JP4759756B2 - 抗生物質カプラザマイシンd、g、d1、g1とその製造法 - Google Patents

抗生物質カプラザマイシンd、g、d1、g1とその製造法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、すぐれた抗菌活性を有する新規な抗生物質であるカプラザマイシン(caprazamycin)D、カプラザマイシンG、カプラザマイシンD1およびカプラザマイシンG1、またはそれらの製薬学的に許容される塩に関する。また本発明は、カプラザマイシンD、カプラザマイシンG、カプラザマイシンD1およびカプラザマイシンG1の製造法に関する。さらに本発明は、カプラザマイシンD、G、D1およびG1、あるいはそれらの塩の少なくとも一つを有効成分とする医薬組成物、特に抗菌性組成物に関する。さらにまた、本発明は新規抗生物質カプラザマイシンD、G、D1およびG1ならびに既知の抗生物質カプラザマイシンA、B、C、E、Fを生産できる特性を持つストレプトミセス・エスピーMK730-62F2を培養することから成る、カプラザマイシンA、B、C、D、E、F、G、D1、G1の製造方法を包含する。
【0002】
【従来の技術】
細菌感染症の化学療法、特に抗酸性菌の感染症の化学療法において、リファンピシン、カナマイシン、ストレプトマイシン、バイオマイシン、カプレオマイシン、サイクロセリン等の抗生物質が抗菌剤として使用されている。
【0003】
細菌感染症の化学療法において、感染症の原因となる細菌が薬剤耐性になることは重大な問題である。特に抗酸性菌の感染症の化学療法において、リファンピシン、カナマイシン、ストレプトマイシン、バイオマイシン、カプレオマイシン、サイクロセリン等に耐性を有する抗酸性菌が出現して社会的問題となっている。薬剤耐性抗酸性菌の感染症の治療に有効な新しい化学療法剤が強く望まれている。また、化学療法が確立していない非定型抗酸性菌の感染症の治療に有効な新しい化学療法剤も強く望まれている。そのため、従来使用されている既知の抗生物質とは異なり、新規な化学構造を有し且つ高い抗菌作用などの優れた性質を示す新規な合成化合物および新規抗生物質の発見または創製をすることが強く望まれている。本発明者らは、上記の要望に応え得る優れた抗菌活性を持つ新規な抗生物質を提供することを目的として種々の研究を行ってきた。
【0004】
先に、本発明者らは、ストレプトミセス・エスピーMK730-62F2株(FERM BP-7218の受託番号で寄託)により生産されるところの、抗酸性菌に対し強い抗菌力を示すカプラザマイシンA、B、C、EおよびFを提供している(PCT出願PCT/JP00/05415号の国際公開WO 01/12643A1号公報、参照、2001年2月22日発行)。
【0005】
カプラザマイシンA、B、C、EおよびFは、次の一般式(A)
Figure 0004759756
〔式中、RはカプラザマイシンAではトリデシル基であり、カプラザマイシンBでは11−メチル−ドデシル基であり、カプラザマイシンCではドデシル基であり、カプラザマイシンEではウンデシル基であり、そしてカプラザマイシンFでは9−メチル−デシル基である〕で示される化合物である。
【0006】
なお、前記のカプラザマイシンA、B、C、E、Fの化学構造と関連した構造骨格を持つ物質として、ストレプトミセス・sp SN-1061M株(FERM BP-5800)の発酵生産物である公知の抗生物質リポシドマイシンA、B、C(特開昭61-282088号)およびリポシドマイシンG、H(特開平2-306992号)、ならびにその他のリポシドマイシン類〔The Journal of Antibiotics 51巻7号647〜654頁(1998); The Journal of Antibiotics, 52巻3号281〜287頁(1999); Journal of the American Chemical Society, 110巻13号4416〜4417頁(1988); The Journal of Organic Chemistry, 57巻24号6392〜6403頁(1992); PCT国際公開WO 97/41248号参照〕が知られている。
【0007】
前記PCT国際公開WO 97/41248号明細書には、実際に単離されて収得された具体的な新規化合物として、リポシドマイシンZ、L、M、K、N、A-(III) 、 C-(III)、X-(III)、Y-(III)、Z-(III)、C-(III)、V-(III)、A-(III)、G-(III)、M-(III)、K-(III)、N-(III)、A-(IV)およびC-(IV)の計17個の化合物があげられている(該WO 97/41248号明細書の第1表、参照)。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
細菌感染症、特に耐性菌の感染症の治療に有効である優れた抗菌活性を有する新規な抗生物質を求める要望は、依然として強く、その要望に応えるための研究は多くの研究者により続けられている。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは前記のカプラザマイシンA、B、C、E、Fの発見に続いて、新規で有用な抗生物質を発見すべく研究を行った。その結果、今回、前記のストレプトミセス・エスピーMK730-62F2株が新しい4種の抗生物質を前記のカプラザマイシンA、B、C、E、Fとは別個に生産していることを、見い出した。これらの4種の新しい抗生物質を単離して収得することに本発明者らは成功した。これら4種の新しい抗生物質は抗酸性菌並びにその薬剤耐性菌に対して優れた抗菌活性を持つことを今回知見した。本発明者らはさらにこれら4種の新しい抗生物質を分析することにより、それらの化学構造を決定することに成功した。そしてそれら4種の新しい抗生物質が前記のカプラザマイシンA、B、C、E、Fと共通な骨格を有する新規な化合物であることを確認しそれぞれカプラザマイシンD、カプラザマイシンG、カプラザマイシンD1、カプラザマイシンG1と命名した。これら新化合物がそれぞれ後記の式(Ia)、式(Ib)、式(IIa)および式 (IIb)により表せることを知見した。
【0010】
しかも、今回、本発明者らによって発見および単離された新規抗生物質、カプラザマイシンD、G、D1およびG1は、既知にリポシドマイシン類の何れの一つとも、化学構造の点ですべて異なることを知見した。さらに、化学的に合成された既知の化合物には、カプラザマイシン類に類似する化合物は無いことも確かめた。従って、本発明者らによって今回得られたカプラザマイシンD、G、D1およびG1が新規化合物であることを確認できた。
