安定化ジルコニアに代表される酸素イオン伝導性固体電解質(以下、これを単に「固体電解質」という。)の両面に電極を焼き付け、電極間に電圧を印加すると、酸素を一方の電極(陰極)側から他方の電極(陽極)側へ排出する酸素ポンプ作用を示す。
また、固体電解質の両面に電極を焼き付けたもの(以下、これを「セル」という。)をNOx、SOx、H2O、CO2等の酸素結合ガスを含む雰囲気中に曝し、電極間に電圧を印加すると、陰極において酸素結合ガスが分解し、生成した酸素が固体電解質の酸素ポンプ作用により陽極側に排出される。また、この時、分解した酸素結合ガスの濃度に比例した電流が陽極から陰極へ流れる。
この酸素ポンプ作用の始まる電圧は、個々の酸素結合ガスによって異なる。また、同じ酸素結合ガスでも、ガス分解に伴って酸素ポンプ作用の始まる電圧は、電解質に設ける電極(特に、陰極)の材料によっても変わる。さらに、酸素結合ガスは、低酸素分圧の雰囲気で加熱されると、一般に、酸素と、酸素と結合していた他の成分に分解する。その分解速度がある一定の大きさになる酸素分圧は、個々の酸素結合ガスによって異なる。
このようなセルの酸素ポンプ作用とガス拡散律速体、及び、電圧印加条件、電極材料、あるいは酸素分圧条件によって変わる酸素結合ガスの分解の違いを利用すると、被測定ガス中に含まれる特定の酸素結合ガスの濃度を検出するガス検出装置を構成することができる。特に、被測定ガス中に含まれるNOxガスの濃度を検出するためのNOxガス検出装置は、自動車、ボイラーなどの燃焼装置、機関等から排出される排ガス中のNOxガスの量を監視するセンサとして実用化されている。
NOxガス検出装置は、排ガス中の主成分である酸素の影響を受けることなく、排ガス中に微量に含まれるNOxガスを検出する必要があることから、ガス拡散律速体と、酸素ポンプセルと、NOx検知セルとを備えている。ガス拡散律速体は、酸素ポンプセル、NOx検知セルに流入するガス拡散を制限するために、酸素ポンプセルの前方に小さなピンホール又は多孔体を設置して構成される。そして、酸素ポンプセルは、固体電解質の酸素ポンプ作用を利用して、被測定ガスから酸素のみを選択的に取り除くためのセルである。従って、酸素ポンプセルの陰極には、酸素ガスには活性が高く、かつ、NOxガスには不活性又は活性が低い電極が用いられる。このような電極としては、例えば、Pt−Au合金とセラミック成分からなるサーメット電極(以下、これを「Pt−Au電極」という。)が知られている。
また、NOx検知セルは、酸素が取り除かれた被測定ガス中に含まれるNOxを分解させ、その際に電極間を流れる電流値を計測するためのセルである。従って、NOx検知セルの陰極には、NOxガスに対して活性が高い電極が用いられる。このような電極としては、例えば、Ptとセラミック成分からなるサーメット電極(以下、これを「Pt電極」という。)、Pt−Rh合金とセラミック成分からなるサーメット電極(以下、これを「Pt−Rh電極」という。)等が知られている(例えば、特開平11−183434号公報参照。)
さらに、NOxガスは、未燃燃料などの還元成分が共存する低酸素雰囲気下において加熱されると分解しやすいので、NOxガス検出装置を用いて排ガス中のNOx濃度を正確に知るためには、被測定ガスから酸素を取り除いた後、他の成分の影響を受ける前に、迅速にNOx濃度を測定する必要がある。そのため、NOxガス検出装置において、NOx検知セルは、通常、酸素ポンプセルの後段に隣接して配置される。
このような構造を備えたNOxガス検出装置は、一般に、固体電解質を含むグリーンシートの表面に電極材料を含むペーストを印刷し、これを積層・一体化し、大気中において高温(例えば、ジルコニア系の固体電解質の場合には、1400℃以上。)で焼成することにより製作されている。
Ptは、酸素ガスとNOxガスの双方に対して活性であるが、PtにAuを添加すると、酸素に対してのみ活性となるので、Pt−Au合金は、酸素ポンプセルの電極材料として特に好適である。一方、Pt−Au合金中のAuは、耐熱温度が低い(融点1064℃)ので、Pt−Au合金を高温で加熱すると、合金中に含まれるAuが周辺に飛散するという性質がある。
そのため、酸素ポンプセルの陰極としてPt−Au電極を用い、NOx検知セルの陰極としてPt電極を用いた場合において、酸素ポンプセルとなるグリーンシートと、NOx検知セルとなるグリーンシートとを積層し、これを高温で焼成すると、酸素ポンプセルの陰極から飛散したAuがNOx検知セルのPt電極に付着し、Pt電極のNOxに対する還元性を低下させるという問題がある。
また、自動車、ボイラー等の燃焼機関に使用される燃料には、種々の不純物が含まれており、また、燃焼機関から排気される排ガス中には、エンジンオイル中の添加剤に由来する成分が存在する。これらの成分もまた、NOx検知セルに用いられるPt電極に微量付着しただけで、電極の活性を大幅に低下させるという問題がある。
一方、NOx検知セルの電極として、Ptに対してRhを多量(40wt%程度)に添加したPt−Rh電極を用いると、RhはNOxに対して高い還元性を有するので、上述したAuや排ガス中の不純物の付着に起因するNOxガスの還元性の低下を改善することができる。
しかしながら、Rhは、酸素との結合が非常に強いために、Pt−Rh電極を酸化雰囲気に放置すると、Rh表面に酸素が吸着して酸化膜が形成され、NOxに対する還元性が低下するという問題がある。一方、NOxに対する還元性を向上させるためには、Rh表面に生成した酸化膜を取り除き、Rhを金属状態で使用する必要があるが、その還元処理には長時間を要するという問題がある。
また、還元処理を行っても放置すれば再び酸素を吸着するので、NOx検知セルに電圧を印加すると、始動直後にPt−Rh電極内に吸着していた酸素ガスが少しずつ排出される。そのため、NOx検知セルの出力は、NOxガスがないにもかかわらずNOxガスがあるように出力し、再現性のあるデータが得られないという問題がある。そのため、低濃度のNOxガスの検出は困難である。
さらに、Rhへの酸素ガスの吸着量が、雰囲気の酸素濃度、放置時間によって大きく変わり、酸素ガスの脱吸着速度も緩慢である。そのため、酸素ポンプセルを用いてNOx検知セルに供給される被測定ガス中の酸素濃度を一定に制御しても、自動車のように運転状態に応じて雰囲気中の酸素濃度が変動する条件下では、Pt−Rh電極の状態を常に一定の状態に維持するのは困難である。そのため、燃焼状態が急変し、NOx発生量が急変する状況を忠実にモニターするのは困難である。
