本発明はカーボンの成長を促進する触媒材料を用いて形成したカーボンファイバーを用いた電子放出素子、電子源及び画像形成装置に関する。更に本発明の画像形成装置は、テレビジョン放送の表示装置、テレビ会議システムやコンピューター等の画像形成装置の他、感光性ドラム等を用いて構成された光プリンターとしての画像形成装置等としても用いることができる。更に本発明は、カーボンファイバーを用いた2次電池の負極、水素吸蔵体に関する。
炭素フィブリルの製造方法が、特許文献1に開示されている。また、繊条質炭素の製造方法が、特許文献2に開示されている。また、カーボンナノチューブの製造方法が、特許文献3に開示されている。
また、カーボンファイバーを用いた電子放出素子は、特許文献3〜8、非特許文献1,2などに開示されている。
なお、カーボンファイバーのラマン分光分析の結果の一例が、図13の(a)、(b)に示す様に、上記ChemicalPhysicsLetters340(2001),pp413−418に開示されている。
一般に、触媒金属を用いて、プラズマCVD法などを用いてカーボンナノチューブなどのカーボンファイバーを基板上に形成する従来の方法では、基板温度を800〜900℃に上げなければならず、他の部材への悪影響や製造コストが上昇する欠点があった。
本発明の目的は、複雑なプロセスを必要とせず、低温で良好にカーボンファイバーを形成することのできる触媒、及びその製造方法を提供することにある。
また、従来、C.A.Spindt,”Physical Properties of thin−film field emission cathodes with molybdenum cones”,J.Appl.Phis.,47,5248(1976)等に開示されている所謂スピント型の電子放出素子に比べて、カーボンファイバーを用いた電子放出素子は、電子放出に必要な電界が低く、また駆動時に必要な真空度も低く、さらには得られる放出電流密度が高いという利点がある。
しかし、このようなカーボンファイバーを利用した電子放出素子をフラットパネルディスプレイなどの電子源として用いる場合には、上記した特性を長期に渡って維持する必要がある。
例えば、電子放出素子の放出電流密度が大きく低下すると、例えばこれを画像形成装置に用いた場合には、表示画像の品位を大きく低下する等の問題にもつながる。そのため、カーボンファイバーを用いた電子放出素子においてはさらなる特性の改善が課題となっていた。
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、電子放出に必要な電界が低く、また駆動時に必要な真空度も低く、さらには得られる放出電流が多いという利点を長期に渡って維持することのできるカーボンファイバーを用いた電子放出素子、電子源並びに画像形成装置を得ることを目的とする。
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討の結果、カーボンファイバーの形成に用いられる触媒として、Pdを含み、さらに、特定の元素が添加されてなる触媒粒子を用いることが非常に好ましいことを見出し、本発明を完成するに至った。
第1の発明は、電子放出素子の製造方法であって、
基板上に金属を含む膜を配置する工程と、
該金属を含む膜上に触媒を配置する工程と、
該触媒が配置された金属を含む膜を炭素を含む雰囲気中で加熱処理することにより、複数のカーボンファイバーを形成する工程と、を有し、
前記触媒が、Fe、Co、Ni中から選択された少なくとも一つの元素と、Pdとを含み、前記選択された少なくとも1つの元素が、Pdに対して20atm%(原子百分率)以上、80atm%(原子百分率)以下含まれることを特徴とする。
第2の発明は、電子放出素子の製造方法であって、
基板上に金属を含む膜を配置する工程と、
該金属を含む膜上に複数の触媒粒子を配置する工程と、
該複数の触媒粒子が配置された金属を含む膜を炭素を含む雰囲気中で加熱処理することにより、複数のカーボンファイバーを形成する工程と、を有し、
前記触媒が、Fe、Co、Ni中から選択された少なくとも一つの元素と、Pdとを含み、前記選択された少なくとも1つの元素が、Pdに対して20atm%(原子百分率)以上、80atm%(原子百分率)以下含まれることを特徴とする。
第3の発明は、電子放出素子の製造方法であって、
基板上に金属を含む膜を配置する工程と、
該金属を含む膜上に触媒を配置する工程と、
該触媒が配置された金属を含む膜を炭素を含む雰囲気中で加熱処理することにより、複数のカーボンファイバーを形成する工程と、を有し、
前記触媒が、PdとCoを含有し、該触媒中におけるCoの割合が20atm%以上、80atm%以下であることを特徴とする。
第4の発明は、電子放出素子の製造方法であって、
基板上に金属を含む膜を配置する工程と、
該金属を含む膜上に複数の触媒粒子を配置する工程と、
該複数の触媒粒子が配置された金属を含む膜を炭素を含む雰囲気中で加熱処理することにより、複数のカーボンファイバーを形成する工程と、を有し、
前記触媒が、PdとCoを含有し、該触媒中におけるCoの割合が20atm%以上、80atm%以下であることを特徴とする。
以上説明した様に、本発明による触媒を用いると、カーボンファイバーが安定に低温で成長するため、複雑なプロセスを必要とせず、比較的低温で良好に成長し、電子放出素子に応用可能なカーボンファイバーを提供することが出来る。また、低温で作製可能なため、他の部材への影響や、製造コストの観点からも好ましい。また、粉塵爆発の危険性がなくなり、製造装置の防爆設備が不要となった。
更に、Pdのみの場合に生じた初期状態よりも大きな形状を持つ粒子となる形状変化を防ぐことができ、カーボンファイバーの成長温度の上昇や電子放出の閾値の上昇を防ぐことが出来た。
本発明の触媒、触媒の製造方法、該触媒を用いて形成したカーボンファイバー、カーボンファイバーを用いた電子放出素子、電子源、画像形成装置について、実施態様の一例を以下に説明する。ただし、以下に記載する構成部品の寸法、材質、形状、その相対位置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。同様に以下に記述する製造工程も唯一のものではない。
まず、本発明の触媒について説明する。
本発明の触媒は、カーボン、特にはカーボンファイバーの成長に用いられる(成長を促進する)Pdを含む触媒であって、さらに、Fe、Co、Ni、Y、Rh、Pt、La、Ce、Pr、Nd、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Luの中から選択された少なくとも一つの元素が添加されてなる。そして、上記触媒は、カーボンファイバーの形成に用いられる場合においては、粒子状であることが、形成するカーボンファイバーの直径などの形状を制御する上で好ましく、そして重要な点である。
また、Pdと組み合わされる前記添加される元素の中では、Fe、Ni、Coのいずれかを少なくとも含むことが好ましい。そして特には、PdとCoの組み合わせが好ましい。Fe、Ni、Coの中から選択された元素と、Pdとを含む触媒粒子を用いて、カーボンファイバーを作成し、この得られたカーボンファイバーを電子放出素子に応用した際には、特に印加電圧−電子放出電流特性において、鋭い立ち上がり特性を得ることができる。また、同時に長期に渡って安定な電子放出特性を得ることができる。また、Pdと組み合わされる前記添加される元素(Fe、Ni、Co)は、Pdとの合金状態で触媒粒子を構成することが、多数のカーボンファイバーを、均一性高く、そして安定に、製造する上で好ましい。
ここで、本発明における「カーボンファイバー」とは、「カーボンを主成分とするファイバー」あるいは、ファイバー状のカーボンを指す。そして、本発明の「カーボンファイバー」は、カーボンナノチューブ、グラファイトナノファイバー、アモルファスカーボンファイバー、ダイアモンドファイバーを含む。そして、後述する様に、本発明の電子放出素子においては、カーボンファイバーの中でも、グラファイトナノファイバーが、その電子放出特性の観点から、特に好ましく用いられる。
本発明においてPdを触媒の成分とする理由は、以下の通りである。
粒子状態においては、Pd以外の触媒は大気にさらすと、すぐに大気中の水や酸素と化学反応を生じ酸化物となってしまうが、Pd触媒は他の触媒材料と異なり金属結合状態をより安定に保つ。
特に、Fe系の金属触媒粒子は大気にさらすと、急激に化学反応を起こし、粉塵爆発の危険性があるが、金属Pd触媒ではこのような危険性がない。さらにPdに加えて、前述したCo、Ni、Feなどを含んだ金属触媒であっても酸化反応が遅く進行するため、安全に触媒を取り扱うことが可能である。
一方、Pdは水素を容易に触媒内に取り込む性質と関連して、特異な挙動がある。Pdを水素、有機ガス等の還元雰囲気にさらすと、水素を含んだ粒子が、比較的低温度(約450℃以上)で粒子同士が結びついて、初期状態よりも大きな形状を持つ粒子となる。この現象により、Pd粒子が大きい形状に変化すると、カーボンファイバーの成長温度が高くなるだけでなく、電子放出の閾値が高くなる等の不都合があった。
