以下、図面を参照しながら、本発明の諸実施形態について説明する。
(第1の実施形態)
まず、本発明の第1の実施形態について説明する。
図1は、第1の実施形態に係る結晶粒解析装置で行われる解析方法の一例を概念的に示す図である。尚、図1では、説明の都合上、単相金属材料を構成する多数の結晶粒のうち、1つの結晶粒Aのみを示しているが、実際には、多数の結晶粒により単相金属材料が形成されるということは言うまでもない。
本実施形態の結晶粒解析装置では、図1に示すようにして、結晶粒をモデル化するようにしている。
まず、図1(a)に示すように、結晶粒Aの3つの粒界ua〜ucの両端点に対応する位置に三重点ia、ie、ifを設定し、粒界ua〜ucの中間点に対応する位置に二重点ib〜id、ig〜iiの各粒界点を設定する。ここで、三重点ia、ie、ifとは、3つの直線が交わる点(3つの結晶粒と接する点)をいい、二重点ib〜id、ig〜iiとは、2つの直線が交わる点(2つの結晶粒と接する点)をいう。そして、同一の粒界ua〜uc上で互いに隣接する点(粒界点)iを互いに結ぶ直線(ライン)を設定する。
以上のように、本実施形態では、粒界ua〜ucの両端の位置だけでなく、粒界ua〜ucの途中の形状も出来るだけ忠実に表すことができるように、二重点ib〜id、ig〜iiを設定するようにしている。
以上のようにしてモデル化された結晶の各点(二重点及び三重点)ia〜iiの夫々について、時間tで生じる駆動力Fi(t)[N]を算出する。そして、算出した駆動力Fi(t)に基づいて、Δt[sec]が経過した後(時間t+Δt)における各点(二重点及び三重点)ia〜iiの位置を算出する。そうすると、図1(a)に示す各点(二重点及び三重点)ia〜iiの位置は、例えば、図1(b)に示す位置に移動する。
本実施形態の結晶粒解析装置では、以上のように、結晶粒Aに含まれる粒界ua〜ucの両端点に対応する三重点ia、ie、ifと、粒界ua〜ucの中間点に対応する二重点ib〜id、ig〜iiとの夫々に生じる駆動力Fi(t)を算出して、三重点ia、ie、ifと、二重点ib〜id、ig〜iiとが移動する様子を解析する。これにより、例えば、図1(a)に示す結晶粒Aaが、図1(b)に示す結晶粒Abのように、時間の経過と共に変化する様子を、大きな計算負荷をかけることなく出来るだけ正確に解析することができる。
以下に、結晶粒解析装置の構成について詳細に説明する。
図2は、第1の実施形態に係る結晶粒解析装置の機能構成の一例を示すブロック図である。尚、結晶粒解析装置100のハードウェアは、パーソナルコンピュータ等、CPU、ROM、RAM、ハードディスク、画像入出力ボード、各種インターフェース、及びインターフェースコントローラ等を備えた情報処理装置を用いて実現することができる。そして、特に断りのない限り、図2に示す各ブロックは、CPUが、ROMやハードディスクに記憶されている制御プログラムを、RAMを用いて実行することにより実現される。そして、図2に示す各ブロック間で、信号のやり取りを行うことにより、以下の処理が実現される。
図2において、結晶画像取得部101は、例えば、EBSP(Electron Back Scattering Pattern)法で得られた「単相金属の結晶粒Aの画像信号と、その画像信号に含まれる各結晶粒Aの方位ξを示す信号」等を取得して、ハードディスク等に記憶するためのものである。尚、以下の説明では、単相金属の結晶粒Aの画像を、必要に応じて、結晶粒画像と称する。尚、結晶画像取得部101は、EBSP法による結晶分析を行う分析装置から、前述した信号を直接取得するようにしてもよいし、DVDやCD−ROM等のリムーバル記憶媒体から、前述した信号を間接的に取得してもよい。
結晶画像表示部102は、例えば、ユーザによる操作装置300の操作に基づいて、結晶画像取得部101により取得された結晶粒画像信号に基づく結晶粒画像を、表示装置200に表示させる。尚、表示装置200は、LCD(Liquid Crystal Display)等のコンピュータディスプレイを備えている。また、操作装置300は、キーボードやマウス等のユーザインターフェースを備えている。
点設定部103は、結晶画像表示部102により表示された結晶粒画像に対して、ユーザが操作装置300を用いて指定した点(二重点及び三重点)iを取得し、取得した点(二重点及び三重点)iの数と、その点iの初期位置ri(0)を示すベクトルとを、RAM又はハードディスクに設定(記憶)する。尚、本実施形態では、ユーザは、点(二重点及び三重点)iの数と初期位置を、任意に指定することができるものとする。
また、点設定部103は、計算対象の点(二重点又は三重点)iにおけるΔt[sec]後の位置ri(t+Δt)を示すベクトルが、後述するようにして位置計算部116により計算されると、その点iの位置ri(t+Δt)を示すベクトルを、RAM又はハードディスクに設定(記憶)する。また、点設定部103は、後述の粒界変更処理部119による粒界の変更処理に伴って、現在設定している点iに関する情報を変更し、これをRAM又はハードディスクに設定(記憶)する。
ライン設定部104は、点設定部103で設定された点(二重点及び三重点)iのうち、同一の粒界u上で互いに隣接する2つの点iにより特定されるラインpに関する情報を、RAM又はハードディスクに設定(記憶)する。このように、ラインpは、同一の粒界u上で互いに隣接する2つの点iを両端とする直線である。また、ライン設定部104は、後述の粒界変更処理部119による粒界の変更処理に伴って、現在設定しているラインpに関する情報を変更し、これをRAM又はハードディスクに設定(記憶)する。
粒界設定部105は、ライン設定部104により設定されたラインpのうち、点設定部103により設定された三重点iを両端として互いに接続されたラインpにより特定される粒界uに関する情報を、RAM又はハードディスクに設定する。また、粒界設定部105は、後述の粒界変更処理部119による粒界の変更処理に伴って、現在設定している粒界uに関する情報を変更し、これをRAM又はハードディスクに設定(記憶)する。
図3は、結晶画像表示部102により表示される結晶粒画像と(図3(a))、点設定部103により設定される点(二重点及び三重点)iと(図3(b))、ライン設定部104、粒界設定部105により設定されるラインp、粒界u(図3(c))の一例を示す図である。尚、説明の都合上、図3(b)、(c)では、図3(a)に示す結晶粒画像31に含まれる多数の結晶粒Aのうち、破線で囲まれた結晶粒A1に対して設定された点i、ラインp、粒界uのみを示している。
図3(a)に示すようにして結晶粒画像31が表示されると、ユーザは、マウス等の操作装置300を用いて、粒界uの両端点に対応する位置を三重点iとして指定すると共に、粒界uの中間点の位置を二重点iとして指定する。そうすると、図3(b)に示すように、例えば、結晶粒A1に対して、二重点i2〜i4、i6〜i10、i12〜i15、i17、i18と、三重点i1、i5、i11、i16との各粒界点が設定される。
そして、これら二重点及び三重点i1〜i18に基づいて、図3(c)に示すように、ラインp1〜p18と、粒界u1〜u4とが設定される。ここで、例えば、ラインp1は、三重点i1と二重点i2とにより特定される。また、粒界u1は、三重点i1、i5を両端として相互に接続されるラインp1〜p4により特定される。尚、図3(c)に示すように、粒界u1は、結晶粒A1、A2の粒界であり、粒界u2は、結晶粒A1、A5の粒界であり、粒界u3は、結晶粒A1、A4の粒界であり、粒界u4は、結晶粒A1、A3の粒界である。すなわち、粒界設定部105は、点設定部103により設定された三重点のうち、共通する2つの結晶粒と接する2つの三重点を両端点として粒界uを設定することになる。
解析温度設定部106は、解析対象の単相金属(結晶粒A)の解析温度θ(t)[℃]を、ユーザによる操作装置300の操作に基づいて取得して、RAM又はハードディスクに設定(記憶)する。尚、解析温度設定部106が取得する解析温度θ(t)は、時間に依らない一定値であっても、時間に依存する値であっても(解析温度θ(t)が時間の経過と共に変化するようにしても)よい。
方位設定部107は、結晶画像取得部101により取得された「結晶粒画像31に含まれる各結晶粒Aの方位ξを示す信号」に基づいて、結晶粒画像31に含まれる全ての結晶粒Aの方位ξを、RAM又はハードディスクに設定(記憶)する。
粒界エネルギー記憶部108は、例えば、単位長さ当たりの粒界エネルギーγ[J/m]と、粒界uを介して互いに隣接する2つの結晶粒Aの方位ξの差分Δξの絶対値と、解析温度θ(t)との関係を示すグラフ、数値列、式、又はそれらの組み合わせを記憶する。尚、以下の説明では、これらグラフ、数値列、式、又はそれらの組み合わせをグラフ等と称する。
例えば、図3(c)に示した粒界u1における「単位長さ当たりの粒界エネルギーγ」は、結晶粒A1の方位ξ1と結晶粒A2の方位ξ2との差分Δξの絶対値と、解析温度設定部106により設定された解析温度θ(t)とに対応した「単位長さ当たりの粒界エネルギーγ」を、粒界エネルギー記憶部108に記憶されたグラフ等から読み出すことにより得られる。尚、以下の説明では、単位長さ当たりの粒界エネルギーγを、必要に応じて粒界エネルギーγと略称する。また、粒界エネルギー記憶部108は、例えば、RAM又はハードディスクを用いて構成される。
粒界エネルギー設定部109は、方位設定部107により設定された結晶粒Aの方位ξと、解析温度設定部106により取得された解析温度θ(t)とに基づいて、粒界設定部105により設定された全ての粒界uの粒界エネルギーγを、前述したようにして粒界エネルギー記憶部108に記憶されたグラフ等から読み出す。そして、粒界エネルギー設定部109は、読み出した粒界エネルギーγを、RAM又はハードディスクに設定(記憶)する。また、粒界エネルギー設定部109は、後述の粒界変更処理部119により粒界の変更処理がなされると、これを契機として、変更された粒界に基づく粒界エネルギーγを、前述したようにして粒界エネルギー記憶部108に記憶されたグラフ等から読み出し、これをRAM又はハードディスクに設定(記憶)する。
易動度記憶部110は、易動度Mi[cm2/(V・sec)]と、粒界uを介して互いに隣接する2つの結晶粒Aの方位ξの差分Δξの絶対値と、解析温度θ(t)との関係を示すグラフ、数値列、式、又はそれらの組み合わせを記憶する。尚、以下の説明では、これらグラフ、数値列、式、又はそれらの組み合わせをグラフ等と称する。
例えば、図3(c)に示した粒界u1における易動度Miは、結晶粒A1の方位ξ1と結晶粒A2の方位ξ2との差分Δξの絶対値と、解析温度設定部106により取得された解析温度θ(t)とに対応した易動度Miを、易動度記憶部110に記憶されたグラフ等から読み出すことにより得られる。尚、易動度記憶部110は、例えば、RAM又はハードディスクを用いて構成される。