【0011】
従って、第1の本発明においては、次の一般式(I)
Figure 0004759756
〔式中、RはカプラザマイシンDでは10−メチル−ウンデシル基 −(CH2)9CH(CH3)2であり、カプラザマイシンGではRは9−メチル−ウンデシル基−(CH2)8CH(CH3)CH2CH3である〕で示される化合物である、抗生物質カプラザマイシンDおよびカプラザマイシンG、あるいはそれらの製薬学的に許容できる塩が提供される。
【0012】
第1の本発明による一般式(I)で示されるカプラザマイシンDおよびGは、下記の式(Ia)のカプラザマイシンDおよび下記の式(Ib)のカプラザマイシンGを包含する。
(1)次式(Ia)
Figure 0004759756
で示されるカプラザマイシンD[一般式(I)でRが10−メチル−ウンデシル基である場合の化合物]。
(2)次式(Ib)
Figure 0004759756
で示されるカプラザマイシンG[一般式(I)でRが9−メチル−ウンデシル基である場合の化合物]。
【0013】
さらに、第2の本発明においては、次の一般式(II)
Figure 0004759756
〔式中、RはカプラザマイシンD1では10−メチル−ウンデシル基 −(CH2)9CH(CH3)2であり、カプラザマイシンG1ではRは9−メチル−ウンデシル基−(CH2)8CH(CH3)CH2CH3である〕で示される化合物である、カプラザマイシンD1およびカプラザマイシンG1、あるいはそれらの製薬学的に許容できる塩が提供される。
【0014】
第2の本発明による一般式(II)で示されるカプラザマイシンD1およびG1は、下記の式(IIa)のカプラザマイシンD1および下記の式(IIb)のカプラザマイシンG1を包含する。
(1)次式(IIa)
Figure 0004759756
で示されるカプラザマイシンD1[一般式(II)でRが10−メチル−ウンデシル基である場合の化合物]。
(2)次式(IIb)
Figure 0004759756
で示されるカプラザマイシンG1[一般式(II)でRが9−メチル−ウンデシル基である場合の化合物]。
【0015】
第1の本発明による式(Ia)のカプラザマイシンDは下記の理化学的性状を示す。
(1)外観:無色粉末
(2)分子式:C52H85N5O22
(3)高分解能質量分析(HRFABMS:陽イオンモード)
実験値:1132.5776(M+H)
計算値:1132.5764
(4)比旋光度:[α] D 23 -3.0゜(c 1、メタノール)
(5)紫外線吸収スペクトル(メタノール中)
λmax nm (ε):262 (9,200)
添付図面の図1に示す。
(6)赤外線吸収スペクトル:添付図面の図2に示す。
(7)プロトン核磁気共鳴スペクトル
500MHzにおいて重メタノール中で室温にて測定したプロンNMRスペクトルは添付図面の図3に示す。
(8)炭素13核磁気共鳴スペクトル
125MHzにおいて重メタノール中で室温にて測定した炭素13NMRスペクトルは添付図面の図4に示す。
【0016】
(9)溶解性
メタノール、ジメチルスルホキシド(DMSO)、水に可溶であり、アセトン、酢酸エチルに不溶である。
(10)TLC
シリカゲル60F254(メルク社製)の薄層クロマトグラフィー上でブタノール−メタノール−水(4:1:2)の溶媒で展開したときのRf値は0.41である。
【0017】
第1の本発明のカプラザマイシンDは両性物質であり、その製薬学的に許容できる塩としては、第4級アンモニウム塩などの有機塩基との塩、あるいは各種金属との塩、例えばナトリウム塩のようなアルカリ金属との塩、あるいは酢酸などの有機酸との付加塩、あるいは塩酸のような無機酸との付加塩があげられる。
【0018】
本発明による式(Ib)のカプラザマイシンGは、下記の理化学的性状を示す。
【0019】
(1)外観:無色粉末
(2)分子式:C52H85N5O22
(3)高分解能質量分析(HRFABMS:陽イオンモード)
実験値 1132.5769(M+H)+
計算値 1132.5764
(4)比旋光度:[α] D 23 -4.2゜(c 0.61、メタノール)
(5)紫外線吸収スペクトル(メタノール中)
λmax nm (ε):262 (9,000)
添付図面の図9に示す。
(6)赤外線吸収スペクトル:添付図面の図10に示す。
(7)プロトン核磁気共鳴スペクトル
500MHzにおいて重メタノール中で室温にて測定したプロトンNMRスペクトルは添付図面の図11に示す。
(8)炭素13核磁気共鳴スペクトル
125MHzにおいて重メタノール中で室温にて測定した炭素13NMRスペクトルは添付図面の図12に示す。
【0020】
(9)溶解性
メタノール、DMSO、水に可溶であり、アセトン、酢酸エチルに不溶である。
(10)TLC
シリカゲル60F254(メルク社製)の薄層クロマトグラフィー上でブタノール−メタノール−水(4:1:2)の溶媒で展開したときのRf値は0.41である。
【0021】
第1の本発明のカプラザマイシンGは両性物質であり、その製薬学的に許容できる塩としては、第4級アンモニウム塩などの有機塩基との塩、あるいは各種金属との塩、例えばナトリウム塩のようなアルカリ金属との塩、あるいは酢酸などの有機酸との付加塩、あるいは塩酸のような各種無機酸との付加塩があげられる。
【0022】
第2の本発明による式(IIa)のカプラザマイシンD1は下記の理化学的性状を示す。
(1)外観:無色粉末
(2)分子式:C43H69N5O18
(3)高分解能質量分析(HRFABMS:陽イオンモード)
実験値:944.4686 (M+H)
計算値:944.4716
(4)比旋光度:[α] D 25 +13.9゜(c 0.91、メタノール)
(5)紫外線吸収スペクトル(メタノール中)
λmax nm (ε):262 (8,300)
添付図面の図5に示す。
(6)赤外線吸収スペクトル:添付図面の図6に示す。
(7)プロトン核磁気共鳴スペクトル
500MHzにおいて重メタノール中で室温にて測定したプロトンNMRスペクトルは添付図面の図7に示す。
(8)炭素13核磁気共鳴スペクトル
125MHzにおいて重メタノール−重水(=10:1)の混合溶媒中で室温にて測定した炭素13NMRスペクトルは添付図面の図8に示す。
【0023】
(9)溶解性
メタノール、DMSO、水に可溶であり、アセトン、酢酸エチルに不溶である。
(10)TLC
