JP4774520B2 - イオンバリヤー膜および該イオンバリヤー膜を使用した分離装置 - Google Patents

イオンバリヤー膜および該イオンバリヤー膜を使用した分離装置 Download PDF

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Description

この発明は、イオンバリヤー膜および該イオンバリヤー膜を使用した分離装置に関するものである。さらに詳しくは、この発明は、電解質を含む溶液から電解質の透過を抑制し相対的に溶媒や非電解質を透過させるというイオンバリヤー膜および該イオンバリヤー膜を使用した分離装置に関するものである。
高分子マトリックス中に荷電基が存在する荷電膜は主にイオン交換膜として種々の膜が開発されており、広い分野に応用されている。例えば、我が国ではイオン交換膜を用いた電気透析装置を用いて海水を濃縮して製塩している。また、苛性ソーダ製造用の隔膜や工業廃水からの重金属や酸の回収に用いられている。
最近では燃料電池用の固体高分子電解質膜としてイオン交換膜が使用されている。
これらのイオン交換膜は殆ど全てが疎水性高分子を膜マトリックスに用いており、例えば、製塩、重金属や酸の回収にはスチレン−ジビニルベンゼン系イオン交換膜が、また苛性ソーダ用隔膜や燃料電池用固体高分子電解質膜にはパーフルオロカーボン系イオン交換膜が使用されている。
陽イオン交換膜層と陰イオン交換膜層を張り合わせた膜はバイポーラ膜として研究が行われており、一価イオン選択透過性、整流作用、水解離現象などの報告例があるがその多くは疎水性高分子を用いたものである。
本発明者等は親水性高分子であるポリビニルアルコールに高分子カチオンであるポリスチレンスルホン酸をブレンドして陽イオン交換膜(負荷電膜)を作製し、そのイオン透過性を検討した(非特許文献1参照)。また、ポリビニルアルコールに高分子アニオンであるポリアリルアミンをブレンドして陰イオン交換膜(正荷電膜)を作製し、そのイオン透過性を検討した(非特許文献2参照)。また、これらの膜を張り合わせてバイポーラ膜を作製し、拡散透析におけるイオン透過性を評価している(非特許文献3参照)。また、これらの陽イオン交換膜と陰イオン交換膜を積層し、これを積層方向に切断することでモザイク荷電膜を作製して、拡散透析における電解質選択透過性を評価している(非特許文献4参照)。
そして、前記非特許文献1に記載の陰イオン交換膜と非特許文献2に記載の陽イオン交換膜を、陰イオン交換膜(N膜という)/陽イオン交換膜(P膜という)/陰イオン交換膜の順に接合した荷電構造を有するモデルNPN型膜でのイオン輸送現象をコンピューターシミュレーションにより解析する手法を検討した(非特許文献5参照)。
比嘉 充、谷岡明彦、宮坂啓象(Mitsuru Higa,Akihiko Tanioka and Keizo Miyasaka)、多成分イオンシステムにおける膜荷電密度とイオン浸透に関する研究(An Experiment Study of Ion Permeation in Multicomponent Ion Systems as a Function of Membrane Charge Density)、膜科学ジャーナル(J.Membr.Sci.)、オランダ、Elsevier、1991年、第64巻、p.255−262. 比嘉 充、橋口朋実、松崎浩司(Mitsuru Higa,Tomomi Hashiguchi and Koji Matsusaki)、ポリビニルアルコールとポリ電解質からなるイオン性ゲルの作製と特性に関する研究(Preparation and characterization of ionic gels prepared from poly(vinyl alcohol)and polyelectrolytes)、日本MRSジャーナル(Trans.Mat.Res.Soc.J.)、日本MRS出版事務局、2002年、第27巻、第2号、p.443−446. 比嘉 充、吉良 爽(Mitsuru Higa and Akira Kira)、バイポーラ膜によるイオン輸送1、塩化カリウム溶液の膜ポテンシャルに関する理論と実証実験に関する研究(Transport of Ions across Bipolar Membrane.1.Theoretical and Experimental Examination of the Membrane Potential of KCl Solutions)、物理化学ジャーナル(J.Phys.Chem.)、1995年、第99巻、第14号、p.5089−5093. 比嘉 充、小林英輔、綾 育太、増田 大、松崎浩司(Mitsuru Higa,Eisuke Kobayashi,Ikuta Aya,Dai Masuda and Koji Matsusaki)、多層荷電ゲル層による荷電モザイク膜:塩の超透過性への膜構造の及ぼす効果に関する研究(Charge Mosaic Membranes Prepared from Laminated Structure of Charged Gel Layers:Effect of Membrane Structure on the Salt Permselectivity)、日本MRSジャーナル(Trans.Mat.Res.Soc.J.)、日本MRS出版事務局、2002年、第27巻、第2号、p.407−410. 比嘉 充、藤野有希子(Mitsuru Higa and Yukiko Fujino)、NPN型バイポーラ膜のイオン透過性解析に関する研究(Analysis of ionic transport through NPN type bipolar membranes)、日本MRS出版事務局、2003年、日本MRSジャーナル(Trans.Mat.Res.Soc.J.),第28巻、第3号、p.825−828.