易動度設定部111は、方位設定部107により設定された結晶粒Aの方位ξと、解析温度設定部106により取得された解析温度θ(t)とに基づいて、粒界設定部105により設定された全ての粒界uの易動度Miを、前述したようにして易動度記憶部110に記憶されたグラフ等から読み出す。そして、易動度設定部111は、読み出した易動度Miを、RAM又はハードディスクに設定(記憶)する。また、易動度設定部111は、後述の粒界変更処理部119により粒界の変更処理がなされると、これを契機として、変更された粒界に基づく易動度Miを、前述したようにして易動度記憶部110に記憶されたグラフ等から読み出し、これをRAM又はハードディスクに設定(記憶)する。
解析時間設定部112は、例えば、ユーザによる操作装置300の操作に基づいて、解析完了時間T[sec]を取得して、RAM又はハードディスクに設定(記憶)する。そして、解析時間設定部112は、解析完了時間Tが経過するまで、時間tを監視する。
解析点判別部113は、点設定部103により設定された全ての点(二重点及び三重点)iを、計算対象の点として、重複することなく順番に指定する。そして、解析点判別部113は、指定した点iが、二重点であるのか、それとも三重点であるのかを判別する。
二重点用駆動力計算部114は、解析点判別部113により、計算対象の点iが二重点であると判別された場合に、その二重点に生じる駆動力Fi(t)を計算する。
図4は、二重点に生じる駆動力Fi(t)の計算方法の一例を説明する図である。図4では、二重点iに生じる駆動力Fi(t)を計算する場合を例に挙げて説明する。
図4において、二重点iと、その二重点に隣接する2つの点i−1、i+1とにより定まる円弧41の曲率半径をRi(t)[m]とする。また、二重点iが属する粒界uの粒界エネルギーの大きさ(絶対値)をγiとする。そうすると、二重点iに生じる駆動力Fi(t)の大きさは、以下の(1)式で表される。また、二重点iに生じる駆動力Fi(t)の方向は、二重点iから曲率中心Oに向かう方向である。
この(1)式は、以下のようにして導出される。
まず、二重点iが属する粒界uの粒界ベクトルγiの大きさ(絶対値)と同じ大きさを有し、且つ、二重点iから点i−1、i+1に向かう方向を有する2つのベクトルfi1、fi2のベクトル和が、二重点iに生じる駆動力Frであると仮定する(図4を参照)。そうすると、二重点iに生じる駆動力Frの大きさは、以下の(2)式で表される。
ここで、lは、二重点iから点i−1(又は点i+1)までの円弧41の長さ[m]である。また、αは、二重点i及び曲率中心Oを結ぶ直線と、点i−1(又は点i+1)及び曲率中心Oを結ぶ直線とのなす角度[°]である。
二重点iに生じる駆動力を(2)式のようにして定義してもよいが、このようにして定義してしまうと、二重点iに生じる駆動力が、二重点iから点i−1(又は点i+1)までの円弧41の長さlに依存してしまう。すなわち、二重点iに生じる駆動力が、1つの粒界uに対して設定された二重点iの数に依存してしまう。例えば、図3(c)に示すように、粒界u1に対して3つの二重点i2〜i4が設定された場合と、粒界u1に対して5つの二重点が設定された場合とで、二重点iに生じる駆動力が異なってしまう。
そこで、二重点iに生じる駆動力が、二重点iから点i−1(又は点i+1)までの円弧41の長さlに依存しないように、(2)式の右辺を、その長さlで割った値を、二重点iに生じる駆動力Fi(t)の大きさとして定義した((1)式を参照)。
以上のようにして(1)式を用いて、二重点iに生じる駆動力Fi(t)を求めるために、二重点用駆動力計算部114は、計算対象の二重点i、及びその二重点iに隣接する2つの点i−1、i+1の情報を、点設定部103から読み出す。次に、二重点用駆動力計算部114は、二重点iと、その二重点iに隣接する2つの点i−1、i+1とにより定まる円弧41の曲率中心O及び曲率半径Ri(t)を計算する。また、二重点用駆動力計算部114は、計算対象の二重点iが属する粒界uの粒界エネルギーγiを、粒界エネルギー設定部109から取得する。
そして、二重点用駆動力計算部114は、曲率半径Ri(t)と、粒界エネルギーγiとを(1)式に代入して、二重点iに生じる駆動力Fi(t)の大きさを計算する。また、二重点用駆動力計算部114は、計算対象の二重点iから曲率中心Oに向かう方向を計算し、二重点iに生じる駆動力Fi(t)の方向を決定する。
図2に説明を戻し、三重点用駆動力計算部115は、解析点判別部113により、計算対象の点iが三重点であると判別された場合に、その三重点に生じる駆動力Fi(t)を計算する。
図5は、三重点に生じる駆動力Fi(t)の計算方法の一例を説明する図である。尚、図5では、三重点iに生じる駆動力Fi(t)を計算する場合を例に挙げて説明する。また、図5では、三重点iに隣接する3つの点を夫々「1」、「2」、「3」で表記している。
まず、三重点用駆動力計算部115は、計算対象の三重点iと、その三重点iに隣接する3つの点1、2、3の情報を、点設定部103から読み出す。そして、三重点用駆動力計算部115は、計算対象の三重点iから、点1、2、3に向かう方向を有する単位ベクトルを計算する。また、三重点用駆動力計算部115は、点1、2、3が属する粒界uにおける粒界エネルギーγi1、γi2、γi3の大きさ(絶対値)を、粒界エネルギー設定部109から取得する。
そして、三重点用駆動力計算部115は、粒界エネルギーγi1、γi2、γi3の大きさ(絶対値)と、計算対象の三重点iから点1、2、3に向かう方向を有する単位ベクトル(dij(t)/|dij(t)|)とを、以下の(3)式に代入して、計算対象の三重点iに生じる駆動力Fi(t)を計算する。
尚、(3)式において、jは、計算対象の三重点iに隣接する3つの点を識別するための変数である。
このように、本実施形態では、点1、2、3が属する粒界uにおける粒界エネルギーγi1、γi2、γi3の大きさ(絶対値)と同じ大きさを有し、且つ、計算対象の三重点iから、その三重点iに隣接する点に向かう方向を有する3つのベクトルDi1(t)、Di2(t)、Di3(t)のベクトル和が、三重点iに生じる駆動力Fi(t)として計算される。
図2に説明を戻し、位置計算部116は、二重点iと三重点iの時間の経過に伴う位置の変化を計算する。まず、二重点iの時間の経過に伴う位置の変化を計算する方法の一例を説明する。
位置計算部116は、二重点用駆動力計算部114により計算された駆動力Fi(t)を示すベクトル(計算対象の二重点iに生じる駆動力Fi(t)を示すベクトル)を取得する。また、位置計算部116は、計算対象の二重点iが属する粒界uの易動度Miを、易動度設定部111から取得する。そして、位置計算部116は、計算対象の二重点iが属する粒界uの易動度Miと、計算対象の二重点iの駆動力Fi(t)を示すベクトルとを、以下の(4)式に代入して、計算対象の二重点iの速度vi(t)を示すベクトルを計算する。
その後、位置計算部116は、点設定部103に設定されている「計算対象の二重点iの現在の位置ri(t)を示すベクトル」を取得する。そして、位置計算部116は、計算対象の二重点iの速度vi(t)を示すベクトルと、計算対象の二重点iの現在の位置ri(t)を示すベクトルと、時間Δtとを、以下の(5)式に代入して、現在の時間tからΔt[sec]が経過したときに、計算対象の二重点iが存在する位置ri(t+Δt)を示すベクトルを計算する。本実施形態では、このようにして、計算対象の二重点iの時間の経過に伴う位置の変化が計算される。尚、時間Δtは、点iの位置を計算するタイミング(間隔)を規定するものであり、解析対象となる単相金属の種類や、解析条件、解析精度等に応じて予め定められている。
そして、位置計算部116は、計算対象の二重点iが存在する位置ri(t+Δt)を示すベクトルを、点設定部103に出力する。このようにすることによって、前述したように、計算対象の二重点iの現在の位置ri(t)を示すベクトルが、点設定部103で設定される。
次に、三重点iの時間の経過に伴う位置の変化を計算する方法の一例を説明する。
位置計算部116は、位置計算部116は、計算対象の三重点iが属する3つの粒界uの易動度Mi1〜Mi3を、易動度設定部111から取得する。
そして、位置計算部116は、計算対象の三重点iが属する3つの粒界uの易動度Mi1〜Mi3を用いて、計算対象の三重点iの易動度Miを計算する。具体的に、位置計算部116は、計算対象の三重点iから点1、2、3に向かう方向を有する単位ベクトル(dij(t)/|dij(t)|)と、計算対象の三重点iが属する3つの粒界uの易動度Mi1〜Mi3とを、以下の(6)式に代入して、計算対象の三重点iの易動度Miを計算する。
尚、(6)式において、jは、計算対象の三重点iに隣接する3つの点を識別するための変数である。
また、位置計算部116は、三重点用駆動力計算部115により計算された駆動力Fi(t)を示すベクトル(計算対象の三重点iに生じる駆動力Fi(t)を示すベクトル)を取得する。そして、位置計算部116は、計算対象の三重点iが属する粒界uの易動度Miと、計算対象の三重点iの駆動力Fi(t)を示すベクトルとを、前述した(4)式に代入して、計算対象の三重点iの速度vi(t)を示すベクトルを計算する。
その後、位置計算部116は、点設定部103に設定されている「計算対象の三重点iの現在の位置ri(t)を示すベクトル」を取得する。そして、位置計算部116は、計算対象の三重点iの速度vi(t)を示すベクトルと、計算対象の三重点iの現在の位置ri(t)を示すベクトルと、時間Δtとを、前述した(5)式に代入して、現在の時間tからΔt[sec]が経過したときに、計算対象の三重点iが存在する位置ri(t+Δt)を示すベクトルを計算する。本実施形態では、このようにして、計算対象の三重点iの時間の経過に伴う位置の変化が計算される。尚、前述したように、時間Δtは、点iの位置を計算するタイミング(間隔)を規定するものであり、解析対象となる単相金属の種類や、解析条件、解析精度等に応じて予め定められている。
そして、位置計算部116は、計算対象の三重点iが存在する位置ri(t+Δt)を示すベクトルを、点設定部103に出力する。このようにすることによって、前述したように、計算対象の三重点iの現在の位置ri(t)を示すベクトルが、点設定部103で設定される。
解析時間設定部112は、位置計算部116において、解析完了時間Tが経過したとき、又は解析完了時間Tが経過した後の位置ri(t+Δt)が、位置計算部116に計算されたか否かを判定することによって、解析完了時間Tまで解析が終了したか否かを判定する。
