JP4387810B2 - 三次元塑性変形解析方法 - Google Patents
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Description
試料表面に存在する結晶粒の二次元観察データから三次元の塑性ひずみを評価する三次元塑性ひずみ解析方法において、被測定結晶粒の試料表面における縦横寸法および面積を光学顕微鏡によって取得して被測定結晶粒の粒界を特定し、その縦横寸法および面積を画像処理によってピクセル数で求めるとともに、被測定結晶粒の表面におけるすべり線角度を走査顕微鏡により、また、結晶方位を後方散乱電子線回折法により取得し、前記粒界の縦横寸法、面積、すべり線角度および結晶方位から所定の計算式により、三次元の垂直ひずみ3成分(εx ,εy ,εz )と剪断ひずみ3成分(γxy,γyz,γzx)の6成分を算出し、さらに、前記後方散乱電子線回折(EBSD)法により求められる前記結晶方位の変形前後の差から結晶の回転量(角度変化)を求め、所定の計算式により塑性回転3成分(ωx ,ωy ,ωz )を算出し、三次元塑性ひずみにおける前記6成分に三次元塑性回転の3成分の評価を加えて、結晶体内における三次元の塑性変形を評価することを特徴とする三次元塑性変形解析方法である。
また、前記被測定結晶粒の試料表面における変形前後の画像を取得して、被測定結晶粒の粒界を特定し、その縦横寸法および面積を画像処理によってピクセル数で求めるに際し、面内で45°回転した画像を変形前後で取得し、垂直ひずみ成分(εx ,εy )を所定の計算式により求めるとともに、剪断ひずみγxyを他の所定の計算式により求めることを特徴とする三次元塑性ひずみ解析方法である。
また、前記各結晶の回転量から三次元的な塑性回転を求めることを特徴とする三次元塑性変形解析方法である。
また、前記各結晶の塑性ひずみおよび塑性回転を同時に求め、それらを互いに比較することを特徴とする三次元塑性変形解析方法である。
また、前記各結晶の塑性ひずみおよび塑性回転から、変形後における結晶表面の角度を評価することを特徴とする三次元塑性変形解析方法である。
以下、本発明の三次元塑性ひずみ解析および塑性回転解析から構成される三次元塑性変形解析方法の実施の形態を図面に基づいて説明する。塑性変形が塑性ひずみと塑性回転から成り立つと考えられるところから、先ず、三次元塑性ひずみ解析方法について述べる。図1に示すように、試料表面に存在する結晶粒の二次元観察データから三次元の塑性ひずみを評価する三次元塑性ひずみ解析方法において、被測定結晶粒の試料表面における変形前後の画像を取得して、被測定結晶粒の粒界を特定し、その縦横寸法および面積を画像処理によってピクセル数で求めるとともに、被測定結晶粒の表面におけるすべり線角度および結晶方位を求め、前記粒界の縦横寸法、面積、すべり線角度および結晶方位から所定の計算式により、三次元の垂直ひずみ3成分(εx ,εy ,εz )と剪断ひずみ3成分(γxy,γyz,γzx)の6成分を算出することにより、結晶体内における三次元の塑性ひずみを評価することを特徴とする。
引張り試験は図2に示す多結晶銅の平板試験片を用いて実施した。供試材は工業用純銅圧延板(純度99.5%、板厚1.00mm)であり、圧延方向を試験片の長手方向とした。本発明では引張り試験の前に、まず、#2000のエミリー紙および粒径1μmのダイヤモンドペーストを用いた機械研摩にて、試験片表面を鏡面状態に仕上げた。次に、真空焼鈍(焼鈍温度600°C、保持時間1h、炉冷)を施し、さらに、電解研磨により試験片表面の酸化膜を除去した後、化学腐食を行い、結晶粒界が識別できるようにした。
本発明では、試験片表面に存在する結晶粒の観察に2種類の顕微鏡を用いた。まず、各結晶粒の二次元的ひずみの評価には光学顕微鏡を用いた。試験片表面の光学顕微鏡による観察像をコンピュータ内に取り込み、その画像を二値化処理した。その後、Hilditchの細線化処理を施し、粒界線の幅を1画素とし、その最終画像から各結晶粒の形状等を評価した。画像からひずみを評価する方法は後述する。次に、結晶粒内のすべり線の荷重軸に対する角度(すべり線角度)は、走査型電子顕微鏡を用いて撮影した画像から測定した。すべり線角度は、その結晶粒のひずみを三次元的に評価する際に必要である。詳細は同じく後述する。一方、結晶方位解析は、日立製S−3500N型走査型電子顕微鏡内に設置したOxford社製Link Opalシステムを用いてEBSD法により行なった。測定方法の詳細は、既に別報で報告した通りである。前述の光学顕微鏡画像から得られた結晶粒界がEBSDの結果と一致していることは確認済みである。
