JP4720338B2 - 複合材料の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、基材表面に重合体層を有する複合材料の製造方法、特に重合体層として導電性重合体を有する固体電解コンデンサ素子の製造方法及びこの方法により製造されるコンデンサ素子、それを用いたコンデンサ等に関する。
基材表面に重合体層を有する複合材料は種々の分野で用いられている。例えば、近年、電気機器のディジタル化、パーソナルコンピュータの高速化に伴い、小型で大容量のコンデンサ、高周波領域において低インピーダンスのコンデンサが要求され、電子伝導性を有する導電性重合体を固体電解質として用いた固体電解コンデンサが提案されている。
固体電解コンデンサの基本素子(6)は、一般に、図1に示すようにエッチング処理された比表面積の大きな金属箔からなる陽極基体(1)に誘電体の酸化皮膜層(2)を形成し、この外側に対向する電極として固体の半導体層(以下、固体電解質という。)(3)を形成し、望ましくはさらに導電ペーストなどの導電体層(4)を形成して作製される。通常は固体電解質(3)(陰極部分)と陽極基体(1)との絶縁を確実とするためにさらにマスキング層(5)が設けられ、適宜、電極が付加される。
一般に、誘電体酸化皮膜上に導電性重合体を形成する手法として電解酸化重合法及び化学酸化重合法が知られている。化学酸化重合法は、反応の制御あるいは重合膜形態の制御が難しいが、固体電解質の形成が容易で、短時間に大量生産が可能であるため種々の方法が提案されている。例えば、陽極基体をモノマーを含む溶液に浸漬する工程と酸化剤を含む溶液に浸漬する工程を交互に繰り返すことにより層状構造を有する固体電解質を形成する方法が開示されている(特許文献1:特許第3187380号公報)。この方法によれば、膜厚が0.01〜5μmの層状構造の固体電解質層を形成することによって、高容量、低インピーダンス、かつ耐熱性に優れた固体電解コンデンサを製造することができるが、固体電解質層を形成する層状構造部の層間の空間部分が大きいため、コンデンサ素子を複数積層する積層型コンデンサ用の素子として、固体電解質層全体のいっそうの薄膜化が求められている。
また、層状構造の固体電解質層を形成することなく、コンデンサ素子の細孔内及び外表面に固体電解質を形成する方法として、モノマー化合物を含む溶液に陽極基体を浸漬した後、酸化剤溶液中で重合し、酸化剤を洗浄した後に乾燥するサイクルを繰り返す方法が開示されている(特許文献2:特開平9-306788号公報)。
このように、いずれの製造方法でも固体電解コンデンサ素子用導体(陽極基体)をモノマー含有溶液及び酸化剤含有溶液に浸漬し引き上げる操作を含むため、浸漬及び引き上げ操作を効率的に行なう必要がある。このため、通常、固体電解コンデンサ素子の製造においてはテンポラリーバーと称される支持板とこの支持板を複数本保持できるハンドリングフレームと称される枠を用いて複数の素子を同時に処理している。また、一般的に浸漬操作に係る時間より、重合反応に係る時間の方が長いため、複数のハンドリングフレームを準備し、順番に浸漬操作を行い、順次反応炉に投入することで同一時間内に多数の固体コンデンサ素子を得られるように工夫されている。
特許第3187380号公報 特開平9-306788号公報
得られた素子から所定の容量の固体電解コンデンサを得るためには、図2に示すように、通常、コンデンサ素子(6)を複数個積層して陽極端子に陽極リード線(7)を接合し、固体電解質層を含む導電体層には陰極リード線(8)を接続し、さらに全体をエポキシ樹脂(9)等で完全に封止してコンデンサ部品とする。このため、個々のコンデンサ素子の固体電解質層(3)の厚さが不均一であると、積層時に素子ずれなどの不具合を生じたり、積層後の厚さが厚くなり過ぎて封止の際の未封止につながるという問題がある。従って、コンデンサ素子の陰極部分の固体電解質の重合条件を綿密にコントロールして固体電解質層の厚さを調節する必要がある。しかし、テンポラリーバーとハンドリングフレームを用いた方法で製造されるコンデンサ用素子では、同一バッチで製造しているにも拘わらず、ハンドリングフレーム間で、固体電解質層(4)の厚さが十分に均一にならない場合があり、その解決策が求められていた。