解析画像表示部117は、解析時間判別部112により、解析完了時間Tまで解析が終了したと判定されると、位置計算部116により計算された「点iの位置ri(t+Δt)のベクトル」に基づいて、時間tが0(ゼロ)からT[sec]までの間に、結晶粒Aの状態がどのように推移するのかを示す画像を、表示装置200に表示させる。
粒界長設定部118は、粒界設定部105により設定された粒界uに対する最小粒界長さLminを、RAM又はハードディスクに設定(記憶)する。
ここで、本実施形態では、位置計算部116において計算される粒界uの両端点(三重点)の時間Δt経過後の位置において、当該粒界uの一方の端点(三重点)が属する粒界と、当該粒界uの他方の端点(三重点)が属する粒界とが交差しない条件を満たす最小粒界長さLminを、粒界長設定部118で設定するものとする。すなわち、例えば、時間tの時点において、後述する図7(a)の状態であった場合に、時間t+Δt経過後に後述する図12(a)に示す状態にならないように、図7(a)に示す粒界uの最小粒界長さLminを設定する。本実施形態において設定される最小粒界長さLminについて、具体的に図6を用いて以下に説明する。
図6は、第1の実施形態を示し、最小粒界長さLminの設定方法の一例を説明する図である。
図6において、粒界uは、三重点30a及び30bを両端点として定められている。ここで、三重点30aの時間Δt経過後の位置について考える。この際、三重点30aが、時間Δt経過後に、三重点30bに向かう最大の移動距離Δr(max)は、三重点30aの最大の速度をΔV(max)とすると、以下の(7)式のように表せる。
Δr(max)=ΔV(max)×Δt ・・・(7)
ここで、(7)式に示す三重点30aの最大の速度ΔV(max)は、(4)式及び(3)式から、各粒界uにおける最大の易動度M(max)と、各粒界uにおける最大の粒界エネルギーγ(max)との積に比例するものと考えられる。
図6に示す三重点30bについても同様に、当該三重点30bが、時間Δt経過後に、三重点30aに向かう最大の移動距離Δr(max)は、前述した(7)式のように表せる。よって、本実施形態の粒界長設定部118では、最小粒界長さLminを、以下の(8)式を満たす条件で設定を行う。
Lmin≧2×Δr(max) ・・・(8)
すなわち、本実施形態における粒界長設定部118では、まず、粒界エネルギー設定部109から最大の粒界エネルギーγ(max)を読み出すと共に、易動度設定部111から最大の易動度M(max)を読み出し、読み出したこれらの情報に基づいて、三重点30a(又は30b)における最大の速度ΔV(max)を計算する。続いて、算出した最大の速度ΔV(max)と、予め定められている時間Δtとを(7)式に代入して、三重点30a(又は30b)における最大の移動距離Δr(max)を計算する。そして、算出した最大の移動距離Δr(max)を(8)式に代入して、図6に示す粒界uの一方の端点(三重点30a)が属する粒界と、当該粒界uの他方の端点(三重点30b)が属する粒界とが交差しない条件を満たす最小粒界長さLminを、RAM又はハードディスクに設定(記憶)する。
図2に説明を戻し、粒界変更処理部119は、粒界設定部105により設定された全ての粒界uについて、その長さが、粒界長設定部118により設定された最小粒界長さLmin未満であるか否かを判定する。そして、粒界変更処理部119は、最小粒界長さLmin未満であると判定した粒界uについて、その粒界uの変更処理を行う。第1の実施形態の粒界変更処理部119における粒界uの変更処理について、具体的に図7及び図8を用いて以下に説明する。
図7及び図8は、第1の実施形態を示し、粒界変更処理部119における粒界uの変更処理の一例を説明する図である。
図7(a)及び図8(a)は、粒界uの変更処理前の状態を示し、図7(b)及び図8(b)は、それぞれ、図7(a)及び図8(a)に示す粒界uの変更処理後の状態を示している。尚、図7(a)及び図8(a)では、説明を簡単にするために、処理対象の粒界u、並びに、当該粒界uの両端点(両三重点33、34)が属する他の粒界u31、u35、u42及びu46を直線で示すと共に、各粒界における粒界点を最小限にとどめて示している。この際、以下に示す各粒界の説明においては、例えば、図3(c)に示すような粒界(u1〜u4)にも、当然のこととして適用可能である。
まず、図7について説明する。
図7(a)に示す処理対象の粒界uは、三重点33及び34を両端点として定められている。また、粒界uの一方の端点である三重点33には、当該粒界u以外に、三重点31との間に粒界u31が形成され、三重点35との間に粒界u35が形成されている。また、粒界uの他方の端点である三重点34には、当該粒界u以外に、三重点32との間に粒界u42が形成され、三重点36との間に粒界u46が形成されている。ここで、処理対象の粒界uは、結晶粒A1、A3の粒界であり、粒界u31は、結晶粒A1、A4の粒界であり、粒界u35は、結晶粒A3、A4の粒界であり、粒界u42は、結晶粒A1、A2の粒界であり、粒界u46は、結晶粒A2、A3の粒界であるものとする。
まず、粒界変更処理部119は、処理対象の粒界uに係る情報を、粒界設定部105、ライン設定部104及び点設定部103から読み出し、読み出した情報に基づいて、当該粒界uの長さLuを計算する。具体的に、例えば、粒界変更処理部119は、粒界設定部105から、当該粒界uを特定するライン(p)に関する情報を読み出し、ライン設定部104から、粒界uを定める当該ライン(p)を特定する点(i)に関する情報を読み出し、点設定部103から、粒界uを定めるライン(p)を特定する当該点(i)の現在の位置(ri)を示す情報を読み出し、当該各点(i)の間の長さを積算することにより、粒界uの長さLuを計算する。
続いて、粒界変更処理部119は、算出した粒界uの長さLuが、粒界長設定部118により設定された最小粒界長さLmin未満であるか否かを判定する。そして、粒界変更処理部119は、算出した粒界uの長さLuが最小粒界長さLmin未満である場合には、図7(a)に示した粒界uを、図7(b)に示した粒界u'に変更して、粒界uの変更処理を行う。
具体的に、本実施形態では、例えば、粒界uの長さLuの中間位置を基準として、当該粒界uを90度回転移動させて、粒界u'に変更している。図7(b)に示す例では、粒界uを時計回りに回転移動させた例を示しているが、半時計回りに回転移動させた形態であってもよい。
この粒界uの粒界u'への変更処理により、図7(a)に示す三重点33及び34が、図7(b)に示す三重点33'及び34'に移動することになる。この際、図7(a)に示す各三重点31、32、35及び36との間に形成されていた粒界の変更処理も行われる。具体的には、図7(b)に示すように、粒界u'の一方の端点である三重点33'には、当該粒界u'以外に、三重点31との間に粒界u31'が形成され、三重点32との間に粒界u32'が形成される。また、粒界u'の他方の端点である三重点34'には、当該粒界u'以外に、三重点35との間に粒界u45'が形成され、三重点36との間に粒界u46'が形成される。
粒界変更処理部119は、粒界uの粒界u'への変更処理に伴う、前述した各種の再設定処理を、点設定部103、ライン設定部104及び粒界設定部105に対して行う。具体的に、粒界変更処理部119は、図7に示す例では、点設定部103に対して、三重点33を三重点33'、三重点34を三重点34'に変更する再設定を行わせ、ライン設定部104に対して、三重点33及び34の変更、並びに、図7に示す各粒界の変更に基づくライン(p)の再設定を行わせ、粒界設定部105に対して、図7(a)に示す各粒界を図7(b)に示す各粒界に変更する粒界の再設定を行わせる。
また、粒界エネルギー設定部109では、粒界変更処理部119により粒界の変更処理がなされると、これを契機として、変更された粒界(図7(b)の例では、粒界u'、及び、当該粒界u'の両端点が属する他の粒界u31'、u32'、u45'及びu46')に基づく粒界エネルギーγが、前述したようにして粒界エネルギー記憶部108に記憶されたグラフ等から読み出され、RAM又はハードディスクに再設定(記憶)される。
また、易動度設定部111では、粒界変更処理部119により粒界の変更処理がなされると、これを契機として、変更された粒界(図7(b)の例では、粒界u'、及び、当該粒界u'の両端点が属する他の粒界u31'、u32'、u45'及びu46')に基づく易動度Miが、前述したようにして易動度記憶部110に記憶されたグラフ等から読み出され、RAM又はハードディスクに再設定(記憶)される。
続いて、図8について説明する。
図8(a)に示す粒界uの変更処理前の状態は、図7(a)に示す状態に対して、処理対象の粒界uに、二重点21を粒界点として新たに設けたものである。
この図8(a)に示す場合も、図7(a)に示す場合と同様に、粒界変更処理部119は、まず、処理対象の粒界uに係る情報を、粒界設定部105、ライン設定部104及び点設定部103から読み出し、読み出した情報に基づいて、当該粒界uの長さLuを計算する。
続いて、図7(a)に示す場合と同様に、粒界変更処理部119は、算出した粒界uの長さLuが、粒界長設定部118により設定された最小粒界長さLmin未満であるか否かを判定する。そして、粒界変更処理部119は、算出した粒界uの長さLuが最小粒界長さLmin未満である場合には、図8(a)に示した粒界uを、図8(b)に示した粒界u'に変更して、粒界uの変更処理を行う。
具体的に、図7(a)に示す場合と同様に、例えば、粒界uの長さLuの中間位置を基準として、当該粒界uを90度回転移動させて、粒界u'に変更する。図8(b)に示す例でも、粒界uを時計回りに回転移動させた例を示しているが、半時計回りに回転移動させた形態であってもよい。
この粒界uの粒界u'への変更処理により、図8(a)に示す三重点33及び34、並びに、二重点21が、図8(b)に示す三重点33'及び34'、並びに、二重点21'に移動することになる。この際、図8(a)に示す各三重点31、32、35及び36との間に形成されていた粒界の変更処理も、図7に示す場合と同様に行われる。
そして、この場合も同様に、粒界変更処理部119は、粒界uの粒界u'への変更処理に伴う、前述した各種の再設定処理を、点設定部103、ライン設定部104及び粒界設定部105に対して行う。また、図7の場合と同様に、粒界エネルギー設定部109では、粒界変更処理部119により粒界の変更処理がなされると、これを契機として、変更された粒界に基づく粒界エネルギーγが再設定され、易動度設定部111では、変更された粒界に基づく易動度Miが再設定される。