材料表面内の垂直、剪断ひずみと奥行き方向の垂直ひずみについて説明する。一般に、材料内のひずみを微小ひずみと仮定すると、任意の個所のひずみは、εx 、εy 、εz 、γxy、γyz、γzxの6成分で規定される。本発明では、そのうち材料表面内の垂直ひずみとせん断ひずみであるεx 、εy 、γxy、および、表面に対して垂直方向(奥行き方向)の垂直ひずみであるεz を結晶粒の画像処理結果から決定した。残りの奥行き方向のせん断ひずみであるγyzとγzxは、結晶粒の塑性変形に関する制約条件を考慮することにより別途、決定した。測定範囲内の代表的な結晶粒変形後の走査電子顕微鏡画像を図3に示す。ただし、図中では、結晶粒界をわかりやすくするため細線で表示している。図からわかるように、各結晶粒内ではすべり線が、ほぼ結晶粒全体に一様に現れており、すべり線の方向は、ほぼ同じである。これは結晶粒の変形が単一のすべり系のすべり変形により生じていることを示している。
(1)各結晶粒の塑性変形は、結晶粒内において、一様に生じる。
(2)各結晶粒の塑性変形は非圧縮性で、変形の前後において体積変化が生じない。
(3)各結晶粒で生じているすべり変形のすべり面は同一の方位であり、多重すべりは生じない。
本発明では、まず、上記(1)と(2)の仮定に基づいて以下のようにひずみεx 、εy 、γxyを求める。図4に示すように、荷重軸方向(x軸)、表面内で、それに垂直な方向(y軸)、および両者に垂直なz軸から構成されるxyz座標系と、そのxyz座標系(以後、x−y座標系と呼ぶ)に対して、z軸まわりに45°回転したx’y’z座標系(以後、x’−y’座標系と呼ぶ)を考える。x−y座標系の各軸方向のひずみであるεx とεy 、x’−y’座標系の各軸方向のひずみであるεx とεy を次式により求める。
Nx ̄=Nt/ly:x軸方向の平均画素数
Ny ̄=Nt/lx:y軸方向の平均画素数
Nx’ ̄=Nt/ly’:x’軸方向の平均画素数
Ny’ ̄=Nt/lx’:y’軸方向の平均画素数
ここで、Nt :結晶粒内の総画素数
lx :x軸方向の最大長さ
ly :y軸方向の最大長さ
lx’:x’軸方向の最大長さ
ly’:y’軸方向の最大長さ
ただし、添字に0が付いている項は、各量の変形前の量であり、例えば、Nx ̄(ただし、Nx ̄はNxの算術平均を表しており、バーNxのことで、数式以外の文章では便宜的にNx ̄で表している。以下の同様の表記についても同じ)の場合は、Nt0 ̄/lyoとなる。また、lx、ly、lx’、ly’は、画素の大きさを基準長さとする無次元化長さとする。lxが3画素分の長さであればlx=3となる。
材料表面における、結晶粒の外形変化のみでは結晶粒の試験片内部方向のせん断ひずみであるγyz、γzxを計算することはできない。そこで、本発明ではSEMにより観察されるすべり線の荷重軸に対する角度θとEBSD法により求めた結晶方位の結果を用いて、各結晶粒のすべり面を特定する。その後、その特定したすべり面に対する力学的変形拘束を考慮し、γyzとγzxを計算する。その具体的な方法を以下に示す。
一般に面心立方格子(fcc)金属では、{111}面が活動すべり面となることが知られている。したがって、EBSD法により、ある結晶粒の方位が測定されると、その結晶粒の(111)、(−111)、(−1 −11)、および(1 −11)(ただし−は負の値を示す)の4つのすべり面の方位が明らかとなり、各すべり面と表面の交線が荷重軸となす角度、すなわちすべり線角度も同時に求めることができる。荷重軸とすべり面、すべり線の幾何学的関係を模式的に図6に示す。本発明では、測定領域中に存在する全結晶粒について、それぞれ4つのすべり面候補を考え、各すべりと試験片表面との交線であるすべり線の角度θを計算する。4つのすべり面候補の中でSEMより観察されたすべり線と最も近い角度を有するものを活動すべり面と推定した。実際のすべり線角度θとEBSD法から推定したすべり線角度の差は小さく、最大でも5°程度であった。以上のプロセスにより活動すべり面の三次元的方位が明らかとなり、図6中に示す活動すべり面の奥行き方向の角度であるξが求められる。ξについての詳細は後述する。