しかしながら、これらの非特許文献1〜5は、いずれも、膜を介して電解質が如何に透過するかといった観点を研究の主眼としたものに過ぎなかった。
ところで、本願発明の発明者等は、非特許文献5に記載したイオン輸送現象の解析手法を用いて膜と電解質溶液で構成される拡散透析系におけるイオン輸送を解析した際に陽イオン交換膜、陰イオン交換膜よりもこれらを積層したNPN膜(NPNP膜)またはPNP膜が電解質溶液中のカチオン及びアニオンの荷電数にかかわらず、電解質の全てにおいて高いイオンバリヤー性が得られる可能性があることを見出し、各種の膜等について検討したところ、従来の疎水性高分子をマトリックスとしたイオン交換膜においては、溶媒となる水分子や、親水性の非電解質の透過性が低いため電解質に対して水分子や非電解質を選択的に透過させるイオンバリヤー性を得るには不十分であるが、前記非特許文献1〜4において、本願発明者等が採用した親水性高分子であるポリビニルアルコールをマトリックスとした陽イオン交換膜、陰イオン交換膜では、高いイオンバリヤー性を有する分離膜が得られるとの結論に達した。
そして、親水性高分子に単に荷電基(イオン交換基)を結合させ、膜状に成形した場合や、親水性高分子と荷電基を結合した物質(高分子やオリゴマーを含む)を混合して成膜した場合は溶媒(水)で膨潤し、イオンバリヤー性は期待できず、また膜としての強度も保てない。更にこれらの膜について、架橋剤を用いる等の手段で化学結合による架橋を行なうことにより、イオンバリヤー性や膜強度を向上させることはできるが、同時に溶媒や非電解物質の透過性も低下するというジレンマがあった。
そこで、結晶性を有する親水性高分子を用いることにより、部分的に結晶構造を持たせ、所望により非晶領域に化学結合による架橋を導入して親水性高分子を部分的に束ねることにより、イオンバリヤー性を保持しつつ、電荷を持たない物質(水や溶媒等)の透過性を高く保つことで見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、この発明は、水、電解質、非電解質、有機溶媒などの混合溶液から電解質をバリヤーし、水、非電解質、有機溶媒等をイオンよりも選択的に透過させることのできるイオンバリヤー膜と該イオンバリヤー膜を使用した分離装置を提供することを目的とする。
上記課題を解決するため、この発明のイオンバリヤー膜は、以下の(1)〜()の通りである。
(1)水に可溶であり、加熱することによって皮膜を形成し、耐水性となり得る親水性を有する結晶性のポリビニルアルコールをマトリックスとする陽イオン交換膜層と、前記ポリビニルアルコールと同様の性質を有する結晶性のポリビニルアルコールをマトリックスとする陰イオン交換膜層が積層され、熱処理された、非荷電溶質や溶媒よりもイオンの透過性が相対的に低いことを特徴とする。
本発明における「(1)に記載のポリビニルアルコールをマトリックスとする(陽又は陰)イオン交換膜層」は、親水性高分子に荷電基(イオン交換基)を有する物質が混合されていてもよいし、またポリビニルアルコールに荷電基を有するモノマーが共重合された状態であってもよい。要は、ポリビニルアルコールの高分子の主鎖を構成する部分にイオン交換基とは異なる多くの水酸基が結合しており、ポリビニルアルコールの高分子体が親水性を有するものであり、且つ結晶性を有していれば、これにイオン交換基が結合していても、また別にイオン交換基を有する物質が混合されていてもよい。これらを総称してポリビニルアルコール(PVA)マトリックスよりなる(陽又は陰)イオン交換膜という。
(2)上記(1)において、前記陽イオン交換膜層のマトリックスおよび陰イオン交換膜層のマトリックスがいずれも熱処理によるミクロ領域での物理的架橋となる結晶化領域の増加の後に、化学結合による架橋を形成されてなるものであることが好ましい。
)上記(1)または(2)において、陽イオン交換膜層が、ポリビニルアルコールと高分子アニオンの混合物、前記陰イオン交換膜層が、ポリビニルアルコールと高分子カチオンの混合物からなるものであることが好ましい。
)上記()において、前記高分子アニオンがスルホン酸基を有する共重合体、好適には下記化1で示される共重合体、前記高分子カチオンがポリアリルアミンであることが好ましい。
Figure 0004774520
)上記(1)、(2)、(3)または()において、前記イオンバリヤー膜が、少なくとも前記陽イオン交換膜層の間に前記陰イオン交換膜層が積層された多層構造からなっていてもよい。
また、()上記(1)、(2)、(3)または(4)において、前記イオンバリヤー膜が、少なくとも前記陰イオン交換膜層の間に前記陽イオン交換膜層が積層された多層構造からなっていてもよい。
前記(1)〜()のイオンバリヤー膜は、水、電解質、非電解質、有機溶媒などの混合溶液から電解質をバリヤーし、水、非電解質、有機溶媒を透過することのできる分離装置に使用できる。すなわち、この発明の分離装置は、以下の()〜(12)の通りである。
)上記(1)乃至()のいずれか1つに記載のイオンバリヤー膜を分離膜として具備することを特徴とする。
)上記()において、電解質を含む溶液から電解質の透過が前記イオンバリヤー膜によって抑制されるようになっていることが好ましい。
より具体的には、()上記()において、前記溶液が、電解質水溶液、電解質と水−水と相溶性を有する有機溶媒からなる溶液、電解質と非電解質を含む水溶液、電解質と非電解質を含む水−水と相溶性を有する有機溶媒からなる溶液のうちのいずれかであって、電解質の透過が前記イオンバリヤー膜によって抑制され、溶液から少なくとも水または非電解質を電解質よりも高い選択率によって透過させるようになっていることが好ましい。
そして、(10)上記()において、前記イオンバリヤー膜を透過させる駆動力が膜の両面における濃度勾配によるものであるものであっても、(11)上記()において、前記イオンバリヤー膜を透過させる駆動力が膜の両面における圧力勾配によるものであってもよい。
