以下、各実施形態では、半導体基板の一部を除去して曲面を形成する曲面の形成方法を利用した半導体レンズの製造方法を例示するが、半導体レンズの製造方法以外(例えば、MEMSデバイスの製造方法など)にも利用できることは勿論である。
(実施形態1)
本実施形態では、半導体レンズの製造方法として、シリコン基板からなる半導体基板10(図1(a)参照)の一部を陽極酸化工程おいて多孔質化することにより形成した多孔質シリコンからなる多孔質部14(図1(d)参照)を除去してシリコンレンズからなる半導体レンズ1(図1(e)参照)を製造する製造方法を例示する。ここにおいて、本実施形態における半導体レンズ1は、平凸型の非球面レンズである。なお、本実施形態では、半導体基板10として導電形がp形のものを用いるようにし、半導体基板10の抵抗率を80Ωcmに設定してあるが、この数値は特に限定するものではない。
以下、上述の半導体レンズ1の製造方法について図1(a)〜(e)を参照しながら説明する。
まず、図1(a)に示す半導体基板(後述のダイシングを行うまではウェハ)10の一表面側(図1(a)の下面側)に後述の陽極酸化工程で利用する陽極12(図1(c)および図2(a)参照)の基礎となる所定膜厚(例えば、1μm)の導電性膜(例えば、Al膜、Al−Si膜など)からなる導電性層11を形成する導電性層形成工程を行うことによって、図1(b)に示す構造を得る。ここにおいて、導電性層形成工程では、例えばスパッタ法によって半導体基板10の上記一表面上に導電性層11を成膜した後、N2ガスおよびH2ガス雰囲気中で導電性層11のシンタ(熱処理)を行うことで、導電性層11と半導体基板10とのオーミック接触を得ている。なお、導電性層11の成膜方法はスパッタ法に限らず、例えば蒸着法などを採用してもよい。
導電性層形成工程の後、導電性層11に円形状の開孔部13を設けるように導電性層11をパターニングするパターニング工程を行うことによって、図1(c)に示す構造を得る。ここにおいて、パターニング工程では、フォトリソグラフィ技術を利用して半導体基板10の上記一表面側に上記開孔部13に対応する部位が開孔されたレジスト層(図示せず)を形成した後、レジスト層をマスクとして導電性層11の不要部分を例えばウェットエッチング技術あるいはドライエッチング技術によってエッチング除去して開孔部13を設けることにより導電性層11の残りの部分からなる陽極12を形成し、その後、上記レジスト層を除去する。なお、導電性層11がAl膜やAl−Si膜であれば、導電性層11の不要部分をウェットエッチング技術によりエッチング除去する場合には、例えば燐酸系エッチャントを用いればよく、導電性層11の不要部分をドライエッチング技術によりエッチング除去する場合には、例えば反応性イオンエッチング装置などを用いればよい。また、本実施形態では、上述の導電性層形成工程とパターニング工程とで、所望の曲面形状(ここでは、所望のレンズ形状における曲面の形状)に応じて半導体基板10との接触パターンを設計した陽極12を半導体基板10の上記一表面側に形成する陽極形成工程を構成している。なお、円形状の開孔部13の半径は1mmに設定してあるが、この数値は特に限定するものではなく、半導体レンズ1のレンズ径の設計値に基づいて適宜設定すればよい。
パターニング工程の後、陽極酸化用の電解液B(図3参照)中で半導体基板10の他表面側(図1(a)の上面側)に対向配置される陰極25(図3参照)と陽極12との間に通電して半導体基板10の上記他表面側に除去部位となる多孔質シリコンからなる多孔質部14を形成する陽極酸化工程(陽極酸化処理)を行うことによって、図1(d)に示す構造を得る。
ここにおいて、陽極酸化工程では、図3に示す構成の陽極酸化装置Aを用いる。陽極酸化装置Aは、半導体基板10の上記一表面側に形成された陽極12に接触させる平板状の通電用電極21を有し陽極12と通電用電極21とを接触させた形で半導体基板10を支持する円板状の支持台22と、中心線を上下方向として支持台22の上方に配置される円筒状の筒体23と、筒体23の下端部に連続一体に形成された内鍔部23aと半導体基板10の周部との間に介装されるOリングからなるシール部材24と、筒体23の下端部に連続一体に形成された外鍔部23bと支持台22の周部とを結合する複数の結合部材26とを備えており、半導体基板10の上記他表面とシール部材24と筒体23とで囲まれる空間に陽極酸化用の電解液Bが入れられる。なお、電解液Bとしては、半導体基板10の構成元素であるSiの酸化物であるSiO2をエッチング除去する溶液として、55wt%のフッ化水素水溶液とエタノールとを1:1で混合したフッ酸系溶液を用いているが、フッ化水素水溶液の濃度やフッ化水素水溶液とエタノールとの混合比は特に限定するものではない。また、フッ化水素水溶液と混合する液体もエタノールに限らず、メタノール、プロパノール、イソプロパノール(IPA)などのアルコールなど、陽極酸化反応で発生した気泡を除去できる液体であれば、特に限定するものではない。また、筒体23は、電解液Bに対して耐性を有する材料、例えば、テフロン(登録商標)などのフッ素系樹脂により形成すればよい。
また、陽極酸化装置Aは、半導体基板10の上記他表面に対向配置される白金電極からなる陰極25と、通電用電極21を介して陽極12と陰極25との間に電圧を印加する電圧源31と、電圧源31から通電用電極21に流れる電流を検出する電流センサ32と、電流センサ32の検出電流に基づいて電圧源31の出力電圧を制御するマイクロコンピュータなどからなる制御部33とを備えており、制御部33が、電圧源31から通電用電極21へ所定電流密度(例えば、30mA/cm2)の電流が所定時間(例えば、120分)だけ流れるように電圧源31を制御するようになっている。なお、陽極酸化工程の処理条件は特に限定するものではなく、上述の所定電流密度および上記所定時間はそれぞれ適宜設定すればよい。また、陽極酸化工程では、所定電流密度の条件で通電を行っているが、所定電圧の条件で通電を行うようにしてもよい。
