ディスクとローラとの間にマクロスリップが発生する場合は、ディスクとローラとの接触部における滑り率がトラクション係数最大時の滑り率より大きくなってトラクション係数が最大値より低下した場合である。したがって、マクロスリップを防止するとともに動力伝達効率を向上させるためには、ディスクとローラとの間におけるトラクション係数が最大値近傍になる状態を精度よく検出できることが望ましい。
特許文献1においては、入力ディスク回転数及び出力ディスク回転数から算出される変速比とローラ傾転角から算出される変速比との差が所定値以上である場合に、入出力ディスクとローラとの間にマクロスリップが発生したと判定している。ただし、これら2種類の変速比の差が所定値以上になったときの滑り率は、ローラ傾転角等のトロイダル式CVTの運転状態に応じて変化することになる。したがって、トロイダル式CVTの運転状態の変化に対して滑り率が異なる条件でマクロスリップを検出することになり、マクロスリップの判定精度が低下してしまう。
このように、特許文献1においては、マクロスリップを検出するときの滑り率がトロイダル式CVTの運転状態の変化に対してばらつく。したがって、ディスクとローラとの間におけるトラクション係数が最大値近傍になる状態を精度よく検出することが困難であり、マクロスリップを精度よく予測することが困難であるという問題点がある。
本発明は、ディスクとローラとの間におけるトラクション係数が最大値近傍になる状態を精度よく検出することができるトロイダル式CVTの制御装置を提供することを目的の1つとする。また、本発明は、ディスクとローラとの間におけるマクロスリップを防止するとともに動力伝達効率を向上させることができるトロイダル式CVTの制御装置を提供することを目的の1つとする。
本発明に係るトロイダル式CVTの制御装置は、上述の目的の少なくとも一部を達成するために以下の手段を採った。
本発明に係るトロイダル式CVTの制御装置は、入出力ディスクとその中間で摩擦係合により入出力ディスク間の動力伝達を行うローラとを有するトロイダル伝動部材と、入出力ディスクを近づける方向に押圧してローラを挟圧する押圧装置と、ローラの傾転角を変更することで変速比を変更する変速制御部と、を有するトロイダル式CVTにて用いられる制御装置であって、入力ディスクとローラとの接触部及び出力ディスクとローラとの接触部における平均滑り率を入力ディスク接触点回転半径と出力ディスク接触点回転半径とに基づいて算出する平均滑り率算出手段と、該算出された平均滑り率が第1所定値以上になった場合に、入出力ディスクとローラとの間におけるマクロスリップの発生を防止するための制御指令値を出力する制御手段と、を有し、前記平均滑り率算出手段は、入力ディスクトルクまたは入出力ディスク押圧力と、変速比またはローラ傾転角とに基づいてローラ半頂角を算出し、この算出したローラ半頂角と入力ディスク回転数と出力ディスク回転数とローラ傾転角とに基づいて前記平均滑り率を算出することを要旨とする。また、本発明に係るトロイダル式CVTの制御装置では、前記平均滑り率算出手段は、ローラ傾転角をθ、入力ディスク回転数をωi、出力ディスク回転数をωo、ローラ半頂角をΘ、入力ディスクの回転中心からローラの揺動中心までの距離からキャビティ半径を減算した距離をキャビティ半径で割った値をk0とすると、後述の(1)式で表される式を用いて前記平均滑り率Smを算出することを要旨とする。
この本発明においては、入力ディスクとローラとの接触部及び出力ディスクとローラとの接触部における平均滑り率が第1所定値以上になった場合に、入出力ディスクとローラとの間におけるトラクション係数が最大値近傍にあると判定している。このように、平均滑り率と第1所定値との比較によって入出力ディスクとローラとの間におけるトラクション状態を判定することで、ディスクとローラとの間におけるトラクション係数が最大値近傍になる状態を精度よく検出することができ、マクロスリップを精度よく予測することができる。
この本発明に係るトロイダル式CVTの制御装置において、入力ディスクトルク、入力ディスク回転数、出力ディスク回転数、変速比、ローラ傾転角、及びローラ転動面温度の少なくとも1つに基づいて前記第1所定値を設定するものとすることもできる。こうすれば、ディスクとローラとの間におけるトラクション係数が最大値近傍になる状態をさらに精度よく検出することができる。
また、本発明に係るトロイダル式CVTの制御装置は、入出力ディスクとその中間で摩擦係合により入出力ディスク間の動力伝達を行うローラとを有するトロイダル伝動部材と、入出力ディスクを近づける方向に押圧してローラを挟圧する押圧装置と、ローラの傾転角を変更することで変速比を変更する変速制御部と、を有するトロイダル式CVTにて用いられる制御装置であって、入力ディスクとローラとの接触部及び出力ディスクとローラとの接触部における平均滑り率を入力ディスク接触点回転半径と出力ディスク接触点回転半径とに基づいて算出する平均滑り率算出手段と、該算出された平均滑り率の時間変化率が第2所定値以上になった場合に、入出力ディスクとローラとの間におけるマクロスリップの発生を防止するための制御指令値を出力する制御手段と、を有することを要旨とする。
この本発明においては、入力ディスクとローラとの接触部及び出力ディスクとローラとの接触部における平均滑り率の時間変化率が第2所定値以上になった場合に、入出力ディスクとローラとの間におけるトラクション係数が最大値近傍にあると判定している。このように、平均滑り率の時間変化率の増大を捉えることにより、ディスクとローラとの間におけるトラクション係数が最大値近傍になる状態を精度よく検出することができ、マクロスリップを精度よく予測することができる。
この本発明に係るトロイダル式CVTの制御装置において、入力ディスクトルク、入力ディスク回転数、及び出力ディスク回転数の少なくとも1つに基づいて前記第2所定値を設定するものとすることもできる。こうすれば、ディスクとローラとの間におけるトラクション係数が最大値近傍になる状態をさらに精度よく検出することができる。
