JP4754864B2 - 切削方法 - Google Patents

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Description

本発明は,切削方法に関し,特に,切削ブレードの切削能力を安定させるために,切削ブレードにより被加工物を準備的に切削加工する切削方法に関する。
半導体ウェハ等の被加工物を切削する切削装置として,例えばダイシング装置が知られている。このダイシング装置は,切削ブレードが着脱可能に装着された切削手段を備えており,被加工物を吸着保持したチャックテーブルを,切削手段に対して往復移動させながら,高速回転する切削ブレードによって被加工物を切削加工する。
切削ブレードは,ダイヤモンド等の砥粒を結合材で固定した構造である。この切削ブレードは,使用時間の経過とともに摩耗して切れ味が低下するため,適宜交換される。切削手段に装着された直後の新しい切削ブレードは,まだ結合材の表面に砥粒が十分に露出していない。このため,このままの状態で切削すると,切削ブレードが十分な切削能力を発揮できないので,切削された被加工物の表面や裏面の切削溝の周辺に,大きなチッピングが発生し,被加工物に大きなダメージを与えてしまう。
かかる問題を防止するため,切削加工に先立ち,新しい切削ブレードに含まれている砥粒を結合材の表面に十分に露出させ(所謂「目出し」),当該切削ブレードの切削能力を安定させるために,プリカットと呼ばれる準備的な切削加工が遂行される。このプリカットは,例えばテスト基板(被加工物のダミーであり,以下「プリカット基板」という。)を用いた試し切りであり,チャックテーブルに吸着保持されたプリカット基板に対してなされる(例えば特許文献1参照)。
このプリカットでは,予め定められた所定のライン数と送り速度で切削ラインが試し切りされる。この所定のライン数と送り速度は,過去の経験から得られたデータに基づいて定められており,多くの場合では,この所定のライン数と送り速度で切削すれば問題はない。しかし,切削ブレードの品質は必ずしも均一ではないので,上記所定のライン数と送り速度で切削したとしても,切削ブレードの切削能力が十分に安定しない場合がある。
従って,プリカット基板をプリカットした後に,プリカット基板に形成された切削溝のチッピング状態をオペレータが顕微鏡で観察して,チッピング状態に問題がないかどうかを確認する作業を行っていた。
特開平11−176772号公報 特開2001−250797号公報 特開平7−335592号公報
しかしながら,プリカット基板に形成された切削溝のチッピング状態をオペレータが観察するのでは,オペレータに負担がかかるだけでなく非効率的であり,また,異常の有無の判断にも熟練度が要求されるという問題があった。そこで,本願発明者らは,オペレータが観察しなくても,プリカットが十分に行なわれたことを判断する方法を検討した。
その方法のひとつとしては,プリカット基板を切削するライン数をこれまでよりも増やすという方法が考えられる。しかし,この方法であると,プリカットに時間がかかるため,生産性が低下してしまうという問題がある。
そこで,この代替方法として,被加工物の切削溝に形成されたチッピング状態を,切削データに基づいて間接的に把握して,プリカットが十分に行なわれたことを間接的に判断する方法を検討した。チッピング状態を間接的に把握する方法としては,特許文献2に記載されているように,切削ブレードに作用する切削抵抗負荷を回転モータの消費電力によってモニタリング方法がある。
しかし,被加工物を完全に切断する場合,切削溝を形成することによって発生するチッピングは,被加工物の表面側より裏面側の方が大きくなることが多い。このため,表面側のチッピング状態には問題がないものの,裏面側のチッピング状態が悪いため,更なるプリカットが必要な場合が多い。従って,これまでオペレータは,被加工物をチャックテーブルから取り外し,当該被加工物を裏返して裏面を観察する必要があり,特に非効率的であった。ところが,表面側のチッピング状態と切削ブレードの切削抵抗負荷との間には相関が存在するが,裏面側のチッピング状態と切削ブレードの切削抵抗負荷との間には相関を見出すことができない。従って,上記特許文献2のように切削ブレードの切削抵抗負荷に基づいてチッピング状態を推定する方法では,裏面側のチッピング状態を推定することが困難であるという問題があった。
そこで,本発明は上記のような問題に鑑みてなされたもので,その目的とするところは,オペレータが被加工物をチャックテーブルから取り外して,被加工物の裏面チッピング状態を観察するといった工程を省略して,自動的にプリカットを十分に行わせることが可能な,新規かつ改良された切削方法を提供することにある。