また、(12)上記()において、前記溶液が、電解質水溶液、電解質と水−水と相溶性を有する有機溶媒からなる溶液のうちのいずれかであって、電解質の透過が前記イオンバリヤー膜によって抑制され、溶液から水または有機溶媒が浸透気化するようになっているものであってもよい。
この発明は、以上説明したように構成されているので、以下に記載されるような効果を奏する。
すなわち、この発明のイオンバリヤー膜によれば、溶液中の電解質の透過が溶液中の電解質以外の物質、例えば、水、有機溶媒、中性溶質である非電解質よりも相対的に低く抑えられることができることになる。この様な特性が得られるのは、膜マトリックスが親水性でありながら水に不溶性であるため溶媒や非電解質の高い透過性が得られ、また陽イオン交換膜層、陰イオン交換膜層の積層により、積層荷電構造が形成され、互いに異符号の電荷層が膜層面上に構築されることによりイオン透過性が抑えられるためと考えられる。イオンバリヤー膜の溶液中でイオン化している電解質に対するイオンバリヤー性は、イオンの荷電数に関係なく1価イオン、2価イオン又はそれ以上の多価イオンに対しても高い性能を示す。そして、必要とするイオンバリヤー性は、陽イオン交換膜層と陰イオン交換膜層の種類、層厚、積層構造等を適宜調整することで得ることができる。
たポリビニルアルコールが水に可溶であり、加熱することによって皮膜を形成し、耐水性となり得る親水性を有し、結晶性を有するものであるので、熱処理等によって結晶構造を成長させ、より大きい物理的架橋を形成することが利点であり、この物理的架橋によって、溶媒に不溶なフィルムの形成が可能である。また別個に作製した2つのフィルムをポリビニルアルコール溶液を接着剤として張り合わせすることが可能である。イオンバリヤー膜は、陽イオン交換膜層(P層)と陰イオン交換膜層(N層)との積層構造であることから、上記の方法により結晶性の親水性高分子であるポリビニルアルコール(以下、単に親水性高分子ともいう。)をマトリックスとして陽イオン交換膜層と陰イオン交換膜層とを別個に作製し、さらにこれを積層(積層構造としては、少なくとも陰イオン交換膜層の間に陽イオン交換膜層が積層された多層構造、例えば、NPNや、少なくとも陽イオン交換膜層の間に陰イオン交換膜層が積層された多層構造、例えば、PNP等が例示できる。)すればよく、製造が容易であって、高品質のものを安定して、しかも、低コストで得ることができる。
さらに熱処理によってナノオーダーの結晶構造のミクロドメインとルーズな非結晶領域とを有する一種の物理的なナノオーダーでの不均一架橋構造が形成され、結晶領域の間の非結晶領域を縫って、溶液中の電解質以外の物質、例えば、水、有機溶媒、中性溶質である非電解質を選択的に透過させる機能を有効に果たすことになると考えられる。そして、物理的架橋は、熱処理温度、時間等の処理条件によって、物理的架橋の程度を種々設定でき、所望する透過性のイオンバリヤー膜を容易に、かつ、低コストで得ることができる。
さらに、所望により、物理的架橋に加え化学結合による架橋がなされてミクロ領域での不均一架橋構造が形成され、結晶領域と化学結合による架橋領域の間隙に親水性高分子のルーズな網目が形成され、係るルーズな網目が、溶液中の電解質以外の物質、例えば、水、有機溶媒、中性溶質である非電解質を選択的に透過させるためのチャンネルとして機能すると考えられる。
ここで、ミクロ領域での不均一架橋とは、膜全体に対して不均一ということではなく、膜中に存在する結晶領域と非晶領域のうち、非晶領域が選択的に化学的架橋されるため架橋部分が分散して存在していることを意味する。
そして、化学結合による架橋によって、所望する透過性のみならず、強度、弾性、剛性、耐久性、膨潤性等をも適宜調整でき、所望する物性を有するイオンバリヤー膜を得ることができる。化学結合による架橋を行なう場合、一旦成形された陽イオン交換膜層フィルム又は陰イオン交換膜層フィルムを別々に又は両フィルムを積層した後、エタノール、DMSO、DMFなどの膨潤用溶媒に溶解した架橋剤を含浸させ架橋反応を行うか又はα線、β線、γ線、χ線等の電離性放射線により架橋を行なうことができる。これらのうち、架橋剤による架橋は、一般にマトリックス中の水酸基を利用して行なわれる。
このイオンバリヤー膜は、親水性高分子が膜マトリックスになっているため、疎水性汚染物質が膜表面に付着し難く、付着しても容易に脱離することが予想されるので、耐ファウリング(汚染)性が良好なことから耐久性があり長期にわたって使用できる。
従って、この様なイオンバリヤー膜を分離膜として用いることで、溶液中の電解質の透過を抑制し、溶液中の電解質以外の物質、例えば、水、溶媒、非電解質を、イオンバリヤー膜を透過させることのできる分離装置を安価に製造することができる。
分離装置としては、各種の分野における分離に使用することができ、例えば、透析、浸透気化が例示できる。
具体的な分離装置としては、海水や鹹水の淡水化、超純水の製造、硬水の軟水化、水浄化としての家庭用浄化器等が例示できる。
また、イオンバリヤー膜は、インテリジェンスセンサー等の高機能性イオン素子の分野にも利用が考えられる。
以下、発明を実施するための最良の形態を示し、さらに詳しくこの発明について説明する。もちろんこの発明は以下の実施の形態によって限定されるものではない。
この発明において使用されるマトリックスである親水性高分子すなわち親水性を有し結晶性のポリビニルアルコール(PVA)としては、水などの溶媒に溶解し、製膜時の加熱乾燥などによって皮膜を形成することができるものであって、耐水性、耐溶剤性、耐薬品性や耐久性に優れたものであることが必要である。
親水性高分子をマトリックスとする陽イオン交換膜層(N膜層=負荷電膜層)、陰イオン交換膜層(P膜層=正荷電膜層)は、前記親水性高分子にイオン性高分子である高分子電解質を混合することによって得ることができる。具体的には、陽イオン交換膜層は、前記親水性高分子に高分子カチオンを混合することによって、一方、陰イオン交換膜層は、前記親水性高分子に高分子アニオンを混合することによって得ることができる。
