以下、図面を参照しながら、本発明の諸実施形態について説明する。尚、以下に示す本発明の諸実施形態においては、結晶粒の解析対象である金属材料として、介在物であるインヒビターを用いて製造される電磁鋼板を適用した例で説明を行う。
(第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態について説明する。
図1は、第1の実施形態に係る結晶粒解析装置で行われる解析方法の一例を概念的に示す図である。尚、図1では、説明の都合上、電磁鋼板を構成する多数の結晶粒のうち、1つの結晶粒Aのみを示しているが、実際には、多数の結晶粒により電磁鋼板が形成されるということは言うまでもない。
第1の実施形態の結晶粒解析装置では、図1に示すようにして、結晶粒をモデル化するようにしている。
まず、図1(a)に示すように、結晶粒Aの3つの粒界ua〜ucの両端点に対応する位置に三重点ia、ie、ifを設定し、粒界ua〜ucの中間点に対応する位置に二重点ib〜id、ig〜iiの各粒界点を設定する。ここで、三重点ia、ie、ifとは、3つの直線が交わる点(すなわち、3つの結晶粒と接する点)をいい、二重点ib〜id、ig〜iiとは、2つの直線が交わる点(2つの結晶粒と接する点)をいう。そして、同一の粒界ua〜uc上で互いに隣接する点(粒界点)iを互いに結ぶ直線(ライン)を設定する。
以上のように、本実施形態では、粒界ua〜ucの両端の位置だけでなく、粒界ua〜ucの途中の形状も出来るだけ忠実に表すことができるように、二重点ib〜id、ig〜iiを設定するようにしている。
以上のようにしてモデル化された結晶の各点(二重点及び三重点)ia〜iiの夫々について、時間tで生じる駆動力Fi(t)[N]を算出する。そして、算出した駆動力Fi(t)に基づいて、Δt[sec]が経過した後(時間t+Δt)における各点(二重点及び三重点)ia〜iiの位置を算出する。そうすると、図1(a)に示す各点(二重点及び三重点)ia〜iiの位置は、例えば、図1(b)に示す位置に移動する。
本実施形態の結晶粒解析装置では、以上のように、結晶粒Aに含まれる粒界ua〜ucの両端点に対応する三重点ia、ie、ifと、粒界ua〜ucの中間点に対応する二重点ib〜id、ig〜iiとの夫々に生じる駆動力Fi(t)を算出して、三重点ia、ie、ifと、二重点ib〜id、ig〜iiとが移動する様子を解析する。これにより、例えば、図1(a)に示す結晶粒Aaが、図1(b)に示す結晶粒Abのように、時間の経過と共に変化する様子を、大きな計算負荷をかけることなく出来るだけ正確に解析することができる。尚、インヒビター(介在物)を介した結晶粒の挙動については、図8及び図9を用いた説明の際に詳述する。
以下に、結晶粒解析装置の構成について詳細に説明する。
図2は、第1の実施形態に係る結晶粒解析装置の機能構成の一例を示すブロック図である。尚、結晶粒解析装置100のハードウェアは、パーソナルコンピュータ等、CPU、ROM、RAM、ハードディスク、画像入出力ボード、各種インターフェース、及びインターフェースコントローラ等を備えた情報処理装置を用いて実現することができる。そして、特に断りのない限り、図2に示す各ブロックは、CPUが、ROMやハードディスクに記憶されている制御プログラムを、RAMを用いて実行することにより実現される。そして、図2に示す各ブロック間で、信号のやり取りを行うことにより、以下の処理が実現される。
図2において、結晶画像取得部101は、例えば、EBSP(Electron Back Scattering Pattern)法で得られた「電磁鋼板の結晶粒A及び電磁鋼板の結晶粒A間に存在するインヒビターの画像信号と、その画像信号に含まれる各結晶粒Aの方位ξを示す信号」等を取得して、ハードディスク等に記憶するためのものである。尚、以下の説明では、電磁鋼板の結晶粒A及び電磁鋼板の結晶粒A間に存在するインヒビターの画像を、必要に応じて、結晶粒画像と称する。尚、結晶画像取得部101は、EBSP法による結晶分析を行う分析装置から、前述した信号を直接取得するようにしてもよいし、DVDやCD−ROM等のリムーバル記憶媒体から、前述した信号を間接的に取得してもよい。
結晶画像表示部102は、例えば、ユーザによる操作装置300の操作に基づいて、結晶画像取得部101により取得された結晶粒画像信号に基づく結晶粒画像を、表示装置200に表示させる。尚、表示装置200は、LCD(Liquid Crystal Display)等のコンピュータディスプレイを備えている。また、操作装置300は、キーボードやマウス等のユーザインターフェースを備えている。
点設定部103は、結晶画像表示部102により表示された結晶粒Aの画像に対して、ユーザが操作装置300を用いて指定した点(二重点及び三重点)iを取得し、取得した点(二重点及び三重点)iの数と、その点iの初期位置ri(0)を示すベクトルとを、RAM又はハードディスクに設定(記憶)する。尚、本実施形態では、ユーザは、点(二重点及び三重点)iの数と初期位置を、任意に指定することができるものとする。
また、点設定部103は、計算対象の点(二重点又は三重点)iにおけるΔt[sec]後の位置ri(t+Δt)を示すベクトルが、後述するようにして位置計算部116により計算されると、その点iの位置ri(t+Δt)を示すベクトルを、RAM又はハードディスクに設定(記憶)する。また、点設定部103は、後述のライン変更処理部119及び固定点処理部120からの入力に基づいて、現在設定している点iの設定を変更し、これをRAM又はハードディスクに設定(記憶)する。
ライン設定部104は、点設定部103で設定された点(二重点及び三重点)iのうち、同一の粒界u上で互いに隣接する2つの点iにより特定されるラインpに関する情報を、RAM又はハードディスクに設定(記憶)する。このように、ラインpは、同一の粒界u上で互いに隣接する2つの点iを両端点とする直線である。また、ライン設定部104は、後述するライン変更処理部119での固定点の発生に伴って、ラインpの変更を行う処理も行う。
粒界設定部105は、ライン設定部104により設定されたラインpのうち、点設定部103により設定された三重点iを両端として互いに接続されたラインpにより特定される粒界uに関する情報を、RAM又はハードディスクに設定する。
図3は、第1の実施形態を示し、結晶画像表示部102により表示される結晶粒画像と(図3(a))、点設定部103により設定される点(二重点及び三重点)iと(図3(b))、ライン設定部104、粒界設定部105により設定されるラインp、粒界u(図3(c))の一例を示す図である。尚、説明の都合上、図3(b)、(c)では、図3(a)に示す結晶粒画像31に含まれる多数の結晶粒Aのうち、破線で囲まれた結晶粒A1に対して設定された点i、ラインp、粒界uのみを示している。また、図3(a)に示す結晶粒画像31には、一例として、結晶粒A1の周辺にのみ、介在物であるインヒビター(k1〜k4)を示しているが、当該インヒビターは、実際には結晶粒画像31に示された全体に存在しているものである。
図3(a)に示すようにして結晶粒画像31が表示されると、ユーザは、マウス等の操作装置300を用いて、粒界uの両端点に対応する位置を三重点iとして指定すると共に、粒界uの中間点の位置を二重点iとして指定する。そうすると、図3(b)に示すように、例えば、結晶粒A1に対して、二重点i2〜i4、i6〜i10、i12〜i15、i17、i18と、三重点i1、i5、i11、i16との各粒界点が設定される。
そして、これら二重点及び三重点i1〜i18に基づいて、図3(c)に示すように、ラインp1〜p18と、粒界u1〜u4とが設定される。ここで、例えば、ラインp1は、三重点i1と二重点i2とにより特定される。また、粒界u1は、三重点i1、i5を両端として相互に接続されるラインp1〜p4により特定される。尚、図3(c)に示すように、粒界u1は、結晶粒A1、A2の粒界であり、粒界u2は、結晶粒A1、A5の粒界であり、粒界u3は、結晶粒A1、A4の粒界であり、粒界u4は、結晶粒A1、A3の粒界である。
解析温度設定部106は、解析対象の電磁鋼板(結晶粒A)の解析温度θ(t)[℃]を、ユーザによる操作装置300の操作に基づいて取得して、RAM又はハードディスクに設定(記憶)する。尚、解析温度設定部106が取得する解析温度θ(t)は、時間に依らない一定値であっても、時間に依存する値であっても(解析温度θ(t)が時間の経過と共に変化するようにしても)よい。
方位設定部107は、結晶画像取得部101により取得された「結晶粒画像31に含まれる各結晶粒Aの方位ξを示す信号」に基づいて、結晶粒画像31に含まれる全ての結晶粒Aの方位ξを、RAM又はハードディスクに設定(記憶)する。
粒界エネルギー(γ)記憶部108は、例えば、単位長さ当たりの粒界エネルギーγ[J/m]と、粒界uを介して互いに隣接する2つの結晶粒Aの方位ξの差分Δξの絶対値と、解析温度θ(t)との関係を示すグラフ、数値列、式、又はそれらの組み合わせを記憶する。尚、以下の説明では、これらグラフ、数値列、式、又はそれらの組み合わせをグラフ等と称する。
例えば、図3(c)に示した粒界u1における「単位長さ当たりの粒界エネルギーγ」は、結晶粒A1の方位ξ1と結晶粒A2の方位ξ2との差分Δξの絶対値と、解析温度設定部106により設定された解析温度θ(t)とに対応した「単位長さ当たりの粒界エネルギーγ」を、粒界エネルギー(γ)記憶部108に記憶されたグラフ等から読み出すことにより得られる。また、粒界エネルギー(γ)記憶部108は、例えば、RAM又はハードディスクを用いて構成される。
粒界エネルギー(γ)設定部109は、方位設定部107により設定された結晶粒Aの方位ξと、解析温度設定部106により取得された解析温度θ(t)とに基づいて、粒界設定部105により設定された全ての粒界uの単位長さ当たりの粒界エネルギーγを、前述したようにして粒界エネルギー(γ)記憶部108に記憶されたグラフ等から読み出す。そして、粒界エネルギー(γ)設定部109は、読み出した単位長さ当たりの粒界エネルギーγを、RAM又はハードディスクに設定(記憶)する。
易動度記憶部110は、易動度Mi[cm2/(V・sec)]と、粒界uを介して互いに隣接する2つの結晶粒Aの方位ξの差分Δξの絶対値と、解析温度θ(t)との関係を示すグラフ、数値列、式、又はそれらの組み合わせを記憶する。尚、以下の説明では、これらグラフ、数値列、式、又はそれらの組み合わせをグラフ等と称する。
例えば、図3(c)に示した粒界u1における易動度Miは、結晶粒A1の方位ξ1と結晶粒A2の方位ξ2との差分Δξの絶対値と、解析温度設定部106により取得された解析温度θ(t)とに対応した易動度Miを、易動度記憶部110に記憶されたグラフ等から読み出すことにより得られる。尚、易動度記憶部110は、例えば、RAM又はハードディスクを用いて構成される。
易動度設定部111は、方位設定部107により設定された結晶粒Aの方位ξと、解析温度設定部106により取得された解析温度θ(t)とに基づいて、粒界設定部105により設定された全ての粒界uの易動度Miを、前述したようにして易動度記憶部110に記憶されたグラフ等から読み出す。そして、易動度設定部111は、読み出した易動度Miを、RAM又はハードディスクに設定(記憶)する。
解析時間設定部112は、例えば、ユーザによる操作装置300の操作に基づいて、解析完了時間T[sec]を取得して、RAM又はハードディスクに設定(記憶)する。そして、解析時間設定部112は、解析完了時間Tが経過するまで、時間tを監視する。
解析点判別部113は、点設定部103により設定された全ての点(二重点及び三重点、並びに固定点)iを、計算対象の点として、重複することなく順番に指定する。そして、解析点判別部113は、指定した点iが、固定点であるか否かを判別し、固定点でない場合には、更に、二重点であるのか、それとも三重点であるのかを判別する。
