JP4761140B2 - 高硬度鋼の高速切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆サーメット製切削スローアウエイチップ - Google Patents

高硬度鋼の高速切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆サーメット製切削スローアウエイチップ Download PDF

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Description

この発明は、特に合金工具鋼や軸受け鋼の焼入れ材などの高硬度鋼の高速切削加工に用いた場合に、硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆サーメット製切削スローアウエイチップ(以下、被覆切削チップという)に関するものである。
従来、一般に、例えば図15に概略斜視図に例示される通り、炭化タングステン(以下、WCで示す)基超硬合金または炭窒化チタン(以下、TiCNで示す)基サーメットで構成され、かつ中心部に工具取り付け用ボルト貫通孔(取り付けがクランプ駒による挟み締めで行われる形式の場合には、前記ボルト貫通孔が存在しない形状となる)を有するサーメット基体(以下、これらを総称してチップ基体という)の切刃稜線部を含むすくい面および逃げ面の全面に、
(1)下部層が、いずれも化学蒸着形成された、Tiの炭化物(以下、TiCで示す)層、窒化物(以下、同じくTiNで示す)層、炭窒化物(以下、TiCNで示す)層、炭酸化物(以下、TiCOで示す)層、および炭窒酸化物(以下、TiCNOで示す)層のうちの2層以上からなり、かつ3〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層、
(2)上部層が、1〜15μmの平均層厚、および化学蒸着した状態でα型の結晶構造を有する酸化アルミニウム(以下、Al23で示す)層、
以上(1)および(2)で構成された硬質被覆層を形成してなる被覆切削チップが知られており、この被覆切削チップが、例えば各種の鋼や鋳鉄などの連続切削や断続切削に用いられていることも知られている。
さらに、上記の被覆切削チップの硬質被覆層の上部層を構成するAl23層の表面を、切削性能を向上させる目的でウエットブラスト処理して、平滑化することも知られている。
特開平6−31503号公報
近年の切削装置の高性能化はめざましく、一方で切削加工に対する省力化および省エネ化、さらに低コスト化の要求は強く、これに伴い、切削加工は一段と高速化の傾向にあるが、上記の従来被覆切削チップにおいては、被削材が合金工具鋼や軸受け鋼の焼入れ材などの高硬度鋼である場合、切削速度が130m/min.前後である場合には、硬質被覆層にチッピング(微少欠け)の発生は起りづらいが、切削速度が250m/min.以上の高速で切削加工を行なった場合には、硬質被覆層にチッピング(微少欠け)が発生し易く、この結果比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
そこで、本発明者等は、上述のような観点から、上記の高硬度鋼の被削材を切削速度が250m/min.以上の高速で切削加工を行なった場合にも、硬質被覆層にチッピングの発生がない被覆切削チップを開発すべく、特に硬質被覆層の下部層を構成するTi化合物層のうちのTiCN層、すなわちTi化合物層のうちで相対的に高い高温強度を有し、かつ図2(a)に模式図で示される通り、格子点にTi、炭素(C)、および窒素(N)からなる構成原子がそれぞれ存在するNaCl型面心立方晶の結晶構造(なお、図2(b)は(011)面で切断した状態を示す)を有するTiCN層に着目し、研究を行った結果、
(a−1)従来被覆切削チップの硬質被覆層において、下部層を構成するTi化合物層のうちのTiCN層は、例えば、通常の化学蒸着装置にて、
反応ガス組成:容量%で、TiCl:2〜10%、CHCN:0.6〜5%、N2:10〜30%、H2:残り、
反応雰囲気温度:800〜900℃、
反応雰囲気圧力:6〜20kPa、
の条件(通常条件という)で蒸着形成されるが、
反応ガス組成:容量%で、TiCl:2〜10%、CrCl:0.01〜0.5%、CHCN:1〜4%、N2:20〜40%、H2:残り、
反応雰囲気温度:800〜900℃、
反応雰囲気圧力:6〜20kPa、
の条件、すなわち上記の通常条件における反応ガスにCrClガスをきわめて少量加えた条件で蒸着形成して、
組成式:(Ti1−ACr)C1−B(ただし、原子比で、A:0.005〜0.05、B:0.45〜0.55)、
を満足する複合炭窒化物層を形成すると、この結果の複合炭窒化物層(以下、「改質(Ti,Cr)CN層」という)も、上記の図2に示されるTiCN層と同様の結晶構造、すなわち図1(a)に模式図で示される通り、格子点にTi、Cr、炭素(C)、および窒素(N)からなる構成原子がそれぞれ存在するNaCl型面心立方晶の結晶構造(なお、図1(b)は(011)面で切断した状態を示す)を有すること。
