JP4713999B2 - 合成繊維の製造方法 - Google Patents

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本発明は高融点合成樹脂からなる溶融紡糸繊維の製造方法に関し、さらに詳しくは、生産性が良好で連続紡糸性に優れた合成繊維の製造方法に関する。
高い融点を有する合成樹脂からなる合成繊維は、高強度、高モジュラスなどの優れた特徴を有するため、各種産業資材、特にゴムなどの補強材として好適に使用されている。
しかし合成繊維を溶融紡糸する際には、溶融紡糸口金の吐出孔から吐出された紡出糸条が溶融紡糸口金面の吐出孔付近に付着して、ピクつきや紡糸切れ等の不具合を発生したり、あるいは熱可塑性ポリマー中に含まれている低分子量物、熱分解物および添加剤等の昇華物が吐出孔の近傍に付着しての正常な吐出を妨げ、曲がりや紡糸切れを引き起こすという問題があった。特に高融点の合成樹脂は一般に溶融時の溶融粘度も高く、溶融紡糸するためには融点差以上の高い温度で溶融しなければならず、より生産性を高めることが困難であった。
紡糸口金面の吐出孔の問題を解決するためには、例えば吐出孔の口金内の形状を規定する方法や(特許文献1)、あるいは口金表面の離形性を高めるために蒸着膜を形成する(特許文献2)などのさまざまな方策が提案されている。だが、特に融点が高い合成樹脂を用いた場合には口金近辺での合成樹脂の温度が高いために問題が顕著となり、このような口金の対策だけでは生産性の向上はまだ充分なものとはいえなかった。
また、融点の高い合成樹脂はより高い性能が求められるが、口金面にこれらの異物が堆積した場合、その樹脂本来の有する高い性能を充分に活かせないという問題があった。
特開2000−154418号公報 特開2004−293023号公報
本発明は、上述した従来技術に於ける問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものであり、本発明の課題は、高融点の合成樹脂を溶融紡糸する方法であって、長期間安定して紡糸を行う事ができる合成繊維の製造方法を提供することにある。
本発明の合成繊維の製造方法は、融点が260〜300℃の合成樹脂を溶融紡糸する製造方法であって、紡糸口金の孔部長さLと孔径Dの比L/Dが4以上であり、紡糸剪断速度が500〜2000/sであると共に、口金面の温度を320〜350℃の範囲に制御することを特徴とする。
さらに溶融温度Tが300〜330℃であり、口金面の温度が溶融温度の−10℃以上+40℃以下の範囲であることや、口金下に30〜500cmの加熱帯があり、該加熱帯の温度が300〜420℃の範囲であること、口金の表面と合成樹脂との接触角が70〜90°であることが好ましい。またバラス効果Dbが3.0以下であることや、合成樹脂の分解点が300℃以上であること、さらには合成樹脂がポリエステル樹脂であることやポリエチレンナフタレート樹脂であることが好ましい。
本発明によれば、高融点の合成樹脂を溶融紡糸する方法であって、長期間安定して紡糸を行う事ができる合成繊維の製造方法が提供される。
本発明は融点が260〜300℃の合成樹脂を溶融紡糸する製造方法である。このように高融点の合成樹脂を用いることにより、本発明は高性能の合成繊維を製造できる。このような合成樹脂は溶融紡糸可能なものである熱可塑性ポリマーであれば融点以外には特に制限は無く、2種以上の樹脂のブレンドまたは共重合により得られるポリマー等を用いることもできる。さらに本発明で用いられる合成樹脂の分解点は300℃以上であることが好ましい。
本発明に好ましく用いられる樹脂としては、ポリエステル樹脂が好ましく、中でもポリエチレンナフタレート樹脂が融点と物性の関係から好ましい。好ましいポリエチレンナフタレート樹脂としては、例えばナフタレン−2,6−ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体を触媒の存在下適当な反応条件のもとにエチレングリコールと重縮合させることによって合成されるポリエチレン−2,6−ナフタレートである。また合成樹脂中には二酸化チタンなどの艶消し剤や、リン酸、亜リン酸及びそれらのエステルなどの安定剤が含まれても良いことは言うまでもない。
