JP4712213B2 - ナノチューブ膜の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、配向した複数本のナノチューブが結合され且つ自立したナノチューブ膜およびその製造方法の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】
複数本のナノチューブがその円筒状の外周面において相互に結合され且つ自立した、すなわちその両端部が何物にも結合させられていないナノチューブ膜が知られている。例えば、特開2000−109308号公報に記載されたカーボンナノチューブ膜の製造方法に記載されたナノチューブ膜がそれである。このようなナノチューブの自立膜は、高さが揃った微小径の多数のナノチューブが密接し且つ配向していることから、膜表面に沿った方向における電気抵抗も低く、従来のアーク放電法やレーザ・アブレーション法等で製造された高さや向きが不揃いなナノチューブに比較して、ガス分離膜や電子放出源用途に好適である。なお、ナノチューブとは、炭素原子(C)が結合して円筒状を成したものであって、相互に直径の異なる複数個のグラファイト・シート(グラフェン・シートすなわち主として炭素の六員環から成るグラファイト層)が入れ子になり、全体の直径が1〜50(nm)程度、長さが100(μm)程度以下の寸法を有する微細な構造体をいう。
【0003】
ところで、ナノチューブの新たな用途として水素吸蔵に用いることが考えられている。従来、水素吸蔵材料は、MgNi合金、LaNi合金、TiMn合金、ミッシュメタルや、ランタンを多く含むランタンリッチ・ミッシュメタル等の金属材料が用いられてきたが、これらの材料は何れも単位質量当たりの水素吸蔵量が小さく、例えば一般的なニッケル水素電池用途のものでは質量比で1.4(%)程度に過ぎない。また、体心立方構造を有するチタン系合金(例えばTi41Cr56W3合金)等の新しい水素吸蔵合金も提案されているが(例えば、特開平10-121180号公報等を参照)、そのようなものでも水素吸蔵量は2.4(%)程度すなわち従来の2倍程度に留まる。これらに対して、ナノチューブは例えば質量比で合金を遙かに上回る多量の水素を吸蔵できることが見出されたためである。特に、前記のような自立膜は、アーク放電法等によるものを加圧成形する場合に比較して充填率延いては体積当たりの吸蔵量が2倍程度と高く、質量当たりでは3(%)もの水素を吸蔵するため、例えば質量当たりの吸蔵量および体積当たりの吸蔵量が何れも多いことが要求される燃料電池自動車(電気自動車或いはハイブリッド車)等に搭載する水素供給源として期待されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記公報に記載されたナノチューブの自立膜は、シリコン単結晶基板上にエピタキシャル成長させた炭化珪素(SiC)結晶を、エッチング処理を施すことによってその基板から分離した後、微量酸素を含む真空中或いは不活性ガス中において加熱処理することにより製造される。そのため、工程が長く高い製造効率が得られないと共に、シリコン単結晶基板が一回のナノチューブ膜の製造毎に消費されることから製造コストも著しく高い問題があった。また、このナノチューブ膜は、例えば水素吸蔵に用いた場合には多量の水素の吸蔵が可能である一方で、その吸蔵および取出しが比較的困難(すなわち、吸蔵および取出しに長時間を要し、取出しに比較的高温が必要となり、且つ全量を取出すのが困難)となり、ガス分離膜として用いた場合にはガス透過量を多くできない等の問題もあった。
【0005】
なお、例えば特開平10−265208号公報に記載されているように、真空下で炭化珪素焼結体等の共有結合性炭化物から成る基板を加熱処理して焼結体中の金属元素(例えば珪素原子)を除去するナノチューブの製造方法によれば、密接し且つ配向する高さが揃ったナノチューブが簡単な工程で低コストに得られる。ここで「共有結合性炭化物」とは、炭素と非金属元素(炭素との間でイオン性炭化物を作るものよりは陽性が弱く、侵入型炭化物を作るものよりは原子半径が小さい珪素等の元素)との化合物であって、共有性炭化物ともいう。上記の製造方法によれば、炭素が比較的高温まで安定な微量酸素の存在下で加熱することにより、炭化珪素の表面から珪素(Si)が選択的に除去されて炭素だけから成るナノチューブが元の炭素原子密度に基づく高い数密度で膜状に生成される。このとき、珪素除去層内に残留する炭素により構成されるグラファイトの如き六員環構造が珪素の移動に伴ってその移動方向すなわち内部から表面に向かう一方向に沿って形成されるため、ナノチューブが配向するものと考えられている。しかしながら、共有結合性炭化物の耐食性が高く且つナノチューブ膜の機械的強度が低いことから、上記製造方法で製造したナノチューブ膜を基板から分離して自立膜を得ることは困難であった。
【0006】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであって、その目的は、工程が簡単で製造コストの低いナノチューブ膜の製造方法を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するための発明の要旨とするところは、一面からそれに平行な他面に向かう一方向に沿って伸びる複数本のカーボン・ナノチューブがその円筒状の外周面で相互に結合されて成る自立したナノチューブ膜の製造方法であって、(a)共有結合性炭化物から成る基板を10(Pa)以下の圧力範囲の真空下において1550乃至1800(℃)の範囲内の温度で1時間以上加熱する真空熱処理工程と、(b)前記真空熱処理が施されることにより表面にナノチューブが生成した基板を所定濃度の酸素存在下において熱処理を施すことにより、そのナノチューブをその基板から分離する酸化熱処理工程とを、含むことにある。
