以下、図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態の説明を行う。
図1及び図2は、本発明による車輪駆動装置が適用されるインホイールモータ構造の一実施例を示す図であり、図1は、車輪を車両内側から視た図であり、図2は、図1のラインA−Aに沿った断面図である。図3は、外輪側部材262と動力伝達部材270との結合方法の一例を示す斜視図である。図4は、プラネタリキャリア226と動力伝達部材270との結合態様を示す部分断面図(車軸中心より上側の一部の断面図)である。図1中、紙面左側が車両前側に対応する。尚、図1及び図2において、車輪の上側約1/3の部分は、図示が省略されており、タイヤについても図示が省略されている。
車輪10は、タイヤ(図示せず)が装着されるホイール14を備える。ホイール14のリム内周面14aより囲繞される空間内には、以下で詳説するように、モータ関連の構成要素の主要部が収められる。本明細書及び添付の特許請求の範囲において、「車輪内」とは、ホイール14のリム内周面14aより囲繞される略円柱形の空間を意味する。但し、ある部品が車輪内に配置される等の表現は、必ずしも当該部品の全体が完全に当該略円柱形の空間内に収まることを意味せず、当該部品の一部が部分的に当該略円柱形の空間内からはみ出す構成を除外するものではない。
車輪10内には、主に、アクスルベアリング100と、ブレーキディスク110と、ブレーキディスク110を車両内側からカバーするブレーキダストカバー112と、ブレーキキャリパ120と、車輪駆動用のモータ700と、減速機構200と、オイルポンプ300と、オイルタンク310と、オイル流路320(一部図示せず)と、ナックル(キャリア)400と、ロアアーム520の車輪側の端部が接続されるロアボールジョイント500と、タイロッド(図示せず)の車輪側の端部が接続されるボールジョイント510(以下、「タイロッドB/J510」という。)とが配置される。また、図示されていないが、車輪10内には、アッパアームの車輪側の端部が接続されるアッパボールジョイントが配置される。但し、ストラット式サスペンションの場合には、アッパアームに代えて、ストラット(ショックアブソーバ)の下端がナックル400の上側に接続される。
モータ700は、車輪10内における車両内側の空間に配置される。モータ700は、図2に示すように、車軸中心に対して上側にオフセットして配置されると共に、図1に示すように、車軸中心に対して車両前側にオフセットして配置される。これにより、車輪10内の車両内側の空間には、図1に示すように、モータ700がオフセットされた分だけ、車両後側及び下側に、モータ700に占有されない空間が生まれる。従って、モータを車軸中心に同心に配置した構成に比べて、車輪10内における車両内側且つ下側の空間が広がるので、ロア側のサスペンション配置の自由度が大きくなる。また、図1に示すように、車輪10内において、モータ700がオフセットされた側(本例では、車両前側)とは反対側(車両後側)に、ブレーキキャリパ120に容易に搭載することができる。
モータ700の主要構成要素は、ステータコア702と、ステータコイル704と、ロータ706とを含む。モータ700が三相モータである場合、ステータコイル704は、U相コイル、V相コイルおよびW相コイルからなる。ロータ706は、ステータコア702およびステータコイル704の内周側に配置される。
モータ700のロータ706は、車軸中心に対して上述の如く回転中心がオフセットした出力軸710を有する。出力軸710は、車輪10内における車両内側で、ベアリング820を介してモータカバー750に回転可能に支持されると共に、車輪10内における車両外側で、ベアリング830を介してナックル400(主要構造部410)に回転可能に支持される。尚、ベアリング820及びベアリング830は、転動体として玉を用いるラジアル玉軸受(ボールベアリング)であってよく、例えば、単列深溝ボールベアリングであってよい。
モータ700の回転出力は、減速機構200を介してホイール14に伝達される。減速機構200は、2軸の減速機構であり、カウンターギア機構210と、遊星歯車機構220とからなり、2段階の減速を実現する。尚、以下で説明する減速機構200の各ギア212,214、222、224,226,228は、はすば歯車(ヘリカルギア)により構成されてよい。
