JP4735801B2 - 密封装置 - Google Patents

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Description

本発明は、車両の懸架装置の軸受部や、汎用機械の回転部分の密封手段として用いられ、回転側に設けたスリンガに静止側に設けたシールリップを密接させることにより、機器の回転部分を密封する密封装置に関するものである。
自動車の懸架装置に車輪を回転自在に支持する軸受ユニットは、密封装置によって泥水や塵埃から保護されており、このような密封装置としては、従来から、例えば特許文献1に記載されたものが知られている。
特開2003−222145
すなわち特許文献1の第5図に記載された従来の密封装置は、外輪の内周に多数の鋼球を介してハブの中心軸部及びこれと一体の内輪が回転可能に支持された構造を備える軸受ユニットへ、雨水、泥水あるいは塵埃等の異物が侵入するのを防止すると共に、軸受内部に充填されたグリースが外部へ漏洩するのを防止するもので、外輪の内周面に金属製の外環を介して取り付けられたゴム状弾性材料からなるサイドリップ、ダストリップ及びグリースリップと、内輪に取り付けられたスリンガを備える。そしてサイドリップがスリンガのフランジ部に摺動可能に密接され、その内周のダストリップ及びグリースリップが、スリンガの円筒部外周面に摺動可能に密接されている。
しかしながら、従来の密封装置によれば、サイドリップ、ダストリップ及びグリースリップの全てが、スリンガと摺動可能に密接されており、特にダストリップは、スリンガの円筒部外周面に対して、縮径方向の緊迫力による締め代を有するため、摩擦トルクが大きく、したがってハブの回転抵抗が大きくなり、動力損失が大きくなる問題が指摘されている。また、特許文献1の第1図に記載された従来の密封装置は、グリースリップがハブに対して非接触であるが、ダストリップは、ハブの湾曲面に対して縮径方向の緊迫力による締め代を有するため、やはり摩擦トルクが大きいものとなっていた。しかも、このような緊迫力によって、ダストリップのヘタリ(応力緩和)も起こりやすくなり、密封機能の早期低下を来すおそれがあった。
本発明は、上述のような従来の問題に鑑みてなされたもので、その技術的課題は、摩擦トルクによる動力損失を軽減すると共に、長期間にわたって優れた密封性能を確保することのできる密封装置を提供することにある。
上述の技術的課題を有効に解決するための手段として、本発明に係る密封装置は、軸心の周りに回転可能な内周部材の外周面に嵌着されるスリーブ及びその軸方向一端から前記軸心と略垂直に展開したシールフランジからなるスリンガと、前記内周部材の外周側に同心的に配置された非回転の外周部材の内周面に嵌着される取付環と、この取付環に一体的に設けられ前記シールフランジに摺動可能に密接された互いに同心の複数のシールリップと、前記取付環に一体的に設けられ前記スリーブの外周面に非接触で対向されたラビリンスリップと、を備え、内周側のシールリップの基部が内周側へ凸の屈曲形状に変形されることによって、前記ラビリンスリップ及び前記内周側シールリップと前記スリーブとの間に、狭まり隙間と拡張隙間を軸方向交互に有するラビリンスシールが形成されたものである。
上記構成において、複数のシールリップは、軸心と略垂直に展開したシールフランジに密接されるため、縮径方向の緊迫力による締め代が発生せず、したがって、摩擦トルクによる回転抵抗が抑制されると共に、ヘタリ(応力緩和)の起こりにくい構造とすることができる。しかも、複数のシールリップによる摺動部は、いずれも、シールフランジの回転に伴う遠心力による振り切り作用を生じるので、優れた密封機能を奏する。一方、ラビリンスリップは、回転側との非接触状態で、ラビリンスシール作用による密封機能を奏するものであるため、摩擦トルクを発生せず、内周側のシールリップの基部が内周側へ凸の屈曲形状に変形されることによって、前記ラビリンスリップ及び前記内周側シールリップと前記スリーブとの間に、狭まり隙間と拡張隙間が軸方向交互に形成されるため、顕著なラビリンスシール作用を得ることができる。
本発明に係る密封装置によれば、摩擦トルクによる動力損失を低減することができ、しかも、複数のシールリップの摺動部では、振り切り作用を生じるので、優れた密封機能を奏することができ、ヘタリによる密封機能の早期低下を防止することができる。
図1は、本発明に係る密封装置を自動車用車輪懸架装置に車輪を回転自在に支持する軸受部を密封する密封手段に適用した好ましい実施の形態を、その軸心Oを通る平面で切断して示す半断面図である。
図1における参照符号100は、自動車の懸架装置において、車輪を回転自在に支持するための軸受ユニットであって、外輪101及び内輪102と、その間に配置され円周方向に並んだ多数の鋼球103(図1には1個のみ示される)からなる。外輪101は非回転であって、請求項1に記載された外周部材に相当するものであり、懸架装置における不図示のナックルに固定されている。また、内輪102は請求項1に記載された内周部材に相当するものであり、車輪側の不図示のハブに一体的に嵌着されて、軸心の周りに回転可能となっている。