このように、基材表面に重合体層を有する複合材料では、重合体層を均一かつ効率的に形成することが求められる。特に低背化の要求の強い積層型固体電解コンデンサでは、コンデンサ素子の効率的生産を図りつつ素子表面に重合体層を均一に形成する必要がある。従って、本発明の課題は、上記の問題点を解決し、厚さのバラツキが小さい重合体層を有する複合材料、特に積層型固体電解コンデンサ等に適したコンデンサ素子及びその製造方法を提供することにある。
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、複数の基材にモノマー含有液を付着させ、次いで酸化剤含有液に順次浸漬させる工程を繰り返し行なうことにより基材表面上に重合体層を形成する複合材料の製造方法において、モノマー含有液を付着させた基材の浸漬順序を変えて繰り返しを行なうことで厚さのバラツキが小さい重合体層を有する複合材料が得られること、特にこの方法は積層型等の固体電解コンデンサ用素子の製造方法に適していること、なかでも、ハンドリングフレームにセットした複数の固体コンデンサ素子用導体を、モノマーを含む溶液と酸化剤を含む溶液に順次浸漬して引き上げる工程を有する固体電解コンデンサの製造方法において有用であることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明は以下に示す複合材料の製造方法、固体電解コンデンサ素子の製造方法、その製造方法により製造される固体電解コンデンサ素子及び固体電解コンデンサ並びに前記製造方法を採用する製造装置に関する。
1.複数の基材にモノマー含有液を付着させ、次いで酸化剤含有液に順次浸漬させる工程を繰り返し行なうことにより基材表面上に重合体層を形成する複合材料の製造方法において、モノマー含有液を付着させた基材の浸漬順序を変えて繰り返しを行なうことを特徴とする複合材料の製造方法。
2.前記工程の繰り返しごとに基材の浸漬順序の変更を行なう前記1に記載の複合材料の製造方法。
3.浸漬順序をランダムに並べ替えることで浸漬順序の変更を行なう前記1または2に記載の複合材料の製造方法。
4.浸漬順序をずらすことで浸漬順序の変更を行なう前記1または2に記載の複合材料の製造方法。
5.前記繰り返し工程のいずれかの途中で酸化剤含有液の一部又は全部を新液に交換する前記1〜4のいずれかに記載の複合材料の製造方法。
6.前記繰り返し工程のいずれかの終了後、次の繰り返し工程の前に酸化剤含有液の一部又は全部を新液に交換する前記1〜4のいずれかに記載の複合材料の製造方法。
7.モノマー含有液を付着させた複数の基材を複数の支持部材に保持し、前記浸漬操作を支持部材ごとに行なう請求項1〜6のいずれかに記載の複合材料の製造方法。
8.基材が表面に多孔質層を有する弁作用金属であり、モノマーが導電性重合体のモノマーである前記1〜7のいずれかに記載の複合材料の製造方法。
9.製造される複合材料が固体電解コンデンサ素子である前記8に記載の固体電解コンデンサ素子の製造方法。
10.前記9に記載の方法により製造される固体電解コンデンサ素子。
11.前記10に記載の固体電解コンデンサ素子を用いることを特徴とする固体電解コンデンサ。
12.前記10に記載のコンデンサ素子を複数積層してなる積層型固体電解コンデンサ。
13.前記9に記載の製造方法を採用する固体電解コンデンサ製造装置。
本発明によれば、重合体層厚のバラツキの少ない複合材料、特に固体電解質層厚のバラツキが少ないコンデンサ素子を安定して効率的に作製でき、積層時の箔ずれ等の不具合が発生しにくく、封止時の未封止が発生しにくい積層型固体電解コンデンサに適した固体電解コンデンサ素子を提供することができる。
