JP4772187B2 - AlN焼結体およびこれを用いたAlN回路基板 - Google Patents

AlN焼結体およびこれを用いたAlN回路基板 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高密度・高集積化した半導体素子を搭載するパワーモジュール用の基板または熱電モジュール用の基板であって、優れた放熱性を有するAlN焼結体およびこれを用いたAlN回路基板に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、熱電モジュール用基板としてセラミック基板が適用されている。このセラミック基板の材料として、熱伝導率および機械的強度の両特性に優れたアルミナ(Al)焼結体,熱伝導率が100〜180W/m・K程度のAlN焼結体,BeO焼結体,SiC焼結体などが用いられている。
【0003】
近年、熱電モジュール用基板には、より一層高い放熱性が要求されている。しかし、上述したAl焼結体またはAlN焼結体では、熱伝導率が180W/m・K以下であり放熱性を満足するものではなく、また、BeO焼結体およびSiC焼結体などは、それぞれ毒性および電気絶縁性の点で問題を有していた。
【0004】
一方、パワーモジュール用基板としてもセラミック基板が適用されており、このセラミック基板の材料として、高い熱伝導率を有するAlN焼結体,SiC焼結体,Si焼結体などが使用されている。
【0005】
そして、近年、半導体素子はより一層、高集積化,高速化,大チップ化されているため、使用時の半導体素子からの発熱が増加して温度上昇する傾向にある。このため、基板材料の特性として、半導体素子から発生する熱を外部に効率良く放熱できる高い放熱性が要求される。このため、高熱伝導率を有するAlN焼結体が主に実用化されている。
【0006】
ところで、セラミック焼結体の熱伝導は、主に熱が格子の振動を介して伝播するフォノン(格子振動)によるものである。このため、セラミックス焼結体中に存在する粒界はフォノンの伝播を妨げてしまい、熱伝導率の低下を招く原因となる。
【0007】
AlN焼結体では焼結助剤からなる粒界相が存在するが、粒界相を形成する焼結助剤を使用せずに形成したAlN焼結体や、焼結助剤からなる粒界層を実質的に排除したAlN焼結体とすることで、熱伝導率を200W/m・K程度としたAlN焼結体が開発されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述したようなAlN焼結体は、熱伝導率を200W/m・K以上とすることができるが、AlN焼結体自体の強度が十分ではなかった。詳述すると、熱伝導率が200W/m・K以上であるAlN焼結体は、熱伝導率を高くすることのみに着目したものであるため、粒界相を低減してAlN結晶粒子のサイズを平均粒径5μm以上と大きくしたものであり、また、AlN結晶粒子のサイズはそれぞれ異なっておりばらつきが極めて大きかった。従って、200W/m・K以上の熱伝導率を有するAlN焼結体は、回路基板に要求される強度特性を満足するものではなかった。
【0009】
また、AlN焼結体を回路基板として用いる場合、AlN焼結体から成るAlN基板上に金属回路部を形成する必要がある。この時、AlN基板の表面が粗いと、AlN基板と金属回路部とを接合する時に接合不良が生じてしまい接合強度(ピール強度)が低下してしまう。このため、AlN基板を表面研磨して表面粗さを低減して、AlN基板表面を平坦化することは必須であった。
【0010】
特に、スパッタ法によりAlN基板上に金属回路部を薄膜形成する際には、AlN基板表面の平坦度が要求され、具体的には、AlN基板の表面粗さRaを0.01μm以下とする鏡面加工を施す必要があった。
【0011】
