以下、添付図面にしたがって本発明の好ましい実施の形態について詳説する。
〔転写装置の構成例〕
はじめに、転写装置の構造について説明する。ここでは、ハードディスク装置に用いられる磁気記録媒体にサーボ信号を記録するための磁気転写装置を例に説明する。
図1は転写装置のホルダー部(保持ユニット)の構成図である。本例の転写装置1は、被転写体20の両面(被転写面)に転写原盤11、12の表面を密着させ、転写原盤11、12の表面上の情報を被転写体20の両面に転写するものであり、転写原盤11、12及び被転写体20を保持する転写装置用保持ユニット2(以降、「保持ユニット2」と略記)と、保持ユニット2にて転写原盤11、12及び被転写体20を保持させた状態で、これに磁界を印加する磁界印加手段3とを主として構成されている。
転写原盤11、12及び被転写体20としてはいずれも、平面視で中心部に開口部を有するディスク状物(円環形状のディスク)が使用され、これらの外形寸法、表面及び断面の構造は、製造される磁気記録媒体に応じて適宜選定設計される。
転写原盤11、12は、表面に転写情報に応じた微細な凹凸パターン(転写パターン)を有する金属製等のマスター基板と、その表面形状に沿って積層された磁性層とを備える。被転写体20としては、両面に磁気記録層を有する磁気記録媒体が使用される。
保持ユニット2は、転写原盤11、12を保持する一対の挟持部材31、32と、該一対の挟持部材31、32をさらに保持する一対の保持部材41、42とを主として構成されている。すなわち、保持ユニット2は、転写原盤11、12及び被転写体20を2重に保持する構造を有する。
一対の挟持部材31、32は、互いに近接離間可能であり、これら挟持部材31、32の対向面間等にはシール部材としてのO-リング34が適宜設けられ、一対の挟持部材31、32の内部を密閉できる構成になっている。
また、保持ユニット2には、挟持部材31、32を保持する一対の保持部材41、42を各々装着する一対の保持部材ベース51、52がさらに設けられている。
保持部材41、42の周縁部には、各々、挟持部材31、32の端部形状に応じた、複数のL字状部材43、44が突設されている。各L字状部材43、44は、保持部材41、42に対してボルト等の固定部材47、48にて固定されており、緩締自在である。本実施形態では、保持部材41、42とL字状部材43、44にて、挟持部材31、32の端部を上下から挟むことで、挟持部材31、32が保持部材41、42に着脱自在に保持される。
保持部材ベース51、52には各々、保持部材41、42を側面側から押圧する少なくとも一対の押圧部材53、54が取り付けられている。対をなす押圧部材53、54は略同一線上に配置され、対をなす押圧部材53、54によって、保持部材41、42は側面側から挟持押圧され、保持部材ベース51、52に装着される。押圧部材53、54による押圧力は調整でき、これによって、保持部材41、42は着脱自在とされている。
転写装置1にはさらに、上側の挟持部材32を保持部材42及び保持部材ベース52ごと、上下に移動させる移動機構(図示略)が備えられている。
また、本例の転写装置1は、一対の挟持部材31、32の位置関係(対向する面に平行な面内方向の相対位置)を調節する位置調節機構(図示略)を備える。具体的には、位置調節機構として、(A)上側の挟持部材32をこれと対応する保持部材42に対して移動させ、挟持部材32と保持部材42との位置関係を調節する機構と、(B)一対の保持部材41、42と、対応する保持部材ベース51、52との位置関係を調節する機構とを備えている。
上記位置調節機構(A)の構成例として、例えば、上側の挟持部材32を側面側から押圧し位置を微調整する手段となる少なくとも一対のマイクロメータが設けられている。対をなすマイクロメータは略同一線上に配置される。位置調整を行うには、保持部材42にボルト等にて固定されたL字状部材44を緩めて、挟持部材32を可動とし、マイクロメータにて挟持部材32を側面側から押圧し、挟持部材32がL字状部材44から脱落しない範囲内で、挟持部材32の位置を調節する。
また、上記の位置調節機構(B)として、保持部材ベース51、52に設けられた押圧部材53、54を、ある範囲内で位置調整することで、保持部材41、42と、対応する保持部材ベース51、52との位置関係を調節する機構(図示略)が備えられている。
上記構成の保持ユニット2は、転写装置1に設けられたユニットベース60にボルト等の固定部材61にて着脱自在に装着される。固定部材61は複数箇所に設けられ、必要に応じて、各固定部材61の保持ユニット2への挿入具合を調整し、保持ユニット2の平面平行性を調整することができる。
(磁界印加機構)
