以下、図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態の説明を行う。
図1及び図2は、本発明によるインホイールモータ構造の一実施例を示す図であり、図1は、車輪を車両内側から視た図であり、図2は、図1のラインA−Aに沿った断面図である。図3は、外輪側部材262と動力伝達部材270との結合方法の一例を示す斜視図である。図1中、紙面左側が車両前側に対応する。尚、図1及び図2において、車輪の上側約1/3の部分は、図示が省略されており、タイヤについても図示が省略されている。
車輪10は、タイヤ(図示せず)が装着されるホイール14を備える。ホイール14のリム内周面14aより囲繞される空間内には、以下で詳説するように、モータ関連の構成要素の主要部が収められる。本明細書及び添付の特許請求の範囲において、「車輪内」とは、ホイール14のリム内周面14aより囲繞される略円柱形の空間を意味する。但し、ある部品が車輪内に配置される等の表現は、必ずしも当該部品の全体が完全に当該略円柱形の空間内に収まることを意味せず、当該部品の一部が部分的に当該略円柱形の空間内からはみ出す構成を除外するものではない。
車輪10内には、主に、アクスルベアリング100と、ブレーキディスク110と、ブレーキディスク110を車両内側からカバーするブレーキダストカバー112と、ブレーキキャリパ120と、車輪駆動用のモータ700と、減速機構200と、オイルポンプ300と、オイルタンク310と、オイル流路320(一部図示せず)と、ナックル(キャリア)400と、ロアアーム520の車輪側の端部が接続されるロアボールジョイント500と、タイロッド(図示せず)の車輪側の端部が接続されるボールジョイント510(以下、「タイロッドB/J510」という。)とが配置される。また、図示されていないが、車輪10内には、アッパアームの車輪側の端部が接続されるアッパボールジョイントが配置される。但し、ストラット式サスペンションの場合には、アッパアームに代えて、ストラット(ショックアブソーバ)の下端がナックル400の上側に接続される。
モータ700は、車輪10内における車両内側の空間に配置される。モータ700は、図2に示すように、車軸中心に対して上側にオフセットして配置されると共に、図1に示すように、車軸中心に対して車両前側にオフセットして配置される。これにより、車輪10内の車両内側の空間には、図1に示すように、モータ700がオフセットされた分だけ、車両後側及び下側に、モータ700に占有されない空間が生まれる。従って、モータを車軸中心に同心に配置した構成に比べて、車輪10内における車両内側且つ下側の空間が広がるので、ロア側のサスペンション配置の自由度が大きくなる。また、図1に示すように、車輪10内において、モータ700がオフセットされた側(本例では、車両前側)とは反対側(車両後側)に、ブレーキキャリパ120に容易に搭載することができる。
モータ700の主要構成要素は、ステータコア702と、ステータコイル704と、ロータ706とを含む。モータ700が三相モータである場合、ステータコイル704は、U相コイル、V相コイルおよびW相コイルからなる。ロータ706は、ステータコア702およびステータコイル704の内周側に配置される。
モータ700のロータ706は、車軸中心に対して上述の如く回転中心がオフセットした出力軸710を有する。出力軸710は、車輪10内における車両内側で、ベアリング820を介してモータカバー750に回転可能に支持されると共に、車輪10内における車両外側で、ベアリング830を介してナックル400(主要構造部410)に回転可能に支持される。
モータ700の回転出力は、減速機構200を介してホイール14に伝達される。減速機構200は、2軸の減速機構であり、カウンターギア機構210と、遊星歯車機構220とからなり、2段階の減速を実現する。尚、以下で説明する減速機構200の各ギア212,214、222、224,226,228は、はすば歯車(ヘリカルギア)により構成されてよい。
