JP4779106B1 - 抗菌性水処理剤 - Google Patents

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Abstract

【課題】ポリエチレンに高い安全性等を有する銀ゼオライトを含有する抗菌性水処理剤を前提とするものであって、上記ポリエチレンの表面のみならず内部に含有する銀ゼオライトを有効に利用できる抗菌性水処理剤を提供する。
【解決手段】本発明の抗菌性水処理剤は、ポリエチレンに銀ゼオライトを含有する抗菌性水処理剤であって、銀ゼオライトがA型結晶構造であり、10〜30重量%の範囲で含有されており、銀ゼオライトから抗菌性水処理剤の表面に連通孔を形成して成る多孔体であり、多孔体の連通孔が銀ゼオライトの含有する結晶水により形成されてなることを特徴とする。
【選択図】 図1

Description

本発明は、ポリエチレンに銀ゼオライトを含有する抗菌性水処理剤に関し、詳細には、その抗菌性水処理剤の表面のみならず内部に含有した銀ゼオライトが、ウォーターサーバー、水タンク、空調機、洗濯槽、流しの排水機構、排水用配管設備、水系洗浄機等の各種の用途の水を汚染する細菌を、上記表面と内部から銀イオンを溶出して抗菌する抗菌性水処理剤に関する。
上記各種の用途の水を汚染する細菌の増殖を抑制するのに、銀ゼオライトは、高い安全性を有すること、広範な抗菌スペクトルを有すること、優れた耐久性を有すること、耐性菌の発生のないことから、他の抗菌剤と比べて機能性に優れていることで最もよく利用されている。しかし、銀ゼオライトが粉体であるので水に流れて取扱いが難しい問題があり、その解決策として樹脂に銀ゼオライトを含有させて、抗菌性水処理剤としてプラスチック粒状体にしたものが市販されている。そのプラスチック粒状体に関する特許文献として、特許文献1の抗菌性組成物が知られている。この抗菌性組成物は、銀ゼオライトとベントナイトを3〜4時間混和してペレットに成形し、焼成を510〜520℃で4.5時間行う工程を経て抗菌性組成物を得ている(特許文献1参照)。しかし、この抗菌性組成物は、その表面に存在する銀ゼオライトが抗菌作用を発揮するが、その内部に含有された銀ゼオライトは抗菌作用を発揮できないために、その抗菌性組成物の抗菌作用は1ケ月程度の短期間にしか発揮できない。銀ゼオライトの含有量を増やしても内部の銀ゼオライトは抗菌作用に関係しないので、その抗菌作用は2ケ月程度であり、その内部の銀ゼオライトが抗菌作用を発揮できないことが問題として指摘されている。
その問題点を解決するために、特許文献2の菌樹脂成型物が提案されている。この菌樹脂成型物は、ポリオレフィン系樹脂に銀系無機抗菌剤(銀ゼオライト)、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のハロゲン塩を含有するものであり、この抗菌樹脂成型物をウォーターサーバーの貯水槽に浸漬して、銀イオンをウォーターサーバーの貯留水中に除放することで、水棲細菌の増殖を3ヶ月にわたって抑制できたことが記載されている(特許文献2、特に表4参照)。
特開昭60-100504号公報 特開2008-174576号公報
特許文献2の抗菌樹脂成型物は、銀ゼオライトとハロゲン塩の存在する位置が異なるために、ハロゲン塩が溶解した後の微細な空孔は、その空孔に銀ゼオライトが存在しなければ、銀イオンを溶出する通路とならないので、多くの銀ゼオライトは水に接触できずに有効な抗菌作用が働かないので、上記抗菌樹脂成型物の抗菌作用が働く期間は4ケ月程度と推測される。このように引用文献2の抗菌樹脂成型物は、樹脂中に含有する多くの銀ゼオライトが抗菌作用を発揮できないために、その単価が高い銀ゼオライトが有効に利用されずに無用なものとなっている。
それ故に、本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、ポリエチレンに高い安全性等を有する銀ゼオライトを含有する抗菌性水処理剤を前提とするものであって、上記ポリエチレンの表面のみならず内部に含有する銀ゼオライトを有効に利用できる抗菌性水処理剤を提供することを課題とする。