カウンターギア機構210は、図2に示すように、モータ700よりも車両外側に配置される。カウンターギア機構210は、モータ700の出力軸710に対して同軸に配置される小径の駆動歯車212と、駆動歯車212に噛合う大径の被動歯車(カウンターギア)214とからなる。小径の駆動歯車212は、モータ700の出力軸710に対して、車両外側からスプライン嵌合され、かしめられて一体化される。大径のカウンターギア214は、車軸中心に回転中心を有する。従って、モータ700の出力軸710は、およそ、駆動歯車212の半径とカウンターギア214の半径とを足し合わせた距離だけ、車軸中心に対してオフセットして配置されることになる。
遊星歯車機構220は、図2に示すように、車輪10内における車両外側の空間に、カウンターギア機構210よりも車両外側に配置される。遊星歯車機構220は、車軸中心に同軸に配置される。遊星歯車機構220は、サンギア222と、プラネタリギア224と、プラネタリキャリア226と、リングギア228とからなる。
サンギア222は、カウンターギア機構210のカウンターギア214に連結される。図2に示す例では、サンギア222及びカウンターギア214は、シャフト(サンギア軸)250の車両内外方向の両端に形成されている。具体的には、シャフト250は、車軸中心に回転中心を有し、車両外側の端部周面にサンギア222を有し、車両内側の端部周面にカウンターギア214を有する。シャフト250は、車両内側の端部で、ナックル400に対してベアリング800を介して回転可能に支持され、車両外側の端部で、円盤状の動力伝達部材270に対して、ベアリング810を介して回転可能に支持される。尚、サンギア222及びカウンターギア214は、別部品で構成されても良く、この場合、それぞれの部品同士がスプライン結合されればよい。また、ベアリング800及びベアリング810は、転動体として玉を用いるラジアル玉軸受(ボールベアリング)であってよく、例えば、単列深溝ボールベアリングであってよい。また、ベアリング800は、図2に示すように、カウンターギア214の内部(内周側)に組み込まれてよく、ベアリング800の内輪側には、ナックル400の凸部412が圧入等により結合される。
プラネタリギア224は、内周側でサンギア222と噛合い、外周側でリングギア228に噛合う。プラネタリギア224は、プラネタリキャリア226に対して、ローラ軸受を介してローラ軸225を中心として回転可能に支持される。プラネタリギア224は、サンギア222まわりに、等間隔をおいて複数個設定される。
プラネタリキャリア226は、車軸中心に回転中心を有する。プラネタリキャリア226は、車輪10内における車両内側では、シャフト250に対してスラスト円筒ころ軸受840を介して支持される。プラネタリキャリア226は、外周面にスプラインないしセレーション(以下、単に「スプライン」という。)が形成された円筒状の周壁部227を、車両外側の端部に有する。プラネタリキャリア226の周壁部227は、動力伝達部材270に周状に形成された周溝272(図3参照)にスプライン嵌合される。
リングギア228は、車軸中心に回転中心を有し、サンギア222を外周側から囲繞するように配置される内輪側部材260の内周面に形成される。内輪側部材260の外周面は、アクスルベアリング100のインナーレースを構成する。
アクスルベアリング100は、例えば2列のアンギュラーボールベアリングであり、接触角は例えば約60度であってよい。図示の例では、車両外側の列に対する外インナーレースについては、内輪側部材260とは別の部材により構成されている。このような別の部材は、内輪側部材260の外周に嵌合させてかしめることにより内輪側部材260に一体化される。
外輪側部材262は、内輪側部材260を外周側から囲繞するように配置される。外輪側部材262の内周面は、アクスルベアリング100のアウターレースを構成する。外輪側部材262と内輪側部材260との間の車両内外方向の端部には、異物の混入やオイルの流通を防止するためのシール280、282が設けられる。