(a−2)上記の従来被覆切削チップの硬質被覆層の下部層を構成するTiCN層(以下、「従来TiCN層」という)と上記(a)の改質(Ti,Cr)CN層について、
電界放出型走査電子顕微鏡を用い、図2(a),(b)に概略説明図で例示される通り、表面研磨面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角(図3(a)には前記結晶面のうち(001)面の傾斜角が0度、(011)面の傾斜角が45度の場合、同(b)には(001)面の傾斜角が45度、(011)面の傾斜角が0度の場合を示しているが、これらの角度を含めて前記結晶粒個々のすべての傾斜角)を測定し、この場合前記結晶粒は、上記の通り格子点に、前記従来TiCN層ではTi、炭素(C)、および窒素(N)、前記改質(Ti,Cr)CN層ではTi、Cr、炭素(C)、および窒素(N)からなる構成原子がそれぞれ存在するNaCl型面心立方晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(NはNaCl型面心立方晶の結晶構造上2以上の偶数となる)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で現し、個々のΣN+1がΣN+1全体(ただし、頻度の関係で上限値を28とする)に占める分布割合を示す構成原子共有格子点分布グラフを作成した場合、前記改質(Ti,Cr)CN層および従来TiCN層のいずれにも、Σ3に最高ピークが存在するが、前記従来TiCN層は、図5に例示される通り、Σ3の分布割合が30%以下の相対的に低い構成原子共有格子点分布グラフを示すのに対して、前記改質(Ti,Cr)CN層は、図4に例示される通り、Σ3の分布割合が60%以上のきわめて高い構成原子共有格子点分布グラフを示し、この高いΣ3の分布割合は、前記改質(Ti,Cr)CN層におけるCrの含有割合を調整することにより変化すること。
(a−3)上記改質(Ti,Cr)CN層の形成に際して、層中のCr含有割合を、上記の通りTiとの合量に占める原子比で0.005〜0.5とすることによって、構成原子共有格子点分布グラフでのΣ3の分布割合が60%以上のきわめて高いものとなり、この結果層は上記従来TiCN層と比して、一段と高温強度の向上したものとなるのであり、したがって、層中のCr含有割合が前記の範囲から低い方に外れても、あるいは高い方に外れても、構成原子共有格子点分布グラフでのΣ3の分布割合が60%未満になってしまい、所望の高温強度向上効果が得られなくなること。
(b−1)上記の被覆切削チップにおける硬質被覆層の上部層を構成するAl23層の蒸着表面の平滑性は十分満足するものでなく、また、前記蒸着表面に、ウエットブラストにて、噴射研磨材として、水との合量に占める割合で15〜60質量%の酸化アルミニウム微粒(以下、Al23微粒で示す)を配合した研磨液を噴射して、研磨すると、前記Al23層は、準拠規格JIS・B0601−1994に基いた測定(以下の表面粗さは全てかかる準拠規格に基いた測定値を示す)で、Ra:0.3〜0.6μmの表面粗さを示すようになるが、この結果の前記Al23層の平滑化表面が、Ra:0.3〜0.6μm程度の表面粗さでは、硬質被覆層の耐チッピング性向上に顕著な効果は現れないこと。
(b−2)一方、図13に概略斜視図で例示される通り、硬質被覆層の上部層を構成するAl23層の切刃稜線部を含むすくい面および逃げ面の全面に、
(b−2−1)まず、下側層として、反応ガス組成を、体積%で、
TiCl4:0.2〜10%、
CO2:0.1〜10%、
Ar:5〜60%、
2:残り、
とし、かつ、
反応雰囲気温度:800〜1100℃、
反応雰囲気圧力:4〜70kPa(30〜525torr)、
とした条件で、0.1〜3μmの平均層厚を有し、かつ、オージェ分光分析装置で測定して、Tiに対する酸素の割合が原子比で1.25〜1.90、即ち、
組成式:TiOW
で表わした場合、
W:原子比で1.25〜1.90、
を満足する酸化チタン層を形成し、
(b−2−2)ついで、上記酸化チタン層(下側層)の上に、上側層として、通常の条件、即ち、反応ガス組成を、体積%で、
TiCl4:0.2〜10%、
2:4〜60%、
2:残り、
とし、かつ、
反応雰囲気温度:800〜1100℃、
反応雰囲気圧力:4〜90kPa(30〜675torr)、
とした条件で、0.05〜2μmの平均層厚を有するTiN層を形成すると、
(b−2−3)上記TiN層(上側層)形成時に、上記下側層を構成する酸化チタン層の酸素が拡散してきて前記上側層(TiN層)が、窒酸化チタン層で構成されるようになるが、この場合上記上側層(前記窒酸化チタン層)形成後の上記下側層である酸化チタン層は、厚さ方向中央部をオージェ分光分析装置で測定して、酸素の割合がTiに対する原子比で1.2〜1.7、すなわち、
組成式:TiOX
で表わした場合、
X:原子比で1.2〜1.7、
を満足する酸化チタン層となり、
(b−2−4)また、上記窒酸化チタン層で構成された上側層は、同じく厚さ方向中央部をオージェ分光分析装置で測定して、拡散酸素の割合が窒素(N)に対する原子比で0.01〜0.4、即ち、
組成式:TiN1-Y(O)Y