上記課題を解決するため,本願発明者らは,被加工物の裏面チッピング状態と,チャックテーブルが切削ブレードから受ける加工負荷との間に正の相関があること,つまり,当該加工負荷が大きいほど裏面チッピングが大きくなるという相関関係に着目した。
この相関関係については,特許文献3に,切削加工時に半導体ウェハが切削ブレードから受ける加工負荷と,裏面チッピングとの間に相関があることが記載されている。しかし,この特許文献3に記載の発明は,実際に製品化される半導体ウェハを本切削する時に,半導体ウェハに加わる負荷に応じて切削手段の駆動を制御して,裏面チッピング状態を良好に保つためのものであり,これをプリカット時に適用することについては何らの記載も示唆もされていない。
本願発明者らは,上述したようにプリカット時において新しい切削ブレードの目出しが十分に行われたことを的確に判断できる方法を鋭意研究したところ,チャックテーブルが切削ブレードから受ける加工負荷と裏面チッピングとの相関を,プリカット時に適用することに想到した。
つまり,プリカット初期において,切削ブレードに含まれている砥粒が未だ結合材の表面に十分に突出していないとき(目出しが十分でないとき)には,チャックテーブルに作用する加工負荷が大きく,したがって裏面チッピングも大きい。その後,プリカットを継続すると,次第に砥粒が結合材の表面に突出して切削ブレードの切削性能が向上するので,チャックテーブルに作用する加工負荷が徐々に低下し,裏面チッピングも小さくなる。
従って,プリカット中にチャックテーブルに作用する加工負荷を測定することによって,当該測定された加工負荷によってプリカット時の裏面チッピング状態を好適に把握することができ,上記加工負荷が所定の加工負荷を下回るまでプリカットを行うことで,裏面のチッピングが問題ないレベルまで小さくなる。そして,裏面チッピングが表面チッピングより大きいため,裏面チッピングが問題ないレベルまで小さくなれば,プリカットが十分に行われたと判定することができる。そこで,本願発明者らは,このようにプリカット時に,チャックテーブルに作用する加工負荷により裏面チッピング状態を間接的かつ的確に把握できる点を利用して,以下の発明を完成させた。
即ち,上記課題を解決するために,本発明のある観点によれば,被加工物を保持する保持部及び該保持部を支持する支持部を有するチャックテーブルと,前記チャックテーブルによって保持された前記被加工物を切削する切削ブレードと,前記保持部と前記支持部との間に,前記チャックテーブルの周方向に沿って等間隔に配設され,前記チャックテーブルの保持部に作用する加工負荷を検出する複数の加工負荷検出手段と,
前記加工負荷検出手段によってそれぞれ検出された加工負荷の平均値が所定の閾値以下であるか否かを判定する判定手段と,を備えたダイシング装置において,前記切削ブレードの切削能力を安定させるために,前記切削ブレードにより前記被加工物を準備的に切削加工する切削方法が提供される。この切削方法は,(1)前記切削ブレードによって前記被加工物の切削ラインを切断しながら,前記加工負荷検出手段によって,前記被加工物に対する前記切削ブレードの切り込みにより前記チャックテーブルの保持部が受ける加工負荷をそれぞれ検出する検出ステップ;(2)前記判定手段によって,前記検出された加工負荷の平均値が,前記所定の閾値以上に上昇した状態から前記所定の閾値以下に低下したか否かを判定する判定ステップと;(3)前記検出された加工負荷の平均値が前記所定の閾値以下に低下したと判定された場合に,前記切削装置による準備切削動作を終了させる終了ステップと;を含むことを特徴とする。
上記のような切削方法により,切削ブレードによって被加工物を準備的に切削(プリカット)しているときに,チャックテーブルに対する加工負荷を測定することによって,当該加工負荷に基づいて被加工物の裏面チッピング状態を好適に推定することができる。このため,プリカットが十分に行なわれたことを,切削装置により自動的かつ的確に判断することができる。従って,熟練度を有するオペレータが裏面チッピング状態を顕微鏡で観察しなくてもよく,また,裏面チッピング状態を確認するために,チャックテーブルから被加工物を取り外す必要もない。さらに,上記加工負荷値が所定の閾値以下となったときに,切削準備動作を自動的に終了させることもできる。従って,プリカット作業の作業効率を向上でき,オペレータの負担を低減できる。
また,上記被加工物は,テスト基板であってもよい。これにより,半導体回路等が形成されていないダミー基板であるテスト基板に対して準備切削加工(プリカット)を施すことができる。このため,半導体回路等が形成された本基板を無駄にすることがなく,プリカットに要するコストを低減できる。
以上説明したように本発明によれば,準備的切削加工時に,オペレータが被加工物をチャックテーブルから取り外して,被加工物の裏面チッピング状態を観察するといった工程を省略して,自動的にプリカットを十分に行わせることができる。
