JP4156879B2 - カーボン繊維の製造方法。 - Google Patents

カーボン繊維の製造方法。 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はカーボン繊維の製造方に関する。
【0002】
【従来の技術】
冷陰極である電界電子放出素子は、加熱を必要とした熱電子放出素子に比較して、省エネルギーで長寿命である。電界電子放出素子においては、低電圧駆動で電子放出を可能にすると共に電子放出効率を向上させるために、電子放出材料の先端の曲率を小さくする必要がある。
【0003】
この観点から、近年、カーボンマイクロファイバーなどのカーボン繊維、この中でも、ナノスケールサイズのカーボンナノチューブやカーボンナノファイバーなどのカーボンナノ繊維が電界電子放出素子の電子放出材料として注目されている。カーボンナノ繊維は、その外径が1〜数100nm、長さが数μmと形状的には低電圧で電界電子放出を行わせるのに十分な形態を有している。更に、その構成材料である炭素は化学的に安定で機械的にも強靱であるという特徴を持つため、電子放出素子としては、理想的な材料である。以下、カーボンナノ繊維もカーボン繊維として表記する。
【0004】
従来のカーボン繊維は、レーザーアブレーション法,真空中または不活性ガス中の黒鉛電極間のアーク放電法,炭化水素ガスを原料としたCVD(Chem−ical Vapor Deposition)法などを使用して製造されていた。
【0005】
この内、CVD法は、より規則性の高いカーボン繊維を得られる等の特徴を持つため、近年注目されている。このCVD法では、まず、石英管内に触媒膜を被着した基板を配置する。次に、石英管内に不活性ガスを導入し、石英管内を電気炉によって加熱して所定温度まで上昇させる。その後、不活性ガスに炭化水素ガスを混ぜた混合ガスを導入することにより、基板上にカーボン繊維を生成させる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
カーボン繊維、例えば、カーボンナノチューブを電子放出材料として使用する場合、電界の集中という点から、カーボンナノチューブは電界に沿った向き(通常は、カーボンナノチューブを配設した基板に対して垂直な方向)に配向していることが望ましい。しかしながら、カーボンナノチューブは、その形態が糸状であるため、単にカーボンナノチューブを基板に被着した場合、殆どのカーボンナノチューブはその先端が基板に対して垂直方向に揃って配向せず、低電圧駆動では不均一性が生じる等の問題があった。
【0007】
本発明は、種々の用途に利用可能であり、特に電子放出素子に適したカーボン繊の製造方法を提供することを課題としている
【0011】
【課題を解決するための手段】
請求項に記載されたカーボンナノ繊維の製造方法は、炭素を含む原料ガスを触媒の近傍で熱分解させて、炭素からなる線状構造体と炭素からなり前記線状構造体の表面に成長した複数の突起からなるカーボン繊維を成長させるカーボン繊維の製造方法において、
前記触媒の近傍に空気又は酸素が存在する状態で、前記原料ガスを前記触媒の近傍で500℃から1000℃で熱分解させて前記カーボン繊維を成長させることを特徴としている。
【0012】
請求項に記載されたカーボンナノ繊維の製造方法は、請求項に記載されたカーボン繊維の製造方法において、
前記空気又は前記酸素を供給して前記触媒の近傍に前記空気又は前記酸素が存在する状態にした後、少なくとも前記原料ガスと希釈ガスを供給しながら、前記原料ガスを前記触媒の近傍で500℃から1000℃で熱分解させて前記カーボン繊維を成長させることを特徴としている。
【0013】
請求項に記載されたカーボンナノ繊維の製造方法は、、請求項に記載されたカーボン繊維の製造方法において、
少なくとも前記空気又は前記酸素と前記原料ガスと希釈ガスとを同時に供給しながら、前記触媒の近傍に前記空気又は前記酸素が存在する状態で、前記原料ガスを前記触媒の近傍で500℃から1000℃熱分解させて前記カーボン繊維を成長させることを特徴としている。
【0014】
請求項に記載されたカーボン繊維の製造方法は、請求項に記載されたカーボン繊維の製造方法において、
前記空気又は前記酸素を供給する流量は、前記原料ガス又は前記希釈ガスの流量の10%以下であることを特徴としている。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明のカーボン繊維は、図3乃至図16から明らかなように、新規な構造を持つものである。本発明のカーボン繊維は、ベースとなるワイヤー(線状構造体10)と、ワイヤーの表面(外周表面)に成長した複数のウィスカー(トゲ状又は針状)又はフィラメント(毛状)又は瘤状の生成物(これらを合わせて突起11と呼ぶ)からなる。ここで、ウィスカーは直線状の細線であり、フィラメントは非直線状の細線である。なお、ウィスカー状又はフィラメント状の突起は、途中で枝分かれしていてもよい。フィラメント状の突起は枝分かれしている場合が多い。