で表わした場合(ただし、(O)は上記下側研磨材層からの拡散酸素を示す)、
Y:原子比で0.01〜0.4、
を満足する窒酸化チタン層となること。
(b−3)上記窒酸化チタン層(上側層)および酸化チタン層(下側層)を蒸着形成した状態で、
上記(b−1)におけると同じくウエットブラストにて、噴射研磨材として、水との合量に占める割合で15〜60質量%のAl23微粒を配合した研磨液を噴射すると、前記窒酸化チタン層および酸化チタン層は、前記Al23微粒によって粉砕微粒化し、窒酸化チタン微粒および酸化チタン微粒となって前記Al23微粒の共存下で研磨材として作用し、図14に概略斜視図で例示される通り、硬質被覆層の上部層を構成するAl23層の表面を研磨することになり、この結果研磨後の前記Al23層の表面は、Ra:0.2μm以下の表面粗さにまで平滑化されるようになり、前記Al23層の表面がRa:0.2μm以下の表面粗さに平滑化されると、耐チッピング性に顕著な向上効果が現れるようになること。
(c−1)一方、上記の硬質被覆層は、化学蒸着装置で、約1000℃前後の反応温度でチップ基体表面に蒸着され、常温に冷却されることにより形成されるが、常温への冷却過程で、前記チップ基体の熱膨張係数に比して前記硬質被覆層の熱膨張係数の方が相対的に大きいので、前記硬質被覆層には引張の応力が残留するようになり、この硬質被覆層中の残留引張応力は高速切削加工ではチッピング発生を促進するように作用すること。
(c−2)これに対して、単一基本形状マーク、例えば円形や三角形および四角形、さらにこれらの類似形などの単一基本形状マークを、上記の被覆切削チップのすくい面および逃げ面のいずれか、またはこれら両面の全面に亘って、レーザービームを用いて、例えば図6〜12に前記単一基本形状マークを円形とした場合の実施例が概略斜視図で示される通り、前記単一基本形状マークおよび前記単一基本形状マークの集合マークのいずれか、または両方が分散分布し(この場合、図6〜8に例示のものは硬質被覆層の層厚が相対的に薄く、図9,10および図11,12に例示されるに従って層厚が厚くなる場合の分布態様を示す)、かつ前記単一基本形状マークを、上記硬質被覆層の構成層のうちのいずれかの層が露出した掘下げ面とした条件(この場合の前記単一基本形状マークの露出面の掘下げ深さは前記硬質被覆層の層厚に対応して個々に調整されるが、残留応力の効率的低減を図るには層厚の5〜20%に相当する深さが目安とされる)でレーザービーム照射模様を形成すると、前記硬質被覆層の残留応力が著しく低減するようになり、この硬質被覆層残留応力低減模様の形成によって、特に高硬度鋼の高速切削加工に際しての硬質被覆層のチッピング発生が著しく抑制されるようになること。
(d)上記の硬質被覆層の下部層を構成する改質(Ti,Cr)CN層は、TiCN層自体が具備する高温強度に加えて、少量含有のCrによって高温強度が向上し、上記従来TiCN層に比して一段と高い高温強度を有するものであり、かつ硬質被覆層の上部層であるAl23層の表面をRa:0.2μm以下の表面粗さに平滑化すると共に、硬質被覆層残留応力低減模様の形成によって、硬質被覆層の耐チッピング性が著しく向上するようになることから、かかる構成の硬質被覆層を蒸着形成してなる被覆切削チップは、切削速度が250m/min.以上の高速で、高硬度鋼の切削加工を行なっても、硬質被覆層にチッピングの発生はなくなり、長期に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮するようになること。
以上(a)〜(d)に示される研究結果を得たのである。
この発明は、上記の研究結果に基づいてなされたものであって、
(a)WC基超硬合金またはTiCN基サーメットで構成されたチップ基体の切刃稜線部を含むすくい面および逃げ面の全面に、化学蒸着形成された硬質被覆層を、
(a−1)TiC層、TiN層、TiCN層、TiCO層、およびTiCNO層のうちの1層または2層以上と、2.5〜15μmの平均層厚を有し、
組成式:(Ti1−ACr)C1−B(ただし、原子比で、A:0.005〜0.05、B:0.45〜0.55)、を満足すると共に、
電界放出型走査電子顕微鏡を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角を測定し、この場合前記結晶粒は、格子点にTi、Cr、炭素、および窒素からなる構成原子がそれぞれ存在するNaCl型面心立方晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(NはNaCl型面心立方晶の結晶構造上2以上の偶数となる)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で現した場合、個々のΣN+1がΣN+1全体(ただし、頻度の関係で上限値を28とする)に占める分布割合を示す構成原子共有格子点分布グラフにおいて、Σ3に最高ピークが存在し、かつ前記Σ3のΣN+1全体に占める分布割合が60%以上である構成原子共有格子点分布グラフを示す改質(Ti,Cr)CN層、