高分子アニオンとしては、スルホン酸、カルボン酸、硫酸エステル、リン酸エステル等の陽イオン交換基のアニオン性基、または、それらの塩の基を有する重合体が例示できる。
高分子カチオンとしては、第一級〜第三級のアミノ基、ピリジニウム基、第四アンモニウム基等の陰イオン交換基、または、それらの塩の基を有する重合体が例示できる。
なお、高分子カチオン、高分子アニオンは、非イオン性の重合体を化学的修飾することによって製造されたものであってもよい。化学的修飾としては、スルホン化、硫酸エステル化、アミノ化、第四アンモニウム化、加水分解が例示できる。
必要とする陽イオン交換膜層は、親水性高分子の種類や陽イオン交換基の種類、組合せにより異なるが、一般に陽イオン交換容量で0.1〜2mmol/gが好ましく、より好ましくは、0.2〜1mmol/gである。
同様に、必要とする陰イオン交換膜層は、親水性高分子の種類やイオン交換基の種類、組合せにより異なるが、一般に陰イオン交換容量で0.1〜2mmol/gであることが好ましく、より好ましくは、0.2〜1mmol/gである。
陽イオン交換膜層、陰イオン交換膜層は、親水性高分子とイオン性高分子である高分子電解質との混合によらず、モノマーの重合、複数のモノマーの共重合によって製造したものであってもよい。
陽イオン交換膜層には、例えば、親水性とアニオン性基を有するモノマーの重合体、親水基を有するモノマーとアニオン性基を有するモノマーとの共重合体を使用すればよい。親水性を有するモノマーとしては、ビニルピロリドンが例示できる。アニオン性基を有するモノマーとしては、スルホン酸、カルボン酸、硫酸エステル、リン酸エステル等のアニオン性基、または、それらの塩の基を有するモノマーが例示できる。
陰イオン交換膜層には、例えば、親水性とカチオン性基を有するモノマーの重合体、親水基を有するモノマーとカチオン性基を有するモノマーとの共重合体を使用すればよい。親水性を有するモノマーとしては、ビニルピロリドンが例示できる。カチオン性基を有するモノマーとしては、第一級〜第三級のアミノ基、第四アンモニウム基、ピリジニウム基等のカチオン性基、または、それらの塩の基を有するモノマーが例示できる。
陽イオン交換膜層について、マトリックス成分である結晶性の親水性高分子と高分子カチオンとを混合して製膜する場合の一例を以下説明する。
親水性高分子、高分子カチオンを適宜の溶媒(例えば、イオン交換水)に攪拌混合させ、塗布液を調整する。攪拌混合に際しては、必要に応じ、加熱攪拌すればよい。
得られた塗布液を適宜の型板にキャストし、乾燥後、加熱処理することで物理的架橋を行う。なお、必要に応じ、支持体を用いてキャストしてもよい。
陰イオン交換膜層について、マトリックス成分である結晶性の親水性高分子と高分子アニオンとを混合して製膜する場合も、前記したと同様にして行えばよい。
陽イオン交換膜及び/又は陰イオン交換膜の製造方法は、上記方法に限定されるものではなく、例えばイオン交換体を分散又は結合したマトリックス高分子を溶融押出しにより、それ自体をフィルム化する方法、又は後述する支持体(バッキング材)上に押出し、支持体と一体化したフィルムとする方法或いは該マトリックスの溶液をバッキング材上に塗布し、溶媒を蒸発除去する方法など、公知の製膜法が何ら制限されることなく、利用し得る。特に管状のバリヤー膜を得る場合は、一方のイオン交換膜層を構成する管状イオン交換樹脂の表面に他方のイオン交換樹脂溶液を塗布した後、溶媒を除去することもできるし、また両イオン交換樹脂を共押出しにより同時に積層成形することもできる。
陽イオン交換膜層、陰イオン交換膜層の膜形状は、平膜状、中空糸状が採用できる。
陽イオン交換膜層、陰イオン交換膜層の膜厚は、支持体の有無にもよるが、支持体がある場合は0.1〜30μm、好ましくは、1〜10μmであり、支持体がない場合は20〜200μm、好ましくは、30〜100μmである。
溶媒としては、イオン交換水以外に、DMSO、DMFなどが例示できる。
支持体としては、布、網、フェルト、合成樹脂多孔膜、メッシュ状のステンレス、アルミニウム、多孔質セラミック等が例示できる。
得られた陽イオン交換膜層と陰イオン交換膜層を積層させ、後述する物理的架橋、必要に応じ化学的架橋を行ってイオンバリヤー膜を作製する。
陽イオン交換膜層、陰イオン交換膜層の積層は、適宜の接着剤を使用してもよいし、または、マトリックス成分、高分子カチオン又は(及び)高分子アニオンを含有する親水性高分子等を接着剤としてもよい。
イオンバリヤー膜の積層構造としては、陽イオン交換膜層/陰イオン交換膜層/陽イオン交換膜層(NPN膜)、NPNP膜、PNP膜等適宜の積層構造が採用できる。
親水性高分子、熱処理等によって物理的架橋を形成することができる利点があり、この物理的架橋によって、ナノオーダーの結晶構造のミクロドメインとルーズな非結晶領域とを有する一種の物理的なナノオーダーでの不均一架橋構造が形成され、結晶領域の間の非結晶領域をぬって、溶液中の電解質以外の物質、例えば、水、有機溶媒、中性溶質である非電解質を選択的に透過させるためのチャンネルとして機能すると考えられる。
そして、物理的架橋は、熱処理温度、時間等の処理条件によって、物理的架橋の程度を種々設定でき、所望する透過性のイオンバリヤー膜を容易に、かつ、低コストで得ることができる。このイオンバリヤー膜は、親水性高分子が膜マトリックスになっているため、疎水性汚染物質が膜表面に付着し難く、付着しても容易に脱離することが予想されるので、耐ファウリング(汚染)性が良好なことから、耐久性があり長期にわたって使用できる。物理的架橋を行うための熱処理温度、時間等は、結晶性の親水性高分子の種類、分子量等によって、適宜設定すればよい。