本発明に係るトロイダル式CVTの制御装置において、前記平均滑り率算出手段は、入力ディスク回転数と出力ディスク回転数とローラ傾転角とに基づいて前記平均滑り率を算出するものとすることもできる。こうすれば、入力ディスクとローラとの接触部及び出力ディスクとローラとの接触部における平均滑り率を精度よく算出することができる。この態様の本発明に係るトロイダル式CVTの制御装置において、前記平均滑り率算出手段は、さらに入力ディスクトルクまたは入出力ディスク押圧力に基づいて前記平均滑り率を算出するものとすることもできる。こうすれば、入力ディスクとローラとの接触部及び出力ディスクとローラとの接触部における平均滑り率をさらに精度よく算出することができる。本発明に係るトロイダル式CVTの制御装置において、前記平均滑り率算出手段は、入力ディスクトルクまたは入出力ディスク押圧力と、変速比またはローラ傾転角とに基づいてローラ半頂角を算出し、この算出したローラ半頂角と入力ディスク回転数と出力ディスク回転数とローラ傾転角とに基づいて前記平均滑り率を算出するものとすることもできる。本発明に係るトロイダル式CVTの制御装置において、前記平均滑り率算出手段は、ローラ傾転角をθ、入力ディスク回転数をωi、出力ディスク回転数をωo、ローラ半頂角をΘ、入力ディスクの回転中心からローラの揺動中心までの距離からキャビティ半径を減算した距離をキャビティ半径で割った値をk0とすると、後述の(1)式で表される式を用いて前記平均滑り率Smを算出するものとすることもできる。
また、本発明の参考例に係るトロイダル式CVTの制御装置は、入出力ディスクとその中間で摩擦係合により入出力ディスク間の動力伝達を行う複数のローラとを有するトロイダル伝動部材と、入出力ディスクを近づける方向に押圧してローラを挟圧する押圧装置と、ローラの傾転角を変更することで変速比を変更する変速制御部と、を有するトロイダル式CVTにて用いられる制御装置であって、複数のローラのうち、いずれか2つのローラにおける傾転角の差が第3所定値以上になった場合に、入出力ディスクとローラとの間におけるマクロスリップを防止するための制御指令値を出力する制御手段を有することを要旨とする。
この本発明の参考例においては、複数のローラのうち、いずれか2つのローラにおける傾転角の差が第3所定値以上になった場合に、入出力ディスクとローラとの間におけるトラクション係数が最大値近傍にあると判定している。このように、異なるローラにおける傾転角の差の増大を捉えることにより、ディスクとローラとの間におけるトラクション係数が最大値近傍になる状態を精度よく検出することができ、マクロスリップを精度よく予測することができる。
この本発明の参考例に係るトロイダル式CVTの制御装置において、入力ディスクトルク、入力ディスク回転数、出力ディスク回転数、変速比、ローラ傾転角、及びローラ転動面温度の少なくとも1つに基づいて前記第3所定値を設定するものとすることもできる。こうすれば、ディスクとローラとの間におけるトラクション係数が最大値近傍になる状態をさらに精度よく検出することができる。
また、本発明に係るトロイダル式CVTの制御装置は、入出力ディスクとその中間で摩擦係合により入出力ディスク間の動力伝達を行うローラとを有するトロイダル伝動部材と、入出力ディスクを近づける方向に押圧してローラを挟圧する押圧装置と、ローラの傾転角を変更することで変速比を変更する変速制御部と、を有するトロイダル式CVTにて用いられる制御装置であって、ローラ傾転角の時間変化率が第3所定値以上になった場合に、入出力ディスクとローラとの間におけるマクロスリップの発生を防止するための制御指令値を出力する制御手段を有することを要旨とする。
この本発明においては、ローラ傾転角の時間変化率が第3所定値以上になった場合に、入出力ディスクとローラとの間におけるトラクション係数が最大値近傍にあると判定している。このように、ローラ傾転角の時間変化率の増大を捉えることにより、ディスクとローラとの間におけるトラクション係数が最大値近傍になる状態を精度よく検出することができ、マクロスリップを精度よく予測することができる。
この本発明に係るトロイダル式CVTの制御装置において、入力ディスクトルク、入力ディスク回転数、及び出力ディスク回転数の少なくとも1つに基づいて前記第3所定値を設定するものとすることもできる。こうすれば、ディスクとローラとの間におけるトラクション係数が最大値近傍になる状態をさらに精度よく検出することができる。
また、本発明の参考例に係るトロイダル式CVTの制御装置は、入出力ディスクとその中間で摩擦係合により入出力ディスク間の動力伝達を行う複数のローラとを有するトロイダル伝動部材と、入出力ディスクを近づける方向に押圧してローラを挟圧する押圧装置と、ローラの傾転角を変更することで変速比を変更する変速制御部と、を有するトロイダル式CVTにて用いられる制御装置であって、複数のローラに関する入出力ディスクとの接触部近傍の温度のうち、いずれか2つのローラに関する接触部近傍の温度差が第5所定値以上になった場合に、入出力ディスクとローラとの間におけるマクロスリップを防止するための制御指令値を出力する制御手段を有することを要旨とする。
この本発明の参考例においては、複数のローラに関する入出力ディスクとの接触部近傍の温度のうち、いずれか2つのローラに関する接触部近傍の温度差が第5所定値以上になった場合に、入出力ディスクとローラとの間におけるトラクション係数が最大値近傍にあると判定している。このように、異なるローラに関する入出力ディスクとの接触部近傍の温度差の増大を捉えることにより、ディスクとローラとの間におけるトラクション係数が最大値近傍になる状態を精度よく検出することができ、マクロスリップを精度よく予測することができる。
この本発明の参考例に係るトロイダル式CVTの制御装置において、入力ディスクトルク、入力ディスク回転数、出力ディスク回転数、変速比、ローラ傾転角、及びローラ転動面温度の少なくとも1つに基づいて前記第5所定値を設定するものとすることもできる。こうすれば、ディスクとローラとの間におけるトラクション係数が最大値近傍になる状態をさらに精度よく検出することができる。
また、本発明に係るトロイダル式CVTの制御装置は、入出力ディスクとその中間で摩擦係合により入出力ディスク間の動力伝達を行うローラとを有するトロイダル伝動部材と、入出力ディスクを近づける方向に押圧してローラを挟圧する押圧装置と、ローラの傾転角を変更することで変速比を変更する変速制御部と、を有するトロイダル式CVTにて用いられる制御装置であって、ローラに関する入出力ディスクとの接触部近傍の温度の時間変化率が第4所定値以上になった場合に、入出力ディスクとローラとの間におけるマクロスリップの発生を防止するための制御指令値を出力する制御手段を有することを要旨とする。
