しかしながら特許文献1及び2に記載の技術は、何れも少なくともエンジン回転速度が上昇を始めてからオルタネータの負荷を低減させるものであるため、その応答性が必ずしも充分ではなかった。またオルタネータの負荷を0より小さくはできないので、駆動力の増大代が、アイドル運転時におけるオルタネータの負荷に相当する量以下に限られていた。
さらに、一発ノックを抑制するために点火リタードを行うと、エンジントルクが低下してしまうので、これも発進性の向上を妨げる要因となっていた。
本発明は、かかる事情に鑑み、アイドル回転速度を低速化しても、発進時に起こり易い一発ノックを抑制しつつ、アイドル運転状態からの発進性を向上することができる自動車用火花点火式エンジン制御装置を提供することを目的とする。
上記課題を解決するための請求項1に係る発明は、エンジン動力によって駆動される補機と、上記補機によるエンジンの負荷を調整する負荷調整手段とを備え、自動変速機とともに車両に搭載される自動車用火花点火式エンジン制御装置において、エンジンの回転速度を検出する回転速度検出手段と、吸気流量を調整する吸気流量調整手段と、車両のブレーキ操作状態を検出するブレーキ操作検出手段と、車両のアクセル操作状態を検出するアクセル操作検出手段とを備え、エンジンが所定のアイドル回転速度で運転中であり、アクセルオフかつブレーキオンの状態からブレーキオフとされた第1時点で、上記吸気流量調整手段によって吸気流量を増大させてエンジン回転速度を高めるとともに上記負荷調整手段によって上記負荷を強制的に増大させ、その後、アクセルオンとされた第2時点で、上記負荷調整手段によって上記負荷を強制的に低減させる発進駆動力増大制御を行うことを特徴とする。
なお、上記ブレーキとは必ずしもフットブレーキのみを指すものではなく、車両の発進を止めるためのブレーキ全般を指す。例えばサイドブレーキもブレーキに含まれる。そしてブレーキオフとは、全てのブレーキが解除された状態をいう。
請求項2に係る発明は、請求項1記載の自動車用火花点火式エンジン制御装置において、上記補機はオルタネータであり、上記第1時点における上記負荷の強制的な増大は、上記オルタネータの目標出力電流値を一定の第1目標値に増大させることによってなされることを特徴とする。
請求項3に係る発明は、請求項2記載の自動車用火花点火式エンジン制御装置において、上記オルタネータで発電した電気を蓄電するバッテリと、上記オルタネータで発電した電気で駆動される電気駆動部と、上記電気駆動部の動作を制御する電気駆動部制御手段とを備え、上記第1時点で上記バッテリが満充電状態であるとき、上記電気駆動部制御手段は、上記電気駆動部の合計消費電流が増大するように該電気駆動部を強制的に駆動することを特徴とする。
請求項4に係る発明は、請求項1乃至3の何れか1項に記載の自動車用火花点火式エンジン制御装置において、上記第2時点における上記負荷の強制的な低減量は、所定の一定値であることを特徴とする。
請求項5に係る発明は、請求項1乃至3の何れか1項に記載の自動車用火花点火式エンジン制御装置において、上記アクセル操作状態から車両の加速要求度合を判定する加速要求度合判定手段を備え、上記第2時点における上記加速要求度合が大きいほど、上記負荷の強制的な低減量を大きくすることを特徴とする。
請求項6に係る発明は、請求項1乃至5の何れか1項に記載の自動車用火花点火式エンジン制御装置において、上記第2時点における上記負荷の強制的な低減量は、少なくとも所定の条件下において、上記第1時点における上記負荷の強制的な増大量よりも大きくされることを特徴とする。
請求項7に係る発明は、請求項1乃至6の何れか1項に記載の自動車用火花点火式エンジン制御装置において、上記第1時点から所定時間経過しても上記アクセルオンがなされないとき、上記負荷調整手段は、上記負荷の強制的な増大分を徐々に低減させることを特徴とする。
請求項8に係る発明は、請求項1乃至3の何れか1項に記載の自動車用火花点火式エ
ンジンの制御装置において、上記ブレーキ操作検出手段により上記第1時点でのブレーキオフ操作の速さを検出し、ブレーキオフ操作の速さが、相対的に遅いときは速いときに対して、上記吸気流量調整手段による上記吸気流量の増大割合と上記負荷調整手段による上記負荷の増大割合を少なくすることを特徴とする。
請求項1の発明によると、以下に述べるように、アイドル回転速度を低速化しても、発進時に起こり易い一発ノックを抑制しつつ、アイドル運転状態からの発進性を向上することができる。