【0013】
発明の効果】
このようにすれば、真空熱処理工程において、真空下すなわち大気中よりも酸素分圧の低い雰囲気中において加熱された基板は、その表面から次第に共有結合性炭化物を構成する非金属元素が選択的に除去されるため、その表層部に炭素だけで構成される非金属元素除去層が形成されると共にその非金属元素除去層内に基板表面から伸びる複数本のナノチューブが高密度に生成される。このとき、基板は10(Pa)以下の圧力下において1550〜1800(℃)の温度で1時間以上の長時間に亘って加熱されることから、その表層部の非金属元素除去層は次第に厚くなるが、この厚くなった非金属元素除去層は、上層部がナノチューブ構造に保たれる一方、下層部は表面に沿った方向にグラファイトや無定形炭素等が連なると共にそのナノチューブに原子レベルで連続する構造の乱れた炭素層となる。そのため、この乱れた炭素層を構成する炭素の結合力はナノチューブを構成する六員環の結合力よりも遙かに小さいことから、続く酸化熱処理工程においてこの基板を所定濃度の酸素存在下で加熱すると、その非金属元素除去層のうち炭素層が優先的に分解され、基板からナノチューブ膜が分離される。したがって、簡単且つ低い製造コストでナノチューブ膜を製造することができる。
【0014】
しかも、このようにして製造されたナノチューブ膜は、厚み方向において組織が不連続となる界面が存在せず、そのナノチューブの両端が開放され、且つナノチューブ相互がその外周面においてアモルファス・カーボンで連続させられたものとなる。すなわち、ナノチューブ膜を構成するナノチューブは、非金属元素除去層が深くなるに伴って基板表面から内部に向かって成長したものであるため、その炭素の六員環から成る組織は基板表面側に位置していた先端側から基板内部側に位置していた基端側まで滑らかに連続したものとなる。また、酸化熱処理が施された際には、六員環よりも結合力が小さい五員環や七員環が優先的に、乱れた炭素層よりも早く分解されるため、ナノチューブの先端はそれを閉じるキャップがそれら五員環および七員環の存在する位置で分離されることにより開放される。更に、非金属元素除去層内では生じた全ての炭素がナノチューブの成長に利用されるものではないため、その成長に用いられない余剰の炭素はアモルファス構造になってナノチューブ相互間に存在してボンドとして作用することになる。
【0015】
因みに、共有結合性炭化物からナノチューブが生成される反応は、例えば炭化珪素の場合には、
2SiC+O2 → 2SiO↑+2C
であると考えられている。すなわち、炭化珪素中の珪素(Si)が雰囲気中に微量含まれる酸素(O2)に酸化されることによりガス化してその表面から消失させられ、残留する炭素(C)によってナノチューブが形成される。この酸化反応は、他の共有結合性炭化物でも略同様であるものと考えられる。そのため、非金属元素除去層が厚くなるほど、すなわちナノチューブが長くなるほどその下層部と表面との間のガス流通(O2の侵入或いはSiOの脱出)が困難になることから、その下層部では上記反応により生成された炭素がそのガスの流れに沿って成長させられるナノチューブにはならず、構造の乱れた炭素層になるものと考えられる。このとき、炭素層が形成されるためには上記のようにナノチューブが十分に成長する必要があることから、加熱時間は1時間以上の長時間としなければならない。また、酸素分圧が高いと上記反応により生成された炭素が
C+O2 → CO2
との酸化反応で表面からガス化して消失するため、長時間加熱の前提では圧力が10(Pa)以下の真空下で加熱処理を施す必要がある。また、温度が高くなるほどナノチューブの成長速度すなわち炭化珪素の分解速度は高くなるため、1550(℃)未満の低温ではガスの流通速度がその分解速度に対して十分に高く保たれることになって炭素層は生成されずナノチューブだけが成長する。反対に1800(℃)よりも高温ではガスの流通速度が上記分解速度に対して低くなり過ぎるため、非金属元素除去層の上層部までナノチューブが乱れて略全体が炭素層になる。したがって、加熱温度は1550〜1800(℃)の温度範囲にする必要がある。なお、上記の酸素分圧は、水蒸気、一酸化炭素、二酸化炭素等が雰囲気中に含まれる場合には、これらに含まれる酸素をO2に換算した場合の分圧である。
【0016】
発明の他の態様】
