本発明は、ガラス素材を加熱軟化させて光学素子をプレス成形するための光学素子の成形用型に関するものである。
ガラス素材を加熱軟化させて光学素子をプレス成形するための成形用型は、上型部材および下型部材と、前記上型部材および前記下型部材を接近および離間自在に保持する胴型とを備えている。
例えば、両面に光学機能面を有するレンズをプレス成形する場合は、一方の光学機能面の光軸と他方の光学機能面の光軸との相対的なずれや傾きが発生しないようにする必要がある。
しかし、光学素子の成形用型は、上型部材および下型部材とこれらを接近および離間自在に保持する胴型との隙間の寸法が加熱・冷却時における温度分布等に起因する熱膨張によって変化する。このため、室温で上型部材および下型部材と胴型との光軸精度を調整してもプレス成形時に光軸精度が悪化する。そこで、プレス成形中において光軸の調整を行うことができる図9、図10に示すような光学素子の成形装置(特許文献1参照)が提案されている。
この光学素子の成形装置は、図9、図10に示すように、光軸を調整した上型部材101の光学機能面101aと下型部材102の光学機能面102aとの間に加熱軟化させたガラス素材を配置したのち、各駆動手段106、108を起動してプレス成形する。このプレス成形中に、光軸調整手段により、両光学機能面101a、102aの光軸を再度調整する。この光軸調整手段は、前記光軸と交差する方向から上型部材101および下型部材102を挟んで押圧する一対の押圧部材111、112を有し、各押圧部材111、112の各駆動手段114、115を起動して光軸を再度調整できるように構成されている。
特開平11−157854号公報
しかしながら、特許文献1に開示された光学素子の成形装置は、光軸調整手段を動作させるための駆動装置が必要であり、装置のコストアップや大型化を招く。また、成形用型だけでなく光軸調整手段の駆動装置の周りの成形時における雰囲気の遮断も完全ではなく、温度の外乱要因にもなりやすいという未解決の課題があった。
本発明は、上記従来の技術の有する未解決の課題に鑑みてなされたものであり、光軸調整手段を駆動する駆動装置を設けなくても、光軸精度の優れた高精度な光学素子をプレス成形することができる光学素子の成形用型を提供することを目的とする。
上記の目的を達成するため、本発明の光学素子の成形用型は、光学機能面を転写させるための成形面を有する上型部材と、光学機能面を転写させるための成形面を有する下型部材と、お互いの前記成形面を相対させた前記上型部材および前記下型部材を、接近および離間自在に案内する胴型とを備えており、加熱軟化させたガラス素材を前記上型部材と前記下型部材との間に配置してプレス成形する光学素子の成形用型において、前記胴型は、少なくとも2個の分割胴型からなっており、各分割胴型はそれぞれの両側端に形成された結合部においてお互いが締結部材により結合されており、前記胴型は前記締結部材により、前記上型部材および前記下型部材を締め付けて保持しており、前記締結部材による前記各分割胴型の結合に対して、前記胴型による前記上型部材および前記下型部材に対する締め付け力を調整する調整手段を有し、前記調整手段は、前記分割胴型における前記上型部材および前記下型部材を保持する部位と、前記結合部との間に形成され、他の部位に比べて剛性の低い弾性変形する部位からなること、を特徴とする。
本発明は上述のとおり構成されているので、次に記載するような効果を奏する。
プレス成形時に生じる胴型と上型部材および下型部材との寸法差に起因する締め付け力の変化に対して、プレス成形中においても、調整手段により調整することができる。これにより、大掛りな装置を使わずに比較的簡単な構成にて、胴型による上型部材および下型部材の締め付け力を最適な状態、つまり、隙間の寸法が1〜2μmあるいはゼロ、または若干の予圧がかかった状態に保つことができる。
互いに結合された分割胴型間による上型部材および下型部材の締め付け力の調整は、成形中に常時行われている。そのため、途中で締まりすぎて成形用型が破損したり、隙間の寸法が大きくなりすぎて上型部材および下型部材のそれぞれの成形面の光軸がずれることもなく、光軸精度の優れた光学素子を得ることができる。さらに、成形用型周辺の雰囲気を遮断することが容易であり、成形用型の温度分布の発生も抑えることができ、より高精度な光学素子の成形が可能となる。
本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は第1の実施例による光学素子の成形用型を示し、(a)は(b)のB−B線に沿う模式横断面図、(b)は(a)のA−A線に沿う模式縦断面図である。
図1の(a)、(b)に示すように、上型部材5の下端面には一方の光学機能面を転写させるための成形面5aが形成され、下型部材6の上端面には他方の光学機能面を転写させるための成形面6aが形成されている。
胴型は、一方の分割胴型1と他方の分割胴型2とで構成されており、上型部材5の成形面5aと下型部材6の成形面6aとが相対した状態で接近および離間自在に保持している。また、上型部材5の上端にはつば部5bが設けられており、下型部材6の下端部につば部6bが設けられている。
一方の分割胴型1は約90度の角度で交差するV字状の面からなる基準面1aを有しており、基準面1aの両側端に調整部1cを介して結合部1bが連設されている。同様に他方の分割胴型2は約90度の角度で交差するV字状の面からなる基準面2aを有しており、基準面2aの両側端に調整部2cを介して結合部2bが連設されている。