従来からプラスチック粒状体に含有させるA型結晶構造の銀ゼオライト(以下「A型銀ゼオライト」という)は、250℃で乾燥したものを用いるが、本発明の抗菌性水処理剤のA型銀ゼオライトは、110℃で乾燥したものを用いているので、その骨格に16.8重量%の結晶水を含有している。そのために、押出機で成形する際に水蒸気を生成してプラスチック粒状体を白化することに着目して、押出機にポリオレフィン型樹脂のペレットと結晶水を含有したA型銀ゼオライトを投入して造粒を試みようとした。しかし、上記ペレットは、250℃で乾燥させて水分を除去したものを押出機に投入するのがこの業界の技術常識である。それは、水分含有のペレットを押出機に投入した場合、水分の存在が成形されたペレットの質を劣化させるため、そのペレットで射出成形された射出成形体が低品質になるからである。そのために、押出機に水含有のペレットや充填剤等を投入して、プラスチック粒状体を成形することは専門家がやってはならないこととされている。
そのために、押出機にそのA型銀ゼオライトを投入してプラスチック粒状体を成形する試みは多大な困難があったが、本発明者は、敢えて上記A型銀ゼオライトを押出機に投入して上記成形体を成形したところ、A型銀ゼオライトからその成形体の表面に連通孔が形成される多孔体が得られ、その多孔体の連通孔から溶出する銀イオン量が大量であることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、以下の通りのものである。
請求項1に係る抗菌性水処理剤は、ポリエチレンに銀ゼオライトを含有する抗菌性水処理剤であって、前記銀ゼオライトがA型結晶構造であり、10〜30重量%の範囲で含有されており、該銀ゼオライトから前記抗菌性水処理剤の表面に連通孔を形成して成る多孔体であり、該多孔体の連通孔が上記銀ゼオライトの含有する結晶水により形成されてなることを特徴とする。
請求項2に係る抗菌性水処理剤は、前記ポリエチレンのメルティングフローレートが7〜30g/10分の範囲にあり、その融点が120〜140℃の範囲にあることを特徴とする。
請求項3に係る抗菌性水処理剤は、前記銀ゼオライトの担持する銀担持率が0.5〜5.0重量%の範囲にあることを特徴とする。
請求項4に係る抗菌性水処理剤は、前記ポリエチレンが低密度ポリエチレン又は高密度ポリエチレンであることを特徴とする。
請求項5に係る抗菌性水処理剤は、前記抗菌性水処理剤100g中の銀ゼオライトから硝酸で溶解して得られる全ての銀イオン濃度が、1.3〜64ppmの範囲にあることを特徴とする。
請求項6に係る抗菌性水処理剤は、前記抗菌性水処理剤100g中の銀ゼオライトから硝酸で溶解して得られる全ての銀イオン量が、27〜1277mgの範囲にあることを特徴とする。
請求項7に係る抗菌性水処理剤は、前記抗菌性水処理剤100g中の銀ゼオライトから硝酸で溶解して得られる全ての銀イオン量を、上記銀ゼオライトと同量のA型銀ゼオライト粉体を硝酸で溶解して得られる全ての銀イオン量で割って得られた値である銀イオン量の利用率が、53〜85%の範囲にあることを特徴とする。
請求項8に係る抗菌性水処理剤は、前記抗菌性水処理剤にガラスビーズを含有し、その含有率が10〜30重量%の範囲にあることを特徴とする。
本発明の抗菌性水処理剤は、銀ゼオライトからその表面に連通孔を形成する多孔体であるから、その水処理剤に含有する銀ゼオライトの酸溶解銀イオン濃度が1.3〜64ppmの範囲にあり、酸溶解銀イオン量が27〜1277mgの範囲にあるから、広範な領域まで拡げられるので、ウォーターサーバー、水タンク、空調機、洗濯槽、流しの排水機構、排水用配管設備、水系洗浄機等の各種の用途に利用することができ、また、浸漬する抗菌性水処理剤を増減することで何れの用途にも対応することができる。
また、本発明の抗菌性水処理剤は、その水処理剤に含有する銀ゼオライトの銀イオン量利用率が53〜85%の範囲にあるので、単価の高い銀ゼオライトが有効に利用されており、経済性の向上を図ることができる。