二重点用駆動力計算部114は、解析点判別部113により、計算対象の点iが二重点であると判別された場合に、その二重点に生じる駆動力Fi(t)を計算する。
図4は、二重点に生じる駆動力Fi(t)の計算方法の一例を説明する図である。図4では、二重点iに生じる駆動力Fi(t)を計算する場合を例に挙げて説明する。
図4において、二重点iと、その二重点に隣接する2つの点i−1、i+1とにより定まる円弧41の曲率半径をRi(t)[m]とする。また、二重点iが属する粒界uの単位長さ当たりの粒界エネルギーγの大きさ(絶対値)をγiとする。そうすると、二重点iに生じる駆動力Fi(t)の大きさは、以下の(1)式で表される。また、二重点iに生じる駆動力Fi(t)の方向は、二重点iから曲率中心Oに向かう方向である。
この(1)式は、以下のようにして導出される。
まず、二重点iが属する粒界uの粒界ベクトルγiの大きさ(絶対値)と同じ大きさを有し、且つ、二重点iから点i−1、i+1に向かう方向を有する2つのベクトルfi1、fi2のベクトル和が、二重点iに生じる駆動力Frであると仮定する(図4を参照)。そうすると、二重点iに生じる駆動力Frの大きさは、以下の(2)式で表される。
ここで、lは、二重点iから点i−1(又は点i+1)までの円弧41の長さ[m]である。また、αは、二重点i及び曲率中心Oを結ぶ直線と、点i−1(又は点i+1)及び曲率中心Oを結ぶ直線とのなす角度[°]である。
二重点iに生じる駆動力を(2)式のようにして定義してもよいが、このようにして定義してしまうと、二重点iに生じる駆動力が、二重点iから点i−1(又は点i+1)までの円弧41の長さlに依存してしまう。すなわち、二重点iに生じる駆動力が、1つの粒界uに対して設定された二重点iの数に依存してしまう。例えば、図3(c)に示すように、粒界u1に対して3つの二重点i2〜i4が設定された場合と、粒界u1に対して5つの二重点が設定された場合とで、二重点iに生じる駆動力が異なってしまう。
そこで、二重点iに生じる駆動力が、二重点iから点i−1(又は点i+1)までの円弧41の長さlに依存しないように、(2)式の右辺を、その長さlで割った値を、二重点iに生じる駆動力Fi(t)の大きさとして定義した((1)式を参照)。
以上のようにして(1)式を用いて、二重点iに生じる駆動力Fi(t)を求めるために、二重点用駆動力計算部114は、計算対象の二重点i、及びその二重点iに隣接する2つの点i−1、i+1の情報を、点設定部103から読み出す。次に、二重点用駆動力計算部114は、二重点iと、その二重点iに隣接する2つの点i−1、i+1とにより定まる円弧41の曲率中心O及び曲率半径Ri(t)を計算する。また、二重点用駆動力計算部114は、計算対象の二重点iが属する粒界uの単位長さ当たりの粒界エネルギーγiを、粒界エネルギー(γ)設定部109から取得する。
そして、二重点用駆動力計算部114は、曲率半径Ri(t)と、単位長さ当たりの粒界エネルギーγiとを(1)式に代入して、二重点iに生じる駆動力Fi(t)の大きさを計算する。また、二重点用駆動力計算部114は、計算対象の二重点iから曲率中心Oに向かう方向を計算し、二重点iに生じる駆動力Fi(t)の方向を決定する。
図2に説明を戻し、三重点用駆動力計算部115は、解析点判別部113により、計算対象の点iが三重点であると判別された場合に、その三重点に生じる駆動力Fi(t)を計算する。
図5は、三重点に生じる駆動力Fi(t)の計算方法の一例を説明する図である。尚、図5では、三重点iに生じる駆動力Fi(t)を計算する場合を例に挙げて説明する。また、図5では、三重点iに隣接する3つの点を夫々「1」、「2」、「3」で表記している。
まず、三重点用駆動力計算部115は、計算対象の三重点iと、その三重点iに隣接する3つの点1、2、3の情報を、点設定部103から読み出す。そして、三重点用駆動力計算部115は、計算対象の三重点iから、点1、2、3に向かう方向を有する単位ベクトルを計算する。また、三重点用駆動力計算部115は、点1、2、3が属する粒界uにおける単位長さ当たりの粒界エネルギーγi1、γi2、γi3の大きさ(絶対値)を、粒界エネルギー(γ)設定部109から取得する。
そして、三重点用駆動力計算部115は、単位長さ当たりの粒界エネルギーγi1、γi2、γi3の大きさ(絶対値)と、計算対象の三重点iから点1、2、3に向かう方向を有する単位ベクトル(dij(t)/|dij(t)|)とを、以下の(3)式に代入して、計算対象の三重点iに生じる駆動力Fi(t)を計算する。
尚、(3)式において、jは、計算対象の三重点iに隣接する3つの点を識別するための変数である。
このように、本実施形態では、点1、2、3が属する粒界uにおける単位長さ当たりの粒界エネルギーγi1、γi2、γi3の大きさ(絶対値)と同じ大きさを有し、且つ、計算対象の三重点iから、その三重点iに隣接する点に向かう方向を有する3つのベクトルDi1(t)、Di2(t)、Di3(t)のベクトル和が、三重点iに生じる駆動力Fi(t)として計算される。
図2に説明を戻し、位置計算部116は、二重点iと三重点iの時間の経過に伴う位置の変化を計算する。まず、二重点iの時間の経過に伴う位置の変化を計算する方法の一例を説明する。
位置計算部116は、二重点用駆動力計算部114により計算された駆動力Fi(t)を示すベクトル(計算対象の二重点iに生じる駆動力Fi(t)を示すベクトル)を取得する。また、位置計算部116は、計算対象の二重点iが属する粒界uの易動度Miを、易動度設定部111から取得する。そして、位置計算部116は、計算対象の二重点iが属する粒界uの易動度Miと、計算対象の二重点iの駆動力Fi(t)を示すベクトルとを、以下の(4)式に代入して、計算対象の二重点iの速度vi(t)を示すベクトルを計算する。
その後、位置計算部116は、点設定部103に設定されている「計算対象の二重点iの現在の位置ri(t)を示すベクトル」を取得する。そして、位置計算部116は、計算対象の二重点iの速度vi(t)を示すベクトルと、計算対象の二重点iの現在の位置ri(t)を示すベクトルと、時間Δtとを、以下の(5)式に代入して、現在の時間tからΔt[sec]が経過したときに、計算対象の二重点iが存在する位置ri(t+Δt)を示すベクトルを計算する。本実施形態では、このようにして、計算対象の二重点iの時間の経過に伴う位置の変化が計算される。尚、時間Δtは、点iの位置を計算するタイミング(間隔)を規定するものであり、解析対象となる電磁鋼板の種類や、解析条件、解析精度等に応じて予め定められている。
そして、位置計算部116は、計算対象の二重点iが存在する位置ri(t+Δt)を示すベクトルを、点設定部103に出力する。このようにすることによって、前述したように、計算対象の二重点iの現在の位置ri(t)を示すベクトルが、点設定部103で設定される。
次に、三重点iの時間の経過に伴う位置の変化を計算する方法の一例を説明する。
位置計算部116は、位置計算部116は、計算対象の三重点iが属する3つの粒界uの易動度Mi1〜Mi3を、易動度設定部111から取得する。
そして、位置計算部116は、計算対象の三重点iが属する3つの粒界uの易動度Mi1〜Mi3を用いて、計算対象の三重点iの易動度Miを計算する。具体的に、位置計算部116は、計算対象の三重点iから点1、2、3に向かう方向を有する単位ベクトル(dij(t)/|dij(t)|)と、計算対象の三重点iが属する3つの粒界uの易動度Mi1〜Mi3とを、以下の(6)式に代入して、計算対象の三重点iの易動度Miを計算する。
尚、(6)式において、jは、計算対象の三重点iに隣接する3つの点を識別するための変数である。
また、位置計算部116は、三重点用駆動力計算部115により計算された駆動力Fi(t)を示すベクトル(計算対象の三重点iに生じる駆動力Fi(t)を示すベクトル)を取得する。そして、位置計算部116は、計算対象の三重点iが属する粒界uの易動度Miと、計算対象の三重点iの駆動力Fi(t)を示すベクトルとを、前述した(4)式に代入して、計算対象の三重点iの速度vi(t)を示すベクトルを計算する。
その後、位置計算部116は、点設定部103に設定されている「計算対象の三重点iの現在の位置ri(t)を示すベクトル」を取得する。そして、位置計算部116は、計算対象の三重点iの速度vi(t)を示すベクトルと、計算対象の三重点iの現在の位置ri(t)を示すベクトルと、時間Δtとを、前述した(5)式に代入して、現在の時間tからΔt[sec]が経過したときに、計算対象の三重点iが存在する位置ri(t+Δt)を示すベクトルを計算する。本実施形態では、このようにして、計算対象の三重点iの時間の経過に伴う位置の変化が計算される。尚、前述したように、時間Δtは、点iの位置を計算するタイミング(間隔)を規定するものであり、解析対象となる電磁鋼板の種類や、解析条件、解析精度等に応じて予め定められている。
そして、位置計算部116は、計算対象の三重点iが存在する位置ri(t+Δt)を示すベクトルを、点設定部103に出力する。このようにすることによって、前述したように、計算対象の三重点iの現在の位置ri(t)を示すベクトルが、点設定部103で設定される。
解析時間設定部112は、位置計算部116において、解析完了時間Tが経過したとき、又は解析完了時間Tが経過した後の位置ri(t+Δt)が、位置計算部116に計算されたか否かを判定することによって、解析完了時間Tまで解析が終了したか否かを判定する。
解析画像表示部117は、解析時間設定部112により、解析完了時間Tまで解析が終了したと判定されると、位置計算部116により計算された「点iの位置ri(t+Δt)のベクトル」に基づいて、時間tが0(ゼロ)からT[sec]までの間に、結晶粒Aの状態がどのように推移するのかを示す画像を、表示装置200に表示させる。
インヒビター設定部118は、結晶画像表示部102により表示された結晶粒画像31に対して、ユーザが操作装置300を用いて介在物であるインヒビターk(k1〜k4)を指定すると、結晶画像取得部101で取得された結晶粒画像信号に基づいて、指定されたインヒビターkの領域を検出する。そして、インヒビター設定部118は、検出したインヒビターkの領域を円で近似して、インヒビターkの中心位置bkを示す座標情報と、その半径ckに係る情報を計算して、RAM又はハードディスクに設定する。
図6は、インヒビターの設定方法の一例を説明する図である。
図6において、破線部は、検出されたインヒビターkの領域を示している。この場合、インヒビター設定部118は、破線で示した検出領域を、図6に示すように円で近似して、インヒビターkの中心位置bkを示す座標情報と、その半径ckに係る情報を計算する。ここで、インヒビター設定部118により設定されるインヒビターkは、粒界点と異なり、時間の経過に伴う位置の変化をしないものである。
ライン変更処理部119は、ライン設定部104で設定されている各ラインpについて、インヒビター設定部118で設定されたインヒビターk内を通るか否かを判定し、ラインpがインヒビターk内を通る場合に、ラインpを変更する処理を行う。
図7は、ライン変更処理部119によるライン変更処理の一例を説明する図である。
図7(1a)〜(6a)は、ライン変更処理部119による処理前のラインpの一例が示されている。また、図7(1a)〜(6a)に示す各ラインpに対する第1の処理例を図7(1b)〜(6b)に示し、第2の処理例を図7(1c)〜(6c)に示している。