いま、図7に示すように、ある結晶粒の塑性変形が同一方向の多数のすべり面のすべりにより構成されている場合を考える。図中において、nは活動すべり面の単位法線ベクトルであり、mはすべり線方向の単位ベクトルである。また、m’はy=0とすべり面の交線に関する単位方向ベクトルである。したがって、m、m’は、いずれもnに垂直な単位方向ベクトルとなる。結晶粒の塑性変形が完全にすべり面同士のすべり変形によって構成されていると仮定したため、結晶粒はすべり面に平行な剪断変形のみが生じ、nおよびm、m’方向の垂直ひずみであるεn とεm 、εm'はいずれも0となる。したがって、次式が成立する。
<仮定した結晶粒の変形様式の確認>
前述のように、本発明では、各結晶粒の塑性変形が同一方向の多数のすべり面のすべりにより構成されていると仮定し、その仮定より導かれる変形に関する拘束条件式を用いて奥行き方向の剪断ひずみγyz,γzxを求めた。ここで、試験片表面内のせん断ひずみγxyは式(5)および式(9)の双方から求められるため、両者が一致すれば、実際の結晶粒が、仮定した変形様式で変形していることを裏付けることになる。両者を比較した結果を図8に示す。図中の横軸は式(5)より求めた剪断断ひずみをγxyBMP として、また、縦軸は式(9)より求めた剪断ひずみγxyを示している。なお、結果を22.5°≦θ≦67.5°の範囲と、θ<22.5°、67.5°<θの範囲により分けているのは、式(9)からわかるように、γxyは1/tanθとtanθの項を含むため、θが0°および90°近傍でγxyの誤差が大きくなる。
結晶粒の塑性ひずみの6成分の変化を図9に示す。図中の各ひずみにおける縦方向のバーは、ひずみが評価可能であった結晶粒に関するひずみの最大値と最小値、すなわち、ひずみの変動範囲を示している。また、ε=0.10までひずみが評価可能であった結晶粒のうちで、代表的な結晶粒10個については、同一結晶粒におけるひずみ成分の変化がわかるように折れ線で結んで示した。図から読み取れるように荷重軸方向(x軸方向)のひずみεx は、ひずみの増加に伴い各結晶粒の値は増減を示しながらも、平均値は線形増加を示している。また、奥行き方向の垂直ひずみεz も、各結晶粒の値は増減を示しながらも、平均値は線形減少を示している。一方、試験片表面内における荷重軸垂直方向ひずみεy の平均値は、ほぼ0である。したがって、荷重軸方向に引伸ばされた結晶粒は主として奥行き方向に縮むことにより一定の体積を保っていると言える。次に図9(d)、(e)、(f)に示す剪断ひずみ成分γxy、γyz、γzxの変化を見ると、各剪断ひずみの値は、負荷ひずみの増加に伴い増加するものと減少するものが入り混ざっており、中には増減を繰り返すものも存在する。しかしながら、その平均値はほぼ0で一定となっている。
各結晶粒の最大主ひずみの変化を図10に示す。ただし、図9と同様に縦方向のバーはひずみの最大値と最小値を示し、また代表的な結晶粒10個については折れ線で結んで示している。図9(a)に示した荷重軸方向の垂直ひずみであるεx と同様、最大主ひずみに関しても巨視的負荷ひずみの増加に伴い、ほぼ線形的に増加している。図11に主ひずみ方向の三次元分布を示す。ここで、図中の○印はxyz座標系上の単位ベクトルの先端の位置を示しており、図中(a)(b)(c)の右半分はx−y平面への投影点、左半分はy−z平面への投影点を示している。x−y平面、y−z平面のいずれの平面上においても、巨視的負荷ひずみの増加に伴い主ひずみ方向は荷重軸方向に向く傾向にあることがわかる。
