本発明は、自動車や各種産業機械の変速機などに利用可能なトロイダル型無段変速機の組み付けアセンブリおよび当該組み付けアセンブリに用いられる組み付けアセンブリ用固定具に関する。
例えば自動車用変速機として用いるダブルキャビティ式トロイダル型無段変速機は、図9及び図10に示すように構成されている。図9に示すように、ケーシング50の内側には入力軸1が回転自在に支持されており、この入力軸1の外周には、2つの入力側ディスク2,2と2つの出力側ディスク3,3とが取り付けられている。また、入力軸1の中間部の外周には出力歯車4が回転自在に支持されている。この出力歯車4の中心部に設けられた円筒状のフランジ部4a,4aには、出力側ディスク3,3がスプライン結合によって連結されている。
入力軸1は、図中左側に位置する入力側ディスク2とカム板(ローディングカム)7との間に設けられたローディングカム式の押圧装置12を介して、駆動軸22により回転駆動されるようになっている。また、出力歯車4は、2つの部材の結合によって構成された仕切壁13を介してケーシング50内に支持されており、これにより、入力軸1の軸線Oを中心に回転できる一方で、軸線O方向の変位が阻止されている。
出力側ディスク3,3は、入力軸1との間に介在されたニードル軸受5,5によって、入力軸1の軸線Oを中心に回転自在に支持されている。また、図中左側の入力側ディスク2は、入力軸1にボールスプライン6を介して支持され、図中右側の入力側ディスク2は、入力軸1にスプライン結合されており、これら入力側ディスク2は入力軸1と共に回転するようになっている。また、入力側ディスク2,2の内側面(凹面;トラクション面とも言う)2a,2aと出力ディスク3,3の内側面(凹面;トラクション面とも言う)3a,3aとの間には、パワーローラ11(図10参照)が回転自在に挟持されている。
図9中右側に位置する入力側ディスク2の内周面2cには、段差部2bが設けられ、この段差部2bに、入力軸1の外周面1aに設けられた段差部1bが突き当てられるとともに、入力側ディスク2の背面(図9の右面)は、入力軸1の外周面に形成されたネジ部1eに螺合されたローディングナット9に突き当てられている。これによって、入力側ディスク2の入力軸1に対する軸線O方向の変位が実質的に阻止されている。また、カム板7と入力軸1の鍔部1dとの間には、皿ばね8が設けられており、この皿ばね8は、各ディスク2,2,3,3の凹面2a,2a,3a,3aとパワーローラ11,11の周面11a,11aとの当接部に押圧力を付与する。
図9のA−A線に沿う断面図である図10に示すように、ケーシング50の内側であって、出力側ディスク3,3の側方位置には、両ディスク3,3を両側から挟む状態で一対のヨーク23A,23Bが支持されている。これら一対のヨーク23A,23Bは、鋼等の金属のプレス加工あるいは鍛造加工により矩形状に形成されている。そして、後述するトラニオン15の両端部に設けられた枢軸14を揺動自在に支持するため、ヨーク23A,23Bの四隅には、円形の支持孔18が設けられるとともに、ヨーク23A,23Bの幅方向の中央部には、円形の係止孔19が設けられている。
一対のヨーク23A,23Bは、ケーシング50の内面の互いに対向する部分に形成された支持ポスト64,68により、僅かに変位できるように支持されている。これらの支持ポスト64,68はそれぞれ、入力側ディスク2の内側面2aと出力側ディスク3の内側面3aとの間にある第1キャビティ221および第2キャビティ222にそれぞれ対向する状態で設けられている。
したがって、ヨーク23A,23Bは、各支持ポスト54,68に支持された状態で、その一端部が第1キャビティ221の外周部分に対向するとともに、その他端部が第2キャビティ222の外周部分に対向している。
第1および第2のキャビティ221,222は同一構造であるため、以下、第1キャビティ221のみについて説明する。
図10に示すように、ケーシング50の内側において、第1キャビティ221には、入力軸1に対し捻れの位置にある一対の枢軸14,14を中心として揺動する一対のトラニオン15,15が設けられている。なお、図10においては、入力軸1の図示は省略している。各トラニオン15,15は、その本体部である支持板部16の長手方向(図10の上下方向)の両端部に、この支持板部16の内側面側に折れ曲がる状態で形成された一対の折れ曲がり壁部20,20を有している。そして、この折れ曲がり壁部20,20によって、各トラニオン15,15には、パワーローラ11を収容するための凹状のポケット部Pが形成される。また、各折れ曲がり壁部20,20の外側面には、各枢軸14,14が互いに同心的に設けられている。