本発明は、複数の基材にモノマー含有液を付着させ、次いで酸化剤含有液に順次浸漬させる工程を繰り返し行なうことにより基材表面上に重合体層を形成する複合材料の製造方法において、モノマー含有液を付着させた基材の浸漬順序を変えて繰り返しを行なうことを特徴とする。すなわち、従来法では、図3に模式的に示すように各基材11は一定の順序(図ではa=>b=>c=>d=>e=>f)で処理施設内を搬送され(図では左から右に搬送されている。)、その途中で酸化剤含有液12に浸漬される。この工程は循環的であり、各基材11は固定された順序で繰り返し酸化剤含有液12に浸漬される(図3の2段目)。ここでは2巡目まで図示するが、以下も同様にa=>b=>c=>d=>e=>fの順で浸漬が行なわれる。
これに対し、本発明では、基材の浸漬順序を変えて前記繰り返しを行なう。すなわち、図4に例示するように、1巡目の基材の浸漬順序(図ではa=>b=>c=>d=>e=>fの順)とは異なる順序(図ではc=>f=>a=>e=>b=>d)で、2巡目の浸漬を行なう。ここでは2巡目まで図示するが、以下も同様である。
基材の浸漬順序の変更は、工程を繰り返す都度、すなわち、所定数の基材(図4ではa〜f)の処理を一回行なう度に変更してもよいし、適当な回数、同じ順序での処理を繰り返した後、順序を変更してもよい。例えば、図4の例では、1巡目と2巡目と同様に以後も各工程サイクルで浸漬順序を変更してもよい。あるいは、1巡目と2巡目の浸漬順序を同一とし2巡目以後の浸漬順序を変更するなど、同一の浸漬順序での繰り返しと異なる浸漬順序での繰り返しが混在してもよい。一般的には、所定数の基材の処理を1セットとする浸漬工程を複数回繰り返す場合、少なくともそのいずれか1の工程が他の工程と異なる浸漬順序であればよい。
もっとも、好ましくは、各基材が平均して酸化剤含有液に浸漬されるように順序を設定する。すなわち、図4の例で浸漬工程をn回繰り返す場合、基材a〜fがk巡目(1≦k≦n)の繰り返し工程において浸漬される順番をそれぞれak〜fkで表わすとすると、Σak〜Σfk(ここで、Σak等はそれぞれ、a1+・・・+an等を表わす。)がなるべく等しく、すなわち、狭い範囲内に含まれるようにする。
このような条件は、例えば、浸漬順序をランダムに並べ替えることで満たすことができる。また、a=>b=>c=>d=>e=>fの次の工程をb=>c=>d=>e=>f=>aの順序で行なうなど、浸漬順序をずらしてもよい。なお、本願において「浸漬順序をずらす」とは、上記例のように基材の浸漬順序を全体として1ずつシフトさせることのほかにa=>b=>c=>d=>e=>fの次の工程をc=>d=>e=>f=>a=>bの順序で行なうなど、2ずつ(またはそれ以上)のシフトをも含む。もっとも、これらは例示であり、各基材が上記の意味で平均して酸化剤含有液に浸漬されるのであれば、他の並べ替え方法を採ってもよい。
さらに、本発明の好ましい態様では、前記繰り返し工程のいずれかの途中で酸化剤含有液の一部又は全部を新液に交換する。あるいは、新液への交換は、前記繰り返し工程のいずれかの終了後、次の繰り返し工程の前に行なってもよい。交換は各工程について毎回行なってもよいし、数回おきに行なってもよい。部分的交換を行なう場合、その比率は特に限定されないが、例えば、浸漬液全量の5%以上、好ましくは10%以上とする。
本発明においては、酸化剤含有液の一部又は全部の交換により浸漬順序の変更を生じさせることもできる。
例えば、a=>b=>c=>d=>e=>fの6個の基材を処理する場合、6個以外、例えば、5個の基材の処理が終わった時点(すなわち、基材eと基材fの間)で酸化剤含有液の交換を行なうとすれば、fから新たな工程を開始したと同視できる。つまり、以後も5個の基材の処理が終わった時点酸化剤含有液の交換を行なうと、
1巡目 a=>b=>c=>d=>e=>*=>f
2巡目 a=>b=>c=>d=>*=>e=>f
3巡目 a=>b=>c=>*=>d=>e=>f
4巡目 a=>b=>*=>c=>d=>e=>f
・・・
(上記順列中、*は新液との交換を表わす。)、液組成は新液の交換で不連続的に変化しているから、実質的には
第1回 a=>b=>c=>d=>e=>*
第2回 f=>a=>b=>c=>d=>*
第3回 e=>f=>a=>b=>c=>*
第4回 d=>e=>f=>a=>b=>*
・・・
