JP4727133B2 - 生分解性カードの製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、自然環境中で分解するプラスチックカードに関するものである。特に、柔軟性と耐熱性に優れた、多層構造の生分解性カードに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、各種プラスチックカードが、広範な範囲で利用されているが、その多くは比較的短時間で利用目的を終了し、焼却または廃棄される。一方、環境問題の観点からは、焼却または廃棄が必ずしも容易ではなく、生分解性プラスチックを素材とするカードが、種々提案されている。例えば、特開平8−267968号公報では、コア層の両表面にオーバー層を有する多層構造を生分解性プラスチックで構成し、オーバー層として、透明度の要求に応えるべく、ポリ乳酸または乳酸とオキシカルボン酸の共重合体を主成分とすることが提案されている。
【0003】
【発明の解決すべき課題】
しかし、このような提案により、確かに透明性の要求には応えられていても、実際には次のような問題点がある。
▲1▼ ポリ乳酸の無延伸シートは非常に脆く、断裁機でシートを一定サイズに断裁する際にわれ・かけが生じ、きれいに仕上げるのが難しい。これは、積層したシートについても同様である。また、カードにした後エンボス文字を機械的に入れることがあるが、このときもわれ・かけを生じさせる恐れがある。
▲2▼ また、ポリ乳酸の非晶性シートはガラス転移温度が60℃程度で、これを超える温度では急激に剛性(弾性率)が低下し、実用的ではない。
▲3▼ さらに、特開平8−267968号公報では、ポリ乳酸の2軸延伸処理されたシートを使用することも提案されている。確かに、ポリ乳酸の透明性を保持しつつ脆さを改良できる点では有効であるが、この状態では歪みが残るので印刷や積層等の工程において加わる熱でシートが収縮する問題が生じる。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明の第1の主旨は、ポリ乳酸40〜90重量%およびガラス転移温度(Tg)が0℃以下である生分解性脂肪族ポリエステル60〜10重量%からなる組成物を主成分とするコア層の両表面に、ポリ乳酸60〜100重量%およびガラス転移温度(Tg)が0℃以下である生分解性脂肪族ポリエステル40〜0重量%からなる組成物を主成分とするオーバー層を有する積層体であって、かつ該コア層および該オーバー層について、昇温したときのポリ乳酸部分の結晶化融解熱量(ΔHm)と昇温中の結晶化により発生するポリ乳酸部分の結晶化熱量(ΔHc)とから算出される結晶化度{(ΔHm−ΔHc)/ΔHm}が、それぞれ、0.8以上および0.9以上であることを特徴とする生分解性カードにある。
【0005】
第2の主旨は、L−乳酸:D−乳酸の割合が100:0〜94:6または6:94〜0:100のポリ乳酸40〜90重量%およびガラス転移温度(Tg)が0℃以下である生分解性脂肪族ポリエステル60〜10重量%からなる組成物を主成分とし、昇温したときのポリ乳酸部分の結晶化融解熱量(ΔHm)と昇温中の結晶化により発生するポリ乳酸部分の結晶化熱量(ΔHc)とから換算される結晶化度{(ΔHm−ΔHc)/ΔHm}が0.8以上であることを特徴とする、生分解性カードのコア層にある。
【0006】
第3の主旨は、L−乳酸:D−乳酸の割合が100:0〜94:6または6:94〜0:100のポリ乳酸60〜100重量%およびガラス転移温度(Tg)が0℃以下である生分解性脂肪族ポリエステル40〜0重量%からなる組成物を主成分とし、昇温したときのポリ乳酸部分の結晶化融解熱量(ΔHm)と昇温中の結晶化により発生するポリ乳酸部分の結晶化熱量(ΔHc)とから換算される結晶化度{(ΔHm−ΔHc)/ΔHm}が0.9以上であることを特徴とする、生分解性カードのオーバー層にある。
【0007】
【発明の実施形態】
本発明においてコア層またはオーバー層を構成する組成物の重合体成分の一つであるポリ乳酸を選択する際には、その結晶性が重要になる。例えば、非晶性のポリ乳酸は、ガラス転移温度を超えると急激に剛性が低下し、流動しはじめるので、カードとした場合、耐熱性が不十分で使用上の欠点となる。一方、十分に結晶化したポリ乳酸は、ガラス転移温度を超える温度領域でも、若干柔らかくはなるものの剛性を保持し、流動することはない。すなわち、本発明の生分解性カードにおいては、少なくともコア層、好ましくはコア層およびオーバー層ともポリ乳酸成分が結晶化していることが好ましく、そのためには、ポリ乳酸は結晶性のものを選択しておくことが重要である。
【0008】