動力伝達部材270は、減速機構の車両外側を覆うように設けられる円盤状の部材である。動力伝達部材270は、車両内側に周溝272が形成される。周溝272の外周側の側面には、図3に示すように、プラネタリキャリア226の周壁部227側のスプラインに対応したスプラインが形成される。スプライン付きの周溝272内には、図4に示すように、プラネタリキャリア226のスプライン付きの周壁部227が嵌合され、動力伝達部材270とプラネタリキャリア226とは、互いに噛み合うスプラインにより相対回転不能に連結されることになる。
スプライン嵌合部は、好ましくは、アクスルベアリング100の接触角により画成される角度θ内(図4参照)に設定される。これにより、タイヤに作用する荷重によるベアリング剛性分の変形がスプライン嵌合部の隙間に与える影響を、最小限にとどめることができる。
動力伝達部材270の外周縁は、図3に示すように、外輪側部材262の車両外側の端部に、かしめ等により結合される。即ち、動力伝達部材270は、外輪側部材262の車両外側の略円形の開口を塞ぐように、外輪側部材262に対して固定される。外輪側部材262は、外周面に径方向外側に突出するつば部(フランジ部)263を有し、つば部263にはハブボルト(図示せず)が締結されるボルト穴263aが形成される。外輪側部材262は、つば部263でブレーキディスク110の内周部を挟み込んだ状態で、ホイール14に対してハブボルトによりブレーキディスク110と共締めされる。
以上の構成において、図示しない車両制御装置からの指令によりモータ700のロータ706が回転すると、それに伴い、小径の駆動歯車212が回転し、駆動歯車212と噛合う大径のカウンターギア214が回転し、カウンターギア機構210による1段目の減速が実現される。カウンターギア214が回転すると、カウンターギア214と一体のサンギア222が回転することになり、それに伴い、プラネタリギア224が自転しながらサンギア222まわりを公転する。この自転分により、遊星歯車機構220による2段目の減速が実現される。プラネタリギア224の公転運動は、プラネタリキャリア226により取り出され、プラネタリキャリア226にスプライン嵌合された動力伝達部材270に伝達される。これにより、動力伝達部材270が回転されると、外輪側部材262、ブレーキディスク110及びホイール14は、動力伝達部材270と一体となって回転する。即ち、車輪の駆動が実現される。
ナックル400は、主に、車輪10の略中心付近に位置する主要構造部410と、円筒状の周壁部(モータケース部)430とを有する。ナックル400の周壁部430の径方向内側の空間には、上述のモータ700の主要構成要素が配置される。ナックル400の周壁部430の車両内側の端部には、周壁部430内の空間を覆うようにモータカバー750が結合される。
ナックル400の主要構造部410は、薄肉の周壁部430やその他のリブ等と異なり、十分な強度・剛性を有し、アクスルベアリング100、タイロッドやサスペンションアーム(ロアアーム520等)の取り付け点、ブレーキキャリパ120の取り付け点を介して入力される荷重を受け持つ役割を果たす。
ナックル400の主要構造部410の車両外側の端部には、内輪側部材260が例えば圧入又はボルト等により結合される。ナックル400の主要構造部410は、車両外側の端部で、アクスルベアリング100(内輪側部材260)を介して車輪10から入力される各種荷重を受け持つ。ナックル400の主要構造部410の内部空間には、上述のカウンターギア機構210が配置される。ナックル400の主要構造部410は、ベアリング830及びベアリング800を介して入力される各種のスラスト荷重とラジアル荷重を受け持つ。
ナックル400の主要構造部410は、下側に延びる2本の腕部424,426を有する。腕部424,426の下端には、ナックルアーム130がボルト134,136によりそれぞれ締結される。ナックルアーム130は、車輪10内で車両前後方向に延在する。ナックルアーム130の前端側には、タイロッドB/J510が設定され、ナックルアーム130の後端側には、ロアボールジョイント500が設定される。ナックル400の主要構造部410は、ロアボールジョイント500やタイロッドB/J510を介して入力される各種荷重を受け持つ。