具体的に、ライン変更処理部119は、図7(1a)に示すように、ラインpがインヒビターk内を通る場合であって、ラインpの端点(粒界点)がインヒビターk内にない場合には、図7(1b)又は図7(1c)に示すように、ラインp上の任意の位置に二重点inを発生させ、ラインpを2つのラインに分割する。そして、ライン変更処理部119は、発生させた二重点inをインヒビターkの中心位置(bk)に移動させ、これを固定点ikとする処理を行う。この場合の固定点ikは、ラインpの端点とラインを構成する固定二重点となる。この場合、図7(1b)又は図7(1c)に示すように、固定点ikが新たに発生すると共に、ラインpが、固定点ikを端点とする2つのラインp'1及びp'2に分割される。
また、ライン変更処理部119は、ラインpがインヒビターk内を通る場合であって、ラインpの一方の端点(粒界点)がインヒビターk内にある場合(図7(2a)〜(4a)に示す場合)には、インヒビターk内にある端点をインヒビターkの中心位置(bk)に移動させ、これを固定点ik(図7(2b)〜(4b)又は図7(2c)〜(4c)に示す固定点ik)とする処理を行う。この場合、ラインpが固定点ikを一方の端点とするラインに変更される。
また、ライン変更処理部119は、ラインpがインヒビターk内を通る場合であって、ラインpの両方の端点(粒界点)がインヒビターk内にある場合(図7(5a)及び(6a)に示す場合)には、インヒビターk内にあるラインpを消滅させる処理を行う(図7(5b)及び(6b)、又は、図7(5c)及び(6c))。さらに、ライン変更処理部119は、インヒビターk内にある2つの点をインヒビターkの中心位置(bk)に位置する1つの固定点ik(図7(5b)及び図7(6b)、又は、図7(5c)及び(6c)に示す固定点ik)とし、ラインpの各端点とラインを構成していたそれぞれの端点と固定点ikとを端点とするラインを構築する処理を行う。
すなわち、ライン変更処理部119は、ライン設定部104により設定されたラインpがインヒビターk内を通る場合に、当該インヒビターk内に中心位置bkを固定位置とする固定点ikを発生させ、当該固定点ikを端点とするラインの変更処理を行う。
そして、ライン変更処理部119は、点設定部103及びライン設定部104に対して、点の変更(消滅、発生を含む)、ラインの変更(消滅、発生を含む)に伴う各種の再設定処理を行わせる。
粒界エネルギー(E)算出部121は、固定点ikの座標情報、及び、当該固定点ikとラインpを構成する他方の各点の位置を示す情報、並びに、処理対象の固定点ikを中心位置bkとするインヒビターkに関する情報を取得すると共に、粒界エネルギー(γ)設定部109から固定点ikが属する粒界uの単位長さ当たりの粒界エネルギーγを取得し、これらの取得した情報に基づいて、固定点ikが属する粒界uの粒界エネルギーEiを計算(算出)する。すなわち、粒界エネルギー(E)算出部121は、固定点ikが属する粒界uの単位長さ当たりの粒界エネルギーγと、固定点ikと当該固定点ikとラインを構成する他方の各点との長さ(各ラインの長さ)を用いて、固定点ikが属する粒界uの粒界エネルギー(第1の粒界エネルギー)Eiを計算(算出)する。
ここで、「固定点ikが属する粒界u」とは、固定点ikとラインを構成する点(粒界点)iとの間の粒界uと定義される。また、粒界エネルギー(E)算出部121による粒界エネルギーEiの算出処理では、固定点ikを中心位置bkとするインヒビターk内(インヒビターkの表面(境界)は含まない)には、粒界uは存在しないものとして計算(算出)を行う。
具体的に、図8及び図9を用いて、固定点ikが、二重点(固定二重点)である場合と三重点(固定三重点)である場合の粒界エネルギーEiの算出方法について、以下に説明する。
まず、図8に示すように、固定点ikが二重点である場合には、固定点ikと当該固定点ikに隣接する粒界点である点ix及びiyとの間に、ラインpx及びpyが形成される。ここで、インヒビターk内には、粒界uは存在しないため、粒界エネルギーEiの算出の際に用いられる有効長さとしては、各ラインpx及びpyの長さから、インヒビターkの半径ckの長さを差し引いたLx及びLyとなる。
また、固定点ikが二重点であるため、ラインpxにおける有効長さLxの部分と、ラインpyにおける有効長さLyの部分とは、同一の粒界uに属していることになる。よって、例えば、図8に示した、固定点ikが二重点である場合の粒界エネルギーEiは、以下の(7)式により算出される。
Ei=(Lx(Ly)部分の粒界uの単位長さ当たりの粒界エネルギーγ)
×(Lx+Ly) ・・・(7)
続いて、図9に示すように、固定点ikが三重点である場合には、固定点ikと当該固定点ikに隣接する粒界点である点ix、iy及びizとの間に、ラインpx、py及びpzが形成される。ここで、インヒビターk内には、粒界uは存在しないため、粒界エネルギーEiの算出の際に用いられる有効長さとしては、各ラインpx、py及びpzの長さから、インヒビターkの半径ckの長さを差し引いたLx、Ly及びLzとなる。
また、固定点ikが三重点であるため、ラインpxにおける有効長さLxの部分と、ラインpyにおける有効長さLyの部分と、ラインpzにおける有効長さLzの部分とは、それぞれ、異なる粒界uに属していることになる。よって、例えば、図9に示した固定点ikが三重点である場合の粒界エネルギーEiは、以下の(8)式により算出される。
Ei=(Lx部分の粒界uの単位長さ当たりの粒界エネルギーγ)×Lx
+(Ly部分の粒界uの単位長さ当たりの粒界エネルギーγ)×Ly
+(Lz部分の粒界uの単位長さ当たりの粒界エネルギーγ)×Lz
・・・(8)
さらに、粒界エネルギー(E)算出部121は、固定点iが固定位置(インヒビターkの中心位置bk)から開放されて、インヒビターk内を除く領域の位置であって、粒界エネルギーEが最小となる位置(平衡位置)にあるときの粒界エネルギー(第2の粒界エネルギー)Ei'を計算(算出)する。この際、粒界エネルギー(E)算出部121による粒界エネルギーEi'の算出処理では、固定点iを中心位置bkとするインヒビターk内(インヒビターkの表面(境界)は含まない)には、粒界uは存在しないものとし、また、その他のインヒビターkは存在しないものとして計算(算出)を行う。
具体的に、図8及び図9を用いて、固定点iが、二重点(固定二重点)である場合と三重点(固定三重点)である場合の粒界エネルギーEi'の算出方法について、以下に説明する。
まず、図8に示すように、固定点ikが二重点である場合には、上述したように、ラインpxにおける有効長さLxの部分とラインpyにおける有効長さLyの部分とは、同一の粒界uに属していることになるため、平衡位置は、点ixと点iyとを最短距離で結んだライン(仮想ライン)pxy上の任意の位置となる。ここでは、一例として、平衡位置を、ラインpxy上のwの位置として説明を行う。また、ラインpxyにおける粒界uの単位長さ当たりの粒界エネルギーγは、ラインpxにおける有効長さLx(ラインpyにおける有効長さLy)の部分の単位長さ当たりの粒界エネルギーγとなる。
よって、例えば、図8に示した平衡位置wにあるときの粒界エネルギーEi'は、以下の(9)式により算出される。
Ei'=(Lx(Ly)部分の粒界uの単位長さ当たりの粒界エネルギーγ)
×(Lwx+Lwy)
=(Lx(Ly)部分の粒界uの単位長さ当たりの粒界エネルギーγ)
×Lxy ・・・(9)
尚、図8に示す例では該当しないが、ラインpxyがインヒビターk内を通る場合には、ラインpxyの長さ(Lxy)から、ラインpxyのインヒビターk内を通る部分の長さを差し引いた長さに対して、単位長さ当たりの粒界エネルギーγを乗算することになる。
続いて、図9に示すように、固定点ikが三重点である場合には、ラインpxにおける有効長さLxの部分と、ラインpyにおける有効長さLyの部分と、ラインpzにおける有効長さLzの部分とは、それぞれ、異なる粒界uに属していることになる。ここでは、一例として、平衡位置が、図9に示すwの位置である場合について説明を行う。
この場合、点ixと平衡位置wとを結ぶライン(仮想ライン)pwxと、点iyと平衡位置wとを結ぶライン(仮想ライン)pwyと、点izと平衡位置wとを結ぶライン(仮想ライン)pwzを形成する。この際、粒界エネルギーEi'の算出に用いられる有効長さとしては、ラインpwxの長さLwx及びラインpwyの長さLwy、並びに、ラインpwzの長さLwzからインヒビターk内の長さLkを差し引いた長さ(Lwz−Lk)となる。
また、ラインpwxにおける粒界uの単位長さ当たりの粒界エネルギーγは、ラインpxにおける有効長さLxの部分の単位長さ当たりの粒界エネルギーγとなる。同様に、ラインpwyにおける粒界uの単位長さ当たりの粒界エネルギーγは、ラインpyにおける有効長さLyの部分の単位長さ当たりの粒界エネルギーγとなる。また、ラインpwzのインヒビターk内を除く部分における粒界uの単位長さ当たりの粒界エネルギーγは、ラインpzにおける有効長さLzの部分の単位長さ当たりの粒界エネルギーγとなる。
よって、例えば、図9に示した固定点ikが三重点である場合の粒界エネルギーEi'は、以下の(10)式により算出される。
Ei'=(Lx部分の粒界uの単位長さ当たりの粒界エネルギーγ)×Lwx
+(Ly部分の粒界uの単位長さ当たりの粒界エネルギーγ)×Lwy
+(Lz部分の粒界uの単位長さ当たりの粒界エネルギーγ)
×(Lwz−Lk) ・・・(10)
図2に説明を戻し、固定点処理部120は、粒界エネルギー(E)算出部121された粒界エネルギーEiと、粒界エネルギーEi'とを比較し、粒界エネルギーEi'が粒界エネルギーEi未満(Ei'<Ei)であった場合に、固定点ikを解除する処理を行う。
具体的に、固定点処理部120は、粒界エネルギーEi'が粒界エネルギーEi未満(Ei'<Ei)であった場合に、固定点iを、インヒビターkの表面(境界)に移動させ、固定を解除して、通常の点ikとする処理を行う。ここで、本実施形態では、固定点iが二重点である場合には図8、固定点iが三重点である場合には図9に示すように、固定点iを通常の点imの位置に移動させるものとする。
具体的に、本実施形態では、図8及び図9に示す各ラインで画定される領域のうち、平衡位置wが存在するラインpxとラインpyとの間の領域におけるインヒビターkの境界であって、ラインpxとラインpyとのなす角度(2β)を二等分する線分pmとの交点(点im)の位置に通常の点imを移動させる。
尚、固定点iの移動後の点は、この点imの位置に限定されるわけではなく、例えば、インヒビターkの境界上の点であって、粒界エネルギーEi'が最小となる点の位置に移動させる形態であっても適用できる。この場合の粒界エネルギーEi'の算出方法は、固定点iが二重点である場合には上述した(9)式により算出され、また、固定点iが三重点である場合には上述した(10)式により算出される。
そして、固定点処理部120は、点設定部103に対して、固定点iの変更に伴う再設定を行わせる。
次に、図10−1〜図10−4のフローチャートを参照しながら、結晶粒解析装置100が行う処理動作の一例を説明する。尚、ユーザによる操作装置300の操作に基づいて、CPUが、ROMやハードディスクから制御プログラムを読み出して実行を開始することにより、図10−1に示すフローチャートの処理が開始される。
まず、図10−1のステップS1において、結晶画像取得部101は、電磁鋼板の結晶粒A及び電磁鋼板の結晶粒A間に存在するインヒビターの画像信号(結晶粒画像信号)と、その画像信号に含まれる各結晶粒Aの方位ξを示す信号とが入力されるまで待機する。結晶粒画像信号と、その画像信号に含まれる各結晶粒Aの方位ξを示す信号とが入力されると、ステップS2に進む。
ステップS2に進むと、結晶画像表示部102は、ステップS1で取得された結晶粒画像信号に基づく結晶粒画像31を、表示装置200に表示させる。このとき、結晶画像表示部102は、解析対象の電磁鋼板(結晶粒A)の解析温度θ(t)と、解析完了時間Tとの入力をユーザに促すための画像も表示装置200に表示させる。そして、ここでは、解析温度θ(t)と、解析完了時間Tとが順次入力された後に、結晶粒画像31を参照しながらユーザが点(二重点又は三重点)iを指定できるようにする場合を例に挙げて説明する。