ところで、p形のシリコン基板からなる半導体基板10の一部を陽極酸化工程において多孔質化する際には、ホールをh+、電子をe−とすると、以下の反応が起こっていると考えられる。
Si+2HF+(2−n)h+→SiF2+2H++ne−
SiF2+2HF→SiF4+H2
SiF4+2HF→SiH2F6
すなわち、p形のシリコン基板からなる半導体基板10の陽極酸化では、Fイオンの供給量とホールh+の供給量との兼ね合いで多孔質化あるいは電解研磨が起こることが知られており、Fイオンの供給量の方がホールの供給量よりも多い場合には多孔質化が起こり、ホールh+の供給量がFイオンの供給量よりも多い場合には電解研磨が起こる。したがって、本実施形態のように半導体基板10としてp形のシリコン基板を用いている場合には、陽極酸化による多孔質化の速度はホールh+の供給量で決まるから、半導体基板10中を流れる電流の電流密度で多孔質化の速度が決まり、多孔質部14の厚みが決まることになる。本実施形態では、半導体基板10中を図4の矢印で示すような経路で電流が流れるので、半導体基板10の上記他表面側(図4における上面側)では、陽極12の開孔部13の中心線(半導体基板10の厚み方向に沿った中心線)から離れるほど電流密度が徐々に大きくなるような電流密度の面内分布を有することとなり、半導体基板10の上記他表面側に形成される多孔質部14は、陽極12の開孔部13の中心線に近くなるほど徐々に薄くなっている。なお、上述の電流密度の面内分布は、陽極12と陰極との間に通電しているときに陽極12と半導体基板10との接触パターンなどにより決まる半導体基板10内の電界強度の分布に応じて発生し、電界強度が強いほど電流密度が大きくなり、電界強度が弱いほど電流密度が小さくなる。
上述の陽極酸化工程の終了後、多孔質部14を除去する多孔質部除去工程を行う。ここにおいて、多孔質シリコンからなる多孔質部14を除去するエッチング液としてアルカリ系溶液(例えば、KOH、NaOH、TMAHなどの水溶液)やHF系溶液を用いれば、多孔質部14を除去する多孔質部除去工程において、Al膜やAl−Si膜により形成されている陽極12もエッチング除去することができ、図1(e)および図2(b)に示すような凸曲面からなる曲面2を有する半導体レンズ1を得ることができるので、その後、個々の半導体レンズ1に分離するダイシング工程を行えばよい。なお、多孔質部14を除去する多孔質部除去工程と、陽極12を除去する陽極除去工程とを別々に行ってもよい。また、多孔質シリコンからなる多孔質部14を除去する多孔質部除去工程においてエッチング液としてアルカリ系溶液を用いる場合には、エッチング液を加熱せずに室温でも多孔質部14をエッチング除去することができる。
以上説明した本実施形態の曲面2の形成方法によれば、陽極形成工程にて形成する陽極12と半導体基板10との接触パターンにより陽極酸化工程において半導体基板10に流れる電流の電流密度の面内分布が決まるので、陽極酸化工程にて形成する多孔質部14の厚みの面内分布を制御することができて厚みが連続的に変化した多孔質部14を形成することが可能であり、当該多孔質部14を多孔質部除去工程にて除去することで所望の曲面形状の曲面2が形成されるから、任意形状で且つ滑らかな曲面2を容易に形成することができる。したがって、上述の半導体レンズ1の製造方法によれば、所望の曲面形状を有する所望のレンズ形状の半導体レンズ1が形成されるから、任意形状で且つ表面が滑らかな半導体レンズ1を容易に形成することが可能になる。
ここにおいて、本実施形態における陽極形成工程では、半導体基板10の上記一表面側に陽極12の基礎となる導電性層11を形成した後、導電性層11に円形状の開孔部13を設けるように導電性層11をパターニングすることで陽極12を形成しているので、陽極酸化工程において半導体基板10の上記他表面側では半導体基板10に流れる電流の電流密度が、陽極12(導電性層11)の開孔部13の中心線に近づくほど小さくなる面内分布となるから、半導体基板10の上記他表面側では陽極12の開孔部13の中心線に近づくほど多孔質部14の厚みが薄くなり、曲面2を滑らかな非球面の凸曲面とすることができ、半導体レンズ1として表面が滑らかな平凸型の非球面レンズを形成することができる。なお、このようにして形成された半導体レンズ1の光軸は上述の開孔部13の中心線と一致する。
ところで、上述の半導体レンズ1の製造方法においては、陽極酸化工程において半導体基板10に流れる電流の電流密度の面内分布によって曲面2の曲面形状が決まり(本実施形態では、平凸型の非球面レンズからなる半導体レンズ1における曲面2の曲率半径やレンズ径)が決まるので、半導体基板10の抵抗率や厚み、陽極酸化工程にて用いる電解液Bの電気抵抗値や、半導体基板10と陰極25との間の距離、陰極25の平面形状(半導体基板10に対向配置した状態において半導体基板10に平行な面内での形状)、陽極12における円形状の開孔部13の内径などを適宜設定することにより、レンズ形状に応じた曲面形状を制御することができる。
ここにおいて、半導体基板10の抵抗率としては、例えば、数Ωcm〜数100Ωcm程度の範囲内で設定すればよく、抵抗率が小さいほど曲率半径の大きな緩やかな曲面2を有する半導体レンズ1を形成することができ、抵抗率が大きいほど曲率半径の小さな短焦点の半導体レンズ1を形成できる。また、半導体基板10の厚みが薄いほど曲率半径の小さな短焦点の半導体レンズ1を形成することができ、厚みが厚いほど曲率半径の大きな緩やかな曲面2を有する半導体レンズ1を形成することができる。
また、電解液Bの電気抵抗値は、例えば、フッ化水素水溶液の濃度や、フッ化水素水溶液とエタノールとの混合比などを変えることにより調整することができるので、陽極12の形状の他に、陽極12の形状以外の条件(例えば、電解液Bの電気抵抗値)を適宜設定することによって、レンズ形状に応じた曲面形状をより制御しやすくなる。