転写装置1には、保持ユニット2により保持された転写原盤11、12及び被転写体20に対して磁界を印加する磁界印加手段3が備えられている。磁界印加手段3は電磁コイルや永久磁石等からなり、保持ユニット2の上下両側に略対称に一対設置される。
挟持部材31、32及び保持部材41、42の内部には、各々、磁界印加手段3の少なくとも一部が挿入される、磁界印加手段挿入部35、36、45、46が設けられている。保持部材ベース51、52にも同様の磁界印加手段挿入部55、56が設けられている。
磁界印加手段挿入部55、56は、保持部材ベース51、52を上下に貫通する開口部からなる。磁界印加手段挿入部45、46は、保持部材41、42を上下に貫通する開口部からなり、磁界印加手段挿入部35、36は、挟持部材31、32の保持部材41、42側に形成された凹部からなる。保持ユニット2にて保持された転写原盤11、12及び被転写体20と、磁界印加手段挿入部35、36、45、46、55、56とは、略同軸上に位置している。
さらに、転写装置1には、磁界印加手段3を上下に移動させる移動機構(図示略)と、磁界印加手段3の少なくとも一部を磁界印加手段挿入部35、36、45、46、55、56に挿入した状態で、磁界印加手段3を回動する回動手段(図示略)が備えられている。
転写装置1では、磁界印加手段3の少なくとも一部を磁界印加手段挿入部35、36、45、46、55、56に挿入し、磁界印加手段3を転写原盤11、12及び被転写体20に近接させ、保持ユニット2は固定したまま、磁界印加手段3を回動することで、磁気転写が行われる。
磁気転写に際しては、一対の磁界印加手段3による磁界印加の停止を同時に実施する。また、一対の磁界印加手段3による磁界印加の開始を同時に実施することが好ましい。
図2は、転写装置用保持ユニットの要部拡大図である。図2に示すように、本実施形態では、転写原盤11、12が、弾性体70を介して挟持部材31、32に接着固定されている。すなわち、転写原盤11(12)と弾性体70の間は接着材72により固定され、弾性体70と挟持部材31(32)の間は接着材74により固定されている。このような転写原盤11(12)の貼り合わせ接着固定の方法について詳細は後述する(図3〜図11)。
転写原盤11、12の間に被転写体20が介挿され、転写原盤11、12及び被転写体20の保持が行われる。なお、下側の挟持部材31の内面には、転写原盤11及び被転写体20の中央開口部に挿通される挿通部材33が突設されており、これによって被転写体20は着脱自在に保持される。
また、図示していないが、転写装置1は、保持ユニット2内の内部空間のエアを真空吸引し内部を減圧状態として密着力を得る真空吸引手段を備える。真空吸引手段により保持ユニット2の内部空間を所定の真空度に制御し、被転写体20と転写原盤11、12とが所定の密着圧力となるように設定されると共に、両者の密着面のエア抜きが行われ、密着性が高められる。
〔転写原盤をベース部材に接着固定する方法〕
次に、転写原盤を接着固定する方法の具体例について説明する。
(第1の製造方法)
図3は転写原盤をベース部材に接着固定してなるマスター体の第1の製造方法を示す工程図である。なお、図3において、説明の便宜上並びに図示の簡略化のために、ベース部材150を円盤状に描いたが、ここで示したベース部材150は、図1で説明した挟持部材31、32に相当する部材である。
(工程1)図3(a)に示すとおり、まず、基材入りの粘着シート(円環形状に加工する前のシート体)110と、弾性体(円環形状に加工する前のシート体)124を用意する。
ここで用いる粘着シート110は、基材110A(非粘着層)の両面に粘着層110B、110Cが形成された構成の両面粘着シートであり、各粘着層110B、110Cはセパレータ(剥離紙)112、113により覆われている。
弾性体124は、マスターとスレーブの押圧密着時に均等に圧力を加えるためのものであり、その加圧力による弾性体124の加圧方向の変形量が5μm〜500μmの範囲となるように材質、厚み等が設定されている。
弾性体124の弾性率(ヤング率)は、5MPa〜200MPaであるものが好適である。また、弾性体124は、押圧部分の厚みばらつきが100μm以下であることが望ましい。弾性体124の最適な弾性率は、上記変形量に対応し、使用する弾性材の厚み、厚みばらつき、ホルダーの製作精度、転写時の加圧力等の要因によって決まる。
上記所要の弾性特性を有する材料としては、ウレタンゴムやNBR(ニトリルブタジエンゴム)等が使用できる。この弾性材にフッ素等を含浸させると、表面摩擦係数が小さくなり、発塵がさらに抑制できる。
(工程2)この粘着シート110から金属刃による打ち抜き加工を行い、円形外周と中心孔を有する円環状の粘着シート部品130、132を形成する(図3(b))。同様に、弾性体124についても金属刃による打ち抜き加工を行い、円形外周と中心孔を有する円環状の弾性体部品134を形成する。なお、粘着シート部品130、132および弾性体部品134の直径(外径)及び中心孔の径は、転写原盤151の寸法に合わせたものとする。