次に、ステップS3において、解析温度設定部106は、ユーザによる操作装置300の操作に基づいて、解析対象の電磁鋼板(結晶粒A)の解析温度θ(t)が入力されるまで待機する。そして、解析対象の電磁鋼板(結晶粒A)の解析温度θ(t)が入力されると、ステップS4に進む。
ステップS4に進むと、解析温度設定部106は、入力された解析対象の電磁鋼板(結晶粒A)の解析温度θ(t)を、RAM又はハードディスクに設定する。尚、図10−1〜図10−4のフローチャートでは、解析対象の電磁鋼板(結晶粒A)の解析温度θ(t)が、一定値である場合を例に挙げて説明する。
次に、ステップS5において、解析時間設定部112は、ユーザによる操作装置300の操作に基づいて、解析完了時間Tが入力されるまで待機する。そして、解析完了時間Tが入力されると、ステップS6に進む。
ステップS6に進むと、解析時間設定部112は、入力された解析完了時間Tを、RAM又はハードディスクに設定する。
次に、ステップS7において、点設定部103は、結晶画像表示部102により表示された結晶粒画像31に対して、点(二重点又は三重点)iが指定されるまで待機する。点(二重点又は三重点)iが指定されると、ステップS8に進む。
ステップS8に進むと、点設定部103は、ステップS7で指定されたと判定した点iの位置ri(t)を示すベクトルを計算して、RAM又はハードディスクに設定する。
次に、ステップS9において、点設定部103は、ユーザによる操作装置300の操作に基づいて、点(二重点又は三重点)iを指定する作業の終了指示がなされたか否かを判定する。この判定の結果、点iを指定する作業の終了指示がなされていない場合には、ステップS7に戻り、既に指定された点(二重点又は三重点)iと別の点(二重点又は三重点)iが指定されるまで待機する。
一方、ステップS9の判定の結果、点iを指定する作業の終了指示がなされた場合には、ステップS10に進む。ステップS10に進むと、点設定部103は、ステップS7で指定されたと判定した点(二重点又は三重点)iの数(すなわち、ステップS7の処理を行った回数)NIを計算して、RAM又はハードディスクに設定する。
次に、図10−2のステップS11において、インヒビター設定部118は、結晶画像表示部102により表示された結晶粒画像31に対して、インヒビターkが指定されるまで待機する。インヒビターkが指定されると、ステップS12に進む。
ステップS12に進むと、インヒビター設定部118は、ステップS1で取得された結晶粒画像信号に基づいて、ステップS11で指定されたと判定したインヒビターkの領域を検出し、この検出領域を円で近似して、インヒビターkの中心位置bkを示す座標情報と、その半径ckに係る情報を計算して、RAM又はハードディスクに設定する。
次に、ステップS13において、インヒビター設定部118は、ユーザによる操作装置300の操作に基づいて、インヒビターkを指定する作業の終了指示がなされたか否かを判定する。この判定の結果、インヒビターkを指定する作業の終了指示がなされていない場合には、ステップS11に戻り、既に指定されたインヒビターkと別のインヒビターkが指定されるまで待機する。
一方、ステップS13の判定の結果、インヒビターkを指定する作業の終了指示がなされた場合には、ステップS14に進む。ステップS14に進むと、インヒビター設定部118は、ステップS11で指定されたと判定したインヒビター設定部118の数(すなわち、ステップS11の処理を行った回数)NKを計算して、RAM又はハードディスクに設定する。
次に、ステップS15において、ライン設定部104は、ステップS8で設定された点(二重点又は三重点)iのうち、同一の粒界u上で互いに隣接する2つの点iにより特定されるラインp及びその数NPを、RAM又はハードディスクに設定する。尚、このステップS15におけるラインpの設定に際しては、インヒビターkの存在を考慮せずに行われる。具体的に、ライン設定部104は、ラインpを、そのラインpを特定する2つの点iにより定義する。例えば、図3(c)に示したラインp1は、以下の(11)式のように定義される。
p1={i1,i2} ・・・(11)
次に、ステップS16において、粒界設定部105は、ステップS15で設定されたラインpのうち、ステップS8により設定された三重点iを両端として互いに接続されたラインpにより特定される粒界uを、RAM又はハードディスクに設定する。具体的に、粒界設定部105は、粒界uを、その粒界uを特定する複数のラインpにより定義する。例えば、図3(c)に示した粒界u1は、以下の(12)式のように定義される。
u1={p1,p2,p3,p4} ・・・(12)
次に、ステップS17において、方位設定部107は、ステップS1で入力されたと判定された「結晶粒画像31に含まれる各結晶粒Aの方位ξを示す信号」に基づいて、結晶粒画像31に含まれる全ての結晶粒Aの方位ξを、RAM又はハードディスクに設定する。
次に、ステップS18において、粒界エネルギー(γ)設定部109は、ステップS17で設定された結晶粒Aの方位ξと、ステップS4で設定された解析温度θ(t)とに基づいて、粒界エネルギー(γ)記憶部108に記憶されたグラフ等から、ステップS16で設定された全ての粒界uの単位長さ当たりの粒界エネルギーγを読み出す。そして、粒界エネルギー(γ)設定部109は、読み出した単位長さ当たりの粒界エネルギーγを、RAM又はハードディスクに設定する。
次に、ステップS19において、易動度設定部111は、ステップS17で設定された結晶粒Aの方位ξと、ステップS4で設定された解析温度θ(t)とに基づいて、易動度記憶部110に記憶されたグラフ等から、ステップS16で設定された全ての粒界uの易動度Miを読み出す。そして、易動度設定部111は、読み出した易動度Miを、RAM又はハードディスクに設定する。
次に、図10−3のステップS20において、解析時間設定部112は、時間tを0(ゼロ)に設定する。
解析時間設定部112で解析時間tが0に設定されると、次に、ステップS21において、ライン変更処理部119は、処理対象のラインを示す変数pを1に設定する。この際、ライン変更処理部119は、当該ステップS21で設定したラインpに関する情報を、ライン設定部104から取得する。
次に、ステップS22において、ライン変更処理部119は、増減する点の数を示すΔNIを0(ゼロ)に設定すると共に、増減するラインの数を示すΔNPを0(ゼロ)に設定する。
次に、ステップS23において、ライン変更処理部119は、処理対象のインヒビターを示す変数kを1に設定する。この際、ライン変更処理部119は、当該ステップS23で設定したインヒビターkに関する情報(インヒビターkの中心位置bkを示す座標情報及びその半径ckに係る情報)を、インヒビター設定部118から取得する。
ここで、以下の説明においては、図7に示す模式図と共に説明を行う。
ステップS24において、ライン変更処理部119は、ステップS21で取得したラインpに関する情報及びステップS23で取得したインヒビターkに関する情報に基づいて、ラインpがインヒビターk内を通るか否かを判定する。この際、インヒビターkの表面(境界)は、インヒビターk内でないと判定される。この判定の結果、ラインpがインヒビターk内でない場合(図7(1a)〜(6a)に該当しない場合)には、ステップS34に進む。
一方、ステップS24の判定の結果、ラインpがインヒビターk内を通る場合には、ステップS25に進む。ステップS25に進むと、ライン変更処理部119は、ラインpの端点がインヒビターk内にあるか否かを判定する。
ステップS25の判定の結果、ラインpの端点がインヒビターk内にない場合(図7(1a)に示す場合)には、ステップS26に進む。ステップS26に進むと、ライン変更処理部119は、ラインp上の任意の位置に二重点(図7(1b)又は図7(1c)に示す二重点in)を発生させる。これにより、ラインpは、2つのラインに分割されることになる。
次に、ステップS27において、ライン変更処理部119は、ステップS26でラインp上に発生させた二重点(図7(1b)又は図7(1c)に示す二重点in)をインヒビターkの中心位置(bk)に移動させ、これを固定点ik(図7(1b)又は図7(1c)に示す固定点ik)とする。この場合の固定点ikは、ラインpの端点とラインを構成する固定二重点となる。これにより、固定点ikが新たに発生し、点の数が1つ増えることになる。また、ラインpが2つのライン(図7(1b)又は図7(1c)にそれぞれ示すラインp'1、p'2)に分割されるため、ラインの数も1つ増えることになる。また、この場合、ライン変更処理部119は、新たに発生させた固定点ikに関する情報(例えば、当該点が固定点であることを示す情報やその座標情報)、及び、新たに設定したラインに関する情報(例えば、ラインpの各端点と当該固定点ikとの間にラインが設定されたことを示す情報)を、RAM又はハードディスクに記憶する。
次に、ステップS28において、ライン変更処理部119は、ステップS26及びS27の処理で点の数及びラインの数がそれぞれ1つ増えたため、現在設定されている、増減する点の数を示すΔNIに1を加算して、当該ΔNIを変更すると共に、現在設定されている、増減するラインの数を示すΔNPに1を加算して、当該ΔNPを変更する。
一方、ステップS25の判定の結果、ラインpの端点がインヒビターk内にある場合(図7(2a)〜(6a)に示す場合)には、ステップS29に進む。ステップS29に進むと、ライン変更処理部119は、ラインpの両端点がインヒビターk内にあるか否かを判定する。
ステップS29の判定の結果、ラインpの両端点がインヒビターk内にない場合、すなわち、ラインpの端点の一方のみがインヒビターk内にある場合(図7(2a)〜(4a)に示す場合)には、ステップS30に進む。ステップS30に進むと、ライン変更処理部119は、インヒビターk内にある端点をインヒビターkの中心位置(bk)に移動させ、これを固定点ik(図7(2b)〜(4b)又は図7(2c)〜(4c)に示す固定点ik)とする。尚、図7(3a)に示す場合には、インヒビターk内にある端点がインヒビターkの中心位置(bk)にあるため、当該移動の処理は行われない。この場合には、点の数及びラインの数の増減が生じないため、増減する点の数を示すΔNI及び増減するラインの数を示すΔNPの変更は行われない。また、この場合、ライン変更処理部119は、インヒビターk内にある端点を固定点ikに変更したことを示す情報を、RAM又はハードディスクに記憶する。
一方、ステップS29の判定の結果、ラインpの両端点がインヒビターk内にある場合(図7(5a)及び(6a)に示す場合)には、ステップS31に進む。ステップS31に進むと、ライン変更処理部119は、インヒビターk内にあるラインpを消滅させる(図7(5b)及び(6b)、又は、図7(5c)及び(6c))。これにより、ラインの数は1つ減ることになる。
次に、ステップS32において、ライン変更処理部119は、インヒビターk内にある2つの点をインヒビターkの中心位置(bk)に移動させ(本例では、第1の処理例となる)、これを1つの固定点ik(図7(5b)及び図7(6b)に示す固定点ik)とする。尚、図7(6a)に示す場合には、インヒビターk内にある一方の端点がインヒビターkの中心位置(bk)にあるため、当該一方の端点については移動の処理は行われない。このステップS32の処理により、点の数は1つ減ることになる。また、この場合、ライン変更処理部119は、ラインpにおける2つの端点を1つの固定点ikに変更したことを示す情報、及び、当該ラインpを消滅させたことを示す情報を、RAM又はハードディスクに記憶する。