以下に添付図面を参照しながら,本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお,本明細書及び図面において,実質的に同一の機能構成を有する構成要素については,同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
(第1の実施形態)
以下に本発明の第1の実施形態にかかる切削方法,即ち,切削ブレードの切削能力を安定させるための準備的切削動作であるプリカット方法について説明する。
まず,図1に基づいて,当該切削方法を実行する切削装置,例えばダイシング装置の構成について説明する。なお,図1は,本実施形態にかかるダイシング装置10を示す全体斜視図である。
図1に示すように,ダイシング装置10は,例えば,半導体ウェハなどの被加工物12を切削加工する切削手段である切削ユニット20と,被加工物12を保持する保持手段であるチャックテーブル30と,切削ユニット移動機構(図示せず。)と,チャックテーブル移動機構(図示せず。)とを備える。
切削ユニット20は,スピンドルの先端に装着された切削ブレード22を備えている。切削ブレード22は,略リング形状を有する極薄の切削砥石であり,例えば,ダイヤモンド,CBN等砥粒を,結合材(例えばメタルボンド,レジンボンド,電鋳ボンド等)で固定して形成される。切削ユニット20は,かかる切削ブレード22を高速回転させながら被加工物12に切り込ませることにより,被加工物12を切削して極薄のカーフ(切溝)を形成することができる。
また,チャックテーブル30は,例えば,上面が略平坦な円盤状のテーブルであり,その上面に真空チャック(図示せず。)等を具備している。このチャックテーブル30は,例えば,ウェハテープ13を介してフレーム14に支持された状態の被加工物12が載置され,この被加工物12を真空吸着して安定的に保持することができる。
切削ユニット移動機構は,切削ユニット20を,Y軸に移動させる。このY軸方向は,切削方向(X軸方向)に対して直交する水平方向であり,例えば,切削ユニット20内に配設されたスピンドルの軸方向である。このようなY軸方向の移動により,切削ブレードの刃先を被加工物12の切削位置(切削ライン)に位置合わせすることができる。また,この切削ユニット移動機構は,切削ユニット20をZ軸方向(垂直方向)にも移動させる。これにより,被加工物12に対する切削ブレード22の切り込み深さを調整することができる。
チャックテーブル移動機構は,通常のダイシング加工時には,被加工物12を保持したチャックテーブル30を切削方向(X軸方向)に往復移動させて切削送りして,被加工物12に対し切削ブレード22の刃先を直線的な軌跡で作用させる。
かかる構成のダイシング装置10は,高速回転する切削ブレードを被加工物12に切り込ませながら,切削ユニット20とチャックテーブル30とをX軸方向に相対移動させることにより,被加工物12の切削ラインを切削することができる。かかるダイシング装置10によって,被加工物12を格子状にダイシング加工することによって,被加工物を複数のチップに分割することができる。
さらに,図1に示すように,ダイシング装置10には,モニタ等の表示装置16が設けられている。この表示装置16は,例えば,切削加工時の切削条件及び切削状態や,プリカット時におけるチャックテーブル30に対する加工負荷,プリカット終了通知などを表示する。
次に,図2に基づいて,本実施形態にかかるダイシング装置10におけるチャックテーブル30の周辺構成について説明する。なお,図2は,本実施形態にかかるダイシング装置10におけるチャックテーブル30の周辺構成を示す側面図である。
図2に示すように,チャックテーブル30は,被加工物12を吸着保持する保持部32と,保持部32を支持する支持部34と,保持部32を回転駆動させる回転駆動部36と,支持部34及び回転駆動部36を支持する移動基台部38とを備えている。
保持部32は,例えば,多孔質材料で形成された円盤状の真空チャック322と,この真空チャック322を下方から支持する例えば円盤状の支持テーブル324と,から構成されている。支持テーブル324内には,回転駆動部36内に配置された排気管(図示せず。)を介して外部の真空ポンプと連通する排気経路(図示せず。)が形成されている。この真空ポンプを動作させることによって,当該排気管及び排気経路を介して真空チャック322に吸引力が発生し,被加工物12を真空吸着して保持できる。