一方の分割胴型1と他方の分割胴型2とは、それぞれの基準面1a、2aが相対しかつ結合部1b、2bにおいて所定の寸法の間隔Sが生じるように締結部材によって結合されている。締結部材は、各結合部1b、2bに設けられた同軸の貫通孔にボルト3を嵌挿し、ボルト3の先端にロックナット4を螺合した簡単なものである。
各基準面1a、2aは、平面度が1μm以内に仕上げてあり、コロ9とリテーナ10を有する高精度でかつ耐熱性のあるベアリング11を介して上型部材5と下型部材6とを接近および離間自在に案内している。
一方の分割胴型1の基準面1aと結合部1bとの間には、他の部位に比べて断面積を小さくして剛性を低下させた撓みによる弾性変形を発生させる調整部1cが設けられている。他方の分割胴型2の基準面2aと結合部2bとの間には、他の部位に比べて断面積を小さくして剛性を低下させた撓みによる変形を発生させる調整部2cが設けられている。両分割胴型1、2は初期状態ではコロ9を介して上型部材5および下型部材6を所望の締め付け力で挟み込んだ状態で結合してある。
ところで、プレス成形中は、加熱・冷却を繰り返し行うため、両分割胴型1、2、コロ9、上型部材5、下型部材6等の寸法関係が初期状態とは異なってくる。通常、上型部材5および下型部材6の熱膨張係数よりもコロ9および両分割胴型1、2の熱膨張係数のほうが大きいため、加熱時には前者より後者の方が寸法が大きくなる。
さらに、成形用型E1 の加熱が、両分割胴型1、2の内部や外部から行われるものでは、まず両分割胴型1、2が先に加熱され、その後にコロ9を介して上型部材5および下型部材6が加熱される。このため、両者に温度差が生じ、この場合も両分割胴型1、2の方が寸法が大きくなり、上型部材5および下型部材6との隙間の寸法の増大による光軸の悪化が発生する。
また、冷却時においては、前記熱膨張量の差による隙間の寸法は減少してくるが、外側にある両分割胴型1、2が先に冷えやすく、上型部材5および下型部材6の冷却が遅れる。その結果、逆に両分割胴型1、2の寸法が小さくなり、コロ9、上型部材5、下型部材6を締め付けることになってしまい、場合により上型部材5、下型部材6、コロ9が塑性変形したり、あるいは破損するおそれがある。
よって、調整部1c、2cの剛性、および初期の締め付け力はこれらの不具合が起きないように決定される。具体的には、プレス時に上型部材5および下型部材6を保持するための保持力F1が必要である。また上記の例では初期状態よりプレス時の方が両分割胴型1、2による締め付け力が緩んでくるため、その減少分の力F2を加えた初期締め付け力FA=F1+F2が必要となる。
また、冷却時は逆に締まってくるため、その増加分の力F3を加えて、冷却時締め付け力FB=F1+F2+F3となる。
成形用型E1 やコロ9の塑性変形を考慮すると、プレス時に保持するための保持力F1以外はなるべく小さくしておきたい。しかし、F2、F3は調整部1c、2cの剛性次第であるため、調整部1c、2cは保持力F1に対する強度は保ちつつ、ばね定数が小さく(変位に対して力の変化が小さく)なるように設計するのが望ましい。
因みに、プレス成形時の型寸法の変化量は、型の材質や大きさ、加熱・冷却の方法にもよるが、数μmから数十μmを想定しておけばよい。
本実施例によれば、加熱・冷却時に両分割胴型1、2、コロ9、上型部材5、下型部材6の間に材質の違いや温度の差による寸法差があっても、調整部1c、2cが弾性変形してこれらの寸法差を吸収する。プレス時には両分割胴型1、2により上型部材5および下型部材6を適正締め付け力で保持する。また、冷却時においても両分割胴型1、2やコロ9を塑性変形させるような過度の締め付け力を発生させることなく保持することが可能となる。つまり、本実施例において、調整部1c、2cが保持部の上型部材5および下型部材6の締め付け力を調整する調整手段に相当する。
次に、上記の第1の実施例による光学素子の成形用型E1 を使ってプレス成形を行う際の詳細について説明する。
プレス成形機においては、上型部材5の成形面5aと下型部材6の成形面6aの間にはガラス素材Wが配置される。成形用型E1 は外気から雰囲気を遮断され、不活性ガスで充たされたチャンバー内に配置される。また上型部材5の上方には、図示しないプレス時の押圧力を印加するためのプレス軸が配設され、押圧力や位置を制御するためのアクチュエータに接続されている。
なお、成形用型E1 の周りには、上型部材5および下型部材6ならびにガラス素材Wを加熱するためのヒータおよび冷却するための不活性ガス噴出手段(不図示)が設けられている。さらに、胴型の周りに温度の均一性を高めるための円筒型の反射板が配設され、また、上型部材5、下型部材6にはそれぞれ温度検出手段が付設されて温度制御が行えるようになっている。