次に、ステップS33において、ライン変更処理部119は、ステップS31及びS32の処理で点の数及びラインの数がそれぞれ1つ減ったため、現在設定されている、増減する点の数を示すΔNIに1を減算して、当該ΔNIを変更すると共に、現在設定されている、増減するラインの数を示すΔNPに1を減算して、当該ΔNPを変更する。
ステップS28、ステップS30、或いはステップS33の処理が終了すると、ステップS34に進む。ステップS34に進むと、ライン変更処理部119は、処理対象のインヒビターを示す変数kがステップS14で設定された数NKより小さいか否かを判定する。この判定の結果、処理対象のインヒビターを示す変数kがステップS14で設定された数NKより小さい場合には、ステップS14で設定された全てのインヒビターkについて処理していないと判定し、ステップS35に進む。
ステップS35に進むと、ライン変更処理部119は、処理対象のインヒビターを示す変数kに1を加算して、処理対象のインヒビターkを変更する。この際、ライン変更処理部119は、当該ステップS35で設定したインヒビターkに関する情報(インヒビターkの中心位置bkを示す座標情報及びその半径ckに係る情報)を、インヒビター設定部118から取得する。そして、変更したインヒビターkに対して、ステップS24以降の処理を再度行う。
一方、ステップS34の判定の結果、処理対象のインヒビターを示す変数kがステップS14で設定された数NK以上である場合には、ステップS14で設定された全てのインヒビターkについて処理したと判定し、ステップS36に進む。
ステップS36に進むと、ライン変更処理部119は、処理対象のラインを示す変数pがステップS15で設定された数NPより小さいか否かを判定する。この判定の結果、処理対象のラインを示す変数pがステップS15で設定された数NPより小さい場合には、ステップS15で設定された全てのラインpについて処理していないと判定し、ステップS37に進む。
ステップS37に進むと、ライン変更処理部119は、処理対象のラインを示す変数pに1を加算して、処理対象のラインpを変更する。この際、ライン変更処理部119は、当該ステップS37で設定したラインpに関する情報を、ライン設定部104から取得する。そして、変更したラインpに対して、ステップS23以降の処理を再度行う。
一方、ステップS36の判定の結果、処理対象のラインを示す変数pがステップS15で設定された数NP以上である場合には、ステップS15で設定された全てのラインpについて処理したと判定し、ステップS38に進む。
ステップS38に進むと、ライン変更処理部119は、点設定部103に対して、現在設定している増減する点の数を示すΔNIの情報を出力し、現在設定されている点の数NIに、出力した増減する点の数を示すΔNIを加算させ、点の数NIの再設定を行わせる。また、ライン変更処理部119は、ライン設定部104に対して、現在設定している増減するラインを示すΔNPの情報を出力し、ステップS15で設定したラインの数NPに、出力した増減するラインを示すΔNPを加算させ、ラインの数NPの再設定を行わせる。
次に、ステップS39において、ライン変更処理部119は、点設定部103及びライン設定部104に対して、点の変更(消滅、発生を含む)、ラインの変更(消滅、発生を含む)に伴う各種の再設定処理を行わせる。
具体的に、ライン変更処理部119は、点設定部103に対して、ステップS21〜ステップS38の処理で生じた点の変更(消滅、発生を含む)に関する情報を出力し、ステップS8における点iの再設定を行わせる。この際、点設定部103は、発生した固定点ikに関しては、その点の位置を示す座標情報を当該点が固定点であることを示す情報と共に、RAM又はハードディスクに設定する。
また、ライン変更処理部119は、ライン設定部104に対して、ステップS21〜ステップS38の処理で生じたラインの変更(消滅、発生を含む)に関する情報を出力し、ステップS15におけるラインpの再設定を行わせる。この際、ライン変更処理部119は、ライン設定部104に対して、点設定部103で再設定した点iに基づいて、ラインの再設定を行わせるようにしてもよい。
さらに、粒界設定部105では、点設定部103における点iの再設定及びライン設定部104におけるラインpの再設定を契機として、ステップS16における粒界uの再設定が行われる。さらに、粒界エネルギー(γ)設定部109では、粒界設定部105における粒界uの再設定を契機として、ステップS18における単位長さ当たりの粒界エネルギーγの再設定が行われる。さらに、易動度設定部111では、粒界設定部105における粒界uの再設定を契機として、ステップS19における易動度Miの再設定が行われる。
次に、図10−4のステップS40において、解析点判別部113は、計算対象の点を示す変数iを1に設定する。これにより計算対象の点iが設定される。
次に、ステップS41において、解析点判別部113は、計算対象の点iが、固定点(ik)か否かを判定する。この判定の結果、計算対象の点iが、固定点(ik)でない場合には、ステップS42に進む。
次に、ステップS42において、解析点判別部113は、計算対象の点iが、二重点か否かを判定する。この判定の結果、計算対象の点iが、二重点である場合には、ステップS43に進む。
ステップS43に進むと、二重点用駆動力計算部114及び位置計算部116による二重点用駆動力・位置算出処理が行われる。ここで、このステップS43の詳細な処理動作について、図11を用いて説明する。
図10−4のステップS43では、まず、図11のステップS431において、二重点用駆動力計算部114は、計算対象の二重点i、及びその二重点に隣接する2つの点i−1、i+1の情報を、点設定部103から読み出す。そして、二重点用駆動力計算部114は、二重点iと、その二重点iに隣接する2つの点i−1、i+1とにより定まる円弧41の曲率中心O及び曲率半径Ri(t)を計算する。
次に、ステップS432において、二重点用駆動力計算部114は、計算対象の二重点iが属する粒界uの単位長さ当たりの粒界エネルギーγiを、粒界エネルギー(γ)設定部109から読み出す。
次に、ステップS433において、二重点用駆動力計算部114は、ステップS431で計算した曲率半径Ri(t)と、ステップS432で読み出した単位長さ当たりの粒界エネルギーγiとを(1)式に代入して、二重点iに生じる駆動力Fi(t)の大きさを計算する。
また、二重点用駆動力計算部114は、計算対象の二重点iの現在の位置ri(t)を示すベクトルを点設定部103から読み出す。そして、二重点用駆動力計算部114は、計算対象の二重点iの現在の位置ri(t)を示すベクトルと、ステップS431で計算した曲率中心Oとから、計算対象の二重点iから曲率中心Oに向かう方向を計算し、二重点iに生じる駆動力Fi(t)の方向を決定する。これにより、二重点iに生じる駆動力Fi(t)を示すベクトルが得られる。
次に、ステップS434において、位置計算部116は、計算対象の二重点iが属する粒界uに対応する易動度Miを、易動度設定部111から読み出す。
次に、ステップS435において、位置計算部116は、計算対象の二重点iの現在の位置ri(t)を示すベクトルを点設定部103から受け取る。
次に、ステップS436において、位置計算部116は、まず、ステップS433で得られた「計算対象の二重点iに生じる駆動力Fi(t)を示すベクトル」と、ステップS434で得られた「計算対象の二重点iが属する粒界uの易動度Mi」とを、(4)式に代入して、計算対象の二重点iの速度vi(t)を示すベクトルを計算する。
そして、位置計算部116は、計算対象の二重点iの速度vi(t)を示すベクトルと、計算対象の二重点iの現在の位置ri(t)を示すベクトルと、時間Δtとを、以下の(5)式に代入して、現在の時間tからΔt[sec]が経過したときに、計算対象の二重点iが存在する位置ri(t+Δt)を示すベクトルを計算する。
以上のステップS431〜ステップS436までの処理を経ることにより、図10−4のステップS43に示す二重点用駆動力・位置算出処理が行われる。
一方、ステップS42の判定の結果、計算対象の点iが、二重点でなく、三重点である場合には、ステップS44に進む。
ステップS44に進むと、三重点用駆動力計算部115及び位置計算部116による三重点用駆動力・位置算出処理が行われる。ここで、このステップS44の詳細な処理動作について、図12を用いて説明する。
図10−4のステップS44では、まず、図12のステップS441において、三重点用駆動力計算部115は、計算対象の三重点iが属する3つの粒界uにおける単位長さ当たりの粒界エネルギーγi1、γi2、γi3の大きさ(絶対値)を、粒界エネルギー(γ)設定部109から読み出す。さらに、三重点用駆動力計算部115は、計算対象の三重点iと、その三重点iに隣接する3つの点1、2、3の情報を、点設定部103から読み出す。そして、三重点用駆動力計算部115は、計算対象の三重点iから、点1、2、3に向かう方向を有する単位ベクトルを計算する。
次に、ステップS442において、三重点用駆動力計算部115は、ステップS441で読み出した「単位長さ当たりの粒界エネルギーγi1、γi2、γi3の大きさ」と、ステップS441で計算した「計算対象の三重点iから、点1、2、3に向かう方向を有する単位ベクトル」とを(3)式に代入して、計算対象の三重点iに生じる駆動力Fi(t)を示すベクトルを計算する。
次に、ステップS443において、位置計算部116は、計算対象の三重点iが属する3つの粒界uに対応する易動度Mi1〜Mi3を、易動度設定部111から読み出す。
次に、ステップS444において、位置計算部116は、計算対象の三重点iが属する3つの粒界uの易動度Mi1〜Mi3と、計算対象の三重点iから点1、2、3に向かう方向を有する単位ベクトル(dij(t)/|dij(t)|)とを、(6)式に代入して、計算対象の三重点iの易動度Miを計算する。尚、計算対象の三重点iから点1、2、3に向かう方向を有する単位ベクトルは、ステップS441で計算されたものを使用することができる。
次に、ステップS445において、位置計算部116は、計算対象の三重点iの現在の位置ri(t)を示すベクトルを点設定部103から受け取る。
次に、ステップS446において、位置計算部116は、まず、ステップS442で得られた「計算対象の三重点iに生じる駆動力Fi(t)を示すベクトル」と、ステップS444で得られた「計算対象の三重点iの易動度Mi」とを、(4)式に代入して、計算対象の三重点iの速度vi(t)を示すベクトルを計算する。
そして、位置計算部116は、計算対象の三重点iの速度vi(t)を示すベクトルと、計算対象の三重点iの現在の位置ri(t)を示すベクトルと、時間Δtとを、(5)式に代入して、現在の時間tからΔt[sec]が経過したときに、計算対象の三重点iが存在する位置ri(t+Δt)を示すベクトルを計算する。
以上のステップS441〜ステップS446までの処理を経ることにより、図10−4のステップS44に示す三重点用駆動力・位置算出処理が行われる。
一方、ステップS41の判定の結果、計算対象の点iが、固定点(ik)である場合には、ステップS45に進む。
ステップS45に進むと、固定点処理部120は、解析点判別部113で判定処理された固定点iの座標情報、及び、当該固定点iとラインpを構成する他方の各点の位置を示す情報を、点設定部103から読み出す。さらに、固定点処理部120は、処理対象の固定点iを中心位置bkとするインヒビターkに関する情報(中心位置bkを示す座標情報及びその半径ckに係る情報)を、インヒビター設定部118から読み出す。