のように、各回ごとに基材の浸漬順序を1ずつシフトさせていることになる。本願において「浸漬順序をずらす」ことには、このような態様も含まれる。なお、この場合も、新液との交換を一定回数ごとに必ず行なう必要はなく、交換する間隔は任意である。一般的には、x個の基材の処理を1サイクルとする浸漬工程を繰り返す場合、少なくともそのいずれか1の工程の途中で(すなわち、x個未満またはx個を超える数の基材の処理が済んだ時点で)液の交換を行なえばよい。なお、上述のように繰り返し工程内で実際に浸漬順序を変更する場合は、繰り返し工程のいずれかの終了後、次の繰り返し工程の前に液の交換を行なってもよい。
なお、図4には示していないが、繰り返し工程のいずれかの終了後、次の繰り返し工程の前に種々の処理を行なってもよい。例えば、浸漬処理の前にはモノマー含有液の付着を行なうことが好ましいし、浸漬処理の後には重合促進炉への投入を行なうことが好ましい。モノマー含有液の付着は、モノマー含有液への浸漬、モノマー含有液の塗布、モノマー含有液の噴霧等、任意の付着方法を含む。
本発明は、モノマー含有液を付着させた複数の基材を複数の支持部材に保持し、前記浸漬操作を支持部材ごとに行なうことも可能である。この態様は、上記の説明及び図4において基材として示したa〜fを、それぞれ支持部材に保持された基材の集合体に読み替えたものに相当する。
本発明で製造される複合材料は、基材上に酸化重合による高分子層を有するものであれば特に限定されず、本発明は基材やモノマーの種類を問わず適用できる。その用途も酸化重合による高分子層との複合が有利なものであれば特に限定されない。
もっとも、本発明は、特に、基材が表面に多孔質層を有する弁作用金属であり、モノマーが導電性重合体である複合材料、特に固体電解コンデンサ素子の製造方法において特に有用である。すなわち、前述したように、固体電解コンデンサ素子の製造においては、複数のコンデンサ素子製造用基材をテンポラリーバーと称される支持板に保持し、さらにこの支持板を複数本保持できるハンドリングフレームと称される枠を用いて複数の基材を同時に処理しているが、本発明は、このようにテンポラリーバーまたはハンドリングフレームを複数個用い、連続してモノマー含有の付着、酸化剤含有溶液への浸漬操作、重合促進炉への投入操作を行なう固体電解コンデンサの製造方法において、特に有用である。この態様は、上記の説明及び図4において基材として示したa〜fを、それぞれテンポラリーバーまたはハンドリングフレーム(正確にはこれらに保持された基材の集合体)に読み替えたものに相当する。
典型的には、固体電解コンデンサ素子用基材をテンポラリーバーに取り付け、さらにこのテンポラリーバーを複数保持するハンドリングフレームを複数個用い、これらのハンドリングフレームに保持された基材に順次、モノマー含有液を付着させ、酸化剤含有溶液に浸漬し、重合促進炉に投入する操作を含む工程を複数回繰り返して重合体層を形成する固体電解コンデンサの製造方法において、ハンドリングフレームの順序を変更して酸化剤含有溶液への浸漬を行なう。
順序の変更は上述した通りであり、前記工程の繰り返しごとにハンドリングフレームの順序を変更して基材の浸漬を行なってもよいし、適当な回数ごとにハンドリングフレームの順序を変更して基材の浸漬を行なってもよい。また、順序の変更はハンドリングフレームをランダムに並べ替えることで行なってもよいし、工程ごとにハンドリングフレームの順序をずらすことで行なってもよい。また、前記繰り返し工程のいずれかの途中で酸化剤含有液の一部又は全部を新液に交換することで実質的にハンドリングフレームの順序をずらしてもよい。あるいは、ハンドリングフレームの順序を実際に変更した上で、前記繰り返し工程のいずれかの終了後、次の繰り返し工程の前に酸化剤含有液の一部又は全部を新液に交換してもよい。
本発明において一工程または酸化剤溶液を交換するまでに処理されるコンデンサ素子用基材(以下、単に「素子」ともいう。)の数は、各溶液の種類、処理条件に依存し特に限定されないが、概ね5000〜100000素子の間、さらに好ましくは、50000〜150000素子が望ましい。酸化剤溶液の交換・混合までに処理される素子数が少ないと、1素子あたりに使用される酸化剤量が多く必要となり、素子数が多すぎると酸化剤溶液の劣化が進みやすい。
