(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は本発明の第1の実施形態に係る半導体(エピタキシャル)ウェーハの部分的な断面構成を示している。図1に示すように、径が300mmのシリコンからなるエピタキシャルウェーハ10は、P型のシリコン単結晶からなる半導体基板11とその主面上にシリコンが3μmの厚さにエピタキシャル成長してなるエピタキシャル層12とから構成されている。
半導体基板11には、磁界印加型引き上げ(磁界印加チョクラルスキ:MCZ)法により、窒素原子を1×1014atoms/cm3 の濃度に含有して形成されたCZ結晶を用いる。
半導体基板11には、窒素原子との相乗効果による1×109 個/cm3 の濃度を有するバルク微小欠陥(BMD)ゲッタリングサイト13が形成されている。
第1の実施形態の特徴として、半導体基板11には、該半導体基板11の主面からの深さが2μmの位置に約0.17μmの半値幅で硼素が全面的にイオン注入されてなる第1の硼素イオン注入層14と、該主面からの深さが4μmの位置に約0.37μmの半値幅で硼素が全面的にイオン注入されてなる第2の硼素イオン注入層15と、主面と反対側の面(裏面)からの深さが2μmの位置に0.17μmの半値幅で硼素が全面的にイオン注入されてなる第3の硼素イオン注入層16と、裏面からの深さが4μmの位置に0.37μmの半値幅で硼素が全面的にイオン注入されてなる第4の硼素イオン注入層17とが形成されている。
なお、このCZ結晶における酸素濃度は12×1017atoms/cm3 (アメリカ材料試験協会:ASTM'79)である。また、このCZ結晶には炭素をドーピングしてもよい。CZ結晶に対する窒素のドーピング量は1×1013atoms/cm3 〜5×1014atoms/cm3 の間で適当な値に設定すればよい。窒素濃度を高くすると、BMD密度も高くなるが、窒素濃度が5×1014atoms/cm3 以上ではエピタキシャル層12の成長時に該エピタキシャル層12にまで及ぶ結晶欠陥が生じるおそれがある。
なお、第1の実施形態においては、半導体基板11には、比抵抗値が8Ωcm〜16Ωcmの硼素をドープしたP型基板を用いたが、これに代えて、比抵抗値が8mΩcm〜20mΩcm程度の高濃度に硼素がドープされたP+ 型基板を用いてもよい。
以下、前記のように構成されたエピタキシャルウェーハ10の製造方法について図面を参照しながら説明する。
図2(a)〜図2(c)、図3(a)及び図3(b)は本発明の第1の実施形態に係るエピタキシャルウェーハの製造方法の工程順の断面構成を示している。
まず、1×1014atoms/cm3 の濃度の窒素を含むCZ結晶(インゴット)から、厚さが775μm程度の半導体基板11をスライシングにより切り出す。その後、切り出した半導体基板11に対して、初期のバルク微小欠陥(BMD)の欠陥密度を確保するため、温度が700℃の窒素雰囲気で120分間のアニールを行なった後、3℃/minの昇温レートで1000℃にまで加熱し、この1000℃の窒素雰囲気でさらに120分間のアニールを行なう。これにより、半導体基板11には、窒素のドーピングと相まって1×109 個/cm3 の濃度を有するBMDゲッタリングサイト13が形成される。ここで、1000℃の窒素雰囲気で120分〜960分の熱処理を行なうことにより、1×109 個/cm3 以上で且つ5×109 個/cm3 以下のBMDゲッタリングサイト13を形成することができる。
続いて、半導体基板11の主面及び裏面に対して鏡面研磨を行なう。これにより、エピタキシャルウェーハ10の平坦度が著しく向上するため、フォトリソグラフィ工程において露光光の焦点の余裕度が増すので、微細加工時の余裕度が大きくなる。
次に、図2(a)に示すように、半導体基板11の主面に、加速エネルギーが1250keVでドーズ量が1×1016atoms/cm2 の硼素をイオン注入する。これにより、半導体基板11の表面から2μmの位置に約0.17μmの半値幅で硼素がイオン注入されて、第1の硼素イオン注入層14が形成される。このとき、半導体基板11の主面上にスクリーン酸化膜を形成してもよい。また、硼素のイオン注入時にチャネリングが起こったとしても特に問題とはならない。なぜなら、半導体基板11の厚さは硼素の注入深さと比べて十分に厚く、チャネリングにより硼素が半導体基板11の深い領域に注入されても、デバイスを形成するエピタキシャル層12には何ら影響がないからである。
次に、図2(b)に示すように、半導体基板11の主面に対して、注入エネルギーを3000keVに変え、ドーズ量が1×1016atoms/cm3 の硼素をイオン注入する。これにより、半導体基板11の表面から4μmの位置に約0.37μmの半値幅で硼素がイオン注入されて、第2の硼素イオン注入層15が形成される。
次に、図2(c)に示すように、半導体基板11の主面と反対側の面に、加速エネルギーが1250keVでドーズ量が1×1016atoms/cm2 の硼素をイオン注入する。これにより、半導体基板11の裏面から2μmの位置に約0.17μmの半値幅で硼素がイオン注入されて、第3の硼素イオン注入層16が形成される。