シリカゲル60F254(メルク社製)の薄層クロマトグラフィー上でブタノール−メタノール−水(4:1:2)の溶媒で展開したときのRf値は0.41である。
【0024】
第2の本発明のカプラザマイシンD1は両性物質であり、その製薬学的に許容できる塩としては、第4級アンモニウム塩などの有機塩基との塩、あるいは各種金属との塩、例えばナトリウム塩のようなアルカリ金属との塩、あるいは酢酸などの有機酸との付加塩、あるいは塩酸のような各種無機酸との付加塩があげられる。
【0025】
第2の本発明による式(IIb)のカプラザマイシンG1は、下記の理化学的性状を示す。
(1)外観:無色粉末
(2)分子式:C43H69N5O18
(3)高分解能質量分析(HRFABMS:陽イオンモード)
実験値 944.4720 (M+H)+
計算値 944.4716
(4)比旋光度:[α] D 25 +14.6゜(c 0.91、メタノール)
(5)紫外線吸収スペクトル(メタノール中)
λmax nm (ε):262 (8,300)
添付図面の図13に示す。
(6)赤外線吸収スペクトル:添付図面の図14に示す。
(7)プロトン核磁気共鳴スペクトル
500MHzにおいて重メタノール中で室温にて測定したプロトンNMRスペクトルは添付図面の図15に示す。
(8)炭素13核磁気共鳴スペクトル
125MHzにおいて重メタノール中で室温にて測定した炭素13NMRスペクトルは添付図面の図16に示す。
【0026】
(9)溶解性
メタノール、DMSO、水に可溶であり、アセトン、酢酸エチルに不溶である。
(10)TLC
シリカゲル60F254(メルク社製)の薄層クロマトグラフィー上でブタノール−メタノール−水(4:1:2)の溶媒で展開したときのRf値は0.41である。
【0027】
第2の本発明のカプラザマイシンG1は両性物質であり、その製薬学的に許容できる塩としては、第4級アンモニウム塩などの有機塩基との塩、あるいは各種金属との塩、例えばナトリウム塩のようなアルカリ金属との塩、あるいは酢酸などの有機酸との付加塩、あるいは塩酸のような各種無機酸との付加塩があげられる。
【0028】
なお、前記WO 97/41248号明細書に示されるリポシドマイシンZ、L、M、K、Nは、次の一般式(B)
Figure 0004759756
〔式中、R1は、WO 97/41248号明細書の第1表によれば、下記の表1に示される意味をもつ〕で表される化合物であり、表1に示される分子式と分子量をもつ化合物である。
Figure 0004759756
【0029】
また、WO 97/41248号明細書に示されるリポシドマイシンA-(II)およびC-(II)は、次の一般式(C)
Figure 0004759756
〔式中、R1はWO 97/41248号明細書の第1表によれば、下記の表2に示される意味をもつ〕で表される化合物であり、表2に示される分子式と分子量をもつ化合物である。
Figure 0004759756
【0030】
さらに、リポシドマイシンX-(III)、Y-(III)、Z-(III)、C-(III)、V-(III)、
A-(III)、G-(III)、M-(III)、K-(III)、N-(III)は、次の一般式(D)
Figure 0004759756
〔式中、R1はWO 97/41248号明細書の第1表によれば、下記の表3に示される意味をもつ〕で表される化合物であり、表3に示される分子式と分子量をもつ化合物である。
Figure 0004759756
【0031】
さらにまた、リポシドマイシンA-(IV)およびC-(IV)は、次の一般式(E)
Figure 0004759756
〔式中、R1はWO 97/41248号明細書の第1表によれば、下記の表4に示される意味をもつ〕で表される化合物であり、表4に示される分子式と分子量をもつ化合物である。
【0032】
Figure 0004759756
【0033】
本発明によるカプラザマイシンD、G、D1およびG1は、前記に示された既知のリポシドマイシン類の何れにも合致しないことが明らかに認められる。
【0034】
第1の本発明による前記の一般式(I)で示されたカプラザマイシンDおよびGならびに第2の本発明による一般式(II)で示されるカプラザマイシンD1およびG1は、後記の生物学的性質を有する。すなわち、カプラザマイシンD、カプラザマイシンG、カプラザマイシンD1およびカプラザマイシンG1は、薬剤耐性菌を含めて、抗酸性菌、ならびに薬剤耐性菌を含めてグラム陽性の細菌に対して抗菌活性を示す。これらの細菌に対するカプラザマイシンD、G、D1およびG1の抗菌活性を次のとおり試験した。
【0035】
試験例1
各種の微生物に対するカプラザマイシンDの抗菌スペクトルは日本化学療法学会標準法に基づき、1%グリセリン加普通寒天培地上で倍数希釈法により測定した。その結果を次の表5に示す。
Figure 0004759756
【0036】
試験例2
表5に示されたもの以外の各種の微生物に対するカプラザマイシンDの抗菌スペクトルを、日本化学療法学会標準法に基づき、ミュラ・ヒントン寒天培地上で倍数希釈法により測定した。その結果を表6に示す。
Figure 0004759756
【0037】
試験例3
各種の微生物に対するカプラザマイシンGの抗菌スペクトルは日本化学療法学会標準法に基づき、1%グリセリン加普通寒天培地上で倍数希釈法により測定した。その結果を表7に示す。
Figure 0004759756
【0038】
試験例4
表7に示されたもの以外の各種の微生物に対するカプラザマイシンGの抗菌スペクトルを、日本化学療法学会標準法に基づき、ミュラ・ヒントン寒天培地上で倍数希釈法により測定した。その結果を表8に示す。
Figure 0004759756
【0039】
試験例5
各種の微生物に対するカプラザマイシンD1の抗菌スペクトルは日本化学療法学会標準法に基づき、1%グリセリン加普通寒天培地上で倍数希釈法により測定した。その結果を表9に示す。
Figure 0004759756
【0040】
試験例6
表9に示されたもの以外の各種の微生物に対するカプラザマイシンD1の抗菌スペクトルを、日本化学療法学会標準法に基づき、ミュラ・ヒントン寒天培地上で倍数希釈法により測定した。その結果を表10に示す。
Figure 0004759756
【0041】
試験例7
各種の微生物に対するカプラザマイシンG1の抗菌スペクトルは日本化学療法学会標準法に基づき、1%グリセリン加普通寒天培地上で倍数希釈法により測定した。その結果を表11に示す。
Figure 0004759756