本発明では、自動変速機を備えた自動車の通常の運転操作として、アイドル運転中はブレーキがオン、アクセルがオフとされており、発進の際にはまずブレーキが解除(オフ)され(第1時点)、次いでアクセルがオンとされる(第2時点)ことに着眼している。そして、まだアクセルオンがなされていない第1時点において、まもなくアクセルオンがなされることを想定し、その準備を行うのである。
本発明の発進駆動力増大制御では、まずブレーキが解除される第1時点で、吸気流量調整手段が吸気流量を増大させてエンジン回転速度を高める。するとエンジンの出力トルクも増大するが、これに併せて負荷調整手段が補機の負荷を強制的に増大させるので、両者が相殺されて車両の駆動力増大は抑制される。エンジンの出力トルク増大量と補機の負荷増大量とを好適にバランスさせ、車両の駆動力を変化させないようにすることが望ましい。
次いで第2時点でアクセルがオン、つまり踏み込まれると、負荷調整手段が補機の負荷を強制的に低減させる。これによって、負荷増大分とバランスしていたエンジン出力トルク増大分が、瞬時に車両の駆動力に供されるので、エンジンの運転状態が変化する(エンジン出力トルクや回転速度が上昇する)のを待つことなく、車両の発進駆動力を増大させることができる。つまり発進性を向上させることができる。
特に、予め第1時点で吸気流量を増大させ、エンジン回転速度を上昇させておくことによる効果としては、第1に、第2時点でアクセルオンされたときの負荷低減代(負荷低減前後の差)を増大することができる点である。負荷低減代を増大するには、低減前の負荷を大きくするか、低減後の負荷を小さくすれば良い。低減後の負荷は0より小さくできないので限界がある。本発明によれば、予め吸気流量を増大させてエンジン出力トルクを高め、それとバランスするように負荷を高めておく。すなわち予め低減前の負荷を高めておくので、これを行わない場合に比べて負荷低減代をより大きくすることができるのである。低減した負荷は、瞬時に発進駆動力に供給されるので、負荷低減代が大きいほど発進駆動力の増大量が大となる。つまり発進性向上効果が高められる。
第2に、予め第1時点で吸気流量を増大させ、エンジン回転速度を上昇させておくことにより、アクセルオンとされる第2時点において既にエンジンの出力トルクや回転速度が高くなっている点である。つまり当該発進駆動力増大制御を行わない場合よりもエンジン出力トルクの増大や回転速度の上昇が先行してなされることになるので、より高い発進性を得ることができるのである。
第3に、一発ノックの抑制効果が得られ、それによって点火リタード量を低減することができる点である。アイドル運転状態から比較的アクセルを強く踏み込んだ発進を行う時には低速、高負荷状態となり、一発ノックが発生し易い条件となっている。これに対し、第1時点でエンジン回転速度を上昇させておく、すなわち高速化することにより、一発ノックの発生を抑制することができる。この効果は、アイドル回転速度の低速化が進むほど顕著となる。
また、一発ノックを起こり易くする別の要因として、吸気温度の上昇という現象がある。アイドル運転中は吸気が絞られているので、吸気通路中(主にサージタンク内)に空気が澱んだような状態となっている。従って高温のエンジンルーム内での吸気の滞留時間が長くなり、吸気温度が上昇する。その状態でアクセルがオンされ、スロットル開度が急に増大すると、高温の吸気が一気に気筒内に流入し、気筒内の空気の急激な圧縮によってさらに温度が上昇するため、一発ノックが起こり易くなるのである。
これに対し本発明によれば、第1時点でエンジン回転速度を上昇させておく、つまり吸気流量を増大させておくことにより、高温のエンジンルーム内に吸気が滞留する時間を短縮することができる。すなわち予め吸気温度を低減させておくことができる。従ってその後の第2時点でアクセルがオンされたときの燃焼温度の増大が抑制され、一発ノックが起こり難くなるのである。
このように一発ノックが抑制されるので、一発ノックを抑制するための点火リタードのリタード量(点火の遅らせ代)を低減することができる。従って点火リタードによるエンジントルクの低下を抑制することができ、発進性を一層向上させることができる。
以上述べたことから明らかなように、本発明の総合的な効果として、アイドル回転速度を低速化しても、発進時に起こり易い一発ノックを抑制しつつ、アイドル運転状態からの発進性を向上することができる。
請求項2の発明によれば、補機として、比較的負荷の大きなオルタネータを用いることにより、第2時点における大きな負荷低減代を得ることができる。またその発電量を調節することによって負荷をきめ細かく増減させることができる。さらに、負荷の増大が発電量の増大に直結するが、余分に発電した電気をバッテリに蓄電することができるので、エネルギーを有効利用することができる。この点に関し、通常時のバッテリ蓄電量の目標値を、満充電よりもやや少な目にしておき、充電余裕代を常時確保しておくのが望ましい。