【0017】
ベースとなるワイヤーは、ナノサイズ又はマイクロサイズの中密ファイバー(内部に中空部分を有しない構造のファイバー)又は中空ファイバー(内部に中空部分を有する構造のファイバー)である。どちらかというと、中空のものは少ない。
【0018】
この中密ファイバーと中空ファイバーの結晶性は、両者ともグラファイト微結晶性を持つアモルファス構造である。また、一般に認識されているナノチューブほど結晶化が進んでいない。ワイヤーの形状は、基本的には直線状である。しかし、長距離で見ればカールしているものがほとんどである。また、触媒の組合せ等を変更することにより、コイル状,ツイスト状又はロープ状など周期的なねじれを有したカーボン繊維を製造できる。ワイヤーの太さ(直径)は、ナノサイズからマイクロサイズの範囲である。大まかに言えば、50nm乃至5μm程度である。典型的には、200nm乃至600nmの範囲である。ワイヤーの長さは、1μm乃至1mm程度である。
【0019】
ウィスカー又はフィラメント状又は瘤状の生成物(成長物)の材質は、炭素である。これらの生成物の構造は、グラファイト微結晶性である。また、部分的にはアモルファス構造である。これらの生成物の太さ(ベースとなるワイヤーの長さ方向に対する直径、すなわち、該ワイヤーに接する部分の直径)は30nm乃至5μmである。典型的には、100nm乃至600nmの範囲である。これらの生成物の長さは、5nm乃至10μm程度である。典型的には、1μm以下である。
【0020】
ウィスカー又はフィラメント状又は瘤状の生成物の発生メカニズムについては、まだ不明な部分が多い。おそらく、ワイヤーの成長過程において、触媒の粒子が不純物化(この場合、酸化と思われる)すると、その不純物化した時点で成長状態が変わる。また、触媒の粒子がもとの状態(この場合、酸化個所の還元と思われる)にもどるとワイヤーとして成長すると考えられる。
【0021】
尚、ワイヤー(線状構造体10)と、ウィスカー又はフィラメント又は瘤状の生成物(突起11)の構造については、グラファイト微結晶性構造及びアモルファス構造のもの以外にも、グラファイト微結晶性構造のみと思われるものや、アモルファス構造のみと思われるものも存在している。ここで、グラファイト微結晶性構造には、10nm以上の大きな結晶になったものも含まれる。
【0022】
以上の通り、本発明のカーボン繊維は新規な構造を有するため、従来のナノカーボンと比較して、以下の特長を備えている。
(1)電子源として利用した場合
ワイヤー本体がどのような向きに配置されても、基板に対して垂直上向き(たとえば、引き出し電極の配設された方向)の突起が多く存在し、それらの突起部に電界を印加し易い(電界を集中し易い)。このため、低電圧での電界電子放出や放出電子密度が高くとれ、電子放出素子及びそれを使用した電子放出装置に適している。
【0023】
(2)コンポジットのフィラーとして利用した場合
他の母体材料(たとえば、セメント,合成樹脂,ゴム,紙など)と混合した場合、従来のカーボン繊維に比べて、突起部がアンカーとなり、抜け落ち難い。すなわち、突起部がアンカーとなる。半径方向、すなわち、ウィスカー又はフィラメント又は瘤の成長方向に対する微小衝撃緩和が可能である。また、衝撃が大きい場合には、ファイバー本体自体の機能が優先する。このため、電池電極(電極自体あるいは混合物),緻密フィルタ材もしくは衝撃緩和材に好適である。
【0024】
以上の通り、本発明のカーボン繊維は新規な構造を有し、従来知られている製造条件によっては製造できない。従って、本発明のカーボン繊維の製造方法および製造条件は新規なものである。本発明のカーボン繊維の製造方法は、化学気相成長法を使用する。化学気相成長法(CVD法)としては、触媒CVD法や気相熱分解法、熱CVD法や熱フィラメント支援CVD法などが利用できる。そして、カーボン繊維の製造プロセス中に、空気又は酸素の少なくとも一方を混入させるのが特徴である。
【0025】
より好ましい実施の形態について、以下説明を行う。
図1は、本発明の一実施形態であるカーボン繊維の製造に使用する装置の概略モデルを示す図である。この製造装置は、基板法に分類される最も基本的な形の熱CVD装置である。
【0026】