ポリ乳酸の結晶性は、これを構成する乳酸の種類と割合によって異なる。ポリ乳酸には、構造単位がL−乳酸またはD−乳酸の一方のみであるポリL−乳酸またはポリD−乳酸の単一重合体と、構造単位がL−乳酸およびD−乳酸の両方を含む共重合体とがある。単一重合体のポリL−乳酸またはポリD−乳酸は、いずれも結晶性である。共重合体では、L−乳酸とD−乳酸の割合によって非晶性となる。すなわち、共重合体中のL−乳酸とD−乳酸の割合が94:6〜6:94の範囲内のものは、非晶性であり、熱処理を行っても結晶化しないか、結晶化してもその結晶化度が低すぎて耐熱性を満足しない。要するに、結晶性のポリ乳酸は、重合体中のL−乳酸とD−乳酸の割合が、100:0〜94:6もしくは6:94〜0:100の範囲内で得られ、熱処理等によって結晶化度を上げれば、耐熱性は向上する。もっとも、後述するように、シートの貼り合わせの観点からは、ポリ乳酸重合体中のL−乳酸とD−乳酸の割合が、98:2〜94:6もしくは6:94〜2:98の範囲内とすることが好ましい。
【0009】
ポリ乳酸の製法は特に制限はなく、縮重合法、開環重合法等、任意の方法があり、単量体としては、L−乳酸、D−乳酸またはこれらの混合物が、縮重合法に、また、乳酸の環状二量体であるL−ラクチド、D−ラクチド、DL−ラクチドまたはこれらの混合物が、開環重合法に使用される。また、分子量の増大を目的として、重合の際に少量の鎖延長剤、例えばジイソシアネート化合物、エポキシ化合物、酸無水物等を使用することもできる。
【0010】
ポリ乳酸の好ましい重量平均分子量は、6万〜100万であり、小さすぎると実用物性の発現が困難となり、大きすぎると溶融粘度が増大し、成形加工性に劣る。ポリ乳酸のガラス転移温度(Tg)は60℃で、融解温度(Tm)は、L−乳酸とD−乳酸の割合によって異なり、非晶性のものは融解温度を持たず、結晶性のものは100〜200℃の範囲内にある。
【0011】
本発明においてコア層またはオーバー層を構成する組成物の重合体成分の他の一つは、低ガラス転移温度の結晶性脂肪族ポリエステル(以下単に「脂肪族ポリエステル」という。)である。この脂肪族ポリエステルは、ポリ乳酸の脆さを改良し、耐衝撃性を向上できるものであって、好ましくは、併せてポリ乳酸のガラス転移温度60℃を超えて剛性を保持するものなら特に制限はなく、2種類以上混合してもかまわない。具体的には、ガラス転移温度(Tg)が0℃以下、好ましくは−20℃以下の生分解性脂肪族ポリエステルが使用される。なかでも、60℃を超えて剛性を保持するために、融解温度(Tm)が80℃以上のものが選択される。
【0012】
本発明で使用される脂肪族ポリエステルの代表例としては、微生物によって生合成されるポリヒドロキシブチレートやポリヒドロキシブチレート/バリレート(共重合体)等が挙げられる。また、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールを脱水縮重合して化学合成されるポリブチレンサクシネート(1,4−ブタンジオールとコハク酸の縮重合体)、ポリブチレンサクシネート/アジペート(共重合体)等が挙げられる。
【0013】
ポリヒドロキシブチレートに代表される微生物産出系の脂肪族ポリエステルは、アルカリゲネスユートロファスを始めとする菌体内でアセチルコエンチームA(アセチルCoA)により生合成されることが知られている。産出される脂肪族ポリエステルは、主にポリ−β−ヒドロキシ酪酸(ポリ3HB)であるが、プラスチックとしての実用特性を向上させるために、発酵プロセスを工夫し、吉草酸ユニット(HV)を共重合したポリ(3HB−co−3HV)もある。その共重合比は一般的に0〜40%であり、この範囲で融解温度(Tm)は130〜165℃である。HVの代わりに4HBを共重合したり、長鎖のヒドロキシアルカノエートを共重合したものでもよい。
【0014】
ポリブチレンサクシネートに代表される化学合成系の脂肪族ポリエステルにおいては、その一方の構造単位である脂肪族ジオール単位は、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等から選ばれる。他方の構造単位である脂肪族ジカルボン酸単位は、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等から選ばれる。
【0015】
上記の脂肪族ポリエステルの製法は特に制限はなく、縮重合法、開環重合法等、任意の方法によって合成することができ、単量体としては、上記のジオールおよびジカルボン酸のそれぞれ少なくとも1種以上の混合物が、縮重合法に、また、ジオールおよびジカルボン酸の閉環化合物であるオキシラン類および酸無水物のそれぞれ少なくとも1種以上の混合物が、開環重合法に使用される。閉環化合物であるオキシラン類としては、例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、テトラヒドロフラン等が挙げられ、酸無水物としては、コハク酸無水物、アジピン酸無水物等が挙げられる。重合に際して、単量体の混合割合を選定することによって、任意の組成を持つ、結晶性脂肪族ポリエステルを得ることが可能である。また、分子量の増大を目的として、重合の際に、少量の鎖延長剤、例えば、ジイソシアネート化合物、エポキシ化合物、酸無水物等を使用することもできる。
【0016】
上記の脂肪族ポリエステルのガラス転移温度(Tg)および融解温度(Tm)は、組成や分子量によっても相違するが、それぞれ、−60〜0℃および90〜170℃程度である。また、上記の脂肪族ポリエステルの好ましい重量平均分子量は、5万〜100万であり、小さすぎると溶融張力が低く、溶融押出した時のシートが引き取りにくく、大きすぎると溶融粘度が高すぎ成形加工性に劣る。