またオルタネータの目標出力電流値(発電量)を一定の値(第1目標値)に増大させることにより、アクセルオン時の加速フィーリングが一定化され、運転者の違和感を抑制することができる。
請求項3の発明によれば、バッテリが満充電状態であっても、電気駆動部で強制的に電力を消費することにより、オルタネータの発電量を増大させることができる。
請求項4の発明によれば、第2時点における負荷の強制的な低減量を一定とすることにより、アクセルオン時の加速フィーリングが一定化され、運転者の違和感を抑制することができる。
請求項5の発明によれば、加速要求度合が大きいほど車両の発進駆動力を高めることができるので、運転者の加速要求度合に応じた加速を伴った発進を行わせることができる。
請求項6の発明によれば、第2時点における負荷低減代を、必要に応じてより大きくすることができる。つまり発進時の車両の駆動力をより高めることができるので、より柔軟に発進性の向上を図ることができる。
請求項7の発明によれば、第1時点でブレーキ解除後、所定時間内にアクセルオンがなされない場合、補機の負荷やエンジン回転速度を通常のアイドル運転状態に戻すことにより、戻さない場合に比べて燃費を向上させることができる。また徐々に戻すことにより、運転者に与える違和感を抑制することができる。なお上記所定時間は、加速度要求度合が大きい発進時に第1時点から第2時点に要する一般的な時間(0.3〜0.5秒以内)よりは充分長く設定することが望ましい(例えば2〜5秒)。
請求項8の発明によれば、第1時点におけるブレーキ解除が緩やかに操作されたとき
は、その直後に急加速へ移行することが極めて少ないことから、加速に備えて増大されるエンジン回転速度と負荷の増大が抑えられ、この期間の燃費悪化が抑制できる。
特に、補機がオルタネータであって、バッテリが満充電状態にあるときの、オルタネータの無駄な発電仕事が抑制され、燃費悪化が抑制できる。
また、エンジン本体に自動変速機が接続されたパワートレインにおいては、ブレーキ解除が緩やかに操作されたときはエンジン回転数の上昇が抑制されるため、極低速のクリープ走行が確保できる。
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1は本発明の一実施形態による自動車用火花点火式エンジン制御装置を含む概略ブロック図である。エンジン本体1には自動変速機50が接続されている。さらに自動変速機50の出力軸には図外の駆動輪が接続されている。
エンジン本体1には、当該エンジンに駆動される補機が付設されている。オルタネータ28(発電機)もその補機の一種である。オルタネータ28の構造は周知なので簡潔に記すが、ベルト27を介してエンジンに駆動される図略のフィールドコイルの励磁電流をレギュレータ回路で制御して出力電圧を調節し、所定の発電量(目標出力電流)が得られるように構成されている。オルタネータ28の駆動力はエンジンの負荷として作用する。
オルタネータ28によって発電された電気は電気駆動部60の駆動源として供給され、残余があればバッテリ55に充電される。バッテリ55に蓄電された電気は必要に応じて電気駆動部60に供給される。
電気駆動部60は、オルタネータ28で発電した電気(バッテリ55に蓄電された電気を含む)で駆動される機器、いわゆる電装部品の総称である。詳細な図示は省略するが、電気駆動部60には、例えばヘッドライト等のライト類、点火プラグ等のIG(イグニッション)系部品、オーディオやナビゲーションシステム等、ブロア(室内向けのファン)、冷却用のメインファン、エアコン用のアディショナルファン、エアコン用マグネットクラッチおよび後部窓ガラスの曇りを除去するリヤデフォッガ(電熱線)等がある。
エンジン本体1にはクランク角センサ30(回転速度検出手段)が設けられ、図略のクランク軸の回転速度、つまりエンジン回転速度を検出する。
エンジン本体1の吸気通路21には、アクチュエータ24により駆動されるスロットル弁23が配設されている。スロットル弁23は、後述のスロットル開度制御部2bとともに吸気流量調整手段を構成する。スロットル弁23のさらに上流には、吸気流量を検出するエアフローセンサ25が設けられている。
