走査型プローブ顕微鏡(Scanning Probe Microscope:SPM)は、探針(プローブ)の鋭い先端部を試料表面に近接、あるいは接触させて、この先端部から試料の局所的表面に刺激(入力)を与えたときの試料表面の変化(応答)を、特定の物理量の変化として局所的に測定し、探針を試料表面に対して走査することにより、顕微鏡像を得るものである。走査型プローブ顕微鏡として、走査トンネル顕微鏡(Scanning Tunneling Microscope:STM)、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope:AFM)、走査型近接場光学顕微鏡(Scanning Near-field Optical Microscope:SNOM)、磁気力顕微鏡(Magnetic Force Microscope:MFM)などを挙げることができる。
走査トンネル顕微鏡は、導電性の試料との間に電圧をかけて、探針の先端部を試料表面に微小間隔まで極近接させ、この微小間隔を流れるトンネル電流を検出することにより試料表面の構造や電子状態などをナノスケールで観察するものである。走査トンネル顕微鏡には、一般的に、先端部を鋭くしたタングステン等の金属探針が用いられる。なお、1個の探針を備えた単探針走査トンネル顕微鏡が一般的であるが、近年、複数個の探針を備えた多探針走査トンネル顕微鏡(マルチプローブ走査トンネル顕微鏡)が注目されている。多探針走査トンネル顕微鏡の一例として、4端子電気伝導測定法を利用する4探針走査トンネル顕微鏡がある。4探針走査トンネル顕微鏡は、4個の探針を直線上に配置し、両端の探針にバイアス電圧を印可し、その中間の2探針で検出される電圧を測定することによって、正確な導電性を測定するものである。
原子間力顕微鏡は、探針の先端部を試料表面に極近接させ、探針と試料との間に働く原子間力を検出することにより試料表面の微細な表面構造をナノスケールで観察するものである。原子間力顕微鏡には、一般的にカンチレバーやチューニングフォークが探針として用いられ、カンチレバーやチューニングフォークの自由端に設けられた突起の先端部はタングステン等の金属やシリコンなどからなる。
走査型近接場光学顕微鏡は、走査プローブ法を光に適用したものであり、試料に光を当てて近接場光を発生させ、探針を試料のまわりで走査して散乱された近接場光を観測することにより試料表面の微細な表面構造をナノスケールで観察するものである。走査型近接場光学顕微鏡には、一般的にカンチレバーが探針として用いられ、カンチレバーやチューニングフォークの自由端に設けられた突起の先端部はシリコン製の光ファイバーや金属からなり開口を有している。
走査トンネル顕微鏡や原子間力顕微鏡の水平分解能は、探針の先端部の先端曲率半径に依存するが、金属やシリコン等からなる探針の先端部を原子レベルで鋭く研磨することは非常に困難である。また、走査型近接場光学顕微鏡の分解能は、探針の先端部の大きさに依存するが、光ファイバーや金属からなる探針の先端部を原子レベルで鋭く研磨することは非常に困難である。そのため、これらの探針を探針基体として、その先端部にカーボンナノチューブ(Carbon Nanotube:CNT)を備えた探針が近年用いられている。
カーボンナノチューブは、その先端曲率半径が最小1nm以下と非常に小さく、1000以上の高いアスペクト比をとることができる。さらに、カーボンナノチューブは、柔軟かつ機械的強度が強く、化学的に安定しており酸化され難く、電気伝導率が高いなどの性質も持っている。カーボンナノチューブを先端部に備えた探針(以下、「カーボンナノチューブ探針」という。)を用いることにより、水平分解能が向上した像や長時間に渡って安定した像を得ることができる。
カーボンナノチューブ探針を作製する方法としては、光学顕微鏡による観察下で接着物質を用いてカーボンナノチューブを直接に探針基体の先端部に付着させる方法や、走査電子顕微鏡内で雰囲気中に残留する炭素系不純物ガスを利用して電子ビームにより探針基体の先端部にカーボンナノチューブを付着させる方法がある(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、これらの方法は、特殊な技能を必要とするともに、カーボンナノチューブを1本ずつ付着させるために時間を要する難点を有しており、大量生産に適したものではない。