【0017】
しかして、本発明カードのコア層の主成分組成物は、ポリ乳酸40〜90重量%、好ましくは50〜80重量%、特に好ましくは60〜70重量%および脂肪族ポリエステル60〜10重量%、好ましくは50〜20重量%、特に好ましくは40〜30重量%からなる。脂肪族ポリエステルが10重量%未満では、耐衝撃性の改善が不十分であり、エンボス文字の打刻に耐えられない。また、シートを断裁する際にわれ・かけが生じ易い。脂肪族ポリエステルが60重量%超えると、現行の塩ビカード等に比し著しく剛性が不足し扱い難い。
【0018】
本発明カードのオーバー層の主成分組成物は、ポリ乳酸60〜100重量%および脂肪族ポリエステル40〜0重量%からなる。ポリ乳酸が60重量%未満では、透明性が不十分である。通常、オーバー層は、コア層よりも透明性の高いものが要求されるので、コア層に比しポリ乳酸の割合の多い組成物が選択される。オーバー層とすべきシートが延伸シートの場合は、ポリ乳酸100%のものが、後記するように透明性等の観点から好ましい。無延伸シートの場合は、好ましくはポリ乳酸70〜90重量%および脂肪族ポリエステル30〜10重量%からなるもの、特に好ましくはポリ乳酸70〜80重量%および脂肪族ポリエステル30〜20重量%からなるものが好ましい。たしかに、エンボス文字の打刻やシートの断裁を考慮すると、脂肪族ポリエステルの割合は多いほどよいが、一方で、透明性が低下していく。そこで、上記の範囲内でカードの用途により適切な組成が選択される。
【0019】
本発明カードのコア層またはオーバー層とすべきシートの製膜方法は、上記の所定組成のポリ乳酸および脂肪族ポリエステルを、必要に応じ他の重合体または添加剤成分とともに、押出機に投入して直接シートを作製する方法によることもできるし、一旦ストランド状に押出し切断してペレットとした後、再び押出機に投入してシートを作製する方法によってもよい。実際には、押出機中での分解による分子量低下を考慮し、ポリ乳酸と脂肪族ポリエステルは、事前に十分に乾燥し水分を除去した後、押出機で溶融する。溶融押出温度は、組成物中の重合体の融解温度および組成を考慮して適宜選択するが、通常、100〜250℃の範囲内から選ばれる。
【0020】
シート状に溶融成形された重合体組成物は、回転するキャスティングドラムと接触させて冷却するのが好ましい。キャスティングドラムの温度は組成物中の重合体の種類および組成によっても相違するが、通常、60℃以下が適当である。これより高い温度ではポリマーがキャスティングドラムに粘着して引き取れない。特に、シートを延伸する場合には、ポリ乳酸部分の結晶化が促進され、球晶が発達しないよう、急冷によってポリ乳酸部分を実質上非晶性にしておくことが好ましい。
【0021】
本発明においては、上記のようにして得られたコア層またはオーバー層とすべきシートを、必要に応じて所定のカードを得るに適当なサイズにカットした後、貼り合わせて積層体とする。例えば、1枚または2枚のコア層とすべきシートを2枚のオーバー層とすべきシートの間に挟んで、加圧加熱する熱プレス法によって、コア層の両表面にオーバー層を有する生分解性カードを得る。プレス温度はポリ乳酸や脂肪族ポリエステルの融解温度によって適宜選択され、プレス圧力は5〜40kg/cm2が使用される。なお、2枚のコア層とすべきシートを使用する利点は、煩雑な両面印刷を避け、個別に印刷した2枚の非印刷面を合せることにより同様の構成を採ることが可能である点にある。
【0022】
しかしながら、これまでの塩ビ製カードの製造設備で対応するためには150℃以下の温度で融着させることが好ましい。その場合、主成分となるポリ乳酸のL−乳酸とD−乳酸の割合を、150℃以下の温度で貼りあわせが可能になるよう設定する。具体的には、コア層およびオーバー層のいづれか一方のシート中の、結晶性ポリ乳酸のL−乳酸とD−乳酸の割合を、98:2〜94:6または6:94〜2:98の範囲内から選択する。これに対し、L−乳酸とD−乳酸のどちらかが98%を超える範囲では、ポリ乳酸の結晶性が高くなり、融着温度が高くなる。その場合は、150℃以下の温度で積層熱プレスしても、シート間で十分な融着強度を得ず、わずかな力で剥離してしまう。すなわち、シートの貼り合わせでは、オーバー層とコア層の融着、また、2枚以上コア層を使用する場合には、これらコア層相互間の融着が重要となる。そのため、オーバー層が、L−乳酸とD−乳酸の割合が98:2〜94:6または6:94〜2:98の範囲内であるポリ乳酸からなるシートであれば、コア層は、L−乳酸とD−乳酸のどちらかが98%を超えるポリ乳酸からなるシートであっても、融着強度は向上する。もちろん、その逆でも効果がある。ただし、コア層を複数枚使用して積層する場合は、両コア層として上記特定範囲内のL−乳酸とD−乳酸の割合に設定したシートを使用することが好ましい。
【0023】