からなり、かつ3〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層の下部層と、
(a−2)1〜15μmの平均層厚を有するAl層の上部層、
以上(a−1)および(a−2)で構成し、
(b)上記硬質被覆層の上部層であるAl23層の全面に、
(b−1)下側層として、0.1〜3μmの平均層厚を有し、かつ、
組成式:TiOX
で表わした場合、厚さ方向中央部をオージェ分光分析装置で測定して、
X:原子比で1.2〜1.7、
を満足する酸化チタン層、
(b−2)上側層として、0.05〜2μmの平均層厚を有し、かつ、
組成式:TiN1-Y(O)Y
で表わした場合(ただし、(O)は上記Ti酸化物層からの拡散酸素を示す)、同じく厚さ方向中央部をオージェ分光分析装置で測定して、
Y:原子比で0.01〜0.4、
を満足する窒酸化チタン層、
以上(b−1)および(b−2)で構成された研磨材層を蒸着形成した状態で、
(b−3)ウエットブラストにて、噴射研磨材として、水との合量に占める割合で15〜60質量%のAl23微粒を配合した研磨液を噴射し、
上記の下側層の粉砕化酸化チタン微粒、上側層の粉砕化窒酸化チタン微粒、および噴射研磨材としてのAl23微粒の共存下で、上記硬質被覆層の上部層を構成するAl23層の少なくとも切刃稜線部を含むすくい面部分および逃げ面部分を研磨して、これら研磨面の表面粗さをRa:0.2μm以下とし、
(c)さらに、上記研磨面のすくい面および逃げ面のいずれか、またはこれら両面の全面に亘って、単一基本形状マークおよび前記単一基本形状マークの集合マークのいずれか、または両方が分散分布してなると共に、前記単一基本形状マークを、上記硬質被覆層の構成層のうちのいずれかの層が露出した掘下げ面とした硬質被覆層残留応力低減模様をレーザービーム照射形成してなる、
高硬度鋼の高速切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する被覆切削チップに特徴を有するものである。
以下に、この発明の被覆切削チップの硬質被覆層および研磨材層、さらにウエットブラストで用いられる研磨液のAl23微粒に関して、上記の通りに数値限定した理由を説明する。
(a)硬質被覆層
(a−1)Ti化合物層(下部層)
Ti化合物層は、自体が高温強度を有し、これの存在によって硬質被覆層が高温強度を具備するようになるほか、チップ基体と上部層であるAl23層のいずれにも強固に密着し、よって硬質被覆層のチップ基体に対する密着性向上に寄与する作用をもつが、その合計平均層厚が3μm未満では、前記作用を十分に発揮させることができず、一方その合計平均層厚が20μmを越えると、特に高熱発生を伴なう高速切削加工では熱塑性変形を起し易くなり、これが偏摩耗の原因となることから、その合計平均層厚を3〜20μmと定めた。
(a−2)改質(Ti,Cr)CN層
硬質被覆層のTi化合物層を構成する改質(Ti,Cr)CN層の構成原子共有格子点分布グラフにおけるΣ3の分布割合は、上記の通り層中のCr含有割合(A値)をTiとの合量に占める原子比で、0.005〜0.5とすることによって60%以上とすることができるが、その含有割合が0.005未満でも、0.05を越えても、Σ3の分布割合は60%未満となってしまい、高硬度鋼の250m/min.以上の切削速度での高速切削加工で、硬質被覆層にチッピングが発生しない、すぐれた高温強度向上効果を確保することができないことから、Σ3の分布割合を60%以上と定めた。
また、改質(Ti,Cr)CN層におけるC成分には層の硬さを向上させ、一方N成分には強度を向上させる作用があり、これら両成分を共存含有することにより高い硬さとすぐれた強度を具備するようになるものであり、したがって、層中のN成分の含有割合(B値)がC成分との合量に占める原子比で0.45未満では所望の強度を確保することができず、一方その含有割合(B値)が同じく0.55を越えると、相対的にC成分の含有割合が少なくなり過ぎて、所望の高硬度が得られなくなることから、B値を原子比で0.45〜0.55と定めた。
さらに、上記改質(Ti,Cr)CN層は、上記の通りTiCN層自体のもつ高温強度に加えて、さらに少量含有するCr成分によって一段とすぐれた高温強度を有するようになるが、その平均層厚が2.5μm未満では所望のすぐれた高温強度向上効果を硬質被覆層に十分に具備せしめることができず、一方その平均層厚が15μmを越えると、偏摩耗の原因となる熱塑性変形が発生し易くなり、摩耗が加速するようになることから、その平均層厚を2.5〜15μmと定めた。
(a−3)Al23層(上部層)
Al23層は、すぐれた高温硬さと耐熱性を有し、硬質被覆層の耐摩耗性向上に寄与するが、その平均層厚が1μm未満では、硬質被覆層に十分な耐摩耗性を発揮せしめることができず、一方その平均層厚が15μmを越えて厚くなりすぎると、チッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を1〜15μmと定めた。
(b)研磨材層