支持板部16の中央部には円孔21が形成され、この円孔21には変位軸23の基端部(第1の軸部)23aが支持されている。そして、各枢軸14,14を中心として各トラニオン15,15を揺動させることにより、これら各トラニオン15,15の中央部に支持された変位軸23の傾斜角度を調節できるようになっている。また、各トラニオン15,15の内側面から突出する変位軸23の先端部(第2の軸部)23bの周囲には、各パワーローラ11が回転自在に支持されており、各パワーローラ11,11は、各入力側ディスク2,2および各出力側ディスク3,3の間に挟持されている。なお、各変位軸23,23の基端部23aと先端部23bとは、互いに偏心している。
また、前述したように、各トラニオン15,15の枢軸14,14はそれぞれ、一対のヨーク23A,23Bに対して揺動自在および軸方向(図10の上下方向)に変位自在に支持されており、各ヨーク23A,23Bにより、トラニオン15,15はその水平方向の移動を規制されている。前述したように、各ヨーク23A,23Bの四隅には円形の支持孔18が4つ設けられており、これら支持孔18にはそれぞれ、トラニオン15の両端部に設けた枢軸14がラジアルニードル軸受30を介して揺動自在に支持されている。また、前述したように、ヨーク23A,23Bの幅方向(図10の左右方向)の中央部には、円形の係止孔19が設けられており、この係止孔19の内周面は球状凹面として、支持ポスト64,68を内嵌している。すなわち、上側のヨーク23Aは、ケーシング50に固定部材52を介して支持されている球面ポスト64によって揺動自在に支持されており、下側のヨーク23Bは、球面ポスト68及びこれを支持する駆動シリンダ31の上側シリンダボディ61によって揺動自在に支持されている。
なお、各トラニオン15,15に設けられた各変位軸23,23は、入力軸1に対し、互いに180度反対側の位置に設けられている。また、これらの各変位軸23,23の先端部23bが基端部23aに対して偏心している方向は、両ディスク2,2,3,3の回転方向に対して同方向(図10で上下逆方向)となっている。また、偏心方向は、入力軸1の配設方向に対して略直交する方向となっている。したがって、各パワーローラ11,11は、入力軸1の長手方向に若干変位できるように支持される。その結果、押圧装置12が発生するスラスト荷重に基づく各構成部材の弾性変形等に起因して、各パワーローラ11,11が入力軸1の軸方向に変位する傾向となった場合でも、各構成部材に無理な力が加わらず、この変位が吸収される。
また、パワーローラ11の外側面とトラニオン15の支持板部16の内側面との間には、パワーローラ11の外側面の側から順に、スラスト転がり軸受であるスラスト玉軸受24と、スラストニードル軸受25とが設けられている。このうち、スラスト玉軸受24は、各パワーローラ11に加わるスラスト方向の荷重を支承しつつ、これら各パワーローラ11の回転を許容するものである。このようなスラスト玉軸受24はそれぞれ、複数個ずつの玉26,26と、これら各玉26,26を転動自在に保持する円環状の保持器27と、円環状の外輪28とから構成されている。また、各スラスト玉軸受24の内輪軌道は各パワーローラ11の外側面(大端面)に、外輪軌道は各外輪28の内側面にそれぞれ形成されている。
また、スラストニードル軸受25は、トラニオン15の支持板部16の内側面と外輪28の外側面との間に挟持されている。このようなスラストニードル軸受25は、パワーローラ11から各外輪28に加わるスラスト荷重を支承しつつ、これらパワーローラ11および外輪28が各変位軸23の基端部23aを中心として揺動することを許容する。
さらに、各トラニオン15,15の一端部(図10の下端部)にはそれぞれ駆動ロッド(枢軸14から延びる軸部)29,29が設けられており、各駆動ロッド29,29の中間部外周面に駆動ピストン(油圧ピストン)33,33が固設されている。そして、これら各駆動ピストン33,33はそれぞれ、上側シリンダボディ61と下側シリンダボディ62とによって構成された駆動シリンダ31内に油密に嵌装されている。これら各駆動ピストン33,33と駆動シリンダ31とで、各トラニオン15,15を、これらトラニオン15,15の枢軸14,14の軸方向に変位させる駆動装置32を構成している。