次に、ステップS46において、粒界エネルギー(E)算出部121は、ステップS45で読み出された情報を取得すると共に、固定点iが属する粒界uの単位長さ当たりの粒界エネルギーγを粒界エネルギー(γ)設定部109から読み出す。そして、粒界エネルギー(E)算出部121は、固定点iが属する粒界uの単位長さ当たりの粒界エネルギーγと、固定点iと当該固定点iとラインを構成する他方の各点との長さ(各ラインの長さ)を用いて、固定点iが属する粒界uの粒界エネルギーEiを計算(算出)する。また、ステップS46の粒界エネルギーEiの算出処理では、固定点iを中心位置bkとするインヒビターk内(インヒビターkの表面(境界)は含まない)には、粒界uは存在しないものとして計算(算出)を行う。
ここで、固定点i(ik)が二重点である場合には、例えば、図8に示すように、固定点ikと当該固定点ikに隣接する点ix及びiyとの間に、ラインpx及びpyが形成される。また、固定点i(ik)が二重点であるため、ラインpxにおける有効長さLxの部分と、ラインpyにおける有効長さLyの部分とは、同一の粒界uに属していることになる。よって、固定点i(ik)が二重点である場合の粒界エネルギーEiは、例えば、図8に示す場合には、上述した(7)式により算出される。
一方、固定点i(ik)が三重点である場合には、例えば、図9に示すように、固定点ikと当該固定点ikに隣接する点ix、iy及びizとの間に、ラインpx、py及びpzが形成される。また、固定点i(ik)が三重点であるため、ラインpxにおける有効長さLxの部分と、ラインpyにおける有効長さLyの部分と、ラインpzにおける有効長さLzの部分とは、それぞれ、異なる粒界uに属していることになる。よって、固定点i(ik)が三重点である場合の粒界エネルギーEiは、例えば、図9に示す場合には、上述した(8)式により算出される。
次に、ステップS47において、粒界エネルギー(E)算出部121は、固定点iが固定位置(インヒビターkの中心位置bk)から開放されて、インヒビターk内を除く領域の位置であって、粒界エネルギーEが最小となる位置(平衡位置)にあるときの粒界エネルギーEi'を計算(算出)する。この際、ステップS47の粒界エネルギーEi'の算出処理では、固定点iを中心位置bkとするインヒビターk内(インヒビターkの表面(境界)は含まない)には、粒界uは存在しないものとし、また、その他のインヒビターkは存在しないものとして計算(算出)を行う。
ここで、固定点i(ik)が二重点である場合には、例えば、図8のラインpxにおける有効長さLxの部分とラインpyにおける有効長さLyの部分とは、同一の粒界uに属していることになるため、平衡位置Wは、点ixと点iyとを最短距離で結んだライン(仮想ライン)pxy上の任意の位置となる。また、ラインpxyにおける粒界uの単位長さ当たりの粒界エネルギーγは、ラインpxにおける有効長さLx(ラインpyにおける有効長さLy)の部分の単位長さ当たりの粒界エネルギーγとなる。よって、固定点i(ik)が二重点である場合の粒界エネルギーEi'は、例えば、図8に示す場合には、上述した(9)式により算出される。
尚、図8に示す例では該当しないが、ラインpxyがインヒビターk内を通る場合には、ラインpxyの長さ(Lxy)から、ラインpxyのインヒビターk内を通る部分の長さを差し引いた長さに対して、単位長さ当たりの粒界エネルギーγを乗算することになる。
一方、固定点i(ik)が三重点である場合には、例えば、図9のラインpxにおける有効長さLxの部分と、ラインpyにおける有効長さLyの部分と、ラインpzにおける有効長さLzの部分とは、それぞれ、異なる粒界uに属していることになる。
ここで、平衡位置が、例えば、図9に示すwの位置の場合、点ixと平衡位置wとを結ぶライン(仮想ライン)pwxと、点iyと平衡位置wとを結ぶライン(仮想ライン)pwyと、点izと平衡位置wとを結ぶライン(仮想ライン)pwzを形成する。この際、粒界エネルギーEi'の算出に用いられる有効長さとしては、ラインpwxの長さLwx及びラインpwyの長さLwy、並びに、ラインpwzの長さLwzからインヒビターk内の長さLkを差し引いた長さ(Lwz−Lk)となる。
また、図9に示す場合、ラインpwxにおける粒界uの単位長さ当たりの粒界エネルギーγは、ラインpxにおける有効長さLxの部分の単位長さ当たりの粒界エネルギーγとなる。同様に、ラインpwyにおける粒界uの単位長さ当たりの粒界エネルギーγは、ラインpyにおける有効長さLyの部分の単位長さ当たりの粒界エネルギーγとなる。また、ラインpwzのインヒビターk内を除く部分における粒界uの単位長さ当たりの粒界エネルギーγは、ラインpzにおける有効長さLzの部分の単位長さ当たりの粒界エネルギーγとなる。よって、固定点i(ik)が三重点である場合の粒界エネルギーEi'は、例えば、図9に示す場合には、上述した(10)式により算出される。
次に、ステップS48において、固定点処理部120は、ステップS46で算出された粒界エネルギーEiと、ステップS47で算出された粒界エネルギーEi'とを比較し、粒界エネルギーEi'が粒界エネルギーEi未満(Ei'<Ei)であるか否かを判定する。
ステップS48の判定の結果、粒界エネルギーEi'が粒界エネルギーEi未満である場合には、ステップS49に進む。ステップS49に進むと、固定点処理部120は、固定点iを、インヒビターkの表面(境界)に移動させ、固定を解除して、通常の点iとする。ここで、本実施形態では、上述したように、固定点iが二重点である場合には図8、固定点iが三重点である場合には図9に示すように、固定点iを通常の点imの位置に移動させるものとする。
ステップS49の処理が終了した場合、或いは、ステップS48で粒界エネルギーEi'が粒界エネルギーEi未満でないと判定された場合には、ステップS50に進む。
ステップS50に進むと、解析点判別部113は、計算対象の点を示す変数iが点設定部103で現在設定されている点の数NIより小さいか否かを判定する。この判定の結果、計算対象の点を示す変数iが点設定部103で現在設定されている点の数NIより小さい場合には、点設定部103で現在設定されている全ての点iについて処理がされていないと判定し、ステップS51に進む。
ステップS51に進むと、解析点判別部113は、計算対象の点を示す変数iに1を加算して、計算対象の点iを変更する。そして、変更した点iに対して、ステップS41以降の処理を再度行う。
一方、ステップS50において、計算対象の点を示す変数iが点設定部103で現在設定されている点の数NI以上であると判定された場合には、点設定部103で現在設定されている全ての点iについて処理がされたと判定し、ステップS52に進む。
ステップS52に進むと、固定点処理部120は、点設定部103に対して、ステップS49における点iの変更に伴う再設定を行わせる。また、これと同時に、位置計算部116は、点設定部103に対して、ステップS43又はステップS44で計算された点iが存在する位置ri(t+Δt)を示すベクトルを出力する。これにより、点iの現在の位置ri(t)を示すベクトルが、点設定部103に再設定される。
そして、ライン設定部104では、点設定部103における点iの再設定を契機として、ラインpの再設定が行われる。さらに、粒界設定部105では、点設定部103における点iの再設定及びライン設定部104におけるラインpの再設定を契機として、粒界uの再設定が行われる。さらに、粒界設定部105における粒界uの再設定を契機として、粒界エネルギー(γ)設定部109及び易動度設定部111における再設定も行われる。
次に、ステップS53において、解析時間設定部112は、時間tが、ステップS6で設定した解析完了時間Tよりも大きいか否かを判定する。すなわち、解析完了時間Tが経過したか否かを判定する。この判定の結果、時間tが、ステップS6で設定した解析完了時間Tより大きくない場合(解析完了時間Tが経過していない場合)には、ステップ54に進む。ステップS54に進むと、解析時間設定部112は、現在設定している時間tに時間Δtを加算して、時間tを更新する。その後、ステップS21に戻り、ステップS21以降の処理を再度行う。そして、ステップS53において、時間tが、ステップS6で設定した解析完了時間Tよりも大きい(解析完了時間Tが経過した場合)と判定されるまで、ステップS21〜ステップS53までの処理が繰り返し行われる。
一方、ステップS53の判定の結果、時間tが、ステップS6で設定した解析完了時間Tよりも大きい場合(解析完了時間Tが経過した場合)には、ステップS55に進む。ステップS55に進むと、解析画像表示部117は、ステップS43又はステップS44で計算された「点iの位置ri(t+Δt)のベクトル」に基づいて、時間tが0(ゼロ)からT[sec]までの間に、結晶粒Aの状態がどのように推移するのかを示す画像を、表示装置200に表示させる。そして、図10−1〜図10−4の一連のフローチャートを終了する。
尚、ステップS3で入力される解析温度θ(t)が時間に依存する場合、例えば、ステップS54の後に、ステップS54で設定された時間t+Δtにおける解析温度θ(t+Δt)を読み出し、その解析温度θ(t+Δt)における単位長さ当たりの粒界エネルギーγと易動度Miとを再設定してから、ステップS21以降の処理を行うようにすればよい。
−第1の実施形態の変形例−
図13は、本発明の第1の実施形態の変形例を示し、結晶粒解析装置が行う処理動作の一例を説明するフローチャートである。この図13に示すフローチャートにおいて、図10−3に示すステップと同様のステップには、同じ符号を付しており、その詳細な説明は省略する。具体的に、本変形例は、図7に示すライン変更処理部119によるライン変更処理において、第2の処理例を実現するものである。以下の説明においては、図7に示す模式図と共に説明を行う。
まず、本変形例では、図10−1〜図10−2に示す各ステップを経る。さらに、図10−3のステップS20〜ステップS24に示す各ステップを経る。
ステップS24の判定の結果、ラインpがインヒビターk内を通る場合(例えば、図7(1a)〜(6a)に該当する場合)には、ステップS25に進む。ステップS25に進むと、ライン変更処理部119は、ラインpの端点がインヒビターk内にあるか否かを判定する。
ステップS25の判定の結果、ラインpの端点がインヒビターk内にない場合(図7(1a)に示す場合)には、ステップS101に進む。ステップS101に進むと、ライン変更処理部119は、ラインp上のインヒビターk内の任意の位置に二重点(図7(1c)に示す二重点in)を発生させる。これにより、ラインpは2つのラインに分割されてラインの数が1つ増え、また、点の数も1つ増えることになる。
次に、ステップS102において、ライン変更処理部119は、ステップS101の処理で点の数及びラインの数がそれぞれ1つ増えたため、現在設定されている、増減する点の数を示すΔNIに1を加算して、当該ΔNIを変更すると共に、現在設定されている、増減するラインの数を示すΔNPに1を加算して、当該ΔNPを変更する。
一方、ステップS25の判定の結果、ラインpの端点がインヒビターk内にある場合(図7(2a)〜(6a)に示す場合)には、ステップS29に進む。ステップS29に進むと、ライン変更処理部119は、ラインpの両端点がインヒビターk内にあるか否かを判定する。
ステップS29の判定の結果、ラインpの両端点がインヒビターk内にある場合(図7(5a)及び(6a)に示す場合)には、ステップS103に進む。ステップS103に進むと、ライン変更処理部119は、ラインpの1つの端点をもう一方の端点に移動させて1つの点とし、インヒビターk内にあるラインpを消滅させる(図7(5c)及び図7(6c))。これにより、点の数及びラインの数は1つ減ることになる。
