JP4736158B2 - 船舶の航路保持制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、作業上の要請から操船において所定の船速で所定の航路を保持する必要があるケーブル敷設船、海洋調査船、オイルリグ等の船舶・海洋構造物(以下、船舶と呼ぶ)に用いられる、自動的に航路・船速保持を行う航路保持制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来の航路保持制御装置及び方法においては、海図上において時系列的・離散的に経由点WPk(k=1,2,…)を設定し、これら経由点に基づく船舶位置偏差と方位偏差を算出し、これら算出された偏差を無くすように船舶の推力を調整することにより航路保持制御を行っていた。
【0003】
図12は従来の制御手法を示したものである。船舶Qが、最後に通過した経由点(前回経由点)WPnと今度通過する経由点(今回経由点)WPn+1間に存在する場合は、今回経由点WPn+1を制御上の目標点とする。すなわち、前回経由点WPnと今回経由点WPn+1とを結ぶ直線に対して船舶現在位置(Xs,Ys)から垂直線を下ろし、双方の交点を最近点(Xm,Ym)とし、船舶位置偏差ΔX、ΔYは、最近点(Xm,Ym)から目標点たる今回経由点WPn+1までの距離をΔXと、最近点(Xm,Ym)から船舶現在位置(Xs,Ys)までの距離をΔYとすることで与えられる。また、船長方向と、船舶現在位置(Xs,Ys)と今回経由点WPn+1とを結ぶ直線とがなす角度が方位偏差Δpとして与えられる。これらの偏差ΔX、ΔY、Δpを無くすように推進器推力の制御を行うことにより、船舶の航路保持がなされていた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、従来の方法では、目標点たる経由点は船舶がこれを通過した際に次の経由点に移行する。したがって、変向点である経由点を通過した場合には、この移行の際に上記偏差は不連続に変化することとなる。推進器駆動部に与えられる推力指令値は偏差の値に依存するから、このような偏差の不連続は、実際の推力のばたつきをもたらすこととなる。
【0005】
また、上述の経由点偏差に基づく従来の制御手法では、図13に示すような実際の航路Jの行き過ぎ現象Oが生じてしまう。つまり、経由点WPn+1が転向点である場合に、制御の結果として目標点たる経由点にWPn+1に船舶Qが到達しても、次なる目標点たる経由点WPn+2の位置と経由点WPn+1への船舶Qの進入角度との関係次第では、線分WPn+1WPn+2から現実の船舶航路は大きく逸脱することがある。また、通常、行き過ぎ現象Oを積極的に減らすような制御は行わない。
【0006】
さらに、上述の経由点偏差に基づく従来の制御手法では、位置偏差ΔX、ΔY、方位偏差Δpを計算して操船する場合は、3自由度の制御であるため、一軸のプロペラ及び舵からなる推進器1個のみでは、発生した船幅方向推力と発生モーメントが依存するので航路保持に必要な推力を出すことが原理的に不可能である。従って、従来の制御手法は2つ以上の独立した推進器を有し、船長方向推力と船幅方向推力及びモーメントを自由に提供できる(すなわち3自由度を有する)船舶においてのみ適用されていた。
【0007】
本発明は上記の課題を解決するための手段を提供するものである。すなわち、推力のばたつきがなく、航路保持制御の行き過ぎ現象が軽減された、一軸の推進器を1個のみ有する船舶にも適用可能な、船舶の航路保持制御装置を提供するものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明による船舶の航路保持制御装置は、船舶が保持すべき計画航路Aを決定する計画航路決定手段と、船舶が計画航路Aを保持するように船舶を制御する制御手段とを備えており、
計画航路決定手段は、前回経由点WPnおよび今回経由点WPn+1を設定し、計画航路を、前回経由点WPnおよび今回経由点WPn+1を経由して連続的にのびた連続航路とし、