この本発明においては、ローラに関する入出力ディスクとの接触部近傍の温度の時間変化率が第4所定値以上になった場合に、入出力ディスクとローラとの間におけるトラクション係数が最大値近傍にあると判定している。このように、接触部近傍温度の時間変化率の増大を捉えることにより、ディスクとローラとの間におけるトラクション係数が最大値近傍になる状態を精度よく検出することができ、マクロスリップを精度よく予測することができる。
この本発明に係るトロイダル式CVTの制御装置において、入力ディスクトルク、入力ディスク回転数、及び出力ディスク回転数の少なくとも1つに基づいて前記第4所定値を設定するものとすることもできる。こうすれば、ディスクとローラとの間におけるトラクション係数が最大値近傍になる状態をさらに精度よく検出することができる。
また、本発明の参考例におけるトラクション係数が最大値近傍にあると判定するトラクション状態判定手段については、以上に説明した手段を複数組み合わせることもできる。すなわち、本発明の参考例に係るトロイダル式CVTの制御装置は、入出力ディスクとその中間で摩擦係合により入出力ディスク間の動力伝達を行う複数のローラとを有するトロイダル伝動部材と、入出力ディスクを近づける方向に押圧してローラを挟圧する押圧装置と、ローラの傾転角を変更することで変速比を変更する変速制御部と、を有するトロイダル式CVTにて用いられる制御装置であって、入出力ディスクとローラとの間におけるトラクション係数が最大値近傍にあるか否かを判定し、その判定結果を出力するトラクション状態判定手段を有し、該トラクション状態判定手段は、入力ディスクとローラとの接触部及び出力ディスクとローラとの接触部における平均滑り率が第1所定値以上になったか否かと、入力ディスクとローラとの接触部及び出力ディスクとローラとの接触部における平均滑り率の時間変化率が第2所定値以上になったか否かと、複数のローラのうち、いずれか2つのローラにおける傾転角の差が第3所定値以上になったか否かと、ローラ傾転角の時間変化率が第4所定値以上になったか否かと、複数のローラに関する入出力ディスクとの接触部近傍の温度のうち、いずれか2つのローラに関する接触部近傍の温度差が第5所定値以上になったか否かと、ローラに関する入出力ディスクとの接触部近傍の温度の時間変化率が第6所定値以上になったか否かと、の少なくとも2つ以上を判定することで、前記トラクション係数が最大値近傍にあるか否かを判定することを要旨とする。
この本発明の参考例においては、複数の判定方法を用いて入出力ディスクとローラとの間におけるトラクション係数が最大値近傍にあるか否かを判定することにより、ディスクとローラとの間におけるトラクション係数が最大値近傍になる状態をさらに精度よく検出することができ、マクロスリップをさらに精度よく予測することができる。
本発明に係るトロイダル式CVTの制御装置において、前記マクロスリップの発生を防止するために、前記押圧装置による押圧力を増大させるものとすることもできる。こうすれば、ディスクとローラとの間におけるマクロスリップを防止するとともに動力伝達効率を向上させることができる。
本発明に係るトロイダル式CVTの制御装置において、前記マクロスリップの発生を防止するために、入力ディスクに伝達されるトルクを減少させるものとすることもできる。こうすれば、ディスクとローラとの間におけるマクロスリップを防止するとともに動力伝達効率を向上させることができる。
以下、本発明を実施するための形態(以下実施形態という)を図面に従って説明する。
図1には、実施形態に係るトロイダル式CVTの全体構成が示されている。すなわち、エンジンの回転に基づいて回転される入力軸10には、2組の入力ディスク30a、30bが結合されている。この入力ディスク30a、30bは、中央に開口が形成され、外側から中央側に向け徐々に突出する形状を有しており、斜面はその軸方向の断面がほぼ円弧状になっている。また、入力ディスク30aは、図における左側に位置し、入力ディスク30bは図における右側に位置し、両者とも突出する中央が内側に対向するように位置している。入力ディスク30a、30bのそれぞれには、ほぼ同一形状の出力ディスク40a、40bがそれぞれ対向するように配置されている。すなわち、入力ディスク30aと出力ディスク40aが対向配置され、入力ディスク30bと出力ディスク40bとが対向配置されている。従って、軸方向の断面では、入力ディスク30aと出力ディスク40aの斜面が一対の半円を形成し、入力ディスク30bと出力ディスク40bとがもう一対の半円を形成している。
入出力ディスク30a、40aの間にはローラ35a−1、35a−2が挟持され、入出力ディスク30b、40bの間にはローラ35b−1、35b−2が挟持されている。すなわち、ローラ35a−1、35a−2、35b−1、35b−2は一方側が入力ディスク30a、30bに接触し、他方側が出力ディスク40a、40bに接触し、入力ディスク30a、30bの回転トルクを出力ディスク40a、40bに伝達する。また、ローラ35a−1、35a−2は、それぞれトラニオン36a−1、36a−2によって支持されローラ35b−1、35b−2は、それぞれトラニオン36b−1、36b−2によって支持されている。このトラニオン36a−1、36a−2、36b−1、36b−2は、図における紙面に直角な方向に軸を有し、その軸方向に移動可能でかつその軸を中心として回動可能となっている。また、このトラニオン36a−1、36a−2、36b−1、36b−2の軸の半径方向位置が固定されており、ローラ35a−1、35a−2、35b−1、35b−2が入出力ディスク30a、40a、30b、40bから離れないようになっている。
入力軸10は、油圧押圧(エンドロード)機構20に接続される。このエンドロード機構20は、内部に油圧を受け、入力ディスク30a、30bをそれぞれ出力ディスク40a、40b側に押圧することで、入出力ディスク30a、40a、入出力ディスク30b、40b間に挟圧力を生じさせ、これによってローラ35a−1、35a−2、35b−1、35b−2をそれぞれ所定の圧力で入出力ディスク30a、40a、30b、40b間に挟み込む。これによって、入出力ディスク30a、40a、30b、40bとローラ間のスリップを防ぎ、トラクション状態を維持する。なお、軸25は入力軸10と同一の回転をするものであり、この軸25によって入力ディスク30a、30bが回転される。また、入力ディスク30a、30bは、軸25にスラストベアリングを介し連結されており、軸25の軸方向に移動可能になっている。