ここで、好適には、上記の製造方法において、前記酸化熱処理工程は、500乃至670(℃)の範囲内において酸素濃度に応じて定められる温度で熱処理を施すものである。ナノチューブおよび炭素層の組織の分解速度は温度が高くなるほど速くなるが、500(℃)未満の温度では五員環や七員環が分解されないのでナノチューブ膜を基板から分離できない。反対に、670(℃)を越える温度では、六員環も容易に分解されるためナノチューブが失われることになる。なお、「酸素濃度に応じて定められる温度」は、ナノチューブの減耗が十分に小さい範囲でナノチューブ膜が基板から分離されるように、例えば、図8に示されるような上限温度と下限温度との間の適宜の温度に定められる。また、好適には、前記複数本のナノチューブは、各々の両端が開放されたものである。このようにすれば、その開放された両端を通してナノチューブ内部と外部との間を水素が容易に流通できることから、ナノチューブの端部が閉じられている場合に比較して水素の吸蔵および取出しが一層容易になる。すなわち、ナノチューブは主として炭素の六員環が連続する構造を備えたものであるが、これを生成したときには、通常、その端部が五員環或いは七員環が導入されることによって形成されたキャップと称されるドーム状の構造で閉じられている。このような閉じた構造では、ナノチューブ内部と外部との間を六員環等を構成する炭素相互間を通って水素が流通するため流通抵抗が比較的大きいが、六員環等の炭素相互間の隙間よりも遙かに大きい直径を備えた端部が開放されると、水素の流通抵抗が飛躍的に小さくなって水素の吸蔵および取出しが容易になるのである。また、好適には、前記複数本のナノチューブは、アモルファス・カーボンを介して相互に連続させられたものである。このようにすれば、ナノチューブがそれを構成する炭素原子相互間に作用する分子間力や、従来のナノチューブ膜のように厚み方向の中間部に生成された界面等で結合させられていることにより、膜としての機械的強度が殆ど無い場合に比較して、ナノチューブ膜の機械的強度が高められて取扱いが容易になると共に、使用中に受ける振動や衝撃等に起因する破損が抑制される利点がある。
【0017】
また、好適には、前記酸化熱処理工程の処理時間は、酸素濃度および処理温度に応じて、1乃至20分間の範囲内の時間に設定される。1分間未満の処理時間では、酸素濃度および処理温度に拘わらず炭素層の分解が殆ど進まないためナノチューブ膜が得られず、反対に20分間を越えるとナノチューブまで失われることになる。
【0018】
また、好適には、前記真空熱処理工程における前記圧力範囲は10-4乃至10(Pa)である。このようにすれば、共有結合性炭化物が適度な速度で分解される範囲に真空度が設定されていることから、炭化物部の表面に炭素層を介してナノチューブが生成された構造を比較的短時間で得ることができる。なお、10-4(Pa)よりも低い圧力(すなわち高い真空度)では、雰囲気中の酸素(O2)量が過少になって酸化反応の進行が極めて遅くなるため、ナノチューブの成長速度が極めて遅くなると共に非金属元素除去層の下層部においてもその構造が乱れ難くなり、炭素層が生成されるまでに極めて長時間を要することになる。但し、過度の酸化反応を抑制するためには、酸素分圧を5(Pa)以下とすることが一層望ましい。
【0019】
また、好適には、前記の基板は炭化珪素から成るものである。このようにすれば、基板表面に一層緻密且つ一様に配向させられたナノチューブを生成でき、延いては一層高密度のナノチューブ膜が得られる。これは、珪素と炭素との酸化傾向が微妙に異なり、珪素のみが酸化される条件があるためと推定される。なお、炭化珪素は一般にα型(α-SiC)およびβ型(β-SiC)に分類されるが、何れから成る基板にもナノチューブが好適に生成される。上記のα型およびβ型は、多数存在する炭化珪素の多形を二分類したものであり、立方晶の3Cをβ型といい、それ以外の非等軸晶(六方晶の2H、4H、6Hおよび菱面体の15R等)をα型という。ここで、2H等はRamsdellの表記法に従ったものである。
【0020】
また、好適には、前記基板はその表面が鏡面に仕上げ加工されたものである。基板表面が粗くなると、非金属元素が除去されて残った炭素原子が再配列する際にナノチューブ構造を採り難くなり、或いは一旦はナノチューブ構造となってもその成長が進行していくうちに乱れてナノチューブ構造を維持できなくなる。上記のようにすれば、炭素原子が再配列する際にナノチューブ構造を採り易くなると共に、ナノチューブの成長方向が揃うため成長に伴う乱れも発生し難い。上記の鏡面は、好適には、Ra=0.02(mm)以下の表面粗さの平滑面である。
【0021】
また、好適には、前記基板はその結晶面に平行な表面を備えた単結晶である。このようにすれば、ナノチューブは結晶面に垂直な方向に配向する傾向があることから、配向性が一層高められる。一層好適には、上記表面は、炭素だけが存在する第1の層と非金属元素だけが存在する第2の層とが交互に積み重ねられる方向における積層面である。このようにすれば、ナノチューブの配向性延いては独立性を更に高めることができる。これは、最表面に位置する非金属元素が除去される際、余った炭素原子がチューブ形状を形成し易いためと考えられる。上記の積層面は、例えば、2Hのα-SiC単結晶等のような六方晶の化合物においては(0001)面であり、β-SiC単結晶等のような立方晶の化合物においては(111)面である。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。
【0023】
図1は、本発明の一実施例の製造方法により製造されたナノチューブ膜10を示す斜視図である。このナノチューブ膜10は、例えば燃料電池のための水素吸蔵体等に用いられるものであって、例えば、30(mm)×30(mm)×0.5(μm)程度の寸法を備えた略矩形の薄い膜に構成されている。
【0024】