また、CVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相成長)法で探針基体の先端部にカーボンナノチューブを直接成長させる方法がある。この方法は、同時に多数のカーボンナノチューブ探針を作製することが可能であり、大量生産に適している。CVD法は、熱CVD法とプラズマCVD法に分類される。熱CVD法は、カーボンナノチューブの成長方向を制御できない難点があるのに対し、プラズマCVD法は、外部電界によってカーボンナノチューブの成長方向を制御することが可能であり、目的とするカーボンナノチューブを作製することができる。従って、カーボンナノチューブ探針は、プラズマCVD法により作製することが適している。
一方、磁気力顕微鏡は、磁性を帯びた探針の先端部を試料表面に極近接させ、探針と試料との間に働く磁気力を検出することにより試料表面の微細構造をナノスケールで観察するものである。磁気力顕微鏡には、一般的にカンチレバーが探針として用いられ、カンチレバーの自由端に形成された突起の先端部が磁性材からなっている。
磁気力顕微鏡の水平分解能は、カンチレバーの突起の先端部の先端曲率半径に依存する。カンチレバーの突起の先端部を覆う磁性薄膜を集束イオンビーム(Focused Ion Beam:FIB)装置で削ることも行われるが、非常に困難な作業である。そのため、突起の先端部にカーボンナノチューブを備えさせ、その先端に磁性体を設けることが行われている。
このような磁性体を先端に設けたカーボンナノチューブを備えたカンチレバーを作製する方法としては、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)内のナノマニピュレータによって突起の先端部にカーボンナノチューブを取り付けて磁性薄膜をコーティングする方法、CVD法によって突起の先端部にカーボンナノチューブを直接成長させて磁性薄膜をコーティングする方法、先端に磁性ナノ粒子を持つカーボンナノチューブを走査型電子顕微鏡内のナノマニピュレータによって突起の先端部に取り付ける方法がある。
特開2000−227435号公報
しかしながら、前記従来の走査トンネル顕微鏡、原子間力顕微鏡や走査型近接場光学顕微鏡に用いるカーボンナノチューブ探針をプラズマCVD法によって作製する方法においては、探針基体の先端部が電界集中によりプラズマからスパッタリング現象によるダメージを受け、カーボンナノチューブを成長させることが困難であるという問題があった。また、プラズマCVD法によって作製したカーボンナノチューブ探針を走査トンネル顕微鏡に用いる場合、探針基体の先端部とカーボンナノチューブとの接合部の接合抵抗が大きいので、非常に微小であるトンネル電流の検出が困難となるという問題があった。
前記従来の磁気力顕微鏡に用いる磁性体を先端に設けたカーボンナノチューブを備えたカンチレバーを作製する各方法においては、カーボンナノチューブや磁性ナノ粒子を1つずつ付着させるために特殊な技能と時間を要する難点や、複雑な工程を要する難点を有しており、大量生産に適したものではないという問題があった。
本発明は、前記問題に鑑みてなされたものであり、電界集中によりプラズマから受けるダメージを減少させて探針基体の先端部にカーボンナノチューブをプラズマCVD法によって成長させることができるプローブ顕微鏡用探針の作製方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、探針基体の先端部とカーボンナノチューブとの接合部の接合抵抗が小さなプローブ顕微鏡用探針の作製方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、磁性体を先端に設けたカーボンナノチューブを備えたカンチレバーを大量生産することができるプローブ顕微鏡用探針の作製方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、これらプローブ顕微鏡用探針の作製方法によって作製されたプローブ顕微鏡用探針を備えるプローブ顕微鏡を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、請求項1に記載のプローブ顕微鏡用探針の作製方法は、針状又はカンチレバーからなる針状基体を、その先端部のみを露出させた状態で保持するホルダーを容器内に配し、該容器内に導入した炭素系ガスをプラズマ化し、該プラズマ化した炭素系ガスに前記先端部を曝すことにより、当該先端部の表面にカーボンナノチューブを成長させることを特徴としている。