カウンターギア機構210は、図2に示すように、モータ700よりも車両外側に配置される。カウンターギア機構210は、モータ700の出力軸710に対して同軸に配置される小径の駆動歯車212と、駆動歯車212に噛合う大径の被動歯車(カウンターギア)214とからなる。小径の駆動歯車212は、モータ700の出力軸710に対して、車両外側からスプライン嵌合され、かしめられて一体化される。大径のカウンターギア214は、車軸中心に回転中心を有する。従って、モータ700の出力軸710は、およそ、駆動歯車212の半径とカウンターギア214の半径とを足し合わせた距離だけ、車軸中心に対してオフセットして配置されることになる。
遊星歯車機構220は、図2に示すように、車輪10内における車両外側の空間に、カウンターギア機構210よりも車両外側に配置される。遊星歯車機構220は、車軸中心に同軸に配置される。遊星歯車機構220は、サンギア222と、プラネタリギア224と、プラネタリキャリア226と、リングギア228とからなる。
サンギア222は、カウンターギア機構210のカウンターギア214に連結される。図2に示す例では、サンギア222及びカウンターギア214は、シャフト(サンギア軸)250の車両内外方向の両端に形成されている。具体的には、シャフト250は、車軸中心に回転中心を有し、車両外側の端部周面にサンギア222を有し、車両内側の端部周面にカウンターギア214を有する。シャフト250は、車両内側の端部で、ナックル400に対してベアリング800を介して回転可能に支持され、車両外側の端部で、円盤状の動力伝達部材270に対して、ベアリング810を介して回転可能に支持される。尚、サンギア222及びカウンターギア214は、別部品で構成されても良く、この場合、それぞれの部品同士がスプライン結合されればよい。
プラネタリギア224は、内周側でサンギア222と噛合い、外周側でリングギア228に噛合う。プラネタリギア224は、プラネタリキャリア226に対して、ローラ軸受を介してローラ軸225を中心として回転可能に支持される。プラネタリキャリア226は、車軸中心に回転中心を有し、車輪10内における車両内側では、シャフト250に対してスラスト円筒ころ軸受840を介して支持され、車両外側では、動力伝達部材270に周状に形成された周溝272(図3参照)にスプライン嵌合される。プラネタリギア224は、サンギア222まわりに、等間隔をおいて複数個設定される。プラネタリギア224及びプラネタリキャリア226は、アセンブリされて一のユニットを構成する(以下、「プラネタリギアユニット」という。)。プラネタリギアユニットのプラネタリキャリア226は、車両外側で、動力伝達部材270のストッパ部274に当接する。これにより、プラネタリギアユニットは、スラスト円筒ころ軸受840及びストッパ部274により車両内外方向の変位が制約される。
リングギア228は、車軸中心に回転中心を有し、サンギア222を外周側から囲繞するように配置される内輪側部材260の内周面に形成される。内輪側部材260の外周面は、アクスルベアリング100のインナーレースを構成する。尚、図示の例では、アクスルベアリング100は、2列のアンギュラーボールベアリングであり、車両外側の列に対する外インナーレースについては、内輪側部材260とは別の部材により構成されている。このような別の部材は、内輪側部材260の外周に嵌合させてかしめることにより内輪側部材260に一体化される。
外輪側部材262は、内輪側部材260を外周側から囲繞するように配置される。外輪側部材262の内周面は、アクスルベアリング100のアウターレースを構成する。外輪側部材262と内輪側部材260との間には、車両内外方向の端部において、異物の混入やオイルの流通を防止するためのシール280、282が設けられる。
動力伝達部材270は、減速機構の車両外側を覆うように設けられる円盤状の部材であり、車両内側には、プラネタリキャリア226の車両外側端部(周壁部)がスプライン嵌合される周溝272が形成される。動力伝達部材270の外周縁は、図3に示すように、外輪側部材262の車両外側の端部に、かしめ等により結合される。即ち、動力伝達部材270は、外輪側部材262の車両外側の略円形の開口を塞ぐように、外輪側部材262に対して固定される。外輪側部材262は、外周面に径方向外側に突出するつば部(フランジ部)263を有し、つば部263にはハブボルト(図示せず)が締結されるボルト穴263aが形成される。外輪側部材262は、つば部263でブレーキディスク110の内周部を挟み込んだ状態で、ホイール14に対してハブボルトによりブレーキディスク110と共締めされる。