上記のナノチューブ膜10は、図2に断面の要部を拡大してその構成を示すように、複数本のナノチューブ12と、そのナノチューブ12相互間に位置するアモルファス・カーボン層14とから構成されている。ナノチューブ12の各々は、例えば5〜10(nm)程度の直径と、数十(nm)〜1(μm)程度例えば0.5(μm)程度の長さ寸法とを備えたものであり、ナノチューブ膜10内における数密度は例えば1011(本/cm2)程度以上[例えば、10000〜40000(本/μm2)程度]である。なお、ナノチューブ12の長さ寸法は一様ではなく、前記の膜厚は最も長いものの長さ寸法に対応する値である。また、ナノチューブ12は、ナノチューブ膜10の表面16に対して略垂直を成す方向に配向しており、複数本のナノチューブ12の各々のその表面16側の一端およびその反対側の他端は、何れも略一様な高さに位置している。
【0025】
なお、上記のアモルファス・カーボン層14は、ナノチューブ12をその円筒状の外周面において相互に結合するためのボンドとして作用するものである。図2においては、ナノチューブ12相互間にアモルファス・カーボン層14が存在していない部分があるが、図に示す断面でアモルファス・カーボン層14と接していないナノチューブ12は、図示しない他の断面においてアモルファス・カーボン層14と接しており、これにより、ナノチューブ膜10全体でナノチューブ12が連結されている。
【0026】
図3は、上記のナノチューブ12の構造を、例えば表面16側に位置する一端部を拡大した分子構造モデルで示したものである。ナノチューブ12は、その周壁が炭素原子18の六員環が網状に連結されて成る複数本(例えば2〜10本程度)の順次径の異なる円筒状グラファイト層20a、20b、〜20k(以下、特に区別しないときは単にグラファイト層20という)が入れ子になって、2〜10層程度の多層構造から成る円筒状のグラファイト層20で構成されたものである。図においては省略したアモルファス・カーボン層14は、最外周に位置するグラファイト層20a、20a相互間に位置してそれらを結合する。なお、図には一端部のみを示しているが、このような構造が組織の不連続となる部分が生じることなく、ナノチューブ膜10の裏面側の他端部まで滑らかに続いている。
【0027】
また、図に示すように、個々のナノチューブ12の一端には多重構造を成すグラファイト層20の端面が露出しており、図示しない他端においても同様にグラファイト層20の端面が露出する。すなわち、ナノチューブ12はナノチューブ膜10の表面16およびその裏面に位置する端面が開放された形状を備えている。なお、前記の図1においては、この端面を省略して全体を平坦に描いた。最外周に位置するグラファイト層20aの直径すなわちナノチューブ12の直径odは例えば5〜10(nm)程度であり、最内周に位置するグラファイト層20kの直径idは例えば3(nm)程度である。また、各グラファイト層20の相互間隔gは、平坦なグラファイトの層間隔に略等しい3.4(Å)程度であって、グラファイト層20は相互に略独立しているが、前記のアモルファス・カーボン層14はそのグラファイト層20相互間にも存在している。
【0028】
そのため、このようなナノチューブ12を高密度に且つ配向して備えたナノチューブ膜10は、その厚み方向の中間部に組織の不連続部分が存在しないことから、水素吸蔵に用いられた場合に組織の不連続部分における水素の流通抵抗が無くなることから、その吸蔵および取出しが極めて容易である。また、多数備えられたナノチューブ12の各々の両端が開放させられていることから、吸蔵され或いは取出される水素は、その開放端を通してナノチューブ12の内外を容易に流通するため、その吸蔵および取出しが一層容易になっている。更に、このような構造のナノチューブ12がアモルファス・カーボン層14で連結されることにより高密度に備えられているため、ナノチューブ膜10は比較的高い機械的強度を備えて取扱いが容易であり、しかも、単位質量当たりおよび単位体積当たりの何れにおいても高い吸蔵量を有している。
【0029】
ここで、本実施例のナノチューブ膜10の特性を昇温脱離ガス分析装置を用いて評価した結果を、前述した特開2000−109308号公報に記載の製造方法で得られた厚み方向の中間部に界面を有する従来のナノチューブ膜と比較して説明する。分析装置は、排気装置および赤外線ランプが取り付けられた昇温脱ガス部と、質量分析装置とから成り、石英製の昇温脱ガス部に試料(ナノチューブ膜)を導入し、アルゴンガスでパージした後、試料を昇温して脱離する水素量を評価した。測定結果を図4に示す。何れも100(℃)程度から水素が脱離し始め、150(℃)程度において最も脱離量が多くなるが、実施例のナノチューブ膜10は200(℃)程度で殆ど全ての水素が脱離する(脱離が完了する)のに対して、従来のナノチューブ膜は、殆どの水素を脱離させるまでに400(℃)程度まで昇温する必要があり、しかもこの温度でも脱離が不完全であった。また、150(℃)における最大脱離量も、本実施例のナノチューブ膜10の方が著しく大きいことが判る。この結果により、本実施例のナノチューブ膜10が従来のナノチューブ膜に比較して水素の脱離が速やかに行われることが明らかとなった。上記の結果は厚み方向の中間部における界面の有無に起因するものであり、水素吸蔵時についても同様な結果となる。すなわち、その界面の存在しない実施例のナノチューブ膜10は、水素の吸蔵および取出しが何れも極めて容易である。
【0030】
ところで、上記のナノチューブ膜10は、例えば、以下のようにして製造される。以下、工程の要部段階を示す図5(a)〜(c)を参照してその製造方法の要部を説明する。まず、例えば(0001)面が表面22に現れたα型、或いは(111)面が表面22に現れたβ型の炭化珪素単結晶から成る基板24を用意し、真空炉26内にその表面22が上向きとなるように配置する。図5(a)はこの状態を示している。
