JP4708760B2 - 軟質プラスティック材料の表面改質方法及び表面を改質した軟質プラスティック材料 - Google Patents
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Description
本発明によれば、軟質プラスティック材料に添加された可塑剤の溶出を効果的に抑制することができるので、医療分野、食品分野、農業分野における用途など、特に人体に対する安全性が要求される分野において有効である。
例えば特許文献2にはポリ塩化ビニル樹脂に対して酸化亜鉛や酸化チタン等の光導電性金属化合物を加えてなるシート等成形体に、紫外線または可視光を照射することにより、その表層に塩化ビニル樹脂の分子間架橋を導入し、改質被覆層を形成する技術が開示されている。
以上のごとくであるから、従来提案されている可塑剤の溶出抑制技術は、現実的にはほとんど実施されてはいない状況にある。
すなわち、本発明が解決しようとする課題は、具体的に、(i)材料変更を伴わず、(ii)従来から使用されてきた材料に対して材料の物性を変えることなく、(iii)比較的緩和かつ容易な手段により、フタル酸エステル等の可塑剤の溶出量を容易に低減させる技術を確立することである。
すなわち、本発明に従えば、下記の軟質プラスティック材料の表面改質方法が提供される。
〔1〕(実施例1,2に対応)
可塑剤を含む軟質プラスティック材料に、波長365nm以下の紫外線を、紫外線積算光量 5〜500J/cm2の条件で照射することにより、当該プラスティック材料の表面を改質し、可塑剤の溶出を抑制することを特徴とする軟質プラスティック材料の表面改質方法。
波長365nm以下の紫外線を、紫外線積算光量50〜200J/cm2の条件で照射する〔1〕項に記載の軟質プラスティック材料の表面改質方法。
可塑剤を含む軟質プラスティック材料に、放射線を、30Torr以下の減圧条件下で照射線量50kGy以上の条件で照射することにより、当該プラスティック材料の表面を改質し、可塑剤の溶出を抑制することを特徴とする軟質プラスティック材料の表面改質方法。
放射線を、30Torr以下の減圧条件下で照射線量200kGy以上の条件で照射する〔3〕項に記載の軟質プラスティック材料の表面改質方法。
可塑剤を含む軟質プラスティック材料に、放射線を、酸化剤存在下に、照射線量1kGy以上の条件で照射することにより、当該プラスティック材料の表面を改質し、可塑剤の溶出を抑制することを特徴とする軟質プラスティック材料の表面改質方法。
軟質プラスティック材料がチューブまたはシートである〔1〕項〜〔5〕項のいずれかに記載の軟質プラスティック材料の表面改質方法。
〔7〕(実施例3に対応)
可塑剤を含み、かつ、紫外線照射による改質を目的とした添加剤及び照射架橋型材料のいずれをも含まない軟質プラスティック材料に、波長365nm以下の紫外線を、紫外線積算光量 5〜500J/cm2の条件で照射することにより、当該プラスティック材料の表面を改質し、可塑剤の溶出を抑制したことを特徴とする表面を改質した軟質プラスティック材料。
波長365nm以下の紫外線を、紫外線積算光量 50〜200J/cm2の条件で照射することにより、当該プラスティック材料の表面を改質し、可塑剤の溶出を抑制したことを特徴とする表面を改質した〔7〕項に記載の軟質プラスティック材料。
可塑剤を含み、かつ、放射線照射による改質を目的とした添加剤及び照射架橋型材料のいずれをも含まない軟質プラスティック材料に、放射線を、照射線量1kGy以上の条件で照射することにより、当該プラスティック材料の表面を改質し、可塑剤の溶出を抑制したことを特徴とする表面を改質した軟質プラスティック材料。
軟質プラスティック材料がチューブまたはシートである〔7〕項〜〔9〕項のいずれかに記載の軟質プラスティック材料。
(軟質プラスティック材料)
本発明における軟質プラスティック材料とは、可塑剤が添加された高分子材料である。例えば、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、(メタ)アクリル樹脂、酢酸セルロース等が挙げられるが、これらに限定されない。また、これらは単独で使用しても混合して使用してもかまわない。
本発明において、軟質プラスティックに配合される可塑剤としては、従来公知で汎用されているものがいずれも好適に使用される。可塑剤は、樹脂に対応して適当なものが選択使用される。
本発明における軟質プラスティック材料には、本発明の効果を著しく損なわない範囲であれば、安定剤、造核剤、難燃剤、充填剤、発泡剤、滑剤、顔料、酸化防止剤、紫外線吸収剤、界面活性剤等および高分子材料に通常添加される各種添加剤を添加しても差し支えない。