ロアボールジョイント500は、図1に示すように、車両前後方向で、2本の腕部424,426の間に配置され、車両前後方向で車輪10の略中央に配置されている。また、ロアボールジョイント500は、図2に示すように、ブレーキディスク110よりも車両内側に配置される。ロアボールジョイント500には、上方からナット522によりロアアーム520が締結される。ロアアーム520は、車両幅方向に延在し、車両内側の端部は、図示しない車体にブッシュ等を介して支持される。尚、ロアアーム520は、如何なる形式のものであっても良く、例えば、L字型のロアアームやダブルリンクタイプのロアアームであってもよい。ロアアーム520は、図示しないアッパアーム(又はストラット)と協働し、車輪10を車体に対して揺動可能に支持する。また、バネ及びアブソーバ(図示せず)が車体とロアアーム520との間に設けられる。これにより、車輪10からの車体への入力が緩和される。尚、バネについては、スプリングコイル、空気バネの如何なる形式のバネであってもよく、アブソーバーについても、上下入力に対して減衰作用を付与する油圧アブソーバーの他、回転入力に対して減衰作用を付与する回転式電磁アブソーバーが用いられてもよい。
本実施例では、上述の如くモータ700が車軸中心に対して上側にオフセットされているので、ロアボールジョイント500の配置位置(キングピン軸の配置)の自由度が高まり、例えば、ロアボールジョイント500を、図2に示すように、ブレーキディスク110に対して、必要なクリアランスを残して最大限に近づけることもできる。これにより、タイヤ入力点と各部材の車両内外方向のオフセットが小さくなるので、各部材(例えばナックルの主要構造部410)の必要強度・剛性を小さくすることができ、軽量化を図ることができる。
タイロッドB/J510は、図1に示すように、車両前後方向で、前側の腕部426よりも前側に配置されている。タイロッドB/J510は、同様に、ブレーキディスク110よりも車両内側に配置される。タイロッドB/J510には、上方からナット(図示せず)によりタイロッド(図示せず)が締結される。タイロッドは、車両幅方向に延在し、車両内側の端部がラック軸(図示せず)に接続され、ラック軸が例えばラック&ピニオン機構によりステアリングシャフトに接続される。これにより、車輪10が操舵可能に構成される。このように、本実施例では、上述の如くモータ700が車軸中心に対して上側にオフセットされているので、タイロッドB/J510を車輪10内に容易に成立させることができる。
ナックル400の主要構造部410には、図1に示すように、モータ700に対して車両後方側に配置されるブレーキキャリパ120(マウンチング)の取り付け点122(図中には1点だけ表示)が設定される。ナックル400の主要構造部410は、ブレーキキャリパ120の取り付け点122を介して、制動時に入力される荷重を受け持つ。図示の例では、ブレーキキャリパ120の下側の取り付け点122は、ナックル400の車両後側の腕部424の根元付近に設定される。このような高い強度・剛性の部位をブレーキキャリパ120の取り付け部位とすることで、合理的な構造が実現される。
オイルポンプ300は、車両内外方向で、モータ700と減速機構200の遊星歯車機構220との間に配置される。具体的には、オイルポンプ300は、シャフト250の車両内側の端部に設けられる。図2に示す例では、オイルポンプ300は、カウンターギア機構210のカウンターギア214の内部、即ち、カウンターギア214の径方向内側に配置されている。他言すると、シャフト250の車両内側の端部(拡径部)に形成された空洞252内には、ナックル400の主要構造部410を構成する凸部412が収容され、凸部412の端面(車両内側の面)の凹部に、オイルポンプ300が設けられる。オイルポンプ300は、例えば図示のようなトロコイドポンプの他、外接歯車ポンプ、内接歯車ポンプ(クレセントの有無を問わず)等如何なる種類のギアポンプであってもよく、また、ベーンポンプ等の他のタイプの油圧ポンプであってもよい。
オイルポンプ300は、モータ700の回転出力により作動する。具体的には、オイルポンプ300のインナーロータが、シャフト250の車両内側の端部に連結され、シャフト250の回転により回転される。即ち、オイルポンプ300のインナーロータは、カウンターギア214と同軸で駆動される。インナーロータが回転されると、オイルタンク(リザーバータンク)310内のオイルが、サクション経路312を介して汲み上げられ、図示しない吸込口から吸い込まれたオイルが、オイルポンプ300のアウタロータとインナーロータの間に挟まって圧送され、図示しない吐出口からオイル流路320へと吐出される。