図1に示すように、本発明の装置は、反応容器とする反応炉1と、反応炉1に原料ガスを供給するガスボンベ2と、反応炉1に特定ガスを供給するガスボンベ3と、反応炉1に空気又は酸素ガスを供給するガスボンベ4と、原料ガス,特定ガス及び空気又は酸素ガスを一定流量で配給するガス流量制御器5と、反応炉1の少なくとも触媒6近傍部分を加熱する加熱装置7と、触媒6を担持した基材とする基板8と、反応炉1を排気する排気装置9から構成される。
【0027】
ここで、反応炉1は、加熱装置7の内部に配設されている。この加熱装置7により、反応炉1は所定温度に保持される。同様にして、基板8は、反応炉1の内部に配設されている。この加熱装置7により、基板8は反応炉1とともに所定温度に保持される。
【0028】
上記装置を使用して、以下のプロセスでカーボン繊維の製造を行う。
▲1▼ 反応炉1の内部に、触媒6を塗布した基板8を配置する。
▲2▼ 反応炉1の内部に、特定ガスAを供給する。
▲3▼ 反応炉1の内部に、特定ガスAを供給しつつ、反応炉1を加熱装置7で加熱して所定温度にする。
▲4▼ 所定温度に達したら、(a)特定ガスAと希釈ガスが異なる場合には、特定ガスAの供給を停止する。また、(b)特定ガスAと希釈ガスが同じ場合には、停止せずに、流量を変えるだけで良い。
【0029】
▲5▼ 所定温度を維持したまま、反応炉1の内部に、原料ガスと希釈ガスと空気(又は酸素。以下同様である)を供給する。空気を導入する方法としては、(a)はじめだけ空気を導入して、その後、原料ガスと希釈ガスを導入するか、もしくは(b)原料ガスと希釈ガスと空気を混合状態又は別々の状態で、連続的又は断続的に導入する。連続的に導入する場合、空気のみは断続的に導入しても良い。この状態で、原料ガスが分解され、触媒6の表面にカーボン繊維が成長する。空気を混入させる量は、極微量(例えば、全流量の10%以下)で良い。
【0030】
▲6▼ 所定の時間が経過したら、原料ガスと希釈ガスの供給を停止する。同時に、加熱装置7による加熱を停止する。
▲7▼ 反応炉1の内部に、特定ガスBを供給しつつ、冷却する。特定ガスBとしては、HeやArなどの不活性ガスが好ましい。
▲8▼ 反応炉1が十分に冷却された後、カーボン繊維が成長した基板8を反応炉1から取り出す。
【0031】
上記プロセス▲5▼(a)の場合には、その後、Heによる置換を十分に行わないことが好ましい。通常は、下流のコンダクタンスを下げてからHeを導入する。He導入後に下流のコンダクタンスを下げても良い。すなわち、反応容器内の残留酸素のパージ(排出)が十分でない状態にすれば良い。しかし、より能動的な方法は、原料ガス及び/又は希釈ガスと一緒に微量空気を連続的又は断続的に導入する上記プロセス▲5▼(b)の場合である。
【0032】
また、上記プロセス▲5▼では、空気(又は酸素)を混入させ、(Heによる置換を十分に行わず、)爆発が起こらない程度で炭化水素ガスを混入させる。正確に言えば、爆発が起こらない程度に空気(又は酸素)を入れる。例えば、原料ガスとしてアセチレンを使用した場合、アセチレン流量の同程度も空気(又は酸素)を入れると爆発するので注意を要する。
【0033】
上記プロセスにおいて、特定ガスAと特定ガスBと希釈ガスについては、同一のガスを使用しても良い。また、それぞれ異なるガスを使用しても良い。
空気(又は酸素)の供給方法については、特定ガスAに空気(又は酸素)を混入させるか又は特定ガスA自体を空気(又は酸素)にして、原料ガスの供給前に空気(又は酸素)の存在する状況を作ることができる。
【0034】
また、希釈ガスに空気(又は酸素)を混ぜることができる(もちろん、この場合、原料ガスと同時に供給されることにもなる)。この場合、空気(又は酸素)の流量比は、10%以下が好ましい。更に、特定ガスBに空気(又は酸素)を混ぜることもできる。この場合、流量比は10%以下が好ましい。更にまた、原料ガスに混ぜて、空気(又は酸素)を供給することもできる。この場合、原料ガスは、2種類のガスの混合ガスとなる。
【0035】
尚、上記プロセス▲3▼において、特定ガスAを供給しながら加熱する理由は、反応炉1の内部の空気をパージ(排気,置換)し、通常は不活性状態で触媒6を加熱するためである。
【0036】
また、上記プロセス▲5▼において、希釈ガスを供給する理由は、触媒6への炭素の供給速度(炭素の供給濃度)を低くするためである。原料ガスのみだと、繊維状のものが成長し難い傾向にある。また、繊維状のものが成長する場合であっても、かなり太い繊維になるためである。
【0037】
更に、上記プロセス▲7▼において、特定ガスBを供給しながら冷却する理由は、製造物(カーボン繊維)の酸化・焼失を防ぐためである。カーボン繊維は、500乃至600℃の酸素雰囲気で燃えてしまう。このため、希ガスを用いる。窒素も利用できる。反対に、故意に酸化させたければ、微量の酸素(10%以下)を混ぜることも可能である。