このように構成されたトロイダル型無段変速機の場合、駆動軸22の回転は、押圧装置12を介して、各入力側ディスク2,2および入力軸1に伝えられる。そして、これら入力側ディスク2,2の回転が、一対のパワーローラ11,11を介して各出力側ディスク3,3に伝えられ、更にこれら各出力側ディスク3,3の回転が、出力歯車4より取り出される。
入力軸1と出力歯車4との間の回転速度比を変える場合には、一対の駆動ピストン33,33を互いに逆方向に変位させる。これら各駆動ピストン33,33の変位に伴って、一対のトラニオン15,15が互いに逆方向に変位する。例えば、図10の左側のパワーローラ11が同図の下側に、同図の右側のパワーローラ11が同図の上側にそれぞれ変位する。その結果、これら各パワーローラ11,11の周面11a,11aと各入力側ディスク2,2および各出力側ディスク3,3の内側面2a,2a,3a,3aとの当接部に作用する接線方向の力の向きが変化する。そして、この力の向きの変化に伴って、各トラニオン15,15が、ヨーク23A,23Bに枢支された枢軸14,14を中心として、互いに逆方向に揺動する。
その結果、各パワーローラ11,11の周面11a,11aと各内側面2a,3aとの当接位置が変化し、入力軸1と出力歯車4との間の回転速度比が変化する。また、これら入力軸1と出力歯車4との間で伝達するトルクが変動し、各構成部材の弾性変形量が変化すると、各パワーローラ11,11及びこれら各パワーローラ11,11に付属の外輪28,28が、各変位軸23,23の基端部23a、23aを中心として僅かに回動する。これら各外輪28,28の外側面と各トラニオン15,15を構成する支持板部16の内側面との間には、それぞれスラストニードル軸受25,25が存在するため、前記回動は円滑に行われる。したがって、前述のように各変位軸23,23の傾斜角度を変化させるための力が小さくて済む。
ところで、以上のようなトロイダル型無段変速機では、製造時の組立段階で、入力軸1と左側の入力ディスク2と押圧装置12とが一体に組み付けられた組み付けアセンブリ(以下、インプットディスクアセンブリという)が、単一の部品として搬送されて他の部品に対して組み付けられる。図11は、そのようなインプットディスクアセンブリ70の一構造例を示している。このインプットディスクアセンブリ70では、入力軸1の鍔部1dとローディングカム装置12を構成するカム板7との間にスラスト荷重を支承するスラスト玉軸受166が設けられており、また、スラスト玉軸受166の外輪であるスリーブ120の外向鍔部120aとカム板7の中間部外側面との間に皿ばね(予圧ばね)170が配置されている。また、スリーブ120の径方向内側部分と入力側ディスク2との間には、スリーブ120側から順に、スラストニードル軸受155と前述した皿ばね(予圧ばね)8とが軸方向に互いに直列に配置されている。
しかしながら、このような構成のインプットディスクアセンブリ70にあっては、アセンブリを構成する各構成部品が軸方向に自由に動くことができる(図12中に矢印で示すように遊動してしまう)ため、組み立て等の目的でインプットディスクアセンブリ70を搬送する際には、前記各構成部品の軸方向の移動を規制して、これらの構成部品を所定の位置に正確に位置決めしておく(あるいは、各構成部品が入力軸1に対して外れない(ばらばらにならない)ようにしておく)必要がある。また、運搬時に振動等により構成部品に傷、打痕、フレッチングが発生しないように、予圧皿ばね8を図11に示すように撓ませて、押圧装置12(特にカムローラ)のガタgを無くす必要もある。
そのため、従来技術では、カム板(ローディングカム)7、カムリテーナ、ディスク2にネジ穴や貫通穴を設け、これらの部品同士をボルトによって互いに押し付けることにより、ガタgを無くすようにしている(例えば、特許文献1ないし特許文献4参照)。また、図13に示すように、入力側ディスク2の外周部に治具100を引っ掛け、入力側ディスク2をカム板7に対して押し付けることも提案されている(例えば、特許文献5参照)。
特許第2666608号
特許第3296290号