このような不都合を避ける方法として、成長に必要な温度に達するまで、触媒に水素、あるいは炭化水素に可能な限り暴露しない方法もあるが、より有効な方法としてPd粒子中に、Fe、Co、Ni、Y、Rh、Pt、La、Ce、Pr、Nd、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Luのうち少なくともひとつを添加することで、粒子同士が結びついて、初期状態よりも大きな形状を持つ粒子となる形状変化を防ぐことが可能なことを見出した。
上記効果は、Pdに対して添加する元素の、Pdに対する比率(原子比)が、5atm%(原子百分率)以上である時に顕著な効果が発現する。またPdに対して添加する元素の、Pdに対する比率(原子比)が、80atm%(原子百分率)を超えると、カーボンファイバーの成長が遅くなったり、積極的な水素添加等による還元プロセスが必要となる傾向が出る。また、Pdに対して添加する元素の、Pdに対する比率(原子比)が、80atm%(原子百分率)を超えると、添加元素単体の触媒と同様の特性になってしまい、形成されるカーボンファイバーの結晶構造が大きく変化してしまう。このため、上記Pdへの添加元素は、80atm%(原子百分率)以下であることが好ましい。
また、本発明の触媒は、粒子状であることがカーボンファイバーを形成する上で好ましい。
また、詳しくは後述するが、カーボンファイバーを電子放出素子に応用する際には、多数のカーボンファイバーが高密度に配置されたもの(「複数のカーボンファイバーを含む膜」と呼ぶ)を1つの電子放出素子に適用する。このような複数のカーボンファイバーを含む膜を、均一性が高く、安定に形成する際には、本発明の触媒粒子に含まれる、上記Pdと、添加される元素とが、合金状態であることが重要である。
本発明においては、詳しくは後述するが、上記触媒材料を用いて核(好ましくは直径が1nm以上100nm以下の触媒粒子)を形成し、熱CVD法による炭化水素ガスの熱分解により、前記核(触媒粒子)を介して電子放出素子に好ましく適用されるカーボンファイバーを成長させる。ここで、炭化水素ガスとしては例えばアセチレン、エチレン、メタン、プロパン、プロピレンを用いることができる。あるいはエタノールやアセトンなどの有機溶剤の蒸気をも用いることもある。
上記本発明の触媒粒子を用いて炭化水素ガスを分解して出来るカーボンファイバーを複数含む膜の一例の模式図を図7、8、16に示す。各図では一番左側の図に光学顕微鏡レベル(〜1000倍)で見える形態、真中の図に走査電子顕微鏡(SEM)レベル(〜3万倍)で見える形態、右側の図に透過電子顕微鏡(TEM)レベル(〜100万倍)で見えるカーボンファイバーの形態を模式的に示している。
図7に示す様に、グラフェンが円筒形状(円筒形が多重構造になっているものはマルチウォールナノチューブと呼ばれる)の形態をとるものはカーボンナノチューブと呼ばれ、特にチューブ先端を開放させた構造の時に、電子放出のために必要な閾値が最も下がる。
また、グラファイトナノファイバーを図8、図16に模式的に示す。この形態のカーボンファイバーはグラフェンの積層体で構成されている。より具体的には、図8の一番右側の模式図に示す様に、グラファイトナノファイバーは、その長手方向(ファイバーの軸方向)にグラフェン23が積層されたファイバー状の物質を指す。あるいはまた、図8の一番右側の模式図に示す様に、グラフェン23がファイバーの軸に対して非平行に配置されたファイバー状の物質を指すものである。グラフェンが、ファイバーの軸方向に対して実質的に垂直な場合も本発明におけるグラファイトナノファイバーに包含される。
尚、グラファイトの1枚面を「グラフェン」あるいは「グラフェンシート」と呼ぶ。より具体的には、グラファイトは、炭素原子がsp2混成により共有結合でできた正六角形を敷き詰める様に配置された炭素平面が、理想的には3.354Åの距離を保って積層してできたものである。この一枚一枚の炭素平面を「グラフェン」あるいは「グラフェンシート」と呼ぶ。上記カーボンファイバーを電子放出素子として用いた際、その電子放出の閾値は1V〜10V/μm程度であり、電子放出材料として好ましい特性を示す。
尚、カーボンファイバーを用いて電子放出素子を形成する場合には、複数のカーボンファイバーを含む膜を1つの電子放出素子に用いる。しかし、このように、複数のカーボンファイバーを含む膜を用いた電子放出素子を用いる際には、カーボンファイバーとしてグラファイトナノファイバーを用いることが好ましい。何故なら、複数のグラファイトナノファイバーからなる膜を電子放出膜として用いた電子放出素子では、カーボンナノチューブを用いた場合よりも、電子放出電流密度を大きく確保できる為である。
また、電子放出素子を例えばディスプレイや電子源に用いた場合においては、その良好な電子放出特性を長期にわたって維持する必要がある。そこで、本発明者らの検討の結果、複数のカーボンファイバーを含む膜を用いた電子放出素子においては、その膜のラマン分光分析結果がある特定のものであると、その良好な電子放出特性を長期に渡って維持することができることを見出した。
図11は、複数のカーボンファイバーを含む膜の中で、良好な電子放出特性を長期にわたって維持することのできる膜に、顕著に現れる特性を示す図である。具体的には、波長514.5nmのレーザーを、本発明の複数のカーボンファイバーを含む膜に照射した際に検出されるラマン散乱光の強度の分布特性(ラマンスペクトル)を模式的に示したものである。尚、図11において、横軸はラマン散乱光のレイリー散乱光からの振動数のずれ(「ラマンシフト」と称する)を示し、縦軸はラマン散乱光の強度を示す。
図11に示す様に、本発明の複数のカーボンファイバーを含む膜は、ラマンシフトが1355±10カイザーの範囲においてラマン散乱光強度の明確なピーク(「第1のピーク」)を示すと共に、ラマンシフトが1580±10カイザーの範囲においてラマン散乱光強度の明確なピーク(「第2のピーク」)を示す。上記第1のピークは所謂「Dバンド」に相当し、上記第2のピークは所謂「Gバンド」に相当すると考えられる。
そして、本発明の複数のカーボンファイバーを含む膜は、図11に示す様に、前記第1のピークのラマン散乱光強度とベース強度(ベースライン)との差分である相対強度h2が、前記第2のピークのラマン散乱光強度とベース強度との差分である相対強度h1の1.3倍以上である。そして好ましくは、本発明の複数のカーボンファイバーを含む膜は、前記第1のピークのラマン散乱光強度とベース強度との差分である相対強度h2が、前記第2のピークのラマン散乱光強度とベース強度との差分である相対強度h1の1.3倍以上2.5倍以下である。
尚、本発明におけるベース強度とは、ラマン強度分布の実測結果のグラフを平滑化した結果における、1100cm-1のラマン散乱光強度と、1700cm-1のラマン散乱光強度とを直線で結んだものを指す。
また、本発明の、複数のカーボンファイバーを含む膜は、前記第1のピークの半値幅:FWHM2と、前記第2のピークの半値幅:FWHM1とが、FWHM2/FWHM1≦1.2の関係を満たす。
そして特に好ましくは、本発明の、複数のカーボンファイバーを含む膜は、前記第1のピークの半値幅FWHM2と前記第2のピークの半値幅FWHM1とがFWHM2/FWHM1≦1.2の関係にあり、前記第1のピークのラマン散乱光強度とベース強度との差分である相対強度h2が、前記第2のピークのラマン散乱光強度とベース強度との差分である相対強度h1の1.3倍以上である。そしてさらに好ましくは本発明の、複数のカーボンファイバーを含む膜は、前記第1のピークの半値幅FWHM2と前記第2のピークの半値幅FWHM1とがFWHM2/FWHM1≦1.2の関係にあり、前記第1のピークのラマン散乱光強度とベース強度との差分である相対強度h2が、前記第2のピークのラマン散乱光強度とベース強度との差分である相対強度h1の1.3倍以上2.5倍以下である。
さらに好ましくは、本発明の、複数のカーボンファイバーを含む膜は、上記した各特性(上記した第1のピークと第2のピークにおける半値幅の関係、およびあるいは上記した第1のピークと第2のピークにおける強度比の関係)に加えて、前記第1のピークと第2のピークとの間(或いはDバンドとGバンドとの間)におけるラマン散乱光強度の最小強度とベース強度との差分である相対強度h3が、前記第1のピークのラマン散乱光強度とベース強度との差分である相対強度h2の1/10以下である。また更には、前記相対強度h3が、前記相対強度h2の1/15以下であることがより好ましい。
このように、前記第1のピークと第2のピークとの間(或いはDバンドとGバンドとの間)におけるラマン散乱光強度の最小強度h3が、第1のピークにおけるラマン散乱光強度に対して1/10以下、特には1/15以下であることにより、カーボンファイバーの結晶性が向上し、結果、良好な電子放出特性を長期に渡って維持することができる。
上記の様な要件を満たす本発明の複数のカーボンファイバーを含む膜を用いた電子放出素子は、後述のように、初期電子放出電流密度が大きく、また経時的な電子放出特性劣化の少ない、寿命特性の優れた電子放出素子とすることができる。上記良好な寿命特性を長期に渡って得られる明確な理由は未だ定かではないが、本発明者は、上記h1とh2の関係、および上記FWHM1とFWHM2との関係に加え、h3との関係が、その理由の重要なファクターとなっていると考えている。そして、さらに、上記したh2とh3の関係が電子放出特性の安定性を与えていると考えている。
以下に、上記複数のカーボンファイバーを含む膜の製造方法の一例を説明する。ただし、以下に記載されている構成部品の寸法,材質,形状、その相対位置、使用するガスや薬品などはあくまで一例であり、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