請求項2に記載のプローブ顕微鏡用探針の作製方法は、請求項1に記載のプローブ顕微鏡用探針の作製方法において、前記ホルダーに保持された探針基体の先端部には触媒金属が蒸着されていることを特徴としている。
請求項3に記載のプローブ顕微鏡用探針の作製方法は、請求項1又は2に記載のプローブ顕微鏡用探針の作製方法において、前記容器内の圧力を調整して前記カーボンナノチューブを成長させる工程を行うことを特徴としている。
請求項4に記載のプローブ顕微鏡用探針の作製方法は、請求項1から3の何れか1項に記載のプローブ顕微鏡用探針の作製方法において、前記探針基体の先端部の近傍に金属メッシュを配して前記カーボンナノチューブを成長させる工程を行うことを特徴としている。
請求項5に記載のプローブ顕微鏡用探針の作製方法は、請求項2に記載のプローブ顕微鏡用探針の作製方法において、前記触媒金属が磁性体であることを特徴としている。
請求項6に記載のプローブ顕微鏡用探針の作製方法は、請求項1から5の何れか1項に記載のプローブ顕微鏡用探針の作製方法において、前記ホルダーが、前記探針基体を保持する穴を複数備えることを特徴としている。
請求項7に記載のプローブ顕微鏡は、請求項1から6の何れか1項に記載のプローブ顕微鏡用探針の作製方法によって作製されたプローブ顕微鏡用探針を備えることを特徴としている。
請求項8に記載のプローブ顕微鏡は、請求項1から6の何れか1項に記載のプローブ顕微鏡用探針の作製方法によって作製されたプローブ顕微鏡用探針を備えたプローブを走査させる走査型プローブ顕微鏡であることを特徴としている。
請求項1に記載のプローブ顕微鏡用探針の作製方法によれば、針状の金属又はカンチレバーからなる探針基体は先端部のみを露出させてホルダーに保持されており、当該先端部がプラズマ化した炭素系ガスに曝されるので、探針基体の先端部以外の部分がプラズマによってダメージを受けずにカーボンナノチューブを成長させることができる。
請求項2に記載のプローブ顕微鏡用探針の作製方法によれば、触媒金属が蒸着されている探針基体の先端部にカーボンナノチューブを成長させるので、金属探針やカンチレバーなどからなる探針基体の先端部とカーボンナノチューブとの接合部は金属からなっており導電性が良い。そのため、接合部の接合抵抗が小さなプローブ顕微鏡用探針を作製することができる。
請求項3に記載のプローブ顕微鏡用探針の作製方法によれば、容器内の圧力を調整してカーボンナノチューブを成長させる工程を行う。そのため、容器内を適切な圧力に下げ、プラズマから受けるダメージを減少させることによって、カーボンナノチューブを良好に成長させることが可能となる。
請求項4に記載のプローブ顕微鏡用探針の作製方法によれば、探針基体の先端部の近傍に配した金属メッシュにより探針基体の先端部の電界集中を緩和して、プラズマから受けるダメージを減少させることによって、カーボンナノチューブを良好に成長させることが可能となる。
請求項5に記載のプローブ顕微鏡用探針の作製方法によれば、触媒金属が磁性体であるので、当該磁性体を先端に設けたカーボンナノチューブ探針を作製することができる。また、当該方法によって、磁性体を先端に設けたカーボンナノチューブ探針を容易に作製することが可能となる。
請求項6に記載のプローブ顕微鏡用探針の作製方法によれば、ホルダーが探針基体を保持する穴を複数備えるので、1度に複数のカーボンナノチューブ探針を作製することができ、カーボンナノチューブ探針を大量生産しコストを低下させることが可能となる。
請求項7に記載のプローブ顕微鏡によれば、前記効果を有するプローブ顕微鏡用探針を備えるので、分解能の優れたプローブ顕微鏡のコストを低下させることが可能となる。なお、このようなプローブ顕微鏡には、プローブを試料表面に対して走査させる走査型プローブ顕微鏡や、プローブと近接する試料表面の局所的な顕微鏡像を得るプローブ顕微鏡が含まれる。また、プローブ顕微鏡には、プローブ顕微鏡用探針を1個備える単探針プローブ顕微鏡、プローブ顕微鏡用探針を複数個備える多探針プローブ顕微鏡、及び複数本のプローブ顕微鏡用探針が1個の基体にアレイ状に配置されたプローブ顕微鏡が含まれる。
請求項8に記載のプローブ顕微鏡によれば、前記効果を有するプローブ顕微鏡用探針を備えたプローブを走査させるので、分解能の優れた走査型プローブ顕微鏡のコストを低下させることが可能となる。なお、このような走査型プローブ顕微鏡には、走査トンネル顕微鏡、原子間力顕微鏡、走査型近接場光学顕微鏡、磁気力顕微鏡などが含まれる。