また、陰極25の平面形状としては、例えば、図5(a)に示すように、半導体基板10に対向配置した状態において、陽極12の開孔部13(図5(c)参照)と中心線が一致する円形状の開孔部25a(図5(b)参照)を有する平面形状を採用すればよい。ここで、陰極25の開孔部25aの内径は、陰極12の開孔部13の内径と必ずしも同じ値に設定する必要はなく、半導体基板10の厚みや電解液Bの電気抵抗値や陰極25と半導体基板10との間の距離などを考慮して適宜設定すればよい。なお、図5(a)における上向きの矢印は半導体基板10中を流れる電流の経路を模式的に示しており、図5(a)における下向きの矢印は電解液B中を移動する電子の経路を模式的に示している。
また、その他に、曲面形状を制御するパラメータとして、陽極酸化工程における陽極酸化の処理時間(上記所定時間)があり、処理時間が長く多孔質部14の厚みが厚くなるほど、多孔質部14において厚い部分の厚さと薄い部分の厚さとの差が大きくなって曲率半径の小さな曲面を形成でき、処理時間が短く多孔質部14の厚みが薄くなるほど、多孔質部14において厚い部分の厚さと薄い部分の厚さとの差が小さくなって曲率半径の大きな曲面を形成できる。
また、上述の陽極酸化工程では、制御部33において電流センサ32による検出電流の電流密度が所定電流密度となるように電圧源31の出力電圧を制御し、通電開始から所定時間が経過すると直ちに通電を終了するようにしているが、通電終了前に電流密度を連続的ないし段階的に減少させることで半導体基板10の多孔質化の速度および多孔度を低下させれば、多孔質部14を除去した後の曲面2をより滑らかな凸曲面とすることが可能となる。要するに、上記通電時には除去部位である多孔質部14における表面側の部分の多孔度よりも半導体基板10との境界側の部分の多孔度を小さくするように通電条件を変化させるようにすれば、多孔質部14における半導体基板10との境界側の部分の多孔度が表面側の部分の多孔度に比べて小さくなって、多孔質部14を除去する際の曲面2への微細な凹凸の形成を抑制することができ、より滑らかな曲面2を有する半導体レンズ1を形成することが可能となる。
また、本実施形態の製造方法により形成される半導体レンズ1では、図6に示すように、レンズ部1aとレンズ部1aを全周に亘って囲むフランジ部1bとを連続一体に形成することが可能となる。一例を挙げれば、半導体基板10として、直径が100mm、厚みが0.5mm、抵抗率が80Ωcmの円板状のシリコン基板(シリコンウェハ)を用い、陽極形成工程の条件として、導電性層11を厚みが1μmのAl膜、導電性層11のシンタの温度を420℃、シンタの時間を20分、陽極12における円形状の開孔部13の内径を2mmとし、陽極酸化工程の条件として、電解液Bを55wt%のフッ化水素水溶液とエタノールとが1:1で混合されたフッ酸系溶液、上記所定電流密度を30mA/cm2、上記所定時間を180分とし、多孔質部除去工程の条件として、エッチング液を10%のKOH水溶液、エッチング時間を15分とした場合に形成された半導体レンズ1の曲面2側の表面(レンズ部1aの表面およびフランジ部1bの表面)について、光の干渉を利用して表面形状の非接触測定が可能なZygo社製の非接触3次元表面形状測定装置により測定して得られた結果を図7に示してあるが、図7のプロファイルにおいて平坦な部分がフランジ部1bの表面、曲線の部分がレンズ部1aの表面に対応している。ここで、上述の陽極酸化工程において形成された多孔質部14の厚さは、上述の開孔部13の中心線付近から離れるにつれて徐々に厚くなり、開孔部13の中心線付近で0.105mm(105μm)程度、陽極12に重なる部分(フランジ部1bに対応する部分)で0.3mm(300μm)程度であった。また、多孔質部除去工程における多孔質部14のエッチングレートは半導体基板10のエッチングレートに対する10倍以上であり、15分程度で多孔質部14を半導体基板10に対して選択的にエッチング除去することができる。
ところで、上記特許文献2に記載された技術のように陽極酸化工程において除去部位である酸化膜を形成する技術を利用した場合、数十μmの高低差を有する曲面を形成するためには陽極酸化工程と酸化膜除去工程とを繰り返す必要があり、所望の曲面形状を有するレンズ形状を得ることが難しい。これに対して、本実施形態の曲面の形成方法では、上述の説明から明らかなように数百μmの高低差を有する曲面2を1回の陽極酸化工程と1回の多孔質部除去工程とで形成することができるので、一般的にマイクロレンズと呼ばれるレンズ径が数百μm以下のレンズに限らず、レンズ径が数mm程度のレンズでも1回の陽極酸化工程と1回の多孔質部除去工程とを形成することができる。
上述のようにレンズ1aとフランジ部1bとが連続一体に形成された半導体レンズ1は、例えば、図8に示す赤外線センサのように、赤外線検出素子(例えば、焦電素子、サーモパイルなど)60を収納したケース50の前壁51に形成された窓孔51a内にレンズ部1aを配置した状態でフランジ部1bを前壁51の後面における窓孔51aの周部と固着することができるので、図9に示すようにシリコン基板やゲルマニウム基板を研磨することにより形成された従来の赤外線用のレンズ200に比べて、ケース50へ容易に取り付けることが可能となる。なお、図8に示した赤外線センサにおけるケース50は、後面が開放された有底円筒状のケース本体50aと、ケース本体50aの後面を閉塞するベース板50bとで構成されている。
ところで、上述の製造方法では、陽極形成工程において円形状の開孔部13が設けられた陽極12を形成しているが、開孔部13の形状を円形状ではなくて長方形状の形状とすれば、半導体レンズ1として、図10に示すような平凸型のシリンドリカルレンズを形成することも可能である。
(実施形態2)