上記したラマンシフトの特性をもつ複数のカーボンファイバーを含む膜は、詳しくは後述する本発明の触媒粒子(特にはPdとCoとの合金からなる粒子、あるいは、PdとFeとの合金からなる粒子、あるいはPdとNiとの合金からなる粒子)を介してカーボンファイバーを成長させることにより得ることができる。
本発明の触媒粒子を用いて製造されるカーボンファイバーのうち、特に、グラファイトナノファイバーを用いた電子放出素子では、後述する図2などに示した素子構造に限らず、低電界で電子放出を起こすことができ、大きな放出電流を得ることができ、簡易に製造ができ、そして、安定な電子放出特性を持つ電子放出素子を得ることができる。
グラファイトナノファイバーは、カーボンナノチューブ等と異なり、図8などに示した様に、表面(ファイバーの側面)に微細な凹凸形状を有するために電界集中が起きやすく、電子を放出しやすいと考えられる。そして、また、ファイバーの中心軸からファイバーの外周(表面)に向かってグラフェンが伸びている形態であるため、電子放出をし易いのではないかと考えている。一方のカーボンナノチューブは、ファイバーの側面は、基本的に、グラファイトの(002)面に相当するため、化学的に不活性であり、グラファイトナノファイバーのような凹凸もないため、ファイバーの側面から電子が放出するための閾値は高いと考えられる。そのため、カーボンファイバーがグラファイトナノファイバーであることは電子放出素子としては好ましいと言える。
例えば、複数のグラファイトナノファイバーからなる膜をエミッタとし、このエミッタからの電子放出を制御する電極(ゲート電極)を用意することで電子放出素子とすることができ、さらにグラファイトナノファイバーから放出された電子の照射により発光する発光部材を放出された電子の軌道上に配置すればランプなどの発光装置を形成することができる。また、さらには、複数の上記グラファイトナノファイバーを含む膜を用いた電子放出素子を、複数配列すると共に、蛍光体などの発光部材を有するアノード電極を用意することでディスプレイなどの画像形成装置をも構成することができる。本発明のグラファイトナノファイバーを用いた電子放出装置、発光装置、あるいは画像形成装置においては、内部を従来の電子放出素子のように超高真空に保持しなくても安定な電子放出をすることができ、また低電界で電子放出するため、信頼性の高い装置を非常に簡易に製造することができる。
また、特には、本発明の触媒粒子を多数配置し、その触媒粒子から成長させた複数のグラファイトナノファイバーを含む膜と、アノード電極との間に1×105V/cmの電界強度を印加した際には、電子放出サイトの密度として、103個/cm2以上得ることができる。
上記本発明の触媒(特に粒子状の触媒)の製造方法の一例としては、共真空蒸着が挙げられ、具体的には、Pdを真空蒸着における第1の蒸発源とし、前記添加するFe、Co、Ni、Y、Rh、Pt、La、Ce、Pr、Nd、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Luの中から選択された少なくとも一つを真空蒸着における第2の蒸発源とした共真空蒸着によって製造することができる。
上記真空蒸着としては、電子ビーム蒸着法、抵抗加熱蒸着法、スパッタ法等を利用できるが、スパッタ法が好ましく用いられる。この場合一元式のスパッタ装置であっても、Pdターゲットの上に添加されて含有される従たる成分となる材料の所望量の小片板を並べてスパッタすることにより、本発明の触媒を製造することが出来る。
更に、上記触媒の他の製造方法としては、液体塗布が掲げられ、具体的には、Pdを含有する第1の液体と、前記Pdに添加するFe、Co、Ni、Y、Rh、Pt、La、Ce、Pr、Nd、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Luの中から選択された少なくとも一つを含有する第2の液体との混合液を基体上に塗布した後に乾燥あるいは焼成して本発明の触媒を製造することが出来る。
次に、本発明の触媒粒子を用いて形成したカーボンファイバーを用いた電子放出素子の一例について、図1及び図2に示した模式図を用いて詳述する。ここでは、本発明の触媒を粒子状にして用いた例を説明する。
図2Aは本発明における複数のカーボンファイバーを含む膜を用いた電子放出素子の構造の一例を示す模式平面図、図2Bは図2AのA−A間における模式断面図である。
図2において201は絶縁性の基板、202は引出し電極(ゲート電極)、203は陰極電極(カソード電極)、207はエミッタ材料であるカーボンファイバー、205は触媒粒子を介してカーボンファイバー207が成長する導電性材料層を示している。この導電性材料層205は必ずしも必要とはしない。ここでは、カソード電極203と、触媒粒子が配置された導電性材料層205とを積層構造としたが、導電性材料層205を省略し、カソード電極203の表面に本発明の触媒を配置した形態であってもよい。即ち、カソード電極203表面にカーボンファイバー207が配置される形態であってもよい。
絶縁性の基板201としては、その表面を十分に洗浄した、石英ガラスなどの絶縁性基板が挙げられる。
引き出し電極202および陰極電極203は導電性を有しており、蒸着法、スパッタ法等の一般的真空成膜技術、フォトリソグラフィー技術などにより形成される。材料は、好ましくは炭素、金属、金属の窒化物、金属の炭化物の耐熱性材料が望ましい。
エミッタ材料(カーボンファイバー)207は、本発明の触媒粒子すなわち、Pdを含み、さらに添加される成分がFe、Co、Ni、Y、Rh、Pt、La、Ce、Pr、Nd、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Luのうち少なくともひとつであることを特徴とする触媒粒子を用いて、成長させたカーボンナノチューブ、グラファイトナノファイバーなどのカーボンファイバーである。上記添加される成分のうちでは、Fe、Co、Niが本発明の効果を得る上で好ましい材料である。そして、特には、CoとPdの組み合わせが好ましい。また、Pdと、Pdと組み合わされる成分(Fe、Co、Ni、Y、Rh、Pt、La、Ce、Pr、Nd、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Luのうち少なくともひとつ)とは、合金化していることが、均一性高く、再現性よく、本発明のカーボンファイバーを形成する上で必要である。
以下に、図1を用いて図2で示した本発明の電子放出素子の製造工程の一例を詳細に説明する。
(工程1)
基板101を十分洗浄を行った後、ゲート電極102及び陰極(エミッタ)電極103を形成するため、はじめに基板全体に、スパッタ法等により、例えば厚さ500nmの電極層を形成する。上記した絶縁性の基板101としては、石英ガラス、Na等の不純物含有量を減少させてKなどに一部置換したガラス、シリコン基板等にスパッタ法等によりSiO2を積層した基板、アルミナ等のセラミックス基板が挙げられる。
次に、フォトリソグラフィー工程で、不図示のポジ型フォトレジストを用いてレジストパターンを形成する。パターニングした前記フォトレジストをマスクとして電極層はArガスを用いてドライエッチングを行う。これにより、例えば、ギャップ(電極102と103との間隔)が5μmからなる引き出し電極(ゲート電極)102、および陰極電極(カソード電極)103を形成する(図1A)。引き出し電極102および陰極電極103の材料は、例えば、炭素、金属、金属の窒化物、金属の炭化物、金属のホウ化物、半導体、半導体の金属化合物から適宜選択される。好ましくは、引き出し電極102および陰極電極103の材料は、炭素、金属、金属の窒化物、金属の炭化物の耐熱性材料が望ましい。引き出し電極102および陰極電極103の厚さとしては、数十nmから数十μmの範囲で設定される。
以下、フォトリソグラフィー工程、成膜、リフトオフ、エッチング等による薄膜やレジストのパターニングを単に「パターンニング」と称する。
(工程2)
フォトリソグラフィー工程で、後の上部層リフトオフに用いるネガ型フォトレジストを用いてレジストパターン104を形成する(図1B)。
次に、ここで説明する例では、カソード電極上に導電性材料層105を形成した。導電性材料層105を配置する場合には、その材料として、Ti,Zr,Ta,Nbの中から選択された少なくとも1種の窒化物を用いることが好ましい。特には、安定に、カーボンファイバーを成長させる上で、TiNが好ましい。
そして、次に、導電性材料層105の上に、本発明の触媒106を前述した共蒸着や液体塗布等により形成する(図1C)。上記本発明の触媒を粒子状に配置するには、超微粒子を含む液体をスピンコートする方法や、スパッタ法にて、触媒層を形成し、これを水素雰囲気中で加熱することで触媒を凝集させて粒子化する方法を用いることができる。電子放出素子においては、カーボンファイバーとカソード電極との電気的なコンタクトを十分に確保する上で、上記水素雰囲気中での加熱による凝集を用いた方法が好ましい。
本発明の触媒粒子の粒径は、1nm以上100nm以下であり、好ましくは10nm以上80nm以下である。このような粒径の触媒を作成するには、上記触媒を厚さ5nm以上100nm以下で堆積させ、これを水素雰囲気中で加熱することで形成することができる。