(工程3)工程2で得た粘着シート部品130の下面側のセパレータ131Aを剥がすとともに、粘着シート部品132の上面側のセパレータ133Bを剥がし、露出した粘着層130A,132Bの間に弾性体部品134を挟入してこれらを貼り合せる(図3(c))。こうして、図3(d)に示すような貼り合わせ構造体部品136が得られる。
(工程4)次に、この貼り合わせ構造体部品136からセパレータ133Aを剥がし、露出した粘着層132Aによりベース部材150に貼り合せる(図3(e))。
(工程5)その後、上面のセパレータ131Bを剥がし、粘着層130Bの上面に転写原盤(マスター)151を貼り合せる(図3(f))。ここでいう、転写原盤151は図1で説明した符号11、12に相当するものである。
このマスターの貼り合せ時、マスター表面には情報パターンを保護するための保護シート(不図示)を貼り付けておく事が好ましい。
また、作業中の保護シート剥離を防止するため、保護シートのマスターに接する側の表面が粘着性を有していることが好ましい。
保護シートはアウトガス、剥離後のマスター表面に付着する汚染物質やパーティクルが極力少ないものを使用することが好ましい。一般的にはシリコンウエハ表面を保護するシートを使用するのが有効である。
保護シートの厚みムラは小さい方が好ましい。保護シートの厚い部分と薄い部分の差は、保護シートの厚さや物性にもよるが、好ましくは100μm以下、さらに好ましくは50μm以下であることが好ましい。
なお、各部材の貼り合せ時は、気泡混入を防ぐため減圧下で貼り合せることが好ましい。
上述の工程1〜5により、図4に示すようなマスター体160を得ることができる。図4において符号130C、132Cはそれぞれ粘着シートの基材である。このようにして製造されたマスター体160は、基材入りの粘着シートを用いているため、打ち抜き加工時の加工エッジ部の変形が抑制され、貼り合わせ固定後のマスター平面度が良好である。
また、使用後にベース部材から転写原盤と弾性体を分離することも可能であり、分離した円環状の弾性体を再利用して、図3(c)の工程3に用いることも可能である。
(第2の製造方法)
図5は転写原盤をベース部材に接着固定してなるマスター体の第2の製造方法を示す工程図である。
図5に示した第2の製造方法は、図3における粘着シート110に代えて、基材無しの粘着シート170を用いたものである。したがって、図3における基材110A、及びその両面の粘着層110B、110Cに代えて、図5では粘着層170Aのみとなっている。図5に示す各工程は、図3で説明した例と同様なので、同一又は類似する部材には同一の符号を付し、説明は省略する。
図5に示す基材無しの粘着シート170を用いた場合、図3の例と比較して、貼り合わせ固定後のマスター平面度が悪化することが確認された。
図6は、第2の製造方法によりベース部材上に接着固定されたマスター(直径約65mm)の平面度を測定したデータ(断面形状)の例である。図6の横軸はマスターの中心を通る径方向の位置を示し、縦軸は厚さ方向の高さを表す。図6に示されているように、円環状領域の平面度が悪化している。
この原因について考察したところ、図7に示すように、基材無し粘着シート170を打ち抜き加工する際に、打ち抜き刃180によって加工エッジ部が変形し、その変形が大きいことによるものであった(図7(c))。
かかる知見に基づき、高平面度化を実現するために工夫された第3の製造方法を以下に説明する。
(第3の製造方法)
図8は転写原盤をベース部材に接着固定してなるマスター体の第3の製造方法を示す工程図である。なお、図3で説明した第1の製造方法における工程番号と区別するために、図8に示す第3の製造方法の各工程の番号を「300番台」で記載するものとする。
(工程301)まず、基材無しの粘着シート(円環形状に加工する前のシート体)220、222と、弾性体(円環形状に加工する前のシート体)224を用意する(図8(a))。粘着シート220、222は、それぞれ粘着層226、228の両面がセパレータ(剥離紙)227A、227B、229A、229Bで覆われた構造を有する。
被転写体が高クリーン度を必要とする場合、使用する粘着シートは低アウトガス性のものであることが好ましい。特に被転写体がハードディスクの磁気記録媒体である場合、微量の汚染でも品質が悪化する可能性があるので、ハードディスクドライブの部品固定に使用実績があるアウトガスが極力少ないものを使用することが好ましい。
また、アウトガスの中でもシロキサン(珪素:Siの酸化物)はハードディスクの品質への悪影響が大きいため、接着材やセパレータはシロキサン含有量が少ないものを使用するのが好ましい。