加熱前の成形用型E1 では、両分割胴型1、2が調整部1c、2cを撓ませて結合部1b、2bにおいて結合されている。このため、両分割胴型1、2の基準面1a、2aはコロ9を介して上型部材5と下型部材6の側面を所定の初期締め付け力FAにて保持している。そして周りに配設されたヒータにより上型部材5、下型部材6およびガラス素材Wの加熱を開始する。上型部材5、下型部材6およびガラス素材Wがプレス可能な温度まで到達した時点で、不図示のプレス軸により上型部材5に押圧力が印加され、プレスが開始される。この時点では、両分割胴型1、2が上型部材5および下型部材6よりも先行して加熱される。さらに、両分割胴型1、2の基準面1a、2aと上型部材5および下型部材6との間にはコロ9が介在されていて熱伝導もあまりよくないため、両分割胴型1、2の温度の方が高くなっている。また熱膨張係数は、両分割胴型1、2の方が上型部材5および下型部材6よりも大きい。このため、両分割胴型1、2の寸法が上型部材5と下型部材6の外周に比べて広がっているので、調整部1cの撓みは減少して、この時点での保持力F1は当初の初期締め付け力FAに比べて減少分の力F2だけ低くなっている。ただし、保持力F1はプレス時において十分に上型部材5および下型部材6を保持できるだけの大きさとなるように当初の初期締め付け力FAを設定してあるので、問題はない。
所定の量だけガラス素材Wが変形すると、そこで一旦押圧力を解除し、ついで成形用型E1 の周りに配置された不活性ガス噴出手段による冷却を開始する。
そして所定温度まで冷却された時点で、成形品の面形状が崩れないように再びプレス軸により上型部材5に押圧力を印加し、さらに冷却を続けて所定の温度になった時点でプレス圧力を解除する。
この時点になると、成形用型E1 が外周側より冷却されることもあり、内外の温度差が逆転して、両分割胴型1、2よりも上型部材5および下型部材6の方が温度が高い状態となる。そのため、両分割胴型1、2の寸法が上型部材5と下型部材6の外周に比べて締まってきて、調整部1c、2cの撓みは増し、この時点での冷却時締め付け力FBは当初の初期締め付け力FAに比べて力F3だけ高くなっている。ただし、冷却時締め付け力FBは成形用型E1 を構成している部材を塑性変形させたり、破壊させたりするような力より低くなるように調整部1c、2cの形状を設定しておけば問題はない。
そしてさらに冷却を行い、所定の温度まで到達したときに、冷却を終了し、上型部材5を成形用型E1 からはずして、成形品を取り出し、成形を終了する。
上記のような一連の工程により、成形が繰り返し行われるが、ここでカメラに使用されるレンズを例にさらに詳細な説明を行うことにする。
ガラス素材に重クラウンガラス(屈折率1.58、アッベ数59.4、転移点506℃)を使用し、両面とも凸非球面(近似R9mm)で外径φ7mm、中心肉厚3.0mm、外周肉厚1.6mmの凸レンズを成形する。
まず、上型部材5、下型部材6およびガラス素材Wの温度が580℃(109.0 ポアズ相当)になるまで加熱、待機する。そののちに、上型部材5により2450N(ニュートン)の押圧力を加えてプレス成形し、肉厚が3.0mmまで20〜30μm残したところで上型部材5による押圧力を解除してプレス工程を終了する。
ついで冷却を開始して560℃(109.8 ポアズ相当)になったときに、再度上型部材5により成形品に1950Nの押圧力を加えて冷却を続け、490℃(1013.5ポアズ相当)まで到達した時点で上型部材5の押圧力を解除する。この時点で成形品の肉厚はほぼ3.0mmとなる。
そして冷却を終了したのち、上型部材5を成形用型E1 からはずし、成形品の取り出しを行う。
このとき、プレス時に必要な胴型の保持力F1=250Nとし、そのときの胴型の保持部の相対的な寸法(コロ9の寸法も考慮した上型部材5および下型部材6の外径寸法)に対しての初期値からの増加量を8μmとした。また、同じく冷却時の初期値からの減少量を2μmとして、このときの冷却時締め付け力FBが350N(初期締め付け力FA=330N)となるように両分割胴型1、2の調整部1c、2cの形状を設計した。
以上のプレス成形を繰り返し行ったが、問題となるような型の変形や破損は発生しなかった。成形品を評価したところ、上型部材5の光学機能面である成形面5aと下型部材6の光学機能面である成形面6aの2面間の光軸の平行偏心は2μm以下であった。また、傾きも20秒以下となり、そのほか面形状の部分的なズレも0.1μm以下であって、カメラのレンズの中でも高精度といえるレンズを得ることができた。
このようにプレス成形中にも常時上型部材5および下型部材6の各光学機能面である成形面5a、6aの光軸を調整できる構造の成形用型E1 を用いることにより、光軸精度も含めて極めて高精度な光学素子を得ることができた。
次に、第2の実施例による光学素子の成形用型について図2に基づいて説明する。成形用型の一部の構成を除いては第1の実施例による光学素子の成形用型と同様であるため、異なる部分について説明する。
胴型は、一方の分割胴型21と他方の分割胴型22の2つの部材から構成されている。一方の分割胴型21は、ほぼ90度の角度で交差するV字状の面からなる基準面21aを有し、基準面21aの両側端にフランジ状の結合部22bが連設されている。他方の分割胴型22は、ほぼ90度の角度で交差するV字状の面からなる基準面22aを有し、基準面22aの両側端にフランジ状の結合部22bが連設されている。一方の分割胴型21と他方の分割胴型22とは、それぞれの基準面21a、22aが相対した状態で結合部21b、22bにおいて所定の寸法の間隔Sが生じるように締結部材で結合されている。