本実施形態の半導体レンズ1の製造方法は実施形態1と略同じであって、図11(b)および図12に示すような凹曲面からなる曲面2を有する平凹型の非球面レンズを形成するために、陽極12の平面形状を図11(a)に示すような円形状としている点(つまり、陽極12と半導体基板10との接触パターンを円形状として点)が相違するだけなので、図13を参照しながら簡単に説明する。
まず、p形のシリコン基板からなる半導体基板10の一表面側(図13(a)の下面側)に平面形状が円形状の陽極12を形成する陽極形成工程を行うことにより、図13(a)に示す構造を得る。
その後、陽極酸化工程において半導体基板10の他表面側(図13(a)の上面側)に多孔質シリコンからなる多孔質部14を形成することにより、図13(b)に示す構造を得る。ここにおいて、多孔質部14は半導体基板10の厚み方向に沿った陽極12の中心線から離れるにつれて徐々に厚みが薄くなる形状に形成される。
続いて、多孔質部除去工程において多孔質部14を除去することで半導体基板10の上記他表面側に凹曲面からなる曲面2を形成することにより、図13(c)に示す構造の平凹型の非球面レンズを得る。
ところで、上述の製造方法では、陽極形成工程において平面形状が円形状の陽極12を形成しているが、平面形状が長方形状の陽極12を形成すれば(つまり、陽極12と半導体基板10との接触パターンを長方形状とすれば)、半導体レンズ1として、平凹型のシリンドリカルレンズを形成することも可能である。なお、陽極12の平面形状は所望の曲面形状に応じて適宜設計すればよく、円形状や長方形状に限らず、例えば、正方形状でもよい。
(実施形態3)
本実施形態の半導体レンズ1の製造方法は実施形態1と略同じであって、実施形態1では陽極形成工程において円形状の開孔部13を有する陽極12を形成していたのに対して、陽極形成工程の前に、陽極12と半導体基板10との接触パターンに応じてパターン設計した円形状の絶縁層15(図14参照)を半導体基板10の上記一表面側(図14の下面側)に形成する絶縁層形成工程を有し、陽極形成工程では、図14に示すように半導体基板10の上記一表面側において絶縁層15および半導体基板10の上記一表面の露出部位に接触する導電性層(例えば、Al膜、Al−Si膜など)からなる陽極12を形成している点が相違する。なお、他の工程は実施形態1と同じなので説明を省略する。
上述の絶縁層形成工程では、半導体基板10の上記一表面側に絶縁層15の基礎となる絶縁膜(例えば、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜など)を形成した後、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を利用して絶縁膜を円形状にパターニングすることで絶縁層15を形成している。
しかして、本実施形態では、絶縁層形成工程にて形成する絶縁層15のパターンにより半導体基板10に対する陽極12の接触パターンが決まり、当該接触パターンおよび絶縁層15のパターンにより陽極酸化工程において半導体基板10に流れる電流の電流密度の面内分布が決まるので、実施形態1と同様に陽極酸化工程にて形成する多孔質部14の厚みの面内分布を制御することができて厚みが連続的に変化した多孔質シリコンからなる多孔質部14を形成することが可能であり、当該多孔質部14を多孔質部除去工程にて除去することで所望の曲面形状の曲面が形成されるから、任意形状で且つ滑らかな曲面を形成することが可能となる。したがって、この曲面の形成方法を利用した半導体レンズの製造方法によれば、所望のレンズ形状の半導体レンズが形成されるから、任意形状で且つ表面が滑らかな半導体レンズを容易に形成することが可能になる。
ここで、本実施形態では、陽極酸化工程において半導体基板10の他表面側(図14の上面側)において半導体基板10に流れる電流の電流密度が、半導体基板10の厚み方向に一致する絶縁層15の中心線に近づくほど小さくなる面内分布となるので、半導体基板10の上記他表面側では絶縁層15の中心線に近づくほど多孔質部14の厚みが薄くなり、曲面として滑らかな非球面レンズを形成することができるから、半導体レンズとして表面が滑らかな非球面レンズを形成することができる。このようにして形成された半導体レンズの光軸は絶縁層15の中心線と一致する。
また、本実施形態では、絶縁層15がシリコン酸化膜もしくはシリコン窒化膜からなる絶縁膜により構成されているので、絶縁層15を一般的は半導体製造プロセスにより容易に形成することができ、絶縁層15の位置精度およびパターン精度を高精度化できるから、曲面の高精度化を図れ、ひずみの少ない半導体レンズを形成することができる。なお、絶縁膜はシリコン酸化膜やシリコン窒化膜などのシリコン系の絶縁膜に限らず、レジストなどの有機材料により形成してもよい。
また、本実施形態では、陽極12と半導体基板10との接触パターンおよび絶縁層15のパターンにより陽極酸化工程において半導体基板10に流れる電流の電流密度の面内分布を制御するので、実施形態1のように主に陽極12と半導体基板10との接触パターンのみにより電流密度の面内分布を制御する場合に比べて、半導体基板10としてより低抵抗率のものを用いることが可能になる。
なお、本実施形態では、絶縁層15を円形状のパターンとしてあるが、絶縁層15のパターンは所望の曲面形状に応じて適宜設計すればよく、例えば、正方形状や長方形状でもよく、絶縁層15を長方形状のパターンとすれば、シリンドリカルレンズの凸曲面を形成することができ、また、絶縁層15を円形状の開孔部を有するパターンに形成すれば凹曲面を有する非球面レンズを形成でき、絶縁層15を長方形状の開孔部を有するパターンに形成すれば凹曲面を有するシリンドリカルレンズを形成することができる。
(実施形態4)
本実施形態では、半導体レンズ1の製造方法として、図15(h)の上面側の凸曲面からなる曲面2および下面側の凸曲面からなる曲面3を有する両凸型の非球面レンズを製造する製造方法について図15を参照しながら説明するが、実施形態1と同様の工程については説明を適宜省略する。