その他、車両側には図略のアクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセル開度センサ34(アクセル操作検出手段)や、ブレーキのオン/オフを検出するブレーキスイッチ35(ブレーキ操作検出手段)が設けられている。なお、ブレーキ系統が複数ある場合には、それぞれの系統に対してブレーキスイッチ35が設けられている。例えば図略のフットブレーキと図略のサイドブレーキとが設けられている場合には、各ブレーキ用に合計2個のブレーキスイッチ35が設けられている。
エンジンの燃焼や補機類、或いは電気駆動部60の動作を制御するコントロールユニットとしてECU2が設けられている。ECU2は、CPU,ROM,RAM等を備えたコンピュータ等からなり、具体的には、予めROM(又はRAM)に記憶されているプログラムがCPUによって実行されることによって各種動作等が制御される。ECU2は図示のようにバッテリ55からの電源が供給される。またECU2は、上記エアフローセンサ25、クランク角センサ30、アクセル開度センサ34およびブレーキスイッチ35からの各種信号を受け、アクチュエータ24、電気駆動部60および図外の点火プラグや燃料噴射装置等に駆動信号を送る。
当実施形態の自動車用火花点火式エンジン制御装置は、車両の発進時に発進駆動力を増大させる発進駆動力増大制御を行うように構成されている。図1には、発進駆動力増大制御を行うためにECU2に機能的に含まれるスロットル開度制御部2b、燃料供給制御部2c、点火制御部2d、オルタネータ発電量制御部2e、電気駆動部制御部2fおよび加速要求度合判定部2gを図示している。
スロットル開度制御部2bは、上述のスロットル弁23とともに吸気流量調整手段を構成する。スロットル開度制御部2bは、通常はアクセル開度センサ34の検出値等から必要なスロットル開度を設定し、アクチュエータ24に駆動信号を出力してスロットル弁23の開度Kを調節する。例えば通常のアイドル運転中(アクセル開度Ac=0%)にはスロットル開度K=0%とする。
また発進駆動力増大制御の実行時には、スロットル開度制御部2bは、アイドル運転中にブレーキがオン(少なくとも1つのブレーキスイッチ35がオンの状態。以下同様。)からオフ(全てのブレーキスイッチ35がオフの状態。以下同様。)に切り換わったとき(第1時点)、スロットル開度Kを増大させる。つまり吸気流量を増大させる。
燃料供給制御部2cは、エアフローセンサ25からの検出値を受け、吸気流量に対して運転状態に応じた所定の空燃比となる量の燃料を設定する。そして、例えば直噴エンジンの場合、図略の燃料噴射装置に駆動信号を送り、設定量の燃料を所定時期(例えば吸気行程後期)に噴射させる。
発進駆動力増大制御の実行時には、上述のように第1時点で吸気流量が増大させられるので、それに対応して燃料供給制御部2cが燃料供給量を増大させる。それにより燃焼エネルギーが増大するので、エンジン出力トルクが増大し、回転速度が上昇する。
点火制御部2dは、運転状態に応じた適正な点火時期を設定し、図略の点火プラグに点火信号を送り、点火させる。
発進駆動力増大制御の実行時には、上記第1時点後、アクセルオフ(アクセル開度Ac=0%。以下同様)からオン(アクセル開度Ac>0%。以下同様)に切り換わり、且つ運転者の加速度要求度合(詳しくは後述する)が大であるとき、点火制御部2dは点火リタードを行い、燃焼温度を低減させることによって一発ノックを抑制する。
オルタネータ発電量制御部2e(負荷調整手段)は、運転状態に応じてオルタネータ発電量Alt(目標出力電流値)を設定し、その目標出力電流が得られるようにレギュレータ回路の励磁電流を調節する。オルタネータ発電量Altが大なるほど大きな駆動力を必要とするので、エンジンの負荷が増大する。
発進駆動力増大制御の実行時には、オルタネータ発電量制御部2eは、アイドル運転中にブレーキが解除される第1時点でオルタネータ発電量Altを増大させ、次いでアクセルがオフからオンとされ、且つ運転者の加速度要求度合が大であるとき、オルタネータ発電量Altを低減させる。
電気駆動部制御部2fは、運転状態に応じて自動的に、または各種スイッチ類の操作に応じて各電気駆動部60に駆動信号を送り、駆動させる。
発進駆動力増大制御の実行時には、電気駆動部制御部2fは、上記第1時点におけるオルタネータ発電量Altの増大に際してバッテリ55が満充電の場合、電気駆動部60の合計消費電流が増大するように電気駆動部60を制御する。例えば電気駆動部60のうち、非作動中のものを強制駆動させる。強制駆動させる電気駆動部60は、短時間動作させてもエンジンや車両の運転状態に悪影響を及ぼさず、乗員に違和感を与えないもの、例えば上記メインファン、アディショナルファンまたはリヤデフォッガ等が好適である。当実施形態では後述するようにリヤデフォッガを強制駆動させている。