以上の構成において、図示しない車両制御装置からの指令によりモータ700のロータ706が回転すると、それに伴い、小径の駆動歯車212が回転し、駆動歯車212と噛合う大径のカウンターギア214が回転し、カウンターギア機構210による1段目の減速が実現される。カウンターギア214が回転すると、カウンターギア214と一体のサンギア222が回転することになり、それに伴い、プラネタリギア224が自転しながらサンギア222まわりを公転する。この自転分により、遊星歯車機構220による2段目の減速が実現される。プラネタリギア224の公転運動は、プラネタリキャリア226により取り出され、プラネタリキャリア226にスプライン嵌合された動力伝達部材270に伝達される。これにより、動力伝達部材270が回転されると、外輪側部材262、ブレーキディスク110及びホイール14は、動力伝達部材270と一体となって回転する。即ち、車輪の駆動が実現される。
ナックル400は、主に、車輪10の略中心付近に位置する主要構造部410と、円筒状の周壁部(モータケース部)430とを有する。ナックル400の周壁部430の径方向内側の空間には、上述のモータ700の主要構成要素が配置される。ナックル400の周壁部430の車両内側の端部には、周壁部430内の空間を覆うようにモータカバー750が結合される。モータ700には後述の如くオイルが流通するので、ナックル400の周壁部430の車両内側の端部と、モータカバー750の外周部との間の接合面には、当該接合面を介したオイルの漏出を防止するためにガスケット900が設定される。
ナックル400の主要構造部410は、上述の薄肉の周壁部430やその他のリブ等と異なり、十分な強度・剛性を有し、アクスルベアリング100、タイロッドやサスペンションアーム(ロアアーム520等)の取り付け点、ブレーキキャリパ120の取り付け点を介して入力される荷重を受け持つ役割を果たす。
ナックル400の主要構造部410の車両外側の端部には、内輪側部材260の車両内側の端部が例えば圧入又はボルト等により結合される。具体的には、ナックル400の主要構造部410の車両外側端部には、車軸中心を法線とする面内に、車軸中心を中心とした円環状の面402が形成され、円環状の面402の内周側の縁部には、車軸中心を中心とした円筒状に周壁404が突設されている。一方、内輪側部材260の車両内側の端部は、径方向外側に曲げられている。以下、この内輪側部材260の車両内側の端部を、「屈曲端部261」という。屈曲端部261の径方向内側には、ナックル400の周壁404が嵌合される。屈曲端部261の車両内側の円環状の面261aは、ナックル400の円環状の面402と互いに当接しあう(即ち、突合せされる)。以下、この円環状の面261aと円環状の面402と間における車両内外方向で接触し合う面を、「接合面920」という。減速機構200には後述の如くオイルが流通するので、ナックル400の周壁404の根元まわりには、接合面920を介したオイルの漏出を防止するためにOリング910が設けられる。
ナックル400の主要構造部410は、車両外側の端部で、アクスルベアリング100(内輪側部材260)を介して車輪10から入力される各種荷重を受け持つ。ナックル400の主要構造部410の内部空間には、上述のカウンターギア機構210が配置される。ナックル400の主要構造部410は、ベアリング830及びベアリング800を介して入力される各種のスラスト荷重とラジアル荷重を受け持つ。尚、ナックル400の主要構造部410は剛性が高いので、ベアリング830及び800の動定格荷重ないし動等価荷重を、それぞれ対応するベアリング820及び810に比べて高く設定するのが望ましい。これにより、高い強度・剛性の部位に、大きい荷重を受け持たせることができる合理的な構造が実現される。