まず、図15(a)に示す半導体基板10の一表面側(図15(a)における下面側)に陽極酸化工程で利用する陽極12(図15(c)参照)の基礎となる所定膜厚(例えば、1μm)の導電性膜(例えば、Al膜、Al−Si膜など)からなる導電性層11を形成する導電性層形成工程を行うことによって、図15(b)に示す構造を得る。
導電性層形成工程の後、導電性層11に円形状の開孔部13を設けるように導電性層11をパターニングするパターニング工程を行うことによって、図15(c)に示す構造を得る。なお、導電性層形成工程とパターニング工程とで、所望の曲面形状(ここでは、曲面2の形状)に応じて半導体基板10との接触パターンを設定した陽極(以下、第1の陽極と称す)12を形成する陽極形成工程(以下、第1の陽極形成工程と称す)を構成している。
パターニング工程の後、陽極酸化用の電解液(以下、第1の電解液と称す)中で半導体基板10の他表面側(図15(a)の上面側)に対向配置した陰極(以下、第1の陰極と称す)と第1の陽極12との間に通電して半導体基板10の上記他表面側に除去部位となる多孔質シリコンからなる多孔質部14(以下、第1の多孔質部14と称す)を形成する陽極酸化工程(以下、第1の陽極酸化工程と称す)を行うことによって、図15(d)に示す構造を得る。
第1の陽極酸化工程の終了後、第1の多孔質部14を除去する多孔質部除去工程(以下、第1の多孔質部除去工程と称す)を行う。ここにおいて、第1の多孔質部14を除去するエッチング液として実施形態1と同様にアルカリ系溶液やHF系溶液を用いれば、第1の多孔質部除去工程において、第1の陽極12もエッチング除去することができ、図15(e)に示す構造を得ることができる。
上述の第1の多孔質部除去工程の後に、半導体基板10において第1の多孔質部14の除去により曲面2が形成されている上記他表面側に、第1の陽極形成工程と同様にして別の所望の曲面形状(ここでは、曲面3の形状)に応じて半導体基板10との接触パターンを設計した第2の陽極17を形成することによって、図15(f)に示す構造を得る。なお、第2の陽極17は第1の陽極12と同様に、半導体基板10とオーミック接触をなすように形成する。また、第2の陽極17は第1の陽極12の円形状の開孔部13と中心線が一致する円形状の開孔部が設けられるように接触パターンを設計してある。
その後、陽極酸化用の第2の電解液中で半導体基板10の上記一表面側に対向配置した第2の陰極と第2の陽極17との間に通電して半導体基板10の上記一表面側に除去部位となる多孔質シリコンからなる第2の多孔質部18を形成する第2の陽極酸化工程を行うことにより、図15(g)に示す構造を得る。なお、第2の電解液としては、第1の電解液と同様にフッ酸系溶液を用い、第2の陰極の材料としては、第1の陰極と同様に白金を採用している。
第2の陽極酸化工程の終了後、第2の多孔質部18を除去する第2の多孔質部除去工程を行う。ここにおいて、第2の多孔質部18を除去するエッチング液として第1の多孔質部除去工程と同様にアルカリ系溶液やHF系溶液を用いれば、第2の多孔質部除去工程において、第2の陽極17もエッチング除去することができ、図15(h)に示す曲面形状の曲面2,3を有する半導体レンズ1を得ることができるので、その後、個々の半導体レンズ1に分離するダイシング工程を行えばよい。なお、第2の多孔質部18を除去する第2の多孔質部除去工程と、第2の陽極17を除去する第2の陽極除去工程とを別々に行ってもよい。
しかして、本実施形態の製造方法では、半導体レンズ1として、表面が滑らかな両凸型の非球面レンズを形成することができる。
(実施形態5)
本実施形態では、半導体レンズ1の製造方法として、図16(f)に示すような凹曲面からなる曲面2および凸曲面からなる曲面3を有する凹凸型の非球面レンズを製造する製造方法について図16を参照しながら説明するが、実施形態1と同様の工程については説明を適宜省略する。なお、本実施形態では、半導体基板10として実施形態1と同様に導電形がp形のものを用いているが、不純物濃度が1×1016cm−3以下の低不純物濃度であり、抵抗率が1Ωcm以上であるものを用いている。また、後述の各中心線は、実施形態1と同様に、半導体基板10の厚み方向に沿った中心線を意味する。
まず、半導体基板10の一表面側(図16(a)の下面側)に所望の曲面形状(ここでは、曲面2の形状)に応じて半導体基板10との接触パターンを設計した円形状の陽極(以下、第1の陽極と称す)12を形成する陽極形成工程(以下、第1の陽極酸化工程と称す)を行うことによって、図16(a)に示す構造を得る。ここにおいて、第1の陽極12は、中心線が半導体基板10における半導体レンズ1の形成予定領域の中心線と一致するように形成する必要がある。
第1の陽極形成工程の後、陽極酸化用の電解液(以下、第1の電解液と称す)中で半導体基板10の他表面側(図16(a)の上面側)に対向配置した陰極(以下、第1の陰極と称す)と第1の陽極12との間に通電して半導体基板10の上記他表面側に除去部位となる多孔質シリコンからなる多孔質部14(以下、第1の多孔質部14と称す)を形成する陽極酸化工程(以下、第1の陽極酸化工程と称す)を行うことによって、図16(b)に示す構造を得る。なお、第1の陽極酸化工程では、半導体基板10において第1の陽極12が形成されている領域ほど電流が流れやすくなり、当該領域から離れるにつれて徐々に電流が流れにくくなるから、半導体基板10のうち第1の陽極12に重なる領域の電流密度が大きくなり、第1の多孔質部14は第1の陽極12の中心線から離れるにつれて徐々に厚みが薄くなった形状となる。