しかし、上述した熱伝導率200W/m・K以上のAlN焼結体からなるAlN基板に表面粗さRa0.01μm以下とする鏡面加工を施すと、大きな脱粒痕が多量に生じ易かった。この理由は、AlN結晶粒子のサイズが大きいため、一つのAlN結晶粒子が脱粒するだけで、例えば、最大径5μm以上の大きな脱粒痕が生じるからである。また、AlN結晶粒子サイズが大きいため、単位面積当たりの結晶粒子を固定するための粒界相の割合が実質的に少なくなり脱粒が生じ易かった。特に、表面粗さRaが0.01μm以下となるような研磨加工を施すと脱粒痕が多くなる傾向にあり、このような大きな脱粒痕が多数あるとAlN基板表面の凹凸が大となり、金属回路部を形成する際に未接合部ができ易くなり接合不良が生じてしまうという問題を有していた。
【0012】
さらに、接合部に接合強度のばらつきがあるAlN回路基板に、大電流を流すなどにより昇温・冷却の熱サイクルを繰り返すと、AlN基板と金属回路部とは熱膨張率が異なることから、AlN回路基板に不要な応力が発生してしまう。特に、AlN焼結体の熱伝導率を200W/m・K以上と高くする場合には、当然ながらAlN基板に要求される放熱特性が高まり、熱サイクルが厳しくなる。このため、未接合部が亀裂発生部位となり、この未接合部を起点として次第にAlN基板と金属回路部とが剥離して耐熱サイクル特性が低下してしまうという問題を有していた。
【0013】
本発明は、上述した問題を解決するためになされたものであり、高い放熱性を有し、かつ高強度を有するAlN焼結体を提供することを目的とする。
【0014】
また、AlN焼結体から形成されるAlN基板の研磨性を向上させて、AlN基板と金属回路部との接合強度を向上させて、これにより優れた耐熱サイクル特性を有するAlN回路基板および熱電モジュール用AlN回路基板を提供することを目的とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上述した目的を達成するために種々研究した結果、AlN焼結体中におけるAlN粒子の粒径の大きさと、焼結助剤からなる粒界相の存在割合を調整することで、AlN焼結体の放熱特性と強度特性との両特性の向上を図れることを見い出した。
【0016】
すなわち、本発明に係るAlN焼結体は、平均粒径0.8μm以下かつ標準偏差2μm以下の窒化アルミニウム粉末に酸化イットリウム粉末が2〜10質量%添加された原料粉末の焼成により得られたAlN焼結体であって、前記AlN焼結体の表面で測定した直線距離50μmに含まれるAlN結晶粒子の数が15〜30個であり、前記AlN焼結体の表面が表面粗さRaが0.01μm以下になるように鏡面加工された表面における単位面積50μm×50μmあたりに含まれる最大径5μm以上の脱粒痕が5個以下であるとともに、この脱粒痕の最大径が10μm以下であり、熱伝導率が200W/m・K以上であり、3点曲げ強度が300MPa以上であることを特徴とする。
【0017】
直線距離50μmに含まれるAlN結晶粒子の数が14個以下では、AlN結晶粒子の粒子サイズが大きく高い熱伝導性を有するが、AlN焼結体の強度が低下してしまう。また、粒子サイズが大きいと表面粗さRaが0.01μm以下の鏡面加工を施した際に脱粒痕が所定数以上になり易く接合不良を生じてしまう。一方、直線距離50μmに含まれるAlN結晶粒子の数が31個以上では、AlN結晶粒子サイズが小さくなり熱伝導率を200W/m・K以上とすることが難しい。なお、本発明において、直線距離50μmに含まれるAlN結晶粒子が15〜30個存在するということは、AlN結晶粒子サイズが実質的にほぼ均一であることを示すものである。
【0018】
従って、直線距離50μmに含まれるAlN結晶粒子の数を15〜30個の範囲としてAlN結晶粒子サイズを均一とすることで、熱伝導率を200W/m・K以上とし、かつ3点曲げ強度を300MPa以上として、高熱伝導性および高強度特性の両特性の向上を図れる。
【0019】
また、上記のAlN焼結体において、表面粗さRaが0.01μm以下であり、その表面における単位面積50μm×50μmあたりに含まれる最大径5μm以上の脱粒痕が5個以下であることが望ましい。