シートの貼り合わせ方法には、他に熱融着させる方法や接着剤を介して貼り合わせる方法もある。前者は、シートの融解温度または融解温度よりやや高い温度まで昇温して両シートを融着させる。ただし、融解温度を著しく超えるとシートは形を保持できず、流動を開始するので注意を要する。この方法は、融着と同時にポリ乳酸部分の結晶化を進行させることができるので、シートのポリ乳酸部分の結晶化度が低い場合等に有効である。後者の接着剤(特に多いのがホットメルト型)を介する方法は、比較的低温で貼り合わせることができるので、ポリ乳酸部分が十分結晶化した延伸・熱固定シートを貼り合わせる場合等に有効である。
【0024】
これに対し、前記熱プレス法によるときは、通常、熱プレスは室温から貼り合わせ温度に昇温され、次いで数分間一定温度に保たれた後、冷却される。このとき、非晶性のポリ乳酸からなるシートでは、昇温中にシートの融着が起こると同時に結晶化する。ここで、本質的に結晶化しないポリ乳酸や脂肪族ポリエステルを含有しないシートでは流動を開始し、良好なカードを得ることが出来ない。次いで、さらに昇温すると融点近辺で結晶の一部が融け出し、完全に融着させることができる。ただし、融点を著しく超えるとシートは形を保持できず、流動を開始するので注意を要する。いずれにしても、この工程ではシートのポリ乳酸部分は結晶化する。このことは結晶性ポリ乳酸を使用する利点であり、実用的使用に適した耐熱性をもったカード得る方法となる。
【0025】
本発明においては、このようにして貼り合わせ形成されるコア層およびオーバー層が十分結晶化していることが、実用的使用に適した耐熱性をもったカード得るために、極めて重要な点であり、また、結晶性ポリ乳酸を使用する利点でもある。しかして、本発明の生分解性カードにおいては、コア層のポリ乳酸部分の結晶化度が0.8以上であり、かつ、オーバー層のポリ乳酸部分の結晶化度が0.9以上であることが必要である。
【0026】
本明細書において、コア層、オーバー層またはそれらを形成するシート中に存在するポリ乳酸部分の結晶化度は、次の式で定められる。
結晶化度=(ΔHm−ΔHc)/ΔHm
式中、ΔHmは、昇温したときのポリ乳酸部分の結晶化融解熱量であり、ΔHcは、昇温中の結晶化により発生するポリ乳酸部分の結晶化熱量である。また、これらの熱量は、いずれも、JIS K7122に従い、示差走査型熱量計(DSC)を用いて測定される。具体的には、コア層、オーバー層またはそれらを形成する材料から採取された試料10mgを、昇温速度10℃/分で加熱してDSC曲線を描かせ、ポリ乳酸の融解温度(Tm)付近に現れた融解の吸熱ピーク面積からΔHm(J/g)を、また昇温途中のポリ乳酸の結晶化温度(Tc)付近に現れた結晶化の発熱ピーク面積からΔHc(J/g)を測定し、これらの測定値を上記式に代入して結晶化度を算出する。結晶化度が1.0に近いほど結晶化が高く、0に近いほど非晶状態である。結晶化させるときの目安は0.8以上である。また、本質的に結晶化しないものについては融点は現れない。
【0027】
従って、貼り合わせ工程または延伸・熱固定の工程の条件は、製品である生分解性カードが上記所定の結晶化度を達成できるように、設定することが重要である。特に、延伸・熱固定したポリ乳酸シートは、特開平7−2027041、特開平7−205278に記述しているように強度の向上、脆さの改良、透明性を維特持しつつ結晶化させることができるので、生分解性カードのオーバー層を形成するのに好適であるが、後記するように熱固定の条件の設定が重要である。
【0028】
延伸工程は、シートを周速差のある2個のロール間で延伸するロール延伸、および/または、テンターを用いクリップでシートを把持しながら、クリップ列の列間隔を拡大させて延伸するテンター延伸によって行われる。2軸に延伸する場合は、同時または逐次延伸法、どちらでも差し支えない。シートの延伸倍率は、例えば、縦(長手)方向、横(幅)方向に、それぞれ1.5〜5倍、好ましくは2〜4倍の範囲で、延伸温度は50〜90℃、好ましくは55〜80℃の範囲で適宜選択される。テンター延伸法は、テンターでシートを延伸後、テンター内で熱固定ができるので有利である。
【0029】
しかして、オーバー層とすべきポリ乳酸シートは、コア層との積層体とする前の段階で、面配向度(△P)が3.0×10-3以上、好ましくは5.0×10-3〜30×10-3に、しかも、ポリ乳酸部分の結晶化度{(△Hm−△Hc)/△Hm}を0.9以上に制御しておくことが好ましい。すなわち、ポリ乳酸配向シートにおいては、素材が本来有しているところの脆性を、面配向度(△P)を増大させることにより改良し、面配向度の上昇に伴い低下する熱寸法安定性を、結晶化度を増大させることにより改良できるものである。
【0030】
面配向度(△P)は、シートの厚み方向に対する面方向の配向度を表し、通常直交3軸方向の屈折率を測定し、以下の式に従って算出される。
△P=((γ+β)/2)−α (α<β<γ)
ここで、γ、βはシート面に平行な直交2軸の屈折率、αはシート厚さ方向の屈折率である。
【0031】
この面配向度(△P)は、結晶化度や結晶配向にも依存するが、大きくはシート面内の分子配向に依存する。しかして、△Pの増大は、シート面内、特にシートの流れ方向および/またはそれと直交する方向に対する、分子配向を増大を意味するので、シートの強度を高め、脆さを改良することにつながる。面配向度(△P)を増大させる方法としては、既知のあらゆるシート延伸法に加え、電場や磁場を利用した分子配向法を採用することもできる。