また、本NOx検知装置では、酸素ポンプセルの前方にガス拡散律速体を設置しているので、NOx検知セルに被測定ガスを供給し、電極間に印加する電圧を増加させると、やがて印加電圧によらず出力電流がほぼ一定となる限界電流特性を示す。出力電流が一定となる最小電圧(以下、これを「限界電流発生電圧」という。)は、酸素結合ガスの種類によって異なる。例えば、排ガス中には、NOxの他にH2O及びCO2も含まれているが、H2O及びCO2はNOxに比して分解しにくく、その限界電流発生電圧は、NOxより高い。
一方、酸素結合ガスの限界電流発生電圧は、電極の組成によっても変わる。そのため、NOx検知セルを用いて排ガス中のNOx濃度を検出する場合において、検知セルの陰極としてNOxガスに対する限界電流発生電圧が高いものを用いると、NOxと同時にH2O及びCO2も分解して酸素を放出し、低濃度のNOxを高精度に検出するのが困難になる。
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。図1に、本発明の第1の実施の形態に係るNOxガス検出装置(以下、これを「検出装置」という。)の断面図を示す。図1において、検出装置10は、固体電解質12a〜12hと、固体電解質12d−12e間、12d−12f間、及び12c−12g間に設けられた絶縁層14a、14b、14cと、最下層に設けられた絶縁層40aの積層体からなっている。
検出装置10の内部には、ガス導入チャンバ16と、ガス排出チャンバ18が設けられている。ガス導入チャンバ16は、被測定ガスを拡散によりその内部に導入するためのガス導入部16aを備えた閉塞孔であり、その内壁は、固体電解質12b、12c、12f、及び12dによって構成されている。また、ガス排出チャンバ18は、固体電解質12d、12fを通ってその内部に排出された酸素ガスを排出するためのガス排出部18aを備えた閉塞孔であり、その内壁は、固体電解質12d、12e、12f、12g、12hによって構成されている。
また、検出装置10は、酸素ガス供給セル20と、酸素ポンプセル24と、酸素基準極発生セル28と、酸素モニターセル32と、NOx検知セル36と、ヒータ部40とを備えている。
酸素ガス供給セル20は、固体電解質12aと、その両面に設けられた陽極22a及び陰極22bとを備え、陽極22a及び陰極22bには、所定の電圧を印加するための電源(図示せず)が接続されている。酸素ガス供給セル20は、ガス導入チャンバー16内に導入された被測定ガスに酸素を供給するためのセルであり、ガス導入部16a近傍に設けられている。また、陽極22a及び陰極22bは、それぞれ、ガス導入チャンバ16の内壁側及び検出装置10の外壁側に設けられている。
酸素ポンプセル24は、固体電解質12dと、その両面に設けられた陽極26a及び陰極26bとを備え、陽極26a及び陰極26bには、所定の電圧を印加するための電源(図示せず)が接続されている。酸素ポンプセル24は、ガス導入チャンバー16内に導入された被測定ガスに含まれる酸素のみを選択的にガス排出チャンバー18側へ排出するためのセルであり、酸素ガス供給セル20の後段に設けられている。また、陽極26a及び陰極26bは、それぞれ、ガス排出チャンバ18の内壁側及びガス導入チャンバ16の内壁側に設けられている。
酸素基準極発生セル28は、固体電解質12bと、その両面に設けられた陽極30a及び陰極30bとを備え、陽極30a及び陰極30bには、所定の電圧を印加するための電源(図示せず)が接続されている。酸素基準極発生セル28は、酸素ポンプセル24により酸素が取り除かれた被測定ガス中に残留する酸素量を計測する際に必要となる基準極を形成するためのセルであり、酸素ポンプセル24の後段に設けられている。また、陽極30aは、固体電解質12a及び12bの接合面に設けられ、陰極30bは、ガス導入チャンバ16の内壁側に設けられている。さらに、固体電解質12bには、酸素基準極発生セル28に隣接して酸素排出口28aが設けられ、陽極30a側に集められた酸素ガスをガス導入チャンバ16内に還流させるようになっている。
酸素モニターセル32は、固体電解質12bと、ガス導入チャンバ16の内壁側に設けられた電極34aと、陽極30aとを備え、酸素基準極発生セル28とは、陽極30aを共有する構造になっている。また、電極34a及び陽極30aには、両電極間に発生する電位差を測定するための電圧計(図示せず)が接続されている。酸素モニターセル32は、酸素基準極発生セル28の陽極30aを基準極として、被測定ガス中に残留する酸素量を計測するためのセルであり、酸素基準極発生セル28に隣接して設けられている。
NOx検知セル36は、固体電解質12fと、その両面に設けられた陽極38a及び陰極38bとを備え、陽極38a及び陰極38bには、所定の電圧を印加するための電源(図示せず)と、両電極間を流れる電流を計測するための電流計(図示せず)が接続されている。NOx検知セル36は、被測定ガスに含まれるNOxガスを分解させ、その際に発生する酸素量を計測するためのセルであり、酸素ポンプセル24の後段に隣接して設けられている。また、陽極38aは、ガス排出チャンバ18の内壁側に設けられ、陰極38bは、ガス導入チャンバ16の内壁側に設けられている。
ヒータ部40は、絶縁層40a内部に、金属とセラミック成分からなるヒータ40bを形成したものからなる。ヒータ部40は、固体電解質12a、12b、12d及び12fが酸素ポンプ作用を示す温度まで加熱したり、あるいは、検出装置10を所定の温度に保持するために用いられるものであり、図1に示す例においては、検出装置10の下端に設けられている。
ここで、固体電解質12a〜12hの材質は、酸素イオン伝導性を示すものであればよく、特に限定されるものではないる。具体的には、ジルコニウム系固体電解質(ZrO2−M2O3固溶体又はZrO2−MO固溶体。但し、M=Y、Yb、Gd、Mgなど。)、セリア系固体電解質(CeO2−M2O3固溶体又はCeO2−MO固溶体。但し、M=Y、Smなど。)、酸化ビスマス系固体電解質(Bi2O3−WO3固溶体など。)などが好適な一例として挙げられる。
特に、ジルコニア系固体電解質は、排気ガス中での安定性の観点から、固体電解質12a〜12hの材質として好適である。また、5〜8mol%のY2O3を添加したZrO2は、優れた熱衝撃抵抗と高い酸素イオン導電率とを備えているので、固体電解質12a〜12hの材質として特に好適である。