特許第3424560号
特開2000−193056号公報
特開2001−4001号公報
しかしながら、特許文献1ないし特許文献4に開示されているように、インプットディスクアセンブリ70を構成する各構成部品に運転上必要が無い穴を設けてしまうと、加工コストが増加するだけでなく、穴部への応力集中による強度低下を招く虞がある。
また、特許文献5に開示されているように、入力側ディスク2の外周部に治具100を引っ掛ける案では、図13の(a)に示すように入力側ディスク2のトラクション面2aに溝底2dがある場合には治具100がトラクション面2aと接触しないため問題がないが、図13の(b)に示すように入力側ディスク2のトラクション面2aに溝底2dが無い場合には治具100の端縁100aがトラクション面2aと接触してしまい、トラクション面2aを傷付けてしまう可能性がある。
本発明は、前記事情に鑑みて為されたもので、トロイダル型無段変速機の組み付けアセンブリを構成する構成部品に加工を施すことなく且つ当該構成部品を傷付けることなく、組み付けアセンブリにおける構成部品同士の相対的な移動を防止できる組み付けアセンブリ用固定具、および、そのような組み付けアセンブリ用固定具を備えた組み付けアセンブリを提供することを目的とする。
前記目的を達成するために、請求項1に記載の組み付けアセンブリ用固定具は、回転トルクが入力される入力軸と、この入力軸に結合されて入力軸と一体で回転する入力側ディスクと、この入力側ディスクとの間に設けられたパワーローラを介して入力側ディスクの回転力を所定の変速比で受ける出力側ディスクと、前記入力側ディスクの背面に配置され且つ前記入力側ディスクを軸方向へ押圧する押圧装置と、前記入力軸の外周面に形成されたネジ部に螺合され且つ前記ディスクの背面に突き当たることにより当該ディスクが前記押圧装置による押圧力に伴って軸方向に変位することを阻止するローディングナットとを備えて成るトロイダル型無段変速機を構成する組み付けアセンブリであり且つ前記入力軸と前記入力側ディスクと前記押圧装置とを含む構成部品が一体に組み付けられて成る単一部品を形成する組み付けアセンブリに用いられ、前記組み付けアセンブリにおける前記構成部品同士の相対的な移動を規制するための組み付けアセンブリ用固定具であって、前記入力軸の外周をその長手方向に沿って覆う筒状のシースと、前記ローディングナットが螺合される前記入力軸の前記ネジ部に対して捩じ込まれるナット部材とを備え、前記ナット部材は、前記ネジ部に捩じ込まれて前記シースの一端に突き当てられることにより、前記シースの他端を前記入力側ディスクに対して当て付け、それにより、前記組み付けアセンブリにおける前記構成部品の軸方向の移動を規制するための押し付け力を前記入力側ディスクに対して作用させることを特徴とする。
この請求項1に記載された発明においては、ローディングナットが螺合される入力軸の既存のネジ部を利用してナット部材を捩じ込むとともに、このナット部材によって入力軸の外周を単に覆うだけのシースを入力側ディスクに対して当て付け、それにより、組み付けアセンブリにおける構成部品の軸方向の移動を規制するための押し付け力を入力側ディスクに対して作用させるようにしているため、組み付けアセンブリを構成する構成部品に加工を施すことなく(従来のようにカム板、カムリテーナ、ディスクにネジ穴や貫通穴を設けることなく)且つ当該構成部品を傷付けることなく、組み付けアセンブリにおける構成部品同士の相対的な移動(例えば、押圧装置のガタ)を防止することができる。すなわち、上記構成の組み付けアセンブリ用固定具によれば、加工コストを増加させることなく、強度低下を招くことなく、組み立て等の目的で組み付けアセンブリを搬送する際にも、組み付けアセンブリの構成部品を所定の位置に正確に位置決めしておく(あるいは、各構成部品が入力軸に対して外れない(ばらばらにならない)ようにしておく)ことができ、運搬時の振動等により構成部品に傷、打痕、フレッチングが発生することも防止できる。更に、上記構成によれば、シースによって入力軸の外周面を保護することもできる。また、入力側ディスクの外周部に治具を引っ掛けることもないため、入力側ディスクのトラクション面を傷付けてしまうこともない。
また、請求項2に記載された組み付けアセンブリ用固定具は、請求項1に記載された発明において、前記シースと前記ナット部材とが一体に形成されていることを特徴とする。