【0042】
試験例8
表11に示されたもの以外の各種の微生物に対するカプラザマイシンD1の抗菌スペクトルを、日本化学療法学会標準法に基づき、ミュラ・ヒントン寒天培地上で倍数希釈法により測定した。その結果を表12に示す。
Figure 0004759756
【0043】
さらに、第3の本発明によると、ストレプトミセス属に属して、前記の一般式(I)で表されるカプラザマイシンDおよびカプラザマイシンG、ならびに一般式(II)で表されるカプラザマイシンD1およびカプラザマイシンG1の少くとも一つを生産する生産菌を培養し、その培養物から、カプラザマイシンD、G、D1およびG1の少くとも一つを採取することを特徴とする、抗生物質カプラザマイシンD、G、D1および(または)G1の製造方法が提供される。
【0044】
第3の本発明の方法で使用する抗生物質カプラザマイシンD、G、D1およびG1類の生産菌は、前述した理化学的性質および生物学的性質を有するカプラザマイシンD、G、D1、G1を生産する能力を有するものであれば、その種を問わず使用できて、広範な微生物から選ぶことができる。かかる微生物のうち、抗生物質カプラザマイシン類の生産菌の具体的な好適の一例には、本発明者らにより平成9年3月、微生物化学研究所において、ハワイ、オアフ島の土壌より分離された放線菌で、MK730-62F2の菌株番号が付された菌株がある。
【0045】
以下にMK730-62F2株の菌学的諸性質について記載する。
1.形態
MK730-62F2株は、分枝した基生菌糸より、比較的長い気菌糸を伸長し、その先端に5〜10回転のらせんを形成する。成熟した胞子鎖は10〜50個の卵円形の胞子を連鎖し、胞子の大きさは約0.5〜0.6×0.8〜1.0ミクロンである。なお、胞子の表面は平滑である。輪生枝、菌束糸、胞子のう、および運動性胞子は認められない。
【0046】
2.各種培地における生育状態
色の記載について[ ]内に示す色の標準は、コンティナー・コーポレーション・オブ・アメリカのカラー・ハーモニー・マニュアル(Container Corporation of America のcolor harmony manual)を用いた。
(1)シュクロース・硝酸塩寒天培地(27℃培養)
うす黄[2ea, Lt Wheat]の発育上に、白の気菌糸をうっすらと着生し、溶解性色素は認められない。
(2)グリセリン・アスパラギン寒天培地(ISP-培地5、27℃培養)
うす黄[2ea, Lt Wheat]〜うす黄茶[2ng, Dull Gold]の発育上に、灰白[3dc, Natural]〜明るい灰[d]の気菌糸を着生する。溶解性色素は認められない。
【0047】
(3)スターチ・無機塩寒天培地(ISP-培地4、27℃培養)
うす黄[2ea, Lt Wheat]〜うす黄茶[2lg, Mustard Tan]の発育上に、白〜明るい灰[d]の気菌糸を着生する。溶解性色素は認められない。
(4)チロシン寒天培地(ISP-培地7、27℃培養)
うす黄茶[2le, Mustard〜2ng, Dull Gold]の発育上に、灰白[b, Oyster White〜3dc, Natural]の気菌糸を着生し、暗い茶の溶解性色素を産生する。
(5)イースト・麦芽寒天培地(ISP-培地2、27℃培養)
うす黄茶[2ie, Lt Mustard Tan〜3ic, Lt Amber]の発育上に、灰白[b, Oyster White]〜明るい灰[d]の気菌糸を着生する。溶解性色素は認められない。
(6)オートミール寒天培地(ISP-培地3、27℃培養)
うす黄[2ea, Lt Wheat]の発育上に、灰白[3dc, Natural]〜明るい灰[d]の気菌糸を着生し、溶解性色素は認められない。
【0048】
3.生理学的性質
(1)生育温度範囲
グルコース・アスパラギン寒天培地(グルコース1.0%、アスパラギン0.05%、リン酸二カリウム0.05%、ひも寒天2.5%、pH7.0)を用い、10℃、20℃、24℃、27℃、30℃、37℃、45℃および50℃の各温度で試験した結果、本菌株は10℃、45℃および50℃を除き、20℃から37℃の範囲で生育した。生育至適温度は、30〜37℃付近である。
【0049】
(2)スターチの加水分解(スターチ・無機塩寒天培地、ISP-培地4、27℃培養)培養後3日目頃よりスターチの加水分解を認め、その作用は中等度である。
(3)メラニン様色素の生成(トリプトン・イースト・ブロス、ISP-培地1;ペプトン・イースト・鉄寒天培地、ISP-培地6;チロシン寒天培地、ISP-培地7;いずれも27℃培養)
いずれの培地でも陽性である。
(4)炭素源の利用性(プリドハム・ゴトリーブ寒天培地、ISP-培地9、27℃培養)
D−グルコース、L−アラビノース、D−フルクトース、シュクロース、イノシトール、ラムノース、ラフィノースおよびD−マンニトールを利用して発育し、D−キシロースもおそらく利用する。
【0050】
(5)硝酸塩の還元反応(0.1%硝酸カリウム含有ペプトン水、ISP-培地8、27℃培養)
陰性である。
(6)ゼラチンの液化(単純ゼラチン、20℃培養;グルコース・ペプトン・ゼラチン、27℃培養)
単純ゼラチンは、培養後40日間の観察で液化を認めなかった。グルコース・ペプトン・ゼラチンの場合、培養後40日頃に弱い液化を示した。
(7)脱脂牛乳の凝固・ペプトン化(10%スキムミルク、37℃培養)
凝固することなく、培養後7日目頃よりペプトン化が始まり、14日目には完了した。
【0051】
以上の性状を要約すると、MK730-62F2株は、分枝した基生菌糸より、らせん形成を有する気菌糸を伸長する。胞子の表面は平滑である。種々の培地で、うす黄〜うす黄茶の発育上に、灰白〜明るい灰の気菌糸を着生する。溶解性色素は、メラニン様色素以外は認められない。生育至適温度は30〜37℃付近である。メラニン様色素の生成は陽性、スターチの水解性は中等度である。なお、細胞壁に含まれる2,6−ジアミノピメリン酸はLL−型であり、菌体中の主要なメナキノンはMK-9(H8)およびMK-9(H6)であった。
【0052】