また、絶縁層14a、14b、14cは、酸素ポンプセル24とNOx検知セル36とを電気的に分離するためのものである。従って、絶縁層14a、14b、14cには、固体電解質12a〜12hが酸素ポンプ作用を示す温度において、高い絶縁抵抗を有する材料が用いられる。具体的には、アルミナ、スピネル、ムライト、コーディエライト等が好適な一例として挙げられる。
さらに、NOx検知セル36に用いられる電極の内、少なくとも陰極38bには、Pt−Pd合金又はPt−Au−Pd合金とセラミック成分とを含むサーメット電極(以下、これらをそれぞれ「Pt−Pd電極」又は「Pt−Au−Pd電極」という。)が用いられる。
陰極38bの一部を構成するPt−Pd合金又はPt−Au−Pd合金は、PtへのPd添加量(=100xPd/(Pt+Pd))が1wt%以上であることが好ましい。PtへのPd添加量が1wt%未満になると、陰極38bのNOxに対する活性が低下するので好ましくない。また、従来用いられているPt電極又はPt−Rh電極と同等以上の高い活性を有する陰極38bを得るには、PtへのPd添加量は90wt%以下が好ましい。Pd添加量は、さらに好ましくは、5〜40wt%である。
また、陰極38bを構成する合金としてPt−Au−Pd合金を用いる場合において、Auに対するPdの重量比(以下、これを「Pd/Au比」という。)を1.67以上とすると、Pdを含まないPt−Au電極に比べてNOxガスに対する活性を向上させることができる。また、Pd/Au比を6.67以上とすると、NOxガスに対する活性がPt電極又はPt−Rh電極とほぼ同等である電極が得られる。さらに、Pt−Au−Pd合金中のPd添加量及びAu添加量を図10に示す斜線の領域内とすると、NOxガスに対する活性がPt電極又はPt−Rh電極と同等以上である電極を得ることができる。
また、陰極38bの他の一部を構成するセラミック成分は、陰極38bと固体電解質12fとの間の密着力を高めるために加えられるものである。従って、その組成及び添加量は、両者の間に良好な密着力が得られる限り、任意に選択することができる。但し、セラミック成分の添加量が多くなると、陰極38bの導電率を低下させるので好ましくない。通常、陰極38bには、固体電解質12fと同一組成を有するセラミック成分が10〜20wt%程度添加される。
なお、その他の電極の材質は、酸素ガス及び酸素結合ガスに対する活性の高いものであれば良く、特に限定されるものではない。但し、酸素ポンプセル24の陰極26bには、NOxガスの分解を抑制するために、酸素ガスに対して活性が高く、かつ、NOxガスに対して活性がない又は低い電極を用いる必要がある。具体的には、Pt−Au電極が好適な一例として挙げられる。酸素基準極発生セル28の陽極30a及び陰極30b並びに酸素モニターセル32の電極34aも同様の理由から、酸素ガスに対してのみ活性の高い電極を用いる必要がある。
また、ヒータ部40の絶縁層40aには、固体電解質12a〜12hが酸素ポンプ作用を示す温度において、高い絶縁抵抗を有する材料が用いられる。具体的には、アルミナ、スピネル、ムライト、コーディエライト等が好適な一例として挙げられる。また、ヒータ40bには、通常、耐酸化性に優れた金属粉末(例えば、Pt等)とセラミック成分とを含むものが用いられる。
次に、図1に示す検出装置10を用いて燃焼排ガス中に含まれるNOxガスを検出する一般的方法について説明する。まず、検出装置10全体を排ガス中に配置し、固体電解質12a〜12hが酸素ポンプ作用を示す温度(例えば、700℃)に維持されるように、ヒータ部40を用いて検出装置10を加熱する。この場合、被測定ガスは、拡散によってガス導入部16aからガス導入チャンバ16内に流入する。
この状態で、酸素ガス供給セル20の陽極22a及び陰極22b間に所定の電圧(例えば、0.3〜0.6V)を印加する。この時、排ガスがリーン雰囲気(酸素過剰雰囲気)である場合には、固体電解質12aの酸素ポンプ作用により、検出装置10外部の排ガス中に含まれる酸素がガス導入チャンバ16内に供給される。一方、リッチ雰囲気(燃料過剰雰囲気)である場合には、排ガス中には酸素ガスはほとんど含まれていないが、通常、5〜10%のH2Oガスが含まれているので、このH2Oガスが陰極22bにおいて分解し、分解により発生した酸素が、酸素ポンプ作用によりガス導入チャンバ16内に供給される。
NOxガスは、低酸素雰囲気下において高温で加熱されると、酸素ガスと窒素ガスに分解しやすいという性質がある。従って、被測定ガスに含まれる低濃度のNOxガスを高精度に検出するためには、被測定ガスがNOx検知セル36に到達するまで、NOxガスの分解を抑制する必要がある。本実施の形態に係る検出装置10は、酸素ガス供給セル20によってガス導入チャンバ16内に酸素を供給しているので、排ガス雰囲気がリーン雰囲気、リッチ雰囲気と変動しても、ガス導入チャンバ16内は常にリーン雰囲気となるように制御され、NOxガスの分解を抑制することができる。
次に、ガス導入部16aから流入した被測定ガスと酸素ガス供給セル20から供給された酸素ガスとの混合ガスは、拡散により酸素ポンプセル24に到達する。酸素ポンプセル24の陰極26bには、所定の電圧(例えば、0.5V)以下では酸素に対してのみ高い還元性を有し、NOxガスに対しては還元性のない電極が用いられているので、陽極26a及び陰極26b間に適当な大きさの電圧を印加すると、酸素ポンプ作用により、被測定ガスに含まれる酸素ガスのみが選択的にガス排出チャンバ18側へ排出される。
また、この時の酸素ガスの排出状態は、酸素基準極発生セル28及び酸素モニターセル32により監視される。すなわち、酸素基準極発生セル28の陽極30a及び陰極30b間に所定の電圧(例えば、1V)を印加すると、ガス導入チャンバ16内の被測定ガスに含まれる酸素ガスが、酸素ポンプ作用により、陽極30a側に集められる。陽極30aは、固体電解質12a及び12bの界面に作り込まれているので、陽極30a側は、ほぼ100%の酸素雰囲気とみなすことができる。従って、陽極30aを基準極として、陽極30aと酸素モニターセル32の電極34aとの間に発生する電位差を計測すれば、酸素ポンプセル24を通過した被測定ガスの酸素分圧を計測することができる。
実際のNOxガス濃度測定においては、酸素モニターセル32の起電力が一定の値(例えば、0.3V)となるように、酸素ポンプセル24の印加電圧を制御すると良い。これにより、酸素ガスが含まれていない被測定ガス、又は、酸素ガスが一定の濃度に制御された被測定ガスを、NOx検知セル36に供給することができる。