この請求項2に記載された発明においては、前記シースと前記ナット部材とが一体に形成されているため、部品点数を減らすことができ、コストを削減することもできる。
また、請求項3に記載された組み付けアセンブリ用固定具は、請求項1または請求項2に記載された発明において、前記シースは、前記入力軸の外周部位に嵌合される嵌合部をその内面に有していることを特徴とする。
この請求項3に記載された発明においては、前記嵌合部により入力軸に対するシースの位置決めを行なうことができるため、組み付けアセンブリに対するシースの組み付けを安定的に且つ容易に行なうことができ、また、シースによって入力側ディスクを正確に押さえることができる。
また、請求項4に記載された組み付けアセンブリ用固定具は、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載された発明において、前記シースは、その内側から外側へと貫く貫通孔を有していることを特徴とする。
この請求項4に記載された発明においては、前記貫通孔を通じて洗浄液をシースの内外に流通させることができるため、シースの洗浄を簡単かつ十分に行なうことができ、シースから汚染物を確実に除去することができる。また、シースに前記貫通孔が設けられているので、アッセンブリ状態で入力軸やディスク等の部品の洗浄が可能ないし容易になる。
また、請求項5に記載された組み付けアセンブリ用固定具は、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載された発明において、前記ナット部材は、前記入力軸の外周をその長手方向に沿って覆う筒状部を有していることを特徴とする。
この請求項5に記載された発明においては、前記筒状部によって入力軸を保護することができ、搬送時において入力軸に傷や打痕が生じることを防止できる。
また、請求項6に記載された組み付けアセンブリ用固定具は、請求項1ないし請求項5のいずれかに記載された発明において、前記シースの外周面には、シースの長手中心軸と直交する方向で対向する少なくとも一対の平面部が形成されていることを特徴とする。
この請求項6に記載された発明においては、前記平面部を利用してナット部材の締め付け及び取り外しを容易に行なうことができる。
また、請求項7に記載された組み付けアセンブリ用固定具は、請求項1ないし請求項6のいずれかに記載された発明において、前記シースの内周面に樹脂コーティングが施されていることを特徴とする。
この請求項7に記載された発明においては、組み付けアセンブリに対してシースを脱着する際にシースが入力軸に当っても、前記樹脂コーティングの存在により、入力軸が傷付くことを防止できる。
また、請求項8に記載された組み付けアセンブリ用固定具は、請求項1ないし請求項7のいずれかに記載された発明において、前記シースの内周面には、樹脂、紙またはアルミニウムから成る筒状部材が嵌合状態で同心的に設けられていることを特徴とする。
この請求項8に記載された発明においては、組み付けアセンブリに対してシースを脱着する際にシースが入力軸に当っても、前記筒状部材の存在により、入力軸が傷付くことを防止できる。
また、請求項9に記載された組み付けアセンブリ用固定具は、請求項1ないし請求項8のいずれかに記載された発明において、前記シースは、前記入力軸よりも硬度が低い鉄、アルミニウムまたは高強度樹脂によって形成されていることを特徴とする。
この請求項9に記載された発明においては、シースの硬度が入力軸のそれよりも低いため、組み付けアセンブリに対してシースを脱着する際にシースが入力軸に当っても、入力軸が傷付くことを防止できる。
また、請求項10に記載された組み付けアセンブリ用固定具は、請求項1ないし請求項9のいずれかに記載された発明において、前記パワーローラと接触する前記入力側ディスクのトラクション面を覆う保護部材を更に備えていることを特徴とする。
この請求項10に記載された発明においては、前記保護部材によって入力側ディスクのトラクション面を保護することができ、前記トラクション面が傷付くことを防止できる。