加速要求度合判定部2g(加速要求度合判定手段)は、発進駆動力増大制御において上記加速度要求度合の大小を判定する。判定に際し、加速要求度合判定部2gは、まずアイドル運転中にアクセルオフからオンに切り換わったとき、アクセル開度センサ34の検出値に基づいてアクセル開度変化率DA(単位時間当たりのアクセル開度Acの変化量)を演算する。そして、アクセル開度変化率DAが所定値以上のとき、運転者が発進時に比較的大きな加速度を要求している、つまり加速度要求度合が大であると判定する。
次に、当実施形態の自動車用火花点火式エンジン制御装置の動作について、特に発進駆動力増大制御を中心に説明する。
図2は、アイドル運転状態から車両が発進する際の状態を示すタイムチャートである。横軸に時間、縦軸にエンジン回転速度Ne、オルタネータ発電量Alt、電気駆動部60(ここではリヤデフォッガ)の作動状態、スロットル開度K、アクセル開度Acおよびブレーキ操作状態をそれぞれ示す。そして、それぞれエンジン回転速度Neの特性101、オルタネータ発電量Altの特性111(目標値を特性115で示す)、リヤデフォッガの操作特性121または125、スロットル開度Kの特性131、アクセル開度Acの特性141、ブレーキ操作の特性151を示す。なお、エンジン回転速度Neの特性105及びスロットル開度Kの特性135は、当実施形態の発進駆動力増大制御を行わなかった場合の特性を参照のために示したものである。
時点t1(第1時点)以前はアクセル開度Ac=0%且つブレーキオン状態であり、通常のアイドル運転状態である。すなわちエンジン回転速度Ne=N1(例えばN1=600rpm)、スロットル開度K=0%である。またオルタネータ発電量Alt=Ia(A)である。発電量Iaは、電気駆動部60の動作状態によって異なるが、当実施形態では、ライト消灯時における通常走行時の車両の平均消費電流であって、例えば約30Aの場合を示している。またリヤデフォッガはオフ状態であるとしている。
時点t1でブレーキが解除されると(特性151)、スロットル開度制御部2bはスロットル開度Kを0%からK1%に増大させる。これにより吸気流量が増大し、エンジン出力トルクと回転速度が増大する。スロットル開度K1は、エンジン回転速度NeをN1からN2(例えばN2=900rpm)に高めて維持し得る適値であり、予め設定された値でも良いし、エンジン回転速度NeをN2に収束させるようにフィードバック制御によって調整するようにしても良い。
時点t1と略同時、好ましくは僅かな時間後(例えば0.1s後)の時点t1’で、オルタネータ発電量制御部2eが、オルタネータ28の目標発電量(目標出力電流値)を第1目標値Ib(A)に増大させる(特性115)。当実施形態では、第1目標値Ibは、ライト消灯時における通常走行時の車両の平均消費電流(約30A)よりも一定量多い値(例えばIb=60A)に設定されている。オルタネータ発電量Altを増大させることによって補機によるエンジンの負荷が増大する。当実施形態では、上記吸気流量の増大による出力トルクの増大とエンジン負荷の増大とがバランスし、車両の駆動トルクに実質的な変動が起こらないような設定としている。
なお、時点t1と時点t1’との間に僅かな時間差を設けているのは、オルタネータ発電量Altの増大よりもスロットル開度Kの増大を僅かに先行させることにより、エンジン回転速度Neの上昇をより円滑かつ迅速に行わせるためである。また本発明における第1時点には時点t1’を含むものとする。
オルタネータ発電量Altを増大させるにあたり、バッテリ55に充電余裕代がある場合は余剰電力をバッテリ55に充電する。このとき、電気駆動部60は通常の制御を継続する。つまりリヤデフォッガはオフのままである(特性125)。しかしバッテリ55が満充電の場合は余剰電力を電気駆動部60の一部を強制駆動させることにより消費させる。当実施形態ではリヤデフォッガをオンとする(特性121)。
なお、燃費向上の観点からは、このような強制駆動は行わない方が望ましい。そこで、通常時のバッテリ蓄電量の目標値を、満充電よりもやや少な目にしておき、バッテリ55の充電余裕代を常時確保しておくと良い。
続いて時点t2(第2時点)においてアクセルが踏み込まれる(特性141)。運転者の加速要求度合が大きいときは、通常、時点t2は時点t1の0.3〜0.5s後である。