次に、酸素濃度が制御された被測定ガスは、拡散によりNOx検知セル36に到達する。ここで、NOx検知セル36の陽極38a及び陰極38bに所定の電圧(例えば、0.5V)を印加すると、まず、陰極38bにNOxガスが吸着し、NOxガスが陰極38bと固体電解質12fの界面で分解する。NOxガスの分解により生成した酸素は、固体電解質12fの酸素ポンプ作用により、ガス排出チャンバー18側へ排出される。その際に、陽極38a及び陰極38b間には、NOxガス濃度に比例した電流が流れるので、その大きさを図示しない電流計で計測すれば、NOxガス濃度を検出することができる。
なお、酸素ポンプセル24により被測定ガス中の酸素ガスが完全に取り除かれている場合には、NOx検知セル36を流れる電流の大きさから、NOxガス濃度を直接知ることができる。一方、酸素濃度が一定の値に制御された被測定ガスがNOx検知セル36に供給される場合には、酸素モニターセル32で検出される残留酸素濃度の値を用いてNOx検知セル36を流れる電流値を補正すれば、被測定ガス中のNOxガス濃度を高精度に検出することができる。
次に、本実施の形態に係る検出装置10の作用について説明する。酸素ポンプセル24の陰極26bには、一般に、酸素に対して活性で、かつ、NOxに対して不活性なPt−Au電極が用いられる。図2に、このPt−Au電極を陰極26bに用いた酸素ポンプセル24の酸素ガスに対する電流−電圧特性を示す。なお、図2においては、酸素ポンプセル24を800℃に加熱し、酸素濃度の異なる被測定ガスを供給した時の結果を併せて示した。図2より、Pt−Au電極は、酸素に対して、電圧に比例して出力電流が増加し飽和する限界電流特性を示し、しかも、比較的低い電圧で高い出力電流が得られることがわかる。この結果は、Pt−Au電極が酸素ガスに対して高活性であることを示している。
また、図3に、Pt−Au電極を陰極26bに用いた酸素ポンプセル24のNOガスに対する電流−電圧特性を示す。なお、図3においては、酸素ポンプセル24を800℃に加熱し、0.1%の酸素ガス及び種々の濃度のNOガスを含む被測定ガスを供給した時の結果を併せて示した。図3より、Pt−Au電極は、電圧が0.3Vを超えると、NOxガス濃度に対して出力電流が飽和する限界電流特性を示すが、電圧の増加に伴い出力電流が徐々に増加していることがわかる。この結果は、Pt−Au電極がNOxガスに対して低活性であることを示している。
一方、Pt電極又はPt−Rh電極は、Pt−Au電極と異なり、NOxガスに対して高活性であることが知られている。図4に、このPt電極又はPt−Rh電極を陰極38bに用いたNOx検知セル36のNOガスに対する電流−電圧特性を示す。なお、図4においては、NOx検知セル36を備えた検出装置10を800℃に加熱し、酸素ポンプセル24に0.3Vの電圧を印加しながら、検出装置10に1%の酸素ガス及び種々の濃度のNOガスを含む被測定ガスを供給した時の結果を併せて示した。図4より、Pt電極又はPt−Rh電極は、電圧が約0.3Vを超えると、NOxガスに対し、電圧に比例して出力電流が増加し飽和する限界電流特性を示し、しかも、比較的低い電圧で高い出力電流が得られることがわかる。
従って、Pt電極又はPt−Rh電極は、本来、図4に示すように、NOxに対して高い還元性を有しているが、これにAuが付着すると、NOxガスに対する還元性が大幅に低下し、図3のような特性を示すようになる。その結果、低濃度のNOxガスを高精度に検出することが困難となる。
これと同様の現象は、燃焼排ガス中の不純物成分がPt電極又はPt−Rh電極に付着した場合にも発生する。このような還元性の低下は、Auや排ガス中の不純物成分等がPt表面に付着することにより、Pt表面へのNOxガスの脱吸着能が小さくなり、これによってNOxガスの還元性が低下するためと考えられる。
これに対し、NOx検知セル36の陰極38bとして、Pt−Pd電極又はPt−Au−Pd電極を用いると、Auや排ガス中の不純物等の付着に起因するNOxガスの還元性の低下を大幅に抑制することができる。また、合金組成によっては、Pt電極よりもNOxに対する還元性の高い電極を得ることもできる。これは、Ptに対してPtよりもNOxの吸着力の強いPdを添加することによって、NOxガスが吸着し易くなるためと考えられる。
さらに、Pt−Pd合金又はPt−Au−Pd合金は、Pt−Rh合金に比べて酸化しにくく、酸素ガスの脱吸着も迅速に行われる。また、これによって、始動直後に電極内部から酸素ガスが少しずつ排出されることもない。そのため、Pt−Pd電極又はPt−Au−Pd電極をNOx検知セル36の陰極38bとして用いた検出装置10は、始動特性に優れ、かつ、低濃度のNOxガスを高精度で検出することができる。また、燃焼状態が急変し、NOx濃度が急変する状況であっても、忠実にモニタすることができる。
次に、本発明の第2の実施の形態に係る検出装置について説明する。本実施の形態に係る検出装置は、NOx検知セルの陰極として、Pt−Pd−Rh合金とセラミック成分からなるサーメット電極(以下、これを「Pt−Pd−Rh電極」という。)を用いたことを特徴とするものである。
ここで、陰極の一部を構成するPt−Pd−Rh合金は、PtへのPd添加量(=100xPd/(Pt+Pd))が1wt%以上であることが好ましい。PtへのPd添加量が1wt%未満になると、陰極のNOxに対する活性が低下するので好ましくない。また、従来用いられているPt電極又はPt−Rh電極と同等以上の高い活性を有する陰極を得るには、PtへのPd添加量は90wt%以下が好ましい。Pd添加量は、さらに好ましくは、5〜40wt%である。
また、Pt−Pd−Rh合金は、Rh添加量(=100xRh/(Pt+Pd+Rh))が30wt%以下であることが好ましい。Rh添加量が30wt%を超えると、電極抵抗が増大し、セル抵抗が高くなることから、限界電流発生電圧が高くなるので好ましくない。また、電極への吸着酸素ガス量が増大し、NOx検知セルの始動特性も低下するので好ましくない。
また、Pt−Pd−Rh電極は、固体電解質に焼き付けた状態のまま使用しても良いが、固体電解質に焼き付けた後、電極間に所定の電圧を印加しながら、大気中で所定の温度に所定時間加熱する熱処理を行うと良い。このような熱処理は、Pt−Pd−Rh電極のNOxガスに対する限界電流発生電圧を低下させる効果がある。なお、最適な熱処理条件は、電極組成によっても異なるが、例えば、熱処理温度900℃、印加電圧1V、加熱時間10分程度の熱処理で十分な効果が得られる。