制御手段は、計画航路A上において、船舶現在位置(Xs、Ys)から計画航路A上までの最も近い最近点(Xm、Ym)を設定するとともに、最近点(Xm、Ym)から今回経由点WPn+1の方向に航路保持制御距離dを隔てて目標点(Xt、Yt)を設定し、船舶現在位置(Xs、Ys)から最近点(Xm、Ym)までの距離を航路偏差ΔYとするとともに、船舶軸Xと、船舶現在位置(Xs、Ys)と目標点(Xt、Yt)を結ぶ直線Mとがなす角度を方位偏差Δpとし、航路偏差ΔYおよび方位偏差Δpが零となるように船舶を航行させるものである。
本発明による他の船舶の航路保持制御装置は、船舶が保持すべき計画航路Aを決定する計画航路決定手段と、船舶が計画航路Aを保持するように船舶を制御する制御手段とを備えており、
計画航路決定手段は、複数の経由点WPを時系列的に設定するとともに、船舶の最小旋回半径等の運動特性を考慮して航路回転半径rを設定し、計画航路を、複数の経由点WPを順次経由するかその近傍を迂回して連続的にのびかつ航路回転半径rに等しい半径をもつ円弧状航路およびこれの接線としてのびた直線状航路のみにより構成し、
船舶の航路保持制御装置制御手段は、計画航路A上において、船舶現在位置(Xs、Ys)から計画航路A上までの最も近い最近点(Xm、Ym)を設定するとともに、最近点(Xm、Ym)から今回経由点WPn+1の方向に航路保持制御距離dを隔てて目標点(Xt、Yt)を設定し、船舶現在位置(Xs、Ys)から最近点(Xm、Ym)までの距離を航路偏差ΔYとするとともに、船舶軸Xと、船舶現在位置。(Xs、Ys)と目標点(Xt、Yt)を結ぶ直線Mとがなす角度を方位偏差Δpとし、航路偏差ΔYおよび方位偏差Δpが零となるように船舶を航行させるものである。
さらに、経由点が、前回経由点WP1、今回経由点WP2および次回経点WP3よりなり、
今回経由点WF2を迂回する円弧Rによって円弧状航路が形成され、前回経由点WP1から円弧状航路の始端までのびた第1直線L12および円弧状航路の終端から次回経由点WP3までのびた第2直線L23によって直線状航路が形成されていることが好ましい。
また、経由点が、前回経由点WP1、今回経由点WP2、次回経由点WP3および次々回経由点WP4よりなり、
今回経由点WP2を迂回する第1円弧R1およびこれの終端に連なって次回経由点WP3を迂回する第2円弧R2によって円弧状航路が形成され、前回経由点WP1から円弧状航路の始端までのびた第1直線L12および円弧状航路の終端から次々回経由点WP4までのびた第2直線L34によって直線状航路が形成されていても良い。
また、経由点が、前回経由点WP1、今回経由点WP2、次回経由点WP3および次々回経由点WP4よりなり、
また、今回経由点WP2および次回経由点WP3の一方を迂回するとともに、その他方を経由する円弧R23によって円弧状航路が形成され、前回経由点WP1から円弧状航路の始端までのびた第1直線L12および円弧状航路の終端から次々回経由点WP4までのびた第2直線L34によって直線状航路が形成されていても良い。
さらに、航路保持制御距離dは、計画航路の形状、航路偏差ΔYおよび風波等の船舶制御上考慮した外乱の少なくともいずれかに依存して変化することが好ましい。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の一実施例を図1〜図11に基づいて説明する。図1は、本発明の実施の形態における船舶の航路保持制御装置の構成を示すものである。
【0010】
経由点設定部1では、操船者による入力により、海図上に、航路を最初から最後まで計画するのに必要とする経由点WPkが設定される。添え字kは通過順序に対応している。経由点WPkは、原則として船舶の旋回能力を考慮して十分な間隔で設定されるものとし、特に短い間隔で連続的に設定されることは禁止される。通常の操船では、この制限が本発明の実施上の障害となることはない。なお、本実施の形態では、始点と終点を除いた経由点WPkは、全て転向点とする。以下の説明から、仮に転向点でない経由点が存在しても、転向点たる経由点のみを取り扱えば本発明の実施に影響はないことは明らかである。
【0011】