支持部34は,例えば,後述する応力検出計42A〜Cを介して上記保持部32を支持する環状支持部材342と,移動基台部38上に固定され環状支持部材342を支持する複数(例えば4本)の支柱344と,から構成されている。環状支持部材342の中央には,回転駆動部36を挿通させるための円形の貫通孔342aが形成されている。このため,環状支持部材342と回転駆動部36とは,接触しておらず,相互に干渉しない。
回転駆動部36は,例えば円柱形状を有し,移動基台部38上に固定されている。この回転駆動部36の内部には,上記真空引きのための排気管(図示せず。)と,上記保持部32を回転させるためのサーボモータ及びエンコーダ等の駆動機構(図示せず。)とが配設されている。この回転駆動部36の上端は上記保持部32と連結されているが,保持部32を実質的に支持している訳ではない。このため,保持部32の自重および保持部32にかかる加工負荷は,上記応力検出計42A〜Cを介して支持部34に作用する。
移動基台部38は,X軸方向に延びるガイドレール39上に摺動可能に配設されている。この移動基台部38は,例えばボールネジ機構及びモータ等で構成された駆動機構(図示せず。)によって,ガイドレール39上をX軸方向に移動可能に構成されている。この移動基台部38を移動させることによって,チャックテーブル30全体を切削方向であるX軸方向に往復動させて,被加工物12を切削ラインに沿って切削加工することができる。
さらに,図2に基づいて,本実施形態にかかる加工負荷検出手段の構成について説明する。本実施形態にかかるチャックテーブル30には,切削ブレード22による被加工物12の切削時に,被加工物12に対する切削ブレード22の切り込みによりチャックテーブル30が受ける加工負荷(以下,「チャックテーブル30に対する加工負荷」という。)を検出する加工負荷検出手段が設けられている。
この加工負荷検出手段は,例えば,チャックテーブル30の保持部32と支持部34との間に,周方向に沿って略等間隔に配設された複数(例えば3つ)の応力検出計42A,B,Cを備える。この応力検出計42A〜Cは,例えばキスラー動力計で構成されるが,かかる例に限定されるものではない。
この応力検出計42A〜Cは,チャックテーブル30が切削ブレード22から加工負荷を受けたときに,チャックテーブル30の保持部32に対して作用する垂直方向(Z軸方向)下向きの応力を検出する。上述したように,チャックテーブル30の保持部32は,応力検出計42A〜Cを介して支持部34により支持されており,支持部34は垂直方向には不動である。このため,切削加工時にチャックテーブル30の保持部32に対して加工負荷が作用すると,応力検出計42A〜Cには,保持部32が受けた垂直方向下方の応力が作用し,応力検出計42A〜Cは,この応力値を検出することができる。本実施形態では,かかる応力検出計42A〜Cが検出した応力値を,チャックテーブル30に対する加工負荷値と考える。
さらに,図3に基づいて,本実施形態にかかるダイシング装置10において,プリカットが十分に行われたことを判定するための回路構成について説明する。なお,図3は,本実施形態にかかるダイシング装置10の回路構成を示すブロック図である。
図3に示すように,本実施形態にかかるダイシング装置10は,上記チャックテーブル30に対する加工負荷を検出する加工負荷検出手段40と,当該検出された加工負荷に基づき,プリカットが十分に行われたかを否かを判定する判定手段50とを備える。
上記加工負荷検出手段40は,上述した3つの応力検出計42A〜Cに加えて,例えば,当該応力検出計42A〜Cによりそれぞれ検出された加工負荷値(応力値)の平均値を算出する平均値算出部44と,この平均値計算部44から入力された加工負荷値をアナログ/デジタル変換するA/D変換部46と,加工負荷値のデジタル信号を出力する間隔を調整するタイミング調整部48をさらに備える。かかる加工負荷検出手段40は,3つの応力検出計42A〜Cによってそれぞれ検出された加工負荷値の平均値を,判定手段50に出力する。
判定手段50は,上記加工負荷検出手段40によって検出された加工負荷値が,予め設定された所定の閾値以下であるか否かを判定する。この所定の閾値は,蓄積された過去の切削加工データとチッピング状態観察結果等に基づいて,好適な値に設定されるものであり,プリカット時に使用する切削ブレード22の種類および被加工物12の種類などに応じて選択的に定められる。
上記加工負荷検出手段40は,プリカット時において被加工物12の複数の切削ラインを何度も試し切りする間,チャックテーブル30に対する加工負荷値を継続的に検出している。この加工負荷値は,プリカットの進行状況に応じて増減する(後述する図6参照)。