尚、図8に示す例では、粒界uの粒界u'への変更処理により、二重点21も二重点21'の位置に移動させるようにしているが、例えば、二重点21は移動させずに、三重点33及び34のみをそれぞれ三重点33'及び34'の位置に移動させて、粒界u'とする形態であってもよい。
次に、図9−1〜図9−4のフローチャートを参照しながら、第1の実施形態に係る結晶粒解析装置100が行う処理動作の一例を説明する。尚、ユーザによる操作装置300の操作に基づいて、CPUが、ROMやハードディスクから制御プログラムを読み出して実行を開始することにより、図9−1に示すフローチャートの処理が開始される。
まず、図9−1のステップS1において、結晶画像取得部101は、単相金属の結晶粒Aの画像信号と、その画像信号に含まれる各結晶粒Aの方位ξを示す信号とが入力されるまで待機する。単相金属の結晶粒Aの画像信号(結晶粒画像信号)と、その画像信号に含まれる各結晶粒Aの方位ξを示す信号とが入力されると、ステップS2に進む。
ステップS2に進むと、結晶画像表示部102は、ステップS1で取得された結晶粒画像信号に基づく結晶粒画像31を、表示装置200に表示させる。このとき、結晶画像表示部102は、解析対象の単相金属(結晶粒A)の解析温度θ(t)と、解析完了時間Tとの入力をユーザに促すための画像も表示装置200に表示させる。そして、ここでは、解析温度θ(t)と、解析完了時間Tとが順次入力された後に、結晶粒画像31を参照しながらユーザが点(二重点又は三重点)iを指定できるようにする場合を例に挙げて説明する。
次に、ステップS3において、解析温度設定部106は、ユーザによる操作装置300の操作に基づいて、解析対象の単相金属(結晶粒A)の解析温度θ(t)が入力されるまで待機する。そして、解析対象の単相金属(結晶粒A)の解析温度θ(t)が入力されると、ステップS4に進む。
ステップS4に進むと、解析温度設定部106は、入力された解析対象の単相金属(結晶粒A)の解析温度θ(t)を、RAM又はハードディスクに設定する。尚、図9−1〜図9−4に示すフローチャートでは、解析対象の単相金属(結晶粒A)の解析温度θ(t)が、一定値である場合を例に挙げて説明する。
次に、ステップS5において、解析時間設定部112は、ユーザによる操作装置300の操作に基づいて、解析完了時間Tが入力されるまで待機する。そして、解析完了時間Tが入力されると、ステップS6に進む。
ステップS6に進むと、解析時間設定部112は、入力された解析完了時間Tを、RAM又はハードディスクに設定する。
次に、ステップS7において、点設定部103は、結晶画像表示部102により表示された結晶粒画像31に対して、点(二重点又は三重点)iが指定されるまで待機する。点(二重点又は三重点)iが指定されると、ステップS8に進む。
ステップS8に進むと、点設定部103は、ステップS7で指定されたと判定した点iの位置ri(t)を示すベクトルを計算して、RAM又はハードディスクに設定する。
次に、ステップS9において、点設定部103は、ユーザによる操作装置300の操作に基づいて、点(二重点又は三重点)iを指定する作業の終了指示がなされたか否かを判定する。この判定の結果、点iを指定する作業の終了指示がなされていない場合には、ステップS7に戻り、既に指定された点(二重点又は三重点)iと別の点(二重点又は三重点)iが指定されるまで待機する。
一方、点iを指定する作業の終了指示がなされた場合には、ステップS10に進む。ステップS10に進むと、点設定部103は、ステップS7で指定されたと判定した点(二重点又は三重点)iの数(すなわち、ステップS7の処理を行った回数)NIを計算して、RAM又はハードディスクに設定する。
次に、図9−2のステップS11において、ライン設定部104は、ステップS8で設定された点(二重点又は三重点)iのうち、同一の粒界u上で互いに隣接する2つの点iにより特定されるラインpを、RAM又はハードディスクに設定する。すなわち、ライン設定部104は、ラインpを、そのラインpを特定する2つの点iにより定義する。例えば、図3(c)に示したラインp1は、以下の(9)式のように定義される。
p1={i1,i2} ・・・(9)
次に、ステップS12において、粒界設定部105は、ステップS11で設定されたラインpのうち、ステップS8により設定された三重点iを両端として互いに接続されたラインpにより特定される粒界u及びその数NUを、RAM又はハードディスクに設定する。すなわち、粒界設定部105は、粒界uを、その粒界uを特定する複数のラインpにより定義する。例えば、図3(c)に示した粒界u1は、以下の(10)式のように定義される。
u1={p1,p2,p3,p4} ・・・(10)
次に、ステップS13において、方位設定部107は、ステップS1で入力されたと判定された「結晶粒画像31に含まれる各結晶粒Aの方位ξを示す信号」に基づいて、結晶粒画像31に含まれる全ての結晶粒Aの方位ξを、RAM又はハードディスクに設定する。
次に、ステップS14において、粒界エネルギー設定部109は、ステップS13で設定された結晶粒Aの方位ξと、ステップS4で設定された解析温度θ(t)とに基づいて、粒界エネルギー記憶部108に記憶されたグラフ等から、ステップS12で設定された全ての粒界uの粒界エネルギーγを読み出す。そして、粒界エネルギー設定部109は、読み出した粒界エネルギーγを、RAM又はハードディスクに設定する。
次に、ステップS15において、易動度設定部111は、ステップS13で設定された結晶粒Aの方位ξと、ステップS4で設定された解析温度θ(t)とに基づいて、易動度記憶部110に記憶されたグラフ等から、ステップS12で設定された全ての粒界uの易動度Miを読み出す。そして、易動度設定部111は、読み出した易動度Miを、RAM又はハードディスクに設定する。
次に、ステップS16において、粒界長設定部118は、粒界設定部105により設定された粒界uに対する最小粒界長さLminを、RAM又はハードディスクに設定(記憶)する。
ここで、本実施形態では、ステップS16の最小粒界長さLminの設定に際しては、前述したように、粒界uの両端点(三重点)の時間Δt経過後の位置において、当該粒界uの一方の端点(三重点)が属する粒界と、当該粒界uの他方の端点(三重点)が属する粒界とが交差しない条件を満たす最小粒界長さLminが設定される。
具体的に、ステップS16では、ステップS14で設定された全ての粒界uの粒界エネルギーγのうちの最大の粒界エネルギーγ(max)と、ステップS15で設定された全ての粒界uの易動度Miのうちの最大の易動度M(max)とを取得し、取得したこれらの情報に基づいて、粒界uの端点(例えば、図6に示す三重点30a)における最大の速度ΔV(max)を計算する。続いて、算出した最大の速度ΔV(max)と、予め定められている時間Δtとを、前述した(7)式に代入して、粒界uの端点(例えば、図6に示す三重点30a)における最大の移動距離Δr(max)を計算する。そして、算出した最大の移動距離Δr(max)を前述した(8)式に代入して、粒界uの一方の端点(例えば、図6に示す三重点30a)が属する粒界と、当該粒界uの他方の端点(例えば、図6に示す三重点30b)が属する粒界とが交差しない条件を満たす最小粒界長さLminを、RAM又はハードディスクに設定(記憶)する。ここで、ステップS16では、(8)式に基づき、Lmin=2×Δr(max)で最小粒界長さLminを設定するものとする。
次に、図9−3のステップS17において、解析時間設定部112は、時間tを0(ゼロ)に設定する。
次に、ステップS18において、粒界変更処理部119は、処理対象の粒界を示す変数uを1に設定する。これにより処理対象の粒界uが設定される。
次に、ステップS19において、粒界変更処理部119は、処理対象の粒界uに係る情報を、粒界設定部105、ライン設定部104及び点設定部103から読み出し、読み出した情報に基づいて、当該粒界uの長さLuを計算する。
次に、ステップS20において、粒界変更処理部119は、ステップS19で算出した粒界uの長さLuが、ステップS16で設定された最小粒界長さLmin未満であるか否かを判定する。ステップS20の判定の結果、粒界uの長さLuが最小粒界長さLmin未満である場合には、ステップS21に進む。
ステップS21に進むと、粒界変更処理部119は、処理対象の粒界uの変更処理を行う。
具体的に、本実施形態では、例えば、図7(a)又は図8(a)に示す粒界uの長さLuの中間位置を基準として、当該粒界uを90度回転移動させて、図7(b)又は図8(b)に示す粒界u'に変更する処理を行う。ここで、ステップS21の具体的な処理について、図7に示す例を代表して説明を行う。
この粒界uの粒界u'への変更処理により、図7(a)に示す三重点33及び34が、図7(b)に示す三重点33'及び34'に移動することになる。よって、ステップS21では、図7(a)に示す各三重点31、32、35及び36との間に形成されていた粒界の変更処理も行われる。具体的には、図7(b)に示すように、粒界u'の一方の端点である三重点33'については、当該粒界u'以外に、三重点31との間に粒界u31'を形成する処理が行われると共に、三重点32との間に粒界u32'を形成する処理が行われる。また、粒界u'の他方の端点である三重点34'については、当該粒界u'以外に、三重点35との間に粒界u45'を形成する処理が行われると共に、三重点36との間に粒界u46'を形成する処理が行われる。
具体的に、ステップS21では、粒界変更処理部119は、点設定部103に対して、三重点33を三重点33'、三重点34を三重点34'に変更する再設定を行わせ、ライン設定部104に対して、三重点33及び34の変更、並びに、図7に示す各粒界の変更に基づくライン(p)の再設定を行わせ、粒界設定部105に対して、図7(a)に示す各粒界を図7(b)に示す各粒界に変更する粒界の再設定を行わせる。
そして、この粒界変更処理部119による粒界uの変更処理がなされたことを契機として、粒界エネルギー設定部109では、変更された粒界(図7(b)の粒界u'、及び、当該粒界u'の両端点が属する他の粒界u31'、u32'、u45'及びu46')に基づく粒界エネルギーγが、前述したようにして粒界エネルギー記憶部108に記憶されたグラフ等から読み出され、RAM又はハードディスクに再設定(記憶)される。また、易動度設定部111では、変更された粒界(図7(b)の粒界u'、及び、当該粒界u'の両端点が属する他の粒界u31'、u32'、u45'及びu46')に基づく易動度Miが、前述したようにして易動度記憶部110に記憶されたグラフ等から読み出され、RAM又はハードディスクに再設定(記憶)される。