本発明に係る密封装置は、軸受ユニット100の内部Bへ、外部Aからの泥水や塵埃等が侵入するのを防止すると共に、鋼球103を潤滑するグリースが軸受外部Aへ流出するのを防止するもので、内輪102の外周面に嵌着されるスリーブ11及びその軸受外部A側を向いた軸方向一端から軸心と略垂直に展開したシールフランジ12からなるスリンガ1と、外輪101の内周面に嵌着される取付環2と、この取付環2に一体的に設けられスリンガ1のシールフランジ12に摺動可能に密接された互いに同心の外周側シールリップ3及び内周側シールリップ4と、取付環2に一体的に設けられスリンガ1のスリーブ11の外周面に非接触で対向されたラビリンスリップ5と、取付環2に一体的に設けられ外輪101の内周面に密接されるガスケット部6を備える。
スリンガ1は、鋼板等の金属板を打ち抜きプレス成形することにより製作したものであって、先に説明したように、軸受ユニット100の内輪102の外周面に圧入嵌着されるスリーブ11と、その軸受外部A側の端部から外周側へ軸心と直交する平面状に展開した円盤状のシールフランジ12とからなり、すなわち軸心Oを通る平面で切断した形状(図1の断面形状)が略L字形をなす。
取付環2は、鋼板等の金属板を打ち抜きプレス成形することにより製作したものであって、軸受ユニット100の外輪101の内周面に圧入嵌着される外周筒部21と、その軸受外部A側の端部に適宜小径に絞って形成されたガスケット支持部22と、その反対側(軸受内部B側)の端部から内周側へ延びる内向き鍔部23からなる。そして前記外周筒部21は、軸受ユニット100の外輪101の内周面に適当な締め代をもって圧入されるように、外径が、外輪101の内径より僅かに大径に形成されている。
外周側シールリップ3、内周側シールリップ4、ラビリンスリップ5及びガスケット部6は、ゴム状弾性材料からなるものであって、取付環2に被着された弾性層7を介して互いに連続している。すなわち、これらのゴム部は、所定のゴム加硫成形用金型(不図示)内に、予め加硫接着剤を塗布した取付環2を位置決めセットして型締めし、前記金型と取付環2との間に画成された成形用キャビティ内に、未加硫ゴム材料を充填し、加熱・加圧することによって、加硫成形と、取付環2への加硫接着を同時に行ったものである。なお、スリンガ1のシールフランジ12の外径は、取付環2における外周筒部21及びガスケット支持部22の内周面に形成された弾性層7の外周部7aの内周面よりも小径であり、したがって両者間には環状の隙間Gが存在する。
外周側シールリップ3は、図中二点鎖線で示されるように、弾性層7の径方向中間部から軸受外部A側へ向けて、先端部側が大径となるように開いた円錐筒状に成形されたものであって、図示の取付状態において、スリンガ1のシールフランジ12に、適当に軸方向曲げ変形を受けた状態で、先端近傍が、軸心Oに対して略垂直な平面状をなすシールフランジ12の内側面12aに、摺動可能に密接される。
内周側シールリップ4は、図中二点鎖線で示されるように、弾性層7の内周端部7bから軸受外部A側へ向けて、先端部側が大径となるように開いた円錐筒状に成形されたものであって、図示の取付状態において、スリンガ1のシールフランジ12に、適当に軸方向曲げ変形を受けた状態で、先端近傍が、シールフランジ12の内側面12aに、外周側シールリップ3の摺動部より内周側で、摺動可能に密接される。
ラビリンスリップ5は、弾性層7の内周端部7bから、内周側シールリップ4と反対側(軸受内部B側)へ向けて、先端部側が小径となる円錐筒状に突出している。このラビリンスリップ5における先端部は、スリンガ1のスリーブ11の外径よりも僅かに大径に成形されており、したがって僅かな隙間をもってスリーブ11の外周面11aに対向している。
ガスケット部6は、取付環2におけるガスケット支持部22の外周面に接合され、弾性層7の外周部7aと連続して形成されており、軸受ユニット100における外輪101の内周面に、適当なつぶし代をもって密接されるように、山形の断面形状をなしている。
以上の構成を備える密封装置は、取付環2の外周筒部21において軸受ユニット100における非回転の外輪101の内周面に圧入嵌着され、この取付環2に一体に設けられた外周側シールリップ3及び内周側シールリップ4が、軸受ユニット100の内輪102と一体的に回転するスリンガ1のシールフランジ12に、摺動可能に密接されることによって、軸受外部Aから軸受内部Bへ塵埃や泥水等が侵入するのを防止するものである。しかも、シールフランジ12は、回転によって、これと接触する流体や異物に対して遠心力を与えるので、外周側シールリップ3及び内周側シールリップ4の双方の摺動部において、振り切り作用による外周側への排除力が得られ、軸受外部A側から侵入しようとする泥水や異物等に対する優れた密封機能を奏する。
