が大きくなるため、その点からも900℃以上で鍛造することが必要である。
本発明では、熱間鍛造前の加熱でV炭窒化物を十分に固溶させ、それを熱間鍛造後の冷却過程で微細析出させ、内硬を高め必要な強度を確保することを特徴としている。
しかしながら、冷却速度が遅くなると析出したV炭窒化物が成長し、粗大化するため、微細に析出した状態とならない。900〜700℃の間を15℃/分以上で冷却することにしたのは、V炭窒化物をより微細に析出できる条件で冷却することによって、内部硬さ向上への効果を大きくするためである。
この温度域は変態温度領域に相当しており、この温度域の冷却条件によって、得られる窒化部品の組織が大きく変化する。本発明では、前記した通り、強度と加工性の面からベイナイト又はフェライト+ベイナイト組織(ベイナイト主体)としており、上記指定した速度より遅い場合には、パーライト変態が生じ組織がフェライト・パーライト組織となり、内硬の低下、処理時間の長時間化が問題となり、上記指定した時間より速い場合には、マルテンサイト組織が生じて冷間加工性が著しく低下するため、平均冷却速度を15〜150℃/分と規定した。
ここで指定した窒化温度のうち低い方の温度は、従来鋼でも通常の如く行われている条件であり、特別な条件ではない。しかし、低い温度で処理した場合でも、前記した効果は同様に得ることができるため、従来の処理温度を含む範囲に設定した。但し、低すぎると窒化反応の進行が遅くなり、効率的な処理が困難となるため、下限を550℃とした。
以上の評価結果も合わせて表2に示す。
2 ベイナイトパケット粒界
Claims (2)
- 質量%で、C:0.20〜0.30%、Si:0.25%以下、Mn:0.50%未満、P:0.03%以下、S:0.05%以下、Cr:1.00超〜2.00%、Mo:0.10〜0.50%未満、V:0.10〜0.50%、Al:0.10超〜0.20%、Ti:0.10%以下、N:0.0060〜0.020%以下を含有し、かつ18<27C+9Mn+7Cr+8Mo及び22<37C+6Mn+8Cr+11Vの条件を満足し、残部がFe及び不純物元素からなる成分を有し、ベイナイト組織の面積率が70%以上であるベイナイト+フェライト組織からなり、ベイナイト組織の平均パケットサイズが10μm以下であり、窒化処理後の表面硬さがHV650以上、硬化深さ(硬さがHV450以上の深さ)が0.2mm以上であり、表層の化合物層の平均厚さが1μm以下であることを特徴とする高強度ベイナイト型窒化部品。
- 請求項1に記載の成分からなる圧延鋼材をT℃(T=900+500V+7900N)を超える温度に加熱して、900℃以上の温度で鍛造し、鍛造後の900〜700℃の間の平均冷却速度を15℃/分以上、700〜400℃の間の平均冷却速度を15〜150℃/分の条件で冷却し、550〜650℃の温度で窒化処理することを特徴とする高強度ベイナイト型窒化部品の製造方法。
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