なお、陰極の他の一部を構成するセラミック成分は、陰極と固体電解質との間の密着力を高めるために加えられるものであり、その組成及び添加量は、両者の間に良好な密着力が得られる限り、任意に選択することができる点、及び、通常は、陰極が焼き付けられる固体電解質と同一成分を有するセラミックス成分が、10〜20wt%程度添加される点は、第1の実施の形態に係る検出装置10と同様である。また、NOx検知セルの陰極以外の構成については、第1の実施の形態に係る検出装置10と同一であるので説明を省略する。
次に、本実施の形態に係る検出装置の作用について説明する。酸素結合ガスの吸着、解離、及び酸素のイオン化能力は、電極材料によって異なる。すなわち、Ptは、NOxの吸着は弱いが、NOxからの酸素の解離、及び酸素のイオン化能力は大きい金属である。Pdは、NOxの吸着脱離は速いが、NOxからの酸素の解離は遅く、また、酸素のイオン化能力は小さい金属である。一方、Rhは、貴金属の中でも最も強くNOxを吸着し、しかも、多量に吸着するために脱離が遅く、NOxからの酸素の解離、酸素のイオン化能力は小さい金属である。
従って、Pt単体電極では、NOxの吸着力が弱いので付着物の影響を大きく受けるが、Ptに対してNOxの吸着力が強いPdを添加すると、付着物の影響は小さくなる。また、吸着したNOxは、混合されているPtにより、酸素と窒素に解離し、解離した酸素はイオン化される。そのため、Pt−Pd電極は、Pt電極よりも、NOx還元性が高くなる。
しかしながら、酸素結合ガスの限界電流発生電圧は、電極の組成や酸素結合ガスの種類によって異なっている。例えば、上述したPt−Pd電極の場合、NOxガスの限界電流発生電圧は、相対的に高く、約0.3Vである。また、排ガス中には、NOx以外にH2O、CO2等の酸素結合ガスを多量に含むが、H2OやCO2の限界電流発生電圧は、一般に、NOxの限界電流発生電圧より高い。そのため、排ガス中に含まれる低濃度のNOxガスを検出する場合において、電極のNOxガスに対する限界電流発生電圧が高いと、NOxと同時にH2O、CO2等も同時に分解して酸素を放出し、無視できない測定誤差となる。
これに対し、Rhは、Pdより強く大量にNOxガスを吸着するので、Pt−Pd電極に対して少量のRhを添加するだけでも、NOx還元活性は十分に高まる。その結果、Pt−Pd−Rh電極のNOxガスに対する限界電流発生電圧は、Pt−Pd電極より低くなる。そのため、H2O、CO2の分解による出力電流への影響が小さくなり、低濃度のNOxを高精度に測定できる。
特に、固体電解質の表面にPt−Pd−Rh電極を焼き付けた後、電圧を印加しながら大気中で加熱する熱処理を行うと、NOxガスに対する限界電流発生電圧が、さらに低電圧側にシフトする。これは、電圧を印加しながら大気中で加熱することによって、Pt−Pd−Rh電極の表面側に薄い酸化膜が形成され、この酸化膜が酸素の拡散を律速するためと考えられる。
(実施例1)
Ptに対して、Au及びAu以外の各種の貴金属粉末を添加した電極ペーストを試作し、Auが付着してもNOxガスに対する還元性が低下しない電極材料の探索を行った。
まず、以下の手順に従い、ZrO2グリーンシートを作製した。すなわち、8Y−ZrO2(東ソー製)粉末にバインダーとしてメトローズ(信越化学製)を4重量%添加し、撹拌混合した。次いで、グリセリン1.5重量%及び水21.5重量%を添加し、さらに混合した。得られたセラミックペーストの土練り工程を5〜6回繰り返した後、成形機にダイスを付けてセラミックペーストを押出成形し、厚さ1.0mmのZrO2グリーンシートを得た。
次に、ZrO2グリーンシートの上面(測定極)及び下面(基準極)に、所定の組成を有する電極ペーストをスクリーン印刷法にて印刷した。これを、大気中、1430℃x1時間の条件で焼成して、図5に示すような形状を有する電極検討用セルを作製した。なお、電極面積は、3x4mmとした。また、測定極及び基準極に用いた電極ペーストの組成を表1に示す。
得られた電極検討用セルに対し、ガス組成:0.15%NO/N2、ガス温:700℃、ガス流量:2L/mimである被測定ガスを供給し、その電流−電圧特性を調べた。結果を図6に示す。なお、図6の第1象限には、測定極のNOxガスに対する特性が表れ、第3象限には、基準極のNOxガスに対する特性が表れている。
図6の第1象限の電流−電圧特性から、試料No.1(Pt−10wt%ZrO2組成の電極ペースト)は、電圧に比例して電流が流れており、ポンプ電流が大きいことがわかる。一方、試料No.2(Pt−3wt%Au−10wt%ZrO2組成の電極ペースト)は、電圧を1V近傍まで印加しないと電流は急増しないことがわかる。この結果は、Pt単独では、NOガスに対する還元性が高いが、PtにAuを添加すると、NOガスに対する還元性が大幅に低下することを表している。
試料No.2の電極ペーストに対して、さらにRuを添加した試料No.3、Irを添加した試料No.4及びRhを添加した試料No.6は、いずれも、試料No.2とほぼ同様の電流−電圧特性を示した。試料No.3及び試料No.4の電極が図6に示すような特性を示すのは、それぞれ、添加したIr及びRuが焼成にて飛散し、電極内に残留していないためと考えられる。また、Rhを添加した試料No.6は、原点を通らず、履歴を描いた。これは、Rhが添加されているために、ポンプ電流が流れにくく、電極に蓄積された酸素ガスが放出されていることを表している。
これに対し、試料No.2の電極ペーストに対して、さらにPdを添加した試料No.5は、試料No.1に近い電流−電圧特性を示した。この結果は、Pt−Au電極に対してさらにPdを添加すれば、Auを添加したことによって低下したNOガスの還元性が回復することを表している。
(実施例2)
Pt−Au電極に対してどの程度Pdを添加すれば、NOxガスの還元性が向上するのかを調べるために、Pt−3wt%Au−10wt%ZrO2組成を有する電極ペースト1gに対して、さらにPdを0〜0.5g添加したものを用いて、電極検討用セルを作製した。なお、電極検討用セルの作製手順は、実施例1と同一とした。また、使用した電極ペーストの組成を表2に示す。
得られた電極検討用セルについて、実施例1と同一条件下で、電流−電圧特性を調べた。結果を図7に示す。なお、図7の第1象限には、測定極のNOxガスに対する特性が表れ、第3象限には、基準極のNOxガスに対する特性が表れている。
