JP4753455B2 - 炭素系摺動材料とその製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、炭素系摺動材料及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
炭素からなる摺動材料は、耐熱性、耐薬品性に優れ、しかも軽量であるという優れた利点を持っており、従来の金属系、および高分子系の摺動材料が使用できない高温や腐食性などの雰囲気下で使用されている。従来の炭素からなる摺動材料は主にガラス状炭素からなる材料と黒鉛質の等方性炭素からなる材料とに分類される。ガラス状炭素からなる摺動材は摩擦係数が低く、比摩耗量が小さいといった優れた摺動特性を示すが、高硬度で耐機械衝撃性が弱いために、加工性が劣る。一方、黒鉛質の等方性炭素からなる摺動材は自己潤滑性を有するが、機械的強度が劣る。
【0003】
さらに、ガラス状炭素や等方性炭素材などの従来の炭素からなる摺動材料では、特に、機械的強度や剛性の劣る炭素材の欠点を緩和するために設定されている低速度低荷重条件下において十分な摺動特性を得ることができていない。
またこれら従来の炭素からなる摺動材は板形状体やブロック形状体から切削加工により作成するために無駄になる材料の量が多く、煩雑な製造工程を経るため、コストが高くなる欠点を有している。その上任意且つ複雑な形状体を得ることが困難であった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その第1の目的は従来の炭素からなる材料よりも良好な自己潤滑性を有し、摩擦係数が低く比摩耗量が小さいといった摺動特性に優れ、耐機械衝撃性、機械的強度に優れ、任意且つ複雑な形状に成形が可能な炭素系摺動材料を簡便な工程で安価に提供することにある。
【0005】
本発明の第2の目的は、従来の炭素からなる材料よりも、特に低速度低荷重条件下における摩擦係数が低く比摩耗量が小さいといった摺動特性に優れた炭素系摺動材料を簡便な工程で安価に提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
発明者らは、このような実状に鑑み、鋭意研究の結果、アモルファス炭素の出発原料に、炭素粉末を混合し、必要とされる形状に賦形後、焼成することにより得られた炭素粉末とアモルファス炭素を含む炭素系摺動材料は、優れた摺動特性、耐機械衝撃性を有する上、より簡便な工程で製造しうることなど前記課題が効果的に解決しうる事実を確認した。
【0007】
またさらに、前記炭素粉末として、クラスターダイヤモンド含むものを使用すれば、特に低速度低荷重条件下で優れた摺動特性を有することが判明した。このクラスターダイヤモンドは、摺動材料中に5質量%以上含まれていることが好ましい。
アモルファス炭素の出発原料としては、好ましくは不活性ガス雰囲気中での焼成により5%以上の炭化収率を示す有機物質が使用される。具体的には、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル−ポリ酢酸ビニル共重合体、ポリアミド等の熱可塑性樹脂、フェノール樹脂、フラン樹脂、イミド樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂、リグニン、セルロース、トラカントガム、アラビアガム、糖類等の縮合多環芳香族を分子の基本構造内にもつ天然高分子物質、および前記には包含されない、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物、コプナ樹脂等の縮合多環芳香族を分子の基本構造内にもつ合成高分子物質が挙げられる。使用する組成物の種類と量は、目的とする摺動材料の特性、強度、形状により適宜選択され、単独でも2種以上の混合体でも使用することができるが、特にフラン樹脂、フェノール樹脂、イミド樹脂等の熱硬化性樹脂を使用することが好ましく、摺動材料としての必要な特性と形状を賦与するためにもその使用量は30重量部以上が好ましい。
【0008】
前述の炭素粉末としては、黒鉛、ダイヤモンド、グラファイトクラスターダイヤモンド、クラスターダイヤモンド、フラーレンおよびカーボンブラック等があり、使用する炭素粉末の種類と量も目的とする摺動材料の特性、強度、形状により適宜選択され、単独でも2種以上の混合体でも使用することができるが、前述したように特に低速度低荷重条件下での摺動特性を高める観点からクラスターダイヤモンドを含むものを使用することが好ましい。
【0009】
本発明において、さらに好ましくは、アモルファス炭素の出発原料として、不活性ガス雰囲気中での焼成により5%以上の炭化収率を示し機械的強度特性の優れる有機物質が使用される。具体的には、フェノール樹脂、フラン樹脂、イミド樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂やナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物、コプナ樹脂等の縮合多環芳香族を分子の基本構造内にもつ合成高分子物質が挙げられる。使用する組成物の種類と量は、目的とする摺動材料の特性、強度、形状により適宜選択され、単独でも2種以上の混合体でも使用することができるが、製造の簡便さから常温で液状を示すフラン樹脂やフェノール樹脂を使用することが好ましい。