航路計画部2では、経由点設定部1から得られた経由点WPkの一部に関する位置情報を用いて当座の航海に必要な長さの計画航路を作成する。また、現在の計画航路における最後の経由点に船舶が到達する前に新たな経由点位置情報を得て、計画航路を新たに作成し、更新する。
【0012】
偏差演算部3は、船位測定部8、船首方位測定部9及び船速測定部10から得られた船舶の現在位置、船首方位及び船速と、外乱測定部11からの情報、例えば潮流計や風速計からの情報と、航路計画部2から得られた計画航路と、船速度設定手段12において設定された指定航路船速とに基づいて、航路偏差ΔY、方位偏差Δp、及び速度偏差ΔVを算出する(図2に詳細に示す)。
【0013】
制御力演算部4は、航路偏差ΔY、方位偏差Δp及び速度偏差ΔVを無くすような制御ロジックに基づいて、船長方向、船幅方向の制御力及び制御モーメントを算出する。これらの制御力及び制御モーメントの算出値は船舶の重心における値である。
【0014】
推進器配分部5は、船舶の有する推進器の数、これらの設置位置や定格推力等の情報を基に、制御力演算部4で算出された制御力及び制御モーメントの値を満たすような各推進器が出力すべき推力を算出する。推進器駆動部6は、推進器配分部5から出力された推力の算出値を受けて、船体7に設置された各推進器に航路保持に必要な推力を発生させるために動作する。
【0015】
以下、本発明の実施例の主要構成部につき、具体的に説明する。経由点設定部1は、船位測定部8から得られた船舶の現在位置が所定の更新領域に達したときに、図3に示すような、船舶の通過順序が前回、今回、次回、次々回である4つの経由点からなる指定経由点群(説明上、WP1〜WP4とする)に関する位置情報を航路計画部2に渡す。
【0016】
航路計画部2では、経由点設定部1からの指定経由点群WP1〜WP4の位置情報に基づいて計画航路の更新を行う。計画航路は2つの計画航路セグメント(以下、セグメントと略す)から構成されており、計画航路の更新は、新たにセグメントを作成し、航路保持制御に不要となったセグメントを削除し、この新たに作成したセグメントを残ったセグメントに接続することにより行われる。
【0017】
航路計画部2におけるセグメントの作成について説明する。図3に示すように、まず経由点間を直線で結び、その後、これらの直線が変針点における接線となるような円弧(円形航路)を設けることによりセグメントは作成される。なお、全ての円弧の半径は、最小旋回半径等の船の運動特性を考慮して設定された一定の半径r(以後、航路回転半径と呼ぶ)を有する。セグメントは、指定経由点群の位置関係に対応して、以下に示すタイプ1、タイプ2及びタイプ3に区別される。
【0018】
図4に、タイプ1のセグメントの一例を示す。タイプ1は、前回経由点WP1と今回経由点WP2を結ぶ直線L12と、今回経由点WP2と次回経由点WP3を結ぶ直線L23とを、航路回転半径rを有する円弧で連続に接続できる場合に適用される。すなわち、今回経由点WP2および次回経由点WP3間の距離が、今回経由点WP2に関する変針点・経由点間距離s2と、次回経由点WP3に関する変針点・経由点間距離s3との和s2+s3以上である場合に適用される。次回経由点WP3に関する変針点・経由点間距離s3を考慮するのは、次回のセグメント作成が適切に行われることを保証するためである。今回経由点WP2から変針点C1(又はC2)までの距離である変針点・経由点間距離s2は、直線L12と直線L23との角度である旋回角度γ2と航路回転半径rから、式
s2=r・tan(γ2/2)
で決定される。このように変針点・経由点間距離s2を決定することにより、変針点C1、C2において円弧R1に直線L12、L23が接することとなる。なお、次回経由点WP3と変針点C3(又はC4)までの距離である変針点・経由点間距離s3は、直線L23と直線L24との角度である旋回角度γ3と航路回転半径rから同様に決定される。
【0019】
以上により、前回経由点WP1から変針点C1まで延びた直線L12と、変針点C1から変針点C2まで、旋回半径rで今回経由点WP2を迂回する円弧R1と、変針点C2と次回経由点WP3まで延びた直線L23とからなるタイプ1のセグメントが形成される。なお、後述する計画航路の更新方法との関係から、タイプ1のセグメントは、前回経由点WP1から次回経由点WP3までの航路を与えれば十分である。