ステップS21の処理が終了した場合、又は、ステップS20で粒界uの長さLuが最小粒界長さLmin未満でないと判定された場合には、ステップS22に進む。
ステップS22に進むと、粒界変更処理部119は、処理対象の粒界を示す変数uがステップS12で設定された粒界の数NUより小さいか否かを判定する。この判定の結果、処理対象の粒界を示す変数uがステップS12で設定された粒界の数NUより小さい場合には、まだ未処理の粒界uがあると判定し、ステップS23に進む。
ステップS23に進むと、粒界変更処理部119は、処理対象の粒界を示す変数uに1を加算して、処理対象の粒界uを変更する。そして、変更した粒界uに対して、ステップS19以降の処理を再度行う。
一方、ステップS22において、処理対象の粒界を示す変数uがステップS12で設定された粒界の数NU以上であると判定された場合には、粒界設定部105で設定された全ての粒界uについて処理されたと判定し、図9−4のステップS24に進む。
図9−4のステップS24に進むと、解析点判別部113は、計算対象の点を示す変数iを1に設定する。これにより計算対象の点iが設定される。
次に、ステップS25において、解析点判別部113は、計算対象の点iが、二重点か否かを判定する。この判定の結果、計算対象の点iが、二重点である場合には、ステップS26に進む。
ステップS26に進むと、二重点用駆動力計算部114及び位置計算部116による二重点用駆動力・位置算出処理が行われる。ここで、このステップS26の詳細な処理動作について、図10を用いて説明する。
図9−4のステップS26では、まず、図10のステップS261において、二重点用駆動力計算部114は、図4に示す計算対象の二重点i、及びその二重点に隣接する2つの点i−1、i+1の情報を、点設定部103から読み出す。そして、二重点用駆動力計算部114は、二重点iと、その二重点iに隣接する2つの点i−1、i+1とにより定まる円弧41の曲率中心O及び曲率半径Ri(t)を計算する。
次に、ステップS262において、二重点用駆動力計算部114は、計算対象の二重点iが属する粒界uの単位長さ当たりの粒界エネルギーγiを、粒界エネルギー(γ)設定部109から読み出す。
次に、ステップS263において、二重点用駆動力計算部114は、ステップS261で計算した曲率半径Ri(t)と、ステップS262で読み出した単位長さ当たりの粒界エネルギーγiとを(1)式に代入して、二重点iに生じる駆動力Fi(t)の大きさを計算する。
また、二重点用駆動力計算部114は、計算対象の二重点iの現在の位置ri(t)を示すベクトルを点設定部103から読み出す。そして、二重点用駆動力計算部114は、計算対象の二重点iの現在の位置ri(t)を示すベクトルと、ステップS261で計算した曲率中心Oとから、計算対象の二重点iから曲率中心Oに向かう方向を計算し、二重点iに生じる駆動力Fi(t)の方向を決定する。これにより、二重点iに生じる駆動力Fi(t)を示すベクトルが得られる。
次に、ステップS264において、位置計算部116は、計算対象の二重点iが属する粒界uに対応する易動度Miを、易動度設定部111から読み出す。
次に、ステップS265において、位置計算部116は、計算対象の二重点iの現在の位置ri(t)を示すベクトルを点設定部103から受け取る。
次に、ステップS266において、位置計算部116は、まず、ステップS263で得られた「計算対象の二重点iに生じる駆動力Fi(t)を示すベクトル」と、ステップS264で得られた「計算対象の二重点iが属する粒界uの易動度Mi」とを、(4)式に代入して、計算対象の二重点iの速度vi(t)を示すベクトルを計算する。
そして、位置計算部116は、計算対象の二重点iの速度vi(t)を示すベクトルと、計算対象の二重点iの現在の位置ri(t)を示すベクトルと、時間Δtとを、以下の(5)式に代入して、現在の時間tからΔt[sec]が経過したときに、計算対象の二重点iが存在する位置ri(t+Δt)を示すベクトルを計算する。
以上のステップS261〜ステップS266までの処理を経ることにより、図9−4のステップS26に示す二重点用駆動力・位置算出処理が行われる。
一方、ステップS25の判定の結果、計算対象の点iが、二重点でなく、三重点である場合には、ステップS27に進む。
ステップS27に進むと、三重点用駆動力計算部115及び位置計算部116による三重点用駆動力・位置算出処理が行われる。ここで、このステップS27の詳細な処理動作について、図11を用いて説明する。
図9−4のステップS27では、まず、図11のステップS271において、三重点用駆動力計算部115は、計算対象の三重点iが属する3つの粒界uにおける単位長さ当たりの粒界エネルギーγi1、γi2、γi3の大きさ(絶対値)を、粒界エネルギー(γ)設定部109から読み出す。さらに、三重点用駆動力計算部115は、図5に示す計算対象の三重点iと、その三重点iに隣接する3つの点1、2、3の情報を、点設定部103から読み出す。そして、三重点用駆動力計算部115は、計算対象の三重点iから、点1、2、3に向かう方向を有する単位ベクトルを計算する。
次に、ステップS272において、三重点用駆動力計算部115は、ステップS271で読み出した「単位長さ当たりの粒界エネルギーγi1、γi2、γi3の大きさ」と、ステップS271で計算した「計算対象の三重点iから、点1、2、3に向かう方向を有する単位ベクトル」とを(3)式に代入して、計算対象の三重点iに生じる駆動力Fi(t)を示すベクトルを計算する。
次に、ステップS273において、位置計算部116は、計算対象の三重点iが属する3つの粒界uに対応する易動度Mi1〜Mi3を、易動度設定部111から読み出す。
次に、ステップS274において、位置計算部116は、計算対象の三重点iが属する3つの粒界uの易動度Mi1〜Mi3と、計算対象の三重点iから点1、2、3に向かう方向を有する単位ベクトル(dij(t)/|dij(t)|)とを、(6)式に代入して、計算対象の三重点iの易動度Miを計算する。尚、計算対象の三重点iから点1、2、3に向かう方向を有する単位ベクトルは、ステップS271で計算されたものを使用することができる。
次に、ステップS275において、位置計算部116は、計算対象の三重点iの現在の位置ri(t)を示すベクトルを点設定部103から受け取る。
次に、ステップS276において、位置計算部116は、まず、ステップS272で得られた「計算対象の三重点iに生じる駆動力Fi(t)を示すベクトル」と、ステップS274で得られた「計算対象の三重点iの易動度Mi」とを、(4)式に代入して、計算対象の三重点iの速度vi(t)を示すベクトルを計算する。
そして、位置計算部116は、計算対象の三重点iの速度vi(t)を示すベクトルと、計算対象の三重点iの現在の位置ri(t)を示すベクトルと、時間Δtとを、(5)式に代入して、現在の時間tからΔt[sec]が経過したときに、計算対象の三重点iが存在する位置ri(t+Δt)を示すベクトルを計算する。
以上のステップS271〜ステップS276までの処理を経ることにより、図9−4のステップS27に示す三重点用駆動力・位置算出処理が行われる。
次に、ステップS28において、解析点判別部113は、計算対象の点を示す変数iがステップS10で設定された数NIより小さいか否かを判定する。この判定の結果、計算対象の点を示す変数iがステップS10で設定された数NIより小さい場合には、時間t+Δtにおける位置を、点設定部103で設定された全ての点iについて計算していないと判定し、ステップS29に進む。
ステップS29に進むと、解析点判別部113は、計算対象の点を示す変数iに1を加算して、計算対象の点iを変更する。そして、変更した点iに対して、ステップS25以降の処理を再度行う。
一方、ステップS28において、計算対象の点を示す変数iがステップS10で設定された数NI以上であると判定された場合には、時間t+Δtにおける位置を、点設定部103で設定された全ての点iについて計算したと判定し、ステップS30に進む。
ステップS30に進むと、位置計算部116は、計算対象の点iが存在する位置ri(t+Δt)を示すベクトルを、点設定部103に出力する。これにより、計算対象の点iの現在の位置ri(t)を示すベクトルが、点設定部103で設定(又は更新)される。
次に、ステップS31において、解析時間設定部112は、時間tが、ステップS6で設定した解析完了時間Tよりも大きいか否かを判定する。すなわち、解析完了時間Tが経過したか否かを判定する。この判定の結果、時間tが、ステップS6で設定した解析完了時間Tより大きくない場合(解析完了時間Tが経過していない場合)には、ステップ32に進む。
ステップS32に進むと、解析時間設定部112は、現在設定している時間tに時間Δtを加算して、時間tを更新する。そして、図9−3のステップS18以降の処理を再度行う。
一方、ステップS31において、時間tが、ステップS6で設定した解析完了時間Tよりも大きいと判定され場合(解析完了時間Tが経過した場合)には、ステップS33に進む。
ステップS33に進むと、解析画像表示部117は、ステップS26又はステップS27で計算された「点iの位置ri(t+Δt)のベクトル」に基づいて、時間tが0(ゼロ)からT[sec]までの間に、結晶粒Aの状態がどのように推移するのかを示す画像を、表示装置200に表示させる。そして、図9−1〜図9−4の一連のフローチャートを終了する。
尚、ステップS3で入力される解析温度θ(t)が時間に依存する場合、例えば、ステップS32の後に、ステップS32で設定された時間t+Δtにおける解析温度θ(t+Δt)を読み出し、その解析温度θ(t+Δt)における粒界エネルギーγと易動度Miとを再設定してから、ステップS18以降の処理を行うようにすればよい。
第1の実施形態に係る結晶粒解析装置では、粒界設定部105により設定された粒界uに対する最小粒界長さLminを設定し(図9−2のS16)、粒界uの長さLuが、最小粒界長さLmin未満である場合に、当該粒界uの変更処理を行うようにしている(図9−3のS21)。
一般に、結晶粒成長に伴う粒界の移動において、複雑に絡み合う粒界は、何度も交差を繰り返すことになる。しかしながら、前述した粒界の変更処理を行わないと、粒界が交差した後に、当該交差した粒界が再度、他の粒界と交差するという不具合が生じ、実際の結晶粒成長に伴う粒界の移動とかけ離れたものとなってしまう。
そこで、第1の実施形態では、粒界が交差する前に、粒界uの長さLuが最小粒界長さLmin未満となった場合に、当該粒界uを変更処理して、粒界uのスイッチング処理を行うようにしたものである。
かかる構成によれば、結晶粒の成長に伴って複雑に絡み合う粒界における解析を、従来よりも容易に且つ正確に行うことができる。よって、結晶粒が時間の経過と共にどのように変化するのかを、従来よりも容易に且つ正確に解析することができる。