本発明では、後方散乱電子線回折(EBSD)法および画像処理を併用して多結晶金属材料中に存在する各結晶粒のひずみを三次元的に求める手法を提案するとともに、提案した手法を多結晶銅の引張りに対して適用した。得られた結果は以下のように要約できる。 (1)各結晶粒の塑性ひずみ6 成分εx 、εy 、εz 、γxy、γyz、γzx(xが荷重軸方向、x−y平面が試験片表面、zが試験片表面の法線方向)のうち、εx 、εy 、εz 、γxyの4成分は結晶粒の画像情報から、他の2成分γyz、γzxは、それに結晶粒の方位情報と単一すべり系による塑性変形の拘束条件を考慮することにより得られる。
(3)γyz、γzxは各結晶粒の塑性変形が同一方向の多数のすべり面のすべりにより生じていると仮定し、そのすべり面の荷重軸に対する角度と(2)で求めたひずみにより求めた。なお、本発明で用いた銅の活動すべり面は(4つある{lll}面のうち1つ)は、走査型電子顕微鏡によるすべり線の観察およびEBSD法により決定した。
本発明では、さらに塑性変形を正確に記述する際に必要な結晶粒の剛体回転成分(塑性回転)を評価し、各結晶粒における塑性回転と塑性ひずみの関係について検討した。また、評価方法および結果の妥当性に関しては、表面形状測定顕微鏡を用いて、別途、測定した各結晶粒の表面傾斜角度が塑性ひずみと塑性回転から予測される結果とよい対応を示すか否かにより検討した。
供試材は工業用純銅圧延板(純度99.5%、板厚1.0mm)であり,図2に示すように圧延方向を長手方向とする平板試験片を作製した。これを機械研磨して試験片表面を鏡面状態に仕上げた援、真空焼鈍(焼鈍温度873K、保持時間1h、炉冷)および電解研磨を行い、機械加工の際に生じた残留応力や試験片表面の酸化膜、微細な研磨傷を除去した。さらに,結晶粒界を判別できるように化学腐食を行った。引張り試験は日立製200Kg試料引張り試験装置を用いて行い、試験片の巨視的ひずみεが0.03、0.07の二段階で引張り試験を中断し、除荷後に各種の測定を実施した。測定は試験片平行部の中央部500μm×500μmの正方形領域について行った。なお、本報告では紙面の都合上、巨視的ひずみが0.03の場合の結果のみを示すが、巨視的ひずみが0.07においても塑性ひずみや塑性回転の分布において、ほぼ同様の結果が得られた。試験片の巨視的ひずみは、変形前にアカシ製微小硬さ試験機MVK−H0を用いて長手方向に500μm間隔で6点の圧痕を打ち、圧痕間距離の変化から評価した。
<塑性ひずみと塑性回転>
結晶粒の塑性変形に関するモデルを図15に示す。図中に示すx’y’z’およびx”y”z”座標系は変形前後における結晶座標系であり、xyz座標系は巨視的な試験片座標系である。いま、結晶粒の塑性変形量が微小な場合について考えると、塑性変形は一般に、変位勾配テンソル∇j ui で表され、それはさらにひずみテンソルεijと回転テンソルωijに分離てきる。
∇j ui =εij+ωij
ここで、εijは変位勾配テンソルの対称テンソル成分であり、ωijは反対称テンソル成分である。したがって、εijは独立な6成分で、ωijは独立な3成分で表現される。ここで、εijおよびωijの各成分を一般の工学的表記で表すと、それぞれ(εx ,εy ,εz ,γxy/2,γyz/2,γzx/2)および(ωx ,ωy ,ωz )となり、各結晶粒について、これらの9成分が全て求められると、塑性変形が三次元的に完全に記述されることになる。本発明では、前者の6成分を「塑性ひずみ]、後者の3成分を「塑性回転」と呼ぶことにする。
結晶粒の三次元的塑性ひずみ(εx ,εy ,εz ,γxy,γyz,γzx)については、結晶粒の塑性変形に関し、前記段落0019の仮定に基づいて計算される。つまり、
(1)各結晶粒の塑性変形は非圧縮性であり、変形前後において体積変化が生しない。 (2)各結晶粒の塑性変形はすべり変形により生じ、結晶粒内において一様に生じる。 (3〕各結晶粒で生じるすべり変形のすべり面は同一の方位であり、複数のすべり面における多重すべりは生じない。
以上の仮定が成立すると、垂直ひずみ成分は前記式(1)(2)および下記式より計算できる。
εz =(Nt −Nt0)/Nt0
ここで、NX  ̄およびNy  ̄は、それぞれ結晶粒のx軸およびy軸方向の平均画素数で、Nt は総画素数である。ただし、添字に0が付いている項は変形前の量である。これらの量は、すべて試験片表面の観察結果を画像処理することにより得られる。