本発明の製造方法は溶融紡糸時に、紡糸口金の孔部長さLと孔径Dとの比L/Dが4以上であり、紡糸剪断速度が500〜2000/sであると共に、口金面の温度を320〜350℃の範囲に制御することを必須とする。このような制御を行うことにより紡糸口金での背圧の発生を抑えることができ生産性の高い紡糸を行うことができる。
紡糸口金の孔部長さLと孔径Dとの比L/Dとしてはさらには4〜10の範囲であることが好ましい。このような大きな値とすることによりオリフィスを通過して紡出されたポリマーが緩和によりオリフィス径よりも大きく膨らむ現象いわゆるバラス効果を防ぐことができ、口金への汚れを減少させることが可能である。通常、高融点の合成樹脂は溶融粘度が高いので口金背圧を下げるためにL/Dの値も3以下の小さな値にすることが多かったが、本発明ではあえて大きくすることが必要である。口金直径としては0.35〜1.2mmの範囲であることが好ましく、一つの口金への孔の数としては70〜500個の範囲が適当である。
また、口金部分での剪断速度Γは500〜2000/sの範囲であることが必要であり、より好ましくは600〜900/sの範囲である。剪断速度が大きすぎると吐出したポリマーが吐出方向とは異なる方向に曲がるベンディング現象が発生し、小さすぎた場合には吐出線速度が低下し紡糸張力が上がり糸を引き取れないなどの問題が生じる。またこの範囲を取ることによってポリマーのバラス効果を減少させることができる。
ここでバラス効果とはオリフィスを通過して紡出されたポリマーが緩和によりオリフィス径よりも大きく膨らむ現象を指し、そのバラス効果Dbは式(1)の経験式で表されるものである。
Db=Γ0.2×((L/D)−0.2 式(1)
(Γ:剪断速度、L:口金孔部長さ、D:口金孔径)
本発明の製造方法では剪断速度、口金孔部長さ、口金孔径から決定されるバラス効果Dbが3以下の条件であることが好ましい。
さらに本発明では口金面の温度を320〜350℃の範囲に制御することを必須とする。温度が低い場合には吐出時にポリマーの温度低下が発生し口金背圧が上昇して紡糸することができなくなる。逆に温度が高すぎる場合には口金直上でのポリマー劣化が発生するため紡糸安定性が低下する。このように口金面の温度範囲を制御するためには口金下に30〜500cmの加熱帯があり、該加熱帯温度が300〜420℃の範囲であることが好ましい。このような加熱帯は加熱筒を設置することによって制御することができる。加熱帯を設けることにより口金面を直接加熱するのではなく周囲の雰囲気温度によって間接的に加熱することができ、口金面全体を均一に加熱することが可能となる。
またポリマーの溶融温度Tが300〜330℃であり、口金面の温度が溶融温度の−10℃以上+40℃以下の範囲であることが好ましい。このような温度範囲を用いることにより安定した紡糸が可能になる。
本発明の製造方法では口金表面と合成樹脂との接触角が70〜90°であることが好ましい。さらに好ましくは80〜90°である。接触角が小さいと熱可塑性ポリマーと口金表面との離形性が低下し、紡糸の性能が低下する。このような離形性を達成するためには例えばJIS B0601の中心線平均粗さで1.5〜5.0とすることや、母材の変更やメッキ処理により調整することが可能である。一般にこの範囲では粗度を上げることによって接触角を大きくすることができる。
本発明の製造方法では、上記のように溶融紡糸した合成繊維を例えば引取速度300〜700m/分、さらに好ましくは400〜550m/分で引取り、延伸倍率4.8〜6.7倍さらに好ましくは5.0〜6.0倍で延伸し、巻取り速度2000〜3500m/分、さらに好ましくは2200〜3000m/分で巻き取ることによって繊維とすることができる。
このように本発明を採用することにより、高融点ポリマーを溶融紡糸しているにもかかわらず、頻繁な口金修正(ポリオルガノシロキサン等の離型剤を一定時間溶融紡糸した後に再塗布または再噴霧することなど)を行うことなく溶融紡糸が可能となり製糸性よく連続した合成繊維の製造を行うことができる。