次に、図3(a)に示すように、半導体基板11の主面と反対側の面に対して、注入エネルギーを3000keVに変え、ドーズ量が1×1016atoms/cm3 の硼素をイオン注入する。これにより、半導体基板11の裏面から4μmの位置に約0.37μmの半値幅で硼素がイオン注入されて、第4の硼素イオン注入層17が形成される。
このように、第1の実施形態においては、高濃度不純物層としての、第1の硼素イオン注入層14及び第2の硼素イオン注入層15を半導体基板11の主面の近傍に設けると共に、第3の硼素イオン注入層16及び第4の硼素イオン注入層17を半導体基板11の裏面の近傍に設けているが、これに限られず、硼素イオン注入層は半導体基板11の主面側又は裏面側に少なくとも1層設ければ良い。また、硼素イオン注入層の深さは0.1μm〜30μmの範囲で設定することができる。また、硼素イオンは単電荷のB+ でも良く、2価電荷のB2+として注入してもよい。
また、硼素イオン注入層のドーズ量は増やすに連れてゲッタリング効果は高くなるが、ここでは、1×1015atoms/cm2 〜5×1016atoms/cm2 の範囲で設定することができる。また、硼素イオン注入層14〜17は、主面側と裏面側とにおいて必ずしも層数、深さ及びドーズ量に対称性を持たせたり、同一の値としたりする必要はなく、例えば表面側には2層の硼素イオン注入層を設け、裏面側には3層の硼素イオン注入層を設ける等の変更を加えてもよい。
次に、図3(b)に示すように、例えば化学的気相堆積(CVD)法により、半導体基板11の主面上に、厚さが3μmで比抵抗値が11Ωcm〜14Ωcmのシリコンからなるエピタキシャル層12を形成する。ここで、エピタキシャル層12の厚さは3μmに限られず、0.5μm〜10μm程度でもよく、また、その比抵抗値は1Ωcm〜30Ωcm程度であればよい。
なお、各硼素イオン注入層14〜17に対しては、注入後のアニールを行なう必要はない。なぜなら、硼素のイオン注入により発生した結晶欠陥自体がゲッタリングサイトとして振る舞うし、製造プロセスにおける熱処理によっても硼素は活性化されるからである。もちろん、900℃の窒素雰囲気で30分間程度の熱処理を加えてもよい。
以上のような製造方法により、デバイスが形成される厚さが3μmのエピタキシャル層12の下側に、深さが2μmと4μmとの各位置に硼素によるゲッタリング能力と欠陥によるゲッタリング能力とを有する第1及び第2の硼素イオン注入層14、15からなるゲッタリング強化層が形成される。ゲッタリング強化層は、エピタキシャルウェーハ10の主面となるエピタキシャル層12の表面から汚染金属が混入した場合に、デバイスに最も近いゲッタリングサイトとして機能すると共に、エピタキシャルウェーハ10の裏面から第3及び第4の硼素イオン注入層16、17で捕獲されずに、エピタキシャルウェーハ10の表面付近にまで到達した汚染金属を確実に捕獲することができる。とりわけ、半導体基板11の内部に存在する濃度が1×109 個/cm3 のBMDゲッタリングサイト13では捕獲が困難な銅に対しても確実に捕獲することができる。これに対し、硼素では捕獲が困難であるニッケルは、BMDゲッタリングサイト13で捕獲することができる。
同様に、エピタキシャルウェーハ10の裏面からの深さが2μmと4μmとの各位置には、硼素によるゲッタリング能力と欠陥によるゲッタリング能力とを有する第3及び第4の硼素イオン注入層16、17からなるゲッタリング強化層が形成される。裏面側の2層のゲッタリング強化層は、エピタキシャルウェーハ10の裏面からの汚染金属の混入に対して、裏面の直近に位置することから最大のゲッタリング効果を発揮する。仮に、裏面側のゲッタリング強化層で捕獲ができない場合でも、次には半導体基板11中の高密度のBMDゲッタリングサイト13により捕獲され、さらには表面側の2層のゲッタリング強化層により捕獲される。このため、エピタキシャルウェーハ10の裏面から混入した汚染金属がその表面にまで到達する確率は極めて低くなるので、汚染金属の無害化には顕著な効果を奏する。さらに、とりわけエピタキシャルウェーハ10の裏面からの汚染が懸念される場合は、第3及び第4の硼素イオン注入層16、17を3層以上に多層化することにより、さらに強力なゲッタリング効果を得ることが可能となる。
また、第1の実施形態においては、半導体基板11には比抵抗値が8Ωcm〜16Ωcmの低不純物濃度の基板を用いており、その不純物濃度は5×1014atoms/cm3 〜2×1015atoms/cm3 である。このような低不純物濃度の半導体基板11の裏面からは、どのような熱処理条件においてもドープされた不純物は外方拡散することがない。このため、外方拡散した不純物が他の低濃度の活性領域に再びドーピングされるオートドープ現象が生じることもない。従って、エピタキシャルウェーハ10の裏面、すなわち半導体基板11の裏面に対してオートドーピング対策を施す必要はない。
なお、第1の実施形態においては、硼素によるゲッタリング強化層である各硼素イオン注入層14〜17をエピタキシャル層12の下地基板である半導体基板11自体にイオン注入法により形成したが、ゲッタリング用エピタキシャル層として、δドーピングにより半導体基板11の主面上及び裏面上に形成しても良い。