ナックル400の主要構造部410は、下側に延びる2本の腕部424,426を有する。腕部424,426の下端には、ナックルアーム130がボルト134,136によりそれぞれ締結される。ナックルアーム130は、車輪10内で車両前後方向に延在する。ナックルアーム130の前端側には、タイロッドB/J510が設定され、ナックルアーム130の後端側には、ロアボールジョイント500が設定される。ナックル400の主要構造部410は、ロアボールジョイント500やタイロッドB/J510を介して入力される各種荷重を受け持つ。
ロアボールジョイント500は、図1に示すように、車両前後方向で、2本の腕部424,426の間に配置され、車両前後方向で車輪10の略中央に配置されている。また、ロアボールジョイント500は、図2に示すように、ブレーキディスク110よりも車両内側に配置される。ロアボールジョイント500には、上方からナット522によりロアアーム520が締結される。ロアアーム520は、車両幅方向に延在し、車両内側の端部は、図示しない車体にブッシュ等を介して支持される。尚、ロアアーム520は、如何なる形式のものであっても良く、例えば、L字型のロアアームやダブルリンクタイプのロアアームであってもよい。ロアアーム520は、図示しないアッパアーム(又はストラット)と協働し、車輪10を車体に対して揺動可能に支持する。また、バネ及びアブソーバ(図示せず)が車体とロアアーム520との間に設けられる。これにより、車輪10からの車体への入力が緩和される。尚、バネについては、スプリングコイル、空気バネの如何なる形式のバネであってもよく、アブソーバーについても、上下入力に対して減衰作用を付与する油圧アブソーバーの他、回転入力に対して減衰作用を付与する回転式電磁アブソーバーが用いられてもよい。
タイロッドB/J510は、図1に示すように、車両前後方向で、前側の腕部426よりも前側に配置されている。タイロッドB/J510は、同様に、ブレーキディスク110よりも車両内側に配置される。タイロッドB/J510には、上方からナット(図示せず)によりタイロッド(図示せず)が締結される。タイロッドは、車両幅方向に延在し、車両内側の端部がラック軸(図示せず)に接続され、ラック軸が例えばラック&ピニオン機構によりステアリングシャフトに接続される。これにより、車輪10が操舵可能に構成される。このように、本実施例では、上述の如くモータ700が車軸中心に対して上側にオフセットされているので、タイロッドB/J510を車輪10内に容易に成立させることができる。
ナックル400の主要構造部410には、図1に示すように、モータ700に対して車両後方側に配置されるブレーキキャリパ120(マウンチング)の取り付け点122(図中には1点だけ表示)が設定される。ナックル400の主要構造部410は、ブレーキキャリパ120の取り付け点122を介して、制動時に入力される荷重を受け持つ。図示の例では、ブレーキキャリパ120の下側の取り付け点122は、ナックル400の車両後側の腕部424の根元付近に設定される。このような高い強度・剛性の部位をブレーキキャリパ120の取り付け部位とすることで、合理的な構造が実現される。
オイルポンプ300は、車両内外方向で、モータ700と減速機構200の遊星歯車機構220との間に配置される。具体的には、オイルポンプ300は、カウンターギア機構210のカウンターギア214の内部、即ち、カウンターギア214の径方向内側に配置されている。他言すると、シャフト250の車両内側の端部(拡径部)に形成された空洞252内には、ナックル400の主要構造部410を構成する凸部412が収容され、凸部412の端面(車両内側の面)の凹部に、オイルポンプ300が設けられる。オイルポンプ300は、例えば図示のようなトロコイドポンプの他、外接歯車ポンプ、内接歯車ポンプ(クレセントの有無を問わず)等如何なる種類のギアポンプであってもよく、また、ベーンポンプ等の他のタイプの油圧ポンプであってもよい。