次に、ステップS104において、ライン変更処理部119は、ステップS103の処理で点の数及びラインの数がそれぞれ1つ減ったため、現在設定されている、増減する点の数を示すΔNIに1を減算して、当該ΔNIを変更すると共に、現在設定されている、増減するラインの数を示すΔNPに1を減算して、当該ΔNPを変更する。
ステップS102の処理が終了した場合、ステップS104の処理が終了した場合、或いはステップS29でラインpの両端点がインヒビターk内にないと判定された場合(図7(2a)〜(4a)に示す場合)には、ステップS105に進む。ステップS105に進むと、ライン変更処理部119は、インヒビターk内にある点in又は端点をインヒビターkの中心位置(bk)に移動させ、これを固定点ik(図7(1c)〜(6c)に示す固定点ik)とする。尚、図7(3c)に示す場合には、インヒビターk内にある端点がインヒビターkの中心位置(bk)にあるため、当該移動の処理は行われない。
また、このステップS105において、ライン変更処理部119は、ステップS101〜ステップS105の処理による点の変更(消滅、発生を含む)に関する情報、及び、ラインの変更(消滅、発生を含む)に関する情報を、RAM又はハードディスクに記憶する。
このステップS105の処理が終了すると、図10−3に示すステップS34以降の処理が行われて、第1の実施形態の結晶粒解析装置が行う処理動作の変形例におけるフローチャートが終了する。
(第2の実施形態)
以下、本発明の第2の実施形態について説明する。
第1の実施形態では、図3(b)に示すように、結晶粒A1に対して、粒界点として、二重点i2〜i4、i6〜i10、i12〜i15、i17、i18と、三重点i1、i5、i11、i16とを設定する形態であったが、第2の実施形態では、処理の簡素化等のため、結晶粒A1に対して、粒界点として、図3(b)に示す三重点i1、i5、i11、i16のみを設定する形態である。
図14は、第2の実施形態に係る結晶粒解析装置で設定される点(三重点i)と、ラインp及び粒界uとの一例を示す図である。この図14において、図3(b)に示す点と同じ点については、同様の符号を付している。
また、図15は、第2の実施形態に係る結晶粒解析装置の機能構成の一例を示すブロック図である。この図15において、図2に示す構成と同様の構成については、同様の符号を付している。この第2の実施形態に係る結晶粒解析装置150は、図2に示す第1の実施形態に係る結晶粒解析装置100に対して、二重点用駆動力計算部114を省略したものである。また、第2の実施形態においては、図2に示す固定点処理部120の処理内容が変更となるため、図15では、固定点処理部151としている。
また、図16は、第2の実施形態係る結晶粒解析装置が行う処理動作の一例を説明するフローチャートである。
第2の実施形態係る結晶粒解析装置150の処理動作では、まず、図10−1に示す各ステップ、図10−2に示す各ステップ及び図10−3(又は図13)に示す各ステップを経る。
この際、図10−1に示すステップS7では、ユーザにより、図3(a)に示す結晶粒画像31に対して、三重点iが指定されることになる。具体的に、図14に示す例では、結晶粒A1に対して、三重点i1、i5、i11、i16が指定されることになる。
これを受けて、ステップS8では、点設定部103において、ステップS7で指定されたと判定した三重点iの位置ri(t)を示すベクトルを計算して、RAM又はハードディスクに設定される。
また、図10−2のステップS15では、ライン設定部104において、当該ステップS8で設定された三重点iにより特定されるラインp及びその数NPが、RAM又はハードディスクに設定される。具体的に、図14に示す例では、三重点i1と三重点i5、三重点i5と三重点i11、三重点i11と三重点i16、及び、三重点i16と三重点i1をそれぞれ結ぶ4つのラインp1.p2、p3及びp4が設定される。
また、図10−2のステップS16では、粒界設定部105において、ステップS8により設定された三重点iを両端として互いに接続されたラインpにより特定される粒界uが、RAM又はハードディスクに設定される。この第2の実施形態では、ステップS8において三重点しか設定されないため、粒界uは、図14に示すように、ラインpに対応して設定されることになる。
まず、図16のステップS201において、解析点判別部113は、計算対象の点を示す変数iを1に設定する。これにより計算対象の点iが設定される。尚、ここで、計算対象の点iとしては、ステップS8により設定された通常の三重点iのみならず、図10−3のステップS26及びS27(又は図13のステップS101及びS105)の処理で新たに発生した固定二重点(例えば、図7(1b)及び(1c)に示す固定点ik)や、例えば、図10−3のステップS30(又は図13のステップS29及びS105)の処理で発生した固定三重点(例えば、図7(4b)及び(4c)に示す固定点ik)も含まれる。
次に、ステップS202において、例えば、固定点処理部151は、減少する点の数を示すΔNI'を0(ゼロ)に設定する。
次に、ステップS203において、解析点判別部113は、計算対象の点iが、固定点(ik)か否かを判定する。この判定の結果、計算対象の点iが、固定点(ik)でない場合には、ステップS204に進む。このステップS203で固定点(ik)でないと判定されると、ステップS201において説明したように、通常の三重点iということになる。
ステップS204に進むと、三重点用駆動力計算部115及び位置計算部116による三重点用駆動力・位置算出処理が行われる。ここで、このステップS204の処理については、図10−4におけるステップS44の処理と同様であるため、その説明は省略する。
一方、ステップS203の判定の結果、計算対象の点iが、固定点(ik)である場合には、ステップS205に進む。このステップS203で固定点(ik)であると判定される点としては、ステップS201において説明したように、二重点の固定点及び三重点の固定点がある。
ステップS205に進むと、固定点処理部151は、解析点判別部113で判定処理された固定点iの座標情報、及び、当該固定点iとラインpを構成する他方の各点の位置を示す情報を、点設定部103から読み出す。さらに、固定点処理部151は、処理対象の固定点を中心位置bkとするインヒビターkに関する情報(中心位置bkを示す座標情報及びその半径ckに係る情報)を、インヒビター設定部118から読み出す。
次に、ステップS206において、粒界エネルギー(E)算出部121は、ステップS205で読み出された情報を取得すると共に、固定点iが属する粒界uの単位長さ当たりの粒界エネルギーγを粒界エネルギー(γ)設定部109から読み出す。そして、粒界エネルギー(E)算出部121は、固定点iが属する粒界uの単位長さ当たりの粒界エネルギーγと、固定点iと当該固定点iとラインを構成する他方の各点との長さ(各ラインの長さ)を用いて、固定点iが属する粒界uの粒界エネルギーEiを計算(算出)する。また、ステップS206のEiの算出処理では、固定点iを中心位置bkとするインヒビターk内(インヒビターkの表面(境界)は含まない)には、粒界uは存在しないものとして計算(算出)を行う。ここで、固定点iが、二重点である場合と三重点である場合の具体的な粒界エネルギーEiの算出方法については、第1の実施形態における図10−4のステップS46と同様であるため、その説明は省略する。
次に、ステップS207において、粒界エネルギー(E)算出部121は、固定点iが固定位置(インヒビターkの中心位置bk)から開放されて、インヒビターk内を除く領域の位置であって、粒界エネルギーEが最小となる位置(平衡位置)にあるときの粒界エネルギーEi'を計算(算出)する。この際、ステップS207の粒界エネルギーEi'の算出処理では、固定点iを中心位置bkとするインヒビターk内(インヒビターkの表面(境界)は含まない)には、粒界uは存在しないものとし、また、その他のインヒビターkは存在しないものとして計算(算出)を行う。ここで、固定点iが、二重点である場合と三重点である場合の具体的な粒界エネルギーEi'の算出方法については、第1の実施形態における図10−4のステップS47と同様であるため、その説明は省略する。
次に、ステップS208において、固定点処理部151は、ステップS206で算出された粒界エネルギーEiと、ステップS207で算出された粒界エネルギーEi'とを比較し、粒界エネルギーEi'が粒界エネルギーEi未満(Ei'<Ei)であるか否かを判定する。
ステップS208の判定の結果、粒界エネルギーEi'が粒界エネルギーEi未満である場合には、ステップS209に進む。ステップS209に進むと、例えば、固定点処理部151は、固定点iが三重点であるか否かを判定する。
ステップS209の判定の結果、固定点iが三重点である場合には、ステップS210に進む。ステップS210に進むと、固定点処理部151は、固定点iを、インヒビターkの表面(境界)に移動させ、固定を解除して、通常の点iとする。第2の実施形態においても、第1の実施形態と同様に、固定点iが三重点である場合には、図9に示すように、固定点iを通常の点imの位置に移動させる。
一方、ステップS209の判定の結果、固定点iが三重点でない、すなわち、固定点iが二重点である場合には、ステップS211に進む。ステップS211に進むと、固定点処理部151は、固定点iと、当該固定点iと隣接する2つの点とを結ぶ2つのラインpを消滅させて、固定点iに属する2つの粒界を消滅させる処理を行う。この際、固定点処理部151は、2つのラインpの消滅をライン設定部104に設定させ、粒界設定部105に、固定点iに属する2つの粒界を消滅させる。
次に、ステップS212において、固定点処理部151は、当該固定点iと隣接していた2つの点を結ぶラインpをライン設定部104に新たに設定させ、粒界設定部105に、当該固定点iに隣接していた2つの点を結ぶ粒界uを発生(設定)させる。
尚、ここでは、ステップS211及びS212の粒界設定部105における粒界uの再設定を契機として、粒界エネルギー(γ)設定部109及び易動度設定部111における再設定も行われる。
図17は、図16のステップS211及びS212の処理動作の一例を説明する図である。
第2の実施形態では、ステップS204に示すように、駆動力・位置算出処理は、三重点のみ実行するものであるため、まず、ステップS211の処理では、図17に示す固定点ikと、固定点ikと隣接する2つの点ix、iyとを結ぶ2つのラインpx、pyを消滅させて、固定点ikに属する2つの粒界ux、uyを消滅させる。そして、ステップS212において、固定点ikに隣接していた2つの点ix、iyを結ぶラインpxyを設定し、固定点ikに隣接していた2つの点ix、iyを結ぶ粒界uxyを発生(設定)させる。
次に、ステップS213において、固定点処理部151は、ステップS211で固定点iを1つ消滅させたため、現在設定されている、減少する点の数を示すΔNI'に1を減算して、当該ΔNI'を変更する。
ステップS213の処理が終了した場合、ステップS213の処理が終了した場合、或いは、ステップS208で粒界エネルギーEi'が粒界エネルギーEi未満でないと判定された場合には、ステップS214に進む。
ステップS214に進むと、解析点判別部113は、計算対象の点を示す変数iが、点設定部103で現在設定されている点の数NIより小さいか否かを判定する。この判定の結果、計算対象の点を示す変数iが点設定部103で現在設定されている点の数NIより小さい場合には、点設定部103で現在設定されている全ての点iについて処理がされていないと判定し、ステップS215に進む。
ステップS215に進むと、解析点判別部113は、計算対象の点を示す変数iに1を加算して、計算対象の点iを変更する。そして、変更した点iに対して、ステップS203以降の処理を再度行う。