【0032】
しかし、面配向度(△P)を増大させた延伸シートは熱収縮性も大きく、できあがったカードに反りを生じる。延伸シートの熱収縮性を制御(抑制)するための熱固定は、シートの融解が起こらない範囲で出来るだけ高温に3秒間以上加熱することによって行われる。その温度範囲は、ポリ乳酸の融解温度Tmを基準に(Tm−50)〜Tm(℃)の範囲、好ましくは(Tm−30)〜Tm(℃)の範囲である。熱固定によりシートのポリ乳酸部分の結晶化度が0.9以上にすることが好ましい。
【0033】
本発明のカードには、必要に応じ、印刷層、感熱記録層等を設けることもできる。その場合、コア層またはオーバー層の表面または層間に設けることが好ましい。また、磁気記録層等を設ける場合は、オーバー層の表面に、適当な方法で、磁気ストライプを形成したり、ICを埋め込むことが好ましい。
【0034】
本発明のカードの厚さは、用途によっても相違するが、キャッシュカードやクレジットカードの場合には、500μm〜900μm程度の厚手のものが、また、テレホンカードやプリペイドカードの場合には、50〜350μm程度の薄手のものが用いられる。オーバー層の厚さは、厚手のもので20〜140μm、薄手のものでも20〜100μm程度が好ましいが、特に制限はない。
【0035】
【実施例】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明する。実施例中に示す測定、評価は、本文中に記載の条件以外は、次に示すような条件で行った。
【0036】
(1)ガラス転移温度(Tg)および融解温度(Tm)
パーキンエルマー社製示差走査型熱量計DSC−7を用い、JIS K7121に基づいて測定した。試料10mgをセットし、昇温速度10℃/分で200℃まで昇温し、その温度で2分間保持して試料を完全に融解させた。その後、降温速度10℃/分で降温した時のDSC曲線に現れる融解の吸熱ピーク温度を融解温度(Tm)とした。さらに降温を続け、いったん−60℃まで下げて2分間保持し、再度10℃/分で昇温を行い、転移曲線の中間値をガラス転移温度(Tg)とした。なお、0℃以下の測定を行うための冷却媒体として、液体窒素を用いた。
【0037】
(2)面配向度(ΔP)
アッベ屈折計を用いて測定した、直交3軸方向の屈折率(α、β、γ)を使用して、算出した。
【0038】
(3)結晶化度{(ΔHm−ΔHc)/ΔHm}
上記(1)と同じ装置を用いて測定した、融解熱量(ΔHm)および結晶化熱量(ΔHc)を使用して、算出した。
【0039】
(4)断裁性
カードを10枚重ねて、断裁機で裁断を行った。良好な結果を得たものについては○で表記し、問題があればその詳細を記述した。
【0040】
(5)エンボス文字打刻評価
日本データカード(株)製手動式エンボス文字打刻機(DC830型)を用いて、カードにエンボス文字を打刻した。良好な結果を得たものについては○で表記し、問題があればその詳細を記述した。
【0041】
(6)磁気ストライプ付きクレジットカード規格(JIS X6310)
この規格に基づき、以下の6項目について評価した。
【0042】
▲1▼引張強さ: 規格47.1N/mm2 以上。実測値を記述した。
【0043】
▲2▼衝撃強さ: カードを堅固な水平板上に置き、500gの鋼球を30cmの高さからその上に落としたとき、カードに割れ、ひび等を生じないこと。良好な結果を得たものについては○で表記し、問題があればその詳細を記述した。
【0044】
▲3▼柔軟温度: 規格52℃以上。実測値を記述した。
【0045】
▲4▼耐熱性: カードを60℃の温水中に5分間浸漬したとき、カードの表面に変化のないこと。
さらに80℃の温水中でも同様に評価した。この試験はカードの耐熱性の指標ともなる。良好な結果を得たものについては○で表記し、問題があればその詳細を記述した。
【0046】
▲5▼粘着性: 温度40℃、相対湿度90%の雰囲気中で4.9kPaの圧力を加えて48時間保存したとき、カード相互間に粘着のないこと。良好な結果を得たものについては○で表記し、×はカード相互間で貼りつきが生じた。
【0047】
▲6▼耐湿性: 温度40℃、相対湿度90%の雰囲気に48時間保持しても、外観に変化を生じないこと。良好な結果を得たものについては○で表記し、問題があればその詳細を記述した。
【0048】
▲7▼層間はくり強度: 識別カード規格JIS X 6301に準拠する試験方法で評価した。積層熱プレスした後の積層シートを10mm幅×100mmの短冊状に切り出し、各層間(オーバー層とコア層またはコア層を2枚にしたときのコア層とコア層)に切り込みを入れて手ではがし、その両端を引っ張り試験機にチャックしてはくり強度を求めた。チャック間40mm、引っ張り速度は100mm/分に設定した。そのときの最大引っ張り強さを求めた。これを幅1cmあたりのはくり強度とした。規格では6N/cm以上である。実測値と規格にあてはまる結果には○と表記した。
【0049】
(7)総合評価
上記(4)〜(6)の測定、評価結果を総合してカードの実用性を、下記の基準に従い3段階評価した。
○: 優れている