【0020】
図5に、タイプ2のセグメントの一例を示す。タイプ2のセグメントは、前回経由点WP1を始点、今回経由点WP2を終点としたベクトルWP1WP2と、次回経由点WP3を始点、次々回経由点WP4を終点としたベクトルWP3WP4とが平行であり、かつ、今回経由点WP2および次回経由点WP3間の距離が、タイプ1において既述した和s2+s3未満であるために、直線L12および直線L23を接続する円弧R1 'と、直線L23および直線L24を接続する円弧R2 'とを連続させることができず、タイプ1を適用できない場合に適用される。図5において、参考のため、図4のR1、R2、r、s2、s3に相当するR1'、R2'、r'、s2'、s3'が示されている。
【0021】
タイプ2のセグメントは、直線L12上の変針点C1と直線L34上の変針点C2を2つの円弧R1、R2で結ぶことにより作成される。変針点C1は、今回経由点WP2から距離sだけ離れた直線L12上に与えられる。この距離sの値は、セグメント作成の際に、ゼロ以上変針点・経由点WP1、WP2間距離未満の適当な値が設定される。円弧R1は、その半径が航路回転半径rであり、変針点C1において直線L12が接するものとして与える。また、円弧R1は、直線L34に向かって角度ηまで旋回する航路を与えるものとし、その終点を変針点C3とする。旋回角度ηは、直線L12とL34間の距離Dと航路回転半径rから、式
η=cos−1(1−D/2r)
で決定される。円弧R2は、その半径が航路回転半径rであり、変針点C3から円弧R1とは逆方向に同じく角度ηで旋回するものとして与える。このように円弧R1、R2を与えれば、必然的に、変針点C3で航路は連続となり、円弧R2の終点たる変針点C2は直線L34上に置かれることとなり、かつ、変針点C2で航路は連続となる。
【0022】
以上により、前回経由点WP1から変針点C1まで延びた直線L12と、変針点C1から変針点C3までを繋ぐ半径rの円弧R1と、変針点C3から変針点C2までを繋ぐ半径rの円弧R2と、変針点C2から次々回経由点WP4まで延びた直線L34とからなるタイプ2のセグメントが形成される。
【0023】
図6に、タイプ3のセグメントの一例を示す。タイプ3のセグメントは、ベクトルWP1WP2と、ベクトルWP3WP4とが平行でなく(従ってこれら直線が反平行の場合はタイプ2ではなく、タイプ3が適用される)、かつ、今回経由点WP2および次回経由点WP3間の距離が既述した和s2+s3未満であるためにタイプ1を適用できない場合において適用される。
【0024】
タイプ3のセグメントは、直線L12上の変針点C1と直線L34上の変針点C2を2つの円弧R1、R2で結ぶことにより作成される。変針点C1は、経由点WP2と同じ位置に与えられる。円弧R1は、その半径が航路回転半径rであり、変針点C1における接線が直線L12となるものとして与える。また、円弧R1は、直線L34に向かって角度μ1+μ2まで旋回する航路を与えるものとし、その終点を変針点C4とする。旋回角度μ1は、当該角度まで旋回したときの円弧R1上の点C3において、円弧R1の接線Lが直線L34に対して平行となる条件により決定される。点C3からは、直線Lと直線L34に対して、既述したタイプ2のセグメントを適用することによりタイプ3のセグメントが決定される。ここで、点C3から変針点C4までの旋回角度μ2は、直線Lと直線L34間の距離D、航路回転半径rから、式
μ2=cos−1(1−D/2r)
で与えられる。円弧R2は、その半径が航路回転半径rであり、変針点C4からは円弧R1と逆方向に角度μ2で旋回するものとして与える。このように円弧R1、R2を与えれば、必然的に、変針点C1、C4で航路は連続となり、円弧R2の終点たる変針点C2は直線L34上に置かれることとなり、かつ、変針点C2で航路は連続となる。
【0025】
以上により、前回経由点WP1から変針点C1まで延びた直線L12と、変針点C1から変針点C4までを繋ぐ半径rの円弧R1と、変針点C4から変針点C2までを繋ぐ半径rの円弧R2と、変針点C2から次々回経由点WP4まで延びた直線L34とからなるタイプ3のセグメントが形成される。