【0038】
上記プロセスは、触媒CVD法の内、基板法に分類されるものについて説明した。この基板法以外にも、流動床法や浮遊法などを使用することが可能である。ここで、流動床法とは、触媒基板を順次送り込み、移動させ、連続的にカーボン繊維を合成する方法である。また、浮遊法とは、触媒を反応容器の一方から投入し、他方からカーボン繊維を取り出す方法である。そして、通常は、反応容器を縦に配置して、反応容器の上から触媒粒子を落とし、反応容器の下から成長したカーボン繊維を回収する。
【0039】
更に説明を加えると、流動床法又は浮遊法では、以下のプロセスでカーボン繊維の製造を行う。
▲1▼ 反応容器に希釈ガスを流し、所定温度まで加熱する。
▲2▼ 所定温度を維持したまま、反応容器の内部に原料ガスを流す。
▲3▼ 所定温度を維持したまま、反応容器の内部にパウダー又は液体の触媒を投入する。その結果、反応容器の出口からカーボン繊維が出てくる。
空気(又は酸素)は、上記プロセス▲2▼及び/又は上記プロセス▲3▼において、他のガスと別々に供給するか、もしくは、原料ガス及び/又は希釈ガスに混ぜて供給する。
【0040】
CVD法としては、先に述べたように、各種のCVD法を使用することが可能である。特に、熱フィラメントCVD法はガスを容易に分解できるため、加熱装置6の温度が低温でもカーボン繊維を生成することが可能であり、より好ましい。また、反応炉1内でプラズマを発生させたりする等しても良い。
【0041】
反応炉1には、通常、石英ガラスを用いるが、セラミックスを用いても良い。一般的には、石英ガラスの方が入手は容易である。また、大口径になると、安価になる。反応炉1の温度は、500から1000℃の範囲が利用できる。好ましいのは、650℃から750℃である。最も適切な温度は、約700℃である。ここで、通常、カーボンナノコイル等のカーボン繊維は、約600℃以上から反応が始まるが、条件によっては約500℃から反応させることも可能である。
【0042】
反応炉1内の圧力は特に規定されないが、1×10−2Paから200kPaの圧力範囲とするのが容易である。最も容易なのは100kPa(大気圧)程度である。
【0043】
ガスボンベ2に収容された原料ガスには、CH,C,C,Cなどの炭化水素系ガス若しくはCO,COなどの炭酸系ガスを利用できる。また、トルエン,キシレンなどのCを含む有機溶媒を気化させて反応炉に導入してもよい。更に、アルコールの蒸気でも良い。中でも効率的なのは、分解温度が低いC,CO及びトルエン,キシレンなどの有機溶媒である。また、これらと比較して熱分解しにくいCを使う場合には、熱フィラメントCVD法(日本公開特許公報2001−240403号参照)を用いると良い。
【0044】
ガスボンベ3に収容された特定ガスには、He,Ne,Arなどの希ガス若しくはH,Nなどが利用できる。フッ化ガス若しくは塩化ガスを用いても良い。中でも、反応性が低いため、効率的にカーボンナノコイル若しくはカーボンナノツイストを合成できるのは、HeおよびArである。特に、熱容量の関係から、Arの方がより好適である。尚、フッ化ガス若しくは塩化ガスは、微量を混入させて、カーボン繊維の化学修飾を行うのに適している。
【0045】
ガスボンベ4には、空気又は酸素ガスを収容してある。空気を使用する場合には、反応容器内にリークさせる等によりガスボンベ4を使用しなくても良い。
ガス流量制御器5には、市販のガス流量計若しくはマスフローコントローラが利用できる。
【0046】
触媒6には、Cr,Mn,Fe,Co,Niまたはこれらの酸化物よりなる群から選ばれた1つの材料と、B,P,Mn,Zn,As,In,Sn,Sb又はこれらの酸化物よりなる群から選ばれた1つ又は複数の材料を含む触媒を、2層膜又は多層膜、若しくは、パウダー(混合粉末)又はパウダーを液体に溶かした状態で使用する。
【0047】
また、触媒6として、Cr,Mn,Fe,Co,Ni又はこれらの酸化物よりなる群から選ばれた複数の材料と、B,P,Mn,Zn,As,In,Sn,Sb又はこれらの酸化物よりなる群から選ばれた1つ又は複数の材料を含む触媒を使用しても良い。
【0048】
更に、触媒6として、少なくとも、Cr,Mn,Fe,Co,Ni又はこれらの酸化物よりなる群から選ばれた1つ又は複数の材料と、Cu,Al,Si,Ti,V,Nb,Mo,Hf,Ta,W又はこれらの酸化物よりなる群から選ばれた1つ又は複数の材料を含む触媒を使用することもできる。
【0049】