本発明が固体電解コンデンサ素子の製造において特に優れた効果を奏する理由としては、(1)複数個のハンドリングフレームに保持された基材の集合体は順次、モノマー含有溶液、酸化剤含有溶液に浸漬されていくため、酸化剤浸漬槽内に不純物として混入するモノマー・オリゴマーなどの含有量が増加していくこと、(2)ハンドリングフレームの浸漬順は、従来法では毎回変更されず、このため、酸化剤溶液中の不純物の影響が累積的に増加していき、各サイクルで最初のハンドリングフレームに保持されたコンデンサ素子と最後のハンドリングフレームに保持されたコンデンサ素子とでは固体電解質の量、厚さが不均一になるなど、コンデンサ素子間での固体電解質層の量や質のバラツキが拡大すること、(3)これらは、上記の意味でハンドリングフレームの順序を変えること、及び酸化剤溶液の一部又は全量を新液と置換させることによって制御し得ること等が考えられる。
すなわち、従来法では、浸漬すべき素子数百〜数千枚を1つの支持枠にあつめ、且つこの支持枠を数10個連続で浸漬から固体電解質形成操作を行う。通常この浸漬から固体電解質形成操作は数回から数十回繰り返して行われる。数10個の支持枠による浸漬処理を実施することにより、酸化剤溶液中へのモノマー混入量が徐々に増加し、それに伴い、先頭側のハンドリングフレームに比較して、末尾側のハンドリングフレームの素子への付着量が増加することになる。このため、末尾側のハンドリングフレームで処理された素子は相対的に厚くなる。本発明は、この経時的な不均一化を解消ないし防止するものであり、ハンドリングフレームの順序を変えること、及び酸化剤溶液の一部又は全量を新液と置換させるにより時間経過にかかわらず素子へのモノマー付着量を均一化する。もっとも、本発明では、層厚が全体として抑制されており、本発明の効果は上記機構によるものには限定されない。
固体電解コンデンサ素子の陽極基体用導体は一般的には、弁作用を有する金属である。本発明に使用できる弁作用を有する金属は、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタン、ジルコニウム、マグネシウム、珪素などの金属単体、またはこれらの合金である。また多孔質の形態については、圧延箔のエッチング物、微粉焼結体などの多孔質成形体の形態であればいずれでもよい。さらに、この金属多孔体の表面に誘電体酸化皮膜を形成する方法は、公知の方法を用いることができる。例えば、アルミニウム箔を使用する場合には、ホウ酸、リン酸、アジピン酸、またはそれらのナトリウム塩、アンモニウム塩などを含む水溶液中で陽極酸化して酸化皮膜を形成することができる。また、タンタル粉末の焼結体を使用する場合には、リン酸水溶液中で陽極酸化して、焼結体に酸化皮膜を形成することができる。
固体電解質は陰極として形成される。そのためには、通常、モノマー含有溶液の付着に続けて酸化剤含有溶液への浸漬が行なわれる。モノマー含有溶液の付着及び各溶液の成分は、固定電解質の形成に適している限りにおいて得に限定されないが、典型的には以下の通りである。
モノマーを含む溶液に浸漬後乾燥し、誘電体表面上及び重合体組成物上にモノマーを供給する。さらに、誘電体表面上及び重合体組成物上にモノマーを均一に付着させるためにモノマー含有液を含浸後、一定の時間空気中で放置し溶媒を気化させる。この条件は溶媒の種類によって変わるが、概ね0℃以上から溶媒の沸点までの温度で行う。放置時間は、溶媒の種類によって変わるが、概ね5秒〜15分、例えばアルコール系溶媒では、5分以内でよい。この放置時間を設けることによりモノマーが誘電体表面上に均一に付着し、さらに次工程の酸化剤含有液への浸漬時の汚れを少なくすることができる。
次の工程として適用される酸化剤溶液の浸漬時間は、酸化剤成分が金属箔基板の誘電体表面上に付着するに十分な時間以上であればよく、通常15分未満、好ましくは0.1秒〜10分、より好ましくは1秒〜7分とする。