出力ディスク40a、40bは、軸25にベアリングを介し回転可能に支持されている。この出力ディスク40a、40bの間には、出力ギア45が連結されており、出力ディスク40a、40bと一緒に回転する。出力ギア45には、カウンターギア60がかみ合わされており、このカウンターギア60に出力軸70が連結されている。従って、出力ディスク40a、40bの回転に伴い、出力軸70が回転する。
さらに、このトロイダル式CVTには、油圧ピストン室が設けられており、この油圧ピストン室からの油圧によって、トラニオン36a−1、36a−2、36b−1、36b−2のトラニオン軸方向の変位(トラニオンストローク:ローラオフセット量)が制御される。このトラニオン36a−1、36a−2、36b−1、36b−2のトラニオンストローク(ローラオフセット量)の制御によって、変速比の変更が行われる。なお、トラニオン36a−1、36a−2のストローク(ローラオフセット量)は、トラニオン36a−1、36a−2の中心を結ぶ線が入出力ディスク30、40の中心を通るように相補的に行われ、トラニオン36b−1、36b−2のトラニオンストローク(ローラオフセット量)は、トラニオン36b−1、36b−2の中心を結ぶ線が入出力ディスク30、40の中心を通るように相補的に行われる。
ここで、この変速比の変更について、図2に基づいて説明する。なお、この図2は、入力ディスク30を出力ディスク40の方から見た図であり、入力ディスク30とローラ35をそれぞれ1つだけ示している。図2(a)は、ローラ35が変位していない(トラニオンストローク=0)場合を示しており、ローラ35の回転軸は、入力ディスク30の中心を通る。そして、変速する場合には、トラニオン36をその軸方向にオフセットさせる。例えば、図2(b)に示すように、入力ディスク30が回転してくる方向(図における上側)にオフセットさせる。これによって、ローラ35には、移動した場所における入力ディスク30の円周方向の力がかかり、ローラ35は入力ディスク30の周辺側に移動する力(傾転の力)がかかる。そして、ローラ35のオフセット量(トラニオンストローク)が0に戻ったときには、ローラ35の入力ディスク30と接触する位置が半径方向外側に変位している。これによって、ローラ35の出力ディスク40との接触位置は半径方向内側に変位し、変速比が変化する(アップシフトする)。なお、図における下方向(入力ディスクが遠ざかる側)にトラニオン36をオフセットさせることで、トラニオン36は反対方向に傾転し、ダウンシフトが行われる。
図3には、コントローラ80における変速制御及びディスク押圧力制御のための構成が示されている。図3に示すように、コントローラ80は、変速制御指令値算出部82と、挟圧制御指令値算出部84と、平均滑り率算出部86と、トラクション状態判定部88と、を有している。また、図示しないセンサにより検出された入力ディスク回転数ωi、出力ディスク回転数ωo、ローラ傾転角θ、及びトラニオンストローク(ローラオフセット量)xがコントローラ80に供給される。
変速制御指令値算出部82には、ローラ傾転角θ、目標傾転角θr、及びトラニオンストロークxが入力される。そして、変速制御指令値算出部82は、ローラ傾転角θ、目標傾転角θr、及びトラニオンストロークxに基づいて変速制御指令値を算出して流量制御弁52へ出力する。ここでの変速制御指令値は、目標傾転角θrとローラ傾転角θの偏差と、目標ストローク(0に設定している)とストロークxの偏差と、に基づくフィードバック制御指令値として算出される。この変速制御指令値によって流量制御弁52の駆動制御が行われることで、トロイダル式CVT110におけるトラニオン36の駆動制御が行われ、変速比γの制御が行われる。なお、目標傾転角θrは、例えばアクセル開度及び車速に基づいて設定される。
挟圧制御指令値算出部84には、入力ディスク30への入力トルクTin及び変速比γに基づいて設定された必要挟圧力Fciと、後述するトラクション状態判定部88によるトラクション状態の判定結果と、が入力される。そして、挟圧制御指令値算出部84は、必要挟圧力Fci及びトラクション状態判定結果に基づいて挟圧制御指令値を算出して圧力制御弁54へ出力する。この挟圧制御指令値によって圧力制御弁54の駆動制御が行われることで、トロイダル式CVT110におけるエンドロード機構20内の圧力制御が行われ、入出力ディスク押圧力Faの制御が行われる。この制御によって、入出力ディスク30,40とローラ35との間におけるマクロスリップが防止される。なお、入力トルクTinについては、センサにより直接検出してもよいし、既知の手法により推定してもよい。
平均滑り率算出部86には、入力ディスク回転数ωi、出力ディスク回転数ωo、及びローラ傾転角θが入力される。そして、平均滑り率算出部86は、入力ディスク回転数ωi、出力ディスク回転数ωo、及びローラ傾転角θに基づいて、入力ディスク30とローラ35との接触部及び出力ディスク40とローラ35との接触部における平均滑り率Smを算出してトラクション状態判定部88へ出力する。ここで、動力伝達方向の平均滑り率Smについては、以下の(1)式により算出することができる。
ただし、ri:入力ディスク接触点回転半径(図4参照)、ro:出力ディスク接触点回転半径(図4参照)、Θ:ローラ半頂角(図4参照)、Ro:キャビティ半径(ローラの傾転中心から接触点までの距離、図4参照)、k0:アスペクト比(=Eo/Ro)、Eo:入力ディスクの回転中心から入力ディスクの最下点までの距離(入力ディスクの回転中心からローラの揺動中心までの距離からキャビティ半径Roを減算した距離、図4参照)、である。
さらに、動力伝達方向の平均滑り率Smについては、ローラ回転数ωrを用いた以下の(2)式により算出してもよい。
ただし、rrはローラ接触点回転半径である。ローラ回転数ωrについては、センサにより直接検出してもよいし、入力ディスク回転数ωi、出力ディスク回転数ωo、及びローラ傾転角θに基づいて取得してもよい。
図1のトロイダル式CVTの場合は、ローラ35a−1,35a−2,35b−1,35b−2のいずれかの傾転角をローラ傾転角θとして用いて平均滑り率Smを算出してもよいし、ローラ35a−1,35a−2,35b−1,35b−2の傾転角の平均値をローラ傾転角θとして用いて平均滑り率Smを算出してもよい。また、ローラ35a−1,35a−2,35b−1,35b−2の各々に関して平均滑り率Smを算出し、それらの平均値を算出してもよい。