時点t2において、アクセル開度Acの特性141に基づいて、加速要求度合判定部2gによって加速要求度合が判定される。当実施形態では、アクセル開度Acの変化率DAを演算し、アクセル開度変化率DAが大であるほど加速要求度合が大であるとしている。そして、アクセル開度変化率DA>所定値a1であるとき、オルタネータ発電量制御部2eは、オルタネータ発電量Altの目標発電量を第1目標値Ibよりも低い第2目標値Icに低減する。オルタネータ28は、発電量を低減する方向への応答性が高く、実際の発電量は急速に低減する(特性111)。
またリヤデフォッガの強制駆動を行っている場合には、時点t2でその強制駆動を解除する(特性121)。
時点t2でオルタネータ発電量Altを低減させると、その低減代(Ib−Ic)に相当するエンジン出力トルクが、瞬時に車両の発進駆動力として供給される。従って、エンジンの運転状態が変化する(エンジンの出力トルクや回転速度Neが上昇する)のを待つことなく、車両の発進駆動力が増大する。こうして運転者の要求に応じた加速を伴った発進を容易に行うことができる。つまり発進性が高められる。
ここで、予めオルタネータ発電量Altが第1目標値Ibまで増大させられているので、その低減代(Ib−Ic)は、オルタネータ発電量Altの増大を行わない場合の低減代(Ia−Ic)よりも大きくすることができる。
図2には、第2目標値Icが時点t1における発電量Iaよりも小さい場合が示されているが、発電量Iaと同等ないしはそれ以上の設定であっても良い。また第2目標値Icの最小値は0(A)とすることができる。オルタネータ発電量Altの低減代(Ib−Ic)が大きいほど発進駆動力の増大効果が大きい。当実施形態では、第1目標値Ibを一定値とし、アクセル開度変化率DAが大であるほど、つまり加速要求度合が大であるほど、第2目標値Icを小さくしてオルタネータ発電量Altの低減代(Ib−Ic)を増大させるようにしている。こうすることで、より運転者の加速要求度合に応じた加速を伴った発進を行わせることができる。
或いは、第1目標値Ib、第2目標値Icともに所定の一定値としても良い。その場合には、アクセルオン時の加速フィーリングが一定化され、運転者が違和感を抱くことを防止することができる。
また、当該発進駆動力増大制御によれば、予め時点t1で吸気流量を増大させ、エンジン回転速度Neを上昇させておくことにより、アクセルオンとされる時点t2において既にエンジンの出力トルクや回転速度Neが高められている。つまり当該発進駆動力増大制御を行わない場合(特性105)よりもエンジン出力トルクの増大や回転速度の上昇が先行してなされることになる。この点でも発進性の向上に有利となっている。
さらに、当該発進駆動力増大制御によって、以下に述べるように一発ノックの抑制効果が得られる。一般的にアイドル運転状態から比較的アクセルを強く踏み込んだ発進を行う時には低速、高負荷状態となり、一発ノックが発生し易い条件となっている。これに対し、当該発進駆動力増大制御では時点t1でエンジン回転速度Neを上昇させておく、すなわち高速化することにより、一発ノックの発生を抑制することができる。この効果は、アイドル回転速度の低速化が進むほど顕著となる。
また、一発ノックを起こり易くする別の要因として、吸気温度の上昇という現象があるが、当該発進駆動力増大制御によれば、時点t1でエンジン回転速度Neを上昇させておく、つまり吸気流量を増大させておくことにより、高温のエンジンルーム内に吸気が滞留する時間を短縮することができる。すなわち予め吸気温度を低減させておくことができる。従ってその後の時点t2でアクセルがオンされたときの燃焼温度の増大が抑制され、一発ノックを起こり難くすることができる。
このように一発ノックが抑制されるので、一発ノックを抑制するための点火リタードのリタード量を低減することができる。従って点火リタードによるエンジントルクの低下を抑制することができ、発進性を一層向上させることができる。
続いて時点t2の後、時点t3において、オルタネータ発電量Altを徐々に通常制御に戻す。時点t3は、例えば時点t2後、3〜5s後が好適である。以降、通常の走行時の制御に移行する。
図3は、第1時点(時点t1及びt1’)後、運転者がアクセルを踏み込まなかった場合のタイムチャートである。横軸および各縦軸は図2に準ずる。
時点t1でブレーキが解除されたとき(特性211)、スロットル開度Kが0%からK1%に増大され(特性191)、エンジン回転速度NeがN1からN2に上昇し(特性161)、さらに時点t1’でオルタネータ28の目標発電量(目標出力電流値)が第1目標値Ib(A)に増大される(特性171)のは図2の場合と同様である。またバッテリ55が満充電のときにはリヤデフォッガが強制駆動される(特性181)点も同様である。