これらの性状よりMK730-62F2株は、ストレプトミセス(Streptomyces)属に属すると考えられる。そこで、近縁の既知菌種を検索した結果、ストレプトミセス・ディアスタトクロモゲネス(Streptomyces diastatochromogenes、文献、 International Journal of Systematic Bacteriology、22巻、290頁、1972年)、ストレプトミセス・レジストマイシフィクス(Streptomyces resistomycificus、文献、International Journal of Systematic Bacteriology、18巻、165頁、1968年)、ストレプトミセス・コリヌス(Streptomyces collinus、文献、International Journal of Systematic Bacteriology、18巻、100頁、1968年)およびストレプトミセス・アウランティオグリセウス(Streptomyces aurantiogriseus、文献、International Journal of Systematic Bacterio logy、18巻、297頁、1968年)があげられた。次に上記4種の本研究所保存菌株とMK730-62F2株を実地に比較検討した。その成績を次の表13に示す。
【0053】
Figure 0004759756
【0054】
Figure 0004759756
【0055】
以上の表13から明らかなように、MK730-62F2株は表13で比較されたいずれの種とも類似した性状を示した。しかし、ストレプトミセス・レジストマイシフィクスは発育の色調がうす黄茶〜茶黒を呈し、溶解性色素が茶を帯び、脱脂牛乳をペプトン化しない点で、MK730-62F2株と相違していた。また、ストレプトミセス・コリヌスは気菌糸の形態が直状〜ループ状を示し、脱脂牛乳をペプトン化しない点で、またストレプトミセス・アウランティオグリセウスは溶解性色素が茶を帯び、単純ゼラチンを液化し、硝酸塩を還元する点で、MK730-62F2株と区別された。一方、ストレプトミセス・ディアスタトクロモゲネスは単純ゼラチンの液化が陽性を示すほかは、MK730-62F2株とよく類似していた。しかし、現時点ではMK730-62F2株をストレプトミセス・ディアスタトクロモゲネスの一菌株であると同定できない。そこで、MK730-62F2株をストレプトミセス・エスピー(Streptomyces sp.)MK730-62F2と命名した。
【0056】
なお、MK730-62F2株を日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1、中央第6に在る産業技術総合研究所生命工学工業技術研究所(2001年4月1日に、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターと改称)に寄託申請し、1998年11月27日、FERM P-17067として受託された。また、2000年7月12日の移管受託日でブダペスト条約の規約下にMK730-62F2株はFERM BP-7218の受託番号で前記の寄託所に寄託された。
【0057】
第3の本発明の方法においては、抗生物質カプラザマイシンD、G、D1、G1の製造は次の通り行われる。すなわち、抗生物質カプラザマイシンD、G、D1およびG1の製造は、カプラザマイシンD、G、D1、G1の少なくとも一つを生産する生産菌(単にカプラザマイシンD、G、D1、G1生産菌という)を栄養培地中に接種し、抗生物質カプラザマイシンD、G、D1、G1の生産に良好な温度で培養することによって行われる。カプラザマイシンD、G、D1、G1生産菌の培養により、抗生物質カプラザマイシンD、G、D1およびG1を含む培養物が得られる。
【0058】
このような目的に用いる栄養培地としては、放線菌の培養に利用しうるものが使用される。栄養源として、例えば市販されている大豆粉、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、コーン・スティープ・リカー、硫酸アンモニウム等の窒素源が使用できる。また、トマトぺースト、グリセリン、でん粉、グルコース、ガラクトース、デキストリン等の炭水化物あるいは脂肪などの炭素源が使用できる。さらに食塩、炭酸カルシウム等の無機塩を添加して使用できる。その他必要に応じて微量の金属塩を添加することができる。これらのものは、カプラザマイシンD、G、D1、G1生産菌が利用し、抗生物質カプラザマイシンD、G、D1、G1の生産に役に立つものであればよく、公知の放線菌の培養材料はすべて用いることができる。
【0059】
抗生物質カプラザマイシンD、G、D1、G1の生産は、ストレプトミセス属に属して抗生物質カプラザマイシンD、G、D1、G1の生産能を有する微生物が使用される。具体的には、本発明者らの分離したストレプトミセス・エスピーMK730-62F2(FERM BP-7218)が抗生物質カプラザマイシンD、G、D1およびG1を生産することは、本発明者らによって明らかにされているが、カプラザマイシンD、G、D1、G1の生産できるその他の菌株は、抗生物質生産菌の単離の常法によって自然界より分離することが可能である。また、ストレプトミセス・エスピーMK730-62F2を含めて、カプラザマイシンD、G、D1、G1生産菌を放射線照射その他、変異処理にかけることより、抗生物質カプラザマイシンD、G、D1、G1の生産能を高める余地も残っている。さらに遺伝子工学的手法によって抗生物質カプラザマイシンD、G、D1、G1の生産も可能である。
【0060】
カプラザマイシンD、G、D1、G1の生産のための種母を得るためにとしては、寒天培地上、MK730-62F2株の斜面培養から得た生育物を使用する。抗生物質カプラザマイシンD、G、D1およびG1の製造に当たっては、ストレプトミセス属に属するカプラザマイシンD、G、D1、G1生産菌を適当な培地で好気的に培養するのが好ましい。その培養液から目的のカプラザマイシンD、G、D1、G1を採取するのには常用の手段を用いることができる。培養温度は、カプラザマイシンD、G、D1、G1生産菌の発育が実質的に阻害されずにこれらの抗生物質を生産しうる範囲であれば、特に制約されるものでない。培養温度は、使用するカプラザマイシンD、G、D1、G1生産菌に応じて適当に選択できるが、好ましくは、25〜30℃の範囲内の温度を挙げることができる。
【0061】
このMK730-62F2株によるカプラザマイシンD、G、D1およびG1の生産は、通常は3ないし9日間で最高に達するが、一般に充分な抗菌活性が培地に付与されるまで続ける。この培養液中のカプラザマイシンD、G、D1、G1の力価の経時変化は、HPLC法によって、またはマイコバクテリウム・スメグマティスあるいはマイコバクテリウム・バケを被検菌とする円筒平板法により測定できる。
【0062】