△: 実用範囲にある
×: 実用性が低い
【0050】
実験例1
[コア層とすべきシートの製膜]
L−乳酸のラクチド(D−乳酸含有率1%以下)を開環重合して得られた重量平均分子量20万のポリ乳酸(商品名:ラクティ1000、(株)島津製作所製)にルチル型二酸化チタン(商品名:TR−700、富士チタン工業(株)製)を15重量部混合して、シリンダー温度210℃、ダイス温度200℃で同方向二軸押出機にて溶融混練しながらストランド形状に押し出し、回転刃にてチップ状にカットした。このチップを十分に乾燥して水分を除去した後、シリンダー温度210℃、ダイス温度200℃でTダイ押出機を用いて、表面温度58℃の冷却ロール上に押し出し、厚さ560μmのシートを得た。
【0051】
[オーバー層とすべきシートの製膜]
二酸化チタンを混合を行わない外は、上記コア層とすべきシート同様にして、ポリ乳酸からなる厚さ100μmの透明シートを得た。
【0052】
[カードの成形]
上記のコア層とすべきシートの表面に、シルク印刷機を用いて画像を印刷した後、上記のオーバー層とすべきシート2枚に挟み、プレス温度180℃、圧力10kg/cm2で、昇温後10分間熱プレスして、オーバー層/コア層/オーバー層からなる3層構成のカードを得た。オーバー層およびコア層のポリ乳酸は、この熱プレス工程で結晶化が進行し、実質的に耐熱性が向上した生分解性カードとなる。得られたカードについては、評価結果も併せて、表1に示した。
【0053】
実験例2
[コア層とすべきシートの製膜]
L−乳酸のラクチド(D−乳酸含有率1%以下)を開環重合して得られた重量平均分子量20万のポリ乳酸(商品名:ラクティ1000、(株)島津製作所製)に、ポリブチレンサクシネート/アジペート共重合体(商品名:ビオノーレ#3001、昭和高分子(株)製)を、重量割合で85:15になるように配合し、さらにこの配合された生分解性樹脂100重量部に対してルチル型二酸化チタン(商品名:TR−700、富士チタン工業(株)製)を15重量部混合して、シリンダー温度210℃、ダイス温度200℃で同方向二軸押出機にて溶融混練しながらストランド形状に押し出し、回転刃にてチップ状にカットした。このチップを十分に乾燥して水分を除去した後、シリンダー温度210℃、ダイス温度200℃でTダイ押出機を用いて、表面温度58℃の冷却ロール上に押し出し、厚さ560μmのシートを得た。
【0054】
[オーバー層とすべきシートの製膜]
ポリ乳酸(ラクティ1000)に対するポリブチレンサクシネート/アジペート共重合体(ビオノーレ#3001)の重量割合が、90:10になるように配合した外は、上記コア層とすべきシートと同様にして、厚さ100μmの透明シートを得た。
【0055】
[カードの成形]
上記の両シートを使用した以外は、実験例1と同様にして、生分解性カードを得た。得られたカードについての評価結果も、併せて表1に示した。
【0056】
実験例3、4
ラクティ1000に対するビオノーレ#3001の重量割合が、コア層とすべきシートでは、それぞれ70:30および30:70になるよう、オーバー層とすべきシートでは、それぞれ80:20および70:30になるように、配合した以外は、実験例2と同様にして、生分解性カードを得た。得られたカードについての評価結果も、併せて表1に示した。
【0057】
実験例5、6
実験例3のビオノーレ#3001の代わりに、2種のポリヒドロキシブチレート/バリレート共重合体(商品名:バイオポールD300G、バイオポールD600G、共にモンサント(株)製)をそれぞれ使用した以外は、実験例3と全く同様にして生分解性カードを得た。得られたカードについての評価結果も、併せて表1に示した。
【0058】
実験例7、8
実験例3のラクティ1000の代わりに、D−乳酸成分が約5%含まれたポリ乳酸(商品名:EcoPLA2000D、(株)カーギルジャパン販売)、およびD−乳酸成分が10%程度含まれ熱処理しても結晶化することのないポリ乳酸をそれぞれ使用し、また、貼り合せる時の熱プレス温度をそれぞれ160℃および110℃に設定した以外は、実験例3と全く同様にして生分解性カードを得た。得られたカードについての評価結果も、併せて表1に示した。
【0059】
実験例9
[コア層とすべきシートの製膜]
実験例3と同様にしてコア層とすべきシートを得た。
【0060】
[オーバー層とすべきシートの製膜]
実験例1のオーバー層とすべきシートの製膜方法に従い、ポリ乳酸からなる厚さ約700μmの透明シートを得た。次いで、このシートを金属ロールで予熱した後、赤外線ヒーターで加熱しつつ周速差のあるロール間で、縦方向に2.5倍延伸した。続いて、テンターで3.0倍に横延伸し、引き続きテンター内で熱処理し、厚さ100μmの延伸・熱固定シートを得た。延伸および熱処理の際の条件は、次の通りであった。
【0061】
縦延伸:
延伸温度 75℃
延伸倍率 2.5倍
横延伸:
延伸温度 72℃
延伸倍率 3.0倍
熱処理:
熱処理温度 130℃
熱処理時間 20秒
【0062】
[カードの成形]