(工程3)
工程2でパターンニングしたレジストの剥離液を用いて、レジストごとレジスト上の導電性材料層105及び触媒粒子106をリフトオフし、所望の領域に導電性材料層105及び触媒粒子106パターンを形成する(図1D)。
(工程4)
続いて、上記したゲート電極102、カソード電極103、触媒粒子106が配置された基板を炭素を含むガスを含む雰囲気中で加熱処理する。尚、上記炭素を含むガスとしては、好ましくは炭化水素ガスが用いられる。炭化水素ガスとしては、アセチレン、エチレン、ベンゼン、アセトンの中から選択されたガスを用いることが好ましい。さらには、上記した炭化水素ガスは、水素とともに混合された状態で基板1と接触することが好ましい。また、上記した加熱(熱処理)は、400℃以上、800℃以下で行われる。
この処理を行った後の導電性材料層105の表面を走査電子顕微鏡で観察すると、多数のカーボンファイバーが形成されているのがわかる(図1E)。本発明では、この様に、複数のカーボンファイバーが配置されてなる領域を「複数のカーボンファイバーを含む膜」と呼ぶ。本発明において、特に、電子放出素子に用いられるファイバーの直径は、電子放出特性の観点から5nm以上100nm以下であることが好ましく、10nm以上80nm以下がより好ましい。この範囲を外れると、寿命が短かったり、十分な放出電流を得ることができないことが多い。
以上の様に作製した複数のカーボンファイバーを含む膜を用いた電子放出素子について図3、図4を用いて説明する。
ゲート電極とカソード電極とが数μmのギャップ(間隙)で隔てられた本素子を図3に示すような真空装置408に設置し、真空排気装置409によって10-4Pa程度に到達するまで十分に排気した。図3に示したように高電圧電源を用いて、基板から数ミリの高さHの位置に陽極(アノード)410を設け、数キロボルトからなる高電圧Vaを印加した。
なお、アノード410には導電性フィルムを被覆した蛍光体411が設置されている。
素子には駆動電圧Vfとして数十V程度からなるパルス電圧を印加して流れる素子電流Ifと電子放出電流Ieを計測した。
この時、等電位線412は、図3のように形成されると考えられる。最も電界の集中する点は、413で示される電子放出材料(カーボンファイバー)の最もアノード410より、かつギャップ(間隙)の内側の場所と想定される。
この電界集中点近傍に位置する複数のカーボンファイバーから電子が放出されると考えられる。
この電子放出素子の電子放出特性は、図4に示すような特性であった。すなわち、閾値電圧VthからIe(電子放出電流)が急激に立ち上がり、不図示のIf(ゲート電極とカソード電極間で計測される電流)はIeの特性に類似していたが、その値はIeと比較して十分に小さな値であった。
上記した本実施形態における、電子放出素子を構成する引き出し電極102(202)と陰極電極103(203)は、基板101(201)の表面に配置される。
引き出し電極102(202)と陰極電極103(203)の間隔は、用いるカーボンファイバーからの電子放出に必要な横方向電界と、画像形成に必要な縦方向電界との電界を比較した時に、電子放出に必要な電界が、縦方向電界よりも1倍〜50倍程度の値になるように、駆動電圧(引き出し電極2と陰極電極3との間に印加する電圧)と間隔を決めればよい。
ここで、本実施形態において、上記した「横方向電界」は、「基板101(201)の表面と実質的に平行な方向における電界」、あるいは、「ゲート102(202)とカソード電極103(203)とが対向する方向における電界」とも言うことができる。
また、本実施形態において、上記した「縦方向電界」とは、「基板101(201)の表面と実質的に垂直な方向における電界」、あるいは、「基板101(201)とアノード電極411とが対向する方向における電界」と言うことができる。
前述したように、図3は、電子放出素子の上方にアノード電極411を配置し、電子放出装置を駆動している時の様子を示す模式断面図である。図3に示すように、本実施形態の電子放出装置においては、陰極電極203とゲート電極202との間隙の距離をd、電子放出素子を駆動したときの電位差(陰極電極203とゲート電極202間の電圧)をVf、アノード電極411と素子が配置された基板201表面との距離をH、アノード電極411と陰極電極203との電位差をVaとした時、駆動時の電界(横方向電界):E1=Vf/dは、アノード−カソード間の電界(縦方向電界):E2=Va/Hの1倍以上、50倍以下に設定される。このようにすることにより、陰極電極203側から放出された電子がゲート電極202に衝突する割合を低減できる。その結果、放出された電子ビームの広がりが少なく、高効率な電子放出素子が得られる。
さらには、図2、図3などに示す様に、本実施形態の、複数のカーボンファイバーを含む膜を用いた電子放出素子においては、ゲート電極202上での電子の散乱あるいはゲート電極への電子の照射を抑制するために、複数のカーボンファイバーを含む膜の表面を含み、基板201の表面と実質的に平行な平面が、ゲート電極202表面の一部を含み、基板201表面と実質的に平行な平面よりも、基板表面から離れた位置に配置されることが好ましい。
換言すると、本実施形態の電子放出素子(電子放出装置)においては、複数のカーボンファイバーを含む膜の表面の一部を含み、基板1表面に実質的に平行な平面が、引き出し電極202の表面の一部を含み、前記基板表面に実質的に平行な平面と、アノード電極411との間に配置される。
そして、上記本実施形態の電子放出素子(電子放出装置)においては、図3に示す様に、高さs(ゲート電極202表面の一部を含み、基板201表面と実質的に平行な平面と、複数のカーボンファイバーを含む膜の表面を含み、基板201表面と実質的に平行な平面との距離で定義される)の位置にカーボンファイバーの先端が配置される。
上記した高さsは、縦方向電界と横方向電界の比(縦方向電界強度/横方向電界強度)に依存し、縦方向電界と横方向電界比が低いほど、その高さが低く、横方向電界が大きいほど高さが必要である。実用的な範囲として、その高さsは10nm以上、10μm以下である。
尚、本発明の複数のカーボンファイバーを含む膜を用いた電子放出素子の形態は図2に示した形態だけでなく、様々な形態を採用することもできる。
その一例としては、例えば、図15に示す様に、所謂スピント型の電子放出素子のゲート電極の開口内に配置される、コーン状のエミッタを、本発明の複数のカーボンファイバーを含む膜に置き換えた形態であってもよい。あるいは図14に示す様に、基板1上に配置された、カソード電極3上に本発明の複数のカーボンファイバーを含む膜4を、配置し、そして、前記基板1に対向するようにアノード電極62を配置し、そしてカソード電極3とアノード電極62との間に電界を印加して、本発明の複数のカーボンファイバーを含む膜4から電子を放出させる形態であってもよい。あるいはまた、上記した電子放出素子の形態において、上記カソード電極上に配置された本発明の複数のカーボンファイバーを含む膜と、アノード電極との間の任意の箇所に電子放出を制御するためのグリッド電極をさらに追加配置した形態であってもよい。
しかし、本発明では、特に、上述した図2にその断面図を示した様に、基板1上にゲート電極とカソード電極とを間隔を置いて配置し、カソード電極上に本発明のカーボンファイバーを含む膜を配置する形態とすることが好ましい。図2の形態であれば、簡易に製造でき、そして、放出された電子ビームの広がりが少なく、高効率な電子放出素子が得られる。
尚、図2では、ゲート電極202の厚みとカソード電極203の厚みとを同等に形成した例を示しているが、上記構成を達成する上で、カソード電極の厚みをゲート電極の厚みよりも大きくする場合もある。また、さらには、カソード電極と基板との間に適当な厚みの絶縁層を配置することでも、上記構成を達成することができる。
また、本発明者らは、前記触媒中に含まれるCoの好ましい含有量について、Coの含有量を色々な値に振って検討した。その結果、電子放出電流Ieがゼロから立ち上がって、一定の電流を得るために必要な電圧の幅(振幅電圧幅)および立ち上がりの閾値がCoの濃度を変えると異なることが分かった。その結果、カーボンファイバーから一定の電流を得るために必要な電圧の幅(振幅電圧幅)および立ち上がりの閾値の観点から、PdにCoを少なくとも20%以上添加することが好ましい。また、Coの割合が20atm%未満であると、形成された複数のカーボンファイバーを含む膜を用いた電子放出素子では、長期に渡る良好な電子放出特性が得られなかった。また、PdとCoを含有する触媒中におけるCoの割合が80atm%を超えると、カーボンファイバーの最低成長温度が一般的な基板を用いて形成することが実質上困難であることが分かった。また、Coの割合が80atm%を超えると、安定性は良いが、電子放出特性が低下することが分かった。そのため、本実施形態におけるPdとCoを含有する触媒中におけるCoの割合は、20atm%以上、80atm%以下である。
具体的な例としては、Pd粒子にCoの添加量(0%、23%、50%)を変えて成長させたカーボンファイバーに電気的な接続を行い、真空槽内に配置して、対向するアノードに正の高電圧を印加して、平行平板等からなる測定系を構成した。図9は、本発明の一実施形態におけるファイバーから放出される電子放出量を測定した結果を示す図である。