上側層を構成する窒酸化チタン層は、上記の通り、まず、酸素の割合をTiに対する原子比で1.25〜1.90(W値)とした酸化チタン層を形成し、ついで、前記酸化チタン層の上に通常の条件でTiN層を蒸着することにより形成されるものであり、したがって前記TiN層形成時における前記酸化チタン層からの酸素の拡散が不可欠となるが、前記酸化チタン層のW値が1.25未満であると、前記TiN層への酸素の拡散反応が急激に低下し、上側層における拡散酸素の割合(Y値)を原子比で0.01以上にすることができず、一方同W値が1.90を越えると、前記上側層における拡散酸素の割合(Y値)が原子比で0.40を越えて多くなってしまうことから、W値を1.25〜1.90と定めたものであり、この場合上側層形成後の下側層(酸化チタン層)における酸素の割合(X値)は原子比で1.2〜1.7の範囲内の値をとるようになる、言い換えれば上側層形成後の下側層のX値が1.2〜1.7を満足する場合に、前記上側層のY値は0.01〜0.40を満足するものとなる。
また、この場合、下側層のX値および上側層のY値をそれぞれ1.2〜1.7および0.01〜0.40と定めたのは、前記X値およびY値が前記の値をとった場合に、これら研磨材層のウエットブラスト時における粉砕微粒化が好適な状態で行なわれ、すぐれた研磨機能を十分に発揮することが多くの試験結果から得られ、これらの試験結果に基いて定めたものである。したがって、前記X値およびY値がそれぞれ1.2〜1.7および0.01〜0.40の範囲から外れると、前記研磨材層のウエットブラスト時における粉砕微粒化が満足に行なわれず、すぐれた研磨機能を期待することができない。
さらに、上側層および下側層の平均層厚を、それぞれ0.05〜2μmおよび0.1〜3μmとしたのは、その平均層厚が0.05μm未満および0.1μm未満では、ウエットブラスト時における下側層の粉砕化酸化チタン微粒、上側層の粉砕化窒酸化チタン微粒の割合が少な過ぎて、研磨機能を十分に発揮することができず、一方、その平均層厚がそれぞれ2μmおよび3μmを越えても、研磨機能が急激に低下するようになり、いずれの場合もAl23層の表面をRa:0.2μm以下の表面粗さに研磨することができなくなるという理由にもとづくものである。
(c)研磨液のAl23微粒の割合
研磨液のAl23微粒には、ウエットブラスト時に研磨材層を構成する下側層の粉砕化酸化チタン微粒および上側層の粉砕化窒酸化チタン微粒と共存した状態で、Al23層の表面を研磨する作用があるが、その割合が水との合量に占める割合で15質量%未満でも、また60質量%を越えても研磨機能が急激に低下するようになることから、その割合を15〜60質量%と定めた。
この発明の被覆切削チップは、硬質被覆層の下部層を構成する改質(Ti,Cr)CN層が、TiCN層自体が具備する高温強度に加えて、少量含有するCr成分によって一段と高温強度が向上し、上記従来TiCN層に比してきわめて高い高温強度を有するようになり、さらに硬質被覆層の上部層であるAl23層の少なくとも切刃稜線部を含むすくい面部分および逃げ面部分が、Ra:0.2μm以下の表面粗さに研磨されると共に、前記研磨面のすくい面および逃げ面のいずれか、またはこれら両面の全面に亘って、レーザービーム照射形成された硬質被覆層残留応力低減模様によって、硬質被覆層の耐チッピング性が著しく向上し、特に合金工具鋼や軸受け鋼の焼入れ材などの高硬度鋼の切削加工を、切削速度が250m/min.以上の高速で行うのに用いた場合にも、硬質被覆層にチッピングが発生することなく、長期に亘ってすぐれた切削性能を発揮し、使用寿命の一層の延命化を可能とするものである。
つぎに、この発明の被覆切削チップを実施例により具体的に説明する。
原料粉末として、いずれも1〜3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、ZrC粉末、VC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr32粉末、TiN粉末、TaN粉末、およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で30時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、98MPaの圧力で所定形状の圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を5Paの真空中、1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に1時間保持の条件で真空焼結し、焼結後、切刃部にR:0.07mmのホーニング加工を施すことによりISO・SNMG120408に規定するスローアウエイチップ形状をもったWC基超硬合金製のチップ基体A〜Fをそれぞれ製造した。
また、原料粉末として、いずれも0.5〜2μmの平均粒径を有するTiCN(質量比でTiC/TiN=50/50)粉末、Mo2C粉末、ZrC粉末、NbC粉末、TaC粉末、WC粉末、Co粉末、およびNi粉末を用意し、これら原料粉末を、表2に示される配合組成に配合し、ボールミルで30時間湿式混合し、乾燥した後、98MPaの圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を1.3kPaの窒素雰囲気中、温度:1540℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、切刃部分にR:0.07mmのホーニング加工を施すことによりISO規格・SNMG120412のチップ形状をもったTiCN基サーメット製のチップ基体a〜fを形成した。