【0020】
このようなAlN焼結体は、熱伝導率200W/m・K以上を保ちつつ、適度な粒界相量を具備していることから脱粒が生じ難く、仮に脱粒が起きたとしても最大径5μm以上の脱粒痕は少なくて済む。つまり、熱伝導率200W/m・K以上のAlN焼結体を研磨して表面粗さRaを0.01μm以下としたとき、最大径5μm以上の脱粒痕が単位面積50μm×50μm中に5個以下となる。また、最大径5μm以上の脱粒痕は、最も大きなものであっても10μm以下である。
【0021】
このようなAlN焼結体を回路基板に使用すると、大きな脱粒痕が少ないことから金属回路板を各種接合方法において接合した際に、接合面の未接合部を0.5%以下とすることができ、接合応力のばらつきを抑えることができる。この結果、AlN基板と金属回路部との接合強度(ピール強度)を5kN/m以上とすることができる。
【0022】
上記のAlN焼結体において、最大表面粗さRmaxが0.03μm以下であることが望ましく、さらに、3点曲げ強度が300MPa以上であることが望ましい。
【0023】
また、上記のAlN焼結体によりAlN基板を構成し、このAlN基板の少なくとも一方の面に金属回路部を形成したことを特徴とする。このようなAlN焼結体からなるAlN基板の少なくとも一方の面に金属回路部を形成することにより、高い接合強度を得られるだけでなく、接合応力のばらつきをも低減できることから、昇温・冷却の耐熱サイクル後のクラック発生を防止し、耐熱サイクル特性を向上することができる。
【0024】
また、金属回路部が、AlN基板に直接接合(DBC、DBA等),活性金属接合,Al系ろう材接合のいずれかにより接合された金属回路板であることが望ましく、また、金属回路部が、AlN基板にスパッタ法により形成された金属回路薄膜であっても良い。
【0025】
そして、このようなAlN回路基板において、ピール強度が5kN/m以上であることが望ましい。
【0026】
また、熱伝導率が200W/m・K以上であるAlN焼結体によりAlN基板を構成し、このAlN基板の少なくとも一方の面に金属回路部を形成し、この金属回路部が熱電素子に接続するためのものであることが望ましい。
【0027】
さらに、上述したようにAlN回路基板を熱電モジュール用の回路基板とすることが望ましい。
【0028】
次に、AlN焼結体の製造方法について説明する。製造方法は特に限定されるものではないが、例えば次のような方法が有効である。
【0029】
平均粒径0.8μm以下(標準偏差2μm以下)とした窒化アルミニウム(AlN)粉末に、焼結助剤を添加して原料粉末を調整し、ボールミルにて解砕および混合を行う。この原料粉末に有機バインダおよび有機溶剤(エタノール)を添加した後混合してスラリー化し、このスラリーをドクターブレード法によりシート状に成形し、AlNグリーンシートを作製する。そして、このAlNグリーンシートを脱脂した後、不活性雰囲気中、1700〜1800℃で2〜5時間常圧焼成を行いAlN焼結体とする。
【0030】
なお、焼結助剤としては酸化イットリウムや酸化イッテルビウムなどの希土類化合物、酸化カルシウムなどのアルカリ土類金属化合物など様々なものが使用可能である。添加量は、2〜10質量%(重量%と同じ)が好ましく、さらに好ましくは3〜6質量%である。焼結助剤の添加量が、2質量%未満では添加の効果が十分得られず緻密化が難しく熱伝導率および強度の向上が十分図れない。一方、10質量%を超えると、粒界相量が多くなりすぎ高熱伝導化が図り難くなってしまうためである。
【0031】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のAlN焼結体、これを用いたAlN回路基板および熱電モジュール用AlN回路基板について、図1および表1〜表4を用いて説明する。
【0032】
第1実施形態(表1)
本実施形態では、以下に示す参考例1参考例4、比較例1および比較例2を用いて本発明のAlN焼結体について説明する。