すなわち、軸受外部Aからスリンガ1のシールフランジ12の外周隙間Gを通って、外周側シールリップ3とシールフランジ12の摺動部へ介入しようとする泥水や異物等は、上述のように遠心力によって振り切られて、外周側へ排除される。そして、外周側シールリップ3とシールフランジ12の摺動部の内周側へ、泥水や異物等が僅かに通過したとしても、この泥水あるいは異物は、内周側シールリップ4とシールフランジ12の摺動部で封止され、遠心力によって振り切られて、結局、外周側シールリップ3とシールフランジ12の摺動部へ押し出されるので、このような内外周二段の排除力によって、軸受内部Bへの泥水や異物の侵入を、確実に遮断することができる。
一方、ラビリンスリップ5は、軸受内部Bのグリースを密封対象とするもので、スリンガ1におけるスリーブ11の外周面11aと非接触であるが、ラビリンスシール作用によって、グリースの流出を有効に防止することができる。また、内周側シールリップ4は、図示の取付状態において、基部4aが内周側へ凸の屈曲形状に変形されているため、ラビリンスリップ5及び内周側シールリップ4とスリーブ11との間には、狭まり隙間Saと拡張隙間Sbが軸方向交互に形成され、これによって、顕著なラビリンスシール作用を得ることができる。
また、この形態によれば、軸心と略垂直に展開したシールフランジ12に対する外周側シールリップ3及び内周側シールリップ4の摺動面圧は、軸方向の曲げ変形に対する反力にのみ依存されるものであって、縮径方向の緊迫力による締め代が発生しないため、摺動に伴う摩擦トルクが小さい。しかもラビリンスリップ5は、スリンガ1におけるスリーブ11と非接触でラビリンスシール作用による密封機能を奏するものであるため、摩擦トルクを全く発生しない。したがって、摩擦トルクによる回転抵抗が抑制され、動力損失を低減することができる。
そして上述のように、外周側シールリップ3及び内周側シールリップ4は、摺動面圧は小さいが振り切り作用によって優れた密封機能を奏するものであり、縮径方向の緊迫力を付与することによって密封性を確保するものではないため、ヘタリ(応力緩和)が起こりにくい。このため、長期間にわたって優れた密封性能が確保される。
更に、スリンガ1は、シールフランジ12の内側面12aのみが外周側シールリップ3及び内周側シールリップ4との摺動による密封機能を営むものであり、スリーブ11の外周面はラビリンスリップ5と非接触であるから、スリンガ1の仕上加工は、シールフランジ12の内側面12aにのみ行えば良い。したがって製作コストを低減することができる。
なお、図示の形態では、スリンガ1のシールフランジ12に密接されるシールリップを内外周二段に設けたが、これには限定されない。また、シールフランジ12の外側面に、磁性粉体を混入したゴム状弾性材料又は合成樹脂材料で円盤状に成形され円周方向交互に異なる磁極が着磁されたパルサーリングが一体的に接着されると共に、このパルサーリングに磁気センサを対向配置することによって、車輪の回転速度等を検出可能とした密封装置についても、本発明を、上述の形態と同様に実施することができる。
本発明に係る密封装置の好ましい実施の形態を、その軸心Oを通る平面で切断して示す半断面図である。
符号の説明
1 スリンガ
11 スリーブ
12 シールフランジ
2 取付環
21 外周筒部
22 ガスケット支持部
23 内向き鍔部
3 外周側シールリップ(シールリップ)
4 内周側シールリップ(シールリップ)
5 ラビリンスリップ
6 ガスケット部
7 弾性層
100 軸受ユニット
101 外輪(外周部材)
102 内輪(内周部材)
103 鋼球
A 軸受外部
B 軸受内部
Sa 狭まり隙間
Sb 拡張隙間
G 隙間

Claims (1)

  1. 軸心(O)の周りに回転可能な内周部材(102)の外周面に嵌着されるスリーブ(11)及びその軸方向一端から前記軸心(O)と略垂直に展開したシールフランジ(12)からなるスリンガ(1)と、前記内周部材(102)の外周側に同心的に配置された非回転の外周部材(101)の内周面に嵌着される取付環(2)と、この取付環(2)に一体的に設けられ前記シールフランジ(12)に摺動可能に密接された互いに同心の複数のシールリップ(3,4)と、前記取付環(2)に一体的に設けられ前記スリーブ(11)の外周面に非接触で対向されたラビリンスリップ(5)と、を備え、内周側のシールリップ(4)の基部(4a)が内周側へ凸の屈曲形状に変形されることによって、前記ラビリンスリップ(5)及び前記内周側シールリップ(4)と前記スリーブ(11)との間に、狭まり隙間(Sa)と拡張隙間(Sb)を軸方向交互に有するラビリンスシールが形成されたことを特徴とする密封装置。
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