また、本発明の抗菌性水処理剤の酸溶解銀イオン量は、市販品のその量に対して12倍の量であるから、同量の銀ゼオライトを含有した市販品のものに比べて、大量の銀イオンを溶出できることを意味しているので、長期に渡って抗菌作用を奏することができる。
更に、ウォーターサーバーの貯水槽、水タンク等の水槽に本発明の抗菌性水処理剤を浸漬する場合に、その処理剤に含有率が10〜30重量%の範囲にあるガラスビーズを含有させることで、水に沈降させて銀イオンを溶出させることができる。
ペレット状の抗菌性水処理剤の横断面の40倍の電子顕微鏡写真である。 ペレット状の抗菌性水処理剤の側面の40倍の電子顕微鏡写真である。
最初に、抗菌性水処理剤の製造方法について説明する。その後に抗菌性水処理剤を説明する。
以下に説明する抗菌性水処理剤等で用いる%は重量%を示す。
本発明の抗菌性水処理剤の製造方法の概要は以下の通りである。
銀ゼオライトは、一般に三次元骨格構造を有するアルミノシリケートであり、一般式としてxM2/nO・Al23・ySiO2・zH2Oで表示される。ここで、Mはイオン交換可能な金属を表し、nはそのイオンの価数を表し、通常は1又は2価の金属のイオンである。xは金属酸化物のモル数、yはシリカのモル数、zは結晶水のモル数を表示している。銀ゼオライトの具体例としては、最も利用されているA型ゼオライトを挙げることができる。上記抗菌性ゼオライトの粒径は平均粒径で0.1μm〜20μm、好ましくは0.4μm〜9.0μm、特に好ましくは0.7μm〜3.5μmである。A型銀ゼオライトのイオン交換容量は7meq/gであり、イオン交換するのに充分な容量を有している。
ところで、110℃で乾燥させたA型銀ゼオライトは、押出機に投入される前には16.8%の結晶水を含有する。このA型銀ゼオライトは、Si−O−Al−O−Siの構造を三次元的に結合した結晶構造中のAl部分に、静電気的に銀イオンが吸着された構造を有しており、イオン交換作用により上記結晶構造中の銀イオンが溶出して細菌を殺菌する、そして、A型銀ゼオライトの上記骨格に16.8%の水が含まれている。
押出機の第1ホッパーよりボリエチレンを投入して溶融させ、その溶融ポリエチレンに第2ホッパーよりA型銀ゼオライトを投入して混練して、最後に押出し冷却してカッターでペレット状に切断により抗菌性水処理剤が形成される。上記16.8%の結晶水を含有するA型銀ゼオライトは、該A型銀ゼオライトが120〜140℃の温度で加熱されるため、上記混練されている間に上記A型銀ゼオライトに含まれる結晶水が蒸気化されて気泡を発生し、その気泡が溶融した上記ポリエチレンの内部から外部に放出した状態で冷却されて、カッターでペレット状に切断されるので、抗菌性水処理剤の表面に連通孔が形成される。
(A型銀ゼオライト)
A型銀ゼオライトの結晶水の蒸発によりポリエチレンに連通孔を形成するには、A型銀ゼオライトが結晶水を含んでいることが重要である。
A型銀ゼオライトの工業製品は結晶水を含有しており、その含有量は乾燥条件により相違する。110℃で乾燥したA型銀ゼオライトは、16.8%の結晶水を含有する。プラスチック粒状体に用いられるA型銀ゼオライトは、上記結晶水含有のA型銀ゼオライトが水蒸気を生成してプラスチック粒状体を白化するために、樹脂の溶融温度より低い乾燥温度で作製されたA型銀ゼオライトを使用することはない。それ故に、結晶水が影響しないように250℃又はそれ以上の温度で乾燥したA型銀ゼオライトを用いている。100℃以下で乾燥したA型銀ゼオライトは結晶水が安定しないので、110℃乾燥のA型銀ゼオライトが好ましい。A型銀ゼオライトを用いた製品にはゼオミックAJ10N(シナネンゼオミックス(株)(銀イオン担持量2.2%))等がある。
なお、X型又はY型銀ゼオライトを用いても抗菌性水処理剤を作製できるが、X型又はY型銀ゼオライトの結晶水が少ないために連通孔が形成し難くなるので好ましくない。
(ポリエチレン)