図7の第1象限に示す電流−電圧特性からわかるように、Pt−3wt%Au−10wt%ZrO2組成を有する電極ペースト1gに対し、Pdを0.05g添加した試料No.13(Pd/Au比=1.67)は、Pdを含まない試料No.12(Pt−3wt%Au−10wt%ZrO2組成)に比べて高い出力電流が得られた。Pd添加量が増えるに従って、電流は電圧に直線的な関係(ジルコニア電解質の抵抗によって決まる特性)に近づき、NOガスの還元に要する電圧が低下、すなわち、還元性が向上した。
特に、Pdを0.2g添加した試料No.15(Pd/Au比=6.67)は、Pt電極(試料No.11)とほぼ同等の電流−電圧特性を示し、Pdを0.5g添加した試料No.16(Pd/Au比=16.67)は、Pt電極よりNOガスの還元性が向上した。一方、Pd−3wt%Au−10wt%ZrO2組成を有する試料No.17(Pd/Au比=29.41)では、Pt電極とほぼ同等の電流−電圧特性を示すに止まった。
(実施例3)
NOx検知セル36のPt電極にAuが飛散して付着し、NOxガスの還元性低下が生じると考えた場合、その付着量は、0.1wt%以下と考えられる。そこで、Pt−0.1wt%Au−10wt%ZrO2組成を有する電極ペースト1gに対して、さらにPdを0〜0.2g添加したものを用いて、電極検討用セルを作製した。なお、電極検討用セルの作製手順は、実施例1と同一とした。また、使用した電極ペーストの組成を表3に示す。
得られた電極検討用セルについて、実施例1と同一条件下で、電流−電圧特性を調べた。結果を図8に示す。なお、図8の第1象限には、測定極のNOxガスに対する特性が表れ、第3象限には、基準極のNOxガスに対する特性が表れている。
図8の第1象限に示す電流−電圧特性からわかるように、Pt−0.1wt%Au−10wt%ZrO2組成を有する電極ペースト1gに対し、Pdを0.005g添加(Pd/Au比=5.0)した試料No.23は、Pdを含まない試料No.22(Pt−0.1wt%Au−10wt%ZrO2組成)に比べて高い出力電流が得られた。Pd添加量が増えるに従って、電流は電圧に直線的な関係(ジルコニア電解質の抵抗によって決まる特性)に近づき、NOガスの還元に要する電圧が低下、すなわち、還元性が向上した。
特に、Pdを0.01g以上添加した試料No.24〜27(Pd/Au比≧10.0)は、Auが添加されていても、Pt電極(試料No.21)と同等以上の還元性を示すことがわかった。
(実施例4)
次に、NOx検知セル36のPt−Pd電極にどの程度Auが添加された場合に、NOxガスに対する還元性の低下が生じるかを調べるために、Pt−50wt%Pd−10wt%ZrO2組成を有する電極ペースト1gに対して、さらにAuを0〜0.2g添加したものを用いて、電極検討用セルを作製した。なお、電極検討用セルの作製手順は、実施例1と同一とした。また、使用した電極ペーストの組成を表4に示す。
得られた電極検討用セルについて、実施例1と同一条件下で、電流−電圧特性を調べた。結果を図9に示す。なお、図9の第1象限には、測定極のNOxガスに対する特性が表れ、第3象限には、基準極のNOxガスに対する特性が表れている。
図9の第1象限に示す電流−電圧特性からわかるように、Pt−50wt%Pd−10wt%ZrO2組成を有する電極ペースト1gに対し、Auを0.5g添加した試料No.37(Pd/Au比=1.0)は、NOガスの還元に要する電圧が大幅に増加した。一方、Au添加量を0.3gとした試料No.36(Pd/Au比=1.67)は、試料No.37に比べてNOガスの還元に要する電圧が低下した。
Au添加量が減少するに従って、電流は電圧に直線的な関係(ジルコニア電解質の抵抗によって決まる特性)に近づき、NOガスの還元に要する電圧が低下、すなわち、還元性が向上した。Au添加量を0.1gとした試料No.34(Pd/Au比=5.0)は、NOガスに対する還元性が大幅に改善され、Au添加量を0.05g以下とした試料No.33及びNo.32(Pd/Au比≧10.0)は、Pt電極(試料No.31)より高い還元性を示すことがわかった。
実施例1〜4で得られた結果を元に、Pt電極と同等以上のNOx還元性を得るためには、Au添加量に対してどの程度のPdを添加すればよいかを求めた。結果を図10に示す。実施例1〜4より、Pt電極と同等以上のNOx還元性を有する電極を得るためには、Pt−Au−Pd合金中のPd添加量及びAu添加量を、図10の斜線の領域内とすればよいことがわかった。
(実施例5)
以下の手順に従い、図1に示す検出装置10を作製した。すなわち、まず、実施例1と同様の手順に従い、厚さ0.5mmのZrO2グリーンシートを作製した。次いで、ZrO2グリーンシートの上下面に、スクリーン印刷法にて、Pt−10wt%ZrO2組成を有するPtペーストを印刷し、酸素ガス供給セル20を作製した。同様に、ZrO2グリーンシートの上下面に、スクリーン印刷法にて、Pt−1wt%Au−10wt%ZrO2組成を有するPtペーストを印刷し、酸素基準極発生セル28及び酸素モニターセル32を作製した。
次に、ZrO2グリーンシートの上面に、スクリーン印刷法にて、Pt−1wt%Au−10wt%ZrO2組成を有するPtペーストを印刷して陰極26bを形成し、下面には、Pt−10wt%ZrO2組成を有するPtペーストを印刷して陽極26aを形成して、酸素ポンプセル24を作製した。
同様に、ZrO2グリーンシートの上面に、スクリーン印刷法にて、Pt−20wt%Pd−10wt%ZrO2組成を有するPtペーストを印刷して陰極38bを形成し、下面には、Pt−10wt%ZrO2組成を有するPtペーストを印刷して陽極38aを形成して、NOx検知セル36を作製した。
次に、原料粉末としてAl2O3粉末を用いた以外は、実施例1と同様の手順に従い、板厚0.2mmのアルミナグリーンシートを作製した。このアルミナシートの上面に、Pt−10wt%ZrO2組成を有するPtペーストを印刷してヒータ40bを形成し、ヒータ部40を作製した。
次に、作製した酸素ガス供給セル20、酸素基準極発生セル28及び酸素モニターセル32、酸素ポンプセル24、NOx検知セル36、並びにヒータ部40をこの順で積層し、図1に示すような断面構造となるように張り合わせた。なお、酸素ポンプセル24とNOx検知セル36との間には、両セルを絶縁するために、膜厚約200μmのアルミナシート14a、14b、14cを挿入した。