締結部材は、各結合部21b、22bにそれぞれ設けられた同軸の貫通孔に圧縮ばね25を頭部側に介在させたボルト23を嵌挿し、ボルト23の先端にロックナット24を螺合して結合している。これにより、ロックナット24の螺合位置を調整して初期長さに設定された圧縮ばね25の弾性力によって、コロ9、上型部材5および下型部材6を所定の締め付け力で挟み込み、弾力的に締結している。
つまり、本実施例に係る締め付け力を調整する調整手段では、第1の実施例における、調整部2cの弾性変形によって成形時に生じる型間の寸法差の吸収作用を、圧縮ばね25に置き換えて行っている。
両分割胴型21、22が圧縮ばね25のばね作用(復元力)により、コロ9を介して上型部材5と下型部材6の側面を所定の締め付け力にて締め付けて保持している。圧縮ばね25に求められる力についても、プレス時に必要な保持力F1、初期締め付け力FA、冷却時に発生する冷却時締め付け力FBの考え方から第1の実施例による光学素子の成形用型E1 と同様に求められる。
第1の実施例と同様にカメラのレンズを同じ条件で成形し、圧縮ばね25のばね定数も第1の実施例の調整部2cの剛性と同じになるように設計した。問題となるような型の変形や破損は発生せず、第1の実施例と同様に光軸精度も含めて極めて高精度な成形品を得ることができた。
続いて、第2の実施例における調整手段の変形例について説明する。本変形例の調整手段は、前述した図2に示す圧縮ばね25のかわりに、分割胴型21、22の熱膨張係数よりも大きな熱膨張係数を持つ熱膨張部材(不図示)がボルトの頭部と結合部の間に介在されている。前記熱膨張部材は、例えばボルトが遊嵌できる内径を有する筒状体とするとよい。
なお、前記熱膨張部材はボルトのロックナット側に介在させても、ボルトの頭部側およびロックナット側の両方に介在させてもよい。
すなわち、本変形例における調整手段は、前記分割胴型が前記上型部材および下型部材を締め付けるように、前記分割胴型の少なくとも一方の外側から常時付勢する、熱膨張係数が前記分割胴型の熱膨張係数より大きい熱膨張部材からなる。
本変形例によれば、加熱時においては、熱膨張部材が熱膨張によりその長さが伸びて、前記分割胴型の少なくとも一方の外側から上型部材および下型部材を締め付けるように常時付勢する。その結果、上記図2に示した第2の実施例と同等の効果を奏する。
次に、第3の実施例による光学素子の成形用型について説明する。図3において、成形用型の一部の構成を除いては第1の実施例と同様であるため、同一部分には同一符号を付してその説明は省略し、異なる部分について説明する。
一方の分割胴型31と他方の分割胴型32とを有し、一方の分割胴型31のV字状の面からなる基準面31aと他方の分割胴型32のV字状の面からなる基準面32aの中心付近で上型部材5と下型部材6とを位置決め保持する構成となっている。第1の実施例と異なる部分としては、一方の分割胴型31の基準面31aおよび他方の分割胴型32の基準面32aの一部が直接上型部材5および下型部材6をガイドしている。また、一方の分割胴型31と他方の分割胴型32とを間隔Sを生じるように結合する締結部材は、それぞれの結合部31b、32bの間に熱膨張部材34を介在させ、ボルト33により両側から固定している。
熱膨張部材34は、所定の熱膨張係数を持つ材料からなり、少なくともプレス時には上型部材5と下型部材6が精度良く摺動可能な状態にする。このため、両分割胴型31、32の基準面31a、32aと上型部材5および下型部材6の側面との隙間の寸法が1〜2μmとなるように熱膨張部材34の長さが調整される。そして、一方の分割胴型31の結合部31bと他方の分割胴型32の結合部32bの間に挟まれて固定されている。
ここで、実際の成形について考えてみると、通常、上型部材5および下型部材6の熱膨張係数より、一方の分割胴型31および他方の分割胴型32の熱膨張係数の方が大きい。このため、加熱時には前者より後者のほうが寸法が大きくなる。従来の方法であると、胴型と上型部材5および下型部材6との隙間の寸法が拡大して、これによりそれぞれの成形面のズレが発生し、成形される光学素子の光軸精度の悪化が生じてしまう。
さらに、胴型の内部や外周側から加熱が行われるものでは、胴型が先に加熱され、上型部材5および下型部材6が後から加熱される。このため、両者に温度差が生じ、この場合も胴型の方が寸法が大きくなり、隙間の寸法の拡大による光軸の悪化が発生する。
また、冷却時においては、熱膨張差による隙間の寸法は減少してくるが、外側にある胴型が先に冷えて、上型部材5および下型部材6の冷却が遅れると、逆に両分割胴型31、32のほうが寸法が小さくなる場合もある。その結果、上型部材5および下型部材6を強く締め付けることになってしまい、場合によっては成形用型E3 の塑性変形、あるいは破損が発生する事態になりうる。
なお、第3の実施例では、両分割胴型と上型部材および下型部材との間にベアリング(コロ)が介在しない分、第1、第2の実施例に比べれば加熱・冷却時の温度差は少なくなる。
よって、熱膨張部材34の熱膨張係数、および初期の両分割胴型31、32の基準面31a、32aと上型部材5および下型部材6の側面との隙間の寸法はこれらの不具合が起きないように決定されるが、具体的には以下の二つの方法がとられる。