A型銀ゼオライトの結晶水の蒸発によりポリエチレン(以下、「PE」という)に連通孔を形成するには、MFRが7〜30g/10分の範囲にあって、融点が120〜140℃の範囲にあることが好ましい。110℃で乾燥させた工業製品のA型銀ゼオライトは、16.8%の結晶水を含有する。その結晶水を蒸発させて抗菌性水処理剤の表面に連通孔を形成するには、MFRが7g/10分以下では粘性が大きくて連通孔が形成し難い。MFRが30g/10分以上では流動性が大きく蒸気孔ができても押出機の撹拌で消滅する。PEの溶融温度である融点が110℃以下ではA型銀ゼオライトの結晶水が放出されず、140℃以上では撹拌により蒸気が微細化して連続した孔が形成され難い。
MFRが7〜30g/10分の範囲にあって、融点が120〜140℃の範囲にあることが重要である。
なお、ポリプロピレン又はポリエチレンテレフタレートを用いて抗菌性水処理剤を作製できるが、110℃で乾燥のA型銀ゼオライトの結晶水が140℃以上の温度で加熱されるために連通孔が形成し難くなるので好ましくない。
PEは、上記MFRの範囲にあればLDPE及びHDPEを用いることができる。LDPEには、ペレット状ではノバテックLD LJ8041(日本ポリプロ(株))、MFRが23g/10分、融点が123℃のものがあり、粉末状ではサンファインPAKFタイブ(旭化成ケミカルズ(株))、MFRが10g/10分、融点が125℃のものがある。HDPEには、ニポロンハード1000(東ソー(株))、MFRが20g/10分、融点が134℃を挙げることができる。
PEとA型銀ゼオライトの含有率の関係は、本発明の抗菌性水処理剤が用いられる用途により決定される。例えば、ウォーターサーバーの貯水槽であれば、銀イオン濃度が40〜100ppbである必要があり、PEの含有率は70〜90%の範囲が好ましい。空調機のドレーン受けであれば、抗菌作用が発揮できる期間が長い方がよいので、上記含有率は60〜80%の範囲が好ましい。この様に用途に適合した含有率を選べばよい。
(抗菌性水処理剤)
上述したように、A型銀ゼオライトの骨格に結晶水である16.8%のHOが静電気的に結合していて、混練後の押出工程でその結晶水がPEの上記A型銀ゼオライトの骨格から蒸気となって気泡を発生し、抗菌性水処理剤の表面に連通孔を形成する。その連通孔が抗菌性水処理剤に形成されていることを確かめるために、ペレット状の抗菌性水処理剤の横断面と側面を電子顕微鏡で撮影して確認した。
図1はペレット状の抗菌性水処理剤の横断面の40倍の電子顕微鏡写真である。
図2はペレット状の抗菌性水処理剤の側面の40倍の電子顕微鏡写真である。
図1の写真は中心部に大きな複数の穴が示されているが、中心部付近で発生した蒸気は外部に排出されずに中心部に集合して大きな穴を形成しており、それ以外の場所には非常に小さな孔が無数に形成されている。また、図2の写真は吐出口から押し出されるために、上下方向に延びた細長い孔が無数に形成されている。この2枚の写真は、結晶水がPEのA型銀ゼオライトの骨格から蒸気となって気泡を発生し、抗菌性水処理剤の表面に連通孔が形成されている多孔体であることを示している。
それ故に、抗菌性水処理剤は、それを水に浸漬すると、水がその表面の全ての孔から連通孔を通って、水中の金属イオン(カルシウム、カリウム、ナトリウム等)がA型銀ゼオライトに触れてイオン交換が行われ、そのA型銀ゼオライトから銀イオンが解離して連通孔を通ってその表面から銀イオンが流出できる構造、即ち、A型銀ゼオライトの骨格から抗菌性水処理剤の表面に連通孔が形成されている多孔体であることは明らかである。
しかしながら、図2の写真は、細長い孔が上下方向に延びて形成されているので、上記したA型銀ゼオライトの骨格の全てから抗菌性水処理剤の表面に連通孔が形成されていないことも示している。従って、樹脂中に含有されているA型銀ゼオライトを後述する酸処理して溶解させて銀イオンを生成し、その銀イオン濃度の測定により銀イオン量の定量化を行う必要がある。その銀イオン濃度を測定するために、以下に述べる高周波誘導結合プラズマ発光分析装置を用いて銀イオン濃度の測定を行い、その銀イオン濃度の計測値から計算により銀イオン量の定量化を行った。
(銀イオン濃度の測定)