【0033】
参考例1〜参考例4,比較例1〜比較例2
平均粒径0.8μm以下(標準偏差2μm以下)とした窒化アルミニウム(AlN)粉末95質量%に、焼結助剤である酸化イットリウム(Y)粉末を5質量%添加して複数の原料粉末を調整し、ボールミルにて解砕および混合を行った。この原料粉末に有機バインダおよび有機溶剤(エタノール)を添加した後、混合してスラリー化した。このスラリーをドクターブレード法によりシート状に成形し、AlNグリーンシートを多数作製した。
【0034】
上記各AlNグリーンシートを脱脂した後、不活性雰囲気中、1700〜1800℃で2〜5時間常圧焼成を行い、その後、表面粗さRaが0.1μmになるように研磨加工を施してAlN焼結体を作製した。
【0035】
AlN焼結体をSEM写真により2000倍に拡大して、直線距離50μmに相当する直線(線径0.5mm)を引き、その直線上に存在するAlN結晶粒子の数をカウントした。また、AlN結晶粒子の数の測定は、AlN焼結体の表面2ヶ所、断面2ヶ所の合計4ヶ所を測定して、これらの平均値を算出したものである。なお、AlN焼結体の表面ではAlN結晶粒子の大きさが判断し難いときには断面から4ヶ所選択するものとする。また、直線距離50μm上のAlN粒子の数え方は、その直線上に触れるAlN結晶粒子はすべて1個としてカウントするものとする。
【0036】
AlN結晶粒子の数に応じて、直線距離50μmに含まれるAlN結晶粒子の数が15〜30個の範囲にあるものを参考例1参考例4、AlN結晶粒子数が少ないものを比較例1、AlN結晶粒子数が多いものを比較例2とした。
【0037】
上記参考例1参考例4、比較例1および比較例2のAlN焼結体から、長さ50mm×幅3mm×高さ4mmの試験片を作製して、熱伝導率および3点曲げ強度を測定した。
【0038】
熱伝導率は、レーザーフラッシュ法により測定した。また、3点曲げ強度は、JIS−1601に準じた方法によりインストロンにて室温強度を求めた。その結果を表1に示す。
【0039】
【表1】
Figure 0004772187
【0040】
表1に示したように、参考例1参考例4のAlN焼結体は、いずれも熱伝導率は200W/m・K以上であり、3点曲げ強度は300MPa以上であった。これに対し、比較例1では、240W/m・Kの高い熱伝導率を示したが3点曲げ強度は221MPaと低い値を示していた。これは、直線距離50μm中に存在するAlN結晶粒子数の少ないためにAlN結晶粒子の粒径が大となり熱伝導率が向上し、その一方で、焼結助剤により形成される粒界相の存在割合が低いため、AlN焼結体の強度低下が生じたものであると考えられる。また、比較例2では、3点曲げ強度は高いが、熱伝導率は175W/m・Kと低下していた。これは、直線距離50μm中に存在するAlN結晶粒子数の多いためAlN結晶粒子の粒径が小さくなり、AlN焼結体が緻密化され高い強度が得られたが、AlN結晶粒子の粒径が小さく、かつ、焼結助剤からなる粒界相の存在により格子振動の効率が低下したものであると考えられる。
【0041】
本実施形態によれば、AlN焼結体の直線距離50μmに含まれるAlN結晶粒子の数を15〜30個の範囲とすることで、AlN焼結体の結晶粒子径とAlN焼結体中に含まれる粒界相の存在割合を制御することにより、熱伝導率が200W/m・K以上の優れた放熱性を有し、かつ高強度のAlN焼結体を得られる。
【0042】
第2実施形態(表2、表3)
本実施形態では、AlN焼結体から成るAlN基板を作製し、このAlN基板上に金属回路部を形成し、接合強度および耐熱サイクル特性を調査した。
【0043】
実施例1〜実施例10,比較例3〜比較例6
平均粒径0.7μm以下(標準偏差2μm以下)のAlN粉末95質量%に、平均粒径0.9μm以下の酸化イットリウム(Y)粉末を4質量%添加して複数の原料粉末を調整し、ボールミルにて解砕および混合を行った。この原料粉末に有機バインダおよび有機溶剤(エタノール)を添加した後、混合してスラリー化した。このスラリーをドクターブレード法によりシート状に成形し、AlNグリーンシートを多数作製した。