さらに、架橋剤によって架橋することで、物理的架橋に加え化学的架橋がなされたミクロ領域での不均一架橋構造が形成され、結晶領域と化学的架橋領域の間隙に親水性高分子のルーズな網目が形成され、係るルーズな網目が、溶液中の電解質以外の物質、例えば、水、有機溶媒、中性溶質である非電解質を選択的に透過させる機能を有効に果たすことになると考えられる。そして、架橋剤による架橋によれば、所望する透過性のみならず、強度、弾性、剛性、耐久性、膨潤性等をも適宜調整でき、所望する物性を有するイオンバリヤー膜を得ることができる。架橋剤としては、水酸基と反応する基を2以上有する化合物例えば、グルタアルデヒド、エチレングリコールジグリシジルエーテル等を挙げることができる。架橋剤の種類、架橋条件等は、採用する親水性高分子、高分子アニオン、高分子カチオンに基づき、適宜選択すればよい。
物理的架橋は、陽イオン交換膜層、陰イオン交換膜層が製膜された後で行ってもよいが、架橋剤による架橋は、通常、陽イオン交換膜層と陰イオン交換膜層とが積層された後に行う。
図1は、結晶性の親水性高分子をマトリックスとする陽イオン交換膜層(N)と陰イオン交換膜層(P)とが2層に積層され、ミクロな結晶領域1によって物理的架橋が形成され、更に、化学結合による架橋2が形成された状態を示す説明図であって、水が透過する模様を示している。
図1に示すように、水は結晶領域間あるいは結晶領域と化学架橋との間隙を通り、膜を通過するが、陽イオンM+はP層(陰イオン交換膜)を通過できず、また陰イオンA−はN層(陽イオン交換膜層)を通過できないため、結局電解質物質は膜を通過し得ないのである。
この発明のイオンバリヤー膜を分離膜として用いることで、溶液中の電解質の透過を抑制し、溶液中の電解質以外の物質、例えば、水、溶媒、非電解質をイオンバリヤー膜を透過させることのできる分離装置を、安価に製造することができる。
具体的には、分離装置における溶液としては、電解質水溶液、電解質と水−水と相溶性の有機溶媒からなる溶液等が例示できる。
すなわち、低濃度溶液から、高濃度溶液側への溶媒の移動や、高濃度溶液側から低濃度溶液又は気体側への溶媒や、非電解質物質の移動が可能となる。
分離装置におけるイオンバリヤー膜を通過させる駆動力は、濃度勾配、圧力勾配等適宜採用すればよい。
分離装置としては、各種の分野における分離に使用することができ、例えば、拡散透析、逆浸透、浸透気化が例示できる。具体的な分離装置としては、海水や鹹水の淡水化、純水の製造、硬水の軟水化、水浄化としての家庭用浄化器等が例示できる。
図2は、この発明のイオンバリヤー膜を分離膜として利用した海水淡水化装置の概略図を示す。
この海水淡水化装置によれば、ポンプ11を介して処理槽12の高濃度側セル13に送られた海水中のイオンは、イオンバリヤー膜14によって透過を抑制され、濃度が高くなった状態で排出される。海水中の水はイオンバリヤー膜14を透過し、低濃度側セル15を経由して淡水貯蔵槽16に蓄えられる。
この海水淡水化装置は、主たる駆動力が圧力勾配であり、イオンバリヤー膜は従来の逆浸透膜よりも低圧で高い水透過量が得られると考えられることから、海水淡水化に要するエネルギーが少なくて済み、経済的である。
鹹水の淡水化装置、超純水の製造装置、硬水の軟水化装置、水浄化装置等も前記した海水淡水化装置と同様なことから詳細な説明は省略する。
また、浸透気化装置は、公知の浸透気化装置が使用可能でありイオンバリヤー膜を透過した水等を気化した状態で回収する装置である点が、前記した海水淡水化装置と相違するものであることから、詳細な説明は省略する。
次に、実施例を比較例とともに示しさらに詳しく説明する。
<参考例1>
陽イオン交換膜層(N膜層=負荷電膜)を以下のようにして作製した。
(株)クラレ社製のPVA(平均分子量:19.8万、以下、PVAという。)を80wt%、(株)クラレ社製の前記化1で示される共重合体(以下、A−PVAという。)を20wt%とし、イオン交換水を溶媒として、100℃で加熱攪拌により溶解した。
A−PVAの平均分子量は、約75,000である。
冷却後、溶解した溶液を、アクリル板(21cm×27cm)にキャストし、ホットプレート(NHP−45:ニッシン社製)を30℃に24時間維持し、乾燥させた(図3のS1参照)。この膜厚は乾燥時で約20μmである。これらの膜をそれぞれ5cm×5cmにカッティングし、150℃で20分熱処理を行い、物理的架橋を行ってN膜層原膜を作製した(図3のS2参照)。
<参考例2>
陰イオン交換膜層(P膜層=正荷電膜)を以下のようにして作製した。
PVAを90wt%、日東紡績(株)製のポリアリルアミン(以下、PAAmという。)10wt%とし、イオン交換水を溶媒として、100℃で加熱攪拌により溶解した。
このPAAmの平均分子量は、約80,000である。
冷却後、溶解した溶液を、アクリル板(21cm×27cm)にキャストし、ホットプレート(NHP−45:ニッシン社製)を30℃に24時間維持し、乾燥させた(図3のS3参照)。この膜厚は乾燥時で約80μmである。この膜を5cm×5cmにカッティングし、150℃で20分熱処理を行い物理的架橋を行ってP膜層原膜を作製した(図3のS4参照)。
(実施例1)
参考例1のN膜層原膜、参考例2のP膜層原膜を、イオン交換水に常温で24時間浸漬し、膨潤させた後、PVAを90wt%、PAAmを10wt%とし、イオン交換水を溶媒として、100℃で加熱攪拌により溶解した溶液を接着剤として、N、P、Nの順に張り合わせ、室温で乾燥させた。乾燥後、160℃で20分熱処理して物理的架橋を行い、NPN膜(以下、NPNという。)を得た(作製プロセスについては図3、積層構造については図4参照)。
NPNをイオン交換水に浸漬し、膨潤させた。そのときのNPNの膜厚は、120μmである。後述する試験方法に基づき含水率(H)、透過係数(Pi)を測定し、透過係数比(P.C.R)、イオンバリヤー性(α)を評価した。