【0026】
航路計画部2において、与えられた指定経由点群についてのセグメントの決定は、図7に示すアルゴリズムに基づいて行われる。航路計画部2に、指定経由点群WP1〜WP4が与えられると(S41)、まず、当該指定経由点群WP1〜WP3に対してタイプ1のセグメントを適用できるか否かの判定が行われる(S42)。すなわち、この判定では、経由点WP2とWP3との間の距離が、変針点・経由点間距離の和s2+s3以上か否かが判定される。経由点WP2とWP3との間の距離がs2+s3以上と判定された場合には、上述した手順により指定経由点群WP1〜WP3に対してタイプ1のセグメントが形成される(S43)。経由点WP2とWP3との間の距離がs2+s3未満と判定された場合には、指定経由点群WP1〜WP4にタイプ2及びタイプ3のセグメントのいずれが適用可能かが判定される(S44)。この判定では、ベクトルWP1WP2及びベクトルWP3WP4が平行であるか否かが調べられる。平行の場合には、指定経由点群WP1〜WP4に対してタイプ2のセグメントが形成され(S45)、平行でない場合には、タイプ3のセグメントが形成される(S46)。
【0027】
図8に、航路計画部2における計画航路更新処理フローを示す。船舶が現在航路保持制御の対象としている計画航路は、指定経由点群WP1〜WP4の位置情報について作成されたセグメントを、当該位置情報より一つ前に得られた指定経由点群情報について作成されたセグメントに接続したものである。
【0028】
まず、船位測定手段8から得られた船舶現在位置が今回経由点WP2を中心とする所定の半径の円である更新領域に達したか否かを判定する(S81)。到達しない場合は以後の処理を行わない。到達した場合は、現在制御に用いているセグメントがタイプ1か否かを判断する(S82)。タイプ1である場合には、指定経由点群を1点(未来へ)ずらす形で更新する(S83)。そして、新たな指定経由点群につきセグメントを作成し、不必要となった(古い方の)セグメントを削除し、この新たに作成されたセグメントを残ったセグメントに接続することにより計画航路が更新される(S84)。なお、このセグメント同士は、残ったセグメントの最後の変針点以降が新たなセグメントとなるように接続されることにより計画航路を形成する。
【0029】
S82においてタイプ1でない場合は、現在制御に用いているセグメントの最後の変針点を中心とする所定の半径の円たる更新領域に船舶の現在位置が到達したか否かを判断する(S85)。到達していない場合は、更新を行わない。到達した場合は、指定経由点群を2点シフトする形で更新する(つまり、WP3〜WP6が新たな指定経由点群となる)(S83)。その後、新たな指定経由点群につきセグメントを作成し、不要となったセグメントを削除し、残ったセグメントに前記新たに作成されたセグメントを接続することにより計画航路が更新される(S84)。
【0030】
なお、指定経由点群が5つ以上の場合は、例えば上記3タイプのセグメントを合成したセグメントを作成することにより本実施例は容易に変更かつ対応可能である。指定経由点が3点の場合でも、適当に広い間隔で経由点WPkを与えれば本実施例は容易に変更かつ対応可能である(この場合、セグメントはタイプ1のみ使用する)。
【0031】
図11は、計画航路の更新処理の具体例を示すものである。図11上部は、経由点WP1を中心とする円U0内に船舶Qが到達した際に作成(更新)された計画航路を示すものである。この計画航路は、経由点WP0〜WP2に対するタイプ1のセグメントG1(よって、円U0が更新領域となる)と経由点WP1〜WP4に対するタイプ2のセグメントG2とから構成されており、セグメントG1の変針点Ca以降がセグメントG2となるように両セグメントが接続されたものである。変針点CbはセグメントG2における最後の変針点であり、セグメントG2はタイプ2であるから、変針点Cbを中心とする円U1が更新領域である。この更新領域U1内に船舶Qが到達したと判断されると計画航路の更新を行う。