つまり,プリカットにおいて,交換後の新しい切削ブレード22に含まれている砥粒が結合材の表面に十分に突出していない時には,切削ブレード22の切削能力が低いため,検出されるチャックテーブル30に対する加工負荷が大きい。これに対し,プリカットが進行すると,次第に砥粒が結合材の表面に突出し,切削ブレード22の切削性能が向上するので,当該加工負荷が徐々に低下する。さらに,当該加工負荷は,上述したように,被加工物12に発生する裏面チッピングの大きさと正の相関がある。
判定手段50は,このようなプリカット時におけるチャックテーブル30に対する加工負荷値の推移を解析しており,当該加工負荷値が上記所定の閾値以上に上昇した状態から当該閾値以下に低下したときには,既に裏面チッピングが問題のない大きさに収まっており,プリカットが十分に行われたと判定し,ダイシング装置10によるプリカット動作を自動的に終了させる。
なお,上述した加工負荷検出手段40の平均値算出部44,タイミング調整部46および判定手段50は,例えば,IC等からなる専用回路で構成されてもよいし,或いは,ダイシング装置10のCPUにインストールされたプログラムによって構成されてもよい。
次に,上記のような構成のダイシング装置10を用いたプリカット方法について説明する。なお,プリカットとは,切削ブレード22の切削能力を安定させるために,被加工物12を準備的に切削する切削加工である。以下の説明では,プリカットされる被加工物12として,テスト基板であるプリカット基板を使用する例について説明するが,本発明はかかる例に限定されるものではない。
本実施形態にかかるプリカットでは,プリカット基板を完全に切断(フルカット)する。これは,実際に製品となる基板と同一の状態でプリカットを行って,裏面チッピング状態を把握するためである。
プリカット方法の具体的手順としては,例えば,以下に説明するような第1のプリカット方法と第2のプリカット方法が考えられる。
まず,図4に基づき第1のプリカット方法について説明する。なお,図4は,本実施形態にかかる第1のプリカット方法を示すフローチャートである。
第1のプリカット方法は,上記加工負荷検出手段40によってチャックテーブル30に対して作用する加工負荷を検出しながら,切削ブレード22によってプリカット基板の切削ラインを順次切断し,上記判定手段50がプリカット終了と判定した時点で,プリカット動作を終了させる方法である(第1のプリカット方法)。
具体的には,図4に示すように,まず,ステップS10では,交換後の新しい切削ブレード22によってプリカット基板の切削ラインを切断しながら,加工負荷検出手段40によって,チャックテーブル30に対して作用する加工負荷が検出される(ステップS10;検出ステップ)。
次いで,ステップS12では,判定手段50によって,上記検出された加工負荷が,上記所定の閾値以上に上昇した状態から,当該所定の閾値以下に低下したか否かが判定される(ステップS12;判定ステップ)。この判定の結果,上記検出された加工負荷が所定の閾値以下に低下していないと判定された場合には,上記ステップS10に戻り,再び,プリカット基板の切削ラインを切断しながら加工負荷が検出される。これにより,検出された加工負荷が所定の閾値以下となるまで,プリカット基板の切削ラインが繰り返し切断されて,切削ブレード22の目出しが行われる。
この結果,本ステップS12で,上記検出された加工負荷が所定の閾値以下に低下したと判定された場合には,切削ブレード22の目出しが好適に行われたため,プリカット基板に生じる裏面チッピングが問題ない大きさまで低下し,プリカットが十分に行われたと判断できる。従って,ステップS14に進み,ダイシング装置10によるプリカット動作を終了する(ステップS14;終了ステップ)。この終了動作は,判定手段50からの指示に基づいて,ダイシング装置10の制御装置が自動的に行ってもよいし,或いは,表示装置16に表示されたプリカット終了通知を見たユーザが,終了ボタンを押すなどして手動で行ってもよい。
なお,上記ステップS12において判定基準を「加工負荷が,所定の閾値以上に上昇した状態から〜低下した」とした理由は,次の通りである。一般的に,プリカットの初期時は,チャックテーブル30の切削送り速度が低く設定されるので,切削ブレード22に作用する切削抵抗が小さく(例えば10mm/sec),このためチャックテーブル30に対する加工負荷も小さくなり上記所定の閾値未満である。その後,プリカットがある程度進行して,通常の切削加工で用いられる高い切削送り速度(例えば70mm/sec)が適用された状態となると,チャックテーブル30に対する加工負荷も必然的に所定の閾値以上に上昇する。従って,当該高い切削送り速度が適用された状態となった以後の加工負荷を,プリカット終了の判定基準の対象データとするために,「所定の閾値以上に上昇した状態」以後に検出される加工負荷が閾値以下に低下したか否かを判定することとした。