しかしアクセル開度Acは0%のままである(特性201)。つまり運転者はブレーキを解除したものの、少なくとも直ちにはアクセル操作を行っていない。これは、例えば渋滞時のクリープ走行などに見られる運転形態である。
このような場合、当実施形態では、時点t9で発進駆動力増大制御を中断する。時点t9は、例えば時点t1後、2〜5sが好適である。時点t9においてスロットル開度Kが元の0%に戻され、エンジン回転速度Neも通常のアイドル回転速度N1に戻される。またオルタネータ発電量Altも元の発電量Ia(A)に戻され、リヤデフォッガが強制駆動されている場合には解除される(特性181)。
こうすることによって、長時間エンジン出力を増大させ続けることによる燃費の悪化を防止することができる。またこの際、特性191や特性171に示すように、スロットル開度Kやオルタネータ発電量Altが徐々に戻される。こうすることにより、運転者に与える違和感を抑制することができる。
なお、時点t9以降において、大きな加速要求度合でアクセルが踏み込まれる場合も想定される。その場合は、通常の吸気流量、通常のアイドル回転速度からの加速となる。しかしその場合、暫くクリープ走行を行った後の加速であり、既にある程度の車速に達している。従って、停止状態からの発進に比べ、ストール回転速度(自動変速機50側とのすべりが抑制された状態での回転速度)が高くなっている。つまり加速初期のエンジン回転速度が上昇し易くなっており、出力トルクの増大や一発ノック抑制に有利となっているので、発進性に対する懸念は小さい。これは自動変速機50が、多段変速機、無段変速機、或いはオートシフトマニュアルと呼ばれるクラッチレスの自動変速機など、何れの形式であっても、またエンジン側との接続部にトルクコンバータや電磁クラッチなど、何れの機構を用いている場合にも該当することである。
また特に図示しないが、図2に示す時点t2において、アクセルの踏み込みはあるものの、アクセル開度変化率DAが小さい場合、つまり加速要求度合が小さい場合にも発進駆動力増大制御を中断し、図3に示すようにスロットル開度Kとオルタネータ発電量Altとを徐々に通常制御に戻す。こうすることによって、運転者の要求以上に加速が良すぎて、却って違和感を与えてしまうことを防止することができる。
図4乃至図5は、当実施形態の発進駆動力増大制御を中心とする概略フローチャートである。当該フローチャートがスタートすると、まずステップS10でフラグFの判定がなされる。フラグFは、発進駆動力増大制御の実行状態を示すフラグである。フラグF=0(リセット状態)のときは、発進駆動力増大制御が非実行中であり、フラグF=1のときは発進駆動力増大制御が実行中であることを示す。
当該フローチャートスタート直後(発進駆動力増大制御の未実行時)はフラグFがリセット状態、つまりフラグF=0なので、ステップS10でNOと判定される。次にステップS12でアイドル運転中(エンジン回転速度Ne=N1、アクセル開度Ac=0%)であるか否かの判定がなされる。ステップS12でYESと判定されると、次いでブレーキがオンからオフに解除されたか否かの判定がなされる(ステップS14)。
ステップS12またはステップS14でNOと判定されると、発進駆動力増大制御の実行条件が未成立であり、リターンされる。ステップS14でYESと判定されると、発進駆動力増大制御の実行条件が成立し、発進駆動力増大制御に移行する。
発進駆動力増大制御が開始する(時点t1)と、まずタイマーTAがリセットされ、時点t1からの経過時間を計測する(ステップS16)。
次いでスロットル開度制御部2bによってスロットル開度Kが0%からK1%に増大される(ステップS18)。
そしてタイマーTA>所定期間m1(例えばm1=0.1s)となった時点t1’(ステップS20でYES)で、オルタネータ28の目標発電量(出力電流値)を通常値Ia(例えばIa=30A)から第1目標値Ib(例えばIb=60A)に増大させる(ステップS22)。
次にフラグFに1を入力し(ステップS24)、バッテリ55が満充電状態であるか否かの判定が行われる(ステップS26)。ステップS26でNOであれば、オルタネータ28での余剰発電はバッテリ55に充電される。ステップS26でYESであれば、余剰発電に相当する電力を消費する非作動中の電気駆動部60(リヤデフォッガ等)を強制駆動させる(ステップS28)。