含水率(H)の結果は、表1のとおりである。電解質濃度3×10−3Mの場合の透過係数(Pi)、尿素の透過係数(PUrea)、透過係数比(P.C.R)、イオンバリヤー性(α)の結果は、表2のとおりである。
(実施例2)
参考例1のN膜層原膜、参考例2のP膜層原膜を、イオン交換水に常温で24時間浸漬し、膨潤させた後、PVAを90wt%、PAAmを10wt%とし、イオン交換水を溶媒として、100℃で加熱攪拌により溶解した溶液を接着剤として、N、P、Nの順に張り合わせ、室温で乾燥させた。乾燥後、170℃で30分熱処理して物理的架橋を行い、次いで、グルタルアルデヒド(以下、GAという。)の0.01体積%のイオン交換水溶液中、25℃で化学的架橋を行ってNPN膜(以下、NPN−0.01という)を得た(作製プロセスについては図3、積層構造については図4参照)。化学的架橋の溶液温度は25℃とした。このNPN−0.01の膜厚は、イオン交換水に膨潤した状態で180μmである。
湿潤状態のままのNPN−0.01を、イオン交換水に常温で24時間浸漬し、膨潤させた後、後述する試験方法に基づき含水率(H)、透過係数(Pi)を測定し、透過係数比(P.C.R)、イオンバリヤー性(α)を評価した。
含水率(H)の結果は表1のとおりである。電解質濃度3×10−3Mの場合の透過係数(Pi)、尿素の透過係数(PUrea)、透過係数比(P.C.R)、イオンバリヤー性(α)の結果は、表2のとおりである。
(実施例3)
参考例1のN膜層原膜、参考例2のP膜層原膜を、イオン交換水に常温で24時間浸漬し、膨潤させた後、PVAを90wt%、PAAmを10wt%とし、イオン交換水を溶媒として、100℃で加熱攪拌により溶解した溶液を接着剤として、N、P、Nの順に張り合わせ、室温で乾燥させた。乾燥後、170℃で30分熱処理して物理的架橋を行い、次いで、グルタルアルデヒド(以下、GAという。)の0.05体積%のイオン交換水溶液中、25℃で化学的架橋を行ってNPN膜(以下、NPN−0.05という)を得た(作製プロセスについては図3、積層構造については図4参照)。化学的架橋の溶液温度は25℃とした。このNPN−0.05の膜厚はイオン交換水に膨潤した状態で150μmである。湿潤状態のままのNPN−0.05を、イオン交換水に常温で24時間浸漬し、膨潤させた後、後述する試験方法に基づき含水率(H)を測定した。
結果は表1のとおりである。電解質濃度3×10−3Mの場合の透過係数(Pi)、尿素の透過係数(PUrea)、透過係数比(P.C.R)、イオンバリヤー性(α)の結果は、表2のとおりである。
図5に示すプロセスに従い比較のための以下の参考例を作製した。
<参考例3>
PVAを80wt%、A−PVAを20wt%とし、イオン交換水を溶媒として、100℃で加熱攪拌により溶解した。
冷却後、溶解した溶液を、アクリル板(21cm×27cm)にキャストし、ホットプレート(NHP−45:ニッシン社製)を30℃に24時間維持し、乾燥させた。これらの膜をそれぞれ5cm×5cmにカッティングし、150℃で20分熱処理を行い、物理的架橋を行ってN20膜を作製した。このN20の膜厚はイオン交換水に膨潤した状態で140μmである。
<参考例4>
PVAを90wt%、PAAmを10wt%とし、参考例3と同様にしてP膜(以下、P10という)を作製した。このP10の膜厚はイオン交換水に膨潤した状態で150μmである。
<参考例5>
PVAを用い、参考例3と同様にしてPVA膜を作製した。このPVA膜の膜厚は、イオン交換水に膨潤した状態で150μmである。
<参考例6>
PVAを80wt%、A−PVAを20wt%とし、イオン交換水を溶媒として、100℃で加熱攪拌して溶解した。
冷却後、溶解した溶液を、アクリル板(21cm×27cm)にキャストし、ホットプレート(NHP−45:ニッシン社製)を50℃に24時間維持し、乾燥させた(図5参照)。この膜を5cm×5cmにカッティングし、170℃で30分熱処理して物理的架橋を行い、次いで、GAの0.01体積%のイオン交換水溶液中、25℃で化学的架橋を行ってN膜(以下、N20−0.01という)を得た(作製プロセスについては図5参照)。化学的架橋の溶液温度は25℃とした。このN20−0.01の膜厚は、イオン交換水に膨潤した状態で110μmである。
<参考例7>
PVAを90wt%、PAAmを10wt%とし、参考例6と同様にしてP膜(以下、P10−0.01という)を作製した。このP10−0.01の膜厚は、イオン交換水に膨潤した状態で94μmである。
<参考例8>
PVAを用い、参考例6と同様にしてPVA膜(以下、PVA−0.01という)を作製した。このPVA−0.01の膜厚は、イオン交換水に膨潤した状態で150μmである。
<参考例9>
PVAを80wt%、A−PVAを20wt%とし、イオン交換水を溶媒として、100℃で加熱攪拌して溶解した。
冷却後、溶解した溶液を、アクリル板(21cm×27cm)にキャストし、ホットプレート(NHP−45:ニッシン社製)を50℃に24時間維持し、乾燥させた(図5参照)。この膜を5cm×5cmにカッティングし、170℃で30分熱処理して物理的架橋を行い、次いで、GAの0.05体積%のイオン交換水溶液中、25℃で化学的架橋を行ってN膜(以下、N20−0.05という)を得た(作製プロセスについては図5参照)。化学的架橋の溶液温度は25℃とした。このN20−0.05の膜厚は、イオン交換水に膨潤した状態で120μmである。
<参考例10>
PVAを90wt%、PAAmを10wt%とし、参考例9と同様にしてP膜(以下、P10−0.05という)を作製した。このP10−0.05の膜厚は、イオン交換水に膨潤した状態で140μmである。
<参考例11>
PVAを用い、参考例9と同様にしてPVA膜(以下、PVA−0.05という)を作製した。このPVA−0.05の膜厚はイオン交換水に膨潤した状態で97μmである。
(比較例1)
参考例3の膜を、比較例1の膜とし、イオン交換水に常温で24時間浸漬し、膨潤させた後、後述する試験方法に基づき評価した。