上記のコア層とすべきシートの表面に、シルク印刷機を用いて画像を印刷した後、さらに両面に共重合ポリエステル系ホットメルト型接着剤バイロン300(東洋紡績(株)製)100重量部にポリイソシアネート化合物デスモデュールL−75(バイエル社製)8重量部混合したトルエン/MEK溶液を塗布し、室温で十分に乾燥して溶剤を揮発させ、接着剤が約3μm厚になるよう調整する。上記のオーバー層とすべき延伸・熱固定シート2枚に挟み、プレス温度110℃、圧力5kg/cm2で、昇温後5分間熱プレスして、オーバー層/コア層/オーバー層からなる3層構成の生分解性カードを得た。コア層のポリ乳酸は、この熱プレス工程で結晶化が進行し、実質的に耐熱性が向上したカードとなる。得られたカードについては、評価結果も併せて、表1に示した。
【0063】
実験例10
オーバー層とすべきポリ乳酸延伸・熱固定シート作製時の熱処理温度を100℃とした以外は、実験例9と全く同様にしてカードを製造した。得られたカードは反りが激しく、カードとしては不適である。
【0064】
実験例11
ただし、オーバー層とすべきポリ乳酸延伸・熱固定シート作製時の延伸倍率を縦横共に1.5倍とした以外は、実験例9と同様にして生分解性カードを得た。
得られたカードについての評価結果も、併せて表1に示した。
【0065】
実験例12
[コア層とすべきシートの製膜]
実験例9においてラクティ1000の代わりにEcoPLA2000Dを用いて以外は同様にしてコア層とすべきシートを得た。
【0066】
[オーバー層とすべきシートの製膜]
実験例9においてラクティ1000の代わりにEcoPLA2000Dを用い、以下の条件で延伸・熱処理してオーバー層とすべきシートを得た。
【0067】
縦延伸:
延伸温度 75℃
延伸倍率 3.0倍
横延伸:
延伸温度 75℃
延伸倍率 3.5倍
熱処理:
熱処理温度 135℃
熱処理時間 20秒
【0068】
[カードの成形]
実験例9と同様にして生分解性カードを得た。得られたカードについての評価結果も、併せて表1に示した。
【0069】
実験例13
熱プレスして貼り合わせる際に、実験例9の接着剤塗布を行わず、温度155℃、圧力15kg/cm2に変更した以外は、実験例12と同様にして、生分解性カードを得た。得られたカードについての評価結果も、併せて表1に示した。
【0070】
実験例14
熱プレスして貼り合わせる際に、ポリエステル系ホットメルト型接着剤バイロン300(東洋紡績(株)製)を使用し、温度90℃、圧力5kg/cm2に変更した以外は、実験例3と同様にして、生分解性カードを得た。得られたカードについての評価結果も、併せて表1に示した。
【0071】
【表1】
Figure 0004727133
【0072】
【表2】
Figure 0004727133
【0073】
上記の表に示すように、実験例1は、樹脂成分ポリ乳酸のみでの結果であり、断裁性、エンボス文字刻印さらに衝撃強さに問題があることがわかる。
【0074】
実験例2〜8および14は、ポリ乳酸に他の脂肪族ポリエステルを混合してコア層、オーバー層を構成し、カードを作製した例である。この内、脂肪族ポリエステルの含有量が本発明の範囲外である実験例4では引張強さ、耐熱性の点で難があり、一方、脂肪族ポリエステルのガラス転移温度(Tg)が本発明の範囲外である実験例5では断裁性、衝撃強さの点で難がある。さらに、本質的に結晶化し得ないポリ乳酸を使用した実験例8、および、本来結晶化し得るポリ乳酸は使用したが、十分結晶化していない実験例14では、引張強さは低く、さらに耐熱性が低くて実用的でない。実験例14では、粘着性にも難がある。
【0075】
実験例9〜13は、オーバー層にポリ乳酸の延伸シートを使用した例である。これら結晶性ポリ乳酸延伸・熱固定シートをオーバー層に用いることによる特徴は、カードとしての柔軟温度を高くし、かつ引張強さを向上することができる点にある。この内、熱処理温度が低く結晶化度が本発明の範囲外である実験例10では、カードにしたときの反りが大きく実質使用に適さない。また、実験例11では、請求項1の範囲内にあり一応実用可能だが、面配向度が低く(請求項3未達)、断裁性、エンボス文字刻印さらに衝撃強さの点で、若干性能が劣る。一方で、接着剤を使用せずに貼り合わせを行った実験例13では、本発明の範囲内であれば、十分な熱処理を行い、さらに使用したポリ乳酸の融解温度近傍(若干超えている)で熱プレスすることで反りが抑えられ、かつ熱融着させることができることを表している。
【0076】
実験例15〜22
[オーバー層とすべきシートの製膜]
L−乳酸のラクチド(D−乳酸含有率約0.8%)を開環重合して得られた重量平均分子量20万のポリ乳酸に、ポリブチレンサクシネート/アジペート共重合体(商品名:ビオノーレ#3001、昭和高分子(株)製)を30重量%になるように配合し、ダイス温度200℃で同方向二軸押出機にて溶融混練しながらストランド形状に押し出し、回転刃にてチップ状にカットした。このチップを十分に乾燥して水分を除去した後、シリンダー温度210℃、ダイス温度200℃でTダイ押出機を用いて、表面温度58℃の冷却ロール上に押し出し、厚さ100μmのシートを得た。このオーバー層用シートは、記号OAで表記する。
【0077】