すなわち、エピタキシャル層12を形成する前に、例えば半導体基板11上の両面に、まず、比抵抗値が1mΩcm〜10mΩcm又は不純物濃度が1×1020atoms/cm3 〜1×1021atoms/cm3 の高濃度のシリコンからなる第1のゲッタリング用エピタキシャル層を0.3μmの厚さに堆積する。続いて、ドーピングガスを瞬間的に切り替えてドーピングガスを取り除き、厚さが0.7μmの低濃度のエピタキシャル層を形成する。続いて、再びドーピングガスを供給して、低濃度のエピタキシャル層の上に高濃度の第2のゲッタリング用エピタキシャル層を0.3μmの厚さに形成し、さらに、第2のゲッタリング用エピタキシャル層の上に、厚さが3μmで比抵抗値が11Ωcm〜14Ωcmのエピタキシャル層12を形成する。このようなδドーピング法によっても、図1(a)に示す構造を実現することができる。
第1の実施形態に係るエピタキシャルウェーハ10は、製造方法に依らず得られる効果は同等である。但し、δドーピング法によるエピタキシャル成長により高濃度不純物層を形成する場合は、デバイスを形成するエピタキシャル層12に結晶欠陥を生じないように、エピタキシャル層12の直下に設ける高濃度不純物層の濃度をやや低めに抑え、高濃度不純物層(第2のゲッタリング用エピタキシャル層)に起因する結晶欠陥がエピタキシャル層12の表面にまで転写するのを防止する必要がある。
(第2の実施形態)
以下、本発明の第2の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図4は本発明の第2の実施形態に係る半導体(エピタキシャル)ウェーハの部分的な断面構成を示している。図4に示すように、径が300mmのシリコンからなるエピタキシャルウェーハ20は、主面と該主面の反対側の面(裏面)との両面が鏡面状に研磨され、比抵抗値が8mΩcm〜20mΩcmと硼素が比較的高濃度にドープされたP+ 型の半導体基板21と、該半導体基板21の主面及び裏面上にシリコンがそれぞれエピタキシャル成長してなる第1のエピタキシャル層22及び第2のエピタキシャル層23とから構成されている。
第1のエピタキシャル層22は、厚さが3μm〜5μmであり、比抵抗値が1Ωcm〜30Ωcmである。また、第2のエピタキシャル層23は、厚さが0.5μm〜10μmであり、比抵抗値が1Ωcm〜1000Ωcmである。なお、第1のエピタキシャル層22の厚さは0.5μm〜10μm程度でもよい。また、第2のエピタキシャル層23には、P型不純物をドープしなくてもよい。
比抵抗値が8mΩcm〜20mΩcmである半導体基板21には、引き上げ(CZ)法により、窒素原子を1×1014atoms/cm3 の濃度として形成されたCZ結晶を用いる。このCZ結晶における酸素濃度は12×1017atoms/cm3 (ASTM'79)である。この状態で、2×109 個/cm3 の濃度のBMDゲッタリングサイト24が形成されており、BMDの密度としては、鉄又はニッケルを捕獲するのに十分な密度を有している。その上、半導体基板21中に高濃度にドープされた硼素に関しても、鉄又は銅を捕獲するのに十分な濃度を有している。また、高濃度にドープされた硼素によって、BMDゲッタリングサイト24も第1の実施形態と比べて2倍程度の密度となっており、鉄、ニッケル及び銅について、許容できる程度のゲッタリング能力を期待できる。
さらに、第2の実施形態においては、高濃度の硼素がドープされた半導体基板21の裏面上に低濃度の第2のエピタキシャル層23を形成しており、この第2のエピタキシャル層23は、P型不純物の外方拡散を防止するバリア層として機能する。
ここで、比較用として、半導体基板21の裏面に第2のエピタキシャル層23を設けないエピタキシャルウェーハ20Aを用意し、該エピタキシャルウェーハ20Aに生じる外方拡散について図面を参照しながら説明する。
図5は電気炉中の石英ボート51に、それぞれが、高濃度の硼素がドープされた半導体基板21とその上に成長した第1のエピタキシャル層22とからなる複数のエピタキシャルウェーハ20Aをセットした後、高温の熱処理を行なう工程を模式的に示している。図5に示すように、各エピタキシャルウェーハ20Aは、表面側の第1のエピタキシャル層22と裏面側の半導体基板21とが対向することになり、裏面側の半導体基板21から外方拡散した硼素が、低濃度の各第1のエピタキシャル層22の表面に到達してオートドーピングを起こし、その結果、各第1のエピタキシャル層22の抵抗値が大幅に低下する。このような現象が起こると、各第1のエピタキシャル層22の上に形成したトランジスタ等の表面濃度が大幅に変化するため、しきい値電圧等に所望の設計値を得ることができなくなる。その上、このようなオートドーピング現象は不安定な現象であり、人為的に制御することはできない。
そこで、第2の実施形態のように、硼素が高濃度にドープされたP+ 型の半導体基板21の裏面からの硼素のオートドーピングを防止する拡散防止層となる第2のエピタキシャル層23を設ける意義は極めて大きい。