(第2の実施形態)
以下、本発明の第2の実施形態について説明する。
第1の実施形態では、粒界長設定部118により粒界uに対する最小粒界長さLminを設定し、粒界変更処理部119において、処理対象の粒界uの長さLuが最小粒界長さLmin未満である場合に、粒界uの変更処理を行う形態であったが、第2の実施形態では、粒界長設定部118による最小粒界長さLminの設定を行わず、粒界uの一方の端点(三重点)が属する粒界と、当該粒界uの他方の端点(三重点)が属する粒界とが交差した場合に、粒界uの変更処理を行う形態である。
したがって、第2の実施形態に係る結晶粒解析装置の機能構成は、図2に示す第1の実施形態に係る結晶粒解析装置の機能構成に対して、粒界長設定部118を省略したものとなる。また、第2の実施形態では、粒界変更処理部119の処理の内容が、第1の実施形態と異なる。第2の実施形態の粒界変更処理部119における粒界uの変更処理について、具体的に図12及び図13を用いて以下に説明する。
図12及び図13は、第2の実施形態を示し、粒界変更処理部119における粒界uの変更処理の一例を説明する図である。
図12(a)及び図13(a)は、粒界uの変更処理前の状態を示し、図12(b)及び図13(b)は、それぞれ、図12(a)及び図13(a)に示す粒界uの変更処理後の状態を示している。尚、図12(a)及び図13(a)では、説明を簡単にするために、処理対象の粒界u、並びに、当該粒界uの両端点(両三重点33、34)が属する他の粒界u31、u35、u42及びu46を直線で示すと共に、各粒界における粒界点を最小限にとどめて示している。この際、以下に示す各粒界の説明においては、例えば、図3(c)に示すような粒界(u1〜u4)にも、当然のこととして適用可能である。
まず、図12について説明する。
図12(a)に示す処理対象の粒界uは、三重点33及び34を両端点として定められている。また、粒界uの一方の端点である三重点33には、当該粒界u以外に、三重点31との間に粒界u31が形成され、三重点35との間に粒界u35が形成されている。また、粒界uの他方の端点である三重点34には、当該粒界u以外に、三重点32との間に粒界u42が形成され、三重点36との間に粒界u46が形成されている。
まず、粒界変更処理部119は、処理対象の粒界uの両端点である三重点33及び34が属する粒界に係る情報を、粒界設定部105、ライン設定部104及び点設定部103から読み出す。図12(a)に示す例では、処理対象の粒界uに係る情報に加えて、粒界u31、u35、u42及びu46に係る情報が読み出される。
具体的に、例えば、図12(a)に示す例では、粒界変更処理部119は、粒界設定部105から、各粒界u、u31、u35、u42及びu46を特定するライン(p)に関する情報を読み出し、ライン設定部104から、各粒界u、u31、u35、u42及びu46を定める当該ライン(p)を特定する点(i)に関する情報を読み出し、点設定部103から、各粒界u、u31、u35、u42及びu46を定めるライン(p)を特定する当該点(i)の現在の位置(ri)を示す情報を読み出す。
続いて、粒界変更処理部119は、処理対象の粒界uの一方の端点である三重点33が属する粒界(粒界u、u31及びu35)と、他方の端点である三重点34が属する粒界(粒界u、u42及びu46)とが交差するか否かを判定する。図12(a)には、三重点33が属する粒界u31と三重点34が属する粒界u42とが交点x1で交差し、かつ、三重点33が属する粒界u35と三重点34が属する粒界u46とが交点x2で交差する例が示されている。
そして、粒界変更処理部119は、処理対象の粒界uの一方の端点である三重点33が属する粒界(粒界u、u31及びu35)と、他方の端点である三重点34が属する粒界(粒界u、u42及びu46)とが交差する場合、各交点x1、x2の位置に、粒界uの各端点33、34を移動させて、図12(a)に示した粒界uを、図12(b)に示した粒界u'に変更して、粒界uの変更処理を行う。図12に示す例では、交点x1の位置に粒界uの端点33を移動させ、交点x2の位置に粒界uの端点34を移動させた例を示しているが、逆の形態であってもよい。
この粒界uの粒界u'への変更処理により、図12(a)に示す三重点33及び34が、図12(b)に示す三重点33'及び34'に移動することになる。この際、図12(a)に示す各三重点31、32、35及び36との間に形成されていた粒界の変更処理も行われる。具体的には、図12(b)に示すように、粒界u'の一方の端点である三重点33'には、当該粒界u'以外に、三重点31との間に粒界u31'が形成され、三重点32との間に粒界u32'が形成される。また、粒界u'の他方の端点である三重点34'には、当該粒界u'以外に、三重点35との間に粒界u45'が形成され、三重点36との間に粒界u46'が形成される。
粒界変更処理部119は、粒界uの粒界u'への変更処理に伴う、前述した各種の再設定処理を、点設定部103、ライン設定部104及び粒界設定部105に対して行う。具体的に、粒界変更処理部119は、図12に示す例では、点設定部103に対して、三重点33を三重点33'、三重点34を三重点34'に変更する再設定を行わせ、ライン設定部104に対して、三重点33及び34の変更、並びに、図12に示す各粒界の変更に基づくライン(p)の再設定を行わせ、粒界設定部105に対して、図12(a)に示す各粒界を図12(b)に示す各粒界に変更する粒界の再設定を行わせる。
また、粒界エネルギー設定部109では、粒界変更処理部119により粒界の変更処理がなされると、これを契機として、変更された粒界(図12(b)の例では、粒界u'、及び、当該粒界u'の両端点が属する他の粒界u31'、u32'、u45'及びu46')に基づく粒界エネルギーγが、前述したようにして粒界エネルギー記憶部108に記憶されたグラフ等から読み出され、RAM又はハードディスクに再設定(記憶)される。
また、易動度設定部111では、粒界変更処理部119により粒界の変更処理がなされると、これを契機として、変更された粒界(図12(b)の例では、粒界u'、及び、当該粒界u'の両端点が属する他の粒界u31'、u32'、u45'及びu46')に基づく易動度Miが、前述したようにして易動度記憶部110に記憶されたグラフ等から読み出され、RAM又はハードディスクに再設定(記憶)される。
続いて、図13について説明する。
図13(a)に示す粒界uの変更処理前の状態は、図12(a)に示す状態に対して、処理対象の粒界uに、二重点21を粒界点として新たに設けたものである。
この図13(a)に示す場合も、図12(a)に示す場合と同様に、粒界変更処理部119は、まず、処理対象の粒界uの両端点である三重点33及び34が属する粒界(u、u31、u35、u42及びu46)に係る情報を、粒界設定部105、ライン設定部104及び点設定部103から読み出す。
続いて、図12(a)に示す場合と同様に、粒界変更処理部119は、処理対象の粒界uの一方の端点である三重点33が属する粒界(粒界u、u31及びu35)と、他方の端点である三重点34が属する粒界(粒界u、u42及びu46)とが交差するか否かを判定する。
そして、粒界変更処理部119は、処理対象の粒界uの一方の端点である三重点33が属する粒界(粒界u、u31及びu35)と、他方の端点である三重点34が属する粒界(粒界u、u42及びu46)とが交差する場合、各交点x1、x2の位置に、粒界uの各端点33、34を移動させて、図13(a)に示した粒界uを、図13(b)に示した粒界u'に変更して、粒界uの変更処理を行う。図13に示す例では、図12に示す例と同様に、交点x1の位置に粒界uの端点33を移動させ、交点x2の位置に粒界uの端点34を移動させた例を示しているが、逆の形態であってもよい。
また、図13には、粒界uの粒界u'への変更処理により、粒界uに対する二重点21の相対位置に応じて、当該二重点21を、粒界u'の二重点21'の位置に移動させた例を示している。この際、例えば、二重点21は移動させずに、三重点33及び34のみをそれぞれ三重点33'及び34'の位置に移動させて、粒界u'とする形態であってもよい。
この粒界uの粒界u'への変更処理により、図13(a)に示す三重点33及び34、並びに、二重点21が、図13(b)に示す三重点33'及び34'、並びに、二重点21'に移動することになる。この際、図13(a)に示す各三重点31、32、35及び36との間に形成されていた粒界の変更処理も、図12に示す場合と同様に行われる。
そして、この場合も同様に、粒界変更処理部119は、粒界uの粒界u'への変更処理に伴う、前述した各種の再設定処理を、点設定部103、ライン設定部104及び粒界設定部105に対して行う。また、図12の場合と同様に、粒界エネルギー設定部109では、粒界変更処理部119により粒界の変更処理がなされると、これを契機として、変更された粒界に基づく粒界エネルギーγが再設定され、易動度設定部111では、変更された粒界に基づく易動度Miが再設定される。
次に、図14のフローチャートを参照しながら、第2の実施形態に係る結晶粒解析装置100が行う処理動作の一例を説明する。尚、図14に示すフローチャートにおいて、図9−3に示すステップと同様のステップについては、同じ符号を付している。
まず、第2の実施形態係る結晶粒解析装置100の処理動作では、図9−1に示すステップS1〜S10及び図9−2に示すステップS11〜S15を経る。
そして、本実施形態では、図9−2に示すステップ16の処理動作は行わずに、図14のステップS17に進む。
図14のステップS17に進むと、解析時間設定部112は、時間tを0(ゼロ)に設定する。
次に、ステップS18において、粒界変更処理部119は、処理対象の粒界を示す変数uを1に設定する。これにより処理対象の粒界uが設定される。
次に、ステップS201において、粒界変更処理部119は、処理対象の粒界uの両端点が属する粒界に係る情報を、粒界設定部105、ライン設定部104及び点設定部103から読み出す。具体的に、図12(a)及び図13(a)に示す例では、処理対象の粒界uに係る情報に加えて、粒界u31、u35、u42及びu46に係る情報が読み出されることになる。
次に、ステップS202において、粒界変更処理部119は、処理対象の粒界uの一方の端点(例えば、図12及び図13の三重点33)が属する粒界(粒界u、u31及びu35)と、他方の端点(例えば、図12及び図13の三重点34)が属する粒界(粒界u、u42及びu46)とが交差するか否かを判定する。この判定の結果、処理対象の粒界uの一方の端点が属する粒界と、他方の端点が属する粒界とが交差する場合には、ステップS203に進む。