【0032】
図11下部は、更新後の計画航路を示すものである。新たに経由点WP3〜WP6に対するタイプ3のセグメントG3が作成され、不必要となったセグメントG1は削除され、更新後の計画航路は、セグメントG2の最後の変針点Cb以降がセグメントG3となるように両セグメントが接続されたものである。次の計画航路の更新は、セグメントG3はタイプ3であるから、セグメントG3の最後の変針点Ccを中心とする円U2内に船舶Qが到達すると行われる。
【0033】
偏差演算部3は、航路計画部2により決定された計画航路からの船舶の位置偏差ΔY、方位偏差Δpを算出する。図9は、これら偏差の計画航路に対する関係を示すものである。船舶現在位置(Xs,Ys)は船位測定手段8により与えられ、この位置より計画航路Aに対して下した垂線とこの計画航路Aとの交点が最近点
(Xm,Ym)である。制御上の目標点(Xt,Yt)は、最近点(Xm,Ym)から航路保持制御前方距離dだけ船舶の進行方向に離れた点を設定する。船舶現在位置(Xs,Ys)から最近点(Xm,Ym)までの距離を航路偏差ΔYとし、船長方向と船舶現在位置(Xs,Ys)と目標点(Xt,Yt)を結ぶ直線Mがなす角度を方位偏差Δpとする。航路偏差ΔY、方位偏差Δpは以下の式で与えられる。
【0034】
Δy=√(Xs−Xm)2+(Ys−Ym)2
Δp=π/2−cos−1〔(lts2+lsm2+lmt2)/2ltslsm〕−Δα
ここで
lts=√(Xt−Xs)2+(Yt−Ys)2
lsm=√(Xs−Xm)2+(Ys−Ym)2
lmt=√(Xm−Xt)2+(Ym−Yt)2=d
Δαは、最近点(Xm,Ym)における計画航路Aの接線H方向と船長方向の成す角度である。なお、上記の式は、本実施例における直線と円弧からなる計画航路のみならず連続な計画航路において一般的に成立する。よって、本発明は、本実施例以外の連続な計画航路(例えば、計画航路作成において経由点間をスプライン補間で繋ぐ等)について容易に適用可能である。
【0035】
また、航路保持制御では、計画航路上において、船速設定部12で設定される指定航路船速Vpを一定に保つことが要求される。この指定航路船速Vpと、船速測定部10により測定された船長方向の速度Vsと、航路計画部2からの計画航路を用いて、偏差演算部3では速度偏差ΔV=Vc―Vsを演算する。ここで Vc=Vp/cos(Δα)
Δαは、図9に示した、最近点(Xm,Ym)における計画航路の接線と船長方向の成す角度である。このように船舶は指定航路船速を保つように制御されているため、方位偏差Δpを無くすように制御を行えば船舶は計画航路に保持される。よって、本発明により、一軸(プロペラと舵からなる)推進器を1個のみ有する船舶でも航路保持制御が可能である。
【0036】
制御力演算部4では、航路偏差ΔY、方位偏差Δp及び速度偏差ΔVを無くすために必要とする船舶の推力及びモーメントを、以下のように求める。
【0037】
Fx=fX(ΔV)
Fy=fY(ΔY,Δp)
N=fN(ΔY,Δp)
ここで、Fxは船長方向指令推力、Fyは船幅方向指令推力、Nは指令モーメントである。
【0038】
推力配分部5は、これら指令推力Fx、Fy及び指令モーメントNの値を用いて、各推進器が出力すべき推力を演算する。なお、推力配分部5は、1個の推進器のみしか有さない船舶では不要である。推進器駆動部6は、これら推力の演算値に応した推力を発生するように船舶に配置された各推進器の制御を行い、結果、船舶が計画航路に保持される。
【0039】
なお、航路保持制御前方距離dは、航路制御保持制御のためのパラメータであり、航路保持制御前方距離dを小さくするほど、方位偏差Δpの値が大きくなるために船舶の計画航路への復帰が早くなる。一方で、船首方位の振れも大きくなることから制御推力の急激な変化が生じ、船舶の乗心地に悪影響を及ぼす。そこで、本実施例において、航路保持制御前方距離dは、最近点(Xm,Ym)における計画航路の形状、航路偏差ΔY、外乱測定部11からの風、波等の情報に基づき、偏差演算部3において以下のように調整されてよい。
【0040】