(a)つぎに、これらのチップ基体A〜Fおよびチップ基体a〜fの表面に、通常の化学蒸着装置を用い、硬質被覆層の下部層として、改質(Ti,Cr)CN層を含むTi化合物層を表3に示される条件で、表6に示される組み合わせおよび目標層厚で蒸着形成し、ついで同じく表3に示される条件にて、上部層としてのAl23層を同じく表6に示される組み合わせで、かつ目標層厚で蒸着形成し、
(b)ついで、上記硬質被覆層の上部層を構成するAl23層の全面に、研磨材層の下側層形成用酸化チタン層[TiO(1)〜(6)のいずれか]を表4に示される条件で形成した後、上側層形成用窒化チタン層(TiN層)を同じく表4に示される条件で、表7に示される目標層厚で蒸着形成して、同じく表7に示される組成、すなわち厚さ方向中央部をオージェ分光分析装置で測定して、それぞれ表7に示されるX値およびY値の下側層および上側層からなる研磨材層を形成し(図13参照)、
(c)引き続いて、上記の下側層および上側層からなる研磨材層形成の被覆切削チップに、表5に示されるブラスト条件で、かつ表7に示される組み合わせでウエットブラストを施して、工具取り付け孔周辺部に研磨材層を存在させた状態で、前記Al23層の切刃稜線部を含むすくい面部分および逃げ面部分を、同じく表7に示される表面粗さに研磨し(図14参照)、
(d)さらに、レーザービーム照射装置を用い、上記表面研磨の硬質被覆層に、
レーザービーム出力:10W、
単一基本形状マークの形状:直径が0.8mmの円形、
硬質被覆層残留応力低減模様:図6〜12に示される実施模様のうちのいずれかを表7に示される組み合わせで適用、
単一基本形状マークの露出面の掘下げ深さ:表7に硬質被覆層の全目標層厚に対する割合で示される深さ、
の条件で硬質被覆層残留応力低減模様を形成することにより本発明被覆切削チップ1〜13をそれぞれ製造した。
(a)また、比較の目的で、硬質被覆層の下部層として、従来TiCN層を含むTi化合物層を表3に示される条件で、表8に示される組み合わせおよび目標層厚で蒸着形成し、さらに上部層としてのAl23層を、表3に示される条件で、かつ同じく表8に示される目標層厚で蒸着形成し(図15参照)、
(b)引き続いて、上記研磨材層の形成を行なうことなく、表5に示されるブラスト条件で、かつ表8に示される組み合わせでウエットブラストを施して、前記Al23層の切刃稜線部を含むすくい面および逃げ面を、同じく表8に示される表面粗さに研磨することにより従来被覆切削チップ1〜13をそれぞれ製造した。
ついで、上記の本発明被覆切削チップと従来被覆切削チップの硬質被覆層を構成する改質(Ti,Cr)CN層および従来TiCN層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用いて、構成原子共有格子点分布グラフをそれぞれ作成した。
すなわち、上記構成原子共有格子点分布グラフは、上記の改質(Ti,Cr)CN層および従来TiCN層の表面を研磨面とした状態で、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、前記表面研磨面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に照射して、電子後方散乱回折像装置を用い、30×50μmの領域を0.1μm/stepの間隔で、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角を測定し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(NはNaCl型面心立方晶の結晶構造上2以上の偶数となる)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で現した場合、個々のΣN+1がΣN+1全体(ただし、頻度の関係で上限値を28とする)に占める分布割合を求めることにより作成した。
この結果得られた各種の改質(Ti,Cr)CN層および従来TiCNの構成原子共有格子点分布グラフにおいて、ΣN+1全体(Nは2〜28の範囲内のすべての偶数)に占めるΣ3の分布割合をそれぞれ表6,8にそれぞれ示した。
上記の各種の構成原子共有格子点分布グラフにおいて、表6,8にそれぞれ示される通り、本発明被覆切削チップの改質(Ti,Cr)CN層は、いずれもΣ3の占める分布割合が60%以上である構成原子共有格子点分布グラフを示すのに対して、従来被覆切削チップの従来TiCN層は、いずれもΣ3の分布割合が30%以下の構成原子共有格子点分布グラフを示すものであった。
なお、図4は、本発明被覆切削チップ3の改質(Ti,Cr)CN層の構成原子共有格子点分布グラフ、図5は、従来被覆切削チップ5の従来TiCN層の構成原子共有格子点分布グラフをそれぞれ示すものである。