第1の陽極酸化工程の後、第1の多孔質部14を除去することで半導体基板10の上記他表面側に凹曲面からなる曲面2を形成する第1の多孔質部除去工程を行うことによって、図16(c)に示す構造を得る。ここにおいて、第1の多孔質部14を除去するエッチング液としては実施形態1と同様にアルカリ系溶液を用いているので、第1の多孔質部14を除去する際に第1の陽極12も除去することができる。なお、第1の陽極12の材料によっては、第1の多孔質部14を除去する多孔質部除去工程と第1の陽極12を除去する陽極除去工程とを別々に行うようにしてもよい。
第1の多孔質部除去工程の後、別の所望の曲面形状(ここでは、曲面3の形状)に応じて半導体基板10との接触パターンを設計した第2の陽極17を形成する第2の陽極形成工程を行うことによって、図16(d)に示す構造を得る。なお、第2の陽極17は、円形状の開孔部17aを有しており、曲面3の所望の曲率半径に基づいて開孔部17aの寸法を設計してある。また、第2の陽極17は第1の陽極12と同様に、半導体基板10とオーミック接触をなすように形成する。
上述の第2の陽極形成工程の後、陽極酸化用の第2の電解液中で半導体基板10の上記一表面側に対向配置した第2の陰極と第2の陽極17との間に通電して半導体基板10の上記一表面側に除去部位となる多孔質シリコンからなる第2の多孔質部18を形成する第2の陽極酸化工程を行うことにより、図16(e)に示す構造を得る。なお、第2の電解液としては、第1の電解液と同様のフッ酸系溶液を用い、第2の陰極の材料としては、第1の陰極と同様に白金を採用している。ここにおいて、第2の陽極酸化工程では、半導体基板10の上記他表面側の第2の陽極17が曲面2の周囲に形成されている(言い換えれば、曲面2には形成されていない)から、半導体基板10に流れる電流の電流密度は第2の陽極17の開孔部17aの中心線に近づくほど小さくなり(つまり、曲面2の中心を通る中心線に近いほど電流密度が小さな面内分布となり)、半導体基板10の上記一表面側に形成される第2の多孔質部18は、曲面2の中心線に近くなるほど徐々に薄くなっている。
第2の陽極酸化工程の後、第2の多孔質部18を除去することで半導体基板10の上記一表面側に凸曲面からなる曲面3を形成する第2の多孔質部除去工程を行うことにより、図16(f)に示す曲面形状の曲面2,3を有する半導体レンズ1を得ることができる。ここにおいて、本実施形態では、第2の多孔質部18を除去するエッチング液として実施形態1にて説明したアルカリ系溶液を用いているので、第2の多孔質部18を除去する際に第2の陽極17も除去することができる。なお、第2の陽極17は必ずしも除去する必要はなく、半導体レンズ1における赤外線の遮光マスクとして残すようにしてもよい。また、第2の多孔質部除去工程までは、半導体基板10がウェハの状態なので、第2の多孔質部除去工程の後で、ウェハから個々の半導体レンズ1に分離するダイシング工程を行えばよい。
以上説明した本実施形態の半導体レンズ1の製造方法によれば、第1の陽極形成工程にて形成した第1の陽極12と半導体基板10との接触パターンにより第1の陽極酸化工程において半導体基板10に流れる電流の電流密度の面内分布が決まるので、第1の陽極形成工程にて形成する第1の多孔質部14の厚みの面内分布の制御が容易になり結果的に第1の多孔質部除去工程にて所望の曲率半径の曲面2を形成することができ、また、第1の多孔質部除去工程の後の半導体基板10の厚みの面内分布および第2の陽極形成工程にて形成した第2の陽極17と半導体基板10との接触パターンにより第2の陽極酸化工程において半導体基板10に流れる電流の電流密度の面内分布が決まるので、結果的に第2の多孔質部除去工程にて所望の曲率半径の曲面3を形成することができるから、凹曲面からなる曲面2の曲率半径および凸曲面からなる曲面3の曲率半径それぞれが半導体基板10の厚みに比べて大きな凹凸レンズを構成する半導体レンズ1を容易に形成することができる。なお、上述の製造方法により形成された半導体レンズ1の光軸は上述の第1の陽極12の中心線および第2の陽極17の開孔部17aの中心線と一致する。
(実施形態6)
本実施形態では、半導体レンズ1の製造方法として、図17(e)に示すような凹曲面からなる曲面3および凸曲面からなる曲面2を有する凹凸型の非球面レンズを製造する製造方法について図17を参照しながら説明するが、実施形態1と同様の工程については説明を適宜省略する。なお、本実施形態では、半導体基板10として実施形態1と同様に導電形がp形のものを用いているが、不純物濃度が1×1016cm−3以下の低不純物濃度であり、抵抗率が1Ωcm以上であるものを用いている。また、後述の各中心線は、実施形態1と同様に、半導体基板10の厚み方向に沿った中心線を意味する。
まず、半導体基板10の一表面側(図17(a)の下面側)に所望の曲面形状(ここでは、曲面2の形状)に応じて半導体基板10との接触パターンを設計した陽極(以下、第1の陽極と称す)12を形成する陽極形成工程(以下、第1の陽極酸化工程と称す)を行うことによって、図17(a)に示す構造を得る。ここにおいて、第1の陽極12は、中心線が半導体基板10における半導体レンズ1の形成予定領域の中心線と一致する開孔部13を有している。
第1の陽極形成工程の後、陽極酸化用の電解液(以下、第1の電解液と称す)中で半導体基板10の他表面側(図17(a)の上面側)に対向配置した陰極(以下、第1の陰極と称す)と第1の陽極12との間に通電して半導体基板10の上記他表面側に除去部位となる多孔質シリコンからなる多孔質部14(以下、第1の多孔質部14と称す)を形成する陽極酸化工程(以下、第1の陽極酸化工程と称す)を行うことによって、図17(b)に示す構造を得る。
第1の陽極酸化工程の後、第1の多孔質部14を除去することで半導体基板10の上記他表面側に凸曲面からなる曲面2を形成する多孔質部除去工程(以下、第1の多孔質部除去工程と称す)を行い、その後、半導体基板10の上記他表面側における曲面2の中央部に別の所望の曲面形状(ここでは、曲面3の形状)に応じて半導体基板10との接触パターンを設計した円形状の第2の陽極17を形成する第2の陽極形成工程を行うことによって、図17(c)に示す構造を得る。なお、第2の陽極17は中心線が半導体レンズ1の形成予定領域の中心線(曲面2の中心線)と一致し、且つ、レンズ径よりも小さな直径に形成する必要がある。また、第2の陽極17は第1の陽極12と同様に、半導体基板10とオーミック接触をなすように形成する。