円形航路では、船舶は旋回動作を行うことから、航路保持制御前方距離dは、最近点(Xm,Ym)における計画航路の形状が円形航路である場合には小さく、当該形状が直線航路で有る場合には大きくする。
【0041】
航路偏差ΔYが大きい場合には早く計画航路に船舶を復帰させるため、航路保持制御前方距離dは、航路偏差ΔYが大きい場合には小さく、航路偏差ΔYが小さい場合には大きくする。
【0042】
外乱が大きい場合に船舶の乗心地を考慮して、航路保持制御前方距離dは、風、波等が大きい場合には大きく、風、波等が小さい場合には小さくする。
【0043】
さらに、航路保持制御に航路偏差ΔYを考慮しない場合には、航路保持制御前方距離dは、図10に示す演算方法により決定するのも効果的である。
【0044】
方位制御及び速度制御が完全に行われる理想的な状況を考えれば、簡単な考察
により、
ΔY=ΔY0exp(−Vp・t/d)
なる関係が得られる。tは時間、ΔY0はt=0でのΔYの値、Vpは計画航路上において保持すべき指定航路船速である。つまり、航路保持制御前方距離dが極力小さい方が航路偏差ΔYの減少が早いことが理解できる。しかし、船長方向と最近点接線方向の成す角度をΔφとすれば、Δφに対して、
d(tanΔφ)/dt=−Vp・ΔY/d2
が成立するから、航路保持制御前方距離dは無限に小さくすることは不可能であることがわかる。つまり、左辺の値は船舶の回頭速度とその時刻のΔφにより制限されるからである。従って、可能な最小の航路保持制御前方距離dは、ある時刻tにおいて、
d=√−Vp・ΔY/max〔d(tanΔΦ)/dt〕
ΔΦ=ΔΦt
dΔΦ/dt=(dθ/dt)max
となる。ここで、ΔφtはΔφの時刻tでの値であり、(dθ/dt)maxは船舶の最大回頭角速度である(S5)。そして、このように求められた航路保持制御前方距離dをチェックし、制御の安定性から決定された下限値dmin未満である場合は、このdminを航路保持制御前方距離dとする(S6)。
【0045】
なお、上記の航路保持制御前方距離dを決定する処理の前に、制御性の向上を図るべく以下の処理を行う。円形航路を走行する場合、船舶の必要な回頭角度はVp/rであるから、計画航路の形状を判断し(S1)、円形航路の場合は、最大回頭速度を(dθ/dt)max−Vp/rとする(s2)。さらに、荒天での航海では、船舶の操船力が落ちることから、外乱測定部11からの情報から荒天か否かを判断し(s3)、荒天の場合には最大回頭角速度にm%のマージン率を掛ける(S4)。
【0046】
【発明の効果】
本発明によれば、推力のばたつきがなく、航路保持制御の行き過ぎ現象が軽減された、一軸の推進器を1個のみ有する船舶にも適用可能な、船舶の航路保持制御装置が提供される。
【0047】
また本発明によれば、操船が容易であり、船舶を取り巻く種々の状況に対して、乗り心地のよい航路保持制御を行う船舶の航路保持制御装置が提供される。
【0048】
さらに本発明によれば、将来における不測の航路変更を余儀なくされる場合に、必要最小限の経由点の変更により、不要な演算を行うことなく迅速かつ簡便な対応が可能な船舶の航路保持制御装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明による船舶の航路保持制御装置の構成を示すブロック図である。
【図2】 同装置の偏差演算部の詳細を示すブロック図である。
【図3】 計画航路セグメントを作成するための指定経由点群の説明図である。
【図4】 タイプ1の計画航路セグメントの一例を示す説明図である。
【図5】 タイプ2の計画航路セグメントの一例を示す説明図である。
【図6】 タイプ3の計画航路セグメントの一例を示す説明図である。
【図7】 タイプ1〜3を選択するためのアルゴリズムを示すフローチャートである。
【図8】 航路偏差、方位偏差の計画航路に対する幾何的関係を示す説明図である。
【図9】 航路偏差、方位偏差の計画航路に対する幾何的関係を示す説明図である。
【図10】 航路保持制御前方距離を求める手順を示すフローチャートである。
【図11】 計画航路更新の具体例を示す説明図である。
【図12】 従来技術による船舶の航路保持制御方法の説明図である。