さらに、上記の本発明被覆切削チップ1〜13および従来被覆切削チップ1〜13について、これの硬質被覆層の構成層を電子線マイクロアナライザー(EPMA)およびオージェ分光分析装置を用いて観察(層の縦断面を観察)したところ、前者および後者とも目標組成と実質的に同じ組成を有することが確認された。また、これらの被覆切削チップの硬質被覆層の構成層の厚さを、走査型電子顕微鏡を用いて測定(同じく縦断面測定)したところ、いずれも目標層厚と実質的に同じ平均層厚(5点測定の平均値)を示した。
つぎに、上記の本発明被覆切削チップ1〜13および従来被覆切削チップ1〜13の各種の被覆切削チップについて、いずれも工具鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、
被削材:JIS・SKD11の焼入れ材(硬さHC:54)丸棒、
切削速度:260m/min、
切り込み:0.7mm、
送り:0.13mm/rev、
の条件(切削条件Aという)での合金工具鋼の湿式連続高速切削試験(通常の切削速度は130m/min)、
被削材:JIS・SUJ2の焼入れ材(硬さHC:55)丸棒、
切削速度:270m/min、
切り込み:0.5mm、
送り:0.11mm/rev、
の条件(切削条件Bという)での軸受け鋼の湿式連続高速切削試験(通常の切削速度は120m/min)、さらに、
被削材:JIS・SKD61の焼入れ材(硬さHC:55)丸棒、
切削速度:255m/min、
切り込み:0.6mm、
送り:0.12
mm/rev、
の条件(切削条件Cという)での合金工具鋼の湿式連続高速切削試験(通常の切削速度は140m/min)を行い、いずれの切削試験でも切刃の逃げ面摩耗幅が、一般に切削工具の使用寿命の目安とされている0.3mmに至るまでの切削時間を測定した。この測定結果を表9に示した。
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表6〜9に示される結果から、本発明被覆切削チップ1〜13は、いずれも硬質被覆層の下部層であるTi化合物層のうちの1層が、Σ3の分布割合が60%以上の構成原子共有格子点分布グラフを示す改質(Ti,Cr)CN層で構成され、前記改質(Ti,Cr)CN層が一段とすぐれた高温強度を有し、さらに硬質被覆層の上部層を構成するAl23層の少なくとも切刃稜線部を含むすくい面部分および逃げ面部分が、Ra:0.2μm以下の表面粗さに研磨されると共に、前記研磨面全体に亘ってレーザービーム照射形成された硬質被覆層残留応力低減模様によって、前記硬質被覆層における残留引張応力が著しく低減されることと相俟って、各種高硬度鋼の切削加工を切削速度が250m/min以上の高速で行なっても、硬質被覆層にチッピングの発生なく、長期に亘ってすぐれた切削性能を発揮するのに対して、硬質被覆層のTi化合物層のうちの1層が、Σ3の分布割合が30%以下の構成原子共有格子点分布グラフを示す従来TiCN層で構成され、硬質被覆層の上部層を構成するAl23層の表面粗さが、Ra:0.3〜0.6μmを示し、かつ、硬質被覆層残留応力低減模様の形成がない従来被覆切削チップ1〜13においては、いずれも250m/min以上の高速での高硬度鋼の切削加工では、前記硬質被覆層にチッピングが発生し、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
上述のように、この発明の被覆切削チップは、各種の一般鋼や普通鋳鉄などの高速切削加工は勿論のこと、特に高硬度鋼の切削加工を切削速度が250m/min以上の高速で行う場合にもすぐれた耐チッピング性を示し、長期に亘ってすぐれた切削性能を発揮するものであるから、切削装置の高性能化並びに切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。
硬質被覆層の下部層であるTi化合物層を構成する改質(Ti,Cr)CN層が有するNaCl型面心立方晶の結晶構造を示す模式図である。 硬質被覆層の下部層であるTi化合物層を構成する従来TiCN層が有するNaCl型面心立方晶の結晶構造を示す模式図である。 硬質被覆層の下部層であるTi化合物層を構成する改質(Ti,Cr)CN層および従来TiCN層における結晶粒の(001)面および(011)面の傾斜角の測定態様を示す概略説明図である。 本発明被覆切削チップ3の硬質被覆層の下部層であるTi化合物層を構成する改質(Ti,Cr)CN層の構成原子共有格子点分布グラフである。 従来被覆切削チップ5の硬質被覆層の下部層を構成する従来TiCN層の構成原子共有格子点分布グラフである。 実施例としての硬質被覆層残留応力低減模様をレーザービーム照射形成した本発明被覆切削チップの概略斜視図である。 図6以外の実施例としての硬質被覆層残留応力低減模様をレーザービーム照射形成した本発明被覆切削チップの概略斜視図である。 図6,7以外の実施例としての硬質被覆層残留応力低減模様をレーザービーム照射形成した本発明被覆切削チップの概略斜視図である。 図6〜8以外の実施例としての硬質被覆層残留応力低減模様をレーザービーム照射形成した本発明被覆切削チップの概略斜視図である。 図6〜9以外の実施例としての硬質被覆層残留応力低減模様をレーザービーム照射形成した本発明被覆切削チップの概略斜視図である。 図6〜10以外の実施例としての硬質被覆層残留応力低減模様をレーザービーム照射形成した本発明被覆切削チップの概略斜視図である。 図6〜11以外の実施例としての硬質被覆層残留応力低減模様をレーザービーム照射形成した本発明被覆切削チップの概略斜視図である。 硬質被覆層の全面に研磨材層を形成した状態を示す概略斜視図である。 研磨材層を形成した状態でウエットブラストを施した後の状態を示す概略斜視図である。 従来被覆切削チップの概略斜視図である。