次にアクセルオンされたか否かを判定し(ステップS34)、NOであればさらにタイマーTA>所定期間m2(例えばm2=2〜5s)であるか否かを判定する(ステップS46)。ステップS46でNOであればリターンする。この時点でフラグF=1であるから、次のルーチンではステップS10でYESと判定され、ステップS34に移行する。こうしてステップS34からステップS46のルーチンを繰り返す待機状態となる。
その待機状態中、ステップS34でYES、つまりアクセルオンと判定された場合(時点t2)、加速要求度合判定部2gによってアクセル開度変化率DA>所定値a1であるか否かが判定される(ステップS36)。
ステップS36でYESであれば加速要求度合が大であると判定される。そのとき、電気駆動部60が強制駆動中であればその強制駆動を停止し(ステップS38)、さらにアクセル開度変化率DAに応じてオルタネータ28の目標発電量を第2目標値Ic(例えばIc=0〜30A)に設定する。アクセル開度変化率DAが大であるほど第2目標値Icを小さな値とし、第1目標値Ibからの低減代が大きくなるようにする。
そしてアクセルオン(時点t2)から所定期間m3(例えばm3=3〜5s)が経過したら(ステップS44でYES)、オルタネータ28を徐々に通常制御に戻すとともに(ステップS50)、フラグFをリセットして(ステップS52)発進駆動力増大制御を終了させる。その後は、通常のオルタネータ制御(ステップS54)、通常のスロットル開度制御(ステップS56)及び通常の電気駆動部制御(ステップS58)に戻る。
遡ってステップS36でNOと判定された場合、アクセルオンされたものの、加速要求度合が小さいと判定され、発進駆動力増大制御を中断する。すなわち、スロットル開度Kを徐々に通常制御に戻し(ステップS48)、ステップS50に移行する。
また遡ってステップS46でYESと判定されたときは、時点t1でブレーキが解除された後、所定期間m2を経過してもアクセルオンされなかったことを意味する。この場合も発進駆動力増大制御を中断してステップS48に移行する。
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能である。
例えば、上記実施形態では、ブレーキ操作検出手段として、ブレーキのオン/オフを検出するブレーキスイッチ35をフットブレーキとサイドブレーキの双方に設けたが、フットブレーキのみにブレーキペダルの変位をリニアに検出するポジションセンサ(図略)を設け、サイドブレーキのブレーキスイッチ35とこのポジションセンサとによって、全てのブレーキが解除されたことを検出するとともに、ブレーキ解除に伴うブレーキペダルの操作速度(時間当りのブレーキペダル変位量の割合)を検出してもよい。このようにブレーキペダルの操作速度を検出することで、ブレーキ解除が緩やかに操作されたことを判定し、ブレーキ解除に基づくスロットル開度Kの増大とオルタネータ28の目標発電量の増大を共に無くす、もしくはその増大量を共に僅かなものにすることができる。
こうすることで、ブレーキが解除されたにも関わらず急加速要求が殆どない状態において、加速に備えた吸入空気量の増大(エンジン回転速度の増大)とオルタネータ28の目標発電流の増大が殆ど無くなり、燃料消費を少なくできる。
また、エンジン本体1に自動変速機50が接続されているため、ブレーキ解除が緩やかに操作されたときはエンジン回転数の上昇が抑制されて、極低速のクリープ走行が確保できる。
また、補機として必ずしもオルタネータ28を用いる必要はなく、エンジンの負荷となる他の補機、例えばエアコンのコンプレッサ等を用いても良い。但し、比較的負荷の大きなオルタネータ28を用いることにより、時点t2(第2時点)における大きな負荷低減代を得ることができる。またその発電量Altを調節することによって負荷をきめ細かく増減させることができる。さらに、負荷の増大が発電量Altの増大に直結するが、余分に発電した電気をバッテリ55に蓄電することができるので、エネルギーを有効利用することができる。
時点t1’(第1時点)および時点t2(第2時点)におけるオルタネータ発電量の第1目標値Ibおよび第2目標値Icは、上記値に限定するものではなく、Ib>Icの範囲内で如何なる設定を行っても良い。また、時点t1以降のエンジン回転速度Neの目標値N2も上記値に規定するものではない。但し、運転者に違和感を与えないように、N2は1000rpm程度以下とするのが好ましい。
上記実施形態では、時点t2における加速要求度合が小さいときには発進駆動力増大制御を中断するようにしたが、必ずしもそうする必要はなく、加速要求度合にかかわらず、常に発進駆動力増大制御を実行するようにしても良い。