粘着層226、228の厚さは薄い方が好ましい。粘着材の物性にもよるが、好ましくは500μm以下、さらに好ましくは100μm以下であることが好ましい。
粘着層226、228の厚みムラは、保持力が確保される範囲で小さい方が好ましい。粘着層の厚い部分と薄い部分の差は、粘着層の厚さや物性にもよるが、好ましくは50μm以下、さらに好ましくは5μm以下であることが好ましい。
(工程302)次に、粘着シート220の下面側のセパレータ227Aを剥がすとともに、粘着シート222の上面側のセパレータ229Bを剥がし、露出した接着層226,228の間に弾性体224を挟入してこれらを貼り合せる(図8(b)〜(c))。
(工程303)工程302で得られた貼り合せ構造体230から打抜き加工を行い、図8(d)に示すような円環形状を有する貼り合せ構造体部品232を得る。このように、粘着シート220、222および弾性体224の加工(所望形状を得るための切断加工)は、金属刃による打ち抜きで行うことが好ましい。
(工程304)次に、この貼り合わせ構造体部品232からセパレータ229Aを剥がし、露出した粘着層228によりベース部材150に貼り合せる(図8(e))。
(工程305)その後、上面のセパレータ227Bを剥がし、露出した粘着層226にマスター151を貼り合せる(図8(f))。
第1の製造方法で説明したとおり、このマスターの貼り合せ時、マスター表面には情報パターンを保護するための保護シート(不図示)を貼り付けておく事が好ましい。
また、各部材の貼り合せ時は、気泡混入を防ぐため減圧下で貼り合せることが好ましい。
上述の工程301〜305により、図9に示すようなマスター体260を得ることができる。かかる第3の製造方法よれば、図10に示すように、基材無し粘着層226、228を弾性体224に貼り合わせた後に、その貼り合わせ構造体230から打ち抜き刃180により打ち抜き加工を行うため、打ち抜き加工時に粘着層226、228が弾性体224に拘束され(つまり、弾性体224が基材としての役割を担い)、加工エッジ部の変形が抑制される(図10(c))。このため、加工による変形量が小さく、貼り合わせ固定後のマスター平面度が良好となる。
上記の工程301〜305によってベース部材150に接着固定されたマスター(直径約65mm)の平面度を測定したデータ(断面形状)の例を図11に示す。図11の横軸はマスターの中心を通る径方向の位置を示し、縦軸は厚さ方向の高さを表す。図11と図6を比較すると明らかなように、第3の製造方法は第2の製造方法と比較して、貼り合わせ固定後のマスターの高平面度化が実現されている。
〔磁気転写技術の説明〕
ここで、磁気転写の技術について簡単に説明しておく。
図12は垂直磁気記録の磁気転写方法の工程を示す概要図である。同図において、符号410は被転写用の磁気ディスクとしてのスレーブディスク(「被転写体」に相当)を表し、符号420はマスター媒体としてのマスターディスク(「転写原盤」に相当)を表す。
まず、図12(a)に示すように、スレーブディスク410に垂直方向の直流磁界(Hi)をかけて初期磁化を行い(初期磁化工程)、その後、図12(b)のように、マスターディスク420とスレーブディスク410を密着させ(密着工程)、両ディスク410,420を密着させた状態で、図12(c)のように、初期磁化の際とは逆方向の磁界(Hd)を印加することにより磁気転写を行う(転写工程)。
〔スレーブディスクの説明〕
本例で用いる被転写体(以下、「スレーブディスク」と称する)410は、円盤状の基板の表面の片面或いは、両面に垂直磁化膜からなる磁性層が形成されたものであり、具体的には、高密度ハードディスク等が挙げられる。
図13(a)にスレーブディスク410の断面模式図を示す。図13(a)に示すように、スレーブディスク410は、ガラスなど非磁性の基板412上に、非磁性層(中間層)414、磁性層(磁気記録層)416が順次積層形成された構造からなり、磁性層416の上は更に保護層418と潤滑層419とで覆われている。なお、ここでは、基板412の片面に磁性層416を形成した例を示すが、両面記録可能なディスクの場合は、基板の表裏両面に同構造の磁性層が形成される。
円盤状の基板412は、ガラスやAl(アルミニウム)等の非磁性材料から構成されており、この基板412上に非磁性層414と、磁性層416を形成する。
非磁性層414は、後に形成する磁性層416の垂直方向の磁気異方性を大きくする等の理由により設けられる。非磁性層414に用いられる材料は、Ti(チタン)、Cr(クロム)、CrTi、CoCr、CrTa、CrMo、NiAl、Ru(ルテニウム)、Pd(パラジウム)等が好ましい。非磁性層414は、スパッタリング法により上記材料を成膜することにより形成される。非磁性層414の厚さは、10nm〜150nmであることが好ましく、20nm〜80nmであることが更に好ましい。