また、請求項11に記載の組み付けアセンブリは、回転トルクが入力される入力軸と、この入力軸に結合されて入力軸と一体で回転する入力側ディスクと、この入力側ディスクとの間に設けられたパワーローラを介して入力側ディスクの回転力を所定の変速比で受ける出力側ディスクと、前記入力側ディスクの背面に配置され且つ前記入力側ディスクを軸方向へ押圧する押圧装置と、前記入力軸の外周面に形成されたネジ部に螺合され且つ前記ディスクの背面に突き当たることにより当該ディスクが前記押圧装置による押圧力に伴って軸方向に変位することを阻止するローディングナットとを備えて成るトロイダル型無段変速機を構成する組み付けアセンブリであり且つ前記入力軸と前記入力側ディスクと前記押圧装置とを含む構成部品が一体に組み付けられて成る単一部品を形成する組み付けアセンブリであって、前記構成部品同士の相対的な移動を規制するための組み付けアセンブリ用固定具を着脱自在に備え、前記組み付けアセンブリ用固定具は、前記入力軸の外周をその長手方向に沿って覆う筒状のシースと、前記ローディングナットが螺合される前記入力軸の前記ネジ部に対して捩じ込まれるナット部材とを備え、前記ナット部材は、前記ネジ部に捩じ込まれて前記シースの一端に突き当てられることにより、前記シースの他端を前記入力側ディスクに対して当て付け、それにより、前記構成部品の軸方向の移動を規制するための押し付け力を前記入力側ディスクに対して作用させることを特徴とする。
この請求項11に記載された発明においても、請求項1と同様の作用効果を得ることができる。
本発明によれば、トロイダル型無段変速機の組み付けアセンブリを構成する構成部品に加工を施すことなく且つ当該構成部品を傷付けることなく、組み付けアセンブリにおける構成部品同士の相対的な移動を防止できる。
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明の特徴は、入力軸と入力側ディスクと押圧装置とを含む構成部品が一体に組み付けられて成る組み付けアセンブリにおける前記構成部品同士の相対的な移動を規制するための組み付けアセンブリ用固定具の構造にあり、その他の構成および作用は前述した従来の構成および作用と同様であるため、以下においては、本発明の特徴部分についてのみ言及し、それ以外の部分については、図9〜図13と同一の符号を付して簡潔に説明するに留める。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る組み付けアセンブリ用固定具121が、入力軸1と入力側ディスク2と押圧装置12とを含む構成部品が一体に組み付けられて成る単一部品を形成する組み付けアセンブリ70に対して着脱自在に取り付けられた状態を示している。図示のように、本実施形態のアセンブリ用固定具121は、組み付けアセンブリ70における前記構成部品同士の相対的な移動を規制するためのものであり、入力軸1の外周をその長手方向に沿って覆う筒状のシース122と、ローディングナット9(図9参照)が螺合される入力軸1のネジ部1eに対して捩じ込まれるナット部材124とを備えている。本実施形態において、シース122は入力軸1をその略全長にわたって覆っているとともに、入力軸1よりも硬度が低い鉄、アルミニウムまたは高強度樹脂によって形成されている。また、ナット部材124は、ネジ部1eに捩じ込まれてシース122の一端に突き当てられることにより、シース122の他端を入力側ディスク2の端面2eに対して当て付け、それにより、組み付けアセンブリ70における構成部品(例えば、入力側ディスク、押圧装置12、カム板7等)の軸方向の移動を規制するための押し付け力を入力側ディスク2に対して作用させる。
このような構成によれば、ローディングナット9(図9参照)が螺合される入力軸1の既存のネジ部1eを利用してナット部材124を捩じ込むとともに、このナット部材124によって入力軸1の外周を単に覆うだけのシース122を入力側ディスク2に対して当て付け、それにより、組み付けアセンブリ70における構成部品(例えば、入力側ディスク、押圧装置12、カム板7等)の軸方向の移動を規制するための押し付け力を入力側ディスク2に対して作用させるようにしているため、組み付けアセンブリ70を構成する構成部品に加工を施すことなく(従来のようにカム板7、カムリテーナ、ディスク2にネジ穴や貫通穴を設けることなく)且つ当該構成部品を傷付けることなく、組み付けアセンブリ70における構成部品同士の相対的な移動(例えば、押圧装置12のガタ)を防止することができる。