また、図6に示す第2のエピタキシャル層23の膜厚と第1のエピタキシャル層22の濃度変化率との関係を示すグラフから、1200℃の温度で120分間程度の熱処理を行なう場合でも、外方拡散とオートドーピングとによる表面濃度の変化率は、拡散防止層となる第2のエピタキシャル層23の厚さを2μmとすれば、第1のエピタキシャル層22の濃度変化率は1のままで変化せず、オートドーピングを確実に防止できることが分かる。このため、少なくとも半導体基板21の裏面上には、熱処理の温度と時間とを勘案して、厚さが1μm〜30μm程度の第2のエピタキシャル層23を形成すればよい。また、第2のエピタキシャル層23の濃度は、半導体基板21の主面上の第1のエピタキシャル層21と同程度かそれ以下であればよいことが分かる。
以下、前記のように構成されたエピタキシャルウェーハ20の製造方法について図面を参照しながら説明する。
図7及び図8は本発明の第2の実施形態に係るエピタキシャルウェーハの製造方法の工程順の断面構成を模式的に示している。
まず、1×1014atoms/cm3 の濃度の窒素を含むCZ結晶(インゴット)から、半導体基板21をスライシングにより切り出す。その後、切り出した半導体基板21に対して、初期のバルク微小欠陥(BMD)の欠陥密度を確保するため、温度が700℃の窒素雰囲気で120分間のアニールを行なった後、3℃/minの昇温レートで1000℃にまで加熱し、この1000℃の窒素雰囲気でさらに120分間のアニールを行なう。これにより、半導体基板21には、窒素のドーピングと相まって2×109 個/cm3 の濃度を有するBMDゲッタリングサイト24が形成される。
続いて、半導体基板21の主面及び裏面に対して鏡面研磨を行なう。これにより、エピタキシャルウェーハ20の平坦度が著しく向上するため、フォトリソグラフィ工程において焦点の余裕度が増すので、微細加工時の余裕度が大きくなる。
続いて、主面と裏面との両面を鏡面研磨された半導体基板21の主面上及び裏面上に、第1のエピタキシャル層22及び第2のエピタキシャル層23を形成する。これら第1のエピタキシャル層22及び第2のエピタキシャル層23はそれぞれ独立に形成してもよいが、第1のエピタキシャル層22の厚さは3μm〜5μmであり、またその比抵抗値も11Ωcm〜14Ωcmであるため、低濃度の第2のエピタキシャル層23として使用できる膜厚であり且つ不純物濃度である。従って、第2の実施形態においては、第1のエピタキシャル層22及び第2のエピタキシャル層23を同時に形成する。
図7に示すように、両面が鏡面研磨された半導体基板21をランプ加熱方式の枚葉型エピタキシャル装置に投入する。半導体基板21は、透明な石英からなるチャンバ61の内部に設置された炭化硅素(SiC)からなるサセプタ62の上に少なくとも3本のリフトピン63Aを介在させて保持される。チャンバ61には、その上方及び下方に加熱用ランプ64が配置されている。シリコンの原料ガスにはシラン(SiH4 )ガスを用いたが、エピタキシャル装置の形態やシリコン原料ガス及び成長温度等は設計事項であって、適当な堆積条件を設定すればよい。
通常のエピタキシャル装置においては、半導体基板21はサセプタ62の上に直接に保持されて、半導体基板21の裏面にエピタキシャル層が成長するのを防止している。なぜなら、通常の半導体基板の裏面には、オートドーピングを防止するシリコン酸化膜(バックシール酸化膜)が形成されているためである。この従来のバックシール酸化膜は、エピタキシャル成長中に裏面から不純物がオートドーピングしてエピタキシャル層の抵抗が変動してしまうことを防止する目的で設けられており、その後の半導体製造プロセスにおけるオートドーピングを防止するようには形成されていない。また、前述したように、バックシール酸化膜のような低密度の絶縁膜はエッチングや洗浄によって容易に消滅してしまう上に、折角の両面鏡面による半導体基板21の平坦性を損なうことにもなる。
そこで、第2の実施形態においては、半導体基板21の上下の位置調整を行なう複数のリフトピンのうち、少なくとも3本のリフトピン63Aで半導体基板21をサセプタ62から所定の間隔で持ち上げることにより、半導体基板21の主面上に第1のエピタキシャル層22を形成すると同時に、該半導体基板21の裏面上にも第2のエピタキシャル層23を形成する。このサセプタ62と半導体基板21との間隔は第2のエピタキシャル層23における膜厚と均一性とから決定される。
半導体基板21とサセプタ62との間隔は小さいため、裏面側の第2のエピタキシャル層23は、主面側の第1のエピタキシャル層22と比べて膜厚はやや薄くなるものの、裏面上にも確実に成長する。しかしながら、この状態のままでは、第2のエピタキシャル層23における各リフトピン63Aの近傍には原料ガスが回り込みにくいため、その部分が成長しにくくなる。
そこで、図8に示すように、最初のリフトピン63Aから他の少なくとも3本のリフトピン63Bに代えて、成長中の第2のエピタキシャル層23の裏面における他の位置を保持することにより、半導体基板21の裏面上に膜厚が極端に薄い部分が発生することを防止することが可能となる。