比較例1の膜の含水率(H)、膜厚(d)の結果は、表1のとおりである。電解質濃度3×10−3Mの場合の透過係数(Pi)、尿素の透過係数(PUrea)、透過係数比(P.C.R)、イオンバリヤー性(α)の結果は、表2のとおりである。
(比較例2、比較例3)
湿潤状態のままの参考例6、参考例9の膜を、それぞれ比較例2、比較例3の膜とし、イオン交換水に常温で24時間浸漬し、膨潤させた後、後述する試験方法に基づき評価した。
比較例2の膜の含水率(H)、膜厚(d)の結果は、表1のとおりである。電解質濃度3×10−3Mの場合の透過係数(Pi)、尿素の透過係数(PUrea)、透過係数比(P.C.R)、イオンバリヤー性(α)の結果は、表2のとおりである。
比較例3の膜の含水率(H)、膜厚(d)の結果は、表1のとおりである。電解質濃度3×10−3Mの場合の透過係数(Pi)、尿素の透過係数(PUrea)、透過係数比(P.C.R)、イオンバリヤー性(α)の結果は、表2のとおりである。
(比較例4)
参考例4の膜を比較例4の膜とし、イオン交換水に常温で24時間浸漬し、膨潤させた後、後述する試験方法に基づき評価した。
比較例4の膜の含水率(H)、膜厚(d)の結果は、表1のとおりである。電解質濃度3×10−3Mの場合の透過係数(Pi)、尿素の透過係数(PUrea)、透過係数比(P.C.R)、イオンバリヤー性(α)の結果は、表2のとおりである。
(比較例5、比較例6)
湿潤状態のままの参考例7、参考例10の膜を、それぞれ比較例5、比較例6の膜とし、イオン交換水に常温で24時間浸漬し、膨潤させた後、後述する試験方法に基づき評価した。
比較例5の膜の含水率(H)、膜厚(d)の結果は、表1のとおりである。電解質濃度3×10−3Mの場合の透過係数(Pi)、尿素の透過係数(PUrea)、透過係数比(P.C.R)、イオンバリヤー性(α)の結果は、表2のとおりである。
比較例6の膜の含水率(H)、膜厚(d)の結果は、表1のとおりである。
電解質濃度3×10−3Mの場合の透過係数(Pi)、尿素の透過係数(PUrea)、透過係数比(P.C.R)、イオンバリヤー性(α)の結果は、表2のとおりである。
(比較例7)
参考例5の膜を比較例7の膜とし、イオン交換水に常温で24時間浸漬し、膨潤させた後、後述する試験方法に基づき評価した。
比較例7の膜の含水率(H)、膜厚(d)の結果は、表1のとおりである。電解質濃度3×10−3Mの場合の透過係数(Pi)、尿素の透過係数(PUrea)、透過係数比(P.C.R)、イオンバリヤー性(α)の結果は、表2のとおりである。
(比較例8、比較例9)
湿潤状態のままの参考例8、参考例11の膜を、それぞれ比較例8、比較例9の膜とし、イオン交換水に常温で24時間浸漬し、膨潤させた後、後述する試験方法に基づき評価した。
比較例8の膜の含水率(H)、膜厚(d)の結果は、表1のとおりである。電解質濃度3×10−3Mの場合の透過係数(Pi)、尿素の透過係数(PUrea)、透過係数比(P.C.R)、イオンバリヤー性(α)の結果は、表2のとおりである。
比較例9の膜の含水率(H)、膜厚(d)の結果は、表1のとおりである。電解質濃度3×10−3Mの場合の透過係数(Pi)、尿素の透過係数(PUrea)、透過係数比(P.C.R)、イオンバリヤー性(α)の結果は、表2のとおりである。
なお、各実施例、比較例の膜作製のキャスト用ポリマー水溶液中の全ポリマー量は7.0wt%であった。
<含水率(H)>
作製した膜の含水率(H)は、熱処理後、膜の乾燥重量Dw[g]を測定し、また、膨潤平衡に達した後の膜の湿潤重量Ww[g]を測定し、下記の数式1により含水率(H)を算出した。
Figure 0004774520
ここで1.0と1.3はそれぞれ水とポリマーの比重を示している。
<透過性およびイオンバリヤー性>
図6に示す装置に実施例、比較例の膜41を装着し、塩溶液の拡散透析実験を行った。高濃度側(Cell L)は、3×10−3MのNa2SO4、CaCl2、NaCl、LiCl、KCl溶液で、低濃度側(Cell R)は、イオン交換水100mlとした。Cell Rにおけるイオン濃度は、伝導度計(HORIBA CONDUCTIVITY METER ES−12、HORIBA CELL 3552)を用いてその伝導度から算出した。また、その時間変化はレコーダー(TOA EPR−151A)で記録した。(図7参照)
この濃度−時間曲線から透過係数Piを、下記数式2を用いて算出した。
Figure 0004774520
ll L及びCell Rのイオン濃度[mol dm−3]、Sは有効膜面積[m2]、△Cl/△tは低濃溶液側(Cell R)の濃度変化率である。
また、図6に示す装置に実施例、比較例の膜を装着し、以下の理由に基づき、尿素の拡散透析実験を行って、尿素の透過係数を求めた。
すなわち、あるイオン(i種イオン)の膜の透過し易さ、つまり透過係数Piは拡散係数Diと分配係数Kiの積として表される。Diによる選択性は、膜中のイオン移動度に依存し、膜中のイオン移動度は、見かけ上、膜に存在する物質が通り抜ける孔の数や大きさなどの膜の幾何学的な構造に依存する。Kiによる選択性は、膜とイオンの化学親和力、及びDonnan分配に起因する。ここで、Donnan分配は荷電膜が有する膜荷電の影響である。
ここにおいて、Donnan分配による選択透過性、つまり膜荷電による選択透過性を検討するには、Diの影響を除外しなければならない。そこで、Ureaのような中性物質の透過実験を行った。中性物質の透過は、膜の荷電に因らず膜の幾何学的構造のみに起因する。そのために、中性物質であるUreaの透過係数と塩の透過係数の比をP.C.R.と定義した(下記数式3参照)。このP.C.R.の値が高い膜は非荷電溶質よりもイオンを相対的に透過することを示し、逆にP.C.R.の値が低い膜は非荷電溶質がイオンよりも相対的に透過する、つまりイオンバリヤー性が高い膜であることを示す。