更にまた、触媒6として、Cr,Mn,Fe,Co,Ni又はこれらの酸化物よりなる群から選ばれた1つ又は複数の材料と、B,P,Mn,Zn,As,In,Sn,Sb又はこれらの酸化物よりなる群から選ばれた1つ又は複数の材料と、Cu,Al,Si,Ti,V,Nb,Mo,Hf,Ta,W又はこれらの酸化物よりなる群から選ばれた1つ又は複数の材料を含む触媒を使用できる。
【0050】
触媒6は、電子ビーム蒸着や真空アーク蒸着などの薄膜形成法で基板8に塗布する。触媒6は、基板8の表面全面に形成されている必要はない。必要に応じて部分的に形成されていても良い。また、触媒膜6の積層順序は特に規定されない。触媒6は、基板8上に薄膜として形成されていても良いが、パウダー(粉体)や液体の状態であっても良い。
【0051】
加熱装置7には、通常電気炉を用いるが、高温蒸気加熱器を用いても良いし、赤外線加熱器を用いてもよい。この中で、電気炉を使うのが最も安価である。ボイラーの廃熱が利用できる場合には、高温蒸気加熱が経済的である。また、赤外線加熱器は瞬間的に温度を上昇させられるという利点がある。
【0052】
触媒膜6を担持する基板8には、1000℃に耐えるシリコン,耐熱ガラス,セラミックス,黒鉛,金属などが利用できる。
【0053】
排気装置9は、単純なバブラーでよい。排気ガスをバブラーに通すことで大気の反応炉1への逆流を防止できる。また、排気装置9は排気ポンプを利用してよい。排気ポンプ若しくは真空ポンプを用いれば、確実な排気が可能である他、反応炉1内の圧力を調整できるという利点がある。
【0054】
図2(a)は、本発明の実施の形態に係る電子放出素子を有する電子放出装置の断面図である。この電子放出素子は、本発明の製造方法によって得られたカーボン繊維を電子放出材料として使用している。
【0055】
図2(a)において、ガラス基板201(基板)と、ガラス基板202(封止部材)と、ガラス基板201及び202の周囲を封着するガラスの側面板203(封止部材)から、真空容器200が構成される。
【0056】
ガラス基板201の上には、第1電極としてのカソード電極204が、アルミニウム等の金属の蒸着等により形成されている。カソード電極204の上には、カーボン繊維を含むペーストを塗布して電子放出材料205の層が形成されている。また、ガラス基板201に対向するガラス基板202の上には、電子放出材料205に対向して、第2電極としてのアノード電極206が、アルミニウム等の金属の蒸着等により形成されている。アノード電極206の上には、ZnO:Zn等の蛍光体層207が、スクリーン印刷法等により形成されている。
【0057】
上記2極管構造の電子放出装置において、カソード電極204とアノード電極206の間に電圧を印加すると、カソード電極204に接続されたカーボン繊維から電子が放出される。放出された電子はアノード電極206に引き寄せられ、蛍光体層207に射突して光が放出される。このとき、カーボン繊維の表面にはウィスカー又は瘤状の生成物が存在するため、低電圧駆動によっても、その生成物からも効率よく電子放出が行われる。
【0058】
図2(b)は、本発明の実施の形態に係る電子放出素子を有する他の電子放出装置の断面図である。尚、図2(a)と同一構成については、同一番号を付して説明を省略する。図2(a)と異なるのは、ガラス基板201の上に、電子放出材料205に対向して、第2電極としての金属メッシュからなるグリッド電極208が形成されている点である。
【0059】
上記3極管構造の電子放出装置において、カソード電極204とゲート電極208の間に電圧を印加すると、カソード電極204に接続されたカーボン繊維から電子が放出される。同時に、アノード電極206に所定の電圧を印加すると、放出された電子はアノード電極206に引き寄せられて、蛍光体層207に射突して光が放出される。このとき、カーボン繊維の表面にはウィスカー又は瘤状の生成物が存在するため、低電圧駆動によっても、その生成物からも効率よく電子放出が行われる。
【0060】
以下、本発明を、更に詳細に説明する。もちろん、本発明は、以下の実施例に限定されるわけではなく、様々な設計変更が可能である。尚、実施例1乃至実施例3について、膜状の触媒を使用した。また、実施例4及び実施例5については、粉末(パウダー)状の触媒を使用した。
【0061】
【実施例】
図3乃至図9は、本発明の第1実施例に係るカーボン繊維の製造方法によって製造したカーボン繊維を示す図である。この図は、基板8上に形成したカーボン繊維の写真である。この図では、図3が最も低倍率で撮影したSEM(高分解能走査型電子顕微鏡)写真であり、図4乃至図7は、順次倍率を上げて撮影したより高倍率のSEM写真である。図8は、フィラメント状物質が密集した個所のSEM写真である。また、図9は、基板8上に形成したカーボン繊維のTEM(透過型電子顕微鏡)写真である。更にまた、このカーボン繊維を酸素嫌気下(真空,窒素ガス中,希ガス中)において約3000℃程度で加熱すると、アモルファス部分がグラファイト結晶化する。