第3の本発明の方法においては、上記のようにして得られた培養物からカプラザマイシンD、G、D1およびG1の少くとも一つを採取する。カプラザマイシンD、G、D1、G1の採取法としては、微生物の生産する代謝物を採取するのに用いられる手段を適宜利用することができる。例えば、水と混ざらない有機溶媒による抽出の手段、各種吸着剤に対する吸着親和性の差を利用する手段、ゲルろ過法、向流分配を利用したクロマトグラフィー等を、単独または組み合わせて利用することによって、培養物からカプラザマイシンD、G、D1およびG1をそれぞれ単独に、またはそれらの何れか2つまたはそれ以上の混合物として採取できる。
【0063】
また、分離した菌体からは、適当な有機溶媒を用いた溶媒抽出法や菌体破砕による溶出法によりカプラザマイシン類を抽出し、得られたカプラザマイシン類の混合物から、前記と同様にカプラザマイシンD、G、D1およびG1を単離して採取することができる。かくして、前記した抗生物質カプラザマイシンD、G、D1およびG1が別々にまたは2つまたはそれ以上の混合物として得られる。なお、同時に産生されたカプラザマイシンA、B、C、E、FからのカプラザマイシンD、G、D1、G1の分離とカプラザマイシンD、G、D1およびG1の相互の分離とは、後記の実施例で例示されるように、適当な展開溶媒を用いる高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって行うことができる。
【0064】
なお、前記したストレプトミセス sp. MK730-62F2株(FERM BP-7218)は、これを培養すると、本発明によるカプラザマイシンD、G、D1、G1を生産するばかりでなく、既知のカプラザマイシンA、B、C、EおよびFも生産することができる。
【0065】
従って、第4の本発明においては、既知の抗生物質カプラザマイシンA、B、C、EおよびFならびに前記の一般式(I)で示される抗生物質カプラザマイシンDおよびカプラザマイシンGならびに請求項4に記載の一般式(II)で示される抗生物質カプラザマイシンD1およびカプラザマイシンG1を生産する特性を持つストレプトミセス・エスピーMK730-62F2(独立行政法人 産業技術総合研究所特許生物寄託センターにブダペスト条約の規約下にFERM BP-7218の受託番号で寄託された菌株)を、好気的条件下で培養し、その培養物から、抗生物質カプラザマイシンA、B、C、EおよびFならびに抗生物質カプラザマイシンD、G、D1およびG1をそれぞれ別々に採取することから成ることを特徴とする、抗生物質カプラザマイシンA、B、C、D、E、FおよびGならびにカプラザマイシンD1およびG1の製造方法が提供される。
第4の本発明方法は、第3の本発明方法と同じ要領で実施できる。
【0066】
さらに、第5の本発明では、一般式(I)で示されるカプラザマイシンDおよびGならびに一般式(II)で示されるカプラザマイシンD1およびG1の少なくとも一つ、またはそれの製薬学的に許容できる塩を有効成分として含有し、また製薬学的に許容される担体を、有効成分と混和して含有する医薬組成物が提供される。
第5の本発明による医薬組成物においては、有効成分としての一般式(I)のカプラザマイシンD、Gあるいは一般式(II)のカプラザマイシンD1、G1の化合物を、製薬学的に許容できる常用の液状担体、例えばエタノール、含水エタノール、水、生理食塩水、もしくは固体担体、例えば結晶セルロース、でん粉等と混和して含有する組成物の形であることができる。
【0067】
第5の本発明の医薬組成物で用いる有効成分である一般式(I)のカプラザマイシンDまたはG、あるいは一般式(II)のカプラザマイシンD1またはG1あるいはその塩は、経口的に投与できる。あるいはそれらは点鼻、静脈内または筋肉内または皮下内注射、もしくは腹腔内投与などにより非経口的にも投与することができる。
経口投与用の場合には、第5の本発明の医薬組成物では、有効成分としての一般式(I)のカプラザマイシンDまたはG、あるいは一般式(II)のカプラザマイシンD1またはG1、あるいはその塩を、薬学的に許容できる慣用の固体または液体状の担体と混和して、その得られた混合物を散剤、錠剤、カプセル剤、懸濁剤、シロップ剤等の形で製剤とすることができる。
【0068】
第5の本発明の医薬組成物に配合される有効成分としてのカプラザマイシンD、G、D1またはG1の割合は、剤形によって異なるが、例えば、好都合なカプラザマイシン含量割合は、投与単位物の重量の約2〜90%の範囲にあるのがよい。
第5の本発明の組成物を注射用に製剤する場合には、望ましい製剤の形態には、有効成分としての前記のカプラザマイシンを含む無菌の含水溶液あるいは無菌の凍結乾燥剤がある。ここに用いる液体担体は例えば水、生理食塩水、エタノール、含水エタノール、グリセロール、プロピレングリコール、植物油などであるのが好ましい。
【0069】
本発明の医薬組成物において有効成分として用いられるカプラザマイシンD、G、D1またはG1、あるいはその塩の投与量は、治療すべき細菌感染症の種類、治療の目的および症状の程度などによって異なる。カプラザマイシンD、G、 D1またはG1の最適な投与量は専門家による適当な予備試験で決定できる。
【0070】
【発明の実施の形態】
以下に実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
実施例1
抗生物質カプラザマイシンD、G、D1およびG1の製造
寒天斜面培地に培養したストレプトミセス・エスピーMK730-62F2(受託番号FERM BP-7218で寄託)を、ガラクトース2%、デキストリン2%、グリセリン1%、バクトソイトン(ディフコ社製)1%、コーン・スティープ・リカー0.5%、硫酸アンモニウム0.2%、炭酸カルシウム0.2%を含む液体培地(pH7.4に調整)を三角フラスコ(500ml容)に110mlずつ分注して常法により120℃で20分滅菌した培地に接種した。接種後、これを30℃で2日間にわたり回転振とう培養し、種母培養液を得た。
【0071】
トマトペースト(カゴメ社製)2.4%、デキストリン2.4%、酵母エキス(オリエンタル社製)1.2%、塩化コバルト0.0006%(pH7.4に調整)の組成の培地15リットルをタンク培養槽(30リットル容)中に調製し、滅菌後に生産培地として用いた。この生産培地に、上記の種母培養液の2%量を接種し、27℃、1分間あたり通気量15リットル、200rpmの撹拌速度を用いる培養条件で6日間タンク培養した。
【0072】