図9からも分かるように、この例においては、最も振幅電圧幅(電子放出電流Ieがゼロから立ち上がって、一定の電流を得るために必要な電圧の幅)が小さいものはCo:50atm%であった。この振幅電圧幅が小さいほど、駆動制御に必要な装置のコストが下がる。詳細に添加量を変えて検討したところ、Pd100%より振幅電圧幅が有効に小さくなるのは、Co:20atm%以上の時であった。そのため、電子放出素子材料として用いる時、PdにCoを少なくとも20%以上添加することが極めて有効である。また、立ち上がりの閾値についても、閾値が低いほど駆動装置のコストが引き下がる。図9から明らかなようにPdにCo添加量が多いほど閾値が低下する現象が観測された。
一方、Pdに対するCoの最大の添加量については、別な観点から検討を行った。触媒を用いて炭化水素ガスを分解するには、触媒表面に存在する酸化膜を除去しなければならない。酸化膜除去は、水素等を用いて触媒を高温にさらすことでなされるが、この除去温度が成長の下限を決める要因の一つとなっている。我々は、成長の下限温度について検討した結果、Pd:100%では約400℃であったが、Co:23atm%では約410℃、Co:50atm%では約500℃、Co:100%では約600℃であった。より詳細にCoの添加量を変えて検討したところ、Coの割合が80atm%を超えると、最低成長温度が急に上昇し、Co:100%と実質的に同等となってしまうことが分かった。
これらの結果からわかるように、PdとCoとを含む材料(具体的にはPdとCoとの合金)を用いた触媒粒子から成長したカーボンファイバーを電子放出素子として使用する際の望ましいCoの濃度は20atm%から80atm%である。上記した好ましい濃度範囲は、他の前記Pdに好ましく添加する材料である、Fe、Niについても同様であった。
以下に、本発明を適用可能な電子放出素子を複数配して得られる画像形成装置について、図5、図6を用いて説明する。図5において、601は電子源基体、602はX方向配線、603はY方向配線である。604は本発明の電子放出素子、605は結線である。
図5においてm本のX方向配線602はDX1,DX2,..DXmから構成されている。配線の材料、膜厚、巾は、適宜設計される。Y方向配線603はDY1,DY2..DYnのn本の配線よりなり,X方向配線602と同様に形成される。これらm本のX方向配線602とn本のY方向配線603との間には、不図示の層間絶縁層が設けられており、両者を電気的に分離している(m,nは,共に正の整数)。
X方向配線602とY方向配線603は,それぞれ外部端子として引き出されている。
本発明の電子放出素子604を構成する一対の電極(不図示)は、m本のX方向配線602とn本のY方向配線603と導電性金属等からなる結線605によって電気的に接続されている。
X方向配線602には、例えばX方向に配列した本発明の電子放出素子604の行を、選択するための走査信号を印加する不図示の走査信号印加手段が接続される。一方、Y方向配線603には、Y方向に配列した本発明の電子放出素子604の各列を入力信号に応じて、変調するための不図示の変調信号発生手段が接続されることによって、個別の素子を選択し、独立に駆動可能とすることができる。
このような単純マトリクス配置の電子源を用いて構成した画像形成装置について、図6を用いて説明する。図6は、画像形成装置の表示パネルを示す図である。
図6において、701は電子放出素子を複数配した電子源基体、703は電子源基体701を固定したリアプレート、710はガラス基体709の内面に蛍光膜708とメタルバック707等が形成されたフェースプレートである。704は、支持枠であり該支持枠704は、リアプレート703、フェースプレート710と接続されている。711は外囲器であり、封着して構成される。
706は、本発明の電子放出素子に相当する。702、705は、本発明の電子放出素子と接続されたX方向配線及びY方向配線である。
外囲器711は、上述の如く、フェースプレート710、支持枠704、リアプレート703で構成される。一方、フェースプレート710、リアプレート703間に、スペーサーとよばれる不図示の支持体を設置することにより、大気圧に対して十分な強度をもつ外囲器711を構成した。
ここで述べた画像形成装置の構成は、本発明を適用可能な画像形成装置の一例であり、本発明の技術思想に基づいて種々の変形が可能である。入力信号については、NTSC方式、PAL,SECAM方式などの他、これよりも、多数の走査線からなるTV信号(例えば、MUSE方式をはじめとする高品位TV)方式をも採用できる。
また、本発明で得られたカーボンファイバーは、電子放出素子だけでなく、水素に代表される物質の吸蔵体や、電池の負極材料や、複合材料などにも好ましく適用することができる。特に本発明のカーボンファイバーがグラファイトナノファイバーである場合には、ファイバーの軸方向に、結晶性に優れたグラフェンが積層されているため、一層の優れた水素吸蔵性を示し、また、電池の負極材料としてより高い特性を得ることができる。電池のなかでも、2次電池の負極に本発明のグラファイトナノファイバーは好ましく適用され、特には、リチウムイオン2次電池の負極に、本発明のグラファイトナノファイバーは好ましく適用される。これは、結晶構造に優れた本発明のグラファイトナノファイバーであるために、安定で、大きな充放電容量を形成しえる。また、Fe、Ni、Coの中から選択された少なくとも1つの元素と、Pdとの合金からなる触媒粒子を用いて形成したグラファイトナノファイバーは、水素の吸蔵体あるいは、2次電池の負極材料に適用した場合に、特に優れた特性を示すことができる。
以下、本発明の実施例を詳細に説明する。
<実施例1>
第一の実施例として、共スパッタ法により触媒粒子としてPdにCoを添加した場合を示す。
以下に、図1を用いて本実施例の電子放出素子の製造工程を詳細に説明する。
(工程1)
基板101に石英基板を用い、十分洗浄を行った後、ゲート電極102及び陰極(エミッタ)電極103を形成するため、はじめに基板全体に、スパッタ法により、不図示の厚さ5nmの下地Ti及び厚さ100nmのPtを連続的に蒸着を行なった。
次に、フォトリソグラフィー工程で、不図示のポジ型フォトレジストを用いてレジストパターンを形成した。
次に、パターニングした前記フォトレジストをマスクとしてPt層、Ti層はArガスを用いてドライエッチングを行い、電極ギャップ間(間隙の幅)が5μmからなる引き出し電極102、および陰極電極103をパターニングした(図1A)。
(工程2)
フォトリソグラフィー工程で、後の上部層リフトオフに用いるネガ型フォトレジストを用いてレジストパターン104を形成した(図1B)。
次に、触媒粒子106を介してカーボンファイバー107が成長する導電性材料層105として、TiN層を形成した。
その上に本発明の触媒粒子106を共スパッタにより形成した。触媒粒子106は、Pdと、Pdに対する比率(原子比)が、33atm%(原子百分率)であるCoが含まれていた(図1C)。
(工程3)
工程2でパターンニングしたレジストの剥離液を用いて、レジストごとレジスト上の導電性材料層105及び触媒粒子106をリフトオフし、所望の領域に導電性材料層105及び触媒粒子106パターンを形成する(図1D)。
(工程4)
続いて、エチレン気流中で加熱処理を行った。これを走査電子顕微鏡で観察すると多数のカーボンファイバーが形成されているのがわかった(図1E)。これらのカーボンファイバーはグラファイトナノファイバーであった。
以上の様にして作製した電子放出素子を図3に示すような真空装置408に設置し、真空排気装置409によって2×10-5Paに到達するまで十分に排気した、図3に示したように素子からH=2mm離れた陽極(アノード)411に、陽極(アノード)電圧としてVa=10KV印加した。このとき素子には駆動電圧Vf=20Vからなるパルス電圧を印加して流れる素子電流Ifと電子放出電流Ieを計測した。
素子のIf、Ie特性は図4に示すような特性であった。すなわち印加電圧の約半分からIeが急激に増加し、Vfが15Vでは約1μAの電子放出電流Ieが測定された。一方IfはIeの特性に類似していたが、その値はIeと比較して一桁以上小さな値であった。
<実施例2>
第二の実施例として、共電子ビーム蒸着法により触媒粒子としてPdにFeを添加した場合を示す。
本実施例では第一の実施例における工程2を以下の様に行った以外は実施例1と同様にして電子放出素子の作製を行い、If、Ieの計測を行った。
(工程2)
フォトリソグラフィー工程で、後の上部層リフトオフに用いるネガ型フォトレジストを用いてレジストパターン104を形成した(図1B)。
次に、触媒粒子106を介してカーボンファイバー107が成長する導電性材料層105として、TiN層を形成した。
その上に本発明の触媒粒子106を共電子ビーム(二元同時)蒸着装置により以下の様に形成した。電子ビーム蒸着元として、Pd及びFeを用いて、成膜を行った。この結果、Pdに対して含まれるFe成分が20atm%の触媒粒子106が島状に形成された(図1C)。
素子のIf、Ie特性は図4に示すような特性であった。すなわち印加電圧の約半分からIeが急激に増加し、Vfが15Vでは約1μAの電子放出電流Ieが測定された。一方IfはIeの特性に類似していたが、その値はIeと比較して一桁以上小さな値であった。また、形成されたカーボンファイバーはグラファイトナノファイバーであった。
<実施例3>