酸化剤としては、水溶液系の酸化剤と有機溶剤系の酸化剤が挙げられる。水溶液系の酸化剤としては、ペルオキソ二硫酸及びそのNa塩、K塩、NH4塩、硝酸セリウム(IV)、硝酸セリウム(IV)アンモニウム、硫酸鉄(III)、硝酸鉄(III)、塩化鉄(III)等が挙げられる。また、有機溶剤系の酸化剤としては、有機スルホン酸の第二鉄塩、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸鉄(III)、p−トルエンスルホン酸鉄(III)等が挙げられる。
酸化剤溶液の溶媒としては、例えばテトラヒドロフラン(THF)やジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、ベンゾニトリル、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の非プロトン性極性溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、または水あるいはこれらの混合溶媒を用いることができる。好ましくは、水、アルコール類またはケトン類あるいはそれらの混合系が望ましい。
なお、酸化剤溶液の濃度は特に限定されないが5〜50質量%が好ましく、また酸化剤溶液の温度は−15〜60℃が好ましい。
固体電解質を形成する導電性重合体はπ電子共役構造を有する有機重合体モノマーの重合体であり、重合度2以上2000以下、より好ましくは3以上1000以下、さらに好ましくは5以上200以下である。具体例としては、チオフェン骨格を有する化合物、多環状スルフィド骨格を有する化合物、ピロール骨格を有する化合物、フラン骨格を有する化合物、アニリン骨格を有する化合物等で示される構造を繰り返し単位として含む導電性重合体が挙げられる。
モノマーとしては、チオフェン骨格または多環状スルフィド骨格を有する化合物が好ましい。これら化合物の重合条件等には特に制限はなく、簡単な実験により予め好ましい条件を確認した上で容易に実施することができる。
また、上記モノマー群から選ばれる化合物を併用し、共重合体として固体電解質を形成させても良い。その時の重合性単量体の組成比などは重合条件等に依存するものであり、好ましい組成比、重合条件は簡単なテストにより確認できる。
こうして形成された導電性重合体組成物層の上に、陰極リード端子との電気的接触を良くするために導電体層を設けることが好ましい。導電体層は例えば導電ペースト、メッキや蒸着、導電樹脂フィルムの貼付等により形成される。
かくして得られる固体電解コンデンサ素子は、通常、単独でまたは(例えば、図2に示すように)積層し(但し、この形態に限定されない)、リード端子を接続して、例えば樹脂モールド、樹脂ケース、金属製の外装ケース、樹脂ディッピング等による外装を施すことにより、各種用途のコンデンサ製品とする。
以下に本発明について代表的な例を示し、さらに具体的に説明する。なお、これらは説明のための例示であって、本発明はこれらに何等制限されるものではない。
実施例1
(a)支持板への導体の取り付け
アルミニウム箔表面に慣用の方法により化成処理を施して形成したアルミニウム化成箔(厚み100μm)を1片が3mm×10mmの矩形状となるように切り出した。この化成箔30枚を短辺(3mm)側の端部から2mm迄がステンレス鋼製支持板(224mm×15mm×1.0mm(SUS304製)。以下、テンポラリーバーという。)に重なるように4mm間隔で1列に溶接した。次いで、各化成箔について、長軸方向を4mmと5mmの部分に区切るように、両面に幅1mmのフッ素樹脂を周状に塗布、乾燥させマスキングを作成した。このテンポラリーバー100本を一つの支持枠(以下ハンドリングフレームという)にセットし、同様にテンポラリーバー入りのハンドリングフレームを25セット(No.1〜No.25)準備した。
(b)導体表面への皮膜形成
上記のハンドリングフレームNo.1〜No.25を、順次、5質量%アジピン酸アンモニウム水溶液上に移動させ、前記溶液に向けて垂直に降下させることにより、各化成箔の3mm×4mmの部分を溶液に浸漬させ、そのまま、4Vの電圧を印加して切り口部分に化成し、誘電体酸化皮膜を形成した。