以下、本発明の第1の実施形態に係るプローブ顕微鏡用探針の作製方法について図面に基づき説明する。この方法により作製される探針は、針状の金属探針からなる探針基材の先端部にカーボンナノチューブを備えたカーボンナノチューブ探針であり、走査トンネル顕微鏡などの探針として用いられる。この場合の一実施例を以下に示す。
まず、タングステンからなる金属ワイヤを所定の長さに切断し、電解研磨等により先端部を鋭く加工して、通常の走査型電子顕微鏡用のタングステン探針10(図1参照。)を作成する工程を行う。このタングステン探針が探針基材となる。なお、タングステンからなる金属ワイヤの代わりに、チタン、白金・イリジウム合金、白金・ロジウム合金、ニッケル等からなる金属ワイヤを用いてもよい。
次に、タングステン探針10の表面の酸化膜を除去し、その後、タングステン探針10の先端部10aに触媒金属を蒸着させる工程を行う。図1に示すように、導電性支柱11の頂部に金属性ワイヤ12が張り渡たされており、この金属性ワイヤ12にスポット溶接等でタングステン探針10を先端部10aが下方を向くようにして取り付ける。これら金属性ワイヤ12などは図示しない容器内に配されており、該容器内を真空として、図示しない電源によって金属性ワイヤ12への通電加熱を700〜800℃で1〜2分間行い、タングステン探針10の表面の酸化膜を除去する。タングステン探針10の先端部10aの下方に蒸発源となる鉄ロッド13が支柱14により保持されており、タングステン、モリブデン、タンタル等の高融点金属からなる細線状のフィラメント15が、鉄ロッド13のを取り囲むように導電性支柱11に支持されている。これら鉄ロッド13やフィラメント15も前記図示しない容器内に配されており、該容器内を真空にしたまま、フィラメント電源16によってフィラメント15への通電加熱を行うとともに、鉄ロッド13に高圧電源17により高圧を印加すると、フィラメント15から発生する電子ビームが鉄ロッド13に照射される。鉄ロッド13は電子衝撃により加熱されて鉄ナノ粒子として蒸発し、その蒸気がタングステン探針10の表面にて凝縮する。そして、タングステン探針10の先端部10aの表面に数nm〜20nm程度の厚さからなる鉄の薄膜を形成させる。この鉄の薄膜を構成する鉄ナノ粒子が、カーボンナノチューブの成長を促進させるための触媒金属となる。
次に、タングステン探針10の触媒金属を蒸着させた先端部10aにプラズマCVD法によりカーボンナノチューブを成長させる工程を行う。この工程は、図2に示すプラズマCVD装置20を用いて行う。このプラズマCVD装置20は、内部を真空状態に維持することが可能な容器21と、この容器21内に互いに対向させて設けたカソード電極22及びアノード電極23と、容器21内に導入するマイクロ波を生成するマイクロ波生成装置24と、カソード電極22及びアノード電極23間に所望のバイアス電圧を印加することが可能な直流電源25と、を備えている。容器21は、所定の使用ガスを容器21内に導入する原料ガス導入口21aと、排気手段によって容器21内を排気し容器21内を使用ガスで所定の圧力に維持する排気口21bと、を備えている。
カソード電極22には、タングステン探針10を保持するホルダー26が載置されている。このホルダー26は、図3(a)及び図3(b)に示すように、複数のタングステン探針10を保持することが可能なものであり、銅やタンタル、モリブデンなどからなる。タングステン探針10は、ホルダー26に設けられた細長い穴26a内に収容されることにより保持されている。ホルダー26に保持されたタングステン探針10は、その先端部10aが穴26aの開口部から外部に上方に向かって露出し、先端部10aを除く本体部の周りが近接する穴26aの内壁にて覆われることによって外部から隔てられている。
まず、前処理として、図2に示したプラズマCVD装置20を用い、水素プラズマ処理を行う。タングステン探針10をホルダー26にて保持した状態で、容器21内を排気手段により真空化し、使用ガスとしてガス流量30sccmの水素ガスを容器21内に導入し、容器21内の圧力を0.45〜0.8Torr(60〜105Pa)とする。マイクロ波生成装置24のマイクロ波入射電力を500Wとして周波数2.45GHzのマイクロ波を発生させて、容器21内にマイクロ波を導入し、水素ガスのプラズマを発生させる。この状態で、直流電源25により100Vのバイアス電圧を印加し、5分間程度の水素プラズマ処理を行う。なお、この前処理は必ずしも必要とするものではない。