一つは、上述したようにプレス時の一方の分割胴型31および他方の分割胴型32の寸法は、上型部材5および下型部材6の外径に対して広がる方向である。このため、熱膨張部材34は、両分割胴型の熱膨張係数より小さな前記広がりを相殺するような熱膨張係数の材料を選択する。その場合、冷却時には逆に両分割胴型31、32の寸法が締まる傾向にあるため、熱膨張部材34を直接冷やさないようにするなどして熱膨張部材34の冷却を遅らせ、適正な寸法の隙間を確保することができる。
もう一つは、熱膨張部材34の熱膨張係数をさらに小さいものとして、初期設定の隙間の寸法を大きめに取っておき、プレス時には隙間の寸法が減って1〜2μmとなるようにする。さらに、冷却時には熱膨張差で隙間の寸法が大きくなる分と、温度差で隙間の寸法が減る分とを相殺して適正な寸法の隙間を確保することができる。
因みに、成形時の型寸法の変化量は型の材質や大きさ、加熱・冷却の方法にもよるが、数μmから数十μmを想定しておけばよい。
本実施例によれば、熱膨張部材34の作用(熱膨張部材34の温度調節も含む)により、加熱・冷却時に両分割胴型31、32、上型部材5および下型部材6の間に材質の違いや温度の差があっても、それにより生じるこれらの間の寸法差を吸収できる。このため、少なくともプレス時、冷却時、および型開閉時において両分割胴型31、32の保持部と上型部材5および下型部材6との隙間の寸法を常に適正な状態に保持することが可能となる。
次に、上記の成形用型E3 を使って成形を行う際の詳細について説明する。
使用する装置は第1の実施例と同じであるが、加熱前の成形用型では、両分割胴型31、32の基準面31a、32aと上型部材5および下型部材6の側面との隙間の寸法が、例えば4〜5μmとなるように熱膨張部材34、35の長さを設定して、2つの両分割胴型31、32を結合してある。
そして胴型の周りに配設されたヒータにより、成形用型E3 およびガラス素材Wの加熱を開始し、上型部材5、下型部材6およびガラス素材Wがプレス可能な温度まで到達した時点で、プレス軸により上型部材5に押圧力を加え、プレスを開始する。この時点では、両分割胴型31、32が上型部材5、下型部材6よりも先に加熱され、さらに両分割胴型31、32と上型部材5および下型部材6との間は隙間があって熱伝導もあまりよくないため、両分割胴型31、32の温度のほうが高くなっている。また、両分割胴型31、32の熱膨張係数が上型部材5および下型部材6より大きい。このため、両分割胴型31、32の保持部の寸法が上型部材5および下型部材6の外周面に比べて広がっている傾向がある。しかし、ここでは両分割胴型31、32の間にある熱膨張部材34の熱膨張係数を小さく設定してある。その結果、プレス可能な温度に到達した時点で前記隙間の寸法が逆に1〜2μmまで縮まる。
所定のプレス量だけガラス素材Wが変形されると、そこで一旦押圧力が解除され、次に胴型の周りに配置された不活性ガス噴出手段により冷却が開始される。
そして所定温度まで冷却された時点で、成形品の面形状が崩れないように再びプレス軸により上型部材5に押圧力が印加され、さらに冷却を続けて所定の温度になった時点で押圧力を解除する。
この時点になると、両分割胴型31、32の熱膨張係数が上型部材5および下型部材6よりも大きいことと、成形用型E3 が外周側より冷却されることで、内外の温度差が逆転する。そのため、胴型よりも上型部材5、下型部材6の方が温度が高い状態となり、前記隙間の寸法は減少してくる傾向にある。しかし、ここでは熱膨張部材34の熱膨張係数を小さく設定してあるため、隙間の寸法変化は相殺され、1〜2μmを保ったままで冷却が行われる。
そしてさらに冷却を行い、所定の温度まで到達したときに、冷却を終了し、上型部材5を成形用型E3 からはずして、成形品を取り出し、成形を終了する。
なお、冷却を終えて成形用型E3 の内外の温度差が解消してくると前記隙間の寸法は初期設定の4〜5μmに戻る。
ここで、前記隙間の寸法を調整するのに熱膨張部材34、35の熱膨張係数の設定だけでは困難な場合、例えば冷却時に熱膨張部材34、35への冷却を制限するなど、別途温度調節を行うことで補助的に隙間の寸法を調整することもできる。
上記のような一連の工程により、成形が繰り返し行われる。ここでも第1の実施例と同様にカメラのレンズを例に説明を行うことにする。詳細な条件などは、第1の実施例と重複するため省略するが、このとき使用した型はいずれも超硬の材料であった。熱膨張係数は両分割胴型31、32で5.3×10-6/K、上型部材5および下型部材6はいずれも4.8×10-6/K、熱膨張部材34は4.0×10-6/Kのものを選定して使用した。
その結果、前記隙間の寸法調整は良好であり、問題となるような型の変形や破損は発生せず、成形品を評価したところ、両光学機能面間の光軸の平行偏心は3μm以下、傾きも30秒以下となり、第1の実施例と同様に光軸精度の優れた成形品を得ることができた。
第4の実施例による光学素子の成形用型について説明する。図4および図5に示すように、成形用型E4 は、胴型が、一方の分割胴型41と他方の分割胴型42とで構成されている。上型部材55の一方の光学機能面を転写させるための成形面55aと、下型部材56の他方の光学機能面を転写させるための成形面56aとは、凸メニスカスレンズ形状になっている。
成形品である光学素子は、光学機能面が凸メニスカスレンズ形状をしており、転移点温度は506℃、屈服点温度538℃、軟化点温度は607℃の重クラウンガラスをプレス成形したものである。