以下実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの具体例により限定されるものではない。なお、本発明の評価に用いた測定法は以下の通りである。
(1)ポリマーとの接触角
溶融紡糸口金と同材質で製作したテストピース上に1mm立方に粉砕したポリマーを載せ、表面温度を300℃に1分間保持したのち自然冷却し、その後ポリマーとテストピース表面との接触角を測定した。測定は温度20±2℃、湿度65±3%の環境下で行った。接触角測定器は、協和化学(株)製「CA-DS型」を用いた。
(2)口金修正周期
糸切れ頻度が1回/2時間を越えた時点で溶融紡糸口金を修正し、該口金修正までに要した時間を溶融紡糸口金修正周期とした。
(3)糸切れ回数
口金修正周期が24時間以上のものについて、3日間連続で製糸した時の糸切れ回数を測定した。
[実施例1〜5、比較例1〜4]
相対粘度0.74のポリエチレンナフタレートチップを押し出し機に供給して溶融し、紡糸口金を組み込んだ紡糸パックを通して溶融温度320℃で紡糸した。紡糸の際、口金面を加熱するためのセラミックヒーターを用いて吐出面を320℃に加熱した。溶融紡糸口金は、吐出孔径が0.7φで250ホールの溶融紡糸口金を用いた。その後紡出糸条は、溶融紡糸口金直下に設置された長さ200cmの加熱筒によって囲まれ、400℃に加熱された高温雰囲気である加熱帯中を通過した後、常温の25℃の整流された冷風によって冷却固化した。ついで、糸条は界面活性剤を主成分とする油剤を付与され引き取りロ−ルに巻き取られ、420m/分の引き取り速度で引き取られた。引き取られた糸条は一旦巻き取ることなく、順次高速で回転する複数の対ロールに捲回させ、該対ロールの速度差によって2段延伸し、弛緩処理をして巻き取った。延伸はガラス転移温度以上で熱延伸を行い、最終の延伸および熱セット温度は240℃の高温で行った。延伸倍率は6.0倍で行い、2500m/分の引き取りワインダーで巻き取った。
紡糸口金の孔部長さL、孔径D、剪断速度Γ、等は表に記載した条件を用いた以外は同じ条件とし、評価した結果を併せて示した。
従来条件のコントロールである比較例1〜3は剪断速度Γが高く、比較例4は口金下ヒーターを高く設定して口金面温度を上げている。また、比較例1〜2は逆に温度を下げている。また実施例4、5、比較例1〜3はポリマー接触角が低い口金を用いている。
実施例1〜3はいずれも表1に示すように溶融紡糸する際、口金修正の頻度が従来技術の比較例1〜3に比べ延長されていることが分かる。また実施例4、5は表1に示すように、口金修正周期は改善さているが、実施例1〜3ほどではない。
Figure 0004713999

Claims (8)

  1. 融点が260〜300℃の合成樹脂を溶融紡糸する製造方法であって、紡糸口金の孔部長さLと孔径Dの比L/Dが4以上であり、紡糸剪断速度が500〜2000/sであると共に、口金面の温度を320〜350℃の範囲に制御することを特徴とする合成繊維の製造方法。
  2. 溶融温度Tが300〜330℃であり、口金面の温度が溶融温度の−10℃以上+40℃以下の範囲である請求項1記載の合成繊維の製造方法。
  3. 口金下に30〜500cmの加熱帯があり、該加熱帯の温度が300〜420℃の範囲である請求項1または2記載の合成繊維の製造方法。
  4. 口金の表面と合成樹脂との接触角が70〜90°である請求項1〜3のいずれか1項記載の合成繊維の製造方法。
  5. バラス効果Dbが3.0以下である請求項1〜4のいずれか1項記載の合成繊維の製造方法。
  6. 合成樹脂の分解点が300℃以上である請求項1〜5のいずれか1項記載の合成繊維の製造方法。
  7. 合成樹脂がポリエステル樹脂である請求項1〜6のいずれか1項記載の合成繊維の製造方法。
  8. 合成樹脂がポリエチレンナフタレート樹脂である請求項1〜7のいずれか1項記載の合成繊維の製造方法。
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