なお、半導体基板21の表面と裏面とに同時にエピタキシャル層22、23を形成する方法は、上述した方法に限られない。また、表面側の第1のエピタキシャル層22はその設定膜厚が重要であるのに対し、裏面側の第2のエピタキシャル層23は、硼素の外方拡散を防止できれば良く、表面側程には膜厚値に拘る必要はない。
このようにして形成されたエピタキシャルウェーハ20は、銅、鉄及びニッケルに対して高いゲッタリング性能を持ちながら、その裏面からの硼素の外方拡散を防止することができる。
(第3の実施形態)
以下、本発明の第3の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図9は本発明の第3の実施形態に係る半導体(エピタキシャル)ウェーハの部分的な断面構成を示している。図9に示すように、径が300mmのシリコンからなるエピタキシャルウェーハ30は、主面と該主面の反対側の面(裏面)との両面が鏡面状に研磨され、比抵抗値が8mΩcm〜30Ωcm、例えば8mΩcm〜16mΩcmとなるように硼素がドープされたP+ 型の半導体基板31と、該半導体基板31の主面及び裏面上にシリコンがそれぞれエピタキシャル成長してなる第1のエピタキシャル層32及び第2のエピタキシャル層33とから構成されている。
さらに、半導体基板31の下部には第2のエピタキシャル層33と接するように、比抵抗値が1mΩcm〜8mΩcmと硼素が超高濃度に拡散された高濃度拡散層34が形成されている。
第1のエピタキシャル層32は、厚さが3μm〜5μmであり、比抵抗値が1Ωcm〜30Ωcm、例えば11Ωcm〜14Ωcmである。また、第2のエピタキシャル層33は、厚さが0.5μm〜30μm、例えば3μmであり、比抵抗値が1Ωcm〜1000Ωcm、例えば11Ωcm〜14Ωcmである。なお、第1のエピタキシャル層32の厚さは0.5μm〜10μm程度でもよい。また、第2のエピタキシャル層33には、P型不純物をドープしなくてもよい。
以下、前記のように構成されたエピタキシャルウェーハ30の製造方法について図面を参照しながら説明する。
図10は本発明の第3の実施形態に係るエピタキシャルウェーハの製造方法の工程フローを示し、図11(a)、図11(b)及び図12はの工程順の断面構成を模式的に示している。
まず、図10に示すように、ステップST1において、例えば、磁界印加型引き上げ(MCZ)法により、窒素原子を1×1014atoms/cm3 の濃度にドープしながら、比抵抗値が8mΩcm〜16mΩcmで且つ酸素濃度が12×1017atoms/cm3 (ASTM’79)である単結晶シリコンからなるインゴットを形成する。
次に、ステップST2において、形成されたインゴットをスライスして半導体基板31を得た後、スライスされた半導体基板の両面に対してエッチングにより荒研磨を行なう。
次に、ステップST3において、温度が700℃の窒素雰囲気で120分間のアニールを行なった後、3℃/minの昇温レートで1000℃にまで加熱し、この1000℃の窒素雰囲気でさらに120分間のアニールを行なう。これにより、半導体基板31には、窒素のドーピングと相まって2×109 個/cm3 の濃度を有するBMDゲッタリングサイト35が形成される。ここで、1000℃の窒素雰囲気で120分〜960分の熱処理を行なうことにより、5×108 個/cm3 以上で且つ5×109 個/cm3 以下のBMDゲッタリングサイト35を形成することができる。
次に、ステップST4において、図11(a)に示すように、半導体基板31の主面上に、CVD法により膜厚が300nmの拡散バリア膜としてのシリコン酸化膜52を形成する。
次に、ステップST5において、1200℃の温度下でBN(窒化硼素)を拡散源とした熱拡散により、硼素を半導体基板31の裏面から拡散長が20μmとなるまで拡散して、図11(a)に示すように、半導体基板31の下部に厚さが20μmの高濃度拡散層34を形成する。このとき、半導体基板31の主面は、シリコン酸化膜52によりマスクされているため、半導体基板31の主面からは硼素が拡散されることはない。なお、ここでは、高濃度拡散層34の比抵抗値は3mΩcm程度としている。
次に、ステップST6において、フッ化水素酸(HF)により半導体基板31の主面からシリコン酸化膜52をエッチングして除去し、その後、半導体基板31の主面及び裏面に対して鏡面研磨を行ない、とりわけその主面に対して最終研磨を行なう。このときの半導体基板31の厚さは約770μmである。
なお、硼素による高濃度拡散層34の形成は、半導体基板31に対する仕上げ研磨の後に行なってもよいが、拡散バリアであるシリコン酸化膜52の形成及び高温の熱処理工程を仕上げ研磨の後に行なうと、半導体基板31の表面の平坦度の悪化やパーティクルの増加等を招くおそれがあるため、最終研磨よりも前に行なうことが好ましい。高濃度拡散層34を形成した後に研磨を行なっても、最終研磨における研磨代(しろ)は拡散長と比べて無視できる程度に小さいため、特性上の問題はない。
次に、ステップST7において、両面研磨された半導体基板31の主面及び裏面に第1のエピタキシャル層32及び第2のエピタキシャル層33を同時に形成する。