上記プラスチック粒状体のA型銀ゼオライトの銀イオン量を実測することは不可能であるが、水に溶出する銀イオン濃度を測定してA型銀ゼオライト銀イオン量を測定できる。しかし、銀イオンの溶出はイオン交換が長期間にわたって平衡が継続するので、測定には1年以上の長期間を要すること、また、水中の金属イオン(カルシウム、カリウム、ナトリウム等)の条件によって銀イオン濃度が異なること、これらのことがA型銀ゼオライトの銀イオン濃度を測定することを困難にしている。
その問題を解決する銀イオン濃度の測定方法が特開2008−1557号公報に提案されている。この銀イオン濃度の測定方法は、銀イオンを含有するプラスチック粒状体が、抗菌性ゼオライトを構成するアルミ二ウム成分が酸に対して比較的弱いという該ゼオライトの性質により、酸処理により該ゼオライト中のイオン交換されたイオンが液相中へ溶解するという現象を利用している。そして、上記特許文献には、得られた液相中の銀イオン濃度を原子吸光法により測定したところ、酸処理により測定された銀イオン濃度(測定値)と化学理論に基づき計算した銀イオン濃度(理論値)との比較結果は、両者がほぼ一致したことを示していことから、酸処理に基づいて抗菌性ゼオライトの銀イオン濃度を測定できると判断した旨が記載されている。
上述した酸処理による銀イオン濃度の測定方法に基づき、酸処理液として硝酸を用いて銀イオンの生成を行った。具体的には、50℃、500mlの水溶液に規定濃度が12NのHNO(12N(規定濃度))を混合した硝酸溶液に、プラスチック粒状体である抗菌性水処理剤を3時間浸漬することで、硝酸処理により銀イオンを生成してその銀イオン濃度の測定を行った。この硝酸処理は、非常に短時間である3時間で銀イオンを生成し、また、水中の金属イオン(カルシウム、カリウム、ナトリウム等)の条件と無関係にその銀イオン濃度を測定できるものである。そして、ポリオレフィン樹脂であるPEは硝酸溶液に溶解されることはない。
上述したA型銀ゼオライトは、PEに含有する抗菌剤をA型銀ゼオライトとして説明してきたが、PEに含有しない粉体であるA型銀ゼオライトも同じものを意味しているので、A型銀ゼオライトの銀イオン濃度の測定により得られた両者の銀イオン量が混同されるのを避けるために、PEに含有しない粉体であるA型銀ゼオライトを「A型銀ゼオライト粉体」と定義して、PEに含有する抗菌剤のA型銀ゼオライトと区別して用いる。
(ガラスビーズ)
本発明の多孔体である抗菌性水処理剤は、ウォーターサーバーの貯水槽、水タンク等の水槽にそれを浸漬しようとすると、多孔体であるために水に浮上して浮上した部分から銀イオンが水中に溶出し難くなるので、水に沈降させて銀イオンを溶出させることが好ましい。そのためには、抗菌性水処理剤にガラスビーズを含有させる必要がある。ガラスビーズは、水に溶出分のないEガラスを用いて、PEに含有率10〜30重量%を含有させることで、抗菌性水処理剤を水に沈ませることができる。平均粒径10〜20μmの中実の球状体で比重2.6のEガラスビーズとしてEA−150(日東紡(株)製品)がある。例えば、PEにガラスビーズを20重量%配合して見かけの比重を1.24とすることができる。ガラスビーズの配合により水に沈む抗菌性水処理剤に比重を調整することができる。ガラスビーズの配合率は10〜30重量%の範囲とする。30重量%以上の配合は比重調節としてオーバースペックとなり、10重量%以下では調節が不充分となる。
実施例としてPEに銀担持率0.5、2.2及び5.0%のA型銀ゼオライトを含有率20%で含有させた抗菌性水処理剤の実施例1〜3を以下に説明する。
(実施例1)
実施例1として、LDPEであるノバテックLD L18041(日本ポリエチレン(株)製品)、A型銀ゼオライトである110℃で乾燥したゼオミックAW10N(シナネンゼオミックス(株)製品、銀担持率0.5%)を用いた。
上記LDPEは、そのMFRが23g/10分で、その融点が123℃であり、その配合量が80%である。A型銀ゼオライトの配合量は20%である。