以上,第1のプリカット方法について説明した。この方法では,所定の切削ライン数(1本又は複数本)を切断する度ごとに,判定手段50がプリカット終了の判定処理を行い,プリカット動作継続の是非を判定することになる。従って,加工負荷が上記所定の閾値以下に低下した直後に,早期にプリカット動作を終了でき,プリカット作業の効率化を図ることができる。
次に,図5に基づき第2のプリカット方法について説明する。なお,図5は,本実施形態にかかる第2のプリカット方法を示すフローチャートである。
第2のプリカット手法は,上記加工負荷検出手段40によってチャックテーブル30に対して作用する加工負荷を検出しながら,切削ブレード22によってプリカット基板の複数の切削ラインを,予め設定された所定のプリカット手順(準備切削手順)に従って全て切断した後に,上記判定手段50による判定を実行し,プリカット終了と判定された場合には,プリカット動作を終了させ,プリカット終了と判定されない場合には,判定手段50がプリカット終了と判定するまで,繰り返して上記と同一若しくは異なるプリカット手順に従って複数の切削ラインを切断する方法である。
具体的には,図5に示すように,まず,ステップS20及びS22において,切削ブレード22によってプリカット基板の複数の切削ラインを,予め設定された所定のプリカット手順に従って切断しながら,上記加工負荷検出手段40によって,チャックテーブル30に対して作用する加工負荷が継続的に検出される(ステップS20及びS22;検出ステップ)。
ここで,「予め設定された所定のプリカット手順」とは,例えば,切削条件(切削送り速度,切り込み深さ等)と,各切削条件で切断される切削ライン数とを適宜変更しながら,切削ブレード22の目出しが十分にできる程度の本数の切削ラインを切断する定型の切削手順である。このプリカット手順は,過去の経験に基づいて予め決定されている(図6参照)。
より具体的に説明すると,まず,ステップS20で,交換後の新しい切削ブレード22によって,上記所定のプリカット手順に従いプリカット基板の切削ラインを切断しながら,加工負荷検出手段40によって,チャックテーブル30に対して作用する加工負荷が検出される(ステップS20)。
次いで,ステップS22で,上記判定手段50によって,上記所定のプリカット手順が全て終了したか否かを判定し(ステップS22),終了していないと判定された場合には,ステップS20に戻り,当該プリカット手順に従い次の切削ラインを切削する。このような動作を繰り返して,最終的に所定のプリカット手順が全て終了したと判定された場合には,次のステップS24に進む。
次いで,ステップS24では,上記準備切削ステップS20の終了時に検出された加工負荷が,所定の閾値以下に低下しているか否かが判定される(ステップS24)。ここで「準備切削ステップS22の終了時」とは,上記所定のプリカット手順の終了直前で切断される1又は2本以上の切削ラインを切断する時を意味し,時間的に厳密な一時点を意味するものではない。
上記のようなプリカット手順が進行するにつれ,切削ブレード22が目出しされて切削能力が高まるため,プリカット手順の後半では,チャックテーブル30に対する加工負荷が徐々に低下する。判定ステップS24では,このように低下した加工負荷が,所定の閾値以下まで低下しているか否かが判定される。
この判定の結果,上記プリカット手順の終了時に検出された加工負荷が,所定の閾値以下に低下していないと判定された場合には,上記ステップS20に戻り,再度,プリカット基板の複数の切削ラインを,所定のプリカット手順で切断しながら加工負荷が検出される。これにより,検出された加工負荷が所定の閾値以下となるまで,プリカット手順が複数回繰り返されて,切削ブレード22の目出しが行われる。なお,この2度目以降のプリカット手順は,最初に実行されるプリカット手順と同一でもよいし,或いは,当該最初に実行されるプリカット手順とは異なるプリカット手順(例えば,当該最初に実行されるプリカット手順よりも,切削ライン数が減少されたプリカット手順など)であってもよい。
この結果,上記検出された加工負荷が所定の閾値以下に低下したと判定された場合には,切削ブレード22の目出しが好適に行われたため,プリカット基板に生じる裏面チッピングが問題ない大きさまで低下し,プリカットが十分行われたと判断できる。従って,ステップS26に進み,ダイシング装置10によるプリカット動作を終了する(ステップS26;終了ステップ)。この終了動作は,上記のように自動的に行ってもよいし,手動で行ってもよい。
以上,第2のプリカット方法について説明した。この方法では,所定のプリカット手順の終了時点で,判定手段50がプリカット終了の判定処理を行い,プリカット動作継続の是非を判定する。従って,上記プリカット手順を実行したにもかかわらず,切削ブレード22の目出しが十分でなく,比較的大きな裏面チッピングが発生していることを自動的に判定できる。このため,更なるプリカット手順の実行を指示して,切削ブレード22が好適に目出しされるまでプリカット手順を遂行できるとともに,オペレータの負担を軽減できる。