第三の実施例として、液体塗布により触媒粒子としてPdにNiを添加した場合を示す。
本実施例では第一の実施例における工程2を以下の様に行った以外は実施例1と同様にして電子放出素子の作製を行い、If、Ieの計測を行った。
(工程2)
フォトリソグラフィー工程で、後の上部層リフトオフに用いるネガ型フォトレジストを用いてレジストパターン104を形成した(図1B)。
次に、触媒粒子106を介してカーボンファイバー107が成長する導電性材料層105として、TiN層を形成した。
その上に本発明の触媒粒子106を液体塗布により以下の様に形成した。酢酸Pd及び蟻酸Niの混合溶液を用いて、混合液をスピナー塗布した。塗布後、大気中で加熱した。この結果、Pdに対して含まれるNi成分が25atm%の触媒粒子106が島状に形成された(図1C)。
素子のIf、Ie特性は図4に示すような特性であった。すなわち印加電圧の約半分からIeが急激に増加し、Vfが15Vでは約1μAの電子放出電流Ieが測定された。一方IfはIeの特性に類似していたが、その値はIeと比較して一桁以上小さな値であった。また、形成されたカーボンファイバーはグラファイトナノファイバーであった。
<実施例4>
本実施例においては、実施例1と同様にして図1、図2に示した電子放出素子を作成した。尚、本実施例では、カソード電極203(103)として、TiN(窒化チタン)をイオンビームスパッタ法を用いて厚さ300nmになるように成膜した。実施例1で用いた導電性材料層105は用いなかった。
また、本実施例では、Ar(アルゴン)ガスを用いたスパッタ法にて、Pd−Co合金からなる触媒層を島状になる程度の量だけカソード電極203(103)上に蒸着した。蒸着された触媒層は、分析の結果CoがPd中に50atm%含まれていた。その後、水素雰囲気で加熱処理し、粒径が50nm程度の触媒粒子106を得た。
次に、本実施例では、上記の基板を窒素希釈した1%水素と窒素希釈した0.1%アセチレンを大気圧(約1×105Pa)で1:1に混合し、気流中で500℃、10分間加熱処理をした。
これを走査電子顕微鏡で観察すると、Pd−Co粒子を形成した領域に、直径50nm程度で、屈曲しながら繊維状に伸びた多数のカーボンファイバーが形成されているのがわかった。このとき、複数のカーボンファイバーからなる層の厚さは、約5μmとなっていた。さらに、この材料を透過電子顕微鏡で観察した結果、図8のような像が得られた。図8では、一番左側に光学顕微鏡レベル(〜1000倍)で見える形態、真中には、走査電子顕微鏡(SEM)レベル(〜3万倍)で見える形態、一番右側には透過電子顕微鏡(TEM)レベル(〜100万倍)で見えるカーボンの形態をそれぞれ模式的に示している。
尚、隣接するグラフェン同士の層間隔は、0.35nmから0.37nmと見積もられた。また、ファイバーの軸の中心では、グラフェンのレイヤーが抜けているもの、不鮮明になっているもの(おそらくアモルファス状のカーボンによって充填されている)も存在した。
本素子の電子放出特性(電圧−電流特性)を測定したところ、図4のような特性が得られ、電子放出に必要な閾値電界は3V/μmであった。
<実施例5>
本実施例においては、実施例1と同様にして図1、図2に示した電子放出素子を作成した。尚、カソード電極103(203)は、クロム(Cr)をスパッタ法を用いて厚さ300nmになるように成膜した。
そして、本実施例では、導電性材料層105(205)としてチタン(Ti)を5nmの厚さになるようにスパッタ蒸着を行った。そして、触媒層となるPd(Co25atm%)を5nm以下の厚さの島状膜になるようにスパッタ蒸着を行なった。その後、水素雰囲気中で加熱処理することで、触媒粒子106を形成した。
さらに本実施例では、本基板を炉に入れ、炉内のガスを十分に排気した後、水素1vol%を窒素で希釈したガスと窒素で希釈したエチレン1%をほぼ1:1の割合で炉内に圧力400Paになる様に入れた。
次に、本実施例では、前述の炉を600℃まで加熱し、30分ほど保持したところ、カソード電極上に膜状のカーボンファイバーが成長した。このカーボンファイバーを透過電子顕微鏡で観察した結果、図16のような構造を確認した。
本素子の電子放出特性(電圧−電流特性)を測定したところ、図4のような特性が得られ、電子放出に必要な閾値電界は5V/μmであった。
<実施例6>
石英基板1を十分に洗浄した後、カソード電極としてTiNをイオンビームスパッタ法を用いて厚さ300nmになるように成膜した。
次に、Arガスを用いたスパッタ法にてPd−Co合金からなる触媒粒子が分散されて配置された層を、前記カソード電極上に1ミリ角の大きさに蒸着した。その後、水素雰囲気中で加熱処理することで、粒径が30nm程度のPd−Co合金からなる触媒粒子を多数形成した。
形成された、触媒粒子は分析の結果CoがPd中に50atm%含まれた合金となっていた。
次に、上記の基板を、窒素に水素を1vol%との割合で混合したガスと、窒素にエチレンを1vol%の割合で混合したガスとを、およそ大気圧(約1×105Pa)で1:1に混合した気体気流中で、600℃、10分間加熱処理をした。
これを走査電子顕微鏡で観察すると、カソード電極上に直径30nm〜50nm程度で、屈曲しながら繊維状に伸びた多数のグラファイトナノファイバー107(207)が形成されているのがわかった。このとき複数のグラファイトナノファイバーを含む層の厚さは約5μmとなっていた。
尚、グラフェンの層間隔は0.35nmと見積もられた。
また、ファイバーの中心部では、グラフェンのレイヤーが抜けているもの、不鮮明になっているものも存在した。
このグラファイトナノファイバーに波長514.5nmのレーザ光を照射し、ラマン分光特性を測定した結果、図10のようになっていた。
この結果から、FWHM1は68カイザー、FWHM2は55カイザー、h2/h1は2.2となっていた。
一方で、上記触媒を、Coを添加せずにPd100%の触媒に代えた場合と、PdにCoを23atm%の割合で添加した触媒に代えた場合とで、本実施例と同様に、それぞれの触媒粒子を用いて複数のカーボンファイバーを含む膜を形成しておいた。
そして、本実施例で作成したPdに対してCoが50atm%含まれた触媒を用いて形成した膜と、Pdが100%の触媒を用いて形成した膜と、PdにCoを23atm%含まれた触媒を用いて形成した膜とで、その電子放出特性を比較した。図12にその結果を模式的に示した。
図12(a)はCoを添加しないPd100%の触媒を用いて形成したカーボンファイバーに、波長514.5nmレーザーを照射して得られたラマン分光測定の結果を示している。
同様に、図12(b)はPdにCoを23atm%の割合で添加した触媒を用いて形成したカーボンファイバーに、波長514.5nmレーザーを照射して得られたラマン分光測定の結果を示している。
そして、図12(c)は本実施例で作成したPdにCoを50atm%の割合で添加した触媒を用いて形成したグラファイトナノファイバーに、波長514.5nmレーザーを照射して得られたラマン分光測定の結果を示している。
図14に示すように、本実施例で作成した、カソード電極3上に配置された複数のカーボンファイバーを含む膜4が形成された基板1を、真空槽9内に配置した。図14において、1は基板、3はカソード電極、4は複数のカーボンファイバーを含む膜、61はアノード基板、62はITOを用いた透明なアノード電極、5は絶縁性スペーサ、6は電流計、7は高電圧電源、8は真空ポンプ、9は真空槽を表している。基板1の上には絶縁性スペーサ5を介して透明電極付きガラス基板61が設置されている。これに高電圧電源7、電流計6をそれぞれ接続し、真空ポンプ8を用いて真空層9内部を1×10-9Paの真空度に設定した。
そして、前記カソード電極3に電気的な接続を行い、対向するアノード62に正の高電圧Vaを印加して平行平板からなる測定系を構成し、Pdに対するCoの添加量を変えて形成した各々のカーボンファイバーを含む膜4から放出される電子放出量を電流計6で計測した。そして同時に、各々のカーボンファイバーを含む膜の電子放出特性の時間依存性(寿命特性)を測定した。
尚、このとき、図12(a)〜(c)に対応する夫々のカーボンファイバーを含む膜4の厚みは、3種類とも同程度のものとした。
また、本発明では、徐々にアノード電圧を上昇させた際のVI特性から、電圧を上昇しても指数関数的に電子放出電流が増加しなくなった時の電流密度を、各々のカーボンファイバーを含む膜4の最大電流密度と定義する。
そして、まず、各々のカーボンファイバーを含む膜4に対して、上記最大電流密度を測り、これを最大電流密度の初期値とした。そして、最大電流密度の初期値を達成した電圧を、各々のカーボンファイバーを含む膜4に対して、印加し続けたときの時間に対する電流密度変化を測定した。
上記3種類のカーボンファイバーについてそれぞれの膜の電流密度変化を測定し、寿命特性を調べた結果が図12の〜であり、それぞれが図12(a)〜(c)に対応している。
本実施例のグラファイトナノファイバーの膜(図12の)では、最大電流密度電流は80mA/cm2であり、電流密度の低下は初期には時間の対数に比例するが、徐々に電流密度の低下率が減少し、その後はほぼ一定の値で維持された。しかし、Pdに対してCoを23atm%しか添加しなかったカーボンファイバーの膜(図12の)では、電流密度の初期値こそ本実施例のグラファイトナノファイバーの膜と同等であったが、急速に電子放出特性が劣化した。また、PdにCoを添加しなかったカーボンファイバーの膜(図12の)では、電流密度の初期値は本実施例よりも低く、そして、電子放出特性の劣化も早かった。