【0031】
次いで、この真空炉26内において基板24を1550〜1800(℃)程度の範囲内の温度、例えば1700(℃)程度の温度で、1時間以上の長時間、例えば10時間程度だけ加熱する真空熱処理を施す。この加熱処理中においては、真空炉26内が、10-4〜10(Pa)の範囲内の圧力、例えば10-2(Pa)程度の減圧下すなわち真空下に保たれ、炉内雰囲気が酸素(O2)の希薄な状態すなわち酸素分圧の低い状態とされる。これにより、炭化珪素を構成する珪素(すなわち共有結合性炭化物を構成する非金属元素)が基板24の表面22を含む外周面全体から酸化され且つガス化して次第に除去され、その平坦な表面22近傍に炭素原子18だけから成る珪素除去層28が形成される。図5(b)はこの状態を示している。
【0032】
図6は、上記の図5(b)に示す段階、すなわち真空熱処理を施した直後の基板24の断面構造を模式的に示すものである。基板24は、上記のように表面22近傍の珪素が除去された結果、珪素除去層28と、全表面がその珪素除去層28に覆われ且つ元の炭化珪素に保たれている炭化物部30とから構成されている。この珪素除去層28の厚さ寸法は、数(μm)程度例えば1.4(μm)程度であり、表面22側においては、炭化物部30の表面32上に形成された珪素除去層28の下層部を構成する炭素層34と、その炭素層34の表面36上から伸びて珪素除去層28の上層部を構成するナノチューブ層38すなわち多数本のナノチューブ12とから成る。なお、他の面、すなわち図6における側面および底面にはナノチューブ12は殆ど存在せず、実質的に炭素層34だけで珪素除去層28が構成されている。炭素層34の厚さtgは数百(nm)〜1(μm)程度、例えば800(nm)程度であり、ナノチューブ層38の厚さ寸法tnは数百(nm)〜1(μm)程度、例えば600(nm)程度である。
【0033】
なお、生成されたナノチューブ12は主に炭素の六員環で構成されているが、その端部には五員環或いは七員環が導入されて曲率半径10(nm)程度の小さなドーム状に閉じている。また、生成されたナノチューブ12は、α型においては[0001]方向に、β型においては[111]方向に高配向している。また、上記の炭素層34は、主として炭素原子の平坦な網目構造のグラファイトや無定形炭素等から成るものであり、ナノチューブ層38に比較して乱れた構造となっている。
【0034】
図7は、上記の真空熱処理によるナノチューブ12の生成過程を説明するモデル図である。(0001)面および(111)面は、炭素18だけの層と珪素40だけの層が交互に積層された結晶面であるが、このような面から珪素40が除去される際には、炭素18がチューブ形状を形成し易い。すなわち、炭化珪素の珪素原子40が炉内の酸素42によって選択的に酸化され一酸化珪素44になって抜け出ると、残された炭素18が高温下で再配列させられることにより、基板24には仮想線で示す表面22側から順に炭素18だけの分子構造が形成されていく。このように形成される分子は、前述のように炭素原子18が網状につながった六員環構造を成すグラファイトであるが、上記の結晶面から珪素原子40が除去されると、その六員環構造は一酸化珪素44の移動方向に沿ってエピタキシャル的に成長し、基板表面22の結晶面に応じてその成長方向が決定されるものと考えられる。そのため、熱処理の進行に伴って珪素除去層28が深くなると、上記のような結晶方位では円筒状のグラファイト・シートが基板24の厚み方向すなわち珪素除去層28の進行方向に伸びるように形成され、炭化珪素の結晶構造をある程度受け継いで図に示されるように炭化物部30と原子レベルで連続させられた形で、緻密に並び且つ基板表面22に略垂直な方向に配向したナノチューブ12が得られるものと推定される。
【0035】
なお、炉内に酸素42が余剰に存在すると、網状につながった炭素18の一部が酸化され一酸化炭素或いは二酸化炭素46となって抜け出る。この炭素18が抜け出ることによりナノチューブ12は減耗させられるが、炭素18が再び再配列して網状構造を形成するため、ナノチューブ12はその構造を維持させられる。そのため、ナノチューブ12の成長速度は、珪素原子40が除去される速度と炭素原子18が除去される速度との差で決まる。
【0036】
この場合において、本実施例では1700(℃)程度と十分に高い加熱温度および10-2(Pa)程度と圧力延いては酸素分圧の十分に低い条件下において加熱時間が10時間程度と長時間に設定されているため、珪素除去層28の深さは例えば1.4(μm)程度にもなる。前記のような珪素原子40の脱出は、真空炉26内の酸素で酸化反応が生じることにより促進されるものであり、また、ナノチューブ12はその珪素原子40が表面22に略垂直な方向に速やかに脱出することで高配向に形成されるものであるが、珪素除去層28が深くなるほど、表面22と内部すなわち炭化物部30の表面32との間のガス流通が妨げられるため、ガス流通が阻害された条件下ではナノチューブ12が成長し難くなる。したがって、珪素除去層28の一定以上の深さ位置、上記の条件下では0.4〜1(μm)以上の深さ位置においてはガス流通を必須とするナノチューブ12は殆ど生成されず、表面22に沿った方向に連なるグラファイト或いは無定形炭素等により構成された前記の炭素層34がそのナノチューブ12および炭化物部30の何れとも原子レベルで連続した状態で生成されることとなるものと考えられる。なお、上記のように深さ位置が一定の範囲を有するのは、同じ加熱条件でも基板24の全面で一定の値にはなり難いからである。