本実施例では、上述の如く、オイルポンプ300が、カウンターギア214と同軸で駆動されるので、オイルポンプ300は、モータ700の回転数に比べて、カウンターギア機構210により減速された分だけ低い回転数で駆動される。これにより、モータ700の出力軸710と同軸で駆動される場合に比べて、オイルポンプ300の最高回転数が低くなり、オイルポンプ300の耐久性が向上する。
また、本実施例では、上述の如く、オイルポンプ300が、シャフト250の内部に設定されており、車両内外方向でカウンターギア機構210と略同一の範囲内に配置されているので、モータ700、オイルポンプ300及び減速機構200の配置に必要な車軸方向の長さを、モータ、オイルポンプ及び減速機構を直列的に配置した場合に比べて、オイルポンプ300の分だけ短くすることができる。
また、本実施例では、上述の如く、オイルポンプ300が、モータ700と減速機構200の遊星歯車機構220との間に配置されるので、モータ700の冷却ないし減速機構200や各種ベアリング(ベアリング800,810,820,830等)の潤滑のためのオイル流路320の配置が容易となる。ここでは、オイル流路320の詳細な経路については説明しないが、例えば、シャフト250の内部に形成されるオイル流路320内のオイルは、ベアリング810に供給されると共に、シャフト250回転時の遠心力により、オイル孔(図示せず)を介してプラネタリギア224へと供給される。このようにして供給されたオイルは、ベアリング810及びプラネタリギア224の回転中心にあるローラ軸受の潤滑に供される。更に、オイルポンプ300からのオイルは、ステータコイル704のコイルエンド付近の空間322を利用して設けられるオイル流路320(図2の断面には表示されていない)を介して、ステータコイル704の冷却や、ベアリング800,820,830の潤滑に供される。このようにして冷却ないし潤滑に用いられたオイルは、重力により終局的にはオイルタンク310に帰還される。
オイルタンク310は、図2に示すように、ナックル400の下方に形成され、車輪10内における車軸中心に交差する鉛直線上の下方側に配置される。また、オイルタンク310は、図2に示すように、ロアボールジョイント500よりも車両外側に配置されると共に、ブレーキダストカバー112よりも車両内側に配置される。オイルタンク310は、ブレーキディスク110のハット部110aの内部空間を利用して配置される。オイルタンク310には、同じくナックル400内に形成されるサクション経路312の下側の端部が接続されると共に、オイル帰還用のオイル帰還経路313が接続される。オイルタンク310は、上述の如く、モータ700の冷却ないし減速機構200の潤滑のためのオイルを貯留する役割を果たす。
ドレインプラグ330は、オイルタンク310のドレイン流路314の開口を封止する脱着可能なプラグであり、例えばオイル交換時に、オイルタンク310内の使用済みのオイルを抜く際に外されるプラグである。ドレイン流路314は、ナックル400内にオイルタンク310に接続されるように形成される。また、ドレイン流路314は、ナックル400の車両内側の表面に開口を有し、当該開口に、ドレインプラグ330が液密に装着される。ドレインプラグ330は、図1に示すように、ロアボールジョイント500に対して車両前方向にオフセットして配置される。
フィラープラグ340は、オイルタンク310のフィラー流路316(一部図示せず)の開口を封止する脱着可能なプラグであり、例えばオイル交換時に、オイルタンク310内に新しいオイルを入れる際に外されるプラグである。フィラー流路316は、ナックル400内にオイルタンク310に連通するように形成される。本例では、フィラー流路316は、図1及び図2に示すように、ナックル400の周壁部430に車両内外方向に沿って形成され、周壁部430の車両内側の表面に開口を有し、当該開口に、フィラープラグ340が液密に装着される。フィラープラグ340は、図2に示すように、ロアボールジョイント500よりも車両内側に配置される。