引き続き、プラズマCVD法によりカーボンナノチューブを成長させる。水素プラズマ処理を行った状態から、容器21内を排気手段により真空化し、使用ガスとしての水素ガス及びメタンガス(これらのガス流量比は3:2〜4:1)とからなる混合ガスを容器21内に導入し、容器21内の圧力を0.45〜0.8Torr(60〜105Pa)とする。マイクロ波生成装置24のマイクロ波入射電力を500Wとして周波数2.45GHzのマイクロ波を発生させて、容器21内にマイクロ波を導入し、水素ガス及びメタンガスのプラズマを発生させる。この状態で、直流電源25により180〜260Vのバイアス電圧を印加し、5〜15分間程度のプラズマCVD処理を行う。
この結果、図4に模式的に示すように、タングステン探針10の先端部10aに直径約40nm、長さ約140nmのカーボンナノチューブ31が成長したカーボンナノチューブ探針30が得られたことが観察された。なお、プラズマCVD装置20の標準的な処理条件である容器21内の圧力を1.7Torr(220Pa)程度とし、同様にプラズマCVD処理を行った場合、タングステン探針10の先端部10aの曲率半径が100nm程度以下になると、カーボンナノチューブ31が成長しないことが観察された。本実施形態においては、容器21内の圧力を調整して0.5Torr程度に減少させることにより、タングステン探針10の先端部10aの曲率半径が100nm程度以下である場合であっても、カーボンナノチューブ31を成長させることを可能にした。これは、容器21内の圧力を減少したことによって、プラズマから受けるスパッタリングによるダメージを減少させたことによる。
容器21内圧力を66.5Pa、バイアス電圧を220Vとしてタングステン探針10の先端部10aに成長したカーボンナノチューブ31を高分解能走査型電子顕微鏡によって観察した写真を図5(a)及び図5(b)に示すように、カーボンナノチューブ31の構造はいわゆる竹状構造であり、その側壁は約30層のグラフェンシートから構成されている。このカーボンナノチューブ31の先端を高分解能透過電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)によって観察した写真を図6(a)乃至図6(c)に示すように、カーボンナノチューブ31の先端には厚さ約3nmのアモルファスカーボンによって覆われた鉄ナノ粒子32が存在している。また、カーボンナノチューブ31は、プラズマCVD処理時間の増加とともに、その長さと本数が増加し、本数の増加とともに束状になることが観察された。カーボンナノチューブ31の長さは、図7に示すように、プラズマCVD処理時間に対して飽和する傾向があることが観察された。プラズマCVD処理時間を適宜調整することによって、所望長さのカーボンナノチューブ31を成長させることができる。このようにして、本実施例にて得られたカーボンナノチューブ探針30を備えた走査トンネル顕微鏡によって、大気中でグラファイト表面を観察した結果、図8に写真を示すように、炭素原子のハニカム構造からなる格子像が観察された。
以下、本発明の第2の実施形態に係るプローブ顕微鏡用探針の作製方法について図面に基づき説明する。本実施形態は、図9(a)及び図9(b)に示すように、ホルダー26に設けられた穴26aの開口部を金属メッシュ27にて覆うことによって、図2に示したプラズマCVD装置20の容器21内の圧力を標準的な処理条件である1.7Torr程度として処理を行って、タングステン探針10の先端部10aにカーボンナノチューブを成長させ、カーボンナノチューブ探針30を作製することを可能とするものである。この場合の一実施例を以下に示す。
金属メッシュ27は、図9(a)及び図9(b)に示すように、ホルダー26に設けられた穴26aの開口部を覆うようにホルダー26上に載置固定されており、タングステン探針10の先端部10aに近傍に配されている。金属メッシュ27として、例えば、透過電子顕微鏡の試料を支持するために用いられる網目メッシュを用いることができる。この網目メッシュは、例えば、銅、モリブデン、ニッケル、ステンレス、白金などの金属からなり、直径約3mm、厚さ約10μm、網目間隔50〜150μmの網目状の穴を有するものである。