【0037】
但し、通常は、ナノチューブ12を形成するために必要な炭素原子18の個数は、炭化珪素基板24に含まれる炭素原子の数よりも遙かに少ない。上記の条件下においては、炉内に存在する酸素量は、この余剰の炭素18を全て酸化する程度まで多くないことから、酸化されなかった炭素18は、アモルファス構造となってナノチューブ12相互間或いは中空となったその内周側に残存する。前記のアモルファス・カーボン層14はこのようにしてナノチューブ12と同時に生成されたものである。
【0038】
しかも、上記の条件下においては、表面22側から炭化珪素の酸化反応は生じるがそれにより生成された炭素の酸化反応は生じ難いため、当初はナノチューブ12が好適に生成される。しかしながら、酸化反応の進行により珪素除去層28が深くなると、ガス流通が阻害されることにより、炭化珪素の酸化反応は生じてもそのガスの流通方向に沿って伸びるナノチューブ12の成長が困難になる。そのため、本実施例のように比較的深く形成される珪素除去層28では、その下層部が構造の乱れた炭素層34になるのである。
【0039】
図5に戻って、(c)に示される酸化熱処理工程においては、上記のようにして表面22上にナノチューブ12が形成された基板24を、加熱炉48中で熱処理する。熱処理条件は、例えば、大気雰囲気(酸化雰囲気)中において、500〜670(℃)の範囲内の温度、例えば580(℃)程度の温度で、1〜20分程度の処理時間とする。但し、温度および時間は、炉内の酸素分圧に応じて適宜設定される。酸化熱処理が施された基板24は、ナノチューブ12の先端部のうち六員環に比較して結合力が小さい五員環等で構成される部分や、炭素の結合構造の乱れた部分が破壊される。すなわち、ナノチューブ12先端のキャップが除去されると共に、ナノチューブ層38と炭化物部30との間の炭素層34が除去される。これにより、前記の図3等に示されるようにナノチューブ12の先端が開放され、且つ基板24からナノチューブ層38が分離されるため、両端が開放されたナノチューブ12が配向し且つ高密度に結合させられたナノチューブ膜10が得られる。
【0040】
要するに、本実施例によれば、図5(a)に示す真空熱処理工程において、基板24が例えば10-2(Pa)の圧力下において1700(℃)程度の温度で10時間程度に亘って加熱されることから、その表層部の珪素除去層28は次第に厚くなるが、この厚くなった珪素除去層28は、上層部がナノチューブ層38に保たれる一方、下層部が乱れた炭素層34となる。そのため、この炭素層34を構成する炭素の結合力はナノチューブ12を構成する六員環の結合力よりも遙かに小さいことから、続く酸化熱処理工程においてこの基板24を大気中で加熱すると、その珪素除去層28のうち炭素層34が優先的に分解され、基板24からナノチューブ層38が分離されてナノチューブ膜10が得られる。したがって、簡単且つ低い製造コストでナノチューブ膜10を製造することができる。
【0041】
しかも、このようにして製造されたナノチューブ膜10において、これを構成するナノチューブ12は、珪素除去層28が深くなるのに伴って基板表面22から内部に向かって成長したものであるため、その炭素の六員環から成る組織は基板表面22側に位置していた先端から内部側に位置していた基端まで滑らかに連続したものとなる。また、酸化熱処理が施された際には、六員環よりも結合力が小さい五員環や七員環が優先的に、乱れた炭素層34よりも早く分解されるため、ナノチューブ12の先端はそれを閉じるキャップがそれら五員環および七員環の存在する位置で分離されることにより開放される。更に、珪素除去層28内では生じた全ての炭素18がナノチューブ12の成長に利用されるものではないため、その成長に用いられない余剰の炭素18はアモルファス・カーボン14になってナノチューブ12相互間に存在してボンドとして作用することになる。これらにより、厚み方向において組織が不連続となる界面が存在せず、ナノチューブ12の両端が開放され、且つナノチューブ12相互がその外周面においてアモルファス・カーボン14で連続させられたナノチューブ膜10が得られる。
【0042】
また、本実施例においては、結晶面に平行且つ平坦な表面22を備えた炭化珪素単結晶から成る基板24、例えばα-SiCの(0001)面或いはβ-SiCの(111)面のような炭素原子18だけが存在する層と珪素原子40だけが存在する層とが交互に積み重ねられる方向における積層面が表面22に現れた基板24が用いられることから、ナノチューブ12の結晶面に垂直な方向に配向する傾向に基づき、ナノチューブ12の配向性延いては独立性が一層高められたナノチューブ膜10が得られる。
【0043】
このような製造方法になるナノチューブ膜10の特性を、水素吸蔵評価装置を用い、室温において5.06×105(Pa)[=5(atm)]程度の圧力の水素を吸蔵させて容量法で評価したところ、水素吸蔵量が4〜5時間で飽和し、ナノチューブ膜10の質量比で4(%)もの多量の水素を吸蔵できることが確かめられた。測定は、評価装置のステンレス製チャンバー内に銅製の坩堝を設置し、その中にナノチューブ膜10を入れて行った。上記のステンレス製チャンバーは、排気装置、リーク弁、圧力計、および水素ボンベが取り付けられ、周囲にフレキシブル・ヒータが巻き付けられたものである。また、測定条件は、200(℃)、1×10-2(Pa)で10時間放置した後、室温まで温度を下げてから、チャンバー内に水素を封入するものとし、水素圧力の経時変化を質量に換算して測定した。なお、これと対比するために前記の酸化熱処理を施していない基板24を同様にして評価したところ、水素は殆ど吸蔵されなかった。また、従来の厚み方向の中間部に界面を有するナノチューブ膜では、水素吸蔵量が2.8(%)程度に過ぎなかったが、これに本実施例と同様の酸化処理を施すと3.6(%)程度まで向上した。すなわち、本実施例において、酸化熱処理は水素吸蔵量を著しく向上させる作用があることが明らかとなった。