【0044】
上記AlNグリーンシートを脱脂した後、不活性雰囲気中、1700〜1800℃で2〜5時間常圧焼成を行い、横50mm×縦50mm×厚さ0.635mmのAlN基板を複数作製した。
【0045】
上記各AlN基板をSEM写真により2000倍に拡大して、直線距離50μmに含まれるAlN結晶粒子の数を測定した。直線距離50μmに含まれるAlN結晶粒子の数が15〜30個の範囲にあるものを実施例1実施例4、AlN結晶粒子数が多いものを比較例3とした。
【0046】
そして、各AlN基板の熱伝導率および3点曲げ強度を測定したところ、いずれも200W/m・K以上の高熱伝導性を示し、実施例1実施例4では、3点曲げ強度がいずれも300MPa以上であった。
【0047】
上記実施例1実施例4および比較例3の各AlN基板に対してラップ研磨加工を施し、表面粗さRaを0.01μm以下とした。そして、ラップ研磨加工後に生じたAlN基板の研磨面の単位面積あたりにおける脱粒痕の数を測定した。
【0048】
なお、脱粒痕の数は、以下のように測定した。まず、AlN基板を研磨した研磨面における単位面積50μm×50μmを任意の3ヶ所選びその中に存在する最大径5μm以上の脱粒痕の数を測定した。次に、この任意の3ヵ所において、単位面積あたりの脱粒痕の数を測定した。そして脱粒痕の数の平均を算出して、その結果を脱粒痕の数として表2に示した。また、脱粒痕の数を測定する際に、最大径5μm以上の脱粒痕のうち最も大きな脱粒痕のサイズを測定し、表2に示した。
【0049】
【表2】
Figure 0004772187
【0050】
表2に示したように、実施例1実施例4のAlN基板を研磨加工して表面粗さRaを0.01μm以下としても、最大径5μm以上の大きな脱粒痕は5個以下であり、各脱粒痕の最大サイズを10μm以下に抑えることができた。
【0051】
そして、上記実施例1実施例3および比較例3の各AlN基板上に金属回路部を形成して、実施例5実施例12、比較例4〜比較例7の各種AlN回路基板を作製した。
【0052】
実施例5実施例8は、実施例1のAlN基板を用いたものである。
【0053】
実施例5ではDBC法による直接接合法を用い、具体的には、AlN基板の両面にCu板を配し、窒素ガス雰囲気下、1080℃で30分加熱してAlN回路基板を得た。
【0054】
実施例6ではAg−Cu−Ti系ろう材による活性金属法を用い、質量比(重量比と同様)で、Ag:Cu:In:Ti=61.9:24.1:10:4の活性金属ろう材ペースト(厚さ20μm)をAlN基板上にスクリーン印刷して、乾燥後のぺースト上にCu板を載置し、1×10−4Torr以下の真空中で760℃で20分接合した。
【0055】
実施例7ではAl−Si系ろう材によるろう材接合法として、Siを8質量%含有したAl−Siろう材(厚さ20μm)を介して銅板を積層し、1×10−4Torr以下の真空中で650℃で20分接合することにより、AlN基板の両面にCu板を形成してAlN回路基板を作製した。
【0056】
なお、表側のCu板のサイズは、横20mm×縦40mm×厚さ0.3mmを2枚(間隔2mm)と統一し、裏側のCu板のサイズは、横45mm×縦45mm×厚さ0.2mmと統一した。
【0057】
また、実施例8は、スパッタ法によりAlN基板上にAlN基板側からTi薄膜(厚さ100mm)/Pt薄膜(厚さ200mm)/Au薄膜(厚さ500mm)の3層薄膜を形成した。
【0058】
さらに、実施例9実施例12では実施例3のAlN基板を用い、比較例4〜比較例7では比較例3のAlN基板を用い、それぞれ表3に示す接合法を用いてAlN回路基板を作製した。
【0059】
得られた実施例5実施例12および比較例4〜比較例7の各AlN回路基板に対して、ピール強度を測定し、耐熱サイクル特性を評価した。
【0060】