(c)モノマー溶液への浸漬と引き上げ
次に、これらのハンドリングフレームNo.1〜No.25を、順次、3,4−エチレンジオキシチオフェンを溶解させた2.0mol/Lのイソプロピルアルコール(IPA)溶液(モノマー溶液)上に移動させ、前記溶液に向けて垂直に降下させることにより、各化成箔の3mm×4mmの部分を溶液に3秒間浸漬させた。引き続き次々に25個のハンドリングフレームを連続処理し、室温で2分間乾燥した。
(d)酸化剤溶液への浸漬とその後の処理
一方、20質量%の過硫酸アンモニウム水溶液(酸化剤溶液)を調整し、酸化剤槽に所定量を張り込み、前記のハンドリングフレームNo.1(先頭HF)をこの溶液上に移動し、各化成箔の3mm×4mmの部分を前記溶液に5秒間浸漬させた。その後、10分間重合促進槽に保持し、重合膜を形成させた。引き続き、No.2〜No.24までのハンドリングフレームを処理した。その後、酸化剤槽から酸化剤溶液を全量抜き出し、新液を補給したのち最終ハンドリングフレーム(No.25)を浸漬させ、重合促進槽に投入した。
(e)繰り返し操作
次に、重合促進処理が完了した先頭ハンドリングフレーム以降をモノマー溶液に浸漬し、室温で2分間乾燥後、酸化剤溶液に浸漬させた。この2巡目の浸漬では、No.23のハンドリングフレーム処理後に酸化剤溶液を全量交換し、その後、No.24、No.25のハンドリングフレームの処理を実施した。酸化剤溶液への浸漬後、いずれも、再度重合促進槽に投入した
同様に、以下、酸化剤溶液の交換後、24個のハンドリングフレームを処理するごとに酸化剤溶液を新液と交換しながら、20巡目まで重合を終了した。最終的に生成したポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を50℃温水中で洗浄し、その後、110℃で10分乾燥を行い、固体電解質層を形成した。
上記の重合後の各ハンドリングフレームからテンポラリーバー20本をサンプリングし600個の素子の平均厚みを算出、25ハンドリングフレーム分のデータを採取した。素子厚の結果を表1に、またハンドリングフレームの順番と平均素子厚の推移を図5にまとめて示す。
(f)コンデンサの製造
次に、固体電解質層を形成した3mm×4mmの部分を、5質量%アジピン酸アンモニウム溶液中に浸漬し、再化成を行なった。
さらに、上記アルミニウム箔の導電性重合体組成物層を形成した部分にカーボンペーストと銀ペーストを付着させて上記アルミニウム箔を4枚積層し、陰極リード端子を接続した。また、導電性重合体組成物層の形成されていない部分には陽極リード端子を溶接により接続した。この素子をエポキシ樹脂で封止した後、125℃で定格電圧(2V)を印加して2時間エージングを行い、コンデンサを完成させた。
実施例2
実施例1の酸化剤溶液の置換量を全体の15%(使用後の酸化剤溶液のうち15%を廃棄し、新液を補給した)にした以外は、実施例1と同様にして、固体電解質層を形成した。実施例1と同様にして測定した結果を表1、図5にまとめて示す。
比較例1
25個のハンドリングフレームを処理するごとに、実施例1と同様に酸化剤溶液全量交換を実施して、固体電解質層を形成した。同様にして測定した結果を表1、図5に示す。
比較例2
25個のハンドリングフレームを処理するごとに、実施例2と同様に酸化剤溶液の15%を新液と交換して、固体電解質層を形成した。同様にして測定した結果を表1、図5に示す。
Figure 0004720338
上記表及び図5に示すように、ハンドリングフレームを実質的に1個ずつずらして酸化剤浸漬処理を行なった実施例では、ずらさないで浸漬させた比較例と比べそれぞれ固体電解質層の膜厚が全体として平均化される。比較例では、全体として先頭HFから最終HFまで素子厚みが増加する傾向が見られるが、本発明では、ハンドリングフレームの順序を実質的に変更することによる厚みの増加を防止できる。また、異常に層厚が厚い素子が生じる問題が解消され、全体としての歩留まり向上につながる。さらに、これらの実施例ではハンドリングフレームの搬送順は変えなくてよいため、設備や機器制御に大きな変更が必要ない。