【0062】
第1実施例は、図1の装置を用い、反応炉1として直径45mm、長さ500mmの石英管を使用した。加熱装置7には電気炉を使用した。排気装置9にはバブラーを使用した。
【0063】
基板8にはガラス基板を用いた。また、触媒6にはPVD(PhysicalVapor Deposition)法の一種である真空アーク蒸着法を用いて成膜したNi/Cuの積層膜(基板上にCu膜(第1触媒膜)とNi膜(第2触媒膜)を順次形成した)を用いた。Ni層の厚さは5nm、Cu膜の厚さは100nmとした。ここで、Ni膜を形成したCu基板を用いても同様である。
【0064】
製造条件としては、特定ガスA,特定ガスB及び爆発を防ぐための希釈ガスにHeを420ml/minの流量で用いた。また原料ガスにはCを180ml/minの流量で用いた。空気(酸素)については、おおよそ10乃至100ml/minの流量に該当するものとした。圧力は大気圧(100kPa程度)とした。反応時間は原料ガスを導入して20minとした。電気炉で700℃の所定温度に保持して、原料ガスの熱分解を行った。尚、上記の流量値は、カーボン繊維(ファイバー)をより効率的に生成可能な比率である。
【0065】
以上の製造条件のもとで、石英管内にHeを供給しながら加熱して700℃に保持した。石英管内に空気を残留させるために電気炉が700度になった時点で一度空気(酸素)を極微量混入させ、Heでもう一度置換させた。このときの置換は、時間的に十分に行わず、爆発が起こらない程度で炭化水素ガスを混入させてCVDを行った。
【0066】
第1実施例では、図3乃至図8に示すように、線状構造体10とするベースとなるワイヤーと、ワイヤーの表面に成長した突起11とする複数のフィラメント(毛状の生成物)からなるカーボンナノファイバーが形成されていることがわかる
。フィラメントの太さは、ワイヤーよりもかなり細くなっている。尚、図7の写真については、分かり易いように引き出し線と数字を追加してある。
【0067】
また、図9は、フィラメントの短いもの(すなわち、瘤に近い生成物)を撮影したものである。図9から、フィラメントはアモルファス構造のように見える。図9の左下に挿入してある拡大図(10nmと表示された部分を含むTEM写真)は、四角い枠で囲んだ部分で示すフィラメントの表面を拡大したものである。この拡大図の丸で囲んだ部分から、フィラメントの表面が、およそ10nmの距離でグラファイト結晶化していることがわかる。また、10nmの距離でグラファイト結晶化しているものの集まりであることがわかる。これは、(図9のフィラメントの付け根あたりのワイヤーの構造から見て、)ワイヤーの結晶構造についても同様と考えられる。
【0068】
第2実施例は、図1の装置を用い、触媒6としてNi/ITO(Indium−Tin−Oxide)の積層膜を使用した。Ni層の厚さは20nm、ITO膜の厚さは200nmとした。空気(酸素)については、おおよそ10乃至50ml/minの流量で、他のガスと一緒に供給した。この触媒6及び空気(酸素)の導入方法以外については、第1実施例と同じ製造装置・製造条件を用いた。
【0069】
以上の製造条件のもとで、石英管内にHeを供給しながら加熱して700℃に保持した。電気炉が700度になった時点で炭化水素ガスとHeと一緒に空気(酸素)を混入させ、CVDを行った。
【0070】
第2実施例では、図10に示すように、線状構造体10とするワイヤーと、ワイヤーの表面に成長した突起11とする複数の瘤状の生成物からなるカーボンナノファイバーが形成されていることがわかる。瘤の太さは、ワイヤーとほぼ同じかそれよりも細くなっている。尚、図10の写真については、分かり易いように引き出し線と数字を追加してある。
【0071】
第3実施例は、図1の装置を用い、触媒6としてFe/Sn/Znの積層膜(基板上にFe膜(第1触媒膜)とSn膜(第2触媒膜)とZn膜(第3触媒膜)を順次形成した)を使用した。Fe層の厚さは50nm、Sn層の厚さは20nm、Zn膜の厚さは20nmとした。この触媒6以外については、第1実施例と同じ製造装置・製造条件を用いた。
【0072】