図11(b)に示すように、両面が鏡面研磨された半導体基板31をランプ加熱方式の枚葉型エピタキシャル装置に投入する。半導体基板31は、透明な石英からなるチャンバ61の内部に設置された炭化硅素(SiC)からなるサセプタ62の上に少なくとも3本のリフトピン63Aを介在させ所定の間隔を空けて保持される。このサセプタ62と半導体基板31との間隔は第2のエピタキシャル層33における膜厚と均一性とから決定される。また、チャンバ61には、その上方及び下方に加熱用ランプ64が配置されている。
ここでは、エピタキシャル層32、33の比抵抗値を11Ωcm〜14Ωcmとし、第1のエピタキシャル層32の厚さは5μmとしている。シリコンの原料ガスにはシラン(SiH4 )ガスを用いたが、エピタキシャル装置の形態やシリコン原料ガス及び成長温度等は設計事項であり、適当な堆積条件を設定すればよい。
第2の実施形態でも説明したように、第1のエピタキシャル層32にはデバイスが形成されるため、第1のエピタキシャル層32の比抵抗及び表面平坦性等には精密な制御が必要となるが、第2のエピタキシャル層34に関しては第1のエピタキシャル層32程には精密な制御は必要とされない。そこで、第3の実施形態においても、枚葉型エピタキシャル装置を用いることにより、半導体基板31の主面上には第1のエピタキシャル層32を形成すると共に、同時に半導体基板31の裏面上にも、厚さが第1のエピタキシャル層32よりも薄く、且つ不純物濃度が同程度の第2のエピタキシャル層34を形成する。第3の実施形態においては、図11(b)に示す状態でエピタキシャル成長を行ない、第1のエピタキシャル層32及び第2のエピタキシャル層33に対して、各目標膜厚の2分の1程度にまで堆積する。しかしながら、この状態のままでは、第2のエピタキシャル層33における各リフトピン63Aの近傍は原料ガスが回り込みにくいため、その部分が成長しにくくなる。
そこで、図12に示すように、最初のリフトピン63Aから他の少なくとも3本のリフトピン63Bに代えて、成長中の第2のエピタキシャル層33の裏面における他の位置を保持することにより、半導体基板31の裏面上に膜厚が極端に薄い部分が発生することを防止することが可能となる。なお、途中で第2のエピタキシャル層33の保持位置を変えたとしても、該第2のエピタキシャル層33におけるリフトピン63Aとの対向部分の膜厚の減少は完全には回避できない。しかしながら、リフトピン63Aとの対向部分は極めて小さいこと、また、第2のエピタキシャル層33には当然デバイスは形成されず、その形成目的が半導体基板31の下部に設けた高濃度拡散層34からの外方拡散の防止であることを考えれば問題はない。また、第2のエピタキシャル層33における膜厚の均一性の劣化に伴う第1のエピタキシャル層32の表面平坦度への影響も小さく、これも問題とはならない。
このようにして、厚さが770μmで、比抵抗値が8mΩcm〜16mΩcmとなるように硼素がドーピングされ且つBMD密度が2×109 個/cm3 に形成されたP+ 型の半導体基板31の下部には、第3の実施形態の特徴である、厚さが20μmで比抵抗値が3mΩcmとなるように硼素が超高濃度にドーピングされ且つBMD密度が2×109 個/cm3 である高濃度拡散層34が形成される。
また、半導体基板31の主面上には、厚さが5μmで比抵抗値が11Ωcm〜14Ωcmのデバイス形成領域となる第1のエピタキシャル層32が形成され、該半導体基板31の主面と反対側の面上には、厚さが約3μmで比抵抗値が11Ωcm〜14Ωcmの硼素の外方拡散を防止するバリアとなる第2のエピタキシャル層33が形成されて、下部に高濃度拡散層32を有する半導体基板31、第1のエピタキシャル層32及び第2のエピタキシャル層33とから構成されるエピタキシャルウェーハ30を実現できる。
ここで、第1のエピタキシャル層32の下側に位置する半導体基板31も、高濃度拡散層34と同様に2×109 個/cm3 の密度のBMDゲッタリングサイト35を有しているため、鉄、ニッケル及び銅等のほとんどの重金属及び貴金属に対して高いゲッタリング効果を持つ。しかし、BMDゲッタリングサイト35だけでは、第2の実施形態のBMDゲッタリングサイト24と同等の効果を得られるに過ぎない。
これに対し、第3の実施形態においては、半導体基板31の下部には、硼素を超高濃度に拡散して形成した比抵抗値が3mΩcmの高濃度拡散層34を設けているため、特に銅及び鉄に対して硼素−金属対の形成によるゲッタリング能力が著しく高い。従って、例えば、エピタキシャルウェーハ30の裏面(第2のエピタキシャル層33側)からの銅の汚染等に対して絶大なゲッタリング能力を発揮する。