上述の第2の陽極形成工程の後、陽極酸化用の処理槽に入れた第2の電解液中において半導体基板10の上記一表面側に対向配置した第2の陰極と第2の陽極17との間に通電して半導体基板10の上記一表面側に除去部位となる多孔質シリコンからなる第2の多孔質部18を形成する第2の陽極酸化工程を行うことにより、図17(d)に示す構造を得る。なお、第2の電解液としては、第1の電解液と同様のフッ酸系溶液を用い、第2の陰極の材料としては、第1の陰極と同様に白金を採用している。ここにおいて、第2の陽極酸化工程では、半導体基板10の上記他表面側の第2の陽極17が凸曲面からなる曲面2の中央部に形成されているから、半導体基板10に流れる電流の電流密度は第2の陽極17から離れるほど電流密度が小さくなる面内分布を有することとなり、半導体基板10の上記一表面側に形成される第2の多孔質部18は、第2の陽極17の中心線から離れるほど徐々に薄くなっている。
第2の陽極酸化工程の後、第2の多孔質部18を除去することで半導体基板10の上記一表面側に凹曲面からなる曲面3を形成する第2の多孔質部除去工程を行うことにより、図17(e)に示す曲面形状の曲面2,3を有する半導体レンズ1を得ることができる。ここにおいて、本実施形態では、第2の多孔質部18を除去するエッチング液として実施形態1にて説明したアルカリ系溶液を用いているので、第2の多孔質部18を除去する際に第2の陽極17も除去することができる。なお、第2の陽極17は必ずしも除去する必要はなく、半導体レンズ1における赤外線の遮光マスクとして残すようにしてもよい。また、第2の多孔質部除去工程までは、半導体基板10がウェハの状態なので、第2の多孔質部除去工程の後で、ウェハから個々の半導体レンズ1に分離するダイシング工程を行えばよい。
以上説明した本実施形態の半導体レンズ1の製造方法によれば、第1の陽極形成工程にて形成した第1の陽極12と半導体基板10との接触パターンにより第1の陽極酸化工程において半導体基板10に流れる電流の電流密度の面内分布が決まるので、第1の陽極形成工程にて形成する第1の多孔質部14の厚みの面内分布の制御が容易になり結果的に第1の多孔質部除去工程にて所望の曲率半径の凸曲面からなる曲面2を形成することができ、また、第1の多孔質部除去工程の後の半導体基板10の厚みの面内分布および第2の陽極形成工程にて形成した第2の陽極17と半導体基板10との接触パターンにより第2の陽極酸化工程において半導体基板10に流れる電流の電流密度の面内分布が決まるので、結果的に第2の多孔質部除去工程にて所望の曲率半径の凹曲面からなる曲面3を形成することができるから、凹曲面からなる曲面3の曲率半径および凸曲面からなる曲面2の曲率半径それぞれが半導体基板10の厚みに比べて大きな凹凸レンズを構成する半導体レンズ1を容易に形成することができる。なお、上述の製造方法により形成された半導体レンズ1の光軸は上述の第1の陽極12の開孔部13の中心線および第2の陽極17の中心線と一致する。
(実施形態7)
本実施形態では、半導体レンズ1の製造方法として、図18(f)の下面側の凹曲面からなる曲面2および上面側の凹曲面からなる曲面3を有する両凹型の非球面レンズを製造する製造方法について図18を参照しながら説明するが、実施形態1と同様の工程については説明を適宜省略する。なお、本実施形態では、半導体基板10として実施形態1と同様に導電形がp形のものを用いているが、不純物濃度が1×1016cm−3以下の低不純物濃度であり、抵抗率が1Ωcm以上であるものを用いている。また、後述の各中心線は、実施形態1と同様に、半導体基板10の厚み方向に沿った中心線を意味する。
まず、半導体基板10の一表面側(図18(a)の下面側)に所望の曲面形状(ここでは、曲面2の形状)に応じて半導体基板10との接触パターンを設計した円形状の陽極(以下、第1の陽極と称す)12を形成する陽極形成工程(以下、第1の陽極酸化工程と称す)を行うことによって、図18(a)に示す構造を得る。ここにおいて、第1の陽極12は、中心線が半導体基板10における半導体レンズ1の形成予定領域の中心線と一致するように形成する必要がある。
第1の陽極形成工程の後、陽極酸化用の電解液(以下、第1の電解液と称す)中で半導体基板10の他表面側(図18(a)の上面側)に対向配置した陰極(以下、第1の陰極と称す)と第1の陽極12との間に通電して半導体基板10の上記他表面側に除去部位となる多孔質シリコンからなる多孔質部14(以下、第1の多孔質部14と称す)を形成する陽極酸化工程(以下、第1の陽極酸化工程と称す)を行うことによって、図18(b)に示す構造を得る。なお、第1の陽極酸化工程では、半導体基板10において第1の陽極12が形成されている領域ほど電流が流れやすくなり、当該領域から離れるにつれて徐々に電流が流れにくくなるから、半導体基板10のうち第1の陽極12に重なる領域の電流密度が大きくなり、第1の多孔質部14は第1の陽極12の中心線から離れるにつれて徐々に厚みが薄くなった形状となる。
第1の陽極酸化工程の後、第1の多孔質部14を除去することで半導体基板10の上記他表面側に曲面2を形成する第1の多孔質部除去工程を行うことによって、図18(c)に示す構造を得る。ここにおいて、第1の多孔質部14を除去するエッチング液としては実施形態1にて説明したアルカリ系溶液を用いているので、第1の多孔質部14を除去する際に第1の陽極12も除去することができる。なお、第1の陽極12の材料によっては、第1の多孔質部14を除去する多孔質部除去工程と第1の陽極12を除去する陽極除去工程とを別々に行うようにしてもよい。