実施例3
ハンドリングフレームの処理順序を各サイクルでランダムに変更し、25個のハンドリングフレームを処理するごとに酸化剤溶液全量交換を実施した以外は実施例1と同様にして固体電解質層を形成した。各サイクルの処理順序はコンピュータで適宜生成した乱数により決定した。実施例1と同様に素子のサンプリングを行ない、素子厚を測定した。同様の実験を3回繰り返した。ハンドリングフレーム間の平均素子厚のバラツキ(σ)は2.21であり、平均素子厚は210.5μmであった。
実施例4
ハンドリングフレームの処理順序を各サイクルでランダムに変更し、25個のハンドリングフレームを処理するごとに酸化剤溶液を交換を実施した以外は実施例2と同様にして固体電解質層を形成した。各サイクルの処理順序はコンピュータで適宜生成した乱数により決定した。実施例2と同様に素子のサンプリングを行ない、素子厚を測定した。同様の実験を3回繰り返した。ハンドリングフレーム間の平均素子厚のバラツキ(σ)は2.83であり、平均素子厚は216.2μmであった。
さらに、上記各実施例及び比較例について、完成したコンデンサ(素子4枚積層)を任意に抽出し、初期特性として120Hzにおける容量と損失係数(tanδ×100(%))、等価直列抵抗(ESR)及び漏れ電流を測定した。なお、漏れ電流は定格電圧を印加して1分後に測定した。その結果、いずれの場合も、本発明の製品(実施例製品)は比較例製品に対して優っていた。
本発明の方法によれば、固体電解質層の層厚の制御、特に層厚の平均化が可能になるため、電気特性の均一化された固体電解コンデンサを得ることができる。特に積層時に素子ずれ等の不具合発生が少なく、封止時に未封止製品の生じにくい積層型固体電解コンデンサの製造方法が提供される。なお、本発明の方法は、酸化重合を用いる複合材料全般においても有用である。
固体電解コンデンサ用コンデンサ素子の典型的な構造を示す断面図。 コンデンサ素子を積層して得られる固体電解コンデンサの典型的な構造を示す断面図。 従来法による基材の酸化剤浸漬工程を模式的に示す説明図。 本発明の一態様による基材の酸化剤浸漬工程を模式的に示す説明図。 実施例及び比較例におけるハンドリングフレーム(HF)No.1〜N.25の素子厚みの変化を示すグラフ。
符号の説明
1 陽極基体
2 酸化皮膜層
3 固体電解質層
4 導電体層
5 マスキング層
6 コンデンサ素子
7 陽極
8 陰極
9 封止剤
11 基材
12 酸化剤

Claims (9)

  1. 複数の基材にモノマー含有液を付着させ、次いで酸化剤含有液に順次浸漬させる工程を繰り返し行なうことにより基材表面上に重合体層を形成する複合材料の製造方法において、モノマー含有液を付着させた基材の浸漬順序を変えて繰り返しを行なうことを特徴とする複合材料の製造方法。
  2. 前記工程の繰り返しごとに基材の浸漬順序の変更を行なう請求項1に記載の複合材料の製造方法。
  3. 浸漬順序をランダムに並べ替えることで浸漬順序の変更を行なう請求項1または2に記載の複合材料の製造方法。
  4. 浸漬順序をずらすことで浸漬順序の変更を行なう請求項1または2に記載の複合材料の製造方法。
  5. 前記繰り返し工程のいずれかの途中で酸化剤含有液の一部又は全部を新液に交換する請求項1〜4のいずれかに記載の複合材料の製造方法。
  6. 前記繰り返し工程のいずれかの終了後、次の繰り返し工程の前に酸化剤含有液の一部又は全部を新液に交換する請求項1〜4のいずれかに記載の複合材料の製造方法。
  7. モノマー含有液を付着させた複数の基材を複数の支持部材に保持し、前記浸漬操作を支持部材ごとに行なう請求項1〜6のいずれかに記載の複合材料の製造方法。
  8. 基材が表面に多孔質層を有する弁作用金属であり、モノマーが導電性重合体のモノマーである請求項1〜7のいずれかに記載の複合材料の製造方法。
  9. 製造される複合材料が固体電解コンデンサ素子である請求項8に記載の固体電解コンデンサ素子の製造方法。
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