Claims (1)

  1. 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成されたサーメット基体の切刃稜線部を含むすくい面および逃げ面の全面に、化学蒸着形成された硬質被覆層を、
    (a−1)Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層、および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上と、2.5〜15μmの平均層厚を有し、
    組成式:(Ti1−ACr)C1−B(ただし、原子比で、A:0.005〜0.05、B:0.45〜0.55)、
    を満足すると共に、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、表面研磨面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に電子線を照射して、前記表面研磨面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角を測定し、この場合前記結晶粒は、格子点にTi、Cr、炭素(C)、および窒素(N)からなる構成原子がそれぞれ存在するNaCl型面心立方晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(NはNaCl型面心立方晶の結晶構造上2以上の偶数となる)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で現した場合、個々のΣN+1がΣN+1全体(ただし、頻度の関係で上限値を28とする)に占める分布割合を示す構成原子共有格子点分布グラフにおいて、Σ3に最高ピークが存在し、かつ前記Σ3のΣN+1全体に占める分布割合が60%以上である構成原子共有格子点分布グラフを示す改質Ti系炭窒化物層、からなり、かつ3〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層の下部層と、
    (a−2)1〜15μmの平均層厚、および化学蒸着した状態でα型の結晶構造を有する酸化アルミニウム層の上部層、
    以上(a−1)および(a−2)で構成し、
    (b)上記硬質被覆層の上部層である酸化アルミニウム層の全面に、
    (b−1)下側層として、0.1〜3μmの平均層厚を有し、かつ、
    組成式:TiOX
    で表わした場合、厚さ方向中央部をオージェ分光分析装置で測定して、原子比で、
    X:1.2〜1.7、
    を満足する酸化チタン層、
    (b−2)上側層として、0.05〜2μmの平均層厚を有し、かつ、
    組成式:TiN1-Y(O)Y
    で表わした場合(ただし、(O)は上記酸化チタン層からの拡散酸素を示す)、同じく厚さ方向中央部をオージェ分光分析装置で測定して、同じく原子比で、
    Y:0.01〜0.4、
    を満足する窒酸化チタン層、
    以上(b−1)および(b−2)で構成された研磨材層を蒸着形成した状態で、
    (b−3)ウエットブラストにて、噴射研磨材として、水との合量に占める割合で15〜60質量%の酸化アルミニウム微粒を配合した研磨液を噴射し、
    上記の下側層の粉砕化酸化チタン微粒、上側層の粉砕化窒酸化チタン微粒、および噴射研磨材としての酸化アルミニウム微粒の共存下で、上記硬質被覆層の上部層を構成する酸化アルミニウム層の少なくとも切刃稜線部を含むすくい面部分および逃げ面部分を研磨して、これら研磨面の表面粗さを準拠規格JIS・B0601−1994に基いた測定で、Ra:0.2μm以下とし、
    (c)さらに、上記酸化アルミニウム層研磨面のすくい面および逃げ面のいずれか、またはこれら両面の全面に亘って、単一基本形状マークおよび前記単一基本形状マークの集合マークのいずれか、または両方が分散分布してなると共に、前記単一基本形状マークを、上記硬質被覆層の構成層のうちのいずれかの層が露出した掘下げ面とした硬質被覆層残留応力低減模様をレーザービーム照射形成したこと、
    を特徴とする高硬度鋼の高速切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆サーメット製切削スローアウエイチップ。
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