オイルポンプ300は、モータ700の回転出力により作動する。具体的には、オイルポンプ300のインナーロータが、シャフト250の車両内側の端部に連結され、シャフト250の回転により回転される。即ち、オイルポンプ300のインナーロータは、カウンターギア214と同軸で駆動される。インナーロータが回転されると、オイルタンク(リザーバータンク)310内のオイルが、サクション経路312を介して汲み上げられ、図示しない吸込口から吸い込まれたオイルが、オイルポンプ300のアウタロータとインナーロータの間に挟まって圧送され、図示しない吐出口からオイル流路320へと吐出される。
本実施例では、上述の如く、オイルポンプ300が、カウンターギア214と同軸で駆動されるので、オイルポンプ300は、モータ700の回転数に比べて、カウンターギア機構210により減速された分だけ低い回転数で駆動される。これにより、モータ700の出力軸710と同軸で駆動される場合に比べて、オイルポンプ300の最高回転数が低くなり、オイルポンプ300の耐久性が向上する。
また、本実施例では、上述の如く、オイルポンプ300が、シャフト250の内部に設定されており、車両内外方向でカウンターギア機構210と略同一の範囲内に配置されているので、モータ700、オイルポンプ300及び減速機構200の配置に必要な車軸方向の長さを、モータ、オイルポンプ及び減速機構を直列的に配置した場合に比べて、オイルポンプ300の分だけ短くすることができる。
また、本実施例では、上述の如く、オイルポンプ300が、モータ700と減速機構200の遊星歯車機構220との間に配置されるので、モータ700の冷却ないし減速機構200や各種ベアリング(ベアリング800,810,820,830等)の潤滑のためのオイル流路320の配置が容易となる。ここでは、オイル流路320の詳細な経路については説明しないが、例えば、シャフト250の内部に形成されるオイル流路320内のオイルは、ベアリング810に供給されると共に、シャフト250回転時の遠心力により、オイル孔(図示せず)を介してプラネタリギア224へと供給される。このようにして供給されたオイルは、ベアリング810及びプラネタリギア224の回転中心にあるローラ軸受の潤滑に供される。更に、オイルポンプ300からのオイルは、ステータコイル704のコイルエンド付近の空間322を利用して設けられるオイル流路320(図2の断面には表示されていない)を介して、ステータコイル704の冷却や、ベアリング800,820,830の潤滑に供される。このようにして冷却ないし潤滑に用いられたオイルは、重力により終局的にはオイルタンク310に帰還される。
オイルタンク310は、図2に示すように、ナックル400の下方に形成され、車輪10内における車軸中心に交差する鉛直線上の下方側に配置される。また、オイルタンク310は、図2に示すように、ロアボールジョイント500よりも車両外側に配置されると共に、ブレーキダストカバー112よりも車両内側に配置される。オイルタンク310は、ブレーキディスク110のハット部110aの内部空間を利用して配置され、車両内外方向では、ロアボールジョイント500と内輪側部材260の屈曲端部261との間で、且つ、径方向では、ブレーキディスク110の外周部111(ブレーキパッドに挟み込まれる部位)よりも内側に配置される。オイルタンク310には、同じくナックル400内に形成されるサクション経路312の下側の端部が接続されると共に、オイル帰還用のオイル帰還経路313が接続される。オイルタンク310は、上述の如く、モータ700の冷却ないし減速機構200の潤滑のためのオイルを貯留する役割を果たす。
尚、オイルタンク310は、ナックル400と内輪側部材260との間の接合面920に隣接して接合面920よりも車両内側に配置されることになる。
ドレインプラグ330は、オイルタンク310のドレイン流路314の開口を封止する脱着可能なプラグであり、例えばオイル交換時に、オイルタンク310内の使用済みのオイルを抜く際に外されるプラグである。ドレイン流路314は、ナックル400内にオイルタンク310に接続されるように形成される。また、ドレイン流路314は、ナックル400の車両内側の表面に開口を有し、当該開口に、ドレインプラグ330が液密に装着される。ドレインプラグ330は、図1に示すように、ロアボールジョイント500に対して車両前方向にオフセットして配置される。