【0010】
前述の賦形方法には、圧縮成形、トランスファ成形、押し出し成形、射出成形、真空成形及び吹込成形等の、一般的に普及している成形方法が挙げられる。前述の樹脂と炭素粉末(特に、クラスターダイヤモンド粉末)の混合物の性状及び賦形形状により適宜選択使用することが好ましい。
以下に本発明による炭素系摺動材料の製造方法を説明する。まず、樹脂組成物と炭素粉末(クラスターダイヤモンド粉末)とを混合機を用いてよく混合させる。得られた混合物を、混合物の性状、賦形形状により選択した成型方法を用いて賦形する。次に賦形体を炭素前駆体化処理し、得られた炭素前駆体を窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気中または真空雰囲気下にて1000℃以上、好ましく2000℃程度まで加熱昇温し、炭素(クラスターダイヤモンド)とアモルファス炭素とからなる炭素系摺動材料を得る。昇温速度が大きいと賦形体の形状が変形したり微細なクラックが発生する等の欠陥が生じるため昇温速度は500℃までは毎時100℃以下好ましくは毎時50℃以下が適切である。
【0011】
【実施例】
以下に、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこの実施例によって何等限定されるものではない。
(実施例1)
フラン樹脂(日立化成社製 ヒタフランVF−303)90質量%にクラスターダイヤモンド(平均一次粒子径 50Å)10質量%とを混合してポニーミキサーにて攬拌した後アプリケーターを用いてフィルム状に成形した。該フィルムを円盤状に切断し、これを窒素雰囲気中の焼成炉で500℃までを25℃/時の昇温速度で昇温し、その後1400℃までを100℃/時で昇温し、1400℃で3時間保持した後自然冷却して焼成を完了し、厚さ1.0mmの摺動特性試験片を得た。得られた試験片を、ピン−円板型摩擦試験機を用いて、該試験片とR0.5mmのアルミナのピンを組み合わせ、すべり速度0.05〜1.5m/秒、荷重19.6N、摺動時間22時間の条件下で摺動試験を実施した。更に得られた試験片を長さ50mm、幅10mmの大きさに切断し、圧縮試験機を用いて曲げ強度測定および弾性率測定をするとともに40gの鉄球を落下させて試験片が破壊される高さを測定した。
【0012】
結果を表−1に示す。表−1によれば、特に摩擦特性の優れたものが得られた。
(比較例1)
フラン樹脂(日立化成社製 ヒタフランVF−303)80質量%に天然黒鉛微粉末(日本黒鉛社製 平均粒度5μm)20質量%を混合してポニーミキサーにて攬拌した後、押し出し成形機を用いてフィルム状に成形した。該フィルムを真空成形機にて円盤状に賦形した。これを耐熱セラミック板に挟み、真空焼成炉中で500℃までを毎時25℃の昇温速度で昇温し、その後1400℃までを毎時100℃で昇温し、1400℃で3時間保持した後自然冷却して焼成を完了し、厚さ1.0mmの摺動特性試験片を得た。得られた試験片について、実施例1と同様に摺動試験、耐衝撃性試験を実施し、表−1に示す結果が得られた。
(比較例2)
フラン樹脂(日立化成社製 ヒタフランVF−303)80質量%にカーボンブラック(三菱化成社製 一次粒子径5nm)20質量%を混合し、ヘンシェルミキサーにて混合し、次いで120℃に加熱したロールミキサーにて混練をおこなった。該混練物を圧縮成形機を使用して円盤状に賦形した。窒素雰囲気中の焼成炉で500℃までを毎時25℃の昇温速度で昇温し、その後1400℃までを毎時100℃で昇温し、1400℃で3時間保持した後自然冷却して焼成を完了し、厚さ1.0mmの摺動特性試験片を得た。実施例1と同様に摺動試験、曲げ強度試験、耐機械衝撃性試験を実施した。結果を表−1に示す。
(比較例3)
フラン樹脂(日立化成社製 ヒタフランVF−303)を製膜機を用いてフィルム状に成形した。該フィルムを円盤状に切断し、これを窒素雰囲気中の焼成炉で500℃までを毎時25℃の昇温速度で昇温し、その後1400℃までを毎時100℃で昇温し、1400℃で3時間保持した後自然冷却して焼成を完了し、厚さ1.0mmの摺動特性試験片を得た。実施例1と同様に摺動試験、曲げ強度試験、耐機械衝撃性試験を実施した。結果を表−1に示す。
(比較例4)
黒鉛質等方性炭素材料(東洋炭素社製)のブロックを円盤状に切削加工し、厚さ1.0mmの摺動特性試験片を得た。実施例1と同様に摺動試験、曲げ強度試験、耐機械衝撃性試験を実施した。結果を表−1に示す。
【0013】
【表1】
Figure 0004753455
【0014】
(実施例2)
硬質なアモルファス炭素源としてのフラン樹脂(日立化成社製 ヒタフランVF−303)92質量%にクラスターダイヤモンド(平均一次粒子径50Å)8質量%を混合してポニーミキサーにて攬拌した後塗工機を用いてフィルム状に成形した。該フィルムを円盤状に切断し、これを窒素雰囲気中の焼成炉で500℃までを25℃/時の昇温速度で昇温し、その後1400℃までを100℃/時で昇温し、1400℃で3時間保持した後自然冷却して焼成を完了し、厚さ1.0mmでクラスターダイヤモンド/アモルファス炭素≒20/80の摺動特性試験片を得た。