ステップS203に進むと、粒界変更処理部119は、処理対象の粒界uの変更処理を行う。
具体的に、本実施形態では、例えば、図12(a)又は図13(a)に示す、処理対象の粒界uの一方の端点である三重点33が属する粒界u31と他方の端点である三重点34が属する粒界u42との交点x1、及び、三重点33が属する粒界u35と三重点34が属する粒界u46との交点x2の位置に、粒界uの各端点33及び34を移動させて、処理対象の粒界uを、図12(b)又は図13(b)に示す粒界u'に変更する処理を行う。ここで、ステップS203の具体的な処理について、図12に示す例を代表して説明を行う。
この粒界uの粒界u'への変更処理により、図12(a)に示す三重点33及び34が、図12(b)に示す三重点33'及び34'に移動することになる。よって、ステップS203では、図12(a)に示す各三重点31、32、35及び36との間に形成されていた粒界の変更処理も行われる。具体的には、図12(b)に示すように、粒界u'の一方の端点である三重点33' については、当該粒界u'以外に、三重点31との間に粒界u31'を形成する処理が行われると共に、三重点32との間に粒界u32'を形成する処理が行われる。また、粒界u'の他方の端点である三重点34' については、当該粒界u'以外に、三重点35との間に粒界u45'を形成する処理が行われると共に、三重点36との間に粒界u46'を形成する処理が行われる。
具体的に、ステップS203では、粒界変更処理部119は、点設定部103に対して、三重点33を三重点33'、三重点34を三重点34'に変更する再設定を行わせ、ライン設定部104に対して、三重点33及び34の変更、並びに、図12に示す各粒界の変更に基づくライン(p)の再設定を行わせ、粒界設定部105に対して、図12(a)に示す各粒界を図12(b)に示す各粒界に変更する粒界の再設定を行わせる。
そして、この粒界変更処理部119による粒界uの変更処理がなされたことを契機として、粒界エネルギー設定部109では、変更された粒界(図12(b)の例では、粒界u'、及び、当該粒界u'の両端点が属する他の粒界u31'、u32'、u45'及びu46')に基づく粒界エネルギーγが、前述したようにして粒界エネルギー記憶部108に記憶されたグラフ等から読み出され、RAM又はハードディスクに再設定(記憶)される。また、易動度設定部111では、変更された粒界(図12(b)の例では、粒界u'、及び、当該粒界u'の両端点が属する他の粒界u31'、u32'、u45'及びu46')に基づく易動度Miが、前述したようにして易動度記憶部110に記憶されたグラフ等から読み出され、RAM又はハードディスクに再設定(記憶)される。
ステップS203の処理が終了した場合、又は、ステップS202で処理対象の粒界uの一方の端点が属する粒界と他方の端点が属する粒界とが交差しないと判定された場合(例えば、図7(a)又は図8(a)に示す場合)には、ステップS22に進む。
ステップS22に進むと、粒界変更処理部119は、処理対象の粒界を示す変数uが図9−2のステップS12で設定された粒界の数NUより小さいか否かを判定する。この判定の結果、処理対象の粒界を示す変数uがステップS12で設定された粒界の数NUより小さい場合には、まだ未処理の粒界uがあると判定し、ステップS23に進む。
ステップS23に進むと、粒界変更処理部119は、処理対象の粒界を示す変数uに1を加算して、処理対象の粒界uを変更する。そして、変更した粒界uに対して、図14のステップS201以降の処理を再度行う。
一方、ステップS22において、処理対象の粒界を示す変数uがステップS12で設定された粒界の数NU以上であると判定された場合には、粒界設定部105で設定された全ての粒界uについて処理されたと判定し、図9−4のステップS24に進む。
その後、第1の実施形態で示した図9−4に示すステップS24〜S33を経て、第2の実施形態係る結晶粒解析装置100の処理動作が終了する。
第2の実施形態に係る結晶粒解析装置では、粒界設定部105により設定された粒界uであって、当該粒界uの一方の端点である三重点が属する粒界と、当該粒界uの他方の端点である三重点が属する粒界とが交差する場合に、当該粒界uの変更処理を行うようにしている(図14のS203)。
第2の実施形態では、粒界uの両端点が属する粒界同士が交差した場合に、当該粒界uを変更処理して、粒界uのスイッチング処理を行うようにしたものである。
かかる構成によれば、結晶粒の成長に伴って複雑に絡み合う粒界における解析を、従来よりも容易に且つ正確に行うことができる。よって、結晶粒が時間の経過と共にどのように変化するのかを、従来よりも容易に且つ正確に解析することができる。
(第3の実施形態)
以下、本発明の第3の実施形態について説明する。
第3の実施形態では、粒界変更処理部119において、第1の実施形態で行った最小粒界長さLminの設定による粒界uの変更処理と、第2の実施形態で行った粒界uの両端点が属する粒界が交差した場合の粒界uの変更処理との両方を行う形態である。
したがって、第3の実施形態に係る結晶粒解析装置の機能構成は、図2に示す第1の実施形態に係る結晶粒解析装置の機能構成と同じとなる。また、第3の実施形態では、粒界長設定部118による最小粒界長さLminの設定の内容が、第1の実施形態と異なる。
具体的に、第1の実施形態では、粒界長設定部118において、最小粒界長さLminを、粒界uの両端点が属する粒界が交差しない条件を満たす長さとして設定するものであった。これを満たすために、第1の実施形態における粒界長設定部118では、粒界uの各端点における時間Δt経過後の最大の移動距離Δr(max)を考慮し、(8)式を満たす条件で最小粒界長さLminの設定を行っていた。この場合、粒界uの両端点が属する粒界が交差した場合の処理を行う必要が無いため、処理の簡素化を図ることができる一方で、粒界uの変更処理を行う基準となる最小粒界長さLminを大きくとるため、粒界の移動に対する精度が多少低下することが懸念される。
そこで、第3の実施形態では、粒界長設定部118において設定する最小粒界長さLminを、第1の実施形態の場合よりも小さくして、粒界の移動に対する精度の更なる向上を図るものである。
次に、図15のフローチャートを参照しながら、第3の実施形態に係る結晶粒解析装置100が行う処理動作の一例を説明する。尚、図15に示すフローチャートにおいて、図14に示すステップと同様のステップについては、同じ符号を付している。
まず、第3の実施形態係る結晶粒解析装置100の処理動作では、図9−1に示すステップS1〜S10及び図9−2に示すステップS11〜S16を経る。
この際、ステップS16において、第1の実施形態では、最小粒界長さLminを、(8)式に基づき、Lmin=2×Δr(max)で設定を行っていたが、第3の実施形態では、第1の実施形態で設定した最小粒界長さLminに対して、例えば、1/2〜1/10程度の長さで、最小粒界長さLminを設定する。
尚、本実施形態の最小粒界長さLminの設定については、この形態に限定されるものではなく、例えば、単に、予め定められている時間Δtに比例して(すなわち、時間Δtの長さに応じて)決定する形態であってもよい。更に、例えば、結晶粒Aの方位ξ及び解析温度θ(t)に基づき定まる粒界エネルギーγを比例定数として、各粒界u毎に最小粒界長さLminを設定する形態も適用可能である。この場合は、各粒界u毎に最小粒界長さLminを設定するため、計算処理の量が増大するが、粒界の移動に対する更なる精度の向上が期待できる。また、最小粒界長さLminの設定を、ユーザによる操作装置300の操作に基づいて行うようにした形態であってもよい。
次に、図15のステップS17において、解析時間設定部112は、時間tを0(ゼロ)に設定する。
次に、ステップS18において、粒界変更処理部119は、処理対象の粒界を示す変数uを1に設定する。これにより処理対象の粒界uが設定される。
次に、ステップS201において、粒界変更処理部119は、処理対象の粒界uの両端点が属する粒界に係る情報を、粒界設定部105、ライン設定部104及び点設定部103から読み出す。具体的に、図12(a)及び図13(a)に示す例では、処理対象の粒界uに係る情報に加えて、粒界u31、u35、u42及びu46に係る情報が読み出されることになる。
次に、ステップS202において、粒界変更処理部119は、処理対象の粒界uの一方の端点(例えば、図12及び図13の三重点33)が属する粒界(粒界u、u31及びu35)と、他方の端点(例えば、図12及び図13の三重点34)が属する粒界(粒界u、u42及びu46)とが交差するか否かを判定する。
ステップS202の判定の結果、処理対象の粒界uの一方の端点が属する粒界と、他方の端点が属する粒界とが交差する場合には、ステップS303に進み、粒界変更処理部119は、処理対象の粒界uの変更処理を行う。
この場合は、第2の実施形態における図14のステップS203と同様に、粒界変更処理部119は、例えば、図12(a)又は図13(a)に示す、処理対象の粒界uの一方の端点である三重点33が属する粒界u31と他方の端点である三重点34が属する粒界u42との交点x1、及び、三重点33が属する粒界u35と三重点34が属する粒界u46との交点x2の位置に、粒界uの各端点33及び34を移動させて、処理対象の粒界uを、図12(b)又は図13(b)に示す粒界u'に変更する処理を行う。
例えば、図12に示す例では、この粒界uの粒界u'への変更処理により、図12(a)に示す三重点33及び34が、図12(b)に示す三重点33'及び34'に移動することになり、当該ステップS303では、図12(a)に示す各三重点31、32、35及び36との間に形成されていた粒界の変更処理も行われる。この場合の粒界uの変更処理に伴う、点設定部103、ライン設定部104及び粒界設定部105に対する再設定の処理方法、並びに、粒界エネルギー設定部109及び易動度設定部111による再設定の処理方法は、前述した図14のステップS203と同様であるため、その説明は省略する。
一方、ステップS202の判定の結果、処理対象の粒界uの一方の端点が属する粒界と、他方の端点が属する粒界とが交差しない場合には、ステップS301に進む。ステップS301に進むと、粒界変更処理部119は、処理対象の粒界uに係る情報を、粒界設定部105、ライン設定部104及び点設定部103から読み出し、読み出した情報に基づいて、当該粒界uの長さLuを計算する。
次に、ステップS302において、粒界変更処理部119は、ステップS301で算出した粒界uの長さLuが、ステップS16で設定された最小粒界長さLmin未満であるか否かを判定する。