一方、ステップS214において、計算対象の点を示す変数iが点設定部103で現在設定されている点の数NI以上であると判定された場合には、点設定部103で現在設定されている全ての点iについて処理がされたと判定し、ステップS216に進む。
ステップS216に進むと、例えば、固定点処理部151は、点設定部103に対して、現在設定している減少する点の数を示すΔNI'の情報を出力し、現在設定されている点の数NIに、出力した減少する点の数を示すΔNI'(ΔNI'は負の値)を加算させ、点の数NIの再設定を行わせる。
次に、ステップS217において、固定点処理部151は、点設定部103に対して、ステップS210及びS211における点iの変更に伴う再設定を行わせる。また、これと同時に、位置計算部116は、点設定部103に対して、ステップS204で計算された点iが存在する位置ri(t+Δt)を示すベクトルを出力する。これにより、点iの現在の位置ri(t)を示すベクトルが、点設定部103に再設定される。
そして、ライン設定部104では、この点設定部103における点iの再設定を契機として、ラインpの再設定が行われる。また、粒界設定部105では、点設定部103における点iの再設定及びライン設定部104におけるラインpの再設定を契機として粒界uの再設定が行われる。さらに、粒界設定部105における粒界uの再設定を契機として、粒界エネルギー(γ)設定部109及び易動度設定部111における再設定も行われる。
次に、ステップS218において、解析時間設定部112は、時間tが、ステップS6で設定した解析完了時間Tよりも大きいか否かを判定する。すなわち、解析完了時間Tが経過したか否かを判定する。この判定の結果、時間tが、ステップS6で設定した解析完了時間Tより大きくない場合(解析完了時間Tが経過していない場合)には、ステップ219に進む。ステップS219に進むと、解析時間設定部112は、現在設定している時間tに時間Δtを加算して、時間tを更新する。その後、図10−3(又は図13)のステップS21に戻り、ステップS21以降の処理を再度行う。そして、ステップS218において、時間tが、ステップS6で設定した解析完了時間Tよりも大きい(解析完了時間Tが経過した場合)と判定されるまで、図10−3(又は図13)のステップS21〜ステップS39、及び、図16のステップS201〜ステップS218までの処理が繰り返し行われる。
一方、ステップS218の判定の結果、時間tが、ステップS6で設定した解析完了時間Tよりも大きい場合(解析完了時間Tが経過した場合)には、ステップS220に進む。ステップS220に進むと、解析画像表示部117は、ステップS204で計算された「点iの位置ri(t+Δt)のベクトル」に基づいて、時間tが0(ゼロ)からT[sec]までの間に、結晶粒Aの状態がどのように推移するのかを示す画像を、表示装置200に表示させる。そして、図10−1、図10−2、図10−3(又は図13)及び図16の一連のフローチャートを終了する。
次に、以上のような処理動作を行う結晶粒解析装置の実施例を説明する。
尚、ここでは、結晶粒解析装置として第1の実施形態の結晶粒解析装置100を用い、また、結晶粒の解析対象である金属材料としてインヒビターを用いて製造される方向性電磁鋼板を適用する場合を例に挙げて説明する。
方向性電磁鋼板の製造工程においては、仕上げ焼鈍として高温焼鈍(例えば、ピーク温度1200[℃]、20時間程度)が行われる。この際、高温の仕上げ焼鈍を行う前の一次再結晶化した結晶粒の粒径は、例えば、20μm〜30μm程度であるが、高温の仕上げ焼鈍が終了した時点での二次再結晶化された結晶粒の粒径は、数cm程度にもなる。このように、方向性電磁鋼板の製造工程では、二次再結晶化後の結晶粒を巨大化させる必要があり、これを実現するためにインヒビターが用いられる。
具体的には、インヒビターが結晶粒間に存在している間は当該結晶粒の成長が抑制された状態となるが、例えば、仕上げ焼鈍中の高温によりインヒビターが消滅等したことを契機として、それまで抑制されていた結晶粒が一気に巨大化して、方向性電磁鋼板の結晶粒が形成される。
このように、方向性電磁鋼板の結晶粒では、インヒビターによって粒界移動が阻害されながら進行するので、この効果を取り入れながら計算を実行することが必須である。そこで、その効果を確認するために、本発明を適用して、仕上げ焼鈍による結晶粒の成長を実際にシミュレーションした。
本実施例では、方向性電磁鋼板における通板コイルごとの仕上げ焼鈍後の結晶粒の成長状態を事前に策定するために、まず、仕上げ焼鈍前の実際の結晶粒画像31を観察して、インヒビターの設定を行うと共に、各通板コイルの結晶粒画像31の中から1つの結晶粒を抽出して当該結晶粒における各種の設定を行い、結晶粒解析装置100を稼動させた。
図18は、本発明の実施例を示し、方向性電磁鋼板における通板コイルごとの結晶粒の成長状態を検証した結果を示す図である。ここで、図18には、A〜Jに示す10本の通板コイルについて検証を行った結果を示している。具体的に、図18には、仕上げ焼鈍前に事前に設定した結晶粒について、実際に仕上げ焼鈍を行った後の結晶粒の粒径(実験)のデータと、本発明に係る結晶粒解析装置100でシミュレーションを行った場合の結晶粒の粒径(本発明適用)のデータと、インヒビターを考慮せずに単に結晶粒の成長のみのシミュレーションを行った場合の結晶粒の粒径(本発明適用せず)のデータが示されている。
また、図18では、実験のデータとしてA〜Jに示す10本の通板コイルについて検証を行った結果を示しており、また、本発明適用のデータ及び本発明適用せずのデータとしては、コイルB及びGの2本の通板コイルについて検証を行った結果を示している。
まず、シミュレーションを行ったコイルBの通板コイルについて考察すると、実験データが1.3cmであるのに対して、本発明適用せずのデータでは1.7cmとなっており、30%以上の誤差が生じている。一方、本発明適用のデータでは、1.4cmとなっており、その誤差は10%未満となっている。
また、シミュレーションを行ったコイルGの通板コイルについて考察すると、実験データが1.2cmであるのに対して、本発明適用せずのデータでは、結晶粒を維持することができない結果となった(二次再結晶せず)。一方、本発明適用のデータでは、1.2cmとなっており、結晶粒の成長をほぼ正確にシミュレーションすることができた。
以上の検証結果により、本発明を適用すれば、インヒビターを用いて製造される方向性電磁鋼板の結晶粒の成長状態を、ほぼ正確にシミュレーションできることが確認できた。
以上のように、本発明の各実施形態では、同一の粒界上で互いに隣接する2つの粒界点を両端点とするラインがインヒビター内を通る場合に、当該インヒビター内に固定点を発生させ、当該固定点を端点とするラインの変更処理を行うようにしている(例えば、図7参照)。これにより、インヒビターによって結晶粒Aの粒界移動が阻害(抑制)される状態をシミュレーションすることができる。また、固定点が属する粒界における第1の粒界エネルギーEiと、当該固定点を固定位置から開放し、インヒビター内を除く領域の位置であって粒界エネルギーが最小となる平衡位置に移動させた際の粒界における第2の粒界エネルギーEi'とを算出し、第2の粒界エネルギーEi'が第1の粒界エネルギーEi未満である場合に、当該固定点を解除する処理を行うようにしている。これにより、インヒビターによって結晶粒Aの粒界移動が抑制されていた状態から結晶粒Aの粒界移動が再開する状態への移行及び移行後の結晶粒Aの粒界移動の状態をシミュレーションすることができる。
本発明の実施形態によれば、インヒビターにより結晶粒Aの粒界移動が抑制される状態、及び、当該抑制されていた状態から結晶粒Aの粒界移動が再開する状態への移行及び移行後の結晶粒Aの粒界移動の状態をシミュレーションすることができるため、インヒビターを介して結晶粒Aが時間の経過と共にどのように変化するのかを、従来よりも容易に且つ正確に解析することができる。
尚、本実施形態では、ユーザが、結晶粒画像31を見ながら、操作装置300を使用して、点i及びインヒビターkを指定する場合を例に挙げて説明したが、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、EBSP法で解析することにより得られた結晶粒画像信号に基づいて、結晶粒解析装置100(コンピュータ)が自動的に、点i及びインヒビターkを指定するようにしてもよい。
また、本発明の実施形態では、インヒビター設定部118において、図6に示すように、検出したインヒビターkの領域を円で近似してインヒビターkを設定するようにしているが、検出したインヒビターkの領域の形状に応じて、近似する形状を変更するようにしてもよい。この際、例えば、インヒビターkを楕円に近似する場合には、楕円の中心位置(固定位置)を示す座標情報と、楕円の長軸の長さに係る情報と、楕円の短軸の長さに係る情報を計算して、当該インヒビターkをRAM又はハードディスクに設定する形態を採る。また、例えば、インヒビターkを多角形に近似する場合には、例えば固定位置として重心位置を示す座標情報と、当該多角形における各頂点を示す座標情報を計算して、当該インヒビターkをRAM又はハードディスクに設定する形態を採る。
また、本実施形態では、粒界設定部105により、粒界uを定義するようにしたが、点i、ラインp、及び結晶粒Aを用いれば、粒界uは自ずと定まるので、必ずしも粒界uを定義する必要はない。
また、本実施形態では、粒界エネルギー(γ)設定部109、易動度設定部111は、粒界uを介して互いに隣接する2つの結晶粒Aの方位ξの差分Δξの絶対値に基づいて、単位長さ当たりの粒界エネルギーγ、易動度Miを設定するようにしたが、粒界uを介して互いに隣接する2つの結晶粒Aの方位ξの差分Δξそのものに基づいて、単位長さ当たりの粒界エネルギーγ、易動度Miを設定するようにしてもよい。
また、本実施形態では、(6)式を用いて、計算対象の三重点iにおける易動度Miを求めるようにしたが、計算対象の三重点iが属する3つの粒界uに対応する易動度Mi1〜Mi3を用いて、計算対象の三重点iの易動度Miを求めるようにしていれば、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、以下の(13)式を用いて、計算対象の三重点iにおける易動度Miを求めるようにしてもよい。
また、前述した実施形態では、結晶粒解析装置が解析する材料の一例である金属材料として、電磁鋼板を例に挙げて説明したが、本発明に係る結晶粒解析装置が解析する材料は、このようなものに限定されず、インヒビター等の介在物を用いて製造されるものであれば、如何なるものでも適用可能である。尚、結晶粒解析装置が解析する金属材料が異なる場合には、粒界エネルギー(γ)記憶部108や易動度記憶部110に記憶されるグラフ等の内容等、結晶粒解析装置に入力されるデータが、材料に応じて異なることになる。
以上説明した本発明の実施形態のうち、CPUが実行する部分は、コンピュータがプログラム(コンピュータプログラム)を実行することによって実現することができる。また、プログラムをコンピュータに供給するための手段、例えばかかるプログラムを記録したCD−ROM等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体、又はかかるプログラムを伝送する伝送媒体も本発明の実施形態として適用することができる。また、上記プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体などのプログラムプロダクトも本発明の実施の形態として適用することができる。上記のプログラム、コンピュータ読み取り可能な記録媒体、伝送媒体及びプログラムプロダクトは、本発明の範疇に含まれる。
また、前述した実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。