また、(1)、(2)式におけるローラ半頂角Θについては、理想的には一定であるが、実際には入出力ディスク30,40やトラニオン36の変形により入出力ディスク30,40とローラ35との接触点が理想状態からずれて設計値から変化する。ここで、入力トルクTin(入出力ディスク押圧力Fa)及び変速比γ(ローラ傾転角θ)を変化させた場合のローラ半頂角Θを調べた実験結果を図5に示す。図5に示すように、入力トルクTin(入出力ディスク押圧力Fa)及び変速比γ(ローラ傾転角θ)の変化に対してローラ半頂角Θも変化している。したがって、平均滑り率Smをより精度よく算出するためには、入力トルクTin(または入出力ディスク押圧力Fa)及び変速比γ(またはローラ傾転角θ)に基づいて算出されたローラ半頂角Θを(1)式または(2)式に代入することで、平均滑り率Smを算出することがより好ましい。
トラクション状態判定部88には、入出力ディスク30,40とローラ35との接触部における平均滑り率Smが入力される。そして、トラクション状態判定部88は、平均滑り率Smと所定値X1(X1>0)とを比較することで、入出力ディスク30,40とローラ35との間における動力伝達方向のトラクション状態を判定し、その判定結果を挟圧制御指令値算出部84へ出力する。
ここで、トラクション係数μは、図6のトラクション特性で表されるように、平均滑り率Smの増加に伴い所定の傾きで上昇し、最大トラクション係数μmaxに至る直前から山なりになり、μmaxで極大となってその後徐々に減少する。したがって、動力伝達方向の平均滑り率Smと所定値X1とを比較することで、入出力ディスク30,40とローラ35との間における動力伝達方向のトラクション状態を判定することができる。
より具体的には、トラクション状態判定部88は、平均滑り率Smが所定値X1以上になったか否か(第1判定条件)を判定する。平均滑り率Smが所定値X1より小さい場合(第1判定条件が不成立の場合)は、トラクション状態判定部88は、入出力ディスク30,40とローラ35との間における動力伝達方向のトラクション係数μ(入力ディスク30側及び出力ディスク40側の平均値)が最大値μmax近傍にないと判定し、その判定結果を挟圧制御指令値算出部84へ出力する。その場合は、入出力ディスク30,40とローラ35との間におけるマクロスリップの発生が予測されないため、挟圧制御指令値算出部84は、入力トルクTin及び変速比γに基づいて設定される必要挟圧力Fciに対応した挟圧制御指令値を圧力制御弁54へ出力する。
一方、平均滑り率Smが所定値X1以上になった場合(第1判定条件が成立の場合)は、トラクション状態判定部88は、入出力ディスク30,40とローラ35との間における動力伝達方向のトラクション係数μが最大値μmax近傍にあると判定し、その判定結果を挟圧制御指令値算出部84へ出力する。その場合は、入出力ディスク30,40とローラ35との間におけるマクロスリップの発生が予測されるため、挟圧制御指令値算出部84は、入力トルクTin及び変速比γに基づいて設定される必要挟圧力Fciより所定量ΔF分大きい挟圧力Fci+ΔFに対応した挟圧制御指令値を圧力制御弁54へ出力する。これによって、入出力ディスク押圧力Faが増大するため、マクロスリップの発生が防止される。このように、本実施形態においては、入出力ディスク30,40とローラ35との間における動力伝達方向のトラクション状態の判定結果に基づいて、入出力ディスク押圧力Faが制御される。
なお、トラクション状態の判定に用いる所定値X1については、例えば実験的に設定することができる。ただし、入出力ディスク30,40とローラ35との間におけるトラクション係数μが最大値μmaxとなるときの平均滑り率Smは、図6に示すように、入力トルクTin、入力ディスク回転数ωi、出力ディスク回転数ωo、変速比γ、ローラ傾転角θ、及びローラ転動面温度trに依存する。したがって、トラクション状態の判定をより精度よく行うためには、トラクション状態判定部88は、入力トルクTin、入力ディスク回転数ωi、出力ディスク回転数ωo、変速比γ、ローラ傾転角θ、及びローラ転動面温度trの少なくとも1つに基づいて所定値X1を設定することがより好ましい。前記のパラメータの中からいずれを選択して所定値X1の設定に用いてもよいが、所定値X1の設定に用いるパラメータの数を増大させるほどトラクション状態の判定をより精度よく行うことができる。
また、平均滑り率Smが所定値X1以上になった場合、すなわち、トラクション係数μが最大値μmax近傍にあると判定された場合に、入力ディスク30と連結された原動機(図示せず)の出力トルクを所定量減少させてもよい。これによって、入力ディスク30に伝達されるトルクTinが減少するため、マクロスリップの発生が防止される。このように、本実施形態においては、トラクション状態の判定結果に基づいて入力ディスク30と連結された原動機の出力トルクを制御してもよい。
本実施形態のコントローラ80を用いてトラクション状態の判定を行った実験結果を図7に示す。図7は、変速比γ、入力ディスク回転数ωi、及び入出力ディスク押圧力Faをほぼ一定(γ=1.0、ωi=1000rpm)に保った条件で入力トルクTinを増大させた場合におけるローラ傾転角θ(ローラ35a−1,35a−2,35b−1,35b−2の各々の値)、入出力ディスク回転数ωi,ωo、入出力トルクTin,Tout、トラクション係数μ(推定値)、及び平均滑り率Smの時系列波形を示す。図7の実験結果においては、入力トルクTinの増大とともにトラクション係数μ及び平均滑り率Smが増大し、90秒以降に、平均滑り率Smが急増して平均滑り率Smが所定値X1に達するとともに、トラクション係数μが最大値μmax近傍になっている。したがって、前述の第1判定条件を判定することで、トラクション係数μが最大値μmax近傍になる状態を精度よく検出することができる。なお、図7の実験結果においては、ローラ35a−1の傾転角を用いて(1)式により平均滑り率Smを算出しており、トラクション係数μが最大値μmax近傍にあると判定された場合に入力トルクTinを実験開始時(0秒)の値まで減少させている。
以上説明したように、本実施形態においては、入出力ディスク30,40とローラ35との接触部における平均滑り率Smが所定値X1以上になった場合に、入出力ディスク30,40とローラ35との間におけるトラクション状態が最大トラクション係数μmax近傍にあると判定している。この判定によって、入出力ディスク30,40とローラ35との間におけるトラクション状態が最大トラクション係数μmax近傍になる状態を精度よく検出することができ、マクロスリップを精度よく予測することができる。