第3実施例では、図11に示すように、線状構造体10とするコイル状のワイヤーと、コイル状のワイヤーの表面に成長した突起11とする複数のトゲ状の生成物からなるカーボンナノコイルが形成されていることがわかる。トゲ状の生成物の太さは、ワイヤーの直径よりもかなり細くなっている。また、瘤がワイヤーから離れる方向に繋がっているのがわかる。この二重の瘤(瘤の上に瘤)が更に成長していくと、フィラメントになると考えられる。図11の白枠部分におけるカーボン繊維の構造を概略的に示すと図12のようになる。尚、トゲ状の生成物については、フィラメントの短いものであり、瘤状の生成物と判断することもできる。
【0073】
第4実施例は、図1の装置を用い、触媒6としてFe/Inの混合粉末を使用した。Fe(厳密にはα−Fe)粉末の粒子径は1μm、In粉末の粒子径は1μmであり、Fe:In=50(wt%):50(wt%)の混合比とした。この触媒6以外については、第1実施例と同じ製造装置・製造条件を用いた。
【0074】
第4実施例では、図13に示すように、線状構造体10とするワイヤーと、ワイヤーの表面に成長した突起11とする針状の生成物(根元が太くて先端が細い構造を有するウィスカー)からなるカーボンナノファイバーが形成されていることがわかる。図13の白枠部分におけるカーボン繊維の構造を概略的に示すと図14のようになる。
【0075】
第5実施例は、図1の装置を用い、触媒6としてNi/Snの混合粉末を使用した。Ni粉末の粒子径は1μm、Sn粉末の粒子径は1μmであり、Ni:Sn=50(wt%):50(wt%)の混合比とした。この触媒6以外については、第2実施例と同じ製造装置・製造条件を用いた。
【0076】
第5実施例では、図15に示すように、線状構造体10とするワイヤーと、ワイヤーの表面に成長した突起11とする複数の瘤状の生成物からなるカーボンナノファイバーが形成されていることがわかる。瘤状の生成物の太さは、ワイヤーの直径よりも細くなっている。図15の白枠部分におけるカーボン繊維の構造を概略的に示すと図16のようになる。尚、瘤状の生成物については、フィラメントの短いものと見なすこともできる。
【0077】
尚、上記の各実施例においては、ナノサイズのカーボン繊維(カーボンナノ繊維)を製造した例を示したが、触媒の種類や触媒の膜厚・粒径などを変更することにより、マイクロサイズのカーボン繊維(カーボンマイクロ繊維)を製造することができる。もちろん、それ以上の大きさのカーボン繊維も製造することも可能である。また、空気の換わりに酸素を使用しても大よそ同様の結果となった。
【0078】
また、触媒の組合せ等を変更することにより、カーボンファイバーやカーボンコイルだけでなく,カーボンツイスト又はカーボンロープなどのねじれを有したカーボン繊維を製造できる。ここで、カーボンツイスト及びカーボンロープは、その長手方向から見た場合、空間を有していない(中心部に穴が開いていない)構造である。さらに、カーボンツイストは、1つのカーボン繊維がねじれた構造を有している。また、カーボンナノロープは、2以上(複数)のカーボンナノ繊維がねじれて絡み合った構造、言い換えると複数のカーボンナノツイストが絡み合ったような構造を有している。
【0079】
図17は、電子放出素子の電子放出特性を測定するための装置を示している。この測定装置は、本発明のカーボン繊維を電子放出材料として使用した電子放出素子(電子放出源)の電子放出特性を測定するためのものである。
【0080】
図17において、真空チャンバ100中に、基板(カソード基板)101と基板(アノード基板)102が対向配置されている。基板101の上には、カソード電極103とカーボン繊維104の層(エミッタ層)が積層形成されている。基板102の上には、アノード電極(兼引き出し電極)105が形成されている。基板101と基板102間の距離は、1.1mmに設定した。また、カソード電極103とアノード電極105との間には、直流電源106及び電流計107が直列接続されている。
【0081】
図18は、図17の測定装置を用いて、カーボン繊維を電子放出材料として使用した電子放出素子の電子放出特性を示すデータである。図18に示すように、電界電子放出が行われていることがわかる。
【0082】
上記測定では、基板101と基板102間の距離を1.1mmに設定した。しかし、カーボン繊維は、基板101上から盛り上がった状態で被着されている。このため、カーボン繊維とアノード電極105との間の実際の距離は、1.1mmよりも短くなっている。
【0083】
【発明の効果】
本発明によれば、新しい構造を有するカーボン繊維及びその製造方法を提供することができる。特に、電子放出素子等に適したカーボン繊維及びその製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、電子放出特性に優れた電子放出素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態に係るカーボン繊維の製造方法に使用する製造装置の概略図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る電子放出素子を使用した電子放出装置の断面図である。