このようにして得られた培養液を遠心分離して培養ろ液12リットルと菌体を分離した。つづいて、菌体に6リットルのメタノールを加えてよく撹拌し、菌体から既知の抗生物質カプラザマイシンA、B、C、EおよびFならびに新規抗生物質カプラザマイシンD、G、D1およびG1をメタノールで抽出した(なお、以後、これら抗生物質カプラザマイシンA、B、C、D、E、F、G、D1およびG1の総称をカプラザマイシン類と記述することがある)。この培養ろ液と菌体抽出液(メタノール抽出液)を合わせて、この合併で得られた混合液18リットルを芳香族系合成吸着剤ダイヤイオンHP-20(日本、三菱化学株式会社製)のカラム750mlに通過させ、カプラザマイシン類を吸着させた。
【0073】
このダイヤイオンHP-20に脱イオン水、50%メタノール水、80%メタノール水、80%アセトン水、アセトンを各2.25リットル順次通過させた。カプラザマイシン類は、80%アセトン水での溶出画分中に多く溶出された。また、50%メタノール水溶出画分および80%メタノール水溶出画分にもカプラザマイシン類が含まれていたので、両者を合わせて再度、ダイヤイオンHP-20カラム(750ml)に通過させ、これによりカプラザマイシン類をカラムの吸着剤に吸着させ、次いでカラムに80%メタノール水2.25リットルを通過させた。その後、カラムから80%アセトン水2.25リットルで溶出させた。この80%アセトン水での溶出液を先の80%アセトン水溶出画分に合わせ、減圧下で濃縮乾固してカプラザマイシン類を含む粗精製物10.1gを得た。
【0074】
このカプラザマイシン類を含む粗精製物の10.1gをクロロホルム−メタノール(=1:2)の混合溶媒の50mlに溶解して、その溶液にキーゼルグール(メルク社製、Art.10601)50mlを加え溶媒を減圧下で濃縮乾固した。このようにカプラザマイシン類をキーゼルグールに吸着させて得られた固体残渣を、シリカゲルカラム(内径54mm×長さ200mm)の上にのせ、クロマトグラフィーを行った。この際には、展開溶媒としてクロロホルム−メタノール−水(=4:1:0.1)、クロロホルム−メタノール−水(=2:1:0.2)、クロロホルム−メタノール−水(=1:1:0.2)の各混合液の各1.35リットルを用い、順次に展開を行った。
【0075】
フラクションコレクターによって、シリカゲルカラムからの溶出液を、フラクションNo.1〜53では20gずつ分画し、フラクションNo.54〜117では19gづつ分画して集めると、フラクションNo.66〜83にカプラザマイシンA、B、C、D、E、FおよびGを含む活性画分が溶出され、フラクションNo.84〜144にカプラザマイシンD1およびG1を含む活性画分が溶出された。このカプラザマイシンA、B、C、D、E、FおよびGを含むフラクションNo.66〜83を集めて減圧下で濃縮乾固し、カプラザマイシンA、B、C、D、E、FおよびGを含む粗精製物625.3mgを得た。また、フラクションNo.54〜117を集めて減圧下で濃縮乾固し、カプラザマイシンD1およびG1を含む粗精製物1.28gを得た。
【0076】
次にまず、カプラザマイシンA、B、C、D、E、FおよびGを含む粗精製物について各成分の単離と精製を行った。前記の粗精生物625.3mgにメタノール5mlを加えて溶解して、得られた溶液を5℃の冷暗下に静置すると、カプラザマイシンA、B、C、D、E、F、Gを含む析出沈殿画分の537.3mgを得た。つづいて、このカプラザマイシンA、B、C、D、E、F、Gを含む析出沈殿画分をHPLC(CAPCELLPAK C18、φ20×250mm、資生堂製)を用い精製した。このHPLCでは、展開溶媒として50%アセトニトリル水−0.05%ぎ酸(流速:12.0ml/min)により展開すると、61〜68分後にカプラザマイシンAが溶出され、52〜60分後にカプラザマイシンBが溶出され、39〜41分後にカプラザマイシンCが溶出され、30〜38分後にカプラザマイシンDおよびカプラザマイシンGを含む混合物、また25〜28分後にカプラザマイシンEが溶出され、また22〜25分後にカプラザマイシンFが溶出された。それぞれの活性分画を集めて、減圧下で濃縮乾固することにより、カプラザマイシンA(56.9mg)、カプラザマイシンB(90.3mg)、カプラザマイシンC(19.7mg)、カプラザマイシンDおよびカプラザマイシンGを含む混合物 (162.9mg)、カプラザマイシンE(30.3mg)およびカプラザマイシンF(25.5mg)を得た。
【0077】
さらに、上記で得られたカプラザマイシンDおよびカプラザマイシンGを含む混合物を162.9mgをHPLC(CAPCELLPAK C18, φ20×250mm、資生堂製)を用いて精製した。このHPLCでは、展開溶媒として50%アセトニトリル水−0.025%トリフルオロ酢酸(流速:9.0ml/min)により展開すると、55〜69分後にはカプラザマイシンD、48〜53分後にカプラザマイシンGが溶出された。それぞれの活性分画を集めて、減圧下で濃縮乾固することにより、カプラザマイシンD(69.7mg)およびカプラザマイシンG(39.0mg)を得た。
【0078】
さらに、上記で得られたカプラザマイシンD1およびG1を含む粗精製物1.28gについてHPLC(CAPCELLPAK C18, φ20×250mm、資生堂製)を用いて各成分の単離と精製を行った。このHPLCで展開溶媒として45%アセトニトリル水−0.05%トリフルオロ酢酸(流速:12.0ml/min)により展開すると、36〜49分後にカプラザマイシンG1およびD1が溶出され、これらを集めて減圧下で濃縮乾固することにより、カプラザマイシンD1およびカプラザマイシンG1の混合物を187mg得た。さらに、HPLC(CAPCELLPAK C18, φ20×250mm、資生堂製)を用い、展開溶媒として44%アセトニトリル水−0.025%トリフルオロ酢酸(流速:9.0ml/min)により展開すると、46〜52分後にカプラザマイシンD1が溶出され、また41〜44分後にカプラザマイシンG1が溶出された。これら溶出画分を集めて、別々に減圧下で濃縮乾固することにより、カプラザマイシンD1(54.1mg)およびカプラザマイシンG1( 57.6mg)を得た。
【0079】
【発明の効果】
以上に説明したとおり、本発明により、新規な抗生物質として得られた一般式一般式(I)のカプラザマイシンD、Gならびに一般式(II)のカプラザマイシンD1およびG1は、それぞれに、各種の抗酸性菌、細菌およびそれらの薬剤耐性菌株に対してすぐれた抗菌活性を有する。従って、本発明のカプラザマイシンD、G、D1、G1は抗酸性菌および細菌の感染症を治療するのに有効であって有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】カプラザマイシンDのメタノール溶液中の紫外線吸収スペクトルである。