ところで、以上の構成において、減速機構200の遊星歯車機構220のサンギア222は、車両内外方向両側のベアリング800、810により正確に位置決めされる。また、動力伝達部材270と外輪側部材262とは上述の如く剛結合され、外輪側部材262は与圧をもったアクスルベアリング100のベアリング玉により正確に位置決めされる。また、遊星歯車機構220のリングギア228は、上述の如く、アクスルベアリング100の内輪側部材260の一部として構成され、内輪側部材260は、ナックル400に剛結合されている。即ち、リングギア228は正確に位置決めされる。
一方、プラネタリギア224及びプラネタリキャリア226からなる組立体(以下、「プラネタリギアユニット」という。)は、プラネタリギア224とサンギア222との間の歯面の噛み合い、及び、プラネタリギア224とリングギア228との間の歯面の噛み合いにより、位置が決まる。これらの歯面間には、機械加工等の誤差を考慮して、ある程度のクリアランスが設定される。このため、プラネタリギアユニットは、サンギア222及びリングギア228に対して若干のガタ成分を有して遊離した状態となる。また、プラネタリキャリア226と動力伝達部材270との間のスプライン嵌合部では、それぞれのスプラインの間に、機械加工等の誤差を吸収するためのクリアランスが設定される。このため、プラネタリギアユニットは、動力伝達部材270に対しても若干のガタ成分を有して遊離した状態となる。
このように、プラネタリギアユニットが、動力伝達部材270に対して若干の遊びをもってスプライン嵌合される構成では、プラネタリギアユニットを動力伝達部材270に対してピン等で正確に位置決めして連結する構成に比べて、機械加工等の誤差を容易に吸収することができ、生産性が優れる。しかしながら、その反面、プラネタリギアユニットが遊離した状態となるので、振動レベルの大きいバネ下の車輪10内においては、バネ下振動により、プラネタリギアユニットが軸方向(車軸中心に沿った方向)及び径方向に移動し、隣接する部品に衝突し、歯面間等で異音が生じやすくなる。
そこで、本実施例では、図2及び図4に示すように、プラネタリギアユニットと動力伝達部材270との間のスプライン嵌合部(連結部)に、軸方向及び径方向で弾性力を付与する弾性部材290を配置する。弾性部材290は、ゴムや皿バネ等で構成されてよく、正規の組み付け状態で弾性変形した状態(与圧を有する状態)となるように構成される。これにより、スプライン嵌合部でのプラネタリギアユニットの動力伝達部材270に対する移動を、弾性部材290からの弾性・減衰作用により抑制することができる。この結果、高い生産性を維持しつつ、バネ下振動に伴うプラネタリギアユニットの移動に起因した異音を防止することができる。
ここで、図2、図4及び図5を参照して、本実施例における弾性部材290の具体的な構成について説明する。図5は、弾性部材290を示す斜視図である。
弾性部材290は、切頭型の円錐状の外形であり、リング状の形態を有する。弾性部材290は、上部290aと底部290bを有する。
弾性部材290は、図2及び図4に示すように、動力伝達部材270の周溝272内に配置される。即ち、弾性部材290は、動力伝達部材270の周溝272とプラネタリキャリア226の周壁部227とにより画成されるリング状の空間内に組み付けられる。弾性部材290は、組み付け状態で、主に母線方向で弾性変形するように構成される。
組み付け状態において、弾性部材290の上部290aは、図2及び図4に示すように、動力伝達部材270の周溝272の内周側の側面と底面とのコーナー部に当接する。また、弾性部材290の底部290bは、図2及び図4に示すように、プラネタリキャリア226の周壁部227の内周側の根元付近のコーナー部に当接する。これにより、プラネタリキャリア226には、図4にて矢印で示すように、軸方向で車両内側に向けて且つ径方向で径方向外側に向けて、弾性部材290からの弾性力が作用する。