磁性層416は、垂直磁化膜により形成されており、この磁性層416に情報が記録される。磁性層416に用いられる材料は、Co(コバルト)、Co合金(CoPtCr、CoCr、CoPtCrTa、CoPtCrNbTa、CoCrB、CoNi等)、Fe、Fe合金(FeCo、FePt、FeCoNi等)等が好ましい。これらの材料は、磁束密度が大きく、成膜条件や組成を調整することにより垂直の磁気異方性を有している。磁性層416は、スパッタリング法により上記材料を成膜することにより形成される。磁性層416の厚さは、10nm〜500nmであることが好ましく、20nm〜200nmであることが更に好ましい。
例えば、スレーブディスク410の基板として、外形65mmの円盤状のガラス基板を用い、スパッタリング装置のチャンバー内にガラス基板を設置し、1.33×10−5Pa(1.0×10−7Torr)まで減圧した後、チャンバー内にAr(アルゴン)ガスを導入し、CrTiターゲットを用い、基板温度が200℃の条件の下で放電させることによりスパッタリング成膜をおこなう。これによりCrTiからなる非磁性層を60nm成膜する。
この後、上記と同様にArガスを導入し、同じチャンバー内にあるCoCrPtターゲットを用い、同じく基板温度が200℃の条件の下で放電させることによりスパッタリング成膜をおこなう。これによりCoCrPtからなる磁性層を25nm成膜する。
以上のプロセスにより、ガラス基板に、非磁性層と磁性層が成膜されたスレーブディスク410が作製される。
なお、図13(b)に示すように、必要に応じて、基板412と非磁性層414との間に、軟磁性層413を設ける場合がある。磁性層416の垂直磁化状態を安定させ、記録再生時の感度を向上させるためである。軟磁性層413の厚さは、50nm〜2000nmであることが好ましく、80nm〜400nmであることが更に好ましい。軟磁性層413に用いられる材料は、CoZrNb、FeTaC、FeZrN、FeSi合金、FeAl合金、パーマロイなどFeNi合金、パーメンジュールなどのFeCo合金等の軟磁性材料が好ましい。この軟磁性層13は、ディスクの中心から外側に向かって半径方向に(放射状に)磁気異方性が付けられている。
〔スレーブディスクの初期磁化〕
次に、形成したスレーブディスク410の初期磁化を行う。図12(a)で説明したとおり、スレーブディスク410の初期磁化(直流磁化)は、スレーブディスク410の表面に対し垂直に直流磁界を印加することができる装置(不図示の磁界印加手段)により初期化磁界Hiを発生させることにより行う。具体的には、初期化磁界Hiとしてスレーブディスク410の保磁力Hc以上の強度の磁界を発生させることにより行う。この初期磁化工程により、図14に示すように、スレーブディスク410の磁性層416について、ディスク面と垂直な一方向に初期磁化Piさせる。なお、この初期磁化工程は、スレーブディスク410を磁界印加手段に対し相対的に回転させることにより行ってもよい。
〔マスターディスクの説明〕
次に、マスター記録媒体であるマスターディスク420について説明する。
最初にマスターディスク420の製造方法について図15に基づき説明する。本実施の形態では、プレス原盤を用いるため、最初に、プレス原盤の作製工程について説明する。
図15(a)に示すように、表面が平滑なガラスや石英ガラスからなる円形の基板430上に、フォトレジストをスピンコーター等により塗布し、プリベーク後に、この円形の基板430を回転させながら、記録する信号に対応して変調したレーザ光(或いは電子ビーム)をフォトレジストに照射し、フォトレジストの略全面に所定のパターンを露光する。その後、露光した基板430を現像液に浸漬することにより、フォトレジストの露光された部分が除去され、基板430上の所定の領域にフォトレジスト層431が形成されたガラス原盤432が作製される。
次に、図15(b)に示すように、ガラス原盤432上のフォトレジスト層431が形成されている面の表面に、Niメッキ(電鋳)を行うことにより、表面にポジ状の凹凸パターンを有するNi原盤433を所定の厚さまで形成する。この後、このNi原盤433をガラス原盤432から剥離する。
このNi原盤433をスタンパー用のプレス原盤(金型)として用いることも可能であるが、必要に応じてこのNi原盤433に凹凸パターン上に軟磁性層、保護膜等を被覆してスタンパー用のプレス原盤(金型)とする。このように軟磁性層、保護膜等を形成することにより、その後に作製する転写用磁気ディスクの磁気特性が向上するからである。