さらに,上記構成に加えて,例えば,特許文献2のように,ダイシング装置10に対して切削ブレード22にかかる切削抵抗負荷を,スピンドルモータの消費電力によって検出する構成を追加してもよい。この場合,切削ブレード22の切削抵抗負荷に基づいて,プリカット基板の表面チッピングの状態を推定し,当該切削抵抗がある閾値以下に低下した場合に,プリカット動作を終了させるようにしてもよい。このように,切削ブレード22の切削抵抗と,チャックテーブル30に対する加工負荷の双方に基づいて,表面チッピングの状態と裏面チッピングの状態の双方を把握して,プリカットが十分に行なわれたことを判定することもできる。ただし,プリカットでは,裏面側のチッピング状態が問題なければ,表面側のチッピング状態は問題がないことが多いため,この構成は必須ではないが,判定精度を更に向上できるという効果がある。
次に,チャックテーブル30に対する加工負荷と裏面チッピングとの間に正の相関があることを検証するとともに,上記所定の閾値を求めるために,プリカット基板をプリカットする実験を行った結果について説明する。
まず,実験条件について説明する。プリカット時には,ダイヤモンド砥粒を電鋳ボンドで固定した粒度#2000の切削ブレード22を使用して,スピンドル回転数を30000RPMとして,厚さ400μmのプリカット基板を切断した。
また,本実験にかかるプリカットでは,切削ブレード22の送り速度を10mm/secから徐々に上昇させて,70mm/secまで上昇させた後には,送り速度を70mm/secで一定に保ったまま,切削ライン数を増加させるというプリカット手順を採用した。
このような手順でプリカットしたときの,チャックテーブル30に対する加工負荷と,裏面チッピングサイズを,プリカット途中の各段階でそれぞれ測定した。かかる実験結果を図6に示す。
図6は,上記プリカット実験において測定された裏面チッピングのサイズ[μm]と,チャックテーブル30に対する加工負荷[gF(重量g)]との関係を表すグラフである。なお,図6のグラフの横軸において,例えば「10−10」は,送り速度10mm/secで10ラインをプリカットした後の段階を表し,「20−10」は,送り速度20mm/secで10ラインをプリカットした後の段階を表し,「70−20」は,送り速度70mm/secで20ラインをプリカットした後の段階を表し,他の段階も同様である。
図6に示す実験結果によれば,裏面チッピングサイズと,チャックテーブル30に対する加工負荷とは,プリカットが進行するにつれ,同様な傾向で増減しており,両者の間には正の相関があるいえる。
また,当該実験結果によれば,加工負荷が13gFとなる「70−120」段階以降であると,加工負荷及び裏面チッピングサイズが共に安定していることがわかり,裏面チッピングサイズは,ほぼ100μm以下となっている。裏面チッピングサイズが100μm以下であれば,プリカットを終了してもよいと判断できるので,上記チャックテーブル30に対する加工負荷の閾値を,例えば13gFに設定することができる。かかる設定により,検出された加工負荷が13gF以下に低下した場合に,プリカットを終了させると判定されるようになる。
ただし,プリカット時においては,徐々に送り速度を上昇させるため,プリカット開始初期の段階では,検出される加工負荷が13gF以下となっている。このため,検出される加工負荷が,一度,閾値である13gF超えるまで上昇した状態となってから,その後に13gF以下に低下するか否かを判定する必要がある。
以上,本実施形態にかかるプリカット方法について詳細に説明した。本実施形態にかかるプリカット方法によれば,切削ブレード22によってプリカット基板を準備的に切削(プリカット)しながら,チャックテーブル30に対する加工負荷を検出することによって,当該加工負荷に基づいてプリカット基板の裏面チッピング状態を好適に推定することができる。このため,プリカットが十分に行なわれたことを,ダイシング装置10により自動的かつ的確に判断することができる。従って,熟練度を有するオペレータが裏面チッピング状態を顕微鏡で観察しなくてもよく,また,裏面チッピング状態を確認するために,チャックテーブル30から被加工物12を取り外す必要もない。さらに,上記加工負荷値が所定の閾値以下となったときに,切削準備動作を自動的に終了させることもできる。従って,プリカット作業の作業効率を向上でき,オペレータの負担を低減できる。