また同様の方法で、D−乳酸含有率が、それぞれ、約5.5%および約10%のポリ乳酸(重量平均分子量は、それぞれ、おおよそ18万および15万)に、ポリブチレンサクシネート/アジペート共重合体(商品名:ビオノーレ#3001、昭和高分子(株)製)を、それぞれ、表2に示す割合になるように配合し、上記と同様の方法で厚さ100μmのシートを得た。これらのオーバー層用シートは、それぞれ、表2に示す記号で表記する。ただし、シートOC*だけは、生分解性脂肪族ポリエステルを配合していない。
【0078】
[コア層とすべきシートの製膜]
L−乳酸のラクチド(D−乳酸含有率0.8%)を開環重合して得られた重量平均分子量20万のポリ乳酸(商品名:ラクティ1000、(株)島津製作所製)にポリブチレンサクシネート/アジペート共重合体(商品名:ビオノーレ#3001、昭和高分子(株)製)を30重量%になるように配合し、さらにこの配合された生分解性樹脂100重量部に対してルチル型二酸化チタン(商品名:TR−700、富士チタン工業(株)製)を12重量部混合してシリンダー温度210℃、ダイス温度200℃で同方向二軸押出機にて溶融混練しながらストランド形状に押し出し、回転刃にてチップ状にカットした。このチップを十分に乾燥して水分を除去した後、シリンダー温度210℃、ダイス温度200℃でTダイ押出機を用いて、表面温度58℃の冷却ロール上に押し出し、厚さ280μmおよび560μmのシートを得た。これら両コア層用シートは、記号CA▲1▼とCA▲2▼で表記した。
【0079】
また同様の方法で、D−乳酸含有率が、それぞれ、約2.5%および約5.5%のポリ乳酸(重量平均分子量は、それぞれ、おおよそ20万および18万)に、ポリブチレンサクシネート/アジペート共重合体(商品名:ビオノーレ#3001、昭和高分子(株)製)またはポリヒドロキシブチレート/バリレート共重合体(商品名:バイオポールD600G、モンサント(株)製)を、それぞれ、表2に示す割合になるように配合し、上記と同様の方法で厚さ280μmのシートを得た。これらのコア層用シートは、それぞれ、表2に示す記号で表記する。ただし、シートCC*だけは、生分解性脂肪族ポリエステルを配合していない。
【0080】
【表3】
Figure 0004727133
【0081】
表中、特に単位の記載の無い数値の単位は重量%である。
[カードの成形]
上記のコア層の内、560μm厚のシートには両面に、280μm厚のシートには片面に、シルク印刷機を用いて画像を印刷した後、560μm厚のシート1枚に、また280μm厚のシートでは非印刷面同士を向かい合わせて重ね、それぞれ、上記の表3に示すオーバー層2枚に挟み、圧力10kg/cm2 で表3に示す積層温度に昇温し、昇温後10分間熱プレスして、オーバー層/コア層/オーバー層またはオーバー層/コア層/コア層/オーバー層からなる3層もしくは4層構成の生分解性カードを得た。得られた各カードの積層構造および評価結果を、表3に示した。
【0082】
【表4】
Figure 0004727133
【0083】
表3の結果から、実験例15〜19では、衝撃強さ、耐熱性、粘着性に優れ、またオーバー層とコア層の層間はくり強度、さらにはコア層を2枚で構成したときのコア層間でのはくり強度について規格を上回っていることがわかる。一方、実験例20では、特にコア層間のはくり強度が低く、実用性が低い。これは、伝熱しにくい厚いコア層間であること、もともと結晶性が高いために、十分な接着が得られないうちに結晶化してしまったことによるものである。実験例21では、脂肪族ポリエステルを含まないために、耐衝撃性が低いためであり、実験例22では、本発明の範囲外であるD−乳酸の割合をもつポリ乳酸を含むオーバー層であるために、耐熱性、粘着性の点で問題のあるものとなった。
【0084】
【発明の効果】
本発明によれば、カードにしたときの断裁性、エンボス文字刻印、引張強さ、衝撃強さ、耐熱性等に優れた生分解性カードを提供することができる。

Claims (2)

  1. L−乳酸とD−乳酸との割合が98:2〜94:6又は6:94〜2:98であるポリ乳酸40〜90重量%及びガラス転移温度(Tg)が0℃以下である生分解性脂肪族ポリエステル60〜10重量%を含有する2枚のコア層用シートと、ポリ乳酸60〜100重量%およびガラス転移温度(Tg)が0℃以下である生分解性脂肪族ポリエステル40〜0重量%を含有し、かつ、無延伸であるオーバー層用シートとを、熱プレス又は熱融着させることにより、上記2枚のコア層用シート同士を貼り合わせて熱融着させ、かつ、上記コア層用シートの両表面に上記オーバー層用シートを貼り合わせて熱融着させると共に、シートの融着と同時に上記コア層用シート及び上記オーバー層用シートのポリ乳酸部分の結晶化を進行させ、上記のコア層用シート及びオーバー層用シートを貼り合わせ形成される積層体のコア層及びオーバー層のポリ乳酸部分の結晶化度を、それぞれ、0.8以上及び0.9以上とする生分解性カードの製造方法。
  2. 記オーバー層用シートに含有されるポリ乳酸中のL−乳酸とD−乳酸との割合は、98:2〜94:6又は6:94〜2:98である請求項1記載の生分解性カードの製造方法。
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