γxy=−εx −εy +ε45
さらに、試験片内部方向の剪断ひずみであるγyz,γzxはEBSD法および試験片表面におけるすべり線の観察結果により活動すべり面を三次元的に同定し、前記式(10)および(11)を用いて計算できる。
なお、式中のθおよびζは活動すべり面の角度である。
図15に示すx’y’z’およびx”y”z”座標系は変形前後における結晶座標系であり、それぞれEBSD法による結晶方位の測定結果から直接的に求めることができる。ここで、変形前の結晶座標系であるx’y’z’座標系を基準座標系として、その基本ベクトルex',ey'およびez'の変形前後における回転角度から塑性回転ωx ,ωy およびωz を評価する。結晶座標系x’y’z’およびx”y”z”と各結晶粒の塑性回転の関係を図16に示す。まず、図16(a)を参考に、z”軸方向の単位ベクトルez"の角度について考える。図中のγはez"がz”軸となす角度であり、γ1 はez"のz’x’平面への正射影がz’軸となす角度、γ2 はez"のy’z’平面への正射影がz’軸となす角度である。いま、微小な塑性変形を仮定しているため、γ,γ1 およびγ2 は微小量となり、変位の勾配∂ux'/∂z',∂u y'/∂z'および∂u z'/∂z'は、それぞれ次式(12)で表される。
<結晶粒界と双晶境界の分布>
図17(a)に測定範囲である500μm×500μmの正方形領域全域の変形前における光学顕微鏡画像を示す。ただし、図中では、今回の測定対象となる結晶粒の結晶粒界と双晶境界をわかりやすく細線で補足している。図からわかるように、結晶粒の形状は比較的単純であるが、双晶境界に囲まれた部分は直線的な細長い形状となっている。図17(b)に引張りにより巨視的ひずみε=0.03の塑性変形を与えた後の代表的な結晶粒の光学顕微鏡画像を示す。結晶粒aとcではすべり線が一様、かつ結晶粒のほぼ全面に現れている。一方、結晶粒bでは、変形後においてもすべり線が明瞭に観察できない。結晶粒bとcの境界は次節で述べる結晶方位分布図において双晶境界と判断できるが、両結晶粒内におけるすべり線の方向は互いに異なっている。本発明では、以上の観察結果に基づき、双晶境界も通常の結晶粒界と同様に取り扱い、いずれかの境界に取り囲まれた部分を一つの結晶粒としてひずみ等の評価を行った。
変形前(初期状態)および巨視的ひずみε=0.03の引張り塑性変形を与えた後における試験片表面法線方向と荷重軸方向の結晶方位分布図を図18に示す。結晶方位分布図の濃淡は同図中に示す逆極点図の濃淡に対応している。図からわかるように、変形の前後それぞれにおいて同一結晶粒内では方位がほぼ一定であり、異なる方位の境界部分が図17で得られた結晶粒界に一致している。また、それほど大きくはないが結晶粒の方位変化も見られる。
巨視的ひずみε=0.03の引張り塑性変形を与えた後における結晶粒の三次元的塑性ひずみと塑性回転の関係を図19および図20に示す。ただし、図19は垂直ひずみ成分と回転の関係であり、図20は剪断ひずみ成分と回転の関孫である。ここで、両図中のデータはすべり線が明瞭に観察でき、かつ、同定した活動すべり面の奥行き方向角度がζがπ/8≦|ζ|≦3π/8の範囲にあるものである。ここで、角度ζの値に制限を設けた理由は、角度ζが0もしくはπ/2近傍の値を取る場合は、前記式(10)および(11)から明らかなように、ζのわずかな誤差がγyz,γzxの評価値に大きな差として現れるためである。図17(a)に示した観察領域内に存在し、その面素数がl0000以上の結晶粒は125個であったが、そのうちですべり線とすべり面角度に関する上述の基準を満たしたものは、105個であり、図19以降では、これらについての結果のみを示している。