以上,添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが,本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば,特許請求の範囲に記載された範疇内において,各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり,それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
例えば,上記実施形態では,切削装置としてダイシング装置10の例を挙げて説明したが,本発明は,かかる例に限定されない。例えば,高速回転する切削ブレード22を用いて被加工物12を切削加工する装置であれば,例えば,ダイシング加工以外の切削加工を行う各種の切削装置であってもよい。
また,上記実施形態では,プリカットされる被加工物12として,テスト基板であるプリカット基板を使用する例について説明したが,本発明はかかる例に限定されず,回路等が形成された実際に製品化される被加工物(半導体ウェハ等)を用いてプリカットを行ってもよい。
また,上記実施形態では,加工負荷検出手段として応力検出計42である例えば3つのキスラー動力計を用いたが,本発明はかかる例に限定されない。例えば,上記キスラー動力計以外の応力検出計を用いてもよく,その設置箇所,設置数は適宜設計変更可能である。また,チャックテーブル30に対する加工負荷に対応する物性値を検出可能な装置あれば,例えば,チャックテーブル30の任意の箇所に歪ゲージまたは変位検出計などを設置する,或いは,被加工物12とチャックテーブル30との間に圧電素子などを配置するなどして,チャックテーブル30に対する加工負荷に相当する物性値を検出してもよい。
また,上記実施形態では,被加工物12を切削送りするときに,切削ブレード22を備えた切削ユニット20を固定し,被加工物12を保持したチャックテーブル30をX軸方向に移動させたが,本発明はかかる例に限定されない。例えば,切削ユニット20のみをX軸方向に移動させてもよいし,或いは,切削ユニット20及びチャックテーブル30の双方を同時に移動させてもよい。
本発明は,切削ブレードの切削能力を安定させるために,切削ブレードにより被加工物を準備的に切削加工する切削方法に適用可能である。
本発明の第1の実施形態にかかるダイシング装置を示す全体斜視図である。 同実施形態にかかるダイシング装置におけるチャックテーブルの周辺構成を示す側面図である。 同実施形態にかかるダイシング装置の回路構成を示すブロック図である。 同実施形態にかかる第1のプリカット方法を示すフローチャートである。 同実施形態にかかる第2のプリカット方法を示すフローチャートである。 同実施形態にかかるプリカット実験において測定された裏面チッピングのサイズと,チャックテーブルに対する加工負荷との関係を表すグラフである。
符号の説明
10 : ダイシング装置
12 : 被加工物
16 : 表示装置
20 : 切削ユニット
22 : 切削ブレード
30 : チャックテーブル
32 : 保持部
34 : 支持部
36 : 移動基台部
40 : 加工負荷検出手段
42A〜C : 応力検出計
44 : 平均値算出部
46 : A/D変換部
48 : タイミング調整部
50 : 判定手段

Claims (2)

  1. 被加工物を保持する保持部及び該保持部を支持する支持部を有するチャックテーブルと,前記チャックテーブルによって保持された前記被加工物を切削する切削ブレードと,前記保持部と前記支持部との間に,前記チャックテーブルの周方向に沿って等間隔に配設され,前記チャックテーブルの保持部に作用する加工負荷を検出する複数の加工負荷検出手段と,
    前記加工負荷検出手段によってそれぞれ検出された加工負荷の平均値が所定の閾値以下であるか否かを判定する判定手段と,を備えたダイシング装置において,前記切削ブレードの切削能力を安定させるために,前記切削ブレードにより前記被加工物を準備的に切削加工する切削方法であって:
    前記切削ブレードによって前記被加工物の切削ラインを切断しながら,前記加工負荷検出手段によって,前記被加工物に対する前記切削ブレードの切り込みにより前記チャックテーブルの保持部が受ける加工負荷をそれぞれ検出する検出ステップと;
    前記判定手段によって,前記検出された加工負荷の平均値が,前記所定の閾値以上に上昇した状態から前記所定の閾値以下に低下したか否かを判定する判定ステップと;
    前記検出された加工負荷の平均値が前記所定の閾値以下に低下したと判定された場合に,前記切削装置による準備切削動作を終了させる終了ステップと;
    を含むことを特徴とする,切削方法。
  2. 前記被加工物は,テスト基板であることを特徴とする,請求項1に記載の切削方法。
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