フィラープラグ340は、オイルタンク310のフィラー流路316(一部図示せず)の開口を封止する脱着可能なプラグであり、例えばオイル交換時に、オイルタンク310内に新しいオイルを入れる際に外されるプラグである。フィラー流路316は、ナックル400内にオイルタンク310に連通するように形成される。本例では、フィラー流路316は、図1及び図2に示すように、ナックル400の周壁部430に車両内外方向に沿って形成され、周壁部430の車両内側の表面に開口を有し、当該開口に、フィラープラグ340が液密に装着される。フィラープラグ340は、図2に示すように、ロアボールジョイント500よりも車両内側に配置される。
次に、以上の構成を前提として、本実施例における特徴的な構成として、ブレーキダストカバー112の構成・配置について詳説する。
[ブレーキダストカバー112の構成・配置]
ブレーキダストカバー112は、それ自体は通常的なブレーキダストカバーと同様、樹脂等で形成されてよく、図1に示すように、ブレーキディスク110の径より大きな径を有する円盤状に構成される。ブレーキダストカバー112は、例えば内輪側部材260又はナックル400にボルト等により3,4箇所にて取り付けられる。
ブレーキダストカバー112は、内輪側部材260の屈曲端部261まわりに配置される内周部112aと、内周部112aから連続して径方向外側に延在し、ブレーキディスク110の外周部111に対向する外周部112bと有する。ブレーキダストカバー112の内周部112aは、ブレーキディスク110のハット部110aの内部に配置され、断面視で、図2に示すように、オイルタンク310の最も車両外側の部位よりも車両外側に位置する。これにより、オイルタンク310よりも車両外側がブレーキダストカバー112により完全に遮蔽され、万が一オイルタンク310の破損等によりオイルタンク310からオイルが漏れた場合にも、ブレーキダストカバー112によりブレーキディスク110に漏れたオイルがかかるのが確実に防止される。
図4は、図1のX部の拡大図であり、図5は、一部(要部)を切り出したブレーキダストカバー112を示す斜視図である。
本実施例では、図4に示すように、ブレーキダストカバー112の内周部112aにおける内周側の縁部150(以下、「内周縁部150」という。)は、接合面920よりも車両外側に配置される。即ち、ブレーキダストカバー112の内周縁部150は、接合面920の周縁部に対して車両外側にオフセットして配置されている。
ところで、上述の如く、本実施例では、ナックル400と内輪側部材260の2部材が、モータ700及び減速機構200の外周側を囲繞するケースを構成することになる。このようにケースを2以上の部材により分割して構成することは、製造上や整備上の観点から有利である。しかしながら、その反面、上述の如く、減速機構200にはオイルが流通するので、かかる2部材400,260間の接合面920に生じうる僅かな隙間を介して、オイルがケース外に漏出する可能性がある。特に、ナックル400と内輪側部材260との間の結合部は、アクスルベアリング100を介した荷重の伝達経路となるので、大荷重が入力した場合に変形して、接合面920に僅かな隙間が発生しやすい。従って、上述の如くOリング910を設定したとしても、接合面920を介して漏出しうるオイルに対する更なる対策を講ずることが重要となる。
これに対して、本実施例によれば、ブレーキダストカバー112の内周縁部150が接合面920よりも車両外側に配置されるので、図4に矢印で示すように、オイルが接合面920を介して漏出した場合であっても、ブレーキダストカバー112の内周縁部150によりブレーキディスク110に漏れたオイルがかかるのが確実に防止される。即ち、漏出したオイルは、ブレーキダストカバー112の内周縁部150により車両外側に向かう経路が遮断されるので、図4に矢印で示すように、ブレーキダストカバー112の内周部112aから外周部112bへと伝って流れるしかない。かかるオイルは、最終的には、ブレーキディスク110よりも径方向外側の外周部112bの縁部から下方に落下する。従って、ブレーキディスク110に漏れたオイルがかかることによるブレーキディスク110の性能低下を確実に防止することができる。