すなわち、上記構成の組み付けアセンブリ用固定具121によれば、加工コストを増加させることなく、強度低下を招くことなく、組み立て等の目的で組み付けアセンブリ70を搬送する際にも、組み付けアセンブリ70の構成部品を所定の位置に正確に位置決めしておく(あるいは、各構成部品が入力軸1に対して外れない(ばらばらにならない)ようにしておく)ことができ、運搬時の振動等により構成部品に傷、打痕、フレッチングが発生することも防止できる。更に、上記構成によれば、シース122によって入力軸1の外周面を保護することもできる。また、入力側ディスク2の外周部に治具を引っ掛けることもないため、入力側ディスク2のトラクション面2aを傷付けてしまうこともない。また、シース122の硬度が入力軸1のそれよりも低いため、組み付けアセンブリ70に対してシース122を脱着する際にシース122が入力軸1に当っても、入力軸1が傷付くことを防止できる。
図2は、本発明の第2の実施形態に係る組み付けアセンブリ用固定具121が組み付けアセンブリ70に対して着脱自在に取り付けられた状態を示している。図示のように、本実施形態のアセンブリ用固定具121では、シース122とナット部材124とが一体に形成されている。なお、それ以外の構成は第1の実施形態と同一である。
このような構成によれば、シース122とナット部材124とが一体に形成されているため、部品点数を減らすことができ、コストを削減することもできる。
図3は、本発明の第3の実施形態に係る組み付けアセンブリ用固定具121が組み付けアセンブリ70に対して着脱自在に取り付けられた状態を示している。図示のように、本実施形態のアセンブリ用固定具121において、シース122の内周面には、入力軸1の外周部位(図では、径方向に突出する凸部)1fに嵌合される嵌合部122aが設けられている。なお、それ以外の構成は第1の実施形態と同一である。
このような構成によれば、嵌合部122aにより入力軸1に対するシース122の位置決めを行なうことができるため、組み付けアセンブリ70に対するシース122の組み付けを安定的に且つ容易に行なうことができ、また、シース122によって入力側ディスク2を正確に押さえることができる。
図4は、本発明の第4の実施形態に係る組み付けアセンブリ用固定具121が組み付けアセンブリ70に対して着脱自在に取り付けられた状態を示している。図示のように、本実施形態のアセンブリ用固定具121において、シース122は、その内側から外側へと貫く複数の貫通孔125を有している。この場合、貫通孔125は、シース122の長手方向に沿ってほぼ等間隔で設けられるとともに、シース122の周方向に沿って等しい角度間隔で設けられている。なお、それ以外の構成は第1の実施形態と同一である。
このような構成によれば、貫通孔125を通じて洗浄液をシース122の内外に流通させることができるため、シース122の洗浄を簡単かつ十分に行なうことができ、シース122から汚染物を確実に除去することができる。また、シース122に貫通孔125が設けられているので、アッセンブリ状態で入力軸1やディスク2等の部品の洗浄が可能ないし容易になる。
図5は、本発明の第5の実施形態に係る組み付けアセンブリ用固定具121が組み付けアセンブリ70に対して着脱自在に取り付けられた状態を示している。図示のように、本実施形態のアセンブリ用固定具121において、ナット部材124は、入力軸1の外周をその長手方向に沿って覆う筒状部材として形成されている。本実施形態において、この筒状部材は、ネジ部1eに螺合されるナット部124aと、ネジ部1eから入力軸1の端部へと延びる入力軸1の外周部位を外側から覆う筒状部124bとから成る。また、筒状部124bは、入力軸1の端面と対向する対向部124cを有している。なお、それ以外の構成は第1の実施形態と同一である。
このような構成によれば、ナット部材124の筒状部124bによって入力軸1を保護することができ、搬送時において入力軸1に傷や打痕が生じることを防止できる。
図6は、本発明の第6の実施形態に係る組み付けアセンブリ用固定具121が組み付けアセンブリ70に対して着脱自在に取り付けられた状態を示している。図示のように、本実施形態のアセンブリ用固定具121において、シース122の外周面には、シース122の長手中心軸Oと直交する方向で対向する少なくとも一対の平面部(二面幅)122b,122bが形成されている。なお、それ以外の構成は第1の実施形態と同一である。