まず、タングステン探針10の先端部10aに触媒金属を蒸着させる工程を、前記第1の実施形態と同様に行う。次に、図2に示したプラズマCVD装置20において、図9(a)及び図9(b)に示すようにタングステン探針10を保持するホルダー26に金属メッシュ27を載置して、プラズマCVD法によりカーボンナノチューブを成長させる工程を行う。このとき、前記第1の実施形態とは異なり、水素プラズマ処理においてガス流量60sccmの水素ガスを容器21内に導入し、プラズマCVD処理において水素ガス及びメタンガス(これらのガス流量比は3:2〜4:1)とからなる混合ガスを容器21内に導入し、容器21内の圧力を標準的な処理条件である1.7Torr程度として処理を行う。他の処理条件は、前記第1の実施形態と同様である。
この結果、前記第1の実施形態と同様に、図4に模式的に示すように、カーボンナノチューブ31がタングステン探針10の先端部10aに成長したカーボンナノチューブ探針30が得られたことが観察された。本実施形態においては、タングステン探針10の先端部10aに近傍に金属メッシュ27を配し、タングステン探針10の先端部10aの電界集中を緩和して、プラズマから受けるスパッタリングによるダメージを減少させることによって、タングステン探針10の先端部10aの曲率半径が100nm程度以下である場合であっても、カーボンナノチューブ31を成長させることを可能にした。
以下、本発明の第3の実施形態に係るプローブ顕微鏡用探針の作製方法について図面に基づき説明する。この方法により作製される探針は、カンチレバーからなる探針基材の先端部にカーボンナノチューブを備えたカーボンナノチューブ探針であり、原子間力顕微鏡、磁気力顕微鏡や走査型近接場光学顕微鏡などの探針として用いられる。この場合の一実施例を以下に示す。なお、チューニングからなる探針基材の先端部にカーボンナノチューブを備えた探針も同様に作製することができる。
まず、既知の半導体プロセスによりシリコンや窒化シリコンからなる通常の原子間力顕微鏡や磁気力顕微鏡用のカンチレバー40(図10参照。)を作成する工程を行う。このカンチレバー40が探針基材となり、その自由端には鋭い先端部40aを有する突起を備えている。
次に、カンチレバーの表面の酸化膜を除去し、その後、カンチレバー40の突起の先端部40aに触媒金属を蒸着させる工程を行う。この工程は、図示しないが、図1に示したタングステン探針10の代わりにカンチレバー40をその突起の先端部40aが下方を向くようにして金属性ワイヤ12に取り付ける。そして、前記第1の実施形態における実施例と同様に通電加熱を行い、カンチレバー40の突起の先端部40aの表面に10〜20nmの厚さからなる鉄の薄膜を形成させる。
次に、カンチレバー40の突起の触媒金属を蒸着させた先端部40aにプラズマCVD法によりカーボンナノチューブを成長させる工程を行う。この工程は、図2に示したプラズマCVD装置20におけるホルダーの代わりに、図10に示すように、カンチレバー40を保持するホルダー41がカソード電極22に載置されたプラズマCVD装置50を用いて行う。このホルダー41は、図11(a)及び図11(b)に示すように、ホルダー41の下部を構成する下部構成部41aとホルダー41の上部を構成する上部構成部41bとから構成され、銅やタンタル、モリブデンなどからなるもである。カンチレバー40は、下部構成部41aの上面に突起が上方を向くようにして載置され、ホルダー41を載置した下部構成部41aを上方から覆う上部構成部41bに設けられた穴41c内に突起が収容されて、ホルダー41に保持される。ホルダー41に保持されたカンチレバー40は、その突起の先端部40aが穴41cの開口部から外部に上方に向かって露出し、先端部40aを除く本体部の周りが近接するホルダー41の壁面に覆われることによって外部から隔てられている。なお、ホルダー41は1つのカンチレバー40を保持するものであるが、複数のカンチレバーを保持することが可能なホルダーを用いてもよい。
まず、前処理として図7に示したプラズマCVD装置50を用いて、水素プラズマ処理を行う。カンチレバー40をホルダー41に保持した状態で、容器21内を排気手段により真空化し、使用ガスとしてガス流量30〜40sccmの水素ガスを容器21内に導入し、容器21内の圧力を0.45〜0.8Torr(60〜105Pa)とする。マイクロ波生成装置24のマイクロ波入射電力を500Wとして周波数2.45GHzのマイクロ波を発生させて、容器21内にマイクロ波を導入し、水素ガスのプラズマを発生させる。この状態で、直流電源25により100Vのバイアス電圧を印加し、5〜8分間程度の水素プラズマ処理を行う。