さらに、上記した図14に示した測定系において、本実施例で作成したグラファイトナノファイバーの膜(Co:50atm%)に1×105V/cmの電界を印加した際の電子放出サイトの密度は103個/cm2以上であった。そして、また、本実施例で作成したグラファイトナノファイバーの膜(Co:50atm%)には、グラファイトナノファイバーが103本/cm2以上配置されていた。
また、図12(a)に示したカーボンファイバーを含む膜では明確なピークが観察されないため、ピーク高さ(ラマン散乱光強度)、半値幅を定義するのは困難であった。
図12(b)に示したカーボンファイバーを含む膜では1355カイザー近傍及び1580カイザー近傍に明確なピークが観察された。しかし、半値幅は1355カイザー付近で見られる方が1580カイザー付近で見られるものより幅が広かった。
図12(c)に示した本実施例で作成したグラファイトナノファイバーを含む膜では、ラマン散乱強度(ラマンスペクトル)において、1355±10カイザーの範囲に第1のピークと、1580±10カイザーの範囲に第2のピークを持っていた。そして、1355±10カイザーに見られるピークの半値幅は、1580±10カイザーに見られるピークの半値幅よりも狭い。また1355±10カイザーに見られるピーク高さ(1355±10カイザーに見られるピークのラマン散乱光強度とベース強度との差分である相対強度)は、1580±10カイザーに見られるピーク高さ(1580±10カイザーに見られるピークのラマン散乱光強度とベース強度との差分である相対強度)の約2倍であった。
また、図12(c)に示した本実施例で作成したグラファイトナノファイバーを含む膜では、ラマン散乱強度(ラマンスペクトル)において、前記第1のピークと第2のピークとの間(或いはDバンドとGバンドとの間)におけるラマン散乱光強度の最小強度とベース強度との差分である相対強度h3が、前記第1のピークのラマン散乱光強度とベース強度との差分である相対強度h2の1/10以下であった。
これらの結果から、カーボンファイバーを用いた電子放出素子の劣化特性とラマン分光におけるピーク高さあるいは、各ピークの半値幅が密接に関連することが分かる。
そこで、前述した本発明に好ましく適用されるPdに添加する元素や、ガスの濃度、成長時間を変化させて様々な形態の、複数のカーボンファイバーを含む膜の寿命特性を測定したところ、ラマン分光特性において、前記第1のピークのラマン散乱光強度とベース強度との差分である相対強度h2が、前記第2のピークのラマン散乱光強度とベース強度との差分である相対強度h1の1.3倍以上であることにより、初期電子放出電流密度向上の効果が生じる。
さらには、前記第1のピークのラマン散乱光強度とベース強度との差分である相対強度h2が、前記第2のピークのラマン散乱光強度とベース強度との差分である相対強度h1の1.3倍以上2.5倍以下であることで、初期電流密度および寿命の向上を得られる。
また、本発明の、複数のカーボンファイバーを含む膜は、前記第1のピークの半値幅:FWHM2と、前記第2のピークの半値幅:FWHM1とが、FWHM2/FWHM1≦1.2の関係を満たすことによっても、初期電流密度および寿命の向上を得られる。
そして特に好ましくは、本発明の、複数のカーボンファイバーを含む膜は、前記第1のピークの半値幅FWHM2と前記第2のピークの半値幅FWHM1とがFWHM2/FWHM1≦1.2の関係にあり、前記第1のピークのラマン散乱光強度とベース強度との差分である相対強度h2が、前記第2のピークのラマン散乱光強度とベース強度との差分である相対強度h1の1.3倍以上である。そしてさらに好ましくは本発明の、複数のカーボンファイバーを含む膜は、前記第1のピークの半値幅FWHM2と前記第2のピークの半値幅FWHM1とがFWHM2/FWHM1≦1.2の関係にあり、前記第1のピークのラマン散乱光強度とベース強度との差分である相対強度h2が、前記第2のピークのラマン散乱光強度とベース強度との差分である相対強度h1の1.3倍以上2.5倍以下である際に高い初期電流密度と寿命特性向上の効果を得られる。
そして、さらに好ましくは、本発明の、複数のカーボンファイバーを含む膜は、上記した各特性(上記した第1のピークと第2のピークにおける半値幅の関係、および/あるいは上記した第1のピークと第2のピークにおける強度比の関係)に加えて、前記第1のピークと第2のピークとの間(或いはDバンドとGバンドとの間)におけるラマン散乱光強度の最小強度とベース強度との差分である相対強度h3が、前記第1のピークのラマン散乱光強度とベース強度との差分である相対強度h2の1/10以下である際に安定な電子放出電流密度を得ることができる。また、前記相対強度h3が、前記相対強度h2の1/15以下である時に長期に渡って安定な電子放出電流密度を得ることができる。
そして、さらには、複数のカーボンファイバーを含む膜は、FWHM1とがFWHM2/FWHM1≦1.2の関係にあり、且つ、h2がh1の1.3倍以上2.5倍以下であり、且つ、h3がh2の1/15以下である時に高い初期電子放出電流密度の経時変化(減少)を抑制し、長期に渡って安定で高い電子放出電流密度を得ることができる。
また、上記図12(C)に示した本発明のグラファイトナノファイバーと、図12(a)、図12(b)で示したカーボンファイバーとを、水素の吸蔵性、および、リチウムイオン電池の負極材料として評価したところ、本発明の図12(C)に示したグラファイトナノファイバーは、図12(a)、図12(b)で示したカーボンファイバーよりも、その水素吸蔵量が優れていた。また、水素の吸蔵および脱離を繰り返し行っても、図12(a)、図12(b)で示したカーボンファイバーよりも、本発明の図12(C)に示したグラファイトナノファイバーはより安定な、吸蔵特性を示した。また、図12(a)で示したカーボンファイバーよりも、図12(b)で示したカーボンファイバーの方が、水素吸蔵量が優れており、また、水素の吸蔵および脱離の安定性でも優れていた。
また、本発明の図12(C)に示したグラファイトナノファイバーを複数用いてカーボン電極(負極)、ならびに、図12(a)、図12(b)で示したカーボンファイバーを複数用いてカーボン電極(負極)を作成した。そして、それぞれの負極について、通常の試験用電池を用いて、その充電容量及び放電容量を評価した。その結果、充電容量及び放電容量の点において、本発明の図12(C)に示したグラファイトナノファイバーを複数用いてカーボン電極(負極)が特に優れた特性を示した。また、充放電を繰り返し行ってみたところ、本発明の図12(C)に示したグラファイトナノファイバーを複数用いてカーボン電極(負極)は、非常に安定した充放電特性を示すと共に、高速な充電特性をも示した。また、図12(a)で示したカーボンファイバーよりも、図12(b)で示したカーボンファイバーの方が、充電容量が優れており、また、充放電の安定性でも優れていた。
本実施例で作成した負極は、リチウムイオン二次電池の負極として用いて測定を行った。このときの正極には、リチウム遷移金属酸化物を正極活物質とした。
本発明のグラファイトナノファイバーを用いて負極を作製するには、複数の本発明のグラファイトナノファイバーをバインダーなどを用いて、ペレット状に成形して作製することもできる。
本発明のグラファイトナノファイバーを用いた負極は、2次電池としては、特にリチウムイオン2次電池に好ましく適用することができる。また、正極材料として、遷移金属を含むことが好ましい。また、電解溶液としては、リチウムイオン二次電池において通常用いられているものであれば良い。
<実施例7>
本実施例では、実施例6の触媒層(触媒粒子の層)に代えて、触媒層となるPd(Ni70atm%添加)を用いた点と、カーボンファイバーの形成方法のみが異なる。
カーボンファイバーの形成方法においては、TiNからなるカソード電極上に配置された上記触媒粒子を有する基板を炉に入れ、炉内のガスを十分に排気した後、ヘリウムに水素を1vol%の割合で混合したガスと、ヘリウムにエチレンを1vol%の割合で混合したガスとをほぼ1:1の割合で炉内に圧力400Paになる様に入れた。
次に、前述の炉を600℃まで加熱し30分ほど保持したところ、実施例6と同様にグラファイトナノファイバーが成長した。
このグラファイトナノファイバーに514.5nmのレーザ光を照射し、ラマン分光特性を測定した結果、図11のようになっていた。
この結果から、FWHM1は70カイザー、FWHM2は55カイザー、h2/h1は1.8となっており、本実施例のグラファイトナノファイバーは、前記の半値幅の関係および、ラマン散乱光の強度比の関係をともに満たしていた。
次に、実施例6と同様にして、本実施例のグラファイトナノファイバーから放出される電子放出量の時間依存性(寿命特性)を測定した。
その結果、最大電流密度電流は実施例6の素子(図12)に比べて高かったが、電流密度の低下は実施例6の素子(図12)に比べて、ほぼ一定の値となるまでに要した時間が若干遅かった。しかし、実施例6で示した図12の素子の特性よりは優れており、実施例6で示した素子に近い特性が得られた。