そして、平均滑り率Smが所定値X1以上になった場合、すなわち、トラクション状態が最大トラクション係数μmax近傍にあると判定された場合に、入出力ディスク押圧力Faを増大させる制御、及び入力ディスク30に伝達されるトルクTinを減少させる制御の少なくとも一方を行うことで、マクロスリップを防止するとともに動力伝達効率を向上させることができる。
さらに、本実施形態においては、入力トルクTin、入力ディスク回転数ωi、出力ディスク回転数ωo、変速比γ、ローラ傾転角θ、及びローラ転動面温度trの少なくとも1つに基づいて所定値X1を設定することで、トラクション状態が最大トラクション係数μmax近傍になる状態をより精度よく検出することができる。
また、本実施形態においては、入力トルクTin(または入出力ディスク押圧力Fa)及び変速比γ(またはローラ傾転角θ)に基づいて算出されたローラ半頂角Θを用いて平均滑り率Smを算出することで、平均滑り率Smをより精度よく算出することができる。
次に、本実施形態の他の態様について説明する。
図7に示す実験結果においては、90秒以降に、平均滑り率Smが急変するとともに、トラクション係数μが最大値μmax近傍になっている。したがって、平均滑り率Smの時間変化率(絶対値)の増大を捉えることによっても、トラクション状態が最大トラクション係数μmax近傍になる状態を精度よく検出することができる。
その場合、トラクション状態判定部88は、平均滑り率の時間変化率dSm/dt(絶対値)が所定値X2(X2>0)以上になったか否か(第2判定条件)を判定する。平均滑り率の時間変化率dSm/dtが所定値X2より小さい場合(第2判定条件が不成立の場合)は、トラクション状態判定部88は、入出力ディスク30,40とローラ35との間における動力伝達方向のトラクション係数μが最大値μmax近傍にないと判定し、その判定結果を挟圧制御指令値算出部84へ出力する。
一方、平均滑り率の時間変化率dSm/dtが所定値X2以上になった場合(第2判定条件が成立の場合)は、トラクション状態判定部88は、入出力ディスク30,40とローラ35との間における動力伝達方向のトラクション係数μが最大値μmax近傍にあると判定し、その判定結果を挟圧制御指令値算出部84へ出力する。
なお、トラクション状態の判定に用いる所定値X2については、例えば実験的に設定することができる。ただし、トラクション係数μが最大値μmaxとなるときの平均滑り率の時間変化率dSm/dtは、入力トルクTin、入力ディスク回転数ωi、及び出力ディスク回転数ωoに依存する。したがって、トラクション状態の判定をより精度よく行うためには、トラクション状態判定部88は、入力トルクTin、入力ディスク回転数ωi、出力ディスク回転数ωoの少なくとも1つに基づいて所定値X2を設定することがより好ましい。前記のパラメータの中からいずれを選択して所定値X2の設定に用いてもよいが、所定値X2の設定に用いるパラメータの数を増大させるほどトラクション状態の判定をより精度よく行うことができる。
また、図8に示す構成においては、図3に示す構成と比較して平均滑り率算出部86が省略されている。そして、トラクション状態判定部88には、ローラ35a−1の傾転角θa1、ローラ35a−2の傾転角θa2、ローラ35b−1の傾転角θb1、及びローラ35b−2の傾転角θb2(いずれも図示しないセンサにより検出)が入力される。
図8に示す構成におけるトラクション状態判定部88は、複数のローラ35a−1,35a−2,35b−1,35b−2のうち、いずれか2つのローラにおける傾転角の差δθ(絶対値)が所定値X3(X3>0)以上になったか否か(第3判定条件)を判定する。複数のローラ35a−1,35a−2,35b−1,35b−2のうち、任意の2つのローラにおける傾転角の差δθが所定値X3より小さい場合(第3判定条件が不成立の場合)は、トラクション状態判定部88は、入出力ディスク30,40とローラ35との間における動力伝達方向のトラクション係数μが最大値μmax近傍にないと判定し、その判定結果を挟圧制御指令値算出部84へ出力する。
一方、複数のローラ35a−1,35a−2,35b−1,35b−2のうち、いずれか2つのローラにおける傾転角の差δθが所定値X3以上になった場合(第3判定条件が成立の場合)は、トラクション状態判定部88は、入出力ディスク30,40とローラ35との間における動力伝達方向のトラクション係数μが最大値μmax近傍にあると判定し、その判定結果を挟圧制御指令値算出部84へ出力する。
なお、トラクション状態の判定に用いる所定値X3については、例えば実験的に設定することができる。ただし、トラクション係数μが最大値μmaxとなるときのローラ傾転角の差δθは、入力トルクTin、入力ディスク回転数ωi、出力ディスク回転数ωo、変速比γ、ローラ傾転角θ、及びローラ転動面温度trに依存する。したがって、トラクション状態の判定をより精度よく行うためには、トラクション状態判定部88は、入力トルクTin、入力ディスク回転数ωi、出力ディスク回転数ωo、変速比γ、ローラ傾転角θ、及びローラ転動面温度trの少なくとも1つに基づいて所定値X3を設定することがより好ましい。前記のパラメータの中からいずれを選択して所定値X3の設定に用いてもよいが、所定値X3の設定に用いるパラメータの数を増大させるほどトラクション状態の判定をより精度よく行うことができる。なお、他の構成については、図3に示す構成と同様であるため説明を省略する。
ここで、変速比γ、入力ディスク回転数ωi、及び入出力ディスク押圧力Faをほぼ一定(γ=1.0、ωi=1000rpm)に保った条件で入力トルクTinを増大させた場合におけるローラ傾転角θa1,θa2,θb1,θb2、入出力ディスク回転数ωi,ωo、入出力トルクTin,Tout、トラクション係数μ(推定値)、及び平均滑り率Smの時系列波形を図9に示す。図9の実験結果においては、入力トルクTinの増大とともにトラクション係数μが増大し、95秒以降に、ローラ傾転角θb2が急変して他のローラ傾転角θa1,θa2,θb1との差が所定値X3に達するとともに、トラクション係数μが最大値μmax近傍になっている。したがって、前述の第3判定条件を判定することで、トラクション係数μが最大値μmax近傍になる状態を精度よく検出することができる。なお、図9の実験結果においても、ローラ35a−1の傾転角を用いて(1)式により平均滑り率Smを算出しており、トラクション係数μが最大値μmax近傍にあると判定された場合に入力トルクTinを実験開始時(0秒)の値まで減少させている。