【0015】
得られた試験片は、バウデン・レーベル型ピン/ディスク摩擦試験機を用い、該試験片とR0.5mmのアルミナピンとの組み合わせにり、すべり速度1.7×10-3m/s、8.3×10-3m/s、荷重0.39N、1.5Nの低速度低荷重条件下での摩擦係数を測定した。次にすべり速度100×10-3m/s、荷重9.8Nで摩擦試験を行いディスク試料の比摩耗量を測定した。
【0016】
測定結果を表2に示す。本実施例によると、以下に述べる比較例5、6に比べ優れた摺動特性を有する摺動材を得られることがわかった。
(実施例3)
硬質なアモルファス炭素源としてのフラン樹脂(日立化成社製 ヒタフランVF−303)96質量%にクラスターダイヤモンド(平均一次粒子径50Å)4質量%を混合してポニーミキサーにて攬拌した後塗工機を用いてフィルム状に成形した。該フィルムを円盤状に切断し、これを窒素雰囲気中の焼成炉で500℃までを25℃/時の昇温速度で昇温し、その後1400℃までを100℃/時で昇温し、1400℃で3時間保持した後自然冷却して焼成を完了し、厚さ1.0mmでクラスターダイヤモンド/アモルファス炭素≒10/90の摺動特性試験片を得た。
【0017】
得られた試験片は実施例2と同様に摺動試験を実施した。その結果、表2に示すように本実施例によると、以下に述べる比較例5、6に比べ優れた摺動特性を有する摺動材を得られることがわかった。
(比較例5)
硬質なアモルファス炭素源としてのフラン樹脂(日立化成社製 ヒタフランVF−303)98質量%にクラスターダイヤモンド(平均一次粒子径50Å)2質量%を混合してポニーミキサーにて攬拌した後塗工機を用いてフィルム状に成形した。該フィルムを円盤状に切断し、これを窒素雰囲気中の焼成炉で500℃までを25℃/時の昇温速度で昇温し、その後1400℃までを100℃/時で昇温し、1400℃で3時間保持した後自然冷却して焼成を完了し、厚さ1.0mmでクラスターダイヤモンド/アモルファス炭素≒4/96の摺動特性試験片を得た。
【0018】
得られた試験片は実施例2と同様に摺動試験を実施したが、表2に示すように実施例2、3に比べて摺動特性が劣っていた。
(比較例6)
フラン樹脂(日立化成社製 ヒタフランVF−303)を後塗工機を用いてフィルム状に成形した。該フィルムを円盤状に切断し、これを窒素雰囲気中の焼成炉で500℃までを25℃/時の昇温速度で昇温し、その後1400℃までを100℃/時で昇温し、1400℃で3時間保持した後自然冷却して焼成を完了し、厚さ1.0mmのアモルファス炭素のみからなる摺動特性試験片を得た。
【0019】
得られた試験片は実施例2と同様に摺動試験を実施したが表2に示すように実施例2、3に比べて摺動特性が劣っていた。
【0020】
【表2】
Figure 0004753455
【0021】
【発明の効果】
本発明の炭素系摺動材料は、従来の炭素材料に比べ低速度低荷重条件における平均摩擦係数、比摩耗量が小さいなどの優れた摺動特性を有している。また既存のプラスチックの成形方法を用いた本願発明では焼成後に加工することなく任意の形状体を得ることが出来るようになったため、従来の炭素系摺動材料とは異なり、簡便な工程で、安価に製品を提供することが可能である。

Claims (4)

  1. クラスターダイヤモンドを含む炭素粉末と、高分子物質の焼成により得られるアモルファス炭素とから実質的に成り、
    前記クラスターダイヤモンドが5質量%以上含まれ、
    無潤滑剤下で滑り速度500×10-3m/s以下および荷重50N以下の低速度低荷重条件における平均摩擦係数が0.1以下である炭素系摺動材料。
  2. 前記アモルファス炭素は、焼成後実質的に零でない炭素残査収率を示す熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、天然高分子および合成高分子からなる群から選ばれた高分子物質の1種または2種以上の混合物を出発原料とする請求項1記載の炭素系摺動材料。
  3. 高分子物質からなるアモルファス炭素の出発原料にクラスターダイヤモンドを含む炭素粉末を混合し、任意の形状に賦形後、焼成して前記出発原料をアモルファス炭素とすることを含む炭素系摺動材料の製造方法であって、
    前記炭素系摺動材料は、前記クラスターダイヤモンドを5質量%以上含み、
    無潤滑剤下で滑り速度500×10-3m/s以下および荷重50N以下の低速度低荷重条件における平均摩擦係数が0.1以下である炭素系摺動材料の製造方法。
  4. 前記出発原料は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、天然高分子および合成高分子からなる群から選ばれた高分子物質の1種または2種以上の混合物である請求項3記載の炭素系摺動材料の製造方法。
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