ピール強度は、インストロンにより測定した。なお、ピール強度の測定として、直接接合法、活性金属接合法、ろう材接合法により銅板を接合したものは、この銅板の接合強度を測定した。スパッタ法により金属回路部を形成したものについては、前記3層薄膜上にNiメッキ(厚さ2μm)を設け、その上にBAg−8ろう材により銅板を接合し、ピール強度を測定した。
【0061】
耐熱サイクル特性は、TCT試験を実施して評価した。具体的には、AlN回路基板に対して昇温・冷却の熱サイクルを100回繰り返し、100サイクル後にAlN回路基板の金属回路板を溶解除去して、AlN基板上のクラック量を測定し指数ηで評価した。指数ηが100%であると、AlN基板上のクラックがなく、指数ηが0%であると、AlN基板の全面にクラックが発生していることを示す。なお、1サイクルは、−40℃×30分→RT×10分→125℃×30分→RT×10分とした。また、スパッタ法により金属回路部を設けたものについては、前記3層薄膜の状態でTCT試験を行った。
【0062】
その結果を表3に示す。
【0063】
【表3】
Figure 0004772187
【0064】
表3に示したように、実施例5実施例12のAlN回路基板は、ピール強度および耐熱サイクル特性がいずれも優れていた。これに対し比較例4〜比較例7のAlN回路基板は、ピール強度および耐熱サイクル特性のいずれも実施例と比較して劣っていた。この理由は、AlN基板上の研磨面に存在する脱粒痕の数が多くかつ脱粒痕自体が大きいために、AlN基板と金属回路部との接合不良が生じ、接合強度と耐熱サイクル特性が劣化したものと考えられる。
【0065】
本実施形態によれば、AlN基板を研磨した際に、研磨面における脱粒痕の数を低減できるため、AlN基板と金属回路部との接合不良を防止して接合強度を向上させることができる。また、AlN基板と金属回路部との接合強度を向上させることにより、耐熱サイクル特性の向上を図ることができる。
【0066】
第3実施形態(表4,図1)
本実施形態では、熱電モジュール用のAlN回路基板を作製して、熱抵抗を測定した。
【0067】
平均粒径0.8μm以下(標準偏差2μm以下)のAlN粉末95質量%に、平均粒径0.9μm以下の酸化イットリウム(Y)粉末を5質量%添加して複数の原料粉末を調整し、ボールミルにて解砕および混合を行った。この原料粉末に有機バインダおよび有機溶剤(エタノール)を添加した後、混合してスラリー化した。このスラリーをドクターブレード法によりシート状に成形し、AlNグリーンシートを多数作製した。
【0068】
上記AlNグリーンシートを脱脂した後、不活性雰囲気中、1700〜1800℃で2〜5時間常圧焼成を行い、横50mm×縦50mmとし、厚さをそれぞれ表4に示す厚さとしたAlN基板を作製した。これらのAlN焼結体を参考例5参考例11とした。これらの各AlN焼結体の熱伝導率をレーザーフラッシュ法により測定したところ、いずれも200W/m・K以上であった。
【0069】
また、実施例13実施例20は、第2実施形態に示す実施例1および実施例3のAlN基板を用いたものである。
【0070】
さらに、比較例8〜比較例11は、Al焼結体から形成されるAl基板を用いたものであり、比較例12〜比較例15は、Si焼結体から形成されるSi基板を用いたものである。
【0071】
上記参考例5参考例11、実施例13〜実施例20および比較例8〜比較例10〜比較例15の各AlN基板上にCu板(横4mm×縦2mm×厚さ0.3mm)を48枚(間隔1.5mm)接合して、熱電モジュール用AlN回路基板を作製した。なお、接合方法は、第2実施形態に示す方法と同様とした。この熱電モジュール用AlN回路基板の上面図を図1に示す。
【0072】
図1に示すように、AlN基板1上に複数個のCu板2が接合されている。
【0073】
上記各熱電モジュール用AlN回路基板に熱電素子をそれぞれはんだ付けし、その後、熱電素子を接合した面と、これと反対側の面との間の熱抵抗を過渡熱抵抗測定試験により測定した。その結果を表4に示す。