さらに、本実施例で作成した複数のグラファイトナノファイバーを有する膜においても、実施例6と同様な測定方法により、図14に示した測定系において、1×105V/cmの電界を印加した際の電子放出サイトの密度は103個/cm2以上であった。そして、また、本実施例で作成したグラファイトナノファイバーの膜においても、グラファイトナノファイバーが103本/cm2以上配置されていた。
<実施例8>
本実施例では、触媒を構成する元素としてNi−Pdを用いた点、およびカーボンファイバーの形成方法のみが実施例6と異なる。
まず、Pd−Ni触媒の場合は、スパッタ蒸着装置のNi100%からなるスパッタリングターゲット上にPd100%からなる複数個の薄片(約2cm角)を置き、同時にスパッタリングを行う事で、Pd−Niからなる膜厚が約4nmの薄膜をTiNカソード電極上に蒸着した。尚、PdとNiの割合はNi上に置いたPdの薄片の割合を調整することで、Pdに含まれるNiの割合が20atm%の膜、50atm%の膜、80atm%の膜とを作成した。
また、これとは別に、Pd100%のスパッタリングターゲットのみを準備し、約4nmの厚みのPd膜をTiNカソード電極上に蒸着した基板も準備した。
次に、上記手法で形成した、Pd100%、Pd−Ni(20atm%)、Pd−Ni(50atm%)、Pd−Ni(80atm%)、Ni100%の基板を赤外炉に入れ、不活性ガスにて希釈したH2(2%)と不活性ガスにて希釈したC2H4(2%)を1:1の割合で流し580℃に約5分保持し、その後、冷却した。
出来上がった5種類の基板を切断し、SEM写真をとり、基板上に形成された、複数のカーボンファイバーを含む膜の膜厚を測定した。また、各基板に形成された複数のカーボンファイバーを含む膜に対して、波長514.5nmのレーザーを照射して検出されるラマン強度分布特性を測定した。このときのFWHM1、FWHM2、h1、h2、h3、膜厚のぞれぞれの値を表1記す。
表1から分かるように、本条件においては、Pd100%ではカーボンファイバーが成長するが、グラファイト構造に起因するラマンピークの半値幅(ローレンツ曲線にフィッティングした曲線から計測)からは、グラファイト構造に乱れの多いものであることが推察された。
カーボンファイバーは、PdにNiが20atm%から100atm%の範囲で成長が認められた。しかし、Ni100%では成長したカーボンファイバーの数は極わずかであり、その長さも数百nm以下であった。また、Ni添加により、半値幅(FWHM1およびFWHM2)が著しく減少する効果が認められた。
次に、実施例6と同様にして、本実施例のグラファイトナノファイバーから放出される電子放出量の時間依存性(寿命特性)を測定した。
その結果、Pd−Ni合金の触媒粒子を用いて形成した複数のカーボンファイバーを用いた素子は、いずれも、実施例6で示した図12に近い電子放出特性であった。尚、Ni100%の触媒粒子では、カーボンファイバーの成長がわずかであり、その他の素子に比べて電子放出電流も非常に低かった。また、一方、Pd100%の触媒粒子を用いて形成した複数のカーボンファイバーを用いた素子は、実施例6で示した図12と同様の電子放出特性であった。これらの結果から、Ni添加の有効範囲は20atm%から80atm%であると判断される。
<実施例9>
実施例8と同様な手法でPdにCoを添加した結果を表2に示す。触媒の製造方法、並びに、カーボンファイバーの成長条件などは、実施例8と同じである。
尚、Co100%の試料では、この成長温度での成長は認められなかった。またCo添加によりCoが20atm%以上の範囲で、半値幅(FWHM1およびFWHM2)が著しく減少していることが分かった。
次に、実施例6と同様にして、本実施例のカーボンファイバーから放出される電子放出量の時間依存性(寿命特性)を測定した。
その結果、Pd−Co合金の触媒粒子を用いて形成した複数のカーボンファイバーを用いた素子は、いずれも、実施例6で示した図12に近い電子放出特性であったが、実施例6で作成した図12で示される電子放出素子よりは特性が悪かった。尚、Co100%の触媒粒子では、カーボンファイバーの成長がわずかであり、電子放出特性も低かった。また、一方、Pd100%の触媒粒子を用いて形成した複数のカーボンファイバーを用いた素子は、実施例6で示した図12と同様の電子放出特性であった。これらの結果から、Co添加の有効範囲も20atm%から80atm%であると判断される。
<実施例10>
本実施例においては、実施例8におけるカーボンファイバーの成長温度を、580℃から630℃に変更した。その他は実施例8と同様である。その結果を表3に示す。
尚、Ni100%の試料では、実施例9のものよりもカーボンファイバーの成長が多かったが、Pd−Ni合金の粒子を用いた場合に比べてカーボンファイバーの成長がかなり遅かった。またNi添加によりNiが20atm%以上の範囲で、半値幅(FWHM1およびFWHM2)が減少していることが分かった。
次に、実施例6と同様にして、本実施例のカーボンファイバーから放出される電子放出量の時間依存性(寿命特性)を測定した。
その結果、Pd−Ni合金の触媒粒子を用いて形成した複数のカーボンファイバーを用いた素子は、いずれも、実施例6で示した図12とほぼ同等な電子放出特性を得ることができた。尚、Ni100%の触媒粒子では、初期電子放出電流密度が、Pd−Ni合金の触媒粒子を用いたものよりも低かった。また、一方、Pd100%の触媒粒子を用いて形成した複数のカーボンファイバーを用いた素子は、実施例6で示した図12と同様の電子放出特性であった。これらの結果から、Ni添加の有効範囲も20atm%から80atm%であると判断される。
<実施例11>
本実施例においては、実施例9におけるカーボンファイバーの成長温度を、580℃から630℃に変更した。その他は実施例9と同様である。その結果を表4に示す。
尚、Co100%の試料では、この成長温度での成長は認められたが、Pd−Co合金の粒子を用いた場合に比べてカーボンファイバーの成長がかなり遅かった。またCo添加によりCoが20atm%から80atm%の範囲で、半値幅(FWHM1およびFWHM2)が減少していることが分かった。
次に、実施例6と同様にして、本実施例のカーボンファイバーから放出される電子放出量の時間依存性(寿命特性)を測定した。
その結果、Pd−Co合金の触媒粒子を用いて形成した複数のカーボンファイバーを用いた素子は、いずれも、実施例6で示した図12に近い電子放出特性を得ることができた。尚、Co100%の触媒粒子では、初期電子放出電流密度が、Pd−Co合金の触媒粒子を用いたものよりも低かった。また、一方、Pd100%の触媒粒子を用いて形成した複数のカーボンファイバーを用いた素子は、実施例6で示した図12と同様の電子放出特性であった。これらの結果から、Co添加の有効範囲も20atm%から80atm%であると判断される。
<実施例12>
実施例8と同様な手法でPdにFeを添加した結果を表5に示す。触媒の製造方法、並びに、カーボンファイバーの成長条件などは、実施例8と同じである。
尚、Fe100%の試料では、この成長温度での成長は認められなかった。またFe添加によりCoが20atm%から80atm%の範囲で、半値幅(FWHM1およびFWHM2)が著しく減少していることが分かった。
次に、実施例6と同様にして、本実施例のカーボンファイバーから放出される電子放出量の時間依存性(寿命特性)を測定した。
その結果、Pd−Fe合金の触媒粒子を用いて形成した複数のカーボンファイバーを用いた素子は、いずれも、実施例6で示した図12に近い電子放出特性であったが、実施例6で作成した電子放出素子(図12)よりは特性が悪かった。これらの結果から、Fe添加の有効範囲も20atm%から80atm%であると判断される。
<実施例13>
本実施例では、実施例6で作成した複数のカーボンファイバー(グラファイトナノファイバー)を含む膜を用いて、図2に示した形態の電子放出素子を多数作成し、これを図5に示す様にマトリクス状に配列した上で、図6に示した画像形成装置を作成した。この時、フェースプレート710と、電子源基板701との間隔が2mmになるように設定した。この画像形成装置のアノード電極707に10kVを印加してTV画像を表示したところ、長期に渡って、輝度が高く、安定な画像を得ることができた。
本発明の触媒粒子を利用した電子放出素子の製造工程の一例を示す図である。
本発明の触媒粒子を利用した電子放出素子の一例を示す上面図及び断面図である。
本発明による電子放出素子を動作させる時の構成例を示す図である。
本発明による基本的な電子放出素子の動作特性例を示す図である。
本発明による複数電子源を用いた単純マトリクス回路の構成例を示す図である。
本発明による電子源を用いた画像形成パネルの構成例を示す図である。
カーボンナノチューブの構造を示す概要図である。
グラファイトナノファイバーの構造を示す概要図である。
本発明の電子放出素子の特性を表す模式図である。
本発明の電子放出素子のラマンスペクトルを表す模式図である。
本発明の電子放出素子のラマンスペクトルを表す模式図である。
本発明の電子放出素子のラマンスペクトルと経時変化を表す模式図である。
従来のカーボンファイバーのラマンスペクトルを表す模式図である。
本発明の電子放出素子の構成の模式図である。
本発明の電子放出素子の構成の模式図である。
グラファイトナノファイバーの構造を示す概要図である。
符号の説明
101、201 基板
102、202 ゲート電極
103、203 陰極電極
105、205 導電性材料層
106 触媒粒子
107、207 カーボンファイバー