このような構成によれば、平面部122b,122bを利用してナット部材124の締め付け及び取り外しを容易に行なうことができる。
図7は、本発明の第7の実施形態に係る組み付けアセンブリ用固定具121が組み付けアセンブリ70に対して着脱自在に取り付けられた状態を示している。図示のように、本実施形態のアセンブリ用固定具121では、シース122の内周面に樹脂コーティング130が施されている。なお、それ以外の構成は第1の実施形態と同一である。
このような構成によれば、組み付けアセンブリ70に対してシース122を脱着する際にシース122が入力軸1に当っても、樹脂コーティング130の存在により、入力軸1が傷付くことを防止できる。
なお、シース122の内周面に樹脂コーティング130を設ける代わりに、樹脂、紙またはアルミニウムから成る筒状部材130をシース122の内周面に嵌合状態で同心的に設けても良い。
図8は、本発明の第8の実施形態に係る組み付けアセンブリ用固定具121が組み付けアセンブリ70に対して着脱自在に取り付けられた状態を示している。図示のように、本実施形態のアセンブリ用固定具121は、パワーローラ11(図10参照)と接触する入力側ディスク2のトラクション面2aを覆う保護部材140を更に備えている。この場合、保護部材140は、入力側ディスク2のトラクション面2aに沿って延びる第1の保護部140aと、入力軸1の長手中心軸(軸線)Oと略平行に延び且つ押圧装置のローラおよび入力側ディスクの外周端面を覆う第2の保護部140bと、ナット部材124と反対側に位置してシース122の他端に配置され且つシース122が入力側ディスク2に対して当て付けられる際にシース122と入力側ディスク2との間で挟持される基端部140cとから成る。
このような構成によれば、保護部材140によって入力側ディスク2のトラクション面2aを保護することができ、トラクション面2aが傷付くことを防止できる。
本発明は、シングルキャビティ型やダブルキャビティ型などの様々なハーフトロイダル型無段変速機の他、トラニオンが無いフルトロイダル型無段変速機にも適用することができる。
本発明の第1の実施形態に係る組み付けアセンブリ用固定具が組み付けアセンブリに対して着脱自在に取り付けられた状態を示す要部断面図である。
本発明の第2の実施形態に係る組み付けアセンブリ用固定具が組み付けアセンブリに対して着脱自在に取り付けられた状態を示す要部断面図である。
本発明の第3の実施形態に係る組み付けアセンブリ用固定具が組み付けアセンブリに対して着脱自在に取り付けられた状態を示す要部断面図である。
本発明の第4の実施形態に係る組み付けアセンブリ用固定具が組み付けアセンブリに対して着脱自在に取り付けられた状態を示す要部断面図である。
本発明の第5の実施形態に係る組み付けアセンブリ用固定具が組み付けアセンブリに対して着脱自在に取り付けられた状態を示す要部断面図である。
(a)は本発明の第6の実施形態に係る組み付けアセンブリ用固定具が組み付けアセンブリに対して着脱自在に取り付けられた状態を示す要部断面図、(b)は(a)のB−B線に沿う断面図である。
本発明の第7の実施形態に係る組み付けアセンブリ用固定具が組み付けアセンブリに対して着脱自在に取り付けられた状態を示す要部断面図である。
本発明の第8の実施形態に係る組み付けアセンブリ用固定具が組み付けアセンブリに対して着脱自在に取り付けられた状態を示す要部断面図である。
従来から知られているトロイダル型無段変速機の具体的構造の一例を示す断面図である。
図9のA−A線に沿う断面図である。
組み付けアセンブリの一構造例を示す断面図である。
図11の組み付けアセンブリにおいて皿ばねを撓ませた状態を示す断面図である。
(a)はトラクション面に溝底がある入力側ディスクに治具を引っ掛けた状態を示す断面図、(b)はトラクション面に溝底が無い入力側ディスクに治具を引っ掛けた状態を示す断面図である。
符号の説明
1 入力軸
1e ネジ部
2 入力側ディスク
3 出力側ディスク
7 カム板(ローディングカム)
9 ローディングナット
11 パワーローラ
70 組み付けアセンブリ
121 組み付けアセンブリ用固定具
122 シース
122a 嵌合部
122b 平面部
124 ナット部材
124b 筒状部
125 貫通孔
130 樹脂コーティング、筒状部材
140 保護部材