胴型は、一方の分割胴型41と他方の分割胴型42とで構成されており、上型部材55の成形面55aと下型部材56の成形面56aとが相対した状態で接近および離間自在に保持している。
一方の分割胴型41は約60度の角度で交差するV字状の二面からなる基準面41aを有しており、基準面41aの両側端に結合部41bが連設されている。他方の分割胴型42は平板状の一面からなる基準面42aを有しており、基準面42aの両側端に結合部42bが連設されている。
一方の分割胴型41と他方の分割胴型42とは、それぞれの基準面41a、42aが相対しかつ結合部41b、42bにおいて所定の寸法の間隔が生じるように締結部材によって結合されている。締結部材は、結合部41b、42bに設けられた同軸の貫通孔に圧縮ばね25を頭部側に介在させたボルト43を嵌挿し、ボルト43の先端にナット44を螺合して、前記間隔の寸法が変化できるように締結している。
なお、一方の分割胴型41の基準面41aおよび他方の分割胴型42の基準面42aは、それぞれの平面度は1μm以内に仕上げてある。
両分割胴型41、42からなる胴型には、成形素材であるガラス素材および成形品をハンドリングするための開口部が設けられている。そして、図4、5に示すように両分割胴型41、42は圧縮されたばね45を備えたボルト43、ナット44にて複数箇所で軸力2KN程度で締結されている。また締結部分には常温時には0.1mm程度の寸法の間隔が設けられている。
締結された状態では、上型部材55、下型部材56、両分割胴型41、42、円筒型ベアリング部材49にはガタは無く、常時当接した状態になる。
上型部材55、下型部材56、両分割胴型41、42、円筒型ベアリング部材49は、それぞれタングステンカーバイト系超硬材料であり、熱膨張係数は5.0×10-6/Kである。これらの材料は上記の限りではなく、線膨張係数、高温耐久性、圧縮強度などを考慮して、窒化珪素等その他のセラミックや、タングステン系超重合金等でも良い。
図示しないが、両分割胴型41、42、上型部材55および下型部材56内にはそれぞれ加熱用ヒータが内設されており、それぞれ独立で温度制御できる。そして両分割胴型41、42、上型部材55、下型部材56には、それぞれ成形後の冷却手段としてN2 を吹き付けるため、導入管が配設されている。
次に、上記構造の光学素子の成形用型E4 を用いて、光学素子の成形方法について説明する。
まず、ガラス素材が、ハンドリング装置(不図示)に吸着された状態で、両分割胴型41、42の開口部を通して成形用型内空間であるキャビティ内に導入されて、下型部材56の成形面56a上に置かれる。このとき、ガラス素材の温度はガラス転移点温度である506℃以下である。
次に、不図示のガラス素材加熱装置を、前記投入時のガラス素材温度以上、(本実施例ではガラス素材の軟化点以上である800℃)に保った状態で、両分割胴型41、42の開口部よりガラス素材側へ接近させて加熱する。それと同時に一方の分割胴型41と上型部材55と下型部材56内のヒータ(不図示)により、上型部材55と下型部材56とが成形に最適な温度まで加熱する。たとえば、ガラスの粘度で logη=8〜10となる温度(本実施例では580℃)まで加熱する。
ガラス素材の温度と上型部材55および下型部材56が成形に適した温度、例えばガラス粘度で logη=8〜12の温度(本実施例では580℃)になったら、不図示の加熱装置を胴型部材開口部より退避させる。ついで、下型部材56を不図示の直線駆動手段、例えば油圧や気圧によるピストン・シリンダ機構、あるいは電動シリンダ機構を使って上昇させ、ガラス素材を30MPaにてプレス成形する。このとき、両分割胴型41、42、円筒型ベアリング部材49と上型部材55および下型部材56との間には温度差が生じている。特に円筒型ベアリング部材49には加熱手段が無いため、温度が上型部材55、下型部材56、両分割胴型41、42より低い温度までしか上昇していない。この状態で、常温時に両分割胴型41、42をばね45を備えたボルト43およびナット44(以下、「締結部材」という。)によって締結した締結部材が弾性変形しなければ、上型部材55、下型部材56、両分割胴型41、42および円筒型ベアリング部材49に熱膨張の差によるガタが生じてしまう。しかし、締結部材が弾性変形した場合には、両分割胴型41、42と上型部材55および下型部材56とのガタ分を締結部材の弾性変形するばね45で吸収し、常時当接した状態となる。
そして成形温度にて任意の形状までガラス素材をプレス成形した後、押圧力を1MPaまで低下させ、冷却工程に入る。この冷却工程中に、成形品の面精度を向上させるためガラス転移点付近(本実施例では540℃〜490℃)で再度30MPaの押圧力で2次プレス成形を行う。このとき、両分割胴型41、42、円筒型ベアリング部材49、上型部材55、下型部材56間には、プレス成形時とは異なる温度差が生じる。特に円筒型ベアリング部材49は、両分割胴型41、42、上型部材55、下型部材56との接触面積が小さいため熱伝導による温度降下が起こりにくい。そのため、円筒型ベアリング部材49は、上型部材55、下型部材56、両分割胴型41、42より高い温度となってしまう。この状態で、常温時に両分割胴型41、42を締結部材によって締結した締結部材が弾性変形しなければ、上型部材55、下型部材56、両分割胴型41、42および円筒型ベアリング部材49に熱膨張量の差によりしまり嵌め状態になり、それぞれの部材を破損させてしまう可能性がある。しかし、締結部材が弾性変形した場合には円筒型ベアリング部材49の温度差による両分割胴型41、42と上型部材55、下型部材56とがしまり嵌めになってしまう分を締結部材の弾性変形するばね部分で吸収する。そのため、それぞれの部材は破損せず、常時当接した状態となる。