第1の多孔質部除去工程の後、半導体基板10の上記他表面側の全面に所定膜厚(例えば、200nm)のSiO2膜からなる絶縁膜19を形成する絶縁膜形成工程を行うことによって、図18(d)に示す構造を得る。ここで、絶縁膜19は例えばCVD法などの一般的な薄膜形成技術により成膜すればよい。なお、絶縁膜19は、SiO2膜に限らず、SiON膜やSi3N4膜などのSiO2膜以外の無機膜や、レジスト膜などの有機膜でもよい。
絶縁膜形成工程の後、絶縁膜19に別の所望の曲面形状(ここでは、曲面3の形状)に基づいて寸法(内径)を設計した円形状の開孔部19aを形成することで曲面2の一部を露出させる開孔部形成工程を行ってから、半導体基板10の上記他表面側の全面に第2の陽極17を形成する第2の陽極形成工程を行うことによって、図18(e)に示す構造を得る。言い換えれば、第2の陽極17は、曲面3の形状に応じて半導体基板10の曲面2との接触パターンが設計されている。また、第2の陽極17は第1の陽極12と同様に、半導体基板10とオーミック接触をなすように形成する。
第2の陽極形成工程の後、陽極酸化用の処理槽(図示せず)に入れた第2の電解液中において半導体基板10の上記一表面側に対向配置した第2の陰極と第2の陽極17との間に通電して半導体基板10の上記一表面側に除去部位となる多孔質シリコンからなる第2の多孔質部18を形成する第2の陽極酸化工程を行うことにより、図18(e)に示す構造を得る。なお、第2の電解液としては、第1の電解液と同様に55wt%のフッ化水素水溶液とエタノールとを1:1で混合した混合溶液を用い、第2の陰極の材料としては、第1の陰極と同様に白金を採用している。ここにおいて、第2の陽極酸化工程では、シリコン基板10の上記他表面側において第2の陽極17の一部のみが絶縁膜19の開孔部19aを通して曲面2上に直接形成されており、他の部分は絶縁膜19上に形成されているので、半導体基板10に流れる電流の電流密度は第2の陽極17の中心線から離れるにつれて徐々に小さくなり(つまり、電流密度の面内分布が、曲面2の中心を通る中心線から離れるにつれて電流密度が小さくなる面内分布となり)、半導体基板10の上記一表面側に形成される第2の多孔質部18は、曲面2の中心線から離れるにつれて徐々に薄くなっている。すなわち、第2の多孔質部18は開孔部19aよりも広い範囲に亘って形成されるので、上述の開孔部19aの内径は、所望の半導体レンズ1のレンズ径よりも小さくする必要がある。
第2の陽極酸化工程の後、第2の多孔質部18を除去することで半導体基板10の上記一表面側に曲面3を形成する第2の多孔質部除去工程を行い、その後、第2の陽極17および絶縁膜19を除去することで曲面2を再び露出させる除去工程を行うことにより、図18(f)に示す構造の半導体レンズ1を得ることができる。なお、本実施形態では、第2の多孔質部18を除去するエッチング液としてHF系溶液を用いれば、第2の多孔質部18を除去する第2の多孔質部除去工程において第2の陽極17および絶縁膜19も除去することができる。また、第2の多孔質部除去工程において実施形態1にて説明したアルカリ系溶液を用いれば、第2の多孔質部18を除去する際に第2の陽極17も除去することができるので、第2の多孔質部除去工程の後、HF系溶液によるウェットエッチングあるいはドライエッチングにより絶縁膜19を除去するようにしてもよい。
以上説明した本実施形態の半導体レンズ1の製造方法によれば、第1の陽極形成工程にて形成した第1の陽極12と半導体基板10との接触パターンにより第1の陽極酸化工程において半導体基板10に流れる電流の電流密度の面内分布が決まるので、第1の陽極形成工程にて形成する第1の多孔質部14の厚みの面内分布の制御が容易になり結果的に第1の多孔質部除去工程にて所望の曲率半径の凹曲面からなる曲面2を形成することができ、また、第1の多孔質部除去工程の後の半導体基板10の厚みの面内分布および第2の陽極形成工程にて形成した第2の陽極17のうち曲面2上に直接形成された部位のパターン(つまり、第2の陽極17と半導体基板10との接触パターン)により第2の陽極酸化工程において半導体基板10に流れる電流の電流密度の面内分布が決まるので、結果的に第2の多孔質部除去工程にて所望の曲率半径の凹曲面からなる曲面3を形成することができるから、各曲面2,3それぞれの曲率半径が半導体基板10の厚みに比べて大きな両凹レンズを構成する半導体レンズ1を容易に形成することができる。なお、上述の製造方法により形成された半導体レンズ1の光軸は上述の第1の陽極12の中心線および絶縁膜19の開孔部19aの中心線と一致する。また、絶縁膜19のパターンは所望の曲面形状に応じて適宜設計すればよく、例えば、正方形状の開孔部を有する形状や長方形状の開孔部を有する形状や、正方形状の形状、長方形状の形状としてもよい。
ところで、上記各実施形態では、半導体基板10としてp形のシリコン基板を採用しているが、半導体基板10の導電形はp形に限らずn形でもよい。また、半導体基板10の材料もSiに限らず、陽極酸化処理による多孔質化が可能な半導体材料であればよく、例えば、Ge、SiC、GaAs、GaP、InPなどでもよい。ここにおいて、半導体基板10の構成元素の酸化物を除去する電解液としては、例えば、下記表1のような電解液を用いればよい。
また、上記各実施形態では、半導体レンズ1として、平凸レンズ、平凹レンズ、両凸レンズ、両凹レンズ、凹凸レンズ、シリンドリカルレンズなどの単レンズについて説明したが、本発明の技術思想によれば、単レンズに限らず、隣り合う単レンズが互いに重なりあった所謂マルチレンズや、上述の単レンズをアレー状に設けた所謂アレーレンズや上述の複数種類の単レンズを複合させたレンズも形成することが可能となる。
また、上記各実施形態では、曲面の形成方法を半導体レンズ1の製造方法に利用した例について説明したが、例えば、MEMSデバイスにおいて半導体基板を用いて形成する構造体の段差や角に起因した配線の断線や応力集中を防止するために、本発明の曲面の形成方法を利用してもよい。