尚、図2に示す例では、ブレーキダストカバー112の内周縁部150は、車軸中心まわりの全周に亘って、接合面920よりも車両外側に配置されている。しかしながら、オイルは重力により主に車軸中心よりも下側の接合面920を介して下方に流れようとするので、ブレーキダストカバー112の内周縁部150は、車軸中心よりも下側の周部分(例えば下側の半周部分)に亘って、接合面920よりも車両外側に配置されていてもよい。
ここで、本実施例におけるブレーキダストカバー112の内周部112aとしての好ましい構造について、図4及び図5を参照して、詳細に説明する。
ブレーキダストカバー112の内周部112aは、図5に示すように、内輪側部材260の屈曲端部261の径方向外側の端面261bに径方向で当接するフランジ部162と、フランジ部162から径方向外側に延在し、車両内側方向に向けて傾斜する傾斜部164と、傾斜部164の外周縁から径方向外側に延在し、ナックル400の円環状の面402に接触する環状面166とを有する。環状面166には、車両外側が凸となる溝(オイル逃がし溝)168が形成される。尚、図5に示す構成は、ブレーキダストカバー112の全周に亘って適用されてもよいし、車軸中心よりも下側の周部分にだけ適用されてもよい。いずれの場合も、オイル逃がし溝168は、放射状或いは鉛直方向に一本以上形成されてよい。
図4を参照するに、ブレーキダストカバー112の傾斜部164は、接合面920を介して漏出したオイルを下側(径方向外側)から受けとめるオイル受け部を構成する。傾斜部164と、ナックル400の円環状の面402と、内輪側部材260の屈曲端部261とは、互いに協働して、断面が三角形の空間を画成する。当該空間には、オイル逃がし溝168が通じている。従って、接合面920を介して漏出したオイルは、この閉塞空間に貯留されうるが、溢れることは無く、図4に矢印で示すように、オイル逃がし溝168を通ってブレーキダストカバー112の内周部112aから外周部112bへと伝って流れることになる。
尚、図示の例では、ブレーキダストカバー112の内周縁部150は、フランジ部162により構成されているが、フランジ部162を設けなくてもよい。この場合、ブレーキダストカバー112の内周縁部は、傾斜部164により構成されることになる。或いは、逆に、図6(A)に示すその他の例のように、フランジ部162の車両外側を、更に径方向内側に曲げて新たなフランジ161を形成してもよい。この場合、ブレーキダストカバーの内周縁部は、当該新たなフランジ161により構成されることになる。いずれにしても、内周縁部は、好ましくは、図4に示すように、接合面920の下端と略同一の径方向の位置に配置されるか、或いは、フランジ部162に上述の新たなフランジ161を設けた場合のように、接合面920の下端よりも径方向内側に配置される。これにより、ブレーキディスク110への漏れたオイルの経路を、接合面920の下端から制限することができる。
尚、本実施例において、環状面166は、必ずしもナックル400の円環状の面402に接触する必要はない。例えば、図6(B)に示すその他の例では、環状面166Bが、円環状の面402から車両外側に離間して配置される。この場合、当該離間した隙間を通ってオイルが下方に導かれるので、図6(B)に示すように、図5に示したようなオイル逃がし溝168を形成しなくてもよい。
また、本実施例において、フランジ部162は、必ずしも屈曲端部261の径方向外側の端面261bに当接する必要はなく、ブレーキダストカバー112の内周縁部150が内輪側部材260(屈曲端部261)と一切接触しない構成であってもよい。
尚、以上の実施例においては、添付の特許請求の範囲における「2部材」は、ナックル400及び内輪側部材260に対応する。
以上、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
例えば、上述の実施例では、ブレーキダストカバー112におけるオイルの経路に関する構成のみを図示したが、ブレーキダストカバー112には、必要に応じてエアスクープや開口を設定してもよい。