その後、2次プレスを終えた後に、成形品を、不図示のハンドリング装置によって両分割胴型41、42の開口部よりキャビティ内から真空吸着させて取り出す。
この方法により得られた成形品は、平行偏心で2μm以下、光軸倒れで20秒以下となり、さらに面精度についても規格値を満足することができた。また、デジタルコンパクトカメラのレンズの中でも光軸精度の要求の高いクラスであり、面精度の良いレンズを得ることができた。
このように、両分割胴型41、42を、締結させる力の反対方向にかかる10N以上10000N以下の範囲の力に対して弾性変形する弾性体を含む締結部材によって締結させて固定する。これにより、プレス成形時の上型部材55、下型部材56、両分割胴型41、42および円筒型ベアリング部材49の温度差による嵌合のガタやしまり嵌め状態を吸収する。その結果、ガタのない上型部材および下型部材の摺動が可能となり、成形した成形品はきわめて高い光軸精度を有し、面精度も規格値を満足した成形品を得ることができる。
第5の実施例による光学素子の成形用型について説明する。図6ないし図8に示すように、成形用型E5 は、胴型が、第1の分割胴型61、第2の分割胴型62、第3の分割胴型63とで構成されている。上型部材75の一方の光学機能面を転写させるための成形面75aと、下型部材76の他方の光学機能面を転写させるための成形面76aとは、凸メニスカスレンズ形状になっている。
光学素子は、転移点温度は506℃、屈服点温度538℃、軟化点温度は607℃の重クラウンガラスをプレス成形したものである。
上型部材75および下型部材76を接近および離間自在に挟持する胴型は、第1の分割胴型61、第2の分割胴型62および第3の分割胴型63からなる。
図7に示すように、下型部材76は球型ベアリング部材79を介して一面で点接触している。また図6に示すように、上型部材75は直接各基準面61a、62a、63aに線接触しており、この面は平面度1μm以内で形成されている。
なお、第1〜第3の分割胴型61〜63からなる胴型には、成形素材であるガラス素材および成形品をハンドリングするための開口部が設けられている。
そして、第1〜第3の分割胴型61〜63は、弾性変形するばね65を備えたボルト64、ナット66からなる締結部材にて図6〜図8に示すように9箇所で、軸力2KN程度で120度回転対称な組み合わせで締結されている。また結合部には常温時に0.1mm程度の寸法の間隔が設けられている。
締結された状態では、上型部材75、下型部材76、第1〜第3の分割胴型61〜63および球型ベアリング部材79にはガタは無く、常時当接した状態になる。その結果、上型部材75、下型部材76は光軸に平行偏心や倒れなどは無い状態で、成形素材をプレス成形する光軸方向に摺動可能となっている。
上型部材75、下型部材76、第1〜第3の分割胴型61〜63および球型ベアリング部材79は、それぞれタングステンカーバイト系超硬材料からなり、熱膨張係数は5.0×10-6/Kである。ただし、これらの材料は上記の限りではなく、線膨張係数、高温耐久性、圧縮強度などを考慮して、窒化珪素等その他のセラミックや、タングステン系超重合金等でも良い。
また図示しないが、第1〜第3の分割胴型61〜63からなる胴型、上型部材75、下型部材76、内にはそれぞれ加熱用ヒータが内設されており、独立で温度制御している。
さらに、第1〜第3の分割胴型61〜63、上型部材75および下型部材76には、それぞれ成形後の冷却手段として窒素ガス(N2 )が導入管を通して、冷却時に吹き付けられるようになっている。
次に上記構造の光学素子の成形用型E5
を用いて、実施する本発明の光学素子の成形方法について説明する。
成形素材であるガラス素材がハンドリング装置(不図示)に吸着された状態で、胴型の開口部を通ってキャビティ内に導入され、下型部材76の成形面76a上に置かれる。このとき、ガラス素材の温度はガラス転移点温度である506℃以下である。次に不図示のガラス素材加熱装置を、前記投入時のガラス素材温度以上、例えば、ガラス素材の軟化点以上である800℃に保った状態で、胴型の開口部よりガラス素材上側へ近接させ加熱する。またそれと同時に胴型内、上型部材75および下型部材76内のヒータ(不図示)により、成形に最適な温度、たとえばガラスの粘度で logη=8〜10となる温度(本実施例では580℃)まで加熱する。
ガラス素材の温度、上型部材75および下型部材76が成形に適した温度、例えばガラス粘度で logη=8〜12の温度(本実施例では580℃)になったら、不図示の加熱装置を胴型部材開口部より退避させる。ついで、下型部材76を不図示の駆動手段、例えば油圧や気圧によるピストン・シリンダ機構、あるいは電動シリンダ機構を使って上昇させ、ガラス素材を30MPaにてプレス成形する。このとき、胴型、球型ベアリング部材79、下型部材76との間には、温度差が生じる。特に球型ベアリング部材79には加熱手段が無いため温度が上型部材75および下型部材76、第1〜第3の分割胴型61〜63より低い温度までしか上昇していない。この状態で、常温時に第1〜第3の分割胴型61〜63を締結部材によって締結した締結部材のばね部材65が弾性変形しなければ、上型部材75および下型部材76、胴型および球型ベアリング部材79に熱膨張の差によるガタが生じてしまう。しかし、ばね部材65が弾性変形した場合には、球型ベアリング部材79の温度差による第1〜第3の分割胴型61〜63と上型部材75および下型部材76とのガタ分をばね部材65で吸収し、常時当接した状態となる。