本発明において、表面改質処理を施される軟質プラスティック材料は、適当な形態の成型物としてエネルギー線照射処理されるが、当該成形物は、その形状に制限はない。例えば、繊維状、織物、ネット、不織布、布状、フィルム状、シート状、チューブ状、テープ状、管状、ケーブル状、パイプ状、ホース状、丸棒状、角棒状、ドラム状、ローラー状、円輪状、ディスク状、中空容器状、厚板状、薄板状、波板状、球状、コード状、電線等の被覆状、箱状等であり、さらには、スポンジ等発泡体、積層体等いずれも使用できる。
本発明においては、軟質プラスティック材料に対し、紫外線、放射線(X線、α線、β線、γ線、中性子線)等のエネルギー線を特定の条件で照射して表面を改質する。特に好ましくは、紫外線及び放射線であるが、ある程度の照射エネルギーを有し、材料表面を改質しうるものであれば、これらに限定されない。
紫外線照射の場合、波長365nm以下で200nm以上、好ましくは波長320nm以下で240nm以上の紫外線を、紫外線積算光量5〜500J/cm2、好ましくは50〜200J/cm2の条件で照射するのが望ましい。
なお、紫外線照射条件の好適な一例として、例えば室温下において、波長254nm、紫外線積算光量100J/cm2の条件が挙げられる。
X線、α線、β線、γ線、中性子線等の放射線照射の場合、減圧条件下では、照射線量50kGy以上、好ましくは200kGy以上の照射を行うことが好ましく(例えば後記実施例3、表6参照)、また、オゾン等の酸化剤存在下の場合は、1kGy以上、好ましくは10kGy以上照射するのが望ましい(例えば後記実施例4、表9参照)。
なお、減圧条件下とは、30Torr以下、好ましくは10Torr以下が望ましい。
本発明におけるエネルギー線(紫外線、放射線)照射時の反応場は、基本的には、大気中でも可能であるが、軟質プラスティック材料の酸化を防止するためには、アルゴン、ネオン、ヘリウム、窒素等の不活性ガスが充填された容器内の不活性ガス雰囲気下で行うことが望ましい。
(1)ポリ塩化ビニル樹脂製血液バッグ用シート(テルモ社製、以下「PVCシート」という。)(1×3cm、厚さ0.4mm、可塑剤としてフタル酸エステル(以下「DEHP」という。)を含む。)に対して、紫外線殺菌灯を用いて照射処理した。すなわち、当該バッグの外側となるエンボス加工面から波長254nmの紫外線を、紫外線強度52.5μW/cm2の条件で、1週間、2週間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月の処理期間にわたって照射した。
表1に、紫外線照射検体の場合のPVCシートからの可塑剤(DEHP)溶出試験結果、すなわち、紫外線処理時間(紫外線照射時間)、紫外線積算光量、可塑剤溶出量の相関を示す。
実施例1において、紫外線に代えて可視光を照射したほかは、実施例と同様の試験を行った。得られた検体(可視光照射検体)は、実施例1の評価の基準(ブランク)とした。
表2に、可視光線照射の場合のPVCシートからの可塑剤(DEHP)溶出試験結果、すなわち可視光照射時間と溶出量の相関を示す。
(5)また、表4には、紫外線照射検体及び可視光照射検体の引張試験結果(最大荷重測定/N)を示す。
(6)一方、FT-IRによる構造解析の結果、未処理のPVCシートにおいてはPVC分子の特徴的な吸収であるC-Cl伸縮振動に由来するピークが635cm-1付近に観測されると共に、DEHP分子の芳香族CH変角振動に由来するピークがそれぞれ742cm-1と1720cm-1付近に検出された。
以上のことから、紫外線照射により、PVC表面に何らかの構造の変化が生じていることが確認され、その変化は材料表面のみで生じているということが示唆された。
これに対して可視光照射検体においては、試料表面の元素元素組成比が一定に保持されており、変化は認められなかった。また、紫外線照射検体の非照射面は、一週間から一ヶ月の照射により、若干変動することが確認されたが、2ヶ月及び3ヶ月間処理した試料表面の元素組成比は未照射(陰性対照試料)と比較して大きな変化は認められなかった。
(1)ポリ塩化ビニル樹脂製輸液用延長チューブ(試作品、川澄化学工業社製、以下「PVCチューブ」という。)(外径3.4mm、内径2.13mm、可塑剤としてDEHPを含有しているもの。)に対して、紫外線処理を行った。すなわち、紫外線殺菌灯を用いて当該PVCチューブ外面に254nmの紫外線を、紫外線強度52.5μW/cm2の条件で、2週間にわたって照射し紫外線2週間照射検体を得た。
また、同様の条件で可視光を照射した検体(可視光線2週間照射検体)をブランクとして作製した。
得られた抽出液はGC/MS測定によって分析し、可塑剤の溶出量を測定した。結果を表5に、PVCチューブからの可塑剤(DEHP)溶出量(μg/ml)として示した。