また、上述の実施例では、ナックル400と内輪側部材260との間の接合面920が、図2に示すように、車両内外方向でブレーキディスク110と略同一の位置に設定されているので、接合面920を介して漏れたオイルが接合面920の直下にあるブレーキディスク110にかかりやすく、それ故に、特に、上述の実施例によるブレーキダストカバー112の構成が好適となる。しかしながら、本発明は、かかる接合面920が車両内外方向でブレーキディスク110に対してオフセットされた位置に配置されている場合にも適用可能である。
また、上述の実施例では、オイルタンク310が接合面920よりも車両内側に配置されているが、本発明は、かかる構成に限定されることは無く、例えば、図7に示すその他の実施例のように、オイルタンク310Bが、接合面920Bよりも車両外側に配置されていてもよい。この例では、オイルタンク310Bは、ナックル400Bに対して車両外側から固定されるカバー部材311により形成されている。カバー部材311は、車両外側が凸のハット型断面を有し、内部にオイルが貯留される空間を画成する。この場合、上述の実施例と同様の考え方で、ブレーキダストカバー112Bの内周部112Cにおける内周側の縁部150B(内周縁部150B)が、図7に示すように、接合面920Bよりも車両外側に配置されていればよい。
また、図示の例では、ナックル400が、減速機構200の外周側を囲繞するケースを構成する2部材のうちの一部材となっているが、ナックル400に結合される別部材が、減速機構200の外周側を囲繞するケースの一部材を構成してもよい。この場合、ナックル400と当該別部材との間の接合面に対して、上述のブレーキダストカバーの構成・配置が適用されてよい。
また、図示の例では、外輪側部材262が回転する形式(アウターロータタイプ)の構成であるので、回転しない内輪側部材260が減速機構200の外周側を囲繞するケースを構成しているが、逆に、内輪側部材がホイールに連結され、内輪側部材が回転する形式(インナーロータタイプ)の構成を採用した場合には、回転しない同様の外輪側部材が、減速機構の外周側を囲繞するケースを構成しうる。
また、図示の例では、ナックル400(周壁部430)がモータ700の外周側を囲繞するケースをも構成しているが、モータ700の外周側を囲繞するケースは、ナックル400に結合される別部材で構成されてもよい。この場合、ナックル400と当該別部材との間の接合面に対して、上述のブレーキダストカバーの構成・配置が適用されてもよい。
また、図示の例では、減速機構200が設けられているが、モータの出力軸を車軸中心に配置し、減速機構を無くして、モータの出力軸をハブベアリングに直結させてもよい。この場合には、モータのハウジング(ナックル)と、ハブベアリングのインナーレース又はアウターレースを構成する部材とが、車輪の駆動機構の外周側を囲繞する2部材を構成することになる。この場合、当該2部材間の接合面に対して、上述のブレーキダストカバーの構成・配置が適用されてもよい。
また、図示の例では、操舵輪に係るインホイールモータ構造を示しているが、本発明は、操舵輪以外の車輪においても適用可能である。
また、図示の例では、モータ700は、車軸中心に対して車両前側にオフセットして配置されているが、モータ700は、車軸中心に対して車両後側にオフセットして配置されてもよく、この場合、それに伴いブレーキキャリパ120が車両前側に配置されてよい。また、図示の例では、モータ700は、インナーロータタイプであるが、アウターロータタイプにモータであってもよい。
また、図示の例では、好ましい実施例として、減速機構200は、2段階の減速を実現するものであったが、一段階であってもよく、或いは、3段以上の減速を実現してもよい。また、減速機構200は、カウンターギア機構210と遊星歯車機構220により2段階の減速を実現しているが、その他の組み合わせであってもよく、例えば、直列に配置した遊星歯車機構により2段階の減速を実現してもよい。
また、図示の例では、好ましい実施例として、オイルポンプ300からのオイルが、モータ700の冷却及び減速機構200の潤滑に供されているが、何れか一方のみに供給されることとしてもよい。或いは、オイルポンプ300からのオイルが、ブレーキキャリパ120に導かれて油圧ブレーキの生成に用いられてもよい。