ステップS20の判定の結果、粒界uの長さLuが最小粒界長さLmin未満である場合には、ステップS303に進み、粒界変更処理部119は、処理対象の粒界uの変更処理を行う。
この場合は、第1の実施形態における図9−3のステップS21と同様に、粒界変更処理部119は、例えば、図7(a)又は図8(a)に示す粒界uの長さLuの中間位置を基準として、当該粒界uを90度回転移動させて、図7(b)又は図8(b)に示す粒界u'に変更する処理を行う。
例えば、図7に示す例では、この粒界uの粒界u'への変更処理により、図7(a)に示す三重点33及び34が、図7(b)に示す三重点33'及び34'に移動することになり、当該ステップS303では、図7(a)に示す各三重点31、32、35及び36との間に形成されていた粒界の変更処理も行われる。この場合の粒界uの変更処理に伴う、点設定部103、ライン設定部104及び粒界設定部105に対する再設定の処理方法、並びに、粒界エネルギー設定部109及び易動度設定部111による再設定の処理方法は、前述した図9−3のステップS21と同様であるため、その説明は省略する。
ステップS303の処理が終了した場合、又は、ステップS302で粒界uの長さLuが最小粒界長さLmin未満でないと判定された場合には、ステップS22に進む。
ステップS22に進むと、粒界変更処理部119は、処理対象の粒界を示す変数uが図9−2のステップS12で設定された粒界の数NUより小さいか否かを判定する。この判定の結果、処理対象の粒界を示す変数uがステップS12で設定された粒界の数NUより小さい場合には、まだ未処理の粒界uがあると判定し、ステップS23に進む。
ステップS23に進むと、粒界変更処理部119は、処理対象の粒界を示す変数uに1を加算して、処理対象の粒界uを変更する。そして、変更した粒界uに対して、図15のステップS201以降の処理を再度行う。
一方、ステップS22において、処理対象の粒界を示す変数uがステップS12で設定された粒界の数NU以上であると判定された場合には、粒界設定部105で設定された全ての粒界uについて処理されたと判定し、図9−4のステップS24に進む。
その後、第1の実施形態で示した図9−4に示すステップS24〜S33を経て、第3の実施形態係る結晶粒解析装置100の処理動作が終了する。
第3の実施形態に係る結晶粒解析装置では、粒界設定部105により設定された粒界uであって、当該粒界uの一方の端点である三重点が属する粒界と、当該粒界uの他方の端点である三重点が属する粒界とが交差する場合に、当該粒界uを変更する第1の変更処理を行い(図15のS303)、第1の変更処理が行われない粒界uであって、その長さLuが、粒界長設定部118により設定された最小粒界長さLmin未満である場合に、当該粒界uを変更する第2の変更処理を行うようにしている(図15のS303)。
かかる構成によれば、結晶粒の成長に伴って複雑に絡み合う粒界における解析を、従来よりも容易に且つ正確に行うことができる。よって、結晶粒が時間の経過と共にどのように変化するのかを、従来よりも容易に且つ正確に解析することができる。
次に、以上のような処理動作を行う結晶粒解析装置100の実施例を説明する。
尚、ここでは、結晶粒解析装置として第1の実施形態の結晶粒解析装置100を用い、また、結晶粒の解析対象である金属材料として、チタン(Ti)の量が重量で0.05%、炭素(C)の量が重量で0.02%の深絞り鋼板を適用する場合を例に挙げて説明する。
まず、冷延板をコイルエッジから10mm×10mmのサイズで切り出し、仕上げ焼鈍炉制御室に設置した小型卓上焼鈍炉で温度700℃に加熱して、その後に冷却し、析出物であるTiCの分布状態を透過型電子顕微鏡で観察し撮影を行い、撮影した画像に画像解析処理を施して、仕上げ焼鈍サイクルを策定するための入力データを作成した。また、一次再結晶化した組織を光学顕微鏡で観察し撮影を行い、撮影した画像から結晶粒界像のみを画像処理で抽出してこれを結晶粒入力データとし、本結晶粒解析装置100を稼動させた。この際、結晶粒の粒径は、平均で約5μmであった。ここで、仕上げ焼鈍後に、深絞り鋼板の目標とする結晶粒の粒径は10μmである。
結晶粒成長に伴う粒界の移動において、複雑に絡み合う粒界は、何度も交差を繰り返すが、粒界とは境界線であるという本質に基づけば、交差後にすれ違うという現象は有り得ず、必ずスイッチングが発生しなければならない。
そこで、本結晶粒解析装置100を用いて仕上げ焼鈍サイクルを策定した。
仕上げ焼鈍炉は、温度700℃までは固定昇温速度で昇温し、到達温度850℃までの最適昇温速度を制御するものであった。100本のコイルを通板したが、小型卓上焼鈍炉でのサンプルの結晶粒の粒径は、ばらつき無く5μmであった。一方、析出物の分布に差異があったため、温度700℃以降の昇温速度をコイルごとに変更しないと、最終の結晶粒の粒径を10μmにばらつき無く制御できないことも容易に想定できた。
そこで、コイルごとに、5℃/sec〜50℃/secの昇温速度を適用して結晶粒径を計算し、10μmに最も近くなる昇温速度を実設備の焼鈍サイクルとして適用した。
まず、図9−3に示す処理(具体的に、ステップS21の粒界uの変更処理)を行わないプログラムにより策定した仕上げ焼鈍サイクルでは、最終製品における平均の結晶粒の粒径が10.3μmで、標準偏差が0.8μmであった。一方、第1の実施形態の結晶粒解析装置100の処理動作におけるプログラムにより策定した前述の仕上げ焼鈍サイクルでは、最終製品における平均の結晶粒の粒径が9.9μmで、標準偏差が0.3μmとなった。この様に、本発明を適用することにより、品質バラツキの少ない生産手段が得られることが確認できた。
尚、本発明の実施形態では、ユーザが、結晶粒画像31を見ながら、操作装置300を使用して、点iを指定する場合を例に挙げて説明したが、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、EBSP法で解析することにより得られた結晶粒画像信号に基づいて、結晶粒解析装置100(コンピュータ)が自動的に、点iを指定するようにしてもよい。この場合、粒界uの長さに応じて二重点iの数を異ならせたり、粒界uの曲率に応じて二重点iの数を異ならせたり(例えば、直線的な部分よりも凸凹している部分に多くの二重点iを指定したり)することができる。
また、本発明の実施形態では、粒界エネルギー設定部109、易動度設定部111は、粒界uを介して互いに隣接する2つの結晶粒Aの方位ξの差分Δξの絶対値に基づいて、粒界エネルギーγ、易動度Miを設定するようにしたが、粒界uを介して互いに隣接する2つの結晶粒Aの方位ξの差分Δξそのものに基づいて、粒界エネルギーγ、易動度Miを設定するようにしてもよい。
また、本発明の実施形態では、(6)式を用いて、計算対象の三重点iにおける易動度Miを求めるようにしたが、計算対象の三重点iが属する3つの粒界uに対応する易動度Mi1〜Mi3を用いて、計算対象の三重点iの易動度Miを求めるようにしていれば、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、以下の(11)式を用いて、計算対象の三重点iにおける易動度Miを求めるようにしてもよい。
また、本発明の実施形態では、図3(b)に示すように、結晶粒A1に対して、粒界点として、二重点(i2〜i4、i6〜i10、i12〜i15、i17、i18)と、三重点(i1、i5、i11、i16)を設定する形態であったが、本発明においては、粒界uを特定する三重点が最低限設定されていれば、必ずしも二重点を設定する必要はない。この場合、例えば、図3(b)に示す例では、結晶粒A1に対して、粒界点として、三重点i1、i5、i11、i16のみを設定することになる。
図16は、本発明のその他の実施形態を示し、結晶粒解析装置で設定する粒界点として三重点を設定した際に設定されるラインp及び粒界uの一例を示す図である。この図16において、図3(b)に示す点と同じ点については、同様の符号を付している。
図16に示すように、粒界点として、三重点i1、i5、i11、i16のみを設定する場合、ライン設定部104において、三重点i1及びi5により特定されるラインp1と、三重点i5及びi11により特定されるラインp2と、三重点i11及びi16により特定されるラインp3と、三重点i16及びi1により特定されるラインp4が設定される。そして、粒界設定部105において、三重点i1及びi5を両端点として接続されたラインp1により特定される粒界u1と、三重点i5及びi11を両端点として接続されたラインp2により特定される粒界u2と、三重点i11及びi16を両端点として接続されたラインp3により特定される粒界u3と、三重点i16及びi1を両端点として接続されたラインp4により特定される粒界u4が設定される。
また、粒界点として、三重点i1、i5、i11、i16のみを設定する場合には、当然のこととして、二重点用駆動力計算部114及び位置計算部116による、ステップS26の二重点用駆動力・位置算出処理を行わない形態となる。
この形態では、第1〜第3の実施形態に対して、処理の簡素化を図ることができる。
また、前述した実施例では、結晶粒解析装置100が解析する材料の一例である金属材料として、薄板鋼板を例に挙げて説明したが、結晶粒解析装置100が解析する材料は、このようなものに限定されない。例えば、形状は、薄板に限定されず、厚板、線材等であってもよい。また、電磁鋼板、ステンレス、チタン、アルミニウム等、全ての金属材料を適用することができる。尚、結晶粒解析装置100が解析する材料が異なる場合には、粒界エネルギー記憶部108や易動度記憶部110に記憶されるグラフ等の内容等、結晶粒解析装置100に入力されるデータが、材料に応じて異なることになる。
以上説明した本発明の実施形態のうち、CPUが実行する部分は、コンピュータがプログラム(コンピュータプログラム)を実行することによって実現することができる。また、プログラムをコンピュータに供給するための手段、例えばかかるプログラムを記録したCD−ROM等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体、又はかかるプログラムを伝送する伝送媒体も本発明の実施形態として適用することができる。また、上記プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体などのプログラムプロダクトも本発明の実施の形態として適用することができる。上記のプログラム、コンピュータ読み取り可能な記録媒体、伝送媒体及びプログラムプロダクトは、本発明の範疇に含まれる。
また、前述した実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。