また、図7の実験結果においても、90秒以降に、ローラ傾転角θa2,θb1が急変して他のローラ傾転角θa1,θb2との差が所定値X3に達するとともに、トラクション係数μが最大値μmax近傍になっている。
以上説明したように、図8に示す態様においては、複数のローラ35a−1,35a−2,35b−1,35b−2のうち、いずれか2つのローラにおける傾転角の差δθが所定値X3以上になった場合に、入出力ディスク30,40とローラ35との間におけるトラクション状態が最大トラクション係数μmax近傍にあると判定している。この判定によって、入出力ディスク30,40とローラ35との間におけるトラクション状態が最大トラクション係数μmax近傍になる状態を精度よく検出することができ、マクロスリップを精度よく予測することができる。
そして、入力トルクTin、入力ディスク回転数ωi、出力ディスク回転数ωo、変速比γ、ローラ傾転角θ、及びローラ転動面温度trの少なくとも1つに基づいて所定値X3を設定することで、トラクション状態が最大トラクション係数μmax近傍になる状態をより精度よく検出することができる。
また、ローラ傾転角と変速比とは非線形の関係にあるため、特許文献1のように、入出力ディスク回転数から算出される変速比とローラ傾転角から算出される変速比との差を用いてマクロスリップ判定を行う場合は、ローラ傾転角が急変する方向に応じてこれら2種類の変速比の差が大きく異なることになる。したがって、マクロスリップの判定精度が低下してしまう。これに対して本実施形態においては、複数のローラ35a−1,35a−2,35b−1,35b−2のうちのいずれかにおける傾転角の急変を捉えているため、マクロスリップを精度よく予測することができる。
さらに、図9に示す実験結果においては、95秒以降に、ローラ傾転角θb2が急変するとともに、トラクション係数μが最大値μmax近傍になっている。したがって、ローラ傾転角θa1,θa2,θb1,θb2の時間変化率(絶対値)の増大を捉えることによっても、トラクション状態が最大トラクション係数μmax近傍になる状態を精度よく検出することができる。
その場合、トラクション状態判定部88は、複数のローラ35a−1,35a−2,35b−1,35b−2のうち、いずれか1つ以上のローラ傾転角の時間変化率dθ/dt(絶対値)が所定値X4(X4>0)以上になったか否か(第4判定条件)を判定する。すべてのローラ35a−1,35a−2,35b−1,35b−2について傾転角の時間変化率dθ/dtが所定値X4より小さい場合(第4判定条件が不成立の場合)は、トラクション状態判定部88は、入出力ディスク30,40とローラ35との間における動力伝達方向のトラクション係数μが最大値μmax近傍にないと判定し、その判定結果を挟圧制御指令値算出部84へ出力する。
一方、複数のローラ35a−1,35a−2,35b−1,35b−2のうち、いずれか1つ以上のローラ傾転角の時間変化率dθ/dtが所定値X4以上になった場合(第4判定条件が成立の場合)は、トラクション状態判定部88は、入出力ディスク30,40とローラ35との間における動力伝達方向のトラクション係数μが最大値μmax近傍にあると判定し、その判定結果を挟圧制御指令値算出部84へ出力する。
なお、トラクション状態の判定に用いる所定値X4については、例えば実験的に設定することができる。ただし、トラクション係数μが最大値μmaxとなるときのローラ傾転角の時間変化率dθ/dtは、入力トルクTin、入力ディスク回転数ωi、及び出力ディスク回転数ωoに依存する。したがって、トラクション状態の判定をより精度よく行うためには、トラクション状態判定部88は、入力トルクTin、入力ディスク回転数ωi、出力ディスク回転数ωoの少なくとも1つに基づいて所定値X4を設定することがより好ましい。前記のパラメータの中からいずれを選択して所定値X4の設定に用いてもよいが、所定値X4の設定に用いるパラメータの数を増大させるほどトラクション状態の判定をより精度よく行うことができる。
次に、図10に示す構成においては、トラクション状態判定部88には、入出力ディスク30a,40aとローラ35a−1の接触部近傍温度(ローラ35a−1の転動面温度)tra1、入出力ディスク30a,40aとローラ35a−2の接触部近傍温度(ローラ35a−2の転動面温度)tra2、入出力ディスク30b,40bとローラ35b−1の接触部近傍温度(ローラ35b−1の転動面温度)trb1、及び入出力ディスク30b,40bとローラ35b−2の接触部近傍温度(ローラ35b−2の転動面温度)trb2が入力される。ここで、ローラ転動面温度tra1,tra2,trb1,trb2については、図11に示すように、ローラ転動面35−3に設けられた温度センサ56(図示しない配線はローラ回転軸へ引き出す)により検出することができる。
図10に示す構成におけるトラクション状態判定部88は、複数のローラ転動面温度tra1,tra2,trb1,trb2のうち、いずれか2つのローラ転動面温度の差δtr(絶対値)が所定値X5(X5>0)以上になったか否か(第5判定条件)を判定する。複数のローラ転動面温度tra1,tra2,trb1,trb2のうち、任意の2つのローラ転動面温度の差δtrが所定値X5より小さい場合(第5判定条件が不成立の場合)は、トラクション状態判定部88は、入出力ディスク30,40とローラ35との間における動力伝達方向のトラクション係数μが最大値μmax近傍にないと判定し、その判定結果を挟圧制御指令値算出部84へ出力する。
一方、複数のローラ転動面温度tra1,tra2,trb1,trb2のうち、いずれか2つのローラ転動面温度の差δtrが所定値X5以上になった場合(第5判定条件が成立の場合)は、トラクション状態判定部88は、入出力ディスク30,40とローラ35との間における動力伝達方向のトラクション係数μが最大値μmax近傍にあると判定し、その判定結果を挟圧制御指令値算出部84へ出力する。