Figure 0004774520
透過条件は、図6に示す装置のCell Lが0.1M Urea、Cell Rが超純水100mlである。Urea濃度の時間変化は液体クロマトグラフ(JASCO PU−980 intelligent HPLC PUMP、JASCO RI−2031 Plus intelligent RI Detector、JASCO AS−2055 Plus intelligent Sampler、JASCO 860−CO column Oven)を使用して測定した。透過係数PUreaは先述した数式2を用いて算出した。
また、NPN膜のP.C.R. P.C.R.(NPN)とP膜、N膜、PVA膜のP.C.R. P.C.R.(P or N or PVA)において、イオンバリヤー性(α)を下記数式4と定義し、NPN膜のイオンバリヤー性を算出した。このαの値は、この膜が非荷電膜であるPVAとの相対的なイオンバリヤー性を示しており、この値が高い膜が高いイオンバリヤー性を有することを表す。
Figure 0004774520
表1に示されるように、実施例1〜実施例3、比較例1〜比較例9の膜の含水率は約0.3から0.6の間であり、実施例1のNPN膜が一番高い含水率を有している。
表2には、カチオン、アニオンがそれぞれ1価、1価である電解質(1−1型電解質)の例としてNaCl、KCl、LiCl、カチオン、アニオンがそれぞれ2価、1価である電解質(2−1型電解質)の例としてCaCl2、カチオン、アニオンがそれぞれ1価、2価である電解質(1−2型電解質)の例としてNa2SO4の結果を示す。この表2に示されるように、非架橋膜のNPN膜は、架橋膜のNPN−0.01、NPN−0.05膜ともに非荷電膜(PVA、PVA−0.01、PVA−0.05)よりも7倍〜20倍以上も高いイオンバリヤー性を有していることがわかる。また負荷電膜(N20、N20−0.01、N20−0.05)よりもそれぞれ高い値を示している。特に負荷電膜では多価カチオンを含むCaCl2でのイオンバリヤー性は非荷電膜と殆ど差がないのに対してNPN膜はいずれも高い値を示している。またNPN膜は正荷電膜(P10、P10−0.01、P10−0.05)膜よりも高いイオンバリヤー性を有している。特に正荷電膜では、多価アニオンを含むNa2SO4でのイオンバリヤー性は非荷電膜より低い値を示しているのに対してNPN膜はいずれも高い値を示している。このようにNPN膜は1−1型電解質、2−1型電解質、1−2型電解質において非荷電膜、負荷電膜、正荷電膜のいずれの膜よりも高いイオンバリヤー性を示している。
Figure 0004774520
Figure 0004774520
この発明のイオンバリヤー膜の内部構造を示す説明図である。 この発明のイオンバリヤー膜を分離膜として利用した海水淡水化装置を示す概略図である。 この発明のイオンバリヤー膜の製造プロセスを示すフローチャートである。 この発明のイオンバリヤー膜の積層構造を示す説明図である。 比較のための膜の製造プロセスを示すフローチャートである 膜の透析実験装置を示す概略図である。 電解質透過実験における濃度−時間関係を示す図である。
1 結晶領域
2 化学結合による架橋

Claims (12)

  1. 水に可溶であり、加熱することによって皮膜を形成し、耐水性となり得る親水性を有する結晶性のポリビニルアルコールをマトリックスとする陽イオン交換膜層と、前記ポリビニルアルコールと同様の性質を有する結晶性のポリビニルアルコールをマトリックスとする陰イオン交換膜層が積層され、熱処理された、非荷電溶質や溶媒よりもイオンの透過性が相対的に低いことを特徴とするイオンバリヤー膜。
  2. 前記陽イオン交換膜層のマトリックスおよび陰イオン交換膜層のマトリックスがいずれも熱処理によるミクロ領域の物理的架橋となる結晶化領域の増加の後に、化学結合による架橋を形成されてなるものであることを特徴とする請求項1記載のイオンバリヤー膜。
  3. 前記陽イオン交換膜層が、ポリビニルアルコールと高分子アニオンの混合物、前記陰イオン交換膜層が、ポリビニルアルコールと高分子カチオンの混合物からなるものであることを特徴とする請求項1または2記載のイオンバリヤー膜。
  4. 前記高分子アニオンがスルホン酸基を有する共重合体、前記高分子カチオンがポリアリルアミンであることを特徴とする請求項記載のイオンバリヤー膜。
  5. 前記イオンバリヤー膜が、少なくとも前記陽イオン交換膜層の間に前記陰イオン交換膜層が積層された多層構造からなることを特徴とする請求項1、2、3、または4記載のイオンバリヤー膜。
  6. 前記イオンバリヤー膜が、少なくとも前記陰イオン交換膜層の間に前記陽イオン交換膜層が積層された多層構造からなることを特徴とする請求項1、2、3、または4記載のイオンバリヤー膜。
  7. 請求項1乃至に記載のいずれか1項に記載のイオンバリヤー膜を分離膜として具備することを特徴とする分離装置。
  8. 電解質を含む溶液からの電解質の分離用である請求項記載の分離装置。
  9. 前記溶液が、電解質水溶液、電解質と水−水と相溶性を有する有機溶媒からなる溶液、電解質と非電解質を含む水溶液、電解質と非電解質を含む水−水と相溶性を有する有機溶媒からなる溶液のうちのいずれかである請求項記載の分離装置。
  10. 前記イオンバリヤー膜を透過させる駆動力が膜両面における濃度勾配に基づくことを特徴とする請求項記載の分離装置。
  11. 前記イオンバリヤー膜を透過させる駆動力が膜両面における圧力勾配に基づくことを特徴とする請求項10記載の分離装置。
  12. 前記溶液が、電解質水溶液、電解質と水−水と相溶性を有する有機溶媒からなる溶液のうちのいずれかであって、溶液から水または有機溶媒分離が浸透気化によることを特徴とする請求項9または10記載の分離装置。
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