【図2】カプラザマイシンDのKBr錠剤法で測定した赤外線吸収スペクトルである。
【図3】カプラザマイシンDの重メタノール溶液中にて室温で測定した500MHzにおけるプロトン核磁気共鳴スペクトルである。
【図4】カプラザマイシンDの重メタノール溶液中にて室温で測定した125MHzにおける炭素13核磁気共鳴スペクトルである。
【図5】カプラザマイシンGのメタノール溶液中の紫外線吸収スペクトルである。
【図6】カプラザマイシンGのKBr錠剤法で測定した赤外線吸収スペクトルである。
【図7】カプラザマイシンGの重メタノール溶液中にて室温で測定した500MHzにおけるプロトン核磁気共鳴スペクトルである。
【図8】カプラザマイシンGの重メタノール溶液中にて室温で測定した125MHzにおける炭素13核磁気共鳴スペクトルである。
【図9】カプラザマイシンD1のメタノール溶液中の紫外線吸収スペクトルである。
【図10】カプラザマイシンD1のKBr錠剤法で測定した赤外線吸収スペクトルである。
【図11】カプラザマイシD1の重メタノール溶液中にて室温で測定した500MHzにおけるプロトン核磁気共鳴スペクトルである。
【図12】カプラザマイシンD1の重メタノール溶液中にて室温で測定した125MHzにおける炭素13核磁気共鳴スペクトルである。
【図13】カプラザマイシンG1のメタノール溶液中の紫外線吸収スペクトルである。
【図14】カプラザマイシンG1のKBr錠剤法で測定した赤外線吸収スペクトルである。
【図15】カプラザマイシンG1の重メタノール溶液中にて室温で測定した500MHzにおけるプロトン核磁気共鳴スペクトルである。
【図16】カプラザマイシンG1の重メタノール溶液中にて室温で測定した125MHzにおける炭素13核磁気共鳴スペクトルである。

Claims (10)

  1. 次の一般式(I)
    Figure 0004759756
    〔式中、RはカプラザマイシンDでは10−メチル−ウンデシル基−(CH2)9CH(CH3)2であり、カプラザマイシンGではRは9−メチル−ウンデシル基−(CH2)8CH(CH3)CH2CH3である〕で示される化合物である、抗生物質カプラザマイシンD又はカプラザマイシンG、あるいはそれらの製薬学的に許容できる塩。
  2. 次式(Ia)
    Figure 0004759756
    で示されるカプラザマイシンD〔請求項1に示される一般式(I)の化合物でRが10−メチル−ウンデシル基である場合の化合物〕である、請求項1に記載の抗生物質。
  3. 次式(Ib)
    Figure 0004759756
    で示されるカプラザマイシンG〔請求項1に示される一般式(I)の化合物でRが9−メチル−ウンデシル基である場合の化合物〕である、請求項1に記載の抗生物質。
  4. 次の一般式(II)
    Figure 0004759756
    〔式中、RはカプラザマイシンD1では10−メチル−ウンデシル基−(CH2)9CH(CH3)2であり、カプラザマイシンG1ではRは9−メチル−ウンデシル基−(CH2)8CH(CH3)CH2CH3である〕で示される化合物である、カプラザマイシンD1又はカプラザマイシンG1、あるいはそれらの製薬学的に許容できる塩。
  5. 次式(IIa)
    Figure 0004759756
    で示されるカプラザマイシンD1〔請求項4に示される一般式(II)の化合物でRが10−メチル−ウンデシル基である場合の化合物〕である、請求項4に記載の抗生物質。
  6. 次式(IIb)
    Figure 0004759756
    で示されるカプラザマイシンG1〔請求項4に示される一般式(II)の化合物でRが9−メチル−ウンデシル基である場合の化合物〕である、請求項4に記載の抗生物質。
  7. ストレプトミセス属に属して、請求項1に記載の一般式(I)で示される抗生物質カプラザマイシンDおよびカプラザマイシンGならびに請求項4に記載の一般式(II)で示される抗生物質カプラザマイシンD1およびカプラザマイシンG1の少くとも一つを生産する生産菌を培養し、その培養物から、カプラザマイシンD、G、D1およびG1の少くとも一つを採取することを特徴とする、抗生物質カプラザマイシンD、カプラザマイシンG、カプラザマイシンD1および(または)カプラザマイシンG1の製造方法であって、カプラザマイシンD、G、D1およびG1の少くとも一つを生産する生産菌として、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターにブダペスト条約の規約下にFERM BP-7218の受託番号で寄託されてあるストレプトミセス・エスピーMK730-62F2を使用する、前記製造方法。
  8. 既知の抗生物質カプラザマイシンA、B、C、EおよびFならびに請求項1に記載の一般式(I)で示される抗生物質カプラザマイシンDおよびカプラザマイシンGならびに請求項4に記載の一般式(II)で示される抗生物質カプラザマイシンD1およびカプラザマイシンG1を生産する特性を持つストレプトミセス・エスピーMK730-62F2(独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターにブダペスト条約の規約下にFERM BP-7218の受託番号で寄託された菌株)を、好気的条件下で培養し、その培養物から、抗生物質カプラザマイシンA、B、C、EおよびFならびに抗生物質カプラザマイシンD、G、D1およびG1をそれぞれ別々に採取することから成ることを特徴とする、抗生物質カプラザマイシンA、B、C、D、E、FおよびGならびにカプラザマイシンD1およびG1の製造方法。
  9. 請求項1に記載の一般式(I)で示される抗生物質カプラザマイシンDおよびカプラザマイシンGならびに請求項4に記載の一般式(II)で示される抗生物質カプラザマイシンD1およびカプラザマイシンG1の少なくとも一つ、あるいはその製薬学的に許容できる塩を有効成分として含有し、また製薬学的に許容される担体を、有効成分と混和して含有する医薬組成物。
  10. 抗細菌性組成物である請求項に記載の組成物。
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