なお、トラクション状態の判定に用いる所定値X5については、例えば実験的に設定することができる。ただし、トラクション係数μが最大値μmaxとなるときのローラ転動面温度の差δtrは、入力トルクTin、入力ディスク回転数ωi、出力ディスク回転数ωo、変速比γ、ローラ傾転角θ、及びローラ転動面温度trに依存する。したがって、トラクション状態の判定をより精度よく行うためには、トラクション状態判定部88は、入力トルクTin、入力ディスク回転数ωi、出力ディスク回転数ωo、変速比γ、ローラ傾転角θ、及びローラ転動面温度trの少なくとも1つに基づいて所定値X5を設定することがより好ましい。前記のパラメータの中からいずれを選択して所定値X5の設定に用いてもよいが、所定値X5の設定に用いるパラメータの数を増大させるほどトラクション状態の判定をより精度よく行うことができる。なお、他の構成については、図8に示す構成と同様であるため説明を省略する。
ここで、変速比γ、入力ディスク回転数ωi、及び入出力ディスク押圧力Faをほぼ一定(γ=1.0、ωi=1000rpm)に保った条件で入力トルクTinを増大させた場合におけるローラ傾転角θa1,θa2,θb1,θb2、及びローラ転動面温度tra1,tra2,trb1,trb2の時系列波形を図12に示す。図12の実験結果においては、ローラ傾転角θb2が急変して他のローラ傾転角θa1,θa2,θb1との差が所定値X3に達するとともに、ローラ転動面温度trb2も急変して他のローラ転動面温度tra1,tra2,trb1との差が所定値X5に達している。したがって、前述の第5判定条件を判定することで、トラクション係数μが最大値μmax近傍になる状態を精度よく検出することができる。なお、図12の実験結果においても、トラクション係数μが最大値μmax近傍にあると判定された場合に、入力トルクTinを実験開始時(0秒)の値まで減少させている。
以上説明したように、図10に示す態様においては、複数のローラ転動面温度(入出力ディスクとの接触部近傍温度)tra1,tra2,trb1,trb2のうち、いずれか2つのローラ転動面温度の差δtrが所定値X5以上になった場合に、入出力ディスク30,40とローラ35との間におけるトラクション状態が最大トラクション係数μmax近傍にあると判定している。この判定によって、入出力ディスク30,40とローラ35との間におけるトラクション状態が最大トラクション係数μmax近傍になる状態を精度よく検出することができ、マクロスリップを精度よく予測することができる。
そして、入力トルクTin、入力ディスク回転数ωi、出力ディスク回転数ωo、変速比γ、ローラ傾転角θ、及びローラ転動面温度trの少なくとも1つに基づいて所定値X5を設定することで、トラクション状態が最大トラクション係数μmax近傍になる状態をより精度よく検出することができる。
さらに、図12に示す実験結果においては、ローラ傾転角θb2が急変するとともに、ローラ転動面温度trb2も急変している。したがって、ローラ転動面温度(入出力ディスクとの接触部近傍温度)tra1,tra2,trb1,trb2の時間変化率(絶対値)の増大を捉えることによっても、トラクション状態が最大トラクション係数μmax近傍になる状態を精度よく検出することができる。
その場合、トラクション状態判定部88は、複数のローラ転動面温度tra1,tra2,trb1,trb2のうち、いずれか1つ以上のローラ転動面温度の時間変化率dtr/dt(絶対値)が所定値X6(X6>0)以上になったか否か(第6判定条件)を判定する。すべてのローラ転動面温度の時間変化率dtr/dtが所定値X6より小さい場合(第6判定条件が不成立の場合)は、トラクション状態判定部88は、入出力ディスク30,40とローラ35との間における動力伝達方向のトラクション係数μが最大値μmax近傍にないと判定し、その判定結果を挟圧制御指令値算出部84へ出力する。
一方、複数のローラ転動面温度tra1,tra2,trb1,trb2のうち、いずれか1つ以上のローラ転動面温度の時間変化率dtr/dtが所定値X6以上になった場合(第6判定条件が成立の場合)は、トラクション状態判定部88は、入出力ディスク30,40とローラ35との間における動力伝達方向のトラクション係数μが最大値μmax近傍にあると判定し、その判定結果を挟圧制御指令値算出部84へ出力する。
なお、トラクション状態の判定に用いる所定値X6については、例えば実験的に設定することができる。ただし、トラクション係数μが最大値μmaxとなるときのローラ転動面温度の時間変化率dtr/dtは、入力トルクTin、入力ディスク回転数ωi、及び出力ディスク回転数ωoに依存する。したがって、トラクション状態の判定をより精度よく行うためには、トラクション状態判定部88は、入力トルクTin、入力ディスク回転数ωi、出力ディスク回転数ωoの少なくとも1つに基づいて所定値X6を設定することがより好ましい。前記のパラメータの中からいずれを選択して所定値X6の設定に用いてもよいが、所定値X6の設定に用いるパラメータの数を増大させるほどトラクション状態の判定をより精度よく行うことができる。
さらに、本実施形態におけるトラクション状態判定部88は、前述の第1〜6判定条件の少なくとも2つ以上を判定することで、入出力ディスク30,40とローラ35との間における動力伝達方向のトラクション係数μが最大値μmax近傍にあるか否かを判定し、その判定結果を挟圧制御指令値算出部84へ出力することもできる。例えば、トラクション状態判定部88は、第1〜6判定条件の少なくとも2つ以上を判定し、判定した条件のいずれか1つ以上が成立した場合に、トラクション係数μが最大値μmax近傍にあると判定することができる。このように、複数の判定条件を判定することで、トラクション係数μが最大値μmax近傍になる状態をさらに精度よく検出することができ、マクロスリップをさらに精度よく予測することができる。なお、前述の第1〜6判定条件の中からいずれを選択してトラクション係数μが最大値μmax近傍にあるか否かを判定してもよいが、トラクション状態の判定に用いる判定条件の数を増大させるほどトラクション係数μが最大値μmax近傍になる状態をより精度よく検出することができる。
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
10 入力軸、20 エンドロード機構、30(30a,30b) 入力ディスク、35(35a−1,35a−2,35b−1,35b−2) ローラ、36(36a−1,36a−2,36b−1,36b−2) トラニオン、40(40a,40b) 出力ディスク、45 出力ギア、52 流量制御弁、54 圧力制御弁、56 温度センサ、60 カウンターギア、70 出力軸、80 コントローラ、82 変速制御指令値算出部、84 挟圧制御指令値算出部、86 平均滑り率算出部、88 トラクション状態判定部。