【0044】
また、CVD法を利用して製造した従来のナノチューブを金型に充填し、4.9×108(Pa)程度の圧力で1(cm3)程度の体積に加圧成形したところ、得られた成形体の気孔率は60(%)程度と高いものとなった。この値は本実施例のナノチューブ膜10の2倍程度の大きな値であり、本実施例によれば、膜状のものを得ることが困難な従来のナノチューブ製造方法による場合に比較して、体積当たりの水素吸蔵量が2倍程度の高い値になることが判る。
【0045】
図8は、前述したナノチューブ膜10の製造工程の酸化熱処理において、酸素濃度と処理温度との関係を調べ、ナノチューブ膜10を得るために適切な条件範囲を表したものである。図に示されるように、酸素濃度が100(%)では500〜600(℃)程度の比較的低い温度範囲の熱処理でナノチューブ膜10を得ることができるが、酸素濃度が低くなるほど炭素層34の酸化が生じ難くなるため、酸化処理温度を高くする必要がある。例えば、21(%)程度の濃度では550〜650(℃)程度の温度範囲にする必要があり、例えば5(%)程度の酸素濃度では570〜670(℃)程度の比較的高い温度範囲で酸化熱処理を施す必要がある。すなわち、ナノチューブ膜10が得られる好適な酸化熱処理の温度範囲は、図に斜線で示される範囲であって、酸素濃度に応じて変化するものとなる。なお、斜線で示される温度範囲内において高い温度を設定すれば、加熱処理時間を例えば1〜5分間程度に短く設定する必要があり、低い温度を設定すれば、処理時間を例えば15〜20分間程度に長く設定する必要がある。酸素濃度、熱処理温度、および処理時間は、このように基板24からナノチューブ層38を剥離してナノチューブ膜10が得られるように、その組み合わせが決定される。
【0046】
なお、本実施例においては、前記の製造工程における真空熱処理においてナノチューブ層38および炭素層34が適切に形成されている必要がある。この真空熱処理条件は、例えば以下に説明する実験結果に基づいて定めたものである。実験には、全て(0001)面が表面22に現れたα−炭化珪素から成る30(mm)×30(mm)×厚さ0.3(mm)程度の大きさの基板24を用い、前記の真空炉26内に配置して加熱温度を1500〜2000(℃)の範囲で、圧力を2×10-4〜6(Pa)の範囲で、および加熱時間を0.5〜10.0時間の範囲でそれぞれ適宜設定して加熱処理を施した。真空熱処理により表面22にナノチューブ12が生成された試料について、その表面抵抗(シート抵抗)を測定して炭素層34の生成状態を間接的に評価した。ナノチューブ12は表面22に沿った方向においては殆ど導電性を有していないが、炭素層34はグラファイトが表面22に沿った方向に連続するものであるため、抵抗値の十分に低いものは炭素層34の形成状態が良好、すなわち続く酸化熱処理工程でナノチューブ層38を基板24から分離できるような組織構造が得られていることを意味する。結果を下記の表1に示す。表1において表面抵抗の単位は「Ω/□」である。
【0047】
Figure 0004712213
【0048】
上記の結果から、加熱時間が長くなるほど表面抵抗が低下すること、すなわち、十分な厚さ寸法の炭素層34が形成されることが判る。従来においてナノチューブ12を生成するために行っていた0.5時間程度の加熱処理時間では、表面抵抗が1500〜1600(Ω/□)程度と高く珪素除去層28の深さが炭素層34が生成される程度には深くないが、1時間以上、好適には2時間以上の加熱処理を施すことにより珪素除去層28が深くなるに伴って十分な厚さ寸法に炭素層34が生成されると表面抵抗が著しく低下する。例えば、1800(℃)、6×10-2(Pa)の条件下では2時間程度の加熱で200(Ω/□)程度の表面抵抗になる。なお、1800(℃)を越える温度で加熱した試料では、珪素除去層28が全てグラファイトおよび無定形炭素から成る炭素層34で構成されてナノチューブ12が生成されなかったため、測定対象外とした。一方、1500(℃)程度の温度では加熱時間を長くしても表面抵抗が全く低下しない。すなわち、炭素層34が殆ど生成されない。このような低温では珪素除去層28の生成速度すなわちナノチューブ12の成長速度が極めて遅いため(後述する表2を参照)、その成長に必要なガス流通の阻害が殆ど生じないためと考えられる。したがって、加熱温度は1500(℃)よりも高い温度、例えば1550〜1800(℃)に設定する必要がある。
【0049】
また、下記の表2に特定の温度および圧力の条件下における加熱時間とナノチューブ長さとの関係を示すように、例えば1700(℃)、10-2〜6×10-2(Pa)の条件下では、6時間程度加熱することによりナノチューブ12の長さすなわち珪素除去層28の深さが1(μm)程度にも達する。そのため、その下層部では例えば0.2〜0.6(μm)以上の厚い炭素層34が生成されることから、酸化熱処理によって容易にナノチューブ層38を基板24から分離することができる。