なお、第3の実施形態においては、半導体基板31の比抵抗値を8mΩcm〜16mΩcmのP+ 型基板としたが、半導体製造プロセスによっては、第1のエピタキシャル層32を極めて薄くする場合があり、そのような場合には、半導体基板31の硼素の濃度を下げる必要がある。その場合には、半導体基板31の比抵抗値を、例えば第1のエピタキシャル層32の比抵抗値である11Ωcm〜140Ωcmとほぼ等しい8Ωcm〜16Ωcm程度に設定することもできる。このように、第3の実施形態においては、半導体基板31はP型でもP+ 型でもよく、この点で、半導体基板21にP+ 型基板を用いることを前提とする第2の実施形態とは異なっている。このように、半導体基板31に低濃度のP型シリコンを用いたとしても、高濃度拡散層34は形成可能であり、ゲッタリング能力はやや低下はするものの高濃度拡散層34によって十分な銅、鉄及びニッケル等に対するゲッタリング能力を有する。
また、第3の実施形態においては、半導体基板31の比抵抗値を8Ωcm〜16Ωcmと高抵抗にする場合を除いて、該半導体基板31の硼素の不純物濃度を1mΩcm〜8mΩcmと低抵抗とせずに、より比抵抗値が大きい8mΩcm〜16mΩcmに設定する技術的な理由が存在する。これは、第2の実施形態についても同じである。
なぜなら、半導体基板31に高濃度に不純物をドーピングすると結晶欠陥が発生しやすくなる。このことは、第1の実施形態における高抵抗の半導体基板11では初期のBMD密度が1×109 個/cm3 であったのに比べ、第2及び第3の各実施形態における低抵抗の半導体基板21、31におけるBMD密度が2×109 個/cm3 であったことからも分かる。
このことから、半導体基板31の初期の硼素濃度を高めに、すなわち比抵抗値で8mΩ以下とすると、発明者の検討によればBMD密度はさらに高くなり、ひいては転位等の結晶欠陥が発生することを見いだしている。このため、半導体基板31の硼素の濃度を高めて比抵抗値で8mΩ以下に設定すると、半導体基板31にはBMD以外の結晶欠陥が発生する。このような結晶欠陥が発生した半導体基板31上に第1のエピタキシャル層32を成長させると、該第1のエピタキシャル層32は、下地である半導体基板31の状態を転写するため、第1のエピタキシャル層32にもまた結晶欠陥が転写される。それゆえ、第1のエピタキシャル層32を形成する半導体基板31の硼素の濃度は比抵抗値にして8mΩcm以上でなければならない。
一方、第3の実施形態においては、半導体基板31の下部に高濃度拡散層34を設けているため、半導体基板31における比抵抗値の増大(不純物濃度の減少)はゲッタリング効果には大きな影響を与えないが、第2の実施形態においては、比抵抗値が高くなり過ぎぎると硼素によるゲッタリング効果が低下する。このため、硼素によるゲッタリング効果が銅に対して有効となる比抵抗値の上限は20mΩcmであり、より好ましくは16mΩcm以下がよい。
このことから、第3の実施形態においても、半導体基板31の硼素濃度を反映した比抵抗値を8mΩcm〜16mΩcmとしている。とりわけ第2の実施形態の場合は、20mΩcm以上の比抵抗値では銅に対する硼素によるゲッタリング能力が著しく低下する。但し、鉄に対する硼素によるゲッタリング能力は50mΩcm程度まで維持される。
一方、第3の実施形態においては、本来結晶欠陥が発生している可能性がある高濃度拡散層34に対しても第2のエピタキシャル層33を設けている。このように、高濃度拡散層34には結晶欠陥が発生している可能性があるため、第2のエピタキシャル成長層33にも結晶欠陥が転写している可能性がある。しかしながら、前述したように、第2のエピタキシャル層33上にはデバイスは形成されず、高濃度拡散層34からの硼素の外方拡散を防止する機能を果たせば良く、結晶欠陥の存在は問題とはならない。
以上を整理すると、半導体基板31に導入する硼素濃度の上限値すなわち比抵抗値の下限値は、その主面上に形成される第1のエピタキシャル層32に結晶欠陥を転写せず、且つ最大の硼素ゲッタリングが可能な8mΩcmであり、また、半導体基板31の下部に設けた高濃度拡散層34は、硼素によるゲッタリング効果をさらに顕著に期待できる1mΩcm〜8mΩcmに設定している。これは、高濃度拡散層34と接して形成される第2のエピタキシャル層33が、たとえ結晶欠陥が転写されてもその目的である硼素の外方拡散の防止能力に影響を及ぼさないためである。
なお、第3の実施形態においては、エピタキシャルウェーハ30の主面側に形成した第1のエピタキシャル層32の導電型をP型とし、且つP型の高濃度拡散層34を形成する半導体基板31の導電型もP型としたが、第1のエピタキシャル層32及び半導体基板31の導電型は必ずしもP型である必要はなく、N型であってもよい。但し、この場合は、エピタキシャルウェーハ30の主面側からN型の第1のエピタキシャル層、低濃度又は高濃度のN型の半導体基板、該半導体基板に拡散により形成されたP型の高濃度拡散層、及びN型の第2のエピタキシャル層により構成されることになる。
一般に、N型の半導体基板においては、バルク微少欠陥によるゲッタリングが主体であり、P型のシリコン基板にみられるような硼素と金属対とによるゲッタリングは期待できない。そのため、一般には、N型半導体基板のゲッタリング能力は、高濃度のP型半導体基板と比べて劣る。これは高濃度のN型半導体基板においても同様であり、不純物−金属対によるゲッタリングが期待できない以上、バルク微少欠陥によるゲッタリングに頼らざるを得ない。従って、N型のシリコン基板においては、該基板中に窒素や炭素を導入すると同時に、その後の高温熱処理、いわゆるIG(イントリンジックゲッタリング)処理でバルク微少欠陥の密度を高濃度化することにより、ゲッタリング能力を高めている。しかしながら、この手法では、本発明の貴金属に対するゲッタリング能力を得ることは困難である。