【図13】 従来技術による船舶の航路保持制御における問題点を示す図である。
【符号の説明】
WPk 経由点
Xs、Ys 船舶現在位置
Xm、Ym 最近点
Xt、Yt 目標点
d 航路保持制御前方距離
ΔY 航路偏差
Δp 方位偏差
ΔV 速度偏差
A 計画航路
G1、G2、G3 計画航路セグメント
Claims (6)
- 船舶が保持すべき計画航路Aを決定する計画航路決定手段と、船舶が計画航路Aを保持するように船舶を制御する制御手段とを備えており、
計画航路決定手段は、前回経由点WPnおよび今回経由点WPn+1を設定し、計画航路を、前回経由点WPnおよび今回経由点WPn+1を経由して連続的にのびた連続航路とし、
制御手段は、計画航路A上において、船舶現在位置(Xs、Ys)から計画航路A上までの最も近い最近点(Xm、Ym)を設定するとともに、最近点(Xm、Ym)から今回経由点WPn+1の方向に航路保持制御距離dを隔てて目標点(Xt、Yt)を設定し、船舶現在位置(Xs、Ys)から最近点(Xm、Ym)までの距離を航路偏差ΔYとするとともに、船舶軸Xと、船舶現在位置(Xs、Ys)と目標点(Xt、Yt)を結ぶ直線Mとがなす角度を方位偏差Δpとし、航路偏差ΔYおよび方位偏差Δpが零となるように船舶を航行させる、
船舶の航路保持制御装置。 - 船舶が保持すべき計画航路Aを決定する計画航路決定手段と、船舶が計画航路Aを保持するように船舶を制御する制御手段とを備えており、
計画航路決定手段は、複数の経由点WPを時系列的に設定するとともに、船舶の最小旋回半径等の運動特性を考慮して航路回転半径rを設定し、計画航路を、複数の経由点WPを順次経由するかその近傍を迂回して連続的にのびかつ航路回転半径rに等しい半径をもつ円弧状航路およびこれの接線としてのびた直線状航路のみにより構成し、
制御手段は、計画航路A上において、船舶現在位置(Xs、Ys)から計画航路A上までの最も近い最近点(Xm、Ym)を設定するとともに、最近点(Xm、Ym)から今回経由点WPn+1の方向に航路保持制御距離dを隔てて目標点(Xt、Yt)を設定し、船舶現在位置(Xs、Ys)から最近点(Xm、Ym)までの距離を航路偏差ΔYとするとともに、船舶軸Xと、船舶現在位置。(Xs、Ys)と目標点(Xt、Yt)を結ぶ直線Mとがなす角度を方位偏差Δpとし、航路偏差ΔYおよび方位偏差Δpが零となるように船舶を航行させる、
船舶の航路保持制御装置。 - 経由点が、前回経由点WP1、今回経由点WP2および次回経点WP3よりなり、
今回経由点WP2を迂回する円弧Rによって円弧状航路が形成され、前回経由点WP1から円弧状航路の始端までのびた第1直線L12および円弧状航路の終端から次回経由点WP3までのびた第2直線L23によって直線状航路が形成されている、
請求項2の船舶の航路保持制御装置。 - 経由点が、前回経由点WP1、今回経由点WP2、次回経由点WP3および次々回経由点WP4よりなり、
今回経由点WP2を迂回する第1円弧R1およびこれの終端に連なって次回経由点WP3を迂回する第2円弧R2によって円弧状航路が形成され、前回経由点WP1から円弧状航路の始端までのびた第1直線L12および円弧状航路の終端から次々回経由点WP4までのびた第2直線L34によって直線状航路が形成されている、
請求項2の船舶の航路保持制御装置。 - 経由点が、前回経由点WP1、今回経由点WP2、次回経由点WP3および次々回経由点WP4よりなり、
今回経由点WP2および次回経由点WP3の一方を迂回するとともに、その他方を経由する円弧R23によって円弧状航路が形成され、前回経由点WP1から円弧状航路の始端までのびた第1直線L12および円弧状航路の終端から次々回経由点WP4までのびた第2直線L34によって直線状航路が形成されている、
請求項2の船舶の航路保持制御装置。 - 航路保持制御距離dは、計画航路の形状、航路偏差ΔYおよび風波等の船舶制御上考慮した外乱の少なくともいずれかに依存して変化する、
請求項1〜5のいずれか1つの船舶の航路保持制御装置。
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