【0050】
Figure 0004712213
【0051】
なお、加熱時間が長くなるとナノチューブ12が次第に減耗して短くなるが、上記の表2にも示されるように、実験した実用的な加熱時間範囲ではその長さ寸法は数百(nm)程度以上に保たれる。したがって、真空熱処理工程における加熱時間は、ナノチューブ膜10が得られるか否かやその特性には何ら影響しない。但し、工業的な意味では加熱時間は短いことが望まれ、実施例で示した10時間程度以下が好ましい。
【0052】
また、前記の表1から、表面抵抗を低くするためには一定の範囲の圧力で加熱する必要があることが判る。すなわち、従来では10-8〜10(Pa)程度の範囲内の何れの圧力でもナノチューブ12が生成されることから、その範囲内の圧力が任意に選定されていたが、珪素除去層28内に炭素層34を生成して表面抵抗を低下させるためには、例えば10-4〜10(Pa)程度の圧力で加熱処理を施す必要がある。適切な加熱処理温度および時間は圧力で異なり、例えば10-2〜6×10-2(Pa)程度の圧力下において、1700(℃)程度の温度では6時間以上、1800(℃)程度の温度では2時間以上加熱することが望ましい。
【0053】
以上、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明したが、本発明は、更に別の態様でも実施できる。
【0054】
例えば、実施例においては、本発明が水素吸蔵体として用いられるナノチューブ膜10に適用された場合について説明したが、本発明は、配向した多数本のナノチューブ12が高密度に結合され且つ自立したナノチューブ膜10が望まれる用途であれば、ニッケル水素電池等の水素吸蔵電極、ヒートポンプ、自然エネルギの貯蔵、アクチュエータ等の種々の用途に同様に適用し得る。本発明のナノチューブ膜によれば、ナノチューブが高密度に備えられているため、膜表面に沿った方向における電気抵抗が極めて低い利点がある。そのため、電極等の電気的用途にも好適である。
【0055】
また、実施例においては、炭化珪素から成る基板24を真空中および酸化雰囲気中で順次に熱処理することにより、ナノチューブ12が高い配向性を以て緻密に配設されたナノチューブ膜10を製造する場合について説明したが、真空中の加熱によって非金属元素が除去される共有結合性炭化物であれば、炭化ホウ素等の他の材料が用いられてもよい。
【0056】
また、実施例においては、炭素層34の厚さ寸法が数百(nm)〜1(μm)程度、ナノチューブ12の長さ寸法が数百(nm)〜1(μm)程度となるように基板24の真空熱処理条件が設定されていたが、炭素層34は、単にナノチューブ膜10を基板24から分離し得るものとするために要求されるものであるため、その厚さ寸法は酸化熱処理によって容易に分解される程度に適宜定められる。また、ナノチューブ12の長さ寸法は、作製しようとするナノチューブ膜10の厚さ寸法に応じて適宜定められる。すなわち、これらの厚さ寸法および長さ寸法は、用途や工程管理上の都合等に応じて適宜変更できる。
【0057】
その他、一々例示はしないが、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得るものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例のナノチューブ膜の全体構成を説明する斜視図である。
【図2】図1のナノチューブ膜の要部を拡大して示す図である。
【図3】図1のナノチューブ膜を構成するナノチューブの先端部構造を説明する分子モデル図である。
【図4】図1のナノチューブ膜の水素脱離特性を従来のものと比較して示す図である。
【図5】 (a)〜(c)は、図1のナノチューブ膜の製造工程の要部段階を説明する図である。
【図6】図5の製造工程において真空熱処理後の基板の要部断面を説明する図である。
【図7】図5の製造工程におけるナノチューブの生成作用を説明する分子モデル図である。
【図8】酸化熱処理工程の酸素濃度と加熱温度との関係を説明する図である。
【符号の説明】
10:ナノチューブ膜
12:ナノチューブ
14:アモルファス・カーボン層

Claims (4)

  1. 一面からそれに平行な他面に向かう一方向に沿って伸びる複数本のカーボン・ナノチューブがその円筒状の外周面で相互に結合されて成る自立したナノチューブ膜の製造方法であって、
    共有結合性炭化物から成る基板を10(Pa)以下の圧力範囲の真空下において1550乃至1800(℃)の範囲内の温度で1時間以上加熱する真空熱処理工程と、
    前記真空熱処理が施されることにより表面にナノチューブが生成した基板を所定濃度の酸素存在下において熱処理を施すことにより、そのナノチューブをその基板から分離する酸化熱処理工程と
    を、含むことを特徴とするナノチューブ膜の製造方法。
  2. 前記酸化熱処理工程は、500乃至670(℃)の範囲内において酸素濃度に応じて定められる温度で熱処理を施すものである請求項のナノチューブ膜の製造方法。
  3. 前記複数本のナノチューブは、各々の両端が開放されたものである請求項1のナノチューブ膜の製造方法。
  4. 前記複数本のナノチューブは、アモルファス・カーボンを介して相互に連続させられたものである請求項1のナノチューブ膜の製造方法。
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