そこで、本発明の第3の実施形態においては、N型の半導体基板の主面と反対側の領域(下部)にP型の高濃度拡散層34を形成することにより、P型の半導体基板31の場合と同様の効果を得ることができる。その上、P型の高濃度拡散層34は、ウェーハプロセスの終了後には、組み立て工程においてウェーハを薄膜化する際に除去することは可能である。また、通常の半導体デバイスは、ウェーハの裏面側から電気的な接続を取ることはないため、そのままP型の高濃度拡散層34を残したとしても問題にはならない。
以下、第1の実施形態、第2の実施形態及び第3の実施形態に係る各エピタキシャルウェーハ10、20、30と従来のエピタキシャルウェーハとの鉄及び銅に対する汚染防止能力を図13(a)及び図13(b)に基づいて説明する。
図13(a)に示すように、従来のエピタキシャルウェーハは、BMDによるゲッタリングを強化したウェーハと強化していないウェーハとの2種類をサンプルとしている。
まず、図13(b)を用いて、各エピタキシャルウェーハの汚染防止能力の測定方法を説明する。図13(b)に示すように、サンプルウェーハ120の裏面に、汚染濃度が1×1014atoms/cm2 程度の鉄及び銅121を人為的に付着させる。このときの初期濃度値をCiとする。その後、サンプルウェーハ120に対して、400℃の温度で5時間の熱処理を加え、サンプルウェーハ120の表面側にまで達した鉄及び銅122の汚染濃度Cfを測定する。汚染方法には、所定濃度の鉄及び銅を含む汚染標準液を用意し、用意した汚染標準液をサンプルウェーハ120の裏面にスピンコート法により塗布する方法を用いた。また、熱処理後の汚染濃度Cfの測定には、誘導結合プラズマ質量分析(ICP−MS:Inductively Coupled Plasma Mass Spectroscopy)法を用いた。
ここでは、裏面における初期濃度値Ciと表面における汚染濃度値Cfとの比であるCi/Cfとの比の値を汚染防止能力としている。
裏面における汚染量がそのまま表面にまで到達すれば、初期濃度値Ciと汚染濃度値Cfとの比Ci/Cfの値は1となり、汚染防止能力は全くないことが分かる。また、汚染防止能力が10000であるということは、1×1014atoms/cm2 の濃度で汚染してもサンプルウェーハ120の表面には1×1010atoms/cm2 しか到達せず、他の汚染金属はウェーハ内で捕獲されたことが分かる。
実際の半導体製造ラインでは、1×1014atoms/cm2 のような高濃度の銅汚染は通常は発生しないが、汚染防止能力が10000以上であれば、これだけの銅汚染が発生しても、ほとんどデバイスの電気特性に影響を及ぼさない汚染レベルである1×1010atoms/cm2 以下にまでゲッタリング可能ということを示す。
次に、図13(a)の測定結果からは、BMDが強化されていない従来のウェーハは、鉄及び銅ともにゲッタリング能力はほとんどないことが分かる。熱処理温度が400℃と低いため、酸素の析出によるBMDゲッタリングサイトの形成も期待できないからである。
また、従来のBMD強化ウェーハは、RTPによる急速熱処理と、その後の高温アニールによって、5×108 atoms/cm3 程度の濃度を有するBMDゲッタリングサイトをあらかじめ形成している。このBMD強化ウェーハは、鉄に対してはBMDによるゲッタリング効果を発揮し、汚染防止能力は1000程度と十分に有効である。しかしながら、銅に対しては一旦はBMDゲッタリングサイトにより銅を捕獲できるものの、再拡散が起こるため、汚染防止能力は100以下とまったく不十分である。このように、従来から高いゲッタリング能力を有するとされてきたBMD強化ウェーハであっても、銅に対してのゲッタリングは極めて不十分である。
これに対し、本発明の第1の実施形態に係るウェーハは、半導体基板自体はP型の高抵抗の基板でありながら、表面側と裏面側とに2層ずつ設けた高濃度の硼素イオン注入層により、効果的な銅及び鉄のゲッタリングが可能となっており、汚染防止能力も10000を越えている。
また、本発明の第2の実施形態に係る低抵抗のP+ 型基板を用い、裏面に第2のエピタキシャル層を設けたウェーハも、銅及び鉄に対する高いゲッタリング能力が認められる。
また、本発明の第3の実施形態に係るウェーハは、本発明中で最も高いゲッタリング効果が確認されており、汚染防止能力は1×105 に迫っている。但し、第3の実施形態においては、半導体基板の比抵抗値を第2の実施形態と同等の8mΩcm〜16mΩcmとするP+ 型基板を用いているため、さらに半導体基板の下部に高濃度拡散層を設けている分、第2の実施形態よりもゲッタリング能力は高くなる。従って、第3の実施形態において、半導体基板の比抵抗値を8Ωcm〜16Ωcmと高抵抗化した場合には、ゲッタリング能力は僅かに低下し、第1の実施形態とほぼ同程度であることを確認している。