(1)ポリ塩化ビニル樹脂製輸液用延長チューブ(試作品、川澄化学工業社製、以下「PVCチューブ」という。)(外径3.4mm、内径2.13mm、可塑剤としてDEHPを含有しているもの。)に対して、PVCチューブ外面に室温、かつ、10Torrの減圧条件下で、γ線(60CO)を10kGy/hの強度で5時間、12時間、24時間、48時間照射し、各処理時間の検体を得た。
また、同様の条件で可視光を照射した検体をブランクとして作製した。
得られた抽出液はGC/MS測定によって分析し、可塑剤の溶出量を測定した。表6に、放射線照射の場合の、PVCチューブからの可塑剤(DEHP)溶出試験結果、すなわち、γ線照射時間(処理時間)、γ線照射線量、DEHP溶出量の相関を示した。また、表7には、ブランクの場合のPVCチューブからの可塑剤(DEHP)溶出試験結果として、可視光照射時間と溶出量の相関を示した。
(3)さらに表8には、PVCチューブの引張試験(破断強度測定)の結果を示した。
(1)ポリ塩化ビニル樹脂製輸液用延長チューブ(試作品、川澄化学工業社製、以下「PVCチューブ」という。)(外径3.4mm、内径2.13mm、可塑剤としてDEHPを含有しているもの。)に対して、当該PVCチューブ外面に室温で、酸化剤であるオゾン分圧200Torrの条件下で、γ線(60CO)を10kGy/hの強度で1時間、2時間、6時間、12時間照射し、各処理時間の検体を得た。
また、同様の条件で可視光を照射した検体をブランクとして作製した。
また、表10は、ブランクの場合のPVCチューブからの可塑剤(DEHP)溶出試験結果として、可視光照射時間と溶出量の相関を示した。
(3)さらに表11には、PVCチューブの引張試験(破断強度測定)の結果を示した。
Claims (4)
- 可塑剤を含み、
安定剤、造核剤、難燃剤、充填剤、発泡剤、滑剤、顔料、酸化防止剤、紫外線吸収剤、及び界面活性剤のいずれか少なくとも一つ以上を含んでも良く、
紫外線照射による改質を目的とした光導電性金属化合物、多官能性メタアクリレート、光増感剤及び分子内に少なくとも一つのオレフィン系不飽和結合を有する有機シリコン化合物からなる群より選択される特殊の添加剤、及び照射架橋型材料はいずれも含有しない、
軟質ポリ塩化ビニル単独重合体、ポリ塩化ビニルを主体とし、これと(メタ)アクリル酸エステル、α−オレフィン、酢酸ビニル、スチレン、ビニルエーテルの中から選ばれる一つのモノマーとの二元または三元共重合体からなる軟質ポリ塩化ビニル系材料の表面改質方法であって、
当該軟質ポリ塩化ビニル系材料に波長365nm−240nmの紫外線をその紫外線の積算光量を136.1J/cm2 以上408.2J/cm 2 以下照射することにより、当該材料の引張強度を大きく変化させることなく、当該軟質ポリ塩化ビニル系材料の表面を脱塩化水素化と酸化を伴う改質を導入することにより改質し、
当該軟質ポリ塩化ビニル系材料に含まれる可塑剤の紫外線照射面からの溶出を、紫外線非照射の当該軟質ポリ塩化ビニル系材料と比較して、ほぼ完全に抑制することを特徴とする軟質ポリ塩化ビニル系材料の表面改質方法。 - 軟質ポリ塩化ビニル系材料がチューブまたはシートである請求項1に記載の軟質ポリ塩化ビニル系材料の表面改質方法。
- 可塑剤を含み、
安定剤、造核剤、難燃剤、充填剤、発泡剤、滑剤、顔料、酸化防止剤、紫外線吸収剤、及び界面活性剤のいずれか少なくとも一つ以上を含んでも良く、
紫外線照射による改質を目的とした光導電性金属化合物、多官能性メタアクリレート、光増感剤及び分子内に少なくとも一つのオレフィン系不飽和結合を有する有機シリコン化合物からなる群より選択される特殊の添加剤、及び照射架橋型材料はいずれも含有しない、
軟質ポリ塩化ビニル単独重合体、ポリ塩化ビニルを主体とし、これと(メタ)アクリル酸エステル、α−オレフィン、酢酸ビニル、スチレン、ビニルエーテルの中から選ばれる一つのモノマーとの二元または三元共重合体からなる軟質ポリ塩化ビニル系材料においてその表面が改質されているものであって、
当該軟質ポリ塩化ビニル系材料は、その表面に波長365nm−240nmの紫外線をその紫外線の積算光量を136.1J/cm2 以上408.2J/cm 2 以下照射することにより、引張強度を大きく変化させることなく、当該軟質ポリ塩化ビニル系材料の表面が脱塩化水素化と酸化を伴う改質を導入することにより改質されており、
当該軟質ポリ塩化ビニル系材料に含まれる可塑剤の、当該紫外線照射面からの溶出を、紫外線非照射の当該軟質ポリ塩化ビニル系材料と比較して、当該材料の引張強度を大きく変化させることなく、ほぼ完全に抑制したものであることを特徴とする表面を改質した軟質ポリ塩化ビニル系材料。 - 軟質塩化ビニル系材料がチューブまたはシートである請求項3に記載の軟質塩化ビニル系材料。
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