そして成形温度にて任意の形状までガラス素材をプレス成形した後、プレス圧力を3MPaまで低下させ、冷却工程に入る。この冷却工程中に、成形品の面精度を向上させるためガラス転移点付近、本実施例では540℃〜490℃の間で再度30MPaの圧力で2次プレス成形を行う。このとき、第1〜第3の分割胴型61〜63、球型ベアリング部材79、上型部材75および下型部材76の間には、プレス成形時とは異なる温度差が生じる。特に球型ベアリング部材79は、第1〜第3の分割胴型61〜63、上型部材75および下型部材76との接触面積が小さいため熱伝導による温度降下が起こりにくい。そのため、上型部材75および下型部材76、第1〜第3の分割胴型61〜63より高い温度となってしまう。この状態で、常温時に第1〜第3の分割胴型61〜63を弾性変形するばね部材65、ボルト64およびナット66(以下、「締結部材」という。)によって締結した締結部材が弾性変形しなければ、上型部材75および下型部材76、第1〜第3の分割胴型61〜63球型、ベアリング部材79は熱膨張の差によりしまり嵌め状態になり、破損させてしまう可能性がある。しかし、締結部材が弾性変形した場合には、球型ベアリング部材79の温度差による第1〜第3の分割胴型61〜63、上型部材75および下型部材76とがしまり嵌めになってしまう分を締結部材の弾性変形するばね65で吸収する。このため、それぞれの部材は破損せず、常時当接した状態となる。
その後、2次プレスを終えた後に下型部材76を下降させ、成形品を、不図示のハンドリング装置によって第1〜第3の分割胴型61〜63の開口部より真空吸着させてキャビティから取り出す。
得られた成形品は、平行偏心で2μm以下、光軸倒れで20秒以下となる。さらに面精度についても規格値を満足し、第4の実施例よりも良くすることができ、デジタルコンパクトカメラのレンズの中でも光軸精度の要求の高いクラスであり、面精度の良いレンズを得ることができた。
このように、3部材の第1〜第3の分割胴型61〜63を、締結させる力の反対方向にかかる10N以上10000N以下の範囲の力に対して弾性変形する弾性体を含む締結部材によって、締結させて固定する。その結果、プレス成形時の上型部材75および下型部材76、第1〜第3の分割胴型61〜63および円筒型ベアリング部材79の温度差による嵌合のガタやしまり嵌め状態を吸収する。その結果、ガタのない成形用型の摺動が可能となり、さらに第4の実施例に比べ軸に対して非対称な温度分布も起こりにくくなる。この成形型にて成形した成形品はきわめて高い光軸精度を有し、面精度も規格値を満足し、さらに第4の実施例よりも良い光学素子を得ることができる。
本発明は、上述した各実施例に限らない。例えば、取り個数においても多数個取りへの展開も可能であり、さらに適用される型の材質や熱膨張係数の大小関係、型セットの内部と外部の温度関係においてもさまざまな場合に適用できる。例えばセラミックスの型材を使用したり、加熱源や冷却源が上型部材または下型部材の内部にある場合にも適用できる。
本発明の第1の実施例による光学素子の成形用型を示し、(a)は(b)のB−B線に沿う模式横断面図、(b)は(a)のA−A線に沿う模式縦断面図である。
本発明の第2の実施例による光学素子の成形用型の図1の(a)と同様の模式横断面図である。
本発明の第3の実施例による光学素子の成形用型の図1の(a)と同様の模式横断面図である。
本発明の第4の実施例による光学素子の成形用型の図1の(a)と同様の模式横断面図である。
本発明の第4の実施例による光学素子の成形用型の図1の(b)と同様の模式縦断面図である。
本発明の第5の実施例による光学素子の成形用型の上型部材側の模式横断面図である。
本発明の第5の実施例による光学素子の成形用型の下型部材側の模式横断面図である。
本発明の第5の実施例による光学素子の成形用型の模式縦断面図である。
従来の光学素子の成形用型の模式縦断面図である。
図9に示す光学素子の成形用型の模式横断面図である。
符号の説明
1、21、31、41 一方の分割胴型
1a、21a、31a、41a 基準面
1b、2b、21b、22b、31b、32b、41b、42b 結合部
1c、2c 調整部
2、22、32、42 他方の分割胴型
2a、22a、32a、42a 基準面
3、23、33、43、64 ボルト
4、24 ロックナット
5、55、75 上型部材
5a、6a、55a、56a、75a、76a 成形面
5b、6b つば部
6、56、76 下型部材
9 コロ
10 リテーナ
11、49、79 ベアリング
25、45、65 ばね
34 熱膨張部材
44、66 ナット
61 第1の分割胴型
62 第2の分割胴型
63 第3の分割胴型
61a、62a、63a 基準面
61b、62b、63b 結合部