引き続き、プラズマCVD法によりカーボンナノチューブを成長させる。水素プラズマ処理を行った状態から、容器21内を排気手段により真空化し、使用ガスとして水素ガス及びメタンガス(これらのガス流量比は3:2〜4:1)とかなる混合ガスを容器21内に導入し、容器21内の圧力を0.45〜0.8Torr(60〜105Pa)とする。マイクロ波生成装置24のマイクロ波入射電力を500Wとして周波数2.45GHzのマイクロ波を発生させて、容器21内にマイクロ波を導入し、水素ガス及びメタンガスのプラズマを発生させる。この状態で、直流電源25により100〜300Vのバイアス電力を印加し、5〜15分間程度のプラズマCVD処理を行う。
この結果、図示しないが、前記第1の実施形態における実施例と同様に、カーボンナノチューブがカンチレバー40の突起の先端部40aに成長したカーボンナノチューブ探針を得られたことが観察された。本実施形態においては、容器21内の圧力を調整して0.5Torr程度に減少させることにより、カンチレバー40の突起の先端部40aの曲率半径を小さくした場合であっても、カーボンナノチューブを成長させることを可能にした。これは、容器21内の圧力を減少したことによって、カンチレバー40の突起の先端部40aの電界集中を緩和して、プラズマから受けるスパッタリングによるダメージを減少させたことによる。
容器21内圧力を0.5Torr、バイアス電圧を220Vとしてカンチレバー40の突起の先端部40aに成長したカーボンナノチューブを高分解能走査型電子顕微鏡によって観察した写真を図12(a)に示すように、カーボンナノチューブの構造はいわゆる竹状構造であり、その側壁は約30層のグラフェンシートから構成されている。そして、これらのカーボンナノチューブの先端には厚さ約3nmのアモルファスカーボンによって覆われた鉄ナノ粒子が存在している。このように、カーボンナノチューブの先端に磁性体である鉄ナノ粒子が存在するので、本実施例によって得られた探針は、磁気力顕微鏡用探針として好適に用いることができる。
本実施例にて得られたカーボンナノチューブ探針と従来の探針を用いた磁気力顕微鏡とによって、ハードディスクの表面を観察した。その結果、図13(a)に示すように、従来の探針を用いた場合には、磁化の反転している領域で明暗のコントラストが観察された。一方、本実施例にて得られたカーボンナノチューブ探針を用いた場合には、図13(b)に示すように、暗いライン(引力)しか観察されなかった。これは、カーボンナノチューブの先端の鉄ナノ粒子の保持力が試料であるCoCrの保持力より弱いために、試料からの漏洩磁場によって磁化反転したためであると考えられる。磁気力顕微鏡像中の実線から得られたラインプロファイルを観察すると、従来の探針を用いた場合のラインプロファイルの半値幅は、図13(c)に示すように、約250nmである。これに比べて、本実施例にて得られたカーボンナノチューブ探針を用いた場合のラインプロファイルの半値幅は、図13(d)に示すように、約140nmであり、従来の探針を用いた場合に比べて、約100nm減少しており、水平分解能が向上したことを確認された。
また、本実施例にて得られたカーボンナノチューブ探針と従来の探針を用いた磁気力顕微鏡とによって、Co/Pd垂直磁化膜の表面を観察した。その結果、従来の探針を用いた磁気力顕微鏡による図14(a)に示す画像に比べて、本実施例にて得られたカーボンナノチューブ探針を用いた磁気力顕微鏡による図14(b)に示す画像は、磁壁付近のコントラストが強調されていることが観察された。
また、本実施例にて得られたカーボンナノチューブ探針と従来の探針を用いた磁気力顕微鏡とによって、1000kfci(kilo flux charge per inch)の磁気記録媒体を観察した。その結果、従来の探針を用いた磁気力顕微鏡による図15(a)に示す画像に比べて、本実施例にて得られたカーボンナノチューブ探針を用いた磁気力顕微鏡による図15(b)に示す画像は、図15(c)に示すFFTスペクトルからも理解できるように、ビット長27.8mmの明暗のコントラストが明瞭に観察された。