【図3】本発明の第1実施例に係るカーボン繊維の製造方法によって製造したカーボン繊維を示すSEM写真である。
【図4】本発明の第1実施例に係るカーボン繊維の製造方法によって製造したカーボン繊維を示すSEM写真である。
【図5】本発明の第1実施例に係るカーボン繊維の製造方法によって製造したカーボン繊維を示すSEM写真である。
【図6】本発明の第1実施例に係るカーボン繊維の製造方法によって製造したカーボン繊維を示すSEM写真である。
【図7】本発明の第1実施例に係るカーボン繊維の製造方法によって製造したカーボン繊維を示すSEM写真である。
【図8】本発明の第1実施例に係るカーボン繊維の製造方法によって製造したカーボン繊維を示すSEM写真である。
【図9】本発明の第1実施例に係るカーボン繊維の製造方法によって製造したカーボン繊維を示すTEM写真である。
【図10】本発明の第2実施例に係るカーボン繊維の製造方法によって製造したカーボン繊維を示すSEM写真である。
【図11】本発明の第3実施例に係るカーボン繊維の製造方法によって製造したカーボン繊維を示すSEM写真である。
【図12】本発明の第3実施例に係るカーボン繊維の構造を概略的に示した図である。
【図13】本発明の第4実施例に係るカーボン繊維の製造方法によって製造したカーボン繊維を示すTEM写真である。
【図14】本発明の第4実施例に係るカーボン繊維の構造を概略的に示した図である。
【図15】本発明の第5実施例に係るカーボン繊維の製造方法によって製造したカーボン繊維を示すSEM写真である。
【図16】本発明の第5実施例に係るカーボン繊維の構造を概略的に示した図である。
【図17】本発明の実施例に係る電子放出素子の電子放出特性を測定する装置の概略図である。
【図18】本発明の実施例に係る電子放出素子の電子放出特性を示す図である。
【符号の説明】
1…反応炉(反応容器)、
2…原料ガスを供給するガスボンベ、
3…特定ガス(希釈用ガス)を供給するガスボンベ、
4…空気又は酸素ガスを供給するガスボンベ、
5…ガス流量制御器、
6…触媒(触媒膜,触媒パウダーなど)、
7…加熱装置、
8…基板、
9…排気装置、
10…線状構造体(ベースとなるワイヤー)、
11…突起(ウィスカー又はフィラメント又は瘤状の生成物)、
100…真空チャンバ、
101…基板(カソード基板)、
102…アノード基板、
103…カソード電極(第1電極)、
104…カーボン繊維の層(電子放出材料)、
105…アノード電極(第2電極)、
106…直流電源、
107…電流計、
200…真空容器、
201…カソード基板(基板)、
202…アノード基板(封止部材)、
203…側面板(封止部材)、
204…カソード電極(第1電極)、
205…カーボン繊維を含む電子放出材料、
206…アノード電極(図2(a)における第2電極)、
207…蛍光体層、
208…グリッド電極(図2(b)における第2電極)。

Claims (4)

  1. 炭素を含む原料ガスを触媒の近傍で熱分解させて、炭素からなる線状構造体と炭素からなり前記線状構造体の表面に成長した複数の突起からなるカーボン繊維を成長させるカーボン繊維の製造方法において、
    前記触媒の近傍に空気又は酸素が存在する状態で、前記原料ガスを前記触媒の近傍で500℃から1000℃で熱分解させて前記カーボン繊維を成長させることを特徴とするカーボン繊維の製造方法。
  2. 前記空気又は前記酸素を供給して前記触媒の近傍に前記空気又は前記酸素が存在する状態にした後、少なくとも前記原料ガスと希釈ガスを供給しながら、前記原料ガスを前記触媒の近傍で500℃から1000℃で熱分解させて前記カーボン繊維を成長させることを特徴とする請求項1記載のカーボン繊維の製造方法。
  3. 少なくとも前記空気又は前記酸素と前記原料ガスと希釈ガスとを同時に供給しながら、前記触媒の近傍に前記空気又は前記酸素が存在する状態で、前記原料ガスを前記触媒の近傍で500℃から1000℃で熱分解させて前記カーボン繊維を成長させることを特徴とする請求項1記載のカーボン繊維の製造方法。
  4. 前記空気又は前記酸素を供給する流量は、前記原料ガス又は前記希釈ガスの流量の10%以下であることを特徴とする請求項3記載のカーボン繊維の製造方法。
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