このように本実施例によれば、組み付け状態において、プラネタリギアユニットと動力伝達部材270との間のスプライン嵌合部に、弾性部材290により軸方向及び径方向の方向で弾性力が付与されるので、プラネタリギア224とサンギア222の歯面間のガタ成分、プラネタリギア224とリングギア228の歯面間のガタ成分、及び、プラネタリキャリア226の周壁部227と動力伝達部材270の周溝272のスプライン間のガタ成分に起因して、バネ下振動に伴ってプラネタリギアユニットが径方向内外に動こうとしても、当該径方向内外の動きが弾性部材290の径方向の弾性力により効果的に抑制される。また、弾性部材290の軸方向の弾性力により、プラネタリギアユニットがスラスト円筒ころ軸受840に向けて軸方向に付勢されるので、バネ下振動に伴うプラネタリギアユニットの軸方向における車両内外方向の動きが効果的に抑制される。
また、本実施例では、弾性部材290が、上述の如く、動力伝達部材270の周溝272のコーナー部とプラネタリキャリア226の周壁部227の根元付近のコーナー部との間に保持されるので、弾性部材290の設置状態での安定性が高く、動力伝達部材270及びプラネタリキャリア226の回転時(車輪10の回転時)にも弾性部材290の位置ずれ等が生ずることが防止される。
尚、本実施例では、単一の弾性部材290により、スプライン嵌合部に軸方向及び径方向の方向で弾性力を付与させているが、2つ以上の弾性部材を用いて、スプライン嵌合部に軸方向及び径方向の方向で弾性力を付与させてもよい。例えば、動力伝達部材270の周溝272の内周側の側面とプラネタリキャリア226の周壁部227の内周面との間に、径方向に弾性変形する第1の弾性部材を配設すると共に、例えばストッパ部274と内輪側部材260との間の当接部に、軸方向に弾性変形する第2の弾性部材を介在させてもよい。
以上、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
例えば、上述の実施例では、動力伝達部材270とプラネタリキャリア226とは、動力伝達部材270の周溝(凹部)272とプラネタリキャリア226の周壁部(凸部)227とがスプライン嵌合することで、連結されている。しかしながら、プラネタリキャリア226側に同様のスプライン付きの周溝(凹部)を形成し、動力伝達部材270側に同様のスプライン付きの周壁部(凸部)を形成してもよい。
また、上述の実施例では、好ましい実施例として、弾性部材290によりスプライン嵌合部に軸方向及び径方向の方向で弾性力を付与させているが、弾性部材によりスプライン嵌合部に軸方向又は径方向に弾性力を付与させてもよい。例えば、スプライン嵌合部に径方向だけに弾性力を付与させてもよい。この場合も、プラネタリギアユニットは、スラスト円筒ころ軸受840及びストッパ部274により車両内外方向の変位がある程度制約されているので、プラネタリギアユニットの径方向の振動を抑制することで、プラネタリギアユニットの移動に起因した異音等を防止することができる。
また、図示の例では、好ましい実施例として、減速機構200は、2段階の減速を実現するものであったが、遊星歯車機構だけの一段階の減速を実現するものであってもよく、或いは、3段以上の減速を実現してもよい。また、減速機構200は、カウンターギア機構210と遊星歯車機構220により2段階の減速を実現しているが、その他の組み合わせであってもよく、例えば、直列に配置した遊星歯車機構により2段階の減速を実現してもよい。
また、図示の例では、カウンターギア機構210の好ましい実施例として、モータ700に直結される駆動歯車212に対してカウンターギア214を外接させることで、カウンターギア機構210を囲繞するナックル400の主要構造部410の径を小さくしているが、より大径のカウンターギアに駆動歯車212を内接させてもよい。即ち、駆動歯車212の外周面の歯に対してカウンターギアの内周面の歯が噛み合うような構成であってもよい。
また、図示の例では、好ましい実施例として、モータ700は、車軸中心に対して車両前側にオフセットして配置されているが、モータ700は、車軸中心に対して車両後側にオフセットして配置されてもよいし、また、遊星歯車機構だけの一段階の減速を実現する構成の場合、モータ700は車軸中心に同軸に配置されてもよい。
また、図示の例では、好ましい実施例として、減速機構200の遊星歯車機構220のリングギア228が、内輪側部材260に一体的に形成されているが、同様のリングギアを内輪側部材260とは別部品で構成して、当該リングギアを構成する部品と内輪側部材260とを一体化させてもよい。
また、図示の例では、操舵輪に係るインホイールモータ構造を示しているが、本発明は、操舵輪以外の車輪においても適用可能である。