Ni原盤433を構成する材料としては、Ni及びNi合金が主に用いられる。このNi原盤433を形成する方法としては、無電解メッキ等によるメッキ法の他、スパッタリングやイオンプレーティングといった真空成膜法によっても作製することが可能である。また、上記真空成膜を行った後、電解メッキ等を行うことによっても作製可能である。なお、基板430上に塗布されるレジストはポジ型、ネガ型のどちらでも使用可能であるが、ポジ型とネガ型では、露光パターンが反転することに注意する必要がある。
次に、図15(c)に示すように、剥離したNi原盤433をプレス原盤として、射出成型等により樹脂基板437を作製する。樹脂基板437の樹脂材料としては、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレートなどのアクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル共重合体などの塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、アモルファスポリオレフィン及びポリエステルなどが挙げられる。これらの樹脂材料の中では、耐湿性、寸法安定性及び価格などの点から、現在のところポリカーボネートが好ましい。
射出成型により樹脂基板437を形成した場合、成型品である樹脂基板437にバリ等が生じる場合があるが、このようなバリ等はバーニシュ又は研磨加工により除去する。
また、射出成型以外の方法により樹脂基板437を形成する方法として、紫外線硬化樹脂、電子線硬化樹脂などを使用する方法もある。この場合、プレス原盤に紫外線硬化樹脂、電子線硬化樹脂をスピンコート、バーコート等の手法により塗布した後、紫外線或いは電子線を照射することにより硬化させた後、プレス原盤より剥離することにより樹脂基板437が形成される。
以上の工程により、図15(d)に示すように。高さが、30〜150[nm]の突起状パターン(凹凸パターン)が形成された樹脂基板437が形成される。
樹脂基板437を製造するためのNi原盤433の製造方法については、これ以外の方法であってもよい。上記以外の方法の一例を図16に基づき説明する。
表面が平滑な略円形のSi基板440上に、フォトレジストをスピンコーター等により塗布し、プリベーク後に、このSi基板440を回転させながら、記録する信号に対して変調したレーザ光(或いは電子ビーム)をフォトレジストに照射し、フォトレジストの略全面について所定のパターンを露光する。その後、露光したSi基板440を現像液に浸漬させ、フォトレジストの露光された部分を除去することにより、図16(a)に示すように、Si基板440上の所定の領域にフォトレジスト層441が形成されたものが作製される。
次に、図16(b)に示すように、Si基板440のフォトレジスト層441が形成された面について、RIE(Reactive Ion Etching)等によるドライエッチングを行う。具体的には、フォトレジスト層441が形成されたSi基板440をRIE装置の減圧チャンバー内に設置した後、RIE装置の減圧チャンバーを減圧した後、減圧チャンバー内に塩素(Cl2)ガスを導入し、RF電力を印加しプラズマを発生させることにより行った。RIEでは、フォトレジスト層441に対しSi基板440が選択的にエッチングされるため、Si基板40のフォトレジスト層441の形成されていない領域のみエッチングがなされる。この後、Si基板440上のフォトレジスト層441を有機溶剤等により除去することにより、表面に凹凸パターンの形成されたSi基板440が作製される。
この後、図16(c)に示すように、Si基板440の凹凸パターンの形成された面にスパッタリングにより金属材料等からなる導電膜を成膜し、更に、Ni電鋳を行うことにより、Ni原盤443を形成する。
この後、図16(d)に示すように、Si基板440から剥離することによりNi原盤443が作製される。ここで作製されるNi原盤443は、図15(b)において作製されるNi原盤433と同様のものであり、図15(c)で説明した方法と同様の方法により、射出成型により樹脂基板437の作製をすることができるものである。
次に、このように形成された樹脂基板437について、図17(a)に示すように、樹脂基板437の突起状パターンの形成されている面にスピンコーター等によりフォトレジスト445を塗布し、フォトレジスト445を硬化させる。具体的には、フォトレジスト445がネガレジストである場合には、紫外線等を照射して重合させる。一方、ポジレジストである場合には、ベーキング処理を行って重合させる。フォトレジスト445はスピンコーター等では均一に広がるため、樹脂基板437の表面の突起状パターンである凸部では薄く、それ以外の凹部では厚く形成される。
この後、図17(b)に示すように、酸素ガスを導入したアッシングを行うことにより、フォトレジスト445の表面の一部を除去する。具体的には、樹脂基板437の突起状パターンの表面が露出したところで、アッシングを停止する。アッシングでは、厚さ方向に均等にフォトレジスト445が除去されるが、樹脂基板437の突起状パターンの凸部の表面が露出しても、凹部ではフォトレジスト445が厚く形成されているため、この領域のフォトレジスト445は残存している。