上記LDPEのペレット及びA型銀ゼオライトを押出機のホッパーに投入する。その後に、約140℃に加熱された押出機の加熱・冷却装置で上記ペレットとA型銀ゼオライトが溶融されながら混練されて、最後に押し出されてカットすることで抗菌性水処理剤が形成される。上記16.8%の結晶水を含有するゼオライトは、該ゼオライトが約140℃の温度で加熱されるため、混練し、押し出されるLDPE中のA型銀ゼオライトから蒸気を発生して連通孔が形成された。
(実施例2)
実施例2として、LDPEであるノバテックLD L18041(日本ポリエチレン(株)製品)、A型銀ゼオライトである110℃で乾燥したゼオミックAJ10N(シナネンゼオミックス(株)製品、銀担持率2.2%)を用いた。
上記LDPEは、実施例1と同様のMFR、融点及び配合量である。同様にA型銀ゼオライトの配合量は20%である。また、抗菌性水処理剤の形成方法も実施例1と同様であるから、説明を省略する。
(実施例3)
実施例3として、LDPEであるノバテックLD L18041(日本ポリエチレン(株)製品)、A型銀ゼオライトである110℃で乾燥したゼオミックAK10N(シナネンゼオミックス(株)製品、銀担持率5.0%)を用いた。
上記LDPEは、実施例1及び2と同様のMFR、融点及び配合量である。同様にA型銀ゼオライトの配合量は20%である。また、抗菌性水処理剤の形成方法も実施例1及び2と同様であるから、説明を省略する。
(比較例)
比較例として、LDPEであるノバテックLD L18041(日本ポリエチレン(株)製品)、A型銀ゼオライトである250℃で乾燥した銀担持率2.5%のA型銀ゼオライトを用いた。上記LDPEは、実施例と同様のMFR、融点及び配合量である。同様にA型銀ゼオライトの配合量は20%である。
上記LDPEのペレット及びA型銀ゼオライトを押出機のホッパーに投入する。その後に、約140℃に加熱された押出機の加熱・冷却装置で上記ペレットとA型銀ゼオライトが溶融されながら混練されて、最後に押し出されて比較例の抗菌性水処理剤が形成される。
上記A型銀ゼオライトは250℃で乾燥されているので、約140℃の温度で加熱されてもLDPE中のA型銀ゼオライトから蒸気は発生しないので、比較例の抗菌性水処理剤は、A型銀ゼオライトからその表面に連通孔が全く形成されていない。この比較例は市販品として利用されているものと同じ条件で調整した。
(銀イオン量の定量)
実施例及び比較例の抗菌性水処理剤の重量は、全て100gを前提として後述する銀イオン量、酸溶解銀イオン量、銀イオン量利用率を求めたが、酸溶解銀イオン濃度の測定には、上記実施例及び比較例の抗菌性水処理剤の重量は、全て2.5gを用いて測定した。具体的には、50℃、500mlのHNO(12N(規定濃度))溶液に、実施例及び比較例の抗菌性水処理剤の重量は、全て2.5gのものを上記HNO溶液に3時間浸漬して酸処理を行い、酸溶解した銀イオンの濃度を高周波誘導結合プラズマ発光分析装置(ICPS−8100、島津製作所株式会社製)により測定した。
上記分析装置は、10ppmまでの濃度であれば測定できるが、それ以上の濃度を測定する場合には希釈して測定する必要があるので、上記抗菌性水処理剤2.5gを用いて測定した。
その測定して得られた銀イオン濃度から計算により銀イオン量を算出した。そして、A型銀ゼオライト粉体の銀イオン量に対して、測定して得られた銀イオン濃度から算出した銀イオン量の比率を、銀イオン量利用率として求めた。
酸溶解銀イオン濃度を測定して得られた結果及びその結果から計算して得られた酸溶解銀イオン量、銀イオン量利用率の結果は表1に示すとおりである。
抗菌性水処理剤の銀イオン量Aは、抗菌性水処理剤100g中に含有されるA型銀ゼオライト粉体を酸溶解して得られた銀イオンの重量(mg/100g)であり、酸溶解銀イオン濃度は、上記高周波誘導結合プラズマ発光分析装置で測定された測定値(ppm)である。酸溶解銀イオン量Bは、上記測定値から計算により得られた計算値(mg)であり、銀イオン量利用率は、銀ゼオライトを酸溶解して得られた銀イオン量Bを、A型銀ゼオライト粉体の銀イオン量Aで割って得られた値(%)である。
なお、表1に示す各実施例及び比較例の銀イオン濃度の値は、試料数N=3を測定して得られた値を算術平均で求めたものである。