【0074】
【表4】
Figure 0004772187
【0075】
表4に示したように、参考例5参考例11、実施例13〜実施例20では、いずれも熱抵抗が0.10℃/W以下と低い値となっており、放熱性が優れていることが判明した。一方、Al焼結体から形成されるAl基板、Si焼結体から形成されるSi基板は、いずれも基板厚を0.320mmと薄くしたにもかかわらず熱抵抗は0.10を超えており、放熱性が低下していた。
【0076】
本実施形態によれば、熱伝導性を200W/m・K以上としたAlN基板を熱電モジュール用回路基板に適用することで、放熱性を格段に向上することができ、その結果、熱電モジュールの小型化を図ることができる。
【0077】
さらに、熱伝導率が高いため、基板厚さを大きくした場合であっても放熱性を得られることから、絶縁耐圧の点からも大きなパワーをかけることが可能となる。
【0078】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のAlN焼結体によれば、放熱特性および強度特性の両特性を満足し、このAlN焼結体をAlN基板とすることにより、研磨性を向上させ、これにより接合強度および耐熱サイクル特性を改善でき、高信頼性のAlN回路基板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施形態を説明する図で、熱電モジュール用基板を示す上面図。
【符号の説明】
1 AlN基板
2 Cu板

Claims (9)

  1. 平均粒径0.8μm以下かつ標準偏差2μm以下の窒化アルミニウム粉末に酸化イットリウム粉末が2〜10質量%添加された原料粉末の焼成により得られたAlN焼結体であって、
    前記AlN焼結体の表面で測定した直線距離50μmに含まれるAlN結晶粒子の数が15〜30個であり、
    前記AlN焼結体の表面が表面粗さRaが0.01μm以下になるように鏡面加工された表面における単位面積50μm×50μmあたりに含まれる最大径5μm以上の脱粒痕が5個以下であるとともに、この脱粒痕の最大径が10μm以下であり、
    熱伝導率が200W/m・K以上であり、
    3点曲げ強度が300MPa以上であることを特徴とするAlN焼結体。
  2. 請求項1記載のAlN焼結体において、最大表面粗さRmaxが0.03μm以下であることを特徴とするAlN焼結体。
  3. 請求項1または2に記載のAlN焼結体において、前記原料粉末は、前記窒化アルミニウム粉末に酸化イットリウムが2〜6質量%添加されたものであることを特徴とするAlN焼結体。
  4. 請求項1からまでのいずれか1項に記載のAlN焼結体によりAlN基板を構成し、このAlN基板の少なくとも一方の面に金属回路部を形成したことを特徴とするAlN回路基板。
  5. 請求項記載のAlN回路基板において、金属回路部がAlN基板に直接接合,活性金属接合,Al系ろう材接合のいずれかにより接合された金属回路板であることを特徴とするAlN回路基板。
  6. 請求項記載のAlN回路基板において、金属回路部がAlN基板にスパッタ法により形成された金属回路薄膜であることを特徴とするAlN回路基板。
  7. 請求項からまでのいずれか1項に記載のAlN回路基板において、ピール強度が5kN/m以上であることを特徴とするAlN回路基板。
  8. 請求項1からまでのいずれか1項に記載のAlN焼結体によりAlN基板を構成し、このAlN基板の少なくとも一方の面に金属回路部を形成し、この金属回路部が熱電素子に接続するためのものであることを特徴とする熱電モジュール用AlN回路基板。
  9. 請求項記載のAlN回路基板を熱電モジュール用の回路基板としたことを特徴とする熱電モジュール用AlN回路基板。
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