この後、図17(c)に示すように、樹脂基板437のフォトレジスト445の形成された面に、軟磁性体からなる磁性膜447をメッキあるいは真空蒸着等による成膜をおこなう。磁性膜447を構成する材料は、保磁力Hcが48kA/m(≒600Oe)以下の軟磁性材料により構成されていることが好ましい。具体的には、Co、Co合金(CoNi、CoNiZr、CoNbTaZr等)、Fe、Fe合金(FeCo、FeCoNi、FeNiMo、FeAlSi、FeAl、FeTaN)、Ni、Ni合金(NiFe)等が挙げられる。特に好ましいのは、磁気特性からFeCo、FeCoNiである。又、磁性膜447の厚さは、40nm〜320nmの範囲が好ましく、特に、100nm〜300nmの範囲が更に好ましい。磁性膜447は、上記材料のターゲットを用いスパッタリングや無電解メッキ等により形成される。
この後、リフトオフによりフォトレジスト445上に形成されている磁性膜447の除去をおこなう。具体的には、磁性膜447が成膜された基板437を有機溶剤等に浸漬させることにより、フォトレジスト445の上に形成された磁性膜447が、フォトレジスト445とともに除去される。
以上のプロセスにより、図17(d)に示すように、凸領域の上面に磁性層448が設けられた凹凸パターンの形成されたマスターディスク420が作製される。このように形成されたマスターディスク420上の凹凸パターンは、凹領域のトラック方向(周方向)の幅がSa、凸領域のトラック方向(周方向)の幅がLaからなるものであり、本実施の形態では、Laに対するSaの幅(Sa/La)が、1.3〜1.9倍、好ましくは、1.45〜1.75倍となるように作製されている。
図18はマスターディスク420の上面図である。同図に示されるように、マスターディスク420の表面には、凹凸パターンからなるサーボパターン452が形成される。また、図には示さないが、マスターディスク420表面の磁性層448(図17(d)参照)の上にダイヤモンドライクカーボン等の保護膜や、更に、保護膜上に潤滑剤層を設けてもよい。
マスターディスク420は、スレーブディスク410と密着させるが、密着させた際に磁性層448が傷つきやすく、マスターディスク420として使用できなくなってしまうことを防止するためである。また、潤滑剤層は、スレーブディスク410との接触の際に生じる摩擦による傷の発生などを防止し、耐久性を向上させる効果がある。
具体的に、保護膜として、厚さが5〜30nmのダイヤモンドライクカーボン膜を形成し、更にその上に潤滑剤層を形成した構成が好ましい。また、磁性層448と、保護膜との密着性を強化するため、磁性層448上にSi等の密着強化層を形成し、その後に保護膜を形成してもよい。
〔密着工程〕
次に、上記工程により作製したマスターディスク420と、初期磁化工程後のスレーブディスク410とを図12(b)のように重ね合わせて両者を密着させる工程(密着工程)を行う。
図12(b)に示すように密着工程では、マスターディスク420の突起状パターン(凹凸パターン)の形成されている面と、スレーブディスク410の磁性層416の形成されている面とを所定の押圧力で密着させる。
スレーブディスク410には、マスターディスク420に密着させる前に、グライドヘッド、研磨体等により、表面の微少突起又は付着塵埃を除去するクリーニング処理(バーニッシング等)が必要に応じて施される。
なお、密着工程は、図12(b)に示すように、スレーブディスク410の片面のみにマスターディスク420を密着させる場合と、両面に磁性層が形成された転写用磁気ディスクについて、両面からマスターディスクを密着させる場合とがある。後者の場合では、両面を同時転写することができる利点がある。
〔磁気転写工程〕
次に、図12(c)に基づき磁気転写工程を説明する。
上記密着工程によりスレーブディスク410とマスターディスク420とを密着させたものについて、不図示の磁界印加手段により初期化磁界Hiの向きと反対方向に記録用磁界Hdを発生させる。記録用磁界Hdを発生させることにより生じた磁束がスレーブディスク410とマスターディスク420に進入することにより磁気転写が行われる。
本実施の形態では、記録用磁界Hdの大きさは、スレーブディスク410の磁性層416を構成する磁性材料のHcと略同じ値である。
磁気転写は、スレーブディスク410及びマスターディスク420を密着させたものを不図示の回転手段により回転させつつ、磁界印加手段によって記録用磁界Hdを印加し、マスターディスク420に記録されている突起状のパターンからなる情報をスレーブディスク410の磁性層416に磁気転写する。なお、この構成以外にも、磁界印加手段を回転させる機構を設け、スレーブディスク410及びマスターディスク420に対し、相対的に回転させる手法であってもよい。