ここで、実施例2と比較例のA型銀ゼオライト含有の抗菌性水処理剤100g中の銀イオン量が異なっているので、その異なる理由を説明する。両者は、シナネンゼオミックス(株)製品であるゼオミックAJ10Nを用いているにも拘わらず、前者の銀イオン量は440mgであるのに対して、後者のそれが500mgで異なっている。その理由は、実施例2の銀担持率が2.2%であるのに対して、比較例のそれが2.5%であるために、比較例の銀イオン量が60mgだけ大きくなっている。換言すれば、A型銀ゼオライト含有の抗菌性水処理剤の重量を同じ100gに揃えており、そして実施例2のA型銀ゼオライトは110℃で乾燥しているために16.8%の結晶水を含有しているが、比較例のそれは250℃で乾燥されているので結晶水がないためである。
次に、銀イオン量利用率の求め方を一例として実施例1で説明する。
上記抗菌性水処理剤100g中のA型銀ゼオライトの重量は、全重量100gの20%がA型銀ゼオライトであるから、100g×0.2=20gである。そして、20gのA型銀ゼオライト粉体をHNO溶液500mlに3時間浸漬して酸処理を行えば、その銀ゼオライト粉体の銀担持率が0.5%であるから、酸溶解銀イオン量は、20g×0.005=0.1g(100mg)であるが、実施例1の抗菌性水処理剤を酸処理により得られた銀イオン濃度は3.7ppmである。そして、この抗菌性水処理剤は2.5gを用いて測定しているので、3.7ppmの銀イオン濃度から酸溶解銀イオン量は、3.7ppm×(500ml/1000ml)×(100g/2.5g)を計算すれば、A型銀ゼオライト20gから酸溶解銀イオン量として74.0mgが得られる。
従って、20gのA型銀ゼオライト粉体から酸溶解銀イオン量は100mgであるのに対して、20gのA型銀ゼオライトが含有されている抗菌性水処理剤から酸溶解銀イオン量は、74.0mgであるから、銀イオン量利用率は74.0mg÷100mg×100=74.0%である。上述した手順で他の実施例及び比較例の銀イオン量利用率が求められる。
表1の酸溶解銀イオン量及びその銀イオン量利用率から、実施例は比較例の酸溶解銀イオン量が12倍であり、酸溶解銀イオン量の割合が13倍の銀イオン量を酸溶解することが判った。比較例の抗菌性水処理剤は、高価なA型銀ゼオライトを約95%も無用なものにしていたが、本発明の抗菌性水処理剤は70%以上のA型銀ゼオライトを有益に利用できる。
次に、20%A型銀ゼオライト含有の抗菌性水処理剤(実施例1〜3)と同様に、10%及び30%A型銀ゼオライト含有の抗菌性水処理剤の表1が示す各々の値を求めるが、銀担持率0.5%でA型銀ゼオライト含有10%の実施例4と銀担持率5.0%でA型銀ゼオライト含有30%の実施例5の資料を調整した。酸溶解銀イオン濃度、酸溶解銀イオン量及び銀イオン量利用率に関して、実施例4の示す値は最小値であり、実施例5の示す値は最大値であるのでこの2者の最小値と最大値を求めた。
実施例4はA型銀ゼオライト含有率0.5%が相違するだけで、他は実施例1と同様に調整し、また、実施例5はA型銀ゼオライト含有率5.0%が相違するだけで、他は実施例3と同様に調整した。
酸溶解銀イオン濃度を測定して得られた銀イオン濃度の結果及びその結果から計算して得られた酸溶解銀イオン量、銀イオン量利用率の結果を表2に示す。
実施例4の酸溶解銀イオン濃度は1.4ppmであり、実施例5の酸溶解銀イオン濃度は60.8ppmであり、実施例4の酸溶解銀イオン量は28.0mgであり、実施例5の酸溶解銀イオン量は1216.0mgである。また、実施例4の銀イオン量利用率は56.0%であり、実施例5の銀イオン量利用率は、81.1%である。ところで、酸溶解銀イオン濃度の測定値は±5%程度の誤差を生じるので、その測定誤差を加味すれば、実施例の酸溶解銀イオン濃度は1.3〜64ppmの範囲にあり、実施例の酸溶解銀イオン量は27〜1277mgの範囲にあり、実施例の抗菌性水処理剤の銀イオン量利用率は53〜85%の範囲にあることが判る。