また、本実施例にて得られたカーボンナノチューブ探針と従来の探針を用いた磁気力顕微鏡とによって、600kfci、ビット長45nmのハードディスクを観察した。その結果、従来の探針を用いた磁気力顕微鏡による図16(a)の上方に示す画像に比べて、本実施例にて得られたカーボンナノチューブ探針を用いた磁気力顕微鏡による同図の下方に示す画像は、明暗のコントラストが明瞭に観察された。このことは、図16(a)のA断面及びB断面における周波数偏移をそれぞれ示した図16(b)と図16(c)とを比較することからも理解できる。また、図16(c)の点線にて囲まれた範囲を微分した傾斜を示す図16(d)から、当該範囲の半ビット長が24nmであることが求められた。同様に求めた半ビット長は20〜25nmであり、その平均値は23nmであった。
なお、第3の実施形態に係るプローブ顕微鏡用探針の作製方法において、前記第2の実施形態に示したように、ホルダー26に設けられた穴26aの開口部を金属メッシュ27(図9(a)及び図9(b)参照。)にて覆うことによって、図11に示したプラズマCVD装置50の容器21内の圧力を標準的な処理条件である1.7Torr程度とし処理を行って、カンチレバー40の突起の先端部40aにカーボンナノチューブを成長させることも可能である。この場合、水素プラズマ処理においては、使用ガスとしてガス流量60〜80sccmの水素ガスを容器21内に導入し、容器21内の圧力を1.7Torr程度とし、マイクロ波生成装置24のマイクロ波入射電力を500Wとして周波数2.45GHzのマイクロ波を発生させて、直流電源25により100Vのバイアス電力を印加し、5〜8分間程度の処理を行う。そして、プラズマCVD処理においては、使用ガスとして水素ガス及びメタンガス(これらのガス流量比は3:2〜4:1)とからなる混合ガスを容器21内に導入し、容器21内の圧力を1.7Torr程度とし、マイクロ波生成装置24のマイクロ波入射電力を500Wとして周波数2.45GHzのマイクロ波を発生させて、直流電源25により100〜300Vのバイアス電圧を印加し、10〜15分間程度の処理を行う。容器21内圧力を1.7Torr、バイアス電圧を220Vとし金属メッシュ27を用いてカンチレバー40の突起の先端部40aに成長したカーボンナノチューブを高分解能走査型電子顕微鏡によって観察した写真を図12(b)に示す。
なお、前記第1乃至第3の各実施形態の実施例においては、触媒金属として鉄を用いたが、プラズマによるカーボンナノチューブの成長を促進する金属であれば良く特に限定されず、例えばニッケル、コバルト、あるいはこれらの合金であってもよい。また、電子ビーム蒸着により触媒金属を蒸着させたが、これには限定されず、レーザーを鉄ロッドに照射して加熱するレーザー蒸着等により蒸着させてもよい。
また、プラズマCVD処理における使用ガスとして、メタンガスを原料ガスとして使用したが、プラズマCVD処理によりカーボンナノチューブが成長する炭素系ガスであれば良く特に限定されず、例えばエタンガス、プロパンガス、ブタンガス、一酸化炭素ガスを原料ガスとして使用してもよい。また、プラズマCVD処理における使用ガスとして、水素ガスをキャリアガスとして使用したが、プラズマCVD処理においてカーボンナノチューブの成長を促進、または原料ガスを希釈するガスであれば良く特に限定されず、例えばヘリウムガスをキャリアガスとして使用してもよい。
また、水素プラズマ処理やプラズマCVD処理において、使用ガスをマイクロ波によってプラズマ化しているが、高周波によってプラズマ化することもできる。この場合は、図2や図11に示したマイクロ波生成装置24の代わりに、高周波生成装置を設けて容器21内に高周波を導入し、使用ガスをプラズマ化する。
前記第1乃至第3の各実施形態に係るプローブ顕微鏡用探針の作製方法にて得られプローブ顕微鏡用探針は、単探針プローブ顕微鏡や多探針プローブ顕微鏡のプローブ顕微鏡用探針として用いることができる。例えば、4探針走査トンネル顕微鏡に用いる場合、従来の金属探針を用いる場合に比べて、より微小なスケールでの測定が可能となり、ナノチューブの柔軟性と耐久性の特徴が生かされる。さらに、走査型プローブ顕微鏡に多探針プローブを併用した装置、及び複数本のプローブ顕微鏡用探針が1個の基体にアレイ状に配置されたプローブ顕微鏡にも応用することができ、ナノスケールの局所的な導電測定等の機能をさらに拡張することが可能となる。なお、1個の基体に複数本のプローブ顕微鏡用探針をアレイ状に配置させる場合、例えば、ホルダー41に保持されたカンチレバーからなる探針基体に突起をアレイ状に形成し、これら突起にそれぞれ対応させて設けた穴から各突起の先端部のみをプラズマ化した炭素系ガス雰囲気に露出させることにより行う。