磁気転写工程における、スレーブディスク410とマスターディスク420の断面の様子を図19に示す。同図に示すように、基板437表面に突起状のパターンが形成され、その上に磁性層448が形成されたマスターディスク420とスレーブディスク410とが密着した状態においては、マスターディスク420の凸領域では、マスターディスク420の磁性層448とスレーブディスク410の磁性層416とが接触している。
このため、記録用磁界Hdを印加すると、磁束Gは、マスターディスク420の凸領域、すなわち、マスターディスク420の磁性層448とスレーブディスク410の磁性層416とが接触している領域では強く、記録用磁界Hdにより、マスターディスク420の磁性層448の磁化向きが記録用磁界Hdの方向に揃い、スレーブディスク10の磁性層416に磁気情報が転写される。一方、マスターディスク420の凹領域、すなわち、マスターディスク420の磁性層448が形成されていない領域では、マスターディスク420の磁性層448が存在しないため、記録用磁界Hdの印加によって生じる磁束Gは弱く、スレーブディスク410の磁性層416の磁化向きが変わることはなく、初期磁化の状態を保ったままである。
図20は、磁気転写に用いられる磁気転写装置の一例を示す模式図である。この磁気転写装置は、コア462にコイル463が巻きつけられた電磁石からなる磁界印加手段460を有するものであり、コイル463に電流を流すことによりギャップ464において、密着させたマスターディスク420とスレーブディスク410の磁性層416に対し垂直に磁界を発生する構造になっている。発生する磁界の向きは、コイル463に流す電流の向きによって変えることができる。
したがって、この磁気転写装置によって、スレーブディスク410の初期磁化を行うことも、磁気転写を行うことも可能である。この磁気転写装置により初期磁化させた後、磁気転写を行う場合には、磁界印加手段460のコイル463に、初期磁化したときにコイル463に流した電流の向きと逆向きの電流を流す。これにより、初期磁化の際の磁化向きとは反対の向きに記録用磁界を発生させることができる。磁気転写は、スレーブディスク410及びマスターディスク420を密着させたものを回転させつつ、磁界印加手段460によって記録用磁界Hdを印加し、マスターディスク420に記録されている突起状のパターンからなる情報をスレーブディスク410の磁性層416に磁気転写するため、不図示の回転手段が設けられている。なお、この構成以外にも、磁界印加手段460を回転させる機構を設け、スレーブディスク410及びマスターディスク420に対し、相対的に回転させる手法であってもよい。
本実施の形態では、記録用磁界Hdは、本実施の形態に用いられるスレーブディスク410の磁性層416の保磁力Hcの75〜105%、好ましくは、85〜95%の強度の磁界を印加することにより磁気転写を行う。
上述の磁気転写工程の後、スレーブディスク410をマスターディスク420から取り外す。
これにより、スレーブディスク410の磁性層416には、サーボ信号等の磁気パターンの情報が、初期磁化Piの反対向きの磁化となる記録磁化Pdとして記録される(図21参照)。
なお、上記の説明では、磁界印加手段は、電磁石の場合について説明したが、同様に磁界が発生する永久磁石を用いても良い。また、被転写体として垂直磁気記録媒体を例に説明したが、ディスクの面内方向に初期磁化及び記録磁化を行う面内磁気記録方式(水平磁気記録方式)の磁気記録媒体についても本発明を適用可能である。
本発明は、磁気記録媒体の製造等に用いられる磁気転写装置に好ましく適用できるが、本発明の適用範囲はこれに限定されず、転写原盤と被転写体とを密着させて、磁気情報や形状等の情報を転写する任意の転写装置に広く適用可能であり、転写原盤並びに被転写体の形状についても上述した円環形状に限定されず、様々な形状のものに適用可能である。すなわち、本発明は、磁気転写、ナノインプリンティング、パターンドメディア等の転写技術に好ましく適用することができる。
1…転写装置、2…保持ユニット、3…磁界印加手段、11,12…転写原盤、20…被転写体、31,32…挟持部材、41,42…保持部材、110…粘着シート、110A,130C,132C…基材、112,113…セパレータ、124…弾性体、130,132…粘着シート部品、130A,130B,132A,132B…粘着層、150…ベース部材、151…転写原盤、160,260…マスター体、410…スレーブディスク、420…マスターディスク、412…基板、413…軟磁性層、416…磁性層、460…磁界印加手段、462…コア、463…コイル