図21に模式的に示すように微小変形下では、対象領域内のひずみ6成分と回転3成分が定まれば、その領域内の変位勾配を求めることができる。本発明で検討の対象とした試験片表面に存在する結晶粒では、各結晶粒表面のx軸およびy軸方向の表面傾斜角度であるθx およびθy を前節で評価したひずみおよび回転の成分を用いてγzx/2−ωy およびγyz/2+ωx として求めることができる。本発明では、この塑性ひずみおよび塑性回転から求めた両表面傾斜角度と、別途、表面形状測定顕微境を用いて測定したθx およびθy を比較した。表面傾斜角度θx とγzx/2−ωy の関係を図22に、表面傾斜角度θy とγyz/2+ωx の関係を図23にそれぞれ示す。各結晶粒の表面をそれぞれ一つの平面に近似しているため、相関がそれ程良くはないが、γzx/2−ωy とθx およびγyz/2+ωx とθy はほぼ等しい関係にあることがわかる。これは、本発明で用いた結晶粒の塑性ひずみおよび塑性回転の評価方法ならぴに評価結果が妥当であることを示している。
本発明では、後方散乱電子線回折(EBSD)法を利用して多結晶金属材料中に存在する各結晶粒の塑性回転を三次元的に求める手法を提案するとともに、提案した手法を多結晶銅の引張りに対して適用した。得られた結果は以下のように要約できる。
(l)EBSD法による結晶方位の測定結果を用いて、結晶粒の塑性回転(ωx ,ωy ,ωz )を評価する方法を提案した。また、前述の塑性ひずみ((εx ,εy ,εz ,γxy,γyz,γzx)の評価方法と併せると結晶粒の微小変形を表現するために必要な9成分全てを評価することが可能となった。
(2)結晶粒の塑性ひずみと塑生回転の関係を調べた結果、両者の問には明確な相関が見られなかった。これは、従来の簡単な単結晶塑性変形モデルから予測される剪断変形により生じる物体の外形角度の変化が剛体回転により補われるようなγij とωk の相互補完的な聞係が、実際の多結晶の塑性変形においては必ずしも成立していないことを示している。
(3)塑性ひずみおよび塑性回転の評価方法ならびに評価結果の妥当性について検討するため、各結晶粒の塑性ひずみおよび塑性回転から推定できる表面傾斜角度と、別途、実測した値を比較した。その結果、両者の対応は良好であり、提案した手法の妥当性が確認できた。
Claims (5)
- 試料表面に存在する結晶粒の二次元観察データから三次元の塑性ひずみを評価する三次元塑性ひずみ解析方法において、被測定結晶粒の試料表面における縦横寸法および面積を光学顕微鏡によって取得して被測定結晶粒の粒界を特定し、その縦横寸法および面積を画像処理によってピクセル数で求めるとともに、被測定結晶粒の表面におけるすべり線角度を走査顕微鏡により、また、結晶方位を後方散乱電子線回折法により取得し、前記粒界の縦横寸法、面積、すべり線角度および結晶方位から所定の計算式により、三次元の垂直ひずみ3成分(εx ,εy ,εz )と剪断ひずみ3成分(γxy,γyz,γzx)の6成分を算出し、さらに、前記後方散乱電子線回折法により求められる前記結晶方位の変形前後の差から結晶の回転量を求め、所定の計算式により塑性回転3成分(ωx ,ωy ,ωz )を算出し、三次元塑性ひずみにおける前記6成分に三次元塑性回転の3成分の評価を加えて、結晶体内における三次元の塑性変形を評価することを特徴とする三次元塑性変形解析方法。
- 前記被測定結晶粒の試料表面における変形前後の画像を取得して、被測定結晶粒の粒界を特定し、その縦横寸法および面積を画像処理によってピクセル数で求めるに際し、面内で45°回転した画像を変形前後で取得し、垂直ひずみ成分(εx ,εy )を所定の計算式により求めるとともに、剪断ひずみγxyを他の所定の計算式により求めることを特徴とする請求項1に記載の三次元塑性ひずみ解析方法。
- 前記各結晶の回転量から三次元的な塑性回転を求めることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の三次元塑性変形解析方法。
- 前記各結晶の塑性ひずみおよび塑性回転を同時に求め、それらを互いに比較することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の三次元塑性変形解析方法。
- 前記各結晶の塑性ひずみおよび塑性回転から、変形後における結晶表面の角度を評価することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の三次元塑性変形解析方法。
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