得られた積層体を電気炉にて焼成し、検出装置10を得た。なお、焼成は、大気中において行った。また、焼成パターンは、(1)1時間当たり50℃の昇温速度で450℃まで昇温し、450℃にて1時間放置して添加したバインダーの脱脂を行い、(2)1時間当たり100℃の昇温速度で1430℃まで昇温し、1430℃で1時間焼成した後、(3)電気炉の電源を切って徐冷、とした。
次に、得られた検出装置10の動作試験を行った。動作試験には、燃焼排ガスを用いた酸素ガス試験装置を用いた。この試験装置は、イソブタンと空気を混合することにより、ガス雰囲気を空気過剰率λ=1.5から0.8まで可変できるものである。この試験装置で得られるリーン(λ=1.2)及びリッチ(λ=0.9)のガス雰囲気に、NOガスを0〜2000ppm注入して被測定ガスとした。この被測定ガスを検出装置10に供給し、NOx検知セル36の出力電流を測定した。なお、NOガスは、インジェクターを使用して、NOガス濃度0〜2000ppmまで、50ppm又は100ppm間隔にて被測定ガス中に注入した。
また、検出装置10の動作条件は、以下の通りである。
ヒータ加熱温度 :700℃
酸素ガス供給セル電流 :1mA
酸素基準極発生セル印加電圧:1.0V
酸素ポンプセル印加電圧 :0.3V
NOx検知セル印加電圧 :0.6V
燃焼排ガス空気過剰率 :λ=1.2、0.9
燃焼排ガス温度 :450℃
図11に、空気過剰率λ=0.9、1.2のガス雰囲気において、NOガス濃度を変えたときのNOx検知セル36の出力電流を示した。図11より、本実施例の検出装置10によれば、ガス雰囲気がリーン、リッチと変動しても、NOガス濃度に対応した出力電流が得られていることがわかる。これは、酸素ガス供給セル20によって、ガス導入チャンバ16内がリーン状態に保たれることに加え、NOx検知セル36の陰極38bとしてPt−Pd電極を用いたことによって、Auの付着に起因するNOxガスに対する活性低下が抑制されたためである。
(実施例6)
実施例5で作製した検出装置10について、NOxガスに対する応答性を調べた。また、比較例として、従来用いられているPt−40wt%Rh−10wt%ZrO2電極をNOx検知セルの陰極に用いた検出装置を作成し、NOxガスに対する応答性を調べた。なお、応答性は、NOx検知セルに、空気過剰率λ=1.2のガス雰囲気にNOガスを注入した被測定ガスを供給し、NOガス濃度を500ppmから1000ppmに急変させた時に生じるNOx検知セルの出力電流の変化を調べることにより評価した。結果を図12に示す。
Pt−Rh電極を陰極に用いたNOx検知セルを備えた検出装置の場合、NOガス濃度を1000ppmに急変させた時に、出力電流は10μAを超え、その数分後には、約8μAまで低下した。それ以後は、時間の経過と共に出力電流が漸減した。この結果は、Pt−Rh電極では、吸着した酸素ガスの影響が大きいために、NOガス濃度が急変する状況を忠実に検出することが困難であることを示している。これに対し、Pt−Pd電極を陰極に用いたNOx検知セルを備えた検出装置の場合には、NOガス濃度の急変に対して出力電流が速やかに応答しており、NOガス濃度の変化を忠実に検出ができることがわかった。
(実施例7)
Pt−Pd−Rh電極のRh最適添加量を明らかにするために、Rh添加量の異なるPt−Pd−Rh電極を陰極に用いた検知セルを備えた検出装置を作製し、その電流−電圧特性を調べた。図13に、実験に用いた検出装置50の断面図を示す。
まず、実施例1と同様の手順に従い、厚さ0.5mmのZrO2グリーンシートを作製した。次に、図13に示すように、グリーンシート52b上に、スクリーン印刷法にて、ポンプセル54を構成する陽極56a及び陰極56b、並びに、検知セル58を構成する陽極60a及び陰極60bを印刷した。次に、グリーンシート52bの両面に所定の形状を有するグリーンシートを積層することにより、グリーンシート52bの表面に所定の凹凸を形成した後、グリーンシート52bの両面に、それぞれ、グリーンシート52a及び52cを積層した。次に、これを、大気中において焼成することにより、検出装置50を得た。
なお、焼成条件は、50℃/hrにて昇温し、450℃で1hrキープし、次いで100℃/hrで昇温し、1430℃で1hrキープした後、大気徐冷とした。また、表5に、各セルの電極形成に用いたペースト組成を示す。
次に、得られた各検出装置の電流−電圧特性を測定した。測定は、ガス温:700℃、ガス雰囲気:0.1%NO/N2、ガス流量:2L/minの条件下において、検知セルに印加する電圧を電圧印加速度10mV/secにて0Vから1.2Vまで変化させ、検知セルの電流−電圧特性を測定する操作を、3回連続して行った。
図14に、試料No.45(Rh添加量20wt%)の測定結果を示す。図14から明らかなように、Pt−Pd電極に対してさらにRhを添加すると、第1回目の電流−電圧測定では、NOの分解により発生した酸素に起因する電流値と、電極へ吸着していた酸素の放出に起因する電流値とが加算されるために、電流値にピークが生じた。しかし、2、3回目の測定では、ピークが消失し、NOガスの分解によって生じる酸素濃度に対応した限界電流特性を示した。この結果は、Pt−Pd−Rh電極は、始動特性に若干劣るが、連続使用する場合においては、NOガス濃度を正確に測定できることを示している。なお、図示はしないが、Rhを添加した他の試料No.42〜44、46、47も同様であり、2回目以降は、吸着酸素の放出に起因する電流のピークが消失した。
次に、試料No.41〜47の電流−電圧特性の測定結果に基づいて、電圧0V〜0.1Vにおける電流値から抵抗を算出し、Rh配合量と検知セルの抵抗との関係を調べた。結果を、図15に示す。Pt−10wt%ZrO2(1g)−Pd(0.3g)に対するRh配合量が0.4gまで(試料No.41〜46、Rh添加量0〜25wt%)は、抵抗は、ほぼ一定であった。しかし、Rh配合量を0.6gとすると、抵抗は急激に増加した。図14に示すような電流−電圧特性の立ち上がり部分の角度は、検知セルの抵抗に依存し、抵抗が大きくなるほど立ち上がり部分の角度は緩やかになる。すなわち、検知セルの抵抗増大は、限界電流発生電圧の増大を招く。従って、Rh添加量は、所望の限界電流発生電圧が得られるように、その上限を定めると良い。
また、図16に、1回目の電流−電圧特性を測定する際に検出されたピーク電流とRh配合量の関係を示す。図16より、Rh配合量に比例してピーク電流が増加していることがわかる。これは、Rh配合量が増加するに伴い、電極への吸着酸素量が多くなるためである。ピーク電流の増加は始動特性の低下を招くので、Rh添加量は、所望の始動特性が得られるように、その上限を定めると良い。