また、表1の比較例の酸溶解銀イオン量が28.0mgであるのに対して、実施例2のその量は322.0mgであり、従って、その量が12倍であるから、同量の銀ゼオライトを含有した市販品のものに比べて、大量の銀イオンを溶出できることを意味しているので、長期に渡って抗菌作用を奏することができる。
実施例の酸溶解銀イオン濃度は1.3〜64ppmの広範な領域まで拡げられ、また、実施例の酸溶解銀イオン量は27〜1277mgの広範な領域まで拡げられるので、本発明の抗菌性水処理剤は、ウォーターサーバー、水タンク、空調機、洗濯槽、流しの排水機構、排水用配管設備、水系洗浄機等の各種の用途に利用することができる。また、表1の比較例の酸溶解銀イオン量が28.0mgであるのに対して、実施例2のそれは322.0mgで12倍の銀イオンを溶出できることを意味しているので、長期に渡って抗菌作用を奏することができる。更に、実施例の抗菌性水処理剤の銀イオン量利用率は53〜85%の範囲にあるので、単価の高い銀ゼオライトが有効に利用されており、経済性の向上を図ることができる。
更に、抗菌性水処理剤にガラスビーズを含有させた抗菌性水処理剤の実施例7−4〜7−6について説明する。
ガラスビーズ含有の抗菌性水処理剤は、押出機の第1ホッパーよりポリエチレンを投入して溶融させ、その溶融ポリエチレンに第2ホッパーよりA型銀ゼオライトとガラスビーズを投入して混練して、最後に押出し冷却してカッターでペレット状に切断することで形成される。
ガラスビーズ含有により、酸溶解銀イオン濃度、酸溶解銀イオン量及び銀イオン量利用率の値が含有しない抗菌性水処理剤と比べてどの程度の変化があるかを見るために、含有しない抗菌性水処理剤の実施例7−1〜7−3の上記酸溶解銀イオン濃度等の値も求めた。
酸溶解銀イオン濃度を測定して得られた結果及びその結果から計算して得られた酸溶解銀イオン量、銀イオン量利用率の結果を表3に示す。
ガラスビーズ含有率が10%から30%に増えることで、銀イオン量利用率は、銀イオン量Aが同じなのにも拘わらず低下していることが分かる。ガラスビーズ含有により連通孔が形成しにくくなっていると考えられる。

Claims (8)

  1. ポリエチレンに銀ゼオライトを含有する抗菌性水処理剤であって、
    前記銀ゼオライトがA型結晶構造であり、10〜30重量%の範囲で含有されており、該銀ゼオライトから前記抗菌性水処理剤の表面に連通孔を形成して成る多孔体であり、該多孔体の連通孔が上記銀ゼオライトの含有する結晶水により形成されてなることを特徴とする抗菌性水処理剤。
  2. 前記ポリエチレンのメルティングフローレートが7〜30g/10分の範囲にあり、その融点が120〜140℃の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の抗菌性水処理剤。
  3. 前記銀ゼオライトの担持する銀担持率が0.5〜5.0重量%の範囲にあることを特徴とする請求項1又は2に記載の抗菌性水処理剤。
  4. 前記ポリエチレンが低密度ポリエチレン又は高密度ポリエチレンであることを特徴とする請求項に記載の抗菌性水処理剤。
  5. 前記抗菌性水処理剤100g中の銀ゼオライトから硝酸で溶解して得られる全ての銀イオン濃度が1.3〜64ppmの範囲にあることを特徴とする請求項に記載の抗菌性水処理剤。
  6. 前記抗菌性水処理剤100g中の銀ゼオライトから硝酸で溶解して得られる全ての銀イオン量が27〜1277mgの範囲にあることを特徴とする請求項に記載の抗菌性水処理剤。
  7. 前記抗菌性水処理剤100g中の銀ゼオライトから硝酸で溶解して得られる全ての銀イオン量を、上記銀ゼオライトと同量のA型銀ゼオライト粉体を硝酸で溶解して得られる全ての銀イオン量で割って得られた値である銀イオン量の利用率が53〜85%の範囲にあることを特徴とする請求項に記載の抗菌性水処理剤。
  8. 前記抗菌性水処理剤にガラスビーズを含有し、その含有率が10〜30重量%の範囲にあることを特徴とする請求項1乃至の何れか一項に記載の抗菌性水処理剤。
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