(実施例8)
実施例7と同一手順に従い、Rh添加量の異なる7種類の検出装置(試料No.41〜47)を作製し、電流−電圧特性に及ぼす熱処理の影響を調べた。熱処理は、作製された各検出装置を大気中900℃に加熱し、検知セルに1Vの電圧を10分間印加することにより行った。
次に、熱処理前及び熱処理後の各試料について、ガス温:700℃、ガス雰囲気:0.2%NO/N2、ガス流量:2L/minの条件下において、検知セルに印加する電圧を電圧印加速度10mV/secにて0Vから1.2Vまで変化させ、電極に吸着した酸素を放出させた後、これと同一の条件下で検知セルの電流−電圧特性を測定する操作を、3回連続して行った。図17及び図18に、それぞれ、試料No.45の検出装置について測定された熱処理前及び熱処理後の電流−電圧特性を示す。
熱処理前において、試料No.45の限界電流発生電圧は、約0.3Vであり、限界電流領域の電流値は、約0.05mAであった。これに対し、熱処理後は、限界電流電圧は約0.2V、限界電流領域の電流値は約0.025mAとなり、限界電流領域が拡大し、電流は低下した。なお、熱処理後の試料について、再度、同一の熱処理を行っても、出力電流の変化は小さかった。
図19に、Rh配合量と熱処理による出力電流低下率の関係を示す。なお、「出力電流低下率」とは、(熱処理後の出力電流/熱処理前の出力電流)×100で表される値をいう。図19より、Rh配合量の増加と共に出力電流が低下することがわかる。また、Rh配合量が0.2g(Rh添加量14.3wt%)以上になると、出力電流は、50%以上低下したが、出力電流低下率は飽和し、Rh配合量をさらに増加させても、出力電流がそれ以上低下することはなかった。
図20に、Rh配合量と熱処理前後の限界電流発生電圧との関係を示す。熱処理前の試料の場合、Rh配合量が0.4g(Rh添加量25wt%)までは、Rh配合量の増加と共に、限界電流発生電圧は僅かに低下した。しかしながら、Rh配合量を0.6gとすると、限界電流発生電圧は、0.3Vを超えた。これに対し、Rhを添加した試料に対して熱処理を行うと、熱処理前に比べて限界電流発生電圧は低下し、しかも、限界電流発生電圧の低下率は、Rh配合量が多くなるほど増加する傾向にあった。特に、Rh配合量を0.2g〜0.4g(Rh添加量14.3〜25wt%)とすると、限界電流発生電圧は、約0.2Vまで低下し、限界電流領域は拡大した。
以上の結果から、Pt−Pd−Rh電極に対し、電圧を印加しながら大気中で加熱する熱処理を行うと、限界電流発生電圧が、低電圧側にシフトすることがわかった。これは、Pt−Pd−Rh電極を熱処理することによって、電極の表面側にRh2O3を主成分とする薄い酸化膜が形成され、この酸化膜が検知セルにおける酸素の拡散を律速しているためと考えられる。
(実施例9)
NOx検知セル36の陰極38bの材料として、Pt−10%ZrO2(1g)+Pd(0.3g)に対し、Rhを0.3g配合したPtペーストを用いた以外は、実施例5と同一の手順に従い、図1に示す構造を有する検出装置10を作製した。次に、得られた検出装置10の動作試験を行った。なお、検出装置10の動作条件は、NOx検知セルの印加電圧を0.4Vとした以外は、実施例5と同一とした。
図21に、空気過剰率λ=0.9、1.2のガス雰囲気において、NOガス濃度を変えたときのNOx検知セル36の出力電流を示した。図21より、本実施例の検査装置10によれば、ガス雰囲気がリーン、リッチと変動しても、NOガス濃度に対応した出力電流が得られていることがわかる。これは、酸素ガス供給セル20によって、ガス導入チャンバ16内がリーン状態に保たれることに加え、NOx検知セル36の陰極38bとしてPt−Pd−Rh電極を用いたことによって、陰極38bの限界電流発生電圧が低電圧側にシフトし、NOx検知セル36に印加する電圧を低くしても、NOxガス濃度に対応する出力電流が得られたためである。
(実施例10)
NOx検知セル36の陰極38bの材料として、Pt−10%ZrO2(1g)+Pd(0.3g)に対し、Rhを配合したPtペーストを用いた以外は、実施例5と同一の手順に従い、図1に示す構造を有する検出装置10を作製した。なお、本実施例においては、Rh配合量は、0g、0.1g、0.3g及び0.6g(Rh添加量で、それぞれ、0wt%、7.7wt%、20wt%、及び33.3wt%)の4種類とした。次に、実施例6と同一の手順に従い、作製した検知装置10の応答特性を調べた。結果を、図22に示す。
NOx検知セル36の陰極38bとしてPt−Pd電極を用いた場合、出力電流は、NOガス濃度の変化に速やかに応答し、正確なNOの検出ができた。一方、NOx検知セル36の陰極38bとしてPt−Pd−Rh電極を用いた場合、NOガス濃度を1000ppmに急変させた時に、出力電流は10μAを超え、それ以後は、時間の経過と共に出力電流が漸減した。また、Rh配合量が多くなるほど、NOガス濃度を急変させたときの出力電流が大きくなり、かつ、出力電流が安定するまでに長時間を要した。これは、Rh配合量の違いによって、電極に吸着した酸素ガスの放出時間が変わるためである。
以上の結果から、Pt−Pd−Rh電極は、Rh配合量が多くなるほど、NOxガスに対する応答特性が低下することがわかった。従って、所望の応答特性を得るには、Rh配合量を最適な値に設定する必要がある。
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
例えば、上記実施の形態において、検出装置10は、酸素ガス供給セル20を備えているが、被測定ガスが常にリーン状態に保たれる場合には、酸素ガス供給セル20を省略しても良い。また、酸素基準極発生セル28を用いて残留酸素濃度を計測する代わりに、検出装置10のいずれかに酸素濃度が既知の気体(例えば、大気)を導入し、これを基準極として残留酸素濃度を計測しても良い。
また、上記実施の形態においては、被測定ガスに含まれるNOxを分解させ、その際に流れる電流値からNOxガス濃度を計測する、いわゆる「電流式」のNOxガス検出装置について主に説明したが、本発明に係るPt−Pd系の電極材料は、被測定ガスが導入された測定極と基準極との間に発生する起電力の大きさから被測定ガス中のNOxガス濃度を計測する、いわゆる「起電力式」のNOxガス検出装置に対しても同